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離婚しても構わないでしょうか
俺の彼女がクソすぎる
社会人の皆さんへ

− 乱舞 −

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麗( hXqgi )
09/12/19 13:06(更新日時)

私には 部屋が二つ有る


キラキラとした夜景が広がる高層マンションの一室


広い部屋の真ん中には 大きなダブルベッド


私は週に二度 20才も歳の離れた貴方《優一》に 愛される…

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No.1159411 09/03/24 00:33(スレ作成日時)

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No.151 09/07/30 14:57
麗 ( hXqgi )

風邪を引いたら
大変だと
自分が纏っていた
ショールを
私にかける


……
 この人は
 何故こんなに
 真剣になって
 いるのだろう…


 優一の子供かも
 しれないと言うのに
 平気なのだろうか…


 この微笑みは
 本物なの?

 それとも
 里美はまた
 何かを企んでいるの?
         ……


あの時の
取り乱した
里美を
思い浮かべながら

複雑な思いで
マンションへ戻る


『じゃあ私は
 これで帰りますね
 ちゃんと
 ゆっくり
 横になって
 休んでいてね』

何ひとつ
真意を確かめ
られないまま

里美の
背中を見送る


ドアが閉まると
同時に
すぐにでも
優一に逢いたいと
私は願っていた

No.152 09/08/03 12:20
麗 ( hXqgi )

ブブブ……ブブブ…

バッグにしまった
携帯が短く
バイブした

奥底に入った
携帯を取り出し
メールを開く

【麗ちゃん…
 俺…やっぱりダメだ】

私はどこまで
悪魔なのだろう…

メールでは無く
電話帳から透の
名前を探し
発信ボタンを押した

コールしたと
同時に通話に
切り替わる


『透?透!ねぇ!
 透でしょ?
 もしもし? 』

『… 麗ちゃん…
 ごめん… 俺…』

『透、ごめんね…
 ちゃんと謝らなきゃ
 って思ってたんだ』

透は謝ったきり
何も話さなくなった

『透!お願い!
 マンションに来て
 彼が来る前に
 ちゃんと話して
 おきたいの
 お願いだから来て』

透の話しなど
お構いなしに
悪魔が甘える様に…
懇願した

……
 透に何を
 話すと言うの?
 まさか
 あなたの
 赤ちゃんかも
 
 そんな事話すの?
 
 出来るはずない

 少なくとも
 今は美砂と
 一緒に居るんだから
 
 麗……?
 あなたの悪魔は
 いつになったら
 
 消えてくれますか

………

No.153 09/08/03 12:47
麗 ( hXqgi )

来ない事を祈り

来る事を祈った


私の心は
いったい
どこに有るのか
自分自身解らない


少しだけ
下腹が
重苦しく痛むが

まだそんなに
気にならないと
言えばならない


電話を切ってから

美砂は
どうしてるのだろう?

うまくやってるの?

ダメって何が?


当然のように
来る事前提で
考えている


最低で最悪な私


どこかで
《透に愛されてる》
という自信が
消えなかったのも
理由ではなく


本能が
感じていた気がする

No.154 09/08/03 20:08
麗 ( hXqgi )

予想通り
透はやって来た


玄関を開けると
そこには

まるで
少年みたいに
華奢でか細い
透が立っている

『透… 』

姿を見たからなのか

悪魔では無く
母性が
光を放つように
私を包んだ

涙で声にならない

抱きしめる
腕の中の透は

力を入れたら
壊れてしまいそうな程
痩せてしまっている

『透… ごめんね
 寒いから入って』

三月といえ
まだまだ寒い

『珈琲でいい?』

コーヒーメーカーに
水を入れ
スィッチを入れた


『美砂とは
 仲良くやってる?』

『俺… 多分
 彼女を
 傷付けてる』

『そう…』

聞かなくても
簡単に想像が出来た


コーヒーの香りが
立ち込める部屋で

透は美砂との事を
静かに話し始めた

『麗ちゃんの事
 諦め様って
 努力もしたし
 美砂を愛そうって
 決めたのに
 結局彼女を
 傷付けただけだった』
 


小さな小さな
震える声だった

No.155 09/08/10 08:38
麗 ( hXqgi )

湯気のたつ
コーヒーを
一口飲むと

透は話し出す

『…出来たんだ』

『えっ?
 何が出来たの?』

消え入って
しまいそうな
小さな声が
聞き取れない

私は透を
覗き込む様に
傍に座った

『美砂に…
 子供が出来た…』

  
……
 子供って…?
 美砂が妊娠した
 って事?  ……

私は暫く
声も出せず
ただ黙って
コーヒーを飲んだ

美砂が透の
赤ちゃんを?
 
