鯨の唄 3
鯨の唄という小説を過去にここで書きました。
その続きを書いてみます。
誤字脱字だらけのつたない小説です。
戦争の時代…鬼のようだった兵士が海で人魚に出会いました。
兵士の心の中には病気で亡くなった兄がいました。
兄はとても女性的な人でした。
そして戦場であったのもとても女性的な男性でした。
やがて過酷な戦場で女性的な男性兵士は彼の心の拠り所になっていた。
しかし彼は鬼のような兵士として生きていた。
鯨の唄1と2は鯨の唄で検索するとでてきます。
ミクルが書けなくなるようなのでその前に少し書いてみます。
26/03/25 13:52 追記
戦争な残酷な描写が多少でてきます。
苦手な方は見ないようにご注意ください。
またプラトニックですが同性愛がでてきますので不快な方はご注意ください。
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人魚のわたしの父親は人間だった。
ある国の海辺で真珠を作っていたの。
母は海から海辺で真剣に真珠をつくる父親の姿を見ていて恋をしたんだそうです。
人魚の人間の前に決して姿を見せてはいけないという禁忌をやぶりました。
母の姿を見たそのときに父は母に恋をしました。
父は母のために心を込めて真珠の首飾りを作りました。
母と父はやがて恋人同士になりました。
だけどは母は仲間の人魚に追放されて…
鮫の多いこの大海原に追放されたのです。
でもみつけた岩礁の中で父の子供であるわたしを守り育てました。
そんなは母を見守っていたのは世界中で一番大きな生き物の白い鯨でした。
彼には生まれつき大きな役目がありました。
それはこの海と海の生き物を守ることでした。
けれど彼は孤独でした。
だからは母に恋をしたんです。
わたしはは母のように人間に恋をしました。
だけどそれは白い鯨が一番嫌いな種類の人間でした。
彼は戦争の兵士でした。
悪い鬼のような兵士でした。
でも粗末な木の船に乗っていた彼は…
とても疲れきっていて死にそうでした。
一目その顔を見たときに恋におちました。
だけど白い鯨はもちろん反対しました。
とてもとても怒りました。
白い鯨が怒ると海は大嵐になります。
だからわたしは彼を岩礁に残したまま帰らなくなりました。
そして彼の心の中に誰がいるのかさへわたしは知らなかったんです。
おれの心の中には兄がいた。
涼やかで穏やかで凪の人だった。
そして兄というより姉のようだった。
けれど女性どくどくのいやらしさはなかった。
幼いおれの心を守ってくれたのは兄だった。
しかしだれも守ってくれる人のいない戦場で…
おれはやがて鬼になった…
鬼になって戦果をあげることが正しいことだと思っていた。
だけどそんなおれを氷のように冷ややかにはねつける男がいた…
それは皮肉にも兄に重なる色白男だった。
鬼になるほうが楽だったし、
あのときのおれはそれしかできなくなっていたから
だからこそ色白男と氷の刃はおれをじわじわと追い詰めていたのに
同時にそれでもそこにいてほしいと思っていたんだ。
丸く岩壁に囲まれた大きな岩礁…
中に小さな砂浜と浅瀬の海がある…
ここから出るには海に潜って穴を通りぬけてでないといけない…
来るときは人魚が抱きかかえて連れてきてくれた…
最後におれは息が続かなくなった…
人魚のスピードで泳いでも最後に溺れかけたんだ。
自力でぬけるのはなかなか難しそうだ…
それに抜け出したいとも思ってなかった。
ここはいつも穏やかだった。
人魚がこなくなって何日過ぎただろう…
ひと月にはなるだろうか。
相棒は白い巻貝をのせたヤドカリだった。
カサカサとゆっくり進むその生き物をかわいく思っていた。
子供のころよくふるさとの小川で海の生き物を観察した。
ときどきまだ元気だったころの兄がついてきてくれた。
ヤドカリはいなかったけど
メダカやタニシやザリガニなんかをうれしくながめていた。
ザリガニをつかまえて得意気に兄にみせると
おれの大好きなやさしい柔らかい笑顔を見せてくれた。
おれは本来自然や自然の中に生きる生き物が好きだった。
戦場でおれは鬼だった。
でもそうなりたかったかと聞かれればなりたくなかった。
けど心を持ったまま人をあやめることができるだろうか?
おれになにもひどいことをしていない人をあやめるのに心ある人間のままそんなことができるだろうか?
