話つく③ダンテスティン・サーガ~魔法のペンダント~
7つの惑星を舞台に登場人物たちが連合軍と言う巨大組織と闘うストーリーです👮是非、皆さん読んでみて下さい。
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「話つく」関係者限定③だぜ✌😁
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>> 1
番号持ち
【登場人物】
①クリス
②ハーク
③セレナ
④バジリス
⑤セロ
⑥ドイス
⑦凱
⑧ナタレー
⑨ライオネル
⑩キメラ
⑪リオ
⑫雷
⑬竜王
⑭キック
⑮アイシス
⑯リード
⑰フォックス
⑱ドグロ
【その他、登場人物】
・ハン・ディス博士
・サマー
・ドラー
・ミスチル
・レッガ
・タカ
・オジオン
・マリーン
・グラカス
・カラス
・サム
・ベンガル
・ジャッカル
・ボリック
・コイル
・エリトリア王子
・ダリル
・ラ・ドル
・スモッグ
・ルーブル議員
・スス
・ゴウ
・ニシ
・トリ
・ラブ
・ファ
・軍義
・戦義
・パーフェクト
・砦
・鳥
・鬼
・蟷螂
・エア
・魔法老
・アーム
・ミスター
・ベネズエラ
など他もろもろ…
>> 3
①クリス
母星:ダンテスティン星
年齢:18~20歳程度
連合軍の雷将軍とは兄弟である。神剣と呼ばれる自然界の力を剣に宿し、風のオーラの攻撃を得意とする。
愛剣は父ダリルから授かった剣である。
父母を《あの事件》と呼ばれるダンテスティン国を壊滅状態にした殺戮で亡くした後、孤児院となっていた修道院に兄と共に身を置き、数年間を過ごした経験がある。
兄を追い修道院を出てからは(セロと一緒に逃亡後)兄を探しながら剣の腕前をかわれ用心棒として生計を立てていた。
ダンテスティン国のセレナ王女の用心棒として雇われたのが、連合軍との戦いに参加したきっかけだが、《あの事件》の首謀者であるドイス(連合軍指導者)に父母を殺された恨みをもっていた。
あの事件:連合軍発足の起源とも言える事件、大量の人々が殺され、ドイスが深く関わっている以外の詳細な話はまだされていない。
>> 4
②ハーク
母星:ダンテスティン星
年齢:70歳程度
青年時代にダンテスティン国のお抱えの魔法使いとして雇われてから数十年の間、王国の繁栄に力を注いできた。セレナ王女やエリトリア王子の教育係にして、世界に7人しかいない大賢者の一人である。
風の魔法や回復魔法を得意とし、風の大賢者と呼ばれている。元、風の賢者。
弟子を二人もつ。
ラ・ドルにスモッグ。
愛用の杖は木製で水色の水晶が先端についており、青年時代に師匠ラブ(恋の賢者)から授かったものである。
《あの事件》でダンテスティン国の王や王妃を殺され、君主を守れなかった自分を悔やんでいる。
セレナ王女のためなら自らの命すら簡単に差し出すほどセレナを自分の子のように愛している。
大賢者:魔法界の主、魔法老に選ばれし7人の賢者の中の賢者。7つの惑星に各一人ずつおり、世界の兆候の監視役でもある。
風の賢者ハーク
空の大賢者エア
雷の大賢者マリーン
地の大賢者オジオン
と今まで四人の大賢者が登場している。
>> 5
③セレナ
母星:ダンテスティン星
年齢:18~20歳
ダンテスティン国の王女。連合軍の侵略により、国を追われ、戦いにより、父母(国王・王妃)を失った。国の復興、連合軍を打破するため日々、奮闘している。
兄であるエリトリア王子との再開を望んでいる。
幼き頃から魔法の才を持ち、ハークの指導を受け、現在では賢者並の力を持つ魔法使いである。銀色に輝く軽装な杖は大賢者ハークから授かったものである。
亡き母から受け取った首飾りをいつも身につけている。銀色に輝く首飾りは金でダンテスティン国の紋章が刻まれている。
連合軍の指導者ドイスはその首飾りを狙っており、セレナに莫大な賞金をかけている。
ダンテスティン国の閉ざされた地下(魔王の巣・過去の遠き日:参照)と首飾りは深く関わっているらしいのだが…
>> 6
④ハジリス
母星:ダンテスティン星
年齢:40歳程度
ダンテスティン国の将軍として軍事に関わる重役を勤めていたが欲に洗脳され、今は国を裏切り連合軍側にその身をおく。
あの事件で国力が落ちていたとはいえ大賢者ハークが守るダンテスティン国があっけなく侵略された原因も内部情報を漏洩させたバジリスの裏切りが大きい。
重装備の分厚い鎧をいつも身につけており、武器は魔科具と呼ばれる機械手を使う。エネルギー砲・触手攻撃を得意とする。
剣術・体術・頭脳ともに優秀で野心家でもある。
元、連合軍三大将軍の一人。現在は失態により降格され福将軍としてリード将軍の補佐を勤めているが、リード将軍をよくは思ってはいない。
魔科具:協会と呼ばれ組織が作り出した科学と魔法を融合させた兵器・武器のこと
連合軍三大将軍:雷将軍・キメラ将軍・リード将軍と連合軍の軍隊を指揮する中軸とも言える三人の将軍のこと。
協会:暗殺者・傭兵・賞金稼ぎ・用心棒と裏の稼業の仕事を束ねる組織。不透明な点が多く存在自体が謎あり、連合軍と密接な関係らしいと言うことまで分かっている。戦闘員は魔科具使い《魔科》と呼ばれる戦士である。
>> 8
⑥ドイス
母星:?
年齢:?
全てが謎に包まれている人物である。強力な闇の力を有し、魔法界すら手が出せない悪の元凶にして連合軍の頂点に君臨する者である。
黒いローブに深く被ったフード。外見からはドイスのその中身を判断することはできない。
フラク星雲レイカ星の連合軍本拠地の黒の塔にいる。
世界征服を掲げる連合軍を導きながら真の目的である世界の破壊のため、裏で暗躍している。
連合軍:世界最大の軍隊。人口の多いフラク星雲の人々から構成される人間族の軍隊。世界征服のため、ドイスの指揮のもと奮闘している。
魔法界:魔法老と呼ばれ魔法を司る者が住む世界で魔法使いだけの世界であり、良き魔法使いの集まり・総称をさす。金色に輝く光の中の別世界である。
>> 9
⑦凱(ガイ)
母星:ピンタゴ星雲ウマンダ星
年齢:35歳(男)
竜族の最強ともいわれる戦闘竜ことブラックドラゴンの鱗から術法を用いて作られた漆黒の鎧をいつも身につけている。2m近い長身で外見からは想像できないほど素早いのが特長。
クリスたちと連合軍を倒すため、共に旅をしている頼もしい仲間の一人。それ以前は賞金稼ぎとして、一匹狼の狩人であったが、セレナ姫にかけられた10憶サーチの賞金目当てをきっかけにクリスたちと出会う。
協会が作った魔科具に属する漆黒の鎧はアンチマジック(魔法耐性)の鎧でもある。
武器は
《妖刀覇王》
《黒魔剣》
で二刀流の剣士。オーラを剣に宿し、様々な技を使う。
右手のこうにはハイエント文字が浮かび上がっており、黒魔剣に宿った四天王の精霊たちを操り、地・水・火・風とあらゆる属性の力を使うことができる。
主な技:
ガイブレイド
三重残像剣
七重残像剣
爆炎阿修羅斬
トルネードガイブレイド
デッド・ツェッペリオン
宇宙船の操縦技術も飛び抜けた才能を持っており、小型挺の愛船シャドーmkⅢを持っている。
サーチ:世界唯一の国際通過の単位。
シャドーmkⅢ:狐族の戦艦機のシャドーシリーズの船を改造した凱の愛船。搭載するAIはシャドー。
>> 10
⑧ナタレー
母星:シーラ星
年齢:?
エルフ族の女性であり、ライオネルの母。肉体を捧げ、魂だけの身となり人柱としてエルフの国を支えていたが、連合軍の侵略戦争から国を守るためにその力を使い果たし一時は消滅の危機だったが、大賢者ハークに救われ一命をとりとめた。現在は魔法界で鋭気を養っている。
遥か昔の契約により肉体を失い半透明の身体になった彼女だが、エルフの民のため身を捧げた彼女に後悔はない。
聖なる魔力の使い手。《守りの賢者》の称号をもつ、精霊にもっとも近い人でもある。
賢者:魔法界が認めた魔法使いの中の魔法使い。その力強さはもちろんこと人徳にも優れた者しかなることができない。
エルフ族:シーラ星に住む人々のこと。尖った耳に美形の顔立ちが多く、魔法の才に長けたものが多いのが特長である。寿命は数百歳と人間の約十倍である。
エルフ族の魔法使いは肌が黒くダークエルフと呼ばれている。
>> 16
⑭キック
母星:イース星
年齢:500歳程度(男)
竜人である彼は竜王の25人の子の一人であり、子らで最も強い力を持つ。竜王の右腕的な存在でもある。
愛用する剣は《竜剣》と呼ばれる竜族に代々伝わる剣であり、竜人の中に眠る竜の血を目覚めるための剣である。竜剣は武器にして、武器にあらず、真の力を目覚めさせる剣。
竜族の宿敵である【サム】を倒すため、腕を磨いている。
主な技:竜剣一閃・龍竜
サム:連合軍7中将の一人。老剣士の異名を持つ、凄腕の剣豪。世界最強の剣士だった最盛期のタカと互角に渡り合えた唯一の男でもある。その昔、己を鍛えるため、単身イース星に乗り込み、数多くの竜族を殺めた。竜族とっては憎き剣士でもある。
>> 21
本編再開
⑯リード「世界は我ら連合軍に屈する運命なのだ。いくら足掻こうとも」
見渡すかぎりを埋め尽くす数万の連合軍艦隊。
その艦隊から放たれるX砲は宇宙に散らばる流星群を飲み込み、何者にもその勢いを遮られることなく、ただ、一直線に目標へと向かっていく。
そう。
黒の惑星へと……
⑯「死…そう…無こそ。究極の美の形…運命からは逃れられない」
リード将軍が微笑む中、巨大過ぎる光の線光は…
悪の思うがまま、進みのであった。
- << 42 本編再開 ⑦凱「きやがった!」 レザーに捉えた政府軍艦隊の信号が次々と消えていく。 それが、何を意味するのか凱は瞬時に理解した。 一瞬にして数万の人々の命がX砲に飲み込まれているのだ。悲鳴すら叫ぶ暇すら与えられず、その生命を奪われている。 ⑦「くそ。なんで…」 凱は歯を食いしばり、ただ、その場に立ちつくす。 自分には何もできない無力さに怒りを感じていた。 ⑱ドグロ「フォースフィールド!!」 目の前に迫る膨大なエネルギーの塊であるX砲に飲み込まれていく政府軍艦隊は勢いを妨げる抵抗にもならず、X砲はその脅威をなくすことなくキングを襲う。 対して、キングは全体を覆う青白い光が、その宿主を守るため強さを増し、輝きはその強固さを表していた。 ゴオォォォォォォ~!!!
>> 23
【タカ伝】
「オヤジ!酒だ!酒!酒をもっとくれ!」
古びた酒屋のカウンターに座る巨漢の男が大声を上げる。
赤・緑・黄色と大小様々な酒瓶が並ぶ店内には男のほかに数人の客がいるが、皆、興味がないのか男には一瞥もくれず、無表情のまま酒を口に運んでいる。
「お客さん…飲みすぎだよ」
年配の店主はそう返したが、酔った男は店主の胸ぐらを掴み上げる。
「酒を出せ!何度言わせるつもりだ!」
店主の心配の言葉を仇で返すように暴力行為に出た男。しかし、そんな一触即発の店内の状況に他の客は無関心のままである。ごろつきの溜まり場と言ったところだろうか、店主に暴力を振るう男を含め、この店にいる客全員がわけありの輩ばかりである。
「わ…分かった。離してくれ!兵士を呼ぶぞ!」
子供と大人ほどの体格差がある男と店主。店主は宙ぶらりんになりながら必死にそう言うと男はつばを吐きつけ、店主から手を離した。
「けっ!兵士なんぞ!戦事で忙しくて町にいやしねぇよ!」
男は出された酒を一気に飲み干すと再び、酒の注文をするのであった。
>> 24
【タカ伝】
チャリン
「いらっしゃい」
入口の扉が開き鈴の音が鳴る。冷や汗を拭った店主は新たなに店にやってきた客を歓迎する。
「パーニ酒をくれないか」
客は注文を早々と済ませると巨漢の酔っ払いの隣席に座った。巨漢の男に睨まれたが、気にしている様子はない。
「パーニ酒は酸味が強いが…構わないかい?お客さん?」
「あぁ」
革製のマントに身を包み、鍔の大きい帽子を深く被っているため顔を伺うことはできないが、声や長く伸びた黒髭からして男だろう。
「お客さん。旅人かい?」
地元の服装ではない客に店主は聞いた。客は店主の問いにただ頷く。
「シーラ星も争いが絶えぬ星になってしまったようだな」
注文した酒を口に運びながら、旅人である客が目にしてきたシーラ星の現状を思い浮かべながらそんな言葉を口にする。
「そうさ…ここ百年は戦場が拡大する一方でね。私たち平民は争いにいつ巻き込まれるか…心配で夜もおちおち寝てられんよ」
溜め息混じりの店内言葉。おそらくシーラ星の住む人々皆の本心であろう。
誰もが平和を望んでいる。
だが、争いはなくらない。
>> 25
【タカ伝】
「秋国や夏国の王の戦好きのせいで…平民はえらい迷惑を受けてる。どうにかして欲しいよ…はぁ」
「冬国を覆う結界があったが?アレは?」
旅人はシーラ星に4つある国の一つである冬国を脳裏に思い浮かべていた。国一つを覆う巨大な青き結界を。
「アレは…聖女ナタレー王女の結界だよ。冬国は争いを拒み、百年以上も鎖国状態だ」
「冬国に入りたいんだが…何か方法はないか?」
店主は
さぁと手を広げて見せた。
「秋国の大賢者にでも聞くんだな!」
隣で黙って二人のやりとりを聴いていた巨漢の男が皮肉気に笑いながら言う。
「貴殿の言う大賢者とは…マリーン殿のことか?」
「あぁん!そうだとも…あの方は大層美しい方だそうだが!白塔の天辺にこもって誰にも会われないらしいぜ!殺し合いを高みの見物とはいいご身分だぜ!ったく!」
水を飲み干すように容器に注がれた酒を飲み干すと巨漢の男はまじまじと旅人を見つめる。
>> 26
【タカ伝】
「お前どっかで見たことあるような…何処だったっけか」
「話を聴かせてもらって助かった。礼を言わせてもらう…これは勘定だ」
巨漢の男が首を傾げながら旅人を見つめる中、カウンターに旅人は金貨を一枚置く。明らかにパーニ酒一杯の代金にしては不釣り合いな大金である。おそらくはこの店一軒丸ごと買えるである純金の金貨。
「お…お客さん!ち…ちょっと!こんなに貰えないよ…!」
店主が呼び止めるが旅人は振り返ることなく店を出ていった。
「とまれぇ!ここが秋国の領土と知って進むか!」
秋国へと向かう一本道に設けられた関所に一人の男がやってきた。
男は古びた帽子を深く被り、マントで身を包んでいる。
「私は旅をしている者です。偉大なる大賢者マリーン殿を一目見たく…遥々参ったしだい。どうか兵士方、ここを通しては下さらぬか?」
自らを旅人と名乗る男はやけに丁寧な口調で関所に詰めていた兵士たちに言った。無論、不審極まりない男をすんなり兵士が通すわけもなく、兵士は槍をつきつける。
「残念だが、貴様のような何処の輩と分からぬ者とマリーン殿はお会いはしない!」
>> 27
【タカ伝】
「では、致し方あるまい」
旅人はマントを翻し、その下に隠していた剣を抜いた。兵士たちは銀色に輝く剣を目にした瞬間、意識か遠退きその場に倒れ込む。
「すまないが。少し眠って頂く」
旅人は手慣れた動きて剣を鞘に戻すとマントにくるまり、身を覆う。
周りには訳も分からぬまま寝息を立てる兵士たちがいた。
秋国の国土は巨大な城壁で囲まれている。国全体が一つの城のような作りであり、その中心部には天をも見下ろす、巨大な白い塔が立っている。国民からは白塔の愛称で呼ばれている美しく華麗な塔である。その塔の主こそ女神とまで呼ばれる雷の大賢者マリーンなのだ。
「お前、知ってるか?」
「何を?」
「タカがこの星に戻ってきてるらしいぞ」
その白塔の入口を警備する兵士たち。戦時中と言うこともあり、一個団体以上の兵士が常駐している。
「あの7剣帝や神剣ダリルを倒した?タカか!?」
兵士たちの間では世界最強の男の話でもちきりであった。
竜狩りのサムを倒し!
魂食いのググルを倒し!
たった一人で3000人を斬り倒し!
何百もの王国を救い!
数多くの伝説を持つ男。
>> 28
【タカ伝】
「諸君ら…失礼する」
夜空に輝く星たち。
そんな天から一人の男が降ってきた。男は土煙を上げながら着地するとマントを翻し、剣を抜く。
「だ…」
一瞬硬直した兵士たちだが、流石は訓練された兵士たちだ。直ぐ様、状況を判断し各々の武器を構える。
「動くな!何者だ!」
「私か…私はタカ。私が進む道に立ちはだかるなら斬る」
銀色に輝く剣は彼の心を移すように純粋な力をあらわしている。そして、その剣に刻まれたエルフ族の紋章は彼の強い意思をあらわしているかのようだ。
「と…止まれ!」
ただ、彼は真っ直ぐ白塔の入口へと進んでいく。兵士たちは手を出すことなく後退りして、道をあけてゆく。
「ま…待って」
圧倒的な実力差。たとえ千人いや二千人いようとも勝てないとここにいる兵士たちは思った。
それほど圧倒的…
「こ…これが…世界最強…」
絶句する兵隊を残し、タカは白塔へと消えていった。兵士らも数多くの場数を踏み、危険を乗り切った戦士たちだ。だが、そんな経歴すら子供騙しに思えるしまう…
「世界最強の剣士…」
そこにいる誰もが一同にそう口にした。
>> 29
【タカ伝】
永遠に続いているかと思うほど長い螺旋上の階段は《永久(トワ)》の象徴のようである。
「綺麗なところだ」
白塔の中は潔白の白だけの世界であった。そんな螺旋階段を一人の男が上っていく。
薄汚れた帽子に年期の入ったマントを被り、とても身なりが綺麗とは言えないが、彼からは気高い気品がなぜか感じられる。
上や下の方向すら見失ってしまう。不思議な空間である。異次元の世界なのであろうか。
上を見やげれば地平の彼方を見ているように階段が渦を巻き、何処までも続いている。
階段を一段一段、踏みしめる音以外には何も聞こえない。
この空間は時間が止まっているのだろうかという錯覚すら与えられる。
男はただ先を見つめひたすら階段を上っていった。
《永遠》の平和
だが、この白塔ですら実現できないそれは…
世界が手にすることができるのであろうか。
>> 30
【タカ伝】
「ふう」
男は足を止めた。
何時間のぼってきただろうか?
気が遠のくほど続く螺旋階段に流石の彼も弱音の色が顔に出てきていた。
茶色い帽子を脱ぐ。汚れでその色になったのか、元々だったのかあやしい帽子を彼は傍らに置くとゆっくり腰を下ろす。酷使してきた身体が一気に楽になってゆく。
マントを翻し、腰につけた水袋(動物の皮を張り合わせたもの)を手にとり、渇いた喉に水を流し込んでいく。
つかの間の休息…
彼は無言で上を見やげながら町で買った携帯食料レンバスを口に運んでいき満足気に味わっていく。
幼き頃から食べ馴れた味だ。
だが、ここ数年は一度も口にしていなかった。
香ばしい香り、懐かしい味に思わず涙腺が緩む。
戦いに明け暮れる日々、頂点を目指し戦ってきた。
この螺旋階段を上っていくように、ひたすら上へ上へと進んできた。
だが、彼が得た物はなにもなかった。
失うものは大きかったが、得られたものなどただの称号だけ…
《世界最強》
つまりは
《孤独》
という名だけだった。
>> 31
【タカ伝】
目の下や口回りに深く刻まれた皺(シワ)を指でなぞっていく。
その行為自体に何の意味もない。ただ、彼の癖になっていた。
エルフ族は老いをしらない種族だが、エルフであるはずの彼は年老いていく。
なぜ彼だけなのだろうか。
なぜ皆とは違い彼は醜くなっていくのだろうか。
なぜ?
しかし、彼は受けいれていた。
彼は多くの者を殺してきた。
殺めたのは悪の道に走った者だけではある。
しかし、所詮は偽善者なのだ。
己は殺めることで解決する野蛮な生き物…と彼は言う。
彼が殺してきた者たちの呪いなのだと…
彼の背中は世界の裏の側面を語っていた。
世界には多くの英雄と呼ばれる者がいるが彼らも人殺しと同類。いや、正義を盾に人を殺めている彼らのほうがよっぽどの悪人なのかもしれない。
矛盾の上で成り立つ世界は…
脆い。
>> 32
【タカ伝】
「鼠が迷いこんだようですね」
白塔の天辺に位置する《天の間》と呼ばれる場所に女はいた。
黒い肌とは正反対の白いドレスを纏(マト)った美女である。
《美しい》という言葉は彼女のためにあるのかもしれない。
「しかしながらご安心を…侵入者は魔法階段を永遠にのぼり続けることになりましょう」
女に頭を下げ、ダークエルフの老人たちは言う。
「いえ。彼はここにくるでしょう。塔は彼を呼んでいますから」
女は笑みを浮かべ、天の間の中央にある泉に素足をつける。
泉の水面に映し出された男の映像は波紋によって乱れ、虚しく拡がっていく。
「しっかり下準備をしてくれば良かったな」
一人で旅を続けてきた彼は独り言もまた癖になっていた。当然だれからの返事があるわけではない。
この階段がいつまで続くのか分からない以上、それなりの準備なしにこれ以上進むのは危険である。そんな不安を彼は口にしたのであった。
だが、引き返すことはしなかった。
今の彼は例え目の前に死が待っていようと躊躇することなく飛び込んでいくだろう。
彼が望んでいるものは一つ
安らぎだ。
たとえ
それが
死だとしても…
>> 33
【タカ伝】
天空をも見下ろすこの塔は誰か何のために創ったのだろう。
そして、何ゆえ彼をここに歩ませたのだろうか。
幾多の強敵を倒し
世界最強の名を手にいれた。
長年目指してきた地位についた彼は自然と足がシーラ星に向いていた。
そして、今、故郷の地を踏んでいる。
だが、祖国は結界を張り、固くその口を閉じていた。まるで彼を受け入れるのを拒むように。
しかし、彼は諦めきれずに《安らぎ》を求め、国へ入る手段を探っている。
そして、ここ白塔に行き着いたのだ。
偶然と運命は紙一重、彼がここにやってきたのも運命なのかもしれない。
「あれが…頂上か」
帽子を深く被り直す。彼の見つめる先にはついに階段が途切れる場所があった。まだ距離はあるが先程からの道程を考えれば大したものではない。早やる気持を抑え終着点へと上っていく。
>> 34
【タカ伝】
近づけば近づくほどそれに魅了されてゆく。
階段を一歩踏み間違えれば塔の奈落に落ちてしまうが、彼ですらそれに目を奪われ、おぼつかない足取りで残り少ない螺旋階段をのぼっていく。
頂上にあったのはこの世のものとは思えぬ美しい扉であった。それには戯れる数人の美女が描かれいた。だが、ただの絵ではない。その絵は動き、タカに向かって微笑み手を振っている。
この扉の先に大賢者マリーンがいるのだろうか。
手を振り歓迎する絵の美女たちに思わず、彼も口元が緩む。
だが、それもつかの間であった。
突然、扉が開き、美女たちは見なくなってしまう。
「止まられよ。旅人よ」
代わりに白装束のダークエルフたちが現れ、やっとの思いで天辺に辿りついたタカへと杖を向ける。
「私はタカ。大賢者マリーン殿にお会いしたく参った。盗賊まがいの行為…非礼を御詫び致す」
「残念ながらそれは叶わぬ願いだ。帰って頂こうか」
魔法使いたちが持つ杖が鈍く輝き始める。
その行為が何を意味するか彼は理解していた。だが、剣に触れる素振りすら彼は見せない。
>> 35
【タカ伝】
ダークエルフたちは呪文を唱える。彼らの持つ杖は輝きを増し、タカは鈍い光に包まれていく。
賢者クラスの魔力を持つ魔法使いが八人。タカは冷静に状況を見極めていた。
その気になればダークエルフたちが呪文を言い終える前にその首を切り落とすことも彼なら造作もないことであったが、移動魔法を唱えられ強制送還されようとしても手を出すことはしなかった。
「度重なる失礼をお許し下さい」
タカはマントを翻し、しゃがみ込むと右手の袖の裾を捲り上げ、その小麦色の逞しい腕をあらわにした。
筋肉質の腕には黒い刺青が入っている。
現在使われているどの文字とも類しない。
文字のような絵のような。
彼の腕に刻まれたそれは…
何故か懐かしいくて
何処か恐ろしくもある。
「そ、それは…」
その刺青を目にしたダークエルフたちはどよめく。彼らの放った魔法はその文字に吸い込まれ、完全に無効化した。
この世にあってはならないその文字…
「貴殿らの魔法は私には通用しない。まだ私のゆく道を塞ぐおつもりなら覚悟されよ。賢人とあれど容赦は致さぬ」
鷹のような鋭い眼光は賢者たちすら恐れをなして退いていく。
>> 36
【タカ伝】
「失われし文字!」
「呪われし文字!」
「破滅・滅亡の象徴!」
ダークエルフたちはわめき声を上げながら尻餅をついていく。
「世界最強の男よ。それは世界が持つべきものではない!世界を破滅されることになるぞ!」
腰を抜かす賢者たちの間を歩いていくタカの足を一人が掴むが、微力なその手をタカは簡単に足払う。
「この文字は本来そのような意味ではない。世界は失ってはいけないものをなくしてしまっている」
独り言を言うように彼は呟く。
その目は遥か遠くを見つめていた。
世界の行く先を…
「では、失礼致す」
ダークエルフたちの脇を通り過ぎ、タカは大賢者の待つ《天の間》へと入っていく。
>> 37
【タカ伝】
「貴方が大賢者マリーン殿ですか…」
中央に小さな泉がある白一色の部屋。
そこに一人の美女がいた。
泉で水遊びをする彼女。
水しぶきの輝きは更に彼女の美しさを際立て、見るものを魅了していた。
「あら、私が大賢者で不服かしら?」
「いえ。これほど美しい方とは思ってませんでしたので…」
微笑む彼女に思わず顔を赤らめるタカは場が悪そうにマリーンから目を反らした。
「私も世界最強の男はもっと逞しい人だと思ってたわ。意外と普通ね」
ドレスを靡かせて、泉から上がると彼女は杖を手にする。
白い杖には無数の鈴がついており、彼女が動く度に心地よい鈴の音が奏でられる。
チャリン
「大賢者殿にお聞きしたいことがあり、無礼を承知で参りました」
「ふふ。故郷に帰りたいんでしょう?」
「はい。流石は大賢者殿…全てお見通しですか」
彼女はタカへと近づき、杖の先端についた水晶で彼の右腕を指す。そして、小言で呪文を唱える。
「まさか…ここにも」
「ええ。貴方が探している7つの失われし文字の一つがここにあります」
彼の腕に刻まれた3つの文字は鈍く金色に輝き、そして新たな文字が浮かび上がってくる。
>> 38
【タカ伝】
彼はなぜ?
失われし文字を集めているのだろうか?
なぜ?世界はその文字を失ったのだろうか?
なぜ!?
なぜ!?
なぜなのだろうか。
世界は多くのもを犠牲にして成長してきた。
繁栄の影にある
醜き部分。
魔法も例外ではない人々は犠牲の上、手にした力であるのだ。
世界の人々は知らない失ったものの大切さを…
だが、彼は違う。
彼は失ったものを忘れはしない。
彼という表現ではおかしいのかもしない。
この文字はタカ一人で集めてきたものではないのだから。
世界最強の名を持つ歴代の強者、彼らがこの文字を探し、次なる世代の強者、後継者に引き継いできた。
世界は忘れようと彼らは忘れない。
その身に刻まれし
文字の意味を…。
《予言書》の最後にはこう書かれている。
世界は彼が救うだろう。と…
>> 39
【タカ伝】
「4つ目か…」
脈々と強い輝きを放ち、彼の腕には4つの文字が刻まれていた。
それは
世界最強の称号を手にした者に与えられる使命(枷)なのだ。
世界のために集めなくてはならない。
その身に刻まれた文字は…
とても重いことだろう。
「貴方はまだやり残したことがあるわ。故郷に帰るのはお早くなくて?」
可憐な美女は微笑みを浮かべながら彼を見つめた。
「この《失われし文字》を集めるまで…私に平穏はないと言いたいのですか?」
少しの沈黙のあと彼はそう口にした。その言葉にはいつもの力強さがなく、何処か不安な部分も含まれている。
「いえ。貴方では全て集めることはできない…それは貴方の宿命ではないもの」
「貴方は強い…でも永遠に世界最強の名をなのることはできはしないわ。誰だって力は衰えていくし生まれてくる新たな世代の者にとって代わられるものなの。いえ…代わらないといけないの」
「それが世界の均衡であって…ルールよ」
視界は突然、閃光に包まれていく。
こだまする彼女の声。
霞んでゆく彼女の姿は…
美しかった。
>> 40
【タカ伝】
強風に煽られる一人の男。
彼は遠く彼方に聳(ソビ)え立つ白塔を見つめていた。それは規格外に大きく、美しい塔であった。
そして、母の温もりを感じる不思議な場所でもあった。
だが、塔は彼を受け入れることはしない。
男にはやることが残っていると言って・・・・
「ここにはまだ私の居場所はないらしい」
男に追い討ちをかけるように風は更に強さを増し、小雨が降り始めた。
黒い雨雲を突き抜ける白塔をいとおしく見つめる男は何を想っているのだろうか。
悲しみに満ちたその目は何を見ているのか・・・
天候にも見放された男は古びた帽子を深く被り直し、足取り早く次なる地へ向かうのであった。
次なる地。
次なる戦いへと歩む彼の背には雨に打たれまるで泣いているかのように見える白塔があった。
《終》
>> 22
本編再開
⑯リード「世界は我ら連合軍に屈する運命なのだ。いくら足掻こうとも」
見渡すかぎりを埋め尽くす数万の連合軍艦隊。
その艦隊から…
本編再開
⑦凱「きやがった!」
レザーに捉えた政府軍艦隊の信号が次々と消えていく。
それが、何を意味するのか凱は瞬時に理解した。
一瞬にして数万の人々の命がX砲に飲み込まれているのだ。悲鳴すら叫ぶ暇すら与えられず、その生命を奪われている。
⑦「くそ。なんで…」
凱は歯を食いしばり、ただ、その場に立ちつくす。
自分には何もできない無力さに怒りを感じていた。
⑱ドグロ「フォースフィールド!!」
目の前に迫る膨大なエネルギーの塊であるX砲に飲み込まれていく政府軍艦隊は勢いを妨げる抵抗にもならず、X砲はその脅威をなくすことなくキングを襲う。
対して、キングは全体を覆う青白い光が、その宿主を守るため強さを増し、輝きはその強固さを表していた。
ゴオォォォォォォ~!!!
>> 42
大河のようなX砲はキングすら軽々と覆う。キングはその膨大なエネルギーを受け止め、勢いに押されてゆく。
ミスチル「ドグロ様!!」
⑱ドグロ「慌てるなぁ!キングはこれしきで…ッ!やられねぇよ!」
キングの心臓部の内壁は燃えあがるように赤く染まっていく。大きく振動するキングからはX砲の衝撃の強さが伺える。
③セレナ「きゃあ」
①クリス「セレナ!大丈夫!?」
振動で左右に振られるセレナをクリスは支える。二人は不安そうに真っ赤に染まったキングを見守る。
②ハーク「お…っと」
レッガ「大丈夫ですか!」
②「うむ。足を少し取られただけじゃ」
⑭キック「キングは耐え切れるでしょうか?」
余りの振動の不安からかキックはそう口にした。問われたハークはゆっくり目を瞑り、キングの内壁に手を当てる。
②「耐えるよ。この子は強い。さて…儂らは早くクリスたちと合流せねばな」
レッガ「はい。おそらく心臓部に居られるかと!こちらです!」
ハークたちもまた心臓部へ向かうのであった。
>> 43
ラ・ドル「美しい。彼女ほどではないですけどね」
⑪リオ「何をのんきなこと言ってるんだよ!」
心臓部はキングの核であり、目で見た画を映像として表示する場所でもある。すなわち、キングの見ている物を移す鏡のようなところである。しかし、今は金色の光以外はなにも見えない。
つまりはX砲の中であると言うことである。
ラ・ドル「貴方も美しくと思いませんか?我が親友よ?」
⑪「X砲に今まさに飲み込まれてるんだよ!のんきに感想なんて言えないよ!」
大きく振動する中、必死に壁に掴まるリオは冷静なラ・ドルに感情的に言うが、ラ・ドルは杖の先端についた頭蓋骨(彼女)を撫でながら笑っている。
①「大丈夫なの?どんどん押されてるわ!!」
⑱ドグロ「うっ!予想以上に強力な力だな…だが、大丈夫だ…多分な」
ゴオォォォォォォ
①「えっ?最後?なんて言った?」
③「多分と私には聞こえましたけど」
⑱「……」
ミスチル「ドグロ様!黒の惑星!大気圏内へ押されていきます!このまま押されるとあと25秒で大気圏です」
心臓部の中心にある操縦席に座るドグロの周りには心配そうなクリス・セレナ・ミスチルがいた。
>> 44
X砲がキングを捉えた同時刻、連合軍艦隊は黒の惑星へ向け進軍を開始していた。その兵力は政府軍と比べるまでもなく圧倒的で、巨大である。
⑯リード「軍義・戦義よ」
軍義「はっ」
戦義「はっ」
将軍が呼ぶと何処からともなく白仮面を被った剣士二人が現れた。
⑯「キングは思ったより丈夫なようだ。直接、キングの飼い主を消すとしようか」
軍義「はっは。ドグロなぞ我が手にかかれば赤子同然」
戦義「我ら二人にお任せを」
⑯「頼もしいな。だが…奴らは多い。ハジリス副将軍率いる奇襲部隊も同行させよう」
剣士二人が後ろからの気配を感じ振り返る。やってくるのは漆黒の鎧に身をつけた兵団であった。
④バジリス「腕ききの戦闘兵を3000人用意致しました」
⑯「では、行けお前たち…私(連合艦隊)が到着するまえにキングを壊滅させよ」
リード将軍は二本の杖を天に掲げる。
そして
一呼吸置き、移動魔法の呪文を唱えた。
>> 45
ミスチル「大気圏に入ります…ッ!!」
ミスチルの一言と同時にキングは大きく揺れた。危うく飛ばされそうになったセレナ・リオをクリスとラ・ドルがそれぞれを支えた。
ゴオォォォォォォ
ガガガガガガガ!!
⑱「くっ…」
ミスチル「ドグロ様!大気圏突破しました!この…がぁ!!」
激しい揺れにミスチルが堪えかね、壁に叩きつけられる。慌てて、クリスが代わりにドグロの脇につきパネルに目をやり、状況を言う。
①「くっ。このスピードでは地上に叩きつけられるわ!!もっとスピードを落として」
⑱「無茶言うな!X砲が消えないかぎり減速どころか!コントロールもままならねぇよ!」
X砲は大気圏を通り、威力は衰えているが消えはしない。このまま押さえ込まれ、地上に叩きつけられればキングとてただではすまないだろう。
①「このスピードで行ったら3分後には地上に激突よ!」
⑱「うぅ。いちかばちかに出るしかねぇ!!フォースフィールド(シールド)にエネルギー100%つぎ込んでるが…50%に押さえて残りを原動機に注ぎ込む!!」
>> 46
①「でもそれじゃ…っ!!」
シールドのエネルギーを半分にし、原動機に回せば確かにブースター噴射により減速できるかもしれない。だが、100%の出力のフォースフィールドですらここまで押されたのだ。はたして、半分の力で耐えれるのだろうか。
⑱「どのみち、放っておいても粉々になるなら!最後に賭けといこうや!なぁ嬢ちゃん!」
①「ふッ。博打は好かないが…この状況だと一番いい選択かもね」
⑱「はッ!じゃあ、いくぜ!!!!」
ゴオォォォォォォ!!!
キングの揺れが増す。今にも空中分解しそうな揺れに立つことさえ困難になる。
耳を塞ぎなくなる騒音に耐えながら必死に周りのもの掴まるクリスたちを含み、数百万の乗組員(銀狼)たちの殆どが死を覚悟したことだろう。
神に祈る者。
泣き叫ぶ者。
気絶する者。
逃げようとする者。
様々な思いとともにキングは地上に墜落した・・・
>> 47
おそらく、黒の惑星を飛び越え、宇宙空間まで轟いただろう轟音を上げ、キングは墜落した。
小惑星規模のキングが墜落した衝撃は想像を絶するもので、黒の惑星の2分の1渡っての巨大なクレーターができている。
しかし、大量の砂ぼこり舞い墜落したキングの様子は伺えない。
⑱「くっ…生きてるか…っ」
頭を抱えながらドグロは立ち上がった。そして、心臓部のこの部屋を見渡す。損傷らしい損傷は見当たらない。
キングは生命体だ。それも強い生命力をもつ船なのだ。心臓部さえ無傷ならどんな損傷でも一週間で完治してしまう。
ミスチル「お二人ともご無事ですか!?」
①「あぁ」
③「えぇ。ありがとう」
クリスとセレナも手を借りて置き上がる。あれほどの衝撃だったにも関わらず、どこにも怪我はしていない。
⑱「礼を言わなくてはな。そこの魔法使いに」
ドグロは割れた黒眼鏡を捨て、新たに同じ黒眼鏡をかけ直すとラ・ドルを見る。
ラ・ドル「いえいえ。お礼などいりませんよ」
⑪「ラ・ドルが墜落する前に魔法で僕たちの身体を保護してくれたんだよ!」
>> 48
③「ありがとう。ラ・ドル。貴方が助けてくれなかったら死んでいました」
ラ・ドル「ふふ。彼女ほどではないが…お美しく貴方を死なせるわけにはいきませんよ」
心臓部の内壁はキングの視界を正常に映し出しているが、砂嵐以外は何も確認できない。
ミスチル「ドグロ様。我々は助かりましたが…」
⑱「……」
ここにいる6人はラ・ドルの保護魔法で助かったが、他のキングに乗る数多くの銀狼はどうなったのだろうか。あの衝撃の中、銀狼と言えど無傷ではすまないはずだ。
③「見にいきましょう!怪我人もいるはずです!」
ミスチル「はっ」
心臓部から出ようとクリスたちが出口に向かおうとした時、扉が開く。
⑤セロ「皆、無事か!?」
デビル「おいらは無事だけどね」
宇宙海賊艦隊を収納後に凱たちと合流するため、心臓部から出ていったセロたちが入ってきた。
⑦凱「おっ!元気そうじゃねぇか。慌ててきて損したぜ」
その後に続き凱もやってきた。
①「皆!無事でよかった…でもどうやってあの衝撃を…」
⑦「あぁ。なんかよぅフワフワした光が身体を覆って守ってくれてな」
>> 49
③セレナ「他の人たちは?」
②ハーク「心配いらんよ」
キックに支えられながらハークも心臓部にやってきた。だが、表情に精気がなくやつれており、今にも倒れそうである。
①「ハーク様。一体どうなされたんです!!」
クリス・セレナは慌てて、ハークに駆け寄り手を貸す。
ラ・ドル「師匠!ここにお座り下さい!直ぐに癒しの魔法を…!!」
ラ・ドルが魔法で出した椅子にハークを座らせると
⑭キック「ハーク殿は墜落の衝撃からこの船の乗組員全員を守って下さったんだ…その時、大量魔力を使われてしまった」
キックはこうなってしまった経緯を話した。
ミスチル「数百万人をあの衝撃から守られるとは…流石は大賢者です」
レッガ「だが!その代償は大きい。ハーク殿は休養が必要だ…だが、敵は目の前…連合軍の将軍と渡り会えるのはハーク殿しかいないのに…言葉を慎めミスチル!」
ミスチル「すまん」
レッガ隊長も数人の戦闘員を連れ少し遅れて心臓部にやってくる。
③「ラ・ドル!ハークは大丈夫なの!!」
①「セレナ!邪魔しちゃだめだ!彼に任せておこう!」
泣きながらラ・ドルに詰めよるセレナをクリスは止める。
>> 50
ラ・ドル「ぎりぎりか…これなら大丈夫そうだ」
呼吸が乱れたハーク の胸に杖を当て、呪文を唱える。
②「手間をとらせてすまんのぅ」
ラ・ドル「何をおっしゃる。少しの間お休み下さい」
すると表情は急に穏やかなり、瞼がゆっくりと下がっていくとハークは眠りについた。
⑱「どうやら己の限界は越えていないようだな。流石はハーク殿か…」
魔法使いは己の器(魔力)に応じた力しか使うことが出来ない。だが、時として己の器を超え力を使うことがある。器を超えた力を使い続け限界を超えればマリーンのように再起不能となってしまうのだ。だが、今回のハークの場合は限界寸前であったようだ。
ラ・ドル「数時間もすれば魔力も戻り目を覚まされると思います」
セレナ「良かった」
その言葉を聞き、皆が安堵する。
しかし
それも束の間であった。
ドガアァァァァァン!!!
⑦「なんだ!?」
連鎖的に爆発が起こり、そして、白仮面を被った剣士が現れた。黒いボディスーツを身につけ、その下には鍛え抜かれた筋肉のラインが描かれている。
軍義「死んでもらうぞ」
剣士は骨のような白い剣を抜き、姿を消す。
>> 51
⑦凱「くるぞ!!気をつけろ!!」
凱も剣を抜き構える。
凱ですら先程の剣士の動きについていけず、見失った剣士を必死に探す。
ミスチル「敵襲!!」
叫ぶミスチルの背後に
軍義「私の高速移動についてこれるか」
ミスチル「な!?」
反応すらできないほど高速で放たれた剣撃を受け、ミスチルは血潮を出し吹き飛ばされた。
レッガ「うおおぉ!!貴様ぁ!!」
ミスチルを襲った剣士にレッガは技を繰り出す。だが、簡単に避けられると
軍義「その身体はお飾りのようだな」
剣撃を放ち、巨体のレッガを軽々と吹き飛ばす。スピードだけではなく威力も申し分ない剣撃のようだ。
⑱ドグロ「な…銀狼族のナンバー2を秒殺だと!?」
血を流し倒れているミスチル・レッガにセレナが駆けより、回復呪文を唱える。
軍義「ふん。無駄なことを」
①クリス「えらく余裕だな!」
軍義「うぬ!?」
風を纏わせ、突き出された剣を剣士はなんとか避けると追撃で繰り出されたクリスの剣を受け止める。
①「かわすのは止めたのか?」
軍義「くうう。生意気な女め!!」
交差する二人の剣からは凄まじいオーラが溢れ出ていく。
>> 52
⑱ドグロ「単身乗り込んでくるとは…」
黒マントを靡かせ、銃を剣士に向ける。
⑭キック「私たちもなめられたものだ」
⑦凱「大戦前の準備運動のお相手にリードがよこしてくれたのか?」
⑤セロ「今の俺は最強だぞ」
剣士はクリスの剣を振り払い、距離をあける。そして、剣を下げ、周りを取り囲むクリスたちを見渡す。仮面を被っているので剣士の表情は分からないが追い詰められた者の態度ではない。
⑪リオ「ラ・ドル!やっちゃってよ!」
ラ・ドル「はぁ…頑張りますね」
敵は一人。ここにはクリスたちを含め、嵐の賢者であるラ・ドル、銀狼の長ドグロもいるのだ。剣士に勝目はない。
軍義「お前たちここにいてもいいのか」
⑦凱「なんだと?」
ドガアァァァァァン!!