仲が良かった
あの頃なら
彼女の妊娠を
喜べたのだろう

今では
状況が全く違う

美砂が透と
付き合う事も
私は認めていた
訳じゃない

心の片隅で
いつも透は
必ず戻って来る

そう感じていた

高飛車だろうと
傲慢だろうと

そう感じていた


それなのに…
妊娠?
有り得ない…

私は少しだけ
パニックになっていた


『で、どうするの?』

私の悪魔が
囁いた

最低な女だ

No.156 09/08/10 09:14
麗 ( hXqgi )

『俺… … 
 俺、最低だよ
 美砂に
 生まないで
 欲しいなんて…』

泣きながら
頭を抱える透が
また愛おしくなる

『透… 美砂は
 美砂はなんて?』

『わからない…』

携帯も繋がらず
二人が暮らしていた
部屋にも
戻っていない

美砂の行方が
わからないと言う

……こんなに
 透を苦しめる
 なんて……

数日まともに
睡眠が取れないと

やつれた顔で
涙を流す透を
目の当たりにし

私のしてきた
事など
まるで忘れた様に
棚に上げ

少しだけ
美砂を憎んだ

『少し眠ったら?』

ベッドを指差し
透に言うと

『ソファーで
 寝かせて…』

そう言って
倒れ込む様に
横になった

ほんの数秒足らずで
透は寝息をたてていた


『可哀想に…』

布団を掛け
透の頬にkissをして
私もソファーに
寄り掛かり座った

No.157 09/08/10 15:25
麗 ( hXqgi )

…………

どれくらい
時間が経ったのか…

また鈍い
お腹の痛みに
目が覚めた…

 …… えっ? ……

下着がかなりの
違和感を与える

私は慌てて
トイレに駆け込んで
下着を下ろした

まるで生理の
時と変わらない
真っ赤な血液が
下着を染めている

慌てた私は
急いで下着を替え
ナプキンをあてて
ベッドに
横になった


……大丈夫…
   きっと大丈夫……

大丈夫な訳がない
出血が
どんな意味を
持つかくらい
解っているはずだ

どうしても
この子を生みたい

勿論
母親になりたい
という気持ちも
当たり前に有った

でもこの時は

美砂の事も
里美の事も

生む事で
《勝てる》
そんな浅はかな
考えが頭を
過ぎっていた


一時間が過ぎ…

二時間が過ぎ…

じっと
横になってる
にも関わらず
温かい血液が
流れ出るのを
止める事は
出来なかった


……ダメだ…
助けて下さい
       
どうかこの子を…

どうか… 私を……

No.158 09/08/10 16:02
麗 ( hXqgi )

テレビドラマで
観るような
激しい痛みはない

重苦しい
生理痛程度の
痛みが続く


下腹部からは
どんどん
その量を増やし
流れ出るのが
はっきり感触となり
伝わって来た


完全にダメだと
解っていた

ダメだと確信したら
今度は怖くて
トイレにも行けない


母親になろうと
していた私は
少し前に本で読んだ
《流産》に
関する項目が
蘇ったのだ

《赤ちゃんが
 出てる場合が
 有るから
 流れたものは
 病院に持って行く事》


何が怖いのか
解らないけど
ものすごく怖い

流れ出るものが
時々固まりで
有ろう感覚に

確認する事も
出来なくなってしまう

『タスケテ…トオル…』

目の前で眠る
透にすがるしかない

『オネガイ…タスケテ…』


『麗ちゃん?
 どうしたの?』

私の異変に気付き
近寄って来た

『…トオル… 
 赤ちゃんが… 』

『赤ちゃんって?』

驚いて聞き返す
透に説明もせず

『トイレに
 行きたいの
 一緒に来て…』

私は無謀な
お願いを
透にしていた

No.159 09/08/10 21:34
麗 ( hXqgi )

『トイレ?』

透の手を取り
扉を開け
便座の前に立つ

足が僅かに
震える…

『透… お願い 
 私の下着を下ろして!
 赤ちゃんが…
 お願い…
 確かめて欲しいの!』

声が震えた

『赤ちゃんって… 』

『お願い…トオル…』

私は目をつむって
深呼吸する


この事態が
何を示しているのか

大体の予想は
出来ていたに
違いない

透も呼吸を
整えていた

『怖いよ…トオル…』

向かい合う
透の肩を
ギュッと掴かんだ

『神様…タスケテ…』

透の身体が沈み
彼の目に
壮絶な光景が
飛び込む

『麗ちゃん…
 病院に行こう』

『透… 赤ちゃんは?』

『麗ちゃん
 下着はどこ?』

私の問いには
答え様ともせず
透は
下着の有る場所や
タオルの有る場所を
聞いては足早に
動き回り
丁寧に処理をした

冷静でいる様に
見えた透が
震えていた事を
知ったのは

『大丈夫だから』

そう言って
私を抱きしめた
時だった

No.160 09/08/10 23:38
麗 ( hXqgi )

神様……

神様は
やはり私に
天罰を
下すのですか…


神様…

どうかこの子を
助けては
もらえませんか…




私の
やって来た事は
決して許される
はずはない


どれだけ
人を傷つければ
気が済むのだろう

動揺する私の為に
震えながら
気丈に振る舞う透も
確実に
私が傷つけた一人だ


『残念ですが
 赤ちゃんは
 もう居ません

 このままに
 しておけば
 母体が危険です
 手術になりますが
 承諾して貰えますね』

咄嗟に
首を振って
透を見つめた

……やめて……

『お願いします』

私を抱きしめ
透は告げた





……
 何故?何故
 私では無く
 赤ちゃんが
 犠牲になるのですか

 罰なら私に下さい   この子では無く
 どうか私に
        ……


神様は
確実に天罰を下した

私の願いなど
叶うはずもない

No.161 09/08/17 09:59
麗 ( hXqgi )

