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SUN( 10代 ♂ LVW6h )
11/10/26 06:58(更新日時)

SUNの小説三作目
皆さん、あまり期待しないでください

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No.1157385 07/07/02 23:12(スレ作成日時)

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No.1 07/07/07 19:16
高校生1 ( 10代 ♀ )

はぁぃ😺🎵

No.2 07/07/21 23:40
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

このこどこのこねこ


午前8時。まだ外ではクラブの朝練が続き、教室にまだ生徒が誰もいない時間だ
俺は、そんな人気のない教室に入った。
誰もいないことを確認して、早起きした甲斐があった、と少し心が弾んだ。
俺は、朝、外で朝練をしている音しか聞こえない教室の中で本を読みたいがために、朝早く起きているんだ。誰かがいては、意味がない。

しかし、昨日、少し夜更かしをしてしまったせいか、かなり眠い。
誰もいない中で眠るのもいいかもな、と思って、顔を伏せたとき後ろのドアを開ける音がした。驚いて後ろを振り向くと、同じクラスの女の子がそこにいた。

No.3 07/08/01 14:31
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

彼女、玉木瑠美は、俺が教室にいることにかなり驚いたらしく、目を見開いていた。

「本庄君!何でこんな朝早くに?」

そりゃこっちのセリフだよ。という心の声を隠し、(俺自身、こんな朝早くに来ている以上言える立場じゃないから)

「いや、ちょっと早起きしちまったからさ、家にいても暇だから、ここで勉強してたんだよ」

と言っておいた。(本当の理由は口が裂けても言えない)

彼女は納得したのか、軽く頷き

「そうなんだ。なんか奇遇だね。私も早起きしすぎちゃってさ。」

彼女はハハッと笑いながら言った。
何故か俺にはわざとらしく見えたが気にしないことにした。
その後、ただ黙って二人教室にいるのも変なので、当たり障りのない会話をした。

すると、突然彼女は、

「あのさ…、野良猫って何あげたらいいのかな?」

と聞いてきた。

No.4 07/08/14 03:03
紫の猫 ( 20代 ♂ eJR7h )

こんにちは

SUNさんにオススメの本があります。

SUNさんにオススメの本は作家フランツカフカが執筆した「城」や「変身」です。

SUNさんの作風に最も近いかな?と思います。電子書籍(携帯)で買えるので、

興味があれば読んでみてください。念のためにいっておきますが、

面白くはありません。言い回しも昔の解釈なので、分かりづらいです。

備考
ビデオ屋で、映画版「審判」と「カフカの城」がレンタルできます。

  • << 6 すみません・・・肝心なところが抜けていました。作品作りの参考に、 という意味でレスさせていただきました。お互い、創作活動を続けてゆきましょう。 SUNが素敵な作品にめぐり合え、創作時間が安息のひとときとなることを、心から 願っています。

No.5 07/08/14 03:17
紫の猫 ( 20代 ♂ eJR7h )

>> 4 備考2

それから、「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード」という映画は、

フランツカフカ特有の「不条理な世界観」に似た要素が楽しめます。

カフカの影響を受けているのだと、個人的に思う。

No.6 07/08/15 06:46
紫の猫 ( 20代 ♂ eJR7h )

>> 4 こんにちは SUNさんにオススメの本があります。 SUNさんにオススメの本は作家フランツカフカが執筆した「城」や「変身」です。 SUN… すみません・・・肝心なところが抜けていました。作品作りの参考に、
という意味でレスさせていただきました。お互い、創作活動を続けてゆきましょう。

SUNが素敵な作品にめぐり合え、創作時間が安息のひとときとなることを、心から

願っています。

No.7 07/09/04 00:47
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は最初、質問の意味が分からなかった。

いや、意味は分かったが、話の流れを無視した、唐突すぎる質問に言葉を失ってしまったんだ。
わかるだろ?


そんな俺の様子を察したのか彼女は笑いながら、
「ごめん!今の質問やっぱ無しってことで。」
と謝った。


それから少しして、朝練を終えた、クラスの騒がしい奴らが教室に入ってきた。

それを皮切りに、彼女は自分の席に戻っていった。

あと数分で教師が来るな、と考えていたとき、俺はあることに気づいた。

(そういや、本ぜんぜん読めなかったな。)





退屈以外の何でもない授業が終わり、次の授業の授業という名目の休憩が始まった。

俺のクラスでは、各々好きな奴らで集まったり、まじめに次の授業の準備をしている奴もいる。



今は、5月。そろそろ新しいクラスにも慣れ、いくつかのグループができあがる頃だ。

現に、この一週間で同じような性格の奴らが集まって行動しているのをよく見かける。


だが、俺はどちらかというとグループの間を行ったり来たりするという立場をとっていた。

No.8 07/09/04 01:04
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は割といろんなことに詳しかったから、誰とでも話は合わせられた。
成績も、それほど良くはなかったから、成績が良くてクラスで浮くということもなかった。


だから、そんなフラフラした状態の俺を不快に思う奴はたぶんいないし、そして逆に、好ましく思っている奴もたぶんいないだろう。

そんな状況を良くないと思い、焦り始める奴もいるが、俺は一人でいることが気楽なのであまり気にしていなかった。


ふと、読んでいた本から目を離し、クラスの様子を眺めた。

(どいつもこいつも、馬鹿みたいな声量でしゃべりやがって。)

声を張り上げたりするのがあまり好きでない俺からしたら、あいつらはキャンキャンほえてるただの犬と大差無い。


会話の内容も、昨日のドラマの主演俳優の話や、俺の方が確実に上手いとしか思えないほどの歌唱力(俺は割と歌える方だが、おそらく、世間一般の奴らにも劣っているだろう。)しかないアイドルの話。

No.9 07/09/04 01:20
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

最近発売されたRPGの話が聞こえたかと思いきや、明らかにオタク向けとしか思えないアニメ雑誌を広げている、ある意味最強な集団もいた。


どいつもこいつもくだらねぇ、俺は心の中で毒づいたが、あることに気づいた。

(あれ、玉木さんがいないぞ。)

たぶん、朝に話していなければ気づかなかっただろうが、彼女はグループ(玉木さんは、別段かわいい子がいないグループで、クラスでもかわいい部類にはいる容姿をしていた唯一のメンバーだった)にはいなかった。


たぶん、そのときの俺は退屈していたんだろう。

今読んでいる本も、あと残り数ページとなっており、まだまだ終わりそうにない昼休みをどうしようか考えていたところだった。




(玉木さんを探してみるとするか。)

俺は、誰にも悟られないように喧噪の中にある教室から去った。


なんで、誰にも悟られないようにしたかって?

野次馬精神の固まりのような奴に捕まりたくなかったからさ。

ああいうのは、本当のことを聞き出すまで話しやがらないんだ。


面倒だろ?

No.10 07/09/04 01:36
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「キツい…。」
自分でしようとしたとはいえ、やはり人捜しは興味本位でするものではないと気づいた。

この学校はわりと広い。
全学年で、二十を越えるクラスが存在しているため、それに対応するかのように校舎もバカみたいに広い。


おまけに、五月とは思えない暑さが廊下を歩く俺をさらに苦しませていた。

確かニュースで地球温暖化は急速に進んでるとか言ってたな。

と自分にいって納得させようと試みるも、暑いものは暑い。

夏が大嫌いな俺にとって、この暑さはイライラを増大させるのに一役買っていた。(買わなくていいのに)



これだけきつい思いをしているのに、肝心の玉木さんだけ見つからない。


イライラはピークに達しようとしていた。


探すのも面倒くさくなった俺は、お決まり(誰が決めたかわからないが)の体育館裏を探してみて、いなければ教室に帰ろうと決めた。







自分のクラスから体育館は少し遠いようで、結構きつかった。


(これでいなけりゃ怒るぜ。)

と理不尽に近い怒りを覚えていたとき、玉木さんを見つけた。
しかも、なんだか黒い生き物と一緒に

No.11 07/09/06 23:30
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、悪いことをしているわけではないのに、なぜか隠れてしまった。



俺は、隠れながら彼女の行動を覗いていた(端から見れば、変態扱いされるだろう)


どうやら、彼女はその黒い生物に餌付けを試みているらしく、手にパンのようなものを持っている。


しかし、その黒いのは用心深いようで、彼女の差し出すパンには見向きもしない。


ただでさえ暑い中、ガンガンに日差しが当たる体育館裏で、じっと座っているのはきついのだろう。
彼女はイライラしてきているように見えた。
いや、していなかったら変人だ。
俺なら軽く発狂している。



さて、この状況をどうしようか。
俺はそれを思索していた。
ケース1
偶然出会った。


絶対に無理がある。
確実に話にぼろが出る



ケース2
彼女を尾行していたことにする




一瞬でストーカー扱い決定

行き着く先は生徒指導部か、最悪精神病棟。




ケース3
事実を正直に話す



理由を求められたらどうしよう


なんて答えるんだ?
暇つぶし?
どこの世界に、暑い中、頼まれもしないのにあまりしゃべったことのない子を探すバカがいるんだよ…。


ああ…俺か

No.12 07/09/13 20:31
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、この場から静かに立ち去るという選択をした



音を立てぬように後ろを振り向こうとしたとき、俺は背後に人の気配を感じた。

やばい。
俺は心臓の鼓動が速まるのを感じた
もし、生徒指導の教師とかなら俺は間違いなく不審者として扱われてしまう。



振り向こうとしたまま固まっていると、その影から、
「な~にやってんだ、ジョーちゃん」

と声がした

俺は聞き覚えのあるこの声にため息をついてから返事をした

「なんでもね~よ、真中」

背後にいたのは生徒指導とはかけ離れた男だった。


こいつの名前は真中。
日本全国どこのクラスにもいそうな騒がしい奴で、クラスの奴にやたらとあだ名を付けたがる。
俺も本城という名前から、ジョーというあだ名を付けられてしまった


「何にもしてない奴が、こんな人気のないところにいるのかな~?白状しちまえよ」


軽薄な男だが、勘は鋭い。

俺もその勘だけは一目おいていた

No.13 07/09/13 20:55
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

下手に嘘をつくよりも、ある程度本当のことを話すほうが良いと思った俺は

「実は、人捜しをしててさ。ここら辺にいるって聞いたから探してたんだ」

と返してやった


真中は納得したような顔をしていた。


話を逸らすチャンスと思った俺は、

「んなことより、真中の方はどうしたんだよ。おまえも人のことを言えねーんじゃないか」


そう訊ね返したら、真中は押し黙ってしまった。


「何もねぇよ。大体、俺がなにしようがジョーちゃんに関係ないじゃん」

とだけ言うと、その場から立ち去った。

そんな反応が返ってくるとは予想していなかったので、俺はしばらく唖然としてしまった。


そのとき、俺はあることに気がついた。

(そういや玉木さんはどうしたんだ。)

先ほど、彼女がいた場所に目を向けるとそこには、彼女もあの黒い生物もいなくなっていた。


「何処へ行ったんだ?」

あたりを見渡したとき、チャイムが鳴ってしまった

急いで教室に向かわなくては

No.14 07/09/20 08:02
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、何とか授業には間に合った。


玉木さんの方をみると、彼女は落ち着いた様子で席に座っていた


あの黒い生物が何なのかは気になっていたものの、今の状況で彼女にそれを訊ねるのは、ナンセンスだということを認識することはできるので、しばらく放っておくことにした。





「じゃあ、今日はここまで。予習はきっちりしておくように。」

日直に、礼をさせると担任の教師はそそくさと教室を出ていってしまった。

そんな、教師の態度に、怒る生徒などいるわけもなく、皆、部活動や帰宅の準備をしていた

俺は部活動には所属していなかったのでさっさと帰る準備をしていた



鞄に荷物をまとめながら、俺は昼に見かけたあの黒い生物の正体を、無性に暴きたくなったので、あの体育館裏に行ってみることにした

No.15 07/09/20 20:15
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

放課後の体育館裏は、昼休みと違い暑さは、かなりマシになっていた


パッと見たところ、玉木さんの姿はなかった


あの黒い生物の正体を暴くには絶好のチャンスだ


俺は、彼女がその生物に餌を与えていた場所に座った


しかし、その生物はいっこうに現れず、俺は途方に暮れてしまった

さらに、俺が座っている場所は日差しがかなり当たる場所で、座るだけでかなり暑い。



(…暑い。何でこんなことしてんだ俺は…)


少し日陰に入ろうとその場から去ろうとしたとき、不意に呼びかけられた




「本庄君?何でここに?」


俺は、冷や汗をかなりかいていたと思う。

その声は今のこの状況で一番聞きたくない声だった


そう、声の主は玉木さんだった

No.16 07/09/20 20:36
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

ぶっちゃけ、あり得ないだろ。


この状況を誰が予測したよ。

さあ考えろ。

どうやってこの状況を乗り切る?







「やっぱり本庄君。何してるの?こんなところで」


どう説明すりゃぁ、納得してくれんだろうか?

俺の頭の中はそればかり考えていた。


何とも返事できない俺を彼女はどう思っているだろう。


しかし、その状況を打破したのは彼女だった。


「もしかして、本庄君もクロ助にごはんをあげにきたの?」

彼女は俺にそう聞いてきた

「クロ助?なんだそれ」

思わず、そう返事してしまったが、直ぐに公開した
これを皮切りに、いいわけを考えればよかったのだ


「違うの?てっきりそう思ったんだけど…」

やばい。彼女はいよいよ、俺を怪しく思い始めた


俺の額に流れる汗は、暑さだけではなかった


そのとき、玉木さんが突然、「クロ助!」と叫びだした


彼女の叫んだ方向を見ると、そこには真っ黒な毛に覆われた子猫がいた。


彼女がえさを与えていた、黒い生物はこいつだったようだ

No.17 07/09/20 20:55
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

玉木さんは、その子猫に近づくと、ポケットに忍ばせていた煮干しをばらまいた。


子猫は、煮干しに鼻を近づかせ匂いをかぐ。



玉木さんはその光景をほほえましく眺めていた。


その顔は、普段の彼女の表情と違っていて、ほんの少しドキッとした。俺だって男だ。可愛い女の子にドキドキするのは当然だろ?


