『渡辺さんノート』
『思い出』
そう書かれた箱を開けてみると、小学校や中学校時代の思い出の品がつまっていた。
懐かしい♪
引っ越しの為、押し入れの中の片付けをしていたはずなのに、しばし中断。
卒業前にクラスメイトに書いてもらったサイン帳や、たくさんの写真…
こんな人いたな~
文化祭、楽しかったな~とか…
思い出の品々に、すっかり心を奪われてしまった。
その思い出の箱の中に、私の1番の宝物
『渡辺さんノート』があった。
主のリンです。
素人小説ですが、よろしくお願いします。
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翔太が部屋に戻ってきた。
「…麻衣。」
「?」
「エマさん家の隣の家のおばあちゃん達、覚えてる?」
ドキリ。
「覚えてるよ。」
「おばあちゃんの息子が町内にいるって言ってたのも覚えてる?」
ドキドキドキドキ…
「…うん。」
「俺さ、行ったんだ。息子の家。」
「え?」
翔太も?
「前に部活に出た帰りに。
地図帳で場所調べてさ~。
麻衣に内緒で勝手に行ったから黙ってたんだけど…」
手入れのされてなかった庭を思い出し、なんとなく嫌な予感がした。
「それが…どうかしたの?」
「いたんだよ。」
「え??」
「渡辺麻衣。」
え?
「渡辺麻衣ちゃんがいたの?」
翔太はうなづく。
嘘…
でも…
私が行った時は、誰もいないような感じだったけど…
「本人に会ったってこと?」
「おばあちゃん家に行かないか?」
「おばあちゃん家?」
「俺も本人に会ったわけじゃないんだ。
おばあちゃんに聞いてみたいことがあって…」
「??でも、おばあちゃん家までどうやって行くの?」
おばあちゃん家は車じゃなきゃ行けない。
「大介さん。車出してくれるって。
今、電話でOKもらったんだ。
これからウチまで迎えに来てくれるんだ…」
「あ!さっきの電話、大介さん?」
「うん。」
段取りいいな…^_^;
プップー
外から車のクラクションの音がした。
翔太と外に出ると、ファミリータイプのワンボックスカーがとまっていた。
運転席の窓が開き、大介さんが顔を見せた。
「大介さん、今日は車ありがとう。」
翔太がお礼を言う。
「さ~、乗った乗った♪」
「私もお邪魔します…」
「はいよ♪」
私達は大介さんの車に乗り込んだ。
大介さんって、本当に面倒見がいいな。
いつも明るくて元気だ。
決してイケメンではない。(失礼)
ぽっちゃりした体型だったけど、ジムの成果か少ししまってきたと思う。
大介さんのこと、多分30%ぐらいしか知らないと思うけど、私の知る限りの大介さんの性格は120点だ。
優しいだけではどうのこうのと、大介さんをふってしまった彼女は、男を見る目がなかったんだね。
私とは年が離れてるから、恋愛対象にはならないけど、大介さんみたいな人が彼氏だったら、楽しいだろうな~と思う。
私は後ろの席で、大介さんの後ろ頭を見ながら、そんなことを考えていた。
翔太は助手席で、この車誰の?とか聞いていた。
この車は大介さんのお父さんのらしい。
明日の夜に出掛ける用事があって、お父さんに借りていたんだとか。
翔太がお願いして、借りてきてもらったのではなくて、ただタイミングがよかっただけ。
翔太…すごいね(^^;
車は順調におばあちゃん家に向かう。
渡辺さんが、渡辺さんの車で、渡辺さん家に向かってる…
なんだか不思議で面白い。
翔太がおばあちゃんに聞きたいことって何だろう?
気になるな~
渡辺麻衣ちゃん…
渡辺均さんの子どもで、おばあちゃんの孫ってことだよね?
再び、手入れのされてなかった渡辺均さんの家の庭が思い浮かび、なんとなく嫌な予感がする。
早く~
おばあちゃん家に着いて~
真相が知りたい。
そして…
無事におばあちゃん家に到着。
大介さんは車で待っとくと言ったけど、渡辺麻衣ちゃんの話はしていたし、少し不安な気持ちもあったので、ついてきてもらった。
翔太がピンポンを押す。
「は~い。」
と、玄関が開き、おばあちゃん登場。
「まあ、この間の…
高木さん(エマさん)のお友達の…
渡辺さん、よね(笑)。」
そう、ここにいる全員渡辺さんなんだよ(笑)
にこやかなおばあちゃん。
そういえば、下の名前は教えてなかったような…
「今日はおばあちゃんに聞きたいことがあって来たんだ。」
「聞きたいこと?
なんだろうね…。まあ、中にお入り。」
「お邪魔します。」
「あ、僕はこの子達の保護者代わりの渡辺大介と申します。初めまして。」
大介さんがおばあちゃんに挨拶している。
「まあ、あなたも渡辺なのね。
私は渡辺節子です。よろしくね。ふふ。」
おばあちゃんは節子っていうのか…
私達は応接間に通された。
おばあちゃんは台所へ行って、お茶の用意をしてくれているようだ。
応接間のソファーに3人並んで座った。
応接間には立派な時計があったり、高そうな絵が飾られていたり…
あ…
写真立てもいくつか置いてあった。
おじいちゃんとおばあちゃんが旅行に行った時のような写真。
息子さんの結婚式の時かな?って写真。
あとは…
おばあちゃんの孫かな?って写真。
1~2才ぐらいかな?
着物姿の小さな女の子の写真。
「ね、翔太。あの写真。もしかして渡辺麻衣ちゃんかな?」
翔太に小声で言う。
「ああ。そうかもな。」
「可愛いね。2才ぐらいかな?」
「3才だろ多分(-.-)
よく写真見てみろよ。」
「え?」
着物姿の写真…
「七五三の時の写真じゃないかな?」
と、大介さん。
あ!
よく見たら千歳飴持ってるし!
「…ほんとだ(^^;」
しかも写真の背景にも見覚えが…
町内にある神社っぽい。
コーヒーのいい香りと共に、おばあちゃんが部屋に入ってきた。
「今ね、おじいさん町内の集まりに行ってて、いないのよ~。
もうすぐ帰ってくると思うんだけど。」
そう言いながら、コーヒーとお菓子を出してくれた。
「ねぇ、おばあちゃん。あの写真の子って、おばあちゃんの孫?」
聞いてみた!
