売掛金回収
年商二千万
個人事業主
世の中
不景気不景気
しか~し
払うものは払って下さい
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『午後、書記官からお名前が呼ばれますので
ロビーでお待ちになっていて下さい。』
『宜しくお願いします。』
席を立ち
裁判所の玄関から外に出た。
秋晴れの気持ちの良い日。
車に向かって歩いていると無性に喉が乾いていることに気付いた。
精神安定剤のお陰で
声や手の震えは出なかったが、緊張していたことには変わりなかったらしい。
コンビニに行き
お気に入りのコーヒーを買い車の中で一服した。
お腹は全く空いていない。
一服しながら
ナビを検索する。
検索先は問題の現場。
ここから
約20キロ。
この帰りに寄れない距離でもない。
アイコは
時間があれば現場のお客様のお宅へ寄ろうと考え
予め、手土産も用意していた。
地元有名和菓子だ。
しっかり賞味期限もチェックし、今日が時間が無かったら明日にでも伺おうということである。
距離があるだけに
時間の無駄にならないように、やはり今日伺おう。
在宅していなかったら
それは仕方ない。
お客様に構えられないように、電話はしないで
直接伺う事を考えていた。
時間丁度に戻り
5分位椅子に座って待っていると
『猫田さんいらっしゃいますか?』
『はい。』
書記官らしき人に呼ばれた。
両開きのドアを潜り 挨拶をして座った。
らしき人ではなく 正真正銘の書記官だった。
見た感じ裁判所のらしからぬ感じの事務のおじさん。
見た目は関係ないが 何はともあれこの方が導いてくれる。
『え~とですね。 大体大丈夫ですね。』
『直すとこは特にはないです。』
ホッとした。
『後はこの二枚の用紙を 各々三部コピーしてほしいんですね。 コピー機は二階にありますから。』
『はい。行ってきます。』
一人で行こうとしたら 書記官が二階まで案内してくれた。
市役所の人間より親切かもなんて思いながら ついていく。
では…と書記官は先に下に降りていった。
二階には法廷がある。
コピーし終わった後 少し興味が沸き 近くまで行ってみた。
法廷ごとに 原告 被告人 代理人とA4の用紙に書かれ張り出されていた。
早く戻らないとと思い
よくは見なかったがあまり重々しい空気は流れていなかったように感じる。
実際、自分の事なら
重いのだろう。
所詮、他人事だ。
書記官のところに戻ると
忙しそうに違う仕事に取りかかっていた。
声をかけようとしたアイコに気付き、ホチキスを持って寄ってきた。
印紙を貼ってある申立書を一番上にし綴っていく。
当たり前だが手際が良い。
『では、ここの余白に
印鑑を押して終りです。』
『こちらから発布すると
債権者、つまりあなた側に発布したというハガキが届きます。』
『以後は事件番号がつきますから、問合せの時は事件番号で担当書記官までお願いします。
私が担当になるか、まだわかりませんので、通知書を確認してください。』
事件番号
何かカッコイイ
あっ聞かなければ
『仮執行宣言をする時は
相手が意義申し立てをしたとかは解るんですか?』
『担当書記官から連絡がいきますよ。』
『ありがとうございました。宜しくお願いします。』
一礼して席を立った。
今、色々聞いても
相手の出方次第で方向が変わる。
後は、彼らの動向を待ち
臨機応変に動こう。
そして、裁判所を後にした。
思ったより仰々しくなく
終った。
思ったより簡単だった。
変な達成感がある。
今始まったばかりなのに
達成感なんて持ってしまってはいけないんだ。
さあ、次の行動をとらねば。
さっき検索した住所をナビにセットし
走り始めた。
東氏が言うには
かなりクレームをつけたり支払いを延期したり
まけてくれと言ってきたりしたらしいが
今となっては、その話には信憑性がない。
入り組んだ住宅地の中に
目指す場所があった。
ゆっくり走行し表札を確かめる。