俺はふと我を取り戻し、玉木さんに

「どうしたんだ?こいつは?」

と、問いかけることができた

「一週間ぐらい前かな、学校の中でこの子を見つけたの。私は寮生だから、家には連れて帰れないからここでごはんをあげてるの」

俺は少し驚いた。

彼女が体育館裏で、子猫を育てていることもそうだが、寮生であることにはもっと驚いた。


公立ながら、スポーツ推薦などの制度に優れた高校なので、他府県からも生徒が集まるため、一応寮が用意されているが、それは入ることができて男女十人ずつぐらいなので、寮に入るにはそれなりの成績と理由が必要になる

彼女がそんな内の一人とは知らなかった

No.18 07/09/20 21:18
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「驚いた?」
彼女は俺の様子を見てそう訊ねた。

彼女の顔を見ると、俺のような反応になれているみたいで、明らかに表情を楽しんでいた

認めるのも悔しいので、「別に」とだけ言った

事情は知らないが、特殊な環境は俺も負けないつもりだった。

玉木さんは、少し勝ち誇った顔をしていたが何も言わなかった



俺は、会話の流れを戻すため、子猫に目を向けた。


「それで、こいつはどうするんだ?ここにずっと飼うわけにもいかんだろ」

と言うと、彼女はむっとして

「それぐらい考えてるもん。大体、こんなにかわいいのにコイツとか言わないで。」
と言った


「呼び方なんて何でもいいじゃね~か。それで、コイツをどうするのか考えてるって言ったけど」

まだ玉木さんは怒ったような表情をしていたが、怒っても仕方ないと思ったのか渋々と言う感じで話し始めた

No.19 07/09/24 23:44
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

彼女の説明は、黒猫の自慢から始まり、要領を得なかった。
内容をまとめると、学校の近くには猫屋敷があり、そこで飼われている猫は、避妊手術がされていないため、この季節になるとたくさんの猫が生まれる
ある程度は知り合いや新聞広告等で募集した飼い主に引き取られるが、残ってしまった子猫は、道に捨てていくのだという。
その証拠に、猫屋敷の近くにすんでいる人は、屋敷に住んでいる女性が、何かが動いている箱をおいたりするのを、見ていた人が居たのだという。

そして、彼女はその元飼い主の家に殴り込みに行くらしい



「だって、ムカつかない!?
子猫がいきなり外に放り出されて生きらんないのは誰の目にも明らかでしょ!!
なのに、何で捨てちゃうのか私には理解出来ない!」
彼女は、話の最後を、こう締めくくった

No.20 07/09/25 00:01
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、半ばあきれながら話を聞いていた。


俺にしてみれば、何でたかが黒猫ごときに、そこまで熱くなれるかがわからない。


確かに、猫屋敷の主人のことをおかしいと思うのはわかる。
だが、そんな話は世界中にありふれているし、テロや、世界中で起きている内戦や飢餓といった、もっと重大なこともこの世界にはある

それらからしたら、彼女の怒りはひどく個人的だし、どうでもいいことだ。

しかし、彼女はまるで自分が捨てられたかのように怒っている。

彼女のそんな様子を俺は、なぜか微笑ましく思っていた。

そして、今日何度目だろうか。



後々、後悔するだろう選択をとってしまった

No.21 07/09/25 00:32
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「まさか、本庄君がこんなことに付き合ってくれるとは思わなかったよ」

彼女はさっきまでとは違い、嬉しそうな顔でいった。


一方、俺は何でこんなところにいるのか、自分でも理解できずにいた


話は、一時間前に遡る




「それで、その猫屋敷の場所はわかってんのか?」


彼女が、話終えてしばらくしてから俺は聞いた。



彼女はなぜそんな質問をするんだという顔をしていたが、

「ここから割と近いけど、」

と答えてくれた

「近いって、どれくらいの距離なんだ?」

「多分、ここから30分もあればつくんじゃない」

「じゃあ、行こう」
俺は、彼女から時間を聞いた瞬間即答してしまった

彼女は、最初俺が何を言っているのか理解できない様子だった。

だから俺は、改めて言い直してしまった

「その猫屋敷に行こう。
行って、避妊手術を受けさせるか、これ以上猫を捨てるのをやめさせるんだ」

No.22 07/09/25 16:42
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

どうも俺は、玉木さんに影響を受けているようで、いつもの俺とは違う感覚を抱いた。

いつもならば、彼女の話もよくあることと割り切るのだが、今日はなぜか、彼女の意志に同調してしまっている。



俺は、そんな感情の変化にかなり戸惑いを覚えていた



彼女、玉木さんだからそうなってしまうのか。

もしくは、いつも表に出していないだけで、奥底でははらわたが煮えくり返りそうなぐらいの怒りを抱えていたのか。



前者はないと思う

玉木さんは、今日たまたま話しかけられただけで、大して他の感情を抱いていない(ハズだ)

後者でもないと思う

俺は、彼女の話よりもかなりややこしい事態に巻き込まれたこともあるし、自分で言うのもあれだが、割と冷静で残酷な性格をしていると思っている



俺のこの突発的な感情は、なんなのだろう

No.23 07/09/26 20:40
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

そんな葛藤が、心の中で渦巻いていることに気づかない、葛藤を引き起こしている張本人は、猫屋敷の前で何を言おうか迷っている様子だった。


「何を悩んでるんだ?」

「だって、いきなり、あなた猫を捨てたでしょ、何て言ったらおかしいじゃない」

驚いた。

てっきり俺は、勢いに任せて怒鳴り込むものだと思っていた


少し、彼女に対する考えを改める必要がありそうだ。


「どうしよう。せっかくここまで来たのに…。」

玉木さんは、自分の愚かさにかなり嘆いているように見えた


そんな彼女の様子を見ていた俺は、腹をくくるしかあるまいと、屋敷のベルを押した






「本庄君!?」

玉木さんはかなり驚いたようだ。

まさか、いきなりベルを鳴らすとは思わなかったのだろう


おれだって、面倒なことは避けたいさ。

でも、避けたくても避けられないことも社会にはある。


今はそのときさ。
そうだろ

No.24 07/09/28 00:49
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「は~い。どちら様かしら?」


玄関からでてきた家主は、傍目からみれば優しそうな中年の女性だった




女性は(見ず知らずの他人にオバサンと言うのは、俺には抵抗がある)俺たちを見て怪訝な顔をしていた。

それはそうだろう。
いきなり、会ったこともない高校生に家に来られたら、誰だって驚く。



だが、俺はうれしくないことに、こういうタイプの大人が、子どもにどんな対応を期待しているか理解し尽くしているので、


「突然申し訳ありません。
ここで子猫をもらえると聞いたのですが…。」


こういうタイプは、俺たちぐらいに『子ども』を求めていない。

自分たちと同じゾーンにたっていて、なおかつ自分よりも弱いように見えるのが一番いい。
いわば、『子ども』と『大人』の境界を完全に分けようとしていて、俺たちのように、両方兼ね備えたような半端者が強いということを認めたくない輩だ。


だから俺は、言葉遣いなどは大人に近づけ、なおかつ意志が弱そうに見えるように、少し目を泳がせてみた

No.25 07/09/30 14:17
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

いきなり弱腰になった俺を見て、玉木さんは焦り始めた。


玉木さんには悪いが、焦れば焦るほどある意味好都合だ


俺はすかさず

「すいません!実は彼女人見知りする性格で、猫がどうしても欲しいけど、猫をもらえるように交渉できるかどうかわからないから、来てくれって言われてついてきたんです」


この言い訳なら、俺がいる理由や彼女が焦っている理由を説明できる


女性は、納得したのか頷き、


「あらそうなの
最近物騒でしょ?特に、あなたたちぐらいの年代が、一番危ないって言うじゃない?
だから、少し警戒しちゃって。ごめんなさいね」


と笑いながら言った

話の内容の失礼さに、少しムッとしたが顔には出さなかった

No.26 07/09/30 21:26
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

不思議なことに、世間ではたくさんいる学生という身分のうち、一握りが悪さをすると全てを悪く見てしまう。

「人は人、自分は自分」

そんな言葉を作り出しているのは大人なのに何故だろう。



とにかく、女性の警戒心を解くことに成功した俺たちは、彼女の家に上がることとなった








オバサン(だいぶ話したので、呼びやすくなった)の家の中は、玉木さんの情報通りの猫屋敷だった


黒猫、白猫、ブチなと様々な柄や毛の長さをした猫が、俺が見た限り十匹以上いた


「残念だけど、この部屋にいる子たちはあげられないの。二階にいる子たちならあげられるから、ついて来て」



オバサンは、そういうと俺たちを二階に案内した



二階にいたのは子猫ばかりだった


この部屋にいる子猫は、見たところ五匹ぐらいか

皆産まれたばかりという感じで、猫好きならたまらず抱きしめたくなってしまうかもしれない(俺はそうは思わなかったが)

No.27 07/09/30 21:40
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

しかし、この子猫を見る限り、拾ってきたわけではなさそうだ。

つまり、下にいた、あの猫たちから産まれたのだろう




「どうかしら?
この子たちから一匹つれていくのわ?」

オバサンは笑いながら俺たちに聞いた




しかし、オバサンはわかっていない。
今、玉木さんはかなり怒りにふるえている。

そんなときに、笑いながらそんなことを言ったら、彼女の逆鱗にふれるのはまちがいない

「いいかげんにしなさいよ!」

案の定、玉木さんはオバサンに怒鳴り始めた

「この子たちにもし貰い手がいなかったらどうすんの!?
捨てちゃうんでしょう?
あんた大人なのに捨てられた子猫がどうなるか、分からない訳じゃないよね!?
かわいそうっていって拾ってくれる人なんてほんの一握り。
大抵は、事故に遭うか、ご飯が食べれなくって餓死しちゃうんだよ!


そんなかわいそうな子たちを増やすぐらいなら、避妊手術受けさせなさいよ!
それが飼い主の責任じゃないの!?」

No.28 07/10/06 22:23
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

オバサンは、玉木さんがいきなり怒鳴りだしたことに、かなり動揺していた



それはそうだろう。
俺からは、彼女は人と話すのが苦手だと聞いていて、それを信じきっていたのだ。



玉木さんの怒りの爆発は、オバサンにとって予想できなかった出来事だったろう



それらが相まって、オバサンはしばらく固まってしまっていた

しかし、徐々に気持ちを取り戻し始め、玉木さんに言われた言葉に対しての怒りが沸いてきた



「な、何よ!あなた、いったい何を言っているの!?」

オバサンはほとんどヒステリーになりながら言った



それに呼応するように、玉木さんの怒りもヒートアップしていった


「アンタみたいな自分勝手人間がペットを飼う資格が無いっていってんのよ!
そんなこともわかんないの!?」

「わかるわけ無いでしょ!!
それに資格がどうのなんて、あなたみたいな馬鹿っぽい女の子に言われたくないわよ!」


「馬鹿っぽいって何よ!
そういうふうに、人をけなさないと会話を始められないの!?
だからオバサンは嫌いなのよ!!」

No.29 07/10/06 22:45
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、その高校生と大人の会話とは思えない二人の会話を聞いていた



頭が痛くなる思いがしながらも、俺は幼稚な言い争いをしている二人の間に割って入った



そのときに、


「ああ~。
とても平和的な会話してる途中すみませんけど…」

という風に嫌みを加えるのを忘れない


嫌みの意味が分からないほどに、頭に血が上っているわけではないらしく、二人とも押し黙ってしまった



「じゃあ、平和的な話し合いも終わったことだし、事情を説明しましょうか」

俺は、今が好機とオバサンにここにきた目的を話した









「つまり、僕たちはあなたの家の猫に去勢手術を受けさせるために、ここに来たわけです」


俺は、玉木さんが見つけた黒猫、クロ助の話と、彼女が怒り出した理由を話した


オバサンは少し落ち着いてきたが、俺の話について、いささか以上の反感を持っているように見えた

No.30 07/10/07 19:26
高校生30 ( ♂ )

面白いです。
時間あればまたどんどん書いて下さい。雑談スレの方にも遊びに行きますので。

No.31 07/10/07 23:38
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

オバサンは、俺や玉木さんがなぜ怒っているのか、説明しても理解できないようだ。




「確かに事情はわかったわ。でも、それであなたたちに迷惑をかけたかしら?」


という発言を聞く以上、反省はおろか話を理解しているとも思えない。



当然、玉木さんの怒りは収まるどころか、激しくなっていってしまった




「迷惑って何よ!あんたは、生きてるうちで守らなくちゃならないルールも分からないわけ!?
飼っているペットを捨てちゃいけないって事すら、あんたにはわからないわけ!?」


とかなりご立腹だ





しかし、怒りが爆発しているのは玉木さんだけではない


怒りの元凶であるオバサンもヒートアップしていた



「そんなセリフが言えるってことは迷惑はしていないんでしょう?だったら、私の家のことに口出ししないで!子供のくせに!」


「子供のくせにって、あんたみたいな奴はそればっかね!それ以外に人との会話ができないの?」

No.32 07/10/08 21:19
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、またもや幼稚な言い争いをし始めた二人に対して、呆れを通り越し、怒りがこみ上げてきた



だが、今俺までもがキレたら、この場の話し合い(言い争いだろうか)の収拾がつかなくなるので、俺は怒りをできる限りセーブするようにし、何とか頭を冷静に保つことが出来ていた





しかし、玉木さんは何を意地になっているのだろう。



確かに、ここの状況を放っておけないことは理解できるが、それは、オバサンを無理やり説得してまで問題を解決する必要はない。



日本には、このような事態に備えるべく、様々な機関がある。


警察や、ボランティア団体がそれにあたる。



それらの機関に頼めば、こんな状況はいくらでも何とかなるだろう






先ほど話を聞いただけで思いついたのだから、しばらくあの黒猫の面倒をみていた彼女なら、容易に思いついただろう





だが、玉木さんはそういう機関に相談することなく、この家に直行した

No.33 07/10/08 21:41
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

端から見れば、通常の行動かもしれないが、普段の玉木さんの行動からすれば、少しおかしい。




俺は、普段からクラスの雰囲気にあわせるため、クラスメートがどんな性格で、どんな行動をするのかをある程度把握している。



俺の把握している彼女は、これほど直情的ではなかったはずだ



彼女の何がそうさせるのだろうか





俺が、数秒間このように物思いに耽っている間にも玉木さん達は、不毛な言い争いを繰り広げていた



いい加減に鬱陶しくなった俺は、二人の話し合いに終止符を打つことにした




「玉木さん、そういえば警察には連絡したのかい?」



俺がそう言うと、二人は突然話し合いをやめ、俺の方をみた


「その人が近所に猫を捨てていることを迷惑に思っている人がいたら、立派な犯罪になるだろう」


犯罪という一言に、玉木さんもオバサンも驚いていたようだ

No.34 07/10/09 20:30
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「俺の知る限りでは、その人がしていることは確か軽犯罪法に違反しているはずだ。詳しい罪状は忘れちまったが
警察じゃなくても、市民団体に訴えれば、彼女は近所での面目丸つぶれ間違いないだろうな。
さあ、どちらがいいですか?」


俺は、二人が反論できないことをいいことに、二人に一気にまくし立てた。


玉木さんもかなり呆然としていたが、オバサンはその上をいき、口をあんぐりと開けたままで、完全にフリーズしていた


さらに、最後に俺が質問を投げかけたことで、オバサンはどうしようもなくなってしまっていた



「じゃあ、俺らが決めてしまっていいですかね?玉木さん、どっちがいい?」


玉木さんは、いきなり話を振られてかなり動揺していた。


オバサンはというと、玉木さんの方をちらちら見ていた

玉木さんの決断によっては、彼女の一生に関わってくる可能性があるのだ


気にして当然だろう


そして、俺はそれ故、玉木さんに選択権を与えたのだ

No.35 07/10/09 20:54
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

先ほどまで、自分でバカにしていた彼女に、自分の運命(少々大げさかもしれないが)を決定されるのだ



これは、精神的にかなりのダメージを与えることができるだろうと、俺は考えた




その俺の目論見通り、オバサンは自分の状況に、下唇を噛みながら、屈辱に耐えているように見えた


おそらく、もともとプライドが高い人間なのだろう

たかが学生に、自分の運命の選択を委ねなければならなくなったり、完全に屈服させられる経験も無かったのだろう




一方、玉木さんは決めあぐねているようだ。


自分の決断によって、一人の人間の人生を変えてしまいかねないのだ。


迷わずに決めることができる方がおかしい。


そして、二人が完全に膠着状態にある今こそ、俺の真の目論見を始めることができる

No.36 07/10/09 21:11
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「二人とも決められないのなら仕方ない。
じゃあ、俺が決めるしかないな」

俺はわざと芝居掛かりながら二人に言った

二人とも、俺の次の言葉を聞き逃すまいとしている


「まず、俺たちはあんたのしたことを誰にも言わないことを約束する。」


そういった瞬間おばさんは、心から安堵したように息をついた


しかし、俺が
「ただし」

と話を続けたことで、顔をまた強ばらせた



「もちろん、あんたにも条件はある。
もしもそれを破ってしまった場合は、すぐさまそれ相応の対応をさせてもらう。
どんな対応をするかは…言わずともわかるだろ?」


俺は、少し声を低くしておばさんに言ってやった


案の定、オバサンはビクビクしながら俺の言葉を待っている



果たしてなにを交換条件にするのか、おばさんにはそれがわからないため、ただ怯えるしかないのである



「なにも難しいことじゃないですよ」

俺は、ここで敬語に変えることで、プレッシャーを与えることにした



「俺らは、金を要求するわけでもないし、あんたを辱めることもしない。俺たちがしてほしいことは……」

No.37 07/10/09 23:19
SUN ( 10代 ♂ LVW6h )

