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匿名( wnL5nb )
10/10/14 20:19(更新日時)

その男は、ゆっくりとリングに上がってきた。
空手着の上下を身に付け、まだ手にして間もないであろう新しい黒帯を絞めている。顔や額、道着の隙間から見える胸元にはうっすらと汗が浮いているのが見てとれる。髪は坊主に近い短髪で、二重の鋭い瞳をしている。輪郭がやや丸みを帯びている。
手には、よく総合格闘技の試合等で見られるオープンフィンガーグローブを身に付け、しきりに手を握ったり開いたりしてる。グローブの装着具合を確認しているようだ。



男の名は、上尾大介。21歳。

No.1412088 10/09/03 23:30(スレ作成日時)

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No.51 10/09/14 22:34
匿名 ( wnL5nb )

まだ後ろ回し蹴りを放ち、構えに戻りきれていない相手に中井の右中段回し蹴りが刺さる。
相手も素早く腕を曲げボディーをガードし、後方にバックステップ。

中井は、小刻みに左右ジグザグにフットワークを使い相手を追いかける。昼間に大介に見せた動きだが、あの時より速い。 中井の突きの乱打が、相手を襲う。
相手が嫌がって、更に後方に下がる。

離れ際に中井が、右下段回し蹴りを放ち相手の足に叩きつける。しかし当たりが浅く、相手にそれほどのダメージを与えていないようだ。

中井も相手も元の構えに戻り、互いの出方を探る。

「残り1分!」
道場内に北条の声が、響く。

No.52 10/09/15 00:07
匿名 ( wnL5nb )

北条の「残り1分」の声を聞き、中井と相手が2人同時に飛び出した。

中井が、右下段回し蹴りを放つ。しかも大介に使用した打ち落としのタイプだ。
相手が左膝をやや外側に角度を付けながら腹の位置まで上げ、それをカットする。

中井は相手が右下段をカットするのを確認すると素早く右足を戻し、左の上段回し蹴りを放つ。

しかし相手の反応も速かった。左上段は、ガードされる。

それからが、すごかった。
中井も相手も至近距離、それもお互いの胸と胸が当たるような距離で突きを打ちまくる。

双方どちらも後退する事なく確実に互いの拳がボディを打って打って打ちまくる。中井が、拳打の合間を縫い下段回し蹴りを放つ。そうすると相手も中井の脇腹目掛けて膝蹴りを撃つ。 まるで意地比べをやっているようだ。こうなれば引いた方が負ける。両者共にそれが分かっているようだった。2人の顔が、苦痛に歪む。

「やめっ!!」
北条の声が、響く。
緊張に包まれた2分間だった。

No.53 10/09/15 22:44
匿名 ( wnL5nb )

「中井君と市村君の組手は、毎回すごいなっ!見ているだけやのにヒヤヒヤやわ!」
北条師範が、2人に声を掛ける。嫌味等ではなく、2人の実力を認めているという口調だった。

「2人共、高校生やし勢いあるなぁ!」
他の道場生達からも2人の実力を評価する声が挙がる。

「中井のやつ、すげぇなぁ~!」
西山が、声をあらげる。

「あぁ、中井が本気を出したら俺なんてすぐやられるわ!でもその中井と互角にできるあの人もすごい!」大介も興奮していた。

「よしっ、では続けましょう。」
と言う北条の指示と共に中井や市村は、別々の相手とのスパーリングに入る。
中井と市村は、さっきまでのスパーリングで息は上がりダメージを受けているもののスパーリングを続ける。

「俺なんかが、勝てないはずやわ。」
大介は、苦笑いした。

No.54 10/09/16 14:52
匿名 ( wnL5nb )

「お互いに礼っ!ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
練習生達の大きな声と共にこの日の稽古は終わった。

「お疲れさまでした。」 北条が、大介と西山に声を掛ける。

「今日はどうもありがとうございました。貴重な時間を過ごさせていただきました。」
大介と西山が、頭を下げる。

「今日は、中級者クラスの稽古だったから少し激しかったけど初心者クラスも週2回あるからもし良かったら来てよ。あっ、入会案内用のパンフレットとうちの道場の時程表を渡しておくね。ちょっと待ってて。」そう言うと北条は道場の奥にある事務所に行き、すぐにA4サイズの茶封筒を2つ持って出てきた。

