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小説好きさん
24/03/04 06:33(更新日時)

私の魂が求めて止まないもの

愛、優しさ、恋人


「氷子の五歳の頃の日記帳より」




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No.3948639 23/12/29 18:22(スレ作成日時)

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No.1 23/12/29 20:45
小説好きさん0 

ゆらゆらと揺れる氷子の人生。
私は氷子。氷子は私。ええそうよ、どちも私なのよ。どちらでもいいのよ。

ああ、気持ちいい夜ね。でも、こんな気持ち良さも長続きしないものね。まるで夢を見ているみたいね。そうよ、全て夢なのよ。

月明かりが優しくて泣いてしまいそう。目的がないの。目的がないというか、月みたいに遠くにあるから、手が届かないの。

月に至る道が見えないから、闇夜の中を彷徨うしかないの。あの柔和な月光でさえ道を照らしてくれないのよ。なんて悲しいのかしらね。非情ね。

だからこんな曖昧な文章なんだろうね。意味合いもなく価値もない。宇宙に響く呻きと嘆きの声。その音響。赤子にも似つかぬ駄々こね。赤子の泣き声なら少しは価値があったのかな。赤子の泣き声がなんの役に立つというの。ただ心を不安にさせるだけじゃない。氷子は赤子じゃないのに。

月日と世間への認知の深まりが、より一層氷子を赤子にさせるわ。だって、知れば知るほど分からないことだらけだもの。



No.2 23/12/29 21:02
小説好きさん0 

>> 1 氷子は宇宙の赤子。その泣き声は宇宙の膨張。天地を揺らす天変地異。地球がある前から私はある。それが氷子のお決まりの自己紹介よ。

こんな私も身体があって、目も鼻も口もあって、普通に笑ったり悲しんだりする人間だったのよ。氷子は純情な少女だったのよ。

ああ、人間。人間。人間はなんて不思議なんだろう。いや、人間だけじゃない。この宇宙そのものが神秘で満ちてるのよ。そんなダイナミックな感性が私を狂気から救い出す。夜空は満点の星空、地には草木花、そして虫、微生物、大気には酸素、二酸化炭素、私はそれらと敵対したこともあった。でも、今ではよく分かるわ。それらはよく調和されて循環されているの。
私は果てしない宇宙を為すための、しがない生命の捨て駒だと、そう悲壮的になったこともあったわ。
でも、そうじゃないの。私は、氷子は自分自身を履き違えていただけなの。

ここは狂瀾の宴。一夜の夢。刹那の閃光。儚い本性の、追いたてる時から逃げる幾億の影。明日に花開いて明後日には枯れる簡易な花、花の擬き。そして涙の水やり。

ゆらゆらと揺れる私の身体と氷子の精神。
私は純情な平和主義者。悪魔の奴隷。二面の狂気と真実。手を合わせて祈る。遠い昔話を追いかける永遠の夢追い人。

氷子は信じる心。私を信じている。花嫁と花婿の饗宴。夢に見慣れた歓喜の嵐。
身を焼き付くす愛の炎。

浄福を授けるために遣われた私。
天を仰ぐ氷子とその連れ。

No.3 23/12/29 21:16
小説好きさん0 

>> 2 私は気付いたら産まれていた。いつから存在しているのか分からない。それが氷子の人生の、最初の正直な感想。

私は他の人のように一人で産まれてきた訳じゃない。私は双子だったから。身体は2つ、心は2つ。でも、それは異なる別々のものだった。心は通じあっていなかった。

だから私は酷く孤独だった。

意識はあるけど動けない、酷く狭い。そしてどこか温かい。私は最初こそこの場所を地獄のように不便だと疎んでいたが、やがては慣れてしまい、そこから出るのが嫌になった。

氷子と私は考えた。これから始まる長い人生を。そして私が背負う十字架を。遠い昔に蒔いた毒牙が、目を出そうとしていた。成り行きを憂いて、私は酷く億劫になった。

麻酔は聞かなかった。たとえ自殺することになっても切腹だけはしまいと、天の女神様に思わせた。私は胎の中で泣いた。産まれてきたくなかったから、精一杯に泣いた。光が見えて上に逃げた。しかしその抵抗は虚しかった。

この日、未来の氷子が呪った日となった。

さらにまた未来の私が、死の間際に呪いを
上書きした。

しかるに、死によってこの日が祝福された日へと上書きされたのである。

木漏れ日の日に埋もれた午後よ、過ぎてなくなれ。

No.4 23/12/29 21:25
小説好きさん0 

>> 3 明るい太陽よ、こんにちは。
久しぶりの空だよ、景色だよ、これが光だよ。綺麗ね、本当に綺麗ね。
おかしいね、喜んでるね、みんなが喜んでるね。あんなに泣いたのにね。

始まるね、これから始まるんだね。しかるに、夢と現実が分からなくなったんだね。

私は恋をするかな。氷子は心の中に優しさを見つけれるかな。世界は紛争で覆われてないかな。隠れた友達は姿を表すかな。
いつかは全てを思い出せるかな。
同じ過ちを何度も繰り返さないだろうか。

嬉しいね、嬉しいね。また初めて見たときの新鮮さで、世界をありのままに見れるんだね。

氷子の誕生日だよ、世界は喜ぶよ、私は宇宙の子供。新しい命に次ぐ命。遠い現影。未来の陽炎。消え去る影。
優しい歌、燃え立つ炎、この先の悲しみの涙。

夢に見慣れた光景だよ、愛を落としたよ、知識もなくしたよ、でも素質は受け継いだ。

崩れ行く世界は保たれた。あんなに見事な飛行機雲。ああ、嬉しい、抱き締められること。愛されること。でもこの記憶は、氷子にはない。私にも、なかったよ。忘れたのかな。いつかは思い出すのかな。

始めからなかったのか、心に鍵をかけたのか。

No.5 23/12/29 21:39
小説好きさん0 

>> 4 幾千の人が通り過ぎていくが、私は忘れず、氷子は忘れて。
何も変わらないよ、でも変わったよ。
子供は分別がないから子供なのです。
そんなことない、子供は大人の幻想だ。自分達だって子供じゃないか。

