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ももんが( PZ9M )
11/11/28 03:32(更新日時)

ねえ母さん
もう泣かないで…




僕は確かにいたんだ…




優しい母さんの声…


暖かい手のひらの温もり…





僕は母さんから命の旅の切符をもらったんだ。





母さん。



僕はちゃんと幸せだったよ。



短い間だったけど僕は確かに存在したんだ…





幸せな、柔らかい時間を…頑張って生き抜いたよ





だからもう泣いちゃだめだよ。



あ…
神様からの集合時間だ…



もういかなくちゃ。




母さん。




僕を…






僕を選んでくれてありがとう。










これは…
僕の幸せな幸せな物語。






短いけどたった一度…

願いは確かに叶ったんだよ。

No.1158756 08/11/07 22:04(スレ作成日時)

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No.51 08/11/10 20:51
ももんが ( PZ9M )

孤島さん🌱


はじめまして🙇
ももんがです。
応援ありがとうございます!少しずつですが書いていきたいと思います。
これからかもよろしくお願いします☆

No.52 08/11/11 07:54
ももんが ( PZ9M )

あと数人でまるちゃんの番が来る。




おそらく僕にとって最初の友達だった。





どのくらい前だっただろう…






僕が初めてこの天国にきた時に右も左もわからずキョロキョロしていると




『ちょっと!ちょっとそこのあんた』



僕が振り替えると誰もいない




何度かそれを繰り返していると




『本気で探してるなら怒るよ…』




首を下に向けるとぽっちゃりした小さな女の子がファイティングポーズをとっていた。






僕が慌てて
『ごめんなさい』




というと



『あんたでかいね~ってかあたしが小さいんか?』


と、その女の子は笑っていった。






クリクリの愛嬌のある目に透けるような茶色の髪が小さな体にアンバランスでとても可愛いなぁと思った。

No.53 08/11/11 08:05
ももんが ( PZ9M )

まるちゃんと僕はすぐに意気投合してその場でいろんな事を話した。





と、いうか教えてもらった。





天国でのルール。
仲間の話。
お母さん探しについて。
神様の事。






まるちゃんは僕にとっては仲の良い友達以上にまるで小さなお姉ちゃんのような存在だった。








そんなまるちゃんともうじきお別れなんだなぁ…





僕がしみじみ考えているともうあと一人まで順番が迫っていた。





まるちゃんが繋いだ手を少し緩めてこう言った。





『のっぽ。人生は一度きりだよ。誰が間違いだと言っても自分が正しいと思ったら飛び込みな。のっぽが決めたんならそれは間違いだと思わないよ』




まるちゃんは静かに笑って言った




『のっぽ、自分を強く信じるんだよ』




まるちゃんの前に神様が来ていた。




『おや?付き添いかな?君はまだ決定ではないですね。さよならはもう済みましたか?』



神様は優しく微笑むと光っていない方の手で僕らの頭をそっと撫でた

No.54 08/11/11 08:17
ももんが ( PZ9M )

僕が神様に
『さよならを言ってもいいですか?』




と聞くと神様は頷いて少し後ろを向いた





僕は軽く頭を下げた



『まるちゃん、今まで本当にありがとう。何も知らない僕にまるちゃんは色んな事を教えてくれた…




僕にとって初めての友達がまるちゃんで良かった…



どうか、まるちゃんとまるちゃんと新しい家族が幸せになりますように…





まるちゃん…



ありがとう…
大好きだよ』






僕はまるちゃんをギュッと抱き締めるとほっぺにキスをした




まるちゃんは涙を拭きながら




『どさくさ紛れにやるなぁ…



のっぽ…』



そう言うといつものように笑って



僕のほっぺにもキスをしてくれた…





『じゃあ、あたしいくね。のっぽ、あたしこそ本当にありがとう。あたしのっぽとあってここに来ても寂しくないって思えたんだよ。あたしも頑張るからのっぽも頑張ってね…』






そういうと僕達はもう一度固く握手を交わした

No.55 08/11/11 11:40
ももんが ( PZ9M )

その様子をみていた神様が

『もうよろしいかな?』



と優しくほほえんだ。



『神様もありがとう。お世話になりました』



まるちゃんは神様に深々と頭を下げた。




『それでは行きますよ。あなたとあなたの新しい家族が幸せになりますように』




神様はそう言ってまるちゃんの頭に金色の手を優しくかざした。





と同時に天からはさっき見たのと同じように光の柱が降り注いだ。




僕が眩しい光の中にみた最後のまるちゃんは、

いつもと同じ笑顔で僕に向けて手を降っていた…





光はあっという間にまるちゃんを包み込み、僕が目を閉じた瞬間に彼女を光の玉に変えていた





まるちゃんの光はくるくるとその場を回ると僕と神様の周りを一周ずつ回った。





そして神様の手のひらへと静かに収まった。

No.56 08/11/11 11:48
ももんが ( PZ9M )

神様がその光を天に向けてかざすと




まるちゃんはゆっくりと上昇し勢いよく地上へと落ち始めた。





『まるちゃん!頑張って!



