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『渡辺さんノート』

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リン( 30代 ♀ ns7Lh )
12/04/08 23:08(更新日時)

『思い出』

そう書かれた箱を開けてみると、小学校や中学校時代の思い出の品がつまっていた。

懐かしい♪

引っ越しの為、押し入れの中の片付けをしていたはずなのに、しばし中断。

卒業前にクラスメイトに書いてもらったサイン帳や、たくさんの写真…

こんな人いたな~

文化祭、楽しかったな~とか…

思い出の品々に、すっかり心を奪われてしまった。




その思い出の箱の中に、私の1番の宝物

『渡辺さんノート』があった。








主のリンです。
素人小説ですが、よろしくお願いします。




No.1732544 12/01/12 21:50(スレ作成日時)

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No.1 12/01/12 22:18
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

淡いピンク色のノート。

表紙には幼い可愛らしい字で、『渡辺さんノート』と書いてある。

私は『渡辺さんノート』を手に取り、目を閉じた。

色んな人達の顔が思い浮かぶ…

「なに寝てんだよ。」

旦那の呆れたような声に、ハッと目を開けた。

「要るもの、要らないものをさっさと分けて、早く荷造り終わらせようぜ。」

私の周りには「要るか要らないか分からない物」が散乱していた。

「わかってるよ、も~
要るかどうか悩むんだよ。
でもコレは絶対転勤先まで持って行くよ♪」

旦那に『渡辺さんノート』を見せた。

「うわ、懐かしいな。」

旦那も荷造り中断して、ノートを見る。

「俺ら、転勤でこの町を離れるんだし、もう一度みんなに会いたいな!」

「お~\(^o^)/それいいね!
私もみんなに会いたいよ!
やっぱり、翔太は良いこと言うね~」

No.2 12/01/12 23:05
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

今から10年前のこと。

ちょっとだけぐれていた、中学3年生の時だった。

この頃から両親は、優秀な姉と私を比較するようになり、
「お前はこうだから、お姉ちゃんのようにこうすればいい。」と、姉と同じことをしていれば間違いないみたいに言われていた。

両親の愛情を感じないわけではないけど、どんな時でも、私の意見は否定されて、姉の真似だけをしろ、と言われることに嫌気が差していた。

おまけに中3の時の担任も最悪で…

ベテランっぽい女の先生だったけど、

生徒のことを全然見てない。生徒が何か問題を起こすと、真実なんて何も分かってないくせに叱りまくる。

優等生は可愛がる。

クラス全体…いや、全校生徒から嫌われていた。

学校に行くのが嫌で、一応学校には行くけど、よく授業はサボっていた。

その最悪な担任にとって、私は最も扱いづらい生徒だったに違いない。

元々、自分の手でぐれた生徒を更正させるなんて面倒なことはしない先生だ。

クラスメイトから、私の『教育係』を作ったのだ。

ただ同じ出席番号だったというだけで、私の教育係に選ばれたのは、

渡辺翔太。

私の幼なじみでもあった。

No.3 12/01/12 23:28
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

「お~い、渡辺麻衣さん、授業サボらないで下さい。
俺がアイツ(担任)に文句言われるんですけど~」

「渡辺麻衣さん~、早退はダメですよ~」

「渡辺麻衣さん~…」

「も~!うるさいな(`Δ´)」

私の教育係になったばかりに、担任から文句を言われるのは申し訳なかったが、翔太に1日の行動を見張られてるようで、うっとうしかった。

もう面倒で学校を休んだ。

仮病だ。

朝、母親に頭が痛いと言って、しんどそうな演技もした。

母親が学校に連絡をしてくれた。

無断で休むと、学校から母親の職場に連絡がくるんじゃないかと心配だった。

私って真面目だな~

そう思いながら、ベッドの上でゴロゴロしていた。

両親は仕事、姉は学校…

静かな家の中、窓からは暖かい日差し

いつの間にか眠っていた。

No.4 12/01/12 23:44
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

昼過ぎに目が覚めた。

…お腹すいた。

台所へ行くと、母親がおかゆを作ってくれていた。

…ホントは元気だからな^^;

おかゆだけじゃ足りない。

ダッシュで近所のコンビニに行って、パンを買ってきた。

よかった…
誰にも会わなくて。
学校休んでるのに、出歩いてて、近所の人にでも会ったら困るからね…

ホッとして玄関のドアを開けようとしたら、玄関脇にあるポストにノートが入っているのが見えた。

なんだろう。

ノートを取って部屋に入った。

No.5 12/01/12 23:52
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

ノートの表紙には、子どもの字で

『渡辺さんノート』

と書いてある。


渡辺さんノート?

もしかして、不幸の手紙みたいなヤツかな…

恐る恐る、表紙をめくる。

『わたしの名前は渡辺麻衣です。

たくさん友達がほしくて、このノートを作りました。

このノートの友達は渡辺さんげんていです。

渡辺さんあつまれ!』


1ページ目にはそう書いてあった。

No.6 12/01/13 00:03
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

渡辺麻衣!?

私と同姓同名じゃん!

まず、そこに驚いた。

まあ、そんなに珍しい名前でもないしな…

でも妙に親近感わく。

2ページ目

『ルールせつめい

このノートをうけとった人は自己紹介を書く。
①名前
②誕生日
③好きな食べ物……


自己紹介を書いたら、次の渡辺さんをさがして、このノートを渡す。

最後の人は、私のところまでこのノートを届けて下さい。
ヒント…私は○○市▲▲町に住んでいます。』

No.7 12/01/13 21:56
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

▲▲町って…

同じ町内だし。

ウチの近所にも何軒か『渡辺さん』がいる。

ウチの二軒先は翔太の家。

このノートを作った子も、近くに住んでるのかな?

ウチのポストにノートを入れに来たわけだし。

それにしても、『渡辺さんノート』なんて面白いこと考えるな~。

次のページでは

友達①

名前 渡辺麻衣
誕生日 3月26日
好きな食べ物 いちご、ヨーグルト

等々、自分自身を紹介していた。

次の友達②は…私か~。

ちょっと書いてみよっかな~。

友達②

名前 渡辺麻衣
誕生日 8月1日
好きな食べ物………ラーメン?

