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SUN( 10代 ♂ LVW6h )
11/10/26 06:58(更新日時)

SUNの小説三作目
皆さん、あまり期待しないでください

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No.1157385 07/07/02 23:12(スレ作成日時)

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No.51 07/10/26 01:26
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「わかった!わかったから、んなこえー顔すんな!」


どうやら、自分で思っていた以上にきつい顔をしてしまったらしい


感情を、あからさまに表に出してしまったことに、少し後悔し、ほんの少しだけ顔を緩めた


真中は、安心したのかいつものヘラヘラ笑いをしながら話始めた



はっきり言う


こいつはメールもそうだが、とにかく話をまとめることがあり得ないぐらいに下手だ


もしかしたら、小学生にも負けるのではないかと俺は思う




あいつの話をまとめると、学校から自転車なら20分位行くと、駅のすぐそばということもあり、わりと大きなビルが立ち並ぶエリアがある


真中は、学校帰りによくそこら辺にいくらしい


昨日も、いつも通りビル街に向かうと、あの写真の女の子を見つけたらしい


あまりにもそっくりで、一瞬声をかけそうになったそうだ


だが、あまりにも髪が長かったため、玉木さんじゃないと確信したらしい

No.52 07/10/29 23:50
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺からしたら、街で玉木さんにあったからといって、声をかけようとするこいつの度胸をある意味賞賛してやりたいが(真中と玉木さんの交流は無いにも等しい)それよりも、出来の悪い小説のような偶然が本当にある事にまず驚いた(話を信じた場合だが)


もしかしたら、案外こういう奴が、宝くじで一等を当てたりするのかもしれない


しかし、ここからが俺の悲しい性で、話を聞いた以上、本物にあってみたい気がしてしまうのだ


多分、俺は変わらない日常に飽きているのだ


何か、普段とは違うことをして退屈を紛らわしたいのだ



でなければ、この意味なく湧いてくる高揚感に説明が付かない


あの『猫騒動』のとき以来の感覚だ



もしかしたら、こういうのは麻薬のように依存性があるのだろうか

No.53 07/10/30 00:04
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は遂に、決定的な言葉を口にする
俺はまたもや、理性をこの高ぶる感情に支配されてしまったのだ


「案内しろ」


いきなり俺にそう言われ、真中は意味が分からないという顔をしている


「お前の話が本当かどうか、少し興味がある
だから、お前がその人に遭遇した場所まで案内しろ」


真中は、俺の言葉に少し驚いたようだ


「まさか、ジョーちゃんから言い出すなんて思わなかった」

そんなこと言われなくてもわかってるよ

俺は口には出さず、そう答えた


俺だってそう思ってるさ

でも、心の底から沸き上がる気持ちを抑えるには、これしかないんだ

俺をバカだというなら呼ぶがいいさ


俺は、自分自身にそう言い訳していた

おそらく、その言い訳は俺の中にある理性した、最後の抵抗だったのだろう


おかげさまで俺は、約三十秒前の発言を、早くも撤回したくなった


だが、もうどうしようもない


真中は、どこを回るかなどのソックリさん捜索のための段取りをしていた


俺は、その計画を真面目に聞いている自分と、心の片隅に残っているバカバカしいという気持ちで、フラフラしていた

No.54 07/10/30 00:19
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

決行日は結局今日の放課後に決まった


真中が言うには、こういう事は思いついたらすぐに行動することが良いらしい(こいつは一体過去にどんな経験をしたんだ?)


真中の奴はかなり張り切っているが、俺は早くも冷静モードに切り替わっていたので、その行動を起こす前に確認したいことがあった


だが、それをするためには、俺はわりと面倒なことをしなくてはならない


だが、背に腹は代えられない


俺は昼休みに玉木さんに声をかけることにした







「ちょっといいかな?」

昼休みに、何の前触れもなく私は本庄君に、声をかけられた

多分、彼も狙ってたんだと思うけど、私の周りにはちょうど誰もいなかった


本庄君は何かを言いたそうだけど、なんだかかなり言いにくいことらしく、「ああ~」とか「え~」とか言ってる


多分他の人が見たら、それこそ興味津々な目で見物してしまうと思う


私は不安な気持ち半分、そして、ドキドキ半分で

「何?」

と、彼に話を続けてもらおうとした


すると彼は、意を決したようにこう言った

「玉木さんって、自分にソックリな姉妹とかいる?」

と訊いてきた

No.55 07/10/31 01:38
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

本庄君にそう訊ねられて、私はどんな反応をしたのだろう


私の頭は完全に真っ白になってしまい、彼の質問に対する答えは、もはや頭で考えていった言葉では無かったと思う



幸いなことに、おかしくない答えを言うことができたのか、本庄君は納得し、私の席から離れていった



その日のお昼ご飯の味はわからなかったし、友達との会話内容も全く頭に入っていない


私は、何故本庄君がそんな質問をしたのかだけ気になっていた

No.56 07/10/31 01:45
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「やっぱり違うのか」