おれは鬼にならないとできなかったから。
おれは弱い人間だったから。
最初の隊長よりもその次の隊長よりも弱かったから。
だけど美しい色白男におれのそんな情けないいいわけは通用しないだろう。
おれがあやめた罪もない人たちにも通用しないだろう。
それが兵士としての仕事なのに。
人間としてそれを許さなかった色白男はついにその白い手を汚すことはなかった。
おれが色白男の分もあやめたからだ。
色白男は絶対に鉄砲のたまを外したからだ。
それは下手くそなのもあったかもしれないが最初から充てる気がなかった。
おれはそんなものを許さなかった。
そんなものは拳がはれるまで殴った。
ヘトヘトになりながら。
でも色白男だけは殴れなかった。
ヤドカリはおれを責めなかった。
ただかさこそ動いているだけだ。
人魚にあの粗末な木船から連れてこられた。
ここにあるものは何一つおれを責めなかった。
脱走兵…そうなのだろうか…
南の島にみんな集まっている。
敵の大軍を迎えうつために。
あの木船はその島についただろうか?
色白男はどうしているだろう。
死んでしまうかもしれない。
知るものかあんなやつ。
おれのおかげで血で汚れずにすんだのに
ずっとずっとおれを憎みつづけるあいつなんて。
どうでもいいじゃないか。
パシャ…。
濡れた亜麻色の髪の女があらわれる。
人魚だ………
久しぶりだ。
泣きそうに濡れた青碧色の瞳はよく光っている。
大きな貝をたくさん抱えてきてくれた。
もう戻らないと思っていた。
けれどそうだ。
ここは人魚の家だものな。
人魚はゆっくり泳いでこちらに近寄ってきた…
貝を置いてその横に横たわる…
おれは近くにしゃがんだ。
辛そうな顔をしているように見えた…
おれはじっとその瞳を見つめ目がたずねた…
揺れる瞳はやがてピタリと止まる。
まっすぐにおれを見つめる。
南の島で戦闘が始まったわ。
あの人は大怪我をしたの。
ほかの魚たちをかばって爆弾の盾になったの。
人魚のいうあの人とは白い鯨のことだ。
あの人はこの海に生き物たちを守ろうと必死だった。
でももうどうしようもないの。
海の生き物たちはみんな避難できるものは避難をはじめているわ。
あの人も怪我を治すためにしばらく北の海へいくそうよ。
わたしもおいでと行ってくれた。
でもわたしは寒いのは苦手だからと言ったの。
そしたらあの人はここへ行けと言った。
もしここも危なくなれば母のふるさとの海へ行くようにと。
おれがここでぼんやりしている間にそんなことになっていた。
予想はしていたことだ。
だけど戦闘は始まっていたんだな。
色白男はどうしている?
あんなにおおきな鯨が大怪我をする爆弾とは戦闘機が墜落したのだろうか?
それとも敵の大国の爆弾は大きいのだろうか?
でも生きている。
一度おれを威嚇した白い鯨。
白い鯨がなんとか生きていることにほっとする。
なぜほっとしたのかはわからなかった。
あなた穏やかになった。
良かった……
泣きそうな顔で人魚は言った。
おおきな貝をきように開いて食べるようにさしだしてくれる…
おれはそのしぐさにほっとして泣きそうになる。
戦地から新たな戦地へ渡る途中大海原の空と海がおれたちの心を洗い…
この岩礁でのひと月の暮らしがおれを子供のころのおれに戻していた。
おれは人魚が開いた貝をいつも黒い岩に並べる
人魚は不思議そうにそれを見る…
日で焼くと生より美味しいから。
おれは人魚にやさしく笑う…
今度は人魚がほっとしたような顔をする。
おれは黒い岩の上で太陽光で煮えた貝を彼女に進めた。
彼女は美味しいと微笑んだ。
おれの中で人魚にたいしてまるで家族のような親しみを
今感じていた。
おれは迷っていた。
今からでも戦地の南の島へいき、色白男を探そうかと。
おれはいくら海に洗われ人魚と温かな交流をしようと。
いやだからこそよけいに。
おれはおれがあやめた人間たちの顔がフラッシュバックしてよみがえってくる。
あの人たちもこんなふうにだれかと温かな交流をしていたかもしれない。
なのにおれによって突然に命をたたれた。
おれの罪は消えないのだ。
ふいに曇ったおれの顔に人魚は気づいていた。
行かないで。ここにいて。
わたしたちはもう家族だわ。
人魚は言い聞かせるように言った。
おれはその声に素直にうんと言いたかった。
その夜、人魚ととなりあって砂浜で寝ていた。
人魚は戦闘が終わるまではここから出てはいけないといった。
戦闘が終ったら母のふるさとの海へ連れて行くからと。
きっとあなたは母の恋した人間の国からきたんだからと。
わかってる。心配ないよとおれは人魚を安心させた。
だけど生きて今更ふるさとに戻ってどうする?