先程のような爆発があちこちで起こっているのが聞こえてくる。
⑭「新手か…くそ」
キックは慌てて、心臓部から飛び出していった。
軍義「ふふ」
剣士はまた消える。このメンバーで動きを追えているのはクリスかドグロくらいだろう。
①「ここは私に任せて皆は他の奴らをお願い!」
⑤「分かった。いくぞ、デビル!」
⑦「ちっ。しゃあねぇな!」
>> 53
軍義「私はターゲット以外は殺さぬ趣味でな。安心するがよい…女(おなご)よ」
剣士は白仮面に手をかけ、不気味な笑い声を上げる。
①「連合軍は数で圧倒的してるにも関わらず…奇襲を仕掛けてくるとは余程の臆病者の集まりだな」
クリスは怯むことなく、剣士に攻め寄っていく。
軍義「ふん。臆病者ほど戦いの中で生きぬくことができるものよ。お前のような命知らずの馬鹿…力の差も分からず、私に向かってくるとは!!身の程を知れ!!」
剣士が繰り出した剣をクリスは紙一重で避ける。冷や汗が自然と滴り落ちるクリスの表情には余裕はない。
軍義「私の速度についてこれるかッ!!」
クリス「くっ!!」
高速で繰り出される無数の剣撃にクリスは後退りしていく。スピードだけでなく剣術すらクリスの上をいっている。
>> 54
軍義「それ!!いった!!」
凄まじい速さで突き出された剣はクリスの髪、数本を切り落とし宙を斬り裂く。
軍義「ほほぅ。中々…」
①「なめるな!!と言っただろ!!」
身を翻し、回転した勢いで反撃に転じたクリスの剣を軽々と剣士は受け止める。
⑱ドグロ「下がってろ!俺様が殺ってやるよ!」
後少しで、追い詰められようとしていたクリスに助け船を出すように間に割って入ってきたドグロは肉体を変化させ、数秒で狼人間へと変化する。
軍義「獲物から向かってくるとは有難い」
⑱「兎でも狩りにきたつもりか!?俺様は狼だぜ」
鋭い爪を携えた太い腕を振るう。剣士のスピードに引きを取らない速さで放たれた打撃を受け、剣士は大きく後ろへ吹き飛ばされる。
軍義「ふん。えらくでかい鼠だ」
だが、ドグロの一撃をいなし、ダメージは負っていない。
⑱「俺様もなめられたもんだ」
生々しい牙を剥き出しにし、軋む筋肉を震わせ、身の毛を逆立たせる。
軍義「獣め」
体格差だけで言えば3倍以上ある狼人間化したドグロに剣士は怯む様子はない。
>> 55
⑱ドグロ「我狼拳!!」
強靭な肉体から放たれる幾多の攻撃を剣士は何事もないように避けていく。
軍義「力が強くても当たらねば意味がないぞ」
⑱「風脚!!」
回転し放つ強烈な蹴りは身を低くした剣士の真上を通る。
表情をひきつるドグロに対し剣士は仮面の下に意味深な笑みを浮かべる。
軍義「秘剣、神風」
剣を胸に当て、向かってくるドグロに剣を突き出す。
⑱「なっ!!」
凄まじい速さで繰り出された突きから放たれた強大なオーラはドグロの肉体を軽々と貫く。
軍義「貴様らは《我ら》には勝てん」
⑱「人間離れした…その動き…ま・さ・か…お前は…」
片言にそう言うと血を流している腹部を押さえ、ドグロは倒れる。
そして、緩やかな変化で狼人間から銀狼の姿へ戻り、意識を失う。
軍義「さぁ。あとはゴミ掃除だけ」
剣士は血のついた白剣を振り、血を飛ばすとクリスに目線を移す。
①「……」
ドグロすら秒殺。
③「そんな…」
圧倒的、力の前に…
リオ「……」
皆が声を失う。
だが、クリスだけは別の意味で声を失っていた。
剣士の技が自分の剣術のそれと瓜二つまったく同じだったのだ・・・
>> 56
①クリス「お前は何者なんだ…」
父に教わった《神剣》。
世界で扱えるのは兄以外はいないはずだ。
だが、目の前の剣士はそれを完璧なまでに扱っているではないか。
軍義「ふっふふ」
剣士は仮面に手をかける。
①「!?」
そして、仮面を放り投げる。
仮面の下に隠されていた剣士の素顔は無機質な配線が入れ組み、赤いランプが鈍く光っていた。
①「機械人間か」
軍義「さよう。だが…貴様らが言う機械ではない我は新たな生命体である」
従来のロボットとは根本から違う。
人に偽られ作られたロボット。
人に近づこうとしてきた機械たち。
だが、目の前の機械は違う。
人間と言う目標すら超え、その先を目指している。
私たちが言う機械とは異なる新たな機械たち。
軍義「か弱い物質の集まりである貴様ら生物が我らには勝てぬ!勝てぬ!」
剣士の肉体は変化し人とは駆け離れる姿へと変わっていく。
⑫リオ「なッ…なんなんだよコイツ」
ラ・ドル「世界には私の知らないことがまだまだありそうですね」
ドドドドドドッ
>> 57
「人間は我には勝てぬ。この船ごと闇に葬ってやるわ!!」
触手のように剣士の身体からは配線が無数に飛び出し、その場にいるクリスたちを一斉に襲う。
ラ・ドル「リオ!師匠を頼みます!」
⑫リオ「分かった!任せといてぇ」
向かってくる鋭い先端の配線の群れから鉄を変化させリオは壁を作る。そして、気絶しているハークをその後ろに運んだ。
ミスチル「く…セレナ姫…お世話をおかけしました」
③セレナ「お礼はまた今度!それより、レッガさんとドグロさんを助けないと!!」
癒しの魔法で傷ついたミスチルを完治させるとセレナは防御魔法を唱え、濁流のように迫ってくる配線束を防ぐ。
①クリス「こいつ…どう言うつもりだ!」
襲ってくる配線を斬り刻み、華麗な身のこなしで攻撃を回避していく。明らかに剣士であった時の攻撃からしたら生ぬるい。
ラ・ドル「クリス殿!奴の狙いは我々ではありません!」
そんなクリスの脇にラ・ドルが駆け寄ってきた。そして、キングの中心部であるこの部屋の内壁に配線が突き刺さっているのを指さす。
①「まさか」
ラ・ドル「奴はキングが狙いです!!」
>> 58
一方、銀狼の街では爆発の後、両方の激しい戦闘が始まっていた。
チカチカ
⑦凱「んっ!?」
ガギィーン
⑦「おっと。」
凱と同じ黒装束の上に漆黒の鎧を身に着けている目の部分だけ開いている黒い面を被った戦闘集団が津波のように押し寄せて来ている中、凱・セロ・デビルと銀狼の屈強の戦士が闘う。近くのライトが点いたり消えたりと点滅する。然し、キングの中枢を軍義が配線を使って攻撃している事までは知らない。
デビル「お腹減った~っ…コイツらのせいで全然食べられないじゃないか!プン!!」
ズサササッ
「ぐあ~っ」
「うぐっ」
「いぎっ」
全身の黒い体毛を硬化させウニのように成り敵の鎧ごと貫く。
ドシュドシュ
⑤セロ「ハア~然し、これじゃキリがない…。」
魔弾が撃てる黄金の魔法銃で壁に隠れながら応戦する。
⑦「デビル、退けてな。てぇめぇら、逝っちまいな!ガイ・ブレイド!!」
初めの数人は倒したものの相手もよりすぐりの連中死をも恐れず向かって来る。
>> 59
凱等が居る隣の区間ではキックが紫色のオーラを発し闘っていた。
⑭キック「こいつ等は、そうとう強いぞ。むんっ!」
ギチッ
三人がかりの敵兵の剣を竜剣で受け止めると、跳ね返し横に剣を凪いだ。
そこへ背後から襲いかかってくる。
「お前達をやれば、一生遊んで暮らせる賞金を貰える!俺の為に死んでくれ!」
ズバッ
⑭「うっ…」
かわしたつもりが背中を少し斬られキックは目をしかめた。
すると急に濃い霧が立ち込めキックの分身が沢山出来始めた。
「斬っても斬っても斬れねぇ!?」
この区間だけ霧に包まれた敵兵は混乱する。
ゆらっ
本体のキックに独りの人影が現れた。
⑭「むっ!」
シュキィーン
竜剣で切り裂く。が、斬れた筈がくっついた。
スモッグ「余り関わりたく無いのだが…余りにも多勢に無勢。助太刀しよう。」
そう言うと顎をさすりながら杖を掲げた。
>> 60
ブーン
ローブから何まで全身白一色でまとめている青白い顔をしたスモッグが二十人以上に分身する。
スモッグ「お主にさっき掛けた魔法はただの霧の幻影…これは、分身魔法全ての分身が我の意思を持って行動する高等魔法…」
どこからともなくスモッグの声が聞こえてくる。本体はどこにいるのかすら濃い霧の為に分からない。
⑭キック「流石は、霧の賢者様。助かります。」
スモッグ「ふん!礼を言う暇があったら戦え!」
⑭「怒号烈波あぁっ!!」
キックは頷くと竜剣を下に構え上に振り抜き技を繰り出した。
ズゴガガガッ
「うがっ!」
「ぶへっ」
「ぐう…」
衝撃波が敵兵を襲う。
スモッグ「我の力思い知れ!」
杖を掲げ呪文を唱える。
霧と霧を摩擦させ放電させる。
バリバリ バリバリ
敵兵の身に着けている漆黒の鎧はアンチマジックがかかっているにも関わらず、その上の魔力で抑え込まれ只の紙屑同然に兵士達は感電または燃え上がった。
>> 61
スモッグ「私という存在の前では全てが無力」
何処からともなくスモッグの分身が現れ、その数はもはや数え切れないほどになっていた。幾多のスモッグは黒装束の兵士を稲妻で貫いていく。
⑭「なんと頼もしい。流石はハーク殿の弟子だ」
⑦「ド派手にやりやがるな」
稲妻が霰(アラレ)のように辺りに降り注ぐ。その稲妻は赤い閃光となり、華麗に敵のみを襲っている。その強力な威力にも関わらず、キングには傷一つつけていない。
戦義「霧の賢者か…ピンタゴ星雲では1・2を争う魔法使い」
稲妻の魔法にも怯むことなく、移動魔法で次々に現れる黒装束の兵士団、そんな混乱とする中、兵士団とは別格のオーラを放つ剣士が舞い降りる。白仮面を被った剣士、先程の中心部での剣士と瓜二つである。
⑤「出やがった。ボスのお出ましだ」
デビル「アイツ食っても美味しそうじゃないぃ」
黒装束の兵士団は銀狼の戦闘員とスモッグが引き付け、凱・キック・セロ・デビルの四人は現れた剣士を取り囲む。
戦義「貴様らの顔に死相が見えるぞ」
⑦凱「俺にはそんなん関係ねぇよ!!」
戦義「笑止」
>> 62
交差する剣。
⑦「ぐっ」
凄まじいGを受け、剣は弾かれ凱もろとも吹き飛ばされる。
⑦「しゃらくせぇ!キック!ちょっと手伝ってくれ!」
⑭「んッ…私は運び屋じゃないんだぞ。まったく」
凱は直ぐ様、体勢を整え、高く飛び上がった。キックもまた羽を広げ、飛び上がり凱を掴む。
⑭キック「行くぞ」
⑦「ああ!」
直角に急上昇したキックは今度は一気に急降下した。そして、剣士に向け凱を放り投げた。
戦義「こしゃくな」
⑦「メテオショット!!」
金色に輝くオーラを纏い、隕石のごとく敵を呑み込む。
ゴオオォォォォォ!!!!!
⑦凱「やった…か」
戦義「ぐっ…我が鋼鉄の肉体を斬り裂くとは」
凱の技を受け、剣士の身体は二つ割れている。だが、剣士は何事もないように喋っているのだ。
⑤セロ「コイツ!ロボットかよ」
剣士の身体から配線が生物のように蠢(ウゴメ)き出し、裂かれた身体が結合していく。
⑭「再生能力もお持ちときたか…」
⑦「再生能力には慣れてるぜ!」
戦義「我らには勝てぬ!我らこそが究極の生命体!」
>> 63
⑦凱「キック、セロ、デビル!幾ら強いと言っても必ずどこかに弱点がある筈だ!」
⑭キック「行くぞ!竜人剣一閃…」
チャキ
紫のオーラを溜め居合いの構えをとる。
⑤セロ「魔弾速射砲をお見舞いしてやる。」
黄金に輝く銃を戦義に向けトリガーをひいた。
デビル「魔毛針!!」
体中の毛が硬化し指程の針に覆われシュンシュンと相手に飛び出して行く。
⑦「三重残像剣…ガイ・ブレイド!!」
ブーン
三人に分身すると漆黒の鎧に青白いオーラ溜め技を放った。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
四人同時の威力は凄まじく近くの建物は吹き飛び土煙りが巻き起こる。
ゴゴゴゴ……
デビル「やった!食べ物、食べ物。」
ゆらり
その煙りの中から何事も無かったかのようにゆっくり歩いてくる。
⑭「!?」
⑦「何だと!?」
戦義「お前等はこの私に何をやっても、無駄!無駄!無駄!!」
⑤「そんな、馬鹿な…」
シュルシュルシュル
戦義の体中傷付いた箇所を配線が修復していく。
戦義「風よ…」
体が風に包まれ素早い剣撃を繰り出す。
ガキィーン
⑭「ウグッ…この技はクリスの…」
頭部ギリギリ竜剣で相手の剣で受け止めた。
- << 68 戦義「貴様らは我が剣の餌食となろう」 ⑭キック「なんて…ッ!力だ!」 徐々に凄まじい剣圧に押されていくキックを助けるように戦義を火炎弾が襲う。 戦義「か弱き者たちよ…束になろうと我らには敵わぬぞ」 なんなく避けてみせた戦義の身体は青白い風のオーラに包まれている。 ⑤セロ「こいつ、クリスの技を使ってる…何者なんだ」 ⑦凱「へっ。何者だろうと倒すだけだぜ」 ドガアァァァン!!! ⑭「なんだ!!」 背後から黒煙とともに漆黒の鎧部隊がぞろぞろとやってくると、一斉に銃を構える。見たこともない銃、だが、その銃には見慣れた《赤い十字架》のマークが刻まれていた。 ④バジリス「諸君、お元気かな?」 部隊が道を開け、バジリスが悠々と凱たちの前に現れた。 ⑤「お前は!!」 黄金銃を向けるセロに対し ④「まぁそう牙を向けるな。お互い文明人だ…ここは話合いで片をつけようではないか」 バジリスは右手を下ろすと同時に漆黒の鎧部隊は一斉に銃を下ろした。 ⑦凱「てめぇと一体どんな話ができるんだろうな!!」 ④「ふふ」
>> 64
キング心臓部…
ゴガァン
①クリス「ぐっ…しまった。」
キングの心臓部が爆発を起こした為、クリスは左腕で顔を覆った。
軍義「ふっふっふっ。もう少しでキングの中枢に浸食出来る。」
ラ・ドル「そうは、いきません!」
杖の先に乗っているドクロの彼女を優しく撫でながら呪文を唱え始めた。
「…サイクロン!!」
ピカッ
ドクロが虹色に輝きを放つと軍義だけ激しい雷が轟く竜巻の渦の中に閉じ込める。
グゴォオォォォ…
軍義「これ位、大したことない。」
キングの中枢に伸びかけている配線が千切れるが、直ぐまた違う配線が体から出てくる。
⑪リオ「これでも喰らえ!避雷針!!」
仲間を守っていたリオも参戦し腰にぶら下げている、拳大の鉄球を軍義の頭上に投げつけ印をかける。
すると、長く縦に伸び軍義の頭に突き刺さった。
軍義「ぐっ…だが、こんなもの抜いてしまえば、ただの棒だ。」
そう言った瞬間ラ・ドルは「スパーク!!」と呪文を唱えていた。
ビガッ!!バリバリバリ
軍義「何のこれしき…ウッ…体がおかしい…」
凄まじく太い稲妻が軍義の体を貫いた。
>> 65
軍義「制御回路…ガ…やら…レ…たか」
配線群と化していた軍義は中心部の内壁から剥がれ落ち、力なく床を這えずる。
⑫リオ「必殺・鉄檻」
空かさず、鉄球を変化させ、鉄格子を錬金し敵の動きを封じる。
①クリス「あきらめろ。お前の負けだ」
それでも逃げようとする配線群、奇怪なソレにクリスは言う。
軍義「コノ…身体…では…不足…我の…新の力見せて…ヤル…わ」
片言の言葉を残し、動かなくなる。
ラ・ドル「終わりましたね」
①「本当に…終わったならいいんだが」
力尽きた敵を前にしてもクリスは複雑な思いであった。
③セレナ「クリス。大丈夫?」
①「あぁ。私より、彼を…」
痛む身体を押さえ、傷ついたドグロを指さすクリスに回復魔法を唱え、セレナは微笑む。
③「無理しないで。私はこれぐらいしかできないんだから」
①「ありがとう。セレナ」
>> 66
④「回復魔法を…」
⑱「俺様はいい。それより、直に連合軍がここ(黒の惑星)に押し寄せてくる。」
回復魔法を断るとドグロは黒眼鏡の位置を直しながら中心に位置する操縦席に座る。
ミスチル「姫。ご好意には感謝します。ドグロ様はああ言う方ですから気にはなされませんように」
④セレナ「はい。お気をつかわないで下さいミスチルさん」
中心部に再び、外の映像が表示される。キングの機能が回復していっているようである。
⑱「レッガ…状況を報告しろ」
レッガ「はっ。キング全ブロック地区に漆黒の鎧を纏った侵入者確認、戦闘員が交戦中…」
映像を確認しながらレッガは状況を冷静に告知する。
そして、それに続き
ミスチル「おそらく…敵の狙いはキングに格納した戦艦を出させないため、奇襲部隊を仕掛けてきたかと」
ミスチルが敵の策略を言う…
⑱ドグロ「まとめて殺るってわけか…戦艦を出せるだけ、出撃させ…砂漠の中へ身を隠すように伝えろ!」
レッガ「はっ!!」
>> 64
⑦凱「キック、セロ、デビル!幾ら強いと言っても必ずどこかに弱点がある筈だ!」
⑭キック「行くぞ!竜人剣一閃…」
チャキ
紫のオーラを溜め居…
戦義「貴様らは我が剣の餌食となろう」
⑭キック「なんて…ッ!力だ!」
徐々に凄まじい剣圧に押されていくキックを助けるように戦義を火炎弾が襲う。
戦義「か弱き者たちよ…束になろうと我らには敵わぬぞ」
なんなく避けてみせた戦義の身体は青白い風のオーラに包まれている。
⑤セロ「こいつ、クリスの技を使ってる…何者なんだ」
⑦凱「へっ。何者だろうと倒すだけだぜ」
ドガアァァァン!!!
⑭「なんだ!!」
背後から黒煙とともに漆黒の鎧部隊がぞろぞろとやってくると、一斉に銃を構える。見たこともない銃、だが、その銃には見慣れた《赤い十字架》のマークが刻まれていた。
④バジリス「諸君、お元気かな?」
部隊が道を開け、バジリスが悠々と凱たちの前に現れた。
⑤「お前は!!」
黄金銃を向けるセロに対し
④「まぁそう牙を向けるな。お互い文明人だ…ここは話合いで片をつけようではないか」
バジリスは右手を下ろすと同時に漆黒の鎧部隊は一斉に銃を下ろした。
⑦凱「てめぇと一体どんな話ができるんだろうな!!」
④「ふふ」
>> 68
⑦「ガイブレイド!」
④バジリス「野蛮人め…」
躊躇もなく、凱はバジリスへ突進していく。
眩い閃光が辺りを包む・・・
⑦「な…誰だてめぇは…」
凱の剣はバジリスを捉える前に止まっていた。
いや、止められた。
⑦「くっ!びっくともしねぇ…ッ」
しかも、片手、素手で簡単に止められた。
グレー「名はグレー。協会クラスT(テラ)、魔科だ。君は確か…凱だったな」
銀色の鎧、多種の魔科具を身につけた白髪の男がバジリスとの間に割って入ってきたのだ。
⑭キック「凱!離れろ!そいつは前の奴らと同じだぞ」
⑦「くっ」
後方に飛び、距離を開けた凱は剣を構え、臨戦体勢をとる。
グレー「正しい判断だ」
④バジリス「では話合いといこうか?」
スモッグ「話合いなどする義理はない」
白いマントを翻し、天井から舞い降りた一人の魔法使いは冷たい眼でバジリスを睨み付ける。
④「これはこれは…名高い霧の賢者殿」
スモッグ「協会の最終兵器、魔科(マカ)を十名とは…協会も本腰なわけか」
そう言われ、グレーはため息をつく。すると凱たちの周りに突然、魔科が9人現れる。
>> 69
⑭「どこから!?気配はまったくなかったぞ…」
⑤「どうせ、十八番の魔科具だろうよ」
デビル「ふんふん」
周りを囲む魔科(マカ)たちを警戒しながら見渡す。
精気を感じない冷たい眼、汚れのない銀白色の鎧。
協会最強の兵器。
生きた死神たちだ。
④「貴方も大変だ…銀狼たちも守りながら我らを相手にしなければならないとは」
スモッグ「私は今…」
スモッグは凱の耳元で囁く・・・
スモッグ「258人になっている。今の分散した力では…魔科相手に十分に闘えぬ。貴様が奴らを倒せ、私が直々に援護してやる」
⑦凱「ふん。つまりは自分たちでどうにかしろってわざわざ言いにきてくれたわけか」
スモッグ「ふふふ…」
凱たちは各々の武器を構えた。
バジリスを含む、漆黒の鎧部隊。
魔科10人。
⑦「圧倒的に不利な状況にはなれっこだぜ!!」
グレー「君たちは選択肢を謝ったな。不正解だ」
>> 70
⑦凱「くらいやがれ、爆剣阿修羅斬り!!」
グレー「軽いわ」
激しく交差する両者の剣、そして激しい爆発が起こる。
⑦「協会の狙いはなんだ」
シュウゥゥゥゥ…
グレー「死ぬ者に教えたところで…冥土には役に立つまい」
うなりながら青く輝く機械剣を片手にグレーは魔科具を手にとり宙に放り投げる。
グレー「最先端の科学の結晶こそ我ら魔科(マカ)。お前ごときが私には勝てぬ」
投げられた魔科具は分裂し、鋭い刃先を持った無数の物体へと変化する。
⑦「俺をなめると痛いめにあうぜ」
グレー「ゆけ!!」
合図とともに魔科具は一斉に凱へと襲いかかる。
⑭キック「凱!!」
「他人の心配をしてる暇があるのか?」
魔科(マカ)の猛攻を受けながらキックは周りを見渡す。
グレーの攻撃に防戦一方な凱。
複数の魔科(マカ)を相手に徐々に押されていくセロ。
デビル・スモッグは漆黒鎧部隊を防ぐのに手一杯。
仲間いつやられてもおかしくないこの状況、だが、手助けしようにもキックも魔科(マカ)数人相手に闘いを強いられている。
>> 71
『今こそ…竜剣の新の力を目覚めさせる時』
⑭「竜王様!?」
鼓動する竜剣から竜王の声が響く。
⑭「しかし…私には竜剣を扱う力はまだありません」
『教えたであろう…竜剣は剣であって剣であらず…解放するのだ…内なる力を…』
⑭「竜王…」
『すでに時は満ちたお前は私を超える器だ…我が子よ…その力…見せてみよ…そして…仲間を救え…世界を救え…竜族の誇りを見せよ』
⑭「力の解放…」
竜剣は今までになく輝き、キックの身体も光に包まれていく・・・
目覚める時。
「なッ…」
キック同様、魔科(マカ)たちも光に包まれていく。
スモッグ「これは…稀有な…ふふ」
凱「なんだ」
辺り一帯は光に包まれてゆき、闘いが一瞬だけ静寂になった。
⑭『力の解放とはこう言うことだったのか…』
光が収まった時には
竜剣のような牙を幾多も携えた
巨大な黄金の竜となったキックがいた。
「バカな…捕獲魔科を使え」
「なっ…」
キックの鋭い牙に咬まれ、魔科二人が一瞬にして絶命する。
⑭『力がみなぎってくる!!ウオオオオォォォ!!!』
竜の咆哮は止むことなくキングに響いた・・・
>> 72
⑱「俺様はキングの復旧に全力を注ぐ…あとは任せるぞ」
ミスチル「はっ!指揮は私が、連合軍など恐れるに足りません」
レッガ「では、俺は部隊を率いて闘いに出る」
地鳴りのような音が響く。キングに再び、エネルギーが満ちてゆくのが分かる。
③セレナ「私たちも行きましょう」
①クリス「あぁ。キングが復帰するまで連合軍を防がないと」
⑪リオ「戦闘機の操縦は任せといて!!」
ラ・ドル「感じます…強大な敵の魔力を…おお…な…師匠よりも…」
砂に半身が埋もれたキングから戦艦が次々に出撃していく。
キング船内では連合軍の奇襲部隊との闘いが今だ沈静化されていない中、軍備を整えるのは安易なことではなかった。だが、なんとか戦艦を配備することが出来ていた。これもミスチルとレッガコンビの統率力のたわものだろう。
①「セレナ、闘いが始まったらもう後戻りはできない…今ならまだキングの中に…」
③「いえ、私もクリスと一緒に闘います」
クリスとセレナは砂に身を潜め、宇宙海賊の地上部隊を率い近づく連合軍を待ち受けていた。
周りには多くの銀狼、戦艦が砂に身を潜めている…
>> 73
ゴオオオオオオ…
③セレナ「急に空が…」
慌ただしく部隊が配置についていく中、辺りが急に暗くなる。
①クリス「これは…」
空を見やげるが、雲一つない。だが、太陽は顔を隠してしまっている。
『世界を埋め尽くす…希望の光すら地上には届かぬ。永遠の闇こそ、新の安住。空をも埋め尽くす、連合軍がやってきたのだよ』
何処からともなく声が響く・・・
③「この声は!!」
④バジリス「姫、お迎えに上がりました。ドイス閣下からの招待状を承っています」
①「貴様は!!」
砂の中から突如、漆黒の鎧兵が無数に現れる。クリスはもちろん、周りにいる銀狼も思わぬ敵襲に慌てて武器を構えた。
③「のこのこよくも顔が出せたものですね、バジリス」
④「姫。冷たいですな。私は貴方の身をあんじて、闘いの前にお助けしようと…ぬ!!」
①「ドイスにはお前の首を送り返してやるよ!」
一瞬にして距離を縮めたクリスは剣を振る。しかし、バジリスは軽々とその機械手で受け止めた。
④「女!昔の私と思わぬことだ!今の私には勝てぬ」
①「ふん。相変わらず口は達者だな」
④「くぅ。コイツは任せよ…お前たち姫を確保せよ!!」
漆黒兵「はっ」
>> 74
③「火の精霊よ…」
セレナは片手を掲げ長い呪文を唱え始めた。
同じくラ・ドルも彼女のドクロを撫でた後、「嵐の精霊よ…」と呪文を唱え杖を掲げた。
「無防備過ぎるよ、お姫様!」
数人の漆黒兵がセレナに襲い掛かる。
⑪「鉄壁!!」
リオは腰から下げているホルダーから鉄球を3個取るとセレナの前に投げつけた。
ズン
ズン
ズン
「ぐぼっ…」
「げぇぶぁ…」
壁が砂場から空に向かい、せり上がり漆黒兵に直撃する。
その間にセレナの手の上にスイカぐらいの火炎弾が出来上がる。
③「ラ・ドル!!」
セレナは合図した。ラ・ドルはセレナの火炎弾に合わせ雷槍を放った。
「ふん!アンチマジックがかかっている鎧に通用するものか!!」
更に数十人の漆黒兵が走って近づいて来る。
『コロナ・クレイジー』
2人は二つの魔法を融合させ敵の真上で爆発させた。
太陽の荒れ狂うコロナのように凄まじくその場の漆黒兵は言葉すら与えられないまま黒炭化した。
ラ・ドル「あまりにも鎧を過信するからこうなるのです。ネッ!」
彼女のドクロにキスをした。
>> 75
①クリス「いぃや~っ!!」
ガキッン
踏み込んだ一撃をバジリスの黒光りした左腕で弾かれる。
④バジリス「ふっ腕が落ちたんじゃ無いのか。いや、私がパワーアップしてお前が弱くなったのか。」
右手でクリスの懐を掴むと地面に叩きつけた。
①「ぐっ…」
立ち上がり口から滴る血を左手で拭うと剣を構え直した。
そして、オーラを漲らせると風を纏いバジリスに向かった。
④「何をやっても無駄だ。」
①「神剣奥義…風林火山。」
残像が残る超高速で四種類の剣技を一気に叩き込んだ。
シュギーン
クリスはバジリスの後方にすり抜けた。
④「うぐっ…」
①「やったか。」
④「…
…
ぐはははははっ!!!」
バジリスは何事も無かった様に大声で笑い出した。
①「!?」
④「魔科具を取り入れサイボーグ化した私の体に歯が立つまい。」
振り返りざま左腕からビームキャノンを撃ちクリスの右肩を貫いた。
>> 76
①クリス「痛ッ…」
肩を射ぬかれ、流血する右肩を押さえながらクリスは膝をつく。そして、厳しい表情でバジリスを見入った。
④バジリス「ふふ。私の今の力は魔科(マカ)のTクラス以上…この新な肉体、なかなか」
バジリスの不適な笑い声が辺りに響く。空を覆う影は一層濃くなり、連合軍の魔の手が近づいてきているのを示していた。
①「自分の身体を改造してまで…力を欲するとはな」
④「我が肉体など…ドイス閣下の思考のためならどうなってもかまわぬ。私の望みはドイス閣下と同じなのだよ」
キャノン飽を再び、クリスに向ける。
①「哀れな男だ。悪に心までも支配されるなんてな」
④「闇の支配こそ、永久の安息、闇は全てを覆いつくし…あらゆる苦悩、不安すら隠してくれる」
①「お前の見ているもの、いや見せられているもの全てはドイスの作った虚無だ」
剣を握る手に力が戻る。世界のため、ドイスを倒すために目の前の敵には負けてはいられない。
④「ふふふ、実に愚かな女よ。闇の力には足掻らえねぞ」
①「来い!!」
>> 77
レッガ「全艦、来るぞ!!砲台準備!!」
バジリスの乱入に地上部隊が混乱する中、レッガ隊長率いる戦艦は視界についに入ってきた連合艦隊を見やげていた。
「隊長、地上部隊の指揮が乱れています!また…キングからの部隊が敵の奇襲部隊に妨害されこれ以上は出撃出来ぬとのこと!!」
レッガ「くっ…ミスチルの奴は中で何をやっとるんだ!とにかく!敵の空爆の前に地上部隊の混乱を収め、戦艦のシールド区域に入るように伝えろ!なんなら艦から兵を出してもいい!」
「イエッサ!!」
④「リオ!ラ・ドルさん!ここはお願い!私はクリスを…」
リオ「了解!」
リオは鞭のように鉄を自在にうねらせ、漆黒鎧兵をその強靭な鎧ごと粉砕する。
ラ・ドル「リオ!姫を援護しますよ!」
杖を掲げたラ・ドルから眩い閃光が放たれ辺りを照らす。強烈な閃光で目を眩ませ隙に漆黒鎧兵の間をセレナは抜け出す。
③「クリス!!」
肩から流血するクリスの元にセレナは駆けていく。
「姫を逃がすな!」
リオ「邪魔したらダメでしょ。必殺鉄壁!」
「なっ…」
後を追おうとする漆黒鎧兵の進行を巨大な鉄壁が妨害する。
>> 78
③「クリス!!」
そう叫びながらセレナは走る。そして、手に強く握られた銀色杖は強く輝き、青々と燃える業火を放った。
①「セレナ!!」
④バジリス「おやおや…姫自らお出ましとは手間が省けたわ」
背中に搭載したジェットエンジンを点火させ、バジリスは高く飛び上がり業火から逃れるとセレナとクリスを見下ろしながら言う。
①「セレナ。なんで来たの!!ここは私に任せて直ぐに近くの戦艦に避難して」
③「いえ、ヤツは私が目当てです。私が逃げていてはいけないの」
セレナは強い眼差しでクリスを見つめる。清く澄んだ綺麗な目であった。
①「まったく…困った姫様ね…」
二人は見つめ合い。笑いが起こる。
④「戦場で油断は禁物だぞ」
そんな二人に上空からキャノン砲の嵐が襲った。
③「大地よ。悪なる者を飲み込みたまえ」
セレナは肉体強化の呪文を唱え、バジリスの攻撃を華麗にかわしていく。クリスはオーラを高めながら機を伺っていた。
④「アンチマジックの鎧は破れませんぞ」
③「アンチマジックに過信過ぎるんじゃない?」
巨大な砂嵐がバジリスを飲み込む。
- << 122 《前回までのあらすじ》 宇宙海賊と政府軍は宇宙空間にて壮絶な戦闘を繰り広げていた。しかし、そこに突如、連合艦隊からのX砲が両軍を襲った。 X砲に政府軍が呑まれていく中、援軍としてやってきた超巨大戦艦キングに宇宙海賊艦隊はどうにか収納され、艦隊の壊滅はまのがれたと思ったが、X砲の膨大なエネルギーにキングは押され、黒の惑星へと叩きつけられてしまった。 なんとか、ドグロの機転によりキングに大きな被害ができることなく、また、ハークの力により、船員の人命に被害もなかった。 しかし、キングが再び飛び立つには時間がかかる。連合艦隊が迫ってくる中、事態は刻一刻を争っていた。 状況は更に悪化する。バジリス率いる漆黒鎧部隊がキングへ奇襲攻撃を仕掛けてきたのだ。協会の最強兵器、魔科、リード将軍の部下である軍義・戦義を含む奇襲部隊にクリスたちは苦戦を強いられていた・・・
>> 79
【若き魔法人】
教卓に立つ一人の青年は今年から城の教育係りに着任した魔法使いである。
青年の手が動く度に生徒たちの視線が一緒に動く。
太陽が天の真上に登るお昼時、陽日が教室に燦燦(サンサン)と入ってきていた。
青年は時には厳しく、また時には笑顔を見せながら熱心に黒板に字を描いていく。生徒たちはそれを自分のノートに写していく。
生徒は皆、幼き子供たちである。しかし、ただの子供ではない王族や軍幹部のそれ相応の身分の子供たち。将来、この国を背負う者たちばかりだ。
「魔法使いはなぜ杖を使うか分かるかい?」
だが、教える青年は平民生まれである。ダンテスティン城内にある、この教室とは思えない豪華な部屋に一人場違いな者がいるとしたら教師である彼であろう。
「分かりません」
青年の問いに生徒の一人答えた。子供とは思えない口調であった。
そんな貴族出の子たちの子供らしくない一面を青年は好きにはなれなかった。だが子供たちのために毎日、熱心に授業を行っていた。
「杖は魔法をコントロールするのに使うんだ。銃でいう照準器ってとこかな」
>> 80
【若き魔法人】
「では、先生は杖がないと魔法を使うことができないのですか?」
「いいや、こう見えても賢者の端くれだからね。杖がなくても魔法は使えるよ。杖はあくまでも補助的な役割でしかないよ」
照れ笑いしながら頭をかく青年に微かな笑いが起こる。いつも冷静な貴族出の生徒たちから笑いとる度に青年は心の中でガッツポーズを取るのであった。
「おっと…話が長引いたね。本日の授業はこれで終わります。明日も同時刻から開始します」
「ありがとうございました」
生徒たちは丁寧に頭を下げながら教室から出ていく。青年は最後の一人が教室から出ると、大きく深呼吸をし背筋を伸ばす。
「師匠は今頃なにしてるんだろうな。まだ山に籠ってるんだろうか…」
この教師である青年の名はハーク。若くして風の賢者の称号を持つ、お偉い魔法使い様ではあるが本人にその自覚はなかった。
闇の軍を率いた魔王を葬り、ダンテスティン国を闇から救った英雄の一人でもある。その功績をたたえられ、こうして城のお抱え魔法使いとして仕事についているのだが、ハークは直ぐにでも仕事を辞めて師匠ラブのもとに戻りたいと思っていた。
>> 81
【若き魔法人】
しかし、辞めたいと言って辞めれるような状態ではなかった。
魔王が滅び、国の実権は王に戻ったのだが闇に侵された王の身体は日に日に弱っていくばかりであった。そんな王から実権を奪おうとする輩が出初めたのだ。ダンテスティン国は小規模な内戦が多発し魔王の時代より治安が悪化しているのは隠せない事実であった。
そんな状態でもし王に万が一のことが起これば国は崩れ落ちることなど安易に想像がついた。
実をいうと今だに王が生きられえいるのは何を隠そうハークの癒しの魔法のお陰に他ならなかった。日々、ハークの懸命な治療がなければ王は既にこの世にはいないだろう。
「国王、失礼します」
ハークが城から離れると同時に王は死に国は滅びると言っても過言ではなかった。ハークには選択肢すらなく城で働くしかないのだ。
「ハーク。毎日すまないな」
王座に座る王は本当に申し訳なさそうに言った。歳はハークと同じぐらいだろうか。身体は痩せてはいるが、その黄金に輝く目に強い力がある。
「これが私の仕事ですので」
ハークが王の胸に杖を当て呪文を唱えると王の顔には精気が戻っていく。
>> 82
「ハークよ。国は荒れておるようだな」
「はい。しかし国王の身体が良くなれば自然と不安も取り除かれ、治安も落ちつくでしょう」
ハークは王の傍らに控え、王の次の言葉を待った。
「これを見よハーク」
王は長い沈黙の後、話を一変させあるものを取り出した。王の国を思う心は誰よりも強いことだろう。
国では毎日多くの者が戦で死んでいるのだ。
しかし、皮肉なことに国の治安を回復しようにも王は自ら動ける身体ではなく、全て人に頼るしかない。実働派の王にとってこれ程辛いことはなかったはずである。
「なんでしょう」
そんな王の気持を一番察していたのはハークであった。だからこそ、彼(王)のためにも闇を打ち払ってあげたい一心で治療を行っているのだ。
「ペンダントだ。だが、ただのペンダントではないがな」
「国家の紋章ですね」
王の手には黄金に輝くペンダントが握られていた。
「これは地下道への封印を解く鍵なのだ」
「なんですって?」
地下道。
その言葉を聞いた瞬間、ハークの脳裏に魔王が浮かんだ・・・
>> 83
【若き魔法人】
王はペンダントをハークに手渡す。それには左右を向いた二匹の鷹が描かれている。それはダンテスティン国に伝わる王家の紋章であった。
「地下道が大賢者によって封印されたのはお前も知っておろう」
「は…はい」
記憶はまだ真新しかった。
闇の根源である魔王の復活を恐れた魔法界は七人の大賢者をダンテスティン国に遣わし、地下道を封印したのだ。
七人の大賢者が唯一集結し行った大魔法である。
その余りの魔力に天は割れ、星は激しく揺れた。おそらくハークの生涯であれ以上の魔法を拝めることはないだろう。
その大魔法により、決して破れない結界に地下道は覆われ封印されたはずだ。
「地下道は本来王家の墓だ。いくら闇を根絶するためとは言え私の父母も眠る墓を封印するのには迷った。しかし地下道を封印することは国のため…また世界のためだ。私は承諾せざる得なかった。だが、条件を一つだけつけた封印をいつでも解けるようするようにと」
ハークは驚いた。
慎重な王が封印をいつでも解けるようにするなど考えられなかったからだ。ましてや魔王である。再び、力が解放されれば止める手段はないのだから。
>> 84
【若き魔法人】
ハークは心の中で舌打ちをした。
王家の人間は皆、山より高いプライドを持っている。世界で自分たちが一番偉くなければならないのだ。
魔法界の意向に従うことは王のプライドを深く傷つけたことだろう。そんな王にとって王家の墓の封印を解けるようすることは魔法界に対する単なる当て付けに過ぎなかった。
王は良き人格者ではあるが、根っからの王族である彼の心は何処か異形な部分があるのは確かだった。
「国王。それをどうするおつもりです?悪人に知れればいつ狙われることか」
「セリス王女に渡すのだ。王女にはペンダントの事には触れず、私からの贈り物と言え」
「しかし…」
躊躇するハークに王は怪訝な顔をした。
「この事は魔法界以外には私とお前しか知らぬ。安ずることはあるまい」
王の有無を言わせぬ口調にハークは何も言い返すことができなかった。王のこういった人を従わせる能力は神憑り的なものがある。
「では、頼んだぞ。風の賢者よ」
「はっ…」
ハークは深く頭を下げ、ペンダントを懐にしまうのであった。
>> 85
【若き魔法人】
ダンテスティン城は雲にも届くかと思うほど天高く聳え建っている。その石造りの城の重量感に圧倒される者、また魅いられる者は多い。
また、そんな城を羨ましいそうに眺める民も多かった。そんな民の夢は城に仕えることである。それほど城に住まう王族は民の憧れなのである。
人間族だけからなるこの星は生まれながらに階級が与えられ、差別国家と他星から言われるほど貴族と民の暮らしは天と地ほど違っていた。
「どうしたものか」
そんな民の憧れの城で働いているハークだが、王族や貴族のドロドロとした人間関係に心も身体も疲れきっていた。
城にはハークのように雇われの身の者が数多くいる。彼らはその才能買われ、多種多様の仕事についていた。
飯使いと言えど城で働く者はこの国のエリートなのだ。
ハークを言えば、お抱えの魔法使いとして、魔法大国であるダンテスティン国の魔法の発展に貢献するため、日々研究を行なっていた。教師はあくまでも副業に過ぎない。
>> 86
【若き魔法人】
お抱えの魔法使いたちは城にそれぞれ個人部屋が与えられる。部屋が城のどこに位置するかで、その者の地位が分かる。
ハークは最上階にある王の間の直ぐ真下に部屋があった。王の真下に住まう権利がある与えられているハークの地位がどれ程のもの想像できるはずだ。
トントン拍子に今の地位に登りつめたハークを他の魔法使いたちは良くは思っていなかった。
当然、陰口は叩かれ、嫌がらせまで受けることもあった。だが、それだけに止まらず暗殺者に寝込みを襲われることまであった。
地位と権力に無縁だったハークがそんな争いに巻き込まれているとは余程、神様も物好きのようである。
「えらく、真剣に悩んでいるじゃないか」
「勝手に人の部屋に入るとは相変わらずですね。ファ」
ハークは溜め息混じりに部屋にいた先客に言う。
「お子ちゃまも立派になったもんだな。くっくく」
そこにいたのは闇の賢者ファ。魔法軍討伐の英雄の一人であった。黒いローブに身を包んだ彼は謎多き人物である。一体いつもどこで何をしているのか、ハークは名前以外は彼の事を何一つ知らない。
>> 87
【若き魔法人】
「何しに来たんです?」
ペンダントの件で動揺していた心を落ち着かせ、フォに悟られまいと冷静に装う。
「お前、顔色悪いぞ?なにかあったのか?」
だが、フォはハークの心の揺らぎを感じとったのかそんなことを言った。腐っても鯛。賢者である彼なら人の心を読むなど容易いなことだろう。
「情報通の貴方なら知ってるでしょう。私はこの前、寝込みを襲われたんですよ。顔色も悪くなりますよ」
「そうだったな」
ファはどこか納得いかない様子である。ペンダントのことは微かでも感ずかれるわけにはいかない。知る者が増えれば情報はおのずと漏洩するからだ。
「まぁ、気にすることはねぇ。お前なら暗殺者ぐらいじゃ殺せねぇからな」
何秒か後、ファは笑いながら言った。それを見たハークは胸を撫で下ろす。
「城に仕えるのを断ってから姿を見ませんでしたが、なにをされてたんです?」
ハークはそんなことを口にしながらポットに入れられた暖かい紅茶をカップに注ぐ。
ファは物珍しそうに部屋にある書物に見入っている。
>> 88
【若き魔法人】
「世界観光とでも言っておこう。今まで他星に行けるのは賢者ぐらいのもんだったが、宇宙船とかいうカラクリで普通の人間でも他星に行けるようになった時代だ」
「宇宙船ですか。最近は技術も確立され飛行距離も伸びたらしいですからね。惑星と惑星間の移動も可能になったんでしょう」
紅茶の入ったカップをファに手渡しながら窓の外で飛ぶ、飛行船を見つめる。
魔法大国と呼ばれるダンテスティン国ですら時代は魔法から科学に変わりつつあった。
「今じゃ…魔法使いより、科学者になりたがる子供の方が多いしな。他星ではカラクリ人間が町中を歩いてやがるくらい世もかわっちまったぜ」
「カラクリ人間ですか。まだこの国では見ませんね」
ハークは椅子に腰を下ろすと自ら入れた紅茶を飲む。
この城にもお抱えの科学者たちが増えているのは気づいていたが、いつか魔法使いが用なしの時代がやってくるのだろうか。
「この国もDOISU計画とかいう訳の分からん実験があるぐらいだ。カラクリが町中を歩くのも近いかもしれん」
「DOISU計画?」
初めて聞く言葉にハークは首を傾げた。
>> 89
【若き魔法人】
「カラクリに知能を持たせる研究だ。その研究者の代表の名前がドイスで…DOISU計画」
「カラクリに知能を!?」
「おっと。こんな話をしに来たんじゃなかった。今夜、この城に反逆軍が攻め込んでくるぞ」
「なんだって」
ファはローブにくるまり、突然、呪文を唱え始めた。
机の上に置かれた水晶に反乱軍の姿が映し出されていく。
「なんて数だ。先頭にいるのはトルコ将軍じゃないか!!」
長髪の白髪。独特の卑しい目つきの男が反乱軍らしき兵士団に指示を出している。男はトケイ隊長の殉職を受け、新たな軍の体制を整え将軍となったトルコであった。
「強き国王だったからこそ、今まで従ってきた連中がついに旗揚げを計画したようだぜ。くっくく」
まるで人事のようにファは言う。彼がなぜこんなことを知っているのか、また、なぜハークにそれを教えるのか。
「城には《千里眼の賢者》のゴン殿が居られるはず、こんな大規模な反乱を見過ごすわけが…」
「ふん。奴も反乱軍の首謀者の一人だ」
「そんな…」
城の中でも王が絶大な信頼をおいているゴン殿が反乱を企てている。ハークが思う以上に国は危機的状況であった。
>> 90
【若き魔法人】
「国王軍にも内通者が多くいる。城の内部から陽動され、その隙に反乱軍が攻め込んでくれば…難攻不落のダンテスティン城と言えど一晩で落城されるぞ」
「すっ直ぐに王に…」
慌てて、王のもとに行こうするハークをファは止めた。
「待て。今さら言ったところで何もできはしねぇよ。反乱軍は準備万端、対して国王軍は戦える状態にすらねぇ」
そう言われてやっと冷静になった。今更、騒ぎを起こしても事態が早まるだけで、日が暮れるのをただ待つだけの反乱軍にとってなんら影響はないだろう。
「ならどうしろと」
「反乱軍は俺とお前でどうにかすんだ」
ハークは目を丸くしファを見た。
本気で言っているのか。
反乱軍は一人二人ではない。賢者と言えどたった二人で何ができるというのだろうか。
「反乱軍には千里眼の賢者ゴンがいる。こちらが下手に動けば察知されるだけだ。だが、二人なら感ずかれることはない」
「勝てる勝算はあるんですか。失敗すれば国が滅びるんですよ!!」
愛国心がないと思っていたファが反乱軍と戦うと言ったことにハークは疑いを向けていた。何が目的なのだろうか。
>> 91
【若き魔法人】
「勝算なんてねぇねぇ。くっくく」
ファは窓の外に映る平和な風景を見て鼻で笑った。夜になればここも火の海のなっているかもしれない。
「軽率過ぎますよ発言が…ファ、国がどうなってもいいのならなぜに貴方が戦うんです?」
その質問でファの表情から笑みが消え、蔑んだ目でハークを見てきた。
「お前には分かるまい。俺の苦労など!!魔法界は俺の実力を認めようとしないのだ!欠けた炎の大賢者にキメラとか言う若造を任命しやがって!」
ファは激しい口調で続ける。
「老いぼれ共が!世界に一番、貢献してるのは俺様だ!俺が大賢者になる資格がある!だが…魔法界は俺を認めない!!くそっ!!」
感情的に机を叩きながら充血した目を擦る。
「俺は機会を探していた。一日の大半を使い水晶を覗き込んで、やっとこの反乱軍のことを突き止めた。これを食い止めれば俺様は魔法界に認めてもらえるぞ!!」
これ程まで大賢者に執着している者は珍しい。ハークは己のためにこの危機を今の今まで見過ごしていたファに怒りを感じた。だが、あえて口に出すことはなく、怒りに震える無様なファを見つめた。
>> 92
【若き魔法人】
すべての話に合点がいった。
ファは日々、ダンテスティン星を監視しチャンスを狙っていた。そして、ついに反乱軍のことを突き止めたんだろう。
しかし、賢者といえ一人ではどうすることも出来なかった。そこで、無害なハークに話を持ちかけてきたのだろう。何故、ファが大賢者に憧れるのかは分からないが、並みならぬ思い入れがあるようだ。
「今晩だ。お前は城の陽動作戦を妨害しろ」
「ファはなにを」
「俺様は反乱軍の頭を潰す。そして、指揮系統を失った反乱軍を皆殺しだ…城の周辺には魔法布石を張っているからな。くっくく」
黒煙を上げ、断末魔の叫び声と共にファは姿を消した。
※魔法布石:あらかじめ、魔力を物に込めること。魔法発動の際はその魔力を使い魔法を放つ。発動範囲が断定されることや魔力を溜めるのに時間を要するが、魔法発動の際は己の魔力を消費しない。
「災難はまとめてやってくるようですね」
ペンダントを片手に今は平和である城を朧気に見つめるハークは安眠できる夜は当分こないなと心の中で笑った・・・
>> 93
【若き魔法人】
今宵は満月であった。
月明かりに照らされたダンテスティン城は神秘的な趣きであった。だが、閑静とした夜の影では闇に紛れて、不穏な動きを見せる者たちがいた。
その者たちは生々しい武器を片手に闇に身を隠していた。合図があればいつでも彼らは城へ攻め込んでくるだろう。
「先行隊でこれ程の兵数か」
夜襲のプロであろう兵士団は茂みに隠れ気配を完全に消している。城の見張りの国王兵は反乱軍の存在にすら気づいていない。そんな中、ハークは闇に潜む兵士の動きを手にとるように察知していた。
「では、王の警護を頼んみましたよ」
「はっ。しかし、賢者殿、なぜに今夜はこれ程の重警護を?」
王と王女の眠る寝室を警護する近衛兵は若き賢者に聞いた。
「君達は何も心配する必要はないよ。王を頼む」
「はっ!!」
ハークは信頼できる古きから王に仕える兵士を集め、今夜かぎりの特別警護団を結成していた。一個大隊以上のただならぬ警備に兵士たちは疑問を抱いてはいるが、信頼をおくハークにそれ以上聞く者はいなかった。
警護団はあくまでも保険である。ハークは己の力だけでこの危機を乗り切る決心をしていた。
>> 94
【若き魔法人】
不穏な動きは城の外だけではなかった。城の内部では反乱分子が行動を開始していた。
「お疲れさん。交代だ」
「もう、そんな時間か?」
見張り番の兵士は交代要員できた兵士に笑顔で言う。だが、交代にきた兵士に笑みはなかった。
「ん?そう言えば…お前は今日は休暇じゃなかったか?」
「そうだったな」
そんな言葉を火種に突如、兵士の腹目掛けて突進してきた。
「なっ…」
兵士は眼を見開き、己の腹部に刺さった短剣から溢れ出る血を見て身体を奮わせる。
「悪いな。これも国のためだ」
「貴様…っ…」
兵士は最後の力を振り絞り剣を鞘から抜くが、そこで力尽き、床に倒れると二度と動くことはなかった。
「来い!片付いたぞ!」
戦友であった兵士の血で染まった男は物陰に隠れていた仲間を呼ぶ。
「行け!行け!行け!門を開けるんだ!」
その合図を受け、十数名の兵士たちが現れ、城門を開門するため鎖を巻き上げていく。
「開かん。なぜだ…」
だが、いくら開門しようとしても城門に変化はなかった。
「残念ですが、門は開けさせるわけにはいきません」
予想だにしなかった事態に困惑する兵士たちの背後から一人の青年が現れた。
>> 95
【若き魔法人】
「ハーク殿…」
突然の来客者に兵士たちの表情が凍りついた。歩み寄ってくる青年に対し、兵士たちは後退りしていく。
「武器を捨て、降伏しなさい」
「も…門を開くように命令を受けております」
「反乱の首謀者、トルコ将軍からですか?」
「くっ…全て承知の上ですか、ハーク殿」
兵士たちは鞘から剣を抜くとお互いに目で合図し、青年の周りを取り囲んだ。先程までの兵士とは違い、目には殺気が満ちていた。
「どうやら…闘いを避けることはできないようですね」
兵士たちは一斉に襲いかかる。青年は無数の剣筋を見切り、マントの下に隠していた短剣で一人の兵士を突きさす。
「なっ…」
そして、瞬く間に二人、三人と兵士が倒れていく。青年の動きに誰一人ついていけず、数秒後にはその場には青年以外に立っている者はいなくなった。
「愚かな…」
青年は血に染まった短剣を片手にそう呟いた。国王兵であり元は同士であった彼らに言ったのか、それとも彼らを殺めた己に言ったのか、それは悲しみに満ちた言葉であった。
「師匠、正義のために私は今夜どれ程の人を殺めなければならないのでしょうか」
>> 96
【若き魔法人】
「合図はまだか?」
「はっ!!城からの合間は見られません」
闇に潜む反乱兵たちは城からの合間を待っていた。しかし、予定時刻は過ぎても合間はない。
「どうやら…支障が生じたようだな。うむ」
長髪の白髪を風に靡かせながらダンテスティン城を静観する男がいた。腕を胸の前で組み、仁王立ちするその男からは焦りは微塵も感じられない。そんなトルコ将軍の脳裏には若き魔法人が浮かんでいた。
「若き獅子が牙を剥いておるようですなぁ」
「ゴン殿…」
トルコ将軍に囁くように一人の魔法使いが言った。千里眼の賢者の称号を持つ、ゴンであった。別名は銀色の監視屋、ローブが覆い隠れてしまうほど銀の装飾を身につけている。
「獅子?よくて猫だ。あの餓鬼に我が王道を止めることはできぬ」
「分からんですぞぉ。奴は若く強い…強い強い…私のコレクションにしとうてしゃあない」
「ならば獅子はゴン殿にお任せしようか。我々はその間に城を掌握する」
トルコ将軍は剣を抜く。燃え上がるように赤く、血のように濃い、赤き剣を天にかざす。
>> 97
【若き魔法人】
「計画変更だ。突撃せよ」
「はっ…しかし、門がまだ開門されておりません」
「どけ」
トルコ将軍はそう兵に告げると、一人、門へと近づいていく。
「燃え上がれ、そして、我が剣にひれ伏せ」
眼を見開き、剣を振る。一筋の光が城門を貫く。
ドガアアァァァンンン!!