「それで、あの辺りの捨て猫は減ったのか?」

あの一件から、二週間ほど経過した



俺と玉木さんは、時々あの家の経過について、話し合っている


彼女の情報によると、あの猫屋敷の近辺で子猫の類が捨てられることは無くなったらしい


まだ二週間なので油断はできないが、とりあえず安心しても良さそうだ







「まあ何にせよ、これで猫騒動も、ある程度は終了したってことかな」


「騒動ってなによ。
ほんとに頭にきてたんだからね!
今度もう一回捨ててたら、まず一発ブン殴ってやるんだから!」


玉木さんは拳を振る動作をしつつ言った。



彼女に話は合わせたものの、俺はそんなことはないだろう、と確信していた







あのとき俺はこう言ったのだ


「まず、この家にいるすべての猫に去勢手術を受けさせてください。
確かに今はお金がかかりますが、こどもが産まれたときに生ずる金額を押さえることができるから、多分、トータルで見たらそう変わらないと思います。
あと、捨てるのももちろんだめです。
これらが守られなければ、警察に連絡します」

No.38 07/10/11 21:15
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、恐らく普通の高校生が行うには、あまりにも残酷な行為をオバサンにしているのかもしれない。



一度相手を精神的に追い詰め、あえて救いの道筋を作ってやることで、こっちの思惑通りに事を運ばせる



これは一種の洗脳だ

俺は、オバサンのプライドの高さを利用してこの行為を実行した




普通の高校生なら、相手を洗脳に近い状態にしてまで、自分の目的を果たそうとはしないだろう





俺は、オバサンを追いつめているとき、彼女に対してある程度の哀れみに近い感情を持っていたし、自分自身に、「ここまで追い込む必要はないだろう?そろそろやめよう」とブレーキをかけようとさえ試みていた。


だが、そんな俺の良心や哀れみの気持ちは、オバサンに対する激しい感情に押し込められてしまった



俺は、あのときの俺は、別人格の俺ではなかったろうかと思うことがある。



それほどまでに、あのときの俺は、普段の俺と異なってしまっていた




今でも思う。
あのとき、あの人に向けてしまった激しい感情は果たしてなにが原因なんだろうかと

No.39 07/10/11 21:55
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

あのときの感情は、怒りであろうか
苛立ち?それとも……


しかし、今の俺はあのときの感情の正体を知ることはできない



何であれ、俺は…
いや、俺たちは当初の目的であったオバサンの猫を捨てるといった行為をやめさせることが叶ったのだ。



そのことに関しては、喜ばしいことだろう











これが、俺が名付けた『猫騒動』のことの顛末だ

そして、俺と玉木さんの己の心の内に潜む『傷』に関する話の序章でもある


もちろん、そのときの俺はそんなことには気づかなかったし、玉木さんもわからなかったのだが……



ああ、そうだ


この騒動を解決したことで、俺の生活が少し変化してしまった





原因はまたしても玉木さん


「はあ!?君はバカか!なに勝手に話進めて…」

「だって、寮じゃペット禁止なんだもん
君なら、この子を責任を持って育ててくれると思うんだけど……」


そう、俺は玉木さんに押し切られる形であの黒猫を引き取ってしまったのだ


まったく、俺は玉木さんだけは苦手だ……





このこどこのこねこ

No.40 07/10/11 22:23
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

間章




お昼休み

それは、高校生が学校で一番楽しみな時間だと、私は思っている


でも、ある意味私はこの時間は苦手だ


何故なら…

「ねぇー、留美チャンって本庄クンと付き合ってるの?」




あの『猫騒動』(本庄君命名何だけど、私はあまり気に入ってない)から1ヶ月経った



もともとあまり接点がなかった私と本庄君が、いきなり仲良くなったもんだから、みんな不思議がってしまって、ありもしない噂まで流れてしまう始末だ(内容については、私の口ではとても言えない、破廉恥きわまりないモノまであった)


わたしはともかくとして、本庄君に迷惑だと私は思う


だって、こんな私と恋人だなんて思われてしまって…

No.41 07/10/11 22:51
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

その笑顔はまるで瑠璃のように











最近、俺は機嫌が悪い



第一に、野次馬精神が全開のクラスメートに、玉木さんと恋愛関係にあるのではないかと疑われいることだ


ここ一週間で、まだマシになってきたが、未だに聞いてくる奴もいるからイヤになってくる



現に今でも

「なあ、いい加減吐いちまえよ~、楽になんぜ?ジョーちゃんよ?」



俺は、今目の前にいる男を殴りかからないことを誉めてほしかった



「何度も同じことをいわせんじゃねー。違うつってんだろうが、このボケ」

「ボケとはなんだよ!ああ~、傷ついた!今日は家帰って引きこもってやる!」
「お前に、そんな傷つくような神経があるとは知らなかったぜ。真中」


そこまで言われても、真中はまだヘラヘラしてやがった

多分、クラスで一番長生きするのは、多分このバカだろう


俺はそう確信している



だが、これらは可愛いものだ


俺が、本当に機嫌が悪いわけは他にある


そして、それも、俺の苦手とする、噂の玉木さんが根本原因なのだった

No.42 07/10/12 22:12
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

その日の授業が終わると、俺は別れの挨拶もそこそこに、自転車を急ピッチで漕いで帰宅した


あいつは、見張っていないと何をしでかすか、わかったもんじゃない


ある時は、学校に行っている数時間の間で、ふすまをボロボロにされ、またある時は、机に置いてあった牛乳のパックを倒し、あたりを牛乳まみれにしたり、さんざんな目に遭っているのだ



そんなことを思い出していたら、より早く家に着きたいという思いにかられた。








そして、俺は生涯最速をマークし、家に着くことができた



自転車に鍵をかけ、家にすぐさま入り、異常がないか点検した(おそらく、深夜の学校を見回るオッサン達よりは見ていたはずだ)


ついでにあいつの姿も探した


一階には見あたらないため、二階に上がってみるとそいつは日のよく入る場所で、暢気に昼寝と洒落込んでやがった




(こっちの気持ちも知らずいい気なもんだ)



俺は、俺を不機嫌にする最大の要因である奴を見下ろしながら、心中で毒づいた


そこには、玉木さんに無理矢理押し切られ飼うことになった黒猫がいた

No.43 07/10/14 22:20
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は、何故断固としてこいつを飼うことを断らなかったのか、と一月経った今でも後悔している




こいつのせいで少なくとも一時間以上は、睡眠を削られている


こいつは何を考えているのか、朝の五時とかに俺を起こしにくるのだ



無視しようものなら、枕元で暴れ出したり、耳元で鳴き叫んだり、手段を選ばない



観念して俺が起床すると、もう気は済んだのか、またどっかへ行きやがる



時間が時間なので二度寝もできず、前以上に早く学校に行く羽目になってしまうのだ(一番最初の方に話したと思うが、俺は朝早くに学校に行くことは確かにあるものの、ここの所はほぼ毎日だ)




とりあえず、こいつの無事(さすがに家で死なれては後味が悪い)を確認したので、俺は自分の部屋に向かう



俺は、部屋に置いてあるベットに腰掛け、本棚から一冊の本を取りだし、読み始めた



その本は、自殺した人の遺書ばかりを集めたあまり人にはお勧めできない本だが、俺は気に入っていた

No.44 07/10/14 22:44
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

よく、人は死ぬと無になるというが、俺はそうは思わない



この本を読むと、それが確信に変わった



これに書かれている文章は全て、今は死んでしまっている人物が書いたものだ



それが今、俺の目に入り、死んでしまった者の感情が入り込んでいるように錯覚し、そして文章に混ざり込む『死』という気配に魅入られてしまう



おそらく、それは彼らが死んでしまっているから起こる感情であり、まだ生きている奴らがこれを書いたところで、俺は何とも思わない



有名な芸術家は、死してから名を馳せるという話を聞いたことがある


それはつまり、『死』というものが『生』とは違う輝きを持っているからではないかと俺は思う


俺が本を読みながらそのようなことを考えていたとき、ポケットに入れていた携帯が振動した



「誰だよ人がシリアスってる時に…」


俺は、メールの送信者を見てため息をついた



そいつは、俺が読んでいるような本の世界とはまるで対極のようなやつ

アホの真中その人だった

No.45 07/10/21 21:46
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

半ばイライラしながら、俺はそのメールをみた


タイトルには『大発見!』とあり、写真も添付してあった



本文を読んでみると、なんだか絵文字や顔文字だらけで、とても読めたものじゃない


何とか読める部分から内容を掻い摘んでみると、どうやらこの写真の人物がクラスの誰かにそっくりだったらしい(あのバカは、クラスの誰かの部分を一番、暗号みたいな文字で表しやがった)




読書を邪魔されたこともあり、俺は携帯を閉じて読書を再開した



すると、また携帯が鳴り始めた


今度は誰だよ、と思い携帯を取ると、真中からの電話だった

そのとき俺は確信した


こいつは完璧に空気が読めない


いっちょ文句を言ってやろうと俺は通話ボタンを押した

No.46 07/10/21 22:05
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「もしもし」

「オイ!!ジョーちゃん!!メールみたかよ」


真中はよほど興奮しているのか、かなり声が大きい


携帯から少し耳をはなして、会話を続けた

「一応見たけど」

「一応って何だよ!画像見てねぇのかよ!」

「俺にもいろんな事情があるんだ。おまえに合わせてばかりできるわけねぇだろ」

「いいからいっぺん見ろって!絶対ビックリすっから」

「見るかみないかは、俺が決める」

「ああ~もう!メンドクサイ奴だな!騙されたと思って見てみろって!ていうか見なかったら、お前の机に落書きしまくってやる」

騙されたくはないんだか、と言おうと思ったら、真中はもう切ってやがった



俺は気が乗らなかったが、明日俺の机に落書きがあるのは嫌なので(真中はバカなので、本当にやりかねないのだ)メールに添付されてた画像を見ることにした


俺は、一目見て何かの見間違いかと思った



そして、あのバカが俺に見るように念を押した理由がわかった


その画像には、玉木さんにそっくりな女の子の姿があった

No.47 07/10/21 22:23
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

その画像の女の子は、本当に玉木さんそっくりだった



いや、似ているなんてレベルじゃない


下手したら、本人と間違えそうだ



実際、この女の子の髪が玉木さんの倍ぐらいの長さでなければ、間違えていたかもしれない




だが、画像の衝撃から少ししてから俺は冷静になった




あのバカが俺を驚かせるために作った合成画像かもしれないし、玉木さんが、ウィッグ(合ってたっけ)をしていたのかもしれない


考えてみれば、こんなマンガみたいな偶然が起こるとは思いづらい


たまたま町で歩いていた真中が、たまたま歩いていた、玉木さんのそっくりさんに遭遇する



こんな奇跡的な偶然を信じられる程、俺はバカでも、お人好しでもなかった



くだらない、と思い俺は携帯を閉じた


そのとき、足下で鳴き声がした

見ると、クロ助が(新しい名前を付けるのが面倒だったので、玉木さんが呼んでいた名前を使っている)物欲しげな顔をしている


餌箱を見ると、中身が空だった


「腹が減ったのか?」

解るわけないと思いながらも聞いてみる

No.48 07/10/21 22:33
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

クロ助は、「ニャー」と返事した


なんだか、すべてがどうでもよくなったので、俺はクロ助に餌をやることにした


今日、初めてこいつに感謝したかもしれない
















翌朝、学校に行くと真中がマジックを持ちながら俺に、


「画像みたかよ」


と聞いてきた


「見てやったから、そのマジックを離せ。落書きしやがったら、どうなっても知らん」



俺の声色に本気さを感じたのか、マジックをポケットにしまった


「冗談じゃんか~。本気にしないでよジョーちゃん!」

「お前はバカだから、本気かどうかが解りづらい」

「ああ~!またバカっつったな」


「お前を表すのにこれ以上ピッタリな単語はないと思うけど」


またしても俺が本気で思っていたのが伝わったのか、真中は半ば本気で文句を言い始めた


だが、もちろんそんな抗議には全く興味がないので、俺は話の核心にいきなり触れることにした

No.49 07/10/23 00:07
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「で、どうやってあんな写真を作ったんだ?」


俺は、あの写真は確実に合成だと思っていたので、そう訊ねた



すると真中は、やはりというべきか、ムキになって

「作ってねーよ!何だよ!そんな目で見てやがったのかよ!?」


と反応してきた


「当たり前だ。たまたま町で出会った人が、たまたまクラスメートにそっくりだったなんて、バカみたいな偶然があってたまるか」


「あったんだから、しゃーねーじゃんか!大体、こんな上手くできた合成写真を作れるだけの技術が、俺にあると思うか?」



俺は、その言葉に少し考えさせられた


成る程、よく考えたら、このバカにそんな高等技術があるとは考えづらい



すると、まさかこいつは本当に…



「真中」



改めて呼びかけた声は、少し低くなってしまった


俺の声の調子が変わったのを感じ取ったせいか、真中は少しうろたえていた


「な、なんだよ、ジョーちゃん?急にまじめな顔して」

No.50 07/10/24 00:14
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「この写真が嘘じゃないなら、一体どこで撮ったんだ?」




まただ

また俺は、バカみたいに強い好奇心だけで、面倒なことに首を突っ込もうとしている



あの『猫騒動』もそうだった


頭の冷静な部分では、必死に自分を止めようとしているのに、心が、体が好奇心に支配される

まるで、面倒ごとに巻き込まれることを、本能で望んでいるかのように







おれが、そんな思考をしていることを察することが出来ないのか、真中は脳天気に

「ほらほら~、気になってきたんじゃないかジョーちゃん?」


と馴れ馴れしく肩を叩きやがる


俺は、一瞬でさっきまで脳内で行われていた思考の中止を余儀なくされた



「一応聞くだけだ。百%信じる訳じゃない」


「またまた~、そんな照れんなよ!」


また肩を叩きやがった


万倍返しくらいで、顔面に一発入れようと、少し席から離れたら、




そのとき、真中が突然大声を出した

No.51 07/10/26 01:26
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「わかった!わかったから、んなこえー顔すんな!」


どうやら、自分で思っていた以上にきつい顔をしてしまったらしい


感情を、あからさまに表に出してしまったことに、少し後悔し、ほんの少しだけ顔を緩めた


真中は、安心したのかいつものヘラヘラ笑いをしながら話始めた



はっきり言う


こいつはメールもそうだが、とにかく話をまとめることがあり得ないぐらいに下手だ


もしかしたら、小学生にも負けるのではないかと俺は思う




あいつの話をまとめると、学校から自転車なら20分位行くと、駅のすぐそばということもあり、わりと大きなビルが立ち並ぶエリアがある


真中は、学校帰りによくそこら辺にいくらしい


昨日も、いつも通りビル街に向かうと、あの写真の女の子を見つけたらしい


あまりにもそっくりで、一瞬声をかけそうになったそうだ


だが、あまりにも髪が長かったため、玉木さんじゃないと確信したらしい

No.52 07/10/29 23:50
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺からしたら、街で玉木さんにあったからといって、声をかけようとするこいつの度胸をある意味賞賛してやりたいが(真中と玉木さんの交流は無いにも等しい)それよりも、出来の悪い小説のような偶然が本当にある事にまず驚いた(話を信じた場合だが)


もしかしたら、案外こういう奴が、宝くじで一等を当てたりするのかもしれない


しかし、ここからが俺の悲しい性で、話を聞いた以上、本物にあってみたい気がしてしまうのだ


多分、俺は変わらない日常に飽きているのだ


何か、普段とは違うことをして退屈を紛らわしたいのだ



でなければ、この意味なく湧いてくる高揚感に説明が付かない


あの『猫騒動』のとき以来の感覚だ



もしかしたら、こういうのは麻薬のように依存性があるのだろうか

No.53 07/10/30 00:04
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は遂に、決定的な言葉を口にする
俺はまたもや、理性をこの高ぶる感情に支配されてしまったのだ


「案内しろ」


いきなり俺にそう言われ、真中は意味が分からないという顔をしている


「お前の話が本当かどうか、少し興味がある
だから、お前がその人に遭遇した場所まで案内しろ」


真中は、俺の言葉に少し驚いたようだ


「まさか、ジョーちゃんから言い出すなんて思わなかった」

そんなこと言われなくてもわかってるよ

俺は口には出さず、そう答えた


俺だってそう思ってるさ

でも、心の底から沸き上がる気持ちを抑えるには、これしかないんだ

俺をバカだというなら呼ぶがいいさ


俺は、自分自身にそう言い訳していた

おそらく、その言い訳は俺の中にある理性した、最後の抵抗だったのだろう


おかげさまで俺は、約三十秒前の発言を、早くも撤回したくなった


だが、もうどうしようもない


真中は、どこを回るかなどのソックリさん捜索のための段取りをしていた


俺は、その計画を真面目に聞いている自分と、心の片隅に残っているバカバカしいという気持ちで、フラフラしていた

No.54 07/10/30 00:19
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

決行日は結局今日の放課後に決まった


真中が言うには、こういう事は思いついたらすぐに行動することが良いらしい(こいつは一体過去にどんな経験をしたんだ?)