逃亡兵がどのつら下げてふるさとへ帰れるだろう。
もうすでに兄のいないあの国。
両親や妹にはそれほどの思いいれはおれにはなかった。
それでも久しぶりに会えばいとしく思うのだろうか?
おれの心はまだ見ぬ南の戦地に向かっていた。
色白男が泣いている。
地獄のような惨状の中で立ち尽くし絶望に泣いている。
そんなイメージが頭をよぎる。
行かなければ
行かなければ
行かなければ
ここにいろ
行くな
行くな
行ってはならない
家族のような人魚のそばにいていい
自分を大切にしていい
お前はずっとずっと自分を粗末にしてきた
兄を失ってから
ずっと自分の心に嘘をついて生きてきた
もう嘘をつかなくていい
正直になっていい
そんな声に涙が流れても。
少し長めの艶のある黒髪を…
川べりでとかしている色白男がみえる。
そばで優男がハーモニカを吹いている。
おれは色白男に一瞬みとれ
優男のハーモニカの音にイラつく。
何してんだよ。
ここは戦場だって何度も言っているだろう。
ふざけるなよ。
おれは怒鳴っているのに声がでていない。
2人はおれのことなど素知らぬ様子で微笑みあっている。
おれの大声は届かない
おれの伸ばした手を彼らに届くことはなかった。
俺は怒鳴りながら泣いていた
おれはおいおい泣いていた
おれもそうしていたかったんだと
お前たちのようにその手を血で汚さないまま…
だれにも恨まれたくなんてなかった…
おれはわんわん泣いていた…
ハッと気づくとおれの頬に手が…
人魚の瞳が間近にあった…
大丈夫…大丈夫…わたしがそばにいるから。
ここにいていいの。
人魚は力強くそう言った。
ある朝あいつはいなくなった。
せいせいした。
あなたをころしたあいつ。
罪もない異国の人に非道なことをしたあいつ。
二度と顔も見たくなかった。
戦争になんて出たくなかった。
けれど幼い弟や妹のために行ってくれと。
泣いて床に頭をこすりつけた父。
私が普通の男ではないことを両親はわかっていた。
だからこそ。土下座なんかした。
その姿を冷めた目で見ていた。
一時間床に頭をこすりつけていた父が顔をあげたのは…
私が消えそうな声で
はぃと言ったからだった。
逃げられないとわかっていた。
まんまるの瞳で父と私を交互にみる幼い弟や妹たち。
私は観念した。
だけど私は決めていた。
戦争に行こう。
でも行くだけだ。
父は行ってくれと言ったが…
人をあやめろとは言わなかった。
だから私は戦場で人を全くあやめない兵士になろうと。
戦場で私は同じ考えの人にであった。
文学青年だった。
リュックにはハーモニカとお気に入りの詩集や小説が入っていた。
私にときどき読んでくれた。
ハーモニカを吹いてくれた。
私は彼の瞳を見ていると、彼の演奏を聞いていると、彼の朗読を聞いていると、
ここが戦場であることを忘れることができた。
でもいつも決まってあいつが邪魔に入ってきた。
あいつはいつもイライラしていた。
人をあやめて戦果をあげることにしか興味がなかった。
それが一番大切なことだと思っていた。
私から見ればそれはとても愚かなことだった。
だから私はあいつを軽蔑していた。
自分で善悪の判断も出来ないで命令に従い…
命令以上の悪行をしていた。
文学青年の優しい彼を私の前で何度も何度も殴った。
人をあやめることを強要していた。
私は許せなかった。
だけどある日あいつは彼を切りつけた。
結局その傷のせいで彼はなくなってしまった。
苦しかった。
一番守りたかった人を守れず失った悲しみは大きすぎて…
あいつへの恨みと憎しみに支配されて苦しいほどの毎日…
けれど隊を離れていくところなどほかになくて…
ある日ふと優しい気配を感じた。
亡くなったはずのあなたが霊魂となり
私のそばにいるんだと感じた。
夜中に私はその霊魂に話しかけた…
私の話す言葉に微笑んでくれた。
………ぼくは君に救われたから………
………ぼくは君をずっと見守るよ………
やがてあいつへの憎しみよりも恨みよりも、
広がっていく凪の心…。
あいつは私の中でもはや無にひとしい存在だった…
あいつが疲れきって病んでいるのもわかっていた…
いい気味だと思っていた…
けれどそれすらもうどうでも良かった…
