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均す

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匿名
16/12/28 00:30(更新日時)

今まで、ひとりの時間はたっぷりあって、いつの間にか自然に、心は均されていたのだと思う。 長い廊下を雑巾がけしている時に。音楽を聞きながらハタキをかけている時に。 ゆっくり読書を楽しんでいる時に。庭の落ち葉をかき集め、ふと空を見上げた時に。 でも急に家族が増えて、家族と共に過ごす空間は、ひとりの空間とは違い、傍に居る人を尊重して成り立つ空間。 私は上手く心を均しているだろうか。 デコボコしてはいないだろうか。 大切なものを見落とさないように。見落とした場所を忘れないように。時々ここを使わせて頂きます。

15/02/21 22:35 追記
雑談スレでお世話になった8さん、28さん、いつでも遊びにいらして下さい。

No.2184692 15/02/07 01:03(スレ作成日時)

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No.151 15/04/08 20:04
匿名 

教室まで呼びに行くのは、大体がカップルのすることだ。 それも2年生までだと言う。 3年生になってまでそんなことをしていたら、内申点に響くのだとか。そういえば、バイトに行く途中にある公園で、同じ制服のカップルがベンチに居たのを見かけたことがある。 バイトを終えて帰る時も、まだ同じ場所に居た。あれは3年生だったんだな。 校内では一緒に居られないから。 あの時のあのカップルの心情が分かるのは、もっと後のことだった。 帰らなきゃ、でも帰りたくない…。翌日の昼休み、文芸部の部長に教室まで迎えに来られては困ると思い、廊下のロッカーに用事がある振りをして、彼を待っていた。 彼はお弁当をぶら下げてやって来た。 屈託の無い笑顔で片手を上げる。 止めて欲しい。 誰かに見られたら誤解される。 彼は私に近付きながら階段の方を指したので、そちらへ歩いて行った。「○ちゃん!何処行くの?!」 振り返って見たら、教室の廊下側の窓から、小学校中学校と同じだった女の子が、驚きと心配がない交ぜになった表情でこちらを見ている。 その子だけじゃない。クラスの全員が、中腰になったり立ったりしてこちらを見ていた。

No.152 15/04/08 20:54
匿名 

小学校中学校と同じだった女の子とは、小学校の時は同じクラスになったこともあったけど、中学校ではずっと別クラスだった。 だから幼なじみだけど、そんなに親しくないような。でも女の子のグループに入る時、彼女の私への気兼ねを感じたので、彼女には、「私、図書室行くから。本読めるし。」と、こっそり言った。 彼女も小声で、「同じクラスじゃなかったから良く知らないって言っておくね。」と言ってくれた。 高校一年のクラスで、小学校は別だけど中学校が同じだった子は、学級委員長の男の子。この子は、中学校でもずっと学級委員長をしていた。ケンカをしたい年頃の男の子達が掴み合いになると、割って入って、「止めろよ!暴力は良くないよ!話し合おう!」と、こんな台詞を大真面目に言える優等生だった。 思えばこの委員長が居てくれたからこそ、男の子達は、ケンカを仕掛けたり仕掛けられたり出来たのではないだろうか。 私達だけでなく、同じ小学校中学校からの友人が少ないのは、皆同じだった。 私を呼び止めた女の子に返事をするには、その場所からだと大声を出さなければならないので、彼女の方へ歩いて行った。

No.153 15/04/08 21:38
匿名 

『誰?』と、彼女は口の動きで聞いた。 「文芸部の部長さん。部室を見せてくれるって言うの。」 クラスの皆がこちらを見ているから、窓の所まで行って、彼女に答えて、クラスの皆に答えた格好になった。「文芸部に入るの?!」 「うぅうん。私部活動は出来ないから。」 『彼氏?』また口の動きで聞いた。私は首を横に小刻みに振って否定した。 そのやり取りを誤解したのか、一人の男の子が、椅子を片手で床に叩きつけて立ち上がった。 文芸部の部長を見据えながら、片手をズボンのポケットに入れ、もう一方の片手でYシャツの上のボタンを外しながら廊下に出て来る。 バイト先の裏にタムロしているヤンキー達より様になっている。 その子に続いて数人の男の子達が、同じように文芸部の部長を睨みながら教室から出て来る。 まだケンカしたい年頃らしい。 クラスの皆が立ち上がってしまった。 文芸部の彼も憮然とした表情で、廊下に出て来た男の子達を見据えながら、こちらに歩いて来る。 委員長が転げるように廊下に出て、彼と男の子達の間に立った。

No.154 15/04/08 22:26
匿名 

「○○さん、部活動は出来ないって言ってたよね。中学でもそうだったし。それをちゃんと言った方がいいんじゃないかな。」委員長が言う。 「それは彼女から聞いたよ。だが彼女は、毎日図書室で読書するくらい読書好きだ。そんな彼女を文芸部に誘うのは、文芸部の部長として自然なことじゃないか。いや必然だ。宿命と言ってもいい。放課後が無理なら、こうして昼休みに話し合おうとしてるんだ。」 彼は委員長ではなく、ケンカしたい年頃の男の子達を見据えながら言った。 「部室は何処ですか?」 委員長が彼に聞いた。 「旧校舎だ。」 旧校舎は、もう授業には使われておらず、文化部が使用しているらしいことは知っている。 3階は、吹奏楽部が練習に使用している。 昼休みに、吹奏楽部顧問の若い男性教師が、ドラムを叩いているらしく、一部の女子生徒達が、キャーキャー言っているらしい。 「じゃこうしよう。僕が一緒に行って話しを聞いて来るよ。それならいいだろ?それで後で報告するよ。」 委員長が廊下に出て来た男の子達に言う。 「私も行こうか?」彼女がそう言うので、「大丈夫。ちょっと話しを聞くだけだから。ありがとう。」

No.155 15/04/09 20:28
匿名 

委員長が文芸部の部室に一緒に行って、彼と私の話し合いを聞き、それをクラスの皆に報告する。 おかしな話しだけれど、こんな大事になってしまった以上、そうして貰った方が、余計な詮索や誤解を発生させずに済むだろう。 委員長の方針に合わせて、気色ばんで廊下に出て来た男の子達に、「ありがとう。」と言った。 廊下側の窓に集まっているクラスメイト達にも、「ありがとう。ごめんね。」と言い、教室の中にいるクラスメイト達には、ちょっと頭を下げた。 クラスメイト達は、了解したという顔をして頷いた。この場合、皆もそうするしかないだろう。 何事かと、廊下にぞろぞろ出て来た隣のクラスの生徒達に、「ごめんなさい。」と言って、3人で歩き出した。 文芸部の部室は、旧校舎の一階にあるそうだが、旧校舎へ行くには二階の通路を通った方が早いので、私達は階段を登った。「ごめんね。付き合わせちゃって。」委員長に言った。 「こっちこそゴメン。あの場を収めるには、ああ言うしかなかったんだ。でも○○さんが部活をやるのはいいことだと思うよ。何かいい方法はないか僕も一緒に考えるよ。」

No.156 15/04/09 21:46
匿名 

「進学でも就職でも、帰宅部は印象を悪くすると思うよ。向上心が無いとか怠惰なイメージになるんだ。家庭の事情なんて見えるものじゃないしね。例え文芸部でも、活動の結果は残せるから。」 委員長の言葉に、不安と焦りが込み上げて来た。 「例え文芸部でもって何だよ。」 先を歩いていた彼が、ちょっと振り返って言った。 「いやそんな意味じゃ…。失礼しました。」 委員長がしまったという顔をして私を見た。 私はさっきのことを、彼に謝っていないことに気が付いた。 「さっきはすみませんでした。でも誤解はすぐ解けると思います。」 彼は少し笑って、「ワクワクしたよ。妬かれるなんて初めての体験だ。こうなったら何としても君を口説かなきゃな!」 今度は私が困った顔をして委員長を見た。 文芸部の部室は、一階の一番端にあった。 彼は、「一年が見学に来るから、一人で頑張って掃除したんだ。」と言った。 各部紹介の後一週間、一年生は自由に各部室を訪問したり、部活動を見学することが出来た。 もちろんその期間外でも良いのだが、その期間の内に入部希望を決める慣わしだった。

