あなたの幸せを願っています
あなたとの出逢いは私がアルバイトしていたラウンジ。
昼間、事務のパートをしていたが、旦那の借金で夜も働くことに。
初めのうちは週2、3日だったが小学生の子供のためを思い週1に。
その店で働き始めて2カ月した頃、ママに呼ばれてついたお客様があなただった。
日に焼けた肌、レンズに薄い色の入った眼鏡、ちょっとカッコいいな。私のあなたに対する第1印象。
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旦那の借金は結婚前からのものだった。
返して終わったと思ったらまだあった…その繰り返し。
長年たくさんの嘘をつかれ、もう旦那への愛情はなかった。
子供はお父さんが大好きだ。
私は同じ空気を吸うのさえ嫌になっていたが、子供が成人するまでは我慢するしかないと諦めていた。
旦那の裏切りで心が寂しかった…それがあなたを求めてしまった言い訳になるのだろうか。
あなたは一級建築士だと言った。軽トラで現場を回る日々。それで真っ黒なんだと、白い歯を見せながら笑った。
私より4つ下。奥さんがいる。
あいつとは結婚せんとこうと思ってたとあなたは言った。奥さんに はめられたと。
自宅で泥酔しているところを付き合っていた彼女(今の奥さん)に実家に連れて行かれ、目が覚めるとそこには初めて会う彼女の両親がいた。そこから結婚話が進んだらしい。
子供はいない。子供が出来るようなことをしないからだとあなたは言った。結婚してから奥さんとは1度もセックスをしていないと。
あなたの仕事の話に熱心に耳を傾けた。奥さんのことも少し聞いた。趣味の話も聞かせてくれた。
プライドの高い人だった。すごく負けず嫌いな人だった。
私にはほとんど客がついてなかった。ミキさんのお客様だったけど連絡先を教えてもらった。少しは頑張らなきゃと仕事として電話番号とメアドを聞いた。
そこから始まった。
明日僕の誕生日なんだとあなたは言った。
それなのに午前0時上がりの私は、あなたを置いてさっさと帰ってしまったよね。日付が変わった瞬間 ハッピーバースデーを言う、そんなことにも頭が回らない出来の悪い新人ホステスだったね。
次の日、来店のお礼とハッピーバースデーのメールを送った。そして返事が来たのはその次の日。『こちらこそありがとう。でも先に帰ったんは怒ってる。なーんて』という内容のメールだった。
後になって聞いたら、さっさと僕を置いて帰ったから逆に印象に残ったのかもと言ってたね。私が帰ってからは他の女の子の相手する気になれずすぐ帰ったって。
来週友達の結婚式があるから街に出るって聞いてたから『その後お店に来てください』とメールした。
でも結局仕事が忙しくて来てくれなかった。
地元の花火大会が来週ある。あなたの家は会場に近いはず。
『花火大会って来週でしたっけ?家から見えるんですか?私は会場に行ったことはないんです』
返事もらえるように質問形式のメールを送った。
あなたから返事が来た。『毎年家の2階から友達と一緒に見てるよ。もう少し早くわかってたら友達断って一緒に行くんだったのに』
??!!
一緒に行くって…。軽い人なの?
