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沙耶香の女装官能小説2(女王様と作家編)

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作家
18/07/30 08:24(更新日時)

物語

わたし水越沙耶香(仮名)はスカウトした麗奈と共に暮らしながらモデルは二年目そして新たに官能作家の道を歩むことになるが隣の部屋に麗奈の後輩早紀が引っ越してきたからたいへん。
朝は淫らにフェラチオで起こされ三角関係はますます広がる。
しかし麗奈は私の担当をはずれ代わりに担当するのはお堅い真面目な美少女。また舞先生の教室に通いながら新たに築かれる性欲に餓えた人妻たち……。
さらに私をヘッドハンディングやスカウトしようとする女装レズ雑誌の美女やAV業界、テレビ局など。私はさらに道に迷い葛藤するなか性の道を模索する。
麗奈に黙り女装SMクラブ“ヴィーナ”の女王様(見習い)としても活動していく。

物語は前回からそのままの正当な続編。
女装小説ではありますがLGBTや性同一性障害などではなく著者が女性や女性的なモノに憧れる作品です。
何度も言いますが誤解なきよう願います。

17/12/08 07:46 追記
ちなみに著者は前シリーズ同様に男性です。

登場人物紹介

水越沙耶香(♂)
ソフトサディストの性癖を持つ女装。麗奈にスカウトされそのまま沙耶香として同居。サディストではあるが本格的なSMは実は苦手。だが麗奈や早紀から愛され神無月社長の女装SMクラブ“ヴィーナ”で女王様(見習い)も兼任。

矢口麗奈
沙耶香をスカウトした張本人。もとレズ。

ニノ宮早紀
麗奈の後輩。まだ未熟。

18/01/16 05:50 追記
登場人物追加設定

冴木流菜(るな)
麗奈や沙耶香が通うフィットネスクラブに通う人妻。沙耶香とセックスをしサインを求めるが実は彼女は……。

美如月愛那(みさらぎあいな)
麗奈に代わり沙耶香の担当になった早紀より年下。実は沙耶香の学生および郷里時代を知り下着泥棒をされた被害者。ただし個人的感情の怨恨はないらしいが……。

本田透子(透・♂)
早紀に過去にいじめられた女装初心者。

No.2571700 17/12/06 06:06(スレ作成日時)

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No.101 18/01/06 05:27
作家 

神無月舞は思う。
理沙や綾香を相手してた時までは自制していたのに奈々や麻由からはやや自制心が取れなくなった。戸惑いがありいまもそれはショーツの内のぺニスを通し伝わる。
評価は自分を含め彼女たちがすることを沙耶香は知らない。
女王様になるつもりがないならそれもまた構わない……。
はむはむんむんぐと唾液を垂らし肉棒を口内に含む。射精を何度かしてるにも関わらず熱く堅く美味しい……。女性と男性の匂いが混ざり溶け合う。
「あ……ッ」
瞬間口内の中で肉棒の先から熱いモノがちいさく弾けた。精液のちいさな塊が口内や喉を襲う。
イッた……。美味しい。
「はあ……んぅ」
彼女は答えた。
「どうしました?」
「別に……」
イッたことを沙耶香は彼女には責めない。快感だけに耐えている癖があるのは以前と変わらない。風吹先生とのカウンセリングでも時おり早漏や遅漏あるいは相手によって射精のタイミングの違いから悩み葛藤している。
内面がナイーブかつデリケート。
そう思った時だ。
「もういいわ」
「ハイ……」
いくら女装であっても男性。フェラチオで何度もイッてはむしろ責め苦かもしれない。
そんな思いなど知らずに私は神無月社長に一度唇を交わし余裕を取り戻したかった。
「ああ……」
「んぅ……」
「唾液……」
「ハイ……」
互いの唾液が混じり粘りながら時おり床に滴り私の股間の男性器はまたむくむくと復活した。
もうこれで最後にしてほしい。ふと思いいたる。私は神無月社長にお尻を向けさせ湿った淫唇を見つめしゃぶりついた。
「あ……ああ…ん」
「綺麗……」
「ああ……」
綺麗な赤貝を求めるように舌を這わし唾液と淫らな愛液で濡らした。ぴちゃぴちゃと音が室内に伝わる。
淫らな匂いに肉棒はショーツの内で勃起し犯したい欲望が芽生えた。ガシッと腰を掴みショーツの内にある淫唇に肉棒の先を触れさせた時にそれは裏切られた。
ダメ!と。
「なんでですか」
「ごめんなさい。おま○こはダメなの。お尻ならいくらでも犯していいから!」
「意味がわかりません」
「……沙耶香さんわかって」
何をわかれと言うのかこの時はわからなかったが懇願するような強い拒否の姿勢があった。
しかたなく私は菊の穴に舌や指を使い肉棒が受け入れられるように慣らした。
アナルセックスである。

No.102 18/01/06 15:55
作家 

これができ損ないのサディストなら淫肉を容赦なく襲うだろう。
だけど私にはそれはできないようだ。劣情や性欲はあっても女性が望まないような性行為をしてはいけない不文律が無意識下にある。
女装して憧れの対象や存在が望まないセックスをしてしまっては“ただの男”……。
“残念ね”
また沙耶香が答えたが神無月舞がなぜアナルセックスしか求めないか後にそれを知るがまだ先の話……。
不本意な気持ちではあるがショーツの脇から出た牡と化した肉棒をゆっくり美しく淫靡な菊の花に押しやる。彼女の表情が快感と苦痛に歪む。
「っ……はあ……」
アナルセックスにやはり慣れているのか挿入自体は以前と変わらずスムーズ。かといってアヌスが緩いことはない。
ぐっと肉棒をお尻の肉圧で締めてきて女性器とはちがう感触が襲う。しかも当の女性器から淫液が滴りベッドを容赦なく汚している。
「っ……」
彼女の意図がわからないがそれでも腰は性欲に動きブラウスからの揺れる胸や陰毛を湿らせる淫花に手を這わす。
「あ……ッ……」
「はあ……」
気持ちを整え麻由とは違い慣れたお尻だからか安定感があった。女性器に挿入したい思いがそのまま腰を激しく動かす性欲につながる。
パンパン!と肌と肌が触れ合いアヌスの内のなかでぺニスは肉棒と化し膨らみをおぼえる。たびたび行為の後に醒めた身体のはずだが何度も熱くなる……。
「ああ……ン!!」
彼女の悲鳴にも似た叫声がベッドルームに響く。
ふと気づく。
綾香から始まり理沙、奈々、麻由そして神無月舞社長と計五回五人との行為にSMそのものはない。あくまで女装レズという名のセックス。もちろんセックスのなか(ホモやレズなど)には互いのサドやマゾの行為が成り立てばそれはSMともいえる。
そっと私は挿入したかった淫花に手を這わし淫豆は剥れており熱い……。
「あ……ッ……!はあはあ」
過呼吸のような吐息が神無月舞から漏れる。淫花そのものが不感症ということはないのに。
疑問のあるセックスだった。
「ッ……はあはあ」
「ンぅ……」
私はやむなく一度腰を離し騎乗位に彼女を求めた。馬のまま従い犯し犯されたくらいこちらが被虐的に思えばやる気は損なわれない。ソフトサディストか男としてかはわからない。
濡れてる。
美しく綺麗な淫花を見つめアヌスに女装の男根が再び挿入された。

No.103 18/01/07 05:06
作家 

湿った淫唇を前にしアヌスに女装の私の肉棒が肉をかき分けるように挿入され神無月舞の表情が歪む。
馬になる。もちろんほんとの馬ではないがサディストはマゾヒストの気持ちを知らねばならない。
根元から男性器が折れるのではとお尻の肉圧を破る音が肌を通し伝わる。
「んぅ……」
「ああ……」
「大丈夫?沙耶香さん」
彼女の方から挿入し終えた途端に腰を振ったために男性器が折れそうに感じた。
「はあ。大丈夫」
「そう……」
ぐっと腰を掴みながら馬のようにアヌスの快感を確かめながら上下左右に振ると彼女は痛みと共に苦悶した。
「っ……あ!」
「ああ……はあはあ」
体力はいくぶん持ち直したものの限界を越えさらにその上の限界をいっている。身体がもってるのがふしぎなほど。
「っ……」
右手で腰を支え左手で淫唇に手を這わした。愛液が臀部にまで滴りさながら蜜のように絡む。女性器に挿入したい思いがあったが指を淫唇にそっと弄る。
「んあ……きゃ…」
「指くらい挿入(い)れさせて」
「ああ…はい……」
複雑な表情の彼女だった。自らの陰部に何かあるのだろうか。とろとろと淫液はアヌスからの性的快感と痛みに伴うように垂れてゆく。
熱い……。
アナルセックスの身体同士の触れ合いが下半身から熱くなるのが伝わる。肌と肌が触れ合う。
しかし愛情あるセックスだろうかか。神無月舞の考えがわからない。
ああ……と亀頭に痛みが宿りそれが根元への射精感に伝わる。繰り返した射精に身体が耐えられない。
「イキます」
「ああ……イッて」
淫唇より乳房に目がいきそのまま上体を起き上がらせ彼女を抱いた。両の腕で抱き腰を揺らせベッドを軋ませる。アヌスを破らんばかりに肉棒は熱く大きい。
「スゴい……」
「ああ……く」
「はあはあ……沙耶香さま……」
「ん……」
沙耶香様と呼ばれながらも口づけを交わす。しかし時にはキスは余計に射精をうながす。
下半身が別の生き物のようになり熱く性的快感が迸る。
どくんどくん脈打ちながら彼女のアヌスに女の装いをした牡の精液が放たれた。
「イクっ……!く……」
「ああ……」
「はあはあ……」
「んぅ……」
何度目かの射精に再び私は意識を失った。しかし神無月舞の身体を抱きながら母性溢れるあたたかさが残っていた。
吐息が耳に残った。

No.104 18/01/07 20:41
作家 

……さん…さやかさん……。
気づくとベッドの上で眠っていた。目を開けるとそこには早紀と奈々たち四人のメイドがいた。
「……いま何時?」
あれだけ性行為をしたのに私は時間を気にしていた。朝の九時くらいですと綾香の大人びた表情が答えた。
九時?
つまりはこの屋敷にきてから昨夜の夜にたずねてから半日ほど性行為をしていたことになる。奈々はのぞきこむように言う。
「お加減はいかがですか」
「……まだ少し眠いけど帰らないと」
「無茶ですよ。あんなにセックスしといて」
早紀の言うことはもっともで彼女は気遣いながらもメイドたちを睨む。
「早紀様の言うことはわかりますが私どもは沙耶香様の意思を優先しますが」
「あなたね」
麻由は挑戦的に早紀に意見した。私の意思を優先?施しじゃないこれ。
ゆっくり身体を起き上がらせると私は自らの体に衣服や下着が一枚もないことに気づき慌てた。
「な、なんで裸なの!?」
早紀や奈々は顔を赤らめるなか理沙が答えた。
「神無月様の指示でしたので」
「ふ、服と下着ちょうだい!!」
男であるにも関わらず私は少女のような辱しめに布団に身体を隠した。
「社長なに考えてるんですかね」
早紀の他人事のような言葉をよそに私の衣服や下着がクリーニングされたのを持ってきて着替えることができ安堵した。
はあ……と自然なため息がこぼれながら言う。
「帰ってかまいませんよね」
四人のメイドはそれぞれいろいろな表情を浮かべた。理沙は目を逸らし奈々は名残り惜しそうに綾香はツンとし麻由だけは言葉をかけた。
「帰るのはかまいませんが私と奈々については返事はいただけませんか」
少し上から目線なのが彼女の素顔らしい。
お友だちからというありきたりな返事をする私に早紀は少し口を尖らす。
「どこの世界に身体の関係からのお友だちがあるんですか」
去年私をつまみ食いした彼女が言うことではない。とりあえず軽食を用意され六人で食事を囲んだ。どうもこの屋敷では自由になることは少ないらしい。
食事を終え玄関の前まで案内されると神無月社長の姿があった。
「お帰りになられるのですね」
「自由にならない不自由なのは好みません」
本音だった。女王様になれば不自由かもしれない。
「沙耶香様。ですが私から呼ばれた時は来てください」
言葉はそれだけだった。

No.105 18/01/08 04:56
作家 

先に失礼しますね。
リムジンから早紀が下りマンションに向かうのを見送る。こういうことをしてると後ろめたい気持ちがよぎる。
ちいさく吐息が出るのを四人のメイドはそれぞれの顔で見つめるなかアプローチしてきたのは麻由。
「いつでも連絡してかまいませんか」
「構わないわ」
「麻由さんずるい」
「ずるいもないわ。ちゃんと沙耶香さんとお友だちになっただけ」
ならあたしもと奈々は内気な表情を浮かべながら手を挙げた。そこへ早紀からメールが来た。
“麗奈静かです。寝てるんでしょうか?”
“ありがとう。ゆっくり休んで”と返した。短い文章でも礼はつける習慣があるのは根は“異性に優しい男性”だからか。
失礼するねとマンションからたぶん見えないであろう住宅地の影からリムジンを下りて向かう。私が進むとリムジンはそっと動き姿が消えた。
神無月舞たちがいかなる評価をしたかはわからないまま部屋の前に着くと隣から早紀がちらっと目を出した。
「ただいま……」
そっと扉を開けるとさすがにリビングや食卓の上では寝てないが例によりビール瓶におつまみがあった。以前よりは控えてるようで安心したと思った時に麗奈の部屋の扉が開いた。
「おかえり……」
「ただいま。ね、寝ててよかったのに」
「取材してたの?」
「う、うん」
どこに?と迂闊に聞かれ私はメイドたちから手渡された菓子折りを渡した。近隣県の名物である。
「本当に取材だったんだ。お茶する」
うなずき露ほどに疑ってないのだろうか。彼女がどこまでを浮気(?)としているか私にはわからない。
「てっきり早紀とでもデートかなと思ったけど違ったようね」
背中越しの彼女の言葉は勘がいいのを物語るようだがお茶はすんなり出された。笑ってごまかした。
「お出かけする?」
「日曜なら」
「取材だったものね」
クスリとも明るいような嫌味を少し含んだような笑みで判別がつかない。お茶をし少し眠るねとだけ断り麗奈の顔を見るのを後にした。
この時彼女は思う。
沙耶香が何かしら変わりはじめている……。もちろんモデルや作家(見習い)が悪いわけではない。しかたなく彼女は早紀にメールをした。
“出かけない?”
これには隣の早紀もちょっとぎょっとしたが断ると不自然に思われるのが嫌だったらしくふたりして出かけたらしかった。寝息を私はしていた。