「具体的な事は、ここに書いてるから読んでおいて。待ってるよ。」
北条は、2人に笑顔を送った。

「上尾、西山!帰ろかぁ~。」
奥の更衣室で着替え終わった中井だった。

「そーやな、帰ろか。」
大介達もちょうど北条との話が終わったところだった。

「オス!お先に失礼します。」
中井が、北条や他の練習生達に挨拶をする。続いて大介達も頭を下げ、道場を後にした。

No.55 10/09/17 18:23
匿名 ( wnL5nb )

「どーやった!?」
帰り道で中井が、それとなく大介達に聞く。

「ああ、良いもの見せてもらったわ。それにしてもお前さんのスパーリング激しかったな!」
西山が、まだ興奮冷めやらぬ口調だった。

「昼間やったけど俺なんかが、軽くやられるはずやわ」
大介も笑みを浮かべながら答える。


「まぁ、一回スパーリングモードに入ったらあんな感じやからなぁ~。」
中井も笑っている。

「それはそうと、どーするねん?入会か?」
中井が、続ける。

「あぁ、俺は入会はなしやな。確かにすごいもん見せてもらったけど、俺は受験勉強とかあるしな。」
西山が、返す。

「上尾は?」
中井が、大介に聞く。

「えぇ~、俺は保留ってことで。」
大介は、困ったような感じで答える。

No.56 10/09/18 15:38
匿名 ( wnL5nb )

「まぁ、ゆっくり考えてからでいいよ。どうせうちに来なくても空手やキックの練習は、するつもりなんやろ?」

「ああ、そのつもりや。でも今日見学させてもらって空手っていうのは、考えてたよりももっともっと奥深いなぁ~。って思った。」

「まぁなっ!」
中井が、笑う。


この後3人は昼に集合した地元の駅に着き、その日は解散した。 時間は、午後10時前だった。


大介の長い1日が、終わりを迎えた。

No.57 10/09/18 16:03
匿名 ( wnL5nb )

大介達が、ちょうど真王会館にいたのと同時刻。


東京都23区内 某所


そこには、床一面に薄い緑色の畳が敷かれていた。
全ての壁には、衝撃吸収用のマットが張り巡らされている。

2人の男がお互いに向き合い、畳の上に立っている。二人とも柔道着の様な道着を着ていた。
1人は、茶髪で髪を上に立てている。俗に言う二枚目顔だ。普段はピアスをしているのだろうか、左耳に穴が空いている。白帯を締めている。

もう1人は、坊主頭をしている。こちらは、青帯を締めている。

「じゃあ始めようか。」 坊主頭の男が言う。

「はい。」
茶髪の男が答える。その唇には、少し笑みが張り付いている。

2人は、両手を開いた状態で顔の位置まで上げると構えた。足はそれぞれの自然体。

シュ!

坊主頭が、一気に間合いを詰め茶髪の胴を捕らえる。素早い胴タックルだった。

No.58 10/09/18 20:15
匿名 ( wnL5nb )

茶髪は体重を前方に掛け、テイクダウン(倒される)されないように胴タックルを切ろうとしたが一気にテイクダウンされた。
坊主頭が、自分の足を内側から引っ掛け踏ん張っている茶髪の足を刈ったのだ。

グラウンド(寝技)の展開になる。
坊主頭が、テイクダウンすると同時に茶髪の上を取りマウントポジション(馬乗り状態)を狙う。

すかさず茶髪は、両足で坊主頭の胴体を挟みガードポジションを取った。
しばし膠着状態が続くが茶髪が動いた。
ガードポジションを解き、下から三角締めを狙う。

坊主頭は、体重を茶髪に預け頸動脈を絞められるのを防御する。

No.59 10/09/19 15:07
匿名 ( wnL5nb )

坊主頭の前方への巧みな体重移動で三角締めが、封じられる。

ギッ
グッ
坊主頭の首が、完全に三角締めから脱出した。

しかし茶髪は、それを何もしないで堪えているだけではない。 素早く両足を三角締めの体勢から解除し、移動させる。両足が、坊主頭の腕を挟む体勢になる。坊主頭の腕を捕り、自身の身体に反りを掛ける。

下からの腕ひしぎ逆十字固め。

坊主頭が、茶髪に腕を極められたまま立ち上がろうとする。

茶髪も下からの不安定な姿勢で技を掛けているので極めが甘く、不完全である。
坊主頭が、茶髪を自分の腕から引き剥がそうとする。

両者の額から汗が流れる。

No.60 10/09/20 22:03
匿名 ( wnL5nb )