門は爆音を上げ吹き飛び、破片は散乱し瞬く間に辺りは火の海となった。
「我が王道が開かれた。ゆけ」
炎で赤く染まっていく中、トルコ将軍の白髪はより一層際立って見える。その姿は鬼神のようである。
『うおおおおお』
それを合図に闇から無数の兵士たちが雄叫びを上げた。そして、火炎瓶を投げながら城へ雪崩のごとく突撃していく。騒ぎで飛び出してきた王国兵は突然の夜襲に狼狽し、なすすべなく反乱兵の手にかけられていく。
静寂な城は
赤々と炎を上げ、戦場と化していた・・・
そう、一人の男の野望の炎に燃やされて・・・
>> 98
【若き魔法人】
「敵襲!敵襲!」
「各員!配備につけ!」
城は一変して物々しい雰囲気となっていた。就寝していた国王兵は叩き起こされ、武装を整え、地上層で防衛する仲間のもとに援護に向かっていく。
「反乱軍が動き出したか」
ハークは窓越しに反乱兵が城に火をつけるのを見つめていた。地上層は多くの王国兵は倒れ、燃え上がる炎に覆われている。ハークが現在いる城の上層部はまだ反乱軍の火の手は届いていないが、それも時間の問題だろう。血相を変えた王国兵が慌ただし横を駆けていく。
ハークは内部工作兵を鎮圧していた。だが、強行に出た反乱軍は城の内部へと攻め込んできている。予定ではファが反乱軍を食い止めるはずなのだが、この様子だとファの身に何かあったのだろうか。
「ハーク殿。こんなところに居られては危険です。ここは我らに任せ、避難を」
一人の兵士が殺戮の風景に感慨していたハークに話かけてきた。聞けば、他の城のお抱え魔法使いたちは地下の避難所に逃げたらしい。城の窮地に、城の守護を任された魔法使いが真っ先に逃げ出すとは、ハークは怒りに似た感情を覚えた。
>> 99
【若き魔法人】
「いや、避難はしない。私も闘うよ」
「なにを!?なさいます!?ハーク殿!?」
ハークは突然、王国兵に杖を向け光を浴びせると兵の姿は歪み、その化けの皮が剥がされていった。
「正々堂々と闘ったらどうです?ゴン殿?」
今までいた兵士の姿はそこにはなく、目の前にいたのは千里眼の賢者ゴンであった。
「いやいや、戦とは卑怯な者が勝ち残るものじゃて」
正体を見破られたゴンは不敵な笑みを浮かべハークを見据える。黒のローブに銀の装飾を幾多もつけたこの男こそ、ダンテスティン国では三本の指には入る魔法使いである。
「私は少なからず、貴方のことを尊敬していたが…どうやらその考えを改めなければならないようです」
「なに、気にすることはないない。儂は寛大じゃ」
銀色の杖を取り出しながら不気味な笑い声をあげるゴンの姿はまるで魔物のようであった。
「若き獅子よ。永きに渡り、生きながらえた儂の力をなめるでないぞ」
「忠誠を誓った国を裏切り、地に落ちた賢人などに私は負けはしない」
ハークは周囲に竜巻のような風が起こり、マントは大きく舞い上がる。
>> 100
【若き魔法人】
「そう焦るな。若き者よ」
力強い魔力を放出し、威嚇するハークにゴンは言う。ハークの魔力を見てもなんら怯むような素振りはない。
「儂は銀色の監視屋。そなたらの企みを知らぬ訳があるまい」
「なにを言いたい」
ハークは杖を向け、魔力を高める。だが、それでもゴンは闘おうとすることなく話を続ける。
「闇の賢者とか言ったかの?あの若造は?はてはて…」
闇の賢者。
その言葉を聞きハークは心は微かに揺れた。
それをゴンは見過ごさなかった。ゴンは口元を吊り上げハークを見た。
「弱き者ほどよう吠えるとはまことよの。死ぬまで…うるさいうるさい、うるさくてしゃあないわい」
「お前…」
ハークの魔力は明らかに乱れた。
「ほれ、お仲間と再会させてやろうやろう」
ゴンは二言三言、呪文を唱えると血塗れになったファが目の前に現れた。
「なっ…なんてことを」
敵を目の前にしているのも忘れ、ハークはファに駆け寄り、抱きかかえた。既に顔色は真っ青となり脈も弱い。だが、かろうじで息はあった。
>> 101
【若き魔法人】
「若い若い。戦場で隙を作ることは命とりよのぅ」
ゴンは杖を繰り出し、呪文を唱える。どす黒い衝撃波のようなものがハークとファを襲った。
「くっ!!」
咄嗟に身を呈して、ファを守ったがハークはまともに衝撃波を受け、大きく後方へ飛ばされてしまう。
「どうした。ほれほれ」
移動魔法で一瞬にして倒れるハークの真上移動するとゴンは杖の先端を変化させ、鋭く槍のように尖った杖をハークの肩へと突き刺す。
「ぐわぁ…あ!!」
ハークは瞬きする間すら与えられず、容赦ない攻撃に声を上げ、あまり激痛に杖から手を放す。転がり落ちる杖を空かさず、手にとったのはゴンであった。
「こんな昔の杖(木製)をいつまで使うつもりじゃ?師匠に貰った大切な杖じゃからな」
倒れるハークに容赦もせず、衝撃波をまた放つ。ハークの身体は人形のように放物線を描き、激しく地面に叩きつけられる。
「どうじゃ。立てんじゃろう?まぁ魔力もろくに練れまいが」
踞(ウズクマ)るハークの様子は明らかにおかしく。息は荒く、言葉も上手く喋れないようである。
それを見てゴンは笑みを浮かべる。
>> 103
【若き魔法人】
「いつから王国兵は軟弱となった!いつからだ!」
烈火の如く剣を振る一人の鬼神がいた。感情さらけ出し、多くの王国兵をその赤き剣の餌食にしていく。
闘うトルコ将軍の眼は涙ぐんでいた。
今はこうして反乱軍を率い反逆者となった彼だが、昔は違った。国に忠誠を誓い、誰よりも国を想い、国を愛した。
「うおおお!!お前らでは国は守れん!!弱者は何一つ守れんのだ!!」
彼は国のためなら本気で死ねると思っていた。しかし、そんな彼を変えたのは俗に言う魔王事件がきっかけであった。
表では平和であった国は、実は裏では魔王の支配下にあった。忠誠を誓った王ですら魔王の操り人形だったのだ。
正義のため、国のためと想い、非道なこともやってきた。だが、全ては偽りであった。信頼していたトケイ隊長ですら魔王に踊らされ、守っていたはずの国は知らぬ間に魔王に支配されていたのだ。
ハークたちが魔王軍を壊滅させた魔王事件後、真実は国中に広がった。命すらかけてきた彼。真実を知った彼の脱力感は想像を絶するものだっただろう。
- << 106 【若き魔法人】 「烈火天上!ひれ伏すがよい!」 トルコ将軍は雄叫びを上げ、剣を振り上げる。業火のような炎が一瞬にして数十人の王国兵を飲み込み、跡形もなく灰へと変える。 「お主一人で、ここら一帯の兵を殺ってしもうたか」 荒い呼吸、浮かび上がる赤々とした血管、逆立つ白髪、話かければ殺されてしまうかのようなトルコ将軍に平然と話かける者がいた。 「城の内部で防衛しようと王国兵は中で守り堅めておるぞい」 「そうか…ゴン殿。そちらは片がついたのでしょうな?」 身につけた銀の装飾が擦れ合い、ジャラジャラと音を立てながら近づいてくる魔法使いにトルコ将軍は冷たい視線を送る。 「恐い恐い。儂まで殺されてしまうわい。心配無用じゃ若造はしばらく動けん動けん」 「止めをささなかったのか…敵を生かせばいつか痛い目を見るぞ」 忠告をゴンは不気味な笑い声で聞き流す。 「まぁよい。お前たち火攻めはもうよい」 火炎瓶を投げる反乱兵は命令を受け、動きを止める。訓練された忠実な兵士たちある。
>> 104
【若き魔法人】
全てを知った彼は国のために闘い死んでいった王国兵の墓碑の前で泣いた。
「俺はまだいい、だが、こいつらは何を誇りにすればいいんだ」と彼は墓碑の前で何度も何度も言った。声は渇れ、涙も渇れようと彼はその前から離れようとしなかった。
国のために命を捨てた戦友たちはあの世で何を想っているのだろうか。
トルコは三日三晩、戦友に詫びた。そして、墓碑の前から離れる時には黒く若々しかった髪の色は抜け、痩せこけ、鬼のような形相となっていた。
それからの彼はまるで何かにとり憑かれようであった。剣術は群を抜き、冷酷非道、まるで鬼神であった。彼が国で一目置かれる存在となるのに時間は要しなかった。そして、将軍となり、国家強化のために革命を起こしたのである。
そう、何者にも支配されることがない軍事国家にするために・・・
彼には騙され死んでいった王国兵の魂が宿っているのかもしれない。
>> 104
【若き魔法人】
「いつから王国兵は軟弱となった!いつからだ!」
烈火の如く剣を振る一人の鬼神がいた。感情さらけ出し、多くの王国兵をその赤…
【若き魔法人】
「烈火天上!ひれ伏すがよい!」
トルコ将軍は雄叫びを上げ、剣を振り上げる。業火のような炎が一瞬にして数十人の王国兵を飲み込み、跡形もなく灰へと変える。
「お主一人で、ここら一帯の兵を殺ってしもうたか」
荒い呼吸、浮かび上がる赤々とした血管、逆立つ白髪、話かければ殺されてしまうかのようなトルコ将軍に平然と話かける者がいた。
「城の内部で防衛しようと王国兵は中で守り堅めておるぞい」
「そうか…ゴン殿。そちらは片がついたのでしょうな?」
身につけた銀の装飾が擦れ合い、ジャラジャラと音を立てながら近づいてくる魔法使いにトルコ将軍は冷たい視線を送る。
「恐い恐い。儂まで殺されてしまうわい。心配無用じゃ若造はしばらく動けん動けん」
「止めをささなかったのか…敵を生かせばいつか痛い目を見るぞ」
忠告をゴンは不気味な笑い声で聞き流す。
「まぁよい。お前たち火攻めはもうよい」
火炎瓶を投げる反乱兵は命令を受け、動きを止める。訓練された忠実な兵士たちある。
>> 106
【若き魔法人】
「石造りの城だ、火はこれ以上役に立つまい。それに我が王になった時、城が灰になっていては困る」
「はっ!」
トルコ将軍は周囲を見渡した。周りでは多くの王国兵が倒れているが、反乱軍は殆どが無傷である。そして、外での闘いが不利とみた王国兵は皆、城の中へと退避していた。今は闘いは休戦状態であった。
「城壁の中に侵入し、王国兵を城の中に追いやった我ら先行隊は十分な成果を上げたと言えよう」
トルコ将軍は剣を突き上げ、炎の玉を天に向けて放つ。夜空に炎の玉は目立ち遠くからでもはっきり見てとれる。
「将軍からの合図だ!本隊出撃!」
その炎の玉を確認し、城から少し離れた林の中から雄叫びを上げ、数千人の反乱兵が城に向けて一目散に走り始めた。
「本隊は五分で到着する。合流しだい、城の108個の扉から一斉に突撃せよ。目指すは最上階の王の間だ」
『うおぉぉぉ!!』
トルコ将軍の指揮を受け、反乱兵たちは雄叫びを上げ、剣を高々と突き上げた。
>> 107
【若き魔法人】
「くっ…ファ!!」
ハークは力を振り絞り、這ってファの元にいく。血は乾き、既に息はしていなかった。
「くそっ!なんで!大賢者になるんじゃなかったのか!死ぬな!目を覚まして下さい!」
身体を揺するが、どんなに激しく揺すってもファが目を開けることはなかった。いつもなら憎たらしく暴言吐くファはそこにおらず、いるのは静かに眠るファ。穏やかな死に顔であった。
「私がもっとしっかりしていたら…」
いつも言い争ってばかりだったが、ハークにとって数少ない心許せる人物であったのは間違いない。
「ファ…」
大粒の涙がハークの頬を垂れる。しかし、哀しみは直ぐに打ち消され、ゴンへの憎しみで頭が一杯になった。そして、同時に己の不甲斐なさに苛立ちを感じていた。
「借りますよ…仇をとってきます」
ファの懐から杖を取り出し、強く握り締めると呪文を唱える。感情に高まりからか、毒の効力が弱まり、魔力を練ることもできるようになっていた。
「闇の賢者ファ。貴方は偉大な魔法使いでした」
浄化の魔法で毒を一掃したハークは力強く立ち上がると自分のマントをファに優しい被せてやる。
>> 108
【若き魔法人】
ウオオオオオオ!!
「どうやら本隊が到着したようだな」
開かれた城門から無数の兵士たちが雄叫びを上げ入ってくる。トルコ将軍は反乱兵に《待て》の合間を出し、ゴンにアイコンタクトを送る。
「さてさて。この国に幕を下ろすかのう」
ゴンは地鳴りのような呪文を唱え始める。するとゴンの周囲には黒い霧のような物が現れた。それは一息吸うだけで屈強な男が絶命するほどの毒の霧であった。
「ひょひょ。いくら扉を堅めようとて…毒霧の侵入は防げまい」
城では内側から全ての扉に杭を打ち、城中の物をかき集め、バリケードを築いていた。だが、ゴンの魔法の前では無力に等しいだろう。
「ほれ、たっぷり命を吸っておいで」
毒の霧は蜂の群れが攻撃する時のように大きく広がった。その瞬間、突如発生した強風に毒の霧は吹き飛ばされ、反乱兵のもとへ運ばれる。多くの反乱兵は訳も分からぬまま悲鳴を上げ倒れていく。
「なに!?」
ゴンは強風に煽られながらも棟の天辺に立つ一人の者に視線を送る。金色に輝く魔力を放ち、風がその者を宙に運ぶ。
「何者じゃ!何者じゃて!」
ゴンが激怒する中、その者は天高く登っていく・・・
>> 109
【若き魔法人】
「奴が術者か…だから殺しておけば良かったのだ」
月明かりに照され、その者の顔が明らかになる。そう風に生きる者、若き賢人、風の賢者ハークであった。
トルコ将軍は鼻で笑い、顔を真っ赤にするゴンを見た。
「うう…こんな短時間で儂の毒を克服するとは…予想以上にやり手かも知れぬ知れぬぞ」
ゴンは毒霧を再び発生させ、その上に乗るとハーク同様に天高く登っていく。
「お前たち、この国で1・2を争う魔法使いの闘いが始まるぞ。良い余興になろう…」
トルコ将軍はそう言うと天を見やげて腕を組んだ。反乱兵は微動だにせず、直立する。
「千里眼の賢者ゴン。覚悟されよ」
「儂の邪魔をしよって…それほどまで早く死にたいとはの!!」
賢者二人は杖を向け合う。お互いの魔力は衝突し、激しい魔力の渦が起こる。
「二度の敗北を味あわせやるわい」
移動魔法と分身魔法を連発し、ゴンは空一面に分身を作り、瞬時に移動していく。地上では反乱兵から小さな歓声が起こった。
「もう小細工は通用しない!!」
「なっなんと」
ハークはそう言うと無数のかまいたちを発生させ、分身を一掃する。
>> 110
【若き魔法人】
「こしゃくな」
ゴンは先程の毒霧より濃く巨大な霧を発生させる。
「無駄だ」
が、一瞬にしてかき消されてしまった。ハークは鋭い眼光でゴンを睨みつける。
「やりよるのぅ。国王が特別扱いするのもちた分かる分かる…」
意味深な笑みを浮かべ、天を仰ぐ。すると城の真上にはどす黒い雲が現れ、月は厚い雲に覆われてしまう。
「今、降伏するなら命まではとりません。どうしますか?」
突風が渦となり、ハークの周りを駆け巡る。
「若造が!!わしをなめるな!!」
眼を見開き、古の呪文を唱え始める。それの意味を素早く察知したハークは神経を集中する。
「呪い殺してやるわ!!」
「くっ」
心臓が激しい鼓動する。ハークは思わず、胸を押さえる。
「古の呪いか…術者とてただではすまないぞ」
「この老体、革命のために捨てても惜しくないわ」
両者の体力は徐々に蝕まれてゆく・・・
>> 111
【若き魔法人】
現代、使われている魔法は古の時代に築かれたほんの一部である。多くの魔法は時の流れとともに人々の記憶から消えてしまった。
世界に多くあっただろう古代魔法を記した書物は…なぜか世界から消えてしまっており、今や残っているのはほんの僅かだ。
しかし、その常識では考えられない強力な古代魔法を追い求める者は多い。
「死ね!死ね!貴様なぞ!!」
そんな者たちを『狂信者』と人々は言う。彼らは古代文字の魅力(魔力)に飲み込まれ、次第に精神が崩壊し自我を失っていくのだ。
「私は風の賢者!簡単にはやられはしないぞ!」
狂信者を見た人々は言った。
我らは古代魔法は失ったのではなく、我らが捨てたのだと。
決して、手を出してはならない。古代魔法は魔法の裏側、悪魔の力なのだと・・・・
>> 112
【若き魔法人】
「人は人を呪い、人々は人を恐れた。そして、世界は終末を迎えるだろう」
トルコ将軍は瞳を閉じて、そう口にした。それはダンテスティン国に古くから伝わる言葉であった。魔法人口最盛期、この時代の人々は魔法の発展のため研究を重ねた。失われた古代魔法が再び、世界に放たれたのもこの時代である。しかし、古代魔法を研究すればするほど世界の均衡が失われていった。もちろん魔法界が古代魔法の使用・研究を禁忌するのに時間は要しなかった。
そんな時代に詠われた言葉。
「儂は世界に再び、禁忌魔法を広げるのだ!そのために国を概念を改革せねばならん!邪魔するな!」
「私は屈することはない…ッ!私がこの国を守る!」
荒い息づかいで、両者は胸を押さえる。気を少しでも緩めた方が、命を失うだろう。
お互いに杖を向け会い動かない両者だが、確実に闘いの決着が近づいているのは確かだった。
>> 113
【若き魔法人】
「私は…悪に呑まれた者の末路を知っている。お前が手にしたい世界は破滅しかない」
魔力を使い果たしたゴンはもはや人の形相とは思えず、醜い化物と化していた。今のハークの言葉は聞こえていないのかもしれない。
「死ね…なぜ…儂が貴様のようなこわっぱに…」
「ゴン殿、貴方は魔王の誘惑に負けられた。そうですね?」
哀しそうに問うハークだったが、返事は返ってはこなかった。
ゴンの肉体は砂へ変わり、夜空へ舞っていく。哀れみの眼でハークはそれを見つめた。
千里眼の賢者、ゴン。王の信頼も厚く、国への忠誠心も強かった。だが、なぜ彼が反乱を起こしたのか。
地下に眠る魔王の誘惑に負けてしまったのかもれない。
「ほぅ。やるな」
「なっ!!」
一戦の終止も束の間、背後からトルコ将軍の斬撃が襲う。ハークはなんとか紙一重で避けることができたが、バランスを崩し、地上へと落下してしまう。
「今度は俺様じきじきに相手してやる」
天に舞うトルコ将軍。
背中には大きな黒い翼が羽ばたいていた・・・
>> 114
【若き魔法人】
「とらえよ」
黒き翼を携え、夜空に舞うトルコ将軍の指示を受け、反乱兵はハークを取り押えにかかる。
一斉に群がってくる反乱兵の群衆、ハークは衝撃波を放ち、向かってくる敵を片っ端から吹き飛ばす。しかし、数に圧倒的され、徐々にハークは取り囲まれていく。
多勢に無勢、まさに今のハークの状態であった。向かってくる槍・矢・剣から身を守りながら敵をねじ伏せていくが、反乱軍を全滅させる前に魔力・体力が底をつくのは明らかだった。
「己の存在が如何に無理か。分かっているのか?風の賢者よ」
反乱兵の叫び声の中、こだまするトルコ将軍の声はハークの耳に確かに届いていた。
「無駄なのだ。貴様の努力など…例え、我らを倒し、この国を救ってみせたところで何になる?」
「貴様はなにを得ると言うのだ?」
「国はお前に何をしてくれる?」
「本当に友を失ってまでするべきことだったか?」
「救うにあたいする国か?」
「考えてみろ…国を救っても救ったと言う栄光しか手に入らん、あってないようなものではないか」
「考えよ」
>> 115
【若き魔法人】
「救う価値があるかないか、見返りがなにかなんて、私には関係ない」
幾多の敵に囲まれ、敵の武器から逃れるだけでも精一杯であるはずなのに、ハークの闘志は決して消えてはいなかった。窮地に陥ろうとその眼の奧にある強い意思が揺らぐことはない。
「人を守るのに理由などいらない。信念に従い私は行動しているだけだ」
「笑止、貴様は所詮は偽善者よ。いや、国と共に滅びの道を選ぶ愚か者だな」
高らかにトルコ将軍は言い放った。その時であるダンテスティン城の周りに巨大な魔法陣が現れたのだ。金色に輝く魔法陣は城を取り囲む反乱兵すらすっぽりっと覆い、強大な魔力を放っている。
「こッこれは…」
上空にいたことで、唯一、魔法陣の全貌を傍観できたトルコ将軍は言葉を失っていた。
足元に突如現れた魔法陣に反乱兵は困惑し、どよめき上げ隊列を乱していく。
「時は満ちた。風と闇の斬撃をその身に受けられよ」
「貴様ぁ!!」
巨大なそれに圧倒されていたトルコ将軍はよくやく我にかえり、流星のごとくハークへと襲いかかった。しかし、時既に遅し、魔法陣は眩い光へと変わっていく。
>> 116
【若き魔法人】
「烈火天上!!」
炎の爆撃がハークを襲った。辺りが閃光に包まれていく中、迅速にかつ冷静に術士を捉えにかかったトルコ将軍。防御魔法で爆撃を受け止めたハークだったが、爆煙と閃光を隠れみのにし、目の前に現れたトルコ将軍の剣撃は避けきれなかった。
「くっ!!」
杖の水晶を砕かれ、喉元に赤々と燃えるような赤剣をつきつけられる。
「終わりだ。最後の反撃すらならんだな…う!?」
魔法の中枢を担う杖の水晶を破壊することは魔法自体を打ち消すも同然である。簡易魔法ならまだしも、このような大規模な魔法は杖(水晶)がなくては魔法すら成り立たないと言ってもよい。しかし、トルコ将軍の思惑には反し、水晶を打ち砕いたにも関わらず、魔法陣の輝きは消えない。
「なぜだ!!」
「貴方が水晶を狙ってくるのはよんでいました。ですから、この友人の杖をオトリに使いました。貴方を地上に引寄せるためにね」
トルコ将軍はまっけらかんとそう言うハークに呆気にとられ、またしても言葉を失う。
>> 117
【若き魔法人】
「アレが私の杖です。ゴン殿を倒した時、あそこに落ちたんですよ」
反乱兵の足元をハークが指差す。そこには眩い光を放つ木製の杖があった。
「貴様ぁ…魔法の発動をわざと遅らせ、私に襲う時間を作ったのか…?」
「えぇ。貴方が剣撃を放つ前に発動することはできました。しかし、この魔法を使えば私は魔力を使い果たすでしょう。そうなれば上空の貴方を仕留められない。だから貴方を仕留めるために貴方をこちらに引き込む必要があったんです」
「餓鬼と思っていたが…」
トルコ将軍は剣を突く。喉元を捉えていたはずの剣はハークの横に大きくそれる。
「くっ!貴様に国は救えん!この国は私が救うのだ…!」
鎌のような漆黒の刃が地表から現れ、トルコ将軍の剣を弾いたのだ。周りにも無数の刃が現れ、反乱兵を襲っている。
「貴方の負けです。トルコ将軍」
「うおぉぉぉ!!!」
一軍の将の雄叫びは悲鳴をかき消し、虚しく響いた。そして、漆黒の刃が重なり合い、また渦となり、城の周りを風のように駆け巡ったのだった・・・
>> 118
【若き魔法人】
「平和ぼけ…した…貴様らでは…国は守れん…非道…ぐらいの国の再構築が…ひ…必要なのだ」
辺りは静寂に包まれていた。ハークの大魔法は反乱兵を崩壊寸前までにし、トルコ将軍すら瀕死状態となっていた。
「私に…しか…できん…私が…く…に…を」
トルコ将軍は身体を無理矢理に動かし、血を垂らしながら魔力を使い果たし倒れ込むハークへと一歩ずつ近づいていく。
「貴様…の…ような…や…計画…を…つぶ…され…る…このま…ま…では…おわ…らさん」
意識が遠退く中、トルコ将軍は剣を振り上げる。そして、渾身の力を剣へと注ぎ込んでいく。
『今だ!反乱軍への追撃だ!撃ってでよ!』
『うおおぉぉぉ!!!』
静寂を破る国王兵の雄叫びが、王の号令により城内より起こった。トルコ将軍は驚き隠せないようすで、尻餅をつき、同時に城から王国兵が飛び出してきたのだ。
殆どの者が手傷をおった反乱軍の中を怒涛の勢いで王国の騎馬隊が駆ける。もはや、勝負にはならなかった反乱兵の抵抗も虚しく、一瞬のうちに決着はついた。
>> 119
【若き魔法人】
「王にまだ…兵を…率いる…力が…残っているとは」
トルコ将軍は倒れたまま、そう口にすると夜空に顔を出した太陽を見てこう呟いた。
「希望の光か…」
それを最後にトルコ将軍は動かなくなった。周りでは戦いは完全に決着し、降伏した多くの反乱兵が連行されていく。
「ハーク!大丈夫か!」
倒れたハークへと国王が駆け寄り、息があるのを確認すると安堵の息を吐く。直ぐ様、兵に命令し、回復魔法を唱えに魔法使いがやってくる。
「王、私は大事な友人を失ってしまいました…」
「国はその犠牲のお陰で、救われたのだ。悔やむことはない…」
国王に抱えられながら、ハークは虚ろな瞳で太陽を見つめた。
「お前は英雄だ。よくやった…ゆっくりと休むがよい」
ファが残した魔法布石がなければ反乱軍に勝利することはできなかった。国を救えなかったのだ。しかし、称えられるべき人物はここにはもういない。目的はなんであれ、あれほどまで人力を尽くした者が光を浴びることができないとは。
闇の賢者ファ。
栄光と言う光に当たれぬまま、その生涯を全うしたのだ。
「ファ…」
ハークは太陽の光を見ながら意識を失しなった・・・
>> 120
【若き魔法人】
ハークにとって魔王事件の次に印象に残っていると言っていい、この反乱の物語。屈指くもまた、この反乱も魔王が元凶となっていた。しかし、魔王の負の連鎖はこれで終わることはなく、これからもハークを苦しめることとなる。
「魔王という強大な力が城の地下にいるかぎり、魔王を取り巻く負の連鎖は断ち切れまい」
ハークは常日頃からこう言うようになったのもこの反乱の後である。魔王を滅ぼすまで、ハークは戦い続けるとそう決心したのもこの時である。
反乱の粛々後、大賢者の一角が無くなり、空いた空席の穴埋めとして、大賢者に任命されたハークは素直に受け入れたのだった。亡きファの意思を継ぎ、大賢者となることで少なからずの餞(ハナムケ)となると想ったからである。
風の大賢者ハークとして名を世界に知らしめた。若くして、大賢者の地位まで上りつめたハークを羨む者、嫉妬する者、反応は様々であった。
少し先に大賢者に就任した同年代キメラとは大賢者就任の儀式で初めて顔合わした。
ハークとキメラ。
出会うべきして、出会った。この二人の運命の歯車もまた、この時期から動き始めたのだった・・・
《完》
>> 79
③「クリス!!」
そう叫びながらセレナは走る。そして、手に強く握られた銀色杖は強く輝き、青々と燃える業火を放った。
①「セレナ!!」
…
《前回までのあらすじ》
宇宙海賊と政府軍は宇宙空間にて壮絶な戦闘を繰り広げていた。しかし、そこに突如、連合艦隊からのX砲が両軍を襲った。
X砲に政府軍が呑まれていく中、援軍としてやってきた超巨大戦艦キングに宇宙海賊艦隊はどうにか収納され、艦隊の壊滅はまのがれたと思ったが、X砲の膨大なエネルギーにキングは押され、黒の惑星へと叩きつけられてしまった。
なんとか、ドグロの機転によりキングに大きな被害ができることなく、また、ハークの力により、船員の人命に被害もなかった。
しかし、キングが再び飛び立つには時間がかかる。連合艦隊が迫ってくる中、事態は刻一刻を争っていた。
状況は更に悪化する。バジリス率いる漆黒鎧部隊がキングへ奇襲攻撃を仕掛けてきたのだ。協会の最強兵器、魔科、リード将軍の部下である軍義・戦義を含む奇襲部隊にクリスたちは苦戦を強いられていた・・・
>> 122
③セレナ「今は忙しいの貴方の相手はまた今度してあげるわ」
④「き……」
砂嵐に呑み込まれたバジリスは何かを言っているようだが、砂嵐の轟音にかき消されクリスたちのところには届かなかった。砂嵐は勢いを増し、明後日の方向へ進んでいく。
①クリス「考えたわね。いくら最新のアンチマジックの鎧をつけ、傷を負わなくてもあのブースターじゃ砂嵐からは逃れられないからね」
クリスは小さくなっていく砂嵐を見て笑った。
ラ・ドル「皆さん!!大変ですよ!連合艦隊がもう目の前に迫ってます」
漆黒鎧兵と高速魔法でなぎ倒しながら走ってくるラ・ドルは空を指差す。空には天を埋め尽くす、数万の連合艦隊が見てとれた。敵方の爆撃も最早、秒読み段階であろう。
「こやつらは我らにお任せを…貴方たちは直ぐに戦艦のシールド区域に入って下さい」
レッガの指示により戦艦から助けにやってきた戦闘員は漆黒鎧兵に向け発砲し、銃撃戦となっている。
⑪リオ「さぁ、皆これに乗って!!」
この隙に鉄を台車に変化させ、リオは手招きする。クリス、セレナ、ラ・ドルの三人は慌てて、飛び乗った。
>> 123
①「これ大丈夫なのか?」
⑪「問題な~し!いっくよ!しっかり捕まっててね!」
見た目は今にも潰れそうな頼りない台車は徐々にスピードを上げていく。
③「リオ…ちょっと、飛ばし過ぎじゃな…」
⑪「大丈夫!大丈夫さぁ~!」
ラ・ドル「スリリングなドライブです…はい」
凄まじいGを受けながら必死に台車にしがみつく三人とはうって変わって、リオは鼻歌を歌いながら軽快に台車を操作している。
①「リオ!前!前!」
突如、目の前に現れた漆黒鎧兵が「ここは通さぬ」と叫びながら立ちはだかった。
⑪「問題な~し」
しかし、避けるどころかスピード更に上げて漆黒鎧兵へ突っ込む。激しく音を上げ、漆黒鎧兵は跳ね飛ばされた。
台車は衝撃を受け、大きく右にそれたが直ぐに体勢を直す。
①「無茶し過ぎだ」
⑪「クリスには言われたくないなぁ」
①「なッ…」
③「ふふ」
台車は軽快に先を進んで行く・・・
>> 124
キングでは凱たちが奇襲部隊との死闘を繰り広げていた・・・
⑦凱「ガイブレイド」
全身にオーラを纏い、身体を一本の槍のように突撃する。向かってくる魔科具を破壊するが、グレーには軽くいなされてしまう。
グレー「軽いな」
凱「やるじゃねぇか」
お互い剣を繰り出す。凄まじい、剣撃の応酬に先に音を上げたのは凱であった。
⑦「っ。なんて剣速だ」
一旦、距離をあけた凱はオーラを剣に集中する。
グレー「そろそろ。止めをさしてやろう」
⑦「そりゃ、こっちの台詞だぜ」
黒魔剣を鞘から抜き、妖刀覇王と黒魔剣を交差させる。
凱「ブレイク」
二刀の剣から繰り出される剣撃を戦義は受け止める。
グレー「くらわ…ぬ!!」
受け止められたかと思われた剣撃だったが、その凄まじい剣圧に耐えかね、戦義は大きく後方へと飛ばされる。
⑦「まだまだ!地・水・火・風!」
黒魔剣からハイエント文字が浮かび上がり、地・水・火・風の精霊たちが凱のオーラへ取り込まれていく。
>> 126
⑤セロ「おいおい!マジかよ!」
剣撃を紙一重で避けたセロは慌てて、逃げる。
戦義「貴様は弱いな。相手をするのもつまらぬ」
セロは魔法弾を放つが、軽く受け止められてしまう。
⑤「全然、くらわないじゃん…」
黄金銃を構えるセロの手は震えていた。魔法弾は自由に撃てるようにはなってはいたが、ゼロ(魔科)を倒した時のような強力な魔法弾は放てないようだ。まだ、黄金銃の使い方をマスターしたとは言い難いセロには戦義はかなり無理な相手であった。
デビル「隙ありぃ」
戦義「ぬ!?」
セロが陽動している間に背後に回ったデビルが髪を伸ばし、戦義の四肢を封じる。
戦義「なんだ。この小動物は…」
デビル「い~だ!おれっちは珍獣王なんだもんねぇだ!」
戦義はそう言ったデビルに目もくれず、四肢を縛る触手のような髪を凄まじい力で切り払うとデビルに剣撃を浴びせる。
⑤「デビル!!」
真っ二つに斬られたデビルは力なくその場に倒れる。セロは慌てて駆けよろうとしたが、目の前に戦義が立ちはだかる。
戦義「次は貴様だ」
⑤「くっ…そ!!」
二丁の黄金銃を連射する。しかし、無数の魔法弾に剣撃を叩き込まれ、全て打ち消されてしまった。
>> 127
戦義「死ぬがよい。か弱き生物よ」
戦義が剣を振り上げる。その瞬間、戦義の全身は黒髪に覆われる。
デビル「おれっちを舐めるなよ!!」
⑤「デビル」
真っ二つにされたデビルは髪を伸ばし、戦義を覆うと締め付けていく。どうやら斬られたのは体毛であったようだ。
⑤「心配させやがって」
『あぁ。無事で良かった』
⑤「うわああぁ…」
セロの背後に黄金に輝く竜がいた。竜は図太い声で話かけてくると腰を抜かしたセロを見て、笑い声を上げる。
『ははは。驚くのも無理はない。私も自分が自分でないみたいで…なんとも不思議な感覚だからな』
⑤「その声は…まさか?キックか?」
竜は頷く。そして、イース星で見た竜の何倍もある身体を振るわせ、翼を広げる。
『デビル、そいつを上に持ち上げられるか?』
デビル「OK」
逃れようとする戦義を触手のような髪で丸め込む、デビルは言われた通りに毛玉のようになった戦義を頭上に持ち上げた。竜、キックは胸を膨らませる・・・
『少し熱いが我慢してくれ』
そうキックが言った瞬間、目を開けていられないような業火が毛玉を飲み込んだ。
その余りの火力に戦義は一瞬にしてその姿を消した。
>> 128
⑤「すげぇ…」
鋭い牙から漏れる火炎に生唾を飲み込むセロは苦笑いを見せる。
⑭「あちらも勝負がつきそうだな」
竜であったキックは一瞬のうちに竜人へと戻ると意味深に竜剣を数秒見つめるとゆっくりと鞘に戻した。
直ぐ近くでは凱とグレーが剣を交えている。
スモッグ「珍しいモノを見せて貰ったぞ。魔科は残すところアヤツだけか」
⑭「そのようで」
九人の魔科を圧倒的な力でねじ伏せたキックは横に現れたスモッグに言う。
スモッグ「奇襲部隊も撤退を始めた。連合艦隊の総攻撃ももう時期に始まるぞ」
⑭「そうですか。ならば我らは打って出るだけです」
スモッグ「ふふ。せいぜい頑張るがいい」
スモッグはそう言い残し、白煙を上げ姿を消した。
>> 129
「全艦、爆撃を開始せよ」
「了解。攻撃開始」
「3・2・1・0、投下」
数万の連合艦隊により、黒の惑星は光を閉ざされていた。
そして、今まさに艦隊からの幾多の爆撃弾が投下されてゆく。
「先行艦は高度を下げ、着陸・出撃に備えよ」
「了解、爆撃終了しだい、着陸体勢に入る」
連合艦隊では通信が行き交い、順次、爆弾の投下が始まっていった。
地上では激しく爆発が起こり、砂に潜む宇宙海賊艦隊を襲う。爆撃は砂を巻き上げ、全てを呑み込み、破壊のかぎりを尽くしていく。
ミスチル「っ…攻撃が始まりました」
⑱ドグロ「言わんでも分かるわ!爆撃が止めば、敵が一気に押し寄せてくるぞ」
激しく衝撃の中、総指令部であるキングの中心部には味方からの途切れ途切れの通信が入っていた。
ミスチル「爆撃に…やられている。艦が続出…です」
⑱「ふんばれ」
爆弾の雨、死の雨は何万人もの銀狼の人々の命を奪いながら一時間以上その猛威をふるったのだった・・・
>> 130
①クリス「なんて…爆撃だ」
キングのシールド圏に退避しているクリスは爆撃の衝撃で膝をつき、天災のような激しい地揺れに立つことすら出来ずにいた。
③「あぁ…ひどいわ…皆が…」
セレナはクリスの傍らで銀狼の戦闘員に支えられながら泣き崩れていた。この戦いの旅を通し、賢者並みの力手にしたセレナ、しかし、皮肉にもその力(魔力)のせいで、爆撃で死にゆく銀狼の人々の《死》が手にとるように分かってしまうのだ。悲鳴が頭の中で木霊(コダマ)し、人々の恐怖がセレナに入ってきていた。
①「セレナ、今は耐えるんだ。皆の死は無駄にはしない」
鞘から剣を抜き、胸に剣を当て誓いを立てるように言う。圧倒的な兵力の差など気にもせず、クリスは戦いの勝利を確信していた。己を信じ、仲間を信じる想いはクリスにその実力以上の力を引き出していた。
③「クリス…」
(クリスのように強くなりたい。強く、優しい彼女のように…恐怖に怯むことなく立ち向かう彼女のようになりたい…)
銀狼を指揮するクリスを見つめながらセレナはそんなことを想っていた。
>> 131
爆煙が辺りを包む中、先程までの爆撃は止み、一瞬の静寂となっていた。
①「くる…皆!戦闘準備をとれ!」
「はっ…」
クリスは冷静さを失い困惑する銀狼隊に指令を出す、と同時に夥(オビタダ)しい機械音が四方から響いてきた。 爆煙を切り裂くように現れたのは巨大な黒玉であった。
「なっなんだ!」
①「最新型の敵船だ!しっかり!銃をかまえろ!」
無数の敵船はただ重量に沿って、地表へ落下していく。そして、敵船のハッチが開き、物々しいマスクを装着した連合兵が続々と降りてくる。
①「連合兵をキングへ近づけるな!」
「おぉ~!!」
レザーが飛び交う中、クリスは先頭をきって、敵兵へと駆けていった・・・
>> 132
グレー「やるな…我々(協会)のデータ以上の力だった…ぞ」
凱の渾身の剣撃を受け、ついに倒れ込むグレーは最後にそう言って動かなくなった。
⑦凱「…」
凱は剣を垂れ下げ、力なく今まで、死闘を繰り広げていた敵を見下ろす。
凱は今…
不思議な感覚であった。
まるで自分の身体が変わってしまったのではないか不安すらよぎる。
戦う時点ではグレーに遠く及ばない実力であった。しかし、戦う内に気づけば凱が上回っていた・・・
銀狼の血が覚醒してから己の力が格段に上がっているのが分かる。しかし、余りの急成長に凱がついていけずにいた。自分の成長に置いていかれるなんとも不思議な感覚である。
⑭キック「やったな」
⑦「あぁ。まだこれからだけどな」
グレーとの決着がついた同時刻、外では無数の黒玉の敵船が落下してきていた。
⑭「私はクリスたち(地上部隊)と合流する。凱はどうする?」
⑦「俺はシャードで狩りに出るぜ。ナナの奴、ちゃんと整備してるといいんだがな」
⑤「俺らはキックについていくよ」
嫌がるデビルを抱っこしながら窓越しから外の戦慄する風景に生唾を呑むセロがそう言うと苦笑いをした。
⑦「まぁ皆、死なね~ようにな」
>> 133
爆撃から戦闘は銃撃戦となっていた。だが、相変わらず、一方的な戦況は変わっていない。
爆撃による被害は深刻であり、宇宙海賊の戦艦の大多数はバリヤーにエネルギーを使い込み、直ぐに飛び立つことができずにいた。
連合軍は動けぬ戦艦に幾万もの地上部隊を投入し、戦艦もろともキングの落城を考えていた。
「撃て!撃て!怯むな!」
「右方向から新たな敵兵」
「くそ…!!」
「上空から敵の援軍!」
「なんて…数だ…」
仲間が次々に撃ち抜かれていく中、銀狼部隊は疲弊し、戦艦へ後退を余儀なくされているが…
後退すれば袋の鼠である。戦艦のエネルギーチャージ完了まで時間を稼ぐ必要があった。
銀狼の地上部隊は全滅しようとその任務を遂行するため、誰一人と前に持ち場を離れることはなかった。
「おぉ。やってるやってる…ぐふふ。死んでる死んでるねぇ」
そんな戦況を見つめる男いた。腰には鞭を携えているが、あまりの長さのため鞭を全身に巻き、まるで包帯人間のようである。
>> 134
「コイル中将チャンは…あらら?オーラが感じられないねぇ。死んじゃったかなぁ…ぐふふ」
大げさな素振りで辺りを見渡す。この鞭男、ベンガル中将はウマンダ星より、今回の連合艦隊に配備された7大中将の一人である。7大中将はキメラ将軍より、ウマンダ星を死守することを命じられていたが、ベンガル中将のたっての希望により唯一、この星に派遣されたのであった。
「コイル中将、かってな行動して無駄死にとは…ぐふふ」
ベンガル中将は鞭を掴むと下で闘う兵士たちを見つめる。
「リード将軍にこの戦いの手柄はやらない。私一人で宇宙海賊など壊滅してくれるは…ぐふふ」
ベンガル中将が鞭を放った瞬間、一瞬にして辺りの兵士は細切れとなり、その場は血の海となった。
「さぁお山の大将を殺しにいきましょうか」
鞭がうねり、乾いた音が辺りに響く。ベンガル中将はただ真っ直ぐキングへと向かっていく。敵味方、関係なしになぎ倒しながら・・・
>> 135
⑪リオ「クリスの奴!またあんな無茶して!」
前線から飛び出し、敵軍に単身、突っ込んでいくクリスを心配するリオは溜め息混じりにそう漏らした。横で作業するラ・ドルはそれを見て笑う。
ラ・ドル「あれが彼女なりの戦い方なんでしょう」
⑪「まぁね。でもなぁ…」
豪腕の銀狼により、キングから鉄が山のように運ばれてくる。それにリオが錬金術を施し、バリケードへと変える。また、それをラ・ドルが魔法で銀狼の防衛線に移動させていた。この二人の作業に鉄を運ぶ、銀狼たちがついていけないほど息の合った動きである。
ラ・ドル「とにかく我々は、彼女たちをサポートするのに専念しましょう」
⑪「了解ッ!!」
ラ・ドル「よ!」
⑪「とお!」
妙な掛け声と機敏な動きにより、劣勢の銀狼隊にバリケードが送られいく。
>> 136
「なんだ!この女は!ぐぁ!」
①「神の怒りを知れ」
「なっ」
銃弾の嵐の中、クリスはその全ての動きを見切り、なんなく敵を斬り倒していく。連合兵は一瞬にして隊列の中に割って入ってくるクリスに成す術もない。もっともクリスの動きについていける一般兵など、この世界にはいないのだが・・・
①「連合軍も落ちたものだ。数だけで兵の統率すらとれていない」
的確に敵を仕留めていくクリスの動きには一片の無駄はない。悪く言えば、待ち受ける敵将との戦いに備え、無駄な力は一切使えないほど彼女には余裕がないのかもしれない。
①「あれは…」
クリスは前方の敵軍から悪寒とともに血の飛沫と悲鳴が、近づいてくるのを感じ咄嗟に身を引いた。
①「なんなの…この強大なオーラは…」
『恐れ』などクリスにとっては兄以外には抱かない感情であるにも関わらず、それが近づいてくるにつれ、身体が小刻みに震えるのであった。
>> 137
①「な…」
一瞬、乾いた破裂音が辺りに響き、暫くし、空から血の雨が降ってくる。クリスは訳が分からないまま、血まみれになり、呆然と周りを見渡す。周りにいた数多くの兵士たちは誰一人立っているものはおらず、ただ、その場に横たわっていた。
ベンガル「大戦の英雄、クリス殿。お初にお目にかかります。我、連合軍、7大中将ベンガルと申します」
そう言って、無表情で一人の男が戦場の中にできた無の空間を静かに歩いてくる。
①「中将…」
(これほどの力で…まだ中将だと!?)