頑張ってね!!』




僕は雲の端まで走り身を乗り出した。



かすかに




『いってきま~す』



と、まるちゃんの声が聞こえた…





まるちゃんは春の風に舞う花びらも雲も突き抜けて…



ただまっすぐと



まっすぐと…





新しいお母さんに向かって走っていった。





がんばれまるちゃん。





僕はますます身を乗り出し、その様子を見守った。




光の矢のように進んでいたまるちゃんも地上が近くなるとキラキラした光に変わりいつもの女の子の姿に変わっていた。





まるちゃんはゆっくり…ゆっくりと…




お母さんの居るところへと走っていった…

No.57 08/11/11 11:58
ももんが ( PZ9M )

ゆっくりかけぬけていったまるちゃんはお目当てのお母さんの体にまるで甘える子供のように嬉しそうに両手を広げて消えていった…






僕はこの光景をいつまでも、いつまでも忘れないだろう…






地上のお母さんはまだ自分に子供がいることに気づいていない。





これからゆっくりとゆっくりと、育っていくのだ。





あとはまるちゃんの命がうまくお母さんの体にあってくれるのを願うしかない…



僕はもう一度まるちゃんに頑張ってと呟いた。







地上ではまるちゃんのお父さんとお母さんが楽しそうに野菜を収穫している。



あそこにいつの日かまるちゃんも立っているのだろうか…





どうかその日が無事に来てくれる事を願うばかりだ…





僕がその様子をじっと眺めていると誰かが僕の肩をたたいた。





神様だった

No.58 08/11/11 12:17
ももんが ( PZ9M )

いつの間にか朝の『儀式』は終了していて、回りにいた仲間はみんな無事に新しいお母さんの元へと旅立っていったようだ。






回りにはもうほとんど仲間もいなかった。






僕が周りを確認していると



『君は生まれ変わりを見るのは初めてのようだね』



と、神様は僕と同じ位置までしゃがみこみながら言った。





『はい。初めてです。友達が旅立つのも生まれ変わるのも実際に見たことはありませんでした』




神様とこうしてゆっくりと話すのは初めての事で僕はかなり緊張していた。




『そうですか。実際に見てみてどうでしたか?』





『すごく綺麗でした。感動…しました。新しい家族の元にいった友達がみんな生まれ変わって幸せになれたらいいのにって思いました』





そうだけいうと神様はもう光っていない手で僕の頭を撫でてくれた。





『神様…』





僕が言うと神様はゆっくり顔をこちらに向けてくれた。

No.59 08/11/11 12:30
ももんが ( PZ9M )

『神様、幸せになるって難しい事なんですか?』




僕が聞くと神様は少し遠い目をした…





『幸せかぁ…君は幸せになるってどんな事だと思いますか?




例えばお腹がすいていてちょこっと食べたご飯がおいしいのも幸せ




いつもお金がなくて貧しい生活をしていたのに宝くじに当たって急にお金持ちになったのも幸せ





いつも喧嘩ばかりしていた夫婦が折りをみて仲直りをした…
これも幸せ。





一口に幸せになるっていっても


幸せはみんなの側にたくさん落ちてるんですよ。







その中でも最も贅沢な幸せはね



『愛する人に愛される』



という事なんではないでしょうかねぇ。




私は長年、こちらで神様をさせて頂いていますが、やはりみんなの願いが叶う瞬間が一番嬉しいです。





飛びたしていった仲間が泣いたり笑ったり怒ったりしながら自分の大切な人に愛されて迎えられる




僕にとってはこれが一番の幸せかもしれませんね。』

No.60 08/11/11 12:42
ももんが ( PZ9M )

『でもその反面…


うまくいかなくてガッカリした顔で再会する子供達もいますよね






会いたかった家族に会うことができなかった…




それは悲しいし寂しい思いをするでしょう…




でもね、戻ってきた子供達はけして後悔はしていないんですよ。





自分が選んだお母さんに会えたから…





彼らは口々にそう言います。





あたしのお母さんは思ったより料理が上手だったよ





僕のお母さんは凄く可愛くておしゃれなお店で働いていたよ




私のお母さんは病気がちでいつも家にいたから元気になってほしいな…





彼らは私からみるととても幸せそうに見えますね。




のっぽくん。


幸せは実は不幸せと背中同士。




紙一重の差なのかもしれませんね。




不幸せだと思えるような悲しい事も実はちゃんと意味があって、乗り越えた先にはきっと得るものがあるんだ




私はね、そう思うんですよ』



神様はゆっくりと少しずつ話してくれた…

No.61 08/11/11 12:49
ももんが ( PZ9M )

僕は神様の話を深く深く聞いていた…




目に見える幸せではなく




心で感じる幸せは




とても大きくて




とても意味のある事…




そして…



一見理不尽に思えるような悲しい出来事も




幸せの種かも知れないと言うこと…




まるちゃんが前のお母さんとずっと一緒に過ごせずに一人で寂しく死んでしまった事を




まるちゃんは一言も恨んだりはしていなかった。





彼女はお母さんに捨てられた…



という悲しみより


お母さんが一人でも頑張って生んでくれた



幸せに過ごした時間も確かにあった





ということに幸せを感じたんだろうか…



だから幸せな夢をみながらここにくる事ができたのかも知れない…

No.62 08/11/11 13:04
ももんが ( PZ9M )

『神様、もう1ついいですか?生まれ変らりが済んだらここではみんな記憶を取り戻しますよね?





ではお母さんとあえなかった仲間はまた同じお母さんに挑戦したいとは言わないんですか?』





神様は質問に答えてくれた。





『同じお母さんの所へは行ける子と行けない子がいます』


神様が厳しい顔をした





『まず、お母さんが受け入れてくれたのにうまく育たなかった子





生きる途中でお母さんと共に命が途切れてしまった子






この二つについてはしかるべき時期がきたら本人とよく話し合いをして判断します。



しかし…






お母さんの意思で命を産ませなかった場合…





私は同じ子はいかせたくないのです






それは…意地悪でもなんでもなく母親に対する試練なのです






無くなってしまった命について考えてほしいからなのですよ




命がけで飛び込んだ子供達の思いを冷静に考える時間も必要だからです』

No.63 08/11/11 13:15
ももんが ( PZ9M )

『多くの母親は時間が経ち、子供達に会えなかった事を悔やみ涙します





その経験が母親を更に強く、大きくするのです






そしてそれを見た子供達も一緒に成長します。





離れていても子供は母親を見て育つのです。




そしてまた子供の傷が癒え…母親が成長した時に生まれ変わりたいと思うでしょう。




その結び付きが強いときだけは奇跡がおきます





それを決めるのは私ではなく天から声です






それ以外は私は他の母親を探すように指導します。






一見…寂しいように見えるかもしれませんが、命が同じ時代に巡り会えるという事は奇跡の確率なんですよ。






それを二度…三度…と繰り返す事はお互いの為にはけしてならない…私はそう思うんですよ』





神様は静かに言った…

No.64 08/11/11 13:32
ももんが ( PZ9M )

