話つく③ダンテスティン・サーガ~魔法のペンダント~

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2011/03/18 03:28(更新日時)

7つの惑星を舞台に登場人物たちが連合軍と言う巨大組織と闘うストーリーです👮是非、皆さん読んでみて下さい。

↓関連スレ

話つく
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話つく②
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📖✏🚀parallelworld🌏
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No.1158142 (スレ作成日時)

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No.251

>> 250 ローナ「頭、やったわね」

大きい翼を持った鳥の精霊の背に乗り、ローナが天空から舞い降りる。空を舞っていた虫たちはローナにより、粗方かたずけられているようだ。

ナナ「ふぅ…今日は力を使い過ぎた…灼熱モードだけでもしんどいってのによ」

ローナ「普段からサボり癖のある頭にはちょうどいいわ。今日ぐらいの運動量がね。さぁ早くいきま…しょ…ッ!!」

ローナのにこやかな笑顔が崩れていく。

ナナ「ローナ!!」

召喚した精霊は消え、ローナは力なく地面に倒れた。その腹部は血で赤く染まっている。

ボリック「彼女の心配より、自分を守れ…この虫は触れたら死ぬぞ」

微粒子が集まり、ボリックの肉体が再び再生する。そして、ハエのような小さな昆虫が無数の群れでナナを襲う。

ナナ「お…お前!どうやって…!!」

壁を出現させ、虫の群れを遮る。しかし、虫は壁に触れると爆発し次々に連鎖爆発を起こしていく。

ナナ「な…ローナ!!」

最初は小さな爆発、しかし、一瞬にして周囲一帯を破壊する大爆発へと変わる。ナナは咄嗟に傷ついたローナを庇い、身をていして爆発の楯となった。

ドガアァァァァァ~!!

No.252

>> 251 ボリック「死にゆく者をなぜ助ける?」

ナナ「フラスコで生まれたお前には一生理解できないだろうよ」

爆発で周囲の木々は消し飛び、荒地と変わっていた。そんな中、血だらけになりながらローナを庇ったナナがふらつく足取りで立ち上がる。

ナナ「お前…連合軍の生物兵器だな…超再生能力か…はぁはぁ」

ナナの肌色は銀白色へと変わり、金属モードへと変化する。

ボリック「どうやら連合軍の内情に少しばかり詳しいようだな。そう私はパーフェクトの究過程で生まれた副産物、超再生・生物の生成能力を持っている」

ナナ「連合軍はお前みたいなのを作るのが好きだな」

炎のように赤く染まっていく身体、灼熱モードへと変わっていく。

ボリック「無限の虫軍勢、超再生…力に限りがあるお前は私には勝てん」

嘔吐と共に大量の虫を吐き出す。数千匹の虫が一瞬にして産み出される。

ナナ「ちっめんどくせぇ相手だ。これだから凱と関わるのは嫌なんだ」

No.253

>> 252 ⑦凱「は…はっくしょんッ!!」

船内に響く大声を上げると凱は鼻をすすった。

鬼「風邪か?らしくないな」

⑦「誰か俺の噂でもしてやがるんだろうよ」

戦艦シャードーは首都ウマンダへと向かっていた。

途中、過ぎてゆく村は連合軍に襲われたのか、どこも赤々と火を上げている。

この様子では戦闘民族、狐人で構成された狐寺とて、ただでは済んでいないだろう。

③セレナ「狐寺は無事なのでしょうか?」

鬼「心配に及びません。族長の妖術により、寺には強力な結界が張られております。連合軍の戦艦が来ようとも破られまい」

鬼はそう言うと拳を握った。言葉とは裏腹に今にも狐寺へ駆け出したいという気持が伺えた。

凱「心配いらねぇ…あいつがそう簡単にやられる玉かよ」


③「アイツ?」

⑦「世界最寿命の爺…フォックスだ」

No.254

>> 253 金と銀との装飾で作られた寺、ウマンダ星の人々に神の様に崇められ、狐教と呼ばれる信仰まである狐人が住まう城である。

山一つはある広大な土地を高い塀で囲み、寺自体を伺うことはできない。

普段ならば信仰するウマンダ星の人々が集う塀の周りには、数万の連合兵が整列し包囲網を築いていた。

「カラス中将、ウマンダは制圧、残すはここだけとなっております」

指揮官らしき連合兵が頭を下げ、やってきた細身の女に報告するが、女はまるで興味がなさそうにその兵の前を通り過ぎた。

カラス「レイ…まだ手こずっているのか」

塀に描かれた術式を真剣に見つめながら本に筆を走らせていた一人の魔法使いにカラス中将は話し掛ける。

レイ「これは…カラス殿、もうお見えとは」

顔まで隠す長髪、手入れをしていないのかバサバサの髪の毛、《幻の賢者》の称号を持つ、カラス中将の右腕、レイ少将である。

レイ「この結界、相当なものです。おそらくはフォックスの術でありましょう」

カラス「破れるのか?」

レイ「私では…無理かと。ですが幸い、魔法軍の主力が来ておりますので、専門家に協力を求めておきました。おっ!話をすれば…」

No.255

>> 254 レイ「ご苦労様です。魔法軍参謀アンテ少将」

魔法陣が現れ、黒いローブに身を包んだ魔法使いが現れる。

アンテ「なに、私は高等魔法があると聞けば…何処へでもやってくる」

2mは越えているだろう長身、魔法使いには珍しい体格である。

カラス「《解印の賢者アンテ》ドイス閣下の警護を任されていると聞いたが、本国からよく出てこれたな」

二倍近くある体格差がある魔法使いに怯むことなく、カラスは言う。

アンテ「これはこれはカラス中将、お目にかかるのは初めてですな。噂はかねがね聞いておりますぞ。なに、閣下の警護は私などいなくとも成り立つと言うだけの話」

邪悪な魔力を放出させながら杖を取り出す。周りの兵士数人は闇の力に呑まれ、絶命する。

カラス「早速だが、この結界をどうにかしてもらおうか」

アンテ「御安いご用だ。解印!!」

アンテの杖が向けられた瞬間、塀に描かれた術式は形を失いその力を失っていく。そして、強固な結界に穴が空いた。

アンテ「時間を掛ければ結界を完全破壊できるが?」

カラス「十分だ。私一人が入れればな!!」

躊躇することなく、結界の風穴にカラスは飛び込んだ。

アンテ「噂通り、無鉄砲な女だ」

No.256

>> 255 「結界が破られただと!!」

結界が破壊され、動揺する狐人たちだったが、直ぐに多くの狐人が駆けつけてくる。

カラス「戦闘民族の力、どれ程のものか見せてもらおう」

軽い身のこなしで、着地しながら剣を抜くと、斬りかかってきた狐人3人を一瞬にして一掃する。

「凄まじい剣速、一般兵ではないな!一本尾では相手にならん。引け!」

集まってきた一本尾と呼ばれた一本だけ尻尾を生やした狐人は退いていく。そして、二本の尻尾を携えた狐人が三角形の陣を組み、カラスに立ちはだかる。

カラス「闇隠れ…雨刺」

地面を蹴る足音だけを残し、カラスは姿を消す。そして、剣撃が雨のように空から降り注ぎ、多く狐人が技をくらい倒れる。

「これ以上、好きにはさせんぞ」

カラス「その程度で、私を止めれるとでも?」

二本尾が多く倒れていく中、一人の三本尾が、宙を舞うカラスに斬りかかる。しかし、剣を振りきる間も与えられず、細切れにされてしまう。

「おい!調子に乗り過ぎだぜ!お前!」

カラス「う!?」

背後から繰り出された鋭い剣撃をカラスは紙一重で避けると直ぐ様、振り返る。

No.257

>> 256 カラス「やっと骨がありそうな奴が出てきたか」

背後には五本の尾を携えた狐人が鋭い眼光を向けていた。その狐人は剣を肩で担ぎ、ゆっくりとカラスへと近づいてくる。

カラス「この私の剣速についてこれるかな」

砦「当然。顔を隠してないで見せたらどうだ?あぁん?」

カラス「職業柄、素性を明かせぬものでな。ゆるせ」

お互い凄まじいオーラをぶつけ合い、二人は距離を縮めていく。そして、同時に二人が動いた。無数に繰り出される剣撃の応酬、お互い一歩も引かないやり合いに周りの狐人はただ見守ることしか出来ずにいた。