ラーメンじゃ可愛くないかな?

他の人もこのノート見るんだし…

果物…とかの方が女の子らしいかな?

私はこのノートを次の『渡辺さん』に、渡すつもりでいた。








No.8 12/01/13 22:13
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

あれこれ考えながら、私は友達②のページを完成させた。

できた~♪

もう夕方になっていた。

ピンポ~~ン

玄関のチャイム音。

…誰だろう。
セールスかな?

出るのが面倒で無視していたら、再びピンポ~~~ン

なんだかふざけた押し方だな。
ウチのチャイムで遊んでんのか?
あっ、ピンポンダッシュ?

玄関まで、そっと歩いた。

すると、

「麻衣~?いないのか~?」

この声は…(-.-)

玄関を開けると、不服そうな顔をした翔太が立っていた。

No.9 12/01/13 22:33
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

「お前、何学校休んでるんだよ。
てか、チャイム1回でちゃんと出ろよな。
わざわざ家まで来てやったのに。
ほら、コレ。宿題のプリント。」

「(-_-;)…どうも。」

「本当は元気なんだろ?
俺だってな~お前の教育係なんて嫌なんだよ。お前だけ楽しようとすんなよな~。」

そう言うとずかずかと家の中に入り、

「お詫びにお茶くれ。喉乾いた。」だって

も~~( ´△`)

「何か持って行くから、部屋で待ってて。」

私は氷の入ったグラスにコーラを注いで、部屋へ持って行った。

翔太は私の机に置かれていた『渡辺さんノート』を見ていた。





No.10 12/01/14 22:04
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

「なんだよ、このノート。
珍しく勉強してんのかと思ったら、渡辺さんノート!?」

「今日ポストに入ってたの。
面白いでしょ(*^^*)
そうだ!友達③のページ、翔太が書いてよ♪」

翔太はコーラをひとくち飲んで、溜め息まじりに、「アホか… 」と呟いた。

「お前、怪しいと思わないの?」



「何が?」

「友達が欲しいからって、こんなノート作って、家まで持ってくるか?
友達なんて学校で作った方が早いんじゃないか?」

「引っ込み思案な子なんじゃない?」

「しかも、このノート作った本人、お前と同姓同名じゃん。怪しいって。
子どもっぽい字で書いてあるけど、実は正体はオッサンで…
お前のことを知ってて家までこのノート届けて…
お前の行動見て喜んでるかもよ。」


「何それ?バカじゃない?
オッサンがこんなことするわけないじゃん!」

「変態っているからな。」

かちんときた。

「翔太はどんな時もいつもそうだね。
すぐ疑ってバカにする!
このノートは、小学校低学年ぐらいの渡辺麻衣ちゃんが、純粋に友達が欲しくて作ったんだよ!」

翔太は冷めた顔でコーラを飲んでいる。


…なんだよ、無視かよ(怒)

「わかった!
私が証明してみせる!
私が渡辺さんをたくさん探して、このノートをいっぱいにして、最後にこの渡辺麻衣ちゃんにノートを届けるよ!」

『渡辺さんノート』を作ったのはオッサンでもなければ、イタズラでもない!

翔太はコーラを飲み干すと、

「ほどほどに(-.-)ノ」と言って帰って行った。

も~(`ロ´;)ムカつく!

No.11 12/01/14 22:24
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

このノートを見た時、

怪しいな、とかイタズラだとか…そういう風には思わなかった。

小学生ぐらいの女の子が、友達を増やしたくて、一生懸命このノートを作ったんだろうなって思った。

だからこそ、絶対に渡辺麻衣ちゃんに会って、証明してみせる!


翌日、『渡辺さんノート』を持って学校に行った。

「沙織~、ちょっとコレ書いてよ!」

昼休み、同じクラスで仲の良い沙織に頼んだ。

「何これ?」

沙織にノートの説明と、昨日の翔太とのやりとりを話した。

「それで意地になってんだ~。
いいよ。協力する!」

「ホント~?ありがと♪
とりあえずね、全クラスまわって校内の渡辺さんに、書いてもらおうと思ってんの。」

「了解(*^^*)
あ、渡辺先生もいるね。」

沙織が校内の渡辺さん探しに付き合ってくれることになった。

クラスは各学年5クラス。

渡辺さん、何人ぐらいいるんだろ~?

No.12 12/01/14 23:02
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

翌日から、毎日ではなかったけど、放課後は沙織が部活で忙しいので、基本、昼休みに二人で、渡辺さんを探し歩いた。

沙織はハンドボール部の部長で、後輩にも慕われていたし、目立つ存在だった。
私と違って教師受けも良かった。

私は悪い意味で目立つ存在だった。

全く面識のない渡辺さんでも、私達が「書いてくれますか?」と、ノートを差し出すと、拒否ることなく『渡辺さんノート』に記入してくれた。

1年生…5人
2年生…3人
3年生…5人
先生…2人

昼休みは自由に過ごしているので、顔の知らない渡辺さんを探すのは大変だった。

色んな人に、「渡辺さんか、渡辺くんを見かけませんでしたか?」 と聞いて歩いた。

渡辺さん(又は渡辺くん)を見つけた時は、まるで宝物を発見したみたいに、大喜びした。

「校内の渡辺さん、制覇したね♪」

「うん!ありがとね~沙織、付き合ってくれて。」

「ウチもメッチャ楽しかったよ~。
たから探しみたいで(笑)
あとは…地域の渡辺さん探しかな?」

「うん。地域はちょっと緊張するけど…頑張って探してみるよ。」

もうすぐ夏休み。

私は美術部に所属しているけど幽霊部員。
(姉が美術部だったから入ってみただけ。絵は下手。)
休み中、2回ぐらい顔出しとけばOK

中学最後の夏休み。

渡辺さん探しして思い出つくろう。

沙織は部活があるから無理だけど…

1人で大丈夫かな?