No.157 15/04/10 08:34
匿名 

文芸部の部室は、以前準備室だったらしく、流し台が窓際にあった。 その窓側を除いて、入り口側の壁から三方の壁が、本棚でびっしり詰まっていた。 本棚には文献だけでなく、文芸集などの機関誌も積まれていた。 本棚の様子から、整理というより押し込んだのだろう。 彼は頑張って掃除したと言っていたが、部室前の廊下は砂が積もっていたし、室内の床にもまばらに砂が落ちている。 その砂だらけの床の上に、大きな和室用のテーブルと、それを囲んでソファーが置かれていた。 本棚もテーブルもソファーも、その他の備品も、歴代の部員達や顧問の先生が持ち寄った物だという。 「時間が無くなる。食べながら話そう。適当に座ってくれ。」 彼はそう言いながら、コーヒー牛乳を私に見せて、彼の斜向かいに置いた。 私を迎えに行く前に、新校舎の一階にある自販で買って来てくれたのだろう。 そこへ座れということらしい。 「昨日の俺の話し、興味持っただろう?」 彼は早速本題に入った。 「ごめんなさい。興味以前に部活をやる時間が無いんです。」

No.158 15/04/10 13:09
匿名 

「どうぞ。」 彼はご飯をほうばりながら、目でコーヒー牛乳を示した。 「私、お財布持って来てなくて…。」 「いいよ。奢るよ。俺が呼び出したんだから。」 「いえそういう訳には。」 「ホントに気にしなくていいよ。俺○○屋のボンボンだから。小遣い有る方よ。」 「ああ○○屋さんですか!僕の母も、○○屋さんは商品が多くていいって言ってますよ。」 委員長が如才なく答えて、せっかくだから頂きなよと私に言う。 じゃあ遠慮なく頂きますと、彼を見て言った。 「うん。一日もダメ?」 新入部員勧誘の話しに戻る。 「ごめんなさい。」「土日は?」 「ごめんなさい。」「…う~ん、時間が無い理由を聞いてもいいかな?」 委員長がチラッと私を見て、「○○さんのお母さんは体が弱くて、○○さんが家の事をやらなきゃならないんです。まだ小さい妹の世話も。でもこうやって昼休みは話しが出来るんだから、昼休みじゃダメですか?」と交渉を始めた。 委員長は、私の為にもなることだから、成果をクラスに持ち帰りたいのだ。 私の母は、体が弱くなんてない。 精神が弱いのだ。

No.159 15/04/10 22:55
匿名 

私は中学の時から、誰かに聞かれたら、家庭の事情で部活動は出来ないと答えて来たが、委員長が彼に説明したようなことは、一言も言っていなかった。 おそらく子供同士推測し合って、それが真実になったのだろう。 でも事実とあまりに違うので、驚きもし可笑しくもあった。 母が体が弱いことになっている。 母が家事をまともにしないのは確かだが、体は弱くない。家族の中で一番健康だろう。母には、家族の為に家事をするという意識が無いのだ。 家は自分の物。 夫は自分の物。 子供は自分の物。だから自分の好きにして良い。 自分の物に第三者が手を出したら、烈火の如く怒る。そして自分の物のくせに、第三者に手を出させたのだから、自分に恥をかかせた許せない存在となる。 私が中学生の頃、家が新築された。そのローンがあるから、修学旅行の積み立ても出来ないというのではなく、母は新築された家に夢中で、それ以外の事は考えたくなかったのだ。 それまでの家よりもずっと大きい分不相応な家を建て、母は家を自分の思い通りにしたかったが、食卓に美味しい料理を並べる能力も無く、掃除もやり切れず、家の中はたちまち薄汚れて行った。

No.160 15/04/10 23:42
匿名 

母は家の中に、自分の物と妹の物が有るのは良いのだが、父の物や私の物が有るのは目障りだった。 それが有るから掃除が出来ないと言った。 だから私は、自分の物だけでなく、父の物も片付け掃除をした。 そしたら母は、私が私の物だけでなく、父の物にも手を出し、自分の家の掃除までしたと怒り出す。 新築の家には私の部屋が有ったので、私は自分の部屋と、家の中は、私が使う場所を常に綺麗にしておくことにした。 お風呂とトイレは毎日掃除をした。汚れたら、父と私が居るから汚されると母が言うからだ。 しかし台所は別だった。 私が料理や洗い物をした後、汚されたと言われない為に、シンクやレンジ周りも綺麗にすると、余計なことをするな、自分の家のつもりかと母は言った。 だから台所もいつも汚かった。 そして誰よりも母が、家の汚さにイライラしていた。その原因は、常に父と私だった。 じゃあ父も、誰かのせいにして仕事をしなくても良いのだろうか? 何故自分が家族の為に働かなきゃならないんだと、思っても良かったのだろうか? 誰かのせいにして、自分のやるべき事を放棄して良いのは、母にだけ許される特権だった。

No.161 15/04/11 09:49
匿名 

「気を悪くしないでくれ。表紙が見えたんだ。君が最近読んだのは○○だね?まずはそれから始めよう。難しく考えなくていいんだ。思ったまま話せばいいんだ。その作品から連想して考えたことでもいい。そこから世界を広げよう。」 彼は強引に付き合わせるから、毎日コーヒー牛乳を奢ると言う。 「まずは始めてみよう。問題点はその都度解決して行けばいい。」 私は彼が言った、『世界を広げよう』の意味が解釈出来ず、彼の顔をじっと見てしまっていた。 彼が唇を結び目を瞬かせたので、そのことに気づき彼から目を逸らした。 彼は少し俯きながら、「あそこで周りに気を使って読むより、此処の方がいいよ。」と言った。 「僕は賛成だよ。昼休みの短い時間でも、継続して行けば、得られるものは大きいと思うよ。」と委員長が言った。 「あの…明日はまず掃除をさせて下さい。此処に毎日通ったら肺病になります。」 「それは助かる。」彼が笑いながら言い、委員長は、「きっと○○さんの入部は、呼び水になりますよ。」と言った。 5限に間に合うように、私達は走って教室に戻った。走りながら、『世界を広げよう。』を思い返していた。

No.162 15/04/11 22:37
匿名 

「紙を回します!意見は次の休み時間に!」 5限が始まるギリギリに教室に駆け込み、委員長が言った。 私も急いで席に着き、同窓の女の子と近くの子達に頷いて見せた。 委員長が書いた紙が回って来て、そこには、文芸部部長が指定した小説で、昼休みに読書会から始めることになったことと、昼休みにしか部活動が出来ない私に、協力してやって欲しいことが書かれていた。 委員長らしいと思ったが、追い詰められて行く気もしていた。 授業が終わり、教師が教室を出るとすぐに、「○○を読んだ奴はいるか?!」と、椅子を激しく鳴らして彼に凄んだ男の子が言った。 彼が指定した小説である。 「何だ誰もいねーのかよ。じゃ明日は俺が行くよ。」 それには委員長が反対した。 文芸部の部長は、私に言い寄っているのではない。純粋に読書会がしたいのだ。 昼休みでも、真面目に活動していることが知られたら、興味を持つ人も出てくるかもしれない。そうなれば文芸部も部員が増えるだろうと。 「俺は興味を持ったよ。その本は読んでないけど。」 俺も俺もと次々に声が挙がり、廊下に出た男の子達に更に数人が加わった。