ベンガル「また、通称は《血の死神》とも呼ばれているがね…ぐふふ」
血がついた鞭を全身に巻いているため、真っ赤に染まった男はまさに彼が言うように《死神》を連想させた。
①「コイル中将の仇討ちにでも…きたか」
剣を構え、コイル中将を倒した際の記憶をよび起こす。
ベンガル「仇討ち。おあいにく…ぐふふ…我らはそのような仲よしグループではないのでね。中将は野望の塊のような人間ばかり、我らはお互いが邪魔で仕方ないのですよ」
>> 138
①「風よ!!」
ベンガル「させませんよ」
ベンガルは鞭を振るう、クリスは咄嗟に後方へと身を避けるが、鞭は一瞬にしてクリスの四肢を封じる。
①「くっ…」
ベンガル「貴方は素早さが売りのようですが…私の鞭は音速をも超える。人では反応すらできませんよ」
鞭をしならせる。クリスはその衝撃を受け、その場に叩きつけられてしまう。
ベンガル「おやおや。無様な姿だ。英雄とちまたでは騒がれている貴方たちだが…その程度とは…」
①「私は負けるわけにはいない。こんなところで!」
ゆっくりと立ち上がるクリスはその身体に風を纏わせていく。
ベンガル「無駄です。私の鞭に捕まったが最後、手足引きちぎるまで離しませんよ!ぐふふ!」
>> 139
ベンガル「ぬ!!」
突如、無数の炎の弾丸が、ベンガルが襲う。ベンガルはクリスを鞭から解放し、鞭を束とし、全ての炎の弾丸を弾き飛ばすと不機嫌そうに舌打ちをした。
①「あなた…」
身体が自由となり、素早くベンガルから距離をとるクリスは天から舞い降りた女を見つめる。
カリーナ「大丈夫か。うちらが来たからにはもう安心やで」
賞金稼ぎ7のメンバー、カリーナは颯爽と着地するとベンガルに向かって、拳を突き付ける。そして、カリーナの横には狐人が現れ、クリスに一瞥の冷たい視線を送ると鞘から剣を抜く。
隼「頭(カシラ)からの命令だ。ここは我らに任せ、お前はキングへ戻れ」
①「コイツは私の敵だ。私も戦う」
カリーナ「隼、そんな言い方したあかんってば。クリス、敵方の大将がじきに仕掛けてくるさかい、あんたはキングの守備に回るんや、こないな雑魚はうちに任せな」
①「しかし…」
会話に割って入ってくるようにベンガルの鞭が三人を襲う、三人は素早く鞭から身をかわすと臨戦態勢をとる。
ベンガル「この私を雑魚扱いとは…貴方、いい死にかたはしませんよ」
カリーナ「早よ!いき!」
①「くっ。すまない」
>> 140
⑦凱「こりゃ…ひでぇな」
銀狼の戦闘員が行き交う中を凱は走っていた。周りでは爆音が響き、担架で負傷兵が絶え間なく運び込まれている。
⑦「シャドーの奴が無事だといいんだが」
凱がいる格納庫は幾つかのハッチが爆撃で吹き飛び、火災がいたるところに発生していた。消火活動をする銀狼は次から次へと広がる火の手にどうすることも出来ずにいる。
ナナ「凱!こっちだ!」
人混みの中、銀色のマントを身に付け、一際目立つナナは凱を見つけ、手を振っていた。ナナの傍らには巨漢のヤンとザックが控えており、混乱の中、行き交う人々からナナを守っている。
⑦「ナナ、今まで何処ほっつき歩いてたんだ」
ナナ「そう言うな。この短期間でパーツを揃えて、修理するのは大変だったんだぞ」
ナナは自慢気に笑うと、ある一点を指差した。そこには銀白色の輝きが一層、強さを増したシャドーmkⅢがいた。
>> 141
ナナ「代金はしっかり請求させて貰うからな」
⑦「ちッ、ちゃっかりしてる奴だぜ」
請求書をチラつかせるナナから請求書を手荒く奪うと、凱はシャドーmkⅢへと駆けていく。
ナナ「おい…あ…ちょっと待て。ったく」
言葉を交わす間もなく、シャドーmkⅢに駆け込んでいく凱にナナは呆れると両脇に控える二人の顔を見て、目を細めた。
ザック「……」
ヤン「ガハハハ」
三人は凱が乗り込むのを見届けると銀狼の人混みへと消えていった。
⑦「シャドー!発進だ!」
乗り込むやいなや座席に座る。しかし、普段ない違和感に横に目をやると、大げさなヘルメットを被ったローナが笑っていた。
⑦「な…なんでいるんだ?」
ローナ「あら?私がいると不満かしら?」
小人族であるローナは一見、少女のように見える。しかし、その実態は数百歳であり、召喚魔術の使い手、賞金稼ぎ7、随一の頭脳派である。
ローナ「頭(カシラ)が補助として付いてやれって、だからお供致しますわ。凱ッチ」
⑦「う…」
シャド「ガイノ ニガテナ タイプダネ」
⑦「うせぇ!怪我してもしらねぇぜ!」
ローナ「ふふ。御気遣いなく」
>> 142
戦況は連合軍に傾くばかりであった。
宇宙から膨大な連合戦艦が舞い降り、宇宙海賊艦隊は次々に撃墜されていた。最早、空は連合軍の戦艦で一色に染まっている。
爆撃に押さえ込まれ、離陸すら出来ない宇宙海賊艦隊は投下される数百万の連合部隊との地上戦をやむ無くされていた。
地上では本来の力の半分も発揮できない艦隊、キングすら、ただの良い的となっていた。
「強大な力の前では…希望の光すら見ることは出来ぬのか」
強大な連合艦隊に光は閉ざされ、地上は闇に覆われていた。
そんな中、戦況を眺める賢人がいた。地の大賢者、オジオンである。彼の老いて尚も凛々しさがある顔立ち、その力強く澄んだ瞳、汚れのない純白のローブに杖、まさに聖人を思わせる人物である。
「魔法界すら、お前を止まることは出来ぬ…彼らが最後の希望…しかし、その光もこの戦いで消えゆくのか」
しかし、そんなオジオンすら埋もれてしまう闇がいた。
一辺の光すら通さない、闇がいた。
リード「魔法界は成す術なく、消えゆく存在…」
風の流れが止まる。
オジオンは背後に現れた闇に目を背け、天を仰ぐ。
オジオン「超えるか我らを」
>> 143
⑯リード「見よ、見るがよい。これが我ら…これが新たな力」
リードはその両手に持った二本の杖を交差させ、呪文を唱える。
凄まじい魔力が辺りに立ち込め、四方の戦艦が握り潰されたようにへしゃげていく。そして、鉄屑と化した無数の戦艦がリードの頭上に集まり、形を成していく。それは人間のような形を形成し、キングすら真っ二つに出来てしまいそうな大剣を携えていた。
戦況に突如現れた強大な物体に両軍は混乱し、逃げまどう。
⑯「軍義、戦義よ。我が力、存分に使うがよい」
『このような肉体を与えられ、有り難き、幸せ。将軍の御意のままに』
戦艦の塊であるソレは声を発し、ゆっくりと歩を進め始める。一歩進む度に、地は揺れ、耳を塞ぎたくような轟音を上げながらキングへとソレは進んでいく。
⑯「さぁ、止めてみよ。我らを…新たな力を」
オジオン「この老体、世界の為なら惜しくはない。貴様のおもうようにはさせぬぞ」
オジオンは金色の光を放ち、一筋の閃光となり、巨大なソレに向かっていく。
その目は光を見つめていた。
>> 144
⑦アル「なんだ…ありゃ!うおぉ!」
戦場の中を飛ぶシャドーmkⅢは突如、現れた巨大な物体から紙一重で機体を反らす。
ローナ「きゃぁ!」
余りに巨大なその物体。それが一体、何んなのか近くにいるシャドーmkⅢからは知ることが出来ない。
⑦「ちッ、味方ではないのは確かだけどよぉ」
凱は素早くハンドルを切る、物体が動き出し、シャドーmkⅢが危うく巻き込まれるところであったが、凱の機転で船は物体から逃れる。
ローナ「これは魔法よ。この強大な力…おそらく敵将のリード将軍だわ」
激しく左右に振られながらローナは叫んだ。凱は歯を食いしばりながら物体からやっと距離をとると物体の全貌を見て驚愕する。
⑦「こいつは…」
それ(物体)は、キングで戦った白仮面の剣士と似た外貌であった。唯一、大きく違うのはその大きさだけである。
⑦「マジかよ。こんな化物とどうやって戦えってんだ…」
ローナ「ウソでしょう…これ…戦艦で出来てるわ…な…なんてこと」
物体は戦艦が重なり合った集合体であった。一体、これに何れだけの人々が犠牲になったのだろうか。
>> 145
物体は地上の戦闘車両・砲弾をまるで玩具でも壊すように踏み潰し、戦場を力任せに進んでいく。
そんな縦横無尽の物体にシャドーmkⅢもただ周りを旋回することしか出来ずにいた。そうこうしている間にも物体は確実にキングへと近づいていく。
ローナ「あれは…なに!?」
そんな中、激しい振動にやっとの思いで捕まっていたローナが指を指し叫んだ。
⑦凱「どうした?」
ローナ「三時の方角、レザーには映ってないけど…ほら!アレ!」
シャドーmkⅢの横を金色に輝く光が高速で通り過ぎていく。光は鳥のように飛び、同じく物体の周りを旋回し始める。
ローナ「敵船かしら」
⑦「あんな動きは戦闘機じゃできねぇよ。あれは魔導の技だ」
シャドーmkⅢは道を譲るように物体から離れる。
⑦「誰かはしらねぇが…どうやらコイツの相手をしてくれるようだぜ」
光は輝きを増し、物体へと突っ込んでいく。物体は悲鳴のよえな大きな音を上げる。そして、光は物体を貫通すると再び、物体へと突っ込んでいく。それを繰り返すうちに物体の歩みは止まっていた。
⑦「今のうちに術者を見つけだすぞ!!」
「リョウカイ」
>> 146
①「な…なんだ…アレは…」
キングへと戻った矢先に突如、遠方に現れた巨大な物体にクリスは目を奪われていた。
⑪リオ「あれは魔法だね。とんでもない大魔法だよ」
目を奪われるクリスに背後からリオが話しかけてくる。爆炎でススだらけになった衣服を叩きながら戦場から戻ったクリスを心配して駆け寄ってきたのだった。
①「ッ…」
そんなススだらけの小さな戦士を見て、クリスは頼もしいやら可笑しいやらでつい苦笑してしまう。
⑫「あ~ッ!なに笑ってんだよ!ったく」
ラ・ドル「仲がよろしくて、いいですねぇ」
頭蓋骨を愛撫でしながらやってきたラ・ドルはそんな二人を見て、微笑ましく笑う。
ラ・ドル「ここが戦場でなかったらなおのこと良いのですが…」
キングの外では爆撃が止むことはなく、キングにはおびただしい負傷兵が運ばれてきていた。そんな負傷兵たちに三人は哀しみの目を向ける。
>> 147
①「セレナ!」
負傷兵を治療する看護師たちの中に見馴れた顔があった。
そこには白衣が血で染まり真っ赤となったセレナがいた。
③セレナ「クリス…」
クリスたちに気づき、切りの良いところで治療を終えると、こちらに向け駆け寄ってくる。
ラ・ドル「セレナ姫…お…王女であられる貴方様が、負傷兵の治療など」
ラ・ドルは血塗れの白衣を魔法で、剥ぎ取り、魔導師らしい純白のローブへと変える。
③セレナ「戦場では王女も王も関係ありませんよ」
ラ・ドル「し…しかし」
ミスチル「頼もしいかぎり、気高き姫様。皆様、お集まり戴けたようですな」
銀狼が行き交い混沌する中、銀狼たちが道をあける。やってきたのはドグロの右腕であり、参謀のミスチルであった。傍らにはキックとセロもいる。
ミスチル「事態は深刻です。敵方の将軍が動いた以上、我らも何らかの行動をせぬばなりません」
⑭キック「キング始動には今暫く、時間がかかる。キングが戦場に加われば少しは風向きも変わるだろう。今は一刻でも時間を稼がねばならない…少数精鋭、戦場を駆け抜け、リード将軍を討ちにいくぞ」
キックは力強く言い放つ。
>> 148
ミスチル「つ…つまりはそう言うことです」
言いたいことキックに言われ、不意をつかれたミスチルは言葉を詰まらせながら言う。
ミスチル「姫、そして、嵐の賢者ラ・ドル殿、魔導に長けたお二人ならあの物体の魔法の根源が何処にあるかお分かりになるでしょう?」
③「えぇ…確かに術者の場所はおおよそなら」
物体が進む度に大地は揺れる。
其ほどの巨大な魔法を扱う術者がリード将軍に他ならないのは確かだ。しかし、それは其ほどの魔法を操ることのできる人物であることを裏付けている。
①「勝てる…だろうか。私たちで」
⑭「どのみち、いつかは対峙せねばならない。ハーク殿の回復を待つ時間はない」
力強い口調のキックだが、彼とて勝算があるとは思ってはいない。しかし、逃げだすことは出来ないのだ。戦うしか道は残っていない。
ミスチル「あの魔法はおそらくキングが狙い。キングが破壊されては宇宙海賊に勝利はない…我らがリード将軍の元へ命をかけて貴方たちを送り届ける!!」
ミスチルは屈強な銀狼たちが数十人を率い、戦場へと飛び出す。
③「いきましょう。皆!!」
⑭「勝利を我らの手に!」
①「神のご加護があらんことを」
>> 149
一方、不気味な影はその標的を定めていた…
ベンガル「どこ、いくのですかね。あの女は…ぐふふ」
ベンガル中将は戦場の中、はっきりとクリスの動きを察知していた。体中に巻きつけた鞭についた血を舐め、不気味に身体を震わす。
隼「まて…ま…」
ベンガル「あ?まだ生きてたか…ぐふふ」
力なく剣を支えに立ち上がる狐人は立ち去ろうとするベンガルを呼び止め、傷ついた身体ながら殺気の満ちた視線を送ってくる。
ベンガル「私はなぶり殺しが好きでね。死ぬ寸前で止め…自然と死にゆく様を見るのが好きなのです。この娘のようにね」
ベンガルの足元には全身に傷を負ったカリーナが、今にも絶えそうな息づかいで倒れていた。
隼「ここまで…とは…」
隼は意識を失う最後までベンガルを睨みつけながら倒れ込む。
ベンガル「ゲームオーバー…さようなら」
そんな隼を見て、ベンガルは笑みを浮かべ、手を振り、去っていった…
>> 150
ドゴオォォォォォ…
ミスチル「我らが楯となり、道を切り開け!!」
「うおぉ!!」
ミスチルを先頭に銀狼部隊の護衛を受け、一同は爆炎の間を抜けながら戦場を駆け抜けていた。
周りでは連合軍の最新車両が行き交い、宇宙海賊と連合兵との銃撃戦が繰り広げられている。
⑭「改めてみると凄い数ですね」
③「これでもまだ氷山の一角にしか過ぎませんよ」
進めば進む程、周りには味方の姿はなくなり、ただ向かってくる連合兵のみとなっていく。多勢に無勢、今のクリスたちは例えるならアリが像の群れに挑むような無謀な状態であった。
ラ・ドル「あの岩の上から強大な魔力が感じられます」
一同の正面、数km先に視界に入ってきた岩石をラ・ドルは指さしながら連合兵をその高速魔法でなぎ倒していく。
ミスチル「おおぉ!私に続けぇええ!」
ミスチルは遠くに見えた目標を確認すると舌打ちをし、悲鳴を上げる身体に鞭うち、手榴弾を投げる。
皆に疲労の色が伺える。連戦連日の戦いにクリスたちと言えど、疲労は隠せないようだ。
岩石までの距離は中々、縮まることはなく、集まってくる連合兵との闘いは熾烈化する一方であった。
>> 151
①クリス「そう言えばデビルはどうしたの?セロ?」
連合兵の銃撃から巧みに身をかわし、その豊かな髪を靡かせながら問いかける。近くで奮闘していたセロは連合兵を黄金銃で撃ち抜きながらクリスと背中を合わせ、絶え絶えの息を整える。
⑤セロ「デビル…なら…ほら」
服をめくり上げ、腹部を見せるとそこには腹巻きのように巻きついたデビルがいた。デビルはクリスが目を丸くして見つめると不機嫌そうに睨み返してくる。
①「デビルったら」
デビル「おれっち、セロに監禁されてんの…うう」
⑤「こうでもしないと勝手にいなくなるだろう」
連合兵のレザー砲が二人を襲う。
直ぐ様、別れる二人。
連合軍の重機兵器がクリスたちを襲っていた。少数のクリスの大胆な行動に後手に回っていた連合兵たちだったが、クリスたちを完全に包囲することに成功していた。
①「囲まれたか…」
連合兵は円形に周りを取り囲み、低姿勢となり銃を構える。
ミスチル「私が岩石まで一気に道をあける。あとは貴方たちに任せましたよ」
ミスチルは唐突にそう言うと剣を天へとかざした…
>> 152
ミスチル「うおぉぉ!!!」
ミスチルは己の出せるだけの全てのオーラを解放する。オーラは剣へと宿り、技となる。
ミスチル「時空暫」
周囲の空間がネジ曲がり、一瞬にして、連合兵が消し飛んでいく。その威力の強さに反して、音が全くしないその技に周りの者全てを黙らせる。
ミスチル「行け…」
周囲が消し飛び、岩石までの道は開かれ、連合兵たちは恐怖からか動きを止める。ミスチルは技の反動で膝をつくと、辛そうな表情で一言だけ言葉を発した。
⑭キック「行くぞ!」
⑫リオ「必殺・車」
リオは錬金の陣を空に描き、連合軍の砲台が車体へと変わる。そこへリオが飛び乗ると他の者も続く。
①「見えた」
クリスはその超高速の走りで、一気に岩石を登りきると杖を天に向ける魔法使いの後ろ姿を見て足を止める。少し遅れて、素早く宙を舞いながらキックがやってくる。
①「お前がリード将軍か」
二本の杖を携えた魔法使いはゆっくりとこちらに振り向く。
⑯リード「いかにも我は連合軍3大将軍、リード将軍である」
人気を感じさせない青白い肌、一切を拒否する冷たい眼、その冷気のような魔力にクリスは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。
>> 153
①「くっ…」
剣先が小刻みに震えているのを気づく。己が震えているとそれで初めて認識したクリスは額から冷たい汗が流れ出るのが分かった。
⑭キック「クリス、邪悪なる者と対峙する時は自分の光を失ってはいけない」
リード将軍に睨まれ、動けないクリスの手をそっと手にとったキックはそう力強く言い、リード将軍とクリスの間に入る。
⑭「私は竜王の子キック、竜族の長となるものだ」
竜剣を抜き、大きく回転させると竜人独特の構え、剣を背後に回し構える。
⑯「私の魔力を前にして、剣を向けるとは…流石は竜王の子か」
二本の杖をゆっくりと交差させ、キックへと呪文を唱え始める。
⑭「させるか!龍竜!」
剣を突き出す。放たれたオーラ渦となり、竜の形を形成し、リード将軍へと一直線に向かっていく。
>> 154
⑯リード「醜いな。弱者の足掻きとはなんとも醜い…」
リード将軍の杖から放たれた邪悪な魔力にキックの技はいとも簡単に相殺されてしまった。
⑭「予想以上か」
竜剣を構え、一歩後ろに下がる。キックの中では最上位の技である龍竜すら、リード将軍はまるで蝋燭の火を吹き消すかのように何ら苦もせず消し去ったのだ。
⑭「くそ…ッ」
今のキックの剣術では敵う相手ではないと瞬時にキックは把握するが、竜の力の解放をしようにも上手くはいかない。
⑤セロ「クリス!キック!」
ようやくリオの錬金術で岩石の上まで上がってきた四人が駆けつけてくる。
③セレナ「皆で闘えば勝てるわ」
ラ・ドル「そうです。個の力では勝てなくても皆で団結すれば!!」
リオ「このリオ様の力見せつけてやるよ」
リード将軍の邪魔な魔力はセレナとラ・ドルの聖なる力で打ち消され、場の空気は一気に浄られていく。
⑯リード「小癪な、小わっぱ共が」
凄まじい魔力が放たれる。
今まさに、クリスたちとリード将軍との闘いが始まろうとしていた…
>> 155
⑯リード「貴様らが閣下の志向を邪魔することなどできぬ」
リード将軍は二本の杖を天へと掲げる。天から無数の落雷が落ち、空を飛ぶ、連合艦隊が墜落していく。
ラ・ドル「な…なんという魔力」
①「ち…違い過ぎる」
リード将軍から発せられる魔力に吹き飛ばされそうになり、クリスたちは必死に岩石に掴まる。
⑯「死して、閣下に歯向かった償いとしよ。美しく死ぬがよい」
凄まじい衝撃波と同時に、強大なエネルギー、黒い雷が天から落ちる。
ゴオオオォォォォォ!!
轟音の後に…
静寂が辺りを包む。
大地に大きく盛上った岩石はその姿を変え、雷の衝撃で大きな窪みができていた。
⑯「圧倒的、力の前では全てが無力」
灰となり、辺りは黒一色へと変貌している中、一部、弱く淡い光があった。
そこには負傷したクリスたちと己を楯にして皆を守ったラ・ドルがいた。
ラ・ドルは灰となった杖を手からこぼすと力なく倒れた。
- << 170 ⑪リオ「ラ・ドル!!」 崩れ落ちるように倒れ込むラ・ドルへリオが駆け寄る。 ①クリス「リオ!危ない!」 無我夢中に走るリオにリード将軍が放った闇が襲いかかる。しかし、リオはそれには気づいていない。 ⑪「えッうわぁぁ」 クリスが咄嗟に助けに入るも間に合わず、闇はリオを飲み込み不気味な音を発する。 ③セレナ「あぁ…そんな…」 闇は暫くすると消えてなくなり、痛みつけられ、衣服や装備がずたぼろになったリオが倒れていた。 ⑭キック「くっ!うおぉぉぉ!」 リオの痛々しい姿を見たキックは怒りの余り、単身、リード将軍へと斬りかかる。 ⑯リード「愚民が。己らの力、どれほど無力か…思い知るがいい」 素早く杖を交差させ、光を発する。その光はキックを包み込み、一瞬にして、石へと変えてしまった。 ゴトッ 石となったキックはただ重い音を立てて虚しく地面を転がる。 ①「そんな」 ⑯「さぁ、次は…誰だ?愚かな者どもよ」 リード将軍は冷たい眼差しで、クリスを見つめた。 『圧倒的、力の前では全てが無力』 連合軍との闘いで、多くの敵が発した言葉。 それを覆す為に闘ってきた。 しかし…
>> 156
【タカ伝】
彼は孤独だ。
他とは交わらず、何者にも侵されない。
彼が携える剣にはエルフ族の紋章が絶えることなく光輝いている。
彼の強い意思と同じように…
「なに、賊を倒すことなど大した苦ではない。気にしなくてもいい」
村を荒らしていた盗賊20人を一掃し血塗れになった一人の剣士は、頭を下げる村人たちに言った。
村長らしき男はお礼を手渡そうとするが、剣士は「金の為にしたわけではない」と言って、受けとらず立ち去っていく。
そんな剣士を、物陰から見つめる少女がいた。
少女は目は恐怖を写していた。
剣士はそんな少女を一瞥するとその鍔の大きい帽子を深く被り直す。
「盗賊を見る目と私を見る目は同じか…」
そう独り言を呟いた剣士は斬り捨てた盗賊の死体を避けながら重い足を一歩また一歩と動かし、あてもなく先へと進むのであった。
>> 157
【タカ伝】
世界最強の名を手にした彼に休まる日はない。
その名を奪おうとする者が絶えることなく彼の命を狙ってくるのだ。
彼はそんな刺客たちに襲われながらも祖国であるシーラ星冬国に安らぎを求め、旅を続けていた。
頂点に立つ前は
闘うことが生きがいだった。
生きることは闘うことだった。
闘いの中が死に場所だった。
だが…
必死に目指した終着点、頂点に登ってしまった虚無感は彼を闘いの野獣から人へ変えていた。
世界最強の名すら今の彼には何の価値もなかった。
「災厄、巷では私はそう呼ばれているそうだ」
悪を滅すれば人々から感謝されはするが、けっして、受け入れられはしない。
彼は森の中、腰を下ろし肩に止まった小鳥に話かけるが、小鳥は直ぐに飛んでいってしまう。
「小鳥にも嫌われたか」
微笑む彼だが、目は笑っていない。
>> 158
【タカ伝】
生い茂る木々、葉の間から微かに漏れる太陽光はひんやりとした木の影をほのかに暖めている。
一面、緑一色、そんな中に皮製の衣服に身を包んだ茶色一色の剣士は古びた帽子を傍らに置き、一時の休息を楽しんでいた。
しかし・・・
「もう少しゆっくりしたかったが…」
心地よい小鳥のさえずりが突然と止む、木々はざわめき、小鳥たちが一斉に空へと舞い上がる。
足音もなく無音、気づけば剣士の周りには十数名の妖刀を持つ者たちが現れた。
その者たちは狐のような尻尾を携えた人間、ウマンダ星に住まう狐人と呼ばれる種族たちである。
「フォックス殿の差し金か」
「さよう、我ら族長からの刺客、貴殿の首頂きにきた」
木の影から6本の尻尾を靡かせながら一人の狐人が現れる。
「蟷螂(カマキリ)殿が、お出ましとは」
剣士は剣を抜く。刻まれたエルフ族の紋章は赤く輝いていた。
蟷螂と名指しされた狐族の実質、No2の狐人は微かに口元を緩める。
「確か、貴殿と剣を交えたのは100年ぐらい前でしたな」
「あの時は私も若かった」
二人は剣を交える。
凄まじい音と共に激しい火花が飛び散った。
>> 159
【タカ伝】
「老いを知らぬ、エルフ族の貴方がなぜそのような成りに?」
二人は凄まじい剣速で、剣を繰り出す。
お互いの剣圧で周りの木々を次々に吹き飛ばされていく。
「私にも分からない。ただ、老いていく以上はそう長くは闘えまい。この力、引導を渡すのも近いかもしれないな」
剣士はそう言うと鋭い眼光を蟷螂に向け、その腹部に強烈な剣撃を浴びせる。
「ぐっ…なにを言いなさる…これだけの力があるのに」
致命傷を何とか避けた蟷螂ではあるが、その腹部の軽鎧は裂け、血がにじんでいた。
「敗北して以来、剣術だけで貴殿を倒すため修行を積んだが…やはり剣術だけでは勝てませんな」
蟷螂は剣を口でくわえ、両手を巧みに動かし印を結ぶ、するとみるみる傷は塞がり、蟷螂の肉体は獣のように変化していく。
「妖術か…相変わらず、やっかいだ」
剣士は高く飛び上がる。その瞬間、巨大な狐の化物と化した蟷螂から咆哮が発せられ、それは衝撃波となり、辺り一帯を飲み込んだ。
>> 160
【タカ伝】
「マジかよ…教官(蟷螂)を斬りやがった…しかも教官に妖術を使わすなんてよ」
余りにレベルが違い過ぎる二人の闘いを見守る他の狐人たちの中に一人、狐の尻尾を持たぬ者がいた。
「凱、俺たちはこの闘いを見守るように命令を受けてるだけだ。手を出すんじゃねぇぞ」
尻尾を持たない少年の肩を一人の狐人が押さえつけ、物陰に隠れさせる。
「分かってる!俺だって実力の違いぐらい分かってら!離せよ!砦!」
「いや離さん。貴様のことだ。世界最強の男と一剣ぐらい交えようって考えてるんだろう!」
「あぁ!離せ!コノヤロー!」
「俺たちはペア組まされてる!お前が命令違反すれば!俺も叱られるんだぞ!」
『てめぇ~!!!』
激戦の傍ら言い争う二人はタカと蟷螂など眼中に無く、取っ組み合いを始めたのだった。
>> 161
【タカ伝】
「騒がしいな」
剣士は木から木へ飛び移り、蟷螂から発せられた衝撃波を軽い身のこなしで避けていく。
『逃げてばかりとはらしくない。しかし、何時までも逃げ切れると思うな』
身の毛も弥立つ、牙を携えた巨狐、蟷螂はその大きな口を開ける。その瞬間、前方が一瞬にして消し飛ぶ。
「ッ!!」
剣士は紙一重で破壊波から逃れが、その凄まじい衝撃、爆風に煽られ、バランスを崩す。
『狐妖術、鳳凰!!!』
大地は大きく揺れ、蟷螂から凄まじいオーラが発せられる。
その刹那、
口から放たれたのは炎、
業火の渦、
一帯の空気は
一瞬にして乾燥し
周りにある木々は
灰へと変わる!!
「これは!!狐族の伝わる古の奥義ッ…!!」
バランスを崩した剣士を火の鳥と変わった業火が呑み込む。
業火は剣士を捉えた後もその勢いは止まらず、地平の彼方へと強さを弱まることなく破壊の限りを尽くしていく。
「くっ…」
業火が見えなくなった後、残ったのは焼け野はらであった。
そして、その焼け野はらでただ一人立っていたのは技を放った蟷螂であった。
>> 162
【タカ伝】
「はぁはぁ…力不足か…ッ」
蟷螂は先程の技で体力を使い切ったのか、妖術は解け、狐人の身となりその場に倒れ込むが、直ぐ様、土中から現れた他の狐人たちが抱え上げる。
「世話がやける。鳥、砦!宇宙船まで運んでやれ!」
「はっ。鬼教官!」
鳥と砦と呼ばれた若い狐人は胸に手を当て、返事をすると意識を失った蟷螂を運んでいく。
「あれが、奥義(鳳凰)かよ。すげぇ…あれじゃひとたまりもないな」
「凱か…未熟者が、タカは生きとる!感知術の授業をまたサボったな!」
凱と呼ばれた少年は鬼教官に首を掴み上げられ、怒鳴られる。
「サボってねぇよ。あれは俺の性に合わねぇだけだ!そんなことより…タカの留めはささなくていいのかよ!」
「蟷螂の最高の技を受け、倒せなければ奴は我らには倒せまい。狐人は勝てぬ闘いはせぬ、奴に勝てぬと分かった以上、撤退するのみだ」
「ちぃー、これだから狐人はよぉ」
「うるさい!お前も帰るんだ!」
叫ぶ少年を抱えながら鬼教官は地平の彼方で、狐族の奥義を受けてもなお強いオーラを放つ世界最強の男に恐怖すら覚えるのであった。
>> 163
【タカ伝】
「ッ…無茶をする」
幾多の大木を薙ぎ倒しようやく技から解放されたタカは言った。技の威力は凄まじく、通り過ぎた後には木々の破片すら残っていない。
「また、この文字に救われたか」
身体に浮き上がる文字、世界最強に引き継がれし文字、失われし文字がダメージを軽減してくれたようだ。
加護の力が、全身を優しく包み込んでいる。
文字の加護が無ければタカとて、跡形もなく消し飛んでいたことだろう。
其ほどの技を受けた反動は予想以上に大きく、タカの身体に異変が起こっていた。
「灯台もと暗し…この文字のせいだったか。この力の代償で老いていたわけか」
大の字で天を仰ぎながら倒れているタカは深いしわが刻まれ、やつれた手を天へとかざす。
失われし文字の輝きは緩に消えていく。
そして、
身体が急激に変化していく。
まるで、長い年月が過ぎていくように、タカの身体が老いていく…
「これも定めか」
止めようにも止められない老い、それに一瞬にして襲われるとは一体どのような気分なのだろうか。
恐怖か?絶望か?
身体に刻まれてゆく深いシワ、細くやつれてゆく手足、
目を背けるように彼はゆっくりと目を瞑った・・・
>> 164
【タカ伝】
誇示していた力が抜けていくのを感じた。
永遠と言う言葉が手の届かないところへと遠のいていった。
彼は今、世界でたった一人のエルフの老人へと変わっていた。
鋭く何人も寄せつけない眼光は優しく、か弱い目へと変わっていた。
しかし、彼は絶望してはいない・・・
「この文字は世界の鍵、つまりは世界の希望、願望かッ!!」
震える声でタカは声をあらげた。その声は歓喜に満ちている。
「この文字は私の追い求めていた…やすらぎを与えてくれたのだな…」
彼は・・・
タカはこの時、全てを理解した。
この文字の意味、世界が失った理由、真の意味を・・・
世界が向かうであろう道すら今の彼には見えただろう。
「私は役目は終わったのか…?」
この空、世界に話しかけるようにささやくタカ。
それに答えるように背後から突風が吹きつける。
「いや、どうやら最後の仕事が残っているようだな」
タカはゆっくりと振り返ると、太陽の光できらめく木々の中で、一際、映える青年がいた。
青年の目はタカのその世界最強の名を捉えていた。
>> 165
【タカ伝】
「これからは俺の名が世界に語られるだろう」
青年はその金色の瞳を鋭く輝かせ、言い放った。
霹靂(ヘキレキ)、彼の言葉に答えるように天は厚い雲に覆われ、雷鳴が鳴り響く。
「世界最強の名、その首とともに頂戴する」
青年は背中に背負った大剣を鞘から抜く。
大男でも扱いきれないであろう大剣を青年は片手で持ち上げると、俊敏にそれを動かし、肩慣らしを始める。
「ほぅ。その年で、天下をとりにきたか…」
タカは目の前に現れた底知れぬ力を携えた青年に笑みを浮かべていた。
己の命を取りにきた敵であるにも関わらず、タカは青年のような者を心待ちにしていた。
気が遠くなるほどの年月、待ち焦がれていた…
彼のような強者を…
「名を…聞かせてくれないか?」
そう、次なる世代の王者を…
「雷だ」
>> 166
【タカ伝】
「その剣の紋章…神剣ダリル家の者か」
「父を知っているのか…」
タカは青年がもつ大剣に彫られた鮮やかな紋章を指差すと、昔の淡い記憶を脳裏に呼び起こす。
剣豪雷神ダリル。
タカの戦歴の中で最強であろう敵の名である。
「そうか…そうか。アヤツの子か、ダリルは元気か」
「父は…死んだ」
「なっ!あれほどの強者が!馬鹿な…まさか、数年前のダンテスティン星でのDOISU計画の被害者になったのか」
「お前には関係ない話。知ってどうなる。さぁ、剣を抜け…二度とは言わない」
「ふっ。よかろう。世界最強の名に恥じぬ闘いを見せよう」
タカは青年に急かされ剣を抜くと、青年とダリルの影を重ねた。
後に人々に語り継がれたタカ伝にはこの時の闘いはこう綴られている。
“神と神との闘いのごとく、両者が動けば大地が動く”
“雷鳴は万にも届き、風は刃ともなった”
“タカは翼を失い、雷はその勢いを増した”
と…
>> 167
【タカ伝】
闘いは終わった。
世界最強、唯一無二の強者が誕生したのだ。
「終わりと言う始まり、次は貴殿が背負ってゆくのだ」
「これは…」
男から失われし文字が浮かび上がり、文字が身体から離れていく。そして、新な宿主へと吸い込まれていった。
男は知った。
運命という決して砕くことはできない鎖の連鎖を・・・
男は悟っていた。
彼に負ける為に、今この時まで勝ち続け、生き長らえてきたのだと。
彼に斬られ死ぬのが己の役目であると。
「一思いに…やるがいい」
斬り捨てろと言わんばかりに、大きく両手を広げたタカを残し、雷は背を向け歩いていく。
「待て、情けなどいらぬ!」
タカは叫んだ。
「情けなどではない」
「!?」
「語り手がおられねば伝説は拡がらんだろう」
雷はそう言い残し姿を消す。
>> 168
【タカ伝】
「なっ…」
絶句するエルフの老人。
美しかった花が枯れるように、老人からは力と言う象徴が消えていた。
(死ぬ定めではなかったのか?)