カラス「思ったよりやるな。上げてくぞ!!」

砦「中将クラスはこんなもんかぁ!さぁもっとこいこい!」

未熟児すらひれ伏せた妖破(エネルギー弾)を放つ。しかし、カラスは剣でそれを軽くあしらうとオーラを纏わせた、凄まじい剣撃を繰り出す。

砦「あぶねぇな。なんちゅう剣だ」

危機を感じ取ったのか反射的に避けた砦、背後にあった建物は半分に割れ崩れ落ちていく。受け太刀していれば身体は二つに割れていたことだろう。

カラス「どうした?逃げていては勝てぬぞ、狐!!」

カラスの剣撃を砦はなんとか避けながら印を結ぶ。

No.258

>> 257 カラス「なに!!」

オーラの爆発的増加、砦は金色の輝きを放ち、カラスを吹き飛ばす。

砦「俺様の本気見せてやる。有り難く思えよ」

六本尾を携えた砦は膨大なオーラを左手に集中する。

砦「メガトン妖破だ」

左手から放たれたエネルギー破は先程とは比べものにならない程、強大なものであった。エネルギー破はカラスを含む辺り一帯を飲み込んだ。

砦「どうだ?お味はよぉ?」

カラス「ふッ…甘い…甘いわ」

技を受け、膝をつくカラスは顔を被っていた布は焼け落ち、素顔があらわになっていた。まだ、少女のような幼き顔に砦は驚く。

砦「女…しかも…まだ子供かよ。連合軍ってのは女、子供を中将におくほど、人材不足なのかよ。けッ」

カラス「狐、どうやら死期が縮まったな…私を怒らせるとは」

砦「あぁ?なんだと…ッ!?」

ゆっくりと立ち上がるカラスに黒い煙のようなオーラが渦巻く。今までに見たこともない、異質のオーラに砦の六本の尻尾は警戒するようにピンっと立っていた。

カラス「見せてやる。今度は私の本気をな」

砦「やってみろ。餓鬼が!!」

カラスは顔に手を当てる。そして、その手に黒きオーラが集中していく。

No.259

>> 258 カラス「闇に埋もれろ」

砦「これはッ!?」

装束だけの軽装だったはずのカラスはオーラを物質化させ、鎧を身につけていた。そして、剣は漆黒の刃へと変わっている。

砦「オーラを物質化だと?そんなことが可能なのか…」

カラス「ゆけ、闇の世界へ!!」

中腰になり剣を振る。砦は剣の軌道から身を避けたが、身体に激痛が走る。

砦「がはっ…な…なんだと…ッ」

有らぬ方向から浴びせられた剣撃に、腹部を切られ、思わず地面に横たわる。

カラス「いつも邪魔するなと言ってるだろう」

訳が分からないまま倒れる砦、そんな砦を見下すようにカラスはそう言った。

レイ「申し訳ない。しかし、短期決戦が将軍の命ですので…こんな三下に時間はとられていてはなりません」

突如、現れた魔法使い。周りの狐人たちは睡魔に襲われ、その場に倒れていく。

カラス「ふん。殺せばよいものを」

レイ「狐族は貴重種、本国の実験体に重宝されるでしょう。しかし、傷物は使えませんね」

砦「貴様ぁだな…幻術か…」

レイ「当たり」

鋭い眼光を放つ砦にレイは輝かしいダイヤモンドの杖先を向け、そして、砦は爆発に包まれる。

No.260

>> 259 砦「わるいな…しくっちまった」

鳥「今度、キツネうどんおごってもらうぞ」

爆発に巻き込まれる一歩手前で、五本尾の狐人が砦を抱えあげ、事なきを得た。

レイ「新手か…私の幻術にかからないとはね」

駆けつけては眠っていく狐人の戦士と鳥を見比べながらレイは呟いた。

鳥「四本隊、女剣士は後回しだ。この魔法使いから殺れ」

鳥の掛け声で、何処からともなく数十人の狐人が現れた。そして、その四本尾の狐人たちは手のひらをレイへと向ける。

砦「妖破を放て!!」

一斉放火、レイへとエネルギー破が注がれる。

アンテ「解印。妖術…実に興味深い」

しかし、その妖破は何事もなかったように消えさってしまう。

砦「なんだと…」

鳥「あれは、《解印の賢者アンテ》か…どんな魔導も無力にできるときくが、妖術までもを」

鳥は砦の治療を他の狐人に任せ、剣を抜く。狐族の諜報部員である彼は、この場にいる三人の敵の脅威を一番知った人物でもある。

カラス「手助けは無用…ここは私の管轄だぞ」

アンテ「結界破って終わりとはつれませんな。カラス中将」

No.261

>> 260 アンテ「雑魚には用はない。大物を釣るとしようか」

フードの中から見せる怪しく輝く虚無の眼は獲物を捉える。

カラス「ちっ、レイ…奴から離れろ。巻きぞいをくらうぞ」

レイ「御意」

アンテはまるでブラックホールのような吸い込まれそうになる古びた黒ローブを靡かせ、その巨体に引きをとらない長杖を地面へ突き刺した。

アンテ「受けよ。《闇消》」

砦「な…こいつ…なんて…」

凄まじい魔力の放出、闇の魔力は鋭く尖った針となり、巨大な固まりとして放出され、壁門もごと、狐寺の半分を消し飛ばされる。

アンテ「さぁ…おいでなさったか。《解印》」

天をみやげたアンテの頭上から目も眩むような炎が降り注ぐ、しかし、その炎は一瞬にして消し飛んでしまった。

蟷螂「ふむ、私の狐火でも届かぬか」

颯爽と着地しながら鋭い眼光を敵に浴びせた。

金髪の短髪、右目の下には顔の半分にも拡がる古傷がある。見た目の歳は中年だが、齢、数百歳の狐人である。狐族の実質、ナンバー2の蟷螂であった。