No.106 18/01/08 06:00
作家 

麗奈の誕生日は五月、なんとなくだが男の子ぽい。強気なせいか。
私の誕生日は十一月、寒い時期に入る頃。だから暑いのは苦手。
早紀の誕生日は二月、本人はバレンタインだから女の子どうこうと言っていた。
誕生日や時期によってひとがどう生まれるかはわからないが何らかの作用や影響はあるかもしれない。
取材自体はフィットネスクラブで主にニ十代や主婦たちから続けていた。
取材してわかるのは彼女たちは満たされている生活のはずなのに愚痴や不満がある。旦那さんが相手してくれないことや主婦になり時間をもて余したり子どもへのそれぞれの教育や躾、まだ肌やスタイルの変化に伴う女性としての悩みなど。
彼女たちは『クロスドレッシング ボーイ→ガール』で載った短編小説では主人公の真琴がどうなるか興味があるらしかった。
そもそも連載ものか短編で終わるかはわからないので答えは保留。身体を動かし汗をかきながら性欲にとらわれないように頭を真っ白にしながら作品の構想を練ったりモデルとしての仕事に備える。撮影は五月下旬予定と美如月は伝えてきた。
久しぶりのモデルとしての仕事に心が躍らないわけはなかった。
少し私が笑みした時に声がした。
「沙耶香さん少しいい?」
「冴木さん」
「流菜でいいわ」
お茶しないと誘われ以前に反故したこともあり私は誘われたが自宅に招かれるとは思わなかった。二階建て(一部屋根裏部屋らしいの三階)の大きな住宅だった。
どうぞ、と車から下ろされリビングに招かれた。主婦らしい所帯じみた雰囲気があるが彼女の若々しい雰囲気もあり主婦じみてはさほどなかった。
「なあに?緊張してる」
「ええ……」
麗奈や早紀たち独身女性に慣れているが人妻や主婦に慣れていない。官能小説でも人妻などは魅力的に書かれているから。
「最近主人が仕事に忙しくて」
「はあ」
クラブでもたびたび旦那さんに相手されない主婦への返事には困る。そういえば麗奈を相手にした夜はいつだったか。
「それにしても沙耶香さんの小説はおもしろいわ。まるで沙耶香さんそのまま」
ほめられているのだろうか。彼女はそのままクラブ帰りの身体の胸をさりげなくシャツ越しにチラ見させた。
「うふふ可愛い」
「からかわないでください」
誘惑されてると思うがすぐさま帰るとは言えない甘美な雰囲気があり気づくと頬に触れられた。

No.107 18/01/08 15:09
作家 

ああ……溶けそう蕩けそう。
流菜との口づけで私の股間はショーツやパンツの中でいつになく激しく勃起していた。人妻のフェロモンはさながら魅力ある蜜のように誘い身体が熱くなっていた。
「はぁ……んむ。れろ……沙耶香さんの唾おいしい……」
「はあはあ……」
「ウフ。女の子みたいな男の子みたい。それとも男の娘(こ)かしら……」
妖しい笑みに私は童貞の頃みたいにすでに興奮していたようだ。キスだけで薄い布地のショーツの内はパンパンに勃起していた。彼女の瞳は母性に溢れて乳の匂いにふと安らぎをおぼえていた。
「ああ……」
彼女の手はパンツの股間を這いそっと陰部を撫でてきてそれだけでイキそうになる。人妻の指は柔らかく細いなかに淫靡な手触りがあった。
「ああ……やめて」
彼女は私が苦悶するのを眺めながらお茶を口にし再びキスを交わした。
「やめていいの?沙耶香さんのここはどうしたいのかしら」
「っ……んぅ」
性欲に身体を動かしたい劣情が内にありながら理性は耐えようとしていた。クラブで散々身体を動かしたのに性欲というのは絶え間がないようだ。
流菜は言う。
「いきなりキスしてゴメンなさい。だけど主人とは……ご無沙汰なの。わかるでしょう?」
「ん……んぅ……」
「それに沙耶香さんも沙耶香さんの作品も素敵。あなたは真琴くんに自分を重ねて書いたんじゃないの」
流菜の表情は一番の理解者と言わんばかりのような魅惑的な魅力があるように思えた。
「そ、そんなこと……」
「ウフ、だけどここはもうギンギンね。聞いたけど同居してる女性ともご無沙汰でしょう」
麗奈とは互いに仕事モードになってからはほとんど身体を交じわせることない日々が続いていた。早紀ともだ。
「……そんなこと」
私の内には沙耶香もいるがサディストの内に少し少年に近い思いもあった。
「私が慰めてあげる。……んぅ…」
「んぅ……ああ」
キスを三度交わしながら身体が蕩けそうでパンツの中のショーツはすでにカウパー液がやらしい匂いを漂わす。彼女は汗で湿るパンツを脱がし女の装いのショーツを露にした。
「あ……いや……」
「だけどここはそんなこと言ってないわ」
髪をかき分けながら彼女はソファーに座る私を巧みに誘惑していく。柔らかい胸元や魅力的な太腿が足をとらえる。
人妻の魅力。半ば取材と思おうとした。

No.108 18/01/09 05:04
作家 

これは取材だからと半ば言い聞かせようとした。いわば性欲に負けたのだ……。
びくんびくんと刺繍のあるTバックショーツで膨らむ男性器を琉菜に撫でられながら身体が熱く震えていた。
「ああ……ン」
「可愛い。沙耶香さんと一度してみたかった」
「ああ……」
以前媚薬に苛まされた以上に人妻の魅力が私を襲う。吐息が興奮からかこぼれないなか彼女は衣服を脱いで魅惑的な下着を露にする。
「下着好き?」
「……んぅ」
「いいのよ。触って」
扇情的な黒いブラジャーにたわわに実る乳房からは乳くさい匂いが鼻腔を突きそっと手に触れた。
あたたかく柔らかい。
「あ……イケないひと」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ。優しくして」
女の装いしてる私だが彼女はマザコンであることを見抜いているような妖しい笑みをした。
ちゅうちゅうと私は乳首や乳房に甘える女の子のように吸い付いた。女装とか関係なく男はマザコンかもしれない。
「ン……寂しかったの。沙耶香さん」
「ン……んぅ…あ…ン」
「ここは立派な男の子……」
互いに下着姿になりながら夕方前の情事を過ごす。まだ夏にもならない日差しがリビングや緑ある芝生を照らしていく。
日常のなかの非日常かつ色香ある淫靡な昼間。
琉菜は頬を撫でキスをする。
「女の装いをしてる男の子には立派……。これで何人女性にイケないことをしたかしら」
「そんな……」
ふと気づく。
舞先生の時と同じように“私の内の沙耶香”は何も言わない。答えない。
なぜ?とも思うなか意識は性欲に奪われる。
「ああ……冴木さん」
「琉菜、琉菜と呼んで」
「琉菜さん」
身体が熱く疼きが止まらずショーツのなかで肉棒は震えるようだ。
琉菜は私の下半身に顔を向け吐息をかける。
「ああ……やらしい」
「や、やだ……」
「すごい。パンパン」
睾丸はクロッチの中で膨らむ。仕事モードで性欲が満足に満たされなかったせいかわからない。
んちゅんちゅ……。
琉菜の紅のルージュがぺニスにキスをした。吐息がこぼれる。
「ッ……あ…はあはあ」
「感じてる。欲求不満かしら」
「そんなことは……」
「だけどオチ×チ×、クリトリスはしたいて言ってるわ」
女装者は女性的な淫語に弱い。ぺニスをクリトリスと表現されたら気持ちは女性に扇情的になってしまう。

No.109 18/01/09 07:46
作家 

最近垢抜けたわ。
麗奈に今年度に入ってから言われた言葉が不意に白い頭の内によぎる。
下着や洋服が大胆になったとも彼女は言った。Tバックや肩だしの衣服とか。そしてこう言った。
女の子になりたいんじゃないの?女性化してるみたい。
そうかもしれない。
身体がではなく気持ちが。
「んぅ……」
「沙耶香さん……?泣いてるの?」
え、と気づく。自らの頬になぜか涙が伝う。慌て指ですくう。
「ううん。なんでもない」
「可愛い」
チュッとキスをされ私の内の勃起がさらに高まる。人妻の誘惑に勝てそうにない。
女の装いした牡でありオトコだから。
なぜか沙耶香の声が聞こえない。なぜ?
そんな疑問をよそに流奈は愛撫し身体を湿らせ濡らす。
「ん……はあ」
「ちゃんとえっちしてる?」
「ん……んぅ」
まるで母性に包まれているみたいな抱擁に身体を預けうなずく。
「クリトリス素敵ね。ん……」
ちゅうちゅうとショーツから突き出た亀頭を舌で愛撫され悶えた。呼吸が激しい。
「あ……ああン」
フェラでありクンニでもある行為に私は感じる。まるで少女のように。
「いいのよ。だけどお姉さんにもしてね」
ソファーに彼女は私を寝かせて69の姿勢になり扇情的な黒いショーツの内に淫らな匂いを放ち花唇や草原が見えた。
「ああ……」
「知ってるでしょう?オマ×コ」
「ん……んぅ」
「はっきり言っていいのよ」
オマ×コと恥じらいながら口にし柔らかいショーツの生地にキスをし愛液が湿り口に伝わる。
「ん……いいわ」
「はあはあ……」
「我慢してるのね。かわいそう。ここはセックスしたいて涙を流してるわ」
「んぅ……」
私もまた人妻たち同様に満たされてないのだろうか。あれほど麗奈や早紀たちで満たされているはずなのに。
だがそんな疑問より目の前の異性の魅力的な肢体にとらわれていた。
人妻の肉感ある乳房、ウェスト、丸いお尻、色香あるランジェリーに背徳感があった。まるで女王にかしずく下僕のよう。
皮肉にもサディストの裏返しである疑似的なマゾヒストの気持ちが表面にあらわれてしまう。
女性として愛されることを知ってしまったかのよう……。
ちゅるちゅるんぐんぐと流奈は躊躇いなくショーツから出たぺニスに唾液や口内で愛し舐める。ただのフェラやクンニではないバキューム。

No.110 18/01/09 15:09
作家 

じゅるじゅると卑猥な音を立てられイクのを感じ腰がソファーの上で跳ねた。
どぴゅどぴゅと下半身がなくなるような快感が身体に感じ流菜は振り返った。
「沙耶香さん。ちゃんと最後まで射精してる。すごい溜まりよう」
「ああ……」
吐息を交えながら思わず胸が傷つくような感じがあった。実は私は相手が誰であろうと最後まで射精することは少ない。
たぶん去年の関係だけでもたぶん指で数えるくらいしか最後まで射精してない。いつも出し尽くす寸前で意識して止めることもしばしば……。
「はあはあ……」
「ちゃんと出さないと身体がかわいそう」
「っ……」
彼女はじゅるじゅると音を立てながら肉棒を吸い付くし睾丸まで舌や唇で愛撫していく。ただ舐めてるのではなく睾丸からの毛細血管の臭いからも精を吸うように。
あまりの性的快感に声や呼吸は混じり蕩けあう。
「あらあらダウン?まだこれからよ」
「ああ……」
まるで逆レイプされてるような感覚に身体は支配されていく。官能小説やAVの痴女のようだ。
身体の熱さや疼きは止まらない。意識して止まるものではない。
はあはあと吐息しかこぼれなくリードしようとする気持ちがあまり湧かない。だけど性欲はあり舌を彼女の淫唇につけた。
「ん……」
「はあ…んむ」
「まるでレズしてるみたい……」
れろれろと水を求める子猫や子犬のような気分だった。だけど子猫や子犬は性欲はあっても極端には発情しないだろう。
いつもの疑似的なマゾな気持ちではなく流菜に飼われる小動物みたいな気持ちが宿っていたかも知れない。
人妻が持つ包容力か魅力はわからないが身体はただ満足を求めていた。
牡に近い女の装いの男……。
“バカ……!”
瞬間私の内の“沙耶香”がいままで応えなかったのに応えた。
え……。
なにがバカなのか。この時の私はわからないままだった。後に大変な間違いをすでにしていたことに。
「沙耶香さん。もっとして」
ハイと劣情に流されていたことなど知る由もない。女装は男性女性どちらの側にも立てない存在。それを知りながらこの時の私はそれから逃げていたかもしれない。
淫唇に漂う牝臭にただ誘われていた。
流菜の魅力的な魔惑のような肢体にただむしゃぶり求めていた。

No.111 18/01/10 15:35
作家 

流菜はほくそ笑む。
この人は私のとりこ、精を吸い尽くすだけ吸い尽くしてあげる。
それにしてもと思う。
女装で女性にオチ×コが生えたみたいでそこはいいんだけど大きさはせいぜい並か並より少し物足りないくらいみたい。同居してるらしい彼女はこんなので満足かしら?だけど味見はいいのよね。
「沙耶香さん挿入(い)れたい?」
「は、ハイ……」
「ならちゃんと言ってみて」
しばし黙る沙耶香に流菜は肉棒を弄り無理矢理言わせる。
「言いなさい、変態」
「は、ハイ。冴木さんの……」
「名前、流菜……よ」
「る、流菜さんのおま×こに私のオチ×チ×を挿入(い)れさせてください……」
マゾなのかしらと思いながら彼女は69の姿勢から騎乗位になり自らの秘唇を淫らに見せつける。
たいしたことなかったらがっかりだわとも思うが妖艶な笑みの内に隠される。
「ああ……」
「うふふ、お姉さんが沙耶香さんのオチ×コをいただくわね。ん……」
掌で踊るような女装者の肉棒をやんわりと弄ぶようにしながらもびくんびくんと動く様は男の牡なところ。女装でも変わらない。
濡れ湿った淫唇はさながら食中花のようにぱっくりやらしく開き沙耶香の肉棒を容赦なく挿入していく淫らな音が室内に伝わる。ぐちゅぐちゅ……。
「あ……ああ」
牝臭の匂いに誘われた沙耶香の表情の内に童貞少年にも似た若さが少し見えた。
可愛いんだけどバカな男と思いながらゆっくり挿入し性的快感が電流のように脳内に伝わった時だ。
え……、とわずかにアクメを越えるオルガスムスみたいなものが身体を一瞬突き抜けては消えた。
「……んぅ…はあ」
一瞬自分がいつになく感じたことに流菜は意外に思えた。
なんなのかしら?
まあいいわ。
「はあはあ……」
沙耶香からは吐息しかこぼれない。キスやフェラ程度で感じるだけだらしない。
「動くわよ。ん……れろれろ……」
キスを求めると甘えるように舌を出してきた。女装でも所詮は男はやはり隠せない。膣内の肉棒もたいして感じないはずだけど。
え……?
瞬間膣内で襞に包んだはずの肉棒が射精に至ってないのに膨らみ大きさが変わり脳内に電流が走り痺れたよう。
気のせいかしら。
「ああ……」
「動くから。すぐにイッてはダメよ」
自分から腰を動かしソファーが軋む。ふつうのセックスじゃない。

No.112 18/01/10 20:14
作家 

私は流菜の魅力にとらわれていた……。
豊かな乳房、ルージュの唇、煌めくような妖しい瞳、淫らに濡れた花唇、まるいお尻……。花唇に挿入された瞬間にイクことはないものの身体は熱くたまらなかった。
日常の中にある情事に私は迷い込んでいた。熱い身体のはずでセックスに淫らに溺れていた……。
「ああ……んぅ」
「そう。ゆっくり私を受け入れて……んぅ…はあ…っ」
私の男性器を受け入れた彼女が肉棒の膨らみに何かを感じたことに私自身は気づかない。
ただ膣内の無数の襞に包まれ母性を感じていた。人妻という他人の女性という背徳感がたまらない。彼女は豊かな乳房に私の手を招き揉むように誘う。
「んぅ……はあ。沙耶香さんたら」
「やだ……」
「揉まれてるのは私よ。えっちね」
些細な言葉のやり取りでも勃起を熱く感じた。ルイのような名器ではないが経験豊かな人妻のフェロモン、魅力的な下着姿や肢体に牡の興奮があった。ソファーが軋み昼間の日差しが庭からリビングに注ぐ。どこからか主婦たちの声が聞こえる。
「ああ……女装て素敵ね」
「んぅ……やだ」
ソフトサディストの私はレズでいうネコになっていた。ただ甘え喘ぐタチにいいように弄ばれるネコ。
まるで本当のレズの感覚だった。白く桃色で淫靡な女性同士の戯れ……。
「凄い、タママ×コが大きいわ。やらしい」
「やだ……」
騎乗位のまま後ろ手に彼女はショーツに包まれた睾丸に触れられ羞恥心が芽生える。
ぎしぎしとソファーが揺れるなか身体はただ性的興奮を求める。
「ああ……い、イキそう……」
いつもの私なら相手からリードを奪い相手が気持ちよくなることを思うはずだが流菜に支配された私はどうでもよかった。
「っ……あ…はあ…ン」
流菜は吐息に隠れながらこの人また?と膣内で肉棒がどくんと脈打つのを感じた。
「いいわ。イキなさい」
「はい……」
肉棒がただ射精したい衝動にとらわれ額や髪を汗や体液が濡らせ湿らせていた。ソファーは互いの体液で湿る。
「い、イッちゃう……!?イク……!」
瞬間唇を奪われ乳房の感触や身体から人妻のフェロモンが支配し膣内に精液が迸った!身体が緊張し痙攣し睾丸から絶え間なく牡の液が出た。
「あ……は…ぁン……」
流菜はやや絶頂にいたらないものの牡の精液を受け止めた。
たいしたことないわと薄く笑みした…。