あいつは人魚をみたらしい…
ある朝あいつは船から消えていた…
消えてくれて清々した…
きっと人魚に連れていかれたんだ…
本当は私はあの瞬間起きていた…
目覚めていた…
彼が海に入って人魚に手をひかれていくのを…
私は見ていた…
あれからあいつは戻らなかった…
あいつはもう生きていないのかもしれない…
私は清々していた…
あなたはそれからだんだんと深刻そうな顔をしていた。
木の船は止まらずにどんどん進むから。
船のほかの兵士たちも憂鬱そうな顔をしていた。
消えた隊長は夜中に海で溺れて亡くなったと言う扱いだった。
ほかの兵士たちの憂鬱の理由は隊長の死ではない。
日々近づいてくる南の島のことだ。
みんな粗末な木の船の上で
銃や刀の手入れをしていた。
私はやらないので私の銃や刀をほかの兵士が手入れしていた。
私は戦わない。
あなたのためにも信念をつらぬこう。
やがて私たちの船はその島に到着した。
その島の隊長だか小隊長だかが敬礼してごくろう!という。
私以外の兵士たちは敬礼している。
馬鹿らしいと思っていた。
そこ隊長だか小隊長が私をにらみつけるのがわかった。
私は気づかないふりをした
あなたはとても心配そうに私を見ていた。
大丈夫だよ。
私はそっと微笑む。
私はそこで休憩もそこそこに…
シャベルをわたされる
敵を迎えうつための作戦について
雄弁に語る小隊長
結論はとにかくシャベルで穴を掘れだった
人ころし以外の仕事ならと…
私は細い腕にシャベルを持って不器用に動かす…
そんな私の姿を粗野な男たちが馬鹿にして笑う…
島の食事もひどいものだったけど…
前の戦地であいつが現地の人から無理やり奪った食事よりも…
まだ味がした…
やがて地下壕が完成した…
私たちが到着したころには完成間近だったんだ…
戦闘前にすでにやせこけていたり、お腹を下してばかりの人もいた。
水はなるべく飲むなと言われた。
でも喉は渇く。
どうしろというのか。
やがて貴重な紙が配られた。
遺書をかけということらしい。
私は田舎に疎開している弟と妹にむけて書くことにした。
戦争のことについて書いていると頭が混乱して心がぐちゃぐちゃになり、生きているときのあなたが浮かんで浮かんで胸が張り裂けそうになった…
だから私はそれを小さく小さくちぎって海に飛ばした…
そして手紙には平和になったら2人で仲良く力を合わせて強く生きてほしいと。私の生きれなかった平和な世界を生きてほしいと。 そのようなことだけを書いた。
ふと見上げるとあなたは空をぼんやりと見上げていた。
さびしそうに。
私は手紙に彼の名前と出身地を書いた。彼と仲良くしいてたこと。彼にお世話になったことそして彼が亡くなったことを書いた。手紙の封筒に彼のハーモニカをいれようとしてもはいらず、小説の1ページを破って入れた。
彼の骨のかけらも紙に大切に包んで封筒の中にいれた。
………ありがとう………
さびしげな彼はちいさく微笑んだ。
やがて島は大艦隊に包囲され…
激しい艦砲射撃が始まる…
私は静かな気持ちでそのときを迎えていた…
でもとても怖い…
すごく心細い…
あなたも心細い顔をしていた…
すごく私を心配して泣きそうな顔をしていた…
………こんなときは、あいつがいれば………
ぽつりと愚かなる隊長のことをいう…
………ぼくは君を守ることができないよ……
………ただそばにいることしかできなくてごめん……
それだけでいいよ。
優しいあなたが私の最後に苦しまないように願う。
それでもあまりの状況に絶望で真っ暗になりそうになる…
この地下壕は海へつづく洞窟とつながっていた…
私たちはなるべくこの地下壕に潜んで長く持ちこたえるように命令されていた。
いまさら命令なんてどうでもいい…
私は無意識に海のほうへ洞窟のほうへ向かっていった…
みんなそれぞれがこの現実に耐えていて…
トボトボと歩いていく私にかまうものなどいなかった…
小隊長はどこへ行く…!と叫んだから…
お手洗いですと言い置いていく…
全く呑気なやつだと小隊長が毒つく…
少しあいつに似てる…
蟻塚のように張り巡らせられた地下壕の一番奥…
洞窟に入る…
だんだんと水音がし始める…
ぱしゃん…!
