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SUN( 10代 ♂ LVW6h )
11/10/26 06:58(更新日時)

SUNの小説三作目
皆さん、あまり期待しないでください

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No.1157385 07/07/02 23:12(スレ作成日時)

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No.101 09/11/08 15:00
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

トントンとドアをノックする音が聞こえた

「瑠美?起きてる?」

樹璃の声だ

私は必死にさっきまで考えていたことを頭のすみに置いた

「うん、起きてるよ
どうしたの?」

「晩御飯持ってきたの
あんた、いくら体調悪くたってご飯食べないと、治るもんも治んないわよ?
両手塞がってるから開けてくんない?」
私はベッドから降りて、ドアを開けた

祖父の家は大きく、私たち兄妹に一人に一部屋ずつ与えられていて、「お互いの部屋に入るときは、相手の許可が降りてからにしよう」と三人で決めていたからだ

ドアを開けると、樹璃が晩御飯とお箸を持って立っていた

……何故かお盆などに乗せずに素手で

ご飯を右手、お味噌汁は左手、おかずは曲げた右腕の上

…お箸にいたっては、右の薬指と小指で挟む形で持っている

「…樹璃?こういうのって、お盆かなにかにのせるもんじゃないかな?」

とりあえず私がそう言うと、気にした様子もなく

「これ、見た目以上にきついからさ、ちょっといくらか持ってくんない?
特におかずなんていつ落としてもおかしくないからさ」

と笑って言った

No.102 09/11/08 15:16
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

慌てて私は樹璃の持っていたおかずとお箸を持った

すると樹璃は

「いやぁ、助かった助かった
慣れないことはするもんじゃぁないね」
とまた笑った

「お盆が見つかんなくてさ
分けて持って行くことも考えたんだけど面倒だし
ファミレスの従業員って、アルバイトでもすごい持って行き方するじゃん
だから…」

「…もし落としてたらどうするつもりだったの?」

樹璃の発言を最後まで聞いてたらキリがない

一番気になっていた所だけ聞くと樹璃はあっさり

「瑠美の晩御飯が減るか無くなるかのどっちかだね
あ、安心してね
落とした場所の掃除ぐらいは流石にするからさ」

と言って笑った

普通なら怒るところなんだろうけど、私はいつもその笑いに見入ってしまう

樹璃の笑う顔はとても可愛くて
とても同じ顔で生まれてきたとは思えないのだ

羨ましい

そして、何より誇らしい

そうなりたい
そうあろうとしたい
私がいつもそう願っていのは、間違いなく樹璃で

樹璃は私の自慢の姉であり、目標であり、憧れであり、そして









私には一生追い越せない存在だった

No.103 09/12/22 17:40
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「で?本当は何があったの?」

樹璃は私に問いかけた

思わず私ははっとした

樹璃には、樹璃だけには知られたくなかった

そう思ってたあたしは、とっさに

「な、何を言ってるの?」

と嘘をついた

すると樹璃は、じっと私の目を見た

私の目をじっと見つめる樹璃
自然と樹里の目が何を写しているのかが見える

樹璃の目に見えるのは私自身
私は、ふいに樹璃の目から目を背けたくなった

樹璃の目が恐ろしかったわけじゃない

むしろ、恐ろしかったのは自分自身の目

樹璃のきれいな目に映った私自身が

どうしようもなく汚れて見えたからだ


「やっぱりね」

樹璃はそう言って私から少し離れた
私は、いまだにさっきの樹璃の目から映る自分自身の姿に縛られていた

そんなあたしを見て、樹璃は

「あんたは、昔っからうそをつくのに苦手だからねぇ
というよりは、嘘をついてしまう自分自身がいやだから、うそをつけないってのが正解かな」

と言った

No.104 10/01/09 14:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

驚いて、私は思わず樹璃の顔を見た

今、樹璃が言った言葉は私にも覚えがあることであり、実際先ほども同じようなことを感じていたからだ

「何であたしがそれを知ってるか不思議な顔してるね」
樹璃は得意げにそういった

それに、と樹璃は話を続けた
「だいたいさあ、あんたが私に嘘つこうなんざ、百億光年早いんだっつうの あたしがいったいあんたとどれくらいの付き合いだと思ってんのよ」
樹璃の言葉はとても自信に満ち溢れていて、すごく綺麗で 私は思わず言葉を失いそうになる