No.113 18/01/11 05:44
作家 

情事を終え気づいた時には夕方近くになっていた。汗を拭き着替え終えた時だった。
「いまさらだけどサインいただけないかしら」
「サインですか」
「『クロスドレッシング』の新進気鋭の作家さんの」
彼女は色紙となにか大学ノートみたいを出して二回私にサインを求めた。サラサラと沙耶香の名だけを書いたが彼女は大学ノートに本名もと付け加えた。本名を書くのは気が引けたがしかたなく記した。
「ありがとう」
「……はあ」
「本当ならお茶をご馳走したいけどもうそろそろ主人が帰ってくるのでお暇してくれる?」
「ああ……はい」
なんだろう?妙な違和感を感じながら「またね」と彼女のお宅を後にした。
お買い物しないと慌てタクシーを拾い町に戻り買い物し帰ったら麗奈と早紀が仲睦まじく料理していたのが意外に思えた。
「ただいま……てやるのに」
「あら?おかえり。いつも沙耶香にやってもらったら悪いわ」
「いつもご馳走になってますか」
早紀は玄関にいる私の手を引きながら嗅ぎなれない匂いがあることに気づいたらしかった。クンクンと鼻を鳴らす。
「あれ?こんな香水してました」
「なあに。また誰かとえっちした」
あれ?と麗奈にしてはめずらしく目を丸くしたような表情をした。
「な、なに」
「いやむかしどこかで知ったような匂いな感じだけど。気のせいよね」
「気のせいじゃない」
う〜んと彼女はなにか少しひっかかるような表情をしたがすぐさま夕食に取りかかった。早紀は言う。
「人妻につまみ食いされました?」とぽつり。ちいさく笑みしごまかした。
今夜の夕食はお好み焼き。鉄板で直に焼きながら豚玉やイカ玉など。お好み焼きパーティー。
ヘラで返しながら早紀は思い出したように言う。
「あ、撮影は五月下旬になりましたよ」
「私の?」
「他に誰がいるの」
ふたりしてクスリと笑みされ去年からお仕事がなかったんだからしかたない。だけどと麗奈はちらっと見つめる。
「愛那とやって大丈夫かしら」
「あたしにですか?沙耶香さんにですか」
両方と彼女は言う。
「沙耶香撮影むちゃぶりされないといいけど」
「むちゃぶり?」
「企画AVみたいなのだったらまだ構わないけど」
この時の彼女の懸念がなんだったか私にはわからなかった。
「早紀頼んだわよ」
心許ない早紀の表情も少し見え気になる。

No.114 18/01/11 17:14
作家 

まだですか?
あたたかい日差しがマンションに差し込むなかスマホには早紀からのlineが入り私は返信する
まだよ。
五月下旬の撮影週末金曜日。
女装生活は肌の手入れやスキンケア、かんたんなメイクなどでも手抜きは許されない(まあセックスの後は手抜きもありだけど)。
麗奈はここのところまた忙しく男の娘(こ)たちの取材や来年度の新雑誌プロジェクトですでにてんてこまいな毎日。神無月社長の思惑だろうなと思う。
私も麗奈も彼女の掌で踊らされているのは否めないが麗奈はわかってるのか不安にもなる。準備はあらかじめ一週間前ほどからしていた。
ちなみに麗奈の誕生日には彼女は会社での同僚たちが催したパーティーに私が参加する形になったがマンションに戻った時は早紀を加えた三人でささやかにお祝いした。
結局私がプレゼントしたのはショッピングモール内のランジェリーショップでの下着と彼女が好きなアーティストのCDアルバムのふたつ程度。
女装してても異性にあげるプレゼントは悩むもの。アクセサリーでもよかったが金属類は高い。私のオトコとしての趣味のフィギュアなどと同じ。
まだですか?
スマホにまた返信された早紀の文面に呆れながらバッグや自前の衣装や下着を入れた旅行カバンを持つ。
あ……とリップが少し歪みハンカチで拭い扉を開けた。
「急かさないで!もうリップがゆがんだでしょう」
「……どれだけ時間かかるんですか」
「女装なのわかってるでしょう」
扉の向こうで待っていた早紀の方がオトコみたいで立場が逆転してる。
いってきますと寝てるであろう麗奈に言いマンションを後にした。
「はあ」
「もう急かすから」
「日帰りの撮影ですから一分一秒が惜しいんです」
バスに乗りながらあらためてスケジュールを聞かされた。撮影してはコーディネートや休憩のひっきりなしのスケジュール。
バスを駅前で乗り換え双星出版前のバス停で降りるとそこには小中型のバスがニ、三台。スタッフに混じり愛那の真面目そうな表情が目に入った。
おはようございますと私は挨拶した。
「……おはようございます。今日はちゃんと私の指示に従ってください」
「……はい」
「沙耶香さんにそんな口の聞き方して」
「ファーストは私です。二ノ宮先輩」
気まずい雰囲気のなか双星出版のフロアを見ると神無月社長の人影が見えた。

No.115 18/01/11 19:43
作家 

双星出版のあるフロアーの社長室らしい部屋から神無月社長らしい人影が見えた。
たいした上階ではないがあちらからこちらは小人のように見えるだろう。内心が男の時の私は何事も自分の存在も俯瞰や客観視してしまうがこの時すでに神無月社長は私いや私たちに降りかかる禍いを知っていたかもしれない……。
「ちゃんと皆さんいますか?」
撮影の主導はあくまでカメラマンにあり顔見知りの白鳥さんであることに安堵しなくもない。そもそも今日よりも前に何度も足しげくコーディネートはされてきたのだから。
ハーイと女子高生のグループに似た声が今回の撮影に立ち会う早紀たちから上がるがこの時私は愛那を甘く見ていた。それは先んじてあらわれた。バスに乗る時に彼女は私の手を引き席の隣が空いており早紀を誘うとしたがあからさまに別の女性を隣に座らせた。
「沙耶香さんっ」
「早紀先輩は別のバスに乗ってくださいね」
しずしずと彼女が別のバスに乗る姿が見え男の私でも露骨な嫌がらせに感じた。私が見つめると彼女はちいさく見つめ返し言う。
「どうかしましたか」
「いえ」
左隣に座る女性社員は独り言を装い呟く。
気をつけて、彼女のせいで業界を去った女装モデルは多くいますと。
「……あなた」
「麗奈さんも大切な時だから問題を起こさないでください」
「名前は」
忠告らしい伝えを言ったこの女性は名を名乗ることはないがどこか浮き世離れしていた雰囲気。最近のタレントなら雛蜜(壇蜜さん)みたいな女性に似ていた。
バスは走りだし街を出て高速道路に乗り朝の太陽のなか突き抜けるよう。そんななか愛那は言う。
「女性のなかにいて緊張してるんですか」
「ええ」
「そのわりにここは堅いようだけど」
開放的なホットパンツの淫部の膨らみを彼女はめざとく挑発する。
「な、なんなの」
「別に」
少し沈黙したかと思うと彼女は眼鏡の内の瞳を輝かす。
「お仕事以外で勃起するなんてしょせんは男ですね」
「あなたね」
見かけによらず私は挑発に乗ってしまう。私の女装モデルとなった“水越沙耶香”には程遠い。左隣の女性はそっと手をやり落ち着かせた。
「……」
「ふん。名前もおぼえられないやりチン」
また挑発する愛那だが私たちバスの一行はサービスエリアで小休止に入り一息ついた。
早紀は慌て私に駆けてきた。大丈夫でしたかと。

No.116 18/01/12 05:40
作家 

トイレを済ませ私は早紀に聞いてみた。
「女の子て名前を覚えてもらえないのはショックなこと?」
「愛那さんのことですか。彼女内気なわりにけっこう根に持つタイプですから。それでつぶされた女装モデルもいますが一方で彼女のおかげでいろいろ芽が出た人たちいるから重宝されてるようです」
複雑な早紀の表情は後輩に先を越された悔しさや実績が物語る。
「なら頑張りましょう。ね、早紀さん」
「はい……なら抱いてください」
身障者用の共同トイレに連れ込まれあることを彼女はさらに言う。それはあらかじめ私も知っていたこと。唇を重ねた時だ。
「そういえば美紀さんと祐さんAV業界から引退したそうですね」
「んぅ……うん」
麗奈の誕生パーティーと時を同じくらいな頃に突如AV業界やアダルトサイトをついこの前騒がした。
“早乙女美紀、前原祐引退!?”
正直ふたりのファンだった私は驚きがあった。
「沙耶香さんショック?」
「まあね」
身体に触れながら麗奈の誕生パーティー直後だったこともありふたりが出演したAV作品には突然なことにプレミアがついたり店頭(通信販売店含み)から瞬く間に消え手に入れらたのはほんのニ、三枚くらい。
早紀は私を便座に座らせフェラチオをしようとしていた。
「勃ってる。ヌイてた方がいいかもしれません。美紀さん程うまくないけど」
そう呟いた時だった。私と彼女のスマホが震動しトイレの扉が叩かれ声がした。
「沙耶香さんいるんでしょう?早紀さんも」
「な、なんで」
「あの堅物」
早紀が憎々しげに呟きながら服装を整え私たちはやむ無く行為をやめトイレを出た途端に叱責された。
「なにやってるの!?どうせつまみ食いでしょう」
「ふん」
「ファーストの私になにその態度?なまいき」
「ま、待って。早紀さんを誘ったの私。責めるなら私を責めて」
愛那はじっと私を見つめ返し言う。
「庇うのは二ノ宮先輩のためになりません。いいですか?移動中の性行為をしたらあなたを男性と公然とバラしますよ」
「そんな」
「女装モデルが男性と知れあげくにハレンチな行為をマスコミが知ったらどうなるか去年知りましたよね」
嫌なことを思い出させ私はうなだれた。さんざん傷ついたことを。
程なくバスは出て県境を抜け高速を降りて着いたのは鮮やかな空と海の砂浜だった。

No.117 18/01/13 06:00
作家 

海岸沿いにバスが止まりスタッフたちが機材を下ろすなか私も手伝う。
「沙耶香さんたら」
「なに」
「モデルだからしなくていいのに」
「モデルだからしなくてはいいかもしれないけど重たいモノくらいは持てるから」
愛那は私と早紀の会話をおもしろくなさそうに見つめるが撮影の準備が波が繰り返される砂浜のなか早紀がなにかきょろきょろしてるのに気づく。
「じっとして」
「はい……」
メイクに言われコーディネートする衣装を選ぶのは愛那が差し出したのはビキニの赤い水着。
「着替えてくださいね」
ハイと素直に従うなかバスのなかで着替え終わると早紀がこの辺をあちこち歩いていたように見え声をかけた。
「誰か探してるの」
「ま、まさか。あたしは沙耶香さん一筋です!」
なんとなくごまかしが見えるなか撮影と聞きつけた近所の人達や朝の通勤通学な人達がめざとく見つけ私は思わず気恥ずかしくなる時にサラリーマンのグループが声をかけた。
「沙耶香さん?」
え、と思うが数人いたサラリーマンのグループが寄ってきて慌て早紀の背に隠れたが彼らは言う。
「あ!早紀さんいつもお世話になっております。撮影?」
「ああ。ハイ」
目を丸くする私に早紀は囁き言う。去年のパーティーで会った先輩モデルたちだと。
「え、ええ!?」
彼らは女装名をヒロミ、だんご、キョウコと名乗るが普段は男性として暮らしていると言い普段女装してる私を羨ましいと口々に言った。
「それより担当は二ノ宮さん?」
「いえあたしではなく愛那さんです」
その名を聞いた途端に彼らは少し青ざめた。
「無茶ぶりさせられるわよ沙耶香さん」
「なんのこと」
「すぐにわかるわよ」
「だけど芽が出たひともいるけど彼女が担当になってつぶれたひともいるから」
がんばってねと女装モデルの彼らは仕事があるらしく男の姿のままでオネェ言葉で去っていた。普段はちゃんと男らしい。
「なにやってるんですか」
「いま行くわ」
愛那の小柄な身体のわりによく通る声が砂浜に伝わり私と早紀は向かう。
まずはいつもの試し撮影、次にいろいろなカメラを使う。
本番直前に愛那が言う。
「勃起させてください」
「ええ!?」
「できないならあたしが感じさせてあげます」
彼女は木陰に誘いながら身体に手を這わした。朝で人がいるなかなのに……。

No.118 18/01/13 12:16
作家 

なんで勃たせるの!?
私は軽い憤りを感じながらもすでに水着越しにぺニスに手をやる彼女に問うとバカにしたように返された。
「あたしたちの雑誌は女性が主な読者です。年頃や倦怠期の女性たちが見たいの現実にない虚構の淫らな性世界。去年企画AVに出演してわからないのですか」
「だからて」
反論しようとすると先ほどヒロミたちに聞いた無茶ぶりを聞かされた。
「勃起するのは構いませんが射精はしないでください」
「そんな無茶な。あ……ン」
「水着でも感じるのですね」
しゅっしゅっと木陰に隠れながら初夏に近いあたたかい太陽と海風という自然に囲まれる背徳感に感じていた。
「ぼ、勃起くらいすぐにするから」
「なんです?」
「や、やめて……」
ツンと澄ました表情のなか彼女は言う。
「矢口さんや二ノ宮さんに触らせてあたしが触ってはいけないのですか」
「あなたね」
「あなたではなく美如月愛那です」
「み、美如月さん……」
名前を呼んだのに彼女は事も無げにぺニスを手コキしむくむくと熱く堅く勃起させていく。吐息が荒い。
「な、なんでこんなこと……」
するのと言い終わらない内に彼女は堅くなった肉棒から手を離す。
「いいですか?萎えるのは勝手ですが勃起は維持してください」
「そんなむりよ」
「男なのに、ですか」
くっと奥歯を噛むような悔しさが宿り彼女は私の表情を見ながら木陰から先に出る。肉棒を水着の内にしまいながら歩こうとした途端に水着のポリエステルの感触がぺニス、睾丸、太腿などに擦れ感じるなか早紀が側にきた。
「すみません。スタッフに呼ばれましたので」
「……はあ。早紀さん」
「はい」
「いままで撮影中に必要以上に勃起を求める編集はいた?」
私の言葉に早紀はスタッフに交じる愛那に気づく。
「無茶ぶりさせられたんですか!?」
「か、身体に触れちゃダメ。イクから……」
水着を汚せば損害もあるから迂闊に射精してはいけないと理性が働く。
「あたしが見過ごさなければ……すみません」
「謝るよりちゃんと撮影をして……」
砂浜に足が一歩一歩進むたびにポリエステルの水着の感触が気持ちいい。
「愛那さんに文句を」
「いまはやめて」
いざこざが起きれば撮影時間がよけい長引くだけ。まして野外の撮影は一日だけ。早紀の表情に若さと苦悩を感じた。