それからは毎日メールのやりとりが始まった。
自分自身、営業のためでしてるのかそれとも個人的な気持ちがあるのかその時はまだわからなかった。
ただ絵文字や顔文字を一切使わないシンプルなあなたのメールが好きだった。
次第に営業ではなく、あなたを好きになっていた。日に日にあなたは私の中で大きな存在になっていた。
あなたに初めて会ってから3週間後、私たちは再び会うことになる。お店ではない場所で。
その日あなたは学生時代の部活動の同窓会があり街へ出ていた。そしてその後お店に来てくれるつもりだった。
私はその日街であるイベントに子供が参加するため夕方から出掛けていた。終わってから店に出る予定だったけどちょっとしんどいなと思っていた。
そんなタイミングであなたからのメール。店に行っても他の女の子もいるし、2人だけで話せるとは限らない。2人で会いたいと。
OKした。店は休んだ。そして同窓会が終わったら連絡してもらえるようにと、その時初めて私の携帯番号をあなたに伝えた。あなたはすごく喜んでたね。
子供の参加したイベントが思ったよりも早く終わり、私からあなたへ初めての電話。
あなたはいきなり咳き込んで、緊張してるのがわかったよ。
あなたは私に可愛い声だと言ってくれたね。
私は一旦子供を連れて家に帰っていたから、あなたが街から家の近くまでタクシーで迎えに来てくれることになった。
『お客さん』じゃなく『好きな人』に会う。本当に始まってしまった瞬間だった。
旦那との出会いはある泊まりがけの研修だった。
旦那は私に一目惚れ。私も好印象を持っていた。
中距離恋愛が始まった。月に2度くらいの割合で会った。
親には話してなかった旦那との付き合いが3年を過ぎた頃、私に見合い話が来た。
それをきっかけに旦那が両親に挨拶に来て、それからは順調に結納、結婚へと進んで行った。
しかし、実際には結納が済んだ頃、旦那は保証人になっていた先輩の夜逃げで多額の借金を背負うことになっていたのだった。
結婚後すぐには子供は作らず夫婦だけの楽しい時間を過ごした。
元々淡白な旦那は何年過ぎても子供を作ろうとはしなかった。だから私から言って排卵日を狙ってした。
後から思えば借金があったから子供を作ることに躊躇していたのだろう。
私が初めて借金の事実を旦那から知らされたのは、2人目を出産後実家から自宅に戻って間もなくのことだった。
私はその時、生まれて初めて『目の前が真っ暗になる』ということを経験をした。
借金を背負ってからその時までにさらに額は膨らんでいた。
結婚してからの貯金、私の独身時代の貯金、子供の出産祝い、全てを返済にあてた。私は下の子が1歳になるのを待ち働きに出た。
どちらの親にも誰にも相談することなく約2年で完済した。…はずだった。
そのしばらく後に、それが借金の全てではなかったことを知ることになる。
終わったと思えばまだあった…その繰り返しで今まできた。
子供を保育園に預けて働き出してまもなく、同じ会社の7つ下の独身の人を好きになってしまった。
自分でも驚いた。結婚していても、こんな歳になっても人を好きになるんだと。
きっと心に空いた穴を塞ぐために無意識に誰かを求めていたんだと思う。
その会社を辞める時、彼のメアドを聞き、メールの交換を始めた。そして気持ちを伝えた。
後に彼が生涯で初の浮気相手となる。キスまでだったけど。
あなたの乗ったタクシーが停まった。
私は3週間前に会ったあなたの顔をはっきりと思い出せていなかった。
焼けた肌、眼鏡、短い髪、クールな表情。でもやっぱりはっきりとは思い出せない。
タクシーに乗りあなたの顔を見る。
『こんばんは』
そうだ、こんな顔だった。
次の瞬間あなたは私の右手を握っていた。
えっ?!
いきなり手を握られて戸惑った。
あなたは運転手さんへいつも通っている居酒屋の場所を告げた。
タクシーの中でどんな会話をしただろう。覚えていない。ただ何かが始まったんだと感じていた。
10分ほどして着いた行き付けの居酒屋は満席だった。
歩いて近くの別の店へ。そこであなたは色んな話をしてくれたね。
あなたが幼い時にお母さんが出て行って、それからは兄弟が離れ離れになり、あなたは親戚の人にお世話になった。
小学生の時は野球に夢中で、中学はサッカー、野球で入ったはずの高校で始めたラグビー、競輪選手になろうとして辞めた話…遠くを見る目で色んな話をしてくれたね。
私も旦那の借金のことを話した。
しばらく経ってからもう一度さっきの居酒屋へ行くことになった。
その居酒屋へはほぼ毎日通ってると言った。
奥さんがご飯を作らないから。