老人は心の中で神に何度も問いかけた。
しかし、返事はあるわけもなく、ただ虚しく風が吹き抜けるだけである。
死ぬ時、それは敗北の時。
しかし、その考えは間違っていた。
何故なら、己は敗北した今もこうして生きているのだから。
理由は簡潔極まる。
闘いの中に生きてきた。しかし、闘いの中が死に場所ではなかっただけ。
「ふふ…ははははははッ」
葛藤の末、老人は何故か笑っていた。
そんな老人を取り残し、世界には新な風が吹き抜ける。しかし、そんなことは気にも止めずに老人は笑うのを止めようとはしない。
敗北をきっしたこの時から、老人は力よりも大切な何かを見つけたのかもしれない。
《完》
>> 156
⑯リード「貴様らが閣下の志向を邪魔することなどできぬ」
リード将軍は二本の杖を天へと掲げる。天から無数の落雷が落ち、空を飛ぶ、連合艦隊が墜…
⑪リオ「ラ・ドル!!」
崩れ落ちるように倒れ込むラ・ドルへリオが駆け寄る。
①クリス「リオ!危ない!」
無我夢中に走るリオにリード将軍が放った闇が襲いかかる。しかし、リオはそれには気づいていない。
⑪「えッうわぁぁ」
クリスが咄嗟に助けに入るも間に合わず、闇はリオを飲み込み不気味な音を発する。
③セレナ「あぁ…そんな…」
闇は暫くすると消えてなくなり、痛みつけられ、衣服や装備がずたぼろになったリオが倒れていた。
⑭キック「くっ!うおぉぉぉ!」
リオの痛々しい姿を見たキックは怒りの余り、単身、リード将軍へと斬りかかる。
⑯リード「愚民が。己らの力、どれほど無力か…思い知るがいい」
素早く杖を交差させ、光を発する。その光はキックを包み込み、一瞬にして、石へと変えてしまった。
ゴトッ
石となったキックはただ重い音を立てて虚しく地面を転がる。
①「そんな」
⑯「さぁ、次は…誰だ?愚かな者どもよ」
リード将軍は冷たい眼差しで、クリスを見つめた。
『圧倒的、力の前では全てが無力』
連合軍との闘いで、多くの敵が発した言葉。
それを覆す為に闘ってきた。
しかし…
>> 170
⑤セロ「お前の好きにはさせねぇ!!」
2丁の黄金銃を素早く抜くと、その銃口をリード将軍へと向けて叫んだ。
⑯リード「ほぅ。まだ私に牙を向けるか…」
セロの雄叫びを上げながら黄金銃の引き金を引く。金色に輝く光弾、今までにない強力な魔法弾がリード将軍を飲み込んだ。
③セレナ「すごいッ」
⑤「え…マジッ」
余りの威力に魔法弾を放った当人は大きく後ろに飛ばされる。
感情の高まりにより、黄金銃が反応したのであろうが、クリスやセレナはもちろんセロですらその威力に驚いた。
⑯「き…貴様ぁ…よくも私に傷を」
不覚にも一撃を受けたリード将軍は焦げ爛れたマントを破り捨て、怒りをあらわにし凄まじい魔力の矛先をセロへと向ける。
デビル「いただぁきぃ」
その時、地中から体毛が繰り出し、リード将軍の動きを封じる。
⑯「!?」
⑤「クリス!今だ!」
①「…あぁ!」
クリスはセロの言葉を受け、高く飛び上がった・・・
>> 171
①「全ての力をぶつける!」
砂埃を巻き上げながら華麗に宙に舞う。クリスは全身全霊の力を父ダリルから授かった愛剣へと注いだ。
『決して、困難に挫けるな。前を向いて生きるんだ』
父が死に際に残した言葉が頭に浮かぶ。
思えば、父が死んだあの日から、クリスは強大な闇との闘いを決意したのだ。
①「あきらめない!絶対に!」
その決心は変わらない。ドイスを倒すまで、クリスは戦い続けると決めた。だから亡き父の為にも、目の前のリード将軍程度の壁などに立ち止まってはいられないのだ。
⑯リード「無駄だ」
杖を刃に変化させ、デビルの体毛を斬り落としたリード将軍は宙に舞う恰好の的であるクリスを睨み付けた。
③セレナ「いきますよ」
⑤セロ「了解、うおぉぉ~!」
セレナが放った業火とセロの魔法弾が一つになり、凄まじい光源、灼熱のエネルギー波となってリード将軍を襲う。
⑯「なんだと」
咄嗟に防御魔法を唱えたリード将軍だったが、エネルギー波はいとも簡単に魔法壁は貫く。
>> 172
⑯リード「無駄だ。そんなものでは私は捉えられない」
エネルギー波を移動魔法で、避けたリード将軍は冷酷な表情で笑みを浮かべる。
①クリス「私を忘れてないか」
⑯「ッ!?」
エネルギー波を目眩ましに、近づいたクリスは剣を降り下ろした。リード将軍は移動魔法を唱える間もなく、二本の杖を交差させ、ガードしようとするも閃光を放ち光の刃となったクリスの剣は簡単に杖を叩き斬るとその勢いのまま、リード将軍の左腕を切り落とした。
⑯「私の腕を…あぁ…なんと醜い」
①「神剣、極めたり」
クリスの剣の輝きが更に増す。
剣は光となり、形を消しているので、光の刃のように見える。
神剣ダリルは光を自在に操り、刃にすることが出来たという。強敵を前にした極限状態で、まだ完全とまでは言えないがクリスはそれを会得したのである。
リード将軍「醜い…醜い」
将軍は移動魔法で移動しながら闇魔法を放つが、クリスは高速移動で直ぐに間を詰め、闇魔法は光で切り裂く。
①「覚悟しろ!はッ!」
⑯「……」
クリスの剣はリード将軍を捉え、腹部を真っ二つに斬り抜いた。
>> 173
リード将軍の二つに割れた身体は地面に力なく横たわる。しかし、クリスは剣を構えるのを止めることなく周りを見渡す。
⑤「クリス!やったな!」
①「馬鹿言ってないで、気を張りなさい。これは、幻覚よ」
近寄ってきたセロにクリスはあるところを指差す。セロの顔色は急に青白くなり、何もなくなっているリード将軍の身体があった場所を見つめた。
暫くすると辺りに闇がたち込め、不気味な甲高い無数の笑い声が響いてくる。
⑯リード「中々、楽しませて貰ったぞ。私の幻覚との闘いはどうであった?」
地中からすっと現れたリード将軍は健全な左腕を見せると不気味な笑みを見せた。
①「来い!今の私は誰にも止められない!」
光輝く剣を将軍へと向けるクリスだが、リード将軍の笑みは消えない。
⑯「美しい。確かに貴女の技、厄介だが…あとどれ程の時間使えるのだ?」
闇をも払い、全てのものを斬り裂く剣。しかし、その輝きは徐々に薄れてきていた。
⑯「いでよ。我が僕たちよ」
召喚魔法を唱える。リード将軍の周囲には、無数の魔法陣が現れ、そこから人形の黒い鬼が現れる。
>> 174
⑯「あの者共を…殺れ」
『御意』
リード将軍の命令を受け、黒鬼たちは一斉にクリスたちに襲いかかる。
デビル「化物だぁ不味そう」
⑤セロ「お前も化物だろ」
デビル「ちがうやい!おらっちは珍獣王なんだもんね!」
セロの肩に乗り、舌を出すデビル。セロは黄金銃をかまえ、黒鬼に向けて連射した。
①クリス「セレナ、援護お願い」
③セレナ「分かったわ。気をつけて」
魔法陣から次々に出現する黒鬼の群れにクリスは挑んでいく。
少し離れた上空ではシャドーmkⅢが巨大物体を操る術者を探していた。
⑦凱「あの岩の上、シャドー拡大してくれ」
「アイアイサー」
液晶画面に大きく窪んだ岩山が表示され、徐々にズームされていく。窪みの中央にはリード将軍、不気味な黒鬼たちがいるのが写し出された。
「アタリ ガイノヤマカンハヨクアタルネェ」
ローナ「クリスたちもいるわ」
液晶画面に小さく写っていたクリスを指差し、ローナが叫ぶ。するとシャドーmkⅢは一気に高度を落とし岩山へと一直線で向かっていく。
>> 175
ローナ「ちょ…ちょっと!?」
ゴオォォォォォ…
⑦凱「おし、突っ込むか。シャドー」
「アァ マタキズダラケダヨ シールドオープン」
地上までの距離がみるみる縮まっていき、警報音が響き激しく船体が揺れる。
ローナ「え!?え!?ちょッ…突っ込む?ウソでしょ?」
⑦「心配いらねぇ。俺は墜落し慣れてっから」
ローナ「墜落し慣れてるって…全然、安心できないんですけど!キャア~!」
轟音を上げながら岩山へとシャドーmkⅢが滑り込む。土砂や砂埃を巻き上げ、途中、黒鬼たちを薙ぎ倒しながらリード将軍へと突っ込んでいく。
⑯リード「なッ…馬鹿な」
ゴオォォォォォ!!!
流石のリード将軍も予想外の乱入者に困惑し、魔法を使う間もなく、ただ横へ飛びかろうじてシャドーmkⅢのタックルを避けた。シャドーmkⅢは勢いに逆らうことなく、岩山を滑り、暫くして静止する。
⑦凱「無事着陸。ナナの奴、中々いい仕事してんじゃねぇか!」
ローナ「あんた…いつもこんな無茶苦茶な運転…してるの…はぁはぁ」
「マダマシナホウダヨ」
冷や汗で背中がびっしょり濡れたローナは二人の会話を聞いて絶句するのであった。
>> 176
①クリス「凱の船だわ」
⑤セロ「相変わらず無茶するなぁ」
土煙が立ち込め視界が悪い中、シャドーmkⅢの銀色装甲が一際、輝いていた。
⑯リード「小癪な…魔法陣を…くっ」
砂埃まみれになったリード将軍は砂を払う。召喚獣の魔法陣はシャドーmkⅢにより破壊され、黒鬼たちは消え失せていた。
⑦凱「待たせたな」
シャドーmkⅢのハッチが開き、凱が颯爽と降りてくる。シャドーmkⅢは凱を降ろすと直ぐに空高く上昇していった。
⑦「さぁかかってきやがれ」
その手に握られた見慣れた二本剣から以前とは比べものにならないほどのオーラが満ちている。
⑯「貴様はあの時の剣士か…未熟児とは言えパーフェクトから生き延びていたとは驚いた。だが…また性懲りもなく私の前に現れるとは馬鹿者だな」
リード将軍は白髪の長髪を靡かせ、冷たい眼光で凱を睨み付けると二本の杖を交差させる。
⑯「へっ…宇宙ではお世話になったな。今度は俺様がお前にお返しする番だぜ」
⑯「少しは成長したようだが…貴様に果してできるかな?」
以前ならば刃向かうことすらできなかった凱だが、銀狼の力が目覚め始めた凱はリード将軍の強大な魔力に臆することはなかった。
>> 177
⑯リード「では、貴様の力、見せて貰おうか」
突如、青白く輝く魔法陣が凱の周りに現れ、魔法陣からは黒仮面を被った剣士達が召喚される。
⑦凱「1…3…7人か。面白れぇじゃねぇか」
現れた剣士7人を一瞥すると凱は俄然やる気を出し剣を構えた。
⑯「そやつらはキングへ送った軍義・戦義と同等の力がある者たち。貴様に倒せるかな?」
高みの見物とでも言いたいのか、リード将軍は浮遊魔法で宙を舞って見せる。
①クリス「凱!手伝うぞ!」
⑦「いや、いい。これはアイツからの挑戦だからな!引けねぇぜ!」
クリスを制止し、凱はオーラを剣へと集中させる。黒仮面の剣士たちは多方面から一斉に凱へと斬りかかってくる。
⑦「真・爆炎阿修羅斬り!!」
凱が動いた。
その瞬間、7人の剣士たちは次々に爆炎を上げ、倒れていく。
凱は少し離れた位置に着地する。凱が通った後には燃え盛る剣士たちで炎のロードが出来ていた。
⑯「馬鹿な…瞬殺だと。この短期間でどうやってこれ程の力をつけた…!?」
⑦「俺様にも分かんねぇんだがよぉ。最近、調子良いんだわ」
カチャ
炎を帯びた剣を鞘に戻し、笑みを見せた凱にリード将軍は自然と一歩後ろに下がるのであった。
>> 178
⑯リード「ふっふふ…中々、楽しめそうではないか」
凱の底知れぬ力に咄嗟に退いたリード将軍は自分のらしからぬ行動に、自然と笑いが起こる。
⑦凱「キック…リオ」
そんなリード将軍など凱は目もくれず、石となったキックや変わり果てたリオに駆け寄る。傷ついたリオ抱え上げた凱の眼は怒りの炎に燃えていた。
⑯「私が憎いか…ならば…かかってこぬか?どうした?」
空を舞うリード将軍は大げさに手を広げ、挑発的な態度をとる。
⑦「てめぇ…」
リオを優しく寝かせ、凱はゆっくりと立ち上がると血が出るほど、己の拳を握り締め、身体中の血管を浮き上がらせる。
⑯「なるほど…貴様のその急成長、たしか…銀狼とのハーフであったな。覚醒か…興味深いな」
⑦「ゆるさねぇ…ゆるさねぞ。お前…」
凱のオーラが爆発的に上がる。そして、髪が逆立ち、眼は金色へと変色した。
⑯「だが、所詮は…化物。下等生物よ、死ぬがよい」
③セレナ「危ない!!」
①クリス「くっ!!」
リード将軍から発せられた邪悪な魔力が、連鎖爆発を生む。一瞬にして、周囲一帯は爆炎に飲み込まれた・・・
>> 179
黒煙が辺りを包み、周囲一帯は破壊尽くされ荒地と化す。
⑯「無駄な足掻きを…醜いぞ」
そんな中、聖なる輝きを纏わせ、強力な魔法壁で仲間を守ったセレナは高らかと杖を掲げていた。
③セレナ「私は風の大賢者が認めた魔法使い。貴方になど負けないわ」
風の大賢者ハークから授かった銀色杖はセレナの力強い魔力に反応するように一層の輝きを放っていた。
⑯「大賢者ごときの公認だと?…笑わせてくれるな!!」
⑦凱「させねぇぜ」
再び、魔法を放とうとするリード将軍の目の前に凱が現れる。そして、凱は二刀の剣を交差させ、オーラを集中させる。
⑦「俺様の十八番くらいな!ガイブレード!」
身体を刃とするガイブレード。
その迅速の刃は有無を言わせず、リード将軍を切り裂いた。
>> 180
⑯リード「貴様ぁ…」
凱は確かな手応えを感じた。
ガイブレイドの反動が解け、直ぐにリード将軍へと目をやった。すると血を流しているはずのリード将軍は平然な表情でいるではないか。
⑦凱「お前…機械か!!」
⑯「私を傷つけた代償は大きいぞ」
衣服を剥ぎ取り、深く切り裂かれた腹部を見せる。銀白色の合金で出来た身体から傷口はみるみるうちに塞がっていった。
⑯「貴様らごときにこの力を使うのは少々気がひけるが…闇の帝王、魔王が従えていたという召喚獣を見せてやろう」
⑦「ちっ」
召喚魔法を唱え始める。阻止しようと凱は斬りかかるが、衝撃派を受け、遠方へと飛ばされてしまう。
どす黒い、邪悪な邪気が噴出し巨大な魔法陣が3つ出現する。
③セレナ「召喚させちゃだめ!!」
対抗呪文を唱えるセレナだったが、リード将軍の魔力に対抗することはできずにいた。
ゴオォォォォォ
⑯「闇より生まれし…邪竜よ。全てを飲み込み、全てを消せ」
泥の塊、竜の形は型どっているが竜とは異なる。
『ギャアアアアアアア』
この世にはいない異質な生き物が召喚される。
>> 181
『ギアァァァァ』
この世のモノとは思えない不気味な生き物。
三頭の竜たちは耳を塞ぎたくなるような悲鳴に似た雄叫びを上げた。
生気のない黒眼、茶褐色の泥のような身体は、かろうじて、竜のような形を維持しているが、皮膚は絶え間なく垂れ落ち、それに触れた岩は氷のように溶けてゆく。
①クリス「なんなんだアレは…」
邪竜と言うよりも泥竜、見た目も凄まじいが、臭いも凄まじい。当分はとれそうにない異臭が辺りに立ち込めている。
③セレナ「ダンテスティン国に伝わる伝説に出てくる邪竜…魔王軍の…全てを消し去る魔物…なんてこと…」
セレナはダンテスティン城で書物を読み漁っていた時のことを思い出した。ダンテスティン城には古くからの貴重な書籍が保管されている。そんな本を読むのが、つまらない城の生活の中でセレナの一番の楽しみであったのだ。
そんな中には、魔王軍に関することが綴られたものも多く、邪竜も取り上げられていたのだ。
死し者。
決して
滅ぶことのない生き物たち。
『邪竜とだけは儂も闘いたくありませんの。邪竜と渡り合えるのは剣の賢者ゴウ殿ぐらいじゃ』
邪竜について質問したセレナにハークがこう返答したのも覚えている。
>> 182
③セレナ「皆!避けて!」
セレナがそう叫んだ刹那、3頭の邪竜たちの口から濁流のごとく泥が吐き出される。泥は、全てを飲み込み、一瞬にしてあらゆるものを消し去る。
⑦凱「あの泥に触れるな!やべぇぜ!」
泥を吐き終えた邪竜が巨体を震わせ、咆哮を上げる。圧倒的な力、まさに連合軍が追い求めている力がそこにはあるようにすらみえる。
⑯リード「閣下はかつて…世界を闇から支配していたという魔王、その技すら子供騙しだとおしゃられる。連合軍は魔王すら超える力を求めているのだ」
将軍は杖を邪竜へと向けた。魔力を注ぎ込まれた邪竜たちは苦しみ始め、形を失っていく。
①クリス「なにをする気だ」
⑯「見よ、邪竜を超える恐怖の産物、ヒドラだ」
邪竜はお互い引き付け合うように融合し新な形を型どっていく。3つの頭を携えた巨大竜、真っ黒い液体のような身体は闇そのものをみるようである。
⑦「マジか…よ」
⑯「この星ごと、消し去ってくれるわ」
将軍が声はヒドラが発した破壊砲で遮られる…
ドキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
>> 183
地平線の彼方で、眩い閃光が発せられる。
数秒後、地平線の彼方でキノコ曇が上がると凄まじい破壊音と爆風がやってくる。
一瞬、何が起こったのか理解に苦しむほど、ヒドラが発した破壊砲は目にも止まらぬ速さであったのだ。
⑦凱「見えなかったぞ…ウソだろ」
地平線の先には星の一部が欠けて、大地が大きく変形したようすが見てとれる。想像を絶する力が星をも破壊したのだ。
⑯リード「ふっふふ…ははは。素晴らしい。これぞ絶対的な力だ!閣下、私めにこのような力、御貸し下さり感謝致します!」
リード将軍はヒドラのパワーに賞賛し、大げさに手を広げる。
①「世界が終わる…」
クリスの脳裏に世界の終焉が浮かぶ。だが、絶望からの想像ではない。連合軍の力を目の当たりにして、この力を止めなければならないと思う意思からだった。
①「止める。私の命に代えても…ドイス、お前の野望はな」
>> 184
⑦凱「真・ガイブレイド」
①クリス「風よ」
凱とクリスは連携し、山のように立ちはだかるヒドラに技を放つが、液体のようなボディは技を吸収しダメージは与えられない。ヒドラはクリスたちなど気にも止めず、第2波の破壊砲を放つため、生々しい口を大きく開け始める。
⑯リード「無駄だ。ヒドラは物理的な攻撃を全て無力と化す。星を破壊しつくすまで止めることはできないわ」
先ほどの破壊砲の影響で、黒の惑星には絶えず小さな地震が起こっていた。まるで星が悲鳴を上げているようかのようである。
③セレナ「こんな強大な力、私では止められない…」
⑤セロ「セレナ、一端、ここから離れよう!巻きぞいに合うぞ!」
傷ついたキック、リオ、ラ・ドルの三人を守るだけしか出来ないセレナは巨大なヒドラを見やげながら自分の無力さに唇を噛んでいた。
⑦「こいつは(ヒドラ)は止めれなくとも術者であるお前を倒せばいいだけだ!!」
⑯「ふっ、単細胞が…ヒドラは召喚魔法ではない、異空間移動魔法で本国より呼び寄せた本物の化物。私が死のが、ヒドラは滅びぬ。ヒドラを絶つ以外に方法などないわ」
⑦「なんだと…お…お前の話なんか信じるかよ!!」
>> 185
⑦凱「ッ…!?」
将軍に斬りかかろうとする凱の前に煙が立ち込め、煙は人形へと変っていく。
スモッグ「無闇に動くのは止めろ。奴の言うことは嘘ではない」
⑦「ちッ、俺の邪魔するのが好きな奴だぜ…」
そして、煙は最早、見慣れた霧の賢者スモッグとなっていた。白マントにくるまり、相変わらず、不健康そうな青白い顔である。
スモッグ「連合軍3大兵器、X砲に次ぐ…星破壊兵器ヒドラ。実物を見たのは初めてだが…想像以上だな」
①クリス「あれが連合軍3大兵器なのか?生物だぞ」
スモッグ「なに、兵器が皆、無機物とか限るまい」
マントを広げ、杖をかまえるスモッグは無表情のまま言った。だが、クリスは倒れたラ・ドルを一瞥したスモッグを見逃さなかった。彼の杖を握る力がいつにも増して強いのも感じとっていた。
⑯「終わりにしようか。ヒドラを呼び寄せた以上、私もここには長居できぬのでな」
将軍が魔法を放とうとしたその時、遠方より轟音が上がる…
>> 186
圧巻するほど巨漢である全長千メートル近いヒドラすら小さく見えてしまう。
超巨大戦艦キングが爆音と爆風を上げ、飛び立つ。周りでは連合軍の戦艦が容赦なく砲撃を浴びせているが、キングは怯むことなく高度を上げていた。
⑤セロ「やった!やっとチャージが終わったようだな!うひゅー!」
歓喜の声を上げるセロ。
連合艦隊のど真ん中を飛ぶキングは圧倒的存在で、戦場の光となって、クリスたちはもちろんのこと疲弊した宇宙海賊に希望・闘志を与える。
⑯「馬鹿な…連合艦隊が空から押さえこんでいたはず…飛び立てるはずがない…私の軍義・戦義はどうしたのだ??」
一番の驚きを見せるリード将軍は、召喚した巨大剣士を探す。先ほどまで、遠方からでもはっきり見てとれた巨大剣士は何処を探しても見当たらない。
⑯「…!?」
オジオン「将軍、どうやら風の向きが変わってきたようじゃの」
ナナ「よっと、金属で作ったモノなら俺様に任せなさいってな。この大錬金術師ナナ様にな」
銀色に輝く金属製の円盤に乗ってやってきたナナは地面に着地すると、地の大賢者オジオンに手を差しのべ、円盤から下ろす。
>> 187
オジオン「すまぬ」
オジオンが降りると円盤は目にも止まらぬ速さで変形、縮小しナナのローブの胸ポケットに収まる。
⑯「笑わせるな、私の魔法を一度打ち破ったぐらいで…状況は何も変わってなどいないのだぞ」
キングを指さす将軍。その瞬間、ヒドラが第2波の破壊砲を放つ。大地は大きく揺れ、またしても星の一部が消滅してしまう。
ゴオォォォォォ…
⑯「キングが動き出そうとも…圧倒的な軍勢の連合艦隊、それに加え、このヒドラまでいるのだ。貴様たちに万が一にも勝目はない」
将軍は誇らし気、ほくそ笑んだ。
オジオン「ヒドラ?そのコントロールすら出来ていない怪物のことか?」
キングとは正反対の場所へ歩み始めるヒドラを見つめる大賢人はそのご自慢の髭を撫でた。
⑯「…ッ。ヒドラと我らの目的は同じ、破壊だ!コントロールなど必要ないわ」
オジオン「ならば、この星ごとお前も滅びよ」
オジオンが動く。大地が割れ、そこから無数の岩石が将軍目掛けて飛んでいく。将軍はその岩石を杖一振りで消し去るが、背後から迫る金属線に絡みつかれてしまう。
⑯「醜い…」
ナナ「お相手、願うぜ」
だが、金属線は将軍を縛り上げる前に、腐食し砂へと変わる。
>> 188
⑦凱「手伝うぜ!ナナ!」
ナナ「邪魔だけはしてくれるなよ!凱!」
先程の円盤を再び出現させ、それに飛び乗ったナナは錬金により、作り出した長剣を構えた。その横を凱が駆け抜け、一目で将軍へと向かっていく。
⑯「遊びは終わりだ」
蛇のようにうねる闇魔法を近づく凱に放つ。しかし、魔法は大地から突如現れた鉄壁に防がれる。同時にナナが「世話がやけるぜ」と呟いた。
⑦「トルネード・真・ガイブレイド!!」
渦となり、剣となり、凱は将軍へ技を放った。しかし、凱は宇宙空間での無重力を味わうように、宙に浮き止まる。
⑯「消えよ!!」
凱に技を止められたと認識する間すら与えず、将軍は魔導の刃を放ち、凱を大きく後方へと飛ばす。
ナナ「凱!!…ッ!?」
冷酷な眼が次に捉えたのは、ナナであった。ナナは苦しみだすと、血を吐き出し倒れ込む。将軍の闇魔法が襲ったのだ。
⑯「無力。貴様らはな」
①クリス「どうかな。勝負はまだついてないぞ」
光輝く検筋が映えた。
⑯「なっ…」
光の剣は将軍の腹部を捉えていた。
>> 189
⑯リード「こ…娘が…ッ」
リード将軍の腹部は大きく裂けているが、凱が与えたダメージ同様、傷が塞がっていく。
⑯「私は不滅だ…ん!?」
腹部の再生が未完全のまま止まる。将軍は訳が分からない様子で、腹部を手で押さえた。
①「風よ!!」
隙だらけの将軍に追撃を加える。クリスの剣は、リード将軍の右腕を切り落とした。
⑯「…馬鹿な。な…なぜ、再生せんのだ」
クリスは狼狽える将軍に更に剣撃を浴びせ、将軍の胸に大きく傷をつける。流石の機械人間もこれには堪らず、よろめく。
⑯「くっ。美しいぞ。私をここまで追い詰めるとは!!」
①「逃がすか!!」
斬りかかるクリスに魔法を放なとうとする将軍に、地の大賢者オジオンが妨害呪文を唱える。
オジオン「くっ…誰じゃ!?」
ベンガル「み~つけた~ぁ。ぐふふ」
しかし、オジオンの杖に鞭が絡みつき、将軍の妨害を阻止される。すさかさず、将軍はクリスを魔法であし払い、移動魔法で天高く飛び上がった。
>> 190
ベンガル「将軍、ご無事なにより。ぐふふぅ」
全身に鞭を巻いた異質な鞭使いは舌を出しながらクリスを見つめる。
①クリス「お前…カリーナたちは…どうした…まさか」
普通の女性なら悲鳴を上げる不気味な男にクリスは言い寄った。
鞭使いは下品に笑うと…
ベンガル「死~んじゃったぁ…ぐふふ」
血のついた鞭を舐め回しながら挑発的に言う。その挑発にまんまと乗せられたクリスはベンガルへと斬りかかった。
ガシャン…
①「くっ」
ナナ「待て…はぁはぁ。安い挑発に乗るな。アイツらなら大丈夫だ。なんせ、この大錬金術師ナナ様の部下だからな」
口元に血を垂らしたナナがクリス前に割って入る。クリスの剣を受け止めたナナの剣は真っ二つ割れ、そのクリスの剣撃にナナは思わず眉毛を上げる。
ベンガル「あらら?残念…向かってきたら蜂の巣だったのにねぇ」
ベンガルが立つ周りの空間がねじれ、裂ける。
空間の狭間から現れた魔科(マカ)たちは銃をかまえ、クリスに標準を合わせる。おそらく、突っ込んでいたならば魔科たちの魔科具の前に倒れていただろう。
>> 191
⑯「ベンガル中将、ウマンダ星に常駐せよとの命令だったはずではないのか」
片腕を失い身体も傷だらけのリード将軍は精一杯、威厳を込めて言うが、ベンガル中将は高笑いで返す。
ベンガル「将軍。あんた…俺がいなけりゃ死んでたよ。今回は大目に見て下さいよ…ぐふふ」
⑯「私は不滅だ。貴様みたいな低俗の助けなどいらぬ」
将軍に吐き捨てられるように言われ、ベンガルは不満そうにそっぽを向く。
スモッグ「新手か…やっかいだな」
⑦「ちッ…クリスに美味しいとこ取られたぜ…あいたた」
輪としたたたずまいで立つスモッグの傍ら、胡座をかいて座り込み、頭をかく凱はため息をつく。
⑯「まぁよい。この者どもを一掃せよ…将軍命令だ。私はウマンダ星に帰還する」
ベンガル「了解しやしたよ…ぐふふ」
鞭を振るう。周囲一帯に乾いた破裂音が響いた。
>> 192
べンガル「そう言うことだ…将軍逃避行までの時間稼ぎ、しちゃいましょう。ぐふふ」
周囲の空間が裂け、至るところから魔科たちが現れる。
①クリス「こいつ恐ろしく強いぞ!気をつけろ!」
オジオン「将軍を逃がすでない。手負いの今が奴を倒す好機だぞ」
スモッグ「分かっております」
①「行くぞ」
オジオンは光弾を浴びせ、数名の魔科を吹き飛ばす。その隙にスモッグとクリスが将軍を追う。
⑦凱「おい!鞭使い!俺が相手になってやるぜ!」
ベンガル「ありゃ…また逃げられた」
駆けていくクリスを追おうとするベンガルに凱が立ちはだかるが、横から突飛ばされてしまう。
ナナ「俺の部下に手出したのはお前だな!凱、手だすんじゃねぇぞ!こいつぁ俺がやる!」
巨大なハンマーを錬金し、軽々と持ち上げたナナは眉間に皺を寄せながら叫んだ。
⑦凱「なにすんだ…ったく。ナナの奴、マジモードかよ…やべーぇな」
>> 193
重い金属音が響く。ナナの身体が銀白色へと変わり、今度は鉄を熱したように赤色へと変わっていく。
ベンガル「ぐふふ…切り刻んであげますよ」
湯気立つマグマのような身体をゆっくりと前に進める。何をするでもなく、真っ正面からベンガル中将へと向かってゆく。
それに反応し、ベンガル中将が身体を取り巻く、鞭を瞬時に標的へと浴びせた。その動き(速さ)を近くで観戦していた凱が短い口笛を吹いた。
鞭の猛攻を受けるナナ、だが、その鞭は溶け込むように蒸発してしまう。
⑦凱「金属人間。灼熱モード、今のナナは無敵だぜ。熱ち」
ナナから発せられる熱気に凱は思わず、距離をとる。
ゆっくりと歩きながらナナはついにベンガル中将の御前に立った。灼熱の身体でゆっくりと拳を握る。不思議なことに、衣服が燃え落ちることなく、ご自慢のマントが風でなびいている。
ベンガル「ぐふふ。きッ…きな」
ナナ「俺の拳は熱いぜ」
ナナが動く。と言ってもただ腹目掛けて目一杯の力で、拳を突き出すだけであった。
しかし、その拳の威力ときたら山の噴火にも似たパワーである。拳に触れたベンガルは言葉にならない声を上げ、炎に包まれる。
>> 194
ナナとベンガルとの一騎討ちの決着がついた頃、周囲にいた魔科たちはオジオン、凱の活躍により一掃されていた。
⑦凱「じいさんやるじゃねぇか」
オジオン「若いもんにはまだ負けぬわ。ふん」
陽気に腕を組み合わせ、勝利を祝う二人。堅物のイメージであったオジオンだったが、意外な一面もあるらしかった。
ナナ「こりゃ、2、3日は肩こりだわ」
普段の人肌に戻ったナナは炎に包まれ動かなくなったベンガル中将の横で、背筋を伸ばしながらぼやく。
③セレナ「オジオン殿!私たちの仲間を助けてくれませんか!」
闘いが終わり、セレナが大賢者に駆け寄る。その直ぐ後ろにキック、リオ、ラ・ドルの三人を台車に乗せて汗だくで運ぶセロが走る。
オジオン「闇の魔術か…やっかいだの」
石となったキックをこつこつ叩きながらオジオンは疲れた表情を見せる。だが、セレナの返答としてはOKそうだ。
オジオン「術を解くのに時間がかかる。ここではできまい。キングへ戻ろうぞ」
幾何学模様の魔法陣を出現させ、陣の中に入れるように促す。そこに傷ついた仲間をセロが運ぶ。
>> 195
③セレナ「私はクリスを追います。セロ、三人を頼みましたよ」
魔法陣が青白い光を放ち始める。
⑤セロ「セレナ、危険だぞ。一緒に来いよ」
連合艦隊に取り囲まれ、爆撃の中のキングだが、この戦場で一番の安全地帯であるのに違いない。
オジオン「何を言っても無駄だろう。姫よ。気をつけなさい。貴方は、国を背負っておるのだからな。では、また会おう皆の衆」
魔法陣が眩い光を放つ。その瞬間、セロの胸から黒い影が飛び出した。
⑤「あっ…おま…」
セロはそれを捕まえようとするが、魔法が発動しその場から姿を消してしまう。
デビル「にっしし。俺っちも手伝うもんねぇ」
⑦凱「おっ、デビルも参戦かよ。んじゃ、行くぜ。のりな!!」
甲高いブスター音が頭上で響く。暫くすると銀色に輝くシャドーmkⅢが地上へ舞い降りてきた。
⑦「お前はどうすんだ?」
ナナ「ここまできたら…最後まで付き合う。この大錬金術様がいれば百人力だろ」
シャドーmkⅢのハッチが開き、船内の奥から凱の悪口を叫ぶローナ声が響いてくる。
凱は頭をかきながら愛船へ乗り込むのであった…
>> 196
ヒドラの発する破壊砲により、黒の惑星はその生命を失いつつあった。大規模な地殻変動が起こり、星の機能が狂い始め、大気は荒れ、落雷と地鳴りが鳴り響いている。
スモッグ「この星もいずれ爆発する。もって一時間ぐらいだぞ」
①クリス「なら、早いとこすませないとな」
戦艦、戦闘機、戦車、砲弾、あらゆる兵器の残骸が地表を埋め尽くしていた。そんな片らをクリスたちは駆け抜けていく。
キングが飛び立った今、地上戦は大方の決着がついたようで、周囲には連合軍の姿は見当たらない。
戦場は再び、戦艦同士の空中へと変わっていた。キングに続き、キングジュニアを含む生き残っていた宇宙海賊艦隊が空へ飛び立っていく。その勢力は半数以下に減ってはいるが、連合軍の大空襲でまだこれ程の戦艦が残っていたとは驚きである。
対して、連合軍は数は減っているのではあろうが、まだ無数の戦艦が空を支配し、宇宙海賊を待ち構えていた。
>> 197
①クリス「浮遊魔法を!!」
スモッグ「私に命令するな…このような事態でなかったら消しさってやるところだが、今は特例だ」
リード将軍は左右に揺れながら上空を飛んでいた。どうやら思った以上にダメージは大きいようで、クリスたちが追いつくのはそう難しいことではなかった。将軍を捉えたクリスはスモッグの浮遊魔法を受け、空へと舞い上がる。
⑯リード「私に勝った気でいるなら間違いだぞ」
①「息のねを止めるまでは勝負は終わらないさ」
残った左腕で杖を構えた将軍は鋭い眼光で、魔導の衝撃波を放つ。クリスは剣を盾に魔法を防ぐが、第2波の衝撃波に耐えきれず、飛ばされる。
スモッグ「私を忘れてもらっては困る」
今度は、スモッグが杖の水晶から火花を出しながら将軍の前へ現れ、魔法で将軍の杖を弾くと、圧縮された空気の固まりを無防備な将軍へとぶつけ、金属がへしゃげる音を発しながら将軍を地上へと叩きつける。
⑯「ッ…無駄…だ」
スモッグ「ちっ」
しかし、スモッグが与えたダメージは直ぐに再生してしまう。地上で立ち上がった将軍は、笑みを浮かべた。
>> 198
スモッグ「ちっ…止めは貴様にやろう」
⑯リード「!?」
①クリス「風よ。悪を討つために私に力をお貸し下さい」
背後の気配に気付いた将軍は振り返るが、時は既に遅かった。
将軍へと剣を降り下ろされる。
⑯「なッ…」
将軍を切り抜いたクリスは勢い余って半回転すると、剣を鞘へと収めた。そして、軽く息を吐くと額の汗を拭う。
スモッグ「…ゴクリ」
黒煙を上げ、倒れた将軍を見つめ、スモッグは生唾を飲み込む。リード将軍を倒してしまったクリスに恐怖すら覚えていた。
クリスの光の剣撃、あらゆる切り裂き、魔法・能力の効果をも無効にする力を持つ最強の剣撃。名に恥じぬ、世界最強の剣術《神剣》である。
剣撃を目で追うことすらできなかったスモッグはクリスの成長に、末恐ろしいものを感じていたのだった。
スモッグ「ッ!!」
将軍の亡骸から突如、光が発せられ、小規模な爆発が起こる。
>> 199
スモッグ「だ…誰だ…!?」
らしくなく口を大きく開けながら、黒煙の中から現れた者へ問いかける。
⑯リード「何を言う。私はリード将軍だ」
①クリス「か…かわいい…」
黒煙が風で運ばれ姿を現した5、6歳の子供が胸を張り言った。
背丈には合わない大きな衣服着た子供は、ローブやマント引きずりながらその愛らしい顔立ちで、杖をかまえる。
①「将軍だと…」
⑯「貴女よ、その力、気にいったぞ。私の妃にしてやる。有り難く思うがよい…さぁ一緒に本国へ参ろう」
手を差しのべ、クリスにアプローチする子供はなんともおかしく見えた。
①「だ…誰か。お前の妻なんかになるかッ」
赤面するクリスはどうしていいのか分からず、不恰好に剣を抜き、かまえる。
⑯「おお、中々、よい顔をするではないか」
スモッグ「ま…まて。茶番劇はもういい。貴様がリード将軍ならば生かしておくわけにはいかん!!」
クリスを凝視する子供の前に現れたスモッグは杖を子供の額へ当てる。
>> 200
⑯リード「私の邪魔をするな」
子供は己の杖をスモッグの杖を払うと、凄まじい魔力を発しスモッグを吹き飛ばす。
スモッグ「な…まだこんな力が残っているのか」
余りの魔力に、近づくことすらできないスモッグは後退しながら叫ぶ。
⑯「さぁ、迎えもきた参ろう」
小さな身体ながら大人時以上の力を見せつけるリード将軍はクリスにゆっくり近づいていく。
①「誰かいくか!!」
剣に再び、光を纏わせたクリスは低姿勢で、斬りかかる。しかし、将軍の影から出た触角ような魔法に掴まり、身体を締め付けられる。
⑯「拒否する権利はない。暴れてもかまわんが、その魔法がよけいにくい込むだけだぞ」
①「は…離せ!!」
空から連合軍の移送船が舞い降りる。ハッチが開き、数名の連合兵が降りてくると敬礼をして列をつくる。
将軍は魔法でクリスを宙に浮かせると、移送船へと歩き、それに従うようにクリスも成す術なく船へと運ばれていく。
スモッグ「待て!させぬ!」
⑯「邪魔をするなと言ったろ」
鋭い闇魔法がスモッグに大きくな風穴を空け、スモッグは煙のように消えてしまう。
>> 201
しかし、簡単にやられるスモッグではなかった。
移送船の周りを取り囲むように数百のスモッグが現れたのだ。霧の賢者の称号をもつ、スモッグ得意の分身魔法である。
スモッグ「ふふ、こちらも少し本気を出させてもらう」
⑯「死に急ぎたいようだな」
将軍は杖を天へとかざす。スモッグもそれを見て、同じく杖を天へかざした。魔力では将軍に軍配が上がるが、スモッグが引くことはなかった。
両者の闘いの火蓋がとられようとした時、風の向きが変わり、周囲の音が無くなり無音となる。
⑯「なんだ」
スモッグ「おお…主よ」
一握りの目映い光が現れ、数秒間周りを飛ぶとしだいに光は大きくなり、人形へと変わる。
②ハーク「どうやら間に合ったようじゃの」
光から現れたのはキングで一時の休息をとっていた風の大賢者ハークであった。
⑯「もうお身体は大丈夫なのかな」
②「心配無用、この通りピンピンしとるわ。お陰様での」
子供姿の将軍に少し驚いた様子のハークだったが、取り乱すこともなく淡々と話す。将軍はハークの出現に闘うことを止め、杖を下ろしている。
>> 202
柔らかい。穏やかな風が戦場を吹き抜ける。爆音の騒音しかなかった戦場に風の優しい音が駆けていた。
②ハーク「魔法界の魔法老も下界に干渉することを許可して下さっておる」
⑯リード「何が言いたい?大賢者よ?」
鮮烈な戦場は、一時の静寂となっていた。魔導の何もしらない連合軍の一般兵たちも銀狼たちも大賢者ハークの出現、全てを包み込む優しい力を潜在的に感じとっているのだろう。
②「連合軍は世界中の人々はもちろん魔法界を相手にすることになろうぞ。光はしだいに大きくなっておる」
大賢者ハークは穏やかな口調で言った。しかし、その言葉には殺意以上の意味が込められていた。
⑯リード「魔法界など、我が国家の前では敵にあらず。閣下の力は、貴様らが考える神をも超える」
将軍は小さな身体を目一杯、回転させマントを広げて見せた。将軍の影は人形ではなく、歪に歪んでいた。
②「ドイスは何を望んでおるのんじゃ…何を企てておるのじゃ…アヤツは…」
ハークは将軍の影に世界の行く先を垣間見、思わずそう口にした。量ることができないドイスという闇にハークすら恐れを隠せなかったのだ。
>> 203
⑯リード「世界の破滅、この世の破滅だ」
②ハーク「ぬう!?」
将軍は子供らしからぬ笑みを浮かべた。無表情にも似た笑み、形を成して形がない歪な虚無の笑いであった。と当時に、将軍の闇魔法である紺紫の光が辺りに広がっていく。ハークは対抗呪文で、金色の鳥のような光を無数に出現させる。お互いの魔法がぶつかり合い、相殺し合うと凄まじい衝撃波が発生した。
⑯「ふふ。流石は名高い風の大賢者。簡単には殺れぬか。この続きはウマンダ星でしようではないか。キメラ将軍も交えてな」
②ハーク「逃がすと思おとるのかのぅ」
マントを翻し背を見せた将軍にハークは杖を振るった。風は渦となり、大地を切り裂きながら将軍へ向かっていく。将軍は「ふっ」と軽く呟くと、魔法で抱え上げていたクリスをその渦へと投げ飛ばした。
②「くっ…卑怯な!!」
クリスを盾にした将軍に、ハークは致し方なく魔法を反らせた。その瞬間、将軍は姿を消したのだった。
スモッグ「追いますか…ご命令とあらば」
移動魔法で消えた将軍を追おうとしないハークの傍らに、白煙が立ち込め、将軍を迎えにきた一個大隊の移送船を破壊し終えたスモッグが現れる。
>> 204
②ハーク「よい、将軍は宇宙空間へ飛びよった。追って闘っても生身の我々では分がわるいじゃろう」
クリスを優しく淡い光で包み込み、そっと地面へとつけたハークは空を見つめながら言った。
スモッグ「あの者どもしか出来ぬ荒行ですか…油断しました。完全に退路をたったつもりでしたが…」
スモッグは周りを囲った数百の分身たち見渡し杖を振る。分身は風に運ばれ次々に煙となって消えていった。
①クリス「ハーク殿、申し訳ない。私のせいで…」
②「気にするでない。それより、将軍が居なくなろうともこの闘い続くじゃろう。なんとしても勝たねばならぬぞ。クリス」
再び、爆音が辺りに響き始めた。戦いがまた始まったのだ。
①「でも…どうやったら…戦力が違い過ぎます」
②「キングでウマンダ星へ向うのじゃ。あそこには狐族がおる。味方にできれば、このピンタゴ星雲の戦いに勝利できるじゃろう」
①「この連合艦隊と戦いながら行けと…そんなの無理です」
②「儂らが手伝おう。追い風に乗ってゆくのだ」
ハークが見つめる先に、2つの魔法陣が現れる。
>> 205
チャリン
七色の神秘的な輝きを放つ魔法陣から現れたのは、白いドレスを纏った美人であった。
チャリン
腰に紐で巻き付けた鈴が動く度に鳴り、聞き慣れた音を上げる。
マリーン「ご機嫌よう」
黒い肌、細い手足は彼女の可憐さをより一層引き立てている。羨むほどの容姿を備えた彼女こそ、女神とまで言われる雷の大賢者マリーンである。
マリーンの後ろにはアイシスがいた。彼女は、医者であり、爆弾使いと過激な側面もある銀狼である。
オジオン「待ちくたびれたぞ」
もう一つの魔法陣からは世界の監視者、地の大賢者オジオンが現れる。7大賢者のうち、またしても三人がここに揃う。
①クリス「マリーン殿、身体は大丈夫なんですか?」
マリーン「人間になって身体が弱くなるどころか、回復能力が逆に上がちゃて。この通り、完全回復…主治医付きで退院したわ。無理したら監禁再入院だって」
アイシス「凱も変な女に捕まったね」
冗談を入れたつもりで話すマリーンだが、後ろで見つめるアイシスの目はマジであった。
②「では、さっそくやるとしようかの」
①「!?」
>> 207
①クリス「なにを…」
訳が分からないといった様子のクリス。
スモッグ「飛ぶぞ」
スモッグは短く言葉を発すると、有無を言わせずクリスの手を握る。その瞬間、クリスの視界は閃光に包まれた。
①「っ…」
まるで空でも飛んでいるかのような浮遊感、上も下も分からない宙が回るような錯覚の後、訪れたのは吐き気であった。
クリスは口を押さえ、何とか吐き気に耐えながら横で仁王立ちするスモッグを軽く睨むと周りを一望する。
先ほどまでいた殺風景の戦場から、可愛いらしい花柄の壁紙、小物で溢れかえったこじんまりした部屋へと変わっていた。
スモッグ「ふん。空間移動は苦手か」
①「今ので苦手になったよ。ここは…何処なんだ?」
スモッグ「ふん。ここはキングの中だ。連合軍の爆撃を飛び越えたせいか…移動目標から少しずれてしまったが、キングには辿り着けたようだ」
不機嫌そうにそう言うと、スモッグは部屋にあった小窓から外の様子を伺う。
ゴオオオオオ…
①「今度はなんだ!?」
スモッグ「始まったな…ふっふふ…魔法界の歴史に刻まれる出来事になるぞ」
激しい振動が起こると、突風が吹き荒れる音が聞こえ始める…
>> 208
連合軍の主力艦隊が蔓延る空へ、キングは悠々と宇宙へ向け順調に高度を上げていた。
数百万にものぼる連合軍の大型艦隊の砲台からはおびただしい攻撃がキングへ放たれているが、その攻撃はキングを覆う青白い光に吸収されている。
フォースフィールド。
世界最強の軍隊、連合艦隊の総攻撃すら防ぐ、強力なバリアーである。
そのフォースフィールドの領域へ、生き残った宇宙海賊艦は次々に入っていき、今、宇宙海賊全軍はキングへと集結しようとしていた。
⑱ドグロ「キングジュニア、各戦艦への連絡は済んだか?」
ミスチル「はっ、総戦力をキングへ集結させております」
⑱「ふっ、いつでも良いぞ。大賢者ども…」
ミスチル「!?」
キングの中心部、宇宙海賊の総指揮官ドグロは、キングの舵取りの先をウマンダ星に向けていた…
>> 209
【あの人は今】
ダンテスティン星、一昔前までは世界で最も栄えた星であった。魔法大国とも呼ばれ、大賢者ハークを筆頭に多くの魔法使いがいた。
しかし、《あの事件》と呼ばれる惨事により、多くの人命が奪われ、国自体の存続すら危ぶまれる状態の中、国力は衰退する一歩であった。
そんな中、始まった連合軍の世界侵略の進軍、ダンテスティン星は戦火に見舞われる。力の源であった魔法使いを失った国に最早、戦をする力はなかった。
ダンテスティン国は今、連合軍によって占領されていた。優美なダンテスティン城も見る影もなく、瓦礫の山と変わっており、緑豊かな市街は、絶えることなく炎が上がり、戦車団が縦横無尽に駆け巡り、破壊の限りを尽くしていた。
アーム「総将軍、民のゲリラ攻撃も大分と大人しくなってきましたぜ」
軍服姿の肉付きのいい大男は、ご自慢の顎髭を触り、ハマチを吹かしながら言った。
連合軍雷部隊、隊長。特殊戦車乗り、アーム・ストロング少佐である。
⑫雷「そうか」
ダンテスティン城の玉座の間に立つ金色の甲冑に身を包んだ金髪の剣士はだだ一言そう言った。まだ、歳は20歳前半であろう幼い顔つきではあるが、その黄金の眼からは《恐怖》すら感じる。
>> 210
【あの人は今】
アーム「もっと嬉しそうにしたらどうです?う…あんたの為に死にものぐるいでこの国を乗っ取ったんだぜ」
アーム少佐は無反応の雷将軍に、ご立腹の様子で胡座を組んで座ってみせる。
⑫雷「……」
キルト「おい!おっさん!何を言いやがる!雷さんの身になってみな!ここは雷さんの故郷なんだぞ!ボケ!」
大小様々な円盤を腰にぶら下げた小汚ない青年が、柱の影から現れるとアーム少佐に罵声を浴びせる。