アンテ「釣れた…釣れた…大物が」

蟷螂「狼藉者ども!我が、牙の餌食になるがよい!」

狐人が剣を上段に構え、巨頭の狐は吠えた。

No.262

>> 261 鳥「蟷螂殿、加勢致す」

傷ついた砦を物陰に隠し、剣を構え走りながらそう叫んだ。

カラス「加勢?この程度でか?」

鳥「ッ!?」

しかし、目の前にカラスが立ちはだかる。鳥は怯むことなく剣を振り抜き、カラスのその身体を切りさく・・・

カラス「こっちだ」

だが、それは残像であった。それに気付いた時には遅かった。

鳥「ぐっ!!」

背後から振り上げられた剣を受け、鳥の軽装鎧は紙のごとく軽々と裂かれ、血が噴水のように吹き出し倒れた。

カラス「ふん。相手が悪かったな」

血を吐きながらもまだ目は死んでいない鳥を一瞥しそう吐き捨てた。

戦闘民族とまで呼ばれる狐族で、五本の指には入る砦・鳥の勇士がたった一人の女に倒された。他の狐族の者たちは相当な衝撃であった。

カラス「ついに動いたか…いつまで隠れているのかと思ったぞ」

そんな状況に、半壊した狐寺から残った戦士たちが咆哮を上げ、次々と駆け出してくる。

待機の命令を受けているにも関わらず、力量の差が歴然にも関わらず、一本尾すらカラスに斬りかかっていく。

無謀、まさにその一言に尽きる。苦境は狐人たちの判断を鈍らせていたのだった。

No.263

>> 262 蟷螂「馬鹿な。なぜ、出てきた」

アンテ「貴様の相手は私だ。よそ見していてよいのかな」

死兵と化した狐人の戦士たちを見て舌打ちをした。そんな蟷螂をアンテが放った闇魔法が襲う。

カラス「結界の切れ目より全軍進軍、寺の者を全滅せよ。皆殺しだ」

既に数十人の狐人の首をはねたカラスは叫んだ。

レイ「はっ。全軍出撃!!カラス中将へ続くのだぁ!」

レイ少将の指令の復唱を受け、群がるように結界の外から連合兵が入ってくる。

連合兵の銃口が一斉に狐人に向けられ、多くの狐人がその命を落としていく。

蟷螂「……」

次々と友が倒れていく。誰よりも仲間を大切にする蟷螂にとってこれ程、辛い仕打ちはなかった。心を根本からえぐりとられたようなそんな感覚に陥っていた。

蟷螂「皆、すまぬ」

今の蟷螂の心境は極地であろう。しかし、心だけではなかった。アンテとの戦闘においても劣勢と言う名の極地に陥っていた。妖術はアンテにより完全に封じられ、剣術だけでの闘いを強いられていた。だが、防御型の魔法使いであるアンテに刃が届くことはなく、蟷螂の身体だけが徐々に傷つけられていた。

No.264

>> 263 ボリック「…逃げたか」

薄暗くなってゆく空を見つめながら中将は呟く。周囲の草木は酸にでも溶かされたようにただれ落ち、辺りは異様な光景となっていた。










ナナ「はぁはぁ…はぁはぁッ」

森の木々の間をナナは走っていた。腹部から血が絶え間なく流れ出ているローナを抱えながら全身傷だらけの自分のことなど省みず、痛めつけられた身体を酷使していた。

ローナ「頭…わ…私…置いて…逃げて…奴に追いつかれるわ」

ナナ「馬鹿言うな。俺様はこう見えてレディファーストなんだぜ」

青白くなった顔を精一杯引き締め、そう口にした。しかし、ナナは抱えるその手を離すことはせず、一層その手に力を入れるのだった。

ナナ「俺様がこの様とは…中将に…あんな化物がいるなんてな…」

何度もふらつきながらも足を休めることなく走り続ける。遠のいていく意識の中、ボリック中将の《真の姿》を思い出していた。

恐ろしい化物、ボリック中将を・・・

ナナ「最後の悪あがきとはらしくねぇ…な…アイツに感化されたかなぁ…」

途切れゆく意識の中、傲慢な剣士が脳裏に浮かんだ。ナナはローナを庇いながら倒れ、背後から迫る敵を一瞥し意識を失った。

No.265

>> 264 ボリック「やっと…力尽きたか」

音もなく現れたボリック中将は変化した身体を震わせた。

全身が炭化し、その全身には人の顔が無数に生え出している。人の形はかろうじで形成しているが、無数の顔の集まりと言ってもよいボリックは最早、人と呼べるモノではなかった。

ボリック『ほぅ』

全身の顔が同時に声を発した。

ローナ「頭に…これ以上、手は…出させないわよ…」

這いながら倒れたナナの上に股がり、身をていして盾になるローナは絶え絶えの息で言った。

ボリック『女、既に意識を保つのが精一杯であろうに…なんとも素晴らしい…これが?愛というやつか?』

全身の顔が蠢く。直視できない化物にローナは思わず、目を反らしてしまう。

ボリック『おいおい。そう嫌がるな…私…僕…俺だって…好きでこんな身体になったわけじゃない』

全身の顔が各々に言葉を発する。それをなだめるように頭部につく、本来の顔、ボリック中将の顔がそう言った。

ローナ「あ…んたは…なんなのよ…」

近づいてくる敵を制するようにローナは返した。

No.266

>> 265 ボリック『私にも分からない…ただ、複数体の人体実験の産物ということだけだ。しかし、僕は後悔してはいないよ…連合軍を恨んだりはしてない俺わ…むしろ感謝している。この圧倒的な力をくれたことにな』