No.13 12/01/15 20:16
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

家にある町内の電話帳を広げた。

『渡辺さん』は20軒以上ある。

ノートの残りはあと10ページほど。

電話帳には町内の地図も載っている。

近所に渡辺さんはウチと翔太の家を除いて3軒。

チャリで15分ぐらいかかる沙織の家の近くにもう一軒。

沙織の家のもう少し先には、アパートがいくつかある。
アパートの住人の名前は載ってないけど、1人ぐらい渡辺さんがいないかな?

地図帳とにらめっこしながら夏休みの計画を立てた。


7時に起きる

午前中は宿題をする。(真面目(笑))

昼ごはんを食べたら、夕方まで渡辺さん探しをする。
〈持ち物〉
・渡辺さんノート
・地図帳
・お茶

実行するのは苦手だけど、計画を立てるのは大好き♪

ワクワクしていた。

No.14 12/01/15 20:43
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

そして夏休みが始まった。

朝9時。

私はチャリに乗り家を出発した。

夏休みの計画は初日から守れてない。

とりあえず渡辺さん家を探して、家の雰囲気をチェックしよう。

「麻衣~。」

コンビニの横を通った時、声をかけられた。

翔太だった。

「翔太、何?」

「待ち伏せしてた。」

「は?」

「これから渡辺さん探しに行くんだろ?」

「そうだけど。
何で知ってんの?」

「渡辺沙織さんから聞いた。」

「え?沙織から?」

「麻衣1人じゃ心配たから、翔太くんついて行ってあげて~って。
どうせヒマでしょ(笑)って(- -;)」

「そうなんだ。でも大丈夫だよ。」

「バカだな…世の中には変な奴がいるんだよ(;´д`)」

「…」

「お前がしょーもないこと始めるから(-.-)」

「しょーもなくないもん。
私1人でも大丈夫です( ̄皿 ̄」

も~、ムカつくな~

翔太を無視してチャリを走らせたが、チラッと振り替えると、翔太がチャリでついてきている。

ストーカーか(ーー;)

そのまま翔太を無視して、沙織の家の先にあるアパートを目指した。

No.15 12/01/15 20:55
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

>> 14 主です。

振り替える→振り返る でした。

他にも漢字の間違いが出てくると思いますが…


すみません!

No.16 12/01/15 21:57
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

アパートについた。

綺麗なアパートが2軒ある。

どんな人が住んでるのかな~

「ワンルームだな。ここは駅も近いし、大学生とか…若い人が住んでるんじゃないか?」

追いついてきた翔太が言う。

「そうなの?」

「そんな感じだろ。」

チャリを邪魔にならない場所に置いて、アパートの周りを歩く。

それぞれのドアに、ちっちゃいけど名前が貼ってある。

ひと部屋ずつ見て歩いた。

おぉ(^〇^)

あったあった!

渡辺大介

渡辺高次

男の人か…

横目で翔太を見る。

「俺がいてよかっただろ(-_-)/~」

…(-o-;)

No.17 12/01/15 22:33
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

でもこのあと…
一緒に来てくれた翔太に…
私について行ってあげて、と翔太に頼んでくれた沙織に…

大感謝することになる。

「どうしよう…
ピンポン押してみようか?」

私はドキドキしていた。

「せっかく来たんだから押してみたら?
留守かもしれないし。」

「そうだね…」

まずは渡辺大介さん家。

ピンポーン



緊張から、手にじっとりと汗をかいている。



部屋に人のいる気配はない。

「留守かな?」

「平日の午前中だし、学校か仕事に行ってるんだろ。日曜日に来た方が、会える確率高いんじゃないか?夜には来れないし。」

「そうだね。じゃあ渡辺高次さんもいないかな?」

「さあな。一応行ってみたら?」

渡辺大介さん家はまた日曜日に来るとして、次は渡辺高次さんの家に行った。

No.18 12/01/15 22:59
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

留守だと残念。だけど、いたらいたで緊張するな…

もしいたら…
最初になんて言おう。
友達集めてます?う~ん(-_-)

悩みながら渡辺高次さん家のピンポンに手を伸ばした瞬間…

ドドド…

部屋から音が聞こえた。


何の音だろ。

後ろにいた翔太を見た。
翔太も不思議そうな顔をしていた。

そしてまた、

ドサッ…

奇妙な音がする。

少し怖くなって、翔太のそばに行った。

「翔太…何の音だろ?」

「分からない。部屋で相撲でもしてるのか(汗)
この部屋は怪しいからやめとこ…」

バンッッ

突然、渡辺高次さん家のドアが開いた。

No.19 12/01/15 23:09
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

私はビックリして思わず翔太に抱きついた。

部屋の中から顔がボコボコに腫れた女の人が出てきた。

女の人の後ろから男の人が追いかけてくる。

怖い!

私はギュッと目をつむった。

「わーーー」突然、翔太が叫んだ。

え?翔太?

「お前も叫べ!早く!」翔太が小声で言う。

「わーーー!」訳もわからず、ありったけの声で叫んだ。

すると男の人は私達の声に驚いたようで、部屋の中に入って、ドアを閉めてしまった。

ハーー

よかった…

怖かった。私、半べそ。

部屋から出てきた女の人はヨロヨロと道端に座りこんだ。

足元を見ると裸足だった。

翔太と顔を見合せる。

ひょっとして…暴力?