そこには車が停められないので、通りすぎ
近くに路駐出来そうな場所を見つけ停車した。
笑顔
笑顔
笑顔
バックから鏡を取りだし
笑ってみる。
第一印象は重要なのだ。
手土産を持ち、お客様宅へ向かった。
もう一度表札を確認し
玄関チャイムを鳴らす。
応答なし。
上のほうで音がする。
見上げるとベランダに
誰か居る。
『こんにちは~』
声に反応して
こちらを見てくれた。
お父様だ。
不審そうにこちらを見下ろす。
『すみません、以前、屋根の工事をした者ですが、ちょっとお話したいんですが。』
更に不審がられた。
『屋根の工事?』
『そうです。男性と女性2人の会社で塗装もされましたよね?』
上を向いて話しているから首が痛い。
早く降りてきてほしい。
『あぁ。何だっけ。あの女の人は?』
『東さんです。』
もう少しだ。
『その東さんについて
ちょっとお話伺いたいんですが、少し降りてきてもらえませんか?』
周りから見たらアイコは
かなり不審者だ。
笑い事でなく早く降りてきてもらわないと
通報されそうだ。
5分くらいして
玄関の鍵が開く音がした。
『いやね、娘がね、簡単に鍵を開けるなって言うもんだからね。』
お父様…
おじいちゃまかな…
そう言いながら玄関の中に入れてくれた。
先ずはトシの名刺を渡し
ご挨拶をし、手土産を渡した。
手土産に関しては大変恐縮し中々受け取ってくれなかったが、お会いできた事へのお礼も込めてと無理にお渡しした。
このやり取りだけでも
東氏がアイコに植え付けた
人物像と相違していることが解る。
『それで、
どんな事です。』
ストレートに切り出すか
迷った。
遠回しにオブラートに包むべきなのか。
今、あったばかりだけど
聞かされていた人物像とは違うこのおじいちゃまなら解ってくれるか。
悩んだが
アイコは賭けた
おじいちゃまの人間性に。
アイコがお客様宅へ訪問した一番の目的は奴らの銀行口座番号を知るためだった。口座番号が解らなくても
使用している銀行支店まで解れば良い。
『お客様にご迷惑をおかけするような事は決して行いませんので、お話を聞いてください。』
アイコは切り出した。
『何があったの?』
穏やかな方だ。
『実は、ここの屋根工事代金の約半分を未払いにずっとされているんです。』
おじいちゃまの眼光が鋭くなった。
『何だって。
同じ職業でそんな事するなんて酷いなあ。』
『今は連絡もろくに取れない状態なんです。』
『うちも途中で2人共、連絡取れなくて、あの男の人の奥さんだって人が来たけど、何だか話にならなくて、まいちゃったんだよ。』
おじいちゃまも腹に据えかねていたのかもしれない。
『その時、こちらも同じでした。2人共、連絡つかなくて。』
まさか、お客様にも同じ対応だったとは。
怒りが込み上げてきた。
許さない。
『それでさあ、奥さんが来たけど、塗装はいい加減だし、娘が怒って奥さんに電話したぐらいだよ。』
おじいちゃまは穏やかだが鋭く語る。
『そうだったんですか。
うちも連絡が奥さんで大変でした。』
『も~うね、足場は中々外れないし、塗装はいい加減だったし、他にもねえ。』
おじいちゃまは誰にも言えなかったんだんだろう。
『足場が外れないのは
聞いていました。
塗装がやり直しだったのもです。』
『他にも、ベランダは塗装で汚されるし、裏のサッシのところは汚されるし。』
ベランダの汚れ…
猫田がやったかもしれないと逆ギレ女が言ったこと。
『あの、ベランダの汚れはうちがやったかもしれないって、東さんに言われたんです。』
『違う違う。ペンキがポタポタ落ちた汚れだから!
屋根の人は終った後だったんだから。あんたんちじゃないよ。』
『全く関係ない人のせいにするなんて!
あたしはね、身体が丈夫な時は綺麗好きでね。
ベランダだって何だって綺麗にしていたのに!
落とすって言って何かやってたけど、
落ちきらないし、裏なんて落とすって言って余計に汚くしちゃって、嫌になっちゃったんだよ。』
くそばはぁ~!