小さな院内は
慌ただしく
動き出していた


『今日最後の
 食事は何時?
 この時間だと
 夕食はまだね?』


吐いた物を
詰まらせて
危険だからと

女医は麻酔の
為の確認をとる

『食事はしてません…』

私は視線を
定めないまま
虚に答えた


『麗ちゃん…
 勝手に決めて
 ごめんね ごめん…』


麻酔が打たれ
薄れ行く
意識の中で
透のか細い声が
何度何度も
こだましていた

No.162 09/08/17 10:36
麗 ( hXqgi )

閉じた瞼の
上から
光が射すのがわかる

遠い波音

海猫の声…


寝そべる
感触は
温かい砂浜


 … ママ- …

 - ザザザザザパーン -

波音に
掻き消され
聞き取れなかった声が
少しずつ…
また少し…

近付いて来る

  『ママ…』

その
愛らしい声は
寝そべる私の
耳元でハッキリ
聞こえた


……あの時の子だ……

瞬時に
記憶が蘇る
    
私は目を
閉じたまま
不思議と愛おしい
その動きを
逃すまいと
神経を集中した


『マ-マ』

小さな女の子は
そう言って
私の胸にそっと
うずくまる

添えられた
小さな手も
堪らなく愛おしい


私はその
小さな身体を
両手で抱きしめた

このまま
時が止まればいい…

波音の中で
ただそれだけを
無垢に願っていた


一瞬眠って
しまったのだろう

『バイ…バイネ…』

悲し気な声に
気付くと共に
女の子は
私の両手を抜け
代わりに
柔らかな赤い
ボールを握らせる


私はそのまま
深い眠りについた

No.163 09/08/17 11:08
麗 ( hXqgi )

『…ますか?』
 
…… ん… ……

『終わりましたよ
 わかるかな?』

『…ハイ… 』


まだ朦朧とする
頭の中を一生懸命
整理してみる


終わった…?

手術が終わったんだ

あの子はどこ…?

あの子って誰…?

夢を見ていたの…?


夢にしては
リアルな感触が
両手にしっかりと
残っている


『痛みは無い?
 まだ休んでてね』

優しく言って
看護士が部屋を
出て行った


『赤ちゃん…
 居ないんだ…』

お腹に手を当ててみた

声をあげて
泣きたかったのに

一筋の涙が
流れ落ちる前に

私はまた
眠りに落ちていた



  ごめんね……

   ごめんね……

No.164 09/08/20 10:30
麗 ( hXqgi )

次に目覚めた時…

目の前に居たのは
透では無く

悲しげな優一と
無表情な里美

その目は
何を捉えて
いるのだろう…

『どうしてなの…』

やはり
無表情のまま
里美は
独り言の様に
つぶやく

『おとなしくして
 ってあれほど
 お願いしたのに…』

『里美…
 麗が悪い訳じゃ
 ないんだよ…
 先生も言ってた
 じゃないか… 』

宥める優一の
腕を払いのけ
里美は
突然掛けている
私の布団を
乱暴にめくりあげた

『あんたのせいよ!
 折角…折角
 母親になれると
 思ったのに!!

 どうして?
 どうして生んで
 くれないの!?
 
 それじゃ
 なんの意味も
 無いじゃない!!』


髪を振り乱し
容赦なく
私に掴みかかってくる

『里美!やめなさい!』

慌てた優一が
止めるのも聞かず

どこから
そんな力が出るのか
馬乗りにでも
なりそうな勢いで
叫び出した

『里美!
 やめるんだ里美!』

優一の声など
聞こえてはいない

あの優しい
里美はもう居ない

目の前には
狂った鬼が
私に向かって
狂喜乱舞していた

No.165 09/08/20 10:56
麗 ( hXqgi )

私は流産の
ショックより

今目の前の
現実に衝撃を
受けていた


……

母親になれる?
 
 いったい何…
 
 なんなの?何…
 
 何…なに…

 なんなの?なんなの?
        ………

叫び出したいのは
私の方だったのに

『ごめんなさい…

 …ごめんなさい…
 ごめんなさい……』

耳を塞いで
ただただ
呪文のように
謝り続けた


『何をしてるんですか!   出て下さい! 』

騒ぎに気付いた
看護師が
慌てた様子で
入って来て
二人を追い出した


俯せて
謝り続けていた
私に状況は
掴めなかったが

『大丈夫?
 もう大丈夫よ』

背中をさする
看護師の
手の温もりに
我にかえり
呪文も止まる…


優一は居ない…

透も居ない…


『誰も入れない
 様にしておくから
 今夜一晩は
 ゆっくり休んで
    下さいね 』

そう言い病室から
出ようとした彼女は
『ん?』
ベッドの下に
屈み込み何かを拾った

『大切なものかな』

微笑んで
手渡されたのは

小さな柔らかい
赤いボールだった

No.166 09/08/22 09:55
麗 ( hXqgi )

『これは…』

掌に乗るほどに
小さなそのボールは
何故か温かい…
そんな気がする

気のせいかも
しれなかったが

私には確かに
温もりが伝わった


夢の中の
《あの子》を
想い浮かべ
そっと顔に近づけ
頬擦りしてみる

小さな手の温もり…

ママと呼ぶ
小さな愛らしい声…

堪らなく愛しいと
想えたのは
何故なんだろう…


大粒の涙が
私の目から
ボロボロ流れ落ちる

後から後から
頬に流れ
頬につけた
ボールに伝い

まるで
それまでもが
泣いているかの様に
涙を滴らせた…


『生んで
 あげれなくて
 ごめんね……
 こんなママで
 ごめんなさい…』


胸に抱きしめ
母の
涙を流していた



ママ…って
呼んでくれたね


こんなママで
ごめんなさい…


今度はきっと
生んであげるから
必ずママのとこに
来て下さい…

No.167 09/08/26 17:36
麗 ( hXqgi )

病室の
固いベッドで
独りぼっち
うずくまる


こんな時
何も考えずに
いる事は出来ないの?