でもそれは、以前に仕事仲間と飲むことがしょっちゅうあってご飯は作らなくていいと言ったかららしい。
そんな食生活で体は大丈夫なんだろうかと私は心配になった。
その居酒屋で飲み始めた頃には、あなたは少し酔いが回って気持ちよさそうにしていたね。
カウンターに座ってた私たちは椅子を回して向かい合わせになり、そうしてあなたは言った。『可愛くてよかったぁ』と。
どうやらあなたも会うまで私の顔を思い出せないでいたらしい。私の顔をマジマジと見詰めて嬉しそうに頬を触わり、軽くハグ、そして軽いキス。
他のお客さんに見られちゃうよ。
それまであなたはメールでも私のことを名前で呼んでくれたことがなかった。
だから『名前で、呼び捨てで呼んで』と言った。
私もあなたを名字じゃなく下の名前で呼ぶことになった。
店を出た私たちは人気のない道を手を繋いで歩いた。
立ち止まってあなたは聞いた。『こんな僕でもいい?』
『うん、いいよ』
私は誘われるままに少し歩いたところにあるホテルへ入った。
1つだけ部屋が空いていた。『運命だね』とあなたは言った。
その時の私には罪悪感がなかった。旦那にもあなたの奥さんにも私の子供にも。
その夜は店に出ていることになっていたから、少しくらい帰りが遅くなっても大丈夫だった。
しかし、それにしても遅すぎる時間になっていた。あなたはもっといようと言ったけど、私は帰ると言い、初めての私たちのデートは終わった。
あなたの奥さんは私が時々行く近所のスーパーのテナントで働いていた。
最初の頃のメールで何気なくあなたは私に言ったけど、出来れば知りたくなかった。
聞いてしまったからには確かめに行きたくなる。
遠くから見てみる。太ったおばさん、若い子…違う。今日はいないのかな。
何度目かにその店で買い物をした時レジにいた女性。彼女の左腕にはあなたとお揃いのブルーのリストバンドと水晶のブレスレット。
心臓が止まりそうだった。
この人なんだ…。
それ以前に私はあなたの奥さんの声を聞いたことがあった。
あれは確か2回目のデート。夕方から奥さんの買い物に付き合う約束をしていたのに遅くなりあなたの携帯には何度か奥さんから電話が入ってたらしい。
仕方なく運転しながら奥さんに電話をするあなた。
『どこにおるん?』と怒ったような奥さんの声が漏れてくる。『ごめん気付かんかった。もうすぐ帰る』と謝るあなた。
あの時の声だけで私はあなたの奥さんの顔を想像してた。
髪は肩くらいのワンレン。ちょっときつめのはっきりした顔立ちの美人。
でも目の前にいる人は私が想像していたのとはほぼ真逆の質素な顔立ち。
微笑みながら優しい声で『ありがとうございました』と言われた。
こういう顔が好みなんだ。
次に会った時、あなたは謝ったね。私の前で奥さんに電話したことを。私の前ではするべきではなかったと。
あなたとのデートは平日の昼間。忙しい仕事の合間を縫って時間を作ってくれた。
私もパートで働いているし仕事が終わって子供が学校から帰ってくるまでの間しかない。
そんな短い時間でも幸せだったね。
私といると落ち着くと言ってくれたね。
女に会いたいと思ったことが今までなかった。生まれて初めて会えなくて寂しいという気持ちや嫉妬の気持ちを知ったとも言ってたね。
ずっと一緒にいようと言ってくれたね。
子供の手が離れたら2人の家が欲しいねとも言ってくれたね。
私はいつも『うん』とだけ応えてた。
嬉しいけど、そんな先のことはわからない。
それに一緒にいるってことはお互い離婚してってこと?
嬉しいけどやっぱりわからない。それを確かめることさえ怖い。
ただ今は一緒にいたい。あなたと一緒にいたい。
ある日あなたは言った。
今朝奥さんから『大事な話があるから今日は早く帰って来て』と言われたと。
私は焦った。もしかして私のことで?!
以前携帯を奥さんに見られた形跡があると言ってた。
どうしよう。
あなたは大丈夫だからと言うけど…。
次の日あなたが電話をくれるまで不安でしょうがなかった。
あなたは『全然違う話だった』と言った。
とりあえず別れなくていいんだ。ホッとしたと同時に気を付けなくちゃと思った。
あなたにはメールは家に着く前に全部消してとお願いした。
奥さんの『大事な話』にはドキッとしたが、考えてみれば奥さんは今まであなたの浮気を責めたことがないんだったね。
結婚前も結婚後もあなたの浮気がバレたって、責めるわけでもなく、泣くわけでもなく、女とのツーショットの写真が置いてあれば『これ捨てとくよ』で終わり。
あなたの奥さんは、出来た人なの?それともあなたに対する愛情がないの?