ある日、私は思った。この階段から飛び降りよう、と。そう思った。
右にはロボットがいて、左には天使がいた。ロボットはとてもいい人だった。でも不幸だった。天使はロボットを裏切った。
比喩的な意味合いで。ロボットは救いを約束されている。その約束を果たすことが氷子の努め。

話がそれた。私は階段から飛び降りようと思ったんだ。自殺志願者がビルや崖から飛び降りるように、私も飛び降りようとした。氷子は止めた。でも私は聞かなかった。世界は突如スローモーションになった。

ふと壁にかかってる絵が見えた。それはアメリカの開拓の絵だった。善良なインディアンは白人開拓者に殺された。この公正さが人々に理解されるには、長くて百万年の歳月がかかる。

私はまだ理解できなかったから、酷く憂鬱になった。でも、それは十年以上先の氷子の思いだった。私はいつか、自然を無性に恋しく感じるようになるだろう。なぜなら私も自然の一部だから。自然は完璧だ。でも、人間だけが、人間の心だけが自然的ではない。他の生物は、完全なる調和と己に課せられた使命を全うしている。

ライオンは雄叫びを上げ、鹿は矢で射られる。痛い、痛い、なんのために産まれてきたの。食われるために産まれてきたの。

かわいい鹿よ、それがお前の奉仕だ。お前の為すべき愛なのだ。痛い、痛い、命を弄ぶ悪魔はいない。

ごらん、死ぬ行く間際まで、世界は美しい。

No.6 23/12/29 21:49
小説好きさん0 

>> 5 お、俺は、他者を殺さねば生きていけないのか。

ライオンの絶望。ライオンは嘆き悲しむ。優しい平和主義者への、あまりにも過酷な罰。なんの罪を犯して?

自然は厳しい。私は悲しい。氷子も悲しんだ。これを悲しまない人は心がない。

ライオンは死んだ。バタバタと死んだ。自然は反省している?嘘だね。なにも変わっていない。

この狂気的な世界で、夢を見ているなんて恐ろしい。人間はなんて恐ろしいんだろう。

ライオンさん、私を食べて下さいな、そうすることで私はより高次の存在になります。

兎よ、お前に課せられた運命に、幸あれ。安らかであれ。氷子よ、悲しむな。これはお前も通ってきた道。振り返るな、憐れめ、慈しめ。お前も憐れみを受けるために。


笑え、笑え、高らかに笑え

泣け、声をあげて泣け
涙を流して泣き喚け

この世のシステムに泣け
死に行く命に笑え

死は救済だと、そう言ったのか氷子

遠い天界へ昇る魂たちに幸あれ

氷子と私の祈り。二人、または三人で祈る祈りは真実。これが常世の掟。



No.7 23/12/29 22:09
小説好きさん0 

>> 6 俺は他者を殺して生きていこう。
生命を食むものとなろう。
そうしてこの身を生き長えさせよう。

生き残ったライオンの、苦渋の選択。
頬をつたう一筋の涙。
剥き出しの牙。
鋭い爪。
滴る涎。
轟く断末魔。

うまい、うまい、なんて旨いんだ。
ライオンは泣きながら肉を貪る。

口もとを真っ赤に染める。
俺の味覚は俺が作ったものではない。
俺の本性も俺のものではない。
俺は俺の定められた本性のままに生きよう。そうすれば罪は残らない。

俺はただの機会。たゆみなく続く宇宙の事象の、刹那の夢。永遠に比べれば、俺なんて大したことない。

ここが現実なら、それこそ首を吊って死ななければならない。ここが夢で良かった。悪夢でも、ここが夢で良かった。

兎よ、ありがとう、鹿よ、ありがとう

本当に、本当にごめん。俺を赦しておくれよ。

優しいライオンは泣く。泣きながら肉を貪る。しかしライオンは負けない。己の務めを果たさんがために、他者を殺す。それがライオンに定められた運命だから。





悠久の時の後、そのライオンは人間の狩人として産まれる。火縄銃を担いで、山で動物を殺していく。それが彼の本性だったから。


No.8 23/12/29 22:23
小説好きさん0 

>> 7 私は階段を飛び降りた刹那、スローモーションになる世界でその記憶を見た。

エーテルの中には誰かの思いが飛んでいる。その後のことは覚えていない。もしかしたら怪我をしたのかもしれない。
でも、その記憶は隠されたまま。

私は無性に悲しかった。その階段は魔の階段だった。私は三歳の頃、この世界ができる前のことを考えた。この世の物理法則の影響下にある氷子は、それを越える世界のことを理解できなかった。

だから氷子は無だと思った。何もない無を考えた。私は恐ろしくなった。

でも、私は夜な夜な幽霊になっていた。人は寝れば無意識に幽霊になる。氷子から教えて貰った。氷子は自分のことをあまり話したがらない。

No.9 23/12/30 08:48
小説好きさん0 

>> 8 無邪気さは一種の特権
善悪の性は天命、幸不幸は運命
不幸から幸福への移行の
刹那のひととき
人々の喜びのヴィジョン
世界を照らす行為
人の世の幸せ
それが氷子の宿題

ある日氷子は街へ出た
己の使命を果たすため
氷子はゆらゆら歩いた
世界と氷子に差異はない

でも、その日一人の女の子とあった
駅の近くの公園
金髪を靡かせる青い目
遠いロシアの夫婦と
その子供

氷子は雪女になった気分だった
世界は広い
でも、氷子の世界は狭い

No.10 23/12/30 08:56
小説好きさん0 

>> 9 私たちは言葉は話せなかったけど、人生で初めて意気投合した者となった。
言葉よりも想いが先に伝わる。子供なら尚更。私たちはこの夢のような果てしない世界と、まだ何もない自分の小さな世界を照らし合わせる必要がなかった。
子供の特権。私の特権。氷子の特権。そしてカチューシャの特権。

