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義母の愚痴です。皆さんも聞かせてください。
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− 乱舞 −

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麗( hXqgi )
09/12/19 13:06(更新日時)

私には 部屋が二つ有る


キラキラとした夜景が広がる高層マンションの一室


広い部屋の真ん中には 大きなダブルベッド


私は週に二度 20才も歳の離れた貴方《優一》に 愛される…

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No.1159411 09/03/24 00:33(スレ作成日時)

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No.1 09/03/24 01:15
麗 ( hXqgi )

…… 麗……
麗は本当に綺麗だ……  綺麗だよ……


 髪を撫で

 額…

 唇…

 首筋…


少しずつ 焦らしながら 愛おしむ様に
触れるか触れないかの絶妙なタッチで私の全身を 愛撫する…

その唇に  
舌に触れられた身体は  小刻みに震えながら弓なりに身をよじらせた

  ……… あ…
    ……… イヤ…
   ……ヤメテ…

思わず声を漏らす

 … 麗?… 本当にやめていいの……?

優一は悪戯な顔で動きを止め私を見つめた

  ……イジワル……

私は大きく首を横に振って抱きついた

その途端
優一のkissは 激しく変わる……

No.2 09/03/24 01:35
麗 ( hXqgi )

若い子のセックスと違って さすがに大人の男…

ゆっくり ゆっくり動く優一の腰に合わせ 私の身体も自然と動いてしまう

…… ンッ…
…… アン……

私の喘ぎ声に交ざって 優一も時折声を漏らしている
その声にも私は興奮してしまう

優一の好きなJazzを遠くに聴きながら……
集中力が高まり
研ぎ澄まされた時間が流れる…


……… 愛してるよ……
 …… 愛してる ……


今迄知らなかった【イク】と言う感覚も彼によって初めて教えてもらった

終わると私は暫く動く事が出来ない

そんな私の髪を優しく撫でながら 抱きしめていてくれる


シャワーを先に浴びるのは決まって優一だった

私が出る頃には
彼の好きなワインが グラスに注がれていた

No.3 09/03/24 13:48
麗 ( hXqgi )

優一とは サークルを通じて知り合った
とは言っても 先に知り合ったのは 妻《里美》の方だった
美しいその人は 時々顔を出す紳士な優一にとてもよく似合う 品のある女性
仲のいい夫婦の姿は
周りから注目を浴びる程 誰の目にも素敵に写っていたと思う


そう


優一は既婚者


なんの取り柄もない私が あんな豪華なマンションで暮らせるのは
優一のおかげだった


私は 現実とは別の "大人の世界"へと のめり込んで行った

No.4 09/03/24 18:48
麗 ( hXqgi )

優一とは 平日しか過ごせない そんな事は当たり前だったし 問題でもなかった


夜景を見下ろせるこの空間が 自分のもので在る事に夢心地だっただけで 会えない事や妻の事は まだ そんなに気にならなかった


【今夜 伺いますがよろしいでしょうか】
社名と署名


優一が来る日はそんな メールが事務的に送られて来た
返信は 断る時だけした


【申し訳ありません 明日連絡申し上げます】
社名と署名


勿論 私では無いし 連絡もしない
優一に言われた通りに作ったメールだ

付き合って二ヶ月
そのメールを 返したのは一度か 二度くらいだった

最近ではそんな彼からのメールを確認した途端
優一の 感触を想い出し高揚して行くのがわかる…

彼の声…

彼の口髭…

彼の手…



ダブルベッドに視線を下ろすと夕焼けに染まった 美しい部屋が目に映っていた…

No.5 09/03/24 22:41
麗 ( hXqgi )

優一は 必ずワインを持ってやって来る

どれだけのものかなんて 私にはさっぱりわからない

それが白なら冷蔵庫に…

赤なら 窓際のボードの上に置かれていた…

ベッドのすぐ横に有る間接照明も優一の好みだった

その明かりの先に今夜は赤のボトルが置かれた


『 麗 今夜はここで食事しよう 』

優一が優しく微笑む

『 うん いいよ 』

軽いkissを交わした その時 玄関のチャイムが鳴った



部屋の中は あっという間に フレンチが並んでいく
優一のやる事なす事
全てが 魔法の様に思える
一通り 並べ終えた後
優一とシェフらしき人が 何かを話し帰って行った
『ありがとうございました』
それだけが 聞き取れた


グラスにワインを注いで 優一は言う
『たまには ゆっくり食事もいいかと思って』
また優しく笑う


彼とのひと時は まるで地に足が着かない様な時間ばかり

そんな優一を 愛さないで要られる訳もなく
確実にどんどん 引き込まれて行くのが
自分自身でも
はっきりと
手に取る様に わかった

No.6 09/03/24 23:44
麗 ( hXqgi )

目の前の料理が残り少なくなった頃
優一は キッチンに向かった

『ん?どうしたの?』
不思議そうに聞く私に

『今夜のメインだよ』
と 冷蔵庫から小さな肉の固まりを取り出し コンロの火を付けた


彼は本当に何でも熟す人だった

程なくキッチンから いい香りがして ステーキが運ばれて来た


『お待たせ』

さっき シェフと話してたのは きっとこの事だったんだろう

部屋には無い お皿が使われていた
結構 お腹は満足してたのにそのステーキも 難無く平らげた

『美味しかった~ ご馳走様でした』


小さく流れるJazzを聴きながら 二人は他愛もない会話を楽しんだ



『少し酔っちゃったかな  シャワー浴びて来るね』

私がそう言うと彼は立ち上がり 今日クリーニングから戻って来たばかりの バスローブを渡してくれた


酔いも手伝ってか
ベッドの上での 優一を想い出し 足早にバスルームに向かった…

No.7 09/03/25 00:26
麗 ( hXqgi )

抱かれる前 私は髪は洗わなかった
ベッドに乱れる 長い髪が彼も私も好きだったから

早々にシャワーを終えバスローブを身に纏い 間接照明だけに明かりを落とした部屋に戻る


私の額に軽くkissをして入れ違いに彼もシャワーを浴びる

戻って来た彼は ワインのつがれたグラスを枕元に置いた


 ……… 麗 ……… 

…… 麗は私の天使だ……

そう言った後 ワインを口に含み kissをしてきた

思ったより 優一はたくさん含んでいた

口から 赤いワインが流れる…
〈汚れちゃうょ…〉
そう思いながらも
ただ優一の愛撫に身を任せていた


ベッドの上に私を座らせ
首…

背中…

腰…


優一は いやらしい舌を後ろから這わせる

 ……… あン ………
 …… ぁ… ン ……     
夜景を前にしながら
我慢出来ない快感に身をくねらせ

ベッドに崩れ落ちた…

No.8 09/03/25 09:14
麗 ( hXqgi )

部屋に置いてあるスーツに着替え
優一は会社に向かう

今日は金曜日
土日は絶対と言い切れる程優一はマンションには来ない
きっとあの美しい妻と仲良く過ごして要るんだろう

ふと 二人の姿を思い出す

私は妻《里美》に嫉妬する感情が湧いて行くのを感じ 心がキュッと痛んだ…




私には 付き合って二年になる四つ年下の彼氏《透》が居た

当たり前だけど優一の事は絶対的に 秘密…

透も私も昼間は 普通に働き ほぼ週末だけのデートだったから 特別疑われる事もなかった


窓にカーテンを引き
軽く片付けて 身仕度を整え 私も職場に向かう


私も週末はここへは 来ない
〈シンデレラTime終了〉
後髪を引かれる思いで マンションを後にする


そして 現実の世界に
帰って行く

No.9 09/03/25 09:42
麗 ( hXqgi )

『麗ちゃん お疲れ~』
約束を5分遅れておどけながら透がやって来た
スラッと伸びた手足が 印象的な透
顔にはまだあどけなさも残っている


『そんでさ~』

『ムカつくんだよな~』

一週間分の話しをするかの様に 透はずっと喋っている

時々相槌を打ちながら
《優一》の事を
   考えていた…

優一と出逢ってから やけに透の幼さが目立つ
そんな透に癒されていたはずなのに

居酒屋の料理も 美味しい…

薄暗い町も 嫌じゃない…

透の華奢な姿も…
ぶっきらぼうな話し方も好き…


だけど…


私は…

見下ろす景色が…

《《優一》》が

恋しくて たまらなくなっていた

No.10 09/03/25 15:01
麗 ( hXqgi )

透とのせわしない食事を終らせ いつもの様に私のマンションに戻って行った

  … ハァ… … 
優一と過ごすマンションに比べたら ため息が漏れた

ほんの数カ月前迄は 普通に不満もなく暮らしていた
この世界しか知らなかった私にはそれが当たり前だった


ワンルームの狭い部屋は 雑然としていた
一週間振りに 部屋の空気を入れ換える
景色と言えば 何の色もない住宅街や低いマンションくらいなものだ


また一つ ため息をつこうとした時

透が私を引き寄せ
kissをしてきた

『麗ちゃん エッチしよ…』
息遣いを荒くして 乱暴に服を脱がせようとする

『…透…  ちょっと待ってよ! 透!シャワー浴びさせて…』

腕を払おうとするが いくら華奢でも力は有る
私は 部屋の隅に有る小さなベッドに押し倒された
『我慢なんて出来ないよ  ね…  シャワーは後で浴びればいいよ  ね…』

甘ったれた声で 囁きながら その手を止めようとはしない

諦めて私は力を抜いた


荒々しくむしゃぶりつく
透に思わず顔を歪める
そんな事にも気付かないのか 自分の欲望のまま
私をまさぐる

No.11 09/03/25 15:23
麗 ( hXqgi )

 ……痛いよ 透……

唇の感触も 手の感触も
声も 優一の"それ"とは 全く違う…


一瞬私を見たが
変わらずに 乳首を吸い上げる…

イタッ …
… もっと ……
……もっと優しくしてよ……

その言葉に 透は興奮したのか 激しく腰を動かし
果てた……

『麗ちゃん 最高…』
息も絶え絶えに 透が私を抱きしめる

汗だくの彼とは逆に
私は一滴の汗も流してはいなかった


シャワーを浴びて眠る透の背中越しで
優一を想い
疼く身体を 指で慰めた

 …… ユウイチ サン ……

もう 透のセックスでは 満たされなくなっていた

No.12 09/03/25 19:10
麗 ( hXqgi )

先に目覚めた私は
隣で眠る透を覗き込む
その寝顔は kissしたくなる程可愛い


私はコーヒーメーカーをセットして バスルームに向かう

シャワーを浴びながら

〈優一は今頃何をしているんだろう〉

また 彼の事が頭を過ぎる
〈愛しては いけない〉

そんな事も解っていたはず

それなのに…
この感情は日いち日と 大きくなって行く

透の事は 大好きだ
でも 優一の全ての魅力には 今は敵わない

このまま行けば 確実に 心も身体も 優一だけを求めてしまう
透だって失いたくない

どんなに 自分に言い聞かせても

想いは

心を素通りするだけだった



部屋はコーヒーの香りが充満していた
私はバスタオルを 巻いたまま煎れたてのコーヒーを飲む


透が眠たい目を擦りながらベッドに 起き上がり

『おはよ… 麗ちゃん』

と言って
小さく欠伸した

No.13 09/03/26 01:19
麗 ( hXqgi )

『俺も飲みたい』
トランクス姿でコーヒーをねだる
髪もボサボサだ…
それが 愛らしいと言えばその通り 確かに愛らしい
『甘いやつね』と透
『はいはい』
砂糖とコーヒーをカップに入れて渡した




日中は 映画を観たり ショッピングをしたり
有り触れた時間を過ごした

帰り道 わざと遠回りしたのかJewelry shopで透は足を止めた

『ねぇ、見て行こうよ』
二人の間では 結婚の話も出ていたからか
透が硝子越しに飾られたリングを指差して言った
一緒戸惑ったけど 促されるまま 店に入った
あんなにしたかった結婚さえも今は色あせて来てしまっている

(私は本当にこの人と結婚するのだろうか?) (幸せになれるのだろうか?)

店員と透のやり取りを聞きながら そんな事を考えていた

『透… またにしよ…』
そう言って店を後にする私を追い掛けて彼もまた慌てて店を出て来た

『麗ちゃん!?どうしたの? 最近何か変だよ』 ちょっと声を荒げた透が私の腕を掴んで立ち止まらせた

透にも 私の心の変化は伝わっていたのかもしれない

No.14 09/03/26 08:55
麗 ( hXqgi )

『…ごめん 何でもないよ ちょっと疲れちゃっただけ』

とっさに 嘘をついた

『そう? だったらいいんだけど…』

透も それ以上は聞かなかったが
何か言い出せずにいる様な感じがして少し気になった


- 感じがした?
違う…
間違いなく 聞きたかったに決まってる…
ほんの数週間で私が変わって行くのは 自分でも気付く程
明らかだったのだから -

多少の気まずさは 有ったものの 透も私もあえて 明るくしてた気がする

食事を済ませ 帰り道のスーパーで私はワインを手にとった…

『珍しいじゃんワイン』
透は他のワインにも 目を配らせながらポツリと言った

『たまには…ね』
そう言って レジに向かった


- 安物のワイン -

それでも どうしても飲みたかった
透にたいして罪悪感は少し有ったけど

でも…

少しだけ ほんの少しだけ優一を近くに感じていたかった

No.15 09/03/26 09:41
麗 ( hXqgi )

部屋に戻ってシャワーを浴びて…

透はテレビの お笑い番組を見ていた
いつもなら ゲラゲラと笑い転げるのに 観てるのか観てないのか その日は黙って画面を見つめてた


買って来た 赤ワインを注ぎ 透にも一つ手渡した

『乾杯』
”カツン” と 安物のグラスの音がした


私は透の横には座らず 狭いキッチンの椅子に座って飲んだ

ワインを一口含んだ瞬間

  優一を想い出した

一口…

また一口…


飲む毎に想いは強くなる


イケナイと思いつつ
目の前に座る透の後姿に 優一を重ねてしまう


口から零れるワインの感触…
それを拭う優一の舌…
身体中が熱くなる…

(……ねぇ………ワインを口移して……)


心で囁く…


当然透には届くはずもなかった

No.16 09/03/26 09:47
麗 ( hXqgi )

透は まだじっとテレビを観ていた

(  抱いてよ… )
( 抱いてよ 透… )

(………抱いて…………… ………抱いてよ……
………優一さん……… )


肩を抱きしめテーブルに 俯せた私を
いつの間にかやって来た透が 後から抱きしめた

『麗ちゃん… 愛してるよ…   麗ちゃん…』

kissをしようと振り向きたかったのに 透はその手の力を緩めてはくれなかった

『忘れないで…  俺が愛してる事』

私の後から 首にうずくまり透は小さく囁く

『透?』

……………
…………………

数分そうしていた

『おやすみ…』

透はそう言って 頬にkissをし 顔も見せずにベッドに入った


期待に反して

透は私を


抱かなかった…

No.17 09/03/26 21:59
♀ママ ( 20代 ♀ GqHJh )

主さんこんばんは😄
最高です✨ドキドキしながら読ませていただきました❤がんばって下さい😄
お邪魔とわかっていながら気持ち伝えたくてレスしたので返レスなしでいいですからネ😆続き楽しみにしてます😆

  • << 19 初めまして こんばんは 麗と申します 携帯を手にしてから作って行くので 私にも終りは見えません… 邪魔だなんてお気になさらずに 読んで下さる方がいらっしゃるんですね ありがとうございます m(__)m

No.18 09/03/26 22:19
麗 ( hXqgi )

季節が秋から冬に
変わる頃には


 私と透の関係が
音を立て崩れて行った



優一を 独占出来ない苛立ちと 逢いたいと言う欲求が増えれば 増えるほど 透の存在が 疎ましくなっていった


『音たてないで!!』

『何度言ったら解るの?』

『はっきりしてよ!』

『いい加減にして!』

透の些細な事に腹が立つ

食事の仕方

物の見方

話し方に歩き方

仕舞いには セックスの事迄にも文句を言っては泣きわめいた

いつも いつも

『ごめんね』

戸惑いながらもそう言って透は黙って抱きしめていてくれた
その優しささえも今の私には優柔不断にしか感じられず

『何で!? 何でそうなの?! 何がごめんなの!!』

黙る透に思わず

『あなたじゃない!!』

そう叫んだ


透は私を抱きしめる手を ダランと落とした

悲しい目をして私を見つめた…


そして

背中を向けた…


玄関のドアが

バタンと 閉じた

No.19 09/03/26 22:30
麗 ( hXqgi )

>> 17 主さんこんばんは😄 最高です✨ドキドキしながら読ませていただきました❤がんばって下さい😄 お邪魔とわかっていながら気持ち伝えたくてレスしたの… 初めまして

こんばんは

麗と申します

携帯を手にしてから作って行くので 私にも終りは見えません…


邪魔だなんてお気になさらずに

読んで下さる方がいらっしゃるんですね

ありがとうございます
m(__)m

No.20 09/03/26 23:39
麗 ( hXqgi )

………  何? …………
……? 透… ?………

… 何故? 抱きしめてくれないの………

透 ! 透……

… 置いて行かないで…


透を罵る言葉とは 裏腹に寂しさが私に向かって押し寄せる… 

涙がとめどなく頬を伝い流れる



透はいつも私を 抱きしめていてくれた

悲しみに泣いた時…

嫉妬に 泣いた時…

気の利く言葉も 何も無いけど 何も聞かずに ただ黙って抱きしめていてくれた

彼もきっと 苦しかったに違いない…

泣きたかったに違いない

最後に見せた 透の瞳は そう想わせる程 深い悲しみに包まれていた…

気付かなかった…?
違う…

解ってて甘えてた

透は私を捨てたりしない

傲慢な想いが私を支配していただけだった


優一を愛した事で
手に入れる事が出来たはずの幸せを 私は失った

優しかった 透は

もう 居ない


残ったのは 手に入れる事の出来ない

優一への愛だけだった

No.21 09/03/27 11:27
麗 ( hXqgi )

翌日

必要な荷物を抱え
都会のマンションに向かう


透が居なくなった今
ここに居る意味はもう何も無くなった


暫くは感傷に 浸ってもいたかったけど
その感情を上回るほどに
心が……
身体が
優一を求めていた……


……優一に逢いたい……

……優しい声が聞きたい…

……優一……


私は優一を想う気持ちに
歯止めがきかなくなって行った


【今日お逢い出来ますか?】

自分からメールを送った

これが初めてのルール違反だった


マンションに向かう電車の中で
透を想い出す事はもう
微塵もなかった

No.22 09/03/27 12:06
麗 ( hXqgi )

マンションのロックを外し部屋に入る
私の大好きな景色が
目の前に広がる…

……明日から ここから職場に向かう……

必要な書類をテーブルに置いた


何かに解放された様な 穏やかな気持ちがした

……優一に逢える……

…… ずっとこの場所で……

踊り出したいくらいに
嬉しかった

優一の好きな Jazzを流し口ずさむ…



鳴りもしない携帯を開いてみる

着信は当然無い


部屋の空気を入れ換え様と大きな窓を開けた


カーテンを揺らし
一陣の冷たい風が吹き抜けた


テーブルに置いた 書類がパラパラと音をたて宙を舞う


今日は日曜日…

優一からの連絡が有る訳もない

私は《愛人》で有る事を


思い出し冷たい床に
座り込んだ…

No.23 09/03/27 14:37
麗 ( hXqgi )

……優一さん

……今どこに居るの?

……奥さんと一緒なの?

……何をしてるの?

……携帯見てないの?

……それとも 見てるのに見ないふり?

……ねぇ 何か言ってよ

……空メールでもいいから送ってよ

お願いだから…
私を少しでも 想い出して
届かない想いが 身体中を駆け巡る…



どれくらい 時間が過ぎたのか

メールの着音に慌てて 携帯を開く


【麗ちゃん  
俺ね 知ってたんだ 麗ちゃんに他に好きな人居るって

それでも俺を必要としてくれるならって傍に居たんだ

麗ちゃんの事は 今でも大好きだよ
 
あなたじゃない

そう言われた時は苦しくて逃げ出しちゃった

ごめんね 麗ちゃん

ずっと一緒だと思ってたけど
俺じゃなかったんだね
幸せになってね】


透からだった…
また涙が溢れる
さっき迄の涙とは違う
……私はおかしいの?…

心が割れそうに痛い


明かりの灯り出した景色を見ながら 私は携帯を閉じた

No.24 09/03/29 14:56
麗 ( hXqgi )

-----------

月に四回開かれる サークルに優一の妻《里美》は必ず顔を出している


優一との関係が始まって間もない頃
土曜日の午前中は私も 必ず通っていた

でも今は せいぜい月に二回顔を出せばいい方…

優一と里美のほほ笑ましいツーショットを見る事が苦しかったから


多分 今日は里美だけのはず…

……やめようかな……

そう考える私の中で

〈行きなさい!

あなたの夫は 私を愛してる
そう言ってやりなさい〉


…悪魔が囁く…


何かしたかった…

何も知らない里美に意地悪したい…

幸せそうな里美に
ほんの少しだけでも私の存在をアピールしたい


……ダメだ……

………ダメだ………

……ルール違反だ……


小さく首を振って

思いを掻き消し

私は会場に向かった

No.25 09/03/30 11:03
麗 ( hXqgi )

サークルが開かれる会場は駅前のビルの5階に有る
エレベーターを降り 会場のドアを開けた

無意識に里美の姿を探していた

……あれ? まだ来てないのかな……

時計はもうすぐ開始時間を回ろうとしてる


『今頃どの辺りに居るのかしらね』

『羨ましいわぁ』

『うちもあんなに優しい主人だったらいいのに』

『毎年結婚記念日に旅行なんてねぇ』

サークルの年配の人達が楽しそうにほほ笑めみながら噂話に華を咲かせてた

『帰って来たら 惚気話でも聞かせてもらわなきゃね』

『でも 里美さん恥ずかしがり屋だからね』

……?里美さん?……

……里美さんって ……

何で!?


バッグから携帯を取り出し部屋を出ようとドアに手を掛けたその時 講師が入って来た

驚く姿をよそに
ちょこっとお辞儀をし
教室を後にした


震える指で
優一の番号を探す

……………
  ……………
    ……………

呼び出し音も鳴らず

優一の携帯は
留守電に切り替わった…

No.26 09/03/30 11:25
麗 ( hXqgi )

心臓の鼓動が激しく脈打つ

胸が押し潰される様に苦しい

何度も何度も掛けてみる
  ………
   ………
     ………

……出て! 優一さん…

お願いだから出て!