けれど、ひとつだけ気になったことがあったので、とりあえず突っ込んでおいた

「樹璃・・・ 百億光年は距離だよ・・・」

No.105 10/01/09 14:53
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃は、私のその言葉を聞いて大笑いしていた

「細かいことは気にしない気にしない
年月だろうが、距離だろうが、あんたが嘘をつくにはまだまだってことだよ」

ふと、私は気づいた
樹璃は、私の秘密が決していいものでないことはとっくに気づいてるはずだ
もしそうなら、私が少しでも話しやすいように、この場の雰囲気を少しでも明るくしてくれたのではないか

そのことに気づいて、私は樹璃に「ズルい」と思わず言いそうになった

いくら、追いつけなくて自分自身をいやになることがあっても、樹璃自身を嫌いにならないのは

そんな、さりげない優しさを持つ樹璃が大好きだからだ

No.106 10/01/13 22:54
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

結局私は樹璃にすべてを話した

お母さんのこと、会おうといわれたこと、一緒に暮らそうといわれたこと
樹璃も当然無関係ではない

それに樹璃だってお母さんの被害者だ
殴られたりはしていないけど、それでも、お母さんに心を傷つけられていただろうことは、私にも想像できた

本当は隠すつもりだったけど、話しながら樹璃に話してよかったと思い始めた

このことは、やはり私一人では決められないことだったし
何より、樹璃に話すことで、心のつっかえのようなものが取れた気がしたのだ

しかし、やはりこのことを話すのは怖い
お母さんが帰ってくる
その現を自覚してしまうから

恐怖心から、あまり要領を得ることのできない私の言葉を、樹璃はしっかりと聞いてくれた

No.107 10/01/13 23:09
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

なんとか話し終えた私
けれど、樹璃はいまだに黙ったままだ
何か考え事をしているような表情で

不安になった私は、「樹璃?」と呼んだ

すると、現実に帰ったかのように、樹璃が私の顔を見る

正確には目だ
私の目を、ずっと見ている

もしかして、疑っているのだろうか
まだ何か私が嘘をついていないかどうかを

しかし、嘘をついていない私は、樹璃の目を見つめ返す
樹璃に吸い込まれそうな錯覚を覚えた瞬間

樹璃は、頭突きをしてきた

突然の出来事に、私は思わず悲鳴を上げた

「いったぁい・・・
いきなりなにすんのよ!」

しかし、樹璃はまだ呻いていた
どうやら、自分の思っていた以上に、自分自身へのダメージが大きかったらしい

「あんた、どんだけ頭固いのよ・・・」「まじありえない」「ほんと痛い」
など、自分で頭突きしたとは思えないような発言を繰り返している

そんな樹璃の姿にあきれつつ、しかし、樹璃の愛らしさに思わず笑みがこぼれた

No.108 10/01/13 23:21
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

痛みがようやく引いてきたのか、樹璃はやっと喋りだした

「そんな大事なこと、何で黙ってたの!
すぐにおじいちゃんとか、お兄ちゃんとかに言うのが普通でしょ!?」

しかし、案の定というかやはり私は怒られた

「だって、迷惑かけたくなかったし・・・」
私の精一杯の反論も、今の樹璃にはまったく意味を成さず、むしろ逆効果で

「もし何かあったら、そのほうがみんなに迷惑かかるわよ!!!」
と、思い切り怒鳴られてしまった








約1時間ほどそんな説教を受けた
さすがに樹璃も怒鳴り疲れたらしく、若干息を切らしている
しばらく無言の状態が続いたが、樹璃は一度ため息をついて

「これからどうするか考えなくちゃね」
と言った

何とかできるなら、もちろんそうしたい
だが、私は弱いし、樹璃のように頭が良いわけでもない
私は、自分で嫌になるくらい、無力だった

No.109 10/01/14 23:32
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「一番は、警察に言うことなんだろうけど」

樹璃はボソッといった
私自身に言ったわけではないだろうから、私は返事をしなかった

お母さんは、まだ私たちに何かをしたわけじゃない
ただ、一緒に暮らそうと言っただけ
そんなんじゃ警察は動いてくれない

しかし、このまま手をこまねいているというだけなんて、まさしくありえない話だ

何かあってからでは遅い

私だけならまだしも、おじいちゃんやおばあちゃん、お兄ちゃん
何より、樹璃に迷惑をかけてほしくない

すると、樹璃はふと言った

「もしかして、おじいちゃんが最近よく電話で怒鳴ってたのは、このことが原因なのかな?」

樹璃に言われて、私ははっとした

確かに、最近おじいちゃんは、よく電話の相手に怒鳴っていた
私たちが、何かあったのかと聞いてもはぐらかすばかりで、私たちも、不審には思っていたが、あまり気にしないでいた