No.163 15/04/11 23:29
匿名 

「○○を読んでないのに、行ったって仕様がないでしょ?ねぇ?!」と、同窓の彼女が、私に話しを振った。「皆は、どの本がいいの?」 仕方なく聞いてみた。 中学時代、部活動を満喫し、受験勉強に明け暮れた人達が、読書が趣味になるとは思えなかった。 聞かれた皆が言い淀んでいる内に、女の子達からブーイングの嵐が起きた。 そしてまた委員長が上手くまとめてくれた。 私は立ち上がり、「皆に迷惑をかけないようにします。続くかどうかは分からないけど、頑張ろうと思います。」と言った。 委員長が拍手をし、主に女の子達が拍手をしてくれて、終結出来た。 放課後、彼が指定した本を借りる為に図書室に行くと、彼もそこに居た。 「忙しいだろうから、借りておこうと思ったんだ。」 「ありがとうございます。私レポートにまとめて来ます。」 そう言ったら、彼は吹き出して笑った。 「何だよレポートって。難しく考えなくていいって言っただろう?」 私は傷ついた。 「ごめん。無神経だった。部活したことなかったんだもんな。」 彼に促され廊下に出て本を渡された。 「一緒に帰ろう。」

No.164 15/04/12 06:22
匿名 

「自転車だし、急ぐから…。」 「家は何処?」 「○○です。」 「いつも○○とは違う方向に行くよね?買い物?」 「…明日話します。それじゃ急ぐので。さよなら。」 バイトの時間は決まってはいなかったが、続けている間に作業の流れが出来ていたし、出勤時間にあまり大きな差をつけたくなかった。 店長から、自転車通勤を心配して、天候の悪い日は来ないように言われていた。 委員長の前では言えなかったが、天候の悪い日は、放課後に部活が出来ることを、明日話そうと思った。 天候が悪い日でも早く家に帰らずに済むし、口実にしていた部活が本当に出来ることが嘘みたいだ。図書室から借りた本が、今借りている本と明日の読書会の本とで二冊になってしまい、鞄が膨らんでしまった。 また母が、何が入ってるんだと鞄を開けるだろう。だから借りる本は、いつも一冊にしていた。母は本を嫌っていた。 母にとって本は、無駄金の対象だった。 「本なんか読んで何になるんだ。洗濯女が。」と母は言った。 母は考えるということが出来ない。己の感情だけが基準である。 だから、ついさっき言ったことと全く違うことを、平気で言うことが出来る。母は、蛮人だった。

No.165 15/04/13 09:48
匿名 

翌朝、教室前の廊下に彼が居る。 壁に寄りかかり、委員長と何か話している。 走って行くと、教室の廊下側の窓際に、クラスメイト達が集まっているのが見えて、委員長が彼の側に居る意味が分かった。 朝、洗濯物を干してから登校するので、余裕を持って登校するのは難しい。 母は、父が出勤するとまた寝てしまう。 父が帰って来ない朝は、起きても来ない。 彼が私に気づいた。 「おはよう。」 「おはようございます。」 「昨日あれから考えたんだ。初めての君に大ざっぱな説明だった。」 彼は私に一枚のレポート用紙を見せた。 箇条書きに幾つか書いてある。 彼はその一番上を指して、「今日は、これをやろう。」と言った。 ①主人公の考え方とその背景の考察。 ああそういうことか! 霧が晴れるように視点が定まった。「メアド交換しよう。急ぎの時はメールで連絡するよ。」 「ごめんなさい。携帯持ってないんです。」 「俺のメアド教えますよ。俺が連絡係りになりますよ。」 教室の窓から、昨日一番先に廊下に出て来た男の子が言った。

No.166 15/04/13 13:23
匿名 

「結構だ。邪魔したな。」 彼は、昨日廊下に出て来た男の子達を一瞥して言った。 「じゃ昼休み、部室で。」 彼はそう言って走って行った。 「もう!止めなさいよ!」 「そうよ!茶化すなんて良くないわよ!」 俺のメアドをと言った男の子は、また女の子達からブーイングされていた。 私が委員長に、「ごめんね。」と言うと、委員長は、「ちょっと見せて。」と、彼のレポート用紙を手に取って見て、「面白そうだな~。」と言った。 「じゃあ一緒に。」「僕にはちょっと余裕が無いよ。」 「うん。そうだね…。」 委員長は何かと忙しい。 「何やってるんだあ?」 担任教師がそこまで来ていた。 慌てて教室に入る。 皆もガタガタガタッと席に着いた。ホームルームの間、彼のレポート用紙を見ていた。 彼が書いた一つひとつの項目を読んでいると、あの小説を読んで感じたことが、次々に溢れ出して来た。 すぐにでも彼に話したいと思った。昨夜は、気になった所をちょっと読み返すことしか出来なかったのに、彼の箇条書きは、おまじないみたいだった。

No.167 15/04/14 08:15
匿名 

昼休み、急いで部室に行ってみると、部室前の廊下に積もっていた砂埃が、粗方消えていた。 彼はまだ来ておらず、室内の床も昨日に比べたら綺麗になっていた。 そしてテーブルとソファーだけ拭いてあった。 男の子の掃除とは、こんなものだろうか? 部室のドアを開けてそんなことを考えていたら、廊下を走って来る足音が聞こえた。 「まだ汚いか?」 「いえ、私の仕事なのに…。」 「ハハッ、体育部とは違うよ。昼休みに掃除してたら、掃除だけで終わっちゃうよ。」 私は部室に入りながら、「そのことなんですけど、私、雨の日とか風の強い日は、放課後に部活出来ます。」と言った。 「君の母上は、雨風の日は健康になるのか?」 彼を座ってお弁当を食べるように促し、私も座って、「母は健康です。怠け者ですけど。オフレコでお願いしたいんですけど…。」放課後のバイトの話しをした。 「何故バイトしているか聞いてもいいかな?」 高校を卒業したら自立する為の資金を貯めていると話した。 「…君は進学しないのか…。生活、大変なのか…?」「いえ、母が浪費しているだけです。放課後に部活が出来る日もあると話しておきたかったんです。」

No.168 15/04/14 13:56
匿名 

「でも新入部員が入ったら、普通に放課後にやって下さい。私は雨風の日だけ来させて貰えれば有り難いです。」 「…夏休みはどうしてる?」 「バイトです。朝から夕方まで。私にとって書き入れ時です。」 お金は、何処からか湧いて出て来るものじゃないと、もう分かっていた。働いて、やっとこれだけ稼げるということも実感していた。 そのやっとの稼ぎを、ドブに捨てるように使われる父の虚しさも、分かるような気がしていた。そして父は今、家のローンに縛り付けられている。父にとっても、憩いの場とはならない家の…。 「夏休みには文学散歩をやってるんだ。作家のゆかりの地とか、小説の舞台になった場所を訪ねるんだよ。雨風の日だったら行けるか?」 3年生との最後の活動になる。彼はそう言いながら、アルバムを引っ張り出して来て見せてくれた。 文学散歩の様子を写真に収めた物だ。 中には、小説のモデルになった人物との記念写真もある。 確かに傘をさしている写真もあるが、わざわざ雨風の日を選ぶべき活動ではない。 それに私には旅費の工面が出来ない。 「この話しはまた今度にしよう。読書会を始めよう。」

No.169 15/04/15 08:54
匿名 

彼と私は、真剣になったり、笑い転げたりしながら語り合った。 3階から響いて来るドラムの音が止んで、そろそろ昼休みが終わるのを告げた。 「昼休みは、あっという間だな。」 「ごめんなさい。」「いや、久し振りに楽しかったよ。」 「私もです。ありがとうございます。」 「じゃまた明日な。」 そう言って翌日も楽しい会話が出来ると思っていたのに、翌日の彼は、がっくりテンションが下がっていた。 「俺、君に無理させてるよな。これでも君に声をかけるまでは迷ったんだよ。でもやっぱり俺は強引だったと思う。君の事情に配慮してやって行くべきだと、昨日考えたんだ。」 「いえ、そんなことはありません。私に合わせて、昼休みにして貰ってるんですから。それに私は断るつもりでした。委員長に着いて来られて、断れなくなってしまったんです。だから部長が強引だったからじゃないです。でも入部して良かったです。昨日は楽しかったし。」 「えっ?!そうなの?!あいつのせいなの?!俺の強引さに押されたんじゃないの?!」 「押されてません。」 「何だよ~。俺すっげえ反省したんだけど。」