私には理解出来ない。
私と出逢ってからは、デート費用捻出のために夕飯は家に帰って食べるようになったあなた。それなのにご飯を作らない奥さん。冷凍食品を食べるあなた。
旦那さんの体を心配しない奥さんて。私には理解出来ない。
あなたの腕にあるリストバンドと水晶のブレスレット。
会って目にするたび奥さんを思い出す。嫉妬する。
『これ嫌なんだけど』思いきって言ったことがある。もしかして次から外してくれるんじゃないかと。
でも相変わらずしていた。私の気持ちは通じてなかったみたい。
ある時嫉妬で苦しくてたまらなくなり、メールで気持ちを伝えたことがあったよね。
その時にリストバンドのことも言ったら次からは外してくれるようになったね。
何もない腕を見て、もっと早く言えばよかったって思ったよ。
でも外したりつけたりしていたせいでリストバンドを無くしちゃったんだよね。
ごめんね。でもちょっと嬉しかった。
数ヶ月後にスーパーにいる奥さんの腕からもリストバンドが無くなってるのを見た時は、あなたに合わせて奥さんもリストバンドをしなくなったのかと思い、また新たに嫉妬してしまったけど。
2人で会うようになってからも、私はラウンジで週1で働いていた。
あなたは心配していたね。不安に思っていたね。だけどお金のために働く私には何も言わないようにしてたよね。
私もホステスという仕事は向いていないと思いながら嫌々続けていた。お酒を飲むのは平気だけど、おしゃべりは苦手だった。
でもあなたと出逢ってから2ヶ月後にはお店を辞めた。あなたのためにも私のためにも。
また違うアルバイトを探そう。
どうしてもデートと言えばホテルになってしまう。
不倫してるんだから人目につかない場所、すなわちホテルで会うしかなかった。
恋人同士みたいに街を手を繋いで歩いたり、ドライブしたりしたかったけど仕方ない。
ホテルに行く前にコンビニで何度か買い物をしたことがあったね。
店に入り私が手にしたカゴをいつもあなたはサッと持ってくれた。
あの瞬間いつも胸がキュンてしていたんだよ。大好きな瞬間だった。そのことは一度も言ったことはなかったけど。
あなたはすごい人だった。
とにかくスポーツ万能。こんな人がホントにいるものなんだって驚いた。
そして好きなことに対する集中力とこだわり。
趣味が多く、負けず嫌いなあなたはのめり込みかたが半端じゃない。
今は仕事が忙しくてたまに釣りをするくらいだけど、その仕事に対する集中力もまたすごい。
負けず嫌いだから他の人が無理な仕事を引き受けてやり遂げてしまう。
1年中ほとんど休みなく働いている。
体を心配する私に『仕事が好きだから』と言ったあなた。
私にないものをいっぱい持っているあなたを私は尊敬していたよ。
クリスマスが近づいていた。
もちろん一緒の時間を過ごすなんて考えてない。
でもプレゼントあげたいな。
でもでも奥さんにわかってしまうよね。迷ってるうちにクリスマスイブがやってきた。
あなたからのメール。今日は38度以上の熱があるらしい。
『4時頃は家にいる?』
『いるよ』
『旦那はいない?』
『いないよ』
そして4時頃に再びメール。
『車の助手席側のミラー見て』
急いでマンションの駐車場へ降りて自分の車のところへ。
サイドミラーの上に白い紙袋がうまくバランスをとって乗っかっていた。
驚いてすぐに手に取り車に乗り込んで中に入っている箱を開けた。
透明な石がついたシルバーのネックレスだった。
欲しくても借金に追われてアクセサリーなんて買えなかったからすごく嬉しかった。
すぐにあなたに電話した。熱でしんどそうなあなたの声。
すごく嬉しい。ありがとう。感謝の気持ちをあなたに伝えた。私のために選んでくれたのが嬉しかった。しんどいのに持って来てくれたことが嬉しかった。
けどうちのマンションまで来るなんて大胆。熱があったからこそ出来た行動だったのかな。
あなたの家と私のマンションは車で10分ほどの近さ。
時々仕事帰りのあなたからメールが来た。
『今から前通るよ』
ベランダに出てあなたの軽トラが通るのを待つ。
来た。スピードを緩めて手を振ってくれるあなた。
私も笑顔で手を振る。
週1くらいでしか会えなかったから、こんな数秒の出来事にさえ幸せを感じていたよね。
あなたの家の正確な場所は知らなかった。『あそこの裏』ってことしか聞いてなかった。
散歩する振りしてその辺りを探したことがあった。でもどうしても見つけられなかった。ウロウロ、キョロキョロしてた私はかなり不審な人だったかも。
周辺地区の住宅地図があったことをある時思い出し広げて見た。
あった。あなたの名字。
あなたはここに家を建て奥さんと住んでいるんだね。
数日後、見に行った。
建築士のあなたが建てた家。あなたの部屋はどの窓かな?