雷の側近、修道院からの仲であるキルトである。
アーム「ガキは黙ってろい。ひき殺すぞ」
キルト「ッ……」
アーム「将軍、いつまでも傷心に浸ってるわけにいきますまい?」
殺気に満ちた視線をキルトに浴びせ、黙らせるとアームは将軍を見据える。
⑫雷「我々は…時を待つだけだ。あちらからやってくるのをな。暫し待て命令だ」
雷総将軍の意味深な言葉にアームは頭をかく。
雷は会話も早々に、幼い頃、過ごした町が燃えゆく様を見つめ直した。
>> 211
【あの人は今】
キルト「あの野郎、兄貴に対してなんて態度だ。なんなら俺がアイツの首を落としてやりましょうか」
玉座の間を出て行ったアーム少佐に向けて、舌を出すキルトは生々しく輝きを放つ円盤を手に取って言った。
⑫雷「止めておけ、アイツは態度は悪いが、いざとなれば頼りになる男だ」
キルト「頼りになるねぇ…髭ずらのあのおっさんが?信じられねぇ」
⑫「……」
雷将軍は赤々と町を燃やす炎を見つめながら、父ダリルのことを想い出していた。
『お前たちだけでも逃げるんだ!私たちのことは気にするな!』
『行きなさい!雷!クリス!』
あの事件の時、雷の父と母は勇敢に闘った。自らの子たちを守るために…
そして、殺されたのだ。
あの事件
人々が語ろうとはしない事件の真相
あの事件とは
DOISU計画によって生み出された人口知能ロボットの暴走。
ロボットが暴走し人々を襲ったのだ。
知能を備え進化したロボットが選んだのは、人を襲うこと…
それも容赦なく…
そして、その殺戮ロボットたちは自らをドイスと名乗った…
>> 212
【あの人は今】
思い出したくもない過去の記憶。だが、あの事件の記憶は忘れることなどできはしないのだ。
夜な夜な悪夢となって事件が鮮明に蘇る。復讐を果たせと自分自身を罵り、苦しめるように…
悪夢となって…
あの事件は繰り返される。
ベネズエラ「将軍!?」
キルト「兄貴!!」
呼び声で、雷将軍は我にかえる。ただ事ではない将軍の顔色にやってきた闇魔法使いベネズエラが駆け寄ると癒し魔法を唱える。
⑫雷「すまない。もう大丈夫だ…何のようだ?ベネズエラ?」
手を貸そうとするキルトを制すると、雷将軍はしっかりとした口調で言った。
ベネズエラ「将軍お疲れのところ悪いのですが…」
⑫雷「気にするな」
ベネズエラ「例の探索の件です。流石は魔法大国のダンテスティン城、何重ものまやかし魔法がかけられ探すのに手間取りましたが、地下路への入口を発見しました。おそらく、ドイス閣下が追い求めてこられた地下路かと思われます」
歓喜を隠せないのか、ベネズエラは震える声を上げた。
⑫「そうか…案内しろ」
ベネズエラ「はっ。こちらで御座います」
>> 213
【あの人は今】
7人の大賢者が唯一過去に一度だけ、共同で放った大魔法がある。
それは、ダンテスティン城の地下深くに眠る魔王を封印する魔法であった。
強力な封印魔法は、破られることもなく現在も魔を封印している。
キルト「兄貴、例の探索?なんの話です?俺、知りませんよ」
⑫雷「お前には関わりのない話だ」
キルト「ちい…」
薄暗い地下へと続く階段をベネズエラを先頭に三人は降りていく。気味の悪い、冷たい冷気が吹きぬけていた。
ベネズエラ「あれです将軍」
階段の終わりには、重そうな鋼鉄の両開きの扉があった。ダンテスティン国、王家の紋章が扉には刻まれ、その中央には何かをはめ込むような小さな窪みがある。
⑫「間違いない…これだ…」
小さな窪みを指でなぞるように雷将軍は扉を触るとそう言った。
ベネズエラ「強力な…私では到底破ることができない封印魔法が施されており、この扉は開けることができません」
キルト「なんだよ。それ…じゃあ、兵器を使えよ」
キルトが扉を蹴とばすと、地鳴りと共に小さく地面揺れ始める。
キルト「な…なんだ!?」
⑫「……」
ベネズエラ「危険です!将軍!お下がりを!」
咄嗟に扉から離れる三人。
>> 214
【あの人は今】
暫くすると揺れは収まる。
キルト「なんだったんだ」
ベネズエラ「扉の封印魔法です。この封印魔法を破ろうとするなら反発してくるんです」
ゴオオオオオ…
⑫「……」
今度は、爆音が地上から聞こえてくる。爆音はしだいに大きくなり、その爆音を上げる正体が見えてくる。
ボディが白一色。手足が異常に長い赤い一つ目のロボットが飛んでくる。
ミスター「将軍。お出でになられていたとは」
ロボットは凄まじい着地音で着地すると、背中についた飛行用の羽を収納し、その3m以上の身体をゆっくり倒しお辞儀をする。
キルト「けっ…あのおっさんとこのロボットかよ」
アーム少佐を思い出しながらロボットを指さす。ミスターはまた軽くお辞儀をした。
ミスター「将軍。ありとあらゆる兵器を用い扉の破壊を試みましたが無理でありました。我が、連合軍艦隊の総攻撃でも破壊できる可能性は0.0015しかありません」
ベネズエラ「面目なく…魔法班、軍どちらもお手上げでありまして」
⑫「開け方なら分かっている」
ベネズエラ「本当ですか!?」
>> 215
【あの人は今】
⑫雷「ふッ。開け方どころか、中身もな…」
ベネズエラ「??」
意味深に囁いた雷将軍の口元は微かに震えていた。
将軍は扉の先にある見てはいけない何かを見てしまったかのように、おぞましい顔で扉から目を反す。だが、幸いにもそれに気づいた者はいなかった。
ベネズエラ「本国へ至急連絡致します。閣下もさぞかしお喜びになられることでしょう」
⑫雷「いい…私からドイス閣下に報告する」
ベネズエラ「はっ…将軍直々に…?よろしくので?」
⑫「何度も言わすな。それより…ここへの立ち入りは禁じよ。入口を私の直轄部隊に警護させる。お前はもう下がってよい、ベネズエラご苦労であったな」
ベネズエラ「…では、私めはこれで」
闇魔法使いは将軍のただらなぬ様子に疑問を抱きながらも姿を消す。
⑫「ミスター、城下町の雷部隊をここへ集結させよ。本国の連合兵は近づけさせるな…」
ミスター「かしこまりました。命令遂行上、障害になる者は抹消してもかまいませんか?」
⑫「かまわん。近づく者は殺せ。早くいけ…」
ミスター「了解」
>> 216
【あの人は今】
ミスター「発進!!」
その巨大をスピンさせ、ド派手な音を上げながらミスターは飛んで行った。その際、大量にブースター(ロケット式)から黒煙が吐き出され、キルトはロボットに向け、怒鳴り声を上げる。
キルト「まったく。近頃はCO2削減じゃねぇのか…なんだよ、あの燃料垂れ流しロボットは」
⑫「キルト。その何でもかんでも悪口を言う癖は直せ…お前は子供の頃からいつまで経っても成長せんな」
キルト「兄貴ぃ…痛いとこ突っ込みますね。
そんなことより」
キルトは軽快なステップで扉の前を何度か行き来すると
キルト「これなんです?隠し事は止めて下さいよ」
扉の前で立ち止まる。
⑫「お前に隠していたつもりはなかった。だが、知らせる必要もないと思っていたが」
雷は先程降りてきた古びた石作りの階段に腰を下ろすと、深い息をつく。
⑫「知ってしまった以上は仕方あるまい。これは…約50年前、大賢者7人が施した封印魔法。その扉の奥には《魔》が封印されていると言われている」
キルト「魔ですか?」
⑫「そうだ。この扉の先には魔の界。闇の力、無限の力があると言ってもいい」
キルト「魔界?冗談でしょ?」
>> 217
【あの人は今】
⑫「魔法界がこの事を公にしてはいないが、魔王と呼ばれる者がいたと言う書籍も残っている。大半は魔法界に焼き消されているがな」
鈍い光で魔法陣を浮かび上がらせる扉。
キルト「ドイスはその魔をどうするつもりなんです」
⑫「魔の王、つまりは魔王となれば世界を破滅させる力、無限の軍勢を得れるとも言われている。定かではないが、ドイスは…扉の先にいるであろう魔王を倒し、自らが王になり闇をも手に入れるつもりかもしれん」
キルト「魔王を…」
話も終盤にさしかかった頃、雷は急に立ち上がる。
キルト「ど…どうしました?兄貴?」
⑫「誰かくる」
雷が一言そう言った数秒後、階段を降りる足音が響いてくる。
キルト「足音からして一人ですね。それも相当な手練れ…長身…この足音…人じゃないな」
円盤を両手に構え戦闘体勢をとるキルトは冷静に敵を分析する。
⑫「招かざる客か…入口の警護はどうした」
雷は腕を胸前で組むと徐々に闇からあらわになってきた来客者を見つめた。
>> 218
【あの人は今】
「お初にお目にかかります。連合軍の雷将軍とお見受けしますが」
現れたのは、2メートルを越える人のようで人ではない、青黒い肌、頭には鹿のような長い角が生えた異様な者であった。
キルト「誰だ?てめぇ?」
⑫「キルト、お前は黙っていろ。貴様は珍獣族だな」
覇「流石は学識高い雷将軍。ご名答の通り、私は珍獣族の覇と申す者。世界の繋ぎめ…世界の橋ような存在です」
賢者すら子供騙しにみえる程、魔力を発する覇は、危害を加えるつもりはないと言いたげに膝をつき頭を下げた。
⑫「覇。どうやって入ってきた?」
剣の柄に手を掛けた将軍、覇は更に頭を下げる…
覇「世界最強の貴方様にきられれば私など跡形もなくなってしまいます。どうかお許しを…表の警護兵たちは一切手を出しておりませんゆえ」
⑫「なら、雷部隊の警護をどうやってすり抜けた?」
覇「こうやってで御座います…」
そう言った覇は姿を消す。
キルト「なっ!?」
>> 219
【あの人は今】
キルト「魔法か…」
⑫「ただの魔法ではない。存在が消えた」
慌てて、雷を守るキルトは周囲に円盤を投げるが、空を切るだけである。
覇「武器はお納め下さい」
キルト「てめぇ…」
覇は暫くして姿を現すと何事もなかったように頭を下げる。
⑫「時代を…時空間を移動する魔物がいると聞いたことがあるが…」
覇「その魔物は私で御座いましょう。昔はよく人前に出ていましたので」
⑫「本当に実在するとは…だが、そんな神物語の魔物が…私に何のようだ」
覇「未来・過去を行き来することができる唯一の存在。私の存在意義は世界の近郊を守ることで御座います。
その為にも貴方の本当の真意をお聞きしたいのです」
⑫「真意だと…何を…」
覇「貴方は分かっておられるはず。私が現在に直接的に干渉することはできませんが、思いをお伝えすることはできますぞ」
⑫「……」
意味深なやり取りながらも二人の中で会話は成立していた。
>> 220
【あの人は今】
覇「ご心配は監視の目で御座いますか?安心を…ここはドイスが長年探しても見つけることが出来なかった場所に御座います。大賢者の封印術は遠く離れたドイスの魔法など寄せ付けはしません」
キルト「本当かよ!兄貴!これで、クリスと…」
雷の妹の名前を出したキルトの目は潤んでいた。
兄弟同士、敵となった皮肉な運命を一番身近で見てきたキルトだからこそ出た涙であった。
⑫雷「私は恨みを忘れたことはない。父母の仇をとる為に私は生きてきた…」
復讐の為の近道と考え、連合軍に入り、ついに将軍の座までついた。
そして、今日まで期を伺ってきたのだ。
ドイス倒すその一心で彼は妹であるクリスと対峙してまで己を偽り続けた。
それが、両親の為になると信じ…
⑫「だが、目的はどうであれ、ドイスに近づく手段であれ、仇側につたのだ…一人で立ち上がり、今や連合軍すら脅かす仲間を得たクリスには、私のやり方は言い訳に過ぎないだろう」
キルト「兄貴…でも…クリスに兄貴の想い…本当は今でも味方だって伝えるぐらいは…いいじゃないですか!!」
⑫「いや、そんな資格はもう私にはない」
>> 221
【あの人は今】
⑫雷「取り返しはつかない。クリスとは別の道で復讐を遂げる。それが、私の想いだ。消えろ」
覇「分かりました。貴方の答え。最も辛い選択を選ばれた以上、私が出る幕はありませんな」
覇はそう言ってあっさり姿を消した。
キルト「兄貴…」
⑫「キルト、俺たちのやり方は間違っていた。だが、目的は果たすぞ」
雷は剣を鞘から抜くと地面と水平に一振り振り抜く。
父から授かった大剣が、雷の想いに答えるように輝いた。
⑫「いつまでも隠れてないで出てきたらどうだ?全て聞いていたんだろ?」
雷は大剣を頭上に放り投げ、背中の鞘へと収めると、上の方で隠れていた人物に問いかける。
アーム「けっ、ばれちまったか。でもよぅ俺ら(雷部隊)を呼んだのは将軍だろう?」
恰幅のいい見慣れた男が重い身体を動かし階段を降りてくると雷の前へやってくる。
⑫「アームか…」
アーム「将軍、あんたが閣下の首を狙ってるは薄々感づいてはいたぜ。だが…本国のあの警備の中じゃあんたでも中々行動には移せずにいたようだがな!ガハハハ!」
ハマチを吹かしながらアームは大声で笑う。
>> 222
【あの人は今】
キルト「てめぇ!分かってんのか!知っちまった以上、生かしておけねぇぜ!」
アーム「いいともよ。俺の首ぐらいやらぁ…お前らが狙ってるドイスの首と比べたら安いもんだがな。ガハハハ!!」
キルト「なッ…」
切りかかろうとする者を前に、笑うことを止めないアームに雷は微かに笑みをこぼす。
アーム「路上生活してた餓鬼のころの将軍が懐かしいぜ。そんなあんたを俺の部隊に引き入れて何年経つかなぁ…まぁ今やその部隊もあんたの指揮下なわけだがな」
⑫「アーム。軍人であるお前に君主を裏切れと無理を承知で頼む…私と友に闘ってくれないか?」
キルト「兄貴!?」
雷は軽く頭を下げると髭ずらの男を見つめた。
修道院を飛び出し、まだ幼なかった雷に働き口などあるわけもなく、盗みを働きなんとか食いつないでいたそんな時期に、この男、アームに拾われ、連合軍へ入ったのだ。
その時は、連合軍の事など知りもしなかったが、今思えば、連合軍への入隊は運命であったのかもしれない。
アーム「馬鹿いちゃいけねぇ…君主を裏切れだと…!?」
>> 224
シャードmkⅢは変わゆく戦況に困惑しながらも戦場を飛んでいた。キングに群がる連合艦隊は一見まるで蜂の大群のように見える。
⑦凱「連合艦隊のど真ん中じゃ、キングに近づきもできねぇな」
ローナ「そうね。あの爆撃の中をいくのは賢明とは言えないわ」
連合軍の戦闘機を巧みに撃墜しながら戦況を分析する二人。性格は正反対と言っていい二人だが、息の合った操作でシャードmkⅢを操縦する。
ローナ「シャード。宇宙海賊の指令部の命令はどうなってるの?」
「キングヘシュウケツセヨ クリカエシソノシレイガトンデルヨ」
ローナ「集中放火を受けているキングに集結?どういうことなの?」
ローナは何にを感じとったように船のAIであるシャードに問う。シャードの機械的な子供の声が返ってきた。
デビル「風がくるね。とてつもない大風」
⑪リオ「どういう意味だよ??」
デビル「そんなことより!リオっち!お菓子おくれ!」
⑪「ダメ。さっき飴やったろ!!」
リオは抱えるデビルが漏らした言葉に頭を傾げる。
⑦「風が強くなってきたな。シャード、左翼の出力上げてくれ」
黒の惑星に吹けぬける風は徐々に強さを増していた・・・
>> 225
②ハーク「では、詠唱を始めましょうかの」
オジオン「ふむ。そちに、術式は任せる。私らは補助にまわろう」
ヒドラのけたたましい雄叫びが響き、激しい揺れに見舞われる。
マリーン「あの子泣いてるわ…まるで子供みたいに…」
影のようなヒドラを見つめるマリーンの目から溢れるものがあった。
美しい女神は何を想って流した涙なのだろうか。
②「……」
そんな彼女を見つめながら、ハークも哀しみ心の中で喘いだ。
破壊するためだけに生命を与えられたヒドラに対しての哀れみであった。連合軍はなんと哀しい生き物を世に作り出したのだろうか。
彼らはこんなものまで生み出して何を得ようとしているのか。
オジオン「ハーク殿、時間がない。我らとて、そう長くはおれぬぞ」
哀しみに囚われ、手を止めていたハークに冷静に告げる。
周りでは、大地が割れ、至るところからマグマが吹き出し逃げ遅れた兵士たちが巻き込まれていく。赤々としたマグマはまるでこの星が流す血のように見える。
②「そうですな…彼女らを導く手助けをするとしましょう」
ハークは杖を三回地面に突き刺した。すると三人を中心にして、桁外れに巨大な魔法陣が大地に現れる―――
>> 226
キック「ッ…ここは?…」
痛みで目が覚めたキックは、起き上がろうとするが立ち上がることが出来ず、尻餅をつく。慌てて、近くにいたセロが駆け寄ってきた。
⑤セロ「安静にしとけって。将軍の闇魔法がまだ完全に抜けたわけじゃないんだから。それにここはキングの中だ。敵はいないから安心して休め」
淡く輝く魔法陣の中心に横たわらされているキックは石のように重い身体を上半身だけゆっくり起き上がらせた。
⑭キック「どうなったんだ…」
周りで同じく治療を受けているリオとラ・ドルはまだ夢の世界にいるようだ。
⑤「将軍は逃げた。今は、大魔法を待ちらしい」
⑭「大魔法?」
⑤「風を起こして、キングをウマンダ星へ運ぶんだとさ。俺には考えのスケールがデカ過ぎて想像すらできないけど」
⑭「そうか…楽しそうだな…」
キックは笑みを浮かべ再び、眠りにつく…
⑤「あら…寝ちゃうのね」
>> 227
⑱ドグロ「きたきた!取り舵いっぱい!」
風が吹いた。
優しい優しい風であった。
周りにはそよ風と何ら変わらないその風は巨大戦艦キングを悠々とそして一瞬にして宇宙空間へと運ぶ。
「何処へ消えた!?」
「どうなってるんだ!?」
一瞬の出来事、キングを取り囲んでいた連合艦隊は、各々が思うまま声を上げ、一瞬にして消えた巨大物に誰もが目を疑った。
②ハーク「行くのじゃ。未来を掴め」
まるで魔法、もちろんハークたちによる魔法なのだが、連合兵の多くは口を大きく開けそんなことを思っていた。
宇宙空間に飛び出たキングはその巨体からは想像も出来ないスピードで連合艦隊の包囲網を抜け出しウマンダ星へと一直線で進んでいく。キングを運ぶ風は宇宙空間でも衰えること吹き続けていた。
⑯リード「美しい。ふふッ次はウマンダ星で一戦交えようではないか」
宇宙ゴミと一緒に宇宙を漂っていた将軍は微笑みながら言った。将軍は宇宙の流れのまま身を任せ、太陽光を浴び強い輝きを放ち去っていくキングに目を奪われていた。
>> 228
④バジリス「逃げられたか…。惑星から離れるよう全艦隊に連絡しろ。全艦直ちにウマンダ星へ帰還するのだ」
「はっ!バジリス副将軍!」
バジリスの指令の元、連合艦隊は黒の惑星から離脱していく。キングを含む宇宙海賊の大半は取り逃がしたものの、宇宙海賊本拠地であった黒の惑星はヒドラにより、破壊されるのも時間の問題。連合軍はそれなりの収穫があったと言っても過言ではなかった。
「バジリス殿、お姿が見えなかったので心配しておりましたぞ」
④「なに、姫様に手厚い歓迎を受けましてな。時間を取られました」
バジリスは振り返り、背後に立つ老人に目をやる。白衣を着た白髪の老人からは精気と言うものをまったく感じない。
④「ハン・ディス博士のような方が、本国から出てこられるとは珍しいですな」
ハン「研究も大詰めでしてな…研究室に閉じ込もってばかりもいられませんよ」
④「ドイス博士の右腕とも言われる貴方がそう言うぐらいだ…パーフェクトの完成も近いのですかな?」
宇宙空間に出た連合艦隊は隊列を組んでいく、戦艦数は減ったものの、無数の連合艦隊は未だ健在であった。
ハン「まぁ近い内、ドイス博士ならやってのけましょうな」
>> 229
ハン「失礼、データを取らせて頂きますぞ」
人差し指と中指で指を鳴らすと、白衣を着た研究員たちが列となってやってくると燃え上がるように赤く染まった黒の惑星に見入る。
④バジリス「ヒドラのデータですか、研究熱心なことで」
ハン「ヒドラが惑星を破壊するのは滅多にない機会ですからな。しかし、バジリス殿…」
研究員たちが用紙に筆記する心地よい音、研究員の歓喜の声と共に黒の惑星がその命を終え、大爆発を起こす。
爆発の衝撃で、バジリスたちが乗る戦艦が小さく揺れた。
ハン「おっと…リード将軍はやられ…中将をも二人も失ったとなれば連合軍への影響は多大なものとなりましょうな。ましてや、宇宙海賊がウマンダ星に乗り込み、そこで我らが破れでもしたら…」
④「次は本国が戦の場になる…ですかな?」
バジリスは散りゆく惑星を見つめながらそう言った。
ハン「我らの研究の妨げになるようなことだけは避けて頂きたいものですな」
④「ふん。奴ら反乱分子がいくら頑張ろうともウマンダ星の連合軍は倒せません。中将率いる軍、キメラ将軍率いる大軍勢、魔法軍主力部隊…連合軍の軒並みの軍が勢ぞろいですからな」
>> 230
④バジリス「そして、ウマンダ星に我ら大艦隊が行けば、反乱分子は挟み込まれる形になりましょうぞ。唯一、心残りは雷将軍の軍がいないことだが…反乱分子を潰すのには十分過ぎる軍勢だ」
己の機械手を見つめながら笑みを浮かべるバジリス。
ハン「キングを逃がしたのも戦略の内と言うわけですか。連合軍が本腰で潰しにかかるとは、反乱分子も大きな脅威になったものだ」
④「本国も本気で彼らの駆除に乗り出したのも事実。セレナ姫だけではなく、反乱分子の主犯核、クリス一味に多額の賞金かけることを先日、発表した。彼らは連合軍だけでなく、世界の名だたる賞金稼ぎにもその命を狙われることになるでしょうな。万が一、生き延びたとしてもどの道、彼らに未来はない」
ハン「万が一の時も万全ですか。軍の考えは末おそろしい」
博士は呆れ気味にそう言葉を残し、データを取り終えた研究員と共に去っていった。
④「古だぬきめ…貴様らに比べたら軍などまだ可愛い方だ。さて、私も私事を進めなくてはな」
バジリスは再び、将軍の座に返り咲く為、動き出すのであった…
>> 231
黒の惑星は、最後にふさわしい大爆発でその生命の幕を下ろした。そんな大爆発から一隻の宇宙船が爆発風の煽りを受け、スピードを増して飛んでいく。
⑦凱「危なかったぜ。しかっし…キングには置いてかれちっまったな」
③セレナ「大丈夫です。行き先は分かってますから…ウマンダ星へ進路を向けて下さい」
「リョウカイ ヒメサマ」
シャードmkⅢは連合軍に気づかれることもなく、連合艦隊のレザー区域から抜けるとコスモワープの態勢に入る。
ローナ「頭、他のメンバーは大丈夫なんでしょうね」
ナナ「えッ?…どうだろうね…爆発に巻き込まれたかも?」
ローナ「どう言うことです!頭!」
ナナ「だって、た…戦いの中で連絡が途絶えちゃってさ…」
ローナに掴みかかられ、ナナはまるで小動物のように縮こまり弁解するが、ローナの小さな拳が容赦なく浴びせられる。
⑦凱「おいおい。暴れるんじゃねぇぞ。コスモワープに入るから揺れるぜ」
「キングヨリサキニツイテヤル」
光に包まれていくシャードmkⅢ、凱とシャードの掛け声が響いた瞬間、その姿を消した。
>> 232
重厚感のある石作りの廊下を甲冑を身に付けた兵士が走っていく。血相を変えた兵士は廊下の終着点にあった両開きの扉を勢いよく開くと、ウマンダ星政府軍議会の中枢部、大広間に入っていく。
いつもなら多くの政府議員が他愛ない話をして賑やかな大広間だが、今日は違った。
「将軍、で…伝令です」
静まりかえった大広間には血生臭い匂いが漂い、連合軍三大将軍の一人キメラ将軍が立っていた。兵士は荒い息を整え、将軍の前で膝をつく。
キメラ「政府軍に付き合うのも飽き飽きしてたところだ…なんだ?申してみよ?」
キメラは冷酷な表情で周りを見渡していた。周りに横たわる政府軍の議員たちから止まることなく血が垂れ流れている。黒の惑星で政府軍を捨てゴマに使った今、最早、政府軍に利用価値はなくなっていた。
「はっ、黒の惑星を攻めいっていた軍より連絡があり、巨大戦艦キングがこちらに向かってきているとのことで…宇宙海賊を打ちもらしたようです」
キメラ「そうか。閣下の予想通りとなったか…」
「どういう意味ですか?」
キメラ「なんでもない。下がってよいぞ」
「はっ、で…では」
逃げるように兵士は大広間を後にする。
>> 233
カラス「外の政府軍は粗方、片付いたよ」
いつからいたのか、天井の柱に座る黒装束の女剣士は言った。女剣士は果実にかぶり付き、赤い肉汁で口を真っ赤に染めながら将軍を見下ろす。顔には布を巻き付けている為、素顔を見ることは叶わないが、細身の女剣士は千人斬りの烏の異名を持つ忍者である。
キメラ「きたか。他の者は?カラス中将」
カラス「知らん。他の者のことなど。それより、コイルとベンガルは殺られちまったらしいな」
軽い身のこなしで、天井から飛び降りると果実の種をキメラ将軍の足元に吐き捨てた。
キメラ「らしいな。先程、連絡があった…うっ!?」
ボリック「まじかよ!!やってくれるなぁクリス一味とやらわ」
不気味な緑の肌をした男がやってくると議員の死体を払いのけ、腰を下ろす。すると、ボリック中将から無数のウジ虫が這い出てきた。
キメラ「うぅ…ボリック中将…私には近づくなよ」
ボリック「あいあい」
キメラ将軍は異臭に思わず、手で鼻を覆う。
カラス「クリス一味?クリスだと?」
カラスの脳裏に一人の人物が浮かんだ。ダンテスティン星で一時期、用心棒として一緒に働いたクリスのこと思い出していた。
>> 234
ジャッカル「ふん。軍備を整えている最中に呼び出すのは止めてほしいものだ」
続いて大広間にやってきたのは、骨でできた巨大なブーメラン二本を背負った大男であった。その豪腕で、巨大なブーメランを巧みに操り、破壊屋の異名を持つジャッカル中将である。
グラカス「おい、デカイずうたいで道塞いでるんじゃねぇぞ」
ジャッカル「でたな…ふん」
その後ろから紅の鎧に金の装飾で豪華に作られた甲冑をきた剣士が続く。勇者グラカス中将である。
キメラ「あとは…」
『来ておる』
低い声が広間に響く、その声主を探そうとキメラ将軍や中将たちは周りを見渡す。
サム「たるんどる。いくら下から二番の二人と言え、我ら中将が二人もかけるとはの」
グラカス「そう言うなよ。じいさん。これからが本番だ」
議長席にいつの間にか座っている老人剣士に全員の視線が注がれる。サム中将、かつて世界最強のタカと互角に渡り合ったと言われる剣士。
グラカス「全員揃いましたよ。将軍」
キメラ「では、会議を始めるとしよう」
キメラ将軍は杖が輝きを放ち、天井に映像が映し出されていく。
>> 235
宇宙空間が映しだされると、凄まじい轟音が鳴る。そして、映し出されたのは巨大戦艦キングであった。
グラカス「これが、世界一の戦艦キングか、でけぇな」
キメラ「さよう。これがこちらに向かっておる。連合軍を反乱分子ごときに割くことはしたくない。ウマンダ星に入る前にこれをどうにかしたいのだ」
将軍は映像のキングを爆発してみせると五人となった中将を見つめた。
ボリック「ほうほう。誰か先陣切ってコイツに挑めってわけね…ゲッホ!ゲッホ!」
喋る度に口からウジ虫を飛ばすボリックから皆、思わず距離をとる。
サム「儂が…」
カラス「!!」
ジャッカル「!!」
暫くの沈黙の後、口を開いたのは老人剣士サムであった。周りの者は意外な挙手者に驚いている。
サム「…いこう」
サムはゆっくりと立ち上がる。
グラカス「まてよ。あんたが行ったら何もかも終わっちまうぜ」
異論を唱えたグラカスはサムの前へ立ちはだかる。
サム「ならば、お前がいくか?」
グラカス「え!?…ヒーローは最後に出るもんでしょう。どうぞ、お先にご老体」
サム「ふん。若い者にはまだまだ負けん」
>> 236
キメラ「サム中将、お前ほどの適任者はあるまい。キングもろとも反乱分子を全滅せよ」
サム「はっ、将軍の御言葉のままに」
凄まじいオーラを放つサムに横で見ていたグラカスは口笛を吹いた。
キメラ「では、よい報告を待っておるぞ」
グラカス「じいさん。死ぬなよ」
砂嵐のような黒い煙が吹き荒れ、将軍を含むサム以外の中将はその場から姿を消した。
残されたサムは一呼吸おくと鞘から剣を抜いた。目にも止まらぬ脱刀、一筋の光が360度広がると政府軍の議事堂は音を立てて崩れ始める。
サム「銀角、金角!ゆくぞ!」
瓦礫の山に立つサムが叫んだ。
2つ人影が現れ、俊敏に動きサムの背後に止まった。
金角「戦ですか」
銀角「戦ですか」
金の着物を羽織った者と銀の着物を羽織った者、色だけが違う同じ着物を羽織った二人の顔は瓜二つであった。
金角少将。
銀角少将。
最強の双子である。
サム「うむ、戦だ」
>> 237
目映い閃光が走る。
メタリックな銀色のボディ、シャードmkⅢがコスモワープを明け出現する。
⑦凱「キングよりかは、大分と早くついちまったな」
「マァトウゼンノケッカダネ」
凱は減速レバーを引き、目視で捉えることができるほど近くなったウマンダ星への着陸態勢に入る。凱にとって、ウマンダ星は幼き頃の修行場、思い出深い星でもある。そんな星が戦場になろうとしている今、凱の心境は複雑であった。
ローナ「見つかったわ。3時の方角、連合軍の戦闘機よ」
警戒を示すランプが光ると同時に、連合軍の戦闘機数台がこちらに向かってくるのが、レザーに映しだされていた。
⑦凱「ナナ、出番だぜ」
ナナ「ふーまた仕事かぁ」
敵戦闘機はレザー砲を打ってくるが、凱は船体を反らし攻撃を避ける。
ナナ「運がないなお前ら、悪く思うな」
ナナは向かってくる戦闘機を握り潰すように手のひらを向け、握る。すると戦闘機はまるで紙のようにぐちゃぐちゃに丸まり、爆発した。
⑦「おおッ。いつ見ても便利な力だな」
ナナ「見せ物じゃねぇぞ」
爆発を突き抜け、シャードmkⅢは軽快にウマンダ星へ向かっていくのであった。
>> 238
火が天に向かってその勢いを増していた。
ウマンダ星の首都はあちこちで火の手が上がり、民衆は悲鳴を上げている。
駐在していた連合軍が侵略攻撃を始めたのである。しかし、国を守るはずの存在、政府軍は既に壊滅状態となっている為、銀狼は突然の反旗に抵抗することも出来ずにいた。
「中将殿、民衆の鎮圧は一時間もかからないかと」
重火器で民衆を炙り出しながら連合軍の戦闘車両が町中を駆け巡っていた。そんな光景を高台から見つめていた巨体の男の元へ、血塗れの兵士がやってくる。
ジャッカル「そうか。早くキングを迎え打つ準備をせねばならん。一時間もかけるな」
「はっ。もう一つお伝えしづらいご報告が…」
立ち去ろうとするジャッカル中将を呼び止めた兵士は、言葉を濁らし言った。
ジャッカル「なんだ」
「はっ。先程、宇宙防衛線を一隻の船に破れたのことで、こちら側の戦闘機が一瞬にして破壊されたらしくただ者ではないかと…」
ジャッカル「来よったか…反乱分子どもめが!!」
耳を塞ぎたくなるような声を上げ、背中の巨大ブーメランを手にとり、凄まじい風切り音を上げて投げると正面にあった建造物は一瞬にして細切れとなった。
>> 239
⑦凱「よっと!俺らは町に出るシャードはステルモードで待機しといてくれ」
「リョウカイ キヲツケテイッテラッシャイ」
シャードmkⅢはウマンダ星の町外れの森へと着地する。着地の衝撃で、軽く船体が揺れるが、無事に着陸を終えた。
ローナ「何もしかけてこなかったわね」
ヘルメットを脱ぎながらローナは言った。宇宙空間で戦闘機と遭遇したものの、それ以降は連合軍からの動きはなく上手くいき過ぎていると言っても良かった。
③セレナ「先程見た…町の光景…連合軍がウマンダ政府を攻撃しているように見えました…」
⑦凱「あぁ。奴らウマンダ政府を裏切りやがったようだ。おそらくウマンダ(首都)は壊滅状態だろうな…首都には俺らの味方になってくそうな奴も心当たりがあったが、その希望も今は薄いな」
凱は操縦席から離れると手慣れた動きで身支度を始める。
ナナ「凱、これからどうする?狐寺に行くのか?」
外の様子を伺いながらナナは身支度を終えた凱へ問いかけた。
凱は数秒、間を開けた後…
⑦「フォックスを味方につける…ウマンダ政府に手を出したんだ。狐寺も連合軍に攻撃されるのも時間の問題だ…早いとこ行かねぇと」
>> 240
ドカアァァァン!!!
デビル「うひょッ」
爆発が上がり、船体が激しく揺れる。衝撃で毛玉となったデビルが左右に転がった。
ナナ「敵だ。囲まれてるぞ」
ハッチを開き、ナナが船から飛び出す。重火器を持った連合兵が次々に現れ、シャードmkⅢに集中放火を浴びせる。
⑦凱「皆、船から降りろ!闘いだ!シャード、緊急浮上!後で落ち会おう!」
「イテテ シュウダンイジメダ ワカッタヨ」
デビルを掴み、凱も外へと飛び出す。セレナ・ローナもそれに続いた。
ナナ「無駄だ。相手が悪いぞ」
襲いかかってきた連合兵は一斉に凱たちに発泡する。しかし、その銃弾は空中で動きを止めた。ナナの金属を自在に操る力の前では銃など無力に等しい。
自分たちが持つ武器が使えない知り、躊躇する連合軍を尻目に、シャードmkⅢは空高く飛び上がっていく。
ジャッカル「逃がすかぁ!!」
しかし、そんな連合兵を薙ぎ倒しながら巨体の男が現れ、背中に背負ったブーメランをシャードmkⅢへと投げる。
巨大ブーメランの凄まじい風圧で周りの兵士たちは軽々と吹き飛ばされた。
ジャッカル「ちッ」
だが、幸いにもブーメランはシャードmkⅢをかすめ、持ち主の元へ戻ってくる。
>> 241
ジャッカル「反乱分子ども!覚悟しろ!」
ズサッ…
人一人分はある巨大ブーメランを両手に抱え、地面に突き刺す。その時になった音から相当な重さがあることが伺えた。
⑦凱「てめぇは…」
ジャッカル「連合軍7大中将、ジャッカルだ。貴様らの命貰いにきた」
凄まじい大声、その威圧に凱すら一歩退いた。
ナナ「凱!こいつとやり合うな!破壊屋ジャッカルだぞ!」
骨で出来たブーメランの為、成す術がないナナはジャッカル中将から距離をとる。
⑦「破壊屋?おもしれぇじゃねぇか」
ジャッカル「ワシが何故、破壊屋と呼ばれるか教えてやろう!!」
中将は大きくブーメランを振りがぶり、凱に向けて投げつけた。
⑦「くっ!!」
その大きさから想像できないスピードに反応が遅れた凱はかろうじてブーメランを避ける。しかしその風圧に足を取られ、バランスを崩す。
⑦「ぐお!くっ!」
第2のブーメランが凱を襲った。二刀の剣を交差させ、受け止めようとした凱だったが、ブーメランの凄まじいパワーに吹き飛ばされてしまう。
ジャッカル「脆いのぅ」
ブーメランは地面をえぐりながらジャッカルの元へ戻っていく。
>> 242
⑦凱「ぐっ…破壊屋と呼ばれるだけはあるなッ」
歪に曲がった右腕を押さえながら凱は苦笑いを見せた。
③セレナ「凱!見せて!」
手を見たセレナが直ぐ様、回復魔法を唱えた。折れた腕は直ぐに元通りとなったが、凱の苦痛染みた顔は元には戻らない。
ジャッカル「腕自慢の剣士が腕を折られたらおしまいだな。次は回復させる間すら与えぬぞ、覚悟すんだな」
⑦「くッ…てめぇーッ」
斬りかかろうとする凱だったが、ナナが止めに入る。
ナナ「待て!周りを見ろ!敵がどんどん集まってきてる…ここは一旦、逃げるんだ!」
⑦「やられっぱなしじゃおれねぇよ!」
ナナ「凱!!」
ナナの叫び声は近づくキャタピ音にかき消される。分厚い装甲、巨大な主砲を携えた戦車が木々を踏み倒しながらやってくると、それに続き、多くの兵士を乗せた車両が次々にやってくる。ジャッカル中将の指令の元、近隣の連合兵がここに集結しようとしていた。
ナナ「凱、仲間もいるんだぞ」
⑦「…分かった。二手に別れて逃げるぞ」
刻々と悪化する状況に凱も渋々頭を縦に振った。
ナナ「ローナ!俺と行くぞ!」
ローナ「分かりましたよ。頭」
>> 243
ローナ「サムリージュ、道を開きたまえ」
小人族であるローナは一見、愛らしい子供に見える。そんなローナに攻撃するのを躊躇っている連合兵などお構いなしにローナは鮮やかな光の魔法により精霊を召喚した。
ローナ「散りなさい!!」
ナナ「容赦ないねぇ」
そして、精霊が放った魔法により、連合兵は跡形もなく消し飛ぶ。
ジャッカル「おのれぇ一人足りとも逃がすでないぞ!!」
取り囲む連合団を突破したナナとローナを兵士たちは慌てて追いかけた。ジャッカル中将の注意がナナたちに逸れた隙を見計らって、セレナは魔法陣を描く。
③セレナ「凱!私の近くに!」
⑦凱「おう。デビルそんなの食ってねぇで早く行くぞ」
デビル「あぁ~俺っちの食事タイム邪魔したなぁ」
移動魔法の魔法陣を描き終えたセレナは精一杯の声を上げた。
凱は慌てて、キノコを貪るデビルを捕まえ、魔法陣に飛び込む。
ジャッカル「貴様らぁ!逃がさんぞ!」
それにやっと気づいたジャッカル中将は兵士に一斉射撃を命じた。直ぐ様、兵士たちは引金を引く。
⑦「首洗って待ってな。ジャッカル中将…じゃ」
シュッ
しかし、その無数の弾丸は標的を捉えることなく地面に当たる。
>> 244
ジャッカル「おのれぇええッ!!」
姿を消した凱たちに当たることも出来ず、ジャッカルは巨大ブーメランを力一杯に地面に突き刺した。その衝撃で、凄まじい地鳴りが起こり、大地が割れる。
ボリック「荒れてるねぇ…まぁそんな苛立ちなさんな」
荒立つジャッカルに近づく異質な男は言った。
丸坊主の青色の肌の男からは凄まじい臭気が漂ってくる。《虫人間》の異名をもつ、ボリック中将であった。
ジャッカル「ふん。お前か…反乱分子には逃げられたわ。だが、良いところに来てくれたな。お前なら直ぐに見つけられるだろう?」
ジャッカルの問いに昆虫のように目を回す、ボリック中将。
ボリック「もちろん。僕の僕(しもべ)たちから逃げられはしない」
そう言うと大きく両手を広げる。すると、空から無数の足と羽が生えた百足のように長い生物がやってくる。一匹だけではない、その生物は何処からともなく次々に現れ、辺り一面を覆い尽くす。
ジャッカル「相変わらず不気味な虫どもを連れてるな」
ボリック「この良さをいつか、あんたにも分かる時がくるさ」
「うわあぁあ」
次々と連合兵に食らいつく生物たちは無機質な声を上げる。
>> 245
③セレナ「着きました」
淡い光に包まれながら凱たちは荒野に降り立つ、遠くには狐寺が小さく見えている。
⑦凱「ここ町外れの訓練場だな」
凱は近くに落ちていた剣の刃を拾い、周りを見渡す。荒地ではあるが、凱にとってここは幼き頃の懐かしき修行の場の一つであった。
③「すいません。町に飛べれば良かったんですが…この星は闇の力が強すぎて魔法がどうしても不安定になってしまうんです」
杖の先についた水晶はいつもの透明度はなく、黒ずみ薄く濁っていた。それは闇の使い手であるキメラ魔法将軍が近いことを意味していた。
⑦「謝ることねぇよ。逃げられただけで十分だしな。それにこの距離なら狐寺までそう時間もかからねぇよ」
連合軍の追っ手が迫ってきているのを感じとった凱はデビルを肩に乗せると歩き始めた。
⑦「町には連合軍が山ほどいるはずだ。それにさっきの中将クラスの連合兵も集まってる…どうしたもんかなぁ」
③「警戒中の軍に気づかれずに行くのは私の魔法を使っても難しいと思います」
セレナの返答に凱はお手上げだと言わんばかりに溜め息をついた。対空砲を備えた町へはいくらシャードのステルモードが優秀でも使えはしない。
>> 246
⑦凱「だけどよ…運はこっちに向いてきたぜ」
デビル「にっしし。飯にもありつけるか?」
爆音が辺りに響く。三機の連合軍戦闘機が上空を過ぎていく。敵に襲来に慌てたセレナだったが、その戦闘機は何処からか放たれたレザーを受け爆発した。
③セレナ「何?何が起こったの?」
セレナは上空を見やげながら一瞬の出来事に困惑する。
⑦「出やがった。ステルス戦艦シャード!!」
バチバチ…
電磁波の波が雷のように何もなかった空に浮かび上がる。
そして、徐々にそこに隠れていたモノの姿を露にしていく。
戦艦並みに巨大なシャードmkⅢに似た銀色の船が姿を現す。
戦艦シャード
狐族の軍用機である。このサイズの戦艦を完璧なまでに姿を消すステルス機能は狐族だけが可能とする技術である。
⑦「あちらさんからのお招きだ。行こうぜ」
③「は…はいッ」
戦艦シャード船底の運搬入口が開くとそこから光線が出始める。光線に近づく凱に不安ながらも続くセレナであった…
>> 247
「よく来たな」
移動装置により船内に運ばれた凱たちを出迎えたのは6本の尻尾を生やした狐人であった。長身である狐人は、まだ青年のように見えるが、肉体的に歳をとらない種族である狐族、その実年齢は外形からは判断できない。
⑦凱「鬼教官。あんたが出迎えに来てくれるとは思わなかったぜ」
鬼教官と呼ばれた狐人はゆっくりと近づいてくる。凱は反射的に剣に手をかけた。
鬼「まて、手が早いのは相変わらずだな。喜べ、族長は昔のことは水に流そうとおっしゃっておるぞ」
鬼教官は近づくと凱の頭にそっと手を置いた。
⑦凱「な…なにすんだぁ!俺はもう餓鬼じゃねぇ!」
直ぐにその手を払った凱は顔を真っ赤にする。
鬼「すまんつい昔の癖が出た。私はお前の帰りを心待ちにしておったんだぞ。お前が船を奪い狐寺を出たと聞いたときは…どれだけ心配したことか…族長に禁じられ…後を追うことも出来なかったのだ」
⑦「いつも怒鳴られてばかりだったあんたに心配されてたとは意外だぜ」
鬼「できの悪い教え子ほど可愛いもんはおらん」
⑦「言いやがるな。ッたくよ」
鬼はニタッと笑う。そんな二人の会話を聞いていたセレナも自然と笑みをこぼしていた。
>> 248
凱と鬼が対面していた頃…
2手に別れて逃げた片方側、ナナとローナは窮地に陥っていた。
ナナ「くっ。見つかったか…」
ざわめく周りの木々たちから、時より見える不気味な影は徐々にナナたちを囲んでいく。
ローナ「なんなの!こいつら!」
そんな不気味な生物たちを見たローナが叫んだ。
ナナは金属を錬成し剣を整形すると向かってきた百足のような生き物を斬り裂き、加えて、地中より現れた巨大な幼虫の攻撃を避ける。
ナナ「改造された虫たちだな。連合軍の生物兵器の一つだ」
ローナ「こんな数…相手にできないわ」
倒しても倒しても空から地中から大小様々な虫たち次々と現れ、流石の二人も虫軍勢に押されていく。
ボリック「どうだ…私たちの力は…」
無数の虫たちが蠢く中、緑色の肌である僧のような人間が現れる。《虫人間》の異名を持つ、ボリック中将である。
ボリックは不気味な笑みを作り、嘔吐するとその排泄物が地面を侵食し形を形成していく。そして、瞬く間に昆虫のような不気味な生き物を産み出した。
ナナ「どうやらこの虫どもの根源はお前らしいな!!」
ナナは一目散に虫を斬り倒しながら現れたボリックに向かって駆け出す。
>> 249
ボリック「だったら?」
首を有らぬ方向に曲げながら向かってくるナナを見据える。装束の内側から不気味に何が蠢いていた。
ナナ「喜びな!鉄の錆びにしてやるよ!!」
ナナは巨大なハンマーを錬成し跳躍する。敵の能力も分からず、突っ込むとはまるで凱のようならしからぬ行動だが、これには訳があった。
ナナが不本意に事急ぐ理由、森の中と言う闘い条件である。ナナは地中の僅かな砂鉄でも高度な鉄を錬成することができるが、錬成できる鉄には限りあり、金属が多量にある町中と同じようにいかない。短期決戦にせざる負えないのである。
ボリック「中将の力、見せてやる」
ナナ「中将なんざ、しゃらくせぇ!この大錬金術者ナナ様の前ではな!」
巨大ハンマーをボリックの脳天から浴びせる。ハンマーは抵抗(ボリック)に勢いは止まらず、その重量を地面にめり込ませる。衝撃で大地が割れ、風圧で周囲の虫たちが一掃される。
ナナ「大したことなかったな」
ハンマーは赤く燃え上がり、マグマのように溶け出す。凄まじい高温、衝撃にボリックの姿はそこにはもうなくなっていた。
>> 250
ローナ「頭、やったわね」
大きい翼を持った鳥の精霊の背に乗り、ローナが天空から舞い降りる。空を舞っていた虫たちはローナにより、粗方かたずけられているようだ。
ナナ「ふぅ…今日は力を使い過ぎた…灼熱モードだけでもしんどいってのによ」
ローナ「普段からサボり癖のある頭にはちょうどいいわ。今日ぐらいの運動量がね。さぁ早くいきま…しょ…ッ!!」
ローナのにこやかな笑顔が崩れていく。
ナナ「ローナ!!」
召喚した精霊は消え、ローナは力なく地面に倒れた。その腹部は血で赤く染まっている。
ボリック「彼女の心配より、自分を守れ…この虫は触れたら死ぬぞ」
微粒子が集まり、ボリックの肉体が再び再生する。そして、ハエのような小さな昆虫が無数の群れでナナを襲う。
ナナ「お…お前!どうやって…!!」
壁を出現させ、虫の群れを遮る。しかし、虫は壁に触れると爆発し次々に連鎖爆発を起こしていく。
ナナ「な…ローナ!!」
最初は小さな爆発、しかし、一瞬にして周囲一帯を破壊する大爆発へと変わる。ナナは咄嗟に傷ついたローナを庇い、身をていして爆発の楯となった。
ドガアァァァァァ~!!
