売掛金回収
年商二千万
個人事業主
世の中
不景気不景気
しか~し
払うものは払って下さい
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2人は車に乗り込み走りは始めた。
『俺はこれから、現場に行くけどアイチャンは今日はゆっくりしてなね。』
とにかく優しいトシに
アイコは
『うん、そうする。
今日はST社の事も忘れることにするよ。』
『そうしな。あいつらの事を考えるとアイチャン具合悪くなるし。』
アイコは、今まで
あまり具合悪い事を言ってこなかったのに
ちゃんと解ってくれてる事が嬉しかった。
家に着き
『お疲れ様』と
コーヒーをいれてくれ
トシは出かけて行った。
午後になり携帯が鳴っているのに気づいた。
ウインドウは
【政策金融公庫】
少し不安の中、
明るくアイコは出た。
『猫田です。』
『先ほどはありがとうございました。
公庫の秋田です。』
何だろう…
『こちらこそ、ありがとうございました。』
『え~とですね、
月々のご返済額のお知らせでお電話致しました。』
ホッとしたアイコがいた。
『今までと変わらない感じでいきたいと思いまして、月々52000円とお利息という形で宜しいですか?』
『はい、大丈夫です。』
『解りました。それでは、今から上司に書類を渡します。』
『わざわざありがとうございます。』
お礼を言って
電話を切った。
アイコは融資否決の電話かもと脳裏によぎったので
切った後かなりホッとしていた。
そして、反応から
可決になるかなと安堵の気持ちが出ている。
秋田さんからの電話の3日後、つまり面談からの3日後。
実家に行っていたアイコにトシから電話がきた。
『アイチャン、公庫から融資可決の封筒きてるよ。』
アイコの脳内にアドレナリンが出た。
『マヂ、良かった。
トシ、
明日は公庫に行ける?』
最終段階は
公庫から届いた書類に記載事項を記入し
印鑑証明と一緒に提出するのだ。
『ごめん、
明日は俺が行かないとダメなとこなんだ。』
面談以外は本人でなくても大丈夫なので
『じゃあ、あたしが行くから、今から書類書いちゃって。もう少ししたら帰るから。』
『うん、ごめんね。いつもいつも。
ゆっくり、してきていいからね。』
そう言ってくれたが、
本人が行かない場合、
不備があると訂正の為に
出直さなければならなくなるので、書類の確認の為にアイコは父母に帰るねと挨拶をし、ばあちゃんのお仏壇にお線香をあげ手を合わせ
【ST社で苦しみませんように、見守ってね】と
ばあちゃんに言って
急いで車に乗り込み帰った。
『ただいま。』
『おかえり。
ゆっくりしてきて良かったのに。』
書類を確認しながら
トシが言った。
『けと、不備があると出直しだから、一緒に確認しようと思って。』
『そっか、ありがとね。』
そう言いながら、
記入しはじめた。
可決金額が入っている用紙に氏名住所捺印
銀行口座の記入
口座印
個人情報取り扱いについての署名
団信の記入
簡単なメディカルチェックの記入
等々だ。
後は明日
市役所で印鑑証明を取得し一緒に持参する。
念のため実印、認印を持参する。
全て記入しチェックも終り、封筒にしまい
明日の準備は終了した。
翌朝、午前中に済ます予定にしていたアイコは
8時半に家を出発し
市役所へ向かった。
印鑑証明を取得するATMのような機械に市民カードを入れ、何かあったらと
二通取得し、
急いで車に乗り込み
約15分くらいの公庫へ車を走らせる。
コインパーキングに停車させ、書類を全部出し
確認した後、
日傘を差し公庫へ向かい歩き出した。
エレベーターに乗り込み
公庫に着いた。
自動ドアをくぐり
受付へ真っ直ぐ歩いていく。