No.170 15/04/15 13:28
匿名 

小学校2年生の時、女の子達の間で、毛糸で作る飾り物が流行った。クラスだけだったのか、もっと幅広い流行りだったのかは、記憶していないが、クラスの女の子達は、各々に母親に作って貰い、ランドセルや体操着袋などに、それをぶら下げていた。母親達が工夫したのか、女の子達が望んだのか、各々に毛糸の何種類かの色を織り交ぜていた。それが誰のが一番綺麗か、クラスの女の子達の中でケンカになったことがあった。私は毛糸の飾り物が欲しいと思うよりも、そんな物をねだって、母に罵られる方が嫌だった。あの時、女の子達のケンカは、私には遠い世界のことだった。あの頃から、誰かと何かを共感することは、私には遠い世界のことのように漠然と思って来た。 でも彼のお陰で、私の逃げ場だった読書から、彼との共感の楽しさを経験出来、大きく世界が広がった感触を覚えていた。私にとっては、掛け替えのない貴重な物に思えた。 だから、それだけで充分過ぎるくらいだと彼に言ったのだが、彼は、私の状況を良く知り、力になると決意したと言った。進学の希望はないのか?奨学金の制度もあると、調べて来たりしていた。「私、中学を卒業したら家を出るつもりでした。」

No.171 15/04/15 21:01
匿名 

「いつの頃からか、私は両親の離婚を願うようになっていました。両親が一緒に居る限り、子供もそこに居るしかありませんから。かと言って父に着いて行く気もなかったんですけど、両親が離婚さえしてくれたら、何とかなると思っていたんです。でも中学の時家を新築して、もうダメだと思って、バイト先の店長にお願いしたんです。中学を卒業したら、ここで住み込みで働かせて下さいって。そしたら店長の奥さんに懇々と諭されて…。奥さんは病気がちで、横になっていることが多かったんですけど、ここに座りなさいって私を呼んで…。高校だけは出ておきなさいって。でも母が高校に行かせてくれるとは思えなかったから、そう言ったら、高校に行かせて下さいと、頭を下げて頼めと言うんです。中学を出ただけで働いてる人もいるだろう。でもあんたじゃ無理だって。中卒じゃ仕事も限られてる。仕事がきつい、合わないと仕事を変えたら、どんどん条件の悪い仕事に下がって行くばかりだ。お金も無く疲れて、禄でもない男に引っかかるか、水商売が行き着く先だろう。水商売が悪いって言うんじゃないが、あんたには似合わないよ。高校を出て、一番いい所を狙って就職しなさい。そして其処で一人前になりなさい。」

No.172 15/04/15 21:36
匿名 

「一人前になって、人の役にも立てるようになって、そういうあんたがいいっていう男が現れたら、その男と一緒になりなさい。自分で自分の口を養えない内は、所帯なんか持っちゃダメだ。それこそあんたの母親と同じになっちまうよ。何もかも食い潰す女って言うんだよ、そういう女は。私は何人も見て来たよ。男を食い潰してダメにする女だよ。そんな女になっちゃダメだ。親に頼んで、それでもダメだったらウチに来なさい。ウチで働いて定時制に通えばいい。そう言われたんですけど、中々父にも母にも言えないでいたら、母の方から、高校は自転車で通える所にしろって言われて、だから此処にしたんです。バイト先にも近いし。中学の時は、どうしても欲しかった○○の詩集があって、それでバイトを始めたんですけど、店長の奥さんに諭されて、それから目先の欲しい物なんかより、自立の為の資金を貯める目標が出来たんです。だから部活も諦めていたというより、自分には関係無いことだと思ってました。でもこんな風に参加出来て、凄く嬉しいです。ホントのこと言うと、委員長が言った、部活は就職にも有利だっていうのもあるんですけど…。だから私は、進学より一日も早く家を出て自活したいんです。」

No.173 15/04/16 08:53
匿名 

彼は考え込んでいるのか、黙りこくってしまった。 まだお弁当も開けていない。 天気予報では午後から雨だ。 天気予報通り雨になったら、放課後部室に来てもいいか、聞きづらくなってしまった。 「部長、お弁当食べて下さい。」 「あ、うん。今日は午後から雨になるよ。放課後また話そう。」 彼の、進学希望はないのかの質問には丁寧に答えた。 まだ質問があるのだろうか。 「部長は進学ですよね?」 「うん。俺は○○屋の跡取りだからな。店を守って、従業員を守らなきゃならないからな。その辺の所をしっかり勉強するよ。あっそうだ! ウチで働かないか?オヤジに話してみるよ!」 「部長が経営者になって、私が必要な人材だと思ったら、お願いします。」 そう言ったら、一瞬彼の顔が歪んだ。 「そうだな。君の言う通りだな。俺はボンボンだな。ハハハッ。」 「そんな意味じゃ…。」 「分かってるよ。俺はさっきまで、君が進学出来る方法はないか考えてたんだ。それがウチで働かないかと言ってる。考えることもフラフラしてる。自分を呆れたんだよ。俺もしっかり考えるよ。俺に出来ることを考えるよ。」

No.174 15/04/16 22:12
匿名 

放課後、部室の窓を開けて、本棚にハタキをかけたかったが、外の湿気を入れてしまいそうだから、流し台の掃除から始めた。 何処から手を付けたらいいのか、分からない状態だ。廊下を走る足音が近づいて来る。 ドアが開いて、「来てたのか。迎えに行ったら、もう帰ったって言うから…。良かった。」 「ひとりで来れますよ。」 「そうだな。」 彼も私も笑った。「俺、君のお父さんに会うよ。会って俺が話すよ。」 「何をですか?」 「君を大学に行かせてあげて下さいってさ。」 「…私、進学するつもりはありません。」 「どうして?!どうして簡単に諦めるんだ?!話してみなきゃ分からないじゃないか!」 「私は大学へ行きたいんじゃありません。自活したいんです。」 「勿体ないよ!自分の可能性を自分で潰しちゃダメだよ!」 「…部長、部長にとっては進学は大切なんだと思います。でも私は、自活することが大切なんです。」 「君は、君の将来のことを、親と話し合ったことがないだろう?君の希望を親は知らない。親の希望を君は知らないってことじゃないか。お母さんはともかく、お父さんは君を大学に行かせたいと思ってるかもしれないよ。」

No.175 15/04/16 23:01
匿名 

少しだけ窓を開けた。 息苦しい。 「私、中学では部活をやって来なかったから…。部長というのは、部員のそういうことまでやるんですか?」 「…ごめん。でも」「父は私と同じなんです。自分のことで精一杯なんです。家を新築したばかりの頃は、父は仕事仲間を時々家に連れて来ました。今はもうないですけど。その時、仕事の話しをしているのを聞いて、大変さは少し分かりました。…私、小学校の時、栄養失調になって、何にもやる気が出なくてボーッとしてました。学校では、保健室で寝ていることも多かったです。でもそれは、栄養失調のせいだけじゃなかったと思います。毎日毎日、母に嫌味を言われ、母がヒステリーを起こした時は、私記憶が飛んでます。鬱だったんだと思います。でも近所の友達の家で、絵本を見せて貰って、絵本を読んでいる時は、気持ちが楽になりました。それから本に逃げることを覚えました。大袈裟に聞こえるかもしれませんけど、私は本が無かったら、今頃廃人になっていたと思います。父も同じなんです。父は父で、逃げ場は作っているようです。父も私も、そうしないと保たないんです。父は、私のことを考える余裕はありません。」