>> 251
ボリック「死にゆく者をなぜ助ける?」
ナナ「フラスコで生まれたお前には一生理解できないだろうよ」
爆発で周囲の木々は消し飛び、荒地と変わっていた。そんな中、血だらけになりながらローナを庇ったナナがふらつく足取りで立ち上がる。
ナナ「お前…連合軍の生物兵器だな…超再生能力か…はぁはぁ」
ナナの肌色は銀白色へと変わり、金属モードへと変化する。
ボリック「どうやら連合軍の内情に少しばかり詳しいようだな。そう私はパーフェクトの究過程で生まれた副産物、超再生・生物の生成能力を持っている」
ナナ「連合軍はお前みたいなのを作るのが好きだな」
炎のように赤く染まっていく身体、灼熱モードへと変わっていく。
ボリック「無限の虫軍勢、超再生…力に限りがあるお前は私には勝てん」
嘔吐と共に大量の虫を吐き出す。数千匹の虫が一瞬にして産み出される。
ナナ「ちっめんどくせぇ相手だ。これだから凱と関わるのは嫌なんだ」
>> 252
⑦凱「は…はっくしょんッ!!」
船内に響く大声を上げると凱は鼻をすすった。
鬼「風邪か?らしくないな」
⑦「誰か俺の噂でもしてやがるんだろうよ」
戦艦シャードーは首都ウマンダへと向かっていた。
途中、過ぎてゆく村は連合軍に襲われたのか、どこも赤々と火を上げている。
この様子では戦闘民族、狐人で構成された狐寺とて、ただでは済んでいないだろう。
③セレナ「狐寺は無事なのでしょうか?」
鬼「心配に及びません。族長の妖術により、寺には強力な結界が張られております。連合軍の戦艦が来ようとも破られまい」
鬼はそう言うと拳を握った。言葉とは裏腹に今にも狐寺へ駆け出したいという気持が伺えた。
凱「心配いらねぇ…あいつがそう簡単にやられる玉かよ」
③「アイツ?」
⑦「世界最寿命の爺…フォックスだ」
>> 253
金と銀との装飾で作られた寺、ウマンダ星の人々に神の様に崇められ、狐教と呼ばれる信仰まである狐人が住まう城である。
山一つはある広大な土地を高い塀で囲み、寺自体を伺うことはできない。
普段ならば信仰するウマンダ星の人々が集う塀の周りには、数万の連合兵が整列し包囲網を築いていた。
「カラス中将、ウマンダは制圧、残すはここだけとなっております」
指揮官らしき連合兵が頭を下げ、やってきた細身の女に報告するが、女はまるで興味がなさそうにその兵の前を通り過ぎた。
カラス「レイ…まだ手こずっているのか」
塀に描かれた術式を真剣に見つめながら本に筆を走らせていた一人の魔法使いにカラス中将は話し掛ける。
レイ「これは…カラス殿、もうお見えとは」
顔まで隠す長髪、手入れをしていないのかバサバサの髪の毛、《幻の賢者》の称号を持つ、カラス中将の右腕、レイ少将である。
レイ「この結界、相当なものです。おそらくはフォックスの術でありましょう」
カラス「破れるのか?」
レイ「私では…無理かと。ですが幸い、魔法軍の主力が来ておりますので、専門家に協力を求めておきました。おっ!話をすれば…」
>> 254
レイ「ご苦労様です。魔法軍参謀アンテ少将」
魔法陣が現れ、黒いローブに身を包んだ魔法使いが現れる。
アンテ「なに、私は高等魔法があると聞けば…何処へでもやってくる」
2mは越えているだろう長身、魔法使いには珍しい体格である。
カラス「《解印の賢者アンテ》ドイス閣下の警護を任されていると聞いたが、本国からよく出てこれたな」
二倍近くある体格差がある魔法使いに怯むことなく、カラスは言う。
アンテ「これはこれはカラス中将、お目にかかるのは初めてですな。噂はかねがね聞いておりますぞ。なに、閣下の警護は私などいなくとも成り立つと言うだけの話」
邪悪な魔力を放出させながら杖を取り出す。周りの兵士数人は闇の力に呑まれ、絶命する。
カラス「早速だが、この結界をどうにかしてもらおうか」
アンテ「御安いご用だ。解印!!」
アンテの杖が向けられた瞬間、塀に描かれた術式は形を失いその力を失っていく。そして、強固な結界に穴が空いた。
アンテ「時間を掛ければ結界を完全破壊できるが?」
カラス「十分だ。私一人が入れればな!!」
躊躇することなく、結界の風穴にカラスは飛び込んだ。
アンテ「噂通り、無鉄砲な女だ」
>> 255
「結界が破られただと!!」
結界が破壊され、動揺する狐人たちだったが、直ぐに多くの狐人が駆けつけてくる。
カラス「戦闘民族の力、どれ程のものか見せてもらおう」
軽い身のこなしで、着地しながら剣を抜くと、斬りかかってきた狐人3人を一瞬にして一掃する。
「凄まじい剣速、一般兵ではないな!一本尾では相手にならん。引け!」
集まってきた一本尾と呼ばれた一本だけ尻尾を生やした狐人は退いていく。そして、二本の尻尾を携えた狐人が三角形の陣を組み、カラスに立ちはだかる。
カラス「闇隠れ…雨刺」
地面を蹴る足音だけを残し、カラスは姿を消す。そして、剣撃が雨のように空から降り注ぎ、多く狐人が技をくらい倒れる。
「これ以上、好きにはさせんぞ」
カラス「その程度で、私を止めれるとでも?」
二本尾が多く倒れていく中、一人の三本尾が、宙を舞うカラスに斬りかかる。しかし、剣を振りきる間も与えられず、細切れにされてしまう。
「おい!調子に乗り過ぎだぜ!お前!」
カラス「う!?」
背後から繰り出された鋭い剣撃をカラスは紙一重で避けると直ぐ様、振り返る。
>> 256
カラス「やっと骨がありそうな奴が出てきたか」
背後には五本の尾を携えた狐人が鋭い眼光を向けていた。その狐人は剣を肩で担ぎ、ゆっくりとカラスへと近づいてくる。
カラス「この私の剣速についてこれるかな」
砦「当然。顔を隠してないで見せたらどうだ?あぁん?」
カラス「職業柄、素性を明かせぬものでな。ゆるせ」
お互い凄まじいオーラをぶつけ合い、二人は距離を縮めていく。そして、同時に二人が動いた。無数に繰り出される剣撃の応酬、お互い一歩も引かないやり合いに周りの狐人はただ見守ることしか出来ずにいた。
カラス「思ったよりやるな。上げてくぞ!!」
砦「中将クラスはこんなもんかぁ!さぁもっとこいこい!」
未熟児すらひれ伏せた妖破(エネルギー弾)を放つ。しかし、カラスは剣でそれを軽くあしらうとオーラを纏わせた、凄まじい剣撃を繰り出す。
砦「あぶねぇな。なんちゅう剣だ」
危機を感じ取ったのか反射的に避けた砦、背後にあった建物は半分に割れ崩れ落ちていく。受け太刀していれば身体は二つに割れていたことだろう。
カラス「どうした?逃げていては勝てぬぞ、狐!!」
カラスの剣撃を砦はなんとか避けながら印を結ぶ。
>> 257
カラス「なに!!」
オーラの爆発的増加、砦は金色の輝きを放ち、カラスを吹き飛ばす。
砦「俺様の本気見せてやる。有り難く思えよ」
六本尾を携えた砦は膨大なオーラを左手に集中する。
砦「メガトン妖破だ」
左手から放たれたエネルギー破は先程とは比べものにならない程、強大なものであった。エネルギー破はカラスを含む辺り一帯を飲み込んだ。
砦「どうだ?お味はよぉ?」
カラス「ふッ…甘い…甘いわ」
技を受け、膝をつくカラスは顔を被っていた布は焼け落ち、素顔があらわになっていた。まだ、少女のような幼き顔に砦は驚く。
砦「女…しかも…まだ子供かよ。連合軍ってのは女、子供を中将におくほど、人材不足なのかよ。けッ」
カラス「狐、どうやら死期が縮まったな…私を怒らせるとは」
砦「あぁ?なんだと…ッ!?」
ゆっくりと立ち上がるカラスに黒い煙のようなオーラが渦巻く。今までに見たこともない、異質のオーラに砦の六本の尻尾は警戒するようにピンっと立っていた。
カラス「見せてやる。今度は私の本気をな」
砦「やってみろ。餓鬼が!!」
カラスは顔に手を当てる。そして、その手に黒きオーラが集中していく。
>> 258
カラス「闇に埋もれろ」
砦「これはッ!?」
装束だけの軽装だったはずのカラスはオーラを物質化させ、鎧を身につけていた。そして、剣は漆黒の刃へと変わっている。
砦「オーラを物質化だと?そんなことが可能なのか…」
カラス「ゆけ、闇の世界へ!!」
中腰になり剣を振る。砦は剣の軌道から身を避けたが、身体に激痛が走る。
砦「がはっ…な…なんだと…ッ」
有らぬ方向から浴びせられた剣撃に、腹部を切られ、思わず地面に横たわる。
カラス「いつも邪魔するなと言ってるだろう」
訳が分からないまま倒れる砦、そんな砦を見下すようにカラスはそう言った。
レイ「申し訳ない。しかし、短期決戦が将軍の命ですので…こんな三下に時間はとられていてはなりません」
突如、現れた魔法使い。周りの狐人たちは睡魔に襲われ、その場に倒れていく。
カラス「ふん。殺せばよいものを」
レイ「狐族は貴重種、本国の実験体に重宝されるでしょう。しかし、傷物は使えませんね」
砦「貴様ぁだな…幻術か…」
レイ「当たり」
鋭い眼光を放つ砦にレイは輝かしいダイヤモンドの杖先を向け、そして、砦は爆発に包まれる。
>> 259
砦「わるいな…しくっちまった」
鳥「今度、キツネうどんおごってもらうぞ」
爆発に巻き込まれる一歩手前で、五本尾の狐人が砦を抱えあげ、事なきを得た。
レイ「新手か…私の幻術にかからないとはね」
駆けつけては眠っていく狐人の戦士と鳥を見比べながらレイは呟いた。
鳥「四本隊、女剣士は後回しだ。この魔法使いから殺れ」
鳥の掛け声で、何処からともなく数十人の狐人が現れた。そして、その四本尾の狐人たちは手のひらをレイへと向ける。
砦「妖破を放て!!」
一斉放火、レイへとエネルギー破が注がれる。
アンテ「解印。妖術…実に興味深い」
しかし、その妖破は何事もなかったように消えさってしまう。
砦「なんだと…」
鳥「あれは、《解印の賢者アンテ》か…どんな魔導も無力にできるときくが、妖術までもを」
鳥は砦の治療を他の狐人に任せ、剣を抜く。狐族の諜報部員である彼は、この場にいる三人の敵の脅威を一番知った人物でもある。
カラス「手助けは無用…ここは私の管轄だぞ」
アンテ「結界破って終わりとはつれませんな。カラス中将」
>> 260
アンテ「雑魚には用はない。大物を釣るとしようか」
フードの中から見せる怪しく輝く虚無の眼は獲物を捉える。
カラス「ちっ、レイ…奴から離れろ。巻きぞいをくらうぞ」
レイ「御意」
アンテはまるでブラックホールのような吸い込まれそうになる古びた黒ローブを靡かせ、その巨体に引きをとらない長杖を地面へ突き刺した。
アンテ「受けよ。《闇消》」
砦「な…こいつ…なんて…」
凄まじい魔力の放出、闇の魔力は鋭く尖った針となり、巨大な固まりとして放出され、壁門もごと、狐寺の半分を消し飛ばされる。
アンテ「さぁ…おいでなさったか。《解印》」
天をみやげたアンテの頭上から目も眩むような炎が降り注ぐ、しかし、その炎は一瞬にして消し飛んでしまった。
蟷螂「ふむ、私の狐火でも届かぬか」
颯爽と着地しながら鋭い眼光を敵に浴びせた。
金髪の短髪、右目の下には顔の半分にも拡がる古傷がある。見た目の歳は中年だが、齢、数百歳の狐人である。狐族の実質、ナンバー2の蟷螂であった。
アンテ「釣れた…釣れた…大物が」
蟷螂「狼藉者ども!我が、牙の餌食になるがよい!」
狐人が剣を上段に構え、巨頭の狐は吠えた。
>> 261
鳥「蟷螂殿、加勢致す」
傷ついた砦を物陰に隠し、剣を構え走りながらそう叫んだ。
カラス「加勢?この程度でか?」
鳥「ッ!?」
しかし、目の前にカラスが立ちはだかる。鳥は怯むことなく剣を振り抜き、カラスのその身体を切りさく・・・
カラス「こっちだ」
だが、それは残像であった。それに気付いた時には遅かった。
鳥「ぐっ!!」
背後から振り上げられた剣を受け、鳥の軽装鎧は紙のごとく軽々と裂かれ、血が噴水のように吹き出し倒れた。
カラス「ふん。相手が悪かったな」
血を吐きながらもまだ目は死んでいない鳥を一瞥しそう吐き捨てた。
戦闘民族とまで呼ばれる狐族で、五本の指には入る砦・鳥の勇士がたった一人の女に倒された。他の狐族の者たちは相当な衝撃であった。
カラス「ついに動いたか…いつまで隠れているのかと思ったぞ」
そんな状況に、半壊した狐寺から残った戦士たちが咆哮を上げ、次々と駆け出してくる。
待機の命令を受けているにも関わらず、力量の差が歴然にも関わらず、一本尾すらカラスに斬りかかっていく。
無謀、まさにその一言に尽きる。苦境は狐人たちの判断を鈍らせていたのだった。
>> 262
蟷螂「馬鹿な。なぜ、出てきた」
アンテ「貴様の相手は私だ。よそ見していてよいのかな」
死兵と化した狐人の戦士たちを見て舌打ちをした。そんな蟷螂をアンテが放った闇魔法が襲う。
カラス「結界の切れ目より全軍進軍、寺の者を全滅せよ。皆殺しだ」
既に数十人の狐人の首をはねたカラスは叫んだ。
レイ「はっ。全軍出撃!!カラス中将へ続くのだぁ!」
レイ少将の指令の復唱を受け、群がるように結界の外から連合兵が入ってくる。
連合兵の銃口が一斉に狐人に向けられ、多くの狐人がその命を落としていく。
蟷螂「……」
次々と友が倒れていく。誰よりも仲間を大切にする蟷螂にとってこれ程、辛い仕打ちはなかった。心を根本からえぐりとられたようなそんな感覚に陥っていた。
蟷螂「皆、すまぬ」
今の蟷螂の心境は極地であろう。しかし、心だけではなかった。アンテとの戦闘においても劣勢と言う名の極地に陥っていた。妖術はアンテにより完全に封じられ、剣術だけでの闘いを強いられていた。だが、防御型の魔法使いであるアンテに刃が届くことはなく、蟷螂の身体だけが徐々に傷つけられていた。
>> 263
ボリック「…逃げたか」
薄暗くなってゆく空を見つめながら中将は呟く。周囲の草木は酸にでも溶かされたようにただれ落ち、辺りは異様な光景となっていた。
ナナ「はぁはぁ…はぁはぁッ」
森の木々の間をナナは走っていた。腹部から血が絶え間なく流れ出ているローナを抱えながら全身傷だらけの自分のことなど省みず、痛めつけられた身体を酷使していた。
ローナ「頭…わ…私…置いて…逃げて…奴に追いつかれるわ」
ナナ「馬鹿言うな。俺様はこう見えてレディファーストなんだぜ」
青白くなった顔を精一杯引き締め、そう口にした。しかし、ナナは抱えるその手を離すことはせず、一層その手に力を入れるのだった。
ナナ「俺様がこの様とは…中将に…あんな化物がいるなんてな…」
何度もふらつきながらも足を休めることなく走り続ける。遠のいていく意識の中、ボリック中将の《真の姿》を思い出していた。
恐ろしい化物、ボリック中将を・・・
ナナ「最後の悪あがきとはらしくねぇ…な…アイツに感化されたかなぁ…」
途切れゆく意識の中、傲慢な剣士が脳裏に浮かんだ。ナナはローナを庇いながら倒れ、背後から迫る敵を一瞥し意識を失った。
>> 264
ボリック「やっと…力尽きたか」
音もなく現れたボリック中将は変化した身体を震わせた。
全身が炭化し、その全身には人の顔が無数に生え出している。人の形はかろうじで形成しているが、無数の顔の集まりと言ってもよいボリックは最早、人と呼べるモノではなかった。
ボリック『ほぅ』
全身の顔が同時に声を発した。
ローナ「頭に…これ以上、手は…出させないわよ…」
這いながら倒れたナナの上に股がり、身をていして盾になるローナは絶え絶えの息で言った。
ボリック『女、既に意識を保つのが精一杯であろうに…なんとも素晴らしい…これが?愛というやつか?』
全身の顔が蠢く。直視できない化物にローナは思わず、目を反らしてしまう。
ボリック『おいおい。そう嫌がるな…私…僕…俺だって…好きでこんな身体になったわけじゃない』
全身の顔が各々に言葉を発する。それをなだめるように頭部につく、本来の顔、ボリック中将の顔がそう言った。
ローナ「あ…んたは…なんなのよ…」
近づいてくる敵を制するようにローナは返した。
>> 265
ボリック『私にも分からない…ただ、複数体の人体実験の産物ということだけだ。しかし、僕は後悔してはいないよ…連合軍を恨んだりはしてない俺わ…むしろ感謝している。この圧倒的な力をくれたことにな』
その言葉には複数の感情が入り交じっていた。全身に浮かび上がる顔、それぞれに意思があるとでも言うのだろうか。
ボリック『さぁ…お話は終わりです。死んで頂く…死んでもらおうかッ!!』
ローナ「ッ!!」
無数の顔は一斉に叫び声を上げた。その瞬間、腕を槍のように鋭く尖らせたボリックが走り出す。
ボリック『死ねぇ!!』
振り上げた腕を抵抗すら出来ないローナへ降り下ろす。
ガシャ…
ボリック『ぬ!?』
だが、横から入ってきた大剣がその動きを止めた。
「止めるんだ。その者たちに既に闘う力は残っていない」
ボリック『何者だ?貴様は?』
布を顔に巻き付けた細身の剣士がそこにいた。布の間から覗かせるブルーの瞳は鋭い殺気を放っている。
「助太刀致す」
剣士は大剣を回転させ、ボリックの腕を払うと、ローナの前へ立った。
>> 266
ボリック『うぅ!邪魔だぁぞ!お前!』
全身の顔から無数の虫たちが吐き出される。しかし、剣士は怯むことなく大剣を構えた。
虫たちは標的を見つけると同時に鋭く生えた牙を剥き出しにし襲いかかってくる。大きさは拳程度か、羽を携えた虫たちは一瞬にして剣士との距離を縮めた。
常人ならばこの瞬間、細切れになっていただろう虫たちの攻撃は突如、大剣から発せられた炎に呑まれてしまう。
ボリック『魔法剣士だな。最近は滅多に見なかったんだが…まだ、生き残っていたとは』
「いかにも私は魔法剣士だが…連合軍に殺られた仲間たちとは一緒にしないほうがいいぞ」
剣士は空高く跳躍する。そして、片手で剣を担ぎ、右手で空に魔法陣を描いた。
ボリック『なっ!?』
その瞬間、ボリックが立っていた地面から水が噴き上げる。その凄まじい水圧にボリックと言えど堪えかねず、水の流れのまま流されていく。
「さぁ今の内にこの人たちを運ぶんだ」
剣士は着地すると大剣を背中に収め、誰かに指示を飛ばした。
ローナ「ありがとう…貴方は一体?」
「礼には及びません」
回復呪文を唱えながらローナの腹部に手を当てる剣士は布の下に笑顔をつくる。
>> 267
ローナ「あ…」
剣士のブルーの瞳に思わず引き込まれそうになる。「なんて綺麗な目しているの」っとローナが心の中で呟いた。
ローナ「えッ…えぇ!!」
次の瞬間、視界は一変する。森の中に居たはずなのに、小屋の中へと変わっていた。
「心配しないで、ここは私の住まいだ」
剣士はローナの治療を終えると、気絶したナナの治療へと取りかかる。致命傷であったローナの傷は跡形もなく、綺麗に治っていた。
ローナ「あの傷をこんなに早く治すなんて…そこらの賢者より凄いわ。そんなに魔法に長けた剣士は他にあったことはないわ」
「回復魔法は私の恩師が得意とする魔法でね。これだけは私も人一倍得意なんだ」
ただ者ではないことが伺えるこの剣士は、布で顔を隠し素性を明かせないのは何か理由があるのだろうか。
「お前たちは…確か…賞金稼ぎ7の」
そんな剣士を見つめながら色々な事を考えていたローナに聞いたことのある声が話しかけてきた。
スモッグ「この星にもうやってきたのか?キングはまだのはずだぞ?」
ローナ「あんたは…大賢者様の弟子の」
不健康そうな青白い顔、幽霊のような白一色の服装、霧の賢者スモッグがそこにはいた。
>> 268
驚きながらお互いの顔を見つめ合う両者、そんな二人を気にも止めず、ナナが目を覚ました。
ナナ「あぁ?俺様は死んだのか?…ってかここ何処だ?」
「死んでません。危ないところでしたが」
ナナ「おぉ、そりゃ良かったぜ。お前が助けてくれたんだな?ありがとよっ」
剣士はナナの治療を終えると、近くにあった椅子に腰を下ろす。流石の魔法剣士も半死状態の二人を全快にして魔力を相当、消費したようだ。
ローナ「覆面の魔法剣士と…あんたが何故ここに?あんたはそれに、キング組にいたんじゃなかったの?」
興奮するローナは耳鳴りするような甲高い声を上げる。スモッグの顔はいつにも増して不機嫌そうになった。
スモッグ「黒の惑星…キングにいたのは私の分身だ。分身に大半の魔力を預けたお陰で、今の私は魔法もろくに使えんがな」
ローナ「霧の賢者の称号を持つだけはあるわね…惑星間で分身を作るなんて…でもなんでこんなところで剣士と?」
スモッグ「馬鹿者が!剣士ではない!偉大なるダンテス…ッ」
剣士の素性を思わず口走りそうになったスモッグは自ら口を塞いだ。
ナナ「ほぅ。どうやら俺たちの救世主様は御忍び方のようだ」
スモッグ「くっ」
>> 269
スモッグ「ふん。お前たちには関係のないこと…傷が癒えたのならとっとと出ていけ」
マントを翻し、背を向ける。表情を悟られまいととった行動だったが、逆にその行動が、ナナに確信を与えてしまった。
ナナ「剣士さんよぉ、その剣…ダンテスティン国の王家の紋章だな。しっかし、剣士とは呼びづれぇな~名前を教えてくれないかい?」
傍らにあった鉄材に錬金術を施し、剣士の横に立て掛けられた大剣に深く刻まれた紋章と同じ形を作ってみせた。それを見た剣士は無言のまま俯くと、横目で大剣を見つめ直した。
スモッグ「くっ…詮索はよせ!恩を仇でかえすのか!貴様は!」
スモッグがそんな剣士を隠すように視界に割って入ってくる。
ナナ「俺様がそんなに律義に見えるか?なんなら力ずくで聞いてもいいんだが…俺様は気になったらとことん突き詰めるタイプでな」
ローナ「頭!よしなったら!」
スモッグ「魔力を分散しているとは言え、貴様ごときに遅れはとらぬぞ」
ナナの喉元に杖が突き付けられた。銃で言えば、引金に手をかけたようなものである。
ナナ「やってみろよ」
しかし、ナナは怯むどころか、笑みを浮かべる。
>> 270
「やめるんだ。スモッグ…」
静かに立ち上がると剣士はそう口にした。スモッグはまるで君主にでも命令されたかのように、頭を垂れ申し訳なさそうに顔を伏せた。師匠(大賢者ハーク)以外の者には媚びる姿などみせたことのないプライドの高い魔法使いには考えられない仕草であった。
「すまない。スモッグは優秀な魔法使いだが…私のことになると我を忘れてしまう悪い癖があってね」
口元を釣り上げ、笑みを浮かべていたナナは急に神妙な顔つきとなり剣士を見つめた。
「この人たちに、私の正体を隠す必要はないだろう」
スモッグ「しかし…」
ローナがこのやり取りを目を丸くしながら見守る中、スモッグの制止を振り切り、剣士は重い口を開き始めた。
「ご察し通り、この剣はダンテスティン王家ものです。国が連合軍に侵略され、王家の者はセレナ姫だけを残し滅びた…だが、事実は違うのです」
ダンテスティン国は連合軍の侵略を受け、王・妃はもちろん王族は城と共に生き絶え、唯一、セレナ姫だけが生き延びた。この世界の者なら誰もが知る事実である。
>> 271
「私の名はエリトリア…ダンテスティン国の王子。今や亡き王子となってはいますが」
剣士は顔を覆っていた布を剥ぎ取ると、凛とした清閑な顔を見せた。人を統べる者の目、王子と名乗る彼の言葉を疑う者はいなかった。それほど、エリトリアから感じとれるオーラは違っていたのだ。
ナナ「王子、度々のご無礼をお許し下さい…」
ナナは無意識の内に膝をつくとそう口にした。人間族の王族、ダンテスティン王家、王亡き今、エリトリア王子、彼こそが人間族の王であるのだ。
エリトリア「貴殿を責めることはできません。私が偽っていたのですから」
王子はそれからゆっくりと語った。ダンテスティン星で連合軍と闘う中、命からがらスモッグの戦場から生き延び、連合軍の追ってから逃れる為、このウマンダ星に身を潜めていたという。
>> 272
エリトリア「私は兵を率い最前線へ出陣したものの…連合軍の大軍を前に兵は全滅。私たちは戦場からなんとか生き延び、城へと戻った時には城は炎に包まれていたのです…」
瞳から溢れでる涙、エリトリア王子は声を枯らしながら話す。
エリトリア「王も…王族たちも殺されたと聞いた時は私も自決を考えました…私の力が足らなかったばかりに皆が殺さたのですから」
スモッグ「王子…」
亡き王たちを想ったのだろうか、エリトリアは泣きながら膝をついた。その悲しみ、悔しさが伝わってきたのが、ローナは彼から目を反らす。
エリトリア「だが、希望はまだ残っていた。妹のセレナ姫が逃げ延びたと知ったのです。私が彼女を守らねばと…再び奮起できたのです。ここで身を潜めていた間に磨いたこの腕、今こそ活かす時がきた」
スモッグの肩を借り起き上がると先程の涙は消え、鋭く眼を輝かせた。
エリトリア「もう涙は出し尽くした…弱い私はもう見せません。さぁ行きましょう。私も友に闘います」
ナナ「その言葉、待ってましたよ。手始めにここ(ウマンダ星)の連合軍を潰してやりましょうぜ」
>> 273
動き始めた連合軍。だが、キングはウマンダ星をまだ目視にすら捉えていなかった。
①クリス「まだなのか…」
そんな状況に痺れをきらしながら唇を噛むクリスは、監視室がある船首にいた。
⑭キック「焦っても仕方ないぞ。俺たちが行くまでの間は凱たちが上手くやるさ」
新調の重厚な翠鎧を纏ったキックが暖かい飲み物を片手にやってくるとクリスにコップを差し出す。リード将軍の闇魔法を受け、石となったキックだったがオジオンの力で全快していた。
①「ありがとう」
両手で受け取ると乙女らしく、可愛いらしい仕草で息を吹きかけ口に運ぶ。甘い香りが広がった。
⑭「治療カプセルでリオもラ・ドルも順調に回復してる。ウマンダ星に着く頃には傷も癒えているだろう」
①「そう。良かったわ…そう言えばセロの姿が見えないけど」
⑭「セロは使えそうな宇宙船を探しているよ。ウマンダ星での足は必要だろ?と言ってたが」
①「ふふ。アイツにしては気がきくじゃない」
クリスはすっかり苛立ちを忘れ笑顔を見せる。それを見たキックは安心する。
⑭「そうだ。じっとしていてもなんだろう?いいものを見つけたんだ」
①「え?」
>> 274
生きようようと歩いていくキックにクリスはついていった。
⑭キック「ここだ」
暫くすると、大小様々な器機がしきめき、無数のライトが点灯する部屋へついた。
①「なんなのここは…」
⑭「奥に行けば分かるさ」
部屋の奥へと進むとそこには立入禁止と書かれた扉があった。
ミスチル「ようこそ、宇宙海賊の誇るバトルルームへ」
扉の横にこじんまりと設置された操作パネル、その前に陣取ったオペレーション席にはミスチルが腰を据えていた。
①「バトルルーム?凱の船のやつか?」
⑭「あぁ。もともとバトルルームの技術はピンタゴ星雲が発端だ。さぁ肩慣らしと行こうか」
立入禁止の警告を気にすることなく、キックが扉を開ける。
ミスチル「言っておくが、怪我をしても…責任は取れない」
①「問題ない。たかが…バーチャルだ」
キックのエスコートを受け、クリスはバトルルームの中へと入っていった。キックもその後へ続く。
ミスチル「ッ。宇宙海賊の技術をなめよって…少しこらしめてやるか」
操作パネルに手慣れた動きでコードを入力するとレベル設定をMAXにする。
ミスチル「大戦の英雄と呼ばれるに相応しいか、品定めしてやろう」
>> 275
①「広いな」
⑭「これは中々、楽しめそうだ」
ざらついたブザー音が響き、薄暗かったバトルルームに灯りが灯っていく。
そして、フラッシュがたかれたように一瞬だけ眩い光が放たれた。
①「出たな。さぁかかってこい」
現れたのは生々しいほどの筋肉を携えた狼人間であった。
鋭い眼光で、クリスを睨み付ける狼人間は牙を剥き出しに、両手の爪をさらけ出す。
⑭「相変わらずリアルだな。おっと」
狼人間の胸が膨らむ、そして放たれた炎は渦となって二人を襲う。キックは飛び上がり、クリスは斬撃で炎を討ち払った。
⑭「きたなッ!」
狼人間はその鋭い爪で攻撃をしかける。
⑭「早い…じゃないか!!」
キックは高速で繰り出される爪に圧倒され、思わず後退していく。スピード、パワーともに銀狼の長ドグロと同等程度と思わせる力である。
①「神剣」
胸の前に剣を掲げ、クリスはゆっくり剣を構えた。剣は光を放ち、その外観を消す。
⑭「っ…??」
①「軽いな」
クリスが剣を振った時には狼人間の身体は二つに割れていた。
ミスチル「!!」
それに驚いていたのは外で様子を見守っていたミスチルであった。
>> 276
ミスチル「い…一撃で…」
震える手を押さえながら操作パネルをタッチする。ミスチルが動揺するのも無理はなかった。ホログラムの狼人間とは言え、ドグロ自身からデーターをとり、実物を忠実に再現した狼人間である。つまりはドグロと同じ力をもつ狼人間であるのだ。
ミスチル「つい先日まで、ドグロ様に圧倒されていた女が…この短期間でこれ程、成長するのか」
元々、クリスはスピードは十分にあったが、力に欠けるものがあった。しかし、全てを切り裂く神剣を身につけたクリスに短所はなくなったと言っていい。
⑭「参ったな」
その力にキックから思わず出た言葉。キックも竜剣を解放し竜へと覚醒してから身体能力が少なからず上がっていたが、それでもクリスの成長の足元にも及ばないのが事実であった。
①「この技を慣らすのにはちょうどいい」
また、ブザー音が響く、今度は先程の狼人間が10人現れ二人を取り囲んだ。
①「神剣の極み、この剣に宿す」
輝く剣が舞い光線が駆けた。刹那、キックが瞬きを終える時には全ての狼人間が消えていた。
ミスチル「ありえん…これが英雄か…」
パネルにはエラー表示、同時にバトルルームの扉が開いた。
>> 278
⑭キック「中心部へ戻ろうか?何か進展があるだろうからな」
①クリス「そうね」
キックが言う中心部とはキングの中枢、操縦室でもあり、キングの心臓(コア)でもある。弾力に優れた白色の内壁はそのコアの脈動を受け微かに動いており、キングが生命体であることを示している。
⑭「しかし、不思議な船だ。この大きさもそうだが、生きているなんて…一体、誰が…産み出したんだろうな」
①「想像もつかない。でも頼もしい過ぎる仲間だってことは分かるわ」
中心部へ近づくにつれ、銀狼の警備も厳重になっていく。黒の惑星での奇襲の件もあり、コア周辺の警備は物々しいものである。
「大戦の英雄殿、ご苦労様です。ここより先、特別警戒区域ゆえ、ご注意を!!」
「お気をつけて!!」
大戦の英雄。地の大賢者オジオンが言った言葉であるが何処から流れた噂か、クリスたちを銀狼の戦士はそう呼ぶようになっていた。それ程、クリスたちの黒の惑星での闘いは目を見張るものがあったのだ。
⑭「大戦の英雄か。悪くはないなぁ」
腕を組ながら小さく頷くキックは満足げである。
①「ふぅ」
対象にクリスは呆れた顔で眉毛を上げていた。
>> 279
キング中枢部、コアの操縦席に座っているのは銀狼族族長ドグロであった。豪腕の狼と風評される程に彼のやり方にはいつも無理があるのだが、銀狼の信頼はなぜか厚い。
⑱ドグロ「直か?…ふーん。それはやっかいだな」
黒一色の正装に身を包み、一見すると紳士的ではあるが鋭く端が尖った色眼鏡の下から透けて見える眼はまさに獣そのものである。銀狼である彼は30歳半ばの見た目以上の齢である。
⑱ドグロ「分かった。お前は闘いに備えて破損箇所の修復に当たれ」
野球ドームのような半円状のコアにはドグロ以外の者はいない。しかし彼の声に返事を返すようにコアに高い電子音が断続的に鳴る。耳鳴りのようなそれは、キングの声であり、暗号のような音をドグロは苦もせず理解し会話している。
⑱「あぁそれと、背後の連合軍には気をつけておけよ。俺様たちに追いつけるとは思えんがな」
ドグロの声に反応しコアの内壁には様々な映像がフラッシュ的に映し出されていく。小惑星サイズのその巨大過ぎるキングで起こる全ての情報をコアで集約し処理しているのだ。
>> 280
⑱「何事だ」
キングの電子音のような甲高い言葉に被さるように、けたたましい警報音が響いた。
ドグロは瞬時に移り変わる内壁の映像に目を凝らし、外(宇宙)の映像を指差した。すると全面に外の様子が映し出される。美しい輝き、星たちの光源が一面に広がりる宇宙に、一際浮き出た光が見える。
⑱「赤い流星…」
血のように赤く輝く光がキングへ向かってきていた。明らかに流星ではない、それを確認したドグロは思わず生唾を飲み込む。赤い流星と呼ばれるそれはフラク星雲では知らない者はいない程、不吉な存在である。
⑱「動きだしたか…連合軍めが!キング!艦内に伝えろ!」
敵襲だ、そうドグロが叫んだ瞬間、キングが鈍く揺れた。
ガガガガガガガガ…
>> 281
⑭キック「おっと…なんだ?」
大きな衝撃音の後、キングが揺れた。思わず壁に手をついたキックは周りを見渡しながら揺れの正体を探っている。
①「ウマンダ星まで何事もなく行けるわけないか。キック!いくぞ!」
暫くすると警報音が鳴る。自体はただ事ではないようだ。
警報音と同時に駆け出したクリスに慌てて付いていくキックは翼を広げ飛び立つ。周りにいた銀狼たちも慌ただしく情報収集に躍起になっている。
⑭「分かるのか?」
状況からして、敵襲なのは明白ながら惑星サイズのキングの何処に敵がいるのか分かるのか?キックの言葉にはそんな意味が含まれている。
①「もちろんだ。凄まじい殺気を放ってくれているからな」
⑭「そりゃ凄い…あまり好まない発見方法だが、敵を探さなくてよいのはなによりだ」
並々ならぬ殺気を放つ敵からは強大なオーラを感じる。クリスはそんな敵と兄雷とが重なる程、兄と同等以上の力を持つ者であると感じとっていた。
>> 282
暫くいくと、銃撃の音が響いてくる。銀狼の叫び声、悲鳴が飛び交い、敵と交戦しているのが分かった。
⑭キック「急ごう」
①「あぁ」
左右対称の通路を抜けると、そこには戦闘機の格納庫があった。だが、真っ先に目に飛びんできたのは戦闘機ではなく、複数の戦闘機を薙ぎ倒し、壁から顔を見せる赤い角のようなモノであった。
①「あれは?」
キングの分厚い装甲を突き破り、更には戦闘機すら粉砕しそこにある赤い物体は鈍く輝いている。
⑭「おそらく…敵の船だろうが」
銃声が止み、血臭が漂ってくる。周囲には変わり果てた多くの銀狼が無造作に投げ棄てられていた。
そんな中、不気味な程、場違いな老人が一人、血塗れの場に立っている。老人は長髪を一束に後ろでくくり、しわくちゃな顔を更に捩れさせ笑みを浮かべている。細身の弱々しい手足をさらけだし、その手には不釣り合いな重厚な剣を携えていた。
①「お前が殺ったのか?」
血に染まる剣を持つ老人だったが、今にも死にそうなその外見から思わずクリスはそう口にしていた。
「愚問」
眼を見開き、その気迫溢れる眼を見せつける。凄まじい殺気にクリスは思わず後ずさった。
>> 283
「我が名はサム。連合軍七大中将の一人だ」
半分欠けた眉を上げる老人は、よれよれのシャツの胸元に付けた勲章を指指す。そこには数多くの光輝く勲章があった。連合軍の偉さを示す証があるのだろうが、クリスたちには何れが中将の証なのかは分からなかったが、本人は満足げである。
サム「ウマンダ星へは行かせぬ。ここでキングと共に果てろ」
①「生憎だが、果てるのはそっちの方だ」
クリスが動いた。一瞬でサムに斬りかかるとお互い剣が交わり音を立てる。
サム「早いな…流石は連合軍の脅威と位置付けられる輩だけはある」
サムはこのたった一つの剣合わせで、クリスの技量をおおよそながら把握した。老剣士サム、人々が彼のことをこう呼ぶのは年老いもなお衰えない剣術はもちろんながらこの超感覚があるからだろう。
①「風よ!光よ!我が身に纏え!」
サムの剣を弾き、クリスは胸の前で剣を構えた。剣は目映い光を放ち、光と一体化する。
サム「ほう。それが報告のあった神剣と言うものか…なんでも斬れると聞いたが?儂を斬れるか?」
①「私の剣は止まらない」
躊躇することなく、クリスは光剣となった剣を振り抜く。
>> 284
①クリス「ッ!?」
サム「まだまだ未熟。ダリルには遠く及ばぬな」
①「父(ダリル)を知っているのか!?」
だが、止まらぬはずの剣はサムの剣を前にして受け止められる。
⑭キック「馬鹿な。どうやって…リード将軍すら圧倒した技だぞ」
サムは軽々とクリスの光剣を弾き、己の剣を見せつける。
ブラックカラーの重厚な剣、光の角度で黄金色の輝きを放つそれは連合軍の紋章が刻まれている。
サム「この剣はブラックメイルと呼ばれる特殊金属で出来ておる。世界最高水準の連合軍の技術ですらこのサイズの金属を加工すれのに一ヶ月はかかるが…絶対無敵の硬度を誇る。お前の今の神剣では切れまいて、本来の力ならばこの玩具(ブラックメイル)など紙切れだろうが」
①「お前…神剣も知っているのか!!」
再び剣を交える。だが、光剣はブラックメイルの剣に弾かれてしまう。
サム「知っているもなにも…本物(ダリル)の神剣と闘い生き延びた者は儂ぐらいだろう!!」
老人剣士サムは老いた肉体を感じさせない跳躍を見せ、壁から突き出た赤い角へと飛び移った。
>> 285
サム「遊びは終わりだ。まとめて消えよ」
角の先端に立ったサムは鞘に剣を収めると、低姿勢となり剣の柄に手をかける。
まるでそれまで必死に堪えていたかのように、濁流のごとくオーラが爆発的に膨れあがり、脱刀したその瞬間、光が走る。
サム「無縁仏」
その剣圧で爆発にも似た風圧が辺りを襲う。格納庫にあった戦闘機は跡形もなく吹き飛び、その威力は格納庫だけでは収まりきらずキングの内壁を破壊し辺り一帯を消し去った。
⑭キック「クリス!!」
①クリス「ッ!!」
その余りの威力にクリスは吹き飛ばされるが、キックが体を張り彼女を庇う。だが、二人とも瓦礫の山へ叩きつけられてしまう。
①「すまない」
⑭「…気にするな。竜人は体が丈夫だからな」
額から血を流しながらも立ち上がるとキックは竜剣を構えなおす。
サム「まだ生きておるか。では、もう一撃!!」
休む暇など与えず、再び、剣を鞘に収め脱刀の準備に入る。
>> 286
サム「無縁仏」
光が圧縮され、サムの剣へと集約されていく。凄まじいそのエネルギーに、年老いたこの男が中将であることに疑う余地はない。
①クリス「させるか!!」
かつては世界最強の座を争っていた男、彼の恐ろしいところはその過去だけではない。魔族(エルフ族等)ではなく、人間(ノーマル)である彼は齢90才以上でありながらこれ程の技を放つことができるところである。老化すら技に取り込んだ彼を人間を超えた存在とまで称える者までいる程だ。
サム「貴様のその剣と…私の技どちらが上か決めようか」
クリス「悪いが!剣術の力比べには興味はない!」
クリスの速さは、サムの動きを遥かに凌いでいた。だが、先程の剣合わせではクリスの剣が届くことはなかった。なぜか?それはサムの初動速さが余りに早いのである。クリスのスピードに反応できるその動体視力はもちろんながら永年の経験から得た感覚が、反射的に身体を動かしているのだ。
サム「つれぬの。その高飛車な態度は父親にそっくりじゃ」
クリス「生憎だが!私は母親似だ!!」
今まさに技を放とうとするサムへクリスは剣を振った。
>> 287
サム「小娘が!!」
美しい身体を翻し宙に舞うクリスは剣を走らせた。長い髪を流線形にくるませ、身体ごと回転させる。
サム「我が剣、止めれるものなら止めてみよ!!」
サムの喉元に剣が降り下ろされる。だが、自分の身など省みずサムの眼はクリスの腹部を捉えていた。
①クリス「終りだ!!」
サム「お前ものぅ!!」
身体ごと回転しながら放たれた剣は、サムの喉元を深く抉りとる。その瞬間、大量の血が吹き出した。
①「!!」
だが、絶命にも近い致命傷を受け流血するサムだったが、その動きを止めることはなかった。
サム「手…ぬる…い」