『おはようございます。
どんなご用件でしょうか?』
女性事務員さんが相変わらず丁寧に尋ねる。
『おはようございます。
融資実行の書類を持参したのですが。』
『かしこまりました。
では、担当をお呼びしますので、お掛けになってお待ちください。』
何故、朝早くからいそいそと手続きをしに来ているかというと、アイコは
誰もが認める程のネガティブ人間なのである。
何に対しても
もしかしたら
もしかしたらと悪い方向ばかり考えてしまう。
だから、早く済ませ
これは現実に事が運ばれていると実感したいのである。
担当者に呼ばれ待っていた椅子の真向かいのカウンターの椅子に座った。
この最後の作業は事務的にことが運ばれた。
全ての書類のチェックをし、印鑑証明と実印の照合で終りである。
担当者がカレンダーを取りだし尋ねてきた。
『最短で
来週の火曜日になりますが、宜しいですか?』
『はい、宜しくお願いします。』
アイコは現実だと思いながら答えた。
『では、
これで終りですが、何かご質問はありますか?』
担当者に言われたので、
質問はなかったが
『あの、秋田さんに素早い対応ありがとうございました。と、伝えて下さい。』
アイコの本心を述べた。
担当者は秋田さんを呼ぼうとしてくれたが、お仕事中なので丁寧にお断りし、
もう一度お礼をし公庫を後にした。
今日は金曜日で来週の火曜日に公庫からの融資実行。
心配性でネガティブなアイコはこの期間が物凄く永い時間に感じ、
何か不都合が生じて
融資が中止になったらどうしようとか
悪い事ばかり頭に浮かんで仕方なかった。
申し込みから融資まで
2~3週間かかると、良く聞くが、今回は11日間で全てが終了した。
政策金融公庫と名を聞くと国の機関で事務的な感じがするが、とても人間味溢れる良い人達だったと
アイコとトシは感じていた。
土日を越し月曜日。
気が気じゃないアイコ。
アイコとは対照的で
かなりポジティブなトシは
大丈夫!
そんなトラブルないよ…と言いながら仕事に行った。
それでも悪い方へ考えがいってしまうアイコ。
なるべく考えないようにすることにしていたが、
こちらを考えなければあちらでST社のことが頭にでてくる。
【お盆前に電話下さい】
6日にそう伝えたが
果たして電話をしてくるのだろうか?
アイコ自身、あまり期待していなかった。
こちらから電話しない限りしてこないだろうと考えていた。
いつの間にかST社の事で
頭の中がいっぱいになってきた。
ST社のことを考えているとヒステリックな東氏を思いだし動悸が始まる。
このたありでアイコは
心療内科の受診を検討しはじめていた。
平常心を保てなくなりつつあるのが自分で良く解るからだ。
毎日、時間があるとネットで色々な事例を調べたり
弁護士・司法書士・行政書士のサイト調べている。
しかし、アイコの精神状態が行動を起こせる状態にない。
活力が急激に減少しており、猫田板金の事務をし
家事をやっとこなしている状態なのである。
そんな状態で東氏にコンタクトを取ることをかなり気持ちの上では拒んでいるが、逃げ得的なことは
曲がった事が大嫌いなアイコには許せない事。
気持ちの葛藤を続き
更に気持ちはおかしくなっていく。
火曜日になり
午前中にネットで確認すると公庫からしっかり振り込まれていた。
一つ胸のモヤモヤが解消された。
あとはST社だ。
今日は10日だ。
お盆前に電話の約束など
到底破ることを見越し
明日、電話してみることに決めた。
反応はどうなのか…
またヒステリックになるのか…
考えるだけで嫌になる。
8月11日。
意を決して電話をした。
出ないと思っていたが
案外簡単には出た。
だが
『今、お客様のとこで話が出来ないんです。』
また、逃げか?