声を聞かせて……


何度掛けても 聞こえる声は優一のものではなかった

ルールなんてどうでもいい

独占欲だけが心を占める


優一への悲しみや苦しみ…

その想いが

里美への


憎しみ…怒りに変わる迄

今の私にはもう
時間など必要なかった

No.27 09/03/30 22:45
麗 ( hXqgi )

夜になっても
優一の携帯は繋がらないままだった

私は夕食も摂らず ただ携帯を握りしめていた

教室で耳にした会話も 頭の中を何度も駆け巡る
……結婚記念日……

夫婦なんだから当然なんだ

私はただ待つだけの愛人
そう決まってた

お金で買われた女


だけど… だけど…

だけど だけどだけど…

だけど………だけど……

なぜ?なぜ 

心が痛む?…………


……優一が欲しい……


ベッドにかかったカバーを力いっぱい引きはがし 倒れ込む

その感触がまた
恋しさを一層重ねた

目を閉じれば今度は 優一の感触を想い出す

……優一さん
……ユウイチ……


優一を愛してるのか セックスに溺れてるのか
私にはわからない


自分の身体に指をなぞり
一人身をくねらせベッドに乱れる……


……アッ……
…ア…ンッ…

……アア……ン……

昇りつめたと同時に
虚しさと睡魔に襲われ 眠りについた

No.28 09/03/31 09:44
麗 ( hXqgi )

カーテンの引かれていない窓から射す光で目覚めた私は
ほんの一瞬夢と現実をさ迷った

すぐに
泣き腫らした重たい顔が

現実を物語る


開かれたままの携帯の着歴はどれも優一のものではない

〈シャワー 浴びなきゃ…〉
小さくため息をつく


鳴らないと解っていれば 少しは楽なのかもしれない


そう思い
私は携帯の電源を切り
熱いシャワーを浴びた

No.29 09/03/31 10:28
麗 ( hXqgi )

悲しい時

寂しい時

海を見るのが好きだった
潮風にも波音にも癒される


海の無い町で育った私は
年に一度
夏休みになると両親が休暇をとって連れて行ってくれる海が大好きだった

いつも日焼けし過ぎて
大騒ぎしてたっけ…

小さい頃の無垢な自分を
思い出し少しだけほほ笑んだ


マンションからどれくらい
歩いたのだろう
時間にして15分くらい?
”ここ”に来てから
初めてこの場所に来る

目の前に海が広がった

大きく深呼吸をして
潮の香を吸い込む

それほどでも無い波音も
心地いい


冬の海が好きになったのは
いつからだろう

砂浜に続く小さな階段に座り海を眺めた

海岸の人影は 時々犬の散歩をする人達が通る程度


遠くに見える船…

空を飛ぶ鳥…

潮風…

すべてが私を癒してくれた


冷たい風が芯から身体を冷やしても私は
何時間もそこに居続けた


現実に戻るのが …

自分自身が…

怖かったのかもしれない

No.30 09/03/31 14:42
麗 ( hXqgi )

月曜日に入れた携帯の電源も
【優一】と記された着歴はひとつも無い

叱られるだろうと
予測した事さえも
何もなかった

火曜日…


水曜日…


木曜日…


不思議なくらい あの週末の
苦しみは無くなってた

冷静に考えると
優一の事を愛してるのかさえ解らなくなったりもする


そんな時思い出すのは
透だった



透は時々メールをくれていた

【麗ちゃん元気?】

【ちゃんとご飯食べてる?】

他愛もない短い文

返信してもしなくても
透は変わらず私を気遣かってくれていた


そんな透の優しさが私の心を穏やかにさせてくれる要因のひとつだったのかもしれない

No.31 09/04/02 12:57
麗 ( hXqgi )

仕事を終えて
帰り支度をしてた時
デスクに置いた携帯が

…ブブブ……ブブブ…
と短く振動した

…メールだ…

携帯を開くと
優一からの着信だった

相変わらず
事務的だったけど
その瞬間

やっぱり…

心臓が高鳴る程
嬉しかった

やっと逢える気持ちが
私を幸せにする
逢えるとなれば
里美の事など
眼中に無くなる

少なくとも
”今”だけは
逢える事だけに心が踊った

本当に…


幸せだった

No.32 09/04/02 14:45
麗 ( hXqgi )

生活感の無かった
部屋も 少しずつ
荷物が増えていた


窓の景色はまるで
その部屋の一部で有るかの様に いつも美しく
優しく夢を見させてくれていた



そろそろ優一が
迎えに来る時間…


身仕度を整え
甘い香りの香水を
手首にほんのり
吹き付けた


……この間の事
怒ってないだろうか……
……もう終りにしたい……

そんな風に言われる
かもしれない…

愛人で在る私が
初めに交わした優一との
《ルール》を破った事に
少し不安も有ったから

冷静でいる今は
まともに考える事が
当たり前に出来るのに…

里美に対する嫉妬も

それが間違いだと解る


里美との生活を
壊そうなんて思わない

勿論妻の座を
狙ってる訳でもない

 
ただ逢いたい以外
どうしたいのかは
自分自身全く解らなかった



玄関のチャイムが鳴り
ワインを持って
優一がやって来た…

No.33 09/04/02 19:29
麗 ( hXqgi )

『久しぶり…』

思わず駆け寄り
優一の首に纏わり付く

『逢いたかったよ…』

優一が静かに囁く


……逢いたかった?…… 

……本当に?……

そう聞き返したい
気持ちを押さえ
唇を重ねた


懐かしい優一の香り
柔らかいくちびる…

『待たせて有るから
行こうか』


食事に行く時
マンションの前に
いつも車が用意されていた

『うん 分かった』

促されて部屋を出た


用意された車の
後部座席に乗り込み
予約した店に向かった


街はクリスマス
イルミネーションで
一層華やいでいた

こんな景色の中で
生きている自分が
怖いほど幸せに思える


車を降りると

優一はコートの
襟を立て直し
そっと私の肩を抱いて
店にエスコートしてくれる

『寒くないかな?』

優一のそんな
言葉や行動は
本当に当たり前で
いつも自然で素敵に思う


クリスマスが近い
雪が降りそうな程
冷え込む夜だった

No.34 09/04/03 14:17
麗 ( hXqgi )

食事中にも
帰りの車の中でも
優一は 私がした
ルール違反について
何も語らなかった


マンションに戻り
シャワーを浴びた

…どうして何も言わない?
…私のしてる事なんて優一夫婦には全く何でも無い事?

…少しは 気にならない?

また 少しだけ
嫉妬の感情が沸き上がる


部屋に戻ると
いつもと変わらない
彼が微笑み
入れ違いに
バスルームに向かった


私は優一の携帯に
手を延ばし開いてみる…

…きっとロックされていて見る事なんて出来ないだろう……

私は軽くそう思いながら
メールボタンを押した…

優一の携帯は簡単に
その内容を私に見せた

心臓が脈打つ…

……見てはいけない……

分かっていても
その手を止める事は
出来なかった

仕事関係で有ろう
メールがズラッと並ぶ

……………
………………
お願いだから
何も有りません様に…
……………
……………………
………!………

私は画面に
《里美》を見つけ
その指を止めた

No.35 09/04/05 10:44
麗 ( hXqgi )

益々心臓は高鳴る…

バスルームから

 カタン

優一が出る気配がする


私は咄嗟に
里美の番号を自分の
携帯に打ち込んだ…


いつもの様に
優一はワインの
支度を始める

今夜は冷蔵庫から
冷えた白ワインが
用意された


ばれて無いだろうか

携帯の位置は?

待受画面に戻した   だろうか


罪悪感からか
異常に彼の行動
一つ一つが気になる

いたたまれなくなった
私は 携帯の乗った
テーブルを 拭き直す

一瞬私が触れた携帯に
目を向けた気がしたけど
特に何も言わなかった

ホッとしたと同時に
こんどはやけに
テンションが上がる

『ねぇ… 見て!見て』

窓に見える
明かりを指差し
あそこの店はどうだったとか 今度はあの場所に行きたいだとか

今言わなくてもいい事を
一生懸命探しながら
精一杯明るくそして
いっぱい甘えながら話した


優一は
うん うんと頷きながら
私の話を聞いてくれていた

No.36 09/04/05 16:03
アンナ ( ♀ EroLh )

こんにちは😊✨
リレー小説で、ご一緒させていただいてるアンナです🐰
乱舞、好きな上品の大人の女性のストーリー👯💕
表現力、見せ方、展開が上手で引き込まれます‼😲
リレー小説でも、ピヨさん、笑い袋さんに、麗さんに助けられてます🙇✨
リレー小説では、皆様が文章と情景描写が上手で✨
共感出来る、読みやすくテンポよく、喜怒哀楽を包括し深く感動的…が私は好きなはず💦
いざ書いて…回された時、わ~難しい‼けど楽しいが大きい✨
ピヨさんたちが、今回リレー小説で目指す方向性はどんな感じです❓😃…と
聞けばよかった…最初に質問すら思いつかなかった‼😂
ピヨさん、笑い袋さんのスレ、リレー小説のスレ、知ってますか❓💦
私が勝手に、ラブストーリーやミステリーを盛り込んだけど💦
順調にリレーしてる、読む方に、私のレスで頓挫したくなく😔
順番が、次の麗さんに後押しして頂き…ピヨさん笑い袋さんが目指す感じに合ってる❓大丈夫❓💦と…
ミクル🔰、携帯もネットも疎く、リレーも初チャレンジ、小説は初公開な私は、かなり戸惑い😭
でも楽しく😊✨
麗さんは回されて、大丈夫です❓💦
私なり書いてますが💦
乱舞もリレーも麗さん素敵です💕👯

No.37 09/04/05 16:26
麗 ( hXqgi )

>> 36 初めまして?
こんにちは アンナさん昀

こちらこそリレーでは
大変お世話になります坥

楽しそうだったので
軽く参加したんですが…

いざ始まってみたら
これが意外と難しい昻昻
😊なので尚更

皆さんの流れを保つのがやっとって状態です
ミステリーは本当に難しいです晙
今から考えるのは
結末です

私には完結出来る自信が
全く無いので(笑)


私こそこのまま仲間入りしてていいのか悩みます 淸


乱舞見て下さってありがとうございます煜


こっちも結末はどうするのか全然考えてません(笑)

これからも どうぞよろしくお願いします昀

No.38 09/04/05 16:32
麗 ( hXqgi )

>> 37 ちなみに
アンナさんの小説の
タイトルを教えていただけませんか晗

是非 読ませて下さい昀

No.39 09/04/05 21:09
アンナ ( ♀ EroLh )

>> 38 アンナは、ピヨさんとこと、まめさんのとこのリレー小説に参加してる身分です💦
まだ自分のスレ立てられなくて😱
というより、自分のスレ立てして、小説なり詩を書きたいのですが…
理由は…スレが立てられないから😱💦

指定受信だから、ドメイン指定して確認して、メール送ったのに返ってこないから😩⤵

昼間にでも、ミクルに📱して、聞いて問題解決するしかなさそうかなぁ…と💧
🔰で、ミクルにうといから、こんなとこでも引っかかってます😂
私もリレーは、頭ないからミステリーなんて柄じゃないので全く自信なく書いてます💦

No.40 09/04/06 01:01
麗 ( hXqgi )

>> 39 麗です昀
スレッド立てられないなんて有るんですか昻

頑張って成功させて下さいね坥

リレー…
今書いたけど不安…

それでは
おやすみなさい抦

No.41 09/04/06 23:27
麗 ( hXqgi )

会話が途切れるのが
怖い…

初めて優一の前で
自らバスローブの
紐を解き…
私からくちづけた…

少し驚いたような
顔をしていたけど
いつも通りクールに
腰を抱き
グラスを置いて

『麗… どうかした?』
スッと指で私のあごを持ち上げ優しく問い掛ける

首を横に振り
窓際に立つ優一の前にひざまづく

まだやわらかい
優一の下半身を両手で包み込み口に含んだ


『 麗 … 』

私の髪を撫でる
優一のそれは
すぐに
口に含めない程
大きくなる

髪を撫でる手を止め
私から身を引き離した


『どうした麗 
今日の麗はいつもと違うよ』


そう言って
私を持ち上げベッドに
寝かせ
この両腕を頭上に
優しく持ち上げた

No.42 09/04/07 10:22
翔 ( kqyUh )

楽しみに読んでます

No.43 09/04/07 12:00
麗 ( hXqgi )

>> 42 ありがとうございます昀
m(__)m昀昀
嬉しいです昀昀

No.44 09/04/08 16:04
麗 ( hXqgi )

優一の優しい手が
私の両腕を一つに捉え
指先から脇に
ゆっくりと
舌を這わせて行く…

『  悪い子だ…   』

   えっ?
  気付かれた?

一瞬 身体が凍り
優一を見つめた

『  …?…  』

『麗は 悪い子だ…
私の天使だったんじゃ
なかったのかな… 』

低く優しい声を
耳元に吐きかけ
首筋をなぞる…

『…ン アッ… 天使なんか……  じゃない… よ …ン…  』

快感なのか
ゾクゾクと鳥肌が立つ
わからない感覚に
何度ものけ反ってしまう

……気付かれてない……

それ以上優一は
何も言わなかった

私は罪悪感からも
少しずつ解き放され
優一の動きに身を委ねた


ゆっくり…


ゆっくり…


優しく…



激しく…



無になり
私は優一に抱かれた

No.45 09/04/08 19:30
麗 ( hXqgi )

優一に
抱かれた後は
いつだって
余韻が永かった


打ち付ける
シャワーの
シブキでさえも
ほてった身体を
十分に刺激する

… アッ …

私は感度の高まる
その場所に 当たるたび
小さく 声を漏らしていた


部屋に戻ると
優一は 明日着て行く
服の支度をしてる

『明日も来てくれる?』

後ろから抱き着き聞いた

『勿論だよ ちゃんと いい子にしてるんだよ』
微笑み
私の頭を撫で
額にくちづける


【週二回】
そう決まっていたから
当たり前の答えのはず

なのに…
優一と居ると
穏やかな時が流れる…
その流れが
とても心地いい

充実した時を過ごしてる
そんな想いが反動となり

また
私の心を掻き乱し始めていた

No.46 09/04/11 14:55
麗 ( hXqgi )

『麗 休むよ おいで』

支度を終えると
優一はベッドに入り
私を呼んだ

私の髪を
優しく撫で眠りにつく

いつもなら
そのまま私も眠るはず

でも色んな想いが
頭に浮かび
目が冴えて眠れない…


髪を撫でる
優一の手が
次第にゆっくりと…
途切れ途切れになり…
止まった…


私は
呼吸を小さくし
身動きもせず
暫くじっとしてた


5分くらい過ぎた頃
腕に乗せた頭を動かしてみる

…ううん…

と声を漏らして
寝返りをうち背中を向けた

優一は完全に眠りに
ついている様だ


私は静かに
ベッドを抜け出し
携帯の置いてある
テーブルに向かった


【あなた 
毎日お疲れ様です
もうすぐクリスマスですね  
今年はどんなクリスマスを過ごせるのか今から楽しみです
それでは
余り無理なさらない様にね
もうお互い若くは
ないのですから
   里美】


【週末はいつも寂しい想いをさせてすまない
そうか…
もうクリスマスだね
君の誕生日だから また何か考えておくよ

おやすみ      】

No.47 09/04/11 15:38
麗 ( hXqgi )

--23:37 送信--


心が凍りつく

私がシャワーを
浴びていた時間だ

体温がみるみるうちに
上昇して行く


壊してしまうんじゃ
ないかと思う程に
携帯を強く握りしめていた

……裏切られた……

そんな想いがした


背中を向け
眠っている優一を

刺してしまいたい!

そう思わせる程の
深い悲しみと嫉妬が
全身を駆け巡る


テーブルに残った
ワインを一気に
飲み干し
震える手を握りしめた


……ダメだよ 麗!

優一さんは私のものじゃない

解ってる!
   解ってるょ…

でも辛いょ…
苦しいょ…………


ベッドでは
何も知らない優一が
小さな寝息をたて眠っている

しゃがみ込み
寝顔を見つめた
涙がぽろぽろ零れ鳴咽が漏れる

気配に気付いたのか
優一は
『おいで』
私を抱きしめた

我慢仕切れず
声をあげて泣いた


それでも
優一は何も言わず
ただ黙って髪を撫で
抱きしめていた

No.48 09/04/12 22:09
麗 ( hXqgi )

腕の中で
どんなに泣いても
優一はただ黙って
抱きしめていた

それはまるで
私の心全てを
見抜いているかの様に…

何も言えない
自分が悔しくて
悲しくて

どれだけ
抱きしめられても
優しく撫でられても
気持ちが収まる事は
なかった


……
こんな気持ちになるなら
見なければ良かった…

知らなくてもいい事実
なぜ知ろうとするの?
……

たった
二つのメールが
夫婦の全てを
物語るかの様に
事実と混ざり合い
妄想さえ広がる…


二人で並ぶ姿…
結婚記念日に…

クリスマス…

………

私は?私は?

誕生日…
だから何なの!

何なの?

……

 ……………………
 ……何?…………
 …………なぜ…………


一言も言葉に出さず…

しゃくり上げたまま


赤ん坊の様に眠りに落ちた

No.49 09/04/13 09:32
麗 ( hXqgi )

……

 『優一さん 早く!早く!』 波打ち際から優一を呼んだ

ゆっくりと 微笑みながら歩いて来る優一

私は両手をいっばい
広げて優一を待った

両手に抱きしめた時
優一は私をすり抜けた

 …………!…………

海を振り返ると
そこには里美が笑って
両手を優しく広げ
立っていた


『行かないで!行かないで!
… 行か… … いで …  』
追い掛けようと
足を動かすのに
波に足を取られ動けない!

『 …待って!… 』
……………………
………………………
『 優一さん!! 』
!!

自分が出した
大きな声に驚き
ベッドに起き上がる

 … 夢 …

隣に眠るはずの
優一は
居なかった


時計は7時を回ってる


優一はもう
会社に行ったのだろう…


コーヒーメーカーにも
一杯分のコーヒーが
温かい湯気を出していた


ボーッとしながら
カップに注ぎ
窓際に向かう


景色が霞む…
泣き腫らした瞳のせい?


窓にも大粒の涙が
外を伝い 流れていた

No.50 09/04/13 12:43
麗 ( hXqgi )

雨の日は
尚更感傷的に
なったりする

ため息を
何度吐いたのだろう
会社でも同じだった

『麗!飲みに行かない?』

同僚の美砂が
私の肩をポンと
軽く叩いた

『…! 美砂』

『最近ぼんやりしてるぞ』
驚く私を
下から覗き込み
上目使いで
おどけてみせる

美砂とは同期で
入社した時からずっと
一緒に働いて来た

勿論 遊びも一緒
本当に気の合う友達


透との出会いも
美砂がセッティングした
合コンがきっかけだった

透と別れた事…

優一との事…

仲の良い美砂にさえ
まだ話せないまま
今日まで過ぎている

『美砂 ごめん!
先約有るからまた今度誘って!』

両手を合わせ
片目を開けて
私もまたおどけてみせた

『もう!また~?
麗!付き合い悪いぞ!』

『ご~め~ん!』

仁王立ちして笑う
美砂を背中に
私は手を振り
会社を後にした


朝からの雨は
みぞれになって
一層寒さを増していた…

No.51 09/04/13 14:07
麗 ( hXqgi )

マンションに戻ると

優一の車が停めてあり
車内から運転手が
私を見つけ会釈した


部屋には
明かりがついていた

『お帰り 麗』

優一が部屋にいた

『どうしたの?
今日は早いんですね』

私は聞きながら

昨日の事を気遣かって
くれたのかと
すごく嬉しかった

(言葉にはしなくても
ちゃんと想ってくれ
てるんだ)

そんな幸せな気持ちに
包まれながら
優一に抱きついた


スーツを着たままの
胸内ポケットから
紙?ビニール?…
指先に固い感触が伝わった

(なんだろう…)

そう思ったけど
出掛ける支度を
促され
髪を直し 服を着替え
レストランに向かった

No.52 09/04/13 14:36
麗 ( hXqgi )

優一とする食事は
夢心地だったけど
マナーが分からず
戸惑う事も多かった


そんなマナーにも
少しずつ慣れ
行儀よく食事も
出来る様になっていった


今夜の懐石も
戸惑う事なく
お腹も心も満たされた

普段は飲まない
冷酒も美味しかった



『優一さん もうすぐクリスマスだね…』

…!…
自然と口にした
言葉に記憶が遡り
私は次の言葉をのんだ

『そうだね いつもとは
明かりの数も色も違うね 』

だんだんと近づく
イルミネーションを
見ながら優一は答えた


軽くKISSをした後

エレベーターは
ふわりと
地上に止まり

扉を開いた

No.53 09/04/13 22:22
麗 ( hXqgi )

部屋は床暖房が
いつもついていたし
設備も良かったから
暖房やストーブなど
点けなくても
寒いと感じる事は
一度もなかった

『雪になるのかな…』

窓際で
優一が独り言の
様につぶやく

一緒に窓から眺めてみた

『寒かったから
降るのかもしれないね』

明かりの無い
景色を見ながら
私は答えた

『今日はバスタブに 
 お湯張ろうかな~ 』

バスルームに行き
ボタンでセットした


優一が里美と
連絡を取り合うのが
嫌だった

携帯をまた見てみたい
そんな思いも
無かった訳じゃない

何より
夫婦の会話を
されるのが嫌だった

せめて二人で
居る時だけは
私だけを見ていて欲しい…
せめて今だけは…

『お湯張ったよ もう少ししたら一緒に入ろう…』

優一が"他"に
気を取られない様
私は何かを必死に
探していた

そんな事は
本当に無駄なのに…

…ピリリリ…ピリリリ…ピリリリ…

ブザーが
お湯を張った事を知らせた

No.54 09/04/14 00:29
麗 ( hXqgi )

バスルームからも
外の景色が一望出来た
晴れの日には海も見える


優一は先に
シャワーを浴びてる

何度身体を重ねてても
こんなに明るい
場所で裸になるのが
少し恥ずかしくて
扉を開けるのを躊躇していた

『早くおいで』

扉を開け優一が
手をとり招き入れた

私の身体にシャワーを
浴びせながらKISSをした

器用にボディソープを
身体につけ
指先で洗い始める

『恥ずかしいょ…』

『力を抜いてごらん』

微笑み優一は囁いた

円を描く様に
しなやかな指先が
ゆっくり身体を撫でた…

全身に神経が
張り巡らされ

私の口から声が漏れる

… アッ …

  … アン… ン…

バスルームに
私の声と
シャワーの音が
やけに大きく響き渡る…

優一の指が
乳首に触れたとき

……アッ……

足から力が抜け
倒れそうになった
私の腰を支え

優一また唇を合わせた

No.55 09/04/21 01:01
麗 ( hXqgi )

『麗… 綺麗になったよ 温まりなさい』

腰を抱く手を離し
軽くバスタブへと促した

『一緒に入って…』

私は浸かりながら
優一の手をつかんだ

『甘えん坊だね』

笑いながら
後ろに回り
座っている私を
抱きしめた

『もう充分温まってるんだけどなぁ』

わざと甘えて
後ろに居る優一に
寄り掛かって目を閉じた

…… チャポン ……
……  チャポン ……

少しだけ温度が
低い私の肩に優一が
時折お湯をかけながら
何分たっただろう…

『先に上がるよ』

シャワーを浴び
優一は 部屋へ
戻って行った

私も慌ただしく
シャワーを浴び
追い掛ける様にして
部屋へと急いだ


優一の手元に
携帯は無く
ソファーで
ワインを飲んでいた

勿論
部屋にはJazzが
心地よく流れている
私にグラスを渡し

『 乾杯 』

いつも優一は
グラスを
軽く持ち上げ
ギリギリまで
近づけるだけで
決して合わせなかった

No.56 09/04/21 13:52
麗 ( hXqgi )