おばあちゃんはニッコリして、
「そうだよ。麻衣っていうの。」
そうだ…
初めておばあちゃん家に来た時、
『渡辺さんノート』のことは、翔太が簡単に説明してたっけ。
誰がノートを作ったとか言わなかった気がする。
ただ「渡辺さん」が作った、としか言ってない。
「おばあちゃん。このノートの最初のページ見てくれる?」
私はおばあちゃんに『渡辺さんノート』を渡した。
「この間のノートね。」
おばあちゃんもソファーに座り、ノートを見た。
遂に、渡辺麻衣ちゃんに会える!
私はドキドキしていた。
…が、
おばあちゃんの表情が一気に曇った。
また草だらけの庭が思い浮かび、私もドキドキ感が、不安感に変わる。
「多分、このノートを作ったのは孫の麻衣だと思う…
住んでる住所もあってるし…」
「俺さ、おばあちゃんの息子さんの渡辺均さんの家に行ってみたんだ。
そしたら庭に自転車があるのが見えて…
自転車に渡辺麻衣って名前が書いてあったから、ビックリして思わずチャイムならしたんだけど…
渡辺麻衣ちゃんには会えなかったんだ…」
自転車?
あの草だらけの庭に?
翔太…よく見つけたな…
「…」
「このノートを直接麻衣ちゃんに渡したいんだ」
「…麻衣のためにありがとうね。」
「また家に行ったら、麻衣ちゃんに会えるかな?」
「…■■病院…」
え?
「麻衣、入院してるんだよ。」
入院??
■■病院って…
このあたりでは大きい病院だ。
「ただいま~」
おじいちゃんが帰ってきた。
「ちょっとごめんね。」
おばあちゃんは『渡辺さんノート 』を持ったまま、玄関までおじいちゃんを出迎えに行った。
…入院か……
病気?それとも怪我かな…
さっきのおばあちゃんの表情から、すぐに退院できるような病気や怪我ではなさそうだ。
入院中、友達がいなくて寂しかったから、『渡辺さんノート』を作ったのかな?
すごい重い病気なのかな…
交通事故で大怪我したとか…
渡辺均さん家の庭…
麻衣ちゃんの看病が大変で、庭の草取りする時間なんてないよね…
麻衣ちゃん、
大丈夫なのかな…
「やあ、いらっしゃい。」
おじいちゃんが部屋に入ってきた。
「お邪魔してます。」
「今、おばあさんから聞いたよ。
このノート、麻衣が作ってたんだなあ。」
おじいちゃんはノートの最初のページを見ながらソファーに座った。
「麻衣のお見舞いに行ってみんか?」
え?
お見舞い?
行ってもいいの?
「行っても大丈夫なんでしょうか?」
大介さんが聞く。
「会えるかどうかは分からないけど、このノートを渡しに行こうか。
麻衣の母親は看病で病院にいるから、麻衣に会えなくても、母親に頼んで帰ろう。」
「悪いわね、乗せてもらって。」
「いいえ~(^-^)」
麻衣ちゃんの入院している病院まで、大介さんの車で行くことになった。
おじいちゃん、おばあちゃんも一緒に乗って。
さすが!ワンボックス(*^^*)
途中、お見舞いの品物を買いにデパートに寄った。
お見舞いといえば…お花?
「麻衣ちゃんは何歳なんですか?
お見舞いはどんなものが喜びますかね…」
と、大介さんがおばあちゃんに聞いている。
「小学1年生なの。
お見舞いは…何がいいかしらね…」
1年生だったのか…
1年生にお花を持って行っても喜ばれないよね(汗)
大介さん、聞いてくれてありがとう。
でも小1の子がどんなことに興味があるのか誰も分からず…
3人で悩んだ結果、クイズの本と、スケッチブックと色鉛筆にした。
おばあちゃん達は、絵本と、麻衣ちゃんのお母さんに差し入れを買っていた。
そして再び、車スタート。
私は麻衣ちゃんが今どんな状態なのかが気になった。
お見舞いに行っても会えないかもしれないって、どういうことなんだろう。
病院へ行けば分かるのかな?
車内では、とてもそんなことを聞ける雰囲気ではなく…
もやもやしたまま病院へ到着した。
■■病院は大きな病院だ。
駐車場から病院の入り口までが長い。
病院内も広すぎて迷子になりそう。
総合受付?
待ち合いの長椅子にはたくさんの人が座っている。
お年寄りやお母さんに抱っこされた赤ちゃん、怪我をしてる人や、車椅子の人…
こんなに大きな病院に来るのは初めて。
「○○科」と書かれた案内の看板?もたくさんある。
「キョロキョロするなよ。迷子になるぞ。」
翔太に言われてハッとして、おじいちゃんとおばあちゃんの後にピッタリくっついて、エレベーター乗り場まで歩いた。
エレベーターで8階にきた。
1階は受付とかもあったし、たくさんの人でざわざわしていたのに、エレベーターを降りると、とても静かで消毒のにおいがした。
エレベーターを降りてすぐにナースステーションがあって、おばあちゃんが看護婦さんに話をしていた。
ナースステーションの側には、入院している子ども達が遊べる部屋があって、お母さんに付き添われた小さな子が遊んでいた。
そうだよね…
ずっとベッドの上じゃ、退屈だよね。
貸し出しできるのか、棚に絵本やDVDもたくさんあった。
その時、病室の方からひとりの女性がこっちに歩いてきた。
麻衣ちゃんのお母さんかな?