No.119 18/01/14 15:23
作家 

白い砂浜とあたたかい初夏の陽射し、白い雲が蒼い海に映るなか撮影が始まる。
さいわいギャラリーは少なくなったがビキニの水着で勃起をし女装の姿が人目に晒されるのは恥ずかしくも少しつらい。ギャラリーのなかから声がした。
「美人ね。モデルさん?」
「なんでも女装らしいわよ。ほら去年ワイドショーをアダルトDVDの卑猥な話題で騒がした」
わずかに心に伝わるように傷つく表現が耳にいたい。
撮影中はお静かに願います、と早紀やスタッフの声がしやや鎮まったが勃起を維持するのはふつうに大変かつ無理からぬこと。
「ラクにして」
カメラマンの白鳥さんは笑みしながらも勃起云々については指示はないよう。美如月さんの独断だろうかと思うなか彼女は私を厳しく見つめる。
「髪を後ろ手に上げて」
「はい」
「少し女性ぽくなった?」
「そうですか」
先ほど会ったヒロミたちは両親や家族に内緒にしながらホルモン注射はしてるらしいと耳にした。前回の物語を読んだ読者は承知ながらわかるが私は身体にほとんど手を加えていない。全身脱毛程度のみくらい。
そんな会話に愛那は口を挟む。
タイム、ちょっと待ってくださいと。
「いまカメラのテスト中」
「沙耶香さんのぺニスが萎えてきてます」
「ち、ちょっと」
「なに萎えてるんですか」
「ま、待ってよ!雑誌に載る時はボカシが入るでしょう。ずっと勃起させる必要はないでしょう」
私の言い分に彼女はわずかに舌打ちらしい口の動きをした。
「で、ですが先ほども言いましたように女性読者が見たい被写体を見せるのがモデルのお仕事です」
「それは理解するわ。だけど必要のない勃起が必要かしら」
なにかにぷつんとキレるなにかを彼女の内に不意に感じた時だった。
「あなたは私の言う通りにしてください!業界から消えたいんですか」
「な、なにを」
「とにかくオチ×チ×を勃たせて」
水着を脱がさんばかりに彼女は私のぺニスを手にしギャラリーがまだいるなか手に触れた。慌て早紀が気づき割って入った。
「沙耶香さんやギャラリーを困らせてなにをしてるの!見なさい、ギャラリーの人達引いてるし警察に通報されるわ。許可を取ったのは午前中だけでしょう」
「く……」
今度は愛那が悔しがるような表情があった。眼鏡の奥の瞳に複雑な色が見える気がした。
愛那は私をどうしたいのか。

No.120 18/01/14 21:19
作家 

午前中の水着での撮影は散々だった。
ビキニやワンピース、パレオなど水着が着れるのは嬉しかったがカメラマンの白鳥さんと美如月愛那そして早紀が着替えや撮るたびに揉めた。そのせいにはしたくないがいささかカメラ映りに不出来な表情を残し心残りがあるが愛那はとりあえず満足していた様子だった。
あんなのでいいの?
そう思いながら地元の有名な定食屋で昼食休憩をする時も早紀は辺りをきょろきょろし呼びかけた。
「誰か探してるの」
「別にそんな」
「ふたりとも席を確保しましたから。早く」
愛那が店先にまで呼びにきて会話が続かない。定食屋では地元産の秋刀魚の塩焼きを頼み少々時期は早いが実はしっかりして美味だった。
しかし愛那は嫌味のように見つめ返し言う。
「精力をつけて二ノ宮先輩とえっちするつもりかと思いましたが違いましたね」
「あなたね」
「美如月愛那、あ・い・な」
「美如月さん」
「なに」
年齢的には早紀よりは若いことを考えたら無闇に文句を言い本気で傷つけでもしたら男性としての立場はなくなるし後々のことを考えたらどうなるかわからない。やむ無く私は黙った。
「何も言えないんですね」
「美如月」
「構わないから」
早紀と彼女がいざこざを起こせば社内で問題になるだろうから必死に抑えた。名前や顔を去年覚えなかったことがいけなかったのか、美如月愛那の小柄かつ少し幼い理知的な表情からは何も読み取れないでいた。
もどかしい。言いたいことを言えばいいと思いながらもそれを口にしたら撮影自体なくなる可能性もある。
カメラマンの白鳥さんたちもこちらをうかがいながらも何もできないでいる。
久しぶりの撮影なのに。
午後から気持ちを切り替える必要あると思うし私個人としては女心を知りたい旨もあり女装として生きている。
謙虚にしないとと思った。
しかし早紀と愛那が向かい合わせに火花を散らしてるようで秋刀魚の味が途中わからなくなった。
ごちそうさま、と私は女性たちの間から先に出て少し町の方をのぞいた。
隣の県で少々田舎の雰囲気があるがよく見たら少し昭和的なアダルトな界隈が路地裏にあるらしいのを見つけた。
ふと看板に気づく。
「女装カフェ、バー?」
やや錆びがある看板で名前は読みにくい。
「ふぇちくぃーん……」
そっとのぞいてみることにした。

No.121 18/01/15 05:41
作家 

入るとそこはアダルトグッズショップを兼ねた喫茶店もしくは夜はバーを兼ねたお店のようだった。
いらっしゃいませ。
ちいさな声で少し背筋がびくっとしたがカウンターには年下の女性、いやよく見たら中性的な女装もしくは男の娘(こ)に近い店員がいた。バイトだろうか。
「こんにちは」
こんにちは、と丁寧に返しながらも彼ないし彼女は誰かに似ていた。
アダルトショップですか?とたずねるとアダルトショップを兼ねた女装やガールズバーと答えが返ってきた。食後であったためにミルクティーをカウンターで注文し店内のアダルトグッズを眺めた。
ランジェリーやオナホ、コンドームなどがカラフルにディスプレイされ雰囲気は昭和な感じ。そもそもいまの時代アダルトグッズはAVショップか通信販売でしか売られてない。私自身も地元にいた頃に二、三度たずねただけで気づいた時には地元のアダルトショップはつぶれていた。
出されたミルクティーは紅茶、ミルクと丁寧に分けられ上品そうな感じがまずストレートな紅茶に砂糖を加えると美味しい味がした。
「昼間は喫茶店なんですね?」
「はい」
中性的な感じでいかにも早紀好みな感じがする若い子。女性は少年やショタとかこういうのに弱いらしいと思う。
ミルクを加えミルクティーにすると甘い味が先ほどまでのストレスや嫌な思いを少し解消した。
あの、と彼は私に確認するようにたずねた。
「『クロスドレッシング』の沙耶香さん……ですよね」
「あ、ハイ。そうよ」
「昨年は大変だったみたいですね。今朝の撮影も少し見させてもらいました」
ありがとう、と礼を伝えた。アダルトショップだから女装雑誌が並んでいる。『クロスドレッシング』以外にも双星出版のライバル新星出版の雑誌もあった。
そこへスマホから早紀の声がした。
「もしもし沙耶香さん。どこにいるんですか?」
「ゴメン、ちょっとお茶してた。すぐに戻るから」
お代を渡し手頃なサイズのコンドームを一箱手にしお店を後にした。
「また来るわ」
「ありがとうございます、お待ちしてます」
何か後ろ髪に引かれる思いがしながら路地裏から再び町の通りに出るとバスの前で早紀や愛那たちが待っていた。
「なにしてたんです」
「お茶と……ちょっとこれを」
コンドームを見せると愛那は口を尖らす。
「ふけつです」
バスは再び走り出した。

No.122 18/01/15 09:05
作家 

次にバスが向かうのは郊外の山の方。山にある川や木々のなかで撮影するという。
例によって早紀は別のバスに乗らされ私の隣には愛那ともうひとりの女性。私は愛那に問う。
「私が嫌いなの?」
「仕事ですから個人的感情はありません」
「そのわりにはムキになってない」
なってませんという声が小型のバスを揺らすほどにした。
明らかに個人的感情があるように見受けられたが女心は目に見えるほどにわからない。
バスは川のそばについて再び機材を下ろしバスのなかで私は夏色の下着やワンピースに着替えメイク係が化粧を施す。
「はあ」
「疲れましたか」
「いえ」
メイク係の女性は優しく接するが愛那の態度はツンツンしており取り扱い注意という表現が浮かび消えた。
まわりは山々に囲まれ上流に近い川の流れが心地よく耳に伝わる。
ありがとう、とメイクを終えワンピースを汚さない程度に身体を動かし早紀の側に寄った。
「さっきはどこにいたんですか」
「お茶してた」
「ナンパですか」
「ひとりよ」
ふと先ほどアダルトショップにいた男の娘(こ)と早紀の雰囲気が重なる感じがしたが気のせい?そこへ愛那がまたやって来た。
「撮影します」
「は〜い」
「返事はハイです」
ハイ、と返し川に下りていき撮影が再び始まる。スカートの裾を持ったり翻したり胸元を映したり女装であっても女性らしく撮影してもらえることに笑みし心にメモを残す。
“女性らしく女装であること”
無意識な言葉の意味は直接はなにかにつながらないが別ななにかにつながるかもしれない。
しかし私の内の沙耶香はあらわれたりあらわれなかったり不確かな存在。女性化が内に進んでいるのかはわからない。
清楚な夏色のワンピースを着ていてもアダルト雑誌。えっちな場面は求められる。
「スカートをあげて、お嬢様みたいに」
「……ハイ」
こういう時は自然に恥じらう。スカートの内の左右の足を風が抜けるたびに女性という存在はなんてえっちかと思う。
“麗奈のいうとおり女性化かも……”
不意に忘れかけた時に内から沙耶香の声が伝わり消えた……。
しかしここでも愛那は無茶な要求をしてきた。
再び勃起させますと。
「自分でできるわ」
「異性に触られた方が気持ちいいはずです」
「なにもあなたにされたいわけじゃ」
瞬間平手打ちが頬に飛んだ。

No.123 18/01/15 15:04
作家 

愛那の口の動きが私にだけあることを伝えてきた。
“し・た・ぎ・ど・ろ・ぼ・う”
下着泥棒ですよね?沙耶香さん。
一瞬忘れていた記憶が脳裏によぎる。
それは学生時代に故郷にいた頃にとある家のベランダに忍び込んだ若い男の子時代の自らの姿。
「あなた……あなたいったい……」
呆然自失とする私に愛那は初めて眼鏡を外し少し大人びた笑みをした。
「あたしはあなたの二学年下の後輩。あなたがそのむかし故郷の本屋で女装雑誌を立ち読みしたり購入したりまた下着女装を密かにしていたことなど。……故郷○○県にいた当時のことはよく知っているひとりです」
淡々と澄ました大人びた表情で語る彼女に私は髪が真っ白になりそうな思いで見つめていた。
「美如月愛那、○○県立○○高等学校の後輩でした」
「……な、なんで」
「誤解なきよういえば私がこの業界に入ったのは○○先輩が女装することを知ったからです」
彼女の甘い女性らしく鋭い声が山々からの風に乗り木々や川の音に混じりながら私の胸の内に刺さるように伝わった。
「だ、だからて」
「いまは私の言う通りにしてください。別にいまさらあなたを警察に突き出すつもりはありませんから」
そこへ「なにしてるの?」と早紀やスタッフたちが寄ってきて私は口を開きかけたが動かなかった。下着泥棒をしてたなんて知れたら……早紀たちに軽蔑されることが脳内を覆う。
「な、なんでもないから」
「だけどいま見てた。叩かれたでしょう。叩いたでしょう」
「ええ、ただ我が儘なモデルを指導していただけです。ですよね?」
え、ええ……と曖昧に頷く私の前で愛那は再び眼鏡をかけながら皆に指示した。
「撮影再開しましょう」
「だけど」
「ファーストは私です。二ノ宮先輩はスタッフのフォローを願います」
「わかったわ」
早紀のもとスケバンらしい鋭い瞳が愛那と私を短く凝視した。
撮影は再開された。
ただし愛那の手による愛撫による勃起をもって。
「……あなたはいったい私をどうしたいの」
早紀やスタッフたちに聞こえないように問う。
「いまは黙って変態なオチ×チ×を勃たせてください。では」
勃たせるだけして彼女は何事もなかったかのように早紀たちのもとに戻り私の姿は川辺に淫らな姿で笑みしポーズしていた。
初夏のあたたかい陽射しは裏腹に醜い過去が身体の内にあった。

No.124 18/01/15 19:25
作家 

久しぶりの撮影は散々たる気分で夕方を迎えた。
早紀の目にも撮影自体は笑顔は終えたものの沙耶香からはいつもの明るい覇気は今朝と違いまるでなかった。さいわい射精して衣装や水着を汚すことはないまでもモデルは衣装やファッションの話題が好きなはずなのにそんな話題さえも再び県内の町中に戻るまでほぼ口を聞かなかったという。
昼食を取った町で沙耶香がバスを降りたことに早紀は気づき慌て降りた。
「二ノ宮先輩は私と一緒に来て手伝ってください」
「断る。モデルさんを不愉快にさせるような人の仕事のフォローはしたくないから」
「私はただちょっとこの町で気になる女装がいたから。少し興味があるから。早紀さんは帰っても」
嫌です、美如月は帰って。お疲れ様と明らかに拒絶と沙耶香が同じ女装者に興味を持ったことに食指が複雑に働きながら三台のバスを見送った。
バス中で愛菜は悔しがるように窓から見送るだけだった……。
あとで吠え面を掻かないことです。
そんなことも知らずに早紀は沙耶香に顔を向けた。
「お疲れ様でした。あたしが未熟なばかりで久しぶりの撮影に嫌な思いをさせて」
「自業自得なの。彼女との……」
珍しく沙耶香が言い淀む。比較的誰との肉体関係があっても浮気と言われない限りは堂々としていてそれなりに関係は割り切るのに。
それよりと話題を変えた。
「沙耶香さんが興味ある女装者はこの町にいるんですか?昼間のことですよね」
「え、ええ」
しかし彼女は知らなかった。早紀もまたかつての過去と向き合うことになろうとはわかるわけもない。
すでに町に日は落ち夜に看板や街灯が灯る。地方の田舎に近い町でもそれは変わらない。
「フェチクィーン?あれですか」
聞いたことない名前だった。早紀は多くの取材をこなしてるつもりだったが自分の知らない女装専門のお店があったとは。
「可愛い女装、男の娘(こ)がいたの」
「同性愛に目覚めたんですか」
からかいにちがう、とムキになる沙耶香は扉を開けて先に入り後に続いた。
いらっしゅいませ!
瞬間早紀は沙耶香が言った女装子が目の前にいることに気づき自らの目を疑った。
それはかつてのスケバン時代に散々いじめた下級生のひとりであったことは忘れるわけもない。
「二ノ宮センパイっ!?」
「透くん!?」
ふたりの声に店内は一時静かになった。