ふと目覚めると
隣に優一が眠っていた

気を失って
しまったのか
裸のまま
私はベッドにいた


ほんの少し
記憶を辿ってみる…


優一に抱かれる記憶が

子宮に…

乳房に…

鮮明に甦り

…ピクッ と
小さく身体を縮めた

… シャワー浴びなきゃ…

静かにベッドを
抜け出し
バスルームに
向かった時

スーツ越しに
触れた指先の
感触が脳裏を過ぎり…

バスルームへと
向かう足を
転換させた

何故か
嫌な予感がした…

用意された
スーツの
胸ポケットに
そっと触れてみた…

…パリ パリ …

(入れ替えたんだ…)

あの時と
同じ感触が
指先に伝わった

(見てはいけない… )

心と反対に
私の手は
ポケットから
ビニールに包まれた
一枚の紙を取り出した

No.57 09/04/21 16:28
麗 ( hXqgi )

†††††††††††


【Ensemble Concert】


~ 聖夜に送る
     二人のための
クラシック・
    アンサンブル~



    〇〇〇交響楽団

†††††††††††



クリスマスに
行われる
コンサート
チケットだった





時が止まり

私は
スローモーションの
様にゆっくりと
床に座りこんだ…


裸のまま…

膝を抱え


声を殺して泣いた

No.58 09/04/22 01:09
麗 ( hXqgi )

どれだけ
泣いたら
この想いが
届くのだろう…


どれだけ
涙を流せば
この頬を
伝わなくなるのだろう…



クリスマスを
一週間後に控えた頃

不安定だった
からなのか
ほんの少し
睡眠がうまく
とれなくなっていた

睡眠薬を
処方して貰おうと
電車を乗り継いで
病院に向かった


そんなに簡単には
貰えないと
思っていたから

流れる景色を
ぼんやりと
感じながら

薬を貰う口実を
考えていた


視点を定めず
目に映される景色は
水彩画の様に
ただ
色を通り過ぎて
行くだけだった


それなのに…


私の視線は
景色の中に
《教会》を
ピンポイントで捉えた


… あの教会だ! …


まさか こんなに
近くだったなんて…


開くドアを降り

タクシーで
教会に向かった…

No.59 09/04/22 08:45
麗 ( hXqgi )

人通りの多い
賑やかな駅前を離れ
住宅街に入ると
クリスマスに向けて
美しく装飾された家が
夜を待ち侘びる様に
建ち並んでいた


『降り出して
     来ましたね』

愛想の良い
初老のドライバーが
硝子越しに
空を見上げながら言った

その言葉に
私も空を見上げてみる

『本当だ…』
小さくつぶやいた


住宅街を抜けると
葉を散らし
閑散とした
森が広がり

その先に
まだ新しいで有ろう
真っ白な教会が
姿を現した


車を降り
ゆっくりと
教会に続く
石畳を進んだ



チラチラと
舞い降りる雪が
その景色をより一層
美しく増していた


掌を上に向けて
翳してみる


掌に落ちた雪は
私の温度で
すぐに
水滴へと変わる


頬に落ちた
雪もまた
涙の様に
水滴に変わった…

No.60 09/04/23 09:18
麗 ( hXqgi )

教会には
数人の人々が
何かの準備なのか
幾度と無く
出入りしていた



扉が開かれる度に
オルガンの音が
鳴り響いている


人波に紛れ
足を踏み入れると


五千からなる
パイプを連ねた
オルガンが
目の前に聳え立った


…パイプオルガンだ…


聴き覚えのある
メロディーが流れる


邪魔にならない様
片隅の空間で

目を閉じてみた



異国に居るかの様な
錯覚をさせる



足が宙に浮き

背中に羽がはえ

天使にでも
なったかの様だ



ここに来た理由も…
これから先の事も…
全て忘れ
暫く
その異国に
私は酔いしれていた

No.61 09/04/25 15:10
麗 ( hXqgi )

初めて耳にする
パイプオルガンの音色

部屋中に響き渡り
全身を包み込む

テレビのそれとは
全く異なり
遥かに素晴らしく
美しい音色だった



どれくらい
そうして
いただろう…


オルガンの
音色がとまり
私は目を開けた


……この
  美しい一時を
  優一と里美は
  クリスマスに
  共有するんだ……


すぐに
現実が
心を痛めた…


……薬が欲しい…
  眠りたい……


私は教会を出て
病院に向かった


『眠れないんです』


思ったより
睡眠薬が
簡単に手に入った


……これで今夜は
ぐっすり眠れる……

何となく
ホッとした気がした

私は優一の
マンションには
向かわず

狭い自分の
部屋へと
帰って行った

No.62 09/04/25 18:21
麗 ( hXqgi )

部屋に入り
私はヒーターの
スイッチを押した

外と変わらない程
部屋の中は冷たい


それでも
優一に関わるものが
無いせいだろうか
安堵する自分がいた


窓を開けると
降ってる雪が
屋根にほんのり
積もり
少しだけ
美しい世界を
見せてくれた


 …チチチチチチ… ボッ…

ヒーターが
温かい風を
送り始める

その匂いも懐かしい

ふと携帯に
目をやると
着信を知らせる
ランプが
光っていた


…マナーに
 したままだったんだ…

携帯を開くと
美砂の留守電が
入っていた

『麗?ご飯行かない?
 連絡待ってるからね』

20分程前に
録音されていた
私は折り返し
電話をした

…………………

『麗?待ってました!
 なんか美味しいもの
 食べに行こうよ~ 
 てか今日暇~?  』

相変わらず
高いテンションで
美砂は話す

『う~ん なんか疲れち ゃったんだよなぁ』

気乗りせず
そう答えた

No.63 09/04/26 17:25
麗 ( hXqgi )

『い~っつもそれじゃん
 それとも麗?
 何か有ったの?
 最近顔色も良くないし 具合でも悪いの?』

美砂が
心配そうに
声のトーンを
落として言った

確かに
体重も2㌔程
少なくなっていた

…今夜は付き合うか…
私は

『ううん 大丈夫だよ
 そうだね!
 たまには付き合う!』

明るく言った

『ヤッター!!
 じゃあいつもの
 居酒屋で待ってる!』

『うん!後でね!』

電話を切り
身支度を整えた


美砂には
まだ何も
話していない
今夜
透と別れた事だけは
話しておこう…


駅前まで
歩いてみた

都会とは違う
ささやかな
イルミネーション…

それでもちゃんと
クリスマスを
伝えている

……
 この世界だけで
 生きていた方が
 幸せだったのかも
          ……

そんな事を
思いながら
美砂の待つ
店に向かって歩いた

No.64 09/04/26 18:10
麗 ( hXqgi )

二杯目の
紅茶ハイを
飲み干しても
まだ言い出せず
お代わりを頼もうと
ブザーを押した時

『透くんとの事…
    知ってるよ…』
美砂が言った

『そうだったんだ…』

私は傷付けて
しまった事も含め
透との事だけを
言葉を選びながら
少しずつ話した


お金を貰って
愛人になった事…

立場もわきまえず
愛してしまった事…

嫉妬の感情を
押さえられなく
なりそうな事…


どうしても
優一の事は
最後まで
話せなかった


『麗? 透くん心配してるよ… 他にまだ何か言って無い事有るんじゃないの? 一人で抱えてないで話してみたら?
友達でしょ 何も出来なくても話しくらいは聞けるよ』

美砂は優しく
言ってくれた

『ありがとう…
 でもそれだけだから』

溢れそうな
涙を隠そうと
メニューを
手にした

『まっいいか!!
 今夜は食べるぞ~』


もっと知りたい事も
有っただろう…

深く触れない
美砂の優しさに
感謝した

No.65 09/04/26 19:12
麗 ( hXqgi )

食事を楽しみ
お酒も飲み

私達は
久しぶりの
時間を満喫した

『もうこんな時間だ~』

美砂の言葉に
時計を見ると
12時を回っていた

『帰ろうか』

店を出ると
辺りは降り続く雪で
真っ白に染まっていた


『このまま行けば
 ホワイト
 クリスマスなのにね』

『じゃあまたね!美砂』

『麗!なんか有ったら
 連絡しなさいよ! 』

私は頷き
バイバイと
手を振った

 -クリスマス-

この言葉に
反応してしまう…

さっきまで
あんなに楽しく
してたのに…

また
苦しくなって来る

早く眠りたい…
夢の中だけでも
忘れていたい…

私は
家路へと急いだ

No.66 09/04/26 22:01
麗 ( hXqgi )

『薬を飲む時は
 ちゃんと眠る
 準備をしてからに
 して下さいね 
 フラフラして
 倒れたら大変だから』

病院でドクターは
そう言っていた

《ハルシオン》
という
小さな青い
錠剤だった

『人によるんだけど
 半分にして
 飲んでみてね』

確かそうも
言っていた

真ん中に
割れる様に
溝が入っている


私はベッドに座り

ポキッと
折って飲んでみた


10分…

20分…

30分…

…何も変わらない…
私には効かないのかな…


40分を過ぎて
残り半分を飲んだ


暫くすると
ほんの少し
頭がぼんやり
するのが分かった


雪の降る日は
全ての音を
消すかの如く
見事な静けさを
与えてくれる

心地よさの中で
私はベッドに
横になり
そのまま朝まで

ぐっすり眠った…

No.67 09/04/26 22:33
麗 ( hXqgi )

薬で眠った朝は
調子いいと言うより
寝不足の感覚がした

時間は…
5時…

ボーッとする
頭を押さえ
カーテンを開けた

まだ暗い空
積もった雪が
反射し
神秘的な光で
一面を包んでいた

 …白銀の世界…

まさにそれが
ピッタリの
表現だと思う



このまま

吸い込まれて
消えてしまいたい


漠然と
考えていた…


私の心は
壊れかけてるの?

自分に
問い掛けても
答えなど
出るはずもない…

No.68 09/04/26 23:36
麗 ( hXqgi )

私の想いなど
何も知らず
優一は
今日もやって来た


シャワーを
浴びた後

『麗… 開けてごらん』

細長い包みを
手渡し優しく笑う

『え?何?』

思いもしない
プレゼントに
心が踊った

『わぁ…綺麗…』

キラキラ輝く
ダイアが
五つ連なった
ネックレスだった

『ありがとう!』

抱き着く
私の手から
ネックレスを取り
首につけてくれた


大きな鏡の前に
私を立たせ
バスローブを落とした

『似合うよ…
 すごく綺麗だ… 』

後ろから
首筋にkissしながら
優一は囁く

裸の自分を
見る事に…

そこに絡まる
優一の姿に…

耳元にかかる
吐息にも
感じてしまう

『… 優一さん…  』

私を立たせたまま
優一は
足先まで舌を這わせた

 …アアッ…  アン …

   …アァアン… 

  ユウイチ…サン…

優一に
抱かれる時
私の身体の全てが
性感帯となり
快楽の世界へと
導いてくれていた

No.69 09/04/27 07:59
麗 ( hXqgi )

セックスを
する事で
身体はいつも
満たされていたが
単に肉体だけであり
精神を
満たしては
くれなかった


その感情は
優一が居なくなれば
すぐに襲って来る…


すでに
クリスマスまで
後二日…


想う度に
何かが壊れて
行く気がした…


先に目覚めた私は
下げてある
優一のスーツに
視線を向けた…


……神様…
  どうか
  少しだけ
  私にも幸せを
  与えて下さい ……

こんな事で
幸せになれる
はずなどない


それでも私は
里美に
何かを知らせたくて


片方の
ピアスを外し
胸ポケットに
落とした

そして
いつもより
強めに
香水を吹き付け
優一の眠る
ベッドに
潜り込んだ

No.70 09/04/27 09:23
麗 ( hXqgi )

次に目覚めた時
優一は居なかった

いつもの様に
コーヒーが沸かされ
その横に
一枚のカードが
置いて有った


【Merry昀Christmas】

ため息と共に
首元に掛かった
ネックレスに
触れてみた

クリスマスプレゼント
だったんだ…


…奥さんには
どんなプレゼント
するんだろう…

また余計な
想いが
私を狂わせる

…優一の
 肌についた
 香水は 里美の
 所まで香りを
 運ぶのだろうか…

 里美はポケットに
 入ったピアスを
 見つけるだろうか…

 そして
 私と同じ様に
 苦しむだろうか……


 今日は土曜日のEve


私はもう一度
同じ香水を
耳元に
手首に
吹き付け


サークルに
出掛ける支度をした

No.71 09/04/27 16:33
麗 ( hXqgi )

>> 70 サークルで
私は
社交ダンスを
習っていた

年配の人が
半数を超え
彩り鮮やかな
衣装を身につけ
楽しそうに
踊っている


大会を目指す人が
多数を占める中
私は
そこまで入れ込む
つもりも無く
何となく
やってみたかった

それだけで
始めたダンスだった



里美の姿を見つけた

優一につけた
香りが私だと
気付く様
わざと近付いた


…帰ればきっと
 私の香りだと
 気付くに
 違いない…


一瞬にして
優越感に浸った


私は確実に
嫌な女になっていった

No.72 09/04/28 09:36
麗 ( hXqgi )

夜…

私は部屋には
戻らず
街を歩いていた


クリスマスは
一年に一度
誕生日より
大切にしてる
1番のイベントだった


毎年
クリスマスソングを
耳にする頃には

…今年はどんな
クリスマスを
過ごせるんだろう…

想像を膨らませ
ワクワクしながら
その時を待っていた


煌めく街を歩く
カップルたちは皆
寄り添い
手を繋ぎ…
kissを交わし


それぞれが
二人だけの
世界をつくり
幸せそうにしていた


 … 寒い …


人気のなくなった
道端に立ち止まり
自分の肩を
両手で抱きしめ
空を見上げた


たくさの星が
遠く瞬いている


星空の下
なぜか世界中で
一人ぼっちの気がした…

No.73 09/04/28 12:22
麗 ( hXqgi )

部屋に
戻った私は
一人
ワインを注ぎ

一つしかない
アロマキャンドルに
火を燈した

 …Merry
     Christmas…

携帯に向かって
グラスを翳してみる


~兊兊~兊兊兊~兊~

着うたが流れた

『Merry Christmas
     麗ちゃん!』

懐かしい
透の声だった

『 …透… 』

我慢してた
悲しみが
込み上げ
涙が溢れる

  ……トオル…
  …トオル…

 …傍に居て欲しい…

言葉にならず
鳴咽とともに

ただ…
ただ…
泣いた



透は黙って
声にならない
私の言葉を
携帯越しに
ずっと
聞いていてくれた

No.74 09/04/28 14:56
麗 ( hXqgi )

…透…

 透に逢いたい…
 抱きしめて欲しい…

 本当に透なの?
 違う!

 透じゃない
 そんな事
 解り切ってるじゃない

 でも
 今だけ…
 今だけでいい…


≫ ピンポン ピンポン!≪


玄関と耳元で
チャイムが鳴り

『麗ちゃん!
 大丈夫?麗ちゃん!
 開けて!麗ちゃん 』

ドアを叩く透の声がした

私は思わず
玄関に走り寄り
急いで鍵を開けた


透が心配そうに
立っていた

『麗 ちゃ 』

言い終えるのを
待たず私は
透にしがみつき
温もりを
確かめる様に
強く抱きしめた

 『 透… 』

走って来て
くれたんだろう

透は息を切らし

顔を埋めた胸も
ドクン…ドクン…
と波打っていた

No.75 09/04/28 18:18
麗 ( hXqgi )

『透… なんで
 来てくれたの… 』

透と私は
並んでベッドに
寄り掛かり
キャンドルを
見つめながら話した

『美砂さんから
聞いたんだ… 

麗ちゃんの体調
悪いんじゃ
ないかって
心配してるよ…』

『ごめんね… 
心配かけて…
美砂にも謝らないと』


私はそれ以上
話さなかった
話せばまた
透に甘えてしまう

こんなに
優しい人を
また
傷付ける事は
出来ないと想った


『痩せちゃったね…
さっき抱きしめた時
そう思ったんだ 

俺さ… 
やっぱり心配だし…

まだ麗ちゃんが
     好きなんだ』

(…今優しくしないで
   ダメだよ 透…
  好きだなんて
  言わないで …)

心とは裏腹に
また私は
透の腕に包まれ
泣いた…


『透… 抱いて…』

一瞬
戸惑ったのか
じっと
私を見つめた

『抱いて…』

透は私を抱き上げ
ベッドに横たえ
額にkissをした…

『ずっと傍に居るから
    少し休みなよ』

優しく微笑む
大人びた 透がいた

No.76 09/04/28 23:51
麗 ( hXqgi )

『透… ありがとう』

ベッド脇に
座ったまま
透は私の涙を拭い

優しく髪を
撫でてくれていた


…あの人と同じ…

その幸せ感に
私は目を閉じ
いつの間にか
眠っていた





明け方の
冷たい空気に
目が覚めた

何時間眠っただろう

眠りについた時と
同じ位置に
透はコートを羽織り
眠っていた


…この人となら
幸せになれただろうに

…優一に出逢う前に
      戻りたい

…優一を知らない頃
     に戻りたい


ヒーターをつけ
コーヒーを
飲みながら
私は透の寝顔を
見続けていた

No.77 09/04/29 08:48
麗 ( hXqgi )

…透…
あなたは
どうして
こんな私を?

あんなに
酷い事
してきたのに
それでもずっと
私を守ってくれる…



私には解ってた
寄り掛かれば
寄り掛かっただけ
この人を
傷付けてしまう

優一が居ない
寂しさを
埋めてるだけ

どんなに
苦しくても
私は透ではなく
優一を選ぶだろう




『麗ちゃん…
ごめん 眠っちゃった』

『ううん… 
 謝るのは私だよね』

透にも
コーヒーを渡した

『今日はどうするの?
予定がないなら
ご飯でも食べて…』
『教会に行きたい!』
透の言葉を
遮って私は言った


まただ…

私の中の
悪魔が
心を支配する

透を利用して
優一の気持ちを
確かめ様と考えた


同時に里美にも
私が居るという事を意識 させたかった…

No.78 09/04/29 19:41
麗 ( hXqgi )

私はいつもより
念入りにメイクをし

若さを強調させる
ミニスカートを履き

プレゼントされた
ネックレスを
見せびらかす様
胸元の開いた
服も選んだ

当然
あの日優一に
つけた香水も
きつめにつけた



私にとって
戦いだった…






透と私は
教会に向かう
電車の中で
透と会話したものの
全く頭には入らず
考えるのは
優一達の事ばかりだった


…私が透と一緒なら
 きっと優一は
 気にするだろう

…奥さんに近づけば
 今度こそきっと
 匂いに気付くはず

…穏やかに
 今日を過ごす事は
 出来なくなるだろう
…もしかしたら
 奥さんに隠れて
 連絡してくるかも

頭の中は
そんな事ばかり

『着いたよ』

透の言葉に
促され
電車を降り
タクシーで
教会へと急いだ



優一達より
早く着いて
いなければ
意味がない…

No.79 09/04/30 09:29
麗 ( hXqgi )

間に合った…


『麗ちゃん…?ここ
入れないんじゃない?』

道沿いに
貼って有る
コンサートの
ポスターを見ながら
透は言った

『うん… そうだけど』

曖昧な返事をしながら
私は二人の姿を探した


教会に向かい
歩くカップル達は
皆幸せそうに
私の前を通り過ぎて行く





見慣れた車から
優一が降り
続いて里美が降りた

   …来た…


『透!来て!』

私はコートの
ボタンを二つ外し
透の腕をとり
真っすぐ
優一達に向かって行った



『お久しぶりです』

私は笑顔で
里美に挨拶した

『あら 麗さん?こんな所でお会いするなんて
麗さんもこちらへ?』

『いいえ そうじゃないんですけど…お見かけしたものですから』

一歩近付いて
優一にも挨拶した

『こんにちは佐伯さん』

優一は
少し驚いた様に
見えたものの

『こんにちは 
麗さんでしたか
そちらは彼かな?』

『ええ…そうです』


試す様に私は
力強く答えた

No.80 09/04/30 09:56
麗 ( hXqgi )

『妻の里美です
麗さんとはスクールで
ご一緒させてもらってるます』

当たり前の様に
里美を引き寄せ
透に紹介した

『あ!そうなんですか!何も聞いてなかったので知らなくて』

何を勘違い
したのか
透は続けて
とんでもない事を
言い出した

『クリスマスに教会で
アンサンブルですかぁ…いいですねぇ
なんかお幸せそう!』

里美が口を挟んだ

『そんな… 
でも本当に幸せです
私の誕生日も兼ねて
主人が予約してくれて』

普段は
控え目な里美が
プレゼントらしき
小さな四角い包みを
わざわざ見せた

『うわぁ!流石ですね』

大袈裟に透が言った

  ……は?……

…何言ってるの?
 なんなの?  …

私は 外したボタンの
襟元を合わせ掴んだ

優一は
優しい眼差しで
里美を見つめ
二人の話しを
頷きながら聞いていた


もう
話の内容など
私の耳には
一切入らなかった


時折向ける
里美の視線が
何を意味するのかさえ
この時は解らなかった…

No.81 09/04/30 10:26
麗 ( hXqgi )

『そろそろ
   時間だよ』

時計を
確認しながら
優一は里美に言った

『それではまた…』

二人は揃って
お辞儀をし
教会の扉を開いた


『麗ちゃん!!
佐伯さんって
紳士的だねぇ!
クリスマスに
誕生日だってさ
奥さんも
幸せだよねぇ
…………
…麗…ちゃん…?』

返事をしない
私を振り返り
透は固まった

『 カエッテ… 』

鬼の形相をして
いたに違いない

『えっ?』

『帰ってって
言ってんのが
聞こえないの!?!』

まだ人が
通り過ぎる中
大声で怒鳴った

『どうしたの!?』

慌てた透が
私に触れようと
手を延ばした

『最低だよ…
  もう帰って!!』

その手を
大きく振り払って
私は走りだした



惨めだった…


悔しかった…



来なければ良かった!

見なければ…


どこを

どうやって

帰ったのだろう…



私は部屋に戻り
ドアの鍵をかけた…

No.82 09/05/01 08:46
麗 ( hXqgi )

気持ちを
落ち着かせたくて
私はまた
ワインを開けた

グラスの淵から
溢れる程に注ぎ
一気に飲み干した


……
あの人は誰が
私を抱こうと
構わないの?


私が居るのに
なぜ平然と妻です
そんな事言えるの?