「お義父さん、お義母さん。」
おじいちゃん達に挨拶している。
やっぱりお母さんだな。
私達3人は少し離れた所で、おじいちゃん達と麻衣ちゃんのお母さんとのやりとりを見ていた。
ほっそりとして、きれいな感じのお母さん。
長い髪を後ろでひとつにくくっている。
若そうなお母さんだ。
「麻衣、今日は調子が悪くて…
せっかく来て頂いたのにすみません…」
と、おばあちゃんに謝っている。
「いいのよ。今日は麻衣を元気づけようと思ってきたの。」
おばあちゃんはそう言って、『渡辺さんノート』をお母さんに見せた。
「そのノート!!」
お母さんはノートを見た瞬間、両手を口に当ててビックリしていた。
「おや、知ってたのかい?」
「麻衣に頼まれたんですよ…」
お母さんはおばあちゃんからノートを受け取って、最初のページを確認するように見ている。
「あの子達が持って来てくれたんだよ。」
おばあちゃんがお母さんに私達のことを紹介してくれた。
「わざわざ持って来てくれて本当にありがとう。」
お母さんは私達にお礼を言って微笑んだ。
「麻衣はこの4月から小学生で、友達100人作るんだ~って、張り切ってたんだけど…
白血病になってしまって…
病院じゃあ友達作れないって、すごく落ち込んでて…
なんとか麻衣に元気になって欲しくて、麻衣と一緒に友達を作る方法を考えたの。
それがこのノート。
麻衣が作って、私が渡辺さんのお宅のポストに入れたの。
それがこんな風にちゃんと戻ってくるなんて…
麻衣、喜びます!!」
白血病…
「お母さんがポストに入れた最初の渡辺さん家はコイツの家なんですよ。」
…
「なっ!」
翔大にバシッと肩をたたかれて、ハッとした。
「そうなの?」
「あ、ハイ、そうなんです。
あの、実は私、麻衣ちゃんと同姓同名で、渡辺麻衣っていうんです。」
「そうなの?すごい~!」
お母さんはすごく驚いていた。
麻衣にも教えてあげよう!と、嬉しそうだった。
その後も少しお母さんと話したけど、私は上の空…
白血病のことばかり考えていた。
白血病…
私の勝手なイメージ
治療で髪の毛がぬけてしまう。
治らない病気…
死んでしまう…
身近に白血病になった人はいない。
テレビの中の話って感じ。同姓同名で会ったことはないけど、すごく身近に感じていた渡辺麻衣ちゃんが白血病だったなんて、信じられない。
ピンとこない。
『渡辺さんノート』はお母さんに渡しておいた。麻衣ちゃんが元気になったら連絡するからと、連絡先を交換した。
私も翔太も携帯を持っていないので、緊急のメールは大介さんに送ってもらうようにした。
病院を後にし、おばあちゃん達を家まで送り、また3人の車内。
「お前、白血病って聞いて驚きすぎだよ。」
と、翔太に言われた。
「だって…
なんだか信じられなくて…」
「信じられない、信じたくないのはお母さんが1番だよ。
しっかりしろよな~。」
「…ごめん。」
「ビックリしたよね。
でも白血病だからって、すぐに死ぬとか、そういうわけじゃないだろうから。
みんなで麻衣ちゃんを応援しようよ。」
と、大介さん。
白血病って治るのかな…
ドラマとかだと死んじゃうことが多くない?
「ドラマと一緒にするなボケ。」
…ごめんなさい。
それからというもの、生と死に関して敏感になっていた。
私だって、いつかは死ぬ。
いつ?どうやって?
病気?事故?
明日、交通事故で死ぬかもしれない。
私だけじゃない。
お父さんやお母さんが死んだら…
私どうやって生きていけばいいの?
寝る前にそんなことを考えて、不安になり悲しくなって眠れないこともあった。
親に反抗したりするのはやめよう。
お母さんの手伝いもしよう。
もし、お母さんが病気で入院…なんてことになったらたちまち困るよ。
夜中に1人焦ってヤバイヤバイと翌日洗濯機の使い方を聞いたり、お母さんのパジャマはどこにしまってあるんだ、と聞いたりした。
私の意味不明な行動に両親も姉もきょとんとしていた。
そんな時だった。
両親が溺愛する姉に変化がおこった。
短大生である姉も、今は夏休みで毎日バイトに明け暮れていた。
真面目でコツコツ頑張るタイプの姉。
辛抱強い。
両親は姉ばかり可愛いがるので嫌だけど、姉本人に対しての不満はない。
優しい姉。
そんな姉が突然バイトを辞めた。
「もう少し時給が高いところを探したくて…」
「そうなの…
何か欲しいものでもあるの?」
「…そういうわけじゃないんだけど、色んな仕事を経験してみたくて…」
そうかそうかと両親はうなづいていた。
姉のすることに否定はしない。
私も、辞めたんだ~ぐらいにしか思ってなかった。
渡辺麻衣ちゃんの存在がハッキリしてから、渡辺さん探しは終了していた。
でも本人に会っていないので、私の中ではまだ終わっていない。
宝箱を発見したけど中身が見えないような?もどかしい感じ。
麻衣ちゃんのお母さんからの連絡を待つしかない。
渡辺さん探しが終わってしまってちょっと寂しい。
相変わらず、翔太と大介さんにくっついて図書館に行ったり…
家の掃除や洗濯の手伝いをしたりして夏休みを過ごしていた。
両親は仕事。家には私と姉しかいない。
日中、姉が部屋から出てこない。
成績優秀な姉。
勉強でもしてるのかな?と思っていたけど…
朝、家族で朝ごはんを食べてから、夜に家族で晩ごはんを食べるまで、ずっと部屋にいる。
そんなに勉強ばかりしないよね?さすがに…
何かあったのかな?
聞いてみようかな…
姉妹の仲は悪いわけではないけど、めちゃくちゃ仲良しなわけでもない。
少し緊張しながら姉の部屋のドアをノックして開けた。
「…お姉ちゃん…」
そっと部屋に入る。
「麻衣?ど、どうしたの?」
勉強机に座っていた姉は、慌てて何かをかくした。
「何?」
何か動揺してる?
「何かくしたの?」
「え?別に何でもないよ。ちょっと恥ずかしいから…」
恥ずかしい?
なんだろう?気になるし…
ふと足元にあったごみ箱を見た。
何枚かレシートが捨ててある。
何気なくごみ箱からレシートを拾った。
「ちょっと、麻衣!何してんの?やめてよ。」
姉が立ち上がった瞬間、かくしていたものがチラッと見えた。
ビンや箱…
レシートにも目をやる。
全部薬局のレシート。風邪薬や頭痛薬…色んな薬を買っている。
「お姉ちゃん…調子悪いの?」
「あ、うん。ちょっとね…」
薬を大量に飲んで自殺するつもり?