一番最初に浮かんできた
言葉だ。
お客様には迷惑をかけたくないので、最後の手段と思っていたが、もっと早く来れば良かったと悔やんだ。
しかし
大嘘つきだ。
少し言葉に詰まっているとおじいちゃまは続けた。
『うちに来るヘルパーさんも、【おじいちゃん、こんなに汚れちゃってどうしたの】って驚いていたんだから。』
『だけどね、近所の人に
中々足場とれないねえって言われても、あたしは愚痴なんて決して言わなかったんだよ。そういうのは好きじゃないからさあ。
お金だって、払ってくれって言われたら払ったし。』
!?
!?
!?
お客様が払いを伸ばしているような事を奴らは言っていた。
どんどん嘘が見えてきた。
くそばばぁ~を通り越してあの世へ行ってくれとまで思ってしまった。
更に
おじいちゃまは続けた。
『あたしも娘も腹に据えかねたけど、娘があの男の人の奥さんに怒って電話したぐらいしか、文句だって
言ってないんだら。』
あの女~!
おじいちゃまは変わっていて難癖ばかりつけてきて大変だって言っていた!
『あんたが来て、同じように、嫌な目に合ってる人がいたって解って、話せて良かったよ。』
おじいちゃまの話を聞いていたら涙が出そうだ。
泣く訳にはいかない。
おじいちゃまを心配させてしまう。
『私も今日来て良かったです。東さんに言われた事を鵜呑みしないで、もっと早く伺えば良かったです。
それに、おじいちゃまと
お話出来て何より良かったです。』
本心だ。
あの女…
そんなにお客様がごねているなら、直接伺うって言ったことがある。
その時に
余計にごねられたら困るから任せてほしいって言った。
それは嘘がばれるからか…
奴ら2人は子供がいる。
奴らは子供を持つ親として自分達のしてる行為をどうかんがえているんだ。
良心は無いのか?
これだけ嘘を普通に言えるなら、連絡するって言ってしないなんて事はお手の物だったろう。
『それで、あんた。
うちに来たのは何か用があるんだろ?』
おじいちゃまが聞いてきた。
『はい。』
『何を言っても駄目だし、連絡もろくにとれないので、裁判所から【払いなさい】と手紙を送る手続きをしてきたんです。』
うんうんと真剣に聞いてくれている。
『それで、相手が意義を言ってこなかったら、強制執行に移れるんですが、
相手の口座番号が解らなくて、おじいちゃまのお家に何か手掛かりになるようなものがあればと思って伺ったのです。』
『そうですか。
うちは現金払いだったからなあ。』
『契約書とかはありますか?』
『ああ、あるよ。』
おじいちゃまは奥へ探しに立った。
身体が不自由なのに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
『娘がしまったみたいで、見当たらないなぁ。』
声より少し遅く奥から帰ってきた。
『夜、娘さんが帰ってくる時間に電話しても大丈夫ですか?』
失礼は承知で聞いてみる。
『ああ、いいよ。
だけど、帰ってくるのは遅いよ。』
『私は遅くても構いませんが、おじいちゃまのお家でご迷惑じゃないですか?』
『うちは娘と2人だから
大丈夫だよ。』
おじいちゃまの優しさに
心が打たれる。
心が痛む。
心が泣く。
おじいちゃまは、娘には言っておくからと玄関で見送ってくれた。
アイコは丁寧にお礼を言い車に向かった。
おじいちゃまにお礼を言い踵を返した時のアイコの顔は怒りそのものだった。
夜になり娘さんが帰宅したぐらいの時間に電話をかけた。
すぐに娘さんが電話に出てくれた。
ありがたい事におじいちゃまが娘さんに話をきちんと通してくれていたらしく、娘さんはアイコをすんなり受け入れてくれたのだ。
腐った奴もいる世の中だが、人情がある人も沢山いる。
挨拶から本題に移った。
『今ね、