無になりたい…


頭ん中も心も
空っぽにしたい…



それでも
私の脳は
続かない記憶を
呼び出しては
消していく…



嫌な事ばかり
辛い事ばかり
浮かんでは消えた…





十分に暖房の
効いた病室なのに

冷たい空気が
時々
隙間風の様に
頬を撫でる感触に


私は綺麗な
薄ピンクの
カーテンを
そっと開けてみる

…… あっ ……


『 綺麗… 』


チラチラと
雪が舞い降りている


私は舞い降りる
美しい雪を
いつまでも見続けた



もうすぐ
春だというのに…




冷たく寒い夜だった

No.168 09/08/26 17:59
麗 ( hXqgi )

あれから一ヶ月

優一とも
透とも逢わないで
一人静かに
過ごしている


寂しいとか
孤独だとか
感情をもって
いなかったのだろうか



以前
優一や里美が
買い集めた
ベビー用品や玩具も

そのまま並べ
独り言のように
話し掛けたりしていた…


何を考えてるのか
連絡もして来ない
優一の事も
特別想う事もなく…


ふと…
透に逢いたいと
何度か思ったのに

何故か私の
携帯の電話帳から
透の名前が消えていた


… 無いんだ …

有り得ない事も
その程度にしか
考える事もなかった


透から
連絡が来ても
良さそうなものなのに

それも無い


ただ一日を
ぼーっと過ごしても
お腹は空いた

部屋からは
まだ一歩も
出ていない


カップ麺など
有るものを食べて
空腹を満たしていた



私は生きる事は
望んでいたのだろう

心のどこかで


幸せを願って
いたのだろう…

No.169 09/08/27 00:43
麗 ( hXqgi )

つけっぱなしの
テレビの中から
日付と時間を伝える
アナウンサーの
声が流れる


私は無意識のまま
部屋に掛かる
カレンダーに
目向けてみる


アナウンスは
四月を
告げたというのに


三月のまま
時を止めていた


 …四月なんだ…


窓も開けず
カーテンも
閉めたまま

外が寒いのか
暖かいのかも
知らないまま



薄暗い部屋で
生きていた


……
 こんな事
 いつまで続ける?
 ダメじゃない!
 このままじゃ…
 ダメになってしまう
         ……


ダブルベッドの脇の
カーテンを
そっと開けてみた


春の柔らかな
陽射しが
私には眩しくて


額に手を翳した

No.170 09/08/27 09:13
麗 ( hXqgi )

この窓から見える
久しぶりの景色…


眩しくて
目を細めたからなのか


晴れ渡る空の青と
光りを抱く海の碧が
くっきりと別れ
一段と美しく映ている



今度こそ
しっかり生きないと…



窓を開け
雑然と散らかった
部屋の片付けを
始めてみた


ベビードレスは
丁寧に丁寧に畳んで
綺麗な箱にしまう


淡い色で統一された
小さく可憐なドレスは
数枚入れても
箱に余裕が出来ていた


もう少し
小さな箱をと
部屋を
探してみたけど

幾つも無い1番適度な
大きさの箱の隙間に
玩具を締まった


蓋をしても
動かすたび

  -カランカラン-

優しい音色を
響かせている


私の大好きな海に


あの子と
出逢った砂浜に


眠らせたいと想った…

No.171 09/08/27 09:54
麗 ( hXqgi )

心地良い
春の風に


さざ波の音…


波打ち際から
離れて
砂浜に座り
両手で穴を掘る


手入れを
していない爪は
あっという間に
ボロボロになった


可愛いピンクの
桃の花をのせ
少しずつ砂を戻した


流れる涙が
乾いた砂に落ち

小さな雫は
自然と円を描き
数珠繋ぎになっていた



『さよなら…
   また…ね…』


砂だらけの
手を合わせた後

波打ち際へと向かう


右手に握りしめた
ボールを
穏やかな波に乗せ
もう一度手を合わせる


『 ありがとう… 』



寄せる波に
戻っては離れ

離れては戻り

また戻っては離れ

少しずつその
距離を遠くした


それは
別れを惜しむ
最後の
メッセージの様に…


私は
見えなくなるまで
じっと…

見送っていた

No.172 09/08/31 16:44
麗 ( hXqgi )

神様は居ますか

もし居るとしたら
教えてくれますか…



この日…

この時…


心から
自分の生きる道を
正していたとしたら…



与えられた
この部屋に
戻らなければ…


私は…


私は人として
まっとうする事が
出来たのでしょうか…



どうか…


私を導いては
頂けませんか……




………

No.173 09/08/31 17:47
麗 ( hXqgi )