俺は、やはり玉木さんに姉妹がいるという結論を捨てることはできなかった


ゆえに、俺は玉木さんに姉妹の有無をききに行ったのだが、やはり無駄足だったようだ


玉木さんに姉妹はいないらしい



だが、そうなるとあの画像の子は、本当にたまたま玉木さんに似てしまった人なのだろうか




やはり、この真相をつかむためには、真中とともに行動するしかなさそうだ


俺はそう割り切って、学校が終わる、あと数時間を気長に待つことにした


余談だが、先生の話は全く耳に入らなかった

No.57 07/11/01 23:21
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

本日の学習行程の終了を告げるチャイムが鳴り響いた



ようやく学生の本分から解放された生徒たちは、部活という新たな縛りを受ける者もいれば、学校から完全に解き放たれ、自由に過ごす者などに分かれる



俺や真中は、当然後者である

だからこそ、玉木さんのソックリさんを探すという、馬鹿な行動をとれるのだ


授業が終わると同時に帰る支度をしていたのか、真中は俺の席の前に立ち、


「おい!はやくはやく!急がないと見失うかもしれないじゃん!」

と言いながら俺を急かす


(見つけてないのに見失うってのは、日本語おかしいだろ)
という反論は心の中に止めておく


全く、俺は早くもやる気がないのに、この馬鹿の張り切りようはなんだ



たぶんこいつの頭の中には、玉木さんのソックリさんと出会ったのは、あくまでも偶然であり、多分(いや、むしろ0パーセント)会うことはないだろうという発想はない


もう気づいていると思うが、この馬鹿には『マイナス思考』という言葉はない

全ての出来事を好意的に受け取ることが出来てしまう


俺は、真中のそんなポジティブ精神に、呆れもし、ある意味尊敬したりもしてしまうのだ

No.58 07/11/06 00:47
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

とにかく、俺たちは駅前の大きなビル街についた



「確かこの辺で見かけたんだよな~」


真中は、必死になって周りを見渡している


俺はというと、真中について行っているだけで、探す気なんてさらさらなかった


しかし、ついていっていたつもりが、俺が好きな小説のシリーズ最新作に気を取られている間に、真中とはぐれてしまった



正直、俺はかなり動揺した


このビル街に、俺はあまり来たことがないので、道がよくわからないのだ



しかも、変にあいつについて行っていたため、俺がどのようにここまで来たのかわからないので、来た道を戻るということもできない


俺の気分はまさに八方ふさがり、五里霧中


右も左もわからず、辺りを見回すことしかできない


そのとき、ビル街の雑踏の向こう側から、美しい声が聞こえてきた

No.59 07/11/15 01:44
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

いや、正確には美しいという表現は正しくないかもしれない


その歌声は、都会の喧噪を無視しながら、自ら光を発しているように感じた


そう感じたから美しく聞こえたのだと、俺は結論づけた



どうせ右も左もわからないならと、俺はその歌声のする方へいくことにした


その行動は俺の好奇心からくるものであり、なぜそんなことをするのかと聞かれても、「なぜ息をするのか?」という質問のように、返答に困ってしまう


そう、言うなれば「そこに、おもしろそうなことがあるからだ」という、我ながら訳の分からない返答を余儀なくされるだろう


歌声のする方向にまっすぐ進んでいった

それは思っていたよりも遠く、もしかしたら拡声器でも使っているのだろうかと本気で考えた


そして、ようやくたどり着いた先には、自分と大して年の変わらない女の子がいた


目の前で歌っているのだから、おそらく声の主は彼女だろう


しかし、拡声器のようなものは見あたらない



とうとう幻聴が聞こえるようになってしまったのかと、自分を少し嫌悪してしまった

No.60 07/11/15 01:56
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

しかし、俺は彼女の歌が幻聴でないことに気付く


歌のサビというのだろうか、一番盛り上がる歌の部分で、彼女の歌は表情を変えた


歌のはじめの部分は、失礼かもしれないが当たり障りの無いという感じだった


しかし、サビの部分に入り、俺が先ほど聞こえた、あの澄み渡るような歌声へと変わってしまったのである



近くで聞いたその歌声は、はっきり言って鳥肌が立つほどに俺の心を揺さぶった


まるでこの世界に、俺と目の前の歌姫しかいないような錯覚まで起こしそうになった



いつまでも聞いてみたいとは思っていたものの、やはり終わりはある


彼女は歌が終わったのか、帰り支度をしていた


あまりにも呆けていたのか、いつの間に歌が終わったんだ?と誰かに聞きたい気分になった



俺は歌姫と少し話をしてみようと思い、彼女の近くに行ってみた

No.61 07/11/16 01:22
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

「あのっ!」


しまった。

呼びかけたものの、なんて言葉を繋げたらいいか分からない


考えなしに暴走しがちな俺の興味心が、早くも面倒な事態を引き起こそうとしている気がする


歌姫の表情は、帽子とロングヘアーに隠れてしまっていてよく分からないが、少なくとも目の前の男に、不信感を持っているのは確かだろう


俺だって、いきなり見知らぬ奴に呼びかけられ、しかもいきなり話をブチられたら、なんだこいつとは思う。絶対に


俺が顔には出してはいないが(むしろ出していたらかなり危ない奴だ)テンパっているのを知ってか知らずか、歌姫は自分から話しかけてきた



「…300円」



歌姫は、手を差し出しながらいった


「は?」

俺はそう聞き返すしかなかった


いきなり手を差し出されて、「300円」とだけ言われたら、誰でも固まってしまわないだろうか


「は?じゃないわ
あなたは私の歌を聴いた
なら、その拝聴料がいるわ」

No.62 07/11/16 01:33
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

あ~成る程

つまり、300円というのは拝聴料で、その手は金を請求してるってわけだ


理屈は納得いったし、それならば彼女の行動や発言の意味も分かる


しかし、いくら何でも、そんな尊大な言い方じゃなくても良いのではないだろうか


俺はそう胸中でつぶやいた


そんなおれの心の声に気づかず(むしろ気づいたら怖い)彼女は


「なにいつまでも呆けているの?さっさと払いなさい」

と言った


そのような言い方を何度もされれば、さすがに少しイラッとくる


少し意地悪のつもりで

「ああ~すいません
見ず知らずの他人に金を要求するような、素晴らしい精神をお持ちの方と接したことがなかったもので…」


と嫌みを混ぜつつ言い返した


今まで会った人たちなら、唖然とするか、怒り狂うかのどちらかだったが、彼女は違った


「そう
田舎者ね、あなた
じゃあ、いい経験だからさっさと払いなさい」


と嫌みは全く効果がなく、逆に利用されてしまった

No.63 07/11/20 00:20
晴 ( 10代 ♂ LVW6h )

俺は苦笑するしかなかった


どうやら、俺は彼女に拝聴料とやらを払うしか無いような感じだった


まあ確かに彼女の歌は、そこらのストリートライブでは聞くことが出来ないくらい素晴らしく思えたので、300円程度なら払うことに抵抗はなかった


俺は彼女に300円を渡した


「まいどあり~」


と口では言うものの、彼女は当たり前だと言わんばかりにそれを受け取った




しかし、近くで見るとやはり彼女は若い(俺自身も若いと言われるような歳だが)



帽子や長い髪のせいでいまいち顔立ちははっきりしないが、20代、もしくは10代後半という可能性も十分にあり得る


しかし、気になるとはいえ今日初めて会った人に「あなたは何歳ですか」なんて質問は、頭がおかしいだろうという推測は出来た



彼女の歌に興味を持ち始めた俺にとって、目の前の歌姫にどんな風に話しかければいいのかは分からなかった



そして、そんな自分にイライラした

No.64 07/12/13 18:12
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「…何じっと見つめてんのよ」