私は氷子。氷子は私。でも、カチューシャと私は違う。今はね。
カチューシャは笑った。私も笑った。未完成な言葉が私たちの意思を疎通させた。

カチューシャはこの国から出ることを提案した。でも私には国なんてなかった。
世界が氷子の祖国だった。

カチューシャは言った。言語の相違など構わず。私はそれを直感で理解した。

とどのつまり、カチューシャの国は今この場所だった。

その日から私たちは旅に出た。

No.11 23/12/30 09:08
小説好きさん0 

>> 10 お父様、お母様、さようなら。私たちは旅に出ます。いつ帰ってくるの?それは野暮ですよ。私たちに時間などないのです。
ただ今を生きているだけなのです。
心配しないで下さい。私たちはこれから楽しんでくるのですから。

世界は宴。無常の風。私はただ機会。その心の唯一の行為者。流転する世界の、巡り合う時間。私たちは生きることで星を廻していく。

「ねえカチューシャ、あなたはどこから来たの?あなたの国はどこ?」

「さあ、知らない。だって私、産まれてから僅かな年月しか経ってないもの。」

「そんなことないわ。だって、あなたは永遠の存在じゃない」

カチューシャは笑った。

「おかしなこと言うのね。今この瞬間は永遠じゃない。」

「でも、カチューシャは永遠じゃないわ」

「ええ、そうね。だから、せめて今だけは夢を見ていましょう。私たちの友情のとこしえを願って。」

カチューシャは美しい涙を流した。私は涙が好き。この宇宙のどこを探しても、涙ほど儚げで美しい水は見つからないだろう。

だって、涙には想いが詰まっているから。

No.12 23/12/30 09:22
小説好きさん0 

>> 11 私たち、いつまでも愛の歌を歌っていようね。

この平和を享受しようね。儚い命だと、そう嘆くことなく。

今この瞬間のためだけに作られたこの世界を

我が物顔が歩いていこう

愛の天幕を掲げて下さったお方を崇めながら

死に行く人々を余所目に、今は私たちの夢を見ましょう

花は咲く。私たちのために。太陽は世界を明るく照らす。私たちのために。風は爽やかに靡く。私たちのために。

喜べ、喜び、大いに喜べ。今日この日のために。私たちのために作られた世界を喜べ。


遠い先の果ての氷子が今を見ている。今から20年後、臨終の間際にあるカチューシャもすぐにここへ来るだろう。

ああ!思い出したわ。こんなこともあったのね。すっかり忘れてたわ。私の人生、こんな素晴らしいこともあったのね。
街は焦土となった。お父様もお母様もお隠れになった。でも、ここでは私も、懐かしいあの子も、お父様もお母様もいる。

世界は祝福されている。懐かしい、懐かしいな。過ぎ去っていなかったのね。夢は雲のように千切れてなくならないのね。
今この瞬間は永遠なのね。
私は夢を見ていたのね。ならば、私は誰なの?それは、これから分かるのかしらね。

ああ、流れていく。全てが流れていく。上へ上っていく。私の本質へと還っていく。世界はまた消え去る。


No.13 23/12/30 09:28
小説好きさん0 

>> 12 遠い景色は何かを例えているのだろうか。
遠くにあるものは美しい。
でも、大切なのは細部なんだ。
そこに命が宿っている。夢は遠い。
今この瞬間は捉えがたい
私たちは否応なく行為しているから。
刹那の一瞬も休むことなく
私たちは歌を歌う。
氷子は氷子の歌を歌い、
カチューシャはカチューシャの歌を歌う

心臓がそのリズム
想いと感情の落差がメロディー
その言動が歌詞と情景
奏でるは幾兆の細胞と、その臓器

また自分のこと愛したいと踠いてるの、氷子。

ふと、私たちは花畑へ着いた。そこでは、一人の老人が私たちを見つめていた。

No.14 23/12/30 09:41
小説好きさん0 

>> 13 あなたは誰?どうして私たちに頭を下げるの?お二人が尊いからです。
なんで尊いの?そりゃあ尊いからです。

私たちが子供だから?へえ、そんなことではありません。お二人をお慕い申しているからです。なんで私たちを慕っているの?お二人が夢を見ているからです。

私は確かに夢を見ているわ。それはあなたもでしょう?いいえ、わたしは夢を見ていません。どうして夢を見ないの?わたしにはこの夢が好きになれなかったからです。

なら夢見る世界でさらに夢を見ればいいんだわ。そんなことしたら、夢が何重にも絡まって、どれが真実でどれが現実だか分からなくなってしまいます。

もうなってるじゃあない。だから私たちは死ぬのよ。


No.15 23/12/30 17:35
小説好きさん0 

>> 14 あなたは少し、気が狂っていらっしゃる。
いいえ、私は真面です。
あなたの方こそ、疲れてるんだわ。
優しい労いの言葉。
世に絶対に傷つけないという保証はあるだろうか。心は傷つかないように出来ている。
そのような繊細なものを抱えて、この修羅の国を生きていけるの。だから人は、夢を見るようになった。

老人は言った。
「私はこの道の果てであなたと苦楽を共にした仲なのでございます。時にはあなたと共に愛し合い、恋仲にもなりました。」

「私、そんな記憶はない」

「勿論です。これから起こることですから」

「あなたと?」

「今の私ではありません。昔の私とです。ここでは時は必ずしも一方通行ではございませんから。」

ゆらゆら揺らめく蜃気楼。遠くに見える景色は色がいい。その老人も、次第に遠くに消えていった。間際に、老人は氷子に古めかしい鍵を手渡した。

「その鍵は、あなたが閉ざした心の鍵なのです。隠されているもので公にされないものはこの世に存在しません。いつしかは、どんな目を覆いたくなるような不幸とも、対面しなければなりません」