もうじき止まりそうなか弱いながらも確かに鼓動する己の命を感じながら笑みを浮かべ、脱刀する。剣を振り終え、次の動作に入る暇さえ与えられたかったクリスにそれを避けることは不可能であった。老剣士サムの生涯最後の技は、光となってクリスを包み込む。
⑭キック「クリス!!」
目映い閃光の後、凄まじい風圧が辺りを襲った。瓦礫は吹き飛び、キングの内壁はことごとく破壊されていく。
>> 288
変わり果てた瓦礫の山、至るところから火の手が上がっている。サムの技は、キングの2ブロックにも及ぶ範囲を破壊していた。
レッガ「生存者を探せ!敵がまだいるかもしれん探し出せ!」
ようやく駆けつけたレッガ隊長率いる銀狼部隊は全面に展開し瓦礫の山を掻き分け捜索を始める。
「隊長!敵と思われる者の遺体がありました!」
銀狼の一人が声を上げた。キング内壁を突き破り顔を見せる敵船の赤い角に、ボロ雑巾のように干からびた老人が倒れていた。
レッガ「こいつは…サム中将…」
自らの血に浸かるように大の字に倒れるその老人は眠るように静かな顔であった。老人剣士サムはかつて敗北した男、ダリルに強い復讐心を抱いていた。世界最強の競争に敗れながらも生かされたその屈辱を晴らすためにサムはダリルの子との相討ちを望んだのだ。己の命を捨ててまで得た達成感をもってサムは昇天していた。
レッガ「英雄方を探すんだ!絶対に死なすな!」
「はっ!!」
レッガは焦りながらそう指令を出した。この惨状を見てクリスたちの身を按じての発言であった。
>> 289
レッガ「ぬぅ。情けない話だ」
銀狼隊の捜索活動を見ながら思わず口から出た言葉であった。宇宙海賊と政府軍との揉め事から始まったこの闘い、高い戦闘能力を誇る銀狼族だが、クリスたち大戦の英雄がいなければ宇宙海賊はとっくに壊滅していたことだろう。事実、レッガの目の前に倒れている中将サムの力は、レッガはもちろんながら銀狼トップのドグロすら凌ぐ力をもっているのだ。
「隊長!竜人殿です!」
レッガ「なに!どけ!」
「瓦礫を退けるんだ」
瓦礫に半身が埋もれながら上体を起こした竜人は少し先を指差し叫ぶ。その声は渇れてた。
⑭キック「私はいい。クリスを助けてやってくれ…ッ」
レッガ「分かった。おい!あそこだ!」
瓦礫に横たわるように彼女はこそにいた。
①クリス「……」
サムの命すら掛けた渾身の一撃を受け、その手に握られた剣にはくっきりと剣撃の後が刻まれていた。父ダリルから授かった剣、今まで刃こぼれすらなった剣には大きく亀裂が入っている。それ程までにサムの技は凄まじかったのだ。
>> 290
レッガ「しっかりしろ!おい!早く救護班を呼ばんか!」
クリスの状態を見てレッガは驚きを隠せなかった。今にも途切れそうではあるが彼女に息があったのだ。両腕の骨は折れ、肋骨も何本か折れている重症ではあったが、確かに生きていた。レッガはサムの技を目視したわけではないが、周囲の現状から推測したその威力を受け彼女が生きていたことに尊敬の念すら覚えていた。
①「ッ…」
レッガ「動くな。直ぐに救護班がくるからな」
たが、クリスはサムに打ち勝ったという気持ではなかった。どちらかといえば、敗北した劣等感に満ちていた。頭の中では、サムとのやり取りが走馬灯のように何度も再生され、その度にクリスはサムという男の底知れぬ力を思い知らされる。はなから命を捨てる覚悟でサムはクリスの接近を許していた。いくらスピードで劣っているとは言え、やろうと思えばクリスが接近する前に技を放てたことだろう。だが、確実にクリス仕留めるために自分の命を餌さにしたのだ。幸いにもクリスは剣に守られ命をとりとめ、生き延びた。だがそれは実力で勝ち得たものではなく、時の運、奇跡の恩恵であった。
>> 291
遠退いていく意識の中、クリスは傷付いた剣を見つめ、その瞳は哀しみに満ちていた。
周りで心配そうに見守るレッガたち銀狼部隊や傷の手当に勤しむ救護隊など、もはや視界には入っていない。
剣と己だけの空虚の世界、その眼に捉えるのは変わり果てた愛剣のみであった。
剣士たる者、剣は命と同様である。ましてやクリスにとって、この愛剣は父から授かった形見であり、兄との唯一の絆の証である命以上に大切なものであったに違いない。
そんな剣が力不足が相まって破壊され、クリスは己の不甲斐なさに怒りすら感じていた。
剣と友に生き、この剣に生かされ生きてきた。それは、一概に剣の道を生きた証であったのだ。だが、その証は砕け散り、剣士として何か大切なものを失ったように思えた。
クリス「すまない…」
心底、心から出た剣に対する謝罪の言葉であった。
溢れ出る涙を堪えようと目を閉じたクリスはそのまま深い眠りに落ちたのだった。
「神剣敗れたり。」天から降り注ぐように、何重にも被さった声で老人剣士サムの言葉が木霊していた・・・
>> 292
「かっ…ドグロ様…」
恰幅のいい銀狼の腹部に、邪悪な黒剣が突き刺さる。銀狼は数秒暴れた後、動かなくなった。
「大したことないな。銀狼とやらわ」
金の羽衣を纏った剣士は周りで倒れた数十人の銀狼にそう吐き捨てるとそそくさと歩いていく。それに続くように銀の羽衣を身に纏った剣士が現れると同じ動作でついてくる。
その二人の剣士は金と銀の羽衣の色以外は全てが瓜二つである。背格好はもちろんながら茶髪の頭は、癖毛の位置すらまったく同じで、気味が悪いほどだ。そんな中年剣士の彼らは、金角少将・銀角少将、サム中将の側近であり二人が力を合わせればサムと同等以上の力を発揮するという最強の双子である。
金角「こっちであってるのか?」
銀角「もちろんだ」
そんな《最悪》の二人が目指す場所は一つ、手薄になっていたキングの中心部であった。
単身現れたサム中将の目的は陽動に他ならない。その思惑通りに、この時、クリス・キック、そしてレッガ率いる銀狼主力部隊が中心部の周囲から離れていた。
>> 293
中心部へは迷路のように要り組んだ細い通路を通らなければならない。肉壁のような柔らかく、鼓動する壁は中心部が近づくにつれ鼓動が強まっていく。
警戒体制にあった銀狼たちも数百に上る戦闘員が警備についてはいたが、彼らの銃や牙が連合軍少将レベルに届くことはなかった。
金角「手応えがないな」
銀角「手応えがないな」
悲鳴を上げる間もなく細切れにされていく銀狼たち。一般兵が少将レベルを倒すのには軍艦三隻がいると言われる。金角・銀角のような将校クラスはそれ程までに逸脱した力を持っているのだ。そんな彼らに対抗できるだろう力をもった嵐の賢者ラ・ドルは治療カプセルに入ったままであり、霧の賢者スモッグはこのような窮地でありながらその姿を眩ませていた。
ミスチル「お前らの狙いはドグロ様か」
そんな中、唯一中心部に残っていた銀狼族参謀のミスチルが彼らに立ち向かった。力で言えばドグロすら上回る双子に挑むとは知将の彼らしからぬ行動ではあったが、この先のドグロの命を守る盾となるつもりだろう。
金角「少しは腕に覚えがあるようだが我らには勝てぬぞ」
ミスチル「ふん。勝てぬというなら私をひれ伏せてから言うのだな」
>> 294
銀角「ひれ伏せる?その必要はなかろう」
銀角は笑みを浮かべながら脱刀する。凄まじい風圧、剣撃がミスチルを襲った。
銀角「無縁仏」
光の閃光が走った刹那、周囲一帯は吹き飛ばされていく。避ける暇など与えられなかったミスチルは身を刻まれ、爆風に呑まれ姿を消す。
ズズズ…
金角「おい。船を潰すつもりか」
銀角「キングはこれぐらいでは潰れぬさ」
大きく区画を変更された周囲は、壁という壁を破壊され、瓦礫に埋もれる一つの大きな部屋へと変わっていた。破壊された一帯では血塗れになった多くの銀狼が苦痛の声を上げている。
銀角「さて、邪魔者もいなくなった。行くとしようか」
サム中将の技を扱え、オリジナルに威力も引きを取らない。彼らが最強の双子と呼ばれる所以である。そんな最強の双子は、動力源を破壊しキングの起動停止を目論んでいた。
「良かった。間に合ったか」
そんな双子を捉える眼があった。白いローブに身を包み、白杖を構える見慣れない光魔法士である。
>> 295
純白のローブは汚れなきその者の心を映すかのように、白銀の分厚い肩当てはその強固な力を示すように、魔法使いは颯爽と空を駆けた。
銀角「なんだ!?」
金角「!?」
木の葉が舞い落ちるように音もなく静かに現れた魔法使いは白杖を剣士に向ける。美少年の優男、あどけない顔といった印象の魔法使い、しかし、その眼は、幾つもの修羅場を切り抜けた者のそれであった。
銀角「餓鬼がぁ…誰だてめぇッ!?」
金角「こいつぁエルフ族だ。見た目で判断するな…相当できるぞ」
水に波紋が伝わるように魔法使いが杖を動かすと空気が揺れる。全ての空間が彼の掌(タナゴコロ)の中にさえ感じ、金角・銀角少将は動き出すことが出来ずにいた。
「我が名は…空の大賢者エア」
彼は正義の使者であり、魔法界きっての天才魔法使い光魔法士の総指揮者でもある。
⑲エア「滅せよ」
白杖から放たれた輝きは暖かく、そして強い光であった。その光は二人の剣士を呑み込み、そして静かに消える。
⑲「悔い改めなさい」
焦げ付いた肉の臭いを漂わせ倒れた剣士たちに賢人はそう説いた…
>> 297
クリスたちキング艦隊がウマンダ星へ向かっている最中、火中のウマンダ星では最後の抵抗が起こっていた。このウマンダ戦争において要の存在になるだろう狐族、彼らの命運が今後の闘いに行先を決めることは間違いない。
アンテ「ふっははは!哀れめ!己の無力さに!」
蟷螂「くっ…」
戦火に包まれるウマンダ星で唯一、連合軍の侵略下に下っていない狐寺は、少数ながらも抵抗を続けていた。
崩れゆく狐寺、狐族の希望とともに音を立て形を失っていく、その様は絶望という二文字を狐族の戦士たちに与えていた。カラス中将、レイ少将、魔法軍参謀アンテ少将率いる大部隊を前に、狐寺が落ちるのも最早時間の問題であった。
蟷螂「解印の賢者アンテ、ここまでとは…」
アンテ「終いにしようか…蟷螂よ」
赤子のようにあしらわれ成す術なく膝をつく蟷螂を見下しながら言い放つ。
周りではカラス中将の指揮の元、狐寺へ連合兵が雪崩れ込み、騒然とした混戦へと変わっていた。狐寺の最奥にある本殿への侵入を許しまいと躍起する狐人たちだが、圧倒的な大軍を前に次々に力尽きていく。
>> 298
「隊列を組め!奴らは少数だ!怯むな数で押せ!」
「おぉ!カラス中将へ続けぇ!」
隊列を組み突き進む連合兵は、レザー銃を連射し瓦礫に潜む狐人を撃ち抜いていく。狐人の戦士たちもその独特の曲刀を自在に操り盾にし、接近戦に持ち込み連合兵を薙ぎ倒すが、多勢に無勢である連合兵の数に押されていく。
砦「ここは俺がくいとめる…お前らは鳥を連れて地下の避難路から逃げろ!」
「しかし、砦さんも重症です!置いてはいけない!」
カラスから受けた傷が癒えていない砦は、ふらつく足取りながら連合兵に斬りかかる。二、三人斬り倒すと連合兵からの一斉放射をなんとか避けきり、柱の影に身を隠した。
砦「ばきゃろぅ!俺様が下等兵にとられるかよ!砦つけて早くいけ!」
「分かりました。ご無事で…」
砦の血塗れの鬼の形相に恐れをなしたのか、警護についていた狐人たちは言われた通りに鳥を運んでいった。
砦「ふん。闘って死ねるならいいってもんだ。凱との決着をつけれなかったのだけが、悔いは残るが」
常人ならば意識を失う血を垂れ流しながら砦は柱から飛び出した。待ち構えていた連合兵が一斉に引金を引く、無数の線光が砦を襲った。
>> 299
「本殿へ近づけさせるな!!」
「女、子供の避難は終わったのか!?」
「援隊を呼べ!北通路が破られるぞ!東から部隊を回せ!」
いとも簡単に結界を破られ、No.2蟷螂がアンテとの闘いで門で立ち往生をくらういう予期せぬ自体に、狐族の指揮系統は混乱していた。
「鬼教官が帰ってくるまで、持ち越せ!主力隊が帰ってくれば戦況も少しは変わるはずだ!」
本来ならば軍事ごとの参謀である鬼がこの場にいて指揮をとるのだが、フォックスの指示を受け先刻、軍艦を率い狐寺を出ていた。知将の鬼と言えど、連合軍がフォックスの張った結界をこうも早く破るなど想像もしていなかったことだろう。
カラス中将「けっ。結構、奥に隠れてやがるな。少し時間がかかるか」
破竹の勢いで狐人を斬り倒していくカラス中将は、次々に現れる狐人の戦士たちに舌打ちをした。
レイ少将「部隊が付いて来れておりません。ここは…」
カラス中将「黙れ!私一人で十分だ!」
連合兵の前線が、最奥の本殿に達するまでの時間はまだ少しかかる。しかし、先陣をきり進むカラス中将はフォックスがいる本殿と目と鼻の先にいた。
>> 300
騒然とした外とは違い、まるで異世界にでもきたかのように本殿は静まりかえっていた。
パチンッ
ただ聞こえてくるのは扇子を開け閉める音だけである。
純白の着物に身を包み、二十代後半に見えるその顔は齢、数百歳とは到底思えない。金色の女が羨むほどの綺麗な長髪を靡かせ、分厚い毛の固まりの七本の尻尾を軽やかに動かしながら扇子を扇ぐ彼は、族長のフォックスである。魔族の中では一、二を争う実力者でもあり、その昔、あの竜王すらひれ伏せたという伝説をもつ男、最も神に近い者とまで言われている。
⑰フォックス「おもしろうなってきよった」
フォックスは攻め入られている側の将とは思えない暢気な表情で、一つ大きな欠伸をすると、頭上をみやげた。と同時に、轟音が響く。
銀色のメタリックボディ、大型戦艦が現れ颯爽と狐寺の上空を旋回すると、二人の剣士が天井に開いた天窓から本殿へと降り立つ。
鬼「連れて参りました。まさかこのような事態になっているとは…」
「いてぇな。無茶させやがって」
上空から飛び降りた衝撃で尻餅をついた漆黒の鎧剣士は頭をかきながら立ち上がった。
>> 301
⑰フォックス「相変わらずじゃのぅ。凱」
清楚な趣きに相反し、不気味に笑みを浮かべる。それは剣士に対する歪んだ愛情を表しているかのようだった。
⑦凱「フォックス、言っとくが俺はお前に下ったわけじゃねぇぞ。この戦いには、狐族の力が必要だからな」
そんな化狐の大将を見た凱の背筋には冷たい悪寒が走った。
神人とまで称えられるフォックスだが、凱に言わせれば、人の命をもて遊ぶのが大好きな鬼畜ヤロー、恩人であり、宿敵でもある狐人なのである。
⑰「ほぅ。いつから私にそんな口のきき方をできるようになったのじゃ?」
⑦「う゛…うっせぇ!もう昔の俺じゃねぇんだぜ!」
凱が狐寺にいた頃、それはそれは恐ろしい日々であった。
十数年前、十代を少し回った頃、凱はフォックスに拾われた。
当時、幼き身で生き抜く身を守る為、ただ力のみを追い求める刃のような存在であった。
賞金稼ぎを始め走り出した当初、子供ながらに野獣のような殺気を放ち、闘いに明け暮れる日々を過ごしていた。
無謀な毎日、命をまるで紙きれのように扱っていた。
だが、そんな若気の至りなど知れている・・・
>> 302
⑰フォックス「寺を出てもう10年以上になるかの。少しは成長したと思っていたのだが…私が送った刺客たちの頑張りも無駄だったか?」
⑦凱「あぁ?試してみるか?今の俺ならお前の首、とれるぜ」
幼き魔物、一時は闇社会でその名が通った時もあった。だが、そんな幼き狼が倒れるのは早かった。
大金欲しさに大物賞金首に手を出したのが不運の始まり、あっけなく闘いに敗れ、命からがら逃げ伸びた凱に賞金が掛けられ、自身も闇社会から追われる身となったのだ。
攻勢に出ていた者はめっぽう守りに弱い。ましてや強さでしか己を表せなかった幼き者に身を守る術などなかった。
そんな消えようとした命に、救いの手を差しのべたのがフォックスである。
狐人の戦士に囚われた凱に、慈悲を与え、寺に匿ったのだ。(狐人は賞金稼ぎで生計を立てる者が多い)
⑰「意気はよくなったな…そうだ覚えているか?寺にきた時のことを、お前は戦士に捕まり協会に売り渡されるところを私が拾ってやったのだったな」
⑦「『私の玩具としてここにいろ雑種』…よく覚えてるぜ、その一言は死ぬまで忘れねぇよ」
凱は昔を掘り返すフォックスの真意を探るのに躍起になっている。
>> 303
⑰フォックス「あの時は驚いた。銀狼と人間の混種、出生確率は極めて低い、生まれてきても死子が多いと聞いていたが…それが目の前に現れたからな。しかも…お前から感じたオーラにこの私が、未知の力を感じたのだ」
⑦凱「気色悪いこと言うんじゃねぇ、お前らしくねぇぜ」
今まで凱を認めようとしなかったフォックスから出た思わぬ言葉に動揺する。この会話を横で聞いていた鬼も驚いた。
鬼「族長…」
狐寺に狐人以外の者を招き入れるなど言語道断、凱が寺に住まうことになった当時は族長であるフォックスの指示であったが為に致し方なく鬼を含む他の狐人たちは了承せざる得なかったが、影では凱を拒む者は多かったのが事実である。そんな中、陰湿ないじめもあったが、凱の人柄は次第に理解者を増やしていき、多くの狐人が凱を仲間として認めようになった。
⑰「族の掟を変えてまで他族のお前を寺で修行させたのも…死に近い苦痛でしかなった私の試練も…砦などの刺客を送ったのも…全てこの未来の為」
フォックスは静かに目をつぶった。困惑を隠せない凱はたじろう。
>> 304
⑰フォックス「凱よ、お前は私のことが憎いであろうな。寺を飛び出た時のお前の目は今でも脳裏に焼きついて離れぬ」
野獣のような幼き凱は狐寺に住まうようになってから変わっていった。仲間に囲まれ、刺々しかった心も丸くなり、修行の毎日ながら笑顔を作るようになる。砦や鳥などの同年代の仲間と友に歩む過酷な修行は苦痛にはならなかっただろう。
⑦凱「あんたが出した最後の試練だけは…間違ってる。フォックス、お前は神でもなんでもねぇ…阿修羅の道をいく悪魔だ」
戦士への認定試験、フォックスが修行の最後の試練として出したのが、単純明快な一言であった。
『隣の者と斬り合え、生き残った方が戦士となる』、凱はその言葉を疑ったことだろう。
隣りにいた砦が斬りかかってくるその時までは・・・
言うまでもなく、凱は闘いを拒んだ。そして、決して後ろを振り返ることなく寺から逃げた。
それからは族の掟を破った者として、狐人に追われる日々を今日まで過ごしてきた。
⑰「あれが戦闘民族と呼ばれる族の生き方だ。強くなる為には殺さねばならぬもの(心)もある…砦が今も友であるお前の命を狙うのも戦士として必要な試練だと認めているからなのだ」
>> 305
⑦「間違ってる。本当の戦士はそんなんじゃねぇ…俺は寺を出てから本当の戦士たちに出会ってきた…今のかけがえのない仲間たちだ!フォックス!お前の考えじゃぁ真の戦士は作れねぇ!」
鬼「止めるんだ…過去を繰り返すのか!族長は変わられたのだ…」
⑦「!?」
剣に手をかけた凱を抱き込むように鬼が止めた。その手はとても暖かかった。
⑰フォックス「確かに…過ちかもしれない…お前を見てそう思った…」
⑦「フォックス…らしくねぇぜ」
⑰「私も老いたのかもな」
精一杯、手を広げ天をみやげるフォックスから涙がこぼれ落ちた。
⑰「寺を出る時にお前に言われた『間違ってる』の一言、私は否定し続けてきたが…連合軍を相手に闘うお前とその仲間たちを見守る内に否定できなくなっていた。お前をここに呼んだのは他でもない…」
袖で涙を拭うと、摺り足でゆっくり凱へと近づく。永く止まっていた時間が動き出すように、
⑰「ゆるせ…凱。我ら狐族、戦士、凱へ協力しようぞ」
⑦「らしくねぇっての。とりあえずここを囲ってる連合軍潰してからゆっくり話をしようぜ」
凱とフォックスの間にあった深き溝がなくなっていた・・・
>> 306
トガッ
⑦凱「がはッ」
⑰「言っておくが調子にのるな。二度とは言わぬ」
凱は身体を大きくのけ反らせ、腹部に入った強烈な足蹴り受け飛ばされる。フォックスは腹を抱え、うずくまる凱を見下しながら言った。
⑦「くそヤロー、いきなりかますとはいい度胸じゃねぇか!!」
剣を抜き、地面を蹴り出した勢いを利用し間合いを詰めた凱、しかし、フォックスの繰り出した早業の右拳を顔面にくらい、剣を振る間を与えられず再び吹き飛ばされてしまう。
⑰「頭に血がのぼって周りが見えなくなるのは相変わらずか、成長しとらんな」
⑦「てめぇ、なめんなよ…爆炎阿ッ!?」
鬼「止めんか…言っとるだろう。痴話喧嘩をしてる場合ではない」
技を放とうとする凱の前に立ちはだかった鬼は腰に携えた剣に手をかけていた。凱はそれを見て思わず生唾を呑み込むと、大人しく剣を収める。
⑰「意気がいいのは結構だが、敵は雑魚ばかりではない気を引き締めよ。敵は強い、カラス中将、レイ少将は骨が折れる相手となろう。しかし問題なのはアンテ少将、奴は…」
『ドイスが出てくる以前は闇の帝王に位置していた闇魔術師だ』・・・フォックスの言葉に場の空気が凍った。
>> 307
カラス中将「あれだな」
レイ少将「はっ、あそこにフォックスがおります」
本殿を目の前にしたカラス中将はその勢いを止めることなく、狐人の戦士たちの中を走り抜け、的確に首の動脈を切り抜く、カラス中将が剣を振るう度に一つの命が失われていった。
「悪鬼…まさに鬼だ…」
戦闘民族とまで呼ばれる狐人の戦士たちも全身を返り血に染めるカラス中将に恐怖し、逃げ出す者まで出ていた。
「ひ…怯むな!押さえつけてしまえ!数でいくぞ!」
本殿前を警護する狐人の戦士、百名近いその人数もさることながら四本尾の主力戦士たちが列を並べていた。しかし、その狐族の主力部隊すらカラス中将に傷一つ負わせることも出来ずにいるが事実であった。
カラス中将が本殿の入口、門へと目前に迫ったその時、本殿の門が開かれる。
カラス中将「誰だ?貴様は…」
堅く閉ざされた門が勢いよく開くと、ゆっくりした足取りで一人の剣士が出てくる。
「おッ、さっそく敵発見だぜ」
剣士は手慣れた動きで腰に携えた二本の剣を抜く、そして、血まみれのカラス中将を見て、にやりっと笑みを作った。
>> 308
「えらく派手に暴れてくれたなぁ。狐人とは兄弟分みたいな俺には…この光景こたえるぜ」
多くの狐人が倒れ、残虐の限りを尽くされた光景、剣士は言葉とは裏腹に陽気な口調でそう言った。
カラス中将「貴様は…確か…」
剣士の登場に狐人の戦士たちにざわめきが起こる。カラス中将を囲んでいた戦士たちは剣士に道を開くように二つに別れ、カラスから距離を開けた。
分厚い漆黒の鎧を身に纏った剣士、その鎧に負けぬほどの大柄な身体は剣士の力を象徴するかのようである。二本の奇妙な刀を携え、禍々しいオーラを放つ彼は自信に満ちていた。
カラス中将「反乱組織の一味、賞金稼ぎ凱だな」
幼き少女にさえみえるカラス、そんな彼女が、大柄な剣士を睨み付ける。そんな光景はなんとも滑稽にみえた。
⑦凱「おっ、俺も有名になったもんだな。んじゃ~いっちょよ、手合わせ願うぜ!嬢ちゃん!」
カラス中将「!?」
凱の姿が歪む、それが残像であったことに気付いたカラスは咄嗟に後ろに跳んだ。こめかみに剣先が掠める。
⑦「俺は女だからって仲間を殺った奴に手加減できるほど人間できてねぇから覚悟しな」
カラス中将「ちッ…」
>> 309
⑦凱「いくぜ!ガイブレイド!!」
低姿勢からの突剣、大量のオーラを身に纏った凱はまさに巨大な一つの槍さながらである。銀狼の眠っていた力が覚醒した今、昔とは比べものにならない威力となっていた。
カラス「少しはできるようだな…こちらも出し惜しみはできないか」
黒装束の下に覗かせる女性ならではの丸みを帯びた身体、それを拒絶するように漆黒のオーラを物質化し、刺々しい鎧を身に纏わせる。幼き顔は、黒き鬼の兜で覆われた。
⑦「!?」
カラス「まだだ。私の真の力を見せてやろう」
二人のオーラが激突したその瞬間、凱は飲み込まれるようにカラス中将のオーラに覆い尽くされ、動きがとまる。
⑦「これは…ッ」
カラス「連合軍が開発した対剣士用の戦闘能力…影操り。私はその実験体だ」
カラス中将を中心に放たれた邪悪なオーラ、それは無数の手となって凱の身体を拘束すると、その勢いのまま締め上げる。骨が軋む音とともに凱は声にならない悲鳴を放つ。
カラス「オーラを物質化、つまり…私の周囲はオーラという物質(壁)があるということだ。私に貴様の刃は届かない」
>> 310
希望が消えた。
周りで二人の戦いを見守る狐人の戦士たち、戦闘民族の彼らが完全に戦意を失っていた。
凱の昨今の活躍は狐人の戦士たち皆が知っている。寺を抜け出し、狐族では謀反者として扱われていた凱ではあったが、連合軍との闘いに勝ち続けた数多くの武勇伝は狐族に伝わり、多くの者が凱のその力を認め、尊敬する者までいた。
しかし、そんな存在が今、手も足もでず敵に捕まえている。
カラス中将の絶対的力の前では何もかも無力になってしまうのだろうか。
太陽の光は、分厚い雲で覆われる。湿った空気が風とともに運ばれてきた。
嵐が近い。
風の強さは増していく。
⑦「くっ、動けねぇ」
カラス「逃げれん。このオーラは、私そのもの…お前には破れん」
手を上げたカラス中将の動きに合わせ、物質化したオーラは凱を持ち上げる。
カラス「闇に堕ちろ」
オーラは徐々に凱を身体を侵食し、ものの数分で包み隠す。そして、円球へと形を変えた。
カラス「私の力の一部となるがいい」
オーラが爆発的に膨れ上がる。同時に物質化したオーラが広がり、周りにいた狐人を次々と飲み込んでいく。
>> 311
黒く、巨大なオーラは四方へ広がり、濁流に呑まれるように周囲の狐人たちはオーラの闇に消えていく。
カラス「はははっ、いいぞ…潤沢なオーラだ!!」
他者のオーラを我が物とし、止まることがない。カラス中将のオーラは既に、本殿呑み込もうとする程、強大なものへと変わっている。
カラス「な…なんだ!?」
突然、膨れ上がるオーラが脈動する。オーラの中心に立つカラスは不安定となったオーラに煽られ身体がふらつく。
カラス「ッ…馬鹿な!制御がきかない!」
脈動が次第に大きくなり、オーラの膨らみ、動きが止まる。そして、風船が破裂するようにオーラは消し飛ぶ。その反動を受け、周囲に凄まじい風が駆け、カラスは耐えきれず崩れ落ちる。
カラス「くっ…お前…どうやって」
⑦凱「俺を倒した気になってたか?」
オーラを失って膝をつくカラスは、自分を包む人影を見やげる。そこには取り込んだはずの凱がいた。
>> 312
銀狼の力を解放させた凱は凄まじいオーラを放つ。先程とは比べものにならないオーラの量にカラス中将は目を疑った。
カラス「貴様ぁ…一体…!?」
刹那、剣撃が走る。血がほとばしった己の身体に、カラスは目を見開いた。
⑦「仲間の仇だ」
カラス「ふッ…まさか…貴様のような輩にやられるとは…な…」
滴り落ちる血を止めようと傷口を手で押さえながら、一歩二歩、ふらつきながら歩き倒れる。それと同時に、カラスのオーラから解放された周りの狐人は歓声を上げる。
⑦凱「終わっちゃいねぇ!!」
その歓声を制止するように凱は声をあらげた。
レイ少将「中将殿を倒すとは驚きました…」
倒れたカラスを抱え上げる一人の魔法使い。凱はその者の気配を目視で捉えて初めて察知した。
レイ少将「取り込まれたはずの貴方がどうやって逃れたかは知りませんが…オーラを失い弱ったカラス中将に勝った、ただそれだけのこと、次、中将殿に会う時は貴方の死期となるでしょう」
⑦「てめぇ」
廃人のように枯れ果てた魔法使いの男の顔は不気味に笑み作り姿を消す。凱の剣はやり場を失い空を駆けた。
⑦「ちッ」
当然、カラス中将の姿もそこにはなかった。
>> 313
敵をあっさり取り逃がしたことに落胆しながら剣を収める凱は勝利の余韻に浸ることは出来なかった。傍観していた狐人たちは凱の圧倒的力を目の当たりにして言葉を失っていたが、ざわざわとざわめき始めた。多くの者が本殿の方角を目を丸くして見つめている。
⑰フォックス「あそこまでいって逃がすとは…はやはや呆れるの。アヤツ(カラス)の力は残しておけば脅威となのろうに」
鬼「族長、今は戦時!ほ…本殿にお戻り下さい!」
本殿から神妙な赴きで現れたフォックスに本殿を警護していた狐人たちは膝をつき頭を下げる。
⑦凱「自由奔放だな。どうせ出てくるなら手を貸して欲しかったぜ」
⑰「ほぅ。一匹狼を名乗るお前が?手を貸して欲しいなら頼めばよいものを…のぅ?」
⑦「ちッ」
顔を真っ赤にして後ろから責め寄る鬼教官を気にも止めず、凱の御前に歩み寄ったフォックスは笑みを浮かべる。先程の戦いを見守っていたフォックスがどのような思いで、その笑み作ったのかは凱には判断しかねた。
⑰「鷲も立て籠るのは飽きてきたところじゃ。狐人の本当の力、あやつら(連合軍)に見せつけてやるとしようかの」
>> 314
狐寺は本殿を中心に円形に広がる三重壁に覆われ、その障壁に守られるように寺のような建造物が並ぶ。そして、最も外側の壁、第一壁をフォックスの強力な結界が堅く狐寺を守っている。その防御力は、シーラ星のナタレー王女が守る冬国にも引きを取らないであろう。
しかし、その難攻不落の要塞が、結界は破られ第一壁までも落とされ、第二壁も最早、連合軍の手中に落ちようとしていた。
⑰フォックス「ふ~む。好きに暴れよって」
そんな光景を妖術で高く宙に舞い、見守る寺の主は心中穏やかではなかった。
③セレナ「フォックス様、私もお力添えします」
浮遊魔法で傍らにいるセレナにもそんな気持が伝わってくる。
⑰フォックス「ほぅ。頼もしいな」
詠唱を唱えるセレナの杖は眩い光を放つ。その瞬間、烈火の炎が連合軍へと降り注いだ。
⑰「ほぅ…流石は大戦の英雄か」
一瞬で燃え広がる炎に多くの連合兵が呑まれいく。
突然の空からの奇襲に、体勢を崩した連合軍、チャンスと見るや狐人の戦士が物陰から一斉に討って出る。
>> 315
③セレナ「貴方たちにこれ以上好きにはさせない」
燃えながら逃げまどう連合兵、そんな兵を押し退け後陣の連合兵が隊列を進める。戦場に現れた麗しき魔法使い、そんな彼女は木の葉が舞い落ちるように軽やかに地面に着地する。
血の匂いが鼻につき、思わずセレナは目を細めた。しかし、闇の手に落ちる狐人をこれ以上出さない為、セレナは再び杖を振るう。
⑰フォックス「炎と風を操るとは…」
駆ける狐人の戦士を後押しするように強風が吹いた。その風は先程の炎を巻き上げ、更に多くの連合兵が炎に包まれる。
⑰「おっと、娘一人に任せてばかりではおれんな」
思わず彼女の勇姿に見とれていたフォックスはたじろう連合兵に視線を移し、深く息を吸う。
その直後、狐人最高峰の狐火が火を吹いた・・・
>> 316
周囲一面が閃光に包まれ、甲高い音を上げる。視界、聴力までもが奪われ、ようやく目を開けれるようになった時、誰もが目を疑った。
③セレナ「なんて…力なの…」
狐族の長にして、世界最高齢のフォックス、その力に誰もが生唾を飲んだ。
⑰フォックス「ちょいとやり過ぎたか」
押し寄せていた連合軍の一角が跡形もなく消し飛んでいた。それどころか、狐寺の第2壁・第1壁をも破壊し外で包囲網を築いていた連合軍をも綺麗さっぱり消えていた。数千もの兵が一瞬にして存在の形跡すらなったのだ。
重機、戦艦が結界の外で役立たずの連合軍、フォックスが戦場に出た今、狐寺での戦いは既に決していた。神人フォックスの絶対的力を前にし、連合軍の逆流が起こる。結界の亀裂から次々に連合兵が逃げ出していく。
⑰「ほほぅ。連合軍とは名ばかりよの、もう逃げ出すか…だが、私が簡単に逃がすと思うてか?」
悪巧みを企む子供のように笑みを浮かべたフォックスは躊躇することなく第2破を放つ、また閃光が辺りを包んだ。
しかし…
アンテ「そう慌てるな…フォックス殿」
狐火は突如現れた黒渦に飲み込まれる。
フォックス「出よったな…アンテ」
>> 317
アンテ「ご機嫌如何か?」
ブラックローブに身を包み、姿や顔を覆い尽くし、赤い二つの眼光だけが、怪しげに光る。そんな魔法使いは、地を這うような低い声で、フォックスへ話しかける。
⑰フォックス「儂の城へ、いきなり攻め入るとは…無礼なやつよの」
アンテ「菓子の一つでも持って挨拶にとは思ったが、生憎、これは《戦争》だ」
⑰「ならば、その戦争を始めるまえに、儂の部下を返してもらおう」
おどけた様子でアンテに近寄っていたフォックスの目付きが変わる。9本の尻尾を広げ、燃えたぎる炎に包まれていく。
アンテ「どうやら…本気になってくれたようですな。ふふ…心配せずともまた息はある」
ローブの下から抱えていた蟷螂をアンテは投げ捨てた。変わり果てた姿となった同士にフォックスはらしくなく怒りを表に出しているようだ。
アンテ「私の闇魔術で存在を消していたのに…気づくとは流石だ。戦いの盾に使おうと隠し持っていたのだが、あてがくるった」
⑰「儂を怒らせて得することはないぞ!!」
>> 318
⑰フォックス「業火烈弾」
大気を一瞬にして乾燥させ、肌が焼けるほどの熱風が辺りを駆ける。先程の狐火も相当な威力であったが、あれがまで豆鉄砲に見えてしまう程、フォックスが放った炎は凄まじかった。
アンテ「ぬぅ!!これ程とは…ッ!!」
炎の塊、太陽とでも言おうか、その凄まじい熱量は軽々とアンテを飲み込み、地面へとめり込んでいく。それでもまだ勢いは止まることなく、炎の塊は地中深くへと消えていった。
③セレナ「凄い…」
思わず腰を抜かしそうになったセレナをいつの間にか隣にいたフォックスは支える。
⑰フォックス「セレナ姫よ。儂は破壊は得意なのだが…回復魔法は苦手でな。こやつを助けてやってくれ」
③「あっあ、すいません。私ったら動転してて」
はっと我に帰ったセレナは目の前に倒れた蟷螂に回復魔法の詠唱を唱える。狐人の回復能力もさることながらセレナの魔法も相まって、瀕死であったのが嘘のように、傷は塞がり、蟷螂の呼吸が正常に戻っていく。
蟷螂「族長、このような失態…弁解の言葉もありませぬ」
既に立ち上がれるようになった蟷螂は立ち上げるのが早いか膝をつき頭を下げ、自責の念に押し潰された顔を隠した。
>> 319
⑰フォックス「馬鹿者、今はそれどころではない。鬼と合流し隊を立て直すのだ」
蟷螂「はッ」
セレナに一礼すると蟷螂は姿を消す。フォックスは健在なその動きを見て安堵の息を吐く。
③セレナ「倒せたのでしょうか…」
⑰「分からぬ。しかし、手応えはあった。それ相応の傷は受けたはずじゃ」
土煙が舞う中、地面に開いた穴を見下ろすセレナ、真っ暗な穴の先はまるで奈落に通じているかのように途方もなく深く感じる。
⑰「もっともあの技は半日は燃え続ける。生きていたとしても暫くは動けまい。今の内、兵を片付けるとしよう」
フォックスの戦いに一先ずの決着がついた頃、狐族と連合軍の戦闘に動きがあった。
圧倒的に有利であった連合軍の指揮が乱れ、後退する部隊が後をたたない。
鬼「指揮官を狩れ!!雑魚など相手にするな!兜頭だ!」
鬼教官率いる主力部隊の参戦により、狐人の動きが格段と良くなかっていた。部隊の指揮官を的確に排除し、隊列が乱れた兵を確実に潰していく。
>> 320
連合軍が押されていく様を塔の高台で見学する一人の剣士がいた。分厚い漆黒の鎧が黒光りし、携えた2刀の剣は鞘にしっかりと収められている。
⑦凱「どうやらここは時期に決着つきそうだな。しかっし、クリスたちが来るまでのんびり待つのも退屈だし…敵の本拠地に攻め込むか」
遠い眼差しで、ウマンダ星政府軍指令基地を見つめていた凱は笑みを浮かべ、塔から飛び降りる。
政府軍指令基地はウマンダ星で最も巨大な建造物であり、ウマンダ星の民にとっては象徴的な存在だ。
直径数kmの半円状のドーム、外壁は簡素なコンクリートで覆われ、均等に何万ものガラス窓が並んでいる。
政治、軍事の全てをここで賄い、国の機関全てがここに収められている。だが、そんな機関は全て連合軍の支配下に落ち、事実上、連合軍の指令部と化していた。
>> 321
ワイングラスが握り潰される。赤ワインの濃厚な香りと混じり、鉄の臭いが辺りに広がった。
大理石の石畳、国宝級の数多の彫刻で飾りつけされ、平時ならば政府軍の重鎮たちが軒を連ねる政府軍指令基地の中央会議室である。しかし、政府軍の核ともいえるその部屋は照明が落とされ、窓から入る僅な月光に照らされるだけで大部分が闇に呑まれている。
キメラ将軍「コイル中将、ベンガル中将に続き…サム中将までもが戦死、カラス中将率いる軍も敗戦だと…ッ!!」
連合軍の主戦力である七大中将を3人も失ったとの報告を受けたキメラは怒りの余り、持っていたグラスを握り潰すと、人とは思えない形相を浮かべ、傍らに控えている3人の中将たちに底知れぬ圧力(魔力)を浴びせる。
グラカス「将軍、そうカッカきなさんな。サム、カラスが敗れたのは予想外だが…敵が強いほど楽しくなるってもんですよ」
常人なら死に値する程の魔力を受け、顔色一つ変えない紅の戦士は楽しそうに笑みを浮かべる。中将の中では別格の存在とは言え、我を失いつつある将軍にとる態度とは思えない。ジャッカル中将、ボリック中将はそんなやりとりを冷や汗もので眺めている。
>> 322
キメラ将軍「グラカス、口だけ達者では困るぞ。英雄どもの首を私の前に持ってきてから大口を叩くのだな」
太陽すら呑み込みそうな漆黒のマントを翻し背を向けたキメラは周囲の空間をねじ曲げ、ノイズのような砂嵐を中へと消える。
グラカス中将「まぁ近いうちにそうさせてもらうよ。将軍様」
グラカスは残された割れたグラスを手から出した炎で跡形もなく消しさると、将軍が座っていた椅子へ腰かける。
ジャッカル中将「兄貴(アニジャ)、将軍に楯突くのはやめろよ。落ちぶれたといえ、元大賢者だぜ」
グラカス中将「ジャッカル、お前はいつまでたっても小心者だな」
弱口をたたく大男にため息をつきながらグラカスは傍らに控えるもう一人の中将へ視線を送る。
ボリック中将「分かっていますよ。雑魚の始末は私に任せて下さい」
不気味な虫人間は笑みを浮かべると姿を消す。同時に桁ましい警報音が響く。
グラカス中将「面白くなってきた。せいぜい、俺を飽きらせてくれるなよ」
警備モニターに映る漆黒の剣士にグラカスは心からの言葉を投げ掛けていた。
>> 323
白を基調とした軍服に身を包んだ兵士たちが慌ただしく、武器の保管庫へ走っていく。その表情には緊迫したものがあった。
「侵入者は1階北エリアD27から南に進行中だ!!」
怒鳴り声の簡素な指令を聞きながら武器を手に取り、兵士たちは保管庫からとんぼ返りしていく。政府軍の精鋭ホワイトレールガン、その連携された動きにはまったく無駄がない。
⑦凱「ちッ!!連合軍と違って、やるじゃねぇか!!流石は俺様の故郷だぜ」
漆黒の鎧剣士は頬に掠めた銃弾に笑みを浮かべながら物陰に隠れた。それを見た兵士たちは、ここぞとばかりに距離を縮めてくる。
⑦「連合軍とは違って…簡単にやるわけにもいかねぇしな。どうしたもんか…」
政府軍の中枢基地、外部からの侵入を許すなど前代未聞の事象であった。しかし、それほどの要塞であることに変わりはない。凱の動きに臆することなく、兵士たちは的確に攻撃をしかけてくる。対狐人・銀狼をシミュレーションしている彼らの動きは凱のスピードにすら対応していた。
⑦凱「とりあえず、姿を眩ませるか。数が集まっちまうと大変だしな。シャドー回線繋いどけ!お前の出番だ!」
凱は懐から煙玉を取り出すと床に投げつける。ナナ特性のそれはとても安全とは思えない爆発を上げ、また凱の鎧を焦がしながら黒煙を一瞬にして広げていく。
⑦凱(殺す気か~!!)
凱はそう心の中で吠えると咳き込みながら黒煙に身を隠した。流石のホワイトレールガン精鋭兵も爆発と勘違いし身を伏せながら黒煙に呑まれていた。
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