その言葉には複数の感情が入り交じっていた。全身に浮かび上がる顔、それぞれに意思があるとでも言うのだろうか。

ボリック『さぁ…お話は終わりです。死んで頂く…死んでもらおうかッ!!』

ローナ「ッ!!」

無数の顔は一斉に叫び声を上げた。その瞬間、腕を槍のように鋭く尖らせたボリックが走り出す。

ボリック『死ねぇ!!』

振り上げた腕を抵抗すら出来ないローナへ降り下ろす。

ガシャ…

ボリック『ぬ!?』

だが、横から入ってきた大剣がその動きを止めた。

「止めるんだ。その者たちに既に闘う力は残っていない」

ボリック『何者だ?貴様は?』

布を顔に巻き付けた細身の剣士がそこにいた。布の間から覗かせるブルーの瞳は鋭い殺気を放っている。

「助太刀致す」

剣士は大剣を回転させ、ボリックの腕を払うと、ローナの前へ立った。

No.267

>> 266 ボリック『うぅ!邪魔だぁぞ!お前!』

全身の顔から無数の虫たちが吐き出される。しかし、剣士は怯むことなく大剣を構えた。

虫たちは標的を見つけると同時に鋭く生えた牙を剥き出しにし襲いかかってくる。大きさは拳程度か、羽を携えた虫たちは一瞬にして剣士との距離を縮めた。

常人ならばこの瞬間、細切れになっていただろう虫たちの攻撃は突如、大剣から発せられた炎に呑まれてしまう。

ボリック『魔法剣士だな。最近は滅多に見なかったんだが…まだ、生き残っていたとは』

「いかにも私は魔法剣士だが…連合軍に殺られた仲間たちとは一緒にしないほうがいいぞ」

剣士は空高く跳躍する。そして、片手で剣を担ぎ、右手で空に魔法陣を描いた。

ボリック『なっ!?』

その瞬間、ボリックが立っていた地面から水が噴き上げる。その凄まじい水圧にボリックと言えど堪えかねず、水の流れのまま流されていく。

「さぁ今の内にこの人たちを運ぶんだ」

剣士は着地すると大剣を背中に収め、誰かに指示を飛ばした。

ローナ「ありがとう…貴方は一体?」

「礼には及びません」

回復呪文を唱えながらローナの腹部に手を当てる剣士は布の下に笑顔をつくる。

No.268

>> 267 ローナ「あ…」

剣士のブルーの瞳に思わず引き込まれそうになる。「なんて綺麗な目しているの」っとローナが心の中で呟いた。

ローナ「えッ…えぇ!!」

次の瞬間、視界は一変する。森の中に居たはずなのに、小屋の中へと変わっていた。

「心配しないで、ここは私の住まいだ」

剣士はローナの治療を終えると、気絶したナナの治療へと取りかかる。致命傷であったローナの傷は跡形もなく、綺麗に治っていた。

ローナ「あの傷をこんなに早く治すなんて…そこらの賢者より凄いわ。そんなに魔法に長けた剣士は他にあったことはないわ」

「回復魔法は私の恩師が得意とする魔法でね。これだけは私も人一倍得意なんだ」

ただ者ではないことが伺えるこの剣士は、布で顔を隠し素性を明かせないのは何か理由があるのだろうか。

「お前たちは…確か…賞金稼ぎ7の」

そんな剣士を見つめながら色々な事を考えていたローナに聞いたことのある声が話しかけてきた。

スモッグ「この星にもうやってきたのか?キングはまだのはずだぞ?」

ローナ「あんたは…大賢者様の弟子の」

不健康そうな青白い顔、幽霊のような白一色の服装、霧の賢者スモッグがそこにはいた。

No.269

>> 268 驚きながらお互いの顔を見つめ合う両者、そんな二人を気にも止めず、ナナが目を覚ました。

ナナ「あぁ?俺様は死んだのか?…ってかここ何処だ?」

「死んでません。危ないところでしたが」

ナナ「おぉ、そりゃ良かったぜ。お前が助けてくれたんだな?ありがとよっ」

剣士はナナの治療を終えると、近くにあった椅子に腰を下ろす。流石の魔法剣士も半死状態の二人を全快にして魔力を相当、消費したようだ。

ローナ「覆面の魔法剣士と…あんたが何故ここに?あんたはそれに、キング組にいたんじゃなかったの?」

興奮するローナは耳鳴りするような甲高い声を上げる。スモッグの顔はいつにも増して不機嫌そうになった。

スモッグ「黒の惑星…キングにいたのは私の分身だ。分身に大半の魔力を預けたお陰で、今の私は魔法もろくに使えんがな」

ローナ「霧の賢者の称号を持つだけはあるわね…惑星間で分身を作るなんて…でもなんでこんなところで剣士と?」

スモッグ「馬鹿者が!剣士ではない!偉大なるダンテス…ッ」

剣士の素性を思わず口走りそうになったスモッグは自ら口を塞いだ。

ナナ「ほぅ。どうやら俺たちの救世主様は御忍び方のようだ」

スモッグ「くっ」

No.270

>> 269 スモッグ「ふん。お前たちには関係のないこと…傷が癒えたのならとっとと出ていけ」

マントを翻し、背を向ける。表情を悟られまいととった行動だったが、逆にその行動が、ナナに確信を与えてしまった。

ナナ「剣士さんよぉ、その剣…ダンテスティン国の王家の紋章だな。しっかし、剣士とは呼びづれぇな~名前を教えてくれないかい?」

傍らにあった鉄材に錬金術を施し、剣士の横に立て掛けられた大剣に深く刻まれた紋章と同じ形を作ってみせた。それを見た剣士は無言のまま俯くと、横目で大剣を見つめ直した。

スモッグ「くっ…詮索はよせ!恩を仇でかえすのか!貴様は!」

スモッグがそんな剣士を隠すように視界に割って入ってくる。

ナナ「俺様がそんなに律義に見えるか?なんなら力ずくで聞いてもいいんだが…俺様は気になったらとことん突き詰めるタイプでな」

ローナ「頭!よしなったら!」

スモッグ「魔力を分散しているとは言え、貴様ごときに遅れはとらぬぞ」

ナナの喉元に杖が突き付けられた。銃で言えば、引金に手をかけたようなものである。

ナナ「やってみろよ」

しかし、ナナは怯むどころか、笑みを浮かべる。

No.271

>> 270 「やめるんだ。スモッグ…」

静かに立ち上がると剣士はそう口にした。スモッグはまるで君主にでも命令されたかのように、頭を垂れ申し訳なさそうに顔を伏せた。師匠(大賢者ハーク)以外の者には媚びる姿などみせたことのないプライドの高い魔法使いには考えられない仕草であった。

「すまない。スモッグは優秀な魔法使いだが…私のことになると我を忘れてしまう悪い癖があってね」

口元を釣り上げ、笑みを浮かべていたナナは急に神妙な顔つきとなり剣士を見つめた。

「この人たちに、私の正体を隠す必要はないだろう」

スモッグ「しかし…」

ローナがこのやり取りを目を丸くしながら見守る中、スモッグの制止を振り切り、剣士は重い口を開き始めた。

「ご察し通り、この剣はダンテスティン王家ものです。国が連合軍に侵略され、王家の者はセレナ姫だけを残し滅びた…だが、事実は違うのです」

ダンテスティン国は連合軍の侵略を受け、王・妃はもちろん王族は城と共に生き絶え、唯一、セレナ姫だけが生き延びた。この世界の者なら誰もが知る事実である。

No.272

>> 271 「私の名はエリトリア…ダンテスティン国の王子。今や亡き王子となってはいますが」

剣士は顔を覆っていた布を剥ぎ取ると、凛とした清閑な顔を見せた。人を統べる者の目、王子と名乗る彼の言葉を疑う者はいなかった。それほど、エリトリアから感じとれるオーラは違っていたのだ。

ナナ「王子、度々のご無礼をお許し下さい…」

ナナは無意識の内に膝をつくとそう口にした。人間族の王族、ダンテスティン王家、王亡き今、エリトリア王子、彼こそが人間族の王であるのだ。

エリトリア「貴殿を責めることはできません。私が偽っていたのですから」

王子はそれからゆっくりと語った。ダンテスティン星で連合軍と闘う中、命からがらスモッグの戦場から生き延び、連合軍の追ってから逃れる為、このウマンダ星に身を潜めていたという。

No.273

>> 272 エリトリア「私は兵を率い最前線へ出陣したものの…連合軍の大軍を前に兵は全滅。私たちは戦場からなんとか生き延び、城へと戻った時には城は炎に包まれていたのです…」

瞳から溢れでる涙、エリトリア王子は声を枯らしながら話す。

エリトリア「王も…王族たちも殺されたと聞いた時は私も自決を考えました…私の力が足らなかったばかりに皆が殺さたのですから」

スモッグ「王子…」

亡き王たちを想ったのだろうか、エリトリアは泣きながら膝をついた。その悲しみ、悔しさが伝わってきたのが、ローナは彼から目を反らす。

エリトリア「だが、希望はまだ残っていた。妹のセレナ姫が逃げ延びたと知ったのです。私が彼女を守らねばと…再び奮起できたのです。ここで身を潜めていた間に磨いたこの腕、今こそ活かす時がきた」

スモッグの肩を借り起き上がると先程の涙は消え、鋭く眼を輝かせた。

エリトリア「もう涙は出し尽くした…弱い私はもう見せません。さぁ行きましょう。私も友に闘います」

ナナ「その言葉、待ってましたよ。手始めにここ(ウマンダ星)の連合軍を潰してやりましょうぜ」

No.274

>> 273 動き始めた連合軍。だが、キングはウマンダ星をまだ目視にすら捉えていなかった。

①クリス「まだなのか…」

そんな状況に痺れをきらしながら唇を噛むクリスは、監視室がある船首にいた。

⑭キック「焦っても仕方ないぞ。俺たちが行くまでの間は凱たちが上手くやるさ」

新調の重厚な翠鎧を纏ったキックが暖かい飲み物を片手にやってくるとクリスにコップを差し出す。リード将軍の闇魔法を受け、石となったキックだったがオジオンの力で全快していた。