『おっと…
のっぽくん、もっと話をしたいが10時の受付の時間がきてしまいそうだ。




一度うちに帰らなくては。のっぽくんすまないが今日はこれまでだ。




またいつか話をしよう。待ってるよ』





そういうと神様はゆっくりとてを振り歩いていった。







神様も色々大変だ…





生きると一言でいっても複雑に色んな人の手が必要なんだ…





けして人は自分一人で生きていけるわけではない…





わかっていたつもりで




僕はあまりわかっていなかったのかも知れない…





その日は色んな気持ちが駆け巡って僕はその場所を離れようと思わなかった。






『お母さん』



春名さんにそう呼ぶ日は僕にもくるんだろうか…

No.65 08/11/11 17:09
ももんが ( PZ9M )

神様と話をして数日がたった。






僕はと言えばまるちゃんのお母さんのお腹に変化がないか…のチェックと、春名さんの日常をチェックすることが日課になっていた。




まるちゃんのお母さんのおなかはいまだ穏やかなキラキラした光を保っている。




おそらくもうすぐまるちゃんがお腹にいるのに気づくだろう。





どんな顔で
どんなに喜ぶだろう




できたら無事に生まれてきてほしい…







おそらくそれを見るのは叶わないだろうが…



何とか幸せをつかんでほしい





僕は双眼鏡を手に取るともうひとつの日課にとりかかる事にした。







今日は春の遠足らしい。




小さな子供達を連れて公園へと歩き出していた。






春名さんはまだお腹の中に命の種が入っている事に気がついていない。





ボヤボヤしていると他の仲間にとられてしまう可能性もあるし…




かといって



春名さんに飛び込む決定的な勇気もまだ僕には持ち合わせていなかった。






その勇気を持つためにも見極めなくてはならないのだ




春名さんを…

No.66 08/11/11 17:17
ももんが ( PZ9M )

僕は何とか春名さんの気持ちを知るすべはないか考えていた





でもいくら 考えてもわからない




一番早く知るにはやはり春名さんのお腹に入るしかないんだ…





絶対に産んでくれる保証はない




仮に生まれても幸せになれる可能性もない





春名さんの痛みや悲しみも僕の人生に半分背負う覚悟をする






死んでもお母さんを守る強い気持ちをもつ…






僕は自分の書いたお母さんノートを何回か見直し




意を決した。





悩んでいても状況は変わらない



いちかばちか


自分の運と


春名さんを信じてみるしかない





『善は急げ…だな』



僕はそうつぶやくと

深く一度深呼吸をして神様に会いにいく覚悟を決めた

No.67 08/11/11 17:43
ももんが ( PZ9M )

神様の家の前は相変わらず長い列が続いていた






僕はその最後尾について順番を待った





ノートを何回も読み直す子




嬉しそうにその場を行ったりきたりする子





黙って列に並ぶ子






不安そうに爪をかじる子…







みんながその時を待っていた。








この中に僕と同じように不倫の子とわかりながら生きようとする子はいるんだろうか…





みんなを見ながら考えていると後ろの方から誰かが背中を押した





『お前背ぇ高いな。順番が見えやしないぜ』





振り替えるとそこには小柄な男の子が立っていた。




僕はまるちゃんと初めてあった日のことを思い出しながら




『あ、ごめんね』


と脇によけた。



『お前何て呼ばれてんの?




俺はマエスケ。仲間うちで一番背が低いからそう呼ばれてんだ。』





『何でマエスケなの?』



僕が聞くとマエスケは前ならえの格好をしてみせた。




なるほど


一番前で前ならえばかりしていたから


『マエスケ』



僕はうまいなと思いながら少し笑った

No.68 08/11/11 18:26
ももんが ( PZ9M )

僕とマエスケは順番を待ちながら少し話す事にした。





ちなみにマエスケに僕も同じような理由でまるちゃんに『のっぽ』と名前をもらった話をしたら爆笑されてしまった。





『お前、女なんかに名前つけられたの?』




マエスケは愉快そうに言ったが僕はさして不愉快な気分にはならなかった。





『所でのっぽ。


お前の次の母ちゃんはどんな人だ?』




マエスケが興味津々に聞いてきた。




『あ…保母さんだよ。先生なんだ』



僕は『不倫をしてる』というのをとっさに隠してしまった…



『父ちゃんは?』




『同じような仕事だよ』




『そっかぁ…俺の新しい母ちゃんは看護婦なんだ。』




マエスケは照れくさそうに言った。


なんだか可愛いな。




と笑ったら
マエスケは片手でパンチをする振りをした。



『看護婦さんかぁ…素敵な仕事だね』



僕がそういうと


『昔世話になった人なんだ』


マエスケは僕にゆっくりと昔話を話してくれた…

No.69 08/11/11 18:38
ももんが ( PZ9M )

『俺、昔病気でさ…生まれた時からずっと病院にいたんだ。




誕生日も、学校も、友達も…毎日を病院で過ごしてたんだ。



まぁ、おっかぁのお腹の中でうまく育ったんだけどさ、病気まで連れてきちまってさ…





前の母ちゃんや父ちゃんには可愛そうな事したな…





でも最後の最期まで諦めないで俺を励ましてくれてさ、





俺は悔いもなく、家族に感謝しかながらてここに来ることができたんだ』




マエスケは満足そうに二回頷いていた




『じゃあ同じお母さんにもう一回会いにいけばいいのに…』




そう言うとマエスケは少し寂しそうな顔をしたあと笑って答えた




『前の母ちゃんにはあわねぇよ。



もう母ちゃんにはゆっくりとしてほしいからさ





心配したり
泣いたり
疲れた体でベッドで居眠りしたり





そんなんじゃない生きかたをしてほしいんだ



それに…



俺さ、弟が居てさ…


入院してる時から散々寂しい思いさせちまってさ』

No.70 08/11/11 18:48
ももんが ( PZ9M )