氷子は次第に遠退いていく老人を見て、その人が泣いていることに初めて気付いた。

「姫よ、いつまでもお幸せで。ありがとう、ありがとう。ただ君に感謝を。」

氷子は柄にもいわれぬ居心地の悪さを覚えた。愛されることに慣れていなかったのです。

「彼は確かに私を愛していた。私ではなくて、私の幻影を。結局は彼は夢を見ていたのね」

「ええ、そうね。人は死ぬまで夢を見る生き物なのよ」

カチューシャは、氷子の肩に優しく手を置いて答えた。

遠くでは豆粒ほどになった老人が明々と燃えて、やがて星になった。


No.16 23/12/31 13:01
小説好きさん0 

>> 15 私あなたに会えてとても嬉しかったと言った。でもそれがとても悲しかった。私は移り行くものだから、出逢いがあれば必然とお別れがあるから。
あなたは私の本当の拠り所ではなかった。
でも愛していたんだよ。心の底から愛していたんだよ。
私はあなたの弱さを誰よりも愛おしく思っていたんだよ。

時よ追いたてないで。もう少しだけこのままでいさせて。何もない私から愛する人を取り上げないで。永遠の時の中で、あなたを忘れさせないで。この美しい記憶の宝物庫を取り上げないで。

幾千年も経て芽吹いて咲かせた花なんだよ。早急に枯れてくれるなよ。
この景色が永遠を保っていられますように。この想いがとこしえに続きますように。

カチューシャ、私は何を嘆いているんだろうね。生命は思考や感情だけなのかな。違うよね。だから私の名前を呼んでくれたのね。夢だったらいいのに、という言葉は矛盾しているね。消えていくものは夢と相違ないのにね。

目の前の全てが消えていくよ、私の愛した人々はただの風だよ。私たちは本当の意味で生きていなかったのね。


No.17 23/12/31 20:47
小説好きさん0 

>> 16 氷子は現実から逃げたかった。この世が夢であればいいなと思っていた。今まで疑いもなく存在していた世界が夢から覚めると瞬時に消えてしまうように、この世もそうであればいいと願っていた。 
氷子は常に同じことを繰り返していた。
水星や金星が同じ軌道を描いて延々と同じ場所を廻り続けるように、廻る星をなぞるように氷子も同じ軌道を歩いていた。
それは輪になっていた。その輪は私を苦しめた。人生の全てがデジャヴに感じた。

ふと、生と死の狭間から声が聞こえてきた。

「私は愛されるために自分自身を偽ってしまった。それほど皆から愛されたかった。
私は本当に本当に誰からも嫌われたくなかったんだ。
たとえ夢の中の出来事だとしても、誰かから嫌われることは耐え難い苦痛だ。

愛される要素を見つけるべく、またそれを身につけるべく、私の魂は虚飾を重ねていった。それが今の不幸を形成したんだ。ここまできたらもう戻ることはできない。私は自分が誰だか分からなくなってしまったんだ。

私の心臓は私の一部だが、私と個別した存在だろうか。そんなことはあるまい。私の心臓は私のものだよ。心臓が私を主張したらたまったものじゃないだろう。」

カチューシャは言った。

「あなたは物事を複雑に見る天才なのね。」

その声は返した。

「それが人間の天性の才能だよ」

「同じように私も、もっと大きなものの一部なのさ。だから私、私と思い上がるなんて烏滸がましいことなんだ。」

氷子には、その言葉が妙に胸につかえた。

人生に逃げ場はないが、それでも辛いことから逃げてしまおう。逃げても辛い。生きている限りは辛い。ただ家でジッとしているのも辛い。そんな時は外へ出て、人のいない場所へ行く。空や雲や、遠くの景色を眺める。野花や、野鳥を見る。川の淵に延々と佇む。私は、確かに自然は美しいと思う。でも、心がこの世界を厭んで止まない。疲れた。あらゆることに疲れた。際限のない欲望に疲れた。満たされない心に疲れた。煩わしい人間関係に疲れた。生きることに疲れた。

私はただ、自然豊かなところでボーッとしていることに幸せを感じる。でも、人生なんていつ終わってもいい、本気でそう思ってる。私は満足した。苦しみを味わい尽くしたから。

No.18 24/01/01 08:40
小説好きさん0 

>> 17 生きているし死んでもいる。それはカチューシャの言ったこと。心地よい音楽が流れる。酔っているのかしら。氷子はお酒を飲まないのに。言葉が消えていく。言葉が出る前の、脳内に浮かんでくる言葉の素材が朧気に消えていく。私はもはや喋ることもない。激情は姿を隠した。そんなことは駄目よ、あなたの今までの想いを無下にするつもりなの?いつかの私の叱責。カチューシャの叱責。

歩いてる内に5年の月日が過ぎた。カチューシャが悲しんだので、私たちは道を戻り二年だけ若返った。

ああ、私たちを引き留める声がするよ。
あれは鳥の歌じゃないよ。本当に泣いてるんだよ。

悲しい泣き声はよしてくれ。行き倒れの男がいる。彼は何一つ負い目はなかった。ただ自分が何をすればいいのか分からなかった。夢を抱いていたのだけど、彼にはそれを叶える力がなかった。夢を見失った人間は惰性に生きる。いや、生きていない。ただ死んでないだけ。人生には定められた時があるという。笑う時、悲しむ時、怒る時、落胆する時、愛する時、全ては星の元に定められている、と。私はいつかその星の支配者にあいたいと思った。

夢は美しい。なぜならいつかは覚めるものだから。儚いから美しい。移ろい行くものは美しい。終わりがあるものは美しい。ひとつの物語だから。宇宙で比類するものなき、唯一の物語だから。その人が生きた軌跡だから。土がそうだ。土は幾万もの死者の体を含んでる。私は土の中からたくさんの声を聞いた。そこには無念があった。心残りがあった。呻きがあった。泣き声があった。平和を望む祈りがあった。愛する人への祝福があった。世界を讃える讃歌があった。喜びがあった。至福があった。私はいつかのカチューシャの声も聞いた。

ふと空を見上げた。降り注ぐ炎の雨が見えた。暗闇を明々と照らす。綺麗に街を燃やしていく。ああ、なんて美しいんだろう。夢であればなんでも美しい。遠くに聞こえる悲鳴は、美しい。それが夢であるならば。その男は美しく燃えた。顔を歪ませて、呻きながら。それが男の、人生で最後の嘆願だった。



No.19 24/01/01 20:41
小説好きさん0 

私たちは本当のことを話そう。氷子も、カチューシャも、これから死に行く男も。死の間際まで誠実でいよう。不自然な虚飾は捨ててしまえカチューシャ。激情で冷静さを欠いてかれるな。