No.176 15/04/17 08:12
匿名 

「父に、私を進学させろと言うことは、父にもっと働けと言うことです。母は、お金が無くてもローンで買い物をしてしまいます。母は、自分に贅沢をさせるのが、父の義務だと思っています。働けど働けどの状態で、もっと働けと言ったら、父は鬱病になって、働くことを止めてしまうか、家に帰って来なくなると思います。今そうなったら、私は学校に通えなくなります。父は、母の為に家を建てました。それでもダメでした。母の欲求は際限がないんです。家に居る時、父も私も、ほとんど口をききません。母を刺激するからです。高校を卒業するまで、そうやって行くしかないんです。」 「そんなのおかしいよ!」 「部長のお父さんは、ご立派なんでしょうね。お母さんも。お弁当を見たから分かります。」 「妹は?君の妹は大丈夫なのか?」 「妹は、言いたいことを言ってます。母に、病気じゃないくせに寝てばっかりいて、バカみたい!とか言います。冷や冷やしますけど、母は、妹が言うことは勘に障らないみたいです。」 「…君は、本当にそれでいいのか?」 「大学に行きたいとは、一度も思ったことはありません。卒業するまでに、10円でも多くお金を貯めるのが目標です。」

No.177 15/04/17 20:27
匿名 

「今の話し、委員長は知ってるのか?」と彼は言った。 「委員長?いえ、バイト先の店長と奥さんに少し話しました。バイト始める時、中学生は雇えないって言われて。色々聞かれたから。こんなに詳しく話したのは、部長が初めてです。」 「そうか。これからは俺に何でも話せよ。もう我慢しなくていいからな。俺が何でも聞くからな。元気出せよ?よし!ちょっと待ってて。教務員室に行って、バイク通学の許可申請貰って来る。」 「バイクで来るんですか?」 「うん。バイトの送り迎えするよ。それから」 「ダメです!」 「…どうして?あの辺は」 「大丈夫です。明るい内に帰ってますから。」 「俺がそうしたいんだ。バイトが終わるまでどっかで待ってるよ。」 どうしよう?バイト先の裏にたむろしているヤンキー達の話しをしたら、彼は更に心配するだろう。 それに、ヤンキー達が彼を見たら、どうするだろうか? 「迷惑か?…何でも話してくれって言ったよな?」 仕方ない。ヤンキー達のことを話した。 「店長が、交番に行って話したんですけど、営業妨害もしていないし、明るい内に居なくなってるから、注意する程のことじゃないって。」

No.178 15/04/17 21:05
匿名 

「たぶんリーダーは女の子だと思うんですけど、悪い人達じゃないと思います。バイトから帰る時、いつも遠くから着いて来ます。送ってくれているんだと思います。でも家には近づきません。たぶん、そういうルールなんだと思います。」 「俺が聞いてみるよ。何でそんなことしてるのか。」 「いえ、聞かなくてもいいです。別に迷惑なことは無いし。あの人達と関わってる時間も無いんです。バイトから帰ったら、すぐお風呂掃除したり、母が夕飯の支度をしてなかったら、夕飯を作らなきゃいけないし。」 「毎日そこに居て、毎日着いて来るって変だろ?!とにかく俺が」 「私のこと姫って呼びます。たぶん私を守ってるんだと思います。そこへ男の子が行くと、かえって変なことになりはしないかと…。だから」 「ふざけるな!何が姫だ!大体君は人が良過ぎるよ。今日も来てるのか?!そいつらは!」 「たぶん来てないと思います。私が来る時だけだって、店長が。」 「ますますおかしいじゃないか。明日、俺が話しをつけるよ。」 「本当に大丈夫です。特別なことは何も無いですから。何かあったら言うように、店長にも言われてますから。」 「俺がボンボンだから、頼りないのか?」

No.179 15/04/18 07:25
匿名 

「そんなこと言ってません。…あの人達とトラブルになって、お店に迷惑かけたら、私はバイト先を失ってしまいます。放課後にちょっとだけでも働かせてくれる所なんて、他には無いですから。それに部長があの人達にそんなこと聞いたら、私がそうさせたと思って、あの人達、傷つくかもしれません。」 「どうして、そいつらのことを、そこまで考えるんだ?」 「毎日ですから。気まぐれに来るんじゃなくて…。私のバイトみたいに理由があるんだと思います。」 「…分かった。君に言われたとは言わないよ。俺が気になるから教えてくれって言うよ。それならいいだろ?」 仕方なく頷いた。「心配かけてごめんなさい。」 「俺も夏休みバイトするよ。ウチの店、夏休みは配達が増えるんだ。配達を手伝うと駄賃が貰えるんだ。」 「それ、私の為じゃないですよね?」 「君の力になりたいんだ。」 「部長、部長は部長のやるべき事があると思います。将来の為に、今やるべきことをやって下さい。私の為に時間を無駄にしないで下さい。」 「親父に言われたんだよ。従業員と一緒に働けって。従業員の頑張りを見ろって。それにお前が一緒にやると、皆張り切るってさ。」

No.180 15/04/18 23:30
匿名 

翌日の昼休み、「やっぱりダメだった。バイク。」 部室に入りながら、彼はそう言った。 彼の通学路の途中、事故多発地点があるらしく、彼のお母さんが、バイク通学を断固反対したそうだ。 ホッとしたのも束の間、「今日クラスの奴に、部活が終わるまでの間、自転車借りたから一緒に行くよ。」と言い出した。 クラスメイトの部活が終わるまでに、自転車を返さなければならないから、ヤンキー達に話しを付けたら、すぐ帰ると言う。「バイト終わるの待ってられなくてごめんな。」 困った。こんなに早く行動を起こされるとは思っていなかった。 彼がヤンキー達に会う前に、ヤンキー達には事の次第を説明して、彼とトラブルにならないように先手を打つつもりだった。放課後、自転車置き場から、彼と連れ立って校門を出るのを、他の生徒達に見られることよりも、彼とヤンキー達の対決が不安でならなかった。 今日は、ヤンキー達は来ないで欲しいと願った。 願いも空しく、やっぱり来てる。 彼を見て、各々に目を丸くしたり、ポカンとしたり、ニヤニヤしたりしている。 問題はリーダーの女の子の反応だ。ニヤニヤだ。

No.181 15/04/19 06:23
匿名 

彼をヤンキー達に紹介しようとしたら、「俺が話す。バイトに行きな。」と彼は言う。 彼のその言い方が気に入らなかったらしく、リーダーの女の子以外のヤンキー達が、怒気を顕わにして立ち上がった。 「おい。」 女の子がそう言うと、皆しぶしぶ元の位置に座った。彼は名乗り、私との関係を説明して、「いきなりですまないが、聞きたいことがあります。彼女には止めて欲しいと言われましたが、俺が聞きたくて来ました。」 彼はヤンキー達全員を見ながら言い、私にまた行きなと言った。 女の子が目で私を追い払う。 それでもその場を離れられないでいると、「場所を変えるか?」と女の子が彼に言いながら立ち上がり、「何もしねえよ。」と私に言って歩き出した。 ヤンキー達は不服そうな目を私に投げて、女の子に着いて行く。 彼は自転車を置いて、私に頷きヤンキー達の後を歩き出した。 あのヤンキー達に初めて声をかけられた時、私は恐くてたまらなかった。 彼にはそんな様子は全く無く、彼の表情に有るのは、強い意志だった。男の人のそんな顔を見たのは、初めてだった。 私は自転車のハンドルを強く握りしめて、彼らを見送った。 胸の中に嵐が起きて苦しかった。