嫉妬した。
私はあなたのためにお弁当を作ることがあった。
お昼は忙しくて食べないこともあるあなた。
食べる時はコンビニのお弁当。
夜は家の近所のラーメン屋か家にある適当なもの。
そんなあなたのために作った。あなたがお昼に時間が取れる日で、私の仕事が休みの日じゃないとダメだったからなかなかチャンスはなかったけど。
あなたはいつも嬉しそうに美味しそうに食べてくれた。
あなたのために毎日ご飯を作ってあげたい。私はそんなことを思いながらあなたの横顔を見ていたよ。
バレンタインデーの前日。パートを終えて帰り、子供が帰るまでの間にチョコを作った。
当日の夕方、あなたはちょっとだけあのホームセンターで会える時間を作ってくれた。
でももう子供も帰ってきているし、あのホームセンターで会うことが危険に思えてきていた私は『今日はやめておく』と会うことを断ってしまった。
残念そうなあなた。
私もなんで行かなかったんだろうと後で思った。
その日旦那はいなかったから、私は夜子供が寝てからあなたの家にチョコを持って行った。
あなたの軽トラが停めてある。仕事が終わり今頃リビングで寛いでいるのかな。
チョコを軽トラの荷台の端っこに目立たないように置いて帰った。
『チョコを荷台に置いたよ』とメールした。
いつまで待っても返事はない。
不安になった。
眠れない。
夜中の1時過ぎ。私はまたあなたの家に向かった。
ドキドキ心臓が鳴っている。
軽トラの荷台を見るとまだそこにはチョコがあった。
なぜ?
一旦車を置いて飲みに行ったのかも。
電話をかけてみた。
何度かけてもあなたは出ない。
私はその夜不安で泣きながら眠った。
次の日、あなたはちゃんと会える時間を作ってくれた。
ホテルの部屋に入ってあなたは言った。『昨日は飲みに行ってた。家に携帯電話を忘れてた』と。
私は昨夜不安でたまらなかったことを大泣きしながら訴えた。
もしかして事故にでもあったんじゃないかとか、私が会いに行かなかったから怒って女の人がいるお店に飲みに行ってるんじゃないかとか、いろんなことを想像してた。
もうあんな気持ちになるのは嫌だと泣いた。
あなたはごめんと何度も謝った。『正直言うと、会ってくれなかったことに拗ねていた。でも携帯を家に忘れたのはわざとじゃない』
『もう嫌になった?』とあなた。
『ううん』と首を横に振る私。
ちょっとした心の行き違い。
いっぱい泣いて落ち着いた私は、昨日荷台から持ち帰ったチョコをあなたに渡した。
『ありがとう』と受け取るあなた。
1日遅れのバレンタインデー。
あなたに初めてお店で会った時、あなたは言った。『僕は本当のことしか言わない』
世間一般には、不倫する男の言うことは信じちゃいけないそうだ。
でも、あなたは嘘がつけないんだよね。すぐに表情に出る。嘘が下手だって自分でわかってるから本当のことしか言わないんだよね。
だから奥さんに浮気がバレても誤魔化したり言い訳さえもしない。
真っ直ぐ過ぎて周りから誤解を受けたり敵を作ったりしちゃうんじゃない?