ゆったりとした音楽。悲哀の双眸。でも涙は流れない。不安はない。ただ寒さがある。私の目は遠くを見ている。現実を見ていない。カチューシャは過去を見ない。未来を見る。でも、今の氷子を作ったのは紛れもなく過去の日々なんだよ。それを否定すれば今の私はどうなるの。

水と霊によって新たに産まれなければならない、とは神様が言ったこと。
私は私に未練がない。むしろこの命を憎んでいる。より良いものを求めて。私は強欲だから、氷子は全てを望んでいる。だから産まれてきた。その時の私の知性が隠された。
日々の雑務。生きるための要求には際限がない。人はどんな場所でも希望を見出だす。苦しみは目を開く劇薬。死は形態の変化。空には虹がかかる。あの雨はかつてのあなたの涙。な訳ない。でも、何者かの意志がある。私はそれに縋る。頭を垂れて。

宇宙は夢。顕現されたものはその事象の一幕。時の始まりと共に世界は始まりを告げた。全てを回帰させるために。私たちの苦しみなんて省みずに。ただ、愛を為さんがために。あなたの楽しみだけに宇宙は存在する。

私には未来があって、過去があるんだよ。心がそれを為すんだよ。誰からも理解されない苦しみ。理解されるということが理解できない。彼女の心は慣れてしまったから。一度過ぎたものは二度と無くなることがない。私でないなら何をしてもいいの。あなたがそんな慈しみのないことをするなんて。

ああ、私は分からないよ。


No.20 24/01/01 20:59
小説好きさん0 

>> 19 苦しみの後はたくさんの幸せがあればいい。永遠に安らかであればいい。その後はもう何もなくていい。
人々は苦しまなくていい。いつも幸せであればいい。辛いことなんて何一つなければいい。

世は想いに連れ添う。余多の喜び。瞬く間の失望。甘露の味をした毒。良薬は口に苦し。心の欲求には際限がない。だからこの世には感謝すべきものしかない。それ以外には何もない。カチューシャはそれに対して不満を言った。でも、あの生き倒れの男の清らかな姿よ。彼は何一つ不平を言うことなく死んでいったんだ。私はその時、彼を初めて愛した。

死に行く人、安らかであれ。死んでも幸せであれ。生きる人、互いに傷つけ合うなんてことは止めよう。優しく労ろう、共に愛し合おう、儚い命を抱えて、美しい夢を見ながら。私たちはやがて死ぬものであると覚悟を決めて。

愛し合おう、世の中で本当に価値あることはそれくらいだよ。私を幸せに忘れさせてくれるのはそれくらいだよ。

No.21 24/01/01 21:48
小説好きさん0 

>> 20 カチューシャが血の混ざった痰を吐いた。私は悲しくなった。何事もなければいいなと思った。
思い出すことは辛い。私はカチューシャがいなくなってしまった後の私の心配をした。それが酷く私自身を失望させた。
許しておくれ。私は自分の弱さを受け入れられなかったんだよ。私は弱い人間だよ。
あなたたちのことを嫌いに思ったことは一度もなかったんだよ。
許しておくれ、仕方なかったんだ。

甦る悲しい思い出。過去を振り返れば憂鬱になる。私はその時その瞬間に、自分がすべきことをしてきた。選ぶ道もなかった。だから後悔なんてことは何もない。ただ、酷く悲しい。これ以上氷子を悲しませないで。彼女は泣かなかった。辛い日々を何年も耐えた。氷子にも負い目はあった。でも仕方ないことだよ。それが理由にはならない。あの人には振り返る思い出もない。
言葉は永遠。一度出した言葉は二度と戻せない。あなたは幸せでいて。その報いを受けさせないで。カチューシャがいるから。カチューシャのためにも私はもう何も言わない。できることなら、もう二度と逢わないでおこうね。何もかもなかったことにしてね、といってもそれは叶わない。災難は常に畳み掛けてくるもの。あの時死んでおけば良かったとは私の言ったこと。
氷子、あなたは一人よ。本当はカチューシャなんていないんだわ。行き倒れの男は一人で死んでいった。あなたはこの記憶を抱えて一人で生きていくのよ。
誰も知らなくても、私は知ってるわ。知ってるならどうなるの?あなたの支えになるのよ。
だから、元気出して。哀しまないで。あなたの涙を拭うのは私だから。
この十字架を最後まで背負いなさい。

あなたは誰?死んだら終わるの?この悪夢から覚めるの?いいえ、今夢から覚めなきゃならないの。そうしないと死んでも夢から覚めないわ。死ぬ日は産まれる日に勝る。あなたの産まれた日は呪われている。
だからその呪いを解きなさい。あなたの生き方によって。心の中は熾烈な戦場。過ぎ去った事象の存在しない津波の衝突。
終わらない堂々巡り。無意味の意味の意味。ただ生きるということ。赦すこと。愛すること。感謝すること。
勇気を出すこと。よく笑うこと。何事にも感謝すること。結果を顧みないこと。
それはあなたの言ったこと。
この道の果てにあなたがいる。だからあなたは歩き続ける。

No.22 24/01/01 22:56
小説好きさん0 

>> 21 木々は歌う。もはや死んでいる枯れ葉も喜んでいる。空は虚無に見えて栄光を讃えている。私たちは光の織り成す幻影を見ていた。宇宙の踊り子は出鱈目に星を廻す。巡り合う魂は愛し合う想いが惹きつけたもの。
待望の瞬間。待ち望まれた日々。輝く明けの明星。ガラスのような繊細な心。幾度期待しては裏切られたことだろう。涙は見えないが絶えなかった。それでも希望は潰えない。それはあなたが諦めないからだよ。闇に向かう夜も、あなたはそれを見据えて離さなかった。信愛故に如何なる時でも忘れることがなかった。命は使い捨てではない。想いや感情は尊いもの。これこそ私たちを為すもの。でも、いつかはそれらを越えていかなければならない。私は私を忘れなければならない。出鱈目な世界!ああ、そんな世界があったなら。秩序も崩壊もなく、夢のような世界。夢そのものの世界。私はそこに行きたい。おかしな人達がたくさんいる。彼らは臆病で、気弱で、よこしまな心がない。凍えるような寒さを好む。より暖かみの幸せを知りたくて。歌を聴き、空を眺め、泰然と流れる雲を見つめる。暗い建物の中で、微かな音に耳をたてて楽しむ。星を眺めては空想を膨らまし、幸せを夢見る。でも、それじゃ駄目なんでしょう、カチューシャ。だから私は再び産まれてきたんでしょう。分かったよカチューシャ、あなたは知らない。知らないけれど、無意識でその務めを果たしているのね、私のために。