『ただでさえ俺に母ちゃんも父ちゃんも行ったりきたりだから





保育園に小さいときからあずけられててさ





きっと淋しい思いをさせたんだ…




なのによ俺には
『兄ちゃんばっかりずるい』
って怒ったりしないんだぜ…





『兄ちゃん体痛い?』

『保育園でみんなと鶴作ったんだよ』


『僕の怪獣あげるよ』



ってな…
あいつは俺に優しかった。




俺だけじゃねぇ




母ちゃんや父ちゃんにも我がままや不満を一度もこぼさなかったんだ




俺の自慢の優しい弟だ』




『じゃあ尚更…』



僕がいいかけると同時にマエスケが叫んだ。



『だからだ!




だから余計に行けねぇんだよ



優しいあいつは今まで母ちゃんにも父ちゃんにも甘えたり弱音を吐いたりしなかった…



だからさ



今度は


今は…


あいつの番なんだよ』




マエスケは深いため息を一つついた…

No.71 08/11/11 19:06
ももんが ( PZ9M )

『俺がもし母ちゃんの所へ行ったらどうなる?




あいつはまた俺に遠慮して母ちゃんや父ちゃんに甘えられなくなる





そうだろ?



それによ、
また俺を産んで母ちゃんに悲しい思いをさせねぇ保証はねぇんだ





それを考えると同じようにまた母ちゃんのとこには行けねぇんだよ…』






僕は胸が潰れそうだった…





大切な人を守るために



声に出さない愛情もあるんだ…





愛していても




愛してると言えない愛情…





一度親子になると…




たとえ体は遠くに離れた所にあっても…


こんなに気持ちは側にあるんだな…





『愛してる人に愛される一番の幸せ』




神様が言った言葉を僕は思い返していた…





『でもよ』



マエスケが陽気に話し出した。



『母ちゃんは今、命の種がねえんだ



だから行きたくても行きようがねえよ!


な、お手上げだろ?』



僕は少しだけ笑ってマエスケの肩を叩いた

No.72 08/11/11 21:21
ももんが ( PZ9M )

マエスケはいわゆる『病弱』な色白…という感じでもなかった。





見た目は僕とほとんど変わらない




ただ時折みえる手首の細さに正直どきりとした…






どうしたらこんなに前向きに生きられるのだろうか




まるちゃんにしてもマエスケにしても



僕とは『生』に対する覚悟や思い入れがあまりに違う…






僕は半ば煮え切らない思いを浄化するために生きにいこうとはしてないだろうか…





僕はずるいんだろうか…




僕の足取りは前ほど軽くはなくなっていた…





『お前は?何でその保母さんにしたんだ?





俺は前の時に担当してくれてた看護婦さんを、たまたま見つけてさ…




よく怒られてたけど涙もろくて優しい人だったんだ。





お前にも決めてはあるだろ?』





『そうだなぁ…決め手とは違うかもしれないけど…



笑顔…かな』

No.73 08/11/11 21:33
ももんが ( PZ9M )

僕は初めて春名さんを見つけた時の事を思い出していた。





そして愛する人がいるのにけして報われない、道ならぬ恋に生きてしまっている彼女が





一日を日々頑張って生きている…




愛されるべき人に…


周りに認めてもらえない愛しかしらない彼女に




僕は手を貸したいだけなのかも知れない



そう思った




無理かもしれない
ダメかもしれない



そう思いながら相手を想ってしまうのは




春名さんも
僕も




同じなのかもしれないな…





『ま…さ。
何にしても生きられる保証はねぇし、死ぬ保証もねぇんだ。


うまく生きられるようにお互い神様に頼もうぜ





ほら、のっぽ




お前の番だぜ!
頑張れよ!』






僕が前を振り返るとそこには


白いレンガで積み上げられた洋館が現れた。



入り口の前まで歩くと白い鳩が中から飛んできた

No.74 08/11/11 21:44
ももんが ( PZ9M )

僕はマエスケにまたねと手を降り鳩の飛んできた方向に目をやった。





どうやら玄関の脇にある窓から来たようだ




窓にはまだ他にたくさんの鳩が止まっていた




僕は入り口を見回した。




白く積み上げられた洋館の入り口はア―チ状でバラなんかかかったりしてるイメージだ。




足を進めると中には無数のバラが咲き誇り何ともいえない妖艶な香りが漂っていた




神様、いつもジャージ姿なのに…なかなかロマンチストなのかなぁ?




そんな事を考えていると白いレンガにはめ込まれた大きな古い木製のドアが姿を表した。






僕がどうしようかとノックする手を出しそびれていると中から声がした





『のっぽくんだね。
どうぞお入りください』




僕が少し驚いているといつのまにか僕の肩に乗っていたさっきの鳩が


『あほぅ
神様が呼んどるやんけ、早くあけんかい』



と強い口調でまくしたてた。



『あ…はい
どうもすみません』

僕は慌ててドアノブに手をかけた

No.75 08/11/12 01:55
ももんが ( PZ9M )

ドアをそっと開けるとそこは不思議な光景が広がっていた。





階段だ





あんなに広い洋館だったし、僕が正面からみた時には出窓もいくつかあって鳩も何羽かとまっていた。





なのに…





開けたら玄関もなく



そこにはドアと同じ幅の階段が長く上へと続いているだけだった…





僕が呆然と階段を見ていると白い鳩が頬をつついた



『いたっ』



僕は鳩を思わず振り払ってしまった。




『いって~な!後がつかえてんだからさっさと登れや自分。何?自分人に言われないとやれないタイプ?ほんならごめん~


ぷプッ…』




鳩のくせに笑うなよ…




鳩は僕を軽く見るとまたバサバサと肩に止まった




『ほんならいこか』




僕はとりあえず頷いて足元の階段を1歩1歩上がっていった…

No.76 08/11/12 02:50
ももんが ( PZ9M )

階段は意外に古いようだった。





さっき空けたばかりの立派なドアと違いどこか弱々しい…





思わず大丈夫か?