大きな水音がしてビクッとなる…
敵兵かしら…?
私は恐ろしくなる…
そっとそちらをのぞきこむ…
女の人がいる…
亜麻色の髪に青い瞳の敵兵の女だ…!
びっくりして私は動けなくなる…
………敵じゃないよ、大丈夫。あいつだ………
え?!
あなたは何を言ったの?
バシャ……!!!
女の隣から男があらわれた…
荒い息をついているその男は…
あいつだ…!!
人魚とあいつがこんなところに…
敵兵よりもゾッとする…
私は後ずさる…
びしょ濡れのあいつが海から上がってくる…
やめて…!!
わたしは叫びそうになる…
ふんわりと後ろからあなたが抱きとめる…
………大丈夫だよ、今のあいつは凪だから………
そんなの知らない。
あなたを殺したあいつなんて悪行非道したあいつなんて…
一生わかりたくもない…
見たくない考えたくもない…
あいつと人魚が何か話しているのが聞こえる…
人魚がしゃべった…
激しい嫌悪の合間に驚く…
あいつが歩いてくる…
私をなぜか悲しそうに見る…
やめてよそんな顔しても今更すべてが遅いのに…
私の顔が鬼のようにゆがんでいく…
彼は立ちすくんでじっと私を見ている…
やがて私を通りすぎて行ってしまう…
私はその場にへたり込んだ…
激しい爆撃の音を聞きながら…
私の心は怒りに燃えていく…
ふいに海の中の人魚と目が合う…
手招きする人魚…
彼女には怒りはわかない…
静かに海のふちにしゃがむ…
人魚は複雑そうに微笑む…
鈴の音のような声がする…
あの人を、もう怒らないで。
あの人はずっとあなたが好きなの…
お兄さんに似ているの…
あなたのためにここにきたの…
ずっと私と静かに穏やかにいればよかったのに…
人魚はとても悲しそうに笑った…
さあいらっしゃい…
そしてあなたも…
人魚は気を取り直したようにいう…
え?!
ここから逃がしてあげる…
抜け道があるの…
でも人魚にしかわからない抜け道だけど…
信じてくれる…?
おれはまた兵士に戻る…
兵士としてたくさんの人を殺したから…
生き残ってもずっとおれは一生彼らを忘れることは出来ないし…
だったら最後まで兵士として…
人魚は反対した…
全力でおれを止めてくれた…
正直嬉しかった…
でもおれはまた兵士モードになっている…
おれはずっと色白男を気にしていた…
あの岩礁で全てを忘れたように子供のように人魚と家族のように生きれたらよかったのに…
でもおれはどんなに鬼になっても色白男だけは守っているつもりだった…
あいつの手だけは血で汚さないように…
だったら最後まであいつを守ろうと…
それがころした優男への償いでもあったのかもしれない…
戦地では腹が立って仕方なかったのに…
人魚にあってからあの岩礁で暮らしてから…
優男の気持ちがわかるような気がした…
そして激情にまかせて切りつけたことを命を奪ったことに罪悪感を感じるようになった…
だから…
おれはトボトボと地下壕を歩く…
やがて見覚えのある顔がちらほら見える…
目を見開いて驚く同じ隊にいた部下たちだ…
その中で隊長らしき人間を見つけると足をそろえて敬礼する…
びしょ濡れであらわれたおれをあやしむ隊長らしき男に…
ただいま到着しました…!
これより合流してともに戦います…!
隊長はなぜか涙ぐみ近寄っておれの肩を叩いて…
うんうんとうなずく…
おれは完全に兵士モードに戻ってしまった…
色白男はここから人魚が逃がしてくれると約束してくれた…
しばらくはあの岩礁に避難し、その後ふるさとまでおくるそうだ…
生きてくれ…
兄さん、色白男と人魚を守ってください…
それだけお願い。
おれは一丁の錆びそうな銃をもらいそれを手入れする…
腰にはナイフ…
おれの武器はそれだけだ…
そとは大艦隊…
やがて上陸してここまでやってくるだろう…
もう殺したくはない…
じゃあどうする…?!