プレゼントって…
あれはリングだよね
奥さんは
ピアスなんか
つけてない
知っててあの日
ポケットに
入れたんだから!
       ……


優一は何でも
買ってくれた

リングを
欲しがらないのは
勿論暗黙であり
里美のプレゼントを
見るまでは
考えもしなかった


あっという間に
ボトルは空に
なっていく

浴びる様に飲む…
まさに
言葉通り
ゴクゴクと
喉元を流れてく


…奥さんの特権
  だとでも言うの? …

プレゼントを
見せる時の
まるで
勝ち誇ったかの様な
里美の顔…

優一の笑顔…


私は…



完敗だった……

No.83 09/05/02 12:35
麗 ( hXqgi )

勝つつもりで
挑んだ
戦いだったはずなのに…
こんな惨めに
なるなんて!!
怒りなのか
悲しみなのか

私はもっと
アルコールが
欲しくて
酔ったまま
ふらふらと
近所のコンビニに
向かった


日本酒

酎ハイ

ビール

カゴを満たして
店内を歩いてると

・・・・・・

コスメコーナーで
足が止まった…


普段使わない
箱に入った
化粧剃刀を手にし
レジに向かい
コンビニを後にした



風が音をたて
落ち葉が舞い踊る

酔いのせいか
寒さはさほど
感じなかった

気付けば
コートも着ていない

頬に当てた手が
冷たくて
孤独が
覆いかぶさる…


…どうして私だけ…

…どうして 独り…


通り行く人が
私を見て
笑ってる気がした

No.84 09/05/03 18:09
麗 ( hXqgi )

悲しい
クリスマス…

独りぼっちの
クリスマス…

買って来た
お酒もまた浴び
私は泥酔していた

何もかも
忘れたくて
飲んでるはずなのに
飲めば飲む程に
想い出し
自分を苦しめる

最後の一本を
取り出した
袋の底に
剃刀が見える

…これで楽になろう…

怖くはない
薄い刃を
手首にあて
ス-ッと引いてみた

痛くもない…

ぼーっと見てると
一文字に引かれた
肌の中から
プツプツと
赤黒い玉が浮かび
それはすぐに
一本の線となって
手首を伝った


  …温かいよ…

  …綺麗…

ポタポタと
流れる
赤い血を
美しいと思ったし
温もりに
触れた気がした…


テーブルに俯せ

暫く見つめ


幸せな気持ちで
瞼を閉じた

『 気持ちいい… 』

No.85 09/05/03 23:23
麗 ( hXqgi )

…ねぇ 麗さん
優一があなたを
愛してると思う?
本当は 解っている
でしょう? …

薬指に光る
リングを
見せながら
里美は高い笑いする


…愛してるのは
 里美だけだよ
 麗はただのおもちゃ
 それだけだよ …


里美を
抱き寄せながら
優一も笑う


『やめて!やめてよ!』

私の叫び声は
二人の笑い声に
消されて届かない

頭を抱えて
何度も何度も
声にならない
声をあげた

足元から
氷の混ざる
水が湧き出て
あっという間に
下半身を浸した

『お願い… 助けて』
『寒いよ…』


…麗ちゃん
 可哀想に…

『透… 助け…て』

…… 助…け… …

どんどん
身体が凍り始め
頭迄浸された
もうダメだ…




『麗ちゃん!
    麗ちゃん!』

No.86 09/05/03 23:53
麗 ( hXqgi )

目の前に
慌てた透が居る
訳が解らない…

『寒い…』

私はガタガタと
震えてた…

血を流すと
体温が下がるのか
本当に寒かった

透が持ち上げた
私の手首には
どす黒い血が
べったりと付き
テーブルの下には
ゼリー状に固まった
小さな血溜まりが
出来ていた

『麗ちゃん…
   どうして…』

透は涙を
浮かべながら
タオルを巻き
上着をかけ
ヒーターをつけた


私は生きていた

玄関の鍵を
閉めなかったのは
生きていたいと
願ったから
なのだろうか…

来て欲しいと
願ったから
なのだろうか…


私は
抱きしめられた
透の温もりと
暖まる部屋の
心地良さに
また
睡魔に襲われ
眠りに落ちていった…

No.87 09/05/04 08:52
麗 ( hXqgi )

…ちょっと
手首を切った
くらいじゃ
死ねない…
知ってるよね
それくらい


死にたいなんて
ほんの少しの
感情なのに…

お酒って怖いね

何でも出来る
そんな気がしてしまう

お母さん
ごめんなさい…

貴女に貰った
大切な身体
傷付けました…
ピアスは
笑って許してくれた

でもこればかりは
許しては貰えないね

私はこれから
どうなるのでしょう…
まともに
歩く事
出来るのでしょうか…



手首に痛みを感じた

気付くと
透が手首に
包帯を巻いていた

消毒液に
塗り薬…

コンビニの
袋も目についた


『透… ごめんね…』

『大丈夫だから…』

包帯を巻き終え
透がニコッと頷く

『何も聞かないんだね』

私の問いに

『聞いて欲しいの?
違うでしょ… 
まだ居るから
もう少し眠ったら?』

『本当に居てね…』

ずっと目を開けて
いられない程
頭痛もひどい


なぜだろう

枯れてしまったのか
涙も出なかった…


『ごめんね…』

私はまた落ちた

No.88 09/05/11 08:34
麗 ( hXqgi )

そんな事をしながらも
優一と過ごす時間だけは
失いたくなく
透との間を
行き来していた

私は最低だ
透の気持ちを
知っていて
辛い時だけ呼んでいた



この頃には
透に連れられて
美砂も
良く来てくれていた

いい加減
何も話さない私と
聞き出さない透に
しびれを切らしたのか
ファミレスで
食事しながら
美砂が言い出した

『麗?やっぱり変だよ
そんなに辛い事有るなら話してみなよ…
透くんの事だって いつまで振り回すつもりなの?』

透は食べるのをやめ
『美砂さん、俺は大丈夫だよ… だから無理に
聞かなくても…』
口ごもった

やはり聞きたいのだろう

私はひとつひとつ
始めから
話し出して行った

隠す事にも疲れ
限界だったのかもしれない


優一と出会い
愛人となった事

不覚にも
愛してしまった事

里美に嫉妬して
嫌がらせをした事

どうすれば
いいのか解らない事
全て話した

隣に座った透が
窓の外を見ながら
涙を拭うのが
視界に入っていた

No.89 09/05/11 12:08
麗 ( hXqgi )

『別れなよ!そんな人と付き合ってたって、麗は幸せになれないよ!』

美砂は強い口調で言った
何も言わず
ただ黙ってる透にも

『透くん?麗の事好きなんでしょ?だったら何で何も言わないのよ!』
『……』
透は何も答えない

苛立った美砂は

『あんた男でしょ?好きならちゃんと掴みなさいよ!私のとこで、どうしたらいい?なんて、もう言ってる場合じゃないんじゃないかな!』

大声ではないけど
明らかに怒ってる

それでもまだ
私は優一との別れを
選択する気はない
そんなに簡単に
言わないで欲しかった

簡単に
別れられないから
こんな風になってる…

……
言われなくても
幸せになれない事くらい
私が1番よく解ってるょ
         ……

『別れたくないの…』
私の一言で
美砂の言葉は途絶えた

そして透も小さなため息を漏らした

No.90 09/05/13 08:53
麗 ( hXqgi )

『帰る』
無愛想に私は
テーブルに
一万円札を置き
席をたった

『なんなのよ』

美砂がムッとして
一万円札を握りしめ
突き返した

『麗さ、変わったよね
今のあんたは嫌いだから! 』

伝票を持って
さっさと
帰ってしまった

私は立ち上がった
席にもう一度座り
残っていた
アイスコーヒーを飲んだ

今頃
涙が溢れてくる

美砂を
追い掛けた透が戻り、
また私の横に座って

『美砂さん 泣いてたよ… 』

…私だって泣いてるよ

声にはならなかった
いや…しなかった

『麗ちゃん… 帰ろう』
透は私の肩を
キュッと抱き寄せる

力のまま
その肩に頭をつけ

『透… 透の事も好き』
悪魔が囁いた

もたれた
私の頭を抱え


……


私にkissをした


透は泣いていた

涙を流し

泣いていた…

No.91 09/05/13 10:11
麗 ( hXqgi )

私は嫌がる
透をタクシーに乗せ
マンションに向かった

そう…
優一と愛し合う
あの部屋だ…

『知りたいんでしょ?
私のこと全部』

『だけどやっぱり…』

『本気で嫌だったら
今ここに居ないはずだし
見せてあげるよ全部』


マンションの前で
タクシーを停め
精算を済ませ降りた

『ここなの…?!』

見上げながら
驚いた顔で透が言った

『私が好きなら来てよ
来ないなら、二度と
私に構わないで』

絶対に断らないと
確信してる私は
完全に上から目線で
挑発している

悲しい顔をした透は
思った通りの答えを出し 私を見つめた

『どうぞ』
私は
部屋のロックを外し
透を招き入れた


……

いつもの景色が
私達を向かえてくれる
夕暮れ時も
また格別に美しい


透は黙ったまま
ずっと景色を眺め

立ちすくんでいた

No.92 09/05/13 12:13
麗 ( hXqgi )

『綺麗でしょ…
ここで彼に抱かれるの…』

ベッドを撫で
悪戯に透を見た

微かに透は
震えているのか

『俺にどうして欲しいの…』

小さく強く呟いた

『抱いてよ… あの人以上に私を感じさせて』

言い捨て
シャワールームに
向かう私の手を
力強く掴み
引き寄せる

『望み通りにするよ!』
私の髪を
揉みくちゃにしながら
kissをしてきた

舌が絡み合い
息も出来ない程
激しいkiss…

上着のボタンを
契れそうな力で
外していく…

『もう、我慢はしない』

怖いくらいの
その表情に
いつもの幼さはない

透にしがみつくのが
やっとだった

永く激しいkissの後
そのまま抱えられ
ダブルベッドまで運び

一瞬の躊躇もなく

私を横たえた…

No.93 09/05/16 16:11
麗 ( hXqgi )

いや…
ベッドに投げ落とした

『どんな風に
あいつに抱かれる!?』

馬乗りになり
大声で透が叫ぶ

私の両腕を
頭の上で
一つに持ち
睨みつける

  …コワレタ?…

こんな透は
初めて見る
正直 ちょっと
怖い気がしたけど
強気で見つめ返した

何も言わない
私の服をわし掴みし
そのまま破いた

パチッ!

大きくボタンが弾け
窓にぶつかる

透は荒々しく
私に覆いかぶさり
ブラを持ち上げ
あらわになった
胸にむしゃぶりついた

『やめて!痛いよ!』

暴れ様にも
押さえられ
出来るのは
足をばたつかせる位だった

『なんで?なんで
 あいつなんだよ!』

そう繰り返しながら
力強い愛撫を続ける

ふと 透を見れば
その瞳からは
涙が流れていた…

『泣いてるの?』

呟いた瞬間
透の力が緩んだ

すかさず
私は起き上がり
透にまたがった

淫らな格好のまま
逆転した

『教えてあげるよ…
そんなに
乱暴にしないで…』

No.94 09/05/16 18:34
麗 ( hXqgi )

私は透の唇を
舌でなぞり
kissをした

耳に舌先で
触れると
透は

『アッ… ア… 』

まるで
女の子の様に
声を漏らし
身体をビクビクッと
震わせている


もう強い透は
そこに居ない

流れる涙も
いつの間にか止まり
一つ一つの
私のkissに
身を委ねていた

小さな乳首にも
舌を這わせ
円を描くように…
軽く吸い上げる様に…
転がしてみる

『アアッ… アッアッ…』

乱れた私の服の
背中を握りしめ
透は喘いだ


…男の人も
 こんなに
 感じるんだ…

その姿に
どうしようもない程
私は感じ
大きく反り返った
透を掴み
ゆっくりと
私の中に沈めた…


  ン… アア……ッ

二人同時に
大きな声をあげた

優一の様に

ゆっくり
ゆっくり
腰を動かしてみた

…これなら
 透とでも
 イケるかもしれない…

私は自分の
場所を探り
動かす…


『もう…ダメだよ…』

透が悲鳴に
近い声で言った

その途端
透の動きが
早くなった

『ダメだよ!… 』



私にしがみつき
透は果てた…

No.95 09/05/17 18:24
麗 ( hXqgi )

やっぱり
透とのセックスでは
満たされない

『もう少し我慢してくれ  なきゃダメだよ』

息を荒くして
高揚した顔の
透を横目に

なんの余韻も
ないまま
ベッドを抜ける


  …ん?…

携帯が短く鳴った

メールを開くと
優一から…

【今夜 伺いますが
 よろしいでしょうか】

返信せず
そのまま
携帯を閉じ
透を見た

『透… 
 今日はここに居て』

『うん…』

満足気に
優しい顔で頷く



私は急いで
シャワールームへ行き  ビデを使い
念入りに洗浄する

……私がどんな男を
  愛したのか
  どんな風に
  愛されるのか
  見せてあげる……


壊れてるのは
間違いなく
私の方だった…

No.96 09/05/17 22:04
麗 ( hXqgi )

『メッチャ綺麗だね…』
部屋に戻ると
外を見ながら
透が静かに言った


『普通に
生活してたら
私にはこんなとこ
絶対住めないよ
勿論…透もね』


『麗ちゃん…
それでもやめて欲しい…
俺、バイトも増やすし
頑張るからさ!』


『アハハ!そんなの
無理に決まってるじゃない!何言ってるの?』

真剣な顔で
諭す透が
何だか可笑しかった

どれだけ働いても
優一の様にはなれないし
優一の様に私を
抱く事も出来ないだろう

『彼みたいに
なれるなら
考えてもいいかな』

透はまた
悲しそうに
うつむいていた


私は時計に
目を向け
優一の来る時間を
確認した

…そろそろかな…



 - Ping-pong♪ -



チャイムがなった

… ビンゴ! …

慌てたふりで
透を急かす

『隠れて!早く!!』

扉の隙間から
ベッドが見渡せる
クローゼットに
透を押し込む


何が何だか
分からない透は
同じ様に慌てて
すんなり従った


玄関の靴を
隠し
ドアを開けた

No.97 09/05/18 00:07
麗 ( hXqgi )

『ただいま』

優一は時々
そう言って
部屋に入って来た

相変わらず
穏やかな
低いトーンだ


『お帰りなさい』

優一の身体に
絡みついた

口髭が
くすぐったい
小鳥のkissをして

『シャワー浴びて…
私は今浴びたの…』

優一の上着の
ボタンを
人差し指で
触れながら言う

優一は
いつだって優しい

『ん?食事に
  行かないのか?』

唇を尖らせ
甘ったるい声で

『だってぇ…』

上目使いで
優一を見つめる

『わかったよ』

そう言って
額にkissし
私を抱き寄せる


待機してる
運転手に
携帯で連絡をし
バスルームに向かった

No.98 09/05/18 08:26
麗 ( hXqgi )

急いで
透の元に行き
クローゼットの
扉を開け
私は言った

『絶対出ないで』

そんなに
狭くはない空間に
透は力無く
しゃがんでた

呆れてるのか
悲しんでるのか
透は何も言わない

押さえつける様に
声を潜め

『透!わかってる?
  絶対だからね!』

扉を閉め
ベッドを直し
優一を待った

優一が出る迄の時間
やめようか?
どうするか悩んだ

いくらなんでも
ひど過ぎやしないか?

こんな事をして
何かが変わるだろうか

同じ事が
何度も頭を巡る



バスルームから
-カタン-
と 音がした


… 今更だよね …

私は決断した

No.99 09/05/19 17:26
麗 ( hXqgi )

- ドクドク -  

 - ドクドク-

心臓が
その存在感を
示している

落ち着かない…

緊張感からか
ぎこちなく
なってしまう…

『どうした?』

ワインを注ぎながら
優一は私を見た

『え?…どうも
   してないよ』

多分 作り笑いだった


クローゼットが
気になって
仕方がない

笑いながら
優一は私に
ワインを手渡した

『ありがとう…』

渡されたワインを
一気に飲み干し
自分でグラスに
注ごうとした時

『そんな飲み方は
   よくないよ』

私からグラスを
取り上げ抱きしめる

鼓動が優一に
伝わってしまうと
思えば思うほど
更に激しく
高鳴ってしまう…


髪をかきわけ
舌を柔らかく
すべらせながら
首筋にkiss…

  … アン … 

私は声を漏らす


『綺麗だよ…麗…』

kissしながら
あっという間に
裸にされてしまう



私は

扉越しの
透の前で


一糸纏わぬ身体を
さらけ出していた

No.100 09/05/20 12:17
麗 ( hXqgi )

優一は
クローゼットに
向かって立つ
私の後ろに回り

柔らかく胸を
揉みしだき
少しずつ
愛撫する手を
下に滑らせる

力を入れ閉じた
その場所に手が届く…

『 ン… ダ、ダメ… 』

優一の手に
自分の手を重ね
止めようとしても

『綺麗だよ… 
 恥ずかしくないから…
 … ほら…
 …  力抜いて…』

止めようとはせず
私の手の上に
優一は
手を重ねかえた

濡れた溝を
優一のしなやかな
指に誘導され
そっとなぞる

『 アアッ… 』

固くなった
蕾にふれた時
内ももに
入れた力も抜け
背中越しの
優一の首を抱える

自分でするより
遥かに気持ちいい
その動きに

羞恥心も
次第に薄れ
漏らす声まで
大きくなって行く


『 イ… イッちゃう… 』

耳元にかかる
優一の息使いも
荒くなり感じてしまう


自ら動きを早めると
優一はkissで
口を塞いだ

立ったまま
のけ反り
私は隙間から
声をあげ
  
昇りつめ
もたれかかった

No.101 09/05/20 16:24
麗 ( hXqgi )

力が抜けた
私の身体を
軽く持ち上げ
ベッドに運ぶ

仰向けに
寝かされた身体に
また舌を
絡み付かせる…


首…


胸…


ウエスト…


手の甲までが
今は性感帯となり
私を悶えさせる

一度絶頂を
迎えた小さな蕾は
触れられるたび

- ピクッ ピクッ -

と身体を震わせる


『麗…  私の麗…』

透に比べれば
少しだけ
柔らかい
優一のもの…

それでも
私を満たすには
充分過ぎる


私の名を呼びながら
少しずつ沈めて行く



 -カタン-

クローゼットから
物音が
聞こえた気がしたが
そんな事には構わず
快楽の世界に堕ちた



クローゼットの
中に居る透は
いったい
何を想い
息を潜めているのだろう

消えそうな
意識の中
穏やかなJazzだけが
心地よく流れていた

No.102 09/05/21 22:29
みくる ( RndL )

続き楽しみにしています😺

No.103 09/05/22 13:59
麗 ( hXqgi )

>> 102 ありがとうございます昀 (*^-^*)昀昀

No.104 09/05/23 15:40
麗 ( hXqgi )

透はまだそこで
息を潜めて
いるのだろうか?

満たされ
脱力した私の中で
もう一人の私が
冷静に考えている

『シャワー浴びなさい』

腕に乗せた
頭をそっと外し
優一は言う

透が気になった私は

『先に浴びて』

横になったまま
優一にお願いした



シャワーの
音が聞こえると
私はすぐに
クローゼットの
扉をあけてみた


… トオル ? …

一瞬
訳が解らず
息をのんだ


うなだれて
座る透は

膝までズボンを下げ
明らかに一人
その行為を
したと判断出来る
残骸を残していた


『なんでだよ…』


膝を抱え
透は肩を震わせ
泣いた…


何故か私は無償に
可愛いと思ったし
愛おしいと思った


今は
抱きしめる
時間はない

『透、早く
   今のうちに』


私はティッシュで
丁寧に拭い
軽くkissをし


クローゼットからも
部屋からも

無理矢理追い出した

No.105 09/05/29 09:01
麗 ( hXqgi )

罪悪感…

自分への嫌悪感…

そして
満足感…?


鳴り止まない
心臓を押さえながら
いつも通り
優一と食事をし
部屋へと戻ったが

何をしても
透の事が
気になって
仕方なかった


いったい私は
何をしたいのか
何を求めてるのか


優一と
会話もしたけど
内容などは
何ひとつ頭に
入らなかった


…透の声が聞きたい…


眠った優一を
起こさないよう
トイレに入って
透の携帯を鳴らした


一回…

二回…

三回…

四回…



『もしもし?透?』

  … ツーツーツー …

何度かの
呼び出しの後
電話は切れた

一瞬繋がったと
思ったのは
気のせいだった?


もう一度掛けてみる


-おかけになった電話は 電波の届かない場所に-
………

透は出なかった

No.106 09/05/29 11:01
麗 ( hXqgi )

次の日も…
その次の日も

透が電話に
出る事はなかった


それでも
時間が経てば
あれは夢だったと
錯覚するほど
私の記憶は
曖昧になっていた


連絡が取れなくなって
数日経った頃

私の携帯に
非通知で
電話がかかる様に
なっていた…

それは一日に
一回から
今では何度も
かかって来ている


ワン切りじゃなく
明らかに通話を
目的としているのか
長い時は一分も
鳴り続けた

だから仕事の時は
必ずバイブ抜きの
マナーモードにした


 …もしかしたら
        透?…

次は出てみよう!