真中の奴はかなり張り切っているが、俺は早くも冷静モードに切り替わっていたので、その行動を起こす前に確認したいことがあった


だが、それをするためには、俺はわりと面倒なことをしなくてはならない


だが、背に腹は代えられない


俺は昼休みに玉木さんに声をかけることにした







「ちょっといいかな?」

昼休みに、何の前触れもなく私は本庄君に、声をかけられた

多分、彼も狙ってたんだと思うけど、私の周りにはちょうど誰もいなかった


本庄君は何かを言いたそうだけど、なんだかかなり言いにくいことらしく、「ああ~」とか「え~」とか言ってる


多分他の人が見たら、それこそ興味津々な目で見物してしまうと思う


私は不安な気持ち半分、そして、ドキドキ半分で

「何?」

と、彼に話を続けてもらおうとした


すると彼は、意を決したようにこう言った

「玉木さんって、自分にソックリな姉妹とかいる?」

と訊いてきた

No.55 07/10/31 01:38
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

本庄君にそう訊ねられて、私はどんな反応をしたのだろう


私の頭は完全に真っ白になってしまい、彼の質問に対する答えは、もはや頭で考えていった言葉では無かったと思う



幸いなことに、おかしくない答えを言うことができたのか、本庄君は納得し、私の席から離れていった



その日のお昼ご飯の味はわからなかったし、友達との会話内容も全く頭に入っていない


私は、何故本庄君がそんな質問をしたのかだけ気になっていた

No.56 07/10/31 01:45
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「やっぱり違うのか」


俺は、やはり玉木さんに姉妹がいるという結論を捨てることはできなかった


ゆえに、俺は玉木さんに姉妹の有無をききに行ったのだが、やはり無駄足だったようだ


玉木さんに姉妹はいないらしい



だが、そうなるとあの画像の子は、本当にたまたま玉木さんに似てしまった人なのだろうか




やはり、この真相をつかむためには、真中とともに行動するしかなさそうだ


俺はそう割り切って、学校が終わる、あと数時間を気長に待つことにした


余談だが、先生の話は全く耳に入らなかった

No.57 07/11/01 23:21
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

本日の学習行程の終了を告げるチャイムが鳴り響いた



ようやく学生の本分から解放された生徒たちは、部活という新たな縛りを受ける者もいれば、学校から完全に解き放たれ、自由に過ごす者などに分かれる



俺や真中は、当然後者である

だからこそ、玉木さんのソックリさんを探すという、馬鹿な行動をとれるのだ


授業が終わると同時に帰る支度をしていたのか、真中は俺の席の前に立ち、


「おい!はやくはやく!急がないと見失うかもしれないじゃん!」

と言いながら俺を急かす


(見つけてないのに見失うってのは、日本語おかしいだろ)
という反論は心の中に止めておく


全く、俺は早くもやる気がないのに、この馬鹿の張り切りようはなんだ



たぶんこいつの頭の中には、玉木さんのソックリさんと出会ったのは、あくまでも偶然であり、多分(いや、むしろ0パーセント)会うことはないだろうという発想はない


もう気づいていると思うが、この馬鹿には『マイナス思考』という言葉はない

全ての出来事を好意的に受け取ることが出来てしまう


俺は、真中のそんなポジティブ精神に、呆れもし、ある意味尊敬したりもしてしまうのだ

No.58 07/11/06 00:47
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

とにかく、俺たちは駅前の大きなビル街についた



「確かこの辺で見かけたんだよな~」


真中は、必死になって周りを見渡している


俺はというと、真中について行っているだけで、探す気なんてさらさらなかった


しかし、ついていっていたつもりが、俺が好きな小説のシリーズ最新作に気を取られている間に、真中とはぐれてしまった



正直、俺はかなり動揺した


このビル街に、俺はあまり来たことがないので、道がよくわからないのだ



しかも、変にあいつについて行っていたため、俺がどのようにここまで来たのかわからないので、来た道を戻るということもできない


俺の気分はまさに八方ふさがり、五里霧中


右も左もわからず、辺りを見回すことしかできない


そのとき、ビル街の雑踏の向こう側から、美しい声が聞こえてきた

No.59 07/11/15 01:44
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

いや、正確には美しいという表現は正しくないかもしれない


その歌声は、都会の喧噪を無視しながら、自ら光を発しているように感じた


そう感じたから美しく聞こえたのだと、俺は結論づけた



どうせ右も左もわからないならと、俺はその歌声のする方へいくことにした


その行動は俺の好奇心からくるものであり、なぜそんなことをするのかと聞かれても、「なぜ息をするのか?」という質問のように、返答に困ってしまう


そう、言うなれば「そこに、おもしろそうなことがあるからだ」という、我ながら訳の分からない返答を余儀なくされるだろう


歌声のする方向にまっすぐ進んでいった

それは思っていたよりも遠く、もしかしたら拡声器でも使っているのだろうかと本気で考えた


そして、ようやくたどり着いた先には、自分と大して年の変わらない女の子がいた


目の前で歌っているのだから、おそらく声の主は彼女だろう


しかし、拡声器のようなものは見あたらない



とうとう幻聴が聞こえるようになってしまったのかと、自分を少し嫌悪してしまった

No.60 07/11/15 01:56
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

しかし、俺は彼女の歌が幻聴でないことに気付く


歌のサビというのだろうか、一番盛り上がる歌の部分で、彼女の歌は表情を変えた


歌のはじめの部分は、失礼かもしれないが当たり障りの無いという感じだった


しかし、サビの部分に入り、俺が先ほど聞こえた、あの澄み渡るような歌声へと変わってしまったのである



近くで聞いたその歌声は、はっきり言って鳥肌が立つほどに俺の心を揺さぶった


まるでこの世界に、俺と目の前の歌姫しかいないような錯覚まで起こしそうになった



いつまでも聞いてみたいとは思っていたものの、やはり終わりはある


彼女は歌が終わったのか、帰り支度をしていた


あまりにも呆けていたのか、いつの間に歌が終わったんだ?と誰かに聞きたい気分になった



俺は歌姫と少し話をしてみようと思い、彼女の近くに行ってみた

No.61 07/11/16 01:22
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「あのっ!」


しまった。

呼びかけたものの、なんて言葉を繋げたらいいか分からない


考えなしに暴走しがちな俺の興味心が、早くも面倒な事態を引き起こそうとしている気がする


歌姫の表情は、帽子とロングヘアーに隠れてしまっていてよく分からないが、少なくとも目の前の男に、不信感を持っているのは確かだろう


俺だって、いきなり見知らぬ奴に呼びかけられ、しかもいきなり話をブチられたら、なんだこいつとは思う。絶対に


俺が顔には出してはいないが(むしろ出していたらかなり危ない奴だ)テンパっているのを知ってか知らずか、歌姫は自分から話しかけてきた



「…300円」



歌姫は、手を差し出しながらいった


「は?」

俺はそう聞き返すしかなかった


いきなり手を差し出されて、「300円」とだけ言われたら、誰でも固まってしまわないだろうか


「は?じゃないわ
あなたは私の歌を聴いた
なら、その拝聴料がいるわ」

No.62 07/11/16 01:33
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

あ~成る程

つまり、300円というのは拝聴料で、その手は金を請求してるってわけだ


理屈は納得いったし、それならば彼女の行動や発言の意味も分かる


しかし、いくら何でも、そんな尊大な言い方じゃなくても良いのではないだろうか


俺はそう胸中でつぶやいた


そんなおれの心の声に気づかず(むしろ気づいたら怖い)彼女は


「なにいつまでも呆けているの?さっさと払いなさい」

と言った


そのような言い方を何度もされれば、さすがに少しイラッとくる


少し意地悪のつもりで

「ああ~すいません
見ず知らずの他人に金を要求するような、素晴らしい精神をお持ちの方と接したことがなかったもので…」


と嫌みを混ぜつつ言い返した


今まで会った人たちなら、唖然とするか、怒り狂うかのどちらかだったが、彼女は違った


「そう
田舎者ね、あなた
じゃあ、いい経験だからさっさと払いなさい」


と嫌みは全く効果がなく、逆に利用されてしまった

No.63 07/11/20 00:20
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は苦笑するしかなかった


どうやら、俺は彼女に拝聴料とやらを払うしか無いような感じだった


まあ確かに彼女の歌は、そこらのストリートライブでは聞くことが出来ないくらい素晴らしく思えたので、300円程度なら払うことに抵抗はなかった


俺は彼女に300円を渡した


「まいどあり~」


と口では言うものの、彼女は当たり前だと言わんばかりにそれを受け取った




しかし、近くで見るとやはり彼女は若い(俺自身も若いと言われるような歳だが)



帽子や長い髪のせいでいまいち顔立ちははっきりしないが、20代、もしくは10代後半という可能性も十分にあり得る


しかし、気になるとはいえ今日初めて会った人に「あなたは何歳ですか」なんて質問は、頭がおかしいだろうという推測は出来た



彼女の歌に興味を持ち始めた俺にとって、目の前の歌姫にどんな風に話しかければいいのかは分からなかった



そして、そんな自分にイライラした

No.64 07/12/13 18:12
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「…何じっと見つめてんのよ」


不意にそう言われ俺は驚いてしまった


「あんたサァいくらあたしが魅力的だからって、女の子をじっとみてんのはストーカーか変態のする事だよ?」


挙げられた例は極端ではあったものの、彼女の言わんとすることはわかる


確かに他人の顔をじっと見つめるなんて、普通の人間ならしないだろう


そう思い、俺は素直に

「すみません」

と謝罪した



すると彼女は不意に

「あんた、変な奴だねぇ」

と言ってきた


いきなりそんなことを言われたのは初めてだったから、俺はキョトンとしてしまった


「最初あたしが金を請求したときは嫌みで返したくせに、さっきは素直に謝った
てっきりあたしは、またさっきみたいに嫌みを言うかと思ったんだけど」


それが、どんな考え方をしたら俺が変な奴だという結論に達するのかわかるほど、俺は物わかりがよくないので(いや、多分誰だってわからんだろうが)俺は

「それで、どうして俺が変な奴になるんです?」


と聞いた

No.65 07/12/15 23:19
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「さっきあんたと話したときは、なんて言うかさ…あたしに対して『悪意』みたいなんを感じたんだよね
でも、今のあんたにはそれを感じない
そんなすぐに感情のスイッチを切り替えれるのは珍しいかなっと思ったんだ」


俺は、彼女の言葉は的を射ているかもしれないと思った



確かに、金を請求されたときはムッとはしたが、はたして原因はそれだけなのだろうか

ほかには理由が見あたらないものの、もしくは彼女の言うとおり、俺は彼女に対して何らかの『悪意』を持っていたのかもしれない

この女は一体…


俺がそんな風に考えていると、


「あたしが何者かって?ただのストリートミュージシャンじゃだめか?」


といきなり彼女が言ってきたので、俺はかなり驚いてしまった

知らぬ間に声に出しながら思案してしまったらしい



「もしかして、聞こえてました?」


控えめな抗議の気持ちも込めて、言ってみるものの、彼女に
「こんな至近距離でぶつぶつ独り言言ってる方が悪い」

と一蹴されてしまう始末である

No.66 07/12/16 09:37
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

(いくらそう思ってても普通は口に出さないよな~)

と心の中で苦笑しているとさらに彼女は
「それに、敬語なんて使ってんじゃないよ似合わない」


と言い放った


さすがに彼女も失礼な言い方だと思ったのか

「見たところ、多分同い年ぐらいだと思うし」

と付け加えた


彼女の最初の発言に苦笑している間に、一つ気になる発言を彼女がまた言った


今彼女は「同い年ぐらいだと思うし」と言わなかったか?

今の俺の服装は、学校帰りということもあり制服だ


つまり、俺がどこかの高校の生徒だとは気づいたはずだ


つまり



「あんたいったい何歳なんだ?」


と思わず聞いてしまった


やってしまった

いくらなんでもその言い方はないだろう

それではまるで


「まるであたしがめちゃくちゃ年食ってると思っていたみたいじゃないか」


うっ、と言葉に詰まってしまった俺に対して、彼女はため息をつき


「図星のようだね」
と少し落ち込んだようにいった

No.67 07/12/18 18:45
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

俺はどうしようか思い悩んだ


今の言い方は確かにあんまりだ



「へぇそうなんだ」とか、「え!何年生?」とか、聞く選択肢はいくらでもあっただろうに


まぁ、俺だっていくらか彼女に言われていたから言い返す理由はあるが、俺は最初から彼女に言い返そうとは思っていなかった


さあ、どう言い繕うかと考えていると、意外にも彼女の方から

「まあ、よく言われるけどさ。
年の割には言い方とか精神的に大人びすぎだって」


とフォローされた

思わず、俺は訊いてしまった


「…怒ってないのか?」
すると彼女は少し笑いながら


「よく言われるって言ったろ?
いちいち怒ってたらキリがないからさ」

と、俺をフォローしたというよりは、本当に気にしていないような口振りで言った


また、彼女は


「それに、あんたが焦ってる姿を見れたのも悪くないしね」

と笑みをどちらかというと黒めにして言った


俺は苦笑するしかなかったが、彼女は意に介していないようで

「ああ、そういえばあんたの質問に答えてなかったね」

と言った


「ああ、もういいよ
あんな失礼な風に言っておいて、今更聞くのも…」

No.68 07/12/20 19:05
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

そう言って断ろうとすると、

「男なら、一度自分の言ったことには責任を持ちな
『男に二言はない』っていうだろ
それに、一度聞かれたことには答えれる範囲なら答えなきゃ気持ち悪いんだよ」

と、俺が言おうとした上から言い放った

そこまで言われては、返す言葉もない

(下手したら、俺なんかより男らしくないか?)