契約書や見積りを見ているんだけど、口座番号は何処にもないのよね。』
『そうですか。
でも、そういった物も
コピーさせて頂きたいのですけど。』
『いいわよ。
でも、随分ね。工事させてお金を払わないなんて。』
『私もこんなに酷い会社は初めてなんです。』
『そうなの。
私も後になってこの会社酷いし、高いのかしらって思ったのよ。
変なこと聞いてしまうけど、工事代金はおいくらだったの?』
少し躊躇いがあったが
『負けろ負けろって言われて、押さえて90万です。
あのう、お客様はおいくらで契約したか伺っても
いいですか?』
『総額280万で屋根が200万よ。吹っ掛けられたみたいね。』
娘さんが落胆しているのが伝わる。
200万の金額にアイコは再び怒りが込み上げてきた。
確かに10何年前は
リフォーム業界はまだ今のように変な会社は溢れていなく、バブルが弾けた後もバブルのように、一坪10万から20万で工事する会社が多々あった。
しかし、現代はリフォーム業界は競争だ。
そんな金額で中々やっている会社は少ない。
工事者に払う二倍以上の金額をお客様に請求するなんて詐欺に近い金額だ。
うちが請けてる会社は常に五社近くあるが、その中でも一番高額だろう。
奴らは200万を懐に入れ
50万のみ払い
後はのらりくらりか。
『200万ですか。
びっくりです。
かなり前はリフォーム業界も高額でしたけど、不景気と共に価格破壊になってますから。私は15年くらい、この業界を見てますけど、15年ぐらい前はそのぐらいの金額が普通でしたが、今はそんなに高額な会社は見ないです。』
『やっぱり。
何かにつけて、追加でやりましょう。って言って、何でもお金お金で、いい加減嫌になって、もう結構ですって言ったのよ。』
最低の奴らだな。
取れるとこからはとことん取るか。
『それで、正解ですよ。
あの、領収書もあったら
コピーさせて頂きたいのですけど。』
『いいわよ。関係している物は全部見てみて。』
おじいちゃまだけじゃなく娘さんもとても良い人だった。
『どうすればいいかしら。』
『明後日、おじいちゃまの予定が合えばお借りに伺いたいのですが。それで、近くのコンビニでコピーしてお返しします。』
娘さんはおじいちゃまに予定を聞いてくれ、明後日伺う約束をしてくれた。
『それにしても酷いわね。あんまり協力出来なくて
すみませんね。』
『そんな!とんでもないです。私こそ突然伺って
おじいちゃまを驚かせてしまってすみませんでした。本当にお客様にはご迷惑はおかけしませんので。
あと、お客様とお話出来て良かったです。
迷いも消えました。』
『大変だけど、頑張ってね。あっ、コピーだけど、
わざわざコンビニに行くの大変でしょ?
私が明日コピーして
持って帰るだけにしておきましょうか?』
どこまでも良い人。
『そんな、こちらがお願いしているんですから、自分でコピーしに行きます。』
『いいのよ。そのほうが楽でしょ?』
アイコは無性にこの優しさが嬉しかった。
あまり拒んでは失礼なので甘えることにした。
『すみません。本当にいいんですか?』
『ええ。それじゃあ、明後日用意しておきますね。』
『本当にありがとうございます。』
電話を切った後
歪んだ気持ちは暖かさを感じた。
会った事もないアイコを信用して書類をコピーして渡してくれる。
感謝の気持ちでいっぱいだ。
しかし
よくよく考えれば
奴ら以外アイコの周りは
嫌な人など居ない。
心を歪ませる必要などないのだ。
そう考えたら
お客様の優しさに泣けてきた。
そして吹っ切れた。
同情などいらない。
奴らに人情などいらない。
奴らも経済的に大変なのかと考えていたり、
人間そんなに悪い奴もいないだろうと考えていたりしていたが、全て捨てた。
お伺いする約束の日。