私は、あふれそうになる涙をこらえるので必死だった

私たちは、お母さんには大事にしてもらわなかったかもしれない
けれど、私たちには、知らず知らずのうちに、私たちを守ってくれる存在があった

No.110 10/01/14 23:37
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃もそう思っているのだろうか
目を伏せたまま、顔をあげようとしない
まるで何かをこらえるように、じっと何もしゃべらず、ただじっと、目を伏せていた

しばらくして、また樹璃が話し出した
私の目を見ながら、話し出した
「あんたが、あたしたちに心配をかけたくない気持ちはわかる
けどね?あんたがそうやって何もかも黙ってたら、守りたいと思ってる人は、あんたを守れないの
わかる?守りたいのに守れない側の悔しさとか」

私がお母さんの虐待を受けていたときの話だろうか

「あんたのことだから、言ったらみんなに迷惑がかかる 
みんながつらい目にあうぐらいなら、私一人で背負う
そんな風に考えていたんじゃないかしら」

私は、確かにそう思った
お母さんにまた殴られることがあっても、それがお兄ちゃんや・・・樹璃でないのなら耐えられる
私は本気でそう考えていた

No.111 10/01/14 23:39
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

しかし、樹璃は、「冗談じゃない」と完全に否定した

「もしあんたが一人で苦しんでたら、それを知ったあたしたちはどうしたらいいのさ?
あたしはつらいよ
胸が痛いほどつらくなるよ
あんたは、もう十分苦しんだんだよ
あんたが苦しむ理由なんて、これっぽちもありはしないんだよ」

樹璃の声が震えていた
ありふれた言葉かもしれない
言っている言葉は、陳腐かもしれない
でも、その震えた声が、その真っ赤にぬれた目が、私に樹璃のこの言葉に、嘘はないんだと教えてくれた

私は樹璃を抱きしめた
私と同じ高さの肩、同じ大きさの体
樹璃の体は、私が思うほどに大きくはなかった
私と樹璃は双子だ
それは、当たり前のことかもしれない
けれど、樹璃の体はとても暖かかった
私は、樹璃の体の暖かさに、樹璃の心の暖かさに触れ、そして言った




「お母さんね、一週間後に、会おうって言ってた
公園で待ってるって言ってた」

No.112 10/01/14 23:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

それから、樹璃と二人でこのことを、皆に話した
これからどうするかを話し合い、お母さんとは、私だけでなく、おじいちゃんや、お兄ちゃんもついてきてくれるらしい

おじいちゃんは、うかつに電話に出たことは少し注意したが、いずれわかることだったろうからと、お母さんと話してしまったこと自体は、ぜんぜん怒ってなかった
それどころか、しきりに「大丈夫か?」とか「つらくないか?」と気を使ってくれた
以前なら、少し煩わしく思っていたかもしれない

しかし、この一件でわかった、おじいちゃんたちの暖かさに、私は本当に感謝した

No.113 10/01/14 23:43
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

・・・・・・・だからこそ、私は後悔はしていない
これは、おじいちゃんたちを
樹璃を守るためなのだから

しかし、私はそっと心で謝る

「ごめん」



「お母さんが来るのは」



「一週間後じゃなくて」









「明後日なんだよ」



私は、この日『嘘』を覚えた
皆を守るために

このかけがえのない人たちを守るために




それが、あんな結果を生むことを知らずに

No.114 10/01/23 22:19
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、私は翌日の準備のため、自分の部屋にこもっていた

話をしたのは昨日のことだったので、おじいちゃんやお兄ちゃんも、私が部屋にこもってもあまり不審には思わなかったようだ
樹璃だけは何度か部屋に入ってきたが、私はうまくお母さんのことは秘密にできた

・・・大丈夫
今の私は、嘘をついていてもそれを良しとできる

この嘘は、皆を守るためだ
そう自分に言い聞かせることで、自分自身を納得させることができた

明日、お母さんと会う
会って、私は何をするんだろう
うまく話せるだろうか、ちゃんと目を見れるだろうか、私にしてきたことを怒ることはできるのだろうか

・・・お母さんは、もしかしたら私を抱きしめてくれるのだろうか
・・・ごめんね、と謝ってくれるのだろうか

馬鹿だ私は

こんな想像をしたところで、私が明日することは変わらない

結局私は、自分を甘やかしたいだけだ

私が明日しようとすることを否定したいだけ

足りない 
私には、決定的に覚悟が足りない

No.115 10/01/23 22:22
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「瑠美?入っていい?」