①「ありがとう」

両手で受け取ると乙女らしく、可愛いらしい仕草で息を吹きかけ口に運ぶ。甘い香りが広がった。

⑭「治療カプセルでリオもラ・ドルも順調に回復してる。ウマンダ星に着く頃には傷も癒えているだろう」

①「そう。良かったわ…そう言えばセロの姿が見えないけど」

⑭「セロは使えそうな宇宙船を探しているよ。ウマンダ星での足は必要だろ?と言ってたが」

①「ふふ。アイツにしては気がきくじゃない」

クリスはすっかり苛立ちを忘れ笑顔を見せる。それを見たキックは安心する。

⑭「そうだ。じっとしていてもなんだろう?いいものを見つけたんだ」

①「え?」

No.275

>> 274 生きようようと歩いていくキックにクリスはついていった。

⑭キック「ここだ」

暫くすると、大小様々な器機がしきめき、無数のライトが点灯する部屋へついた。

①「なんなのここは…」

⑭「奥に行けば分かるさ」

部屋の奥へと進むとそこには立入禁止と書かれた扉があった。

ミスチル「ようこそ、宇宙海賊の誇るバトルルームへ」

扉の横にこじんまりと設置された操作パネル、その前に陣取ったオペレーション席にはミスチルが腰を据えていた。

①「バトルルーム?凱の船のやつか?」

⑭「あぁ。もともとバトルルームの技術はピンタゴ星雲が発端だ。さぁ肩慣らしと行こうか」

立入禁止の警告を気にすることなく、キックが扉を開ける。

ミスチル「言っておくが、怪我をしても…責任は取れない」

①「問題ない。たかが…バーチャルだ」

キックのエスコートを受け、クリスはバトルルームの中へと入っていった。キックもその後へ続く。

ミスチル「ッ。宇宙海賊の技術をなめよって…少しこらしめてやるか」

操作パネルに手慣れた動きでコードを入力するとレベル設定をMAXにする。

ミスチル「大戦の英雄と呼ばれるに相応しいか、品定めしてやろう」

No.276

>> 275 ①「広いな」

⑭「これは中々、楽しめそうだ」

ざらついたブザー音が響き、薄暗かったバトルルームに灯りが灯っていく。

そして、フラッシュがたかれたように一瞬だけ眩い光が放たれた。

①「出たな。さぁかかってこい」

現れたのは生々しいほどの筋肉を携えた狼人間であった。

鋭い眼光で、クリスを睨み付ける狼人間は牙を剥き出しに、両手の爪をさらけ出す。

⑭「相変わらずリアルだな。おっと」

狼人間の胸が膨らむ、そして放たれた炎は渦となって二人を襲う。キックは飛び上がり、クリスは斬撃で炎を討ち払った。

⑭「きたなッ!」

狼人間はその鋭い爪で攻撃をしかける。

⑭「早い…じゃないか!!」

キックは高速で繰り出される爪に圧倒され、思わず後退していく。スピード、パワーともに銀狼の長ドグロと同等程度と思わせる力である。

①「神剣」

胸の前に剣を掲げ、クリスはゆっくり剣を構えた。剣は光を放ち、その外観を消す。

⑭「っ…??」

①「軽いな」

クリスが剣を振った時には狼人間の身体は二つに割れていた。

ミスチル「!!」

それに驚いていたのは外で様子を見守っていたミスチルであった。

No.277

>> 276 ミスチル「い…一撃で…」

震える手を押さえながら操作パネルをタッチする。ミスチルが動揺するのも無理はなかった。ホログラムの狼人間とは言え、ドグロ自身からデーターをとり、実物を忠実に再現した狼人間である。つまりはドグロと同じ力をもつ狼人間であるのだ。

ミスチル「つい先日まで、ドグロ様に圧倒されていた女が…この短期間でこれ程、成長するのか」

元々、クリスはスピードは十分にあったが、力に欠けるものがあった。しかし、全てを切り裂く神剣を身につけたクリスに短所はなくなったと言っていい。

⑭「参ったな」

その力にキックから思わず出た言葉。キックも竜剣を解放し竜へと覚醒してから身体能力が少なからず上がっていたが、それでもクリスの成長の足元にも及ばないのが事実であった。

①「この技を慣らすのにはちょうどいい」

また、ブザー音が響く、今度は先程の狼人間が10人現れ二人を取り囲んだ。

①「神剣の極み、この剣に宿す」

輝く剣が舞い光線が駆けた。刹那、キックが瞬きを終える時には全ての狼人間が消えていた。

ミスチル「ありえん…これが英雄か…」

パネルにはエラー表示、同時にバトルルームの扉が開いた。

No.278

>> 277 ①クリス「いい運動になった。付き合わせてすまなかったな」

ミスチル「あ…あぁ。少しは腕を上げたようだな…」

バトルルームから出たクリスは肩ほぐしに軽く腕を回した。

⑭キック「さぁ、そろそろ操縦室に戻ろうか」

①「そうだな」

颯爽と去っていく二人の背中を見つめながらミスチルは口を大きく開け、らしくない顔で見送るのだった。

No.279

>> 278 ⑭キック「中心部へ戻ろうか?何か進展があるだろうからな」

①クリス「そうね」

キックが言う中心部とはキングの中枢、操縦室でもあり、キングの心臓(コア)でもある。弾力に優れた白色の内壁はそのコアの脈動を受け微かに動いており、キングが生命体であることを示している。

⑭「しかし、不思議な船だ。この大きさもそうだが、生きているなんて…一体、誰が…産み出したんだろうな」

①「想像もつかない。でも頼もしい過ぎる仲間だってことは分かるわ」

中心部へ近づくにつれ、銀狼の警備も厳重になっていく。黒の惑星での奇襲の件もあり、コア周辺の警備は物々しいものである。

「大戦の英雄殿、ご苦労様です。ここより先、特別警戒区域ゆえ、ご注意を!!」

「お気をつけて!!」

大戦の英雄。地の大賢者オジオンが言った言葉であるが何処から流れた噂か、クリスたちを銀狼の戦士はそう呼ぶようになっていた。それ程、クリスたちの黒の惑星での闘いは目を見張るものがあったのだ。

⑭「大戦の英雄か。悪くはないなぁ」

腕を組ながら小さく頷くキックは満足げである。

①「ふぅ」

対象にクリスは呆れた顔で眉毛を上げていた。

No.280

>> 279 キング中枢部、コアの操縦席に座っているのは銀狼族族長ドグロであった。豪腕の狼と風評される程に彼のやり方にはいつも無理があるのだが、銀狼の信頼はなぜか厚い。

⑱ドグロ「直か?…ふーん。それはやっかいだな」

黒一色の正装に身を包み、一見すると紳士的ではあるが鋭く端が尖った色眼鏡の下から透けて見える眼はまさに獣そのものである。銀狼である彼は30歳半ばの見た目以上の齢である。

⑱ドグロ「分かった。お前は闘いに備えて破損箇所の修復に当たれ」

野球ドームのような半円状のコアにはドグロ以外の者はいない。しかし彼の声に返事を返すようにコアに高い電子音が断続的に鳴る。耳鳴りのようなそれは、キングの声であり、暗号のような音をドグロは苦もせず理解し会話している。

⑱「あぁそれと、背後の連合軍には気をつけておけよ。俺様たちに追いつけるとは思えんがな」

ドグロの声に反応しコアの内壁には様々な映像がフラッシュ的に映し出されていく。小惑星サイズのその巨大過ぎるキングで起こる全ての情報をコアで集約し処理しているのだ。

No.281

>> 280 ⑱「何事だ」

キングの電子音のような甲高い言葉に被さるように、けたたましい警報音が響いた。

ドグロは瞬時に移り変わる内壁の映像に目を凝らし、外(宇宙)の映像を指差した。すると全面に外の様子が映し出される。美しい輝き、星たちの光源が一面に広がりる宇宙に、一際浮き出た光が見える。

⑱「赤い流星…」

血のように赤く輝く光がキングへ向かってきていた。明らかに流星ではない、それを確認したドグロは思わず生唾を飲み込む。赤い流星と呼ばれるそれはフラク星雲では知らない者はいない程、不吉な存在である。