不意にそう言われ俺は驚いてしまった


「あんたサァいくらあたしが魅力的だからって、女の子をじっとみてんのはストーカーか変態のする事だよ?」


挙げられた例は極端ではあったものの、彼女の言わんとすることはわかる


確かに他人の顔をじっと見つめるなんて、普通の人間ならしないだろう


そう思い、俺は素直に

「すみません」

と謝罪した



すると彼女は不意に

「あんた、変な奴だねぇ」

と言ってきた


いきなりそんなことを言われたのは初めてだったから、俺はキョトンとしてしまった


「最初あたしが金を請求したときは嫌みで返したくせに、さっきは素直に謝った
てっきりあたしは、またさっきみたいに嫌みを言うかと思ったんだけど」


それが、どんな考え方をしたら俺が変な奴だという結論に達するのかわかるほど、俺は物わかりがよくないので(いや、多分誰だってわからんだろうが)俺は

「それで、どうして俺が変な奴になるんです?」


と聞いた

No.65 07/12/15 23:19
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「さっきあんたと話したときは、なんて言うかさ…あたしに対して『悪意』みたいなんを感じたんだよね
でも、今のあんたにはそれを感じない
そんなすぐに感情のスイッチを切り替えれるのは珍しいかなっと思ったんだ」


俺は、彼女の言葉は的を射ているかもしれないと思った



確かに、金を請求されたときはムッとはしたが、はたして原因はそれだけなのだろうか

ほかには理由が見あたらないものの、もしくは彼女の言うとおり、俺は彼女に対して何らかの『悪意』を持っていたのかもしれない

この女は一体…


俺がそんな風に考えていると、


「あたしが何者かって?ただのストリートミュージシャンじゃだめか?」


といきなり彼女が言ってきたので、俺はかなり驚いてしまった

知らぬ間に声に出しながら思案してしまったらしい



「もしかして、聞こえてました?」


控えめな抗議の気持ちも込めて、言ってみるものの、彼女に
「こんな至近距離でぶつぶつ独り言言ってる方が悪い」

と一蹴されてしまう始末である

No.66 07/12/16 09:37
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

(いくらそう思ってても普通は口に出さないよな~)

と心の中で苦笑しているとさらに彼女は
「それに、敬語なんて使ってんじゃないよ似合わない」


と言い放った


さすがに彼女も失礼な言い方だと思ったのか

「見たところ、多分同い年ぐらいだと思うし」

と付け加えた


彼女の最初の発言に苦笑している間に、一つ気になる発言を彼女がまた言った


今彼女は「同い年ぐらいだと思うし」と言わなかったか?

今の俺の服装は、学校帰りということもあり制服だ


つまり、俺がどこかの高校の生徒だとは気づいたはずだ


つまり



「あんたいったい何歳なんだ?」


と思わず聞いてしまった


やってしまった

いくらなんでもその言い方はないだろう

それではまるで


「まるであたしがめちゃくちゃ年食ってると思っていたみたいじゃないか」


うっ、と言葉に詰まってしまった俺に対して、彼女はため息をつき


「図星のようだね」
と少し落ち込んだようにいった

No.67 07/12/18 18:45
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

俺はどうしようか思い悩んだ


今の言い方は確かにあんまりだ



「へぇそうなんだ」とか、「え!何年生?」とか、聞く選択肢はいくらでもあっただろうに


まぁ、俺だっていくらか彼女に言われていたから言い返す理由はあるが、俺は最初から彼女に言い返そうとは思っていなかった


さあ、どう言い繕うかと考えていると、意外にも彼女の方から

「まあ、よく言われるけどさ。
年の割には言い方とか精神的に大人びすぎだって」


とフォローされた

思わず、俺は訊いてしまった


「…怒ってないのか?」
すると彼女は少し笑いながら


「よく言われるって言ったろ?
いちいち怒ってたらキリがないからさ」

と、俺をフォローしたというよりは、本当に気にしていないような口振りで言った


また、彼女は


「それに、あんたが焦ってる姿を見れたのも悪くないしね」

と笑みをどちらかというと黒めにして言った


俺は苦笑するしかなかったが、彼女は意に介していないようで

「ああ、そういえばあんたの質問に答えてなかったね」

と言った


「ああ、もういいよ
あんな失礼な風に言っておいて、今更聞くのも…」

No.68 07/12/20 19:05
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

そう言って断ろうとすると、

「男なら、一度自分の言ったことには責任を持ちな
『男に二言はない』っていうだろ
それに、一度聞かれたことには答えれる範囲なら答えなきゃ気持ち悪いんだよ」

と、俺が言おうとした上から言い放った

そこまで言われては、返す言葉もない

(下手したら、俺なんかより男らしくないか?)

そうは思ったものの、さすがに言う気はない

あんな罰の悪い気持ちになるのは、ウンザリだ


「じゃあ、もう一回聞くわ
あんた、今何年生?」


俺は先ほどの失敗を繰り返す気はさらさらなかったので、少し考えてからそう聞いた


彼女はその質問には満足したのか、口を緩め

「あたしかい?あたしは高校二年だよ
あんたはどうだい」
「俺も高二だ
やっぱ同い年ぐらいだったか」


「へぇ、そうなのかい?
ストリートやってて初めて同い年にあったかもしれないね」

No.69 07/12/22 12:53
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「そうなのか?なんか多いイメージがあるけど?」


ストリートミュージシャンからメジャーデビューした歌手はいくつか知っている


それらを指示するのは比較的若い人たちだから、ストリートミュージシャンのファン層は、高校生が中心だとばかり思っていた


「意外そうな顔だね
まあ、情報の裏側なんかはあんまり興味ないんでしょうけど」


「裏側?」


「あんた、まさか高校生の意見が反映されてるばっかって思ってるわけじゃないよね」


その言葉には黙るしかなかった


確かにそんなわけはない

支持されていても、その販売を決めるのは販売元、つまり大人だ


しかし、大人に支持されていたら反映もされやすい


「その様子を見ればわかったようね
ストリートに興味があるのなんて、大抵は中年よ
だから珍しいって言ったのよ」

No.70 07/12/25 00:10
HARU ( 10代 ♂ LVW6h )