と、聞きたくなるような作りだったが



ミシッ…

ミシッ…



と階段を上がる度にこの階段が僕と春名さんが繋がるスタートラインに間違いないんだ





そう思いながらゆっくりと慎重に上がって行った…




階段の幅は子供の僕が両手を広げたら多分いっぱいいっぱい位だ





おそらく人とすれ違うのは難しいだろう




それに加えかなりうす暗い




外はあんなに明るいのに…



僕はいろんなギャップを感じながらもようやく二階らしい場所に到達した





階段の前にはやはり茶色い木製のドアがあった。




『失礼します』


僕がノックをすると静かにドアが開きまた想像もしない光景が広がっていた。




ここは…




僕の感が正しければ…

おそらく春名さんの部屋だ

No.77 08/11/12 03:03
ももんが ( PZ9M )

『やあ、よく来たね』



神様は白いジャージにあぐらをかいて手をヒラヒラさせていた。




(おそらく)春名さんの部屋はワンル―ム形式の部屋らしく小さな玄関から始まり




台所、トイレ、お風呂、リビング、ベランダ



というよく見かける普通の作りだった



僕は辺りをキョロキョロ見回した。




部屋は気持ち良いくらいキチンと整頓されている


きれいなもんだ




服も一枚一枚アイロンがかけてあるようだった。




カバンも色別にキチンと整えられている




なのに机の上はおそらく今日の遠足で使うのか


細かい折り紙の切り屑が散乱していた



そういえば昨日も何やら一生懸命作っていたっけ…






『のっぽくん』



神様が片手を出した




何だろう?僕が思っていると




『バカたれ。お母さんノートだよ』


白い鳩がシラッとした目で言った

No.78 08/11/12 09:36
ももんが ( PZ9M )

僕はいつの間にかかなりにぎりしめていたお母さんノートを軽くはらうと神様の手に差し出した





『ご苦労様でしたね。それではのっぽくんの新しいお母さん、拝見しますね』




神様は最初のページをめくりながら黙ってそれを見ていた





僕は内心ドキドキしていたが

それ以上に神様の後ろにある春名さんの机の上の一枚の写真が気になって仕方なかった





それは可愛らしい花柄の額縁に入っている春名さんとお父さんらしき人だった。



肩を寄せあい


仲むつましい様子で笑っている



春名さんの笑顔は本当に幸せそうで



僕は胸が少し傷んだ…




お父さんらしき人はよく日に焼けたがっちりとした体に優しそうな笑顔だった。


いわゆるイケメンではないが笑うと目尻の下がる優しそうな人だ…





僕の目線に気がついたのか神様はすっと立ち上がると春名さんの机の椅子に座り体に反動をつけてくるくる回りはじめた

No.79 08/11/12 09:48
ももんが ( PZ9M )

神様はアゴに手をかけると椅子の上であぐらをくみ出した




『のっぽくん


君はなぜこの人をお母さんにしたいと思ったのですか?




この世のなかには何億というお母さんがいて、色んな国の色んな環境のお母さんが いますよね



なぜ君はあえて片親の


しかも不倫という重罪を犯している女性を母親にしたいとお考えですか?』




きた



予想通りだ




つっこまれないはずなんかない

誰だってそう思うだろう




僕は自分の気持ちをゆっくりと神様に話はじめた…




『神様、僕はどうしても絶対にこの人の子供になりたいんだ!





という強い信念は…正直いって…あまりありません



ただ




ただ…




不倫という重罪を犯しながらも

その恋しか知らない彼女をほってはおけませんでした…




僕は…

気がついたら広い雲の上で生きるチャンスを神様に頂きました。




でもここにいても『素敵なお母さん』がどういうものかわからずただいたずらに時間を過ごしてしまいました




その間に幸せに生まれた仲間や



泣きながら帰ってきた仲間を何人も見ました…』

No.80 08/11/12 09:58
ももんが ( PZ9M )

『その間にいろんなお母さんを見ましたが何故か僕の心は今一つ動きませんでした






しかし





このお母さんをみた時に何故か目が離せませんでした




うまく言えませんが…



『直感的』と 言えばいいんでしょうか…




人が誰かを好きになる瞬間に似ているかもしれません…





僕は



この人の子供になりたいんだ



そう…思ったんです



勿論お母さんのしている事はけして誉められるものじゃありません



僕の調べた所では奥さん意外に小学生の男の子がいる





その子も僕の大切な仲間ですよね





その仲間やお母さんを一番傷つける存在になってしまうかも知れません…





でも


僕は…





お母さんの罪も


痛みも
悩みも
悲しみも…



半分背中に背負えたら…

そう思うんです。


『誰かの為に生きていきたい』


そう思ったんです…

No.81 08/11/12 10:08
ももんが ( PZ9M )

神様…



僕は間違っているでしょうか?