そう思ったアイコは食い下がった。
『では、いつでしたら大丈夫ですか?』
『明日なら…』
『明日の何時ごろならお話出来ますか?』
逃がさないように
時間指定だ。
『お昼過ぎなら。』
【明日のお昼過ぎ】
よし!日時指定だ。
これなら
いくらなんでも逃げないだろう。
『解りました。では、明日のお昼過ぎ位にお電話致します。』
東氏本人が指定してきたのだから、いくら何でも
話すだろう…
アイコは、こちらの考えが安易すぎた相手だったと翌日痛感する。
翌日、アイコはわざわざ時間を作り指定時刻の
【お昼過ぎ】に電話する。
昨日同様にすぐにでた。
しかし
時間指定にも関わらず
『今、お客様の現場なので、ちょっと』
何?
あんたが昨日【お昼過ぎ】って言ったんでしょ?!
いい加減にしろ!
などの感情が沸いてきたが押し殺し
『夜なら大丈夫ですか?』
冷静に尋ねた。
『夜なら
大丈夫だと思うのでこちらから電話します。』
信じやすい性格のアイコは
その言葉を鵜呑みし
電話を切った。
わざわざ時間を作って電話したのにも関わらず
昨日と同じセリフ。
しかし夜まで待とうと
アイコは素直に思っていた。
【夜】と言っても時間の幅は広い。
人によって【夜】の時間帯の感覚も違う。
アイコは辺りが暗くなる6時頃から携帯を常に自分の元に置いていた。
しかしながら、そんな行動も虚しく
7時になっても
8時になっても
9時になっても
電話はかかってこなかったのである。
10時過ぎて
今日はかかってこないと
思う反面
また、約束を破るのかと
怒りが込み上げてきた。
怒りが込み上げてきたが
それに任せて感情的になってしまっては
相手のヒステリックと同じになってしまう。
アイコは1日空けて
冷静に掛け直そうと決めた。
これだけ約束を破られると人間不信になりそうだと
アイコは思ったが
東氏はヒステリックにならずに今回は対応してきているので、明後日電話をしたら、入金予定などの確認が出来るかもしれないと
淡い期待をしていた。
翌々日、今日こそはと思い電話した。
今日こそは、そう思っての電話だったが
『今日もお客様の現場でちょっと無理なんです。』
同じセリフが飛んできた。
電話を切ろうとする東氏にアイコは切らせてはならないと思い尋ねた。
『夜に電話を頂けるって事だったのでお待ちしてたのですが?』
『あっすみません。
時間がなくて。
後でこちらから電話しますから。』
東氏は半ば強引に会話を終了し電話は終わった。
バカにされているのか?
本当に忙しいのか?
逃げているのか?
この人間は信用などしてはいけない部類だと
改めてアイコは思い
とりあえずあまり期待はしないが、折り返しの電話を待つことにした。
その日も夜まで待ったが
やはり予想通り電話は
無かった。
ここまでされると
敵対心しか出てこなくなる。
相手がきちんと話した上で待つのと
話すこともせず
虚偽ばかりになれば
普通に対応していては
彼らは永劫に虚偽で終らせるだろう。
もう一度だけ
明日電話をし
次に何をするか考えることにし、アイコはその日を
終りにした。
【三度目の正直】
とあるが、
【四度目の正直】だ。
アイコが電話すると
やはり普通に出た。
そして
また同じ事を言ってきた。
『今、お客様の現場でお話が出来ないんです。』
『では、いつならいいんですか?』
『こちらから掛け直しますから。』
これで電話は終わった。
アイコは非常にバカらしくなってきた。
きっと
何回電話したところで、これからも同じ事を繰り返し逃げるのだろう。
アイコはバカらしくなったのと、時間の無駄だと思い
電話するのは止めにした。
図々しく
払わない事を悪びれない相手をどうやったら払わせられるか…
調べた限りでは
このように図々しい相手は逃げ得をしている輩が非常に多い。
そんな事が
許されていいのか?