思いきって声をかけた。翔太が。

No.20 12/01/15 23:23
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

「あの…大丈夫ですか?」

「あ、うん。ごめんね。怖い思いさせて。
叫び声で助かったわ。」

女の人の顔は腫れて、手足にはあざもある。

長い髪で必死に顔をかくそうとしている。

ふと見ると、抜けた髪の毛が服にいっぱいついていた。

髪を引っ張られたり、殴られたり、蹴飛ばされたりしたのかな…

「あの…ウチに来ませんか?
裸足じゃどこにも行けませんよね?
それとも…あの部屋に戻るんですか?」

女の人は泣き出してしまった。

女の人を翔太のチャリの後ろに乗せて、とりあえず翔太の家に行った。

No.21 12/01/15 23:48
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

私の家は日中は誰もいない。

翔太の家も両親共働きだけど、オバチャンは平日に1回休みがある。

それが今日だった。

暴力を受けた女の人を、どうしたらいいのか分からなかった。

オバチャンに助けを求めた。

「あらまあ、酷い…」

翔太の家に着くと、オバチャンが女の人の手当てをしてくれた。

「ちょっと、子どもは向こうに行ってなさい。」と部屋を追い出された。

翔太の部屋に行った。

二人共無言だった。

渡辺さん探しが、まさかこんなことになるなんて…

暴力を受けた人を見たのも初めてで…

ショックだった。

すると、翔太が
「人助けできて、よかったじゃん。
もし、渡辺さん探ししてなかったら、あの人どうなってたか。」

そうだよね。

でももし今日私1人で行ってたら…って考えると、ゾッとした。

もう、渡辺さん探し…やめようかな

「今度から、『ノートに記入お願いします。取りに来ますので、記入後はポストに入れておいて下さい。』ってメモつけて、ポストに入れとけよ。」

「え?」

「まだ続けるんだろ?渡辺さん探し」

「あ、うん。」

「翔太ー、麻衣ちゃ~ん、ごはんだよ!」

オバチャンの声が聞こえた。

グゥ…

お腹すいた^_^;

No.22 12/01/16 20:19
リン ( 30代 ♀ ns7Lh )

リビングに行くと、オバチャン特製のデッカイおにぎりが用意されてた。

それと、お味噌汁、卵焼き、野菜炒め。

美味しそう♪

オバチャンのおにぎりは絶妙のにぎり具合で、梅干し入りで美味しいんだ(^^)

女の人も席についている。

さっきより表情が和らいだような気がする。

「高木恵真ちゃん。」

オバチャンが女の人の名前を教えてくれた。

初対面なのに、ちゃん付けで呼ぶところがオバチャンらしい。

「これは息子の翔太。そっちは友達の麻衣ちゃん。」

「あ、どーも。」翔太と一緒に頭を下げた。

エマさんも微笑んでくれた。

「じゃあ、みんなでいただきま~す」

No.23 12/01/16 20:38
リン ( ♀ ns7Lh )

渡辺高次さんとは恋人なんですか?

どうして殴られたんですか?

これからどうするんですか?

聞いてみたいことがたくさんある。

でも子どもの私が、むやみに聞くのはいけないような気がして、何も聞けなかった。

静かにごはんを食べた。

エマさんは口の中が切れているらしく、少ししか食べれなかった。

ごはんが食べられないほど殴るなんて…

渡辺高次さんに対して腹が立った。

暴力なんて…
テレビの世界だけだと思ってた。

本当にあるんだな…

暴力なんて最低だ(`Δ´)

でも…
オバチャンも何も言わない。

エマさんを慰めることもしない。

私が親と喧嘩して、オバチャンに相談しに来た時には、慰めてくれて優しい言葉をかけてくれたのにな。

私が子どもだからかな?

No.24 12/01/16 21:36
リン ( ♀ ns7Lh )

「ごはん食べたらエマちゃんを家まで車で送って行くからね。」

「え?渡辺高次さん家に?」
私はビックリして立ち上がった。

「違うよ。私の家。
彼のフルネーム知ってるの?」エマさんが言う。

「部屋のドアに名前が貼ってあったから…」

「よく覚えてるね。」

「まあ、たまたまです。」

渡辺高次さんをたずねようとしてた、とは言えなかった。

「でも、こんなに怪我してるのに、家に帰ったら、お母さん達が驚きませんか?」

「驚くと思う。
でも自業自得だから仕方ないの。」

自業自得?

「ま、とにかく送って行く。家までオバチャンもついて行くから。」

ごはんを食べ終えて、エマさん家までオバチャンの車で出発。

邪魔しないからと約束して、私と翔太も後部座席に乗り込んだ。






No.25 12/01/16 21:57
リン ( ♀ ns7Lh )

エマさん家は私達の町の隣の■■市。

車で20分ぐらい。

オバチャンの車はゆっくり進む。

傷に振動が響かないようにしてるのかな…

お腹もいっぱいだし、車の心地よい揺れ。

眠くなってきちゃったな…

隣に座っている翔太を見ると…寝てる!

自業自得って言ってたのは気になるけど、聞いても教えてもらえないだろうし。

そう思ってウトウトしていたら、あっという間にエマさん家に到着した。

車をとめてエマさんとオバチャンは家の中に入って行った。

私と翔太も車から降りて、家の方を見た。

「翔太~、自業自得ってさ、エマさん何か悪いことしたのかな?」

「浮気…もしくは金を盗んだ。」

「は?」

「母ちゃん、多分説教しに行ったんだろ。」

「なんで?」

「俺の妄想。」

「も~、からかってんの?」

「あ!!」

「何?どしたの!?」

「お前、今『渡辺さんノート』持ってる?」

「車に置いてるけど…」

翔太がエマさん家の隣の家の表札を指差す。


あ、渡辺さんだ。

No.26 12/01/16 22:32
リン ( ♀ ns7Lh )

和風のデッカイ家だ。表札も立派だ。

翔太がピンポンを押そうとしている。

「え?行くの?」

「待ってる間ヒマだし。ノート書いてもらうだけなら、すぐ終わるだろ。
暴力男は住んでなさそうな家だし。」

ピンポーン

押した(゜ロ゜;

私はあわてて車に戻り『渡辺さんノート』を取ってきた。

「はい?どちらさま?」

出てきたのは、お年寄り。
品のあるお婆ちゃんだった。

翔太が事情を説明している。

「まあ、そうなの。
いいわ、名前書くぐらい。」

快くノートに記入してくれた。

「ありがとうございます。
決してオレオレ詐欺とかではありません(笑)」

おいおい翔太(汗)
そう言ったら余計に怪しくないか(-.-)

でもお婆ちゃんはニコニコ顔。

「お爺さんもいるのよ」と、わざわざ呼んでくれて、お爺ちゃんもノートに書いてくれた。

ほかに家族はいない様子。

こんな大きな家に夫婦二人で住んでるのかな?