「まあ、一番変わりモンなのは、この年でストリートやってるあたしだろうけどさ」


と最後に彼女は自嘲するように笑いながら言った


何故だろう


それを聞いたとたん俺に、彼女に対して怒りに似た感情を覚えた


なんだこの感じは…

と、俺が考える前に口が勝手に動いていた



「……んなことねぇよ」


「は?」


「あんたは変わりモンなんかじゃねぇよ」


いきなり俺はなにを言い出しているんだ

頭に残った理性は、今から言おうとしていることに抵抗しているものの、その理性を超越した、いわば本能いや、魂からの言葉に対して、その抵抗はあまりにも無意味だった


「あんたがそんな変わりモンだなんて、おかしいじゃねぇか
そんなキレイな歌声で、人の心揺さぶるようなすげぇこえしてて、それで変わりモンかよ
俺からしたら、それに気付かねぇ世間がおかしくて、変わりモンだ」

No.71 08/01/04 00:35
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

ああ、そうか


俺が彼女に興味があったのは、あの歌を聴いたからだ


すべてを洗い流すような、神秘の調べを


大人にはわからないだろうし、だからといって子供にもわからない


その中間にいる、俺たち思春期の悩みというものに囚われかけた奴にしかわからない



それほどに素晴らしい声(歌)を聞いたのは初めてだった



だからこそ、感動し、それを否定した彼女に怒ったのかもしれない



そうだとわかった瞬間、俺は自己嫌悪をし始めてしまった

No.72 09/05/29 01:06
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

はっと我に帰ると、彼女は怪訝な顔をしていた


それはそうだろう

自嘲して笑ったつもりが、話し相手である俺がいきなり変なことを言い出したのだから

どうしようか困っていると、彼女はぷっと息をはいて、腹を抱えて笑いだした


「はははははっ
ははっ。ははははははっ」


この笑いはなんの笑いか俺にはわからなかった

俺への嘲りの笑いでは無さそうだ


ではなぜ?

俺が途方にくれていると、彼女はようやく発作が収まったのか、顔をあげ息を整えてから話し出した

「いやぁ。酔っぱらったオヤジみたいなやつらに、歌上手いなぁとかは何回か言われたんだけど、声きれいとか、すげえとか真顔で言われたの初めてでさ
あんたみたいなやつなんて、音楽性の欠片も無さそうだからさ。ちょっとびっくりしちゃって」

いやいや、びっくりであの大爆笑は有り得ないだろ


俺が少し顔を赤らめていると彼女は

「あんたいいよ!
最初はいけすかないやつかと思ったけど、なんだか気に入った!
同い年ぐらいって言ったね?名前は?」

と、えらく顔を近づけてきた

多分話すときの癖なのだろうが、さすがにこんなに近寄られたら気恥ずかしい

No.73 09/05/29 08:41
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「…本庄だ」

とだけこたえると彼女は

「あたしはジュリ
樹木の『樹』に、瑠璃色の『璃』」

なぜいきなり名前?と思って聞いてみたが

「名前わかりゃあ問題ないじゃん!」

といわれた
どうやら教える気はないらしい

まあ、個人の自由だからと、あえて深くは聞かなかった


「じゃああたしはそろそろ帰るわ」

と言うと、彼女はバッグを抱えて立ち去ろうとする


すると、ビルの間から突然強い風が吹いた

その風で帽子は飛び、髪が激しく靡いた


そこにいたのは





玉木さんと同じ顔をした女の子だった

No.74 09/05/29 08:53
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

待て待て待て



なんだこれは

真中と一緒に玉木さんのそっくりさん探しをしていたら、真中とはぐれて

そしたら綺麗な声をしたストリートミュージシャンに会って

そいつが玉木さんと同じ顔をしていました




笑えない


笑えない偶然の重なりだ

俺は、その偶然の出来すぎと、彼女が余りにも玉木さんに酷似していたため、その場で呆けてしまった


おそらくずっと彼女…樹璃さんを見続けていたからだろう


樹璃さんの顔は、最初に会ったときよりかなり怪訝な顔になってた


「ねぇ、あんたって変な薬でもやってるわけ?
いきなり黙り込んだり、感情的になったり
精神的に不安定なの?」

と、失礼なことを聞いてくる

いや

失礼なのは俺か


そりゃ、自分の顔をずっと眺められたら怪訝な顔になるし、嫌みのひとつでも言いたくなるか

No.75 09/05/30 01:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「ごめん
ちょっと知り合いに似てたもんだからびっくりして」