No.125 18/01/16 04:52
作家 

フェチクィーンなるアダルトショップもしくは喫茶店あるいは女装バーのバイトの男性名は本田透であり女装名は透子。
彼ないし彼女はそのむかしスケバン時代の二ノ宮早紀にいじめられ女装させられた経験から女装に目覚めいまは郷里を出てここ○×県で昼間は男性としてスーパーなどでバイト、夜はフェチクィーンで女装してバイトしているという。
フェチクィーンのママないしマスターはバードンといういささか女装というよりはオバサンめいた怪獣みたいなひと……。性別不明?
バードンは語る。
「この子が行くところがなくて近くのアパートで世話を見てあげてるの。あ、言っとくけど身体の関係はないから」
アハハ!と豪快に笑いながら悪いひとではないらしいが私が懸念したのは透子が早紀に怨恨の感情や気持ちを持ってないかということ。いじめられ女装させられた経験は官能小説などでも人物に思いもよらぬトラウマやトラウマをもとにした性癖を与えるらしい。
「センパイのおかげでいまはこうして透子として夜は生きています」
「怒ってないの?いいのよ。罵ろうが怒ろうがなにしても」
「セックスもですか」
一瞬軽蔑の感情が早紀にも私にも少しだけ表情に出たかもしれないが肩透かしを喰らう。
「冗談です。女装してちがう自分を発見できただけでも幸せなんです。親は知りませんけど」
親にはたぶん適当なことを伝え誤魔化してる環境が見えた。
「透くんじゃなくて透子さんは早紀さんに恨みや憎しみはないの」
あえて第三者が聞くことではないかもしれないが聞かずにはいれなかった。
「ええ、ありません。はじめはたしかに女の子の下着や洋服を着てエッチして悦びも悩みもありましたけど」
「沙耶香さん」
早紀の表情にも複雑さがうかがえた。女装や異性装は本人にしかわからない悩みや葛藤があり私は透子に重ねなくもない。
このお店には朝方に出会ったヒロミたちの遊び場や女装のストレス解消になっているらしかった。
「もうなに辛気くさい話してるの?飲みましょう!」
「わ、私は飲めないから」
「ひとくちだけよ」
やむなくビールを口に苦い味が喉に広がる。バードンのママさんは正体不明すぎる。
私はヒロミたちに囲まれながら今日のことを語り早紀は透子と昔ばなしや近況を話をしていた。

No.126 18/01/16 06:46
作家 

早紀と透子が昔ばなしで話題が盛り上がるなか私はヒロミたちに囲まれ彼女たちから愛那について聞いたあるいは聞かされた。
「撮影中イカなかった?」
「それは大丈夫でしたが彼女はいつもああなのです?」
担当編集が何ヵ月か何年担当するかは外部の人間にはわからない。たまたま麗奈が昨年だけだったか。だんごは言う。
「無茶ぶりは彼女の武器。ママ、雑誌借りるわよ」
『クロスドレッシング』を手にして愛那が担当した女装モデルのページを見せる。一見ふつうなようだがはたと気づきモデルの股間は勃起されボカされているが見る人が見ればカウパー液らしい残痕(?)らしい液ぽいのはモデルの性器から少し垂れていた。それに。
「私もこんな顔をしていたかも……」
モデルの表情は苦悶と快楽のなか笑みしてる。さっきまでの自分が重なる。
「だけど」
「だけど?」
目を丸くする私に彼女たちは口々に言う。
「美如月さんのおかげでアダルトビデオに出たりテレビや他雑誌に出ることもあるの」
「他の雑誌は成人雑誌以外なら取材はアリだから」
「そんな手腕が」
あるように思えないが強引な実力を秘めているような感じは撮影中に感じた。ただでさえ私は学生時代や郷里時代を知られている……。
彼女たちは語る。
「だけれど美如月さんの強引なやり方で業界を去る人も一方で多くいるのもほんと」
「何かと私たちに無茶ぶりしたりスケジュールを入れたりするし」
「そうですか……」
少々疲れと共に力が抜けた。が彼女は私にこうも言う。
「昨年矢口さんがあなたに企画AVの企画をしたのは美如月に取られないようにしたとも言えるわね」
「守ったてこと?」
ええと彼女は私が昨年目立ったことには意図し触れないようにしながら頷いた。
「麗奈が私のために」
呟きがこぼれた。
雑誌の世界は担当と本人の相性や互いの思いやりは大切と聞く。時に飴と鞭を与えることはあるがそこでいざこざが起これば互いに両者に益はないともいう。
昨年浮き足立っていた私の裏側でそんなことがあったとは露にも知らなかった。同時に同業者の彼女たちから情報を得たことに感謝した。
「ありがとうございます。教えていただいて」
「まあ私たちは仲間だしライバルよ。美醜もあるけど」
少しドキッとした。心の美醜を言われたと勘違いしかけたからだ。
夜は更けていく。

No.127 18/01/16 08:29
作家 

……あたまいたい。
ふと目覚めると隣には早紀の可愛い寝顔だがぎょっとした。
ここは……と気づいた時には声がした。
「おはようございます。よく眠れましたか」
「と、透くん?透子さん……?」
「昨夜はお仕事もあったのにわざわざウチの店、バードンママのお店に寄って疲れたでしょう?お茶淹れますね」
「あ……ありがとう」
見ると彼女はTシャツにズボンと男らしいファッションとわかりこれからバイトと言い昨夜は早紀と昔ばなしに花を咲かせまた私はヒロミたちと女装の話題で盛り上がり気づいた時には寝てしまい透子はふたりを自分のアパートに泊めたらしい。
お茶で喉を潤し顔を洗面台を使わせてもらい礼をあらためて言う。
「いえこちらも楽しかったです」
「早紀さんを起こさないと」
「センパイ疲れてるみたいですからゆっくりさせてください」
布団の中での早紀はスヤスヤと寝息しふと気づき下半身に手をした。
「センパイも私もえっちなことはしてませんし私も男色の気はありませんから」
安心はするものの日帰りのはずなのに私のしたことから一泊してしまいスマホを確認するとニ、三回メールがあった。
“早紀とお泊まり?”
“地方でハメを外さないこと。これモデルの常識”
“帰宅前には必ず電話かメールすること。お姉さんを困らせないこと”
文面はそれなりにふつうだが表現のなかにちいさな怒りや嫉妬があるように思え吐息が出た。
「どうかしました」
「いや」
軽く差し障り程度に事情を説明すると麗奈や早紀と暮らしていることを羨ましがられた。
「センパイ楽しくやってるんですね。それに沙耶香さんも女装しての生活て楽しそう」
「苦労あるよ?人並みもだけどそれ以外にも」
「それでも羨ましいです」
愛那よりはやや幼く少年の面影があり瞳は素直な輝きを示していたので夢を壊さない程度に配慮する程度にとどめた。
「あ、すみません。そろそろ出ないと。冷蔵庫のなかは自由に使って食べてください。鍵はポストにでも置いてください。失礼します」
いってきますと透子ないし透は男性の姿でアパートを後にした。湯呑みの湯気だけが残った。
早紀が目覚めたのはそれから一、二時間ほどだった。
おはようございますと。
「おはよう。後輩くんお仕事だって」
「透……あ」
後輩を気にかける表情が少し印象に残った。

No.128 18/01/16 13:46
作家 

ふたりしてお茶をし冷蔵庫の中のモノは自由にしていいらしいことと部屋の鍵について伝えると少し複雑な顔があった。
「恨まれると思ったのに。ちょっと気が引けますね……」
本心だろうけどもしも私なら多少は怨恨はあるだろう。ただでさえ愛那は私の過去を映す存在であらわれた。
「とりあえずご飯する?」
冷蔵庫の中を使うことについて彼女は気が引けるらしく早々と部屋を後にしたいらしかった。
透子(透)の部屋の雰囲気は男女半分という感じでいかに私が麗奈にわがままを許されてるかわかった。
朝食は町の表通りにあるふつうの喫茶店でモーニングを頼んだ。早紀は昨日の私についてたずねた。
「様子がおかしかったですよね?」
「ああ……」
一瞬迷った末に口にすることにした。過去に女装に目覚めた際には郷里で下着泥棒を数回し愛那がその被害者だったこと。
下着泥棒!?
彼女の声に店内にいた数人の客が振り向き口を塞いだ。
「シーっ」
「あ、すみません」
「お願いだから大事にしないで」
すみませんと頭を下げた彼女はふとあることに気づき顔に指をやりあるモノを抜いた。
「いたっ……」
「ヒゲ、脱毛したのに」
一本小さいヒゲを見せながら感心したように呟きがあった。よけいなお世話なのに。
オトコと呟く早紀。やれやれ。
「麗奈さんに言います?」
「私の過去は言うけど美如月さんがしゃべったことは言わない」
「なんでそう異性に優しいんですか」
「別にそういうわけでは」
早紀にしたら異性を庇い甘やかしてるように見えるらしい。美如月の出方が見えないだけに困る。モーニングを食べ終え歩きながらにふつうに平凡で猥雑な町と思う。だけど空気は都会とちがい澄んでいた。
「帰りましょう」
早紀は妙に早く帰りたい雰囲気があるが待ってと町並みに目をやる。
「透くんとママさん、ヒロミさんたちに何かお礼しないと」
「そんなの……」
「嫌かもしれないけどゆうべは楽しんだでしょう。鍵を彼に返さないと」
町の土産物屋でこことはちがうお菓子を選びまずはメモにあった透くんのバイト先をたずねた。
「いらっしゃっいませ。センパイ……沙耶香さん」
こんにちは、少しいい?と断り彼が小休止の許しを得るのを待つ間も早紀は落ち着かない様子。
もしかして彼に惚れていたのだろうか。あちこち取材してたこと気にする。

No.129 18/01/16 18:28
作家 

すみません待たせてと透は礼儀正しく言ったが早紀は駄々をこねる子供のよう。気にせず私は菓子折りを渡した。
「お世話になったから。つまらないものだけど」
「ありがとうございます」
「あとこれはバードンなママさんとヒロミさんたちにも荷物になるけど」
同じ菓子折りで申し訳ないながらも彼は嫌な顔をせずに受け取りながら早紀を気にするようだ。
「早紀さん。彼に何か言うことないの?」
「別に……」
「むかしのことは昨夜水やアルコールに流したんでしょうに」
彼女は恥じらいながらポツリと呟くように言う。
「よかったらウチの雑誌で透の、透子を使ってあげるから……」
「センパイ」
「いつもはこんなこと言う子じゃないのにすみません」
いえと私と早紀を見比べるようにし彼は仕事に戻らないといけなく辺りを気にする素振り。
「お邪魔して悪かったわ。機会があったらこちらをたずねるから。お世話になりました」
こちらこそと彼は男女両方を使い分けてる器用さが私には感じられた。スーパーを後にし駅に向かう。さいわい在来線同士で帰れるが乗り換えは必要らしい。
近いのに遠くにいる関係……。
「まだ気にしてるの」
「気にしてません」
切符を手にし改札を抜け特急が運よく来て乗るなか彼女の表情はいつもの表情ともかつてスケバンだったらしい面影さえない少女そのものが顔に窓に薄く映る。特急は走り出し私はメールを麗奈にした。
“遅くなりましたけど今から帰ります”
ついでにわざとよけいな一文を加えた。
“早紀さんが午前中休んだようにお願い。ちゃんと連れていくから”
メールを送る私を彼女はじっと見つめた。
「なにしたんですか」
「午後には出勤できるようにしといたから。美如月さんには私からも謝るからついていく」
「ちょっといやですよ」
昼前の特急電車のなかで彼女の声は目立ちちいさくなった。吐息した私は言う。
「誤解ないように言うけど早紀さんの過去は過去。いまがあるから麗奈や私に出会えたんでしょう?いじけるなら仕事でいじける?それとも私?」
「ほんと沙耶香さんイヤミ」
「それだけ言えるなら憎まれ役くらい引き受ける度量あるから。いつもエッチでいじめてるんだから」
一見端から見たら女性同士の会話に乗客たちはちら見しながら何も言えない様子があった。
乗り換え駅にとりあえず着いた。

No.130 18/01/16 20:53
作家 

麗奈とはちがう意味で早紀は強きな女性だが私のファーストになれなかったことや美如月愛那に傷つけられたことは大きいようだ。もちろん私にも……。
乗り換え駅から最寄り駅で向かい軽く昼食を取るが会話はない。
「ちゃんと食べないと力出ないから」
「わかってます」
口で言うわりに箸は進んでない。透子もしくは透に怨恨がないだけマシとも思えないらしい。
双星出版のあるビルの一階ロビーに向かうと麗奈が双子の受付嬢の近くにおり気づくとこちらに来た。
「早紀」
「……午前中無断欠勤すみませんでした」
しばらく様子をうかがうことにしたが麗奈の返答はちがった。
「美如月が無断欠勤と言おうとしたのを私が沙耶香から事情を聞いて午後からの出勤にごまかしたわ。手間をかけて」
ほっと安堵したと思ったら麗奈の瞳が私を射抜く。
「日帰りのはずなのに一泊して何様」
「いいわけはしないけどなりゆき。だけど私も彼女もエッチはしてないから」
本当に?と聞く彼女にふたりしてハイと答えられ疚しさがないことは察したらしく安心した時に不運はやって来た。
「矢口さんの姿が見えないと思ったら朝帰りですか?」
嫌みを含みながら他の会社員やOLがいるなか愛那はちいさい身体でつかつかと進み眼鏡を輝かせた。麗奈は向き直る。
「事情は午前に説明したでしょう」
「ふたりが疚しいことをしたかもしれないのに」
一瞬麗奈はちらっと見たがはっきり答える。
「それはプライベートな範囲だわ。早紀が職場放棄、沙耶香は撮影を終えた段階で個人的用事で済むわ。早紀とチームワークを合わせられない美如月に責任あるんじゃない」
「それは……」
「その件は上で話しましょう。沙耶香は帰っていいわ」
「待って。私も立ち会わせて」
しかたないという素振りを見せながら私たちは双星出版のフロアーに向かう。神無月社長の姿が見えるなか早紀はタイムカードを押し吐息が見えた。
会議室に招かれ私、早紀、愛那についての責任について編集主任らしき女性と麗奈が席を交えた。
「さて何から議題にしましょうか」
編集主任らしい女性は一通り当事者三名を厳しく見つめるなか麗奈は意見した。
「美如月のモデル管理不行き届きについてを願います」
「待ってください。それは沙耶香さんのプライベートなはずでは」
却下と編集主任は冷たく突き放した。

No.131 18/01/16 21:13
作家 

編集主任は私にまず質問を向けた。
「今回、正しくは昨日の撮影でしたが沙耶香さんはモデルとして満足いくものでしたか?」
じっと愛那の視線が冷たく刺さり答えに迷うなか口に出した。
「満足いくかいかないかでしたら半々ということでしょうか」
どういうこと?と問い直し会議室に緊張が走るなか再び答えた。
「美如月さんの読者にたいしての姿勢は共感し得るものはあります」
沙耶香、と麗奈と早紀から驚きがこぼれるなかさらに私は所属する一モデルとして答えた。
「しかし無理矢理な勃起やモデルにプレッシャーをむやみに与える彼女のおどしに近い要求は苦痛と表現するものでした。撮影が満足いかない点はその点のみです」
なるほどと編集主任は頷いたが彼女は早紀に目を向けた。
「二ノ宮早紀、あなたはファーストである美如月がモデルに過剰な要求をしたのに止めなかったの?」
「沙耶香さんがよいと言いましたので」
「本当?」
「ハイ、彼女の要求に答えるつもりが本心は先ほど答えた通りです」
しばし編集主任の女性は考えるように瞳を一様に向けたがとりあえずの妥協案を意見した。それは強引なものなことに一同唖然とした。
「撮影やり直し」
ええ!?と麗奈以外は声に出した。私も。
「ただし今回の撮影素材で使える素材は使うこと。野外での撮影はムリだからスタジオで撮り直し、スケジュールはこちらで調整する」
冷徹かついざという時のために保険をかけていた上司らしく飴と鞭の両方の姿勢が見えたのは明らか。教師に叱られる生徒に戻った気分。
彼女はさらに次の議題を出した。
「二ノ宮早紀、午前中無断欠勤についてだけど」
「主任それは先ほど」
「矢口麗奈、無断欠勤は無断欠勤。事実を問いそれについて処分をするだけ。いいな二ノ宮早紀」
ハイと早紀は答えた。
「正しくは昨日午後から今日午前に至るまでの無断欠勤だが理由は?」
しばし早紀の瞳に迷いが見えわずかに私を見た。
「モデルである沙耶香が急用でバスを降りたためにモデルをひとりにしてはいかなる危険があるかもしれないと考え彼女をガードするためにバスを降り今日に至るため欠勤しました。連絡がなく申し訳ありません」
「沙耶香さん急用とは」
この上司はあらゆることを追求する姿勢には共感し信頼する以外にはない。結果的に処分があるなら早紀共にしかたない。