そう思っていても
仕事中だったり…

思うように
出れない事ばかりで
タイミングを
逃していた





サークルに
行く日の朝

また非通知がなった


『…もしもし…  』
私は電話に出た

『もしもし?
どちら様ですか?』

『……………』

No.107 09/06/03 11:16
麗 ( hXqgi )

『もしもし?』
繰り返しても
何も返事はない


耳を澄ませ
携帯越しの音を
拾ってみる

『………
……………
…………
ツー…ツー…ツー……
………………』


切れる直前
聞き覚えの有る
感覚が
ほんの少し
耳をかすめた


  …?…

あまりに音が
遠いからなのか
その時の私には
解らなかった


でもそれは
教室の扉を開けた時
確実にメロディとなり
蘇る


 …これだ!…

教室の片隅で
優しく微笑む
里美が

『お久しぶりね、麗さん… 最近余りいらっしゃらないんですね』


キラキラと光る
リングをはめた手で
前髪を整えながら
私に向かい歩いて来た

No.108 09/06/05 20:00
あやめ ( 20代 ♀ CJIUh )

続き楽しみ✨ドキドキです💕頑張ってくださいね☺

No.109 09/06/06 03:11
麗 ( hXqgi )

>> 108 ありがとうございます昀

ちょっと忙しく
ゆっくり更新に
なってしまいますが
最後まで
書き上げるつもりです昀

応援
嬉しいです(*^-^*)戓

No.110 09/06/08 12:30
麗 ( hXqgi )

『あ… 
 お久しぶりです』

まだ把握出来ずに
頭を下げた

『お忙しそうですけど、どなたかいい人でも
見つけたの?
あ!そうそう
あの時の彼かしら?』

笑顔で話す
その目は
決して笑ってはいない

里美の後ろで仲間が
こっちを向いて
何か話してる…
そんな気もした

頭の中を
一生懸命整理しながら
返す言葉を探す

『いえ… あの…』

思考が定まらず
無意味に
辺りを見回した

教室の中は
中年カップル達が
ステップを踏み
ケラケラと笑いながら
ああでもない…
こうでもないと
楽しそうにはしゃいでいる



『お早うございます』

私の後ろから
優一の声がした


『あら、あなた
間に合わないんじゃ
ないかと思ってました』

『すまない 何とか間に合って良かったよ
麗さん
お早うございます』

ざわつく
教室に一瞬
空間が出来たように
優一の声だけが
私の耳に入る


思い過ごしなのか

私は 何故か
凍りつく様な
冷たい空気を感じた

No.111 09/06/08 13:53
麗 ( hXqgi )

二時間の
レッスンを終え
帰り支度を整える


優一への
恋しい想いは
有ったものの
相変わらずの
刺さる様な視線が
私には苦痛で
早くこの場を
去りたかったのが
正直な気持ちだった


…あの無言電話は
      彼女 …

透だとほぼ
確信してた私は
以外な展開に
戸惑っていたのも
事実だった

優一は何も
気付いては
いないのだろう

いつも通り
私に視線もくれず
妻を優しく
エスコートしていた

帰ろうとした
その時…

『麗さん!
良かったら
一緒に帰りませんか?
お送り致しますから

ねぇ、いいわよね?
あなた』

いつもは動じない彼も
さすがに驚いた顔をして
私を見た

『里美、突然だね…
麗さんも困ってるよ』

『あら、たまにはよろしいでしょ?
私もお若い方と
お友達になりたいわ』


『で、でも…』

『さぁ、どうぞどうぞ』

半ば無理矢理
私を車に押し込み
車を走らせた


ルームミラーで
眉を寄せた
運転手と目が合い

私は目を閉じ
細く深呼吸をした

No.112 09/06/11 08:51
麗 ( hXqgi )

優一



里美…

そう並んで座った
車内の空気は
気を紛らす
言葉も思い浮かばず
ただ
重い空気を
漂わせている

《なんで?》

それぞれが
多分同じ事を
考えていたに
違いない

口を開いたのは
運転手だった

『どちらへ向かえば
よろしいですか?』

自分のマンションを
教えるべきか…

戦いに挑み
優一とのマンションを
教えるのか悩んでいた…


『自宅に行って頂戴』

さらっと
里美が言い
優一を見て
優しく微笑む

穏やかでは
いられなかったのか
優一は返事もせずに
視線を外した


『ご自宅ですね』

運転手の言葉を
さえぎる様にして

『あの…私そんなに
時間ないんです…』

『あら、そうなの…
でも せっかくだから
お茶だけでも
召し上がって行って』

里美は強引だった
すがる想いで
優一を見たが

やはり
視線を合わす
事はなかった


助けてはくれない


そう直感した

No.113 09/06/11 10:12
ウラン ( 30代 ♀ l0eVh )

毎回ドキドキしながら楽しみに見ています✌
頑張って下さいね👍

No.114 09/06/11 10:48
麗 ( hXqgi )

>> 113 ありがとうございます昀

下手なりに
頑張らせて
頂いてます(*^-^*)戓

m(._.)m昀昀昀

No.115 09/06/11 17:07
麗 ( hXqgi )

10分足らずの
移動時間で
頭の中を
様々な想いが過ぎり
何度も巡る


あんなに優しく
私を愛してくれた
優一は今いない

あからさまに
目線を合わせる
訳にも行かず

膝の上で固く
握った両手は
じっとりと
汗をかいていた

嫉妬に狂い
里美を憎んだ
あの時の気持ちは
どこへ行ったのか

守って貰えない
絶望感に包まれ
長い廊下を進む
私の足どりを
重くした


『さあどうぞ
お座りになって
今珈琲入れますから』


大きなスクリーンに
向かって
並べられた
ソファーへ
案内され座った


優一はテラス窓から
綺麗に手入れのされた
庭を眺め
無言で煙草を
吸っている

まるで
私の事など
眼中にないかの様に

声など
掛けられなかった


程なくして
珈琲のいい香りと共に
里美がやってきた


『麗さん
お気に召すかしら?
あなた
あなたもどうぞ』

この重苦しい
空間から
抜け出したくて

『頂きます』

ミルクをいれ
少しずつ飲んだ

No.116 09/06/18 10:20
麗 ( hXqgi )

里美の有り触れた
会話に相槌をうちながら
優一も私も
黙ったまま
珈琲を飲んだ


『あの彼はお元気?』

クリスマスに会った
透の事だった

『ええ…』

『あまり彼を
悲しませない方が
いいんじゃない?』

なんの事なのか
里美は意味深に
言ってきた

返事も出来ず
優一を見た

彼はまた
タバコに火をつけ
大きな呼吸と共に
口から煙りを吐き
里美を見つめている

まるで
それ以上話すな
とでも言うような
顔をしている

『麗さん
ルールは守って
頂かないと…』

もういつもの
上品な里美ではない
立ち上がり
部屋に有る
複雑なスイッチを押した

ゆっくりと
いくつも有る
カーテンが
閉まっていく

遮光だろう
あっという間に
暗くなった
スクリーンに
見覚えの有る
ベッドが映し出された…
……?……

…何?…

私は何が何だか
わからなかった

『里美!やめなさい』

いつになく
声を荒らげた
優一がスクリーンの
前に立った

でも意味がない
優一に重ねて
映し出されたのは
紛れも無く
私が愛され
乱れるその姿だった

No.117 09/06/18 10:41
麗 ( hXqgi )

全身が震え
頭の中が
真っ白になる

私が愛されていたと
想っていた
あの日々はいったい…


優一と里美が
何かを言い争って
いたみたいだが
そんな事は
耳になど入らず
今までの全てが
ぐるぐると心を頭を
駆け巡り
繰り返していた


『ルールさえ
守って下されば
こんな事知らずに
幸せでいられたのに』

感情のない
里美が言葉を
吐き捨てた直後

しゃがみ込み
頭を抱え
何かを叫び泣いている

慌てた優一は
バッグから
薬を取り出し
里美に飲ませ

『大丈夫だから…』

そう言って
彼女を抱きしめた


『優一…さん…』

…私は?
私はどうしたらいいの?
…ねぇ…

…私も苦しいよ…

…抱きしめて欲しいよ…

『優一さん!』

私も泣き叫んだ


『すまない…麗…』



優一は
ほんの一瞬
私を見ただけで
里美を
抱きしめたまま
部屋を出て行った

すぐにでも
ここから
走って逃げ出したい

それなのに
私は力無く
しゃがみ込み

声の無い
映像をぼーっと
目に映していた

No.118 09/06/18 17:09
ウラン ( 30代 ♀ l0eVh )

更新お疲れ様です★
ドキドキ…バクバク…凄い展開で、続きが楽しみです!

No.119 09/06/18 18:04
麗 ( hXqgi )

>> 118 ありがとうございます昀

ゆっくりで
ごめんなさい昉昉

No.120 09/06/19 09:13
麗 ( hXqgi )

音の無い
その映像は

まるで他人事の様に
不思議と抵抗無く
視界に入って来た

淫らに喘ぐ
自分の姿さえ
美しくもみえ
妄想までも掻き立てる


頬を伝う涙とは別に
私の身体は
確実に体温を上げ
湿度を増していた

思わず太ももに
入れた力が
キュンと
下腹部に伝わった


…透…
きっと
あの時の貴方は
今の私と同じ…


そんな事までも
冷静に考える
自分にも驚いていた


どんなに辛くても
苦しくても
肉体は別なんだ

悲しいのか
悔しいのか
解らない涙がまた
一筋零れた…



『… 麗 …』

しゃがんだ
私の背後から
優一が抱きしめる

『本当にすまない…
許しておくれ…  』

肩に掛かる髪に
顔を埋め
優一が首筋に
Kissする様に囁く

『 あっ …』

身体は敏感に
反応した…


スクリーンには
まだ
優一と乱れる姿が
映画の様に流れていた

私は抱きしめられた
両手を摺り抜け
優一の唇を貪った

No.121 09/06/21 23:19
なち ( 20代 ♀ dojKh )

更新楽しみにしてます😣✨

横レスですみません…

No.122 09/06/22 08:42
麗 ( hXqgi )

>> 121 読んで頂き
ありがとうございます昀

楽しみにして
下さる方がいるのに
本当にごめんなさい昉

応援嬉しいです戓

_(._.)_

No.123 09/06/22 09:39
麗 ( hXqgi )

私は
まともじゃない

当然優一も…



涙を流しながら
唇を貪り
彼の頭…顔…

撫で回し
くちづけ
何度も言った

『抱いて…ダイテ…』

優一は
私の服を捲り上げ
ブラのホックを
簡単に外した

開放され
はみ出した乳房が
優一の手に包まれ
舌で乳首に触れた…

私は淫らに声をあげた

『ああん…優一サン…』
『麗… 麗…』

応えるように
息を荒くした
優一の身体も
昂揚し熱くなった


映像の光が重なり
それもまた
普段にも増して
やけに二人を
興奮させていた


ふいに
ソファーに
座らせられ
大きく足を広げ
優一は顔を埋めた

固くなった
小さなそこを
微妙に外しながら
優しくなぞる

『…イ…イヤ… ン…』

目の前の
スクリーンには
相変わらず
いやらしい表情をした
私が乱れている…

我慢出来ずに
私は腰を浮かし
優一の舌を
蕾に当てた

『 ああぁぁ… 』

思わず優一の
頭を押さえつけ
弓なりにのけ反る


スクリーンの前で

私は
理性のない
ケモノとなっていた

No.124 09/06/22 11:04
麗 ( hXqgi )

壁こそ隔ててるが
間違いなく
この同じ屋根の下

薬を飲んだとは言え
里美が眠っている…


私がケモノなら
優一もケモノだ…

四つん這いに
させた背後から
確実に
私を攻めていく

ゆっくり…

ゆっくり…

弱く…

激しく…

『 ん…ハン…アアン 
アッ、アッ…  アァ…』

握りしめた
ソファーカバーも
くしゃくしゃになり
足元に絡み付いた

 カチャ…  カチャ…

時々当たる
テーブルに置いた
カップの音と
私の声…
優一の時々漏らす声…

どんどん
激しさを増した


もしかしたら
今度はどこからか
里美が覗いてるかも…


そんな事を
思い浮かべた瞬間

頭の中が真っ白になる

…イ… イク… …

ンンン! ウゥゥ…………

ビクン ビクン

小さく痙攣して
私はイッた

直後

私を力いっぱい
抱きしめて
唸りながら
優一も果てた


… …

No.125 09/06/22 16:28
麗 ( hXqgi )

もう夕方なのか

カーテンの
隙間から
オレンジ色の
光が一筋
部屋に流れこんでいる


私はソファーに
横たえたまま
虚に優一を見ていた


ズレたテーブルを
真っ直ぐに戻し

片付けたのか
そこには
カップも無い


気付けば
淫らに舞う二人も
スクリーンには
もう映ってはいない


黙々と片付ける
優一もまた
きちんと
身なりを整えていた


『麗…シャワー浴びなさい』

目覚めた私に気付き
バスタオルを
差し出した

黙って受け取り
案内のまま
バスルームに行き
思いきり
シャワーを流し
頭から浴びた


……あんな惨めな
想いをさせた私に
優しい言葉はないの?

セックスをすれば
感じれば
全てチャラなの?……


私は
声をあげて泣いた


……あんなに
愛してるって
抱きしめたのに……


欲に負け
身を委ねる事を
望んだ自分が
あまりに惨め過ぎた

No.126 09/06/24 10:30
笑い袋 ( ♂ xcYYh )

>> 125 麗さん🙇

ファンの皆様🙇失礼します🙇

麗さんピヨさんがリレー始めるそうです👮

良かったら来て下さい🙇

お待ちしております🙇


失礼致しましたm(_ _)m

No.127 09/06/29 10:02
麗 ( hXqgi )

送ってもらう
帰りの車に
優一は居なかった


いつもの
後部座席で
私はポツンと
一人座っていた


『麗さん… 
  大丈夫ですか?』

俯いた顔を
上げると
ルームミラーに
運転手が心配気に
私を見ているのが写った

何度も会ってはいたけど
言葉を掛けて
くれたのは
この時が初めてだった


シャワーを浴び
化粧もせず
泣き腫らした顔に
まだ濡れた髪…

…大丈夫です…

そう言うには
かなり無理が有る
ひどい姿だった

『涙をお拭きなさい』

マンションに着く
少し手前の赤信号で
手袋をはめた
白い手で
真っ白なハンカチを
手渡してくれた


『…ありがと …』
その優しさに
また
涙がいっぱい溢れた


『大丈夫ですか?』

また彼は言った

『はい… 本当に
ありがとうございました… 』

私は車を降り
見えなくなるまで
頭を下げた

No.128 09/06/29 13:38
麗 ( hXqgi )

テラスに出て
キラキラ
灯り出した地上を
見下ろした


現実に起きた
あまりの事実に
ちっとも
頭の中が纏まらない


…何故
優一と里美は
あんな事を?

今迄ずっと
見ていたの?


  ……!……

ふと
我に返り
部屋に戻って
辺りを見回した

私と優一の
淫らに愛し合う姿が
映されていた
方向を思い出す

………

ここだ…

それは
ベッドが見える
クローゼット…

そう…
透が隠れた
その場所だった


今まで全く
気付きもしなかった
小さなレンズが
上部に取り付けられていた


そして
優一の好みの
間接照明にもまた
同じように
得体の知れない
小さな物体が
取り付けられていた


『フフ…
    アハハハハ!』

声を立てて笑った
でもそれはすぐに
鳴咽となり涙が流れた

   ガシャーン!!


照明をコードごと
引きちぎり
力一杯床に投げ付けた


粉々になり
飛び散った
ガラスの破片が
まるで
宝石のように美しく
部屋に広がっていた

No.129 09/06/30 09:05
麗 ( hXqgi )

何も考える事が
出来ない…

不安だけが
胸を締め付けた

睡眠薬を2錠含み
缶ビールで
流しこむ

ゴクゴクと
飲み干した後
暖かい床に
寝転んでみた


溶けて水滴に
なった雪…
硝子のかけら…

視点を定めず
寝転んだ視界には

万華鏡のように
美しい世界が
広がっている


さすがに
薬2錠に
アルコールは
効き過ぎなのか

あっという間に
酔っ払い
テンションが
どんどん
上がっていった

現実なのか
夢なのか

遠い昔に
シンナーを吸って
得たあの感覚が
蘇っていた


今なら
何をしても
怖くない
何でも出来る

フラフラと
よろけながら
テラスへと
向かった


……これは夢
  何も怖い事
  なんかない
  大丈夫
  私にはほら…
  羽がはえてる……


ほんの少しの
距離なのに…

羽ばたきたいのに…

何かに足を取られ
なかなか
辿りつく事が出来ず

何度も転び
何度も起き上がり
足を進めた…


最後に
倒れた時には
起き上がる
力は無く

そのまま眠り
命は繋がれた

No.130 09/06/30 11:47
麗 ( hXqgi )

~♪♪ ♪♪♪ ♪♪~


……携帯が
  なっている?
  出なきゃ
  どこ…?
  携帯… ……

頭痛がし
瞼が開かない…
身体を起こし
冷えた手で
携帯を探った


『痛っ!』

四つん這いで
移動した手足に
硝子が刺さって
血を滲ませる


『もしもし…』

『… 麗?久しぶり』

美砂からの
電話だった

『麗… 
 透から聞いたよ
 あんた本当に
 最低だよ… 』

美砂は
何の言い訳も
させてはくれず
ただ一人で
話続けていた


  …頭が痛い…

美砂の話は
私をただ責める
ものばかりで

耳を素通りしていた

数分
ただ黙って
携帯を耳に当て
聞いていた
美砂が最後に言った

『私 透と
 付き合ってるから…』

『もう麗とは
 友達にも戻れない』

それだけが
心に残っていた



ひとつ
またひとつ…

私の手から
大切なものが
消えて行った

No.131 09/07/04 10:44
麗 ( hXqgi )

- ザザザザ…

ザッパーン…ザザザ… -


海を見ていた

冬の冷たい海が
ほんのつかの間
私を癒してくれる

あれから
何度この海に来て
どれくらい
時間が過ぎて
いるのだろう…

何もする気になれず
仕事も辞めて
優一から渡される
お金で過ごした


彼が少しだけ
話してくれた
夫婦の過去…

優一と里美は
心から
愛し合っている…
それが間違いでは
無い事は
優一の話から
突き刺さるほど
伝わっていた

でもなぜなのか
肉体で愛し合う事が
出来ない…

優一の身体を
満たす役目を
私に託した?

始めから
里美が仕組んだのだ

それを全て
容認する事で
彼女は救われてたの?


普通ではないはず
理解は出来ない

私はただの
性処理の道具だった

ただそれだけの女


苦しいほど

悲しいほど

愛した優一は

私を見てなど
いなかった

No.132 09/07/04 13:27
麗 ( hXqgi )

優一の事…
透の事…
押し寄せる
波を見ながら
ぼんやり考えてた

視界に
小さな赤いボールが
コロコロと
転がってきた

赤いボールは
私の足元で止まり
小さな女の子が
よちよちと
ボールを追い掛け
目の前で止まった 

目のくりっとした
可愛い女の子が
私に向かって
微笑み両手を
差し出している…

思わず
その愛らしさに
私も微笑み

『はい どうぞ』

ボールを手渡した

『アート』

女の子はそう言って
膝をちょこんと曲げ
またニコッと笑った

《ありがと》
不思議とそれが
自然に伝わった

なぜか無償に
愛おしくなり
そっと抱きしめた

『バイバイ』

抱きしめた手を離し
女の子の頭を撫でた

『ママ~』

そう言いまた
よちよちと歩き出す

…………… ?

    あれ?………

視線の先には
誰もいない

戻した視線の中にも
小さな女の子は
居なかった…


………夢?

   
   おなか
   空いたな…… 

昨日から何も
口にしていない私は
空腹を感じ
女の子の感触を
残したまま
歩きだした

No.133 09/07/04 17:05
麗 ( hXqgi )

怠い身体を
引きずり
ファーストフードで
ハンバーガーと
ポテトを買い
マンションで食べた

確か一昨日
口に入れたのも
ハンバーガーに
ポテトだった…


風邪気味なのか
ここんとこ
数日は熱っぽい
気もしていて
何もやる気が
起きない


優一は変わらず
優しく愛してくれる
でも…
私にとっては

《無神経にやって
 来て私を抱いて帰る》

そんな想いが
無かった訳もない

一度快楽を
覚えた身体は
簡単には
忘れる事はない

抱かれる時だけは
何も考えずに
済んだから
それはそれで
良かったんだろうか


ふと鏡にうつる姿に
また少し
痩せたのがわかる


 …何やってんだろ…

最後のパンを
含んだ途端
猛烈な吐き気を催し
慌ててトイレに
駆け込んだ


全て吐き出し
カレンダーを見る




  …まさか… 




もうすぐ二月も
終わろうとしている
まだまだ寒い日だった

No.134 09/07/04 22:54
ウラン ( 30代 ♀ l0eVh )

麗サン★

ドキ②の展開にワクワクしていますo(^-^)o

楽しみに更新待ってます。

No.135 09/07/05 18:39
麗 ( hXqgi )

>> 134 ウランさん昀
いつも応援
ありがとうございます晥

もう少し待っていて
下さい(*^-^*)戓

頑張ります叝

No.136 09/07/06 18:57
麗 ( hXqgi )

『うーん…
 生理が不順で
 ちゃんとした
 予定日が
 出せないけど…
 この大きさから
 十月半ばくらいね』

産婦人科の
診察台で女医が
子宮に器具を入れ
目の前のモニターを
指差しながら言った

黒い画像の中に
小さい楕円の
袋が見えた

「分かる?
 これが赤ちゃんだよ」

 … 赤ちゃん …

実感は無かった
どうしたらいいのか
考える事も出来ない

女医はそんな私に
気付いたのか

「父親とよく
 相談して
 今度は一緒に
 いらっしゃい」

そう言われ
診察室を出た



……父親と一瞬に
  って…
  無理だよ
  無理に決まってる
  言えないよ ……


お腹の子は…
 誰の…


優一とも透とも
普段は必ず
避妊していた

でもあの時…


重なって一度だけ
無防備だった
二人との記憶が蘇る…


たった一度…

それなのに

結果となって
私の中に
命を宿した

No.137 09/07/06 20:54
麗 ( hXqgi )

…赤ちゃん…

  私の赤ちゃん…


………神様…

 私は幸せなのですか?

 それとも…

 不幸なのですか?


 赤ちゃん…?

 あなたは
 私のもとに
 生まれたとして
 幸せになれるの
 でしょうか… ………


ただ漠然と
考えていた


不安定な
毎日の中で
きちんと考える
余裕は無かったの
かもしれない


誰に相談する
事も出来ずに
じっと
部屋の隅に
うずくまった


神様…

これは
私の罪ですか?

それとも
ご褒美なのですか?