自分の部屋で一人考え込んでいると、樹璃が私の様子を見に来た

「ちょ、ちょっと待ってて」
私は、必死に仮面を作る
中途半端な嘘はだめだ
必ず樹璃にばれる

さっきまでの考えは、ひとまず頭の片隅においておくことにした
今は樹璃に心配をかけないことが優先だ

「どうしたの樹璃?」

なんとか笑顔をつくり、樹璃と向かい合った
少しぎこちないかもしれないが、そこは今の状況に不安を隠せないだけだと判断されるはず

事実、樹璃は少し心配そうな表情はしているが、昨日のような疑いの表情はなかった

「別にどうもしないけどさ
やっぱり、おじいちゃんたちに話すようにけしかけたのはあたしだからさ
そのことで、あんたがなにか気にしてるようならって思っただけだよ」

おそらく樹璃は、おじいちゃんたちにお母さんのことを話した心労で体調が優れないのだろうと思ったようだ

「お母さんのことは、もうおじいちゃんたちに任せよう?
あたしはともかく、あんたは一生かかわりたくないでしょう?あの人に」

No.116 10/01/23 22:24
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私の沈黙を勘違いしいてる樹璃は、少しつらそうな顔をしてた
自分のせいで私が苦しんでいると考えてしまっているらしい

樹璃は、じぶんが誰も傷つけないなんてことは、決して思っていない
しかし、かといって、目の前で自分が原因で苦しんでいる人がいたら、とても苦しむ
そういう性格だ

私は、そんな苦しむ樹璃を見たくなかった
私が悩んでるのは、樹璃に原因なんてないんだから

「わかってるよ」

私は、できる限り、笑いなが言った
ちゃんと笑えているかはわからない

「ちょっと考え事がしたかっただけだから」

私は、笑顔という仮面を身に着けた

「ありがとう、樹璃」

No.117 10/01/23 22:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃は、少し黙っていたが、少し笑いながら

「まあ、あんたがうじうじ考え事をしてるのは事実だからね」

と言った

「うじうじって言い方はひどくない!?」

声を明るくして、私は言った
樹璃は、少しでも雰囲気を明るくしようと軽口を言ってくれた
それに乗らないわけはなかった

「じゃあ、めそめそだね
もしくは女々しく」

「めそめそなんてしてないもん!
ていうか、私女なんだから、女々しくしてて何が悪いのよ!」

こんな風に樹璃と口げんかしたのは、久々な気がする
小さいときから樹璃は私をからかうのが大好だった
からかわれて、私がムキになると、またからかわれ

けれど、樹璃は私が本当に傷つきそうになったら、とたんにからかうのをやめる
樹璃は私とじゃれ付きあいたいだけであり、私を泣かしたりしたいわけではない
だから、こういう口げんか、もしくはじゃれあいは、私も好きだった

No.118 10/01/23 22:26
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

ギャーギャーとひとしきり言い合ったところで、樹璃は、不意に私の目を覗き込む
そして
「何か隠し事ない?」
と聞いてきた

「うん、ないよ」
私は即答した

決して表情は顔に出さず
私は、樹璃の瞳を見つめ返す

重なりあう、私と樹璃の目線
樹璃の瞳は、私のすべてを見透かそうとしてくる

実際、樹璃の瞳を見ているのは、正直辛かった

樹璃の瞳を見ていて伝わったのは、ただ私を想う心

きっと、樹璃は私がまだ何かを隠してることを、直感で感じ取っている

もちろん、それはただの直感でしかないから、樹璃はこのやり取りで違和感を感じ取れなかったら、その直感をただの杞憂とするのだろう

だから、私は樹璃の瞳を見つめた

何も隠していることはないのだと
私は堂々としていると、言葉以外で表すため

どれくらいこうしていたのだろうか

十分もたっていないはず
ひょっとしたら、一分、いや、ほんの数秒程度の見つめあい

しかし、私にとって永遠に思えたその時間を終わらせたのは、樹璃の一言

「瑠美さあ
ひょっとして、太った?」

・・・・このあと、私の部屋が、修羅場になったのは、言うまでもない

No.119 10/01/23 22:27
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

今度はじゃれあいの域を超えた、本格的なけんかになりそうだったが、なんとか理性で踏みとどまった
・・・・このあと起こるけんかは、おそらく口げんかではすまないだろうことが、お互い想像できたからだ