と、俺は素直に謝った

失礼なことをした自覚がある以上は当然だろう

樹璃さんもあまり気にしていない様子で、

「いいよいいよ
ていうか、あたしににてんのかぁ
そんなに似てるの?」

と、どちらかというと、彼女に似ている人…つまり玉木さんに興味がありそうだ

「似てるどころかそっくりだよ
同一人物かと思ったぐらい」

と感想を言うと、樹里さんはさらに興味を持ったようで、話を聞く気満々である

さてどうするか

俺がこれ以上彼女と話すと玉木さんの個人情報を話してしまいそうだ


俺が途方にくれていると、大通りの方から俺を呼ぶ声がした気がした


彼女にも聞こえてきたらしく、
「この声ってあんたの友達?」

「…みたいだな」

俺は少し名残惜しくなった

もう少し話していたかったなとも思った

そして何より、自分がこんな感情をまだ持っていたことに驚いた

彼女はさっぱりとした様子で、

「あんたとはまた会いたいわね」

と言った

そしてこう続けた

「最後に聞きたいんだけど」

No.76 09/05/31 00:36
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

何?と聞き返すと、樹里さんはこう聞いてきた

「あんたって、あたしと会ったことない?」

意味不明な質問も良いところだ

「さっきも言ったけど、知り合いが樹里さんに似てるってだけで、初対面だよ」
と返すと、彼女は

「ならいいんだけど」

とだけ言って、ため息をついた


なんだか、少し彼女の雰囲気が変わった気がしたので気になったが、いつまでもいるわけにはいかないので今度こそ立ち去ろうとした


お互い、軽く手だけふって別れを告げた
別れ際、樹里さんは「多分、また会うことになる気がするよ
あんたとは」

と言っていた


会えたらいいなと笑うつもりだったが、余りにも真面目な顔で言うものだから、俺は返事に困った

また機会があれば、とだけ告げて、俺は路地裏をあとにした

路地裏を出るとすぐに、真中がバカみたいな声量で俺を呼んでいた


俺を見つけたのか
声を出すのをやめて、こっちへ向かってくる


「何やってんだよジョーちゃん!
俺らの歳で迷子になるやつがいるか?普通」


…いるんだよお前の目の前に


しかし、俺からしたら、真中が変なことに誘ったから悪いわけで





「いたっ!」


俺はとりあえず真中を殴った

No.77 09/06/01 00:19
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

次の日、いつものようにクロ助に叩き起こされ、目を覚ました

時計を見るとまだ早朝5時半

思わずため息をついてしまう

そして、叩き起こした張本人(人ではないが)は、床で寝てやがる

仕方ないので、携帯でサイト巡りをしようかと携帯を開くと、メールが入っていた

送り主は真中で、それをみた俺はなんとなくげんなりした

また、あのめんどくさい暗号みたいな文章を読まなければならないかと考えると鬱になりそうになった

俺は携帯を投げ捨て、しばらく天井を見上げた




真中の聞きたいことは大体わかる

おそらく、玉木さんによく似た人物…樹璃さんについて聞きたいんだろう


真中の言う通り、確かに玉木さんに酷似した人物はいた


確かにすごい偶然だ

だが、それはある意味よくある話で、俺に似てるやつもこの世界探せば、いくらでも出てくるに違いない


だが、俺の中にそう割りきるには、釈然としないものがあった

俺は、樹璃さんの何に引っ掛かっているのだろうか

No.78 09/06/01 08:56
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

あの路地裏の出会いから一週間がたった

俺はいつも通り、当たり障りのない学校生活をしている


さすがに皆飽きてきたのか、玉木さんとの仲を聞きに来るやつもいなくなった

いつも通り


静かで、心地良い時間が過ぎていく


人間、心地良くなると眠くなるもので、机に突っ伏して寝る体勢入ったときに、いきなり肩を揺さぶられた


「ジョーちゃん!起きろー!」

…俺のことをジョーちゃんと呼ぶのは一人しかいないし、人が寝ようとしてるのに、肩を揺さぶって起こそうとする強引さと無神経さ


俺は顔を見る必要なしと判断し、そいつの向こう脛をおもいっきり蹴った


すると予想通り、真中が足を押さえて悶絶していた

痛むであろう足をさすりながら、真中は俺に抗議の目線を送ってきたが無視した

「ジョーちゃん!
お前、メール無視るだけならまだしも、親友を蹴っておいてスルーですか!」

「誰が親友だ馬鹿野郎
ていうか、てめえ人を揺さぶり起こしといてなんも言わねぇのか」

そう言うと、真中は少し考え込み

「ま、それはそれだ」

と開き直った


ああ、このバカには何いっても無駄なんだなぁ、と俺はなんだかしみじみと感じてしまった

No.79 09/06/01 19:27
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

そんなことより、と真中は話を変えて

「ジョーちゃんに用事があったんだよ」
と言った

「用事ってなんだよ」

と俺は少々なげやりに言った

こいつの用事はいつもしょうもないことばかりだ

そう思いながら聞いていると

「なんかお前を呼んでこいってさ
放課後に喫茶TAMURAに来てほしいって」

と真中は言った


「…客ってどんな人?」

俺には、誰かに呼ばれるようなことをしたつもりや、されたつもりはないのだが
そう聞くと真中は

「なんか社会人っぽかったぜ?
固っ苦しそうなスーツ着てたしな」

…もっと知り合いじゃなさそうだ


無視しようかとも考えた


むしろそうしようと決め、真中に伝言してもらおうかと考えたら、

「あ、もしかして無理だった?
俺、オッケーしちゃったんだけど」

と真中は言いやがった


俺は一瞬思考がフリーズした



イマコイツナニイイヤガリマシタカ


「お前まさか勝手にオッケーしたのか!」


と怒鳴ると、気にもしてないように

「だってお前いつも暇じゃん
だから良いかなぁって
向こうも結構急いでたみたいだ…ぐわっ!」

とりあえず、もう一回向こう脛を思い切り蹴り飛ばした

No.80 09/06/02 08:14
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

…結局俺は喫茶TAMURAに来てしまった

とりあえず、真中は思う存分いたぶって、客とやらを待つことにした

あのバカが勝手にしたこととはいえ、その人が1日中待たなければならない羽目になって良心が痛まないほどには、まだ心はひねくれていない(はず)

時刻は午後18時40分真中の話だと、19時近くに来るらしいので少し早すぎたようだ

喫茶TAMURAは、そこそこに食い物が揃っている喫茶店なのでここで軽く夕飯にするか、とメニューを広げようとすると

「すいませんもしかして、本庄君でしょうか」

と見知らぬ人からの声がした

「君の友達から伝言を聞いてると思うけど君を呼び出した、玉木と言います」

声のした方を見ると、少しボサボサの髪の毛をした男の人がいた

この人か、と彼を見ているとふと思った
この人、「玉木」って名乗らなかったか?

「もしかして、玉木さんの」

そう言うと彼は少し笑って

「よく名字だけで気づきましたねその通りです」

となると、この人の用事ってまさか…

「まさか、俺が玉木さんと付き合ってるって噂を真に受けてる訳じゃ…」

と聞いてみると

「まあ、近からず遠からずってところか」

と答えた

No.81 09/06/04 09:01
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「自己紹介が遅れましたね
僕は玉木裕也と言います
年は今年で20です」

玉木さんのお兄さん…裕也さんはそう言って俺の前に座った

「…で、一体何のようですか?」

失礼かも知れないかもしれないが、俺は本題を尋ねた

俺は玉木さんに兄がいることもまず初耳で、当然この人と人生で一回も関わったことはない

そんな人にいきなり呼び出されたら、怪しく思うのが普通だろう

すると、裕也さんが話し出した

「うーん
最初は正直君じゃなくても良かったんだよ
あいつが寮に住んでるのは知ってるかな?
俺と母さんと父さんは今離れたところにいて、そう簡単に会えなくてね
たまにこっちに来てるんだけど、ちょっと今回思い付いてね
あいつと一番仲が良い友達にちょっと色々話を聞こうかなってね」

話の主旨はわかった
確かに女の子の一人暮らしは気になるところがあるだろう

しかし、ひとつだけ気になる

「何で俺なんですか?
玉木さんと仲が良いのは他にもいますよ」
と尋ねると、彼は笑って

「そりゃ、君があいつの彼氏だって聞いたからさ
まあ、君の話を聞くとただの噂っぽいけど、そんな噂をたてられるぐらいに仲が良いんだろ?」

No.82 09/06/05 00:24
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

感想用スレ立てました


皆さん、良かったら書き込みお願いします

No.83 09/08/03 23:49
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「…一つ聞きたいんですけどそんな事を言ったのはどこの大馬鹿野郎ですか?」
俺の中で答えは完結していたが、一応確認のため聞いてみた
すると、裕也さんは
「ああ、君に伝言を頼んだ彼だよ
とりあえず、教室の場所を聞こうとしたら、同じクラスだって言うから、色々あいつの話を聞いてたんだけど、君の事を教えてくれてね
妹がどんな男を捕まえたのか、是非気になったんだよ」と言った