と疑問に感じながら、
アイコはパソコンに向かい始めエクセルを開いた。
先ずは五万入金後の請求書を作成し、それとは別にわざと繰越残金を表す請求書を作成した。
そして
請求書のファイルを閉じ
新たにエクセルを開いた。
何をするかと言うと
今度は手帳を参考に
6月から今日までのやり取りの経過を全て
日付を入れ事細かに
入力したのだ。
三枚の用紙をプリントアウトし、次はワードを開いた。
ワードでは
【ST社御中千川様】で
文章を作成する。
連絡は着くが話が進まないこと
7月8月で五万のみのこと
司法または第三者の介入
などを入力し
最後に分割にするならば
お知らせ下さい並びに
必ずご連絡下さいの2つの文章を太字にし強調して入力した。
合計四枚の用紙を
封筒に入れ、宛先を書いて封をした。
こちらの電話に応じないが故に経過表なるものを作成し、送ることにしたが
言わば宣戦布告ととられるかもしれない。
だが、
話も出来ない、
手紙を送ったところで応じないのだから仕方がない。
しかし
…反応が少し怖い…
『宣戦布告になるかも。』
仕事から帰宅したトシにアイコが言った。
『何するの?』
当然の質問だ。
『今までのやり取りを表にして送るの。』
話ながら
パソコンの保存したファイルを開きトシに見せた。
『やるね、アイチャン。』
『トシがやらないからでしょ。』
ちっくり
にんまりアイコは言った。
にんまりの意味は、
ちっくり言ったけど
この役目は私でいいんだよの意味だ。
トシは仕事に関しては
定評があるが
駆け引きはとても苦手としている。
そんなトシが彼らにやり込められるのは目に見えているからだ。
『で、送ってOKかな?
向こうがどうでるかは解らないけど。』
『いいよ。』
軽く返ってきた。
『あのさぁ、こんなことして、トシは違う会社とかに言われちゃったら分が悪くなったり、付き合い難くなったりとかは無いの?』
『全然。』
平然と答えられて
少し拍子抜けのアイコは
もう一つ聞いた。
『じゃあさぁ、ST社と付き合いがあって、うちも付き合いのある取引先は無いの?』
『付き合いって言うか、
まあ、知ってるとかはあるけど、千川さんと俺のどっちを信用するって言ったら俺だと思うよ』
トシは続けた。
『二、三の会社は被って知り合いだけど、あの人、信用度低いらしいよ。』
『そんな会社の仕事を安易に受けちゃった俺は反省だよなあ。』
申し訳なさそうに言うトシにアイコはフォローする。
『でも、ST社は今まで単発で受けてもちゃんと払ってくれていたんだから、
今回のことは仕方ないんだよ。』
そう…仕方ない
不景気のあおりを受けたんだ。
下を向かない為にはそう思うしかない。
仕方ない…不景気だから。
仕方ない…不景気だから。
だが、それに甘えて払わない行為は許さない。
人の道に外れているだろう。
不景気を良いことに
払おうとしないで、自分はのうのうと自社を維持していくなんて事はあってはならない。
しかしながら、沢山のサイトを見たアイコは実に泣き寝入りや取りっぱぐれの人が多く存在することが解った。
心の奥底では
…もう無理かも…
そんな思いも出てきている。
払う気が無くとも
やり込めてやりたい気持ちでいっぱいだ。
このままでは終りにはしない。
アイコは
自分の精神は持つか…
常識の中で育ったアイコにとって、払うべきものを払わず逆ギレしてくる相手は
かなり異種な存在であって苦しめられている。
その異種な存在は
自分の言い分を通すやっかいな代物だ。
アイコはまだ心療内科を受信こそしていないが
限界が近づいていることが解っていた。
現に動悸、手の震え、不眠症が続き体調不良を起こし、食欲不振に陥っている。
ST社との付き合いを止める以外快復はないだろう。
作成した文章の送付方法。
普通郵便ではまったく足跡が辿れない。
かといって配達証明をつければ、受け取り拒否も有りうるし、前回のように期限ギリギリまで受け取らない場合も考えられる。
そこで、問い合わせ番号があるメール便を使うことにした。
コンビニから簡単に送れるし料金も安い。
配達も早い。
前回の速達配達証明を送った時の事を思い出すと
全く速達にした意味が無かった。
郵便局まで行き速達料金を払い送った意味の無い配達証明郵便。
そもそも何故こちらが
そんなに手間暇かけてお金を使うのかも疑問に感じしてまう。
果たして今回は効果が生じるのか…
いや
生じてもらわないと困るのだ。
『メール便でお願いします。』
セブンイレブンのレジへ
封筒を出した。
手際の良いレジ係の女性はあっという間にレジをこなし控えを渡してきた。
このあっという間の時間が物の何十秒間がアイコには
長く感じた。
頭の中では
本当に送っていいのか?