⑱「動きだしたか…連合軍めが!キング!艦内に伝えろ!」

敵襲だ、そうドグロが叫んだ瞬間、キングが鈍く揺れた。

ガガガガガガガガ…

No.282

>> 281 ⑭キック「おっと…なんだ?」

大きな衝撃音の後、キングが揺れた。思わず壁に手をついたキックは周りを見渡しながら揺れの正体を探っている。

①「ウマンダ星まで何事もなく行けるわけないか。キック!いくぞ!」

暫くすると警報音が鳴る。自体はただ事ではないようだ。

警報音と同時に駆け出したクリスに慌てて付いていくキックは翼を広げ飛び立つ。周りにいた銀狼たちも慌ただしく情報収集に躍起になっている。

⑭「分かるのか?」

状況からして、敵襲なのは明白ながら惑星サイズのキングの何処に敵がいるのか分かるのか?キックの言葉にはそんな意味が含まれている。

①「もちろんだ。凄まじい殺気を放ってくれているからな」

⑭「そりゃ凄い…あまり好まない発見方法だが、敵を探さなくてよいのはなによりだ」

並々ならぬ殺気を放つ敵からは強大なオーラを感じる。クリスはそんな敵と兄雷とが重なる程、兄と同等以上の力を持つ者であると感じとっていた。

No.283

>> 282 暫くいくと、銃撃の音が響いてくる。銀狼の叫び声、悲鳴が飛び交い、敵と交戦しているのが分かった。

⑭キック「急ごう」

①「あぁ」

左右対称の通路を抜けると、そこには戦闘機の格納庫があった。だが、真っ先に目に飛びんできたのは戦闘機ではなく、複数の戦闘機を薙ぎ倒し、壁から顔を見せる赤い角のようなモノであった。

①「あれは?」

キングの分厚い装甲を突き破り、更には戦闘機すら粉砕しそこにある赤い物体は鈍く輝いている。

⑭「おそらく…敵の船だろうが」

銃声が止み、血臭が漂ってくる。周囲には変わり果てた多くの銀狼が無造作に投げ棄てられていた。

そんな中、不気味な程、場違いな老人が一人、血塗れの場に立っている。老人は長髪を一束に後ろでくくり、しわくちゃな顔を更に捩れさせ笑みを浮かべている。細身の弱々しい手足をさらけだし、その手には不釣り合いな重厚な剣を携えていた。

①「お前が殺ったのか?」

血に染まる剣を持つ老人だったが、今にも死にそうなその外見から思わずクリスはそう口にしていた。

「愚問」

眼を見開き、その気迫溢れる眼を見せつける。凄まじい殺気にクリスは思わず後ずさった。

No.284

>> 283 「我が名はサム。連合軍七大中将の一人だ」

半分欠けた眉を上げる老人は、よれよれのシャツの胸元に付けた勲章を指指す。そこには数多くの光輝く勲章があった。連合軍の偉さを示す証があるのだろうが、クリスたちには何れが中将の証なのかは分からなかったが、本人は満足げである。

サム「ウマンダ星へは行かせぬ。ここでキングと共に果てろ」

①「生憎だが、果てるのはそっちの方だ」

クリスが動いた。一瞬でサムに斬りかかるとお互い剣が交わり音を立てる。

サム「早いな…流石は連合軍の脅威と位置付けられる輩だけはある」

サムはこのたった一つの剣合わせで、クリスの技量をおおよそながら把握した。老剣士サム、人々が彼のことをこう呼ぶのは年老いもなお衰えない剣術はもちろんながらこの超感覚があるからだろう。

①「風よ!光よ!我が身に纏え!」

サムの剣を弾き、クリスは胸の前で剣を構えた。剣は目映い光を放ち、光と一体化する。

サム「ほう。それが報告のあった神剣と言うものか…なんでも斬れると聞いたが?儂を斬れるか?」

①「私の剣は止まらない」

躊躇することなく、クリスは光剣となった剣を振り抜く。

No.285

>> 284 ①クリス「ッ!?」

サム「まだまだ未熟。ダリルには遠く及ばぬな」

①「父(ダリル)を知っているのか!?」

だが、止まらぬはずの剣はサムの剣を前にして受け止められる。

⑭キック「馬鹿な。どうやって…リード将軍すら圧倒した技だぞ」

サムは軽々とクリスの光剣を弾き、己の剣を見せつける。

ブラックカラーの重厚な剣、光の角度で黄金色の輝きを放つそれは連合軍の紋章が刻まれている。

サム「この剣はブラックメイルと呼ばれる特殊金属で出来ておる。世界最高水準の連合軍の技術ですらこのサイズの金属を加工すれのに一ヶ月はかかるが…絶対無敵の硬度を誇る。お前の今の神剣では切れまいて、本来の力ならばこの玩具(ブラックメイル)など紙切れだろうが」

①「お前…神剣も知っているのか!!」

再び剣を交える。だが、光剣はブラックメイルの剣に弾かれてしまう。

サム「知っているもなにも…本物(ダリル)の神剣と闘い生き延びた者は儂ぐらいだろう!!」

老人剣士サムは老いた肉体を感じさせない跳躍を見せ、壁から突き出た赤い角へと飛び移った。

No.286

>> 285 サム「遊びは終わりだ。まとめて消えよ」

角の先端に立ったサムは鞘に剣を収めると、低姿勢となり剣の柄に手をかける。

まるでそれまで必死に堪えていたかのように、濁流のごとくオーラが爆発的に膨れあがり、脱刀したその瞬間、光が走る。

サム「無縁仏」

その剣圧で爆発にも似た風圧が辺りを襲う。格納庫にあった戦闘機は跡形もなく吹き飛び、その威力は格納庫だけでは収まりきらずキングの内壁を破壊し辺り一帯を消し去った。

⑭キック「クリス!!」

①クリス「ッ!!」

その余りの威力にクリスは吹き飛ばされるが、キックが体を張り彼女を庇う。だが、二人とも瓦礫の山へ叩きつけられてしまう。

①「すまない」

⑭「…気にするな。竜人は体が丈夫だからな」

額から血を流しながらも立ち上がるとキックは竜剣を構えなおす。

サム「まだ生きておるか。では、もう一撃!!」

休む暇など与えず、再び、剣を鞘に収め脱刀の準備に入る。

No.287

>> 286 サム「無縁仏」

光が圧縮され、サムの剣へと集約されていく。凄まじいそのエネルギーに、年老いたこの男が中将であることに疑う余地はない。

①クリス「させるか!!」

かつては世界最強の座を争っていた男、彼の恐ろしいところはその過去だけではない。魔族(エルフ族等)ではなく、人間(ノーマル)である彼は齢90才以上でありながらこれ程の技を放つことができるところである。老化すら技に取り込んだ彼を人間を超えた存在とまで称える者までいる程だ。

サム「貴様のその剣と…私の技どちらが上か決めようか」

クリス「悪いが!剣術の力比べには興味はない!」

クリスの速さは、サムの動きを遥かに凌いでいた。だが、先程の剣合わせではクリスの剣が届くことはなかった。なぜか?それはサムの初動速さが余りに早いのである。クリスのスピードに反応できるその動体視力はもちろんながら永年の経験から得た感覚が、反射的に身体を動かしているのだ。

サム「つれぬの。その高飛車な態度は父親にそっくりじゃ」

クリス「生憎だが!私は母親似だ!!」

今まさに技を放とうとするサムへクリスは剣を振った。

No.288

>> 287 サム「小娘が!!」

美しい身体を翻し宙に舞うクリスは剣を走らせた。長い髪を流線形にくるませ、身体ごと回転させる。

サム「我が剣、止めれるものなら止めてみよ!!」

サムの喉元に剣が降り下ろされる。だが、自分の身など省みずサムの眼はクリスの腹部を捉えていた。

①クリス「終りだ!!」

サム「お前ものぅ!!」

身体ごと回転しながら放たれた剣は、サムの喉元を深く抉りとる。その瞬間、大量の血が吹き出した。

①「!!」

だが、絶命にも近い致命傷を受け流血するサムだったが、その動きを止めることはなかった。

サム「手…ぬる…い」

もうじき止まりそうなか弱いながらも確かに鼓動する己の命を感じながら笑みを浮かべ、脱刀する。剣を振り終え、次の動作に入る暇さえ与えられたかったクリスにそれを避けることは不可能であった。老剣士サムの生涯最後の技は、光となってクリスを包み込む。