俺はあいつの馬鹿さ加減を甘く見ていた
いくらなんでも、初対面のクラスの親類に、根も葉もない噂を教えるとは(あいつは事実を知ってるにも関わらずだ)

俺は本気であいつに殺意を持った

そんな俺の心が、思わず顔に出てしまっていたのだろうか
裕也さんは、少し浮かない顔になって

「もしかして迷惑だったかな?だったら、本当にすまない」
と、テーブルに頭がつきそうなぐらい、深々と頭を下げた

それほど広い店内ではないため、俺達の様子は周りの客に筒抜けだ

…店内に気まずい雰囲気がながれだした
俺は頭の中で、社会人に無理矢理頭を下げさした高校生が、周りにどう見えるか考えた

…少なくとも穏便には見えないことはわかった

No.84 09/08/04 07:12
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

…こういう展開には覚えがある

断っても支障ないのに、断るに断れない状況

ああ、やっぱり玉木さんのお兄さんなんだなと妙に感心してしまった

「とりあえず、頭を上げてください
わかりました
僕で良かったら、学校での彼女についてお話しますよ」

と、言うしかなかった

裕也さんは、それを聞くなり、また深々と、「ありがとう」と言いながら頭を下げた

…店内の雰囲気の気まずさは、徐々に上がってる気がした


「とりあえず、別なお店に行きましょう
ここではもう話し辛くなっちゃいましたから」

と言って、俺は裕也さんに周りを見るように促す

ようやく、店内の雰囲気に気づいたのか、少し恥ずかしそうな顔をして「そうだね」と言った

No.85 09/08/20 00:28
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

俺と裕也さんは、近くのファミレスに場所を移した


俺が話す普段の玉木さんの話は、俺から見た玉木さんの姿だから、事実とは言えないと思う

それでも、裕也さんはその話を嬉しそうに、また、ホッとしたように聞いていた
やはり、一緒に住んでない妹が心配だったんだろう

そんな、兄としての裕也さんの姿は好感が持てた






「しっかし、瑠美は変わらないなぁ
大人しい性格は相変わらずか
高校に入ったら、ちょっとは変わると思ったんだけど」

ある程度話し終わり、少し落ち着いていると、裕也さんが呆れたようにいった

「そんなに人の性格はすぐ変わりませんよ」

と、言葉を返すとふと思い出した
彼女に関するイレギュラーな出来事を

「それに、玉木さんも結構意地っ張りなところありますよ」

と言うと、裕也さんの顔が怪訝になった

「瑠美が意地に?」
不思議そうにたずねられた俺は、あの『捨て猫事件』について話した

No.86 09/08/20 20:44
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

話を聞き終えた裕也さんは、驚きと悲しみが入り交じったような表情をしていた
さっきまでは、話し終わったあとに、何らかの感想を言っていたが、裕也さんは黙り込んでしまった

裕也さんが黙ってしまうと、俺は話すことがなくなってしまう

俺と裕也さんは、お互い無言という、おかしな状況になってしまった




しばらくして、裕也さんが口を開いた

「瑠美の名前の由来を知ってるかい?」

俺は唐突な質問に言葉を詰まらした

「うちの親は、男だったら裕也
女の子だったら、瑠璃って名前をつけようと思ってたんだ」

あれ?と俺は思った
玉木さんの名前は『瑠美』

瑠璃という名前ではない


俺の不思議そうな顔を見て、考えた事がわかったのか、裕也さんは苦笑しながら

「ちょっと事情があってね
…瑠美には双子の姉がいたんだよ」

俺は、玉木さんが双子だったことよりも、裕也さんがいった『双子がいた』という言い方に引っ掛かった

「君は、なんというか頭が切れるというか、よく気がつく人だね
そう、『いたんだ』
瑠美の姉、『樹璃』は15歳のときに死んだんだ」

No.87 09/08/22 00:25
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私は常に自問自答する