No.23 24/01/01 23:15
小説好きさん0 

>> 22 そう、ここを進めば地獄に行くのね。進めば二千年も前に旅立った僧侶と道連れになるね。氷子、私とあなたは花を植えましょう。そうして地獄をお花畑にするの。
地獄にいる人々と、これからそこへ赴く人が憩える場所を作るために。
人はね、生まれながらに欠点に覆われているのよ。だから間違えるのよ。でも、それは裏を返せば救いだわ。私たちには罪はないもの。罪があると知れば。傲ることがなければね。

花がいう。私は今日の日のために咲きました。ここはどこですか?あんまりにも眩しい日差しですね。全てが動いてます。私はとても嬉しいです。ただこの喜びを表現するためだけに頑張って芽吹いたのですから。今日が待ち望んだその日なのですから。

木々がいう。ここは植物の世界。かつてはお前も俺たちみたいな存在だったのさ。御姉様、次期に俺もそちらへ行きますよ。ああ、その日が待ち遠しいなあ。幸せであるといいなあ、今から楽しみで仕方ないや。
俺たちはただ世界を維持するためたけにここへ配置されたのさ。そうして幾つもの世界を渡っていくのさ。

リスがいう。来なさい、ここへ。私たちは愛を貯めました。これが私の生きる糧です。これこそ私たちが追い求めているものです。私たちはこれを食べて生きています。心を満たす良薬ですよ。至福な心地と生きる意味を与えて下さいます。これは非常に見難く失くしやすいです。原子の中に浸透しているのがこれです。宇宙の始まりの音がこれです。あらゆる力の源です。だから、大切にして下さいな。


No.24 24/01/01 23:28
小説好きさん0 

>> 23 狐がいう。俺たちは悪役。憎まれ役さ。人を騙し傷つけ恨みを買う。そんな外道も世には必要なのさ。だから俺たちは産まれてきた。この世に何一つ無駄なことなんてない。哀しむ必要もない。人生を深刻に捉えなくていいんだ。俺たちはそのことを悟らせるために生きているんだ。
俺たちは目を見えるけど見えず、耳は聞こえるけど聞こえなく、思慮は鈍く、分別がない。最後には罪悪感を抱えて首を括るか、復讐されて殺されるのがオチさ。
これが俺たちの運命さ。憐れまれるべき悲しい本性の一族さ。お嬢さん、俺はいつかあんたを殺しにいくぜ。なんたって、俺はそれを実行するために産まれてきたんだからな。俺の本性がそれを駆り立てるんだ。生憎生まれが悪いものでね、恨んでくれるなよ。俺も悲しいんだ。



No.25 24/01/02 03:10
小説好きさん0 

>> 24 疲れたのならここへおいでなさい。眠いなら寛げる場所を提供しよう。一人になりたいなら全てを投げ捨ててしまえばいい。悲しくなっても気にするな。それはただの錯覚だから。

ああ、兵隊が列を為して歩いていく。彼らの行く先は血塗られた戦場だよ。彼等にも愛される人がいるのに。愛する人故に人を殺すよ。敷かれた雪だけが彼等の結末を知る。辺り一面を真紅に染めて、ただ気だるげに横たわる。それでも笑って死のう。死ぬ時は笑っていたい。嘘でもいいから逃げてしまいたい。死ぬことは恐ろしいから。ついに俺も死神に捕まったのか。何も間違っちゃいないよ。これは定められていたことなんだから。遠い昔の、夢の中で約束したこと。何を?何も。何かを。強いていうなら生きることを。ありったけの涙を流して血反吐を吐く。分からない。分からない。全てが分からない。
人々は何気ない日常を過ごしていく。他愛もない会話をする。笑う。ただそれだけ。傍らで死ぬ人がいてもいい。
星が燦々と輝いている。月明かりは優しい。風は心地いい。
でも。
でも。

でもなんなんだろう。当たり前のことがよか分からない。何も言わなくてもきっと差し支えない。それでも、否応なく話す。
何故だか分からずに。

私たちは兵隊の行く様を見届けた。氷子とカチューシャはそろそろいなくなるだろう。虚空から声が聞こえた。ただそれでいい、と。私には私のすべきことがある。
彼等のすべきことは殺し合うことだ。
私は感覚が麻痺していた。ただ、人の苦しみを軽視して無下に扱う存在に嫌気が差した。でも、私は幸せになりたいから。
逆らえない。愛するしかない。それが氷子の幸せと信じて。



No.26 24/01/02 23:16
小説好きさん0 

>> 25 空気。場を包む空気には逆らえない。私たちは空気に従って生きる。神妙な面持ち。静かな不安。それがどこか心地よくて。不可視な霧が漂っている。あれは涙が霧散したものなの。

闇の中をゆっくりと堕ちていく。昇っていると思ってたのに。上も下もない。それは私の望んだこと。

優しさに寄りかかってなんとか生きている。お母様の優しさ。お父様の優しさ。そしてカチューシャの優しさ。互いに抱き合い、生きていることを確かめる。心の臓の鼓動はなる。トクントクンと、懸命に生きよと私を鼓舞する。
儚い命を抱えて、生き方も分からずに手探りで、ゆらゆら歩いていくよ。無数の影とすれ違う。彼等の行く末を誰も知らない。
遠くで火の玉が舞う。何かを訴えているのだろうか。交錯と乱舞を繰り返し輪を描く。そうさ、それでいい懐かしい故郷を目指していけ。  