いきなり現れたおれをみて…
よくわからないが指揮が上がったようだ…
ひどく心細い状況でたったひとりでも隊に兵士が増えたことは…
慰めだったようだ…
おれが過去にどんな人間だったかも知らない人たち…
さあみんな程度の差はあれど似たりよったりなのか…
それともおれだけが特別に極悪人なのか…
同じ隊だった部下はずいぶんやせて顔色が悪いが…
人魚に食われたんじゃなかったのか…
と軽い冗談をとばす…
ああ…
曖昧に笑うおれ…
食われるどころか食わせてもらっていたとは言えず…
そっとふところの干貝をわたす…
驚いた顔で子供のように笑う…
ああ…
みんな本当は心の中に幼い自分を抱えているんだ…
それを胸にしまって必死に自分を奮い立たせてきたんだ…
わたしは泣いているの…
ぎゅっと抱きかかえた命が愛しくて…
あなたと一緒にはもう生きれないけど…
わたしの夢は消えたけど…
かわりにあずかった…
あの人の大切な人の命を守ることが…
わたしの生きがいなの…
白い鯨に教わって作った特別な泡で彼を包み…
息が出来るようにして遠距離を泳ぐ…
深い海の中を通らないと…
上の大きな船にやられてしまうから…
ときおり深い海で見かける不穏な黒い船を遠くに見つけると…
見つからないように迂回する…
恐怖でぎゅっと目を閉じて口も息をしていない彼の意識に…
大丈夫だから息をするように呼びかける…
泡の中にはもうひとり…
彼を抱きしめるスピリットがいる…
この2人を救いたい…
わたしは泣きながら海を進む…
だけどわたしは疲れきっていた…
岩礁からあの島まではずいぶん遠くて…
あの人をおくり届けるだけでもヘトヘトだったから…
少しだけあの人に怒っているの…
わたしのことなんて全然考えてくれないんだから…
好きだったけど嫌いになろうかしら…
心の中の強がりさへもう限界を迎えそう…
意識が朦朧としてくる…
そのとき…
ふわっと身体が軽くなる…
わたしたちは白い大きな鯨の身体に横たわり運ばれている…
嘘…北の海へ行ったはずなのに…!
わたしの大きな大きなお父さん…!
泣きじゃくるわたしを泡の中から心配そうにあの人の大切な人も見ている…
そして今度は驚いて鯨の身体を見ている…
早いスピードで艦隊の群れを抜けどんどん遠ざかっていく…
やがてそれが豆粒になったころ…
ゆっくりわたしたちは海面に浮上していた…
ありがとう……!!!
わたしは白いつややかな身体をなでる…
でも心なしか肌が若い、それに怪我もしていない…
無邪気な波動が伝わってくる…
ああ…彼の一族の若者がきてくれたのね………
無事に岩礁についたとき…
わたしは若者の白い鯨によくお礼を言った…
そしてまたねと言って…
岩礁に彼を連れ帰った…
わたしも彼もとても疲れきっていたのでそのまま眠ってしまったの…
これであの人との約束は半分果たせた…
わたしはとても安心して眠ったの…
もうわたしはあの人のことにめそめそしない…
あの人はあの人の決めた道を行ったから…
人魚はくよくよしないの…
それにあの若者の白い鯨に会えたことで…
わたしの心は満たされた…
白い鯨の一族は海の守護神だから…
愛にあふれた一族だから…
叫び声がする…
いよいよやってきた…
おれは銃を構え、腰のナイフの位置を確かめる…
兵士モードが板についたみなが緊張しながら…
それぞれ身構えている…
やせこけて顔色の悪い戦士たちだ…
この人生の中でこういう役回りにされちまった…
悲しき仲間たち…
じゃあ最後まで行こうか…
おれは目を閉じて深い呼吸をする…
目を開いたとき…
おれの覚悟は決まっていたんだ…
スローモーションで、向かってくる…
金色の髪と人魚に重なる青碧色の瞳をした男が向かってくる…
途中で銃をなくして大きなナイフを振りかぶる…
やつの瞳は純粋な恐怖と悲しみの感情を有り有りと映していた…
おれはそのとき銃もナイフも捨てさり…
腕を開いて向かってくるやつを抱きとめたんだ…
おれの心の臓を貫く刃ごと…
おれはやつに自分を重ねていた…
悲しい役回りにされちまったひとりの男を…
心の底から抱きしめたかった…
唸り声をあげながらおれを深く刺すそいつの声が…
泣いていることをおれはずっとわかっていたから…
そしておれは最後があの人魚と同じ色の瞳の男で良かったと思う…
おれはあの人魚に救われたんだ…
だからこそ今おれを殺そうとしたこのかわいそうな敵の兵士を…
こんなにも温かく抱擁しているんだ…
おれの人生はこれでゴールですか…
それともこれでは許されないかな…?