あんなことになったのは誰のせいだと


樹璃は…お姉ちゃんは私の憧れ
人見知りが激しく、内気だった私を引っ張ってくれたのは、お姉ちゃんの、強引だけど優しい手

それに、勉強も運動も恋も、お姉ちゃんは私よりもうまく出来た

そんなお姉ちゃんが大好きで

…それと同じぐらい嫉妬してた

周囲から、幾度か聞かされてきた

「双子なのに、あんたは出来ないんだね」

こんな声はしょっちゅうで、ひどいのになると

「双子の出来が悪い方」

と言われることもあった

…母もそうだった

勉強などがちゃんと出来たお姉ちゃんとすぐに比較され、そして怒られた

「何で、樹璃は出来て、あんたは出来ないの!」

そう怒鳴られることはしょっちゅうで

…幼かった私は、心の奥底でお姉ちゃんに嫉妬してたのだろう


いや

多分、嫉妬だけでなく、恨みもあったかもしれない

そして何より、追い付けない自分が嫌いだった

そんなグチャグチャに絡み合った負の感情が、あんな事態を引き起こしたんだ

だから、私は贖罪をしなければならない












…お姉ちゃんを

樹璃を殺したのは、私なのだから

No.88 09/08/25 10:26
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

裕也さんの話から数日後

俺は、ある場所に向かっていた

その場所に行けば『彼女』に会うことが出来る気がしたから

俺は『彼女』に話さなくてはならない話がある


『彼女』に教えなければならない真実がある


そして、俺自身知りたい真実がある


裕也さんから聞いただけではわからない幾つかの疑問点

ああ
こうすることが、本当に彼女のためになるのかはわからない

いや、最初から彼女を救うとか、そんな大層な目的は俺にはない

あるのは、真実を知りたい好奇心と、首を突っ込んだことによる気まずさ

そんな自己満足の感情だけで、彼女の闇に関わっていいのだろうか

だが、裕也さんのあの顔を思い出すと、たとえ自己満足が発端であろうと、しなければならない気になる


俺が彼女に出来ることは、ただ真実を言うだけだ


だが、それが彼女を、そして裕也さんを救うことになるなら、俺はできる限りのことをする


俺でも、何かを救えると信じて

No.89 09/08/27 23:12
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

声が聞こえた

心を震わさせられるような感覚


間違いない

『彼女』の歌声だ

俺は、その声を頼りに『彼女』を探す

そして、ようやく俺は『彼女』…樹璃さんを見つけた


相変わらず、すごい歌だと思う


しかし、俺は本能的にわかってしまった

なぜ、俺が樹璃さんの歌に心を動かされるのか


「ん?
ああ、本庄くんだったっけ」

俺に気付いた彼女が、歌うのをやめて近づいてくる

「どうしたんだい今日は
前見た時は、ずいぶんつまんない面してたのにさ」

相変わらず、彼女の発言はきつい

だが、事実から結び付いた、俺の推論が正しければ


…その彼女の口調の真実は辛く、重い


「…どうしたんだ本当に
そんな顔されたら、少し怖いよ」

俺の表情をみた彼女は、少し怪訝な表情になる

自分がどんな顔をしているか、俺は自分でわかっているつもりだ


「…もういいんだよ樹璃さん」

俺の、この心の震えは共感

「あんたは、まだやり直せる」


取り返しのつかないことをしてしまったという、罪悪感

No.90 09/08/27 23:31
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

お兄ちゃんから電話がかかってきた


お兄ちゃんは心配症なところがあるから、珍しいことじゃない


「もしもし」

『瑠美か?』

「うん、どうしたのお兄ちゃん」

『ちょっと、会って話したいことがあってな』

「うん、いいよ
あ、でも仕事は?」
『有給取って、そっちに行く
ちょっと大事な話だから』

「電話じゃダメなの?」

『ああ、会って話すことに意味があるんだ』


待ち合わせの時間や場所を決めて、お兄ちゃんは電話を切った

少し、らしくないなと思った

しかし、大事な話をするつもりだからだと思い、気にしなかった



「…これでいいのかい?本庄くん」

裕也さんは、携帯をしまいながら聞いた

「ええ、バッチリです」

俺が即答すると、裕也さんは苦笑した


「まったく
俺達が、何年も踏み出せなかった一歩を
君みたいに、ほんのちょっと話を聞いただけの他人に踏み出させられるとはね…」

裕也さんは、そう呟くように言うと立ち上がり、俺に頭を下げた


「妹をよろしく頼む」

No.91 09/08/27 23:48
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

私は、お兄ちゃんが指定した喫茶店に着いた


何の話をするつもりなんだろうかと、内心は少し緊張していた

そんな心持ちで店に入ると、そこには意外な人がいた


「本庄くん?」

そう、その喫茶店には何故か本庄くんがいた


しかも、私を見つけると手招きをしている


そこに行くと、座るように促されたので仕方なく私は座った

「悪いな
玉木さんを本当に呼んだのは裕也さんじゃなくて、俺なんだ」


私が座った途端、とんでもないことを言った


裕也というのはお兄ちゃんの名前だ

「何で、本庄くんとお兄ちゃんが?」

いきなりの展開で頭がおかしくなりそうだ

気を落ち着かせる意味も込めて私は聞いた


本庄くんは、何故か苦々しい顔で答えを渋る

仕方ないので、次の質問をする

「じゃ、何で私を呼び出したの?」


私と本庄くんは同じ学校にいるのだ

用があるなら、学校でいくらでも話せばいい


すると、本庄くんは
「出来れば、二人で話したかった」

台詞だけなら少しドキドキするが、雰囲気が怖く、逆に私は
「…何で」

と聞き直すのが、精一杯だった

No.92 09/08/28 00:07
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

すると、本庄くんは

「まず、前置きすると、これは俺の推測も多く混じってる
もし、違っていたら、遠慮なく否定してくれ」

と言った


私は、本庄くんの雰囲気の違いに少し戸惑いながら頷いた


「じゃ、話すよ
まず、俺は裕也さんから、君に双子の姉、樹璃さんがいることを聞いた
彼女が、死んだってこともね」


「…!?」

「聞きたいことはあるだろうけど、今は少し押さえてくれ」

私が、思わず立ち上がったのを見て本庄くんが冷静に言った

私が座り直すのを待って、彼は話を続けた

「お姉さんは優秀だって聞いた
…そしてお母さんのことも」

私の母の部分だけ言いにくそうだったが、私はもう開き直っているので、

「素直に言ったら?
お姉ちゃんみたいに出来ない私は、お母さんに毎日のように殴られてたってさ」
と、話を続けさせた
本庄くんは、意を決したように

「…そう
君のお母さんは君にたいして、虐待をしていた
ほぼ日常的に」

と言った


私は、今自分がどんな顔をしているのか、鏡で見たくなった

No.93 09/08/28 00:22
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

玉木さんの目は、色を失っていた

何も映していないような暗い瞳

しかし、俺は話をやめるわけにはいかなかった


「君のお母さんは、昔からよくヒステリーを起こしたらしいけど、旦那さん…つまり、君の父親がなくなってからさらにひどくなったらしいね」

裕也さんの覚えている限り、母親は、父親が亡くなるまで、子供に手をあげることはなかったらしい
「愛していた旦那さんを亡くしたショックもあったんだろうが
とにかく、君のお母さんは君に暴力を振るうようになった」

玉木さんの目は暗いまま

その目が気にはなったが、話を続ける


「何故、誰も止めなかったか
止めれなかったからだ
君のお母さんは、止めようとした裕也さんや樹璃さんも殴ろうとしていたらしいね
大人たちが止めようにも、周りは無関心だった
母親は、外面だけはよかったみたいでそんな様子を微塵も出さなかったらしい
…結局、裕也さんも樹璃さんも君への暴力を止めれなくなった
君は、生け贄になったわけだ」