お婆ちゃん達は、子どもと話すのは久しぶり、といった感じで、私にはお菓子を持ってきてくれたり、お爺ちゃんは翔太と将棋を始めてしまった(^^;

「お婆ちゃん達は、こんな大きな家にお爺ちゃんと二人で住んでるの?」

「そうなんだよ。いつも二人で寂しいからね、誰か訪ねてきてくれると嬉しいんだよ。」

「息子さんとか…孫はいないの?」

「いるんだけどね、年寄りとは一緒に暮らしたくないみたい。孫は病弱でね、なかなか会えないんだよ。」

「そうなんだ…寂しいね…」

「あんたら何やってんの?」

オバチャンの声がした。

「すみません、ウチの子ども達が迷惑かけて…」

「いいや~、私達が相手してもらってるんだよ。」

No.27 12/01/16 22:44
リン ( ♀ ns7Lh )

それからオバチャンも加わり、一緒に縁側に座ってお茶を飲みながら、世間話をした(笑)

その中で、お婆ちゃん達の息子さんが私達と同じ町内に住んでいることが分かった。

世の中、せまいね~って話で盛り上がった。


16時過ぎ…
そろそろ夕飯の買い物があるので…と失礼した。
お婆ちゃん達は名残惜しそうだった。

息子さん、どうして一緒に暮らしてあげないのかな?

なんだかせつない気持ちで、見送るお婆ちゃん達に手をふった。

No.28 12/01/16 23:02
リン ( ♀ ns7Lh )

「エマさん…どうだった?」
翔太が聞いた。

「エマちゃん、彼氏を騙してお金をとろうとしたんだって。」

嘘…

「エマちゃん、ご両親に借金があったみたい。その返済にあてるつもりだったって。

借金返すなら頑張って働くしかない。

盗もうとしたエマちゃんも悪い。

でも暴力もよくない。

これからどうするか、
ご両親とエマちゃんと彼氏で話し合うことになった。」

「…」

「翔太、麻衣ちゃん。
どんな時でも盗みはいけない。
うまく騙せたと思っても、絶対に天罰がくだる。

翔太、
暴力男だけにはなるな!」
オバチャンは真剣だ…


「はい…」

二人揃って返事をした。

万引きがかっこいいとか…

友達騙して喜んだり。

そういうの、学校でもある。

たいしたことじゃないって思ってたけど、大人になってもあるんだな…

No.29 12/01/17 22:42
リン ( ♀ ns7Lh )

翌日。

朝8時に起床。ベッドの上でボ~っとする。

昨日は色んなことがあって疲れたな…

1日がすごく長かった。

エマさん、ちょっとは傷治ったかな…

お婆ちゃん、寂しくしてないかな?

あ!
そうだ…

私はベッドからおりて、町内の電話帳(兼地図帳)を広げた。

同じ町内に住むお婆ちゃんの息子…

名前は、ひとしと言っていた。

渡辺……渡辺均?←ひとしと読むのかな?

前後の名前を見るとこれしかない。

住所を見て地図帳で家を探す。

あった。

けっこう近い。自転車で行ける範囲だ。

どうしよう。
行ってみようかな?

すると外から「麻衣~」と翔太の声がする。

部屋の窓を開けると、制服姿の翔太がいた。

「あれ?今日学校?」

「おう。昨日、じいちゃんと将棋したら、部活やる気になった。」

「囲碁将棋部?」

「そう!ちょっと行ってくる。
だから今日は渡辺さん探しはお休みしとけ。
1人で行くなよ。じゃあな。」

と翔太は学校に行ってしまった。

囲碁将棋部…渋いな。

あ~、
今日は翔太いないのか~。

地図帳の渡辺均さん家を見る。

とりあえず家だけ探しに行ってみよう。

ピンポンは押さず、『渡辺さんノート』も家に置いて行こう。

No.30 12/01/17 23:01
リン ( ♀ ns7Lh )

チャリに乗り、渡辺均さん家に向かう。

じりじりと暑い…

セミの合唱。

しばらくチャリをこぎ、あまり通ったことのない道に出た。

通学路なのか、小学生の子達がプールバックを持って、学校に向かっている。

地区プールかな?
プール気持ち良さそうだな~(*^^*)

ふと、小学生のプールバックを見ると、
2年1組 ○○… と名前が書いてある。

2年生か…

あ、渡辺麻衣ちゃん、知ってるかな!

3人で楽しそうに喋りながら歩いていた小学生に声をかけた。

「ねえねえ、ぼくたち~」

小学生は立ち止まって振り返る。

「渡辺麻衣ちゃんって子知ってるかな?」

小学生は顔を見合わせ、「知ってる?」「俺知らん」と言い合っている。

知らないか…

結局「知りません。」と言われた。

「どうもありがと。」

他の小学校なのかな…

小学生と別れてまたチャリをこぎ始めた。

No.31 12/01/17 23:06
リン ( ♀ ns7Lh )

まあ、でも『渡辺さんノート』を作った渡辺麻衣ちゃんが小学生っていうのは、私の勝手な想像だからね。

もしかしたら、中学生の可能性もある。

オッサンであっては欲しくないけど…絶対に。

No.32 12/01/17 23:49
リン ( ♀ ns7Lh )

そして家を出てから約20分後…

渡辺均さん家を見つけた。

住宅街の角っこの家だったから、見つけやすかった。

ただ…

渡辺均さん家。

庭の草がのび放題…

人が住んでる感じがしない。

こんなに草がのびてたら、玄関まで行くのも大変だよ。

物干しはあるけど、こんなにいい天気なのに、何も干してない。

なんだか怖くなった。

ホントにあのお婆ちゃんの息子の家なのかな?