私は優一に
【少し一人に
   させて下さい】

それだけメールして
携帯の電源を切った

No.138 09/07/14 12:13
麗 ( hXqgi )

私に宿った
小さな命は

何をしても
しなくても
成長を続ける


悪阻がその
証拠なのだろう


デリバリーの
ハンバーガーに
ポテト…

大好きだったはずの
オニオンリングは
何故か受け付けなかった


何日も何日も
引きこもり
考えたのに…

生みたいのか
生みたくないのか
少しも決められない


 …私はどうすれば
       いいの…


  - Ping-pong -


チャイムが鳴り
すぐに鍵が開いた

連絡が取れない
私を心配して
来てくれたと
優一は言う

『どうした?』

やつれたらしい
私の頬を撫で
抱きしめる


『赤ちゃん出来た』

解決出来ない問題を
抱えられなくなり
淡々と優一に
報告していた

私を胸に抱いたまま

『生んでくれないか?』

優一もサラっと言う

『え?なんで??
そんな事出来ないよ』

優一の子か
透の子か
分からない事も
躊躇せず伝えた


例えそれが
透との子だったとしとも
お腹の子と私の一生の
責任を持つ
だから生んで欲しい

優一はそう言った

No.139 09/07/15 11:21
麗 ( hXqgi )

私には
考える余裕も
時間もない

『わかった』

数分の後
答えを出した

目の前に
生んで欲しいと
願う優一が
居るだけで

不思議と
迷いが消えていた


……これでもう
  実家に
  戻る事も
  出来なくなるな……


やけに喜ぶ
優一の姿に
違和感を覚えたのも
事実だったが

私は自然と
安堵の微笑みを
浮かべていた




……里美は
  この事実を
  受け止める事が
  出来るのだろうか…

優一が帰ってから
里美の事が
気にはなったが

この時は
先に起こる
地獄の様な日々を
全く想像する事も
出来ずに

穏やかな気持ちで
外を眺めてみた


『赤ちゃん…
  ママですよ…』


お腹をそっと
撫でながら…

No.140 09/07/21 15:16
麗 ( hXqgi )

相変わらずの
悪阻の中でも
未来が決まった事で
気持ちは
楽になっていた


胎教にいいからと
優一の好きな
Jazzを流し
ゆったりと
穏やかな未来を
待ち望んで過ごす


今迄の事も
忘れるほど
別人の様になり

お腹を撫でたり
話しかけたり…

来れない日には
電話を掛けて来て

私と赤ちゃんの為に
時間を費やして
くれていた


『ほら、可愛いだろう』

ベビードレスに
帽子に靴下

時には
玩具までも
買って来ては
楽しそうに微笑む

『パパは親バカね』



当たり前の幸せを
当たり前の幸せだと
感じていたのは

未熟で浅はかな
私の
錯覚でしかなかった

No.141 09/07/21 16:01
麗 ( hXqgi )

優一がマンションに
通うようになって
一週間が過ぎた頃


『そうだ… 
 優一さん
 病院行かなきゃ
 いけないんだ… 
 一緒に行って
 欲しいんだけど…』

病院で女医に
言われてた事を
思い出して言った

生むと決めたら
誰かに報告したかった
だけなのかも…

友人だった
美砂にも
もちろん透にも
ましてや親になど
言えるはずもない


笑顔で報告が
出来るのは
今の私には
女医だけしか
居なかった

分厚い手帳で
スケジュールを
確認し

『じゃあ
 今週にでも行くか?』


頬にkissをしながら
優一は私を
そっと抱き寄せ
愛おしむように
髪にもkissをした

『うん、お願い』

私はニコニコしながら
優一の買って来てくれた
ハンバーガーを
ぺろりと平らげ

最後の
オニオンリングを
口移しで
優一に渡した…


『麗と居なかったら
 一生食べなかった
 かもしれないね…』

美味しそうに
移されたリングを
食べながら
優一は微笑んでいた

No.142 09/07/23 09:12
麗 ( hXqgi )

『余り大きく
 なってない
 みたいね…
 悪阻は有る?』

一通りの診察後

女医はゆっくり
問い掛ける

『えっ…?』

……そう言えば
  ここのところ
  吐き気もなく
  気分が良かった

  精神的に
  落ち着いたからと
  安易に考えていた
  
  大きくなってない?         ……


『あの、先生…
 大きくなって
 ないとはどういう
 事でしょうか』

沈黙を破る様に
優一が質問した


『赤ちゃんの
 お父さんですね?
 まだ、はっきり
 断言は出来ませんが
 赤ちゃんが
 育ってない
 可能性が有ります』

『……』


また一週間後に
診察に来る事

出血が有れば
すぐに診察に
来る事


【様子を見る】
女医は淡々と
そう説明をした


『ありがとう
 ございました』

来る時とは違い
重い空気が
二人を包んでいた

No.143 09/07/23 09:49
麗 ( hXqgi )

……
 育ってない? 
 そんなはずない

 でも…

 言われてみれば
 確かに…
 食欲も有り
 吐き気もない

 初めての妊娠で 
 分からないとは言え
 何かが違って
 いるのは
 確実だった
 

『麗?大丈夫か?』

黙って一点を見つめ
考え込んでる
私を見て
優一は声を
掛けてくれた

『うん…』


【妊娠したら
   必ず生まれる】

私にはそれが
当たり前で
育っていないと言う
その言葉自体
理解出来ないでいた


『……あ!…』

『どうした?』

先日食べたものが
鮮明に浮かんだ

………
 大好きだった
 オニオンリング…
 
 妊娠した途端
 口に出来なかった
 オニオンリングを
 優一と一緒に食べた

 何の違和感もなく
 美味しく食べた
        ………

そのたった一つの
事実だけが
継続されないで
有ろう事を
物語った気がした

No.144 09/07/23 16:38
麗 ( hXqgi )

……
大丈夫
きっと無事に
生まれてくる……

そう言い聞かせる
自分と

……
ダメかもしれない……

心の奥底で
感じる自分がいた


『きっと大丈夫だよ』

そんな優一の
言葉にすがる様に

……
 この子は
 神様が与えて
 くれた
 ご褒美……

そう信じたかった

一日…

二日…

三日…

優一は毎日の様に
マンションに
通って来た

里美が何も
言って来ない事も
不思議だったが

自分の事で
精一杯で
この時は
考える事も
しなかった


優一は
安静にと
私に気を遣い
身の回りの事を
全てしてくれている

おとなしく
ベッドに
横になり過ごした


……
 この子を生んで
 私は幸せになれる
 この子と一緒に
 幸せになりたい
        ……

優一が買い集めた
赤ちゃんの
洋服や玩具を
回りに置いて
祈る様に過ごした

No.145 09/07/28 08:46
麗 ( hXqgi )

……
 ん?なんだろう
        ……
いつもと違う
感覚で目覚めた

何かが違う
そう感じた
四日目の朝

トイレに行くと
うっすらと
ピンク色の汚れが
ティッシュに付いた


……
何?まさか
 出血……?
      ……

慌てた私は
時間も構わず
優一の携帯を
鳴らしていた


トゥルルル…

トゥルルル…

トゥルルル…

呼び出し音が続き
留守電に切り替わる

『優一さん
 電話を下さい!』


病院に連絡もせず
携帯を握りしめ
ひたすら
連絡を待った

凄く長く感じた
10分後

折り返して来た
優一に
出血かもしれない
と報告をする

病院にも
行かなくては
いけない…

でも一人では
不安だと伝えると

『麗、大丈夫だよ
 横になって
 少し待ってなさい』

そう言って
電話を切り
言われた通り
ベッドに
横になり
優一が来るのを待った

No.146 09/07/28 09:03
麗 ( hXqgi )

一人で
ベッドに居ると
不安ばかりで
落ち着かず
何度もトイレに
行っては確認し
確認しては
横になり…

何度か
繰り返した時

 - Ping-pong -

チャイムが鳴った


…… 良かった …… 


不安な気持ちも
優一が居れば
必ず和らぐ事を
私は知っている

こんな時は
尚更甘えて
寄り掛かってたい


大丈夫だよ!と
髪を撫で
抱きしめて欲しい


ホッとした時


ロックが
外される音と共に
玄関が開いた


『麗さん!
 大丈夫?』

真剣な面持ちで
小走りに
近寄って来たのは


優一では無く
妻、里美だった

No.147 09/07/28 09:25
麗 ( hXqgi )

どれくらいの
出血なのか

お腹は
痛まないのか

いつからなのか


優一ではなく
里美が来た事に
動揺する私に
お構いなく
一通り質問した後


まるで全てを
知ってるかの様に

閉まってある
カップを出し

お湯を沸かし
紅茶を入れた


『私は子供を
 生む事が
 出来なかったの』


湯気のたった
いつもの香りの
紅茶を手渡し
里美は
優しく微笑んで
私の横に座り


相変わらず
動揺したままの
私の背中を
ゆっくり摩りながら

『これを
 頂いたら
 病院に
 行きましょう
 きっと
 大丈夫よ』


優しく悲しげな
里美の瞳が
とても美しく
見えたからなのか

『はい…』

背中を摩る
里美の手の
温もりが
そうさせるのか

安堵する自分がいた

No.148 09/07/29 17:21
麗 ( hXqgi )

いつもの車に
いつもの運転手

隣に優一ではなく
里美がいる


またも運転手と
ミラー越しに
視線が合う

気のせいなのか
彼は

『何が有ったの?』

そうとでも
言いたげな
顔をして
心配気に私を見る


大丈夫と
頷く様に
視線を外して
病院までの道のりを
俯いて過ごした


『大丈夫よ
 きっと大丈夫』

隣で里美は
何度もつぶやく
様に言う

まるで自分に
言い聞かせてる


私にはそんな
気がしていた

No.149 09/07/30 09:10
麗 ( hXqgi )

待合室に入ると

お腹の大きな
妊婦さんが
旦那さんと一緒に
並んで座り

時折、目を
合わせ微笑んだり
お腹を撫でたり…


多分私も
特別では無い


隣に寄り添う
様にして座る
里美をみれば
きっとそう

娘に付き添う
母親に見えて
不思議はない


『お母様もどうぞ』

看護士の言葉からも
それが読み取れる


ドア越しの
診察台に上がり
診察を受ける

『少し出血有るね
 赤ちゃんも
 余り変わらないな
 お腹の
 張りとか有る?』

『特別感じません』

『じゃあ
 悪阻はどうかな?』

診察しながら
女医は淡々と
問診してくる

『…悪阻…
 有る様な…
 無い様な感じで…』


薄ピンクの
天井を見上げながら
小さく答える


悪阻は無い
気付いていた

ダメだと
言われたくない
余りについた
精一杯の嘘だった

No.150 09/07/30 14:35
麗 ( hXqgi )

里美の居る
診察室に戻ると

『もう少し
 様子見ましょう
 変わりが無ければ
 また来週来て下さい』

女医はペンを
取りながら
簡単にそう言った

診察室を出ようと
ノブに手を掛けた時

『あの…
 お腹の子供は
 大丈夫ですよね?』

女医のもとに
戻り
真剣な顔で
里美は質問する


『お母様
 今は何とも…』

私と里美は
同時に頭を下げ
病院を後にした

No.151 09/07/30 14:57
麗 ( hXqgi )

風邪を引いたら
大変だと
自分が纏っていた
ショールを
私にかける


……
 この人は
 何故こんなに
 真剣になって
 いるのだろう…


 優一の子供かも
 しれないと言うのに
 平気なのだろうか…


 この微笑みは
 本物なの?

 それとも
 里美はまた
 何かを企んでいるの?
         ……


あの時の
取り乱した
里美を
思い浮かべながら

複雑な思いで
マンションへ戻る


『じゃあ私は
 これで帰りますね
 ちゃんと
 ゆっくり
 横になって
 休んでいてね』

何ひとつ
真意を確かめ
られないまま

里美の
背中を見送る


ドアが閉まると
同時に
すぐにでも
優一に逢いたいと
私は願っていた

No.152 09/08/03 12:20
麗 ( hXqgi )

ブブブ……ブブブ…

バッグにしまった
携帯が短く
バイブした

奥底に入った
携帯を取り出し
メールを開く

【麗ちゃん…
 俺…やっぱりダメだ】

私はどこまで
悪魔なのだろう…

メールでは無く
電話帳から透の
名前を探し
発信ボタンを押した

コールしたと
同時に通話に
切り替わる


『透?透!ねぇ!
 透でしょ?
 もしもし? 』

『… 麗ちゃん…
 ごめん… 俺…』

『透、ごめんね…
 ちゃんと謝らなきゃ
 って思ってたんだ』

透は謝ったきり
何も話さなくなった

『透!お願い!
 マンションに来て
 彼が来る前に
 ちゃんと話して
 おきたいの
 お願いだから来て』

透の話しなど
お構いなしに
悪魔が甘える様に…
懇願した

……
 透に何を
 話すと言うの?
 まさか
 あなたの
 赤ちゃんかも
 
 そんな事話すの?
 
 出来るはずない

 少なくとも
 今は美砂と
 一緒に居るんだから
 
 麗……?
 あなたの悪魔は
 いつになったら
 
 消えてくれますか

………

No.153 09/08/03 12:47
麗 ( hXqgi )

来ない事を祈り

来る事を祈った


私の心は
いったい
どこに有るのか
自分自身解らない


少しだけ
下腹が
重苦しく痛むが

まだそんなに
気にならないと
言えばならない


電話を切ってから

美砂は
どうしてるのだろう?

うまくやってるの?

ダメって何が?


当然のように
来る事前提で
考えている


最低で最悪な私


どこかで
《透に愛されてる》
という自信が
消えなかったのも
理由ではなく


本能が
感じていた気がする

No.154 09/08/03 20:08
麗 ( hXqgi )

予想通り
透はやって来た


玄関を開けると
そこには

まるで
少年みたいに
華奢でか細い
透が立っている

『透… 』

姿を見たからなのか

悪魔では無く
母性が
光を放つように
私を包んだ

涙で声にならない

抱きしめる
腕の中の透は

力を入れたら
壊れてしまいそうな程
痩せてしまっている

『透… ごめんね
 寒いから入って』

三月といえ
まだまだ寒い

『珈琲でいい?』

コーヒーメーカーに
水を入れ
スィッチを入れた


『美砂とは
 仲良くやってる?』

『俺… 多分
 彼女を
 傷付けてる』

『そう…』

聞かなくても
簡単に想像が出来た


コーヒーの香りが
立ち込める部屋で

透は美砂との事を
静かに話し始めた

『麗ちゃんの事
 諦め様って
 努力もしたし
 美砂を愛そうって
 決めたのに
 結局彼女を
 傷付けただけだった』
 


小さな小さな
震える声だった

No.155 09/08/10 08:38
麗 ( hXqgi )

湯気のたつ
コーヒーを
一口飲むと

透は話し出す

『…出来たんだ』

『えっ?
 何が出来たの?』

消え入って
しまいそうな
小さな声が
聞き取れない

私は透を
覗き込む様に
傍に座った

『美砂に…
 子供が出来た…』

  
……
 子供って…?
 美砂が妊娠した
 って事?  ……

私は暫く
声も出せず
ただ黙って
コーヒーを飲んだ

美砂が透の
赤ちゃんを?
 
仲が良かった
あの頃なら
彼女の妊娠を
喜べたのだろう

今では
状況が全く違う

美砂が透と
付き合う事も
私は認めていた
訳じゃない

心の片隅で
いつも透は
必ず戻って来る

そう感じていた

高飛車だろうと
傲慢だろうと

そう感じていた


それなのに…
妊娠?
有り得ない…

私は少しだけ
パニックになっていた


『で、どうするの?』

私の悪魔が
囁いた

最低な女だ

No.156 09/08/10 09:14
麗 ( hXqgi )

『俺… … 
 俺、最低だよ
 美砂に
 生まないで
 欲しいなんて…』

泣きながら
頭を抱える透が
また愛おしくなる

『透… 美砂は
 美砂はなんて?』

『わからない…』

携帯も繋がらず
二人が暮らしていた
部屋にも
戻っていない

美砂の行方が
わからないと言う

……こんなに
 透を苦しめる
 なんて……

数日まともに
睡眠が取れないと

やつれた顔で
涙を流す透を
目の当たりにし

私のしてきた
事など
まるで忘れた様に
棚に上げ

少しだけ
美砂を憎んだ

『少し眠ったら?』

ベッドを指差し
透に言うと

『ソファーで
 寝かせて…』

そう言って
倒れ込む様に
横になった

ほんの数秒足らずで
透は寝息をたてていた


『可哀想に…』

布団を掛け
透の頬にkissをして
私もソファーに
寄り掛かり座った

No.157 09/08/10 15:25
麗 ( hXqgi )

…………

どれくらい
時間が経ったのか…

また鈍い
お腹の痛みに
目が覚めた…

 …… えっ? ……

下着がかなりの
違和感を与える

私は慌てて
トイレに駆け込んで
下着を下ろした

まるで生理の
時と変わらない
真っ赤な血液が
下着を染めている

慌てた私は
急いで下着を替え
ナプキンをあてて
ベッドに
横になった


……大丈夫…
   きっと大丈夫……

大丈夫な訳がない
出血が
どんな意味を
持つかくらい
解っているはずだ

どうしても
この子を生みたい

勿論
母親になりたい
という気持ちも
当たり前に有った

でもこの時は

美砂の事も
里美の事も

生む事で
《勝てる》
そんな浅はかな
考えが頭を
過ぎっていた


一時間が過ぎ…

二時間が過ぎ…

じっと
横になってる
にも関わらず
温かい血液が
流れ出るのを
止める事は
出来なかった


……ダメだ…
助けて下さい
       
どうかこの子を…

どうか… 私を……

No.158 09/08/10 16:02
麗 ( hXqgi )

テレビドラマで
観るような
激しい痛みはない

重苦しい
生理痛程度の
痛みが続く


下腹部からは
どんどん
その量を増やし
流れ出るのが
はっきり感触となり
伝わって来た


完全にダメだと
解っていた

ダメだと確信したら
今度は怖くて
トイレにも行けない


母親になろうと
していた私は
少し前に本で読んだ
《流産》に
関する項目が
蘇ったのだ

《赤ちゃんが
 出てる場合が
 有るから
 流れたものは
 病院に持って行く事》


何が怖いのか
解らないけど
ものすごく怖い

流れ出るものが
時々固まりで
有ろう感覚に

確認する事も
出来なくなってしまう

『タスケテ…トオル…』

目の前で眠る
透にすがるしかない

『オネガイ…タスケテ…』


『麗ちゃん?
 どうしたの?』

私の異変に気付き
近寄って来た

『…トオル… 
 赤ちゃんが… 』

『赤ちゃんって?』

驚いて聞き返す
透に説明もせず

『トイレに
 行きたいの
 一緒に来て…』

私は無謀な
お願いを
透にしていた

No.159 09/08/10 21:34
麗 ( hXqgi )

『トイレ?』

透の手を取り
扉を開け
便座の前に立つ

足が僅かに
震える…

『透… お願い 
 私の下着を下ろして!
 赤ちゃんが…
 お願い…
 確かめて欲しいの!』

声が震えた

『赤ちゃんって… 』

『お願い…トオル…』

私は目をつむって
深呼吸する


この事態が
何を示しているのか

大体の予想は
出来ていたに
違いない

透も呼吸を
整えていた

『怖いよ…トオル…』

向かい合う
透の肩を
ギュッと掴かんだ

『神様…タスケテ…』

透の身体が沈み
彼の目に
壮絶な光景が
飛び込む

『麗ちゃん…
 病院に行こう』

『透… 赤ちゃんは?』

『麗ちゃん
 下着はどこ?』

私の問いには
答え様ともせず
透は
下着の有る場所や
タオルの有る場所を
聞いては足早に
動き回り
丁寧に処理をした

冷静でいる様に
見えた透が
震えていた事を
知ったのは

『大丈夫だから』

そう言って
私を抱きしめた
時だった

No.160 09/08/10 23:38
麗 ( hXqgi )

神様……

神様は
やはり私に
天罰を
下すのですか…


神様…

どうかこの子を
助けては
もらえませんか…




私の
やって来た事は
決して許される
はずはない


どれだけ
人を傷つければ
気が済むのだろう

動揺する私の為に
震えながら
気丈に振る舞う透も
確実に
私が傷つけた一人だ


『残念ですが
 赤ちゃんは
 もう居ません

 このままに
 しておけば
 母体が危険です
 手術になりますが
 承諾して貰えますね』

咄嗟に
首を振って
透を見つめた

……やめて……

『お願いします』

私を抱きしめ
透は告げた





……
 何故?何故
 私では無く
 赤ちゃんが
 犠牲になるのですか

 罰なら私に下さい   この子では無く
 どうか私に
        ……


神様は
確実に天罰を下した

私の願いなど
叶うはずもない

No.161 09/08/17 09:59
麗 ( hXqgi )

小さな院内は
慌ただしく
動き出していた


『今日最後の
 食事は何時?
 この時間だと
 夕食はまだね?』


吐いた物を
詰まらせて
危険だからと

女医は麻酔の
為の確認をとる

『食事はしてません…』

私は視線を
定めないまま
虚に答えた


『麗ちゃん…
 勝手に決めて
 ごめんね ごめん…』


麻酔が打たれ
薄れ行く
意識の中で
透のか細い声が
何度何度も
こだましていた

No.162 09/08/17 10:36
麗 ( hXqgi )

閉じた瞼の
上から
光が射すのがわかる

遠い波音

海猫の声…


寝そべる
感触は
温かい砂浜


 … ママ- …

 - ザザザザザパーン -

波音に
掻き消され
聞き取れなかった声が
少しずつ…
また少し…

近付いて来る

  『ママ…』

その
愛らしい声は
寝そべる私の
耳元でハッキリ
聞こえた


……あの時の子だ……

瞬時に
記憶が蘇る
    
私は目を
閉じたまま
不思議と愛おしい
その動きを
逃すまいと
神経を集中した


『マ-マ』

小さな女の子は
そう言って
私の胸にそっと
うずくまる

添えられた
小さな手も
堪らなく愛おしい


私はその
小さな身体を
両手で抱きしめた

このまま
時が止まればいい…

波音の中で
ただそれだけを
無垢に願っていた


一瞬眠って
しまったのだろう

『バイ…バイネ…』

悲し気な声に
気付くと共に
女の子は
私の両手を抜け
代わりに
柔らかな赤い
ボールを握らせる


私はそのまま
深い眠りについた

No.163 09/08/17 11:08
麗 ( hXqgi )

『…ますか?』
 
…… ん… ……

『終わりましたよ
 わかるかな?』

『…ハイ… 』


まだ朦朧とする
頭の中を一生懸命
整理してみる


終わった…?

手術が終わったんだ

あの子はどこ…?

あの子って誰…?

夢を見ていたの…?


夢にしては
リアルな感触が
両手にしっかりと
残っている


『痛みは無い?
 まだ休んでてね』

優しく言って
看護士が部屋を
出て行った


『赤ちゃん…
 居ないんだ…』

お腹に手を当ててみた

声をあげて
泣きたかったのに

一筋の涙が
流れ落ちる前に

私はまた
眠りに落ちていた



  ごめんね……

   ごめんね……

No.164 09/08/20 10:30
麗 ( hXqgi )

次に目覚めた時…

目の前に居たのは
透では無く

悲しげな優一と
無表情な里美

その目は
何を捉えて
いるのだろう…

『どうしてなの…』

やはり
無表情のまま
里美は
独り言の様に
つぶやく

『おとなしくして
 ってあれほど
 お願いしたのに…』

『里美…
 麗が悪い訳じゃ
 ないんだよ…
 先生も言ってた
 じゃないか… 』

宥める優一の
腕を払いのけ
里美は
突然掛けている
私の布団を
乱暴にめくりあげた

『あんたのせいよ!
 折角…折角
 母親になれると
 思ったのに!!

 どうして?
 どうして生んで
 くれないの!?
 
 それじゃ
 なんの意味も
 無いじゃない!!』


髪を振り乱し
容赦なく
私に掴みかかってくる

『里美!やめなさい!』

慌てた優一が
止めるのも聞かず

どこから
そんな力が出るのか
馬乗りにでも
なりそうな勢いで
叫び出した

『里美!
 やめるんだ里美!』

優一の声など
聞こえてはいない

あの優しい
里美はもう居ない

目の前には
狂った鬼が
私に向かって
狂喜乱舞していた

No.165 09/08/20 10:56
麗 ( hXqgi )

私は流産の
ショックより

今目の前の
現実に衝撃を
受けていた


……

母親になれる?
 
 いったい何…
 
 なんなの?何…
 
 何…なに…

 なんなの?なんなの?
        ………

叫び出したいのは
私の方だったのに

『ごめんなさい…

 …ごめんなさい…
 ごめんなさい……』

耳を塞いで
ただただ
呪文のように
謝り続けた


『何をしてるんですか!   出て下さい! 』

騒ぎに気付いた
看護師が
慌てた様子で
入って来て
二人を追い出した


俯せて
謝り続けていた
私に状況は
掴めなかったが

『大丈夫?
 もう大丈夫よ』

背中をさする
看護師の
手の温もりに
我にかえり
呪文も止まる…


優一は居ない…

透も居ない…


『誰も入れない
 様にしておくから
 今夜一晩は
 ゆっくり休んで
    下さいね 』

そう言い病室から
出ようとした彼女は
『ん?』
ベッドの下に
屈み込み何かを拾った

『大切なものかな』

微笑んで
手渡されたのは

小さな柔らかい
赤いボールだった

No.166 09/08/22 09:55
麗 ( hXqgi )

『これは…』

掌に乗るほどに
小さなそのボールは
何故か温かい…
そんな気がする

気のせいかも
しれなかったが

私には確かに
温もりが伝わった


夢の中の
《あの子》を
想い浮かべ
そっと顔に近づけ
頬擦りしてみる

小さな手の温もり…

ママと呼ぶ
小さな愛らしい声…

堪らなく愛しいと
想えたのは
何故なんだろう…


大粒の涙が
私の目から
ボロボロ流れ落ちる

後から後から
頬に流れ
頬につけた
ボールに伝い

まるで
それまでもが
泣いているかの様に
涙を滴らせた…


『生んで
 あげれなくて
 ごめんね……
 こんなママで
 ごめんなさい…』


胸に抱きしめ
母の
涙を流していた



ママ…って
呼んでくれたね


こんなママで
ごめんなさい…


今度はきっと
生んであげるから
必ずママのとこに
来て下さい…

No.167 09/08/26 17:36
麗 ( hXqgi )

病室の
固いベッドで
独りぼっち
うずくまる


こんな時
何も考えずに
いる事は出来ないの?