あの自分本位の人間が指摘されて激怒するのではないか?
そんな考えが
ぐるぐる頭の中を回っていた。
帰りの車中、やはり送るのを止めて取りに帰ろうか悩んだ。
それほどあのヒステリックな話し方に神経がやられていた。
何か行動しなければ
何も変わらない。
良い方へ転ぶか
悪い方へ転ぶか
それは解らないが、何もしないよりはいい…
思い直したアイコは、普段は片手運転だが、固めた心を現すかのようにギュッとハンドルを両手で力強く握りしめアクセルを踏んだ。
心を固めた後は
今後の展開を考えた。
どの様な形でも連絡を頂きたいことを文面にいれたが彼らから連絡を待って
それでも来なければ
こちらから電話しなければならない。
なるべくなら簡潔に話を終わらせヒステリックな声は聞かないで済ませたいものだ。
県内同士なので
明日明後日中には着くだろう。
気持ちを整え待とう…
アイコは願いは叶わない事と自身感じながらハンドルを固く固く握り続けた。
彼らからは翌日も翌々日も連絡がない。
こちらは心を構えて待っているというのにだ。
この輩達はまともにはいかないと感じてはいたが、
ここまで酷いとは思わなかったのでかなりの戸惑いが出てきた。
電話をしようかどうしよかと悩むばかりで
携帯に手を伸ばせないでいる。
言うまでもないが、自己に非があるのにヒステリックに話す相手をするのかと思うと躊躇いばかりになるからだ。
躊躇いばかりの中、さらに1日経過していった。
どう考えても送付した書類は彼らの手元にある筈なのに。
40万。
彼らにとってはどのような金額なのだろうか?
逃げ通せる金額だとでも思っているのだろうか?
一般サラリーマン家庭にしたら一月分に値するだろう金額だが、払わない、連絡しない、意思を示さないでおり、何を考えているのか知りたいものである。
【いつまでに入金します】等、予定を告げてくれれば可愛いげもあるのだろうが、彼らには可愛いげもへったくれもない。
ヤキモキした気持ちのまま夜を迎え、既に電話をするには遅い時間を時計が差している。
電話を出来ずにいたのに、掛けれない時間になると
掛けなかったことに対しての苛立ちと後悔の気持ちに襲われた。
掛けなくちゃ掛けなくちゃと強迫心が出てきて
自己嫌悪だ。
全くもって悪循環なパイプの中をぐるぐると回っている。
じゃなかったらメビウスの輪だ。
裏と表が解らず
裏側だと思って行けば相手は表側だと思い行ってしまう。
輪をハサミで切って
ねじれを修正し
裏と表をはっきりさせ対峙しなければいけない。
ハサミは携帯。
次の繋げる為に貼り合わせる粘着剤は司法。
明日はハサミを入れなければ。
相変わらず不眠症で眠れないアイだが目をゆっくり閉じた。
翌日、
メビウスの輪を切るためのハサミの携帯を開き、東氏の名前を画面に出した。
【何言われるだろう】
【またヒステリックになるのかな】
嫌なことしか頭に浮かばないが、彼らが接触してこないのだから、こちらから接触しかない。
携帯の録音機能を確認し
発信ボタンを押した。
携帯の説明書を捨ててしまったので、どのぐらい録音出来るかは定かではないが、相手がヒステリックになり始めたら録音するつもりである。
呼び出し音が始まり、アイコの鼓動は早くなった。
コールが重なるにつれて、鼓動は早くなり手が震えだす。
重症だな…と認識しながらも、ここで引くわけにはいかないと言う気持ちが勝り、相手が出るのを待つ。
コール音が止んだ。
『東です。』
…出た…
落ち着け
落ち着け
落ち着け
闘いが始まるか
締結になるか…
『猫田ですが、お世話になってます。』
少し間が空き、あちらは何も言ってこない様子が伺える。
アイコは柔らかく言う。
『こちらから送付した封書は届きましたでしょうか?』
また間が空く。
………
………
今度はあちらが口を開いた。
『ああ、メール便のですよね。』
『そうです。それで、』
まで言いかけたら
機関銃もしくは
戦車の連続砲弾のように
こちらの話を遮り口火を切ってきた。
『ちょっと!