ズル
ズルッズルッ

重力と自重で茶髪の身体が、坊主頭から少しずつ滑り落ちていく。
しかし依然として茶髪は、腕十字に極めた腕を離さない。

坊主頭は、少しずつ腕十字のポイントをずらす。
スルッ

茶髪が滑り落ち、完全に腕十字が抜けた。
坊主頭は、この時を見逃さない。今まで自分に絡んでいた茶髪の片足の足首を捕まえると素早く自分の脇の下に挟みロックした。 更に両足を捕まえた茶髪の足に絡み付かせ、自分から後方に倒れた。
坊主頭のアキレス腱固めが、ガッチリと極る。

「がっ!がぁっ~!!」 茶髪が苦悶の表情を見せた。

「どうだ?ギブアップか!?」
坊主頭が、力んだ表情を浮かべ問う。

「くぅ~!」
茶髪は答えずにアキレス腱固めに耐え続ける。

「ギブアップしろっ!」 坊主頭が、叫んだ。

No.61 10/09/22 23:57
匿名 ( wnL5nb )

「まだっすよ!」
茶髪が、濁った声を吐き出す。
茶髪は、アキレス腱固めを極められたまま足首に力を入れて、これ以上極るのを防ごうとした。同時に極められていない方の足で坊主頭の腕のロックを蹴飛ばした。

「くっ」
坊主頭が、茶髪の蹴りに逆らって腕のロックを更に強化するがお構い無しに茶髪は蹴る。蹴る。蹴る。 しかし坊主頭のアキレス腱固めは、弱まる事がない。

「やめておけ!ここまで完全に極ったらもうエスケープは不可能だ。ギブアップしろ!」
もう一度坊主頭が、茶髪にギブアップを促した。

「くぅ~!」
パッ
パッ
茶髪が、坊主頭の足を手の平でゆっくり叩いた。 ギブアップの意思表示だった。

No.62 10/09/24 02:53
匿名 ( wnL5nb )

「吉井、足首の方は大丈夫か?」
坊主頭が、茶髪の男に聞いた。

「えぇ、もう痛みはないですよ。」
茶髪の男―吉井駿介が答えた。

2人はまだ所属するジムにいたが既にこの日のスパーリングを終え、両者とも柔術着から私服に着替え終わっていた。時刻は、午後10時を少し過ぎたところであった。

「田原さん、こっちこそこんな時間まで付き合わせてすいません。」

「別にいいよ、明日は仕事は休みだからな。それに俺も今日はスパーリングを多くしたい気分だったから。」
坊主頭の男―田原は、駿介に穏やかな表情を浮かべながら答えた。

「吉井、この後少し時間あるか?一杯飲みに行こう。もうハタチだから大丈夫だろう?」

「はい、行きます。」

2人はジムを後にする。

No.63 10/09/25 00:45
匿名 ( wnL5nb )

ジムの最寄りの駅の近くにある居酒屋だった。 駿介と田原のテーブルに中ジョッキのビールが運ばれてくる。

「お疲れ!」
「お疲れ様です!」
2人は、乾杯して運ばれてきた生中ジョッキのビールを喉に流す。

「かぁ~、うまい!」
田原が、何とも言えない表情で言う。

「うまいっすね!まだ自分は、あまりビール飲んだ事ないっすけど、喉にしみわまりますよ!」
駿介が、たまらない声を挙げた。


「だろっ!」
と答えると田原は、ビールと一緒に運ばれてきた枝豆を殼から剥き口に放りこむ。


「でも田原さん、今日は誘ってもらってありがとうございます!」
駿介が、ビールを喉に流し込んだ余韻の残っている表情で言う。

「いやぁ~、いいんだ!俺から誘ったんだから!それよりお前に聞きたい事があるんだ!」

「聞きたい事ですか!?」駿介が、不意打ちをくらったように問う。

「うん。柔術の事だよ。」と言うと田原は、一気に中ジョッキを飲み干した。

No.64 10/09/26 00:32
匿名 ( wnL5nb )