⑭キック「クリス!!」

目映い閃光の後、凄まじい風圧が辺りを襲った。瓦礫は吹き飛び、キングの内壁はことごとく破壊されていく。

No.289

>> 288 変わり果てた瓦礫の山、至るところから火の手が上がっている。サムの技は、キングの2ブロックにも及ぶ範囲を破壊していた。

レッガ「生存者を探せ!敵がまだいるかもしれん探し出せ!」

ようやく駆けつけたレッガ隊長率いる銀狼部隊は全面に展開し瓦礫の山を掻き分け捜索を始める。

「隊長!敵と思われる者の遺体がありました!」

銀狼の一人が声を上げた。キング内壁を突き破り顔を見せる敵船の赤い角に、ボロ雑巾のように干からびた老人が倒れていた。

レッガ「こいつは…サム中将…」

自らの血に浸かるように大の字に倒れるその老人は眠るように静かな顔であった。老人剣士サムはかつて敗北した男、ダリルに強い復讐心を抱いていた。世界最強の競争に敗れながらも生かされたその屈辱を晴らすためにサムはダリルの子との相討ちを望んだのだ。己の命を捨ててまで得た達成感をもってサムは昇天していた。

レッガ「英雄方を探すんだ!絶対に死なすな!」

「はっ!!」

レッガは焦りながらそう指令を出した。この惨状を見てクリスたちの身を按じての発言であった。

No.290

>> 289 レッガ「ぬぅ。情けない話だ」

銀狼隊の捜索活動を見ながら思わず口から出た言葉であった。宇宙海賊と政府軍との揉め事から始まったこの闘い、高い戦闘能力を誇る銀狼族だが、クリスたち大戦の英雄がいなければ宇宙海賊はとっくに壊滅していたことだろう。事実、レッガの目の前に倒れている中将サムの力は、レッガはもちろんながら銀狼トップのドグロすら凌ぐ力をもっているのだ。

「隊長!竜人殿です!」

レッガ「なに!どけ!」

「瓦礫を退けるんだ」

瓦礫に半身が埋もれながら上体を起こした竜人は少し先を指差し叫ぶ。その声は渇れてた。

⑭キック「私はいい。クリスを助けてやってくれ…ッ」

レッガ「分かった。おい!あそこだ!」

瓦礫に横たわるように彼女はこそにいた。

①クリス「……」

サムの命すら掛けた渾身の一撃を受け、その手に握られた剣にはくっきりと剣撃の後が刻まれていた。父ダリルから授かった剣、今まで刃こぼれすらなった剣には大きく亀裂が入っている。それ程までにサムの技は凄まじかったのだ。

No.291

>> 290 レッガ「しっかりしろ!おい!早く救護班を呼ばんか!」

クリスの状態を見てレッガは驚きを隠せなかった。今にも途切れそうではあるが彼女に息があったのだ。両腕の骨は折れ、肋骨も何本か折れている重症ではあったが、確かに生きていた。レッガはサムの技を目視したわけではないが、周囲の現状から推測したその威力を受け彼女が生きていたことに尊敬の念すら覚えていた。

①「ッ…」

レッガ「動くな。直ぐに救護班がくるからな」

たが、クリスはサムに打ち勝ったという気持ではなかった。どちらかといえば、敗北した劣等感に満ちていた。頭の中では、サムとのやり取りが走馬灯のように何度も再生され、その度にクリスはサムという男の底知れぬ力を思い知らされる。はなから命を捨てる覚悟でサムはクリスの接近を許していた。いくらスピードで劣っているとは言え、やろうと思えばクリスが接近する前に技を放てたことだろう。だが、確実にクリス仕留めるために自分の命を餌さにしたのだ。幸いにもクリスは剣に守られ命をとりとめ、生き延びた。だがそれは実力で勝ち得たものではなく、時の運、奇跡の恩恵であった。

No.292

>> 291 遠退いていく意識の中、クリスは傷付いた剣を見つめ、その瞳は哀しみに満ちていた。

周りで心配そうに見守るレッガたち銀狼部隊や傷の手当に勤しむ救護隊など、もはや視界には入っていない。

剣と己だけの空虚の世界、その眼に捉えるのは変わり果てた愛剣のみであった。

剣士たる者、剣は命と同様である。ましてやクリスにとって、この愛剣は父から授かった形見であり、兄との唯一の絆の証である命以上に大切なものであったに違いない。

そんな剣が力不足が相まって破壊され、クリスは己の不甲斐なさに怒りすら感じていた。

剣と友に生き、この剣に生かされ生きてきた。それは、一概に剣の道を生きた証であったのだ。だが、その証は砕け散り、剣士として何か大切なものを失ったように思えた。

クリス「すまない…」

心底、心から出た剣に対する謝罪の言葉であった。

溢れ出る涙を堪えようと目を閉じたクリスはそのまま深い眠りに落ちたのだった。

「神剣敗れたり。」天から降り注ぐように、何重にも被さった声で老人剣士サムの言葉が木霊していた・・・

No.293

>> 292 「かっ…ドグロ様…」

恰幅のいい銀狼の腹部に、邪悪な黒剣が突き刺さる。銀狼は数秒暴れた後、動かなくなった。

「大したことないな。銀狼とやらわ」

金の羽衣を纏った剣士は周りで倒れた数十人の銀狼にそう吐き捨てるとそそくさと歩いていく。それに続くように銀の羽衣を身に纏った剣士が現れると同じ動作でついてくる。

その二人の剣士は金と銀の羽衣の色以外は全てが瓜二つである。背格好はもちろんながら茶髪の頭は、癖毛の位置すらまったく同じで、気味が悪いほどだ。そんな中年剣士の彼らは、金角少将・銀角少将、サム中将の側近であり二人が力を合わせればサムと同等以上の力を発揮するという最強の双子である。

金角「こっちであってるのか?」

銀角「もちろんだ」

そんな《最悪》の二人が目指す場所は一つ、手薄になっていたキングの中心部であった。

単身現れたサム中将の目的は陽動に他ならない。その思惑通りに、この時、クリス・キック、そしてレッガ率いる銀狼主力部隊が中心部の周囲から離れていた。

No.294

>> 293 中心部へは迷路のように要り組んだ細い通路を通らなければならない。肉壁のような柔らかく、鼓動する壁は中心部が近づくにつれ鼓動が強まっていく。

警戒体制にあった銀狼たちも数百に上る戦闘員が警備についてはいたが、彼らの銃や牙が連合軍少将レベルに届くことはなかった。

金角「手応えがないな」

銀角「手応えがないな」

悲鳴を上げる間もなく細切れにされていく銀狼たち。一般兵が少将レベルを倒すのには軍艦三隻がいると言われる。金角・銀角のような将校クラスはそれ程までに逸脱した力を持っているのだ。そんな彼らに対抗できるだろう力をもった嵐の賢者ラ・ドルは治療カプセルに入ったままであり、霧の賢者スモッグはこのような窮地でありながらその姿を眩ませていた。

ミスチル「お前らの狙いはドグロ様か」

そんな中、唯一中心部に残っていた銀狼族参謀のミスチルが彼らに立ち向かった。力で言えばドグロすら上回る双子に挑むとは知将の彼らしからぬ行動ではあったが、この先のドグロの命を守る盾となるつもりだろう。

金角「少しは腕に覚えがあるようだが我らには勝てぬぞ」

ミスチル「ふん。勝てぬというなら私をひれ伏せてから言うのだな」

No.295

>> 294 銀角「ひれ伏せる?その必要はなかろう」

銀角は笑みを浮かべながら脱刀する。凄まじい風圧、剣撃がミスチルを襲った。

銀角「無縁仏」

光の閃光が走った刹那、周囲一帯は吹き飛ばされていく。避ける暇など与えられなかったミスチルは身を刻まれ、爆風に呑まれ姿を消す。

ズズズ…

金角「おい。船を潰すつもりか」

銀角「キングはこれぐらいでは潰れぬさ」

大きく区画を変更された周囲は、壁という壁を破壊され、瓦礫に埋もれる一つの大きな部屋へと変わっていた。破壊された一帯では血塗れになった多くの銀狼が苦痛の声を上げている。