あえて誰かを苦しめると知りながら生まれることは罪なのでしょうか…』






神様はあぐらを辞めて話し出した




優しい目だった




『のっぽくんの気持ち大変よくわかりました。





君はどちらかといったらMっ気タイプだね。



傷ついたり保護したりすることで自分の存在価値を高めようとする…




うまく立ち回れないタイプかもしれませんね





でも逆に言えば純粋に生きようとしている…



そういう意味ではこのお母さんにとても似ているかも知れませんね…






恐らく君の事だから生まれる事ができなくても、お母さんを責めることはないでしょう…




覚悟はお持ちなんですよね?』





僕は力強く頷いた。



目は真っ直ぐに神様を見据えていた




『よろしいよ。
行ってきなさいな』




神様は右のポケットから『よくできました』



のハンコを一つ


僕のノートに押してくれた。



僕と春名さんが親子になる扉は開かれた…

No.82 08/11/12 13:56
ももんが ( PZ9M )

気がつくと僕は神様の家の外にいた




列を覗くともうマエスケの姿を見つける事はできなかった





僕はもう一度お母さんノートをゆっくりと開いた




そこには間違いなくさっき頂いた神様のハンコがキラキラと光っていた





『やってしまった…』




僕が事の重大さに翻弄されていると


『今さらなにゆうてんねん。あ…自分Mっけあんやなぁ…もしかしなくてもいじくられるの好きなん?』








またか…





僕が上の方を見ると頭上の木の枝に捕まりながら白い鳩がニヤリとした




『…何ですか?まだ用があるんですか?』




僕が怪訝な顔で見上げると白い鳩はバサバサっと羽音をさせながらまた肩に止まってきた





『何か?じゃねぇよ。俺の方が聞きてぇよ。





神様もなんだってお前なんかをなぁ…』


と舌打ちをした。





この鳩は年なのか?



おやじ鳩?





『だれがおやじ鳩やねん!』




鳩が威嚇をした…

No.83 08/11/12 19:13
ももんが ( PZ9M )

『お前…俺様をただの白い鳩だと思うなよ



俺は神様の一番!』



そういうと両方の羽を広げて胸を反らせた





『1番!






1番…古くから付き合いのある優秀な鳩だ!』




鳩は僕を見て咳払いを軽くした





『そんな側近中の側近をさ…


おまえの生まれ変わりに付き合えってさ!




人間界に行けだなんて…』




ええ?おっさん鳩が僕の付き添いに!?





『だからおっさん言うなって』



鳩が睨みを利かせてきた。



『あの…ひょっとしてひょっとしたらテレパシーですか…?』





『そうだ。俺くらい神様に信頼されてるとよ、高度な能力っていうの?神がかり、みたいな?そんな事もできちゃうわけ』



それが本当ならうかつな事は言えやしない…




『気ぃつけや』


僕のよこでおっさんは鳩らしくない笑いかたをしていた…

No.84 08/11/13 09:57
ももんが ( PZ9M )

僕はその場でおっさんとだいたいの話をした




神様が初めて生まれようとする僕に相談役におっさんをつけてくれたということ




お母さんのお腹に入っている間は僕とおっさんはこの不思議な力で会話ができるという事







不倫の子を自ら選んで出かける僕に課せられた宿題は…




『愛するという事は何か』





というお題だ





若干0才の僕にえらいタイトルの宿題がついた





まるで人間界の昼ドラみたいなタイトルだ




『愛』

ねぇ…




不倫という屈折した愛と




両親の愛情を知らない春名さんから




僕はどんな『愛し方』を学ぶことができるんだろう





難しい宿題に頭が痛かったが


僕はおっさんと約束した翌朝の6時まで最後の天国の時間をゆっくり楽しむ事にした

No.85 08/11/13 14:15
ももんが ( PZ9M )

僕がここにきてどれくらいたったのだろう…




右も左もわからずただ毎日過ごした日がかなり続いたっけ…





まわりの仲間はお母さん探しにやっきになっていて…





『生きる』ってそんなに楽しい事なのかなぁ?





そんな事を考えたりしていた




だって生まれた事のない僕にだってわかる





今の人間界は少し怖い…





みんなが自分の事ばかり考えていて


優しい空気がピリピリしている




だから僕はあえて田舎町や不便に見える港町や…


人と人が近い場所ばかりを覗いてお母さんを探していた




春名さんを見つけたのも田畑が目立つ 山並みが美しいどちらかというと小さな町だった





交通には若干不便さはあるものの、緑が多い素敵な町だ






ここが生まれてはじめての僕の故郷になるかも知れない





初めての土地



初めての家族





初めての命




僕は不安よりいつの間にか期待で胸がいっぱいになっていた

No.86 08/11/14 01:10
ももんが ( PZ9M )

僕は最後に色んな場所を訪れてみる事にした




天国と一口にいっても何だかんだはあるんだ





僕がいるこの場所は大きな雲一枚にたくさんの子供たちが乗っているが果ては見えることはなく、常に色んな場所に動く。だからお目当てのお母さんが見つかったらちょっとずつ場所を移動しなければならないのだ



うっかり長く寝たりしてしまうとお母さんは?どこだ?



と、雲の中に顔を突っ込み人間界を確認したり…


なんてのは意外に少なくない




でも最悪自分でうまくお母さんに関する情報を得られなかったり、知ることができなかったりした時はとても便利な場所がある




『着いた』






僕は久しぶりに少し離れた所にある『図書館』に来ていた

No.87 08/11/14 01:23
ももんが ( PZ9M )

神様の家と似たような洋館で




白い外壁に木製のレトロな雰囲気のする場所だ




中にはにはみんなが利用しやすいようにベンチやテ―ブルがあちこちに置いてあった





中庭をぬけて中央のドアの入り口には小さな窓があり受付の居眠りじいさんがいつもコックリコックリ居眠りをしていた





『あの―…


おじいさん、起きてください



探し物があるんですけど…』




僕は小窓に迎かって 数回ノックをした




慌ててそばにある眼鏡を探すとおじいさんはそれをかけ、窓を開けた




『すまんな
すまんな…



何せ入れ替わり立ち替わりいつも人がくるもんだから休む暇もなくてな…』




『いえ、毎日ご苦労様です。いつもお一人ですよね、大変ですね』





僕がいうと眼鏡の位置を変えながらそんなことないよ、と笑って答えた




『今日はどうしますかね?』




『あの…以前こちらでお母さんの事を調べた時に、ご両親が事故で他界されてるって記入がありましたが…その詳細って見る事できますか?』

No.88 08/11/14 01:32
ももんが ( PZ9M )