一度にこんなに薬を買うなんて…
一番にそう思うのかもしれないけど、その時の私は、麻衣ちゃんが大きな病気だったことで、姉も大きな病気なんじゃないかと心配になり病院へ連れていこうとした。
姉は、寝てれば治るから…と病院に行こうとしない。
こんなに大量に薬を買うなんて、相当体調が悪いんだ!
私はまたひとり焦って、翔太に連絡した。
たまたま翔太と一緒にいた大介さんも、わざわざ車で来てくれた。
二人の顔を見るとホッとして涙が出た。
「麻衣ちゃん、お姉さんの具合は?
すぐ病院に行った方がいいなら、俺車で来たからさ。」
大介さんが優しく声をかけてくれた。
「すぐには…大丈夫そう。」
「…お前、泣くなよ~。
姉ちゃん熱は?高いの?」
「…分かんない。」
「でも、調子悪いんだろ?」
「うん。薬をいっぱい買ってて…」
「薬?何の?」
「頭痛薬や風邪薬や胃腸薬や…たくさん。」
…
「置き薬とかではなくて?」
「お姉ちゃんの部屋に置いてあったから違うと思う。」
翔太と大介さんはギョッとして顔を見合わせる…
?
「今、お姉さんは?」
「部屋にいるけど…」
「ちょっとあがるよ。」
翔太はお姉ちゃんの部屋を知ってるので、二階のお姉ちゃんの部屋へ一目散。
大介さんも翔太の後について階段をかけのぼる。
そんなに急病ではなさそうなんだけどな(汗)
私も階段をのぼる。
「なにやってんですか!!」
姉の部屋から翔太の怒鳴り声が聞こえた。
私はビックリして急いで姉の部屋へ行った。
姉は今、まさに大量の風邪薬を飲もうとしているところだった。
間一髪…
私はようやく姉が自殺しようとしていたことに気付いた。
「え?お姉ちゃん…死のうとしたの?なんたで…」
私は訳がわからず…
そんな薬で自殺なんてドラマみたいなこと
を…
でも翔太達がいなかったら、姉の自殺に気づけなかった。
姉は死んでいたかもしれない。
そう思うとゾッとして怖くなった。
姉は…
「麻衣…ごめん。私、もう生きてるのがつらくて…」と泣いた。
急に渡辺麻衣ちゃんのことが頭に浮かんだ。
病気で死と戦ってる人もいれば、自ら死のうとする人もいる…
「バカ!」
私はひとこと怒鳴って部屋を出た。
姉が死にたい理由なんて全くわからない。
親には大事にされてるし。
私と姉妹なのが信じられないぐらい美人だしスタイルもいい。
勉強も運動もできる。
友達だって、私よりはたくさんいる。
それなのに…
なんで??
体も健康でこんなに恵まれてるのに…
なんだか腹が立ってきた。
死にたいと言う意味がわからない。
しばらくして、大介さんが私のところへきた。
「お姉さん…自分に自信がなかったんだって。」
「え??」
「いや、そんなわけないよ!
大介さん見たでしょ?お姉ちゃん美人だしスタイルもいいよね。
勉強も運動もできるんだよ?
自信ないわけないよ!」
「…彼氏に二股かけられてたって。」
はあ??
お姉ちゃんに二股?
どんな立派なヤツなんだよ!
てか、二股ぐらいで自殺?
いやいや、有り得ないよ。
「彼氏にフラれて…
何もかもうまくいかなくなったらしいよ。
なんで二股かけられたんだろう、
何がいけなかったんだろう…って考えてるうちに自信がなくなっていって、バイトでもミスが多くなって辞めてしまったって…」
「大介さん、今日はジムやめてさ~
せっかく車あるしさ…ドライブ連れてってよ。」
翔太が姉の部屋から出てきて大介さんに言う。
「ドライブ?」
「そう。姉ちゃんも連れて。
今、姉ちゃん一人にしたら心配だし。麻衣だけじゃ頼りないし。」
ふん、悪かったね(-.-)
「いいよ♪」
「いいの?大介さん。なんだか悪いよ…」
「いいよ、いいよ。俺も次彼女が出来た時の為に、デートの下見のつもりで行くから
(*^^*)」
「じゃあ、◎◎海岸とかどう?
デートスポットだし、海が見えてロマンチックだよ!
有名なジェラート屋さんもあるし!」
「それ、お前が行きたいだけだろ(-_-)」
「いいでしょ~、もー。」
姉を無理やり部屋から引っ張り出し、大介さんの車に乗せた。
ワンボックスの二列目に姉と私が並んで座る。
翔太は助手席。
いざ出発!
私達4人を乗せた車は◎◎海岸へ向かった。
8月の終わりの午後。
海水浴で賑わう場所だけど、お盆も過ぎたし、夏休みだけど今日は平日だし…
人、少ないといいのにな~
隣に座ってる姉を見ると、下をむいたままで、ひとことも喋らない。
二股かけられたこと…
そんなにショックだったのかな…
恋愛経験のない私には姉の気持ちがわからない。
もし、翔太に二股かけられたら…
ショックで自殺する?
…そんなことしない。
二股かけられても…
翔太はかっこいいし何でも出来るし、元々私とはつりあってない。
浮気されても仕方ない…
そう思うかな?
姉は自分に自信があったから、すごくショックだったんだろう。
プライドが高いから…
自信がある人ほどショックを受けるんだろうな、きっと。
カーナビを頼りに、◎◎海岸近くにある有名なジェラート屋さんに到着した。
ずっと来てみたかったお店なので、姉には悪いし不謹慎だけど、ちょっとテンションがあがってしまう。
「私は車で待ってるから…」
という姉の手を引っ張り、
「こんなに暑いのに車で待ってたら、熱中症になっちゃうよ!」
と連れていった。
可愛らしいお店の中は、女のお客さんやカップルでいっぱいだった。
色とりどり、様々な種類のジェラートがある。
「お姉ちゃんジェラート食べようよ!