邪心など無く
おじいちゃまと娘さんの事を考えながら、地元名産品を使ってる和菓子を購入した。
きっとおじいちゃまは
また謙遜して中々受け取ってくれないだろうなと
心が笑った。
再びおじいちゃまとお話出来る事が嬉しいような気がする。
怪しまず
同士のように扱ってくれた事がそんな気持ちにさせているのだろう。
そして
初めて会い初めて話をしたのに、信用してくれたからだ。
債権回収は何の進展もないのに、心は前に進み出してるようにさえ感じる。
一時間ちょっとのドライブで到着。
車を路駐出来そうな場所へ停め、お土産を持ちお客様宅へ歩き始めた。
リフォーム住みや新築の多い住宅街。
お客様宅の両隣も新しい。
これならリフォームしたくなるなぁと思いながら
インターホンを押す。
直ぐに
おじいちゃまが玄関を開けてくれ招き入れられた。
『これは、うちのほうで評判の和菓子なんですけど、良かったら召し上がって下さい。』
そう言ってお土産を渡そうとすると
『お金もらえないのに
お金使うことはないんだよ。それじゃあ、反ってわるいやぁ。』
泣かせる。
そんなこと言わずに
感謝の気持ちだからと
無理矢理受け取ってもらった。
少し世間話し本題に入る。
娘さんがコピーし綺麗にビニールの袋に入れられた
奴らの本性をおじいちゃまから受け取る。
『拝見させて頂いてよろしいですか?』
『ああ、どうぞ。』
契約書
見積書
保証書
領収書
どこにも口座情報は
なかった。
見積書の金額は倍々で
吹っ掛けてある。
しっかり塗装の養生代まで取ってあるのに汚してさらに汚しているのかと
呆れてしまう。
そして
最後に目に止まったのは
領収書の日付だ。
手帳を出し、奴らとのやり取りを確認する。
まだ施工代を貰えないから払えない。
お客様がああじゃない、こうじゃないと煩くてまだ貰えない。
等々言ってきていた段階では既に全額お客様は支払っていた。
詐欺師か?
ふざけんな!
簡単に人間を信用してしまうアイコもアイコだが、
最初から騙されていたことが判明し、ぶつける場所がない怒りが沸いてきて収まらない。
だが、ここで奴らに連絡をとって文句を言うのは
先走りで自滅する。
考えよう。
アイコの様子を伺いながらおじいちゃまは
どうかした?
と聞いてきた。
言って良いものか悩んだが奴らの酷い言い草をおじいちゃまに伝えた。
ショックを受けるかもしれない。
だが、リフォーム会社は
一度リフォームすると
何年後かにまた営業しに来たりする。
その時にちゃんと真実を知っていれば断れる。
おじいちゃまにやはりショックを与えたかもしれない。
『あたしはね、誰の文句も言わないし、誰からも文句なんていわれないように
生きてきたんだよ。』
寂しそうに言う。
ごめんなさい。
おじいちゃま。
『銀行の人にね、
【おじいちゃんそんな大金こっちから振り込むようにしますよ】
って言われたけど、現金でって言うからちゃんと払う日に払ったんだよ。』
『嫌になっちゃうなあ。』
『すみません、余計な事を言ってしまって。』
平謝りだ。
『いや、いいんだよ。
あたしは、あんたと話せて良かったんだから。
この間話して、ずっと、娘以外に言わなかったモヤモヤが取れたんだよ。』
『私もおじいちゃまに会わなかったら、おじいちゃまをずっと誤解したままでしたから、お会い出来て良かったです。』
一時間ちょっと話した後
お客様宅を後にした。
丁寧にお礼を言うと
おじいちゃまも
同じようにお礼を言ってくれた。
本当に恐縮だ。
そして車に戻り
タバコに火をつけ少し考えた。
警察。
警察に行ったらどうなんだろう。
相手は払わないとは言ってない。
高額だが施工はちゃんと終了している。
悪徳会社と言っても
このくらいでは
民事不介入とやらで無理なのか?