No.182 15/04/19 21:58
匿名 

バイト先の裏の窓を少しだけ開けて、時々外の様子を確かめながら、私は後悔していた。やはり部活なんてやるべきじゃなかった。 他に新入部員がいないからって、私の都合に合わさせるなんて、そんなことするべきじゃなかった。 私は知っていた。彼が毎日、昼休みに図書室に来ていたことを。 時々私の近くまで来て、逡巡していたことを。 人は各々事情を抱えている。 大人だって簡単に変えられないその事情を、子供が変えられる訳が無い。 大人も子供も、事情から抜け出せない。 だから大人も子供も、自分の事情に合わせて貰いたがる。 ○ちゃん、遊ぼう!○ちゃん、一緒に行こう! それは大人になっても、あまり変わらない。 彼のことも、そんな風に甘く見ていた。 彼に合わせられない私を、諦めてくれるだろうと。 でも彼は違った。 ヤンキー達にまで会う彼は、この先ウチにまで来るかもしれない。 彼のお父さんは、彼に従業員達と一緒に働けと言う。彼のお母さんは、事故を心配して、バイク通学を許さなかった。 彼は両親からも、従業員達からも、大事にされている。 そんな彼を、私の事情に付き合わせて良い筈が無い。

No.183 15/04/20 11:46
匿名 

彼とヤンキー達が、どんな話しをしたのかは分からないが、彼が自転車で戻って行く姿は窓から確認出来た。 ケガをしている様子は無く、とりあえずホッとする。バイトを終えて裏口から出ると、ヤンキー達とは少し離れた所に彼が居た。 傍らにさっきとは違う自転車がある。 彼が私の方へ歩いて来るのを手で止めた。 裏口の近くで話したら、店長に聞こえてしまうからだ。 自転車を押して彼に近づきながらヤンキー達を見ると、女の子も皆も軽く頷いた。 ヤンキー達が何故毎日此処に来るのか、何故私を送るのか、彼にも私にも関わりの無いことだ。しかし私には、危険も迷惑も及ばないと、女の子は彼に言ったという。 彼は話そうとしなかった女の子に頼み込んで聞き出したらしい。私にも誰にも口外しない約束で。 でも女の子の話しは信用出来る根拠も無いから、彼も私を送ると言ったら、好きにしろよとヤンキー達が自転車を調達してくれたのだと。 やはりヤンキー達には理由があったのだなと胸に落ちた。「部長、私が部活をするなんて間違っていました。これ以上部長に迷惑をかけられません。文芸部は止めます。部長も、もうこんなことしないで下さい。」

No.184 15/04/20 22:45
匿名 

「待ってくれ!」 彼が言うのと、ヤンキー達の何人かが笑うのが一緒になった。 リーダーの女の子の言った通りになったなと笑っている。 「止めろ。」 女の子が言ったが、女の子も他のメンバーも言いたいことがあるようだった。 「何?」 私は女の子に聞いたが、彼が「チャリ借りる!行こう!」と言う。 私は彼にバス停のある場所を教え、帰って下さいと言った。 さっき笑ったヤンキー達がこちらに来ようとするのを、女の子が制している。 「この人に何もしないで!」 私がそう言うと、ヤンキー達はその場から動かなくなった。 「あの人達が言いたいことは分かってる。君はすぐ帰らなきゃならない。邪魔するなって言いたいんだろう。」 彼がそう言うと、「ああそうだよ。」とメンバーの一人が返して来た。 「黙ってろ!」 女の子が大きな声を上げた。 「君を送るのは、○○の地点までだと言われた。走りながら話そう。」 彼は自転車を動かし、私を誘導する。 この場から離れる為に、それに従った。 自転車を走らせながら振り返ると、ヤンキー達もバイクに跨がり動き出していた。

No.185 15/04/21 09:13
匿名 

「どうしてこんなことをしてるんだって聞いたらさ、君は分かってるって、あのリーダーの子が言ってたよ。…やっぱり分かってたんだな。君は、あいつらの希望の星なんだってさ。」 分かってなどいない。 何となく感じていただけだ。 バイトを終えて帰る時、私に話しかけて来るのは、リーダーの女の子だけだったが、その内他のメンバーも話しかけて来るようになった。 そしてそれは、あの人達のルールによるものらしいと感じていた。 そう思うようになってからは、ちゃんと言葉を返していた。 「でも君を分かるのは、俺には無理だって言われたよ。毎日家族から嫌味を言われ、嫌なことをされるのがどんなものか、俺には分からないってさ。俺はあっち側の人間だって。嫌味を言う側と言われる側とじゃ、富士山を登って降りて来るぐらいの差があるって言われたよ。俺はあっち側で、君はこっち側だって。」 へー。あっち側こっち側とは思ったことは無かった。でも、母は何があっても変わらないことは分かっていた。 「俺はボンボンで、その時の気分で親にも従業員にも物を言ってるだろうってさ。その通りだったよ。」

No.186 15/04/21 21:32
匿名 

「でも俺は、間違ったことはしてないつもりだ。あいつらが何故こんなことしてるのか、分かった方がいいだろ?あいつらの世界にも面倒臭いことがあるようだ。でもそれは言わない約束だ。君をどうこうしようというんじゃないと言ってた。それに嘘が無いか、俺があいつらを監視して見極める。大丈夫だ。夏休みに入るまでだ。夏休みは俺もバイトするからな。」 いつもヤンキー達が停まる場所で、彼も停まった。 此処から家が見える。 ヤンキー達は、私が家に入るまで此処から見ている。私が玄関で振り返ると、ヤンキー達は手を上げた。 いつの頃からかそれに応えて、私も手を上げるようになっていた。 「私は、部長はあっち側だと思いません。あの人達が言ってるあっち側とは違うかもしれませんが、私の母は沢山言い訳を持っています。でも父にも私にも言い訳は許しません。母の思い通りにならないと許しません。でもその思い通りは、いつも変わるんです。母がしたいのは、父と私を痛めつけることですから。母は毎日毎日、父と私を殺してるんです。これから先もずっとそうです。だから家を出るんです。」 「だから部活も止めるって言うのか?俺を振ってるのか?分かってるんだろう?」

No.187 15/04/23 00:50
匿名 

「俺は…」 彼は、自転車のハンドルを握る私の手を掴んだ。 「言わないで…!私は部長を好きになっちゃいけないんです。私は放課後、部長と一緒に居られません。休みの日も会えません。部長と一緒に何処かに行くことも出来ません。部長にお弁当を作って行くことも出来ません。」 「それでもいい!」「そんなのおかしい!私がして貰うばっかりって変です!私は部長に何も出来ません。私はちゃんと好きになるのが出来ないんです。もう明日は来ないで下さい。さよなら。」 自分の声が震えているのが分かって、彼の手を振り払うように、自転車を走らせた。 「待ってるからな!明日待ってるからな!」 彼の言葉が胸の中で響いて…。彼は泣いているようだった。 玄関の前から彼の居る場所を見ると、ヤンキー達もその場所に居て私に手を上げた。彼の肩に手を置く人も居る。 彼がじっと私を見ているのが分かった。 リーダーの女の子が私に頷いている。 私は手を上げず頭を下げた。 リーダーの女の子が手を上げたのを確認して、玄関の鍵を開けた。 玄関前の廊下に母が居なくてホッとする。母は此処で待ち構えて言うことがある。「当たり前のように帰って来る。」

No.188 15/04/23 23:43
匿名 

翌日の昼休み、彼は教室の前まで来た。 走って来たようだった。 必死な目で訴えて来る。ヤンキー達に話しを付けに行った人だもの、簡単には振り落ちてはくれない。 『ごめん。行けない。』 そう言えば、それが答えになり、理由まで聞いて来たのは、彼が初めてだった。クラスメイトの手前、図書室の本を持って廊下に出ると、彼は階段へは向かわず、私の背中を強く押して非常口から外に出た。 私の肩を掴み、勢いよく非常階段の下まで行って、私は抱きしめられた。 そして彼は、言わないでと言った言葉を言った。私は悲しくなった。悲しくて悲しくてたまらなくなった。彼の気持ちが可哀想でたまらなくなった。 「部室に行こう。」私達は正面玄関から校舎に入り直して、二階の通路に向かった。 「リーダーの子に言われたよ。今は何も言わない。君の特別な奴だからって。特別じゃなくなって邪魔者になったら、そん時はってさ。だけどあいつら、いい奴らだよな。皆しょんぼりしてたよ。何か悪いことしたな。」 私が何も言わずにいるから、彼は私の横を歩きながら、私をじっと見た。 「私、部長のこと、何も知らない。」