見て~、色んな種類があるよ。」
「私はいいから…
麻衣好きなの食べなよ。」
も~( ̄^ ̄)
「麻衣ちゃんもお姉さんも好きなの頼んでいいよ。今日は大介さんのオゴリ」
大介さん~(*≧∀≦*)
なんてイイ人♪
「大介さんありがとう。
じゃあ~、抹茶とさつまいも下さい~」
店内は混んでいたので、外の海が見える石段のところに座って食べた。
私はさつまいも味のジェラート。
姉には抹茶味。
翔太はレモン味。大介さんはバニラ味。
美味しい~( 〃▽〃)
「お姉ちゃん、めちゃめちゃ美味しいね♪」
「…うん。大介さん、ありがとうございます。」
「いえいえ(*^^*)」
「でも大介さんなんでバニラなの?バニラどこでもあるじゃん。」
「バニラ食べたらその店の美味しさがわかるからさ(笑)」
「えー?そうなの?」
「嘘。ただバニラが好きなだけ。」
「も~。」
「わあ~、レモン酸っぱ(>_<)」
「レモンだから当たり前でしょ。」
そんなことを喋りながら、美味しいジェラートを食べた。
姉の表情はあまり変わらない。
そのうち夕方になり、きれいな夕陽が海にうつる。
「きれいだね…」
こんな場所に恋人同士で来たらロマンチックなんだろうな…
さすがデートスポット。
「…ズッ 、ズズッ…ズ…」
隣に座っていた姉が鼻をすすり出した。
泣いてる…
きれいな夕陽に感動した?
姉は持っていたハンカチで鼻を押さえながら、
「大介さん、翔太くん、…麻衣、
私の為にありがとう。
…私、どうかしてたよね…
彼には尽くしてるつもりだったんだ…
自分に悪いところなんてないはずなのに、どうして二股かけられたんだろうって、納得出来なかった。
でも…きっと、私のそういう自意識過剰なとこがダメだったんだろうね…
なんかすごく情けなくて、すぐには立ち直れないと思うけど、死ぬなんて考えるのはやめる。」
と話した。
そうだよね~
自信なんて全然なくてもダメだし、ありすぎてもダメだし難しい。
「そうそう、死ぬなんて考えはよくないよ。お姉さん美人だし、またすぐいい人がみつかるよ。
ところでさ、お姉さんは名前はなんていうの?おいくつ?」
「絵美です。19です。」
「なんだ~。名前知らなかったから、お姉さんお姉さんって言ってたけど、俺より年下だったんだ~。」
ほんとだ。
「俺は渡辺大介。ハタチ。」
「名字同じなんですね。」
「そうそう♪
あ、敬語ナシ。麻衣ちゃん達も普通に喋ってくれてるし(^.^)」
それから車に戻って、お姉ちゃんに『渡辺さんノート』の話や渡辺麻衣ちゃんの話をした。
「麻衣ちゃんも治療頑張ってるから、お姉ちゃんも負けないでよね!」
と言ったら、姉は泣きながらうなづいていた。
姉が自殺しようとしてたことは両親には内緒。
大量の薬もバレないように少しずつ処分した。
時間帯は違うけど、大介さんがバイトしている飲食店を紹介してもらって、そこでバイトを始めることになった姉。
大介さんにお世話になりっぱなしだな…、と姉は気にしていたけど…
大介さんは世話好き。お世話をするのが趣味なんだよ(*^^*)
姉がバイトに行き始めてホッとした。
ずっと家に引きこもってたら、やっぱり心配だし…
夜は大介さんがメールくれたり、時々電話したりしてるみたい。
「昨日、大介さんにバイトの話を2時間も聞いてもらっちゃった(汗)」
などとよく言っている。
大介さんは聞き上手なんだろうな。姉もギャーギャー話す方じゃないけど…
まったりと喋ってるんだろうな。
癒されてるんだと思う。
姉の表情もだんだんと明るくなってきている。
大介さんのおかげだな~(^^)
そして、長い長い夏休みが終わった。
色々あったな~。
中3の夏休み…一生忘れないだろうな。
久しぶりに学校へ行く。
「麻衣~、おはよ!」
真っ黒に日焼けした沙織。
沙織に会うのも久しぶり。
「おはよ!沙織~焼けたね。」
「部活焼けだよ(>_<)
でも夏休みで部活は引退したし、遂に受験だね(*_*)」
受験…
…そうだった。
「10月に三者面談あるらしいよ。」
「嘘!!やだー(>_<)」
はぁぁ…
一気に憂鬱になってきた…
「麻衣は?志望校もう決めてるの?」
「全然。沙織は?」
「A高校かな~。行けたらいいな~。」
A高校か…
レベル高いな。
もうクラスメイトにはなれないかも(汗)
「翔太は志望校もう決めてるの?」
学校からの帰り道、翔太に聞いてみた。
「決めてるよ。B高校。」
ゲッ(;o;)
めちゃめちゃ頭いいとこじゃん…
絶対翔太とは高校別々だな…
寂しいな…
…?
寂しい?
私、そんなに翔太のことが好きなのかな?