無になりたい…


頭ん中も心も
空っぽにしたい…



それでも
私の脳は
続かない記憶を
呼び出しては
消していく…



嫌な事ばかり
辛い事ばかり
浮かんでは消えた…





十分に暖房の
効いた病室なのに

冷たい空気が
時々
隙間風の様に
頬を撫でる感触に


私は綺麗な
薄ピンクの
カーテンを
そっと開けてみる

…… あっ ……


『 綺麗… 』


チラチラと
雪が舞い降りている


私は舞い降りる
美しい雪を
いつまでも見続けた



もうすぐ
春だというのに…




冷たく寒い夜だった

No.168 09/08/26 17:59
麗 ( hXqgi )

あれから一ヶ月

優一とも
透とも逢わないで
一人静かに
過ごしている


寂しいとか
孤独だとか
感情をもって
いなかったのだろうか



以前
優一や里美が
買い集めた
ベビー用品や玩具も

そのまま並べ
独り言のように
話し掛けたりしていた…


何を考えてるのか
連絡もして来ない
優一の事も
特別想う事もなく…


ふと…
透に逢いたいと
何度か思ったのに

何故か私の
携帯の電話帳から
透の名前が消えていた


… 無いんだ …

有り得ない事も
その程度にしか
考える事もなかった


透から
連絡が来ても
良さそうなものなのに

それも無い


ただ一日を
ぼーっと過ごしても
お腹は空いた

部屋からは
まだ一歩も
出ていない


カップ麺など
有るものを食べて
空腹を満たしていた



私は生きる事は
望んでいたのだろう

心のどこかで


幸せを願って
いたのだろう…

No.169 09/08/27 00:43
麗 ( hXqgi )

つけっぱなしの
テレビの中から
日付と時間を伝える
アナウンサーの
声が流れる


私は無意識のまま
部屋に掛かる
カレンダーに
目向けてみる


アナウンスは
四月を
告げたというのに


三月のまま
時を止めていた


 …四月なんだ…


窓も開けず
カーテンも
閉めたまま

外が寒いのか
暖かいのかも
知らないまま



薄暗い部屋で
生きていた


……
 こんな事
 いつまで続ける?
 ダメじゃない!
 このままじゃ…
 ダメになってしまう
         ……


ダブルベッドの脇の
カーテンを
そっと開けてみた


春の柔らかな
陽射しが
私には眩しくて


額に手を翳した

No.170 09/08/27 09:13
麗 ( hXqgi )

この窓から見える
久しぶりの景色…


眩しくて
目を細めたからなのか


晴れ渡る空の青と
光りを抱く海の碧が
くっきりと別れ
一段と美しく映ている



今度こそ
しっかり生きないと…



窓を開け
雑然と散らかった
部屋の片付けを
始めてみた


ベビードレスは
丁寧に丁寧に畳んで
綺麗な箱にしまう


淡い色で統一された
小さく可憐なドレスは
数枚入れても
箱に余裕が出来ていた


もう少し
小さな箱をと
部屋を
探してみたけど

幾つも無い1番適度な
大きさの箱の隙間に
玩具を締まった


蓋をしても
動かすたび

  -カランカラン-

優しい音色を
響かせている


私の大好きな海に


あの子と
出逢った砂浜に


眠らせたいと想った…

No.171 09/08/27 09:54
麗 ( hXqgi )

心地良い
春の風に


さざ波の音…


波打ち際から
離れて
砂浜に座り
両手で穴を掘る


手入れを
していない爪は
あっという間に
ボロボロになった


可愛いピンクの
桃の花をのせ
少しずつ砂を戻した


流れる涙が
乾いた砂に落ち

小さな雫は
自然と円を描き
数珠繋ぎになっていた



『さよなら…
   また…ね…』


砂だらけの
手を合わせた後

波打ち際へと向かう


右手に握りしめた
ボールを
穏やかな波に乗せ
もう一度手を合わせる


『 ありがとう… 』



寄せる波に
戻っては離れ

離れては戻り

また戻っては離れ

少しずつその
距離を遠くした


それは
別れを惜しむ
最後の
メッセージの様に…


私は
見えなくなるまで
じっと…

見送っていた

No.172 09/08/31 16:44
麗 ( hXqgi )

神様は居ますか

もし居るとしたら
教えてくれますか…



この日…

この時…


心から
自分の生きる道を
正していたとしたら…



与えられた
この部屋に
戻らなければ…


私は…


私は人として
まっとうする事が
出来たのでしょうか…



どうか…


私を導いては
頂けませんか……




………

No.173 09/08/31 17:47
麗 ( hXqgi )

部屋に戻ると
そこには
優一が一人
窓辺に立ち
ワインを飲んでいた

『お帰り麗…』

『……
 お久しぶりです』

視線を外し
敬語で答える私を
抱きしめる

『すまなかった…
 どうか私を…
 私を…
 許してはくれないか』

『酔って…』

 -酔ってるの?-

私の問い掛けを遮り
珍しく酔った
優一の唇が
私の唇を塞ぎ
服に手をかける


『や…やめて…』

いくら何でも
そんな気には
なれるはずない

余りに無情で
無神経な優一


拒む私に構わず
細い手首を掴み
優一らしからぬ
荒々しい力で
ボタンを外し

『愛してるよ
 愛してる…麗…』

私をベッドに
押し倒した


引きこもりだった
私に
優一を払いのける
力などない


それでも私は
最後の声と
有りったけの
力を振り絞った


『お願いだから
 やめて……
 優一さん!
 やめて…やめて-!』


絞り出した
悲鳴に近い声が

優一の手を止めた

No.174 09/09/03 01:09
麗 ( hXqgi )

ベッドに仰向けで
宙を見つめる私…


肩を落とし
背を向けて座る優一…



音の無い空間で
呼吸さえも
意識しないと
出来ないくらい

永く重い
沈黙の時間が流れる


…………

…………

……………


『麗……
私の子を生んで
くれないか……』

………

……… 


理解出来なくて
そのまま
目を閉じる


冗談なの?
一体何を言ってるの?


優一を見る事も
聞き返す事も
出来ないまま
閉じた瞼に力が入る


私は次の言葉を
待っていた


……悪い冗談だと……

……お願い
  そう言って下さい…


ドキン…

ドキン…


過ぎ行く時の中
心臓だけが
聞こえそうな程
高鳴って行く





『…優一さん……』


目を閉じたまま
呼んだ声は
はっきり分かるほど
震えていた

No.175 09/09/04 17:26
麗 ( hXqgi )

『冗談だよね…』


耐えられなくなって
私は優一の
背中に話し掛ける


それでも優一はじっと
黙ったまま動かない…


乱れた髪…
うなだれる後ろ姿…


私が愛した
優しく頼もしい
優一は……?


決断する時が来た…


この生活を捨てて
自分に見合う
生き方をしよう…


何もかも夢…

私には似合わない

さよならと
言えばいいんだ…


暗くなった部屋に
感知した間接照明が
美しく映えた


この灯りのなか
このベッドで
どれだけ
愛されたのだろう


ほんの少し
感じた未練に
鳥肌がたち

私は深呼吸して
優一を見据える


……出て行きます
そう言えばいいんだ……
         
…………
… ………
…… ………

灯りだけが
その美しさを
増して行く


……何故?
 何故言えないの?
 早く言わなきゃ!……

……
… ………
……何をしてるの!
 早く早く!………

No.176 09/09/04 17:47
麗 ( hXqgi )

ほんの数分だろう
言葉に出来ない私には
それが何時間にも思えた


背中を向けたまま
ゆっくり立ち上がった
優一は



『今夜は……
  … 帰るよ…』


それだけ言って
ドアに消えて行った


一人取り残され
へなへなと
床に座り込む


言えない……

何故言えないの……

愛されてなんか
いないのに

こんなに
辛く苦しいのに


【さよなら】


たったこの一言が
私には言えなかった



一度覚えた

贅沢

快楽


それとも…
一人ぼっちになる
寂しさ……


何が私を
引き止めるのか
自分自身解らない


このまま
ずるずると
断ち切れずに
生きるの?


人を傷つけただけ
いや…
それ以上に
報いを
受けるのですか…

No.177 09/09/07 17:37
麗 ( hXqgi )

私は馬鹿だった


決断出来ないまま
【ここ】に居続けていた

優一はいつしか
何事も無かったかの様に

週に一度
額へのkissと
腕枕だけして
このベッドで眠り
帰って行く


時折見せた
見た事の無い横顔に
冷たい何かを
感じたけど

優一は優しかったから
固まってた私の心も
次第に溶けて行った


『麗、今夜は
 一緒に飲まないか?』


差し出された
久しぶりのワイン

今夜はJazzも
流れている


『ありがとう…』

ベッド脇に並び
美しい夜景を
見ながら飲んだ


優しく肩を


抱かれながら…



数少ない


会話をしながら……



………………

…………………

……………





三回目のワインが
注がれると同時に



私の身体も
崩れるように
ベッドに倒れて行った

No.178 09/09/07 18:02
麗 ( hXqgi )

……痛い……

頭がズキズキと痛む


……二日酔いかな……


痛む頭に
手を当て………


………?!………

『何?…』


手が動かない…


慌てて起き上がろうと
上半身を勢いよく
起こそうとした


『い、いたい!!』

引っ張られる
感覚の激痛が
両肩と手首に走り

そのまま

バタンと
元の位置に倒れる


『優一さん?!!』


大声で叫び
辺りを見回しても
人の気配はない


尋常じゃない事態に
倒れたまま動く足を
一生懸命ばたつかせ

掛けている
羽布団を落とし
自分を見下ろした


……

なんで………



私は……


生まれたままの姿で


両手をベッドに
繋がれていたのだった



……優一さん……



今度は………



なんですか……



小さく声をたて
笑ってみる


笑う唇が震え


閉じた瞳から
たくさんの
涙が流れてきた

No.179 09/09/11 14:10
麗 ( hXqgi )

『麗…綺麗だよ…』

『麗…愛しているよ』

『麗…麗…麗…
    私の麗…』

髪に……

首筋に……

唇に……


触れた優一の
唇を想い出す…


愛されていたはず…

それが今
こんな姿で
ベッドに縛られている


何をどう
整理すればいい?


私をどうしようというの?


夢なら早く覚めて



身体が冷えてくる

縛られた手首も
痺れるように痛む


カーテンの隙間に
月明かりが洩れる頃

やっと優一は
帰って来た

No.180 09/09/11 15:35
麗 ( hXqgi )

『ちゃんと話して…
私をどうしたいの?
ワインに薬入れたよね?ねぇ…どうして
こんな事するの…?
私を愛してなんかいないよね……』


私は出来る限り
静かに質問した

『愛しているよ…
麗にはずっと
私たちの傍に
いて欲しいんだよ』


耳を疑う言葉が
優一の口を伝い
裸の私の唇を
ふさごうとする

咄嗟に顔を背け
可能な限り
身をよじる


『私たち?
私たちって何?
何言ってるの?
優一さん!
あなたが愛してるのは
私じゃなくて
奥さんでしょ!』

抑え切れず
感情が吹き出していた


『外してよ!
こんな事されて
愛されてるなんて
感じないし
思わない!!』


当たり前でしょ…

当たり前だよね…

優一と居ると
何が正しくて
何が悪いのか…

どれが幸せで
どれが幸せじゃないのか 解らなくなる


赤く傷ついた
手首を優しく包み

冷たい身体を
抱きしめられて
ただ震えていた


麗……


愛しているよ…


愛してる……



下腹部に
生暖かいものが流れた

No.181 09/09/14 11:15
麗 ( hXqgi )

『ねぇ、麗さん
久しぶりに
天気がいいから
散歩に行きましょうよ』


ショートだった
髪を伸ばし
白髪混じりの
髪を染め
ずいぶん若返った
里美がニコニコ
しながら私を連れ出す


冷たい風が
頬を擦り抜け
肩をすぼめると

『あら!少し寒いかしら?ちょっと待ってて』

急ぎ足で部屋から
軽く柔らかい
ショールを持って
私に巻きつける

『さぁ、行きましょう』


いつの日からか
私と里美
二人の生活に
なっていて
そこに
優一が通っていた


明るく優しい
里美に比べ

今の私には
感情や笑顔が
消えている


季節は冬…


気付けばもう
12月になっていた


夏の記憶が
ないと言っても
いいくらいに
何も思い出せない


自己防衛?
身体が勝手に
記憶に蓋を
してしまったのだろうか

No.182 09/09/14 11:47
麗 ( hXqgi )

今夜の食事は
何にしよう

明日の朝食は……

楽しそうに
買い物をする
里美の姿は
幸せに満ちていて

時々笑顔を
向けるから
つられて私も
無意識に
微笑んでいた



『こんにちは』

信号待ちで
見知らぬお婆さんが
声を掛けてきた

『もうすぐなのかなぁ
きっと、女の子だねぇ』

曲がった腰を
いっぱい伸ばしながら
満面の笑みで言う


『ええ!そうなんです
もうすぐ生まれるんです!もう楽しみで』

里美も負けずに
満面の笑みで答える




そうだ……


自由を奪われた
あの日から…

私は……


自らの命を
絶つ事も出来ない


抱かれるだけの
人形になったんだ……

No.183 09/09/17 13:46
麗 ( hXqgi )

何度も何度も
優一に抱かれた

『嫌だ!やめて!』

抵抗する私に

愛してる…愛してる…愛してる…愛してる………

そう言いながら
私を抱いたね


いつからか
抵抗する事もなくなり
繋がれた手首も
自由になって…

代わりに
私の自由も
完全に無くなってた


優一が居ない日は
必ず里美がいた

食べるもの
見るもの
聞くもの
着るもの
全て与えられて生きた


不自由だと
考え感じたのも
ほんの数日
だったのかもしれないし

何も感じなく
なっていたのかもしれない…


楽しい事
嬉しい事
悲しい事…



私はもう
何も感じない……




この命が宿った時から

優一は私を
抱いてはいない


『愛してる』と
愛おしむように
囁くのは

この大きなお腹に
代わっていた

No.184 09/09/20 13:15
麗 ( hXqgi )

優一の里美を
見る瞳は
本当に優しい

その瞳に応える
里美の笑みは
これ以上の幸せはないと
伝わる程に幸せそう…


『これも可愛いわ~』

『でも、こっちも捨て難いのよね~』

『順番に着せれば
いいじゃないか
まったく…ハハハ』

二人寄り添い
新しく買い揃えた
ベビードレスを広げ
笑い合う


少し歳老いてる他は
我が子の誕生を待ちわびる夫婦そのものだね



赤ちゃん生むの私だよ


私の赤ちゃんだよ…


ねぇ…

聞いてよ…

ねぇ…

気付いてよ…


私はここに居るんだよ







20XX年 冬



 難産に苦しみ
 2800グラムの
 女の子を出産した

No.185 09/09/21 11:51
みーちゃん ( ♀ DQtM )

すいません、以前から読まして頂いてました。途中で混乱してしまったのですが、これは実話なのでしょうか?実話に基づいてすこし修正しているのでしょうか?

No.186 09/09/21 12:39
麗 ( hXqgi )

>> 185 こんにちは昀


未熟なもので
混乱させて
しまった様ですね昻
ごめんなさい


この話ですが
全くのフィクション…
では有りません

ですがどこが本当で
どこが嘘かは…



読んで頂き
ありがとうございます昀
m(__)m

No.187 09/09/22 16:17
みーちゃん ( ♀ DQtM )

そうでしたか。

現実にありそうで、
でもだんだん現実に
あって良いことなのか…😥
読んでて不安になってしまい
レスしてしまいました。
読んでいる方、そして麗さん、失礼いたしました🙇

結末はどうかハッピーエンドで終わって欲しい限りです😣
今後とも読ませていただきますので頑張って下さい!

No.188 09/09/29 00:24
麗 ( hXqgi )

壊れてしまいそうに
か細い手足を
アンバランスに
動かしながら
元気に泣いている


おっぱいが
張りすぎて
乳首をくわえにくいからとマッサージもした


腕の中で
必死に乳首に
吸い付き
一生懸命に吸う…
その姿は
たまらなく愛しい


母乳の出もよく
与えていない
反対側のおっぱいからも 溢れていて

…もったいないな…

なんて感じてもいた



優一と里美も
毎日の様に通っては

『可愛い可愛い』と

私から赤ちゃんを
取り上げる事も
手出しもせずに

『本当に良かった
いい子が生まれた』

『頑張ったね』

そう言って
私を労ってくれる


このまま
平穏に過ぎる?



病院に居た
この時が
1番幸せだったの
かもしれないね…

No.189 09/09/29 00:53
麗 ( hXqgi )

『明日はいよいよ
 退院だよ…』


小さなベッドで眠る
小さな赤ちゃんの
小さな手に
人差し指を当ててみた


ピクッと反応して
その指を掴む

『幸せになろうね
ママも頑張るからね』

小さな手の
力強さに私は想う


今度こそ
この子の為に…


優一達と一緒には
いられない

絶対にいられない


自分の力で
この子と生きよう

いや…

生きて行かなければ
いけないんだよね


病室の窓際に寄り
カーテンを開けると
外気の寒さが
伝わってくる


……冬なんだね
 ずいぶん
 永かった気がする……


今にも雪が
降り出しそうな
灰色の空…

冷たい風に
ハラハラと
舞う枯れ葉…


見上げながら
私はこの子に誓った


『頑張るからね…』

No.190 09/10/03 13:00
麗 ( hXqgi )

消灯になった病室で
月明かりの中
私は考えた

この子を抱え
明日からたった一人
生活出来る?

ずいぶん前に
仕事も辞めてしまった
果たして仕事は見つかる?

いや…
すぐには働けない
この子だって
預けられない…

どうすればいい?


実家に頼る事も考えた

いきなり子供を
抱えて面倒見て下さい?

出来るはずない…

面倒見る所か
間違いなく
追い出されるだろう

そんなの当たり前だ


いつだって
浅はかな私


とりあえず…

仕事が見つかるまで…

とりあえず…

この子を
預けられるまで…


とりあえず…


とりあえず…


大丈夫!
今度こそ…

何をどう言い訳しても
結局…

優一達の待つ
マンションに
向かう選択しか
出来なかった…


必ず…

出ていくと
固く決意して

No.191 09/10/04 22:55
麗 ( hXqgi )

退院の朝
最後の検診を済ませ
病室に戻ると
優一と里美が居た

『やっと退院ね』

声高に里美が言う

その横で
優一が頷きながら
目を細めている


ちゃんと意思を
伝えておかなければ…


『あの… 
 なるべく早く
 仕事探しますので…
 迷惑掛けますが
 暫くお願いします』

『そんな他人行儀な
 分かってますよ
 ねぇ、あなた』

里美はそわそわと
病室のドアを見つめ
看護師が赤ちゃんを
連れて来るのを
今か今かと
待ちわびているのだろう


 -コンコン-


『退院おめでとうございます、とっても可愛くお支度出来ましたよ』


可愛いピンクの
ベビードレスに着替え
すやすやと眠る赤ちゃん


手渡される寸前

『本当にお世話になりました、ありがとうございます』


受け取ったのは
私を無視する様に
目の前に立ちはだかった里美だった

No.192 09/10/04 23:10
麗 ( hXqgi )

この子は…

確かに優一の子


里美さん…

あなたは私を
憎んでませんか?


優一の血を
引いてるから可愛いの?

どうして
そんなに優しい目で
この子を見つめられるの?


優一さん?

あなたは誰を
愛してますか?


そんな風に
考えながら
マンションに向かう
車の中で私は
二人を見つめていた


でもね…
本当は少しだけ
解ってました


優一も里美も
私など
見てはいないって…


私の弱さが
封印したのです


ほんの少しの間…


後少しだけ…

気付かない振り
していたのです

No.193 09/10/06 11:17
麗 ( hXqgi )

マンションの
玄関を入ると
そこには
ベビーカーが有った


この位は
予測してたから
驚いたりはしない

でも部屋を
埋め尽くす程に
溢れたベビー用品には
正直唖然とする


天井から下がる
メリーゴーランド

赤ちゃんが
何人も並べそうに
広いベビーベッド

ベビーラックに
ベビーチェア

生まれたばかりだというのに

ジャングルジムまで…


『さあ麗さん
疲れたでしょう
少し休みなさいな』

私は頷き
自分のベッドに
横になった…


今更では有るが
優一と里美の居る
この場所で


何度も抱かれた
このベッドに
横たわるのは
とても違和感が
有ったから


二人の幸せそうに
してる姿を見てると

どうして何も
感じないのかと思い
とても不思議だった

No.194 09/10/06 11:42
麗 ( hXqgi )

『里美、筆を
持って来てくれないか』

テーブルに向かった
優一が姿勢を正し言う

『はいはい今
用意してますよ』

スタスタと
軽い足取りで戻った
里美が筆を渡す

『はい、あなた
最高に美しく
書いて下さいね』

そう言うと
里美は眠ってる
赤ちゃんの側に行き
小さい声で言った

『パパがあなたの
お名前を書いて
くれますからね~』


……え……?
…名前って…?


数分の沈黙の後


『さあ書けたぞ』


優一が里美に
向かって広げる

【命名  美優】


『みゆ…
美しく優しい子…
ですね…
あなた…ありがとう』

『そうだよ、みゆだ
私とお前の文字を
入れたいい名だ』


『やっとですね…』


私の目の前で
二人は抱き合って
幸せな涙を流していた



私は茫然と
ただ眺めるしか
出来なかった

No.195 09/10/11 10:21
★薔薇★ ( ♀ xhtci )

>> 194 早く書いてーー

No.196 09/10/11 10:25
麗 ( hXqgi )

>> 195 こんにちはm(__)m

もう暫く
お待ち頂けますか…


来週には
落ち着くと
思います昀


永くお待たせして
申し訳ありません昀


読んで頂き
ありがとうございます昀

No.197 09/10/13 10:10
麗 ( hXqgi )

美優…

美しく優しい子…

名前の通り
優しい響きの名前…


優一が名付ける事に
なんの抵抗も無かった

でも…
何故… 里美なの?

やっとって何?