考えながら車を走らせ始めた。
ナビでこの辺りを管轄する警察署を検索し、さらに考えている時だ
ガシャン
強い衝撃を受けた。
何が起きたか解らないまま路肩に停車した。
助手席側のミラーだ。
鏡は全部粉々。
跳ね返ったのであろうか
助手席側のウインドウも
無数の傷。
ミラーはぶらぶらと今にも落ちそうになっている。
降りて見てみると
何かで止めないと走れない状態だ。
はぁ…
交換かぁ。
何でこんな時にと
どん底に気分が堕ちる。
『電柱かい?』
背中から声がする。
振り返ると家から出てきた感じの中年のご夫婦が心配そうにしている。
『何だか良く解らないんです。』
アイコは本当に良く解ってなかった。
ご主人が電柱を確認して
『やっぱり電柱だね。
この電柱は出っ張っているから、良くぶつける人がいるんだよ。』
正直、何処にぶつけたかはどうでも良かった。
『そうなんですか。』
少しだけ適当に返す。
『でもあれだ、
電柱で良かったね。
人惹いちゃったら大変な事になってたよ。』
奥さんもそうそうと
頷いている。
確かにそうだ。
これが人間だったら
自分が警察行きだ。
このご夫婦は親切にミラーが落ちないようにと、
ガムテープを家に取りに行き貸してくれた。
小さな親切に触れる度に
世の中は腐りきってないって思える。
腐っているのは極僅かと
願いたい。
いつまでも路肩に停まっている訳にもいかないので、ご夫婦にお礼を言いその場を離れた。
そしてディーラーにいる友人に電話し、修理の手配を頼む。
友人は直ぐに手配してくれ明後日には部品が届き、
その日のうちに直るそうだ。
トシにも電話しぶつけた事を報告する。
トシも友人も車よりアイコの身体を心配した。
周りはアイコに優しい。
やはり憎むべきは
奴らだけかと…
ため息まじりに思った。
警察の事は考えず
今日は大人しく家に帰ろうと片側が見えないミラーの車で、ゆっくり家に向かった。
その夜、トシとアイコは話し合い、暫く奴らに連絡をするのを止める事にした。
支払督促発布の知らせが裁判所から届き、その後相手が授受したハガキが届くまではコンタクトは一切取らない。
そして、
その間、コンタクトがあった場合は、ショートメールにて
書面にしてほしい旨を伝えようと二人で取り決めた。
奴らは支払督促が送達されたらどんな気持ちになり
リアクションはあるのか?
もしかしたら、図々しいので配達員からの受け取りを拒否するかもしれない。
意に介さずかもしれない。
異議申し立てをしてくるかもしれない。
逆に図々しいのは仮面で
一人の人間としては
小心者で内心はドキドキするかもしれない。
何れにせよ、連絡を寄越すのではないかと想像する。
何もなければ
奴らに送達された翌日から二週間が過ぎれば
仮執行宣言の申し立てが出来る。
仮執行宣言が受理され奴らがそこでも異議申し立てをしてこなければ強制執行に移れるが、今の段階では
対象にするものが見当たらない。
これは何とかしなければならないことだ。
翌々日には車のミラーが直りすっきりした気分になった。
アイコは
携帯のネットで相手管轄の警察署のページを調べている。
法的にも追い詰めるが
奴らを社会からも追い詰めたくなっていた。
躊躇いなど無いまま
警察署の番号を押した。
【詐欺について聞きたい】と電話口の女性に伝えると担当者に繋げてくれた。
最初に名前や住所を詳細に尋ねられた。
住所を伝えた時に
担当者の歯切れの悪さが感じ取れた。
おそらくこちら側の管轄に言えって事だろう。
アイコは先手を打ち担当者が話せないように話した。
『相手がそちらの管轄なので電話させて頂いたのですが、駄目でしたか?』
『いや、そうでしたか。
それでは、どうぞ。』
取り敢えず話だけは
聞いてくれるらしい。
【民事不介入】
きっとこの言葉がでてくるだろうと思いながら
事の経緯を担当者に話した。
話終ると予想通りの言葉が返ってきて笑えた。
聞いてもいないのに
少額訴訟や法テラスの話をしはじめた。
しかし、とても親身になっているとは感じず、刑事事件としては扱えないのだから諦めろと言われているようである。
アイコは食い下がった。
だが、やはり
【債務不履行】なのだから【民事】だと強調された。
ならばと思い
奴らのお客様に対しての悪行を話した。
あるおばあちゃんのお客様のお宅の話だ。
工事が納得いかずに
支払いを拒んでいたら
ローン用紙を持っていき
娘の名前でローンを組んでくれと何回も迫った。
そこの娘さんは誰もが知っている企業で働いているからだ。
しかも
お客様がちゃんと直してほしいと言っていた箇所に対してクレーマー扱いをし、きちんと直さずうやむやにした。
担当者に感情を悟られないように淡々と話す。
。
おじいちゃまのお家の話ではないが、この際奴らに
警察の手がいけばそれで良かった。
担当者は言った。
『そのぐらいじゃあ、我々は動けないよ。』
『それで、本当に無理矢理用紙に書かせたら動くかもしれないけど、そのぐらいだとね。』
警察がそんなだから
悪徳会社が
蔓延るんだよ!