そうは思ったものの、さすがに言う気はない

あんな罰の悪い気持ちになるのは、ウンザリだ


「じゃあ、もう一回聞くわ
あんた、今何年生?」


俺は先ほどの失敗を繰り返す気はさらさらなかったので、少し考えてからそう聞いた


彼女はその質問には満足したのか、口を緩め

「あたしかい?あたしは高校二年だよ
あんたはどうだい」
「俺も高二だ
やっぱ同い年ぐらいだったか」


「へぇ、そうなのかい?
ストリートやってて初めて同い年にあったかもしれないね」

No.69 07/12/22 12:53
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「そうなのか?なんか多いイメージがあるけど?」


ストリートミュージシャンからメジャーデビューした歌手はいくつか知っている


それらを指示するのは比較的若い人たちだから、ストリートミュージシャンのファン層は、高校生が中心だとばかり思っていた


「意外そうな顔だね
まあ、情報の裏側なんかはあんまり興味ないんでしょうけど」


「裏側?」


「あんた、まさか高校生の意見が反映されてるばっかって思ってるわけじゃないよね」


その言葉には黙るしかなかった


確かにそんなわけはない

支持されていても、その販売を決めるのは販売元、つまり大人だ


しかし、大人に支持されていたら反映もされやすい


「その様子を見ればわかったようね
ストリートに興味があるのなんて、大抵は中年よ
だから珍しいって言ったのよ」

No.70 07/12/25 00:10
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「まあ、一番変わりモンなのは、この年でストリートやってるあたしだろうけどさ」


と最後に彼女は自嘲するように笑いながら言った


何故だろう


それを聞いたとたん俺に、彼女に対して怒りに似た感情を覚えた


なんだこの感じは…

と、俺が考える前に口が勝手に動いていた



「……んなことねぇよ」


「は?」


「あんたは変わりモンなんかじゃねぇよ」


いきなり俺はなにを言い出しているんだ

頭に残った理性は、今から言おうとしていることに抵抗しているものの、その理性を超越した、いわば本能いや、魂からの言葉に対して、その抵抗はあまりにも無意味だった


「あんたがそんな変わりモンだなんて、おかしいじゃねぇか
そんなキレイな歌声で、人の心揺さぶるようなすげぇこえしてて、それで変わりモンかよ
俺からしたら、それに気付かねぇ世間がおかしくて、変わりモンだ」

No.71 08/01/04 00:35
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

ああ、そうか


俺が彼女に興味があったのは、あの歌を聴いたからだ


すべてを洗い流すような、神秘の調べを


大人にはわからないだろうし、だからといって子供にもわからない


その中間にいる、俺たち思春期の悩みというものに囚われかけた奴にしかわからない



それほどに素晴らしい声(歌)を聞いたのは初めてだった



だからこそ、感動し、それを否定した彼女に怒ったのかもしれない



そうだとわかった瞬間、俺は自己嫌悪をし始めてしまった

No.72 09/05/29 01:06
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

はっと我に帰ると、彼女は怪訝な顔をしていた


それはそうだろう

自嘲して笑ったつもりが、話し相手である俺がいきなり変なことを言い出したのだから

どうしようか困っていると、彼女はぷっと息をはいて、腹を抱えて笑いだした


「はははははっ
ははっ。ははははははっ」


この笑いはなんの笑いか俺にはわからなかった

俺への嘲りの笑いでは無さそうだ


ではなぜ?

俺が途方にくれていると、彼女はようやく発作が収まったのか、顔をあげ息を整えてから話し出した

「いやぁ。酔っぱらったオヤジみたいなやつらに、歌上手いなぁとかは何回か言われたんだけど、声きれいとか、すげえとか真顔で言われたの初めてでさ
あんたみたいなやつなんて、音楽性の欠片も無さそうだからさ。ちょっとびっくりしちゃって」

いやいや、びっくりであの大爆笑は有り得ないだろ


俺が少し顔を赤らめていると彼女は

「あんたいいよ!
最初はいけすかないやつかと思ったけど、なんだか気に入った!
同い年ぐらいって言ったね?名前は?」

と、えらく顔を近づけてきた

多分話すときの癖なのだろうが、さすがにこんなに近寄られたら気恥ずかしい

No.73 09/05/29 08:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「…本庄だ」

とだけこたえると彼女は

「あたしはジュリ
樹木の『樹』に、瑠璃色の『璃』」

なぜいきなり名前?と思って聞いてみたが

「名前わかりゃあ問題ないじゃん!」

といわれた
どうやら教える気はないらしい

まあ、個人の自由だからと、あえて深くは聞かなかった


「じゃああたしはそろそろ帰るわ」

と言うと、彼女はバッグを抱えて立ち去ろうとする


すると、ビルの間から突然強い風が吹いた

その風で帽子は飛び、髪が激しく靡いた


そこにいたのは





玉木さんと同じ顔をした女の子だった

No.74 09/05/29 08:53
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

待て待て待て



なんだこれは

真中と一緒に玉木さんのそっくりさん探しをしていたら、真中とはぐれて

そしたら綺麗な声をしたストリートミュージシャンに会って

そいつが玉木さんと同じ顔をしていました




笑えない


笑えない偶然の重なりだ

俺は、その偶然の出来すぎと、彼女が余りにも玉木さんに酷似していたため、その場で呆けてしまった


おそらくずっと彼女…樹璃さんを見続けていたからだろう


樹璃さんの顔は、最初に会ったときよりかなり怪訝な顔になってた


「ねぇ、あんたって変な薬でもやってるわけ?
いきなり黙り込んだり、感情的になったり
精神的に不安定なの?」

と、失礼なことを聞いてくる

いや

失礼なのは俺か


そりゃ、自分の顔をずっと眺められたら怪訝な顔になるし、嫌みのひとつでも言いたくなるか

No.75 09/05/30 01:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「ごめん
ちょっと知り合いに似てたもんだからびっくりして」

と、俺は素直に謝った

失礼なことをした自覚がある以上は当然だろう

樹璃さんもあまり気にしていない様子で、

「いいよいいよ
ていうか、あたしににてんのかぁ
そんなに似てるの?」

と、どちらかというと、彼女に似ている人…つまり玉木さんに興味がありそうだ

「似てるどころかそっくりだよ
同一人物かと思ったぐらい」

と感想を言うと、樹里さんはさらに興味を持ったようで、話を聞く気満々である

さてどうするか

俺がこれ以上彼女と話すと玉木さんの個人情報を話してしまいそうだ


俺が途方にくれていると、大通りの方から俺を呼ぶ声がした気がした


彼女にも聞こえてきたらしく、
「この声ってあんたの友達?」

「…みたいだな」

俺は少し名残惜しくなった

もう少し話していたかったなとも思った

そして何より、自分がこんな感情をまだ持っていたことに驚いた

彼女はさっぱりとした様子で、

「あんたとはまた会いたいわね」

と言った

そしてこう続けた

「最後に聞きたいんだけど」

No.76 09/05/31 00:36
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

何?と聞き返すと、樹里さんはこう聞いてきた

「あんたって、あたしと会ったことない?」

意味不明な質問も良いところだ

「さっきも言ったけど、知り合いが樹里さんに似てるってだけで、初対面だよ」
と返すと、彼女は

「ならいいんだけど」

とだけ言って、ため息をついた


なんだか、少し彼女の雰囲気が変わった気がしたので気になったが、いつまでもいるわけにはいかないので今度こそ立ち去ろうとした


お互い、軽く手だけふって別れを告げた
別れ際、樹里さんは「多分、また会うことになる気がするよ
あんたとは」

と言っていた


会えたらいいなと笑うつもりだったが、余りにも真面目な顔で言うものだから、俺は返事に困った

また機会があれば、とだけ告げて、俺は路地裏をあとにした

路地裏を出るとすぐに、真中がバカみたいな声量で俺を呼んでいた


俺を見つけたのか
声を出すのをやめて、こっちへ向かってくる


「何やってんだよジョーちゃん!
俺らの歳で迷子になるやつがいるか?普通」


…いるんだよお前の目の前に


しかし、俺からしたら、真中が変なことに誘ったから悪いわけで





「いたっ!」


俺はとりあえず真中を殴った

No.77 09/06/01 00:19
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、いつものようにクロ助に叩き起こされ、目を覚ました

時計を見るとまだ早朝5時半

思わずため息をついてしまう

そして、叩き起こした張本人(人ではないが)は、床で寝てやがる

仕方ないので、携帯でサイト巡りをしようかと携帯を開くと、メールが入っていた

送り主は真中で、それをみた俺はなんとなくげんなりした

また、あのめんどくさい暗号みたいな文章を読まなければならないかと考えると鬱になりそうになった

俺は携帯を投げ捨て、しばらく天井を見上げた




真中の聞きたいことは大体わかる

おそらく、玉木さんによく似た人物…樹璃さんについて聞きたいんだろう


真中の言う通り、確かに玉木さんに酷似した人物はいた


確かにすごい偶然だ

だが、それはある意味よくある話で、俺に似てるやつもこの世界探せば、いくらでも出てくるに違いない


だが、俺の中にそう割りきるには、釈然としないものがあった

俺は、樹璃さんの何に引っ掛かっているのだろうか

No.78 09/06/01 08:56
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

あの路地裏の出会いから一週間がたった

俺はいつも通り、当たり障りのない学校生活をしている


さすがに皆飽きてきたのか、玉木さんとの仲を聞きに来るやつもいなくなった

いつも通り


静かで、心地良い時間が過ぎていく


人間、心地良くなると眠くなるもので、机に突っ伏して寝る体勢入ったときに、いきなり肩を揺さぶられた


「ジョーちゃん!起きろー!」

…俺のことをジョーちゃんと呼ぶのは一人しかいないし、人が寝ようとしてるのに、肩を揺さぶって起こそうとする強引さと無神経さ


俺は顔を見る必要なしと判断し、そいつの向こう脛をおもいっきり蹴った


すると予想通り、真中が足を押さえて悶絶していた

痛むであろう足をさすりながら、真中は俺に抗議の目線を送ってきたが無視した

「ジョーちゃん!
お前、メール無視るだけならまだしも、親友を蹴っておいてスルーですか!」

「誰が親友だ馬鹿野郎
ていうか、てめえ人を揺さぶり起こしといてなんも言わねぇのか」

そう言うと、真中は少し考え込み

「ま、それはそれだ」

と開き直った


ああ、このバカには何いっても無駄なんだなぁ、と俺はなんだかしみじみと感じてしまった

No.79 09/06/01 19:27
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

そんなことより、と真中は話を変えて

「ジョーちゃんに用事があったんだよ」
と言った

「用事ってなんだよ」

と俺は少々なげやりに言った

こいつの用事はいつもしょうもないことばかりだ

そう思いながら聞いていると

「なんかお前を呼んでこいってさ
放課後に喫茶TAMURAに来てほしいって」

と真中は言った


「…客ってどんな人?」

俺には、誰かに呼ばれるようなことをしたつもりや、されたつもりはないのだが
そう聞くと真中は

「なんか社会人っぽかったぜ?
固っ苦しそうなスーツ着てたしな」

…もっと知り合いじゃなさそうだ


無視しようかとも考えた


むしろそうしようと決め、真中に伝言してもらおうかと考えたら、

「あ、もしかして無理だった?
俺、オッケーしちゃったんだけど」

と真中は言いやがった


俺は一瞬思考がフリーズした



イマコイツナニイイヤガリマシタカ


「お前まさか勝手にオッケーしたのか!」


と怒鳴ると、気にもしてないように

「だってお前いつも暇じゃん
だから良いかなぁって
向こうも結構急いでたみたいだ…ぐわっ!」

とりあえず、もう一回向こう脛を思い切り蹴り飛ばした

No.80 09/06/02 08:14
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

…結局俺は喫茶TAMURAに来てしまった

とりあえず、真中は思う存分いたぶって、客とやらを待つことにした

あのバカが勝手にしたこととはいえ、その人が1日中待たなければならない羽目になって良心が痛まないほどには、まだ心はひねくれていない(はず)

時刻は午後18時40分真中の話だと、19時近くに来るらしいので少し早すぎたようだ

喫茶TAMURAは、そこそこに食い物が揃っている喫茶店なのでここで軽く夕飯にするか、とメニューを広げようとすると

「すいませんもしかして、本庄君でしょうか」

と見知らぬ人からの声がした

「君の友達から伝言を聞いてると思うけど君を呼び出した、玉木と言います」

声のした方を見ると、少しボサボサの髪の毛をした男の人がいた

この人か、と彼を見ているとふと思った
この人、「玉木」って名乗らなかったか?

「もしかして、玉木さんの」

そう言うと彼は少し笑って

「よく名字だけで気づきましたねその通りです」

となると、この人の用事ってまさか…

「まさか、俺が玉木さんと付き合ってるって噂を真に受けてる訳じゃ…」

と聞いてみると

「まあ、近からず遠からずってところか」

と答えた

No.81 09/06/04 09:01
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「自己紹介が遅れましたね
僕は玉木裕也と言います
年は今年で20です」

玉木さんのお兄さん…裕也さんはそう言って俺の前に座った

「…で、一体何のようですか?」

失礼かも知れないかもしれないが、俺は本題を尋ねた

俺は玉木さんに兄がいることもまず初耳で、当然この人と人生で一回も関わったことはない

そんな人にいきなり呼び出されたら、怪しく思うのが普通だろう

すると、裕也さんが話し出した

「うーん
最初は正直君じゃなくても良かったんだよ
あいつが寮に住んでるのは知ってるかな?
俺と母さんと父さんは今離れたところにいて、そう簡単に会えなくてね
たまにこっちに来てるんだけど、ちょっと今回思い付いてね
あいつと一番仲が良い友達にちょっと色々話を聞こうかなってね」

話の主旨はわかった
確かに女の子の一人暮らしは気になるところがあるだろう

しかし、ひとつだけ気になる

「何で俺なんですか?
玉木さんと仲が良いのは他にもいますよ」
と尋ねると、彼は笑って

「そりゃ、君があいつの彼氏だって聞いたからさ
まあ、君の話を聞くとただの噂っぽいけど、そんな噂をたてられるぐらいに仲が良いんだろ?」

No.82 09/06/05 00:24
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

感想用スレ立てました


皆さん、良かったら書き込みお願いします

No.83 09/08/03 23:49
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「…一つ聞きたいんですけどそんな事を言ったのはどこの大馬鹿野郎ですか?」
俺の中で答えは完結していたが、一応確認のため聞いてみた
すると、裕也さんは
「ああ、君に伝言を頼んだ彼だよ
とりあえず、教室の場所を聞こうとしたら、同じクラスだって言うから、色々あいつの話を聞いてたんだけど、君の事を教えてくれてね
妹がどんな男を捕まえたのか、是非気になったんだよ」と言った

俺はあいつの馬鹿さ加減を甘く見ていた
いくらなんでも、初対面のクラスの親類に、根も葉もない噂を教えるとは(あいつは事実を知ってるにも関わらずだ)