部屋に戻ると
そこには
優一が一人
窓辺に立ち
ワインを飲んでいた

『お帰り麗…』

『……
 お久しぶりです』

視線を外し
敬語で答える私を
抱きしめる

『すまなかった…
 どうか私を…
 私を…
 許してはくれないか』

『酔って…』

 -酔ってるの?-

私の問い掛けを遮り
珍しく酔った
優一の唇が
私の唇を塞ぎ
服に手をかける


『や…やめて…』

いくら何でも
そんな気には
なれるはずない

余りに無情で
無神経な優一


拒む私に構わず
細い手首を掴み
優一らしからぬ
荒々しい力で
ボタンを外し

『愛してるよ
 愛してる…麗…』

私をベッドに
押し倒した


引きこもりだった
私に
優一を払いのける
力などない


それでも私は
最後の声と
有りったけの
力を振り絞った


『お願いだから
 やめて……
 優一さん!
 やめて…やめて-!』


絞り出した
悲鳴に近い声が

優一の手を止めた

No.174 09/09/03 01:09
麗 ( hXqgi )

ベッドに仰向けで
宙を見つめる私…


肩を落とし
背を向けて座る優一…



音の無い空間で
呼吸さえも
意識しないと
出来ないくらい

永く重い
沈黙の時間が流れる


…………

…………

……………


『麗……
私の子を生んで
くれないか……』

………

……… 


理解出来なくて
そのまま
目を閉じる


冗談なの?
一体何を言ってるの?


優一を見る事も
聞き返す事も
出来ないまま
閉じた瞼に力が入る


私は次の言葉を
待っていた


……悪い冗談だと……

……お願い
  そう言って下さい…


ドキン…

ドキン…


過ぎ行く時の中
心臓だけが
聞こえそうな程
高鳴って行く





『…優一さん……』


目を閉じたまま
呼んだ声は
はっきり分かるほど
震えていた

No.175 09/09/04 17:26
麗 ( hXqgi )

『冗談だよね…』


耐えられなくなって
私は優一の
背中に話し掛ける


それでも優一はじっと
黙ったまま動かない…


乱れた髪…
うなだれる後ろ姿…


私が愛した
優しく頼もしい
優一は……?


決断する時が来た…


この生活を捨てて
自分に見合う
生き方をしよう…


何もかも夢…

私には似合わない

さよならと
言えばいいんだ…


暗くなった部屋に
感知した間接照明が
美しく映えた


この灯りのなか
このベッドで
どれだけ
愛されたのだろう


ほんの少し
感じた未練に
鳥肌がたち

私は深呼吸して
優一を見据える


……出て行きます
そう言えばいいんだ……
         
…………
… ………
…… ………

灯りだけが
その美しさを
増して行く


……何故?
 何故言えないの?
 早く言わなきゃ!……

……
… ………
……何をしてるの!
 早く早く!………

No.176 09/09/04 17:47
麗 ( hXqgi )

ほんの数分だろう
言葉に出来ない私には
それが何時間にも思えた


背中を向けたまま
ゆっくり立ち上がった
優一は



『今夜は……
  … 帰るよ…』


それだけ言って
ドアに消えて行った


一人取り残され
へなへなと
床に座り込む


言えない……

何故言えないの……

愛されてなんか
いないのに

こんなに
辛く苦しいのに


【さよなら】


たったこの一言が
私には言えなかった



一度覚えた

贅沢

快楽


それとも…
一人ぼっちになる
寂しさ……


何が私を
引き止めるのか
自分自身解らない


このまま
ずるずると
断ち切れずに
生きるの?


人を傷つけただけ
いや…
それ以上に
報いを
受けるのですか…

No.177 09/09/07 17:37
麗 ( hXqgi )

私は馬鹿だった


決断出来ないまま
【ここ】に居続けていた

優一はいつしか
何事も無かったかの様に

週に一度
額へのkissと
腕枕だけして
このベッドで眠り
帰って行く


時折見せた
見た事の無い横顔に
冷たい何かを
感じたけど

優一は優しかったから
固まってた私の心も
次第に溶けて行った


『麗、今夜は
 一緒に飲まないか?』


差し出された
久しぶりのワイン

今夜はJazzも
流れている


『ありがとう…』

ベッド脇に並び
美しい夜景を
見ながら飲んだ


優しく肩を


抱かれながら…



数少ない


会話をしながら……



………………

…………………

……………





三回目のワインが
注がれると同時に



私の身体も
崩れるように
ベッドに倒れて行った

No.178 09/09/07 18:02
麗 ( hXqgi )

……痛い……

頭がズキズキと痛む


……二日酔いかな……


痛む頭に
手を当て………


………?!………

『何?…』


手が動かない…


慌てて起き上がろうと
上半身を勢いよく
起こそうとした


『い、いたい!!』

引っ張られる
感覚の激痛が
両肩と手首に走り

そのまま

バタンと
元の位置に倒れる


『優一さん?!!』


大声で叫び
辺りを見回しても
人の気配はない


尋常じゃない事態に
倒れたまま動く足を
一生懸命ばたつかせ

掛けている
羽布団を落とし
自分を見下ろした


……

なんで………



私は……


生まれたままの姿で


両手をベッドに
繋がれていたのだった



……優一さん……



今度は………



なんですか……



小さく声をたて
笑ってみる


笑う唇が震え


閉じた瞳から
たくさんの
涙が流れてきた

No.179 09/09/11 14:10
麗 ( hXqgi )

『麗…綺麗だよ…』

『麗…愛しているよ』

『麗…麗…麗…
    私の麗…』

髪に……

首筋に……

唇に……


触れた優一の
唇を想い出す…


愛されていたはず…

それが今
こんな姿で
ベッドに縛られている


何をどう
整理すればいい?