私、間違えたのかも。

…帰ろう。

暑い中、仕方なく来た道を戻った。

No.33 12/01/19 22:05
リン ( ♀ ns7Lh )

ひとりで渡辺均さん家に行ったこと

翔太には内緒にしておいた。

翌日から翔太と一緒に「渡辺さん探し」を再開した。

ご近所の渡辺さん3軒。

沙織の家の近くの渡辺さん1軒。

その他にも地図帳で調べて何軒かの渡辺さん家をまわった。

なんのトラブルもなく、テンポ良く様々な年齢の「渡辺さん」に、ノートに記入してもらうことが出来た。

順調だ♪

今日は私の部屋で地図帳を広げて、次の「渡辺さん」の家探し。

もう何軒もまわったのに、渡辺麻衣ちゃんにはまだたどりつけてない。

『渡辺さんノート』を作った人が、本当にオジサンだったり、単なるイタズラだったりしたらどうしよう…と不安になったけど、はなから『渡辺さんノート』を怪しいと言っていた翔太に、そんな弱気なことは言えず、黙っていた。

翔太も「渡辺麻衣ちゃんなんて見つからないじゃないか~」みたいにからかうこともなかった。

本当は翔太も『渡辺さんノート』を純粋なものだと思っていたのかな?

No.34 12/01/19 22:14
リン ( ♀ ns7Lh )

「あ、そういえばさ…」

翔太が話し出す。

一瞬ヒヤッとした。

渡辺均さん家行ったのがバレた?

(バレるわけないんだけど(^_^;))

「な、何?」

「エマさんのことで忘れてたけど、エマさんの相手の渡辺さん家の隣のアパートに、もうひとり渡辺さんがいたよな?」

そうだ!

「いたいた!確か渡辺大介さん。」

「明日、日曜日だし行ってみるか?」

「うん。」

エマさん…
今どうしているのかな?

誰かを騙してなきゃいいけど。

No.35 12/01/19 22:40
リン ( ♀ ns7Lh )

ピンポーン

翌日…

渡辺大介さんの部屋のピンポンを押す。

渡辺大介さんの部屋に来る前に、エマさんの彼?の、渡辺高次さんの部屋を見てみた。

すごく静かでカーテンも閉まっていて、留守のようだった。

なんとなくホッとした。

「はい…」

ガチャリと渡辺大介さん家のドアが開いた。

いると思わなかったので、一瞬頭の中が真っ白になってしまった。

たじたじ…

すると翔太が『渡辺さんノート』の説明をしてくれた。

渡辺大介さんは年齢は20代ぐらい。

顔は…う~ん…
私のタイプではない(笑)

ちょっと太ってるけど、優しそうな感じの人だった。

「いいよ。このノートに書けばいいんだね。」

すぐに記入してくれた。

「ところで君たち中学生?カップルなの?」

え?( ̄0 ̄;

「違います、幼なじみなだけです。」

「そう。幼なじみか~。いいね。
俺さ~昨日フラれたんだよね…」

幼なじみ関係ないし(-.-)

「そ、そうなんですか(汗)」

「優しいだけじゃ物足りない、このデブだって…」

デブが原因??

「痩せたらいいんじゃないですか?」

「そうは言ってもね~」

おいおい、中学生に愚痴るなよな~(*_*)

「じゃあ…」

帰ろうとすると突然、

「ちょっと待って!君さ、モテるだろ?
イケメンだし。
モテるコツ、俺にも教えてくれよ!」

「え(汗)別にモテないッス」

焦る翔太(^з^)


  

No.36 12/01/19 22:58
リン ( ♀ ns7Lh )

そう。
翔太はモテる。

囲碁将棋部なんて、ちょっと地味?な部活に入ってるけど、スポーツ万能だし勉強もできる。

顔も整ってる。

でもクールなところというか、しゃべり方もキツイし、近寄りがたいところもある。

そしてなぜか私が公認の彼女?みたいになっているらしい。

それでも、翔太のことを好きな子の噂は聞くし、告白されることもある。

告白されても、翔太はいつも断っているので、彼女はいない。

なんか面倒ならしい。

「とりあえず、痩せたらどうですか?」

翔太は渡辺大介さん相手に困っていた。

「痩せるって、どうやって?」

「ジムに行くとか…」

「ジム…そうだ!君、ジムについてきてくれよ!」

「え?(・・;)」

「近くの☆☆ってジムなら自転車で行けるし。もちろん費用は俺が出す!」

「ちょ、ちょっと待って下さい、俺、受験生なんです!」

そうそう。
忘れてたけど、私達受験生だった。

「そんな長い時間じゃなくていい。
どうしてもアイツを見返してやりたいんだ!
頼むよ。これも何かの縁だと思って!」

No.37 12/01/19 23:20
リン ( ♀ ns7Lh )

「はぁーー」
翔太が大きなため息をつく。

結局、夏休みの間だけ週2回、渡辺大介さんと一緒にジムに行くことになった翔太。

最後には半泣き状態で頼まれた。

「渡辺大介さん、いい人そうだし、ジムで体動かせるんだし、まあいいじゃん。」

「しょせん、他人事だからな(-_-)」

「まあまあ…」

さすがに私がついていくわけにはいかないし、でも渡辺大介さんと二人きりは気まずいということで、急きょ、ひとつ年下の翔太の弟、敏信も一緒に行くことになった。

トシ(敏信)はバスケ部で活躍しているので、ジム通いは素直に喜んでいた。

No.38 12/01/21 22:17
リン ( ♀ ns7Lh )