No.189 15/04/24 19:53
匿名 

部室の前に誰か居る。 女の子4人。 その中の一人が、彼に向かって言う。 「もう!何処行ってたの?!○○ちゃんが心配してるわよ!」 「何の用だよ?」 彼は答えて、同じクラスの子、と私に言った。 私は彼女達に頭を下げたが、4人ともこちらを見ない。 「どうして昼休みにこんなとこまで来るの?!○○ちゃんが心配してるわよ!」 「だから部活って言っただろ?新入部員の○○さん。」 彼が紹介してくれたので、もう一度頭を下げるが、4人ともこちらを見ない。 「もう!たまには○○ちゃんと、お昼を一緒に食べてあげなさいよ!○○ちゃん、可哀想よ!」 「何で俺が、○○と弁当食わなきゃならないんだよ?」 「じゃあ昨日は、放課後何処行ってたの?!○○君にチャリ借りてたよね?!○○ちゃん、すごく心配してずっと待ってたのよ!」 「何さっきから訳分かんねぇこと言ってんだよ。」 「○○ちゃんの気持ち知ってるくせに、ちょっと酷いわよ!」 彼は慌てて私を見てから、「知らないよ!変なこと言わないでくれよ!俺はこの子と付き合ってるんだ。」 私は吹き出しそうになるのを堪えていた。彼女達は、私に言っているのだ。将来の、いや既に母と同じ女達。

No.190 15/04/24 21:06
匿名 

彼が彼女達を追い払い、やっと部室に入ることが出来て、笑いが少し零れてしまった。 10代で、もう母と同じになっているなら、もっと前に、その価値観や感覚は培われている筈だ。 一体、いつ?何処で?どんな風に? 「何を笑ってるんだよ?」 「いえ、部長、血液型教えて下さい。」 「○型。相性とか?」 私は生徒手帳に書き込みながら、「あのヤンキーさん達に聞かれませんでしたか?私の血液型、あの人達に教えてあります。もし事故に巻き込まれたら、救急車とか病院とか、お互いを巻き込むことになります。自転車で私を送るのは、そういうことも有ると考えませんでしたか?」と言ったら、また一瞬、彼の表情が変わった。 「…ごめん。君と一緒に居たいとしか考えてなかった。…君は凄いな。そういう事も考えるんだな。ごめん。これからは俺がしっかりするよ。」 私達はお互いの生徒手帳に、名前と住所、電話番号、血液型を書いた。彼は、携帯の番号とメアドも書いてくれた。 「君と居ると、しっかりしたいと思うよ。強い男になりたいと思うよ。」 「ありがとう。私は何も出来ないのに…。」 「もう充分してるさ。」

No.191 15/04/25 23:13
匿名 

「休みの日、雨になったら何してるんだ?」 「母が出かけたら、お掃除したり読書したりしてます。母が家に居たら、○○の図書館に行きます。」 「明日雨になったら、俺も図書館に行くよ。」 「…うん。」 「嫌か?」 雨の日は、ひとりで居るのが好きだった。 小学6年の時、登校班の班長になり、どしゃ降りの雨の日の放課後、近所に引っ越して来た転校生を心配して待っていた。 皆次々に、家からの迎えの車に乗り込んで帰宅する。いつもだったらそんな雨の日は、近所の友達の家の人が乗せてくれるが、転校生はどうするのか分からなかったから、先に帰って貰った。 傘をさして、外から転校生の居る教室を見上げていたら、生徒玄関からその子が校門の方に走って行くのが見えて、追いかけようとしたら、あっという間に車に乗って走り去ってしまった。 一人取り残された私は、とぼとぼ歩いて帰ったが、自分のペースで、のんびり歩くのが心地良かった。 雷が鳴って、どしゃ降りの雨の音が、より一人ぼっちを強調してくれて、幸福感に満たされた。 あれ以来雨の日は、私にはそんな日だった。でも彼と雨の日を過ごすのは、いいかもしれない。 だけど図書館は、彼の家から遠い。

No.192 15/04/26 21:32
匿名 

「無理しないで下さい。」 「無理なんかしてないよ。俺は君に会いたいから会いに行くんだ。君は俺には会いたくないのか?」 「…会いたい気持ちより、部長に無理をして欲しくない気持ちの方が大きいです。」 放課後、自転車でバイト先まで送って、バイトが終わるまで待っていて、それから家の近くまで送るのも、止めて欲しい。私を送った後、学校に帰り、自転車を置いてからでは、いつもより帰宅が遅くなる筈だ。 夏休みまでと言っているけど、もうすぐ期末試験もあるではないか…。でも彼は、そうすると決めてしまっているから言えない。 「そうか…。君はそう思うんだな。俺にどうして欲しい?俺がどうしたら、君は嬉しい?」 「新入部員を増やして、放課後に部活をやって、試験勉強も、時間にゆとりを持ってやって欲しいです。そしたら、部長も頑張ってるから、私も頑張ろうって思えます。」 「俺はやっぱり振られてるのか?いや、ごめん。じゃあこうしよう。君を送るのも、雨の日に、○○の図書館に行くのも、君が、俺にそうさせてやってると思えばいい。そしたら君は、俺に何も出来ないことにはならないだろう?」 「それって、私に会いたいなら、私の都合に合わせろってことですよね?」

No.193 15/04/27 23:33
匿名 

「当たり前じゃないか!会うって、そういうことだよ。俺は、君の為なら何でもするよ。命だって賭けるよ。」 「部長が私の為に死んじゃったら、お父さんとお母さんはどうするんですか?○○屋の将来はどうするんですか?」 「…俺は死なないよ。死なない程度に頑張るよ。そんなこと心配するなよ。俺は一生懸命やるよ。」 「…ごめんなさい。男の人と付き合うの初めてだから…。」 「俺だって初めてだよ。とにかく会わなきゃ。会うことが大事だ。俺は君に会う。」 「…私、部長にお弁当作って来れません。…教室に迎えに行くのも出来ないと思います。」 「あっあれ?さっきのは気にしなくていいよ。意味分かんねえし。俺が迎えに行くよ。」 さっきの女の子達のことは、気にしていなかった。 先に好きになった者勝ちで、後から好きになった者は許さないなんて、発想自体がおかしい。 好きなら、彼を奪い返せばいい。 私は彼に何もしてあげられないのだから、いくらでも奪い返せる筈だ。彼を奪い返すことより、私への嫌がらせの方が魅力有るものなのだろうか? それは、妻として母としての努力を放棄している母と似ている。 そこに、あの女の子達は共感するのだろうか?