私をどうしようというの?


夢なら早く覚めて



身体が冷えてくる

縛られた手首も
痺れるように痛む


カーテンの隙間に
月明かりが洩れる頃

やっと優一は
帰って来た

No.180 09/09/11 15:35
麗 ( hXqgi )

『ちゃんと話して…
私をどうしたいの?
ワインに薬入れたよね?ねぇ…どうして
こんな事するの…?
私を愛してなんかいないよね……』


私は出来る限り
静かに質問した

『愛しているよ…
麗にはずっと
私たちの傍に
いて欲しいんだよ』


耳を疑う言葉が
優一の口を伝い
裸の私の唇を
ふさごうとする

咄嗟に顔を背け
可能な限り
身をよじる


『私たち?
私たちって何?
何言ってるの?
優一さん!
あなたが愛してるのは
私じゃなくて
奥さんでしょ!』

抑え切れず
感情が吹き出していた


『外してよ!
こんな事されて
愛されてるなんて
感じないし
思わない!!』


当たり前でしょ…

当たり前だよね…

優一と居ると
何が正しくて
何が悪いのか…

どれが幸せで
どれが幸せじゃないのか 解らなくなる


赤く傷ついた
手首を優しく包み

冷たい身体を
抱きしめられて
ただ震えていた


麗……


愛しているよ…


愛してる……



下腹部に
生暖かいものが流れた

No.181 09/09/14 11:15
麗 ( hXqgi )

『ねぇ、麗さん
久しぶりに
天気がいいから
散歩に行きましょうよ』


ショートだった
髪を伸ばし
白髪混じりの
髪を染め
ずいぶん若返った
里美がニコニコ
しながら私を連れ出す


冷たい風が
頬を擦り抜け
肩をすぼめると

『あら!少し寒いかしら?ちょっと待ってて』

急ぎ足で部屋から
軽く柔らかい
ショールを持って
私に巻きつける

『さぁ、行きましょう』


いつの日からか
私と里美
二人の生活に
なっていて
そこに
優一が通っていた


明るく優しい
里美に比べ

今の私には
感情や笑顔が
消えている


季節は冬…


気付けばもう
12月になっていた


夏の記憶が
ないと言っても
いいくらいに
何も思い出せない


自己防衛?
身体が勝手に
記憶に蓋を
してしまったのだろうか

No.182 09/09/14 11:47
麗 ( hXqgi )

今夜の食事は
何にしよう

明日の朝食は……

楽しそうに
買い物をする
里美の姿は
幸せに満ちていて

時々笑顔を
向けるから
つられて私も
無意識に
微笑んでいた



『こんにちは』

信号待ちで
見知らぬお婆さんが
声を掛けてきた

『もうすぐなのかなぁ
きっと、女の子だねぇ』

曲がった腰を
いっぱい伸ばしながら
満面の笑みで言う


『ええ!そうなんです
もうすぐ生まれるんです!もう楽しみで』

里美も負けずに
満面の笑みで答える




そうだ……


自由を奪われた
あの日から…

私は……


自らの命を
絶つ事も出来ない


抱かれるだけの
人形になったんだ……

No.183 09/09/17 13:46
麗 ( hXqgi )

何度も何度も
優一に抱かれた

『嫌だ!やめて!』

抵抗する私に

愛してる…愛してる…愛してる…愛してる………

そう言いながら
私を抱いたね


いつからか
抵抗する事もなくなり
繋がれた手首も
自由になって…

代わりに
私の自由も
完全に無くなってた


優一が居ない日は
必ず里美がいた

食べるもの
見るもの
聞くもの
着るもの
全て与えられて生きた


不自由だと
考え感じたのも
ほんの数日
だったのかもしれないし

何も感じなく
なっていたのかもしれない…


楽しい事
嬉しい事
悲しい事…



私はもう
何も感じない……




この命が宿った時から

優一は私を
抱いてはいない


『愛してる』と
愛おしむように
囁くのは

この大きなお腹に
代わっていた

No.184 09/09/20 13:15
麗 ( hXqgi )

優一の里美を
見る瞳は
本当に優しい

その瞳に応える
里美の笑みは
これ以上の幸せはないと
伝わる程に幸せそう…


『これも可愛いわ~』

『でも、こっちも捨て難いのよね~』

『順番に着せれば
いいじゃないか
まったく…ハハハ』

二人寄り添い
新しく買い揃えた
ベビードレスを広げ
笑い合う


少し歳老いてる他は
我が子の誕生を待ちわびる夫婦そのものだね



赤ちゃん生むの私だよ


私の赤ちゃんだよ…


ねぇ…

聞いてよ…

ねぇ…

気付いてよ…


私はここに居るんだよ







20XX年 冬



 難産に苦しみ
 2800グラムの
 女の子を出産した

No.185 09/09/21 11:51
みーちゃん ( ♀ DQtM )

すいません、以前から読まして頂いてました。途中で混乱してしまったのですが、これは実話なのでしょうか?実話に基づいてすこし修正しているのでしょうか?