俺は本気であいつに殺意を持った

そんな俺の心が、思わず顔に出てしまっていたのだろうか
裕也さんは、少し浮かない顔になって

「もしかして迷惑だったかな?だったら、本当にすまない」
と、テーブルに頭がつきそうなぐらい、深々と頭を下げた

それほど広い店内ではないため、俺達の様子は周りの客に筒抜けだ

…店内に気まずい雰囲気がながれだした
俺は頭の中で、社会人に無理矢理頭を下げさした高校生が、周りにどう見えるか考えた

…少なくとも穏便には見えないことはわかった

No.84 09/08/04 07:12
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

…こういう展開には覚えがある

断っても支障ないのに、断るに断れない状況

ああ、やっぱり玉木さんのお兄さんなんだなと妙に感心してしまった

「とりあえず、頭を上げてください
わかりました
僕で良かったら、学校での彼女についてお話しますよ」

と、言うしかなかった

裕也さんは、それを聞くなり、また深々と、「ありがとう」と言いながら頭を下げた

…店内の雰囲気の気まずさは、徐々に上がってる気がした


「とりあえず、別なお店に行きましょう
ここではもう話し辛くなっちゃいましたから」

と言って、俺は裕也さんに周りを見るように促す

ようやく、店内の雰囲気に気づいたのか、少し恥ずかしそうな顔をして「そうだね」と言った

No.85 09/08/20 00:28
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

俺と裕也さんは、近くのファミレスに場所を移した


俺が話す普段の玉木さんの話は、俺から見た玉木さんの姿だから、事実とは言えないと思う

それでも、裕也さんはその話を嬉しそうに、また、ホッとしたように聞いていた
やはり、一緒に住んでない妹が心配だったんだろう

そんな、兄としての裕也さんの姿は好感が持てた






「しっかし、瑠美は変わらないなぁ
大人しい性格は相変わらずか
高校に入ったら、ちょっとは変わると思ったんだけど」

ある程度話し終わり、少し落ち着いていると、裕也さんが呆れたようにいった

「そんなに人の性格はすぐ変わりませんよ」

と、言葉を返すとふと思い出した
彼女に関するイレギュラーな出来事を

「それに、玉木さんも結構意地っ張りなところありますよ」

と言うと、裕也さんの顔が怪訝になった

「瑠美が意地に?」
不思議そうにたずねられた俺は、あの『捨て猫事件』について話した

No.86 09/08/20 20:44
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

話を聞き終えた裕也さんは、驚きと悲しみが入り交じったような表情をしていた
さっきまでは、話し終わったあとに、何らかの感想を言っていたが、裕也さんは黙り込んでしまった

裕也さんが黙ってしまうと、俺は話すことがなくなってしまう

俺と裕也さんは、お互い無言という、おかしな状況になってしまった




しばらくして、裕也さんが口を開いた

「瑠美の名前の由来を知ってるかい?」

俺は唐突な質問に言葉を詰まらした

「うちの親は、男だったら裕也
女の子だったら、瑠璃って名前をつけようと思ってたんだ」

あれ?と俺は思った
玉木さんの名前は『瑠美』

瑠璃という名前ではない


俺の不思議そうな顔を見て、考えた事がわかったのか、裕也さんは苦笑しながら

「ちょっと事情があってね
…瑠美には双子の姉がいたんだよ」

俺は、玉木さんが双子だったことよりも、裕也さんがいった『双子がいた』という言い方に引っ掛かった

「君は、なんというか頭が切れるというか、よく気がつく人だね
そう、『いたんだ』
瑠美の姉、『樹璃』は15歳のときに死んだんだ」

No.87 09/08/22 00:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私は常に自問自答する

あんなことになったのは誰のせいだと


樹璃は…お姉ちゃんは私の憧れ
人見知りが激しく、内気だった私を引っ張ってくれたのは、お姉ちゃんの、強引だけど優しい手

それに、勉強も運動も恋も、お姉ちゃんは私よりもうまく出来た

そんなお姉ちゃんが大好きで

…それと同じぐらい嫉妬してた

周囲から、幾度か聞かされてきた

「双子なのに、あんたは出来ないんだね」

こんな声はしょっちゅうで、ひどいのになると

「双子の出来が悪い方」

と言われることもあった

…母もそうだった

勉強などがちゃんと出来たお姉ちゃんとすぐに比較され、そして怒られた

「何で、樹璃は出来て、あんたは出来ないの!」

そう怒鳴られることはしょっちゅうで

…幼かった私は、心の奥底でお姉ちゃんに嫉妬してたのだろう


いや

多分、嫉妬だけでなく、恨みもあったかもしれない

そして何より、追い付けない自分が嫌いだった

そんなグチャグチャに絡み合った負の感情が、あんな事態を引き起こしたんだ

だから、私は贖罪をしなければならない












…お姉ちゃんを

樹璃を殺したのは、私なのだから

No.88 09/08/25 10:26
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

裕也さんの話から数日後

俺は、ある場所に向かっていた

その場所に行けば『彼女』に会うことが出来る気がしたから

俺は『彼女』に話さなくてはならない話がある


『彼女』に教えなければならない真実がある


そして、俺自身知りたい真実がある


裕也さんから聞いただけではわからない幾つかの疑問点

ああ
こうすることが、本当に彼女のためになるのかはわからない

いや、最初から彼女を救うとか、そんな大層な目的は俺にはない

あるのは、真実を知りたい好奇心と、首を突っ込んだことによる気まずさ

そんな自己満足の感情だけで、彼女の闇に関わっていいのだろうか

だが、裕也さんのあの顔を思い出すと、たとえ自己満足が発端であろうと、しなければならない気になる


俺が彼女に出来ることは、ただ真実を言うだけだ


だが、それが彼女を、そして裕也さんを救うことになるなら、俺はできる限りのことをする


俺でも、何かを救えると信じて

No.89 09/08/27 23:12
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

声が聞こえた

心を震わさせられるような感覚


間違いない

『彼女』の歌声だ

俺は、その声を頼りに『彼女』を探す

そして、ようやく俺は『彼女』…樹璃さんを見つけた


相変わらず、すごい歌だと思う


しかし、俺は本能的にわかってしまった

なぜ、俺が樹璃さんの歌に心を動かされるのか


「ん?
ああ、本庄くんだったっけ」

俺に気付いた彼女が、歌うのをやめて近づいてくる

「どうしたんだい今日は
前見た時は、ずいぶんつまんない面してたのにさ」

相変わらず、彼女の発言はきつい

だが、事実から結び付いた、俺の推論が正しければ


…その彼女の口調の真実は辛く、重い


「…どうしたんだ本当に
そんな顔されたら、少し怖いよ」

俺の表情をみた彼女は、少し怪訝な表情になる

自分がどんな顔をしているか、俺は自分でわかっているつもりだ


「…もういいんだよ樹璃さん」

俺の、この心の震えは共感

「あんたは、まだやり直せる」


取り返しのつかないことをしてしまったという、罪悪感

No.90 09/08/27 23:31
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

お兄ちゃんから電話がかかってきた


お兄ちゃんは心配症なところがあるから、珍しいことじゃない


「もしもし」

『瑠美か?』

「うん、どうしたのお兄ちゃん」

『ちょっと、会って話したいことがあってな』

「うん、いいよ
あ、でも仕事は?」
『有給取って、そっちに行く
ちょっと大事な話だから』

「電話じゃダメなの?」

『ああ、会って話すことに意味があるんだ』


待ち合わせの時間や場所を決めて、お兄ちゃんは電話を切った

少し、らしくないなと思った

しかし、大事な話をするつもりだからだと思い、気にしなかった



「…これでいいのかい?本庄くん」

裕也さんは、携帯をしまいながら聞いた

「ええ、バッチリです」

俺が即答すると、裕也さんは苦笑した


「まったく
俺達が、何年も踏み出せなかった一歩を
君みたいに、ほんのちょっと話を聞いただけの他人に踏み出させられるとはね…」

裕也さんは、そう呟くように言うと立ち上がり、俺に頭を下げた


「妹をよろしく頼む」

No.91 09/08/27 23:48
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私は、お兄ちゃんが指定した喫茶店に着いた


何の話をするつもりなんだろうかと、内心は少し緊張していた

そんな心持ちで店に入ると、そこには意外な人がいた


「本庄くん?」

そう、その喫茶店には何故か本庄くんがいた


しかも、私を見つけると手招きをしている


そこに行くと、座るように促されたので仕方なく私は座った

「悪いな
玉木さんを本当に呼んだのは裕也さんじゃなくて、俺なんだ」


私が座った途端、とんでもないことを言った


裕也というのはお兄ちゃんの名前だ

「何で、本庄くんとお兄ちゃんが?」

いきなりの展開で頭がおかしくなりそうだ

気を落ち着かせる意味も込めて私は聞いた


本庄くんは、何故か苦々しい顔で答えを渋る

仕方ないので、次の質問をする

「じゃ、何で私を呼び出したの?」


私と本庄くんは同じ学校にいるのだ

用があるなら、学校でいくらでも話せばいい


すると、本庄くんは
「出来れば、二人で話したかった」

台詞だけなら少しドキドキするが、雰囲気が怖く、逆に私は
「…何で」

と聞き直すのが、精一杯だった

No.92 09/08/28 00:07
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

すると、本庄くんは

「まず、前置きすると、これは俺の推測も多く混じってる
もし、違っていたら、遠慮なく否定してくれ」

と言った


私は、本庄くんの雰囲気の違いに少し戸惑いながら頷いた


「じゃ、話すよ
まず、俺は裕也さんから、君に双子の姉、樹璃さんがいることを聞いた
彼女が、死んだってこともね」


「…!?」

「聞きたいことはあるだろうけど、今は少し押さえてくれ」

私が、思わず立ち上がったのを見て本庄くんが冷静に言った

私が座り直すのを待って、彼は話を続けた

「お姉さんは優秀だって聞いた
…そしてお母さんのことも」

私の母の部分だけ言いにくそうだったが、私はもう開き直っているので、

「素直に言ったら?
お姉ちゃんみたいに出来ない私は、お母さんに毎日のように殴られてたってさ」
と、話を続けさせた
本庄くんは、意を決したように

「…そう
君のお母さんは君にたいして、虐待をしていた
ほぼ日常的に」

と言った


私は、今自分がどんな顔をしているのか、鏡で見たくなった

No.93 09/08/28 00:22
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

玉木さんの目は、色を失っていた

何も映していないような暗い瞳

しかし、俺は話をやめるわけにはいかなかった


「君のお母さんは、昔からよくヒステリーを起こしたらしいけど、旦那さん…つまり、君の父親がなくなってからさらにひどくなったらしいね」

裕也さんの覚えている限り、母親は、父親が亡くなるまで、子供に手をあげることはなかったらしい
「愛していた旦那さんを亡くしたショックもあったんだろうが
とにかく、君のお母さんは君に暴力を振るうようになった」

玉木さんの目は暗いまま

その目が気にはなったが、話を続ける


「何故、誰も止めなかったか
止めれなかったからだ
君のお母さんは、止めようとした裕也さんや樹璃さんも殴ろうとしていたらしいね
大人たちが止めようにも、周りは無関心だった
母親は、外面だけはよかったみたいでそんな様子を微塵も出さなかったらしい
…結局、裕也さんも樹璃さんも君への暴力を止めれなくなった
君は、生け贄になったわけだ」

No.94 09/08/28 00:38
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

生け贄か…

本庄くんは本当にいい表現をする

私はいっそ笑いだしたい気分だった


「止めれなかったのも無理はないだろうさ
裕也さんですら小学校の高学年にすらなってなかったんだ」

そう

あのとき、あたしたちは幼かった

いくら悪魔のような母親でも、養ってもらうしかなかった


「でも、君たちは運がよかった
瑠美さんが母親に暴力を受けているのに気付いた担任が、児童相談所に連絡
母親と君たちは切り離された」

あのときのことはよく覚えている

あたしたち兄妹が一緒に帰ってると、父方の祖父母が迎えに来て

「今日から一緒にくらそう」

と言ったからだ

私は、「何故?」という疑問ではなく「解放される」という安堵感で満たされた

「母親は当然逮捕
周囲には、子供を殴った様子を一切見せなかった狡猾さや、長期間の虐待などが考慮され、懲役刑を受けたようだね」

No.95 09/09/26 01:30
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母親が刑務所に入っている


それは玉木さんにとっては決してプラスの要因とはならなかっただろう

裕也さんはなにも言いはしなかった

しかし、それぐらいのことは考えればわかる


俺は、一息つくために、あらかじめ頼んであった飲み物を口にする


確かコーラを頼んだのだが、氷が溶けきって、味が薄まっていた


俺と玉木さんの間には、気まずい雰囲気が流れる


彼女にしてみたら、自分の過去を他人に喋られているのだ

不愉快で当たり前だし、辛い過去なら尚更だろう


しかし、その沈黙を破ったのは玉木さん自身だった

「あ~あ
学校の人達にはこの事を知られたくなかったのになぁ」

彼女は、明るい声で言った


しかし、明るいのは声だけで、表情や目は未だに暗さを保っていた


「そこまで知ってるなら、もう最後のことも知ってるんじゃな?
遠慮することないから話しなよ」

彼女は暗い顔のまま言う

それは、学校で見せている顔とは全く違う顔で

まるで、狂気に支配されかかっているような表情


その表情のまま彼女はこう言った

「私のお姉ちゃん
玉木樹璃は私が殺したって、知ってるんでしょ?」

No.96 09/09/26 08:17
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「私のお姉ちゃん
玉木樹璃は私が殺したって、知ってるんでしょ?」


これを言ったときの私の表情はどんな表情をしていたのだろう


あれを事故だと言うのは簡単だ

しかし、それは私の感情が許さない

玉木樹璃を殺したのは紛れもない私だ









中学2年生ぐらいになる

母さんが、出所すると聞いた

正直、私からすれば、彼女が出所しようがしまいが
あるいは獄中死してようが、知ったことではなかった

祖父の家での暮らしは好きだったから、その暮らしがなくならないのであれば、なんでもよかった

しかし、私はその見込みが甘かったことを知る


祖父母の家に何度も電話がかかってくるようになった

祖父が電話に出る度に怒鳴るのを聞いて、私はなにか嫌な予感はしていた

祖父は無口で頑固な人だったが、人を頭ごなしで怒鳴ることはなかった


そんな祖父が、顔を真っ赤にして怒っている


私だけでなく、樹璃やお兄ちゃんもその異変をおかしく思っていた

その理由を知ったのは、そんな電話がかかってくるようになって1ヶ月後だった

No.97 09/11/08 13:54
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

『もしも…』なんてこと、生きてきたことに対する後悔でしかない

変えられないことを、無理やり過去に戻って考えもしなかった選択肢を選ぶことによって、空想の中だけでも変えようという自慰行為に過ぎない

『もしも』なんて言葉を使っても、現実は現実、空想は空想
理屈ではわかってる
でも感情はそうは割りきれない

もしも、あのとき電話を取ったのが私でなければ

もしも、あのとき祖父が外出していなければ

もしも、私たち三兄妹が祖父に引き取られていなかったら

もしも、あの人が刑務所に入らなかったら

…もしも、私に対するあの人の虐待に、先生が気付かなかったら









……もしも、あの人に私が殺されていたら
私が生まれていなければ

樹璃は間違いなく死なずにすんだんじゃないか

いや、『死なずにすんだ』なんて言い方は間違っている


彼女は私が殺したのであり、樹璃が死ぬか生きるかは、私の選択肢で決まっていたのだから

No.98 09/11/08 14:20
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

その日、私は少し体調を崩し家で寝込んでいた

お兄ちゃんや樹璃は当然学校に行っていて、祖父母も買い物などで外に出ていた
つまり、家にいたのは私一人だけで

つまり、電話がかかってきたらとるべき人間は私一人だけで
悪いことに、私はその電話の音で目が覚め、時間感覚もなかった

その時間帯にかかってくる電話に対して、祖父がどんな対応をしていたかも忘れて

私は無防備にその電話を取ってしまった
「はい、もしもし」

私がそういうと、受話器から長年きいていなかった、そして二度と聞くことのないと思っていた声が聞こえた

「瑠美かい?私だよ
わかるかい?」

私は思わず電話を切ろうとした
その声は思い出したくない記憶を…あの虐待の日々を思い出させた

思わず電話を切ろうとした私だが、その声…母がいきなり

「切るんじゃないよ!」

といきなり怒鳴ったため、私はその場で固まってしまった

母に植え付けられた虐待の記憶は、私を恐怖で支配した

もう、何年も前の話なのに、母が付けた私への呪縛は未だに解けていなかった

No.99 09/11/08 14:33
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「いきなり怒鳴ってごめんよ
でも、もう話す機会はないだろうからさ」