銀角「さて、邪魔者もいなくなった。行くとしようか」

サム中将の技を扱え、オリジナルに威力も引きを取らない。彼らが最強の双子と呼ばれる所以である。そんな最強の双子は、動力源を破壊しキングの起動停止を目論んでいた。

「良かった。間に合ったか」

そんな双子を捉える眼があった。白いローブに身を包み、白杖を構える見慣れない光魔法士である。

No.296

>> 295 純白のローブは汚れなきその者の心を映すかのように、白銀の分厚い肩当てはその強固な力を示すように、魔法使いは颯爽と空を駆けた。

銀角「なんだ!?」

金角「!?」

木の葉が舞い落ちるように音もなく静かに現れた魔法使いは白杖を剣士に向ける。美少年の優男、あどけない顔といった印象の魔法使い、しかし、その眼は、幾つもの修羅場を切り抜けた者のそれであった。

銀角「餓鬼がぁ…誰だてめぇッ!?」

金角「こいつぁエルフ族だ。見た目で判断するな…相当できるぞ」

水に波紋が伝わるように魔法使いが杖を動かすと空気が揺れる。全ての空間が彼の掌(タナゴコロ)の中にさえ感じ、金角・銀角少将は動き出すことが出来ずにいた。

「我が名は…空の大賢者エア」

彼は正義の使者であり、魔法界きっての天才魔法使い光魔法士の総指揮者でもある。

⑲エア「滅せよ」

白杖から放たれた輝きは暖かく、そして強い光であった。その光は二人の剣士を呑み込み、そして静かに消える。

⑲「悔い改めなさい」

焦げ付いた肉の臭いを漂わせ倒れた剣士たちに賢人はそう説いた…

No.297

>> 296 ⑲エア「神よ。我が行い全て世界の為、どうかお許しを…」

変わり果てた剣士に、布を被せると二人に向け手を合わせた。彼の眼は敵に向けるそれではなく、優しく哀しみに満ちたものであった。

⑲エア「大戦の英雄に会わねば…世界が闇へと飲まれるまえに」

未来の域末を悟っているかのようなエアの発言は誰の耳にも届くことはなく、ただ虚しく響いた…

No.298

>> 297 クリスたちキング艦隊がウマンダ星へ向かっている最中、火中のウマンダ星では最後の抵抗が起こっていた。このウマンダ戦争において要の存在になるだろう狐族、彼らの命運が今後の闘いに行先を決めることは間違いない。

アンテ「ふっははは!哀れめ!己の無力さに!」

蟷螂「くっ…」

戦火に包まれるウマンダ星で唯一、連合軍の侵略下に下っていない狐寺は、少数ながらも抵抗を続けていた。

崩れゆく狐寺、狐族の希望とともに音を立て形を失っていく、その様は絶望という二文字を狐族の戦士たちに与えていた。カラス中将、レイ少将、魔法軍参謀アンテ少将率いる大部隊を前に、狐寺が落ちるのも最早時間の問題であった。

蟷螂「解印の賢者アンテ、ここまでとは…」

アンテ「終いにしようか…蟷螂よ」

赤子のようにあしらわれ成す術なく膝をつく蟷螂を見下しながら言い放つ。

周りではカラス中将の指揮の元、狐寺へ連合兵が雪崩れ込み、騒然とした混戦へと変わっていた。狐寺の最奥にある本殿への侵入を許しまいと躍起する狐人たちだが、圧倒的な大軍を前に次々に力尽きていく。

No.299

>> 298 「隊列を組め!奴らは少数だ!怯むな数で押せ!」

「おぉ!カラス中将へ続けぇ!」

隊列を組み突き進む連合兵は、レザー銃を連射し瓦礫に潜む狐人を撃ち抜いていく。狐人の戦士たちもその独特の曲刀を自在に操り盾にし、接近戦に持ち込み連合兵を薙ぎ倒すが、多勢に無勢である連合兵の数に押されていく。

砦「ここは俺がくいとめる…お前らは鳥を連れて地下の避難路から逃げろ!」

「しかし、砦さんも重症です!置いてはいけない!」

カラスから受けた傷が癒えていない砦は、ふらつく足取りながら連合兵に斬りかかる。二、三人斬り倒すと連合兵からの一斉放射をなんとか避けきり、柱の影に身を隠した。

砦「ばきゃろぅ!俺様が下等兵にとられるかよ!砦つけて早くいけ!」

「分かりました。ご無事で…」

砦の血塗れの鬼の形相に恐れをなしたのか、警護についていた狐人たちは言われた通りに鳥を運んでいった。

砦「ふん。闘って死ねるならいいってもんだ。凱との決着をつけれなかったのだけが、悔いは残るが」

常人ならば意識を失う血を垂れ流しながら砦は柱から飛び出した。待ち構えていた連合兵が一斉に引金を引く、無数の線光が砦を襲った。

No.300

>> 299 「本殿へ近づけさせるな!!」

「女、子供の避難は終わったのか!?」

「援隊を呼べ!北通路が破られるぞ!東から部隊を回せ!」

いとも簡単に結界を破られ、No.2蟷螂がアンテとの闘いで門で立ち往生をくらういう予期せぬ自体に、狐族の指揮系統は混乱していた。

「鬼教官が帰ってくるまで、持ち越せ!主力隊が帰ってくれば戦況も少しは変わるはずだ!」

本来ならば軍事ごとの参謀である鬼がこの場にいて指揮をとるのだが、フォックスの指示を受け先刻、軍艦を率い狐寺を出ていた。知将の鬼と言えど、連合軍がフォックスの張った結界をこうも早く破るなど想像もしていなかったことだろう。

カラス中将「けっ。結構、奥に隠れてやがるな。少し時間がかかるか」

破竹の勢いで狐人を斬り倒していくカラス中将は、次々に現れる狐人の戦士たちに舌打ちをした。

レイ少将「部隊が付いて来れておりません。ここは…」

カラス中将「黙れ!私一人で十分だ!」

連合兵の前線が、最奥の本殿に達するまでの時間はまだ少しかかる。しかし、先陣をきり進むカラス中将はフォックスがいる本殿と目と鼻の先にいた。

  • << 301 騒然とした外とは違い、まるで異世界にでもきたかのように本殿は静まりかえっていた。 パチンッ ただ聞こえてくるのは扇子を開け閉める音だけである。 純白の着物に身を包み、二十代後半に見えるその顔は齢、数百歳とは到底思えない。金色の女が羨むほどの綺麗な長髪を靡かせ、分厚い毛の固まりの七本の尻尾を軽やかに動かしながら扇子を扇ぐ彼は、族長のフォックスである。魔族の中では一、二を争う実力者でもあり、その昔、あの竜王すらひれ伏せたという伝説をもつ男、最も神に近い者とまで言われている。 ⑰フォックス「おもしろうなってきよった」 フォックスは攻め入られている側の将とは思えない暢気な表情で、一つ大きな欠伸をすると、頭上をみやげた。と同時に、轟音が響く。 銀色のメタリックボディ、大型戦艦が現れ颯爽と狐寺の上空を旋回すると、二人の剣士が天井に開いた天窓から本殿へと降り立つ。 鬼「連れて参りました。まさかこのような事態になっているとは…」 「いてぇな。無茶させやがって」 上空から飛び降りた衝撃で尻餅をついた漆黒の鎧剣士は頭をかきながら立ち上がった。
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