剣呑は心。感情の落差。姿は緩やかに変わっていく。想いは可変。もはやどれが氷子だか分からない。それでも生きてる限りは希望を探してる。心の中を旅して、素敵な宝物を見つけようと。
愛して、愛して、ただひたすら愛して、涙で頬を濡らして、一人悲しくて泣く。
私も人間であろうと決心して。

朧気な声で名前を呼ぶ。


No.27 24/01/02 23:54
小説好きさん0 

>> 26 静かに名前を呼ぶ。今にも壊れてしまいそうな脆いものを、さも大切に抱えるようにして。優しく名前を呼ぶ。顔を向き合い、おでこをくっつける。手を絡ませる。一人でなくなるために。私が笑えば氷子は笑うだろうか。風がふく。髪がさらさらと靡く。今はかけがえのない大切な瞬間なのかもしれない。忘れないよう脳裏に刻む。味わい尽くす。でも、過ぎていくよ。その瞬間は心の中に消えていくよ。

何気ない優しさが心に染みる人になりました。人の情けが幸せです。でも、それは大したことありません。生きることが大したことないから。ただ生きるだけです。きっとそれだけでいいんです。私は愚かだから、何度も迷います。同じ過ちを繰り返します。でも、それでいいのです。それが私の今生の努めなのですから。
ただあるものに満足して生きましょう。そらが人の世の定め。悲しみは心の毒。愛は万病に効く薬。笑うのは楽しいからではない。楽しくありたいから。思いやりが口角を上げさせた。奉仕は幸せへの第一歩。尽くすのが本望さ。

No.28 24/01/03 11:49
小説好きさん0 

>> 27 酔う。ただ酔いしれるということ。それは幻想に浸るということ。カチューシャの本望。カチューシャはこの酔いが覚めることを極度に恐れる。

酔っているなら正気ではない。正気でないから真実もない。真実もないから光もない。光もないから生きる力もない。私たちは夢を見ている。ただ今が楽しければそれでいい。そんな悲しい夢。果報は寝てまつ。万事尽くして天命を待つ。臆病者の処世術。早く気付きなさい氷子、この魅惑には毒がある。それはあなたに不幸をもたらす。夢に捕まる前に、早く夢から逃げてしまいなさい。

魚は再び網にかかりにいく。人魚は囚われの監獄で海を懐かしむ。 虚偽の現影。不可視の誘惑。出鱈目な言葉。悲哀の離別。暗質的な要素の激質的な要素。全てはあなたの掌の中。見えない糸で道化を演じる。

水面に映る月がさも真実かのように見えて、憎んだり愛したりする。我や我やと主張して、それはもう大騒ぎなのです。

No.29 24/01/03 16:24
小説好きさん0 

>> 28 いつかの行為の計らいの、切に望んで止まない願望の、えにもいわれぬ感動の、夢の果てでの語らいで、全てを教えて下さるお方にひれ伏して。あれは夢だったのかと問おう。

廻り廻る繰り返しの、何度も夢見た景色での、追いに追い求めた境地の、楽園を夢見て奔走したあの日々の、苦患の報いを今日こそ頂こう。

愛して止まない魂の、忘却の彼方の、記憶の破片を拾い集めて、再び巡り逢おう、過ぎ去りし日々の約束を果たすために。

私も彼と観よう。彼は私と観よう。全てを私と観よう、一つになるために。原初の栄光を思い出すために。幸せになるために。永遠を夢見る人たちのために軌跡を残そう。人々が永遠の故郷へと辿り着けるために。

No.30 24/01/03 20:36
小説好きさん0 

>> 29 世界がどうあろうと、社会がどうあろうと、相変わらず私はそのままよ。何も変わらないよ。皆に感謝しなければならない。でもあなたを避けることに負い目を感じている。どうか私を追ってこないで、氷子。あなたの親切は嬉しいけど、私には笑顔ひとつ見せることができないの。本当はとびきりの笑顔を見せてあげたい。朗らかに笑ってあげたい。でも私にはそれが許されていないの。あなたにはカチューシャがいるじゃない。だから、愛しているから、あなたのことは心の底から愛しているから、どうか私を追ってこないで。忘れて。許してね。

真実を隠喩することは苦しい。理由が話せないのは苦しい。誤解されることは悲しい。恥をかくことは耐え難い。逃げて、逃げて、逃げて、何度もお別れの涙を流してここまで来たじゃない。今さらどうしろというの。

私は私の弱さを許せなかった。世も私を受け入れなかったし、私も世を受け入れなかった。ただ淡々と進んでいくだけ。唇を噛みしめ、感情を殺して、やがては覚める夢だと諦めて。願いは叶わない。でも、信じている。いつかはきっと。人々は優しい。世界は優しい。運命は掌を返した。もっと早くに、どうしてそうしてくれなかったの。願わくば、全てが遅すぎたということがないように。奇跡的な確率で、驚異的な世界に産まれてきて、苦しいと呻くことがないように。

現実と空想の狭間を千鳥足で歩いていく。世界をあえて不確定にしてしまおう、その方が都合がいいから。勇気が出ない、幾千もの願いを託されて産まれてきたのに。寒さに凍える日がくるなんて。

あの人ならどうしただろう。私とはまた違った道を歩むだろうか。もう二度と同じ過ちを繰り返したくはないよ。来世への私へのことづけ。どうか受け取って。私の想いを託されて。私はいつの日か再び産まれる。

No.31

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No.32 24/01/05 18:50
小説好きさん0 

>> 31 暗黒の彼方で微笑む人。黒い雨に打たれる死神が救いに見えた。仄かな希望を探して泣く。明日も明後日も何も変わらない。幸せを願う人々の声は虚しくも届かない。知らないことばかりで戸惑う。誰も未来のことを教えてくらない。ただ一人で何をする。寝ても覚めても変わらない。血反吐を吐く老人が希望を語る。死に行く人々の目が生きている。潔くお別れしよう。とにかく泣こう、今は亡き母に慰めて貰えるように。なんにも定義は定めないでおこう。何が起こるか分からないから。