「それにしても、いきなり『太った?』ってひどくない!?」
その一言は、もはや禁句だろう
というか、さっきまでの雰囲気が台無しだ

「だって、瑠美の顔見たら思ったんだもん
なんか顔が丸・・・」

「その先言ったら本気で殴るよグーで」

私の一言を本気と受け取ったのか、ひとまずは黙った

さっきまで、樹璃のことを想ってた自分が馬鹿みたいだ
ていうか、雰囲気変えたいならもう少し言い方があるでしょ

などと心中は樹璃の愚痴でいっぱいだった

「・・・私とあんたは、やっぱり違うよ」

樹璃がいきなりそう言った

私が振り向くと、いきなり樹璃が抱きついてきた

とっさの出来事に私は反応できずにいたが、樹璃の「やわらかい・・・」の一言で、冷静になった

冷静になって私は・・・


・・・樹璃の頭をグーで殴った

No.120 10/04/21 23:59
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

グーで殴られた樹璃はさすがに痛そうだった。
「いきなりぐーはさすがにひどくない?」
樹璃は軽く涙目で抗議してきた。しかし、私にも言い分はある。

「さっき、太った云々の話をしてたのに、やわらかいって言うのはおかしいでしょ。」
最近太ってきたような自覚がある分、余計に腹が立った。
「最近は、細身より若干ふくよかな方がもてるらしいよ。特に、胸はあるほうが男にはもてるし・・・」
「若干中年親父みたいな発言よそれ。」

この日の夜は、こんな会話を樹璃とずっとしていた。
思えば、いつ以来だろう、樹璃とこうして向かい合って話したのは。
小さいときは、いつも一緒だった。さっきみたいに、私は樹璃のペースに巻き込まれてばかりだったけど。
・・・やはり、あの日からすべて変わってしまったんだと思う。
お母さんが、私を殴るようになってから。
きっかけなんて、そんなものだ。
私たち姉妹の関係が変わるきっかけに、当事者同士の原因なんて、ないに等しい。
結局、周りの雰囲気によって、ころころ変わってしまうものなんだ、人間関係は。
たとえ、それが家族でも。たとえ、ほとんどお互いがほとんど同じな双子の姉妹でも。

No.121 10/04/22 00:00
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

けれど
けれど
お母さんが、再び現れたことで、皮肉にも元の関係に戻りつつあるのは事実だ。
・・・違う。
私が戻ろうとするようになったんだ。
お母さんに植え付けられた樹璃への劣等感は、たぶん一生消えない。
植えつけたのはお母さんかもしれないけれど
それでも、樹璃と私の間で、埋められない差があるのは事実。
たぶん、私は樹璃に追いつくことはできない。
樹璃と違うことをしようとしても、結局、樹璃と似たようなことをして、それで樹璃に負けてしまうのだ。

しかし、それでもいいじゃないか。
一生追いつけないかもしれない。
だからって、追いかけないのは間違いだ。並ばないのは間違いだ。
樹璃に向き合わないのは間違いなんだ。
さっきの会話で私は、本当に、本当に心のそこから、樹璃を好きだと実感した。
憧れや、羨望。双子だから、とかじゃなく
樹璃っていう女の子が、好きなんだと思った。





この日、私は決心を固めた。
本気で、私の家族を・・・樹璃を守ろうと決めた。
明日はいよいよあの人に会う。
決着を、つけなくてはならない。

No.122 10/04/22 00:01
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、私は母の呼び出しのあった、公園にいた。
小さいときに、よく遊びに行った公園だ。あの人が、この場所を指定したのには驚いたが、私からしても、この場所はありがたい。
この公園は、遊具が少ないため結構広いスペースがある。
それに、何より、一目につきやすい。
特に、今の時間帯・・・朝を過ぎたぐらいの時間は、車の往来も多く、また親子連れも訪れる。