「寂しい?」
翔太がギュッと手をつないだ。
ドキッとして顔があつくなる(-o-;)
「麻衣はまだ志望校決めてないのか?」
「あ、うん。まだ…。」
翔太はニヤニヤしながら、
「ま、麻衣の成績じゃあ俺と同じ高校は無理だろうな(笑)
頑張ってA高校ぐらいか?」
と、おちょくる。
いや、私の成績じゃ、A高校も厳しいだろうな…
翔太…
高校入ったら更にモテるんだろうな…
「俺、浮気しないよ。麻衣ちゃんひとすじ。」
「も~、またバカにしてー」
10月には進路について三者面談がある。
「進路について親子で十分に話し合って志望校を決めて下さい。」
大嫌いな担任が言う。
親子で話し合いか…
は~…やだな…(-_-)
「麻衣は…お姉ちゃんが行ったB高校は無理だろうな。せめて、A高校ぐらは行けないか?」
「…」
「麻衣さんは…B高校だとかなり厳しいですね。A高校もレベルが高いですし…
C高校はどうでしょうか?」
「…」
両親との話し合いも、三者面談も、
は~…(-_-)って感じだった。
将来の夢もまだ決まってないし、特に行きたい学科があるわけでもない。
親は少しでもレベルの高い高校へ…
担任は確実に受かる高校をすすめてくる。
も~、何でもいいよ…
とりあえず両親の強い希望で、受験する高校はA高校に決めた。
相当頑張らないと受かりませんよ、と呆れたように担任に言われた。
そんな成績の悪い私に、両親は冬休みの冬期講習の案内のパンフレットを持ってきた。
しぶしぶ了解し、冬休みは年末年始以外は冬期講習に行くことになった。
翔太に言うと、じゃあ俺も申し込もう!と、なぜか乗り気。
冬期講習ではテストに慣れるために、毎日テストがあるらしい。
私は信じられないけど、翔太はテストが大好きなのだ。
ゲームみたいで面白いって。
沙織にも愚痴ったら、
「ホントに?私もそこの冬期講習行くんだよ!すご~い偶然。
親が勝手に申し込んじゃって。
麻衣が一緒だったら嬉しいよ~♪」
「嘘~!ビックリ。でも嬉しいー
(*≧∀≦*)」
沙織も同じ冬期講習に行く。
なんてラッキーなの(^-^)v
国語、数学、理科、社会、英語。
毎日大量の宿題が出て、そこから出題される。
翌日にはテストの結果上位10名の名前が貼り出される。
毎日のテストの成績で、クラスが別れる。
上位20名はAクラス。21位~はBクラス…という感じで。
1日の流れは…
朝、入り口で昨日のテストの成績表をもらって、その日のクラスを確認する。
(上位10名は貼り出されるけど、それ以外の人は成績表で順位やクラスを確認できる。)
5教科テスト
昨日のテストが返却されて、答え合わせ。
その後はクラスのレベルに合わせた授業。
1日テスト&授業。家に帰れば宿題。
ひたすら勉強。こんなに必死に勉強したのは初めてかもしれない。
毎日、成績の悪いクラスじゃあ、なんだか恥ずかしい。
ちょっとでも順位をあげたい。
テストで点数とるために、宿題頑張る。
授業も本気で頑張れた。
最初は宿題だけで精一杯で、テストも10点や20点をとっていたけど、だんだんと慣れていって、徐々にテストの点数も上がっていき、毎日のテストが楽しくなった。
テストが面白いと言う翔太の気持ちが少しだけわかった。
そんな冬期講習で、私達はある人に会った。
数学担当の先生。
冬期講習初日はどの教科の先生も簡単に自己紹介をしてくれた。
黒板に書かれた名前…
「渡辺高次」
「数学担当の渡辺高次です。よろしく。」
あっさりした挨拶。
顔もあっさりした感じでさわやか。
生徒にモテそうな雰囲気の先生…
渡辺高次?
…って、渡辺高次さん?
エマさんの彼氏だった渡辺高次さん?
ぐ、偶然(;o;)
その日の昼休み、すぐに翔太のところへ行って話した。
「翔太…数学の先生って、エマさんの彼氏だった渡辺高次さんかな?」
初めてエマさんに会った時、一瞬渡辺高次さんを見たような気がするけど、恐怖で覚えていなかった。
「わからん。ただの同姓同名かも…。」
暴力をふるうような人には見えなかった。
「バカ。暴力をふるいそうな雰囲気の人なんて滅多にいないだろ。」
そりゃあそうだけど…
「麻衣~、お昼食べないの?一緒に食べようよ。」
沙織が誘いにきた。
「あ、うん。」
沙織と一緒に母親が作ってくれたお弁当を食べる。
「毎日テストって、ちょっと気が重いね…」
「そうだね…、
私さ、5教科の中でひとつでいいから、絶対テストで点数がとれる教科をつくりたいんよ。」
フムフム…
「私は5教科の中だったら、数学が1番好きだから、せっかく冬期講習に来たんだし、数学を頑張りたいんよ~。」
数学か~。
私は無理だな~(T_T)
「で、早速わからないとこを先生に聞きに行きたいんたけど…
1人で行くの恥ずかしいから、麻衣も一緒に来てくれない?」
え?
…いいけど…
渡辺高次さんのところに?
「いいけど…」
「ありがとう麻衣。じゃ、お弁当食べたら行こっ。」
「う、うん。」
少し緊張しながら、沙織と職員室を覗く。
職員室と言っても先生の人数は少ないので、せまい部屋だ。
私達が部屋のドアを開けると、全員の先生と目が合う(-o-;)
「失礼します。
あの…数学でわからないところを聞きたくて…」
沙織が言うと、渡辺高次さんが
「はいはい。すぐ行くから教室で待ってて。」
と、すぐに返事をしてくれた。
ホッとして、沙織と教室に向かう。
職員室は緊張するね(汗)
教室には何人か生徒がいて、勉強している人もいれば、雑談している人もいる。
学校の教室と同じような雰囲気だ。
沙織と席について、教科書を広げた。
約5分後、渡辺高次さんが教室にやって来た。
すぐに私達を見つけて、私達と向かい合わせに座った。
「初日から質問なんて、勉強熱心だな~。
わからないのは、どの問題だ?」
「教科書の30ページのところなんですけど…」
沙織は本当に熱心に質問していた。
私はその間ずーっと渡辺高次さんの手を見ていた。
渡辺高次さんの手の甲には火傷のあとがあった。
でも火傷のあとを見ていたんじゃなくて、あの手でエマさんを殴ったのかな?って、考えてた。
殴るような手には見えないのにな…
「お~い。先生の手になんかついてるか~?」
ギクッ(;゜゜)
視線感じた??
顔は沙織の方を見たまま…渡辺高次さんに指摘された。
「ジロジロ見てすみません。」
「?あれ?
先生、手の甲は火傷のあとですか?」
沙織も先生の火傷に気付いた。
誤解ですよ、先生。
私は火傷のあとをジロジロと見ていたわけじゃありません!