ごめんなさい…
ごめんなさい…
ごめんなさい…
ありがとう人魚…
ぼくは必死で、走っていた。
また殺した…
なぜあいつはあのとき武器をすてたの…
なぜまるでハグするような仕草をしたの…
敵を無我夢中でさしたとき…
周りのやつらが怒りでぼくに向かってきたけれど…
仲間の兵士がそいつらを火炎放射器で燃やしたんだ…
ぼくは怖くなって叫びながら地下壕をとびだした…
走って走ってどこまでも走るよ…
途中で敵にも味方にもぶつかるけれど…
ぼくはもう出来ないよ…ママ…
ここからぼくを出して…!!!
お願い……、!!!!
ぼくは走って走って島の端っこにきた…
地面に倒れ伏してわんわん泣いたんだ…
ぼくは自分の殺した敵兵のハグと火炎放射器で燃えて苦しむその仲間が悲しかった…
そしてぼくとぼくの仲間がみんな悲しかった…
声が枯れるほどぼくは泣いていた…
ふとそのとき聞こえたんだ…
海の彼方から…
爆撃の音や人々の唸り声や叫び声はすーっと遠のいて…
不思議な何かの鳴き声がした…
あれは知ってる…
いつかふるさとの海で聞いたことがある…
あれは…
あれは…
鯨のうたごえだ…
鯨はまるでぼくの悲しみの答えるように鳴いたんだ…
ぼくは…神よ…!!
そう叫ぶ…
ぼくの心はその瞬間救われて…
ふわふわと海を漂うようだった…
ぼくの心の底から…
何かが湧き上がってくる…
それは愛だった…
本来ぼくが持っていた…
置き去りにされていた愛だった…
…ありがとう…!
おれは鯨に礼をいい反対に向かって走りだす…
総司令官のもとへ…
この戦闘をとめるために…
目が覚めたとき…
なぜか一筋の涙がながれた…
その涙が見えない手がぬぐおうとする…
あなただ…
人魚に抱いて運ばれたどり着いた小さな岩の島…
中に小さな砂浜があったなんて…
………良かった。無事で。………
安心したように笑うあなたがいる…
ふと隣を見るとほとんど気を失ったように眠る人魚…
心配になり口もとに手をやると…
かすかな息づかいを確認して安堵する…
きっとすごく疲れただろう…
起こさないで寝かせていよう…
それにしてもあの白い鯨は…
まるでわたしたちを助けてくれたみたいだった…
おじいちゃんが言ってたようにやっぱり…
人魚のそばには大きな白い鯨がいるんだね…
こんなにも、悲しい海をわたしは知らない。
最初平和な海に戦争を持ち込み、海の生き物を傷つける人間たちにずっとずっと怒っていた。
けれど…今…彼らの悲しみを感じる。
多くの人間が戦争に駆り出され、ときに自分を見失い、愛を忘れ…
したくもないのに殺しあっている…
人間はどうしてそんなことをするの…?
泣きながらどうして…?