今日は初ジムの日。

トシが部活をしているので、ジムは部活後の夕方から。

チャリで大介さんが翔太の家まで迎えに来ることになっている。

家の前の道で翔太とトシと一緒に大介さんを待った。

「ジムで筋肉つけたいわー(^^)」

元気にストレッチしながらトシが言う。

それとは対照的に翔太はまだ憂うつな表情…

「翔太~いいかげん機嫌直しなよ。」


「ふん。」

「タダでジム行けるなんて俺は嬉しいよ♪」
トシはニコニコ。

「…だって怪しいだろ(-.-)」

用心深いヤツ。

「でも、大介さんって何してる人なんだろ?大学生かな?」

「知らね~よ( ̄^ ̄)」

「麻衣ちゃん、俺が色々聞いとくよ。」

「トシ!よろしくね♪」

「お~い(^o^)」

チャリに乗った大介さんがやってきた。

「お待たせ(^^)」

すでにめちゃめちゃ汗をかいていて、ペットボトルのスポーツ飲料を飲んでいる。

はは…_(^^;)ゞ

翔太、潔癖症っぽいところがあるからな…

太った人苦手なのかな(汗)

「初めまして。弟の敏信です。トシって呼んで下さい。」

「お!トシ!よろしくな~。」

か、軽いな~(笑)

翔太はノリ悪いからな(^^;

まあ、いってらっしゃ~い。

No.39 12/01/21 22:44
リン ( ♀ ns7Lh )

翌日、

朝から翔太の家に行き、昨日のジムの感想を聞いた。

「楽しかったよ(^^)v
毎週、火曜日と金曜日に行くことになった。
大介さんはすぐバテてたな~(笑)
今日、筋肉痛かも。

大介さんハタチで大学生だって。
しかも◎◎大学!
頭いいんだな~。」

トシが教えてくれた。

◎◎大学!

へぇ~、優秀なんだな。

「今、大学生も夏休みだからな。
明日から、大介さんに勉強教えてもらうんだよ。」

翔太が自慢げに言う。

昨日まで嫌がってたのに、なんだその得意顔は(-.-)

大介さんは火、金曜日以外は昼過ぎからバイトがあるので、午前中に図書館で翔太と勉強会をするらしい。

受験生って言ったから、気を使ってくれてるのかな?

「教師目指してるらしいよ。」

そうなんだ。
私も宿題手伝ってもらおっかな。


 






  

No.40 12/01/22 08:22
リン ( ♀ ns7Lh )

午前中は図書館で勉強。

火曜日と金曜日はジム。

それ以外は、「渡辺さん探し」、たまに部活、家族との行事、等々…

かなり有意義な毎日を送っていた。

翔太と大介さんの勉強会に私もくっついて行ったけど、全くついていけず…

私は窓際にある、ゆったりと本を読むコーナーの席で、ぼちぼち夏休みの宿題を進めていった。

ただ宿題をしてるだけなんだけど、朝から図書館に行くなんて、なんか「勉強できる子」みたいな(*^^*)

姉が、図書館で宿題をしている私の姿を見かけたらしく、
(いつも窓際の席でしてるから、外から見えたらしい。)
「麻衣が図書館で真剣に勉強してたよ。えらいね。さすが受験生!」
と、夕飯の時に両親の前で誉めてくれた。

「麻衣、頑張ってるんだな。」
「お姉ちゃんも、よく麻衣を見つけたな~」

と、なぜか姉まで両親に誉められてたけど…

まんざらでもない。

誉められて嬉しい。

「真剣に勉強」ではなくて「嫌々宿題」なんだけどね^_^;

翌朝、父が
「勉強の後、ジュースでも買いなさい(^^)」
と、お小遣いをくれた。

なんてラッキーなの(^o^)v

No.41 12/01/22 08:32
リン ( ♀ ns7Lh )

大介さんは面倒見が良くて、図書館では、翔太の勉強を見つつも、たまに私の席にも来てくれて、わからないところを教えてくれたりした。

勉強会の後はたまに自販機のジュースをおごってくれることもあった。

教師を目指してるって言ってたけど、ぴったりだな~。

最初は大介さんのこと、タイプじゃないな~なんて思ってたけど、いつのまにか「お兄ちゃん」みたいな感じで、好きになっていた。

今日は勉強会の後、父にもらったお小遣いで大介さんにジュースおごろう♪

No.42 12/01/22 14:21
リン ( ♀ ns7Lh )

そしてお盆も過ぎ、夏休みも後半戦。

『渡辺さんノート』は残り1ページ。

渡辺麻衣ちゃんを見つけて、イタズラじゃなかったことを翔太に証明し、最後のページは翔太に書いてもらおうと思っていた。

それなのに、肝心の渡辺麻衣ちゃんが見つからない…

町内全部の渡辺さん家をまわったわけじゃないけど、まだ行ってない「渡辺さん」は、ウチから遠くてチャリで行ける距離ではない。

どうしよっかな~。

部屋で地図帳を見ながら悩んでいると、外からボソボソと声が聞こえる。

あ、今日はジムの日か~

翔太とトシが外で大介さんを待ってるんだろうと思って、部屋の窓を開けた。

あら?

外にいたのは翔太とトシと…

ウチの中学の制服を着た女の子ふたり…

翔太と話す女の子。

それを少し離れた所で見守る、もうひとりの女の子とトシ。

もしかしたら…

告白?

そのまま静かに窓を閉めた。

No.43 12/01/22 14:49
リン ( ♀ ns7Lh )

ふ~ん…

広げていた地図帳を閉じ、立ったり座ったり…落ち着かない。

外の様子が気になる…

ま、ホントに告白されたとしても、翔太は断るから大丈夫だけど…

(((・・;)


大丈夫って?

大丈夫って気持ちなんだろう…

翔太に彼女が出来たら困る?

一緒に「渡辺さん探し」も出来なくなるから?

私…翔太が好きなのかな…

そんなわけない!

幼なじみだから、誰かに取られたら寂しいって感じるだけだよね(汗)

No.44 12/01/22 15:12
リン ( ♀ ns7Lh )

こっそりと外に出た。

女の子はもういなかった。

「あ、麻衣ちゃん。
さっき兄ちゃんコクられたんだよ(^^)」

トシが嬉しそうに教えてくれる。
…やっぱり。

「そ、そうなんだ~。」

「あ!大介さん来た~。」
トシはそう言うと、まだ小さい大介さんに大きく手をふる。

え?(・・;)話終わり?
トシ~、告白の結果教えてくれよ~。

チラリと翔太を見ると、目が合った。

慌てて目をそらした。

翔太はニヤニヤしている。

「断りましたけど?」

「別に聞いてないけど( ̄^ ̄)」

「顔にかいてある。」

え??