No.186 09/09/21 12:39
麗 ( hXqgi )

>> 185 こんにちは昀


未熟なもので
混乱させて
しまった様ですね昻
ごめんなさい


この話ですが
全くのフィクション…
では有りません

ですがどこが本当で
どこが嘘かは…



読んで頂き
ありがとうございます昀
m(__)m

No.187 09/09/22 16:17
みーちゃん ( ♀ DQtM )

そうでしたか。

現実にありそうで、
でもだんだん現実に
あって良いことなのか…😥
読んでて不安になってしまい
レスしてしまいました。
読んでいる方、そして麗さん、失礼いたしました🙇

結末はどうかハッピーエンドで終わって欲しい限りです😣
今後とも読ませていただきますので頑張って下さい!

No.188 09/09/29 00:24
麗 ( hXqgi )

壊れてしまいそうに
か細い手足を
アンバランスに
動かしながら
元気に泣いている


おっぱいが
張りすぎて
乳首をくわえにくいからとマッサージもした


腕の中で
必死に乳首に
吸い付き
一生懸命に吸う…
その姿は
たまらなく愛しい


母乳の出もよく
与えていない
反対側のおっぱいからも 溢れていて

…もったいないな…

なんて感じてもいた



優一と里美も
毎日の様に通っては

『可愛い可愛い』と

私から赤ちゃんを
取り上げる事も
手出しもせずに

『本当に良かった
いい子が生まれた』

『頑張ったね』

そう言って
私を労ってくれる


このまま
平穏に過ぎる?



病院に居た
この時が
1番幸せだったの
かもしれないね…

No.189 09/09/29 00:53
麗 ( hXqgi )

『明日はいよいよ
 退院だよ…』


小さなベッドで眠る
小さな赤ちゃんの
小さな手に
人差し指を当ててみた


ピクッと反応して
その指を掴む

『幸せになろうね
ママも頑張るからね』

小さな手の
力強さに私は想う


今度こそ
この子の為に…


優一達と一緒には
いられない

絶対にいられない


自分の力で
この子と生きよう

いや…

生きて行かなければ
いけないんだよね


病室の窓際に寄り
カーテンを開けると
外気の寒さが
伝わってくる


……冬なんだね
 ずいぶん
 永かった気がする……


今にも雪が
降り出しそうな
灰色の空…

冷たい風に
ハラハラと
舞う枯れ葉…


見上げながら
私はこの子に誓った


『頑張るからね…』

No.190 09/10/03 13:00
麗 ( hXqgi )

消灯になった病室で
月明かりの中
私は考えた

この子を抱え
明日からたった一人
生活出来る?

ずいぶん前に
仕事も辞めてしまった
果たして仕事は見つかる?

いや…
すぐには働けない
この子だって
預けられない…

どうすればいい?


実家に頼る事も考えた

いきなり子供を
抱えて面倒見て下さい?

出来るはずない…

面倒見る所か
間違いなく
追い出されるだろう

そんなの当たり前だ


いつだって
浅はかな私


とりあえず…

仕事が見つかるまで…

とりあえず…

この子を
預けられるまで…


とりあえず…


とりあえず…


大丈夫!
今度こそ…

何をどう言い訳しても
結局…

優一達の待つ
マンションに
向かう選択しか
出来なかった…


必ず…

出ていくと
固く決意して

No.191 09/10/04 22:55
麗 ( hXqgi )

退院の朝
最後の検診を済ませ
病室に戻ると
優一と里美が居た

『やっと退院ね』

声高に里美が言う

その横で
優一が頷きながら
目を細めている


ちゃんと意思を
伝えておかなければ…


『あの… 
 なるべく早く
 仕事探しますので…
 迷惑掛けますが
 暫くお願いします』

『そんな他人行儀な
 分かってますよ
 ねぇ、あなた』

里美はそわそわと
病室のドアを見つめ
看護師が赤ちゃんを
連れて来るのを
今か今かと
待ちわびているのだろう


 -コンコン-


『退院おめでとうございます、とっても可愛くお支度出来ましたよ』


可愛いピンクの
ベビードレスに着替え
すやすやと眠る赤ちゃん


手渡される寸前

『本当にお世話になりました、ありがとうございます』


受け取ったのは
私を無視する様に
目の前に立ちはだかった里美だった

No.192 09/10/04 23:10
麗 ( hXqgi )

この子は…

確かに優一の子


里美さん…

あなたは私を
憎んでませんか?


優一の血を
引いてるから可愛いの?

どうして
そんなに優しい目で
この子を見つめられるの?


優一さん?

あなたは誰を
愛してますか?


そんな風に
考えながら
マンションに向かう
車の中で私は
二人を見つめていた


でもね…
本当は少しだけ
解ってました


優一も里美も
私など
見てはいないって…


私の弱さが
封印したのです


ほんの少しの間…


後少しだけ…

気付かない振り
していたのです

No.193 09/10/06 11:17
麗 ( hXqgi )

マンションの
玄関を入ると
そこには
ベビーカーが有った


この位は
予測してたから
驚いたりはしない

でも部屋を
埋め尽くす程に
溢れたベビー用品には
正直唖然とする


天井から下がる
メリーゴーランド

赤ちゃんが
何人も並べそうに
広いベビーベッド

ベビーラックに
ベビーチェア

生まれたばかりだというのに

ジャングルジムまで…


『さあ麗さん
疲れたでしょう
少し休みなさいな』

私は頷き
自分のベッドに
横になった…


今更では有るが
優一と里美の居る
この場所で


何度も抱かれた
このベッドに
横たわるのは
とても違和感が
有ったから


二人の幸せそうに
してる姿を見てると

どうして何も
感じないのかと思い
とても不思議だった

No.194 09/10/06 11:42
麗 ( hXqgi )

『里美、筆を
持って来てくれないか』

テーブルに向かった
優一が姿勢を正し言う

『はいはい今
用意してますよ』

スタスタと
軽い足取りで戻った
里美が筆を渡す

『はい、あなた
最高に美しく
書いて下さいね』

そう言うと
里美は眠ってる
赤ちゃんの側に行き
小さい声で言った

『パパがあなたの
お名前を書いて
くれますからね~』


……え……?
…名前って…?