おじいさんが


『母親の名前は?』



と訪ねたので僕は春名さんの名前と年を告げた




そうするとその人の人生図鑑を読むことができる




いつ生まれて


どんな風に過ごしてきて現在に至るか…






僕も今まで何回か春名さんの過去の経歴を確認した




まぁ…


見ていると良いところも悪い所もたくさんあるし





お父さんとの出会いや恋愛も細かく記入されていた






今日は最後にもう一度それを見に来たのだ




『はい、どうぞ』




厚みのあるまるで辞書のような風貌だがそこには間違いなく
『伊藤春名』



と書かれていた




『ありがとうございます』





僕が受けとると


『頑張っておいで』



おじいさんが手を軽く降った

No.89 08/11/14 02:00
ももんが ( PZ9M )

僕は本を受けとると中庭のベンチに腰かけた




今日も風が気持ちいい…





陽が高い事もあって沢山の子供達が各々のお母さんの本を読んでいた






お母さん達には『あたし達のプライバシーよ!』




って怒られそうだがここにはありとあらゆる人生の詳細が書かれている





僕は本を膝の上に置くと1ページ目をゆっくり開いた






『伊藤春名さんについて』





『サラリーマンをしていた父と専業主婦をしていた母を両親にもち7つ年の離れた兄(陽太)が一人いる


幼少期に両親が事故により他界

春名さん5歳…陽太12歳の出来事。後に母方の叔母の家に引き取られるが中学卒業後兄は住み込みのアルバイトをしながら夜間の定時制へ進学




春名さんも高校卒業後は自立を目指し独立。アルバイトをしながら夢であった保母を目指し大学へ進学



兄は高校を卒業後に電気工事の会社へ就職が決まる



各々独立しながら連絡を取り生計をたてる



兄妹揃って未婚
現在独身である』

No.90 08/11/14 02:35
ももんが ( PZ9M )

僕は続けて何枚かページをめくった



『春名さんの恋について』




春名さんには現在恋人がいます



相手は既婚者であり、六歳になる男の子が1人いる




名前は斎藤浩一

春名さんの職場の先輩で34歳であり春名さんには初恋である


彼が新しい命の父であります




付き合い出して現在で二年弱



春名さんの一目惚れでありました



勿論奥さんと子供がいるのを知っていた為行動には移さず一年近く片思いだったが…




ある日浩一も同じ想いだと知り、二人は道ならぬ恋だと知りながら交わりを持つ




現在は仕事帰りに浩一が春名さんの家に通う日々である




土日、祝など休日には会わない約束を交わしています




連絡も園内中心で連絡もあまりしないよう注意している





今年に入り現在懐妊中…直に気づく時期に入る』





ぼくは赤裸々に書かれた両親のプロフィールをもう何回も読んだ






それでも不思議と気持ちは変わらなかった…

No.91 08/11/14 09:31
ももんが ( PZ9M )

本の新しいページにふせんが貼ってあった




『ご質問について』




伊藤春名さんのご両親は彼女が五歳の時に事故で亡くなる




雨の日曜日の事だった





彼女の母が趣味で始めたピアノ教室まで


父が迎えに行き自宅に戻る途中の出来事だった





対向車が突っ込んできたのだ





相手は若いドライバーで飲酒運転だった





車の後部座席には五歳の春名さんが眠り,母親と寄り添っていた





兄は部活の練習試合があった為不在だった…




それはあっという間の出来事だった




父親が気がついた時にはもう避けられない位置まで接近していた




急いでかけたブレーキ音も回りに虚しく響いた




消防隊が駆けつけた時には父は即死



母は身体中ガラスにまみれながらも春名を包み込むように守った




春名は擦り傷はあるものの命に別状はなく収容先の病院で目を覚ました





母親は虫の息で
『春名…


春名は…』

と消防隊に聞いていたという




消防隊が
『大丈夫ですよ!お母さんも、しっかりして!』



そう聞かされると安堵の表情で天国に旅立った

No.92 08/11/14 09:43
ももんが ( PZ9M )

そこで文章は終わっていた


春名さんのお母さんは身をていして春名さんを守ったんだ…



春名さんの命はお母さんが…





僕にとったら見ることはできないおばあちゃんだ。





命懸けで子供を守ったおばあちゃんを僕は凄い人だと思った






そして命が消える瞬間まで春名さんの事を考えて…






春名さんはそうして命を繋いでもらったんだ…





僕はまだもちあわせていない身体の真ん中に両手を置いておばあちゃんに



『ありがとう…』




そう呟いた…






僕の命は色んな人に繋いでもらっているんだ…





そして僕も運が良ければまだ誰か大切な人に繋いでいくんだ…





そんな事を空を見ながら考えていた…

No.93 08/11/14 13:21
ももんが ( PZ9M )

本を読んでから図書館を散歩し




まるちゃんとよく遊んだ場所でしばらく過ごした頃には空も金色に染まり始めていた



空から見る景色も今日で見納めだ…




こんなに綺麗で悠然とした景色はもう見ることは出来ないだろう…




まるちゃんと




マエスケと






僕と…






仲間もみんな…





誰も傷つかずに優しく生きていく方法はないんだろうか…





人は痛みを抱えながらそれを乗り越えて



強く

強く…





なっていくのだろうか…





それを『幸せ』と呼ぶならば



人間界もさして悪いものじゃないのかも知れないな…






こんな気持ちになれたのも





こんな自分になれたのも



みんなと

春名さんのおかげかも知れない…





『お母さん…待っていてね。きっと僕が守ってみせるから』




初めて僕が春名さんに向かって『お母さん』と呼んだ最初の瞬間だった

No.94 08/11/14 13:34
ももんが ( PZ9M )

翌朝、いつもより早く目が覚めた僕は神様の家へ急いだ






眠れるわけもなく、お母さんに会える喜びと生まれ変わる事に対する期待で胸がいっぱいだった





そりゃあ生んでもらえないかも知れない不安だってある



でもそんなの覚悟の上だ




自分と
お母さんと
少しの運を



信じるしかない





『行くしかないさ』




僕は笑って神様の家へと急いだ





もう少しだ






僕の心の中の迷いはすっかり消し去られ





足取りは軽くなっていた

No.95 08/11/14 15:53
ももんが ( PZ9M )