「この火傷はヤカンの湯がかかっちゃったんだよ。」
もしかしてエマさんにかけられたじゃないよね?(*゜Q゜*)
「ケ、ケンカして怒った彼女にかけられたとかですか?」
聞いてしまった(>_<)
「麻衣ったら~。ドラマの見過ぎじゃない?熱湯かける彼女なんていないよ~。
ね、先生。」
「ハハ…面白いな~、えーっと…何さんだったかな?ごめん。まだ名前覚えてなくて(汗)」
「あ、渡辺です。」
「私も渡辺です。」
「え?二人とも渡辺?俺も渡辺(笑)」
「渡辺って名字多いですよね。」
「そうだな~。じゃ、下の名前も教えてくれ。」
「渡辺沙織です。」
「私は渡辺麻衣です。」
「渡辺麻衣?」
渡辺高次さんは私の名前を聞いて驚いた。
「渡辺麻衣…ですけど?」
「俺の姪と同じ名前だ~。」
「そーなんですか?」
それってまさか『渡辺さんノート』の渡辺麻衣ちゃんじゃないよね?
そんなに世の中狭くないはず…
沙織と顔を見合わせる。
「先生…その渡辺麻衣ちゃんは何歳ですか?」
「ん?小学1年生。」
…
「入院とかしてませんよね?」
「何?お前達麻衣のこと知ってるのか?」
渡辺高次さんは不思議そうに聞いてきた。
親戚でもないのに、中3の私達が小学1年の子とつながりがあるなんて、不思議だよね。
そりゃ、ビックリするよね(汗)
私は世間の狭さに驚いたけど…
渡辺高次さんに簡単に『渡辺さんノート』について説明した。
「麻衣の父親は俺の兄なんだ。
家もそう遠くないから、たまに家に遊びに行ったりして麻衣のこと可愛がってたんだ~
今、麻衣は抗がん剤治療をしてるよ。
お見舞いにもあまり行けないんだけどね…」
麻衣ちゃんの病気の話になって一気に暗くなった…
「おっと、もうすぐ午後の授業が始まるな。」
「先生、また麻衣ちゃんの病状とか教えてもらえませんか?
元気になったら麻衣ちゃんに会いに行きたいし…」
「了解。ただ俺もしょっちゅう連絡とってるわけじゃないから…
また何か分かった時は教えるよ。」
ニコッと微笑んで、渡辺高次さんは教室を出て行った。
「すごい偶然だね…」
「…うん。」
沙織には渡辺麻衣ちゃんのことや大介さんのことは話していたけど、渡辺高次さんのこととエマさんのことは話してなかった。
渡辺高次さんが渡辺麻衣ちゃんのおじさん…
ちょっと複雑な思いだった。
その日の帰り道、翔太に渡辺高次さんが渡辺麻衣ちゃんのおじさんだったってことを話した。
「じゃあ、渡辺高次さんもあのおばあちゃんの息子だったのか。
エマさん家って、おばあちゃん家の隣だったよな?
高次さんとエマさんって、幼なじみ?」
「(*゜Q゜*)そういえばそうだね。」
「高次さんとエマさん…長い付き合いだったのかな?」
私と翔太みたいに?
「もしさ、私が翔太を騙したら、私のこと殴る?」
「いや。」
翔太~(ToT)ほんとに?
「俺がお前に騙されるなんて有り得ないからな。騙されない自信がある。」
なーんだ(-.-)
でも…
高次さんにも暴力はやめて欲しかったな…
エマさんが悪かったとしても…
それから冬期講習では毎日毎日テスト、授業、宿題を頑張った。
私の部屋は返されたテストや宿題のプリントで散らかっていた。
姉が私の部屋を覗いて、
「勉強頑張ってるね。
でもこの部屋じゃ、集中できないでしょ?」
と言って散乱しているプリントを集めてくれた。
「ありがと。」
と、姉にお礼を言いながらも、こんな汚い部屋でも割と集中して、宿題の国語の問題文を読んでいた。
「ちょ、ちょっと!麻衣!なにこれ?」
「え?」
姉を見ると、15点しかとれなかった理科の答案用紙を持って青ざめている。
優秀な姉は多分テストで15点はとったことないだろうし、答案用紙70点以下の点数はあまり見たこともなくて驚いたんだろう。
「あ、それ最初にしたテストでね、全然分からなかったんだf(^^;
今はだいぶ点数上がったから…」
と姉に言いわけする。
ま、未だに翔太と同じレベルのクラスで授業を受けたことはないけどね^_^;
「麻衣…こんなに点数悪いなら、受験ヤバイんじゃない?
私、友達が何人か家庭教師やってるから聞いてみるよ。」
「え?」
家庭教師??いや(汗)いいって!無理だよ!
「家庭教師まではいいよ(汗)」
そう言ったのに、姉は「これから連絡してみる!」と部屋を出ていってしまった。
あの…(T_T)
「私、家庭教師つくかも…」
冬期講習の昼休み、いつものように沙織と教室でお弁当を食べていた。
「家庭教師?なんで?成績下がったの?」
「お姉ちゃんに15点の理科のテスト見られた。」
「はあ~?15点?」
ギャハハ~と沙織が大笑いする。
「なんだ?やけに楽しそうだな。」
振り返ると、渡辺先生(渡辺高次さん)が立っていた。
教室に忘れたプリントを取りに来たらしい。
「麻衣、家庭教師つくかもしれないんです。」
「家庭教師?熱心だな~。」
「私は熱心じゃないんですけど、姉が私の成績を心配して…」
「成績か…、でも渡辺麻衣は成績少しずつ上がってきてるじゃないか。」
「元々が悪すぎですから…(^^;」
「渡辺沙織は数学が得意科目か?」
「はい!」
「得意科目は気を付けろよ。得意科目のテストは、ここで点数とらなきゃ…とプレッシャーあるからな。
問題がわからなくても、焦らず深呼吸しろよ。自信持ってテスト受けろな。」
「はい!」
先生はそう言って教室を出ていった。
この冬期講習にも「渡辺」という名字の生徒が多いので、先生は渡辺さんだけフルネームで呼んでいた。
渡辺先生、私の成績のことも、沙織の得意科目のことも、ちゃんと知ってるんだな。
ウチの中学の担任とは全然違うな…
「ねぇ、麻衣~。」
「何?」
「私さ~、渡辺先生のこと、いいな~って思ってるんだよね…」
「え??( ; ゜Д゜)」
食べかけた卵焼き、ポロッと落っことした…
「ホ、ホントに?(汗)」
恥ずかしそうに頷く沙織。
いや、ちょっと待って!