とっさに顔をさわる。

それを見て、プッと吹き出す翔太。

心の中を見透かされてるみたい。

も~ムカつくなー(`Δ´)

No.45 12/01/22 22:31
リン ( ♀ ns7Lh )

それからというもの…

変に翔太を意識してしまい、二人きりだと緊張した。

トシや大介さんが一緒だと、大丈夫なんだけどな(-o-;)

今日も図書館で勉強会。

外は朝から蒸し暑いけど、図書館の中は涼しくて快適~♪

私はいつもの席で宿題をしていた。

今日は読書感想文をやろうかな。

本を選びに行こうと立ち上がる。

「あの…」

突然、女の子に声をかけられた。

「はい。」

「あの…今日は渡辺先輩は一緒じゃないんですか?」

渡辺先輩?

「渡辺先輩の彼女さんですよね?」


誰かと間違えてる?

「えっと…私も渡辺なんですけど…」

「知ってます!
私、渡辺先輩に告白してふられたんです。あなたのこと彼女だと言ってました。
私、諦めませんから!」

そう言って去って行った。

ぽかーん(・_・;

ひょっとして翔太に告白した女の子?

宣戦布告しにきたわけ?

しかも私が彼女?

も~(- -;)
断るのに私を利用したな(怒)
ゆ、許せん(`Δ´)

No.46 12/01/22 22:48
リン ( ♀ ns7Lh )

その日は、大介さんがバイトの時間が早まったそうで、「ごめんな~」と謝りながら、急いで帰って行った。

翔太と二人でチャリで帰る。

さっきの女の子がどこかから見てるんじゃないかとキョロキョロ…周りが気になる。

「大介さん、俺たちに付き合うばっかりでさ、それ以外はバイトだし…夏休み満喫してんのかな?」

「…」

「麻衣さ~ん。」

「え?」

「心ここにあらず。」

「あ、ごめんごめん。
考え事してた。
ていうかさ、告白されて断るのに、私を利用するのはやめてよね!」

「利用?」

「私を彼女だとか言うこと。
そう言えば断りやすいかもしれないけど、私が翔太の彼女なんて、納得するわけないじゃん。」

「なんで?」

「なんでって…
実際は付き合ってないし、それに私と翔太じゃつりあいとれないよ(-_-)」

「体重はお前よりは重いよ(笑)」

「も~ι(`ロ´)ノ体重じゃないよ~。」

「な~、腹へった。マック食って帰らん?」

「…いいけど。」

No.47 12/01/22 22:59
リン ( ♀ ns7Lh )

「俺は付き合ってると思ってるんだけど。麻衣ちゃんと。」


グッ…

食べていたナゲット飲み込んだ!(×_×;)

ゲホゲホッ

「大丈夫か?ナゲットまずいのか?」

違う違う!
急にビックリするようなこと言うから…

ゲホゲホッ

声にならない…

ゲホゲホッ

ふ~…

落ち着いた。

ひとくちジュースを飲む。

「翔太が変なこと言うからビックリして…
苦しかった…」

「変なことないし。」

「…」

「付き合ってるとか言ったじゃん(汗)」

「付き合ってないの?」

「え?付き合ってたの?」

頭の中がごちゃごちゃになってきた。

付き合おうとか、そんな話になったことあったかな?

No.48 12/01/22 23:41
リン ( ♀ ns7Lh )

「麻衣、俺のこと好き?」

「え?(*゜Q゜*)」

マックの一番隅の席。周りには誰もいないけど…
こんな所でそんなこと聞く?

「…」

「じゃあ嫌い?」

「いや、嫌いではないけど…。」

「嫌いの反対は好きだけど。」

「それはそうだけど…」

なんでそんなこと聞くのかな?

もうなくなったオレンジジュースをストローでかきまぜる、

氷がジャラジャラいっている。

「俺は好きだけど。」

え?( ; ゜Д゜)

ジャラジャラしていた手がとまる。

どういう意味?

翔太は私が好きだってこと?

顔が一気にあつくなる。

「俺は好きだけど、ナゲット。」

あ、なーんだ(-o-;)
焦った~

おちょくられてるよ私(T_T)

「も~、からかわないでよね!」

その瞬間…

チュッ

(○_○)!!

翔太にファーストキス奪われた。

私はびっくりして椅子からすべり落ちた。

No.49 12/01/22 23:49
リン ( ♀ ns7Lh )

そのキスが付き合うってサインだったのか何だったのか、よく分からないけど、それ以来手をつなぐようになった。

トシだけは、私達がずっと付き合ってると思ってるみたい。

多分翔太が告白されて、私が彼女だからと断っていたのを、本気にしてたんだろう。

翔太のことクールだと思ってたけど、けっこう甘えん坊なところもあった。

そのギャップに私は困惑していた。

だけど、その後も翔太との付き合いはなんとなく続き(途中、別れた時もあったけど。) 結婚してしまうんだけど(笑)

結婚しても名字変わらなかったな~。

No.50 12/01/23 18:50
リン ( ♀ ns7Lh )

そんなある日…

「渡辺さん探し」は、すっかり「渡辺麻衣ちゃん探し」になっていた。

絶対に見つけたい。

今日は翔太の部屋で、地図帳を広げて悩んでいた。

やっぱりまだ行ってない渡辺さん家の子なのかな~

翔太は興味なさそうにしている。

渡辺麻衣ちゃんはいないと思ってるんだろうな。

♪~♪♪~

翔太の家の電話がなる。

翔太は電話に出るために、部屋を出て行った。


…ぽつん。

は~、渡辺麻衣ちゃん…
翔太の言うように単なるイタズラだったのかな…
小学生に聞いても、手がかりさえないし…

自信なくなってきたな~。

『渡辺さんノート』を手に取り見つめる。

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