わたしにはどうしても理解することができなかった…
でもあるひとりの人間の嘆きがわたしの胸に飛び込んできた…
そのときに…
わたしはやっと人間についてはじめて少し理解できたような気がした…
たったひとりだけ救おう…
この人間だけを救ってみよう…
わたしは嘆きに答えた…
それからまもなく人間の武器をのせた船たちは遠くに帰っていった…
島に残っていた人々もそれぞれ船に乗って帰っていった…
悲しみだけを残して…
静かになった海を…
またわたしたちは愛で満たしていく…
それがわたしたち鯨の生まれた理由だから…
人魚の娘が恋した男は兵士だったそうだ…
その男もこの島で命を終えたという…
わたしはこの戦争によって大きな傷をおった…
後遺症が残った…
もう以前のように海での仕事は出来そうになかった…
かわりにこの海を若者にまかせるつもりだ…
わたしは、生まれ育った母の眠る北の海へ帰る…
そこで静かに余生を過ごすつもりだ…
私は人魚と白い若い鯨におくってもらいふるさとに帰ることができた。
両親は私の無事を申し訳なさそうに遠慮がちに喜び、少し大人になった弟や妹たちも喜んでくれた。
だけどなぜだろうここにはいたくないなと思った。
私は彼のふるさとに向かった。
彼のふるさとは海辺の漁師町にあった。
彼の実家には彼のおじいさんがひとりで暮らしていた。
おじいさんは真珠の養殖をしていた。
彼と戦地で仲良くしていたというと行くところがないならここにいていいと言ってくれた。
彼も寂しかったのだろう…
わたしのおじいさんも漁師をしていたから少しこの町にもおじいさんにも親近感を覚えた。
そしてどことなく彼の面影があった。
彼はふるさとに戻れたことでやっと心が晴れてきたという…
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彼のふるさとの海辺の町は戦争の影響をあまり受けなかったようで平和な姿を残していた。
私は潮風を思いきり吸い込む。
あの地獄の戦場からひとり逃れた。
ううん。ひとりじゃない。
ニコニコと穏やかに笑うあなた。
………良かった………
しみじみと少しだけかなしげに笑う。
生きて戻れなかったから。
そしてあまりにかなしい世界を見すぎたから。
私もそう。
平和な世界に戻っても心から笑えないんだよね。
あいつはどうなったんだろう。
あんなやつしんで良かったとせいせいすると思おうとするのに。
あいつの最後に見た悲しげな顔が頭に焼き付いて離れなかった。
人魚の言葉も残っていた。
あいつはお兄さんに似ている私を好きだったんだという。
私は人魚の話を聞いてから。
憎くくてたまらなかったあいつに結局助けられてから。
憎みたいのに上手く憎めなくなっていた。
怒りの炎が立ちのぼらず、しゅんとしている。
そんな私の心をあなたはわかっているようだった。
あいつはしんだ。
ほかの仲間もしんだ。
遺骨さへ戻らない。
あいつにも家族がいたんだ。
亡くなったお兄さん。
妹や両親が。
あいつがもし平和な世界にいたら人を殺したり、非道なことをしないでも生きれたのだろうか。
私は彼のおじいさんに彼の遺骨の一部と遺品を渡した。
遺骨は少ししか残せなかったし、小説は水に濡れてボロボロのを乾かしたもの。あとはハーモニカだけだ。
おじいさんは黙ってうけとり、無骨なのに優しい手のひらで遺骨を撫で、読みにくくなった小説をパラパラとめくり、ハーモニカをなでた。
その様子を霊魂のあなたは黙ってみていた。
申し訳なさそうな顔をしておじいさんを見ている。
ありがとうね〜と私を拝むような仕草をする。
素朴で温かいおじいさんの人柄は私の心に仄かな灯りを灯した。
この人の元にいたいと思う。
彼の家からの帰り道。
私は海を見ていた。
海を見ると悲しくなる。
私は港に立ち海を見ながら不器用にハーモニカを吹く。
鎮魂……そんな気もしてる。
平和な世界についに戻れなかった人たちへの。
戦場というおかしな世界で鬼になった軽蔑すべき、だけど…
本当はそうなりたかったわけじゃなかったあいつ。
お兄さんが生きていた子供のころのあいつはそうじゃなかった。
ぼんやりとでたらめなハーモニカを吹いている。
後ろのほうにあなたの気配を感じる。
人魚のことも思い出していた。
私を助けてくれた優しい美しい人魚のこと。
戦場での残酷な光景や抱えきれない出来事を思いだして呆然としているときに。
それを覆うように人魚が心の中で姿をあらわしてぬくもりをくれた。
あの人魚がいなければ私はあそこでしんでいた。
ずっと私は戦場から抜け出せないでいただろう。
感謝している。
そしていつかまた会いたいと思っている。
ひとしきりハーモニカを吹き終え。
どこへともなくかえろうとしていた。
でも帰りたくないとも思っていた。
迷うようにフラフラと歩みを進めていた。
おーい!
おじいさんの声がする。
おじいさんは優しいでもさびしそうな心ぼそそうな顔で笑う。
良かったら泊まっていかないかい?
申し訳なさそうにいう。
私はその時におじいさんの寂しさを感じたので
はい!とはげますように力強くうなずく。
おじいさんはほっとしたような顔をした。
私は小走りにおじいさんの家に向かう。
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