No.94 09/08/28 00:38
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

生け贄か…

本庄くんは本当にいい表現をする

私はいっそ笑いだしたい気分だった


「止めれなかったのも無理はないだろうさ
裕也さんですら小学校の高学年にすらなってなかったんだ」

そう

あのとき、あたしたちは幼かった

いくら悪魔のような母親でも、養ってもらうしかなかった


「でも、君たちは運がよかった
瑠美さんが母親に暴力を受けているのに気付いた担任が、児童相談所に連絡
母親と君たちは切り離された」

あのときのことはよく覚えている

あたしたち兄妹が一緒に帰ってると、父方の祖父母が迎えに来て

「今日から一緒にくらそう」

と言ったからだ

私は、「何故?」という疑問ではなく「解放される」という安堵感で満たされた

「母親は当然逮捕
周囲には、子供を殴った様子を一切見せなかった狡猾さや、長期間の虐待などが考慮され、懲役刑を受けたようだね」

No.95 09/09/26 01:30
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

母親が刑務所に入っている


それは玉木さんにとっては決してプラスの要因とはならなかっただろう

裕也さんはなにも言いはしなかった

しかし、それぐらいのことは考えればわかる


俺は、一息つくために、あらかじめ頼んであった飲み物を口にする


確かコーラを頼んだのだが、氷が溶けきって、味が薄まっていた


俺と玉木さんの間には、気まずい雰囲気が流れる


彼女にしてみたら、自分の過去を他人に喋られているのだ

不愉快で当たり前だし、辛い過去なら尚更だろう


しかし、その沈黙を破ったのは玉木さん自身だった

「あ~あ
学校の人達にはこの事を知られたくなかったのになぁ」

彼女は、明るい声で言った


しかし、明るいのは声だけで、表情や目は未だに暗さを保っていた


「そこまで知ってるなら、もう最後のことも知ってるんじゃな?
遠慮することないから話しなよ」

彼女は暗い顔のまま言う

それは、学校で見せている顔とは全く違う顔で

まるで、狂気に支配されかかっているような表情


その表情のまま彼女はこう言った

「私のお姉ちゃん
玉木樹璃は私が殺したって、知ってるんでしょ?」

No.96 09/09/26 08:17
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「私のお姉ちゃん
玉木樹璃は私が殺したって、知ってるんでしょ?」


これを言ったときの私の表情はどんな表情をしていたのだろう


あれを事故だと言うのは簡単だ

しかし、それは私の感情が許さない

玉木樹璃を殺したのは紛れもない私だ









中学2年生ぐらいになる

母さんが、出所すると聞いた

正直、私からすれば、彼女が出所しようがしまいが
あるいは獄中死してようが、知ったことではなかった

祖父の家での暮らしは好きだったから、その暮らしがなくならないのであれば、なんでもよかった

しかし、私はその見込みが甘かったことを知る


祖父母の家に何度も電話がかかってくるようになった

祖父が電話に出る度に怒鳴るのを聞いて、私はなにか嫌な予感はしていた

祖父は無口で頑固な人だったが、人を頭ごなしで怒鳴ることはなかった


そんな祖父が、顔を真っ赤にして怒っている


私だけでなく、樹璃やお兄ちゃんもその異変をおかしく思っていた

その理由を知ったのは、そんな電話がかかってくるようになって1ヶ月後だった

No.97 09/11/08 13:54
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

『もしも…』なんてこと、生きてきたことに対する後悔でしかない

変えられないことを、無理やり過去に戻って考えもしなかった選択肢を選ぶことによって、空想の中だけでも変えようという自慰行為に過ぎない

『もしも』なんて言葉を使っても、現実は現実、空想は空想
理屈ではわかってる
でも感情はそうは割りきれない

もしも、あのとき電話を取ったのが私でなければ

もしも、あのとき祖父が外出していなければ

もしも、私たち三兄妹が祖父に引き取られていなかったら

もしも、あの人が刑務所に入らなかったら

…もしも、私に対するあの人の虐待に、先生が気付かなかったら









……もしも、あの人に私が殺されていたら
私が生まれていなければ

樹璃は間違いなく死なずにすんだんじゃないか

いや、『死なずにすんだ』なんて言い方は間違っている


彼女は私が殺したのであり、樹璃が死ぬか生きるかは、私の選択肢で決まっていたのだから

No.98 09/11/08 14:20
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

その日、私は少し体調を崩し家で寝込んでいた

お兄ちゃんや樹璃は当然学校に行っていて、祖父母も買い物などで外に出ていた
つまり、家にいたのは私一人だけで

つまり、電話がかかってきたらとるべき人間は私一人だけで
悪いことに、私はその電話の音で目が覚め、時間感覚もなかった

その時間帯にかかってくる電話に対して、祖父がどんな対応をしていたかも忘れて

私は無防備にその電話を取ってしまった
「はい、もしもし」

私がそういうと、受話器から長年きいていなかった、そして二度と聞くことのないと思っていた声が聞こえた

「瑠美かい?私だよ
わかるかい?」

私は思わず電話を切ろうとした
その声は思い出したくない記憶を…あの虐待の日々を思い出させた

思わず電話を切ろうとした私だが、その声…母がいきなり

「切るんじゃないよ!」

といきなり怒鳴ったため、私はその場で固まってしまった

母に植え付けられた虐待の記憶は、私を恐怖で支配した

もう、何年も前の話なのに、母が付けた私への呪縛は未だに解けていなかった

No.99 09/11/08 14:33
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

「いきなり怒鳴ってごめんよ
でも、もう話す機会はないだろうからさ」

母は私にこう言った
「……話したいこと?」

内心では、母の話なんて聞きたくなかった

しかし、恐怖で支配された体は、電話を切ることも、話を聞かないことすら拒否していた

その場から逃げたくて仕方なかった

しかし、聞こえて来る声をシャットアウトすることも出来ず、母の話も理解できてしまった

出所したこと

仕事を見つけたこと
家も借りれたこと
また親子4人で暮らさないかということ
もう、殴ったりしないということ


返事はすぐじゃなくてもいいが、一週間以内に決めてほしいということ

一週間後に、近くの公園で待ち合わせをするということ

母は一方的にそう言って(私も相槌ぐらいはしたかもしれないが)電話を切った

電話が切られてからも、私はその場から動けなかった

そして、これは誰にも言ってはならないと思った

私だけの秘密

そう思った

No.100 09/11/08 14:44
はる ( 10代 ♂ LVW6h )

その日の晩

私は体調が悪いからという理由でずっと部屋に閉じ籠っていた

みんなと一緒にいて、どんな顔をすればいいかわからなかったからだ

布団を被り、一人暗い部屋で母の電話について考えていた

どうすればいいのだろう

普通に考えれば、私だけの問題なのはわかっている

お兄ちゃんや樹璃にだって、大いに関係ある問題だ

しかし、何故か私は理屈じゃない、直感のようなもので樹璃たちに話しちゃいけないと感じていた

しかし、私一人でどうにかできる範囲を逸脱しており、私は途方にくれていた



誰かに話さなくては解決しない

しかし、誰にも話してはいけない


私は、そんなジレンマを抱えてしまっていた

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