神様の家に着くと僕と同じようにその時を待ちきれない仲間がたくさんいた




その中にマエスケもいたので僕は彼を呼んだ




マエスケは笑顔で近づいてきた



『よぉ!のっぽ。


ここに来てるってことはお互いにおめでとう…って事だよな



何にしても良かったよな』





『本当だね。


マエスケも看護婦さんうまくいったんだね』






『おお!扉開けたらいきなり看護婦寮でさ…萌えましたわ』



マエスケは屈託ない笑顔で笑った




『僕もびっくりしたよ。まさかお母さん達の部屋に繋がる扉とわね…




外観からは想像もつかないよね』





『俺たち…今日からあの部屋に住むんだよな…




いよいよなんだもんな…』





僕は笑って頷いた




本当に始まるんだ



夢じゃない





僕らは『命の旅』にでかける




物凄い運命や偶然をくぐりぬけて




大好きな人の元へと





どんなに困難な事も
どんなに楽しい事も



共に生きていくんだ…





お母さんと一緒に!



僕の全てをかけて…




神様

どうか





お母さんと会えますように…

No.96 08/11/14 16:07
ももんが ( PZ9M )

『みなさんおはようございます』




僕らが顔をあげるとそこにはいつものように穏やかな顔で白いジャージに身を包んだ神様がいた






『いよいよ今日という日を迎えましたね

どうもおめでとう!




それじゃあ早速始めますか!





君達と…君達の新しい家族が幸せになりますように!』






目映い光が僕らを包み込むように広がった





この間みたばかりだが受ける方はまるで違う




空気は穏やかでその光は暖かい…




みんな今か今かと待っている






まるちゃん



僕は今日…お母さんの所へ行くよ




あんなに心配かけだけど



ごめんね




どうかまるちゃんも幸せになってね





そしていつか会えますように…







あと少しで僕らの順番だ…




僕は胸の高鳴りを押さえるのに必死だった…




このドキドキがマエスケに聞こえていないか心配でならなかった

No.97 08/11/14 17:21
ももんが ( PZ9M )

順番はゆっくりと流れるようにやって来た




どの子も真っ直ぐ神様を見つめお礼をいうと嬉しそうに大好きな人の元へと駆けていった…





順番はいよいよマエスケに回ってきた





マエスケは黙って目を閉じていた




ただ…


その時を待っていた





『マエスケくん

よろしいかな?迷いはありませんか?』



『はい。大丈夫です。神様、長い間ありがとうございました


これからも一生懸命がんばります!』





神様は優しく頷くとマエスケに手をかざした





マエスケは光の中



最後の最後、何かを口にした





僕は目を細目ながら
マエスケに


『がんばれよ!』



力の限り大声で叫んだ




マエスケ





マエスケ君は本当は前のお母さんに会いたかったんだ





だけど優しい君は本当の気持ちを言えないで旅たったんだ




僕にはわかったよ




君の最後の言葉






『母ちゃんさようなら』






君の気持ちはきっときっと



大切な誰かに届くよ…

No.98 08/11/14 17:31
ももんが ( PZ9M )

マエスケは



光の玉に変わると高く高く天に向かい





地上目指して真っ直ぐに落ちていった





潔い



かっこいい最後の別れだったね





マエスケ




今度もきっと
幸せになってね…





僕が下に目をやっていると





『次、自分の番やで』


鳩のおっさんが僕の肩に飛んできた




『わかってるさ』



『お、腹決まったんやな』




おっさんは片方の羽で僕の頭をなでた





『のっぽくん、おはようございます。いよいよこの瞬間が来ましたね




お気持ちに変わりはありませんか?



今なら変更も可能ですよ?』





『いえ、僕を


お母さんの所に連れていって下さい』





『わかりました。決心は変わらないようですね、それでは君も…護衛をよろしくね』




鳩のおっさんは深々と神様におじぎをした





『では参りましょうか!』



神様が僕に手をかざした

No.99 08/11/14 17:39
ももんが ( PZ9M )

瞬間



『ちょっと待ってください…』


僕が頭を両手で押さえた




神様はびっくりした顔で




『どうしましたか?変更ですか?』と手を下ろした



『いえ、あの、すいません…


あの、神様…


僕に出た宿題って
答えがでないうちにここに帰ってきたらどうしたらいいんでしょうか?』




『のっぽくんはやはり面白いですね



君に出した課題の事ですね?





今回のお題は君だけでなく




お母様にも重要な課題になるのですよ





けしてあなた一人が解く問題ではないかな…




あなた達二人が同じ答えを導き出したら…





『とっておきのご褒美』が待ってますからね





神様はにっこり笑って言った

No.100 08/11/14 18:56
ももんが ( PZ9M )

僕は神様にお礼を言うと深々と頭を下げた





『では、のっぽくん行ってらっしゃい!』





その瞬間




光の束が頭上から降り注いだ






『うわぁ…』




僕がそう呟くと
手足はみるみる金色の光に変わっていった…






身体の中から暖かい溢れるようなパワーを感じた…



気がつくと僕は神様の手のひらの中に納められていた




『のっぽくん
心配はいりません


さぁ、お行きなさい』




神様は優しく微笑むと僕を天へと突き上げた



『みんなありがとう…いってきます』



神様とたくさんの仲間と…愛すべきこの天国が眼下に映った



僕は一度だけ振り返ると
勢いよく下界へと駆け抜けた






ただ
お母さんを目指して まっすぐと





雲も
空も
風も
太陽も




全てが僕の背中を押してくれているようだった






風が段々暖かく感じる





いつもみていた赤い色の自転車までもう少しだ







小さかった街もみるみる近づいてきた




お母さんの住んでいアパートが見えた



あと少し



あと少し手を伸ばせばそこに



お母さんがいるんだ

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