「・・・瑠美?」
私を呼ぶ声がする。
記憶の片隅に封印したはずの記憶がよみがえる。
怒鳴り声、罵声、平手、足、疑問、不安、恐怖、痛み、絶望、懇願、呪縛
ありとあらゆる負の記憶が、私の頭を支配する。
まるで、締め付けられるように、頭が痛い。
キーンと、耳鳴りがする。
意図せずに、汗が流れる、呼吸が速くなる。
足が震える、この場から立ち去ろうと後ずさる。
電話とは違う、本当に記憶どおりの声。
私は、何とか声のほうを振り向く。
そこには、私の恐怖の象徴のような存在であった、私の・・・母親がいた。

No.123 10/04/22 00:03
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母の第一声は、ありきたりなものだ。
「おおきくなったね」とか、「見違えたよ」とか
私は、その言葉に、どんな風に返したのかわかっていない。
会話が成立しているのだから、おそらくはちゃんとまともな返答をしているのだろう。
しかし、私は母とのんびり会話をするためにここに来たんじゃない。
「お母さん、いったい何の用なの?」
私は、おびえなどの感情が出ないように、言葉を搾り出した。
「いまさら、私たち・・・ううん、私に何の用なの?」
母は、少し狼狽したように見えた。何か言っている。なにか、弁解しているのか。
だが、私は気づいている
母の、右手は、会ったときから、一度も背中から離れていないことに。

No.124 10/04/22 00:03
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「あのとき、私が瑠美かどうか確認してたよね?一緒に住むって用件なら、誰でも良かったはずなのに。」
もちろん、こんなのはただの勘に等しい。
しかし、受話器越しに、この人の悪意のようなものを感じたのは事実だ。
まるで、私に虐待していたときのように。

「お母さんはきっと、樹璃が電話に出たら、こう言ったんじゃない?『瑠美につたえといて』って。
お母さんは、最初から私に用があった・・・違う?」
母は、まだぶつぶつ何かを言っている。
何を言っているのかわからない。心なしか、右手が徐々に背中から離れていっている気がする。
「その右手、なに持ってるの?」
私は、答えをほとんどわかっている、わかっているつもりだ。
その右手に握られているのは
私の命を奪うものであるということに。


「お母さん、本当は私と暮らす気なんて、かけらもないんだよね?
お母さんは、私を恨んでるんだよね。
自分を、何年も刑務所に入れた、張本人だから。」
私のその言葉に、母はビクッと反応した。その反応をみて、私は推測が正しかったことを実感した。

No.125 10/04/22 00:04
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母は、この場で私を殺しにきたのだ。復讐のために。
私からすれば、母が刑務所に入ったのは、間違いなく彼女の自業自得だし、警察に通報したのも私ではない。
しかし、母は、ずっと恨んでいたんだ、私を。
私という存在があるせいで、自分はこんなことになってしまったと思っているんだ。
私は、その場で笑い出したくなった。
なるほど、母は私を愛してなんかいないんだ。母にとったら私はこの世に必要のない存在であって、憎むべき存在なんだ。

母は、ずっと何かをつぶやいている。
不思議と耳鳴りは止んだ。頭痛も、体の震えもとまった。
そのおかげか、母の声が聞こえる。
「あんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければ」
本当に、ここまで徹底して恨まれてると、ある意味すがすがしい。

No.126 10/04/22 00:04
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母が、右手を体の前に差し出す。
握られているのは包丁。家庭用のものかもしれないが、私の心臓を貫くのは簡単だろう。
母が、私に向かって走り出す。包丁を両手でもち、切っ先を私に向けながら。
私は、母の顔をみる。
目は私への憎しみからか血走り、表情は、まるで鬼のような顔。
唇は、何を言ってるのかいまいちわからないが、私への呪詛の言葉だろう。

ふしぎと、昨日のことを思い出した。
樹璃との楽しい会話。あれが私と樹璃の最後の会話でよかった。
最後の思い出が楽しい思い出なんて、幸せな人生じゃないか。
母は、もう目の前だ。

おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん。今までありがとう。
樹璃、本当に楽しかった。
皆、愛してます。


私は、目を瞑る。そのときを・・・死を迎えるために。一瞬何かの影が映ったように感じた。




私は、待った。
刺されたら、痛いはずだ。
しかし、いつまでも、痛みはこない。
私は目を開ける。
目の前には、私と同じ顔。
血まみれの同じ顔。
樹璃が、私と母の間にいた。
母から、私を守るように、私の前にいる。

樹璃のお腹からは
真っ赤な血がどんどん流れていった。

No.127 11/02/05 23:18
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

なんで樹璃がこんなところに?