母は私にこう言った
「……話したいこと?」

内心では、母の話なんて聞きたくなかった

しかし、恐怖で支配された体は、電話を切ることも、話を聞かないことすら拒否していた

その場から逃げたくて仕方なかった

しかし、聞こえて来る声をシャットアウトすることも出来ず、母の話も理解できてしまった

出所したこと

仕事を見つけたこと
家も借りれたこと
また親子4人で暮らさないかということ
もう、殴ったりしないということ


返事はすぐじゃなくてもいいが、一週間以内に決めてほしいということ

一週間後に、近くの公園で待ち合わせをするということ

母は一方的にそう言って(私も相槌ぐらいはしたかもしれないが)電話を切った

電話が切られてからも、私はその場から動けなかった

そして、これは誰にも言ってはならないと思った

私だけの秘密

そう思った

No.100 09/11/08 14:44
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

その日の晩

私は体調が悪いからという理由でずっと部屋に閉じ籠っていた

みんなと一緒にいて、どんな顔をすればいいかわからなかったからだ

布団を被り、一人暗い部屋で母の電話について考えていた

どうすればいいのだろう

普通に考えれば、私だけの問題なのはわかっている

お兄ちゃんや樹璃にだって、大いに関係ある問題だ

しかし、何故か私は理屈じゃない、直感のようなもので樹璃たちに話しちゃいけないと感じていた

しかし、私一人でどうにかできる範囲を逸脱しており、私は途方にくれていた



誰かに話さなくては解決しない

しかし、誰にも話してはいけない


私は、そんなジレンマを抱えてしまっていた

No.101 09/11/08 15:00
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

トントンとドアをノックする音が聞こえた

「瑠美?起きてる?」

樹璃の声だ

私は必死にさっきまで考えていたことを頭のすみに置いた

「うん、起きてるよ
どうしたの?」

「晩御飯持ってきたの
あんた、いくら体調悪くたってご飯食べないと、治るもんも治んないわよ?
両手塞がってるから開けてくんない?」
私はベッドから降りて、ドアを開けた

祖父の家は大きく、私たち兄妹に一人に一部屋ずつ与えられていて、「お互いの部屋に入るときは、相手の許可が降りてからにしよう」と三人で決めていたからだ

ドアを開けると、樹璃が晩御飯とお箸を持って立っていた

……何故かお盆などに乗せずに素手で

ご飯を右手、お味噌汁は左手、おかずは曲げた右腕の上

…お箸にいたっては、右の薬指と小指で挟む形で持っている

「…樹璃?こういうのって、お盆かなにかにのせるもんじゃないかな?」

とりあえず私がそう言うと、気にした様子もなく

「これ、見た目以上にきついからさ、ちょっといくらか持ってくんない?
特におかずなんていつ落としてもおかしくないからさ」

と笑って言った

No.102 09/11/08 15:16
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

慌てて私は樹璃の持っていたおかずとお箸を持った

すると樹璃は

「いやぁ、助かった助かった
慣れないことはするもんじゃぁないね」
とまた笑った

「お盆が見つかんなくてさ
分けて持って行くことも考えたんだけど面倒だし
ファミレスの従業員って、アルバイトでもすごい持って行き方するじゃん
だから…」

「…もし落としてたらどうするつもりだったの?」

樹璃の発言を最後まで聞いてたらキリがない

一番気になっていた所だけ聞くと樹璃はあっさり

「瑠美の晩御飯が減るか無くなるかのどっちかだね
あ、安心してね
落とした場所の掃除ぐらいは流石にするからさ」

と言って笑った

普通なら怒るところなんだろうけど、私はいつもその笑いに見入ってしまう

樹璃の笑う顔はとても可愛くて
とても同じ顔で生まれてきたとは思えないのだ

羨ましい

そして、何より誇らしい

そうなりたい
そうあろうとしたい
私がいつもそう願っていのは、間違いなく樹璃で

樹璃は私の自慢の姉であり、目標であり、憧れであり、そして









私には一生追い越せない存在だった

No.103 09/12/22 17:40
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「で?本当は何があったの?」

樹璃は私に問いかけた

思わず私ははっとした

樹璃には、樹璃だけには知られたくなかった

そう思ってたあたしは、とっさに

「な、何を言ってるの?」

と嘘をついた

すると樹璃は、じっと私の目を見た

私の目をじっと見つめる樹璃
自然と樹里の目が何を写しているのかが見える

樹璃の目に見えるのは私自身
私は、ふいに樹璃の目から目を背けたくなった

樹璃の目が恐ろしかったわけじゃない

むしろ、恐ろしかったのは自分自身の目

樹璃のきれいな目に映った私自身が

どうしようもなく汚れて見えたからだ


「やっぱりね」

樹璃はそう言って私から少し離れた
私は、いまだにさっきの樹璃の目から映る自分自身の姿に縛られていた

そんなあたしを見て、樹璃は

「あんたは、昔っからうそをつくのに苦手だからねぇ
というよりは、嘘をついてしまう自分自身がいやだから、うそをつけないってのが正解かな」

と言った

No.104 10/01/09 14:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

驚いて、私は思わず樹璃の顔を見た

今、樹璃が言った言葉は私にも覚えがあることであり、実際先ほども同じようなことを感じていたからだ

「何であたしがそれを知ってるか不思議な顔してるね」
樹璃は得意げにそういった

それに、と樹璃は話を続けた
「だいたいさあ、あんたが私に嘘つこうなんざ、百億光年早いんだっつうの あたしがいったいあんたとどれくらいの付き合いだと思ってんのよ」
樹璃の言葉はとても自信に満ち溢れていて、すごく綺麗で 私は思わず言葉を失いそうになる

けれど、ひとつだけ気になったことがあったので、とりあえず突っ込んでおいた

「樹璃・・・ 百億光年は距離だよ・・・」

No.105 10/01/09 14:53
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃は、私のその言葉を聞いて大笑いしていた

「細かいことは気にしない気にしない
年月だろうが、距離だろうが、あんたが嘘をつくにはまだまだってことだよ」

ふと、私は気づいた
樹璃は、私の秘密が決していいものでないことはとっくに気づいてるはずだ
もしそうなら、私が少しでも話しやすいように、この場の雰囲気を少しでも明るくしてくれたのではないか

そのことに気づいて、私は樹璃に「ズルい」と思わず言いそうになった

いくら、追いつけなくて自分自身をいやになることがあっても、樹璃自身を嫌いにならないのは

そんな、さりげない優しさを持つ樹璃が大好きだからだ

No.106 10/01/13 22:54
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

結局私は樹璃にすべてを話した

お母さんのこと、会おうといわれたこと、一緒に暮らそうといわれたこと
樹璃も当然無関係ではない

それに樹璃だってお母さんの被害者だ
殴られたりはしていないけど、それでも、お母さんに心を傷つけられていただろうことは、私にも想像できた

本当は隠すつもりだったけど、話しながら樹璃に話してよかったと思い始めた

このことは、やはり私一人では決められないことだったし
何より、樹璃に話すことで、心のつっかえのようなものが取れた気がしたのだ

しかし、やはりこのことを話すのは怖い
お母さんが帰ってくる
その現を自覚してしまうから

恐怖心から、あまり要領を得ることのできない私の言葉を、樹璃はしっかりと聞いてくれた

No.107 10/01/13 23:09
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

なんとか話し終えた私
けれど、樹璃はいまだに黙ったままだ
何か考え事をしているような表情で

不安になった私は、「樹璃?」と呼んだ

すると、現実に帰ったかのように、樹璃が私の顔を見る

正確には目だ
私の目を、ずっと見ている

もしかして、疑っているのだろうか
まだ何か私が嘘をついていないかどうかを

しかし、嘘をついていない私は、樹璃の目を見つめ返す
樹璃に吸い込まれそうな錯覚を覚えた瞬間

樹璃は、頭突きをしてきた

突然の出来事に、私は思わず悲鳴を上げた

「いったぁい・・・
いきなりなにすんのよ!」

しかし、樹璃はまだ呻いていた
どうやら、自分の思っていた以上に、自分自身へのダメージが大きかったらしい

「あんた、どんだけ頭固いのよ・・・」「まじありえない」「ほんと痛い」
など、自分で頭突きしたとは思えないような発言を繰り返している

そんな樹璃の姿にあきれつつ、しかし、樹璃の愛らしさに思わず笑みがこぼれた

No.108 10/01/13 23:21
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

痛みがようやく引いてきたのか、樹璃はやっと喋りだした

「そんな大事なこと、何で黙ってたの!
すぐにおじいちゃんとか、お兄ちゃんとかに言うのが普通でしょ!?」

しかし、案の定というかやはり私は怒られた

「だって、迷惑かけたくなかったし・・・」
私の精一杯の反論も、今の樹璃にはまったく意味を成さず、むしろ逆効果で

「もし何かあったら、そのほうがみんなに迷惑かかるわよ!!!」
と、思い切り怒鳴られてしまった








約1時間ほどそんな説教を受けた
さすがに樹璃も怒鳴り疲れたらしく、若干息を切らしている
しばらく無言の状態が続いたが、樹璃は一度ため息をついて

「これからどうするか考えなくちゃね」
と言った

何とかできるなら、もちろんそうしたい
だが、私は弱いし、樹璃のように頭が良いわけでもない
私は、自分で嫌になるくらい、無力だった

No.109 10/01/14 23:32
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「一番は、警察に言うことなんだろうけど」

樹璃はボソッといった
私自身に言ったわけではないだろうから、私は返事をしなかった

お母さんは、まだ私たちに何かをしたわけじゃない
ただ、一緒に暮らそうと言っただけ
そんなんじゃ警察は動いてくれない

しかし、このまま手をこまねいているというだけなんて、まさしくありえない話だ

何かあってからでは遅い

私だけならまだしも、おじいちゃんやおばあちゃん、お兄ちゃん
何より、樹璃に迷惑をかけてほしくない

すると、樹璃はふと言った

「もしかして、おじいちゃんが最近よく電話で怒鳴ってたのは、このことが原因なのかな?」

樹璃に言われて、私ははっとした

確かに、最近おじいちゃんは、よく電話の相手に怒鳴っていた
私たちが、何かあったのかと聞いてもはぐらかすばかりで、私たちも、不審には思っていたが、あまり気にしないでいた

私は、あふれそうになる涙をこらえるので必死だった

私たちは、お母さんには大事にしてもらわなかったかもしれない
けれど、私たちには、知らず知らずのうちに、私たちを守ってくれる存在があった

No.110 10/01/14 23:37
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃もそう思っているのだろうか
目を伏せたまま、顔をあげようとしない
まるで何かをこらえるように、じっと何もしゃべらず、ただじっと、目を伏せていた

しばらくして、また樹璃が話し出した
私の目を見ながら、話し出した
「あんたが、あたしたちに心配をかけたくない気持ちはわかる
けどね?あんたがそうやって何もかも黙ってたら、守りたいと思ってる人は、あんたを守れないの
わかる?守りたいのに守れない側の悔しさとか」

私がお母さんの虐待を受けていたときの話だろうか

「あんたのことだから、言ったらみんなに迷惑がかかる 
みんながつらい目にあうぐらいなら、私一人で背負う
そんな風に考えていたんじゃないかしら」

私は、確かにそう思った
お母さんにまた殴られることがあっても、それがお兄ちゃんや・・・樹璃でないのなら耐えられる
私は本気でそう考えていた

No.111 10/01/14 23:39
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

しかし、樹璃は、「冗談じゃない」と完全に否定した

「もしあんたが一人で苦しんでたら、それを知ったあたしたちはどうしたらいいのさ?
あたしはつらいよ
胸が痛いほどつらくなるよ
あんたは、もう十分苦しんだんだよ
あんたが苦しむ理由なんて、これっぽちもありはしないんだよ」

樹璃の声が震えていた
ありふれた言葉かもしれない
言っている言葉は、陳腐かもしれない
でも、その震えた声が、その真っ赤にぬれた目が、私に樹璃のこの言葉に、嘘はないんだと教えてくれた

私は樹璃を抱きしめた
私と同じ高さの肩、同じ大きさの体
樹璃の体は、私が思うほどに大きくはなかった
私と樹璃は双子だ
それは、当たり前のことかもしれない
けれど、樹璃の体はとても暖かかった
私は、樹璃の体の暖かさに、樹璃の心の暖かさに触れ、そして言った




「お母さんね、一週間後に、会おうって言ってた
公園で待ってるって言ってた」

No.112 10/01/14 23:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

それから、樹璃と二人でこのことを、皆に話した
これからどうするかを話し合い、お母さんとは、私だけでなく、おじいちゃんや、お兄ちゃんもついてきてくれるらしい

おじいちゃんは、うかつに電話に出たことは少し注意したが、いずれわかることだったろうからと、お母さんと話してしまったこと自体は、ぜんぜん怒ってなかった
それどころか、しきりに「大丈夫か?」とか「つらくないか?」と気を使ってくれた
以前なら、少し煩わしく思っていたかもしれない

しかし、この一件でわかった、おじいちゃんたちの暖かさに、私は本当に感謝した

No.113 10/01/14 23:43
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

・・・・・・・だからこそ、私は後悔はしていない
これは、おじいちゃんたちを
樹璃を守るためなのだから

しかし、私はそっと心で謝る

「ごめん」



「お母さんが来るのは」



「一週間後じゃなくて」









「明後日なんだよ」



私は、この日『嘘』を覚えた
皆を守るために

このかけがえのない人たちを守るために




それが、あんな結果を生むことを知らずに

No.114 10/01/23 22:19
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、私は翌日の準備のため、自分の部屋にこもっていた

話をしたのは昨日のことだったので、おじいちゃんやお兄ちゃんも、私が部屋にこもってもあまり不審には思わなかったようだ
樹璃だけは何度か部屋に入ってきたが、私はうまくお母さんのことは秘密にできた

・・・大丈夫
今の私は、嘘をついていてもそれを良しとできる

この嘘は、皆を守るためだ
そう自分に言い聞かせることで、自分自身を納得させることができた

明日、お母さんと会う
会って、私は何をするんだろう
うまく話せるだろうか、ちゃんと目を見れるだろうか、私にしてきたことを怒ることはできるのだろうか

・・・お母さんは、もしかしたら私を抱きしめてくれるのだろうか
・・・ごめんね、と謝ってくれるのだろうか

馬鹿だ私は

こんな想像をしたところで、私が明日することは変わらない

結局私は、自分を甘やかしたいだけだ

私が明日しようとすることを否定したいだけ

足りない 
私には、決定的に覚悟が足りない

No.115 10/01/23 22:22
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「瑠美?入っていい?」

自分の部屋で一人考え込んでいると、樹璃が私の様子を見に来た

「ちょ、ちょっと待ってて」
私は、必死に仮面を作る
中途半端な嘘はだめだ
必ず樹璃にばれる

さっきまでの考えは、ひとまず頭の片隅においておくことにした
今は樹璃に心配をかけないことが優先だ

「どうしたの樹璃?」

なんとか笑顔をつくり、樹璃と向かい合った
少しぎこちないかもしれないが、そこは今の状況に不安を隠せないだけだと判断されるはず

事実、樹璃は少し心配そうな表情はしているが、昨日のような疑いの表情はなかった

「別にどうもしないけどさ
やっぱり、おじいちゃんたちに話すようにけしかけたのはあたしだからさ
そのことで、あんたがなにか気にしてるようならって思っただけだよ」

おそらく樹璃は、おじいちゃんたちにお母さんのことを話した心労で体調が優れないのだろうと思ったようだ

「お母さんのことは、もうおじいちゃんたちに任せよう?
あたしはともかく、あんたは一生かかわりたくないでしょう?あの人に」

No.116 10/01/23 22:24
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私の沈黙を勘違いしいてる樹璃は、少しつらそうな顔をしてた
自分のせいで私が苦しんでいると考えてしまっているらしい