ほっぺたピンクにして頷く姿は可愛いけど!
渡辺先生は良い先生かもしれないけど…
暴力ふるうんだって!
でもそんなこと言えない…
「麻衣は渡辺先生のこと、なんとも思ってないでしょ?」
「…うん。」
不信感はちょっと抱いてるけどね。
「先生、どこに住んでるとか…彼女はいるのかとか…
麻衣、先生から聞き出してくれない?」
私が?
住んでるアパートも実家の場所まで知ってるよ(^o^ゞ
「お願い麻衣!」
頑なに断るのもおかしいので、沙織の恋に協力することにした。
でもどうやって聞けばいいのかな~。
彼女か…
エマさんとまだ続いてるのか、それとも別れたのか…
てか、先生何歳かな?
20代ではなさそう。30代前半…
うーん…
沙織…かなり年上好きなんだな(汗)
そしてある日の昼休み、沙織と一緒に渡辺先生に数学の質問をしに行った。
チャンス!
質問が終わった後聞いてみた。
「先生はどこに住んでるんですか?」
「▲▲駅の近くの**って、アパート。知ってるかな?」
「え?それ、ウチとすごい近くだよ!」
ビックリする沙織。
「一人暮らしですか?それとも彼女と同棲してるとか…?」
更に聞いた。
「渡辺麻衣は彼女の話ばっかりか(笑)
完全な一人暮らしだよ。」
フムフム…
「ところで、先生は何歳ですか?」
「ん?25。」
「25!(*゜Q゜*)」
今度は私がビックリ仰天。
先生…老けてるね(ごめん先生)
それから、先生の誕生日や血液型など色々聞き出した。
彼女は今はいないみたいだ。
私達はこの冬期講習の学校までチャリで来ているけど、先生もチャリで来ているらしい。
チャリと聞いて、なぜか大介さんの顔が思い浮かんだ。
夏休み、チャリで翔太やトシと一緒にジム行ってたよな~。
汗いっぱいかいて(笑)
そういえば大介さんも年より老けて見えるかも(笑)
さすがに携帯番号やメールアドレスは聞けなかったけど、住所は教えてもらった。
「麻衣、いっぱい聞いてくれてありがとう!
住所教えてもらったから、私先生に年賀状出すよ(^^)」
沙織は嬉しそうだった。
私はやっぱりエマさんのことがひっかかっていて、素直に沙織の恋を応援できなかった。
もし沙織が本気になったとしても25才の大人が中学生を相手にするのかな?という思いもあった。
沙織が悲しい思いをしなければいいんだけどな…
それから、特に変わりないまま年末年始のお休みに入った。
休み中も宿題が少し出た。
中学校から出ている宿題…存在すら忘れていて、1ページもやってない(>_<)
休み中は学校の宿題をせっせとやることにした。
「麻衣~。」
自分の部屋で宿題をしていたら、姉が入ってきた。
「家庭教師、決まったよ~。」
家庭教師!?Σ( ̄ロ ̄lll)忘れてた!
「お父さん達にも了解はとってあるから。」
「あ、ありがとう…
でもまだ学校の宿題が終わってなくて…」
「宿題もみてもらったらいいよ。
もう呼んでるし。」
「え?もう??」
「そーだよ。早い方がいいと思って!
15点じゃヤバイから…」
「…あの、どんな人なの?家庭教師の先生…」
すると、姉の後ろから
「こんにちは、麻衣ちゃん!」
と、突然現れた。
「\(゜o゜;)/大介さん?」
突然現れたのは大介さんだった。
「大介さんが家庭教師なの?」
「適任でしょ?」
「年が明けたら週1回お願いしたの。大介さんも学校やバイトがあるからね。」
週1かぁ…
でも大介さんだったらいいや!
「お茶入れてくるね。」
そう言って姉は部屋を出ていった。
私は勉強机で宿題をしてたけど、椅子がひとつしかないので、下に置いてあるテーブルに移動して、大介さんと向かい合わせで座った。
「絵美ちゃんが、麻衣が高校落ちちゃう~って、焦ってたよ(笑)」
「15点のテスト見られたからね
( ̄∇ ̄*)ゞ
でも学校のテストじゃなくて、冬期講習のテストなんだよ。
毎日テストがあるの。今はだいぶ点数上がったんだよ♪」
「すごいじゃん(^^)
じゃ、学校の宿題もチャッチャと終わらせよっ。31日までに全部終わらすよ!
1日は、麻衣ちゃん、絵美ちゃん、翔太くん、そして僕(笑)の4人で出掛けることになってるから頑張って!」
「え?お出掛け?」
「そう!楽しみな予定があった方が宿題頑張れるでしょ?」
「どこ!どこ行くの?(//∇//)」
「まずは初詣!合格祈願!
あとは…どこ行きたい?」
「遊びたいー!」
「了解!じゃ、宿題にとりかかろう!」
わーい!!わーい!!
楽しみだなー(*≧∀≦*)
早く宿題終わらせなきゃ!
その日は夕方まで大介さんがいてくれたので、苦手科目からとりかかった。
まあ、得意科目ってないんだけど(-o-;)
時間があっという間に過ぎる。
でも冬期講習で毎日宿題をやっているせいか、すらすらと筆が進む。
31日の夕方、すべての宿題が終わった。
すごいじゃん私!
冬休みの学校の宿題はそんなに多くないんだけど、ちゃんと31日までに出来たことが嬉しかった。
姉の部屋にとんでいき、
「お姉ちゃん、私宿題出来たよ!
明日、お出掛けできるよね?
ね、大介さんに電話してよ!」
「麻衣~、ちゃんと出来たんだね!
やれば出来るじゃん(*^^*)
明日は朝8時に大介さんがウチまで迎えに来てくれるから(^^)
寝坊しちゃだめだよ!」
なんだ~、もう決まってたのかぁ~。
でも宿題終わってスッキリ!
明日は楽しめそう♪ワクワク((o(^∇^)o))
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