「なぜ柔術を始めようと思ったのかなぁ~と思ってさ。」
田原のジョッキが空になっていた。

「すみません!生中2つ追加!」
駿介が、すぐに田原の問いに答えずに近くにいた店員にビールの追加注文をした。

「いやぁ~、最初は運動不足解消の為でした。それに元々格闘技好きだったんで。」
駿介が、少し答えに迷ったような表情で言った。

「そっか。でも格闘技なら別に柔術じゃなくてもいいじゃないか。空手とかボクシングとか。」
田原が、穏やかな表情で笑う。

駿介が少し間を置いて真剣な表情で答えた。
「打撃が怖いんです。殴ったり蹴られたり。観ているのはいいんですけど実際に自分がやるのはちょっと・・・でも人より何かしら優れたものが欲しかった。それが、たまたま柔術だったんです。」
追加のビールが運ばれてくる。駿介は、まだ3分の1程残っていた一杯目のビールを一気に飲み干した。大きく息を吐いた。

No.65 10/09/30 02:29
匿名 ( wnL5nb )

日曜日の早朝だった。時刻は、午前6時前。7月も中旬を向かえ明るい朝の陽気が漂っている。まだ早朝なのに気温はかなり高く、暑い。

黒いジャージの上下を着た上尾大介は、自宅の近くにある市立の図書館前の広場にいた。上衣は長袖、下はハーフパンツだ。頭には、上衣のフードを被っている。
まだこの時間には図書館は、閉まっている。

大介は、柔軟体操を行っていた。 毎朝5時に自宅を出て、一時間程ランニングをする。距離で言えば10キロ前後。ランニングを終えた後は、この広場でダッシュ、クールダウン、柔軟体操、補強トレーニングである腕立て伏せ・腹筋・背筋を行うのが日課になっていた。
最初は、朝早く起きてこのメニューを消化するのが苦痛であったが1週間程で慣れた。慣れたの同時にランニングの距離や補強トレーニングの回数を徐々に伸ばしてきたのだった。

No.66 10/09/30 02:49
匿名 ( wnL5nb )

フードを被った大介の顔には、玉のような汗が浮いている。重力に負けた汗が、顎から地面に滴り落ちていた。

メニューは、ランニング~ダッシュ~クールダウンと終わり柔軟体操に移行している。 アスファルトの地面に座り両足を開脚している。太股の筋が伸び、下半身全体により一層血流が行き交うのを大介が感じていた。 柔軟性を増すことにより力強く、スピードの乗った鋭い蹴りを打つことができる。また各種ステップの足捌きが、スムーズになる。

大介は、柔軟を行いがら昨夜の真王会館での事を一つ一つ回想していた。

No.67 10/09/30 15:37
匿名 ( wnL5nb )

突きや蹴りの基本稽古、移動稽古、そして何よりもスパーリングでの中井の姿。と柔軟体操を行う大介の頭の中を駆け巡る。

開脚を行いながら前のめりに身体を倒した。ここ数週間の柔軟体操で身体は、柔らかくなったがまだまだ額や胸は地面についてくれない。

その時広場の入り口に2人の男が、姿を現した。一人は中年。もう一人はバンダナ状に頭にタオルを巻いた大介よりも少し歳上と見える男だった。2人ともジャージを身に付け、大介の様にランニングが終わった感じであった。
中年の方は、まだ息が上がっているらしく顔を真っ赤にしながら肩で息をしていた。
若い方は、自然体で落ち着いていた。

(あの2人もランニングか?ここ数週間この広場に来てるけど人を見るのは初めてやな。)
最初は大介もそれ位にしか意識していなかった。

No.68 10/09/30 19:16
匿名 ( wnL5nb )

大介のメニューは、補強トレーニングへと続く。 広場から図書館への入り口に続く階段を利用した腕立て伏せ。階段の上に両足の爪先を乗せ、それを肩幅間隔より少し広めに開いてのプッシュアップ。これを3セット。

最初の1セット目はゆっくりとした動作で30回。

1分程のインターバルを置き次の2セット目。今度は5秒かけて身体を下ろし、下ろした状態で5秒間キープ、そして5秒かけて身体を上げる。これを20回。

最後の3セット目は、素早く身体を下ろし上げる。これを50回。

腕立て伏せを終えた頃には、大介の顔は日本猿の様に真っ赤になっていた。息や心拍数も限界近くにまで上がっている。
大介が呼吸を戻すためにしばらく地面に寝て伏せる。
寝ながら大介は、それとなく先ほどの2人を見た。

(組手!?いや・・・)

No.69 10/10/07 01:42
匿名 ( wnL5nb )