数分の沈黙の後


『さあ書けたぞ』


優一が里美に
向かって広げる

【命名  美優】


『みゆ…
美しく優しい子…
ですね…
あなた…ありがとう』

『そうだよ、みゆだ
私とお前の文字を
入れたいい名だ』


『やっとですね…』


私の目の前で
二人は抱き合って
幸せな涙を流していた



私は茫然と
ただ眺めるしか
出来なかった

No.195 09/10/11 10:21
★薔薇★ ( ♀ xhtci )

>> 194 早く書いてーー

No.196 09/10/11 10:25
麗 ( hXqgi )

>> 195 こんにちはm(__)m

もう暫く
お待ち頂けますか…


来週には
落ち着くと
思います昀


永くお待たせして
申し訳ありません昀


読んで頂き
ありがとうございます昀

No.197 09/10/13 10:10
麗 ( hXqgi )

美優…

美しく優しい子…

名前の通り
優しい響きの名前…


優一が名付ける事に
なんの抵抗も無かった

でも…
何故… 里美なの?

やっとって何?

『優一さん?
何故?美優なの?』

私は聞かずには
要られなかった

眠っていたと
思ったのだろう

驚いた里美が
ほんの少し
頬をを強張らせた
笑顔を私に向けた後

優一と一瞬
目を合わせる

私など見向きもせず
小さく頷くのを
見届けた里美は


『あら麗さん
起きていたの?
珈琲召し上がる?』

悠長に聞いてくる


『結構です!
そんな事より名前!
どうして美優なのか
教えてよ!!』


私は興奮して
里美を払いのけ
優一に詰め寄った




普通には
戻れない…


そんな気がしていた

No.198 09/10/15 01:03
麗 ( hXqgi )

『落ち着きなさい麗
私達はこの子に
優しい子に育って欲しい… 特別な意味など
ないんだよ…』

優一が私の
肩を抱いた


久しぶりに
感じた温もりに

そのまま
身を委ねて
しまいたい…

一瞬脳裏をかすめた


今はそんな事
してる場合ではない


病院から戻って
私は《美優》を
この手に抱きしめる事も出来ずにいた

『だったら抱かせて
私の赤ちゃん
……抱かせてよ…』



美優が泣いても
腕に抱きしめ
お乳を与える事さえ
許されてはいない


キッチンに
列べられた
粉ミルク…

哺乳瓶…

消毒液…

専用ポット…


我が子にお乳を
与えられない事を
物語っている


 - フギャ- フギャ- -

お乳を求め
美優が泣き出すと


『今あげますからね~』


私など無視して
里美は哺乳瓶に
粉ミルクを
作り始めていた

No.199 09/10/15 01:40
麗 ( hXqgi )

カチカチになった
私の乳房は
美優が泣くたび
ツンと痛み
お乳を溢れさせた


何度も何度も
お願いしたのに
その願いは叶わない


そんなに痛むなら
これを使いなさいと
母乳を搾る
搾乳噐が与えられた


熱をもち痛みに
耐えられなくなり
それを使ってみる


シャワーの様に
溢れ出るお乳…


こんなに沢山出るのに… 目の前に居るのに…
与えられないなんて…



抱きしめて
この乳首を
くわえさせてやりたい

頭を撫でてあげたい

柔らかい頬も
手も足も…

撫でてあげたい…

抱きしめたい………

抱きしめたい……


泣きながら搾った
何度も何日も搾った


繰り返すうち

乳房も張らなくなり

その頃には
美優の泣き声に
耳を塞ぎ

私はまた部屋に
引きこもる生活が
始まっていた



優一が…

里美が…

憎くて憎くて
たまらない



いなくなればいい…
いなくなれば…

No.200 09/10/20 01:05
麗 ( hXqgi )

里美の腕の中で
美優はすくすくと
育っている

少しでも
泣けば抱き上げ
何か有ったら大変と
いつでも美優の傍にいた

何をするにも
一時も離れる事はない


やつれ痩せ細った
この私に
連れ去られてしまう
そんな恐怖感も
有ったのだろうか…

何も言わず
会話もしない
私を見る里美の目は
怯えて見えた


一ヶ月も経つと
優一と里美は
美優を連れて
よく外出する様になった

そう…
本当の親子みたいに



私は少しずつ動き出す


時給の高い
クラブのバイトも
見つけ働く事にした

少しでも稼いで
おかなければ
この先…
生きては
いけないのだから



仕事が見つかったから
働くと伝えると
今まで私を無視同然に
扱っていた二人が
あからさまに喜んだ


『そうね…
いつまでも家の中だけじゃ、身体にも悪いし
外に出れば
気分転換にもなるわよ』

安心したのか
里美の視線も
柔らかくなった気がする

……気分転換……

ふっ…
私は心で笑った

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