No.132 18/01/16 21:34
作家 

「個人的に気になった女装専門のお店、アダルトショップを兼ねた女装喫茶室もしくはバーがありそこに若い女装者がいましたから彼ないし彼女が気になりたずねました」
知り合い?と質問されたがいいえと否定した。主任は早紀を再び見つめた。
「モデルと一夜を仕事中にしたことについては……今回は不問にします」
「待ってください!なんですか!それは」
「モデルをひとりにし誰かがついていなければ水越沙耶香は以前のように性犯罪に遭うケースもあっただろう。なぜ美如月はそれを考えない?モデルに過剰な要求もだがモデルが安心して一日過ごせるメンタルや環境作りは編集担当の役目ではないか?」
「あたしでは不足だと」
愛那は私と主任を交互に見て拳が握られているのを理解した。が主任は言う。
「不足とは言ってない。が早紀について一日分の無断欠勤については何割か減給、また水越沙耶香についてもだが今回のモデル代は何割かカットさせていただく。よろしいですか?」
やや表現はちがうがどちらも給料に響くらしかった。やむを得ない。
ハイと頷く。
お茶を口にし主任は最後の議題に入る。
「美如月愛那、モデル水越沙耶香と良好な関係は築けていると認識しているのか否か」
「わ、私は一生懸命やろうと!悪いのは沙耶香さんです!」
「愛那!」
麗奈の私情を挟んだ声がここに来て飛んだ。堪えられなかったらしい。私は口を挟むかどうか迷ったが立ち上がった。
「悪いのが私として私はあなたの要求には一応答えた。他にどうしろと言いたいわけ……?」
声を押し殺し私は彼女の前に自らを駒として賭けに出た。最悪この方法は私自らに破滅を招くことだ。
「あ、あたしは……」
彼女が私が下着泥棒をした過去を暴露するならそれは事実として時効としても社会の目に晒されるかもしくは麗奈たち女性に軽蔑されるか、どちらにしても十字架を背負うくらいは肩に伝わった。
時計の針がどの程度回ったかわからないなか彼女は何も言えずあるいは言わないまま席に着いた。
しかし主任は私、早紀、愛那について結論を出さないといけないだろう。
「水越沙耶香の担当については私としては現状を維持としたい。ただし今後についてはわからないとだけ三人に伝える。以上、議題終了とする」
湯呑みのお茶が冷めるくらいの短く長い会議の緊張感から解放された。二度と経験したくない。

No.133 18/01/17 06:09
作家 

あくまで暫定的処置であり愛那もまた減給処分される旨であった。
短く長い会議ましてや私や早紀は旅先からそのまま会社をたずねたので疲労感がどっとあった。会議室を出る時に愛那は悔しがるように私たちいや私を見つめたようだ。
「言いたいことがあれば言えば?なぜ私の過去の所業についてあの場で言わなかったの」
「それは……」
昨日はあれだけ私やスタッフに要求をした彼女なのにまるで別人みたいに言い淀み言葉が続かない様子があった。
「過去のこと?」
麗奈が私に目を向けた際に愛那はそれさいわいに去ってしまった。女性はわからない……。がそんな挙動や仕草さえも反発を感じる相手にさえ異性の魅力は観察するかのように捉えてしまう。
「今晩にも言います。早紀さんは疲れてるもしれないけど今日できることはして……」
美味しいもの作って待ってるからとふたりに伝え私は双星出版を後にして一足先に帰宅したがぐったりして鏡を見ると表情が半分程度男性に戻った感じがした。
愛那の意図がまったく読めないしいつもの撮影より二倍三倍の疲労感が身体を支配していた。夕方近くになりお買い物に行き麗奈や早紀に美味しいものを食べさせたい気持ちだけで動いていた。
するとスーパーで舞先生と流菜とばったり会ってしまった。
「先生……流菜さん」
「あら沙耶香さんこんにちは」
フィットネスクラブの付き合いだからふたりがいても不思議はないがわざわざふたりとも自宅から離れたこの町のスーパーまで来てるのは意外に思えた。流菜は言う。
「ここは安いのね。ショッピングモールだと高いし」
「沙耶香さんこの辺?」
ええ、と答えながら舞先生はともかく流菜には妙な違和感あるいは形のない見えない気持ちみたいなのを感じたが疲れからの気のせいということにした。
人妻だし色っぽいせい。色香やフェロモンが魔惑的にとらえそうな魅力が流菜にあり対して舞先生は男性経験がなくむしろ爽やかな色気があった。
対照的にまぶしい……。
買い物を終え私はふたりと別れ結局はありきたりなカレーや刺身程度になってしまう。かといってお肉料理などだと精力つけるみたいで誤解を招く。
夕焼けが昨日見た透子たちの町と違い夏が近いはずなのに赤く暗い炎のように気のせいか見えた。すでにこの時に目に見えない水面下では危機を招く前兆はあったかもしれない。

No.134 18/01/17 11:57
作家 

時間は遡る。
沙耶香や早紀たちが撮影をしていた頃、麗奈は午前は男の娘(こ)についての取材をし来年度への新企画雑誌の大まかな概要をまとめながらも細かい煮つめはまだまだ必要。ペンを持ち時に指で回しながら思う。
社長は私の意図を知っているよう……。
スカウトされてからこの双星出版においては二十代の歳ながら中堅にいたるポジションであり上からも下からも目をつけられるところに自分はいる。彼女自身性欲や性癖を満たす相手が沙耶香までの相手を含みいたことも物語る。
小説課は比較的一見すると静かだが一方では男の娘向け雑誌のデスクも兼ねているため取材や情報は日々入る。
うまくやれてるのかしら……。
朝方にふたりが早く出たことは知っていた。沙耶香は二年目、早紀は三〜四年目。
さいわいにして沙耶香が一年目でつぶれなかったが早紀はいまだにセカンドの位置にいてまともにモデルを担当したことは少ない。
恋愛感情や性欲性癖などはプラスに生かせることもあれば反面自らの内面は足枷になることもある。
ただでさえ沙耶香は見た目はおとなしいわりに内面は確固たるかたい意思がある。がブレた時は壊れやすい脆さもあることを知っている。
「取材にいってきます」
まだ時間は昼前だが外で昼食を取りメールでとある官能作家先生にたずねますとした。
大変ね矢口さん。
独立を考えてる噂ね。
え?ほんと。
社長をライバルにしてるみたいね。
小説課やモデル課、営業課などに麗奈が独立するらしいという噂は沙耶香がスカウトされる数年前からあったらしい。
「こんにちは先生」
「やあ、原稿は仕上がってるよ」
官能小説家のひとり館田淳一郎、一見見た目はミドルティーンのおじさん。しかしその実は官能作家先生である。居間には彼の奥さまが麗奈にお茶菓子を出し招き原稿は丁寧にも原稿用紙を入れた大型の茶封筒とUSBメモリとふたつ渡す用心深さ。
麗奈は頭を下げた。
「いつも早いお仕事ありがとうございます」
「ははは、たいしたことでははないよ」
彼は若い頃から作家デビューし官能女装作品には定評もあり性やSM、性医学などにも多く精通している。細かい性描写、性医学にも触れ性に悩む読者にはファンも多い。デビューしたての沙耶香が卵の殻をつけた雛に等しい。
「今日は原稿だけかい?」
気軽に聞く気安さもあり彼女は口を開いた。

No.135 18/01/17 14:27
作家 

沙耶香の女性化。
精神面肉体面に限らず麗奈が館田先生に相談したのはこの内容だった。一年目はとりあえず過ごせたが二年目のいまあるいはこれから先については女性である麗奈は目に見えない不安があった。
いままで付き合った男性たちは性癖から同性を求めたり精神面の内面に気づき性転換した者バイセクシャルな者などいた、ふつうの男性に戻った者もいるが彼女と付き合った者のなかに麗奈を恨む者は思うほどに実は少ないが失恋に近い人生経験は幾多の不安を生む。
館田先生は言う。
「沙耶香くんのデビュー作『はじめての女の装い』また『真琴と義母と同級生のランジェリー』よく出来てたよ」
「それは以前にも聞きましたが、ありがとうございます」
「本人には伝えたかい」
いえ、と麗奈は沙耶香が自惚れることを危惧しあえて伝えていない。
まあかまわないが、とした後で彼は顎を撫でる。
「女装者の女性化は結局は本人しだいなんだよ」
いきなり結論を言われたことに驚きはしないが話の内容や順序からは飛躍していた。彼は春に掲載された沙耶香の頁、デビュー作小説の数頁だがわずかに数枚グラビアはちいさくあった。それは昨年より女性らしくなった姿があった。外面内面的にも……仮に麗奈がひいき目にしてもだ。
「人間というのは自己という個性があるが個性はひとりでは輝けないしまた対人関係がないと努力もしなければ磨かれもしない。たとえば私は作家だが作家は書く作業は孤独だがライバルがこう書いたら次に私は負けないようにこう書いて読者と一緒にお前たちを驚かせてやる!くらいの意気込みで毎回書いている」
黙って麗奈は聞く姿勢に徹した。作家は多くの知識があり取材経験もしくは実体験による人生の密度は並みの人より濃くそれは芸能界に生きる俳優女優に近い位置にいるから。
「女装や男性の女性化というのも相手やまわりより美しくなりたい女性らしくなりたいという願望はある。女性と同じように」
話は核心に至る。
「沙耶香くんの女性化女性らしくなることは自然なこと。それだけキミや早紀くんたちの影響は受けている」
「いずれは沙耶香が自分の性別に疑問を持つようになればどうなりますか」
失礼と思いながら口を挟んでしまうが質問の答えはすでに出ているようなものだ。
「自分を“女性”として受けいればそれは女性への性転換なのだよ」
耳が痛い言葉である。

No.136 18/01/18 05:07
作家 

そんなことも知らずに私はふたりが帰ってくることをカレーを作りぼんやりと待っていた。
頭のなかでひっかかていたのは愛那が私の過去を知っていたことであり気づくと生理痛みたいな頭の痛みを覚える。気づかないがそれくらい精神面が苦しかったかもしれない。
ただいま、といつものように麗奈と早紀が帰ってきたが早紀はぷんぷんしていた。
「ひどいですよ」
「なにが」
「朝帰りとかみんなに思われるし化粧は直しましたけど服は昨日のまんまだしシワだらけ」
「残ると言ったのは早紀さんだし半分は自業自得でしょう」
とりあえず文句をかわしながらも麗奈は私に顔を向けた。
「なあに麗奈さん」
「いえ……カレー?」
「うん。ありきたりで悪いけど」
なぜカレーにしたのかわからないがそうしたい気分だったからかもしれない。
ご飯にしましょう、と冷蔵庫からサラダや刺身なども出し背中を彼女に向けた。
三者三様の思惑や悩みがある食卓があるとは誰も気づかない。
麗奈は私の女性化、私は愛那が過去を知ることへの表現できない感情、早紀もまた過去と向き合ってしまったことの複雑さ。スプーンを鳴らしたり咀嚼する音だけがするなか私のスマホが鳴りメールを見るとぎょっとした。
“撮影はやり直し給料減棒!!オトコなら文句言わないで私に従ってください。へ・ん・た・い・!!”
言いたいことだけ言われため息がめずらしくこぼれる私をふたりは見つめた。
「どうかした?」
「美如月さんこれ」
「実力はあるんだけどモデルさんに対しては接し方が不器用かしら」
当たらずとも遠からず。麗奈は早紀を見つめる。
「こうならないように助言したのに」
「悪かったと思います。だけど……」
「沙耶香のせいにしない」
ちがいます、と早紀からもまたいつもの元気がなくカレーの香ばしい匂いがするなか誰もが少々明るさがなかった。後片付けをして早紀は一度部屋に戻り風呂に入り着替えてからまた来るかもしれないと言い帰っていく。
「なにがあったの彼女、らしくない」
「……本人から聞いて。いまは私からは言えないと思う」
皮肉にも過去と向き合わないといけないことは肩に重くのし掛かる。
「お風呂入ってきたら疲れてるんでしょう」
甘えるところは甘えるようにするなか熱いお風呂のなか私は愛那の存在がふと目の前にあった。
麗奈は……。

No.137 18/01/18 07:36
作家 

ただいま……、誰もいないけど。
愛那が帰ってきたのは実はかつて早紀が去年度までに住んでいた隣町のマンション。少々割高なものの職場には電車やバスで行ける気軽さもある比較的住みやすい環境。去年ようやく親元の実家を出ることが許され小柄な身体にはウキウキな気分もあるなかぐったりした気分はやはりあった。スーパーで出来合いの白米ご飯、お総菜などで夕食をしながらぐったりしたなかにムカムカする気分が胸に渦巻く。原因は当然沙耶香に早紀であった。
いや早紀はいい。まだセカンドしかまかされていないし未熟なところはあり脅かす存在でもなく麗奈は配置変えで小説課および新部署に異動なのだから。
お茶を淹れ湯気が立つなか忌々しく呟く。
「○○先輩、いえ沙耶香さん」
許せないという言葉を口のなかで呟く。実は沙耶香は知らないが中高と学年は離れていたものの彼女は沙耶香の学生と郷里時代を五年前後ほど知っていた。
ただし沙耶香が存在感ある学生だったわけではない。もともと沙耶香の学生時代はよくいるクラスのオタクであり図書室に通う存在感は少なくちょっとしたことでほんのたまに目立つよくいる学年のひとり。
また愛那自身ももとが小柄なためか友人関係はクラスのごく小さなグループに属するが可愛いとクラスで話題にたまになる程度の存在。
だけど中高の学校や図書室で沙耶香を見かけることはいつの頃からか気づいていた。けっしてイケメンでもなく成績が特によいわけでもないが平凡さのなかに読書をしたり本を頻繁に借りている姿が印象にあった。
話しかけることはなかったがほんのちいさく思春期の愛那は動悸がいつもより動くことがあった。だけど真面目なために恋とわからないくらいの鈍さがありそれはいまも二十歳を過ぎたいまも続いていた。
逆恨みして。
事情を知る同僚からは職場で言われむしゃくしゃしていた。
「わかってるわよ」
後片付けをしてシャワーを浴びけっして魅力ある身体ではないと本人は思っているがたぶんに少女趣味のカメラマンがいれば可愛いらしいランジェリーやロリータファッションが似合うと言うだろう。だが本人は真面目にお堅くスーツしか着ない。ちなみに同僚たちは気づいているが頑なな性格のために助言さえできない。
おぼえてなさい変態沙耶香さん……。
シャワーを浴びる彼女はかつて部屋の主さえも知らずに憎々しげに唇を噛んだ。