その2人は、お互いにそれぞれのスタイルに構え対面していた。しかし組手やスパーリング等では、なかった。

若い方が、ゆっくりと中年のボディに対しパンチを放つ。中年は、自分に対し放たれたパンチを左手で外に受け流す。

今度は、中年がゆっくりと右のローキックを若い方の左大腿部に放つ。若い方は、左膝を曲げそれをカットする。

2人共立っている場所からほとんど動かずにそういった動きが、続いた。もちろんフットワークやサイドステップ、バックステップ等の動きもない。

1つ1つの技の確認動作をしている。

しかしその時の大介には、その知識が無かった。 大介は、自分の残りの補強トレーニングを忘れ2人をまじまじと見ていた。

No.70 10/10/07 16:38
匿名 ( wnL5nb )

心なしか両者の打撃のスピードが、少しずつ上がってきている様に見えた。

ボディへのストレートやフック、ローキック。それに伴い受け流しやカットのスピードも上がってきている。
若い方のローキックが、中年の大腿部を少し強めに叩いた時に両者は動きを止め、構えを解いた。

「今日は、ここまでやな。」
中年が、言った。

「ああ、この辺で終わりにしよ。段々熱くなって危ないからな。」
若い方が、頷きながら返す。

2人は、そう言う会話をするとそれぞれ思い思いに柔軟体操や整理体操を始めた。

大介は2人に近付き、中年に声を掛けた。
「あの~、突然すいません。今のは、空手かキックですか?」

No.71 10/10/08 00:23
匿名 ( wnL5nb )

中年は、いきなり大介に話しかけられほんの少し間が空きつつも答える。
「まぁ~、空手やな。」

大介は、中年の「まぁ~」と言うのが少し引っ掛かったが構わずに続けた。
「自分、道場とか行ってないんですけど空手に興味があるんです。あれは何を・・・」と言ったところで若い方の男がそれを遮った。

「あれは、約束組手って言うやつや。まぁうちらも道場通いしてるワケちゃうけどな。」
若い男が、ぶっきらぼうに言った。

「もしよかったら自分にも教えてもらえませんか?」大介が、思い切った口調で若い男に言う。

若い男が、「ふぅ~」と軽く息を吐くと「そんなにやりたかったら習いに行きなよ。確か隣街に真王会館の道場あるやろ。あとは同じ隣街に闘神を主宰している神門会館の道場もあるし。俺らなんかとやらずにどちらかに行けば教えてくれるさ。」
そう言うと中年に声を掛けた。
「親父、そろそろ帰ろうや。気温もかなり上がって暑くなってきたし。」

No.72 10/10/08 19:51
匿名 ( wnL5nb )

大介は、若い男の言葉に納得していなかった。振り上げた拳の下ろし場所が無いような感じであった。
そんな思いをかき消すかのようにシャドーを行っている。

自分の前に実際に相手がいるとイメージして、右ジャブ、左ストレートから左ローキック。このコンビネーションを何度も繰り返す。たまに左ミドル、左ハイ等の蹴り技も混ぜ込む。
ローキックはそこそこだが、ミドルやハイにはまだまだスピードや鋭さがない。

(あんなぶっきらぼうな言い方をしなくてもいいやんけ。)
思い出す度に少し腹が立ってくる。

大介の左ハイキックが、シュと言う小さな音をたて空気を切り裂いた。そこで大介は動きを止め、シャドーを終わらせた。どうやら自分の納得のいく技が出せたようだった。

「もう一度頼んでみるか。」
大介が、自分自身に言うようにポツリと呟いていた。

No.73 10/10/09 13:40
匿名 ( wnL5nb )

「上尾君の成績は、それ程悪くないんですが・・・進学となるともう少し頑張ってもらわないとダメですね。本人の将来ですから。」

「すいません、先生。うちでも言い聞かせているんですが、こういう性格なんでのんびりしていると言うか何と言うか。」

高校での夏休み前の三者懇談であった。大介は、3年生という事もあり必然的に進路の話になる。しかし三者懇談と言ってもさっきから母親と担任教師のやり取りだけが続く。事実上の二者懇談と言ってもいい。大介は、自分にとって耳の痛い話を一方的に聞かされているだけだ。

(早く終わらんかな。ダルいなぁ~。)
大介は、進路の事よりも三者懇談が早く終わる事ばかり考えていた。

「大介、あんたも何とか言ったら。他人事じゃなくあんた自身の事なんやで。」母親の激が飛ぶが、大介はめんどくさそうにしていた。

No.74 10/10/09 21:48
匿名 ( wnL5nb )