頑なで不器用だけど真っ直ぐなあなたの生き方が好きです。
あなたはメールや電話や会った時『愛してるよ』と言ってくれる。
でもあなたの『愛してるよ』はいつもぎこちなかった。
ある時言ってみた。そしたらあなたは『言い慣れてないから』って答えたね。
仕事以外の時は私のことしか考えてない。
私だけを愛している。
私がいないとダメになる。
私がいるから頑張れる。
色んな言葉をあなたはくれた。あなたは心にもないことを言うような人じゃないよね。
全部信じていたよ。
幸せだったよ。
3月14日ホワイトデー。
あなたと会うことになった。
バレンタインのお返しもらえるのかな。ちょっぴり期待しながらいつものホテルへ到着。
部屋に着き、あなたは小さな紙袋を差し出した。
『開けていい?』
中からは白いベルトの可愛い腕時計が現れた。
『えー!すごい』
『嬉しい』
『ありがとう』
私は素直な気持ちを伝えた。
本当に嬉しかったから。
それまでしていた腕時計は、結納返しに旦那へ送った腕時計とお揃いのものだった。
愛情がなくなってからはそれをつけるのが嫌だったけど、他にないから仕方なしにつけていた。
だからすごく嬉しかった。
ちょうどその時期、私の家庭には大変なことが起こっていた。
また旦那の借金が発覚。
前回の発覚でついに弁護士さんの手を借りることになっていた。債務整理。その最中の出来事だった。呆れて物が言えないとはまさにこのこと。
今回は旦那の親を呼んで離婚に向けての話し合いになった。
あなたには離婚のことで話し合いをすることは言ってた。
話し合いの次の日あなたに会った。
私もあなたもそのことには触れなかった。
もう帰ろうという時にあなたは聞いた。
『話した?』
『うん、離婚することになったよ』
あなたは下着姿の私を後ろからギュッと抱き締めてくれた。
嬉しかった。
今すぐにではなかったが離婚することは決まった。
その頃あなたはお兄さんの会社の正式な社員になることが決まっていた。
『手取りで〇〇万だって。今までより少し減る』って私に話した。
お給料を教えてくれたことを私は、あなたが私との生活を考えてくれてるのかなと思ったりした。
こんなことを言ってくれた日もあった。
私との家が欲しいから頑張る。小さい家でもいい?この辺は無理だから〇〇のほうになるけど。
会社がある住所を出してあなたは言ってくれたよね。
私があなたとの生活を期待してしまった決定的な言葉だった。
約4カ月後、この期待はガラガラと大きな音を立てて目の前で崩れ去ることをその時の私は知らなかった。
私は時々あなたに悩みや愚痴をメールしてたね。
旦那のこと、子供のこと、バイトのこと…
でもあなたはそれに対しては何も返してくれなかった。
何故?って聞いたことがあった。
あなたは苦手だと答えた。
あなたは相談事なんかが苦手らしい。
きっとあなたは小さい時から自分の力で生きようとしてきた。誰かに頼らないように歯を食いしばって。悩みは自分の中で消化してきたに違いない。プライドが高いあなたは誰かに弱音を吐くことなんてなかったんだろう。
私は弱い人間だからアドバイスが欲しかった。
でもあなたを困らせないように、それからは悩みを相談するのはやめた。寂しかったけど。
私は新しいアルバイトを2つ見つけた。
1つは週3で夜。1つは自分が入れる日だけ。
どちらも時間は短い。家から近いのがよかった。
夜のほうは私の苦手な接客業だったけど同じバイトの女性がいい人だったから楽しかった。
この時期私は4つの仕事を掛け持ちしていた。
旦那のためじゃなく、自分と子供のために頑張った。
働くことは嫌いじゃなかったから。
私だけを愛していると言ってくれるあなたの言葉を信じていた。
それでもいつも奥さんに嫉妬していた。
あなたと同じ家に住んでるんだもん。毎日会ってるんだもん。
嫉妬がたまりにたまり、時々爆発してはあなたを困らせたね。
心の内をうまく表現できないからどんどんたまっていった。
様子がおかしくなった私をあなたは心配していたね。
ある時私はいつもよりもおかしかった。
何であんなことになったんだったかよく覚えていない。ただ嫉妬に苦しんでいたことは確か。
あなたとメールしていた私は『奥さんに話してくる』と送ってしまった。自分の存在を奥さんに知らせたくなったのだったろうか。
『何を?』とあなた。
『しません』と私。
それであなたは怒った。
『僕をバカにしてるん?そんなんやったら自分が納得する人探したら』
そのメールを見て目が覚めた。私何やってたんだろう。
急いで電話して謝った。『私おかしくなってた。ごめんね』
夜のバイトに行く直前の出来事だった。
『ごめんね。今日お店来て』
新しく始めたバイト先に来てくれるようお願いした。カラオケができて食事やお酒があるお店。
私は暗い気持ちで店に行き淡々と仕事をこなしていた。あなたが来てくれるのを微かに期待しながら。
しばらくしてドアが開いた。
あなただった。
でも私の前で見せたことがない厳しい表情だったから一瞬あなただとはわからなかった。
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