『優一さん?
何故?美優なの?』

私は聞かずには
要られなかった

眠っていたと
思ったのだろう

驚いた里美が
ほんの少し
頬をを強張らせた
笑顔を私に向けた後

優一と一瞬
目を合わせる

私など見向きもせず
小さく頷くのを
見届けた里美は


『あら麗さん
起きていたの?
珈琲召し上がる?』

悠長に聞いてくる


『結構です!
そんな事より名前!
どうして美優なのか
教えてよ!!』


私は興奮して
里美を払いのけ
優一に詰め寄った




普通には
戻れない…


そんな気がしていた

No.198 09/10/15 01:03
麗 ( hXqgi )

『落ち着きなさい麗
私達はこの子に
優しい子に育って欲しい… 特別な意味など
ないんだよ…』

優一が私の
肩を抱いた


久しぶりに
感じた温もりに

そのまま
身を委ねて
しまいたい…

一瞬脳裏をかすめた


今はそんな事
してる場合ではない


病院から戻って
私は《美優》を
この手に抱きしめる事も出来ずにいた

『だったら抱かせて
私の赤ちゃん
……抱かせてよ…』



美優が泣いても
腕に抱きしめ
お乳を与える事さえ
許されてはいない


キッチンに
列べられた
粉ミルク…

哺乳瓶…

消毒液…

専用ポット…


我が子にお乳を
与えられない事を
物語っている


 - フギャ- フギャ- -

お乳を求め
美優が泣き出すと


『今あげますからね~』


私など無視して
里美は哺乳瓶に
粉ミルクを
作り始めていた

No.199 09/10/15 01:40
麗 ( hXqgi )

カチカチになった
私の乳房は
美優が泣くたび
ツンと痛み
お乳を溢れさせた


何度も何度も
お願いしたのに
その願いは叶わない


そんなに痛むなら
これを使いなさいと
母乳を搾る
搾乳噐が与えられた


熱をもち痛みに
耐えられなくなり
それを使ってみる


シャワーの様に
溢れ出るお乳…


こんなに沢山出るのに… 目の前に居るのに…
与えられないなんて…



抱きしめて
この乳首を
くわえさせてやりたい

頭を撫でてあげたい

柔らかい頬も
手も足も…

撫でてあげたい…

抱きしめたい………

抱きしめたい……


泣きながら搾った
何度も何日も搾った


繰り返すうち

乳房も張らなくなり

その頃には
美優の泣き声に
耳を塞ぎ

私はまた部屋に
引きこもる生活が
始まっていた



優一が…

里美が…

憎くて憎くて
たまらない



いなくなればいい…
いなくなれば…

No.200 09/10/20 01:05
麗 ( hXqgi )

里美の腕の中で
美優はすくすくと
育っている

少しでも
泣けば抱き上げ
何か有ったら大変と
いつでも美優の傍にいた

何をするにも
一時も離れる事はない


やつれ痩せ細った
この私に
連れ去られてしまう
そんな恐怖感も
有ったのだろうか…

何も言わず
会話もしない
私を見る里美の目は
怯えて見えた


一ヶ月も経つと
優一と里美は
美優を連れて
よく外出する様になった

そう…
本当の親子みたいに



私は少しずつ動き出す


時給の高い
クラブのバイトも
見つけ働く事にした

少しでも稼いで
おかなければ
この先…
生きては
いけないのだから



仕事が見つかったから
働くと伝えると
今まで私を無視同然に
扱っていた二人が
あからさまに喜んだ


『そうね…
いつまでも家の中だけじゃ、身体にも悪いし
外に出れば
気分転換にもなるわよ』

安心したのか
里美の視線も
柔らかくなった気がする

……気分転換……

ふっ…
私は心で笑った

No.201 09/10/20 09:11
麗 ( hXqgi )

どんなに懇願しても
理解不能な理由をつけ
私に一度足りとも
美優を近付けさせなかった二人…

何一つ不自由など
させてない

この子の為

母乳を与えさせないのは

前に飲んでいた
眠剤が美優には
良くないからと言われた


私が美優に
関心を示さなく
なったのは
愛情が無くなった
からではない

苦しみを
和らげる為
目を逸らし
耳を塞いだのだ


抱きしめたい
我が子を
抱けない苦しみ…


絶対に
奪い返してみせる!


それだけを胸に刻み
がむしゃらに働いた

No.202 09/10/20 09:39
麗 ( hXqgi )

私の想いなど
誰も気付かず


《美優が笑った》

《美優が寝返りをした》

そう言っては
喜び笑い合い…

今まで以上に
幸せな毎日を
楽しそうに
過ごしている




ある朝…

まだ眠る私の側で
物音がした

音のする方に
わざと寝返りを
うってみる


ビクッとして
動きを止めた里美が
私の様子を伺う



どうやら何かを
探しているみたい

何だろう…

そこにしまって有るのは
……

通帳と印鑑

それに奥にしまった
母子手帳くらいだ


この人達に
私が稼いだ
微々たるお金など
当然必要ない


母子手帳を?

予防接種を
受けるからと
何度か渡した事が
あったが…


勝手に持ち出すなんて
今まで一度もない


何かが変だよ
おかしいよ………


心がざわついた

No.203 09/10/20 10:03
麗 ( hXqgi )

その事が有ってから
私は注意深く
二人を観察する様になる


気付かれない様に
優一の来る週末には
盗聴器も仕掛け
二人の企みを探る



疑い出したら
キリが無くなってくる

いったい
この二人の関係は?

思い返してみるが
二人の過去など
私には解らない


親戚は居るのだろうか? 話しも聞いた事無ければ

連絡を取ってる様子もなかった

考えもしなかったが

本当に…
夫婦なのだろうか?

No.204 09/10/20 10:28
麗 ( hXqgi )

そして

数ヶ月の後


衝撃の事実が
明らかになった




優一が
数日来なかった日には
海外に出かけていた事


その地で
小さな支社を
立ち上げていた事


私の名前に
書き換えられた
マンションの名義


そして…

その地に
移住する為に
必要な書類が
全て揃った事…


優一

里美

美優




そして…

その日がもう遠くない事



まさか…
そこまでするなんて



私は焦った
美優だけは
どうしても
渡す訳にはいかない

No.205 09/10/20 17:33
麗 ( hXqgi )

私から本気で
美優を取り上げる
準備も着々と調え
静かにその時が
来るのを待つ


穏やかに過ごして
見える二人の会話も
全てがわざとらしく
憎しみを増した


『麗さん…美優の
母子手帳
貸して頂けるかしら』


勝手に
持ち出されない様
いつでもバッグに
しまっていたのだ


『また予防接種ですか』

わざとらしく
里美に聞いてみる


『ええ…
前回微熱が有って
受けられなかったと
伝えなかったかしら』


目線を外し
無理に作る笑顔も
今では滑稽で
つい鼻で笑ってしまう

『そうでしたか』

バッグから出した
手帳を里美は
大切そうに抱きしめた

『里美さん?今夜
優一さん、ここに
いらっしゃいますよね』

確認の為尋ねる


『遅くなっても
来ると思いますよ』

相変わらず
美優の側から
一時も離れず
里美は答えた

No.206 09/10/20 17:49
麗 ( hXqgi )

こんな道
選ばなくても
良かったのかも
しれないね……


虚しさや辛さ
悲しみや嫉妬に狂い
苦しみに負けた
あの頃と違い


今では暫く暮らす
資金も貯まり
やっと自分を
見つめる事が
出来たでしょう……


優一の居ない時なら
里美から
奪って逃げるのは
簡単だったはず


何故そうしなかったの?



最後の私の悪魔が
舞い出した…


私から美優を
奪った苦しみを


あなたたちにも
分けて差し上げましょう

二人の前で
ほら…

最後の幕が
もうすぐ



開くのです……

No.207 09/11/02 00:15
麗 ( hXqgi )

今夜はとても暗い夜です

月がこんなにも
美しく怪しく輝いてます




貴方の好きな
赤ワインを用事して


グラスは三つ
磨いておきました



細かくすり潰した
薬を用意して




優一さん…


私…
悪魔に身を
売ると決めました



どうやって
最後の夜を
過ごしましょう?


里美さん…

貴女には少し
粉を多めに致します


虚ろう瞳に
私が優一と
淫らに絡まる姿
焼き付けましょうか…

スクリーンじゃなく
肉眼で観てみませんか


嫉妬に狂ってみて下さい


呼吸が鼓動が乱れて
叫んでも


悪魔の私は
きっと
優しく微笑みます



少しは私の
苦しみが
解るかもしれません



優一さん…


早く帰って来て下さい

No.208 09/11/02 09:49
麗 ( hXqgi )

私は今まで以上に
美しく妖艶に
身支度を整えて
その帰りを待った



『ただいま』

優一が赤ワインを
買って帰ってきた


…ワイン?
今夜は私が
用意したよ…


『麗、随分と着飾ってるね、どうした?
いい事でも有ったのかい?』

里美と私を
交互に見ながら
ワインを窓際においた

『なんとなく
気分がいいから…
私もワイン買ったよ
今夜そんな気分なの
優一さん、シャワー
浴びて来て!
三人で乾杯しましょ』


ワインのボトルを
片手で持ち上げ
首を傾げ熱い瞳で
優一を見つめる


『そうね…
麗さんも、たまには
一緒に飲みたいわよね』

答えたのは
私の後ろで
可愛い美優を抱いた
里美だった

『麗さん
美優を抱いていて
下さらないかしら
チーズでも
切って来るわ』

…えっ?…

里美は微笑み
私の手から
ワインを取り
代わりに両腕に
美優を乗せて
キッチンに向かう



……み…ゆ……

『美優』

なんて可愛いの…

美優に頬を近づけると
なんとも言えない
優しい香りがした


ギュッと抱きしめた時

涙がボロボロ流れた

No.209 09/11/10 15:00
千尋 ( 1Fy7h )

更新楽しみにしています💕

頑張って下さいね💪

No.210 09/11/10 18:08
ぱい ( Yjd6h )

はじめまして。

物語の邪魔になるかと思い、レスを控えていましたが、実はファンです。

なんだか怖い展開になってきましたね…

続きを楽しみにしています。

お風邪など召されませぬよう。

No.211 09/11/12 11:38
麗 ( hXqgi )

里美の作る
簡単なオードブルが
次々とテーブルに
運ばれて来る


優一は言われた通り
シャワーを浴びているのだろう

バスルームから
僅かにソープの
香りが漂った


両腕に抱きしめた
美優の愛らしさに

危うく全てを
許してしまいそうになる

……いけない
これじゃ
同じ事の繰り返し……

呼吸を整え深呼吸


宝石の様に輝く
美しい景色を
私は瞼に焼き付けた




『さぁ、頂きましょう』


いつの間に
テーブルについたのか
二人が優しく招いている

『はい、今行きます』


ベッドルームの
明かりを
間接証明に変え

私はゆっくりと
一歩一歩
テーブルに向かった




天使に変わりそうになった心は
再びその羽をもぎ取り
悪魔となり
背中を押した


……さぁ
頑張って……

No.212 09/11/12 12:07
麗 ( hXqgi )

『それじゃ乾杯』


三つのグラスが
ライトを受け
深紅の光りを
怪しく揺らした


……ドクッドクッ…

私の魂が脈打つ

ワインを飲む
ペースが早いのは
自分を落ち着かせ…
高揚させるため…


これから
最後のショータイム

…私に勇気を下さい…



そんな想いなど知らず

二人は私に
美優の成長を
幸せいっぱいに
話している


精一杯笑顔で
答えてはいた物の
頭には入るはずもない


考えるのは
薬を入れるタイミング
間違える訳にはいかない

心なしか
二人のペースも
早いのは気のせいなの?

いや…

完璧に出来上がった
未来予想図に
浮かれているのだろう




膝に乗せた美優を見ると

私にピタッと寄り添い

時々チュウチュウと
唇を吸う仕草をしながら
可愛い寝顔で眠っている

30分も経った頃

優一は流し忘れたと
Jazzを選びに席を外した


……チャンス……


『里美さん、
美優のアルバム
見せて頂けませんか』

No.213 09/11/12 12:38
麗 ( hXqgi )

自分の娘を
自慢するかの様に
喜んでアルバムを
取りに行く



足早に美優を連れ
隣の部屋の
ベビーベッドに向かう

…美優…
暫くおとなしくしててね いい子だから……


胸にギュッと抱きしめ
額にkissをし
そっと寝かせ
私はまた足早に
テーブルに戻り
二人を確認した


優一はまだ決まらず
鼻歌をうたいながら
選んでいる


私は
魔法の粉を
美しい深紅の
ワインに溶かした


これで幕が開く


手が震えた

鼓動も早い

……落ち着くのよ麗…
全てはここから
始まるんだから……



程なく…
優一が1番気にいってる
と言っていた曲が
心地良く流れて来た

この曲を耳に
何度抱かれたのだろう…

想い出すと少しだけ
子宮がキュンとした


里美が何冊も
抱え戻ってきた
アルバムを
見ながら盛り上がる


『麗さん?美優の
部屋のCD流してくれたかしら?小さく流しておくと、本当にいい子に眠ってくれるのよ
さすが、この人の子ね』


『そうなんですか?
知らなくて…
今かけて来ます』

No.214 09/11/12 12:55
麗 ( hXqgi )

育てさせて
もらって
無いのだから
知らなくて当然だ

なのに悔しかった

美優を取り上げられた
憎しみが増して行く


小さな音で
流れる曲は
やはりJazz…

『美優…ごめんね…』

今度は頬にkissをし
零れる涙を拭った

…迷わない!…

何かが吹っ切れていた





『ありがとう』

戻ると二人は
ワインを片手に
いつも通り微笑んでいる


……こんなに
優しい顔をして…
こんなに上品で…

知ってるのよ
あなた達の未来…

仮面を被った悪魔…

そうよ躊躇する事はない

………


ワインを一気に飲み干す


優一の選んだ
ワインとは
やっぱり違うね…


安っぽい味がした

No.215 09/11/23 00:19
麗 ( hXqgi )

Jazzをバックに
優雅な時が過ぎる


まだ余裕でワインを
飲んでいる優一を横目に

ゆっくり確実に
次の展開を考えてみる


ソファーにもたれた
里美は心なしか
目が虚ろに見える

そう…その調子
うまく行ってる

もうすぐ里美は
動けなくなるはず…

身体は動けなくても
記憶は脳裏に
焼き付くはず

まだ眠ってはダメよ
これから
私は里美の前で
優一に抱かれるの…

苦しんで下さい…
嫉妬に狂って下さい

そして優一さん…

貴方も苦しんで…



……ふふふ………

……あはは………


私のテンションが
異常なほど
どんどん高まって行く


さぁ…



私は里美の横を
ふらつきながら
通り過ぎ
優一の首に纏わり付く

魔法にかかった
優一も抵抗はしない

と言うより
程よい薬とアルコールは
セックスも最高にする

理性を捨ててしまうから
拒めるはずなどない


ドレスのホックを外し
立ったままkiss…


『優一さん…愛して…』

No.216 09/11/23 00:52
麗 ( hXqgi )

優一のシャツの
ボタンを契る様に外し
もっと激しくkissをする


…まだ効きが弱い?

もうそんな事など
お構いなしに続けた

『ねぇ……早く…
あの頃の…様に…
抱いて…… …』


されるがままだった
優一の唇が首筋を伝い

乳首に円を描く様になぞり吸う…

『アアッ…ん…
おねがい… もっと…』

理性が無くなっているのは確実に私の方
里美の事も
もう眼中になどない


『もっ…と…よ…』

ジンジンと脈打つ
淫らな場所に
優一の手を取り導く


『アッ…ン…』

意識が朦朧とする程に
感じてしまう…

固くなった優一のものを 含みたくて
しゃがみ込もうとした時………



……あ……


私はバランスを崩して
ゆっくりと床に倒れた



……


………


『麗…
もうおしまいだよ…』

優一の声が
頭上で響いた

No.217 09/11/29 17:58
麗 ( hXqgi )

『麗…何故こんな事をするんだ… こんな事さえなければ… お前もここで幸せに暮らせただろうに…』

優一は
床に崩れた私を
抱き起こし
その胸に抱きしめる

『ゆういち…さ…ん…』

急激に朦朧としてくる思考を…精一杯生理しながら言葉にしようとする

鉛の様に重くなった瞼を必死で開け
優一の首を掴む


……なぜ…?なぜ私…

薬を飲んだのは
優一と里美だったはず…


『麗さん…
こんな事…本当は
したくは無かったわ…
でも…
私達…幸せになれる
最後のチャンスだった』

眠っていたはずの
里美がソファーから
起き上がり続けた


『どうしても美優は
渡せない…
この人の子供は
渡す訳にはいかないの』


『なぜ…?
なぜ…私なの…
な…ぜ… 美優…』

瞼はもう
開かなくなっていた
優一を掴む手も
その力を無くし
床に落ちた


『こうするしか
無かったんだよ…』


優一の声が
薄れる意識の中
ぼんやりと響く


私の頬を伝ったのは

きっと…
優一の涙だったのだろう

No.218 09/11/30 09:50
麗 ( hXqgi )

……

……

遠くに鳴り響く
サイレンの音…

……

……

どれくらいの
時間が経ったのだろう

突然
身体は地を離れ
ゆっくりと上昇して行く


ざわめきと
心地良い音が
私を地上へと
振り向かせる…



【罪が許される様】
祈り…
【天国に召される様】
願う…


神父様の祈りに清められ
納棺されて行く私が見えた…


心地良い音は
教会のオルガンと聖歌…


不思議と怖くは無く
穏やかな気持ちになれた


光は徐々に
上昇する私を包み
地上からの距離を
離していった


もう一度
振り向いた時

地上の私は
たくさんの
美しい花に囲まれ
まるで花畑に
横たわっている様に
見えた


……

……

………

『ママ……
 ……ママ…』


私は声に導かれ
そのまま目を閉じ…

両手を高く上げ


スーッと上昇した…

No.219 09/11/30 10:30
麗 ( hXqgi )

『佐伯さん!一体
どういう事なんですか』

息を切らして
優一に問い掛けたのは
優一によって
連絡を断たれた透だった…

美砂は小さな男の子を
抱きしめながら
声を殺し泣いていた

優一は涙を流し

『麗は… ずっと
育児ノイローゼでね…
私達も精一杯支えて来たつもりだったんだが…
可哀想に…
ちょっと目を離した隙に… 』

鳴咽ししゃがみ込んだ

透は棺の前に走り寄り

『麗ちゃん…
麗ちゃん…本当なの?
ごめんね…
何も知らなくて…』

『麗!麗!なんで?
なんで死んでしまうの!ほら見て!透の子だよ
麗!れい!』


……美砂……
透の子なんだね…
幸せになったんだね……

美砂…
ごめんね…
友達に戻れないままで…

私は死んだんだね…

自分で選んだ…?

…?………
憶えてないんだ……

だけど今…
すごく幸せだよ…
この子と一緒に居る…

私の腕の中には
赤いボールを抱いた
可愛い女の子…

愛しい私の子…

やっと幸せになれる…

これからはずっと…


やわらかい
波音がする
暖かいこの場所で…

No.220 09/12/09 00:19
みーちゃん ( ♀ DQtM )

>> 219 横入り大変申し訳ございません、これで遂に完結してしまったのでしょうか…?

No.221 09/12/11 21:53
はっぴー ( 20代 ♀ 2m1Uh )

>> 220 私もみてて
完結なのかなー
と思いつつ気になって覗いてます😃

No.222 09/12/12 12:29
麗 ( hXqgi )

『あの…佐伯さん…
奥さんが抱いてるのが
麗の子ですよね…
これからどうするつもりですか?』

しゃくり上げながら
美砂が優一に聞く


『麗が生んだのは私の子です…責任を持って大切に育てると約束します
どうか私達を信じて下さい』


美優を抱いた里美も
静かに頭を下げた


『もう一度だけ聞かせて下さい!麗は…
麗は本当に自分で…』

言い寄った美砂を
透が抱き寄せる

『美砂…
後は信じて任せよう…』


優一と里美は
深々と頭を下げ
背を向けて歩きだした

肩越しにチョコンと
顔を出した美優の目が
透をずっと…
ずっと見つめていた

何もわからないはずの
小さな子供の目が
あんなに悲しみを現すのは

自分達が悲しいから故 なのだろうか…


『透…麗は自分で選んだんだよね?嘘じゃないよね?』

『美砂…
きっと…あの子は
麗の分も幸せになるよ』


自分に言い聞かせる様に して美砂をもう一度抱きしめた

『そうだよね…』


『さよなら麗ちゃん』
『さよなら麗…』



……さよなら

透…

美砂…

幸せになってね……

No.223 09/12/12 13:03
麗 ( hXqgi )

数日後…

葬儀を終えた優一と里美は何人かの人に囲まれ空港に居た

勿論、里美の腕には
しっかりと
美優が抱かれて…


『兄さん、元気でね』

『たまには帰っていらっしゃいよね』

『姉さんも気をつけて』

『こっちは私達が
しっかりやりますから』

二人に向かい口々に
手を差し出す

『ありがとう
頼んだよ
そろそろ時間だから
里美…行こうか』


優一から少し離れて
美優を抱いた里美が
笑顔で応える

『兄さんと美優は
私に任せて下さい
それじゃ…
行ってきますね』


アナウンスに促され
二人は機内へと消えた


『これからは…
兄さんと呼ばなくても
いいんですね…
誰の前でも…』

『あぁ…
これからは幸せになれるんだよ…泣くな
美優が不安になる』


優一は里美と美優を
抱きしめ
里美の額にKissをした

『神様は罪深い私達を
お許しになるのでしょうか…』

優一は黙ったまま
離れ行く地上を見つめ
ずっと抱きしめていた






【完】

No.224 09/12/12 13:10
麗 ( hXqgi )

勢いで書き始めた
小説ですが
なかなか更新出来ず
読んで頂いた皆様に
沢山のご迷惑を
お掛けし申し訳無く
思っておりますm(__)m


応援して下った
皆様には
感謝の気持ちで
いっぱいです叝


未熟者に最後まで
お付き合い頂き
本当にありがとうございました昀昀昀


麗昀昀

No.225 09/12/12 13:56
永ちゃん ( rJDMh )

完結お疲れ様でした。ハラハラドキドキの展開で…😥ユウイチとサトミは兄妹だったとしたら、少し納得ですが…でもなぁ…麗さんも少しヒドい所もあったけどなぁ…ホントお疲れ様でした。ありがとうございました🙇

No.226 09/12/12 15:45
麗 ( hXqgi )

>> 225 こんにちは昀

確かに麗はとても
酷い事をしましたよね昉

贅沢と快楽を覚えてしまったあまり
自己中になった麗には
現世での幸せは
掴めなかったと言う事でしょうか…


ありがとうございました 昀昀昀昀昀昀昀昀昀昀昀

No.227 09/12/12 17:54
りのあ ( ♀ ij0Bh )

完結おめでとうございます✨
そしてお疲れさまでした。


麗さんの文章の美しい表現力にいつも感心しながら読ませていただいてました。
情景が目に浮かんできていつも作品に入りこんでいました。

乱舞が終わってしまったのは残念ですがまた麗さんの小説に出逢えることを願ってその日まで待ってます☺

No.228 09/12/13 00:49
麗 ( hXqgi )

>> 227 りのあ様昀

そんな風に
言って頂き恐縮です昀


未熟者故のまとまりの無い終わりになってしまった事…

反省しています…

書くという事は
本当に大変ですね昉

読んで頂きありがとうございます昀

No.229 09/12/16 17:43
ホロロ ( ♀ ZJPKh )

麗様…✨


完結おめでとうございます🎵
なかなか ミクルに来れず 乱舞が完結した事に ようやく気付いて レスさせてもらってます☺


最後まで ドキドキさせられっぱなしでした~😱

勝手だけど…出産した麗には やっぱり最後は幸せに…💕なんて 願ってたんだけど💦

代償は大きかったなぁ😭

お疲れさまでした🌷

また 麗さんに お会い出来る事 願ってます☺


🎀

No.230 09/12/19 13:06
麗 ( hXqgi )

>> 229 ホロロ様昀


応援して下さり
ありがとうございます昀

私もミクルには
なかなか来れなくなり
纏まりのない
終わりになってしまい
反省しています…


読んで下さり
また時には
声を掛けて下さった
皆様に
心から感謝しています昀


見守って頂き
ありがとうございました
昀昀昀叝昀昀昀叝昀昀昀

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