No.138 18/01/18 14:34
作家 

お風呂に入り湯に身体をつける間私は悩んでいた。
過去を知る美如月愛那。
男性であったことを知る彼女あるいは後輩と呼ぶべき存在か。後輩と呼ぶにはあまりに未知で畏怖な存在に思えた。
お風呂から上がり身体は癒され麗奈の視線があるなかグラスを手にしジュースを注ぎ言葉を交わす余裕さえない。
言えない、下着泥棒だなんて。
“だけど言わないと。わかってるでしょう”
すれ違いに麗奈はお風呂に向かい服や下着を背を向け脱ぐ様子が見え性欲はあるが芯から熱くなるはずが理性か戸惑いかが留めてしまうなか女性としての沙耶香の部屋に入り吐息が重たい。
しばらく無言のまま甘いジュースを喉を潤すが気分がまとまらないのか味さえわからないと思った時だ。
「沙耶香いい?」
「ああ」
肯定否定ともつかない返事のまま彼女はパジャマのまま姿を見せるがわずかに胸元にお洒落なブラジャーから色香が感じふと勃起をショーツの内でした。座る彼女は言う。
「なにがあったの」
大人びた彼女の顔をまともに見られないなか見ようとするなか嫌な想像がよぎった。
最低!変態!下着泥棒したですって!?出ていきなさい!
想像や妄想は嫌な時はとことんマイナスな方向に傾けるらしい。吐息から呼吸し私は告白に口を動かした。
「実は……」
聞いてる間彼女自身もまた困惑恥じらいあるいは女性としてなど複雑に渦巻く気持ちが無数にあるくらいは伝わる。一年も共に暮らせば以心伝心に近いくらいはわかるのがむしろつらい。
だから私は去年もしたかも知れないが頭を下げた。
ごめんなさいと。
謝って済む問題ではないが最悪別れる時は別れるのだから、話を終えた途端に覚悟はふしぎとあるからふしぎなもの。
彼女は腕を振り上げ頬に掌があたり弾ける音は、寸前で止まった。
「いい沙耶香?もしくは○○くん」
罵られるかと思ったが彼女は珍しく私の本名を口にした。
「下着泥棒をした件については現実もフィクションの官能小説にもあること。だけど犯罪は犯罪、確認したいのはひとつ。いまは、大人になってからはしてないでしょう」
「あ、ハイ……はい」
「もしいまもしてたらたとえ同居人や所属モデルだろうが警察に突き出すから」
冗談とも真剣ともつかない口調や表情は最低限彼女なりの姿勢や我慢だったかもしれない。
ごめんなさい、と涙を流す以外になかった。

No.139 18/01/18 15:21
作家 

ぽろぽろと涙を流していたら次に頬が掌に弾ける音がしてベッドに頭から突っ込んでいた。
「いい加減になさい!お姉さんほんとに怒るわよ。過去は過去、いまはいまでしょう。まったくそんなに女々しかったの」
逆鱗というのに触れたのか思わず私はベッドに突っ込んだ顔を起こし彼女の顔を見ると息を荒くしていた。
「いまのは女性としての一発よ!私が彼女に代わり叩いたと思いなさい」
「はい……」
ベッドの上で叩かれた頬に掌の形が鏡台の姿見にわずかに映る。
つくづく男は弱い。男であることが弱いのか私の本質や本性なのか。
しかし麗奈はそっと掌を左右の頬にあて唇を赤くなった頬にキスをした。
「つらい思いをして仕事したんでしょう。ちゃんと本音で話して」
「うん……」
パジャマの上着を脱いで彼女は身体をくっつけあたたかく去年より少し大ききなった乳房が胸にあたる。
抱いて、と呟く彼女に背中に触れながらそのまま甘い雰囲気に浸りたい甘えたいと思うなか肩を抱きそんな思いとはまったく逆なことをした。
「ごめんなさい。いまはそんな気分になれない。ごめんなさい」
「魅力が私にない?」
「ちがう、ただ抱いていいのかどうか」
もちろん彼女が抱いてほしいという感情や気持ちが一方でわかってるのになぜか理性や性欲が困惑な迷いがあった。
麗奈はわざとしたようだった。
「沙耶香いい?いまから言うことはちゃんと聞いて」
抱かれないことにわずかに暗い瞳をしながら彼女は館田先生から聞いたことを伝えた。
「あなたは気づいてないかもしれないけど心か気持ち内面は女性化してる。さっき私を抱かなかったことがはっきりした証拠……とは言わないけど」
表現に躊躇いがあるのは抱かれなかったことへの必死の我慢からか。つい私は否定が口走る。
「ちがうわ」
「なにがよ」
「それは……」
口をつぐむ私に彼女は冷静を保ち言う。
「お互いに忙しいことを理由にしてるかもを言い訳にしたくないけど沙耶香は女性を気持ちから抱けないんじゃない?」
なんとなく核心を突くようなひどいとも取れる表現に言葉がない。
ふとよぎるのは舞先生や流菜との交わりがあって以降気づかない変化なのか。
麗奈は私の下半身に触れ陰部をパジャマ越しに撫でた。
「勃ってるのに求めないのは女として……」
キスを唇にして彼女は部屋に姿を消した。

No.140 18/01/18 18:15
作家 

スタジオ内で夏らしいBGMが流れるなか私は水着やワンピース、夏色のキャミソールにミニスカ、カットソーなどでカシャカシャとカメラが切れる音を耳にしながら思う。
精神面の女性化。
たんに私は麗奈や早紀たちから女性の仕草や動き、メイクなどの技術を参考にし生活してるだけなのに心や精神は女性になりたがってる?こんなにも彼女たちを思うのに抱けなくなった?
性的不能(インポ)ならともかく勃起はいまも衣装やランジェリーはしてるというのに。
わからない……。
“わからないの?”
わからない。
“私はあなただからわかるつもり、いえわかってるはずなのに”
撮影中に“沙耶香”は笑顔や淫靡なスマイルの内で何度も問いかける。
その様子を正面から見つめる早紀、わずかに彼女やスタッフから脇に私を厳しい視線がありながらどこか存在感が希薄な愛那。カットや休憩が入るたびに「勃起は自分でしてください」といささか投げやりな指示は入るが触れることは一切しなくなった。
恨みの感情やつらみはないのかと思う。下着泥棒をしたのは事実、それこそ訴えるなり陥れよう思うなら覚悟はあるのにまったくなにもしてこないのは腑に落ちない。
愛那について早紀はなんとなく気づいていた。
この子オナニーしてる……?
正面から脇に目を向けながら彼女はわずかに下半身のタイトスカートの陰部に指か手をちいさくそれこそ目立たないよう微妙かつ大胆に動かしているようだった。
「ハイ、もう一枚いくわね」
白鳥さんの声がスタジオに響き撮影が終わりインタビュー取材が休憩を挟み始まる。
とはいえインタビューの内容はけっして下着泥棒について愛那は触れなかった。触れれば私の沙耶香生命が終わるか双星出版の名に泥を塗るか後者とも思いながらも多少は恋愛やランジェリーフェチについては触れてきた。
「我が社のスタッフと同居して一年あまりですがどうですか」
「女性として快適に暮らさせております」
ふと気づく。
女性として答えてるのでは……。
まさかそんな。
否定する思いがありながら精神面の女性化を皮肉にもインタビューのなかで残酷に思い知る。
「待って!いまのところは使わないで」
「沙耶香さんどうしたの……?」
つい声がインタビューしてた喫茶店のなかに飛んだ。失態に気づき口を閉ざし早紀の懐疑ある瞳が見つめていた。

No.141 18/01/18 19:48
作家 

取り乱した私を早紀がとりなしたことで事なきを得た。
いつもなら慣れた対応で取材後の数日後程度に文面や表現の添削、掲載の有無などについてのことを取材中に迂闊に口に出してしまった。
これではヒステリックかつ繊細な女性のよう……いやそのまま。
愛那は口数は少ないながら奇異な瞳で見つめるだけだった。
取材ありがとうございました。お疲れ様でした。言葉は丁寧だが言葉を交わせば何か言いたげだが愛那はその場を離れた。
通常ファーストの女性はそれこそモデルを花瓶に飾られた花のように扱うがこれは私が麗奈によく扱われたと解釈できるかもしれなく麗奈の愛情や感情の一端が見えた。
早紀は私に振り返る。
「らしくなかったです」
短く端的な表現は厳しいプロの女性。なのにファーストとして私やモデルにつけない彼女。
「ごめん、ほんとらしくなかった」
あらためて喫茶店の席について残ったお茶やケーキを口につけた。
「何があったんです」
吐息が混じりながら私は麗奈から聞いたことを伝えたことに彼女もまた驚きを隠せない様子が露になった。
「女性化?精神面……だって沙耶香さんオトコなのに。だけど」
「だけどなに」
迷う彼女もまた珈琲を口にし一拍息をし声にした。
「たしかに最近の沙耶香さんは女性らしくなりました……それが原因?」
「わからない。女性になりたい気持ちのあらわれかどうか……」
だけど、と早紀は性経験ある女性として私を見つめた。ふと気づく。
妹的な存在の彼女の内に大人の女性を肌で感じたよう。そして彼女は大人としてはっきり伝えた。
「こんなこと言うのはなんですが、最近は私も麗奈さんも抱いてくれません。まるで同性、ふつうの女性のように……見えるかもしれません」
最後の言葉は遠慮がちだが女装の異性を同性と言うにはそれなりに彼女ははっきりと私を見ている答えだった。
「私が女性……」
嬉しいと思う気持ちがあるなか馬鹿なと否定する気持ちが心の表裏にあった。麗奈や早紀を抱かないのは女性としての自分に目覚めたからか。
私は……。
言葉が続かなかった。
大人になったであろう早紀は伝票を持ち背を向けた。そこにはかつてキャピキャピとはしゃいでいた彼女はいない。
同時に私の内の男性は消えたのか。
この時すでに目に見えない敵からの砲火が双星出版を揺るがしていたことは知らない。

No.142 18/01/19 05:19
作家 

見えない敵からの砲火はすでに寸前だった。
いや実は目に見えながら誰もが気づかなかったかもしれない。
初夏から本格的な夏に切り替わり雑誌の発売を控え私は『初めての女の装い』の続編を無事に書き終えながらも私、麗奈、早紀の関係は途端に醒めたものとなっていた。性欲はあるはずなのに私が彼女たちを抱けないのでは抱かなくなったからだ……。
後になって思うが彼女たちをいかに傷つけたか私は思い知る。
私と麗奈の関係は女性と女装のルームメイトでありただの同僚になりそこには肉体関係はおろか恋愛感情さえなくなりかけていた。
いってきます、と早紀が玄関で待つなか麗奈もまた差し障りない様子かつ冷静にクールにいまの関係を保つ大人の女性の背を見せた。
“男性としても見られないなんて。オトコでもなくなったのかしら”
私の内の“沙耶香”の言う通りかもしれない。BGM代わりにテレビをつけた時にそれは起きた。
『皆さんはこの方をおぼえているでしょうか?昨年卑猥な表現で物議を醸したサヤカこと水越沙耶香、彼女が所属する双星出版社以外の会社と二重契約していることがアダルト雑誌業界を賑わしています』
お茶を淹れかけふ〜んと見ていた私はふと思う。
これわたし?
サヤカとは官能作家として活躍する別名義という形でつい先日に愛那や早紀にお願いしたネーミングであり当然それは業界内部でしか知らないはずだった。
瞬間スマホが鳴り出勤途中の麗奈たちから叫ぶような声がした。
『テレビ見てる!?』
「ええ、うん」
『どういうこと!二重契約だなんて』
『沙耶香さんなんてことを!?』
ふたりには駅前の乗り換えターミナルで待ってもらい普段着や化粧が薄いまま元栓や戸締まりを確認し慌て部屋を出た。湯気の立つ紅茶だけがあった。
慌てバスに乗り駅前に向かうと麗奈や早紀はバスに乗るようにうながし事情をちいさく慌て聞いた。
「どういうこと。二重契約だなんて」
「おぼえがない」
「だけど現にテレビが報道するなんて」
次に早紀のスマホが鳴り編集主任からの確認と沙耶香を連れてくることだが早紀は応えメールを打つ。
【いま連れてきていますが本人はまるでおぼえがないとのことです】
ふと彼女の表情を見ると以前より大人びたことに気づく。バス停を降り受付さえもどかしく双星出版のフロアーに向かうと怒号がある騒ぎだった。

No.143 18/01/19 06:21
作家 

編集主任が挨拶もそこそこに私たちに挨拶し電話の対応を終えた愛菜はキッと睨まんばかりに見つめたが言葉は必要以上になかった。
「なんてことをしてくれたんですか!二重契約だなんて」
短い言葉に感情がより込もっていただけに何も言えないが編集主任は会議室に通し事情を聞く配慮をした。出された湯飲みの湯気が他人事に見えながら混乱する頭で必死に思い出した。
「いい?冷静になって。いつどこでサインした記憶がないかゆっくり思い出して」
編集主任の言葉は感情を抑えながらも瞳は冷静を保とうと必死だった。麗奈たちの視線が痛く針のように刺さるなかサインをした記憶を探る。
がサインを求められたことは主にフィットネスクラブ、あとは町の本屋や中古書店などくらい。サインを求める人は主婦やOL、なかには『クロスドレッシング』を読んでる成人男性か学生。
「役に立ちませんね」
「美如月」
愛菜はこれ見よがしか会議室にあるテレビを点けた。ワイドショーの声が耳に入る。
『このサヤカもしくは水越沙耶香の本名は○○○○○と言いまして女装してる男性なわけですが』
ふと顔を私は上げた。
本名でサインしたのは後にも先にも一度きりなはず。麗奈は顔を覗く。
「沙耶香?」
「まさか、いやだけど」
「心当たりがあるの」
この時の動揺は計り知れなかったかもしれずに指先や身体全体が言い様のない気持ちに震えが止まらなかった。
「なんですか。答えられないんですか」
美如月と愛菜のキツい声を咎めるが私は一言だけ答えた。
「ほ、本名で一度だけサインしたことあると思う……いえある……」
私の答えに一同は驚きを隠せなかった。
「いつ」
「どこで」
「誰に」
呼吸困難になりそうでいつもなら身体を包むようなランジェリーや洋服がむしろ締め付け拘束するように感じ麗奈たちの存在がよけい女性を思わせた。
そこへ神無月社長が姿を現した。
「事情は一通りわかったかしら」
「ええ、本名でサインをしたことが一度あると本人が。まだ言質(げんち)は取れてないですが」
言い様のない感情や恐怖にとらわれ落ち着きがない私に神無月社長は屈み目を見つめた。
「いい?疚しいことがないなら堂々としてなさい。女王様なら」
最後の言葉は私にしか聞こえない。こんな時に女王様だなんて。
だが彼女は一切責める言葉は向けなかった。

No.144 18/01/19 07:56
作家 

心当たりがある。
その一言を伝え私、麗奈、早紀そして愛那はタクシーを呼びフィットネスクラブに向かう。だけど信じたくはなかったという思いとサインをした事実は容赦なく私の脳裏を駆け巡る。
「誰にサインしたの」
「相手の自宅にいけば」
「事を荒立てたら」
「相手側の思うツボ」
二重契約した相手は双星出版のライバル新星出版社であるとどこのテレビ局および週刊紙は報じていた。
またすでにSNSのなかでは私が新星出版社の雑誌でデビューすると噂され報じられているともあった。
助手席に座る私は頭を抱えながら彼女がそんなことをするわけはないと思いたいがタクシーが止まり麗奈は降りるようにうながし逸る気持ちを抑えながらフィットネスクラブ内を進むと舞先生が姿を見せた。
「おはようございます。皆さんお揃いでなにか」
いえ、と私たちは会釈した。舞先生は今朝のテレビを見てないのかまったく話題を知らないようだった。
直感ではあるが彼女ではないようだ。
やはり……と疑いが芽生えた時に背後から声がした。
「あら沙耶香さんおはよう。それに今朝はお友達がお揃いのようね」
振り向くと流奈の大人びた笑みがあり明らかに口角が上がり私に何かを伝えていた。
“サインしたわよね”
それとほぼ同時に振り向いた背中から驚きの声がちいさくはっきりとこぼれた。
お姉さま……。
今度は私たちが驚く番だった。麗奈の表情には懐かしさや親しみ、困惑などいつもは見せない表情があり知らない顔があった。
流奈はご無沙汰ねと麗奈に挨拶した。
どういうこと?
一同が驚愕し硬直かつ緊張するなか舞先生が状況をそれとなく把握したのか取りなした。
「あの皆さんよろしかったらレストルームでお茶を……」
お茶をしている場合ではなかったが私は麗奈と流奈の間にただならない雰囲気や表情に交互に見つめていた。
しかしこの場において明らかに佐伯流奈はただひとり平然になおかつ余裕がある女王のような妖艶な笑みを密かにしていた。
このなかで女装をしていた私だけがただひとり女性ではないことにいたく重い現実と違和感を感じ自分を保つことが精一杯に思った。
流奈に陥れられた。
震える拳が私の感情をすべて物語りながら早紀も愛那も言葉がなかった。
最悪の週の始まりだった……。

