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闇の中の天使

No.31 13/02/19 19:03
中谷月子 ( ♀ ezeSnb )
あ+あ-

≫30

そこからは、歩みも早くなりどんどん萱ぶきの家に近付いた。
玄関までたどり着くと、表札を見た。

津田完吉。

カンさんの家に間違いない。
あの軽トラックが停まっているのも見えた。私は大声で「カンさーん!」と、呼んだ。
呼鈴はあったが、包みを両腕に抱えているので押すことができなかった。
すぐにカンさんが玄関の引き戸を開けると、「お嬢様、遠いところまでよく来て下さって…」と、玄関先で丁寧にお辞儀などするものだから、私は急いで「カンさん、これ!あの…美恵さんからのお届けものです!」そう言って、カンさんに押し付けるように渡した。
受け取ったカンさんは包みを軽々と持った。
私は真っ赤になった二の腕を交差するようにしてさすった。
「さあ、お上がりください」
「はい…おじゃまします」

カンさんの家の中は、畳の青いいい香りがした。
カンさんと同じように真っ黒に日焼けした奥さんが出てきて、挨拶をした。
奥さんが出してくれた冷たい麦茶を、私は一息に飲み干した。
奥さんはにっこりと笑って、麦茶をコップに注いでくれた。それもまた、私はすぐに飲み干した。
四杯目が注がれて、やっと私は汗で流れ出た水分が全身に行き渡ったような満足感を得ることができた。

カンさんは、風呂敷の包みを開け、中から桐の箱を取り出した。
箱を丁寧に開けると、白い封筒を取って開けて読んでいた。
うん、うん、と二度頷く格好をして手紙を読み終え、風呂敷を丁寧にたたむと、私に差し出した。
「お疲れさまでございました」と、くしゃくしゃの笑顔で言った。

帰りは、カンさんが軽トラックの助手席に乗せてくれて、美恵さんの待つ洋館まで送ってくれた。
あっという間に到着した時、あれだけ歩いたのに、車だったらこんなに早く着くことに驚いたのと、どうして美恵さんはカンさんに車であの包みを取りに来させなかったのだろうと、不思議に思った。
洋館の板チョコのようなドアが開き、美恵さんが出てきた。
カンさんは美恵さんに「大切なお品、確かに頂戴いたしました」とだけ言った。
美恵さんは「カンさん、ゆかりちゃんを送ってきてくださってありがとう。ゆかりちゃん、御苦労さまでした」と、優しい眼差しを私に向けた。
カンさんの乗ったトラックは、すぐに帰って行った。


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