今の大介にとっては、母親や担任教師の激などまるで上の空であった。






家に帰った大介は、いつもの黒いジャージに着替えて筋力トレーニングを行っていた。先日自分の小遣いで買ってきたダンベルを使う。まだ始めたばかりのウェイトトレーニングであるためあまり回数をこなせない。

ダンベルの重量が、大介の体に大きな負荷を与える。ネットで調べたトレーニング法を見様見真似で実行しているだけだが、まだ筋力の少ない大介にとっては相当キツい。夕方とは言え、夏の気温も相まって全身から汗が吹き出る。

大介の頭の中にあるのは進路の事ではなく、自身を強化する事だけだった。

No.75 10/10/09 22:31
匿名 ( wnL5nb )

ダン・・・ダン・・

サンドバッグを蹴る甲高い音が、道場内に響く。

この音を発している主は、中井であった。
真王会館の道着を着て30分程前からサンドバッグに打ち込みをしていた。

中段突き、鍵突き、裏拳、下突き、前蹴り、回し蹴り、後ろ回し蹴りといった技がサンドバッグに突き刺さる。

その日は中井のクラスの練習日ではなかったが、道場自体は毎日開いているのでたまにこうして自分のクラスがある日以外も打ち込み等の練習に来る。

まだこの日のクラスが始まるまでかなり時間があったので道場にいるのは中井1人だけであった。

No.76 10/10/11 22:04
匿名 ( wnL5nb )

中井は、同じ同学年の市村についてずっと思うところがあった。

真王会館に入門したのは、市村の方が遅い。つまり同学年とは言え、空手歴は、中井よりも市村の方が後輩であった。級位も市村の方が、中井より下。体格もほぼ同じ。

しかしスパーリングになれば互角。その日の調子によっては押される事もある。
中井は、それが我慢出来なかった。ランニングや筋力トレーニングも自分が考えれる限りすべて実行してきた。こうして自分のクラス以外の日も道場に来て打ち込みを行う。
それでもスパーリングでは、実力差がつかない。

(なぜなんや!才能なのか!?)


中井は、怒りや焦り等あらゆる感情を込めてサンドバッグを殴り蹴りしていた。

No.77 10/10/13 00:00
匿名 ( wnL5nb )

「よう、中井!」

「おう上尾!足の方は、大丈夫か!?」

「あぁ、そんなに痛まなかったわ。余裕余裕~♪」

「お前なぁ~。俺の下段蹴りくらってペタ~ンとなってたくせにぃ~。」
中井が、大介に笑いながら答えた。

中井とは、真王会館での道場見学以来3週間ぶりに会った。

大介から中井に「会いたい。」と言う連絡を入れた。場所は、いつも行く地元のファーストフード店であった。

「で、急にどーしたんや。お前さんから連絡くるん珍しいからな。」
中井が席に着き、すぐに大介に言った。

「ちょい相談があってな。」
大介が、切り出す。

No.78 10/10/13 19:57
匿名 ( wnL5nb )

「なるほどなぁ~。」
中井は両手を組んでそれをテーブルに置き、大介の話を一部始終聞き終わった。

「と言う事やわ。」
大介は中井に自分が行っているトレーニングの事、このままそれを続け強くなれるかという事、日曜の朝に図書館の広場で会った2人の事、その1人に道場入門を勧められた事、それに対して自分が入門するかどうか迷っている事等を話した。

「話は、大体分かったわ。結論から言うな。1人で今のままトレーニングを行うよりも練習相手を設けてトレーニングする方が効率良く強くなれるはずやわ。強くなるには、スパーリングも必要になってくるしな。相手いた方がモチベーションも高まるしな。」
中井の話に大介は、黙ったまま頷く。

No.79 10/10/14 20:19
匿名 ( wnL5nb )

「実はな、俺も思うトコあって退会するかもしれん。」
中井が小さな声で言う。

「退会!?真王会館を辞めるかもって事か!?」
大介が、動揺したかの様に少し大声で返した。

「まぁ、そんなトコや。」中井が、苦笑を浮かべる。

「いきなりやな!何でやねん?森井とか西山みたく大学進学の為の勉強するんか?」

「いやっ、そういうワケちゃうよ。さっきも言ったけど少し思うトコあってな。」

「思うトコってまた思わせ振りな言い方やな。何があってん!?」

「はぁ~、わかったわ。」中井は、観念した様に話始めた。

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