No.145 18/01/19 15:06
作家 

一同はみな驚いていた。
私も早紀も愛那も。なかでも麗奈は流菜はかつて学生時代から社会人にいたるまでの間かつてレズメイトだったからだ。
あらためて流菜は名乗り名刺を私たちに四枚差し出しトランプのカードのように並べそれにはこう書かれてあった。
新星出版社 トランスセクシャル B & G 担当編集主任 佐伯流菜
「あらためて新星出版社の佐伯流菜です。よろしく」
「お姉さまが新星出版社の……」
「佐伯さんあなた……」
「流菜とは呼んでくれないのかな?セックスが下手な○○クン、いえ沙耶香さん」
カアッと頭が熱くなり思わずテーブルに並べられたカップが揺れるほどに憤りを感じたた。
「あなたという人は!?わ、私をどうしろと」
「沙耶香」
麗奈も正気に戻りあらためてかつてのレズ相手をライバルの人間とようやく認識するようだった。愛那は交互に見つめながら口を挟む。
「不当な契約書を作成したのではないですか」
不当な契約、眼鏡を輝かせながら見た目は小柄ながら根は真面目らしくライバル出版社の流菜を見つめた。
しかし相手は社会に出たての数年の若い愛那を鼻で笑いそこにはすでに作成され契約された契約書を彼女はバッグから出された。
契約された年月日は流菜のお宅で身体を交わしたあの日になっており水越沙耶香あるいはサヤカ名義ならともかく私の男性としての実名がはっきりと明記されていたことが物語る。
「これが不当な契約書かしら。年端もいかないお嬢さん」
「こんな沙耶香さん。あなた」
「仲間割れしてる場合じゃないでしょう?」
早紀はこれが不当な契約書であることは一目瞭然なのだが書類一式として揃っていることが事実としてあることが問題だった。
どうしました、と舞先生の明るい表情がこの時ばかりは双星出版社側の私たちにとっては少々ムッとするものだったが口に出すほど子どもでもない。彼女にも事情を話すとようやく飲み込めたようだ。
「つまり佐伯様と矢口様はかつてレズの関係で、沙耶香さんは佐伯様と契約をうっかりされてしまったんですね」
わかりやすい表現で言われるとそうなのだが普通に怒りたい気持ちさえ舞先生の悪気ない言葉に怒りが消火されてしまう。
スポーツしかしてない人て悪気がないだけにつかれると肩に感じた。オトコのバカな体育会系よりマシかなと思うのがやっとだったりする……かな。

No.146 18/01/19 17:28
作家 

とりあえず舞先生はともかく置いとくとして私と麗奈は流菜について複雑な表情を抱きながら彼女は私に契約書を差し出し言う。
「今日はわが社にお出でいただけなかったのはこちらの連絡不行き届きということですが、こちらも秋号に向け沙耶香さんを迎える用意があり遅くとも七月下旬ないし八月上旬には取材および撮影の手配をしたいと願います。もちろん沙耶香さんの望む撮影や取材を弊社はしたい所存です」
妖艶な笑みをしながら双星出版とさほど変わらない要望書を契約書と入れ替わりに眼前に出し冷静かつ淡々とする口調だった。
誰もが二の句が告げないように固まっていた。が麗奈はかつてのレズメイトに挑む姿勢を見せた。
「お姉さ……いえ佐伯さんはレズだったのでは」
性癖あるいは恋愛遍歴に関わることは女性でも繊細かつデリケートらしくわずかに流菜は瞳の色をかつてのレズ相手である彼女に向け愛情とそうとはちがう色を同時に向けた。
「そうね、レズはレズよ。いまも」
だけどと付け加えた。
「だけどあなたは誤解したみたいだけど私はあくまで家や両親などの体裁を繕うためにはじめは結婚した。だけどとりあえず男と女装娘の味は知ったわ。レズではあったけどバイセクシャルに目覚めた、ということかしら」
「誤解はしてない。あなたは私を捨てたんじゃない」
「麗奈」
「麗奈さん」
本気で彼女が悔しがるのを私や早紀は見たことがない。愛那は傍観しながらもライバル出版社に先手を打たれたことに悔しいことにかわりない。
契約書に不備はないか落ち度はないかと愛那は探すがわからない。担当になったばかりと私との不安定な関係が彼女本来の冷静さや能力を欠けさせていた。
流菜はほくそ笑む。
「なんなら麗奈も来る?沙耶香さんと共に。だけどあなたはこんなセックス下手な相手で満足するなんて」
「さ、沙耶香はそんな人じゃないわ」
「どうかしら?私は一回この子としたけど感じたのは少なかったわ」
憤る私や麗奈の前でぬけぬけと言う流菜。
おかしい……。
もちろん沙耶香さんのセックスが誰もが感じさせるものではないかもしれないけどひどいことは早紀が経験した限り少ないし満足ある行為なはずであった。
何かが腑に落ちない。
「とにかくあらためて正式な打ち合わせは七月にでも。お願いします」
勝ち誇る流菜が去るなか双星出版側は口を開けなかった。

No.147 18/01/20 05:35
作家 

舞先生は慣れない場で誰にも言葉をかけられず去っていく。
沙耶香さんかわいそう。
ふとちいさくそんな言葉が聞こえた感じがしなくもなかった。
そこへ愛那はメールが入り驚く。
【沙耶香さんを麗奈さんの部屋に戻さないこと。早紀さんの部屋にも。いまマスコミがマンションを張ってるから。あなたが責任を持って彼女を保護すること 主任より】
「ええ!?」
小柄な身体に似合わずレストルームに声が広がる。事情を察したふたりは言う。
「必要なものある?」
「沙耶香さんがこんな子に保護されるなんて納得いきません」
「だけど戻ればどうなるか」
一様に沙耶香を見つめ三人は吐息がいろいろな意味で重いらしい。私は麗奈に必要なモノはメールにメモし送り目を合わすか合わさないか微妙だった。
「私は沙耶香さんを部屋に送ってから職場に戻ります」
「私たちはマスコミの様子を」
「早紀だけで行きなさい」
ツンと麗奈は早紀に指示し彼女もまた頷く。担当はすでに外れた身だからなにもできないのだ。
「なんであたしが沙耶香さんと……」
「ファーストなんだから」
口を尖らす早紀に愛那は渋々私を連れていく。タクシーを拾い向かった行く先に既視感をおぼえる。隣町?
一年前を思い出す。早紀につまみ食いされたことを。
「あの……ここは?」
タクシーが止まり料金を払う彼女が降りた先はかつて見た早紀が住んでたマンション、しかもエレベーターで止まった先は同じフロアーで進んだ先は同じ部屋。
どうぞ、と招く彼女の部屋にわずかに嗅ぎ慣れた早紀の匂いが鼻腔にした。お茶を淹れ彼女は軽蔑の眼差しで見つめた。
「安易に契約書にサインしてバカなんですか。先輩」
「違うわ、ちゃんと事情を言えなかったけどただの紙だった。断言してもいいわ」
「ウソ」
「なんでウソを言わないといけないの。……ケンカして解決する?」
一拍置いた私に彼女は何も言えない様子だった。歳上で先輩、なおかつ女装で接することで彼女の目には同性でありかつての先輩なことに違和感もあるはずだった。
「仕事戻りますけどえっちなことは厳禁ですから」
ちいさな背中に意地のようなモノが見えた。扉が閉まり気づくと早紀の匂いは消えていた。
かつて早紀の部屋だったことは言いそびれた。
さてどうしよう……。また問題を抱えてしまった。馬鹿なのは私だ。

No.148 18/01/20 06:58
作家 

マンションに一度戻ると早紀はマンションがマスコミに囲まれエレベーターで部屋に上がると住人の誰かがマスコミを通したのか麗奈の部屋の前にリポーターやカメラが見えた。
「取材姿勢をまだあらわしてないから」
早く会社に戻り麗奈いや愛那な主任たちと姿勢を整わせないといけない。彼女は姿を音もなく姿を消した。
一足早くに双星出版に戻った麗奈もまた会社がある建物に一年近い前の様子を思い出させた。
また、沙耶香を白日のもとに……。
悔しさとかつてのレズメイトとの間に愛憎があるなかマスコミのなかをくぐり抜けようやく双星出版に戻るが電話対応や苦情があり主任が姿を見せた。
「沙耶香さんは」
「美如月にまかせました」
不本意だがやむを得ない。彼女が同意してないこともまた承知だが。
「社長は」
主任たちが言うにはいま各テレビ局や週刊誌に旨を伝える手筈をしてるという。
去年はノーコメントを通すことで事なきを得たが、今回はマスコミがそるを許すか否か。マスコミ対応は対応が間違えると人生をつぶされるおそれがある。ただでさえいまのマスコミは性問題についてはLGBTや性同一性障害にはアンテナを張ってる。女装者が女性を愛するなんてことを勘違いや思い違いして取り上げ吊し上げされることは間違いない。
誰の目にも麗奈の顔は青ざめていたが主任は言葉をかけた。
「愛してるなら守りなさい。それだけよ」
自分の仕事をなさい、と小説課に行きなさいと指示された。
だけど自分のデスクについてもペンを持つ手に力は入らない。
戻ってきた早紀や愛那は対応に追われた。
「ですから二重契約は不当です」
「今回の件は……」
結局彼女たちの対応は夜遅くまで追われた。
麗奈は担当を外されたことである種の安堵感と一方で虚しさに近い感じがあり帰宅した。マスコミが群がるなか部屋に入り愛する人……と沙耶香に複雑な感情を抱いた。
早紀と愛那たちは明朝対応に会議したが帰宅は認められた。
「ほんと軽蔑します」
「なら担当を外れたら」
「いやです」
痴話喧嘩みたいな匂いを残しながら愛那はむしゃくしゃしながらいつものように出来合いのお弁当などを買い扉を開けたがいつもと違う雰囲気が部屋からしたことに気づく。
「ただいま……」
「おかえりなさい」
沙耶香の声に顔を上げ驚くのだった。

No.149 18/01/20 08:59
作家 

愛那の鼻腔にあたたかい白いご飯、味噌汁、卵焼き、野菜炒めなど久しぶりに嗅ぐ家庭の匂いが伝わり驚いた。
「な、なにしたんですか」
「安心して。洗濯物は溜まってるようだけど手はつけてない。掃除を簡単にして風通しををよくして外出を少しだけしてお買い物しただけ」
変装を一応してと言い訳めいたようなに聞こえながらも部屋を見ると今朝とはちがう自分が掃除したちがう清潔な雰囲気があった。
「外出してマスコミに嗅ぎつげられたら」
「その時はその時。覚悟を決めたら」
愛那にどう接していいかわからない私だがとりあえず諭すくらいはし対等かつ女性として接する程度はふつうにしようと試みた。すると。
「ありがとうございます。忙しさにかまけてたので……」
「忙しいのはいいけどプライベートはちゃんと食べて遊んでリラックス♪あと寝てもいいから。えっちの寝るじゃないから」
慌て取り繕うと彼女はまるで初めて見る人みたいに感心ぽい瞳を見せた。
「なに?」
「いえ先輩、沙耶香さん。先生みたいです」
面倒だけど私は以前の職歴の保育士であることを伝えた。なるほどと呟きがあった。ご飯にしましょう。
掌を合わせお茶を淹れ箸の音をさせ勝手にお米程度は使ったが彼女はちいさく口を動かした。
「美味しい」
「いつも出来合いのものばかりみたいね。身体に悪いの知ってるでしょう?」
「だって」
「言い訳は……親御さんの前でして。私はあなたの兄でも姉でもないから。先輩扱いはいいけどそれは個人的な範囲なら構わない」
ある程度線引きをしとかないと感情的になるのでこちらから物言いを言わせてもらった。
「……はい」
「いまは食べて。元気だして」
「はい……」
早紀以上に妹感があり学生時代の開きもあるだろうからなおさら接しにくい。
食事を終え後片付けをしながらお風呂を進めた。
「そんな悪いです」
「悪いと思うなら先にすませて。美如月さ……いえ後輩に疚しい思いを抱かせないでくれる?」
思わず本音がこぼれた。彼女が自分をどう見てるかわからないから言葉が無意識に厳しくなる。
わかりました、と彼女はお風呂に向かい着替えの気配が風呂場に入りシャワーやお湯のあたたかさが伝わる。
女性化してるはずなのに性欲は人並みにあるのを内に感じた。
どういうことだろう?風吹先生に相談に行ったかたがいいだろう。

No.150 18/01/20 11:29
作家 

いつもより疲れた身体にシャワーが肌にあたりながらも沙耶香が自分より女子力が高いのではと思い少し悔しい。
だけどご飯は美味しかったのは認める。社会人になってから親元離れニ、三年であり家庭の味があった。
だけど憎いという感情もあり複雑さは否めない。恋であるのも認めるのはそれこそ負けた気がしてしまう。
麗奈や早紀たち他の同僚がふつうに接しているのも理解できないに等しい。湯船に身体を浸かりながら自らの成人を迎えたのによくても中学生程度の身体にコンプレックスを抱く。
吐息がこぼれる。
なにもあんな言い方しなくともと思うが突き放された言い方の方が気持ちいいこともある。
だけど……。
性経験がない自分がこんなお仕事に興味持ちいま沙耶香と仕事してるには彼ないし彼女にある。
「あれが男性の……」
日帰りの撮影の際に手に触れた感触は指にまだ残っていた。
上がりました。
突き放す言い方は似たり寄ったり沙耶香は九時の報道がいまだに二重契約の話題を流していることに見つめていた。
「入るわ」
「先輩」
「いまは話しかけないで。それと来客用の布団はあるわよね?」
あります、とだけ言うと来客用の布団を用意しないと気づき背中を見送り喉を潤し急ぎ布団を敷いた。
去年に実家の両親がたずねて以来の行為だが部屋は使ってなくいまだ段ボールが積まれた部屋に招くのは仕方ないと思った。
初めて異性が部屋にいるのに。
その頃私は性欲は内にありながらまったく異性の身体を求めない不可思議な気持ちがあった。
勃起はするが性欲が異性に湧かない。むしろ姿見に映る自らの姿に欲情してる……?
わからない。
だけど流菜に見せられた契約書も頭によぎる。
違和感があった。性交をした後にサインはしたが契約書ではなかったのは事実。
だけどどう証明する。
まだわからなかった。オナニーをしようとする気持ちを抑えながら湯船に浸かり下着はそのままに愛那が出した浴衣を身に付けた。
「すみません。引っ越したばかりなのでこちらの部屋に」
「眠れたらいいから。ありがとう」
「礼を言わないでください」
冷蔵庫から彼女がアルコールを差し出すのを見て手で制した。
「飲めないの」
「うそ」
「……ひとの言うことは素直に聞くもの」
とは言いながら性欲に素直になれない自分が言うものではない。

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