No.194 15/04/28 23:57
匿名 

会うことが大事。彼の言ったその言葉は、彼に悪いな…という後ろめたさになっていた。気が重いままカッパを着て、自転車のペダルを踏んだ。 でも、○○の図書館の一階奥のギャラリーの絵を、彼に見て貰いたかった。 アマチュアの人達が描いた絵画が展示されていて、その絵画は不定期に入れ替わった。その絵を観るのが、図書館に行く大きな楽しみだった。 この前観たコスモス畑の水彩画は、まだ有るだろうか? あの絵を観て、彼は何と言うだろうか? そう思ったら、彼に会うのが楽しみになった。 今朝は、おにぎりを作ることは出来た。 父が居ない朝、母は私が出かける時も寝室に居た。 台所には昨夜からの洗い物がそのままで、それを片付けご飯を炊いて、冷蔵庫には、卵が2個とジャガイモと玉ねぎ。 卵が3個あれば、母の分も入れて、私も1個は食べられるが、2個有った卵が消えていれば、母の文句がどんな物になるのか分からないから、それは妹の目玉焼きにした。 妹が嘘をつかなければ、やり過ごすことが出来る。 ジャガイモと玉ねぎのお味噌汁を作り、おにぎりは母のも作る。 今日は、彼のも。

No.195 15/04/29 23:48
匿名 

図書館の駐輪場に自転車を入れて、カッパを脱いでいると、傘に雨が弾ける音と共に彼が走り寄って来る。「オヤジに送って貰ったんだ。」 彼が指差す方向に、○○屋と書かれたワゴン車が停まっている。 運転席に居る彼のお父さんがこちらを見ているので、慌ててお辞儀をした。 慌てたけど、ちゃんとお辞儀が出来た自分に、少し驚いてもいた。 図書館に、とても美しくお辞儀をする職員が居る。この図書館では、皆そうするのかと、他の職員を見てみたが、美しいお辞儀をするのは、その女性職員だけだった。 作法を知らない私は、それを正式な礼儀正しいお辞儀と位置付け、図書館の御手洗いに行く度に、鏡の前で真似していた。 「ウチに来ないか?」 鞄からタオルを取り出し、雨に濡れた顔を拭いている手が止まる。 「オヤジもお袋も、君に会いたいって言うんだよ。」 「でもこんな格好だし。」 洗い晒しのジーンズにTシャツである。 洋服は、これしか持っていない。 「素敵だよ。モデルみたいだよ。」 「でも長靴だし…。」 「実は、昨日ちょっと大変だったんだよ。お袋にこづかいの前借りを頼んだらさ、近頃のお前は挙動不審だって。」

No.196 15/04/30 23:23
匿名 

「お袋に問い詰められて、何があったんだって言われて、仕様がないから白状したんだよ。それから…大学には行かない。高校卒業したら店で働く。君と結婚するって言ったんだ。そしたらお袋、オヤジを呼んで、オヤジは、男なら一度ぐらいは女に夢中になれ。でも夢中になる女を間違えると人生狂うぞって言うから、会えば分かるよって言っちゃったんだよ。…ごめん。君のことは、ちゃんと話したよ。オヤジもお袋も一度会わせろって言うから、悪いけど今日はウチに来てくれないか?君とは堂々と会いたいんだ。」 彼のお父さんの視線が気になるが、彼の話しは腑に落ちないことばかりで、確認しなくてはならない。 「昨日付き合うと決めたばかりです。大学に行かずに店で働くとか結婚とか、どういうことですか?」 「本気で考えてることだよ。君が高校卒業して働くなら俺も…。結婚だって。君は家を出たいんだろ?家を出てウチに来れば」 「待って下さい!私、高校を卒業したら県外に出るつもりです。家から遠く離れた所で就職します。」 彼の表情が崩れた。 ○○屋のワゴン車がゆっくり近づいて来て、私達の近くで停まり、彼のお父さんが窓を開けて言った。「振られたか?」

No.197 15/05/01 20:51
匿名 

「卒業したら県外に行くって言うんだ。遠くに行くって言うんだ。」 彼は、小さな子供が父親に言いつけるみたいに、涙をボロボロ零しながら言う。 「お前は少し落ち着け!どうしてお前がそんなに焦ってるのか、その理由は言ったのか?何を格好付けてるんだ。格好付けて理屈ばっかり言ったって、何も伝わらんぞ。本当の自分を見せなきゃ分からんだろう。こういうことは恥をかいてなんぼなんだ。ちゃんと言え!お前の為に言ってるんじゃない。母さんの為だ。母さんは、お前が初めて彼女を連れて来るって張り切ってるんだぞ。」 彼はべそをかきながら言い始めた。「…毎朝早く学校に行って、君の靴箱を調べてたんだ。何年何組の誰が手紙を入れたか全部知ってる。ホントは取って捨てちゃおうかと思ったんだけど、それは出来なくて…、他の男に君を取られるんじゃないかと焦って…、ごめん。」 「ごめんなさい。話さなくてもいいことだと思って…。放課後○○に来て下さいと書いてあって、放課後はすぐバイトに行かなきゃならないし、行かないことがお返事になると思ったから…。教室まで来る人は、あの男子達が追い払うし、あの男子達が追い払えなかったのは、部長だけです。」

No.198 15/05/03 09:34
匿名 

「あの男子達は、茶化したりするけど、もう部長を追い払おうとはしないから、認めてくれているんだと思います。ごめんなさい。心配かけて。」 「俺がバカだったんだ。勝手に変な妄想して、自分で自分を追い詰めた。もうあんなことしないよ。本当にごめん。オヤジに言われた。俺は独り相撲だって。今みたいに、君からちゃんと訳を聞けば、すぐ解決することなのに…。これからは、ちゃんと話すよ。君をちゃんと分かるように頑張るよ。」 「うん。」としか答えられなかった。私も頑張るとは言えなかった。 どうして彼は先へ先へと急ぐのか聞きたいと思ったけど、彼のお父さんが居る。 「話しはついたか?じゃあ車に乗れ。○ちゃんだったね?ウチのが、こいつの母親が○ちゃんに会いたがってる。今日はご馳走を作ると張り切ってるんだ。一緒に来てくれ。」 そう言って車から降りて、車のトランクからビニール袋を取り出して、それにカッパを入れて、ウチで乾かせばいいと言ってくれた。 「こんな格好で失礼ですけど、お言葉に甘えてお邪魔します。」 彼と一緒に、ギャラリーの絵を見たかったとは、もう言えなかった。 おむすびを作って来たとは言えなくなった。

No.199 15/05/05 21:03
匿名 

ワゴン車の後部座席に乗せられ、彼も私の隣りに乗り込み、寒くないかとか色々気遣ってくれる。 自転車で行ける所が、私の行動範囲なので、彼の家が営むお店はちょっと遠く、行ったことが無い。 道すがら彼のお父さんは、学校のことや当たり障りの無い話しをして和ませてくれる。 私の父には出来ないことだ。 子供の頃からの劣等感や卑屈さは、大人になっても払拭することは出来なかった。 妻に虐げられ、子供から尊敬されず、父はこれから先も、彼のお父さんのようになれる機会は無いだろうと思った。 彼の家は、お客専用の駐車場も備えた、広い敷地にある店舗の二階にあった。 お店の裏に車を停めると、お店の裏口からぞろぞろと人が出て来た。 彼のお母さんも、二階から外階段を降りて来て出迎えてくれた。 皆さん嬉しそうに私を褒めてくれる。彼は、こういう人達に囲まれて暮らしているのだなと思った。 二階には、自宅と従業員の休憩室が有るそうで、自宅のリビングに通され、彼のお母さんが、ショートケーキと紅茶を出してくれた。 ケーキなんて何年ぶりだろう。嬉しい。そこでお土産を持って来なかったことに気づいた。

No.200 15/05/07 20:39
フェイスブック好き19 

こんばんは(^-^)
ご無沙汰してます。
お元気ですか?私は相変わらずです。
仕事も少し落ち着きました。
GWは彼や友人とちょこちょこ出かけていたので、慌ただしかったです。
今週末はゆっくりしたいなと思っています。

  • << 201 お久しぶりです。お元気そうで何よりです。 どうしてるかなぁ?と思ってました。 私は筋肉痛で、やっと動いています。 花壇や、慣れない畑作りで、楽しくてつい頑張り過ぎました。 今日は昼間、彼が時間を取れたので、またあの山にドライブに行って来ました。 山の上の方は、まだまだ新緑が綺麗でした。 カタクリの群生が素晴らしかったです。 帰って来てからミクルをやってました。 参加したスレが荒れ出したので、つい出しゃばって、また文句を言われました。 彼とは、何処へ出かけたのですか?やっぱり二人だけのデートっていいですね。 改めて彼を素敵だなって思っちゃいました。フフッ。
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