お前らしっかりしろよ!
そう思ったが敢えて言うのは止めた。
このやる気のない人に何を言っても無駄だろう。
そう言えば
何回も警察に相談していたのに、警察が真剣にならないで、殺されてしまった娘が居たなぁ。
内容は違うが
こんな調子だったんだろうか?
担当者は奴らの社名すら聞いてこない。
こんなもんか。
がっかりだ。
ここは所轄だ。
では、県警に電話したらどうなんだろう。
それでも
対応は変わらないのか?
同じような詐欺まがいの業者に、その場で電話してくれた警官が居たとネットで見たがそんな警官は
希なのかもしれない。
担当者は再び少額訴訟を勧めてきた。
そして、世間話でもしてるような口振りで言う。
『あっ、NHKでもそういう訴訟の番組やってるから、観てみたら。』
馬鹿らしくなったので、適当に話を合わせて電話を切った。
使えない。
社名ぐらい記録として
残してくれたら、
まだ良かったが
こちらの情報のみ、詳細に聞かれただけで終わった。
追い詰めるのは
難しいのか?
いや、追い詰めたい。
追い詰める。
追い詰める。
どうすればいい?
こちらの分が悪くなるような事はしてはならない。
誰かを追い詰めるなんてしたことが無いから思い付かないのは、至極当たり前なのだが、思い付かない事がイライラを助長させる。
登記簿を取り寄せたり
銀行情報を探したりしたり動いているのに、
不発ばかり。
嫌になってくる。
手詰まりを感じている。
そんな思いの中、裁判所から封書が届いた。
開封すると
【支払督促正本発布のお知らせ】だった。
やっと始まったか。
不在だったとして、
郵便局で預かるのは一週間ぐらいだろう。
2日前に発布しているから、今から一週間ぐらいの様子みだ。
異議申し立てを受け取りから二週間以内にしてくるか賭けだ。
奴らは会って話すことを拒む。
なので、異議をだされ
通常訴訟になって直に話す事をこちらは好都合とも考えている。
通常訴訟になったところで、相手は債務者。
弁護士を使ったら費用倒れになる。
おそらく弁護士は使わない。
奴らがどう出てくるか
楽しみだ。
そして、これから色々調べなければ。
奴らに書面上で債務を確定させる方法を。
【債務弁済承認契約書】
平たく言えば
債務を認めさせる契約書。
口頭で結んだ契約でも新たに契約出来る。
その場合、本契約書が無いので、収入印紙を貼る。
そして
それに伴い
分割支払確約書を作り署名捺印を
してもらう。
さて、どうやって
奴らに話を持っていくか。
そろそろ支払督促正本を
受け取った頃だが。
まだ、連絡はない。
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 152HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 165HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1416HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 528HIT 旅人さん
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俺の彼女がクソすぎる
今日彼女とデートしてたんだけど、苦言を呈された 家泊まった時彼女が家事をやった時に俺がありがとうっ…
13レス 664HIT 恋愛好きさん (20代 男性 ) -
まだ若いのにおばあちゃんと言われた
当方女性です。まだ、30代半ばと若く、法令線シミシワがないのに肌が綺麗と言われるし、身長は174cm…
30レス 1097HIT 匿名さん -
離婚の申し出、無視出来る?
離婚届を突きつけられても、無視してそのまま生活できると思いますか? 夫はすぐにでも離婚したいようで…
12レス 439HIT やりきれないさん (40代 女性 ) -
中2娘反抗期、愚痴です。しんどい
完全な愚痴です。 よろしくお願いします。 昨日の夕方、運動部を終えて汗びっしょりになりながら…
19レス 507HIT Jesus (30代 女性 ) -
離婚しても構わないでしょうか
現在結婚7年目、子供はおりません。 主人の行動に最近怒りが収まりません。 私は中学受験専門の家庭…
6レス 261HIT 離婚検討中さん (40代 女性 ) - もっと見る