樹璃は、じぶんが誰も傷つけないなんてことは、決して思っていない
しかし、かといって、目の前で自分が原因で苦しんでいる人がいたら、とても苦しむ
そういう性格だ

私は、そんな苦しむ樹璃を見たくなかった
私が悩んでるのは、樹璃に原因なんてないんだから

「わかってるよ」

私は、できる限り、笑いなが言った
ちゃんと笑えているかはわからない

「ちょっと考え事がしたかっただけだから」

私は、笑顔という仮面を身に着けた

「ありがとう、樹璃」

No.117 10/01/23 22:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

樹璃は、少し黙っていたが、少し笑いながら

「まあ、あんたがうじうじ考え事をしてるのは事実だからね」

と言った

「うじうじって言い方はひどくない!?」

声を明るくして、私は言った
樹璃は、少しでも雰囲気を明るくしようと軽口を言ってくれた
それに乗らないわけはなかった

「じゃあ、めそめそだね
もしくは女々しく」

「めそめそなんてしてないもん!
ていうか、私女なんだから、女々しくしてて何が悪いのよ!」

こんな風に樹璃と口げんかしたのは、久々な気がする
小さいときから樹璃は私をからかうのが大好だった
からかわれて、私がムキになると、またからかわれ

けれど、樹璃は私が本当に傷つきそうになったら、とたんにからかうのをやめる
樹璃は私とじゃれ付きあいたいだけであり、私を泣かしたりしたいわけではない
だから、こういう口げんか、もしくはじゃれあいは、私も好きだった

No.118 10/01/23 22:26
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

ギャーギャーとひとしきり言い合ったところで、樹璃は、不意に私の目を覗き込む
そして
「何か隠し事ない?」
と聞いてきた

「うん、ないよ」
私は即答した

決して表情は顔に出さず
私は、樹璃の瞳を見つめ返す

重なりあう、私と樹璃の目線
樹璃の瞳は、私のすべてを見透かそうとしてくる

実際、樹璃の瞳を見ているのは、正直辛かった

樹璃の瞳を見ていて伝わったのは、ただ私を想う心

きっと、樹璃は私がまだ何かを隠してることを、直感で感じ取っている

もちろん、それはただの直感でしかないから、樹璃はこのやり取りで違和感を感じ取れなかったら、その直感をただの杞憂とするのだろう

だから、私は樹璃の瞳を見つめた

何も隠していることはないのだと
私は堂々としていると、言葉以外で表すため

どれくらいこうしていたのだろうか

十分もたっていないはず
ひょっとしたら、一分、いや、ほんの数秒程度の見つめあい

しかし、私にとって永遠に思えたその時間を終わらせたのは、樹璃の一言

「瑠美さあ
ひょっとして、太った?」

・・・・このあと、私の部屋が、修羅場になったのは、言うまでもない

No.119 10/01/23 22:27
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

今度はじゃれあいの域を超えた、本格的なけんかになりそうだったが、なんとか理性で踏みとどまった
・・・・このあと起こるけんかは、おそらく口げんかではすまないだろうことが、お互い想像できたからだ

「それにしても、いきなり『太った?』ってひどくない!?」
その一言は、もはや禁句だろう
というか、さっきまでの雰囲気が台無しだ

「だって、瑠美の顔見たら思ったんだもん
なんか顔が丸・・・」

「その先言ったら本気で殴るよグーで」

私の一言を本気と受け取ったのか、ひとまずは黙った

さっきまで、樹璃のことを想ってた自分が馬鹿みたいだ
ていうか、雰囲気変えたいならもう少し言い方があるでしょ

などと心中は樹璃の愚痴でいっぱいだった

「・・・私とあんたは、やっぱり違うよ」

樹璃がいきなりそう言った

私が振り向くと、いきなり樹璃が抱きついてきた

とっさの出来事に私は反応できずにいたが、樹璃の「やわらかい・・・」の一言で、冷静になった

冷静になって私は・・・


・・・樹璃の頭をグーで殴った

No.120 10/04/21 23:59
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

グーで殴られた樹璃はさすがに痛そうだった。
「いきなりぐーはさすがにひどくない?」
樹璃は軽く涙目で抗議してきた。しかし、私にも言い分はある。

「さっき、太った云々の話をしてたのに、やわらかいって言うのはおかしいでしょ。」
最近太ってきたような自覚がある分、余計に腹が立った。
「最近は、細身より若干ふくよかな方がもてるらしいよ。特に、胸はあるほうが男にはもてるし・・・」
「若干中年親父みたいな発言よそれ。」

この日の夜は、こんな会話を樹璃とずっとしていた。
思えば、いつ以来だろう、樹璃とこうして向かい合って話したのは。
小さいときは、いつも一緒だった。さっきみたいに、私は樹璃のペースに巻き込まれてばかりだったけど。
・・・やはり、あの日からすべて変わってしまったんだと思う。
お母さんが、私を殴るようになってから。
きっかけなんて、そんなものだ。
私たち姉妹の関係が変わるきっかけに、当事者同士の原因なんて、ないに等しい。
結局、周りの雰囲気によって、ころころ変わってしまうものなんだ、人間関係は。
たとえ、それが家族でも。たとえ、ほとんどお互いがほとんど同じな双子の姉妹でも。

No.121 10/04/22 00:00
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

けれど
けれど
お母さんが、再び現れたことで、皮肉にも元の関係に戻りつつあるのは事実だ。
・・・違う。
私が戻ろうとするようになったんだ。
お母さんに植え付けられた樹璃への劣等感は、たぶん一生消えない。
植えつけたのはお母さんかもしれないけれど
それでも、樹璃と私の間で、埋められない差があるのは事実。
たぶん、私は樹璃に追いつくことはできない。
樹璃と違うことをしようとしても、結局、樹璃と似たようなことをして、それで樹璃に負けてしまうのだ。

しかし、それでもいいじゃないか。
一生追いつけないかもしれない。
だからって、追いかけないのは間違いだ。並ばないのは間違いだ。
樹璃に向き合わないのは間違いなんだ。
さっきの会話で私は、本当に、本当に心のそこから、樹璃を好きだと実感した。
憧れや、羨望。双子だから、とかじゃなく
樹璃っていう女の子が、好きなんだと思った。





この日、私は決心を固めた。
本気で、私の家族を・・・樹璃を守ろうと決めた。
明日はいよいよあの人に会う。
決着を、つけなくてはならない。

No.122 10/04/22 00:01
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、私は母の呼び出しのあった、公園にいた。
小さいときに、よく遊びに行った公園だ。あの人が、この場所を指定したのには驚いたが、私からしても、この場所はありがたい。
この公園は、遊具が少ないため結構広いスペースがある。
それに、何より、一目につきやすい。
特に、今の時間帯・・・朝を過ぎたぐらいの時間は、車の往来も多く、また親子連れも訪れる。

「・・・瑠美?」
私を呼ぶ声がする。
記憶の片隅に封印したはずの記憶がよみがえる。
怒鳴り声、罵声、平手、足、疑問、不安、恐怖、痛み、絶望、懇願、呪縛
ありとあらゆる負の記憶が、私の頭を支配する。
まるで、締め付けられるように、頭が痛い。
キーンと、耳鳴りがする。
意図せずに、汗が流れる、呼吸が速くなる。
足が震える、この場から立ち去ろうと後ずさる。
電話とは違う、本当に記憶どおりの声。
私は、何とか声のほうを振り向く。
そこには、私の恐怖の象徴のような存在であった、私の・・・母親がいた。

No.123 10/04/22 00:03
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母の第一声は、ありきたりなものだ。
「おおきくなったね」とか、「見違えたよ」とか
私は、その言葉に、どんな風に返したのかわかっていない。
会話が成立しているのだから、おそらくはちゃんとまともな返答をしているのだろう。
しかし、私は母とのんびり会話をするためにここに来たんじゃない。
「お母さん、いったい何の用なの?」
私は、おびえなどの感情が出ないように、言葉を搾り出した。
「いまさら、私たち・・・ううん、私に何の用なの?」
母は、少し狼狽したように見えた。何か言っている。なにか、弁解しているのか。
だが、私は気づいている
母の、右手は、会ったときから、一度も背中から離れていないことに。

No.124 10/04/22 00:03
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「あのとき、私が瑠美かどうか確認してたよね?一緒に住むって用件なら、誰でも良かったはずなのに。」
もちろん、こんなのはただの勘に等しい。
しかし、受話器越しに、この人の悪意のようなものを感じたのは事実だ。
まるで、私に虐待していたときのように。

「お母さんはきっと、樹璃が電話に出たら、こう言ったんじゃない?『瑠美につたえといて』って。
お母さんは、最初から私に用があった・・・違う?」
母は、まだぶつぶつ何かを言っている。
何を言っているのかわからない。心なしか、右手が徐々に背中から離れていっている気がする。
「その右手、なに持ってるの?」
私は、答えをほとんどわかっている、わかっているつもりだ。
その右手に握られているのは
私の命を奪うものであるということに。


「お母さん、本当は私と暮らす気なんて、かけらもないんだよね?
お母さんは、私を恨んでるんだよね。
自分を、何年も刑務所に入れた、張本人だから。」
私のその言葉に、母はビクッと反応した。その反応をみて、私は推測が正しかったことを実感した。

No.125 10/04/22 00:04
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母は、この場で私を殺しにきたのだ。復讐のために。
私からすれば、母が刑務所に入ったのは、間違いなく彼女の自業自得だし、警察に通報したのも私ではない。
しかし、母は、ずっと恨んでいたんだ、私を。
私という存在があるせいで、自分はこんなことになってしまったと思っているんだ。
私は、その場で笑い出したくなった。
なるほど、母は私を愛してなんかいないんだ。母にとったら私はこの世に必要のない存在であって、憎むべき存在なんだ。

母は、ずっと何かをつぶやいている。
不思議と耳鳴りは止んだ。頭痛も、体の震えもとまった。
そのおかげか、母の声が聞こえる。
「あんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければあんたさえいなければ」
本当に、ここまで徹底して恨まれてると、ある意味すがすがしい。

No.126 10/04/22 00:04
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母が、右手を体の前に差し出す。
握られているのは包丁。家庭用のものかもしれないが、私の心臓を貫くのは簡単だろう。
母が、私に向かって走り出す。包丁を両手でもち、切っ先を私に向けながら。
私は、母の顔をみる。
目は私への憎しみからか血走り、表情は、まるで鬼のような顔。
唇は、何を言ってるのかいまいちわからないが、私への呪詛の言葉だろう。

ふしぎと、昨日のことを思い出した。
樹璃との楽しい会話。あれが私と樹璃の最後の会話でよかった。
最後の思い出が楽しい思い出なんて、幸せな人生じゃないか。
母は、もう目の前だ。

おじいちゃん、おばあちゃん、お兄ちゃん。今までありがとう。
樹璃、本当に楽しかった。
皆、愛してます。


私は、目を瞑る。そのときを・・・死を迎えるために。一瞬何かの影が映ったように感じた。




私は、待った。
刺されたら、痛いはずだ。
しかし、いつまでも、痛みはこない。
私は目を開ける。
目の前には、私と同じ顔。
血まみれの同じ顔。
樹璃が、私と母の間にいた。
母から、私を守るように、私の前にいる。

樹璃のお腹からは
真っ赤な血がどんどん流れていった。

No.127 11/02/05 23:18
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

なんで樹璃がこんなところに?

私の頭の中はそれでいっぱいだった

母も同じようで、信じられないものを見るかのような目をしている

崩れ落ちる樹璃の身体がやけにスローモーションに見えた

ドサッという音とともに樹璃が倒れた後に、ようやく私の思考が正常に回りだした

「…樹璃っ!」

私は樹璃に駆け寄る
その場で悲鳴を上げそうになったが、そんなことをしている暇はな

「樹璃っ!樹璃っ!しっかりして!」

刺されたお腹を必死で押さえる
しかし、ちゃんとした止血になっていないのか、私の手からはどんどん血が流れていく

このままでは樹璃は死んでしまう
私は必死で助けを呼んだ
「助けてください!
姉が、姉が死にそうなんです!
誰か、病院に連絡してください!」

何が起きたか解らず、遠巻きに事態を眺めていた人たちは、私の叫びでようやく事態を把握したらしく、携帯を取り出して病院に連絡したり、こちらに走ってきた

そして、母は走ってきた人達に取り押さえられた

包丁を持っていたが、今の母はあまりに無力だった

ただ、譫言のように「うそ、うそ」と言い続けていた

No.128 11/02/05 23:33
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

「ん…、瑠美…?」

樹璃が弱々しく私に話し掛ける

息も絶え絶えで、喋るのも辛そうだ

「黙ってて!もうすぐ救急車が来るからっ!」

そんな私の懇願を、樹璃は聞かない

「あんた、やっぱり馬鹿ね…
あたしを騙せるとでも思ったの?」

やっぱり樹璃は、私の嘘に気付いていたのだ
きっと、朝に家を出る私の後をつけてきたのだろう

「とにかく…、これで…借りは返したからね?」

樹璃が私に言った

「借りってなんのこと?」

これ以上喋らしてはいけない
そう思いつつも、樹璃の言葉に疑問を持ってしまった
樹璃が私に借り?

そう思っていた私
すると樹璃は

「小さいときの話…
あたし、お母さんからあんたを守れなかった…
ごめん、ごめん…」

樹璃の目は涙が溢れそうになっていた

「そんなのいいよ!
樹璃は悪くないじゃんか!
なんで謝んのよ!」

私がそう言うと、樹璃は首を振った

「あたしは、あんたを見殺しにしてた
あんたが辛いのを知ってて、でも自分に同じことをされるのが嫌だったから、あんたのことを見て見ぬ振りをした…
最低だよ…あたし」

樹璃の目はもう涙を止めていない

No.129 11/02/06 10:32
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

辺りの人が、何やら私たちに言っている

しかし、今の私は樹璃の声しか届かなかった

「きっと…あたしはあんたが殴られたりしてるのを…見たとき、怖いと思う反面、ホッとしてたんだと思う
あたしが殴られなくて…ホッとしてたんだと思う
あんたが、一番怖くて、一番辛い思い、してたのにね…」

樹璃は涙を流しながらそういった

私の目からも、涙がこぼれる

「そんなの、今言わなくて良いじゃない!」

こんなときに、そんなことを言われたら、まるで遺言を聞いているようではないか

しかし、樹璃はまだ続ける

「お母さんがいなくなってから、あたしはずっと悩んでた
瑠美に対して、どんな償いが出来るのか
瑠美はもう十分に苦しんだ
もうこれ以上、苦しみを背負ってほしくない
だから、あたしは今度こそ瑠美を守るって誓った
何からも、どんな人からも、例えそれがお母さんからでも」

樹璃は真っ直ぐに私を見つめながら言った
いつも笑ってた樹璃
いつも私をからかって遊んでた樹璃
そんな樹璃の胸中に、そんな決意があったなんて、全く気がつかなかった

No.130 11/10/26 06:58
はる ( 20代 ♂ LVW6h )

「ああー
目がチカチカしてきた」

樹璃は別になんでもないかのように言う
「しっかりして!もうすぐ救急車が来るから!」

私の声はもはや悲鳴だ

樹璃は私の顔に手を伸ばし

「大丈夫よ
あたしはあんたより頑丈に出来てんの
たかが包丁で刺されたくらいじゃ死なないわよ」

さっきまで流していた涙はもう痕だけだ
樹璃はこんなときでも笑う
私に心配させないように
もう私が傷つかないように

「まあ、あれね
さすがにこれ以上話すのは無理っぽいからさ
とりあえず、続きはwebでって感じで
病院で改めて、話をしましょ」

樹璃は目をつむり一言


























「おやすみ」

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