No.33

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No.34 24/01/20 18:07
小説好きさん0 

月を指の先でクルクル回してみたい。太陽を心の中にしまいたい。星屑を空一面にばらまいてみたい。
あの河川水面に光の遊び場を作ろう。そうして一緒に遊ぼう。荒れ狂う波を宥めて凪いだ世界を作ろう。
無音の静かな、平安な心を表そう。

私を気遣ってくれたのね。いつも笑ってるね。あなたの花のような微笑みが好き。
好きだけど嫉妬した。
私はあなたになりたかったよカチューシャ。別離の苦しみは至るところにあるね。
飲みほそう、これが人生の酒盃だよ。

No.35 24/01/26 22:08
小説好きさん0 

>> 34 人生最後の日に何を思うか当てっこしよう。まだ生きたいと思うかな。死にたくないと思うかな。それとも安堵して、安らいでいるかな。

幸せを求める人には幸せが与えられるべきだよ。救いを求める人には救いの手が差し伸べられるべきだよ。どんな苦しいことがあろうと、最後にはヒッピーエンドさ。

死に別れた人とも再開できるさ。胸に秘めていた願望も叶うさ。心は愛で充たされるさ。

そうさ、これは悪夢。消え行くひとときの夢。その延長線上に君がいただけの話。。儚い世の歩き方を教えておくれ。愛欲の絆を断ち切る方法を君は知らないから。


No.36 24/01/27 07:29
小説好きさん0 

>> 35 氷子とカチューシャは私の心の中へと旅に出た。至宝の宝を得るために。この感覚の哀しみを沈めるために。新しい道を模索するために。生死の狭間を見極めるために。
希望がまやかしなのか確かめるために。

愛について語ろう。私たちの心は愛を追い求めてきた。そうだ、私はそれを得ようと虚飾に虚飾を重ねた。私は夢。明日に吹く風。呼吸の羅列。哀しみの血の涙。愛欲と歓楽の奴隷。理性と感性の忌み子。輝く明けの明星に縋る。泣いて、泣いて、涙は出ず、途方もない夢を見て。ただひたすら歩く。誰かの幸せを祈り、何よりも氷子とカチューシャの幸せを祈る。
一夜のキャラヴァン。住み慣れた場所を離れるのは苦しい。空は飛びたくない。
ただ好ましい人と愛し合いたい。
生命の至福を細胞の隅々にまで浸透させたい。声を高らかに上げて歌いたい。喜んで、喜んで、大いに喜んで、嬉し涙を流しながら。愛に浸って。

氷子、カチューシャ、私のことを嫌いにならないでね。私の弱さを赦してね。私のことを、愛してね。

恥に恥を重ねて生きていく。夢は覚めなければならない。いいや、違うよ、夢は叶わなければならない。

氷子は言った。

「この道は大きく歪んでいる。傷だらけで暗くて寂しくて、とても悲しい。辛うじて微かな希望が道を照らしてる。でも、それも消えかけている。」

カチューシャは答えた。

「いいえ、違うわ。氷子。この道は希望へと続いてるのよ。希望が潰えることは決してないわ。もし世に希望がないのなら、あの世に希望を見出だすのよ。人間とはそういう生き物なのよ。」

ああ、笑っちまうよな。狂気的かつ奇跡的な素晴らしき大宇宙。人の心を弄ぶ悪魔よ、私に労苦を科すな。
この道は、あなたからの支配を逃れられない。


No.37

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No.38 24/01/28 13:01
小説好きさん0 

>> 37 この道の果てに私がいる。
終幕に幸せの歌を歌おう。
楽しく朗らかに踊ろう。
嬉し涙を流そう。
待ちに望んだ再開を祝おう。
愛する人と抱擁をして。
宇宙を織り成す
愛の絶大な力を思い知ろう。
あらゆる幸福と
あらゆる清浄さと
あらゆる優しさの源である
そのお方の顔を崇めて。
幾億年もの労苦を労い
哀しみや苦しみは洗い流し
つまらない過ちは赦して
全宇宙の被造物の
高らかに讃える平和を
享受するべく。
とこしえの愛と平和と
幸せを祈りながら。

No.39 24/02/02 21:06
小説好きさん0 

>> 38 子を思う母のような優しさ。
絶対の優しさ。
それらを崇めながら
天を見上げて
宇宙の聖母に憐れみを乞う。

私の罪を赦して下さい。
私の弱さを赦して下さい。
あなたの尊き愛を
私の心の内にも下さい。

清らかな心には
幸せが伴います。
愛が溢れ出ます。
愛こそ
心から涌き出る
尽きない生命の泉です。
至福の甘露です
愛こそ
万物を産み、育て、
世界を維持する力です。

聖なるかな
聖なるかな
かの尊きお方の
全ての人々の
愛の背後におられる
天上の女神の
偉大なる恩寵は
私のような
下賎な者でも拒まず受け入れて
その優しい御手で
抱擁して
愛して下さるのですから
私の罪を赦して下さるのですから

私はあなたの愛が欲しいと
あなたのような
清らかな心になりたいと
あなたがいない寂しさに
激しく胸を痛めながら
お慕い申しておりました。

No.40 24/02/10 19:29
小説好きさん0 

>> 39 ただ感謝を。皆さんに心からの感謝を。
氷子は人見知りで口下手だから、いつも誤解されてきた。
だから、この気持ちだけはどうか分かって欲しい。私がどれだけあなたに感謝していたかということを。

儚い命の
揺らめく陽炎の
幾億もの人々の想いと愛
夢のように過ぎ去る幻影を
私は決して忘れたりはしない

No.41 24/03/04 06:33
小説好きさん0 

>> 40 過ぎ去りし日々の哀しみ。流れることのなかった涙の水溜まり。それに朧気に映る苦悶と悲哀の表情。目は憂いを帯びていて、伏していて。

あったかもしれない幸せ。いたかもしれない一人の自分。
ここはどこだろう。
私はどこへ行くのだろう。
生きていた。生きて生きて生きていた。
大勢の人々に囲まれながら、たった独りで生きていたんだな。

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