私の頭の中はそれでいっぱいだった

母も同じようで、信じられないものを見るかのような目をしている

崩れ落ちる樹璃の身体がやけにスローモーションに見えた

ドサッという音とともに樹璃が倒れた後に、ようやく私の思考が正常に回りだした

「…樹璃っ!」

私は樹璃に駆け寄る
その場で悲鳴を上げそうになったが、そんなことをしている暇はな

「樹璃っ!樹璃っ!しっかりして!」

刺されたお腹を必死で押さえる
しかし、ちゃんとした止血になっていないのか、私の手からはどんどん血が流れていく

このままでは樹璃は死んでしまう
私は必死で助けを呼んだ
「助けてください!
姉が、姉が死にそうなんです!
誰か、病院に連絡してください!」

何が起きたか解らず、遠巻きに事態を眺めていた人たちは、私の叫びでようやく事態を把握したらしく、携帯を取り出して病院に連絡したり、こちらに走ってきた

そして、母は走ってきた人達に取り押さえられた

包丁を持っていたが、今の母はあまりに無力だった

ただ、譫言のように「うそ、うそ」と言い続けていた

No.128 11/02/05 23:33
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

「ん…、瑠美…?」

樹璃が弱々しく私に話し掛ける

息も絶え絶えで、喋るのも辛そうだ

「黙ってて!もうすぐ救急車が来るからっ!」

そんな私の懇願を、樹璃は聞かない

「あんた、やっぱり馬鹿ね…
あたしを騙せるとでも思ったの?」

やっぱり樹璃は、私の嘘に気付いていたのだ
きっと、朝に家を出る私の後をつけてきたのだろう

「とにかく…、これで…借りは返したからね?」

樹璃が私に言った

「借りってなんのこと?」

これ以上喋らしてはいけない
そう思いつつも、樹璃の言葉に疑問を持ってしまった
樹璃が私に借り?

そう思っていた私
すると樹璃は

「小さいときの話…
あたし、お母さんからあんたを守れなかった…
ごめん、ごめん…」

樹璃の目は涙が溢れそうになっていた

「そんなのいいよ!
樹璃は悪くないじゃんか!
なんで謝んのよ!」

私がそう言うと、樹璃は首を振った

「あたしは、あんたを見殺しにしてた
あんたが辛いのを知ってて、でも自分に同じことをされるのが嫌だったから、あんたのことを見て見ぬ振りをした…
最低だよ…あたし」

樹璃の目はもう涙を止めていない

No.129 11/02/06 10:32
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

辺りの人が、何やら私たちに言っている

しかし、今の私は樹璃の声しか届かなかった

「きっと…あたしはあんたが殴られたりしてるのを…見たとき、怖いと思う反面、ホッとしてたんだと思う
あたしが殴られなくて…ホッとしてたんだと思う
あんたが、一番怖くて、一番辛い思い、してたのにね…」

樹璃は涙を流しながらそういった

私の目からも、涙がこぼれる

「そんなの、今言わなくて良いじゃない!」

こんなときに、そんなことを言われたら、まるで遺言を聞いているようではないか

しかし、樹璃はまだ続ける

「お母さんがいなくなってから、あたしはずっと悩んでた
瑠美に対して、どんな償いが出来るのか
瑠美はもう十分に苦しんだ
もうこれ以上、苦しみを背負ってほしくない
だから、あたしは今度こそ瑠美を守るって誓った
何からも、どんな人からも、例えそれがお母さんからでも」

樹璃は真っ直ぐに私を見つめながら言った
いつも笑ってた樹璃
いつも私をからかって遊んでた樹璃
そんな樹璃の胸中に、そんな決意があったなんて、全く気がつかなかった

No.130 11/10/26 06:58
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

「ああー
目がチカチカしてきた」

樹璃は別になんでもないかのように言う
「しっかりして!もうすぐ救急車が来るから!」

私の声はもはや悲鳴だ

樹璃は私の顔に手を伸ばし

「大丈夫よ
あたしはあんたより頑丈に出来てんの
たかが包丁で刺されたくらいじゃ死なないわよ」

さっきまで流していた涙はもう痕だけだ
樹璃はこんなときでも笑う
私に心配させないように
もう私が傷つかないように

「まあ、あれね
さすがにこれ以上話すのは無理っぽいからさ
とりあえず、続きはwebでって感じで
病院で改めて、話をしましょ」

樹璃は目をつむり一言


























「おやすみ」

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