何なんですか?
あの表は!!!!』
かなりのボルテージだ。
ヒステリックは最初から始まり、しかも最初からマックス状態に入っている。
アイコは携帯のメモボタン(録音機能)を押してから
冷静に口を開いた。
『何度、お電話しても、』
言い終らない内にまた機関銃を撃ってきた。
『あれじゃあ、まるで私が嘘つきみたいじゃないでしか?千川さん宛に送ることないでしょ!!!』
いや、実際嘘ついてるし、千川さんは代表であり、担当者の東氏が話しにならなければ、代表宛に送付するのは当たり前だ。
何を自分本意に捉えているんだこのヒステリックな人は?
アイコは
【ふざけるな!】と思いつつ冷静にいかなければと心臓に手をあてた。
アイコは冷静に戦をする。
『東さんに何回お電話してもお話出来ないから、千川さんに送らせて頂きました。』
今度は最後まで言えた。
『わたし、
今は話せないからって言いましたよね?!』
おいおい、そのあとに
【掛け直す】って言ったのもあんただよ。
アイコは相変わらず話が通じない相手だなと怒りもあるが、失笑気味だ。
『ですが、東さんは掛け直すって仰いましたよね?
それにお盆前にお電話』
『言ってませんよ!!』
話が終らない内にまた遮りだ。
うんざり
うんざり
うんざり
あ~あ
こんなに興奮して血管切れちゃうんじゃないのかな、おばちゃんヒステリックパワーはさらに増大。
『言ってませんから!』
『ですがね』
『言ってません!!』
『あの』
『言ってません!!!』
『言ってません!!!!』
ダメだな、この人。
『興奮なさらないで下さい。』
アイコの一言に
ヒステリックはマックスを越えた。
『奥さんが興奮させているんでしょ!!!!!!』
物凄く憎らしくなってきたアイコは言った。
『私はすごく冷静なんですけど。』
さあ、今度はどんな機関銃を使うのかな。
『わたし、6日に電話した時に、次はまだ解らないからまた連絡するって言いましたよね?!
なのに、何回も電話してきて
嫌がらせかされているのかと思っちゃいますよ。
それに、こんなことしてくるのは奥さんとこだけですよ!!!!!』
一気に機関銃を連射してきた。
またまた自分本意。
自分は正しいと思って発言を繰り返しているのか、
自分の非は解っていて回避するために理に合わない発言を繰り返しているのかは、本人にしか知り得ないことだが、こんな人間を相手にしていると心が荒むのだけは事実だ。
アイコはまたしても冷静に
答える。
『うちだけ五月蝿いとおっしゃいますが、
連絡してもお話が出来ない、代表者と連絡がつかない状態でしたら、今の世の中このぐらい何処の会社もしてますよ。』
さあ、次の機関銃を撃って下さい。
『こんな
いちいち書き留めたのを
送ってきて、わたしも今日の会話をメモしますからね!!』
都合が悪くなると話を変えてくる。
変わらずだなぁ~
キンキンした声でまくし立ててくるのは止めてもらいたいものだ。
耳が
可笑しくなってしまう。
別に非がないので
『どうぞ、
お書き下さい。』
相手が
冷静さを感じとれるようにゆっくり伝えた。
『書きますよ!
え~と』
本当に書いてるのかは知らないが滑稽だ。
そして、こんなくだらないやり取りを延々続けない為にアイコは提案を出した。
『一度
お会いしませんか?』
『えっ?』
『遅れているのは事実であり、仕方ないことですが、入金日や分割で払うならその旨を書面にして頂きたいんですけど。
で、今後は書面通りのやり取りを行い、遅れなどある場合のみ連絡を取り合うことにしませんか?
そうすれば、私と話して不快な思いをしないんじゃありませんか?』
『いいですよ。
相談して25日までに連絡します。』
売り言葉に買い言葉なのか案外あっさり了承してきたので、拍子抜けしたが
応じてくれるなら拍手ものだ。
まあ、本当にそうしてくるかは甚だ疑問ではあるが、一歩進めたような気がしてきた。
こんなに簡単に信じてしまうアイコは世の中の理不尽さをあまり体験していないからだろう。
一週間、気が気で無かったが、25日まで待った。
【電話したのに出ない】
そう言われるのは癪なので、その日のアイコはトイレにまで携帯を持ち込んだ程、準備万端で掛かってこない電話をひたすら待っていた。
その状態で夜を迎えたが
やはり掛かってこない。
アイコは
今まで散々な目に合わされたのに、少しでも信用してしまった自分の愚かさが
嫌になってきた。
出るのは溜め息。
人間とは怖い生き物だ。
簡単に人を裏切る。
簡単に嘘をつく。
仕事上の付き合いでこんな人間に出会うとは思いも依らなかった。
ない袖振れないのか
袖はあるが振らないのか
それすらも知り得ない。
1日猶予をみて明後日連絡を取るつもりだが、
もう信用するのはやめだ。
翌々日、電話をする前に
【録音はどの部分まで出来てるだろう。】
と思い、アイコは再生をしてみる。
何故、直ぐに確認しなかったかと言えば
あまりにヒステリックな彼女との会話に心は荒み、とても再生する気になれなかったからだ。
再生が終わり
アイコは呟いた。
『失敗だ』
録音した部分に
【25日までに連絡する】
が入っていなかった。
こちらの声は録音されないらしいこの機能は彼女の興奮したキンキン声で
溢れており、一度聴いて気分が滅入ってしまった。
失敗はしたが、終始興奮状態でまともに話が成り立たないことが良く解る内容。
何かいつか使えるかもしれないので、嫌だが消去せず残しておくことにした。
再生を聴いただけで鼓動が速くなった。
大丈夫か?
自問自答。
今までで出会った人間で
一番ヒステリック、そして裏切りの連続。
詐欺師にならないぐらいの巧いやり方。
完敗などするつもりは無いが、関わる度に自分の心が壊れていく。
メビウスの輪は切ったつもりで切れていなかった。
また後退。
溜め息をつきながら
東氏の名前を携帯の画面に出した。
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マイナンバーカードって任意なのに、マイナンバーは?と聞かれて作ってないという、作ってないの?なんで?…
28レス 983HIT ちょっと教えて!さん -
あまりにも稚拙な旦那にウンザリです
1)私の旦那は私の反対を押し切り転職し 自分の実家の会社に行きました。 案の定、全く合わなく直ぐ…
11レス 410HIT 結婚の話題好きさん (30代 女性 ) -
彼女に敢えて冷たく接すべきか悩みます
どうすれば良いか教えてください 自分24歳男、彼女25歳 先日2人で旅行に行った際、2日…
18レス 685HIT 恋愛好きさん (20代 男性 ) -
自分は47なのに、29の私に女として終わりと言う彼
付き合って4ヶ月になる彼氏なのですが、話していて ん…?となることがよくあります。 ・一般常識…
20レス 614HIT 聞いてほしいさん -
怪しくないでしょうか?
彼氏がSNSに、高層で夕暮れの景色をバックに、お風呂のような桶で撮ったピンの写真をあげていました。 …
6レス 203HIT おしゃべり好きさん (20代 女性 ) - もっと見る