どうして?お母さん…
お母さんはお兄ちゃんと妹だけを連れて家を出て行きました
***************
私、莉梨(リリ)が7歳で両親が離婚。
お母さんはお兄ちゃん妹だけを連れて家を出て行った……。
私は「いらない」と言ったお母さん…。
どうして?お母さん…
ただ知りたい…。
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この作品は、子供の時の莉梨の視点で大人になってから莉梨が描いていきます。
場合によっては不快になる可能性がありますが、過激的・暴力的な表現は含みません。
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『 ・ ・ ・ 』
あの日は私と妹の菜奈が卒園式の日だった。
私と菜奈は顔は双子のように似ているけど11ヶ月差の姉妹。
私は4月。菜奈は3月生まれ。
式が終わりお兄ちゃんの帰りを待って、お父さんとお母さんと食事に出掛けた。
私は自分が主役のこの瞬間にはしゃいでいた。
ただ…楽しかった。
神様のくれた最後の
ご褒美の時間…だった。
食事が終わり
車で家の下に着く。
お父さんが
「先に部屋に行きなさい」って
マンションの二階の私の家。
私は階段を上がり部屋に入った。
「あれっ?」
上がって来ていたのは私だけだと気が付いた…。
「みんな、まだかなぁ?」
そんな程度の気持ちで…
二階のベランダから下を覗いた。
「あれ…?」
もうそこには誰も居なかった…。
私は不安になった…
下に見に行こうと慌てて振り返るとお父さんが立っていた。
そして…何事もなかったように言った…。
「直ぐに戻るよ、もう寝なさい」
そして…寝かしつけられた。
私は胸騒ぎが止まらない。
似たような事は何度もあった。
私だけが…
連れて行っては貰えない事…。
なのに…
初めてされた事のように寂しかった。
だって、帰って来ないなんて有り得ないと思ってた…
もう…
帰って来ないのかも知れない…
そんな不安が襲ってきていた…。
朝目覚めて、みんなを探した。
誰も帰って来てない…。
何で……?どうして……?
テーブルに、お父さんから手紙あって
「起きたら会社に来なさい」
って書いてあった。
私は…とてもじゃないけど動けなかった…。
暫くすると…
ガチャ…
玄関が開き…お母さんが入ってきた。
「お母さん!」
私は嬉しくて…叫んだ
ちょっと前の絶望感は一瞬で消えた。
でも直ぐに、お母さんは私が見えていないかのように荷物を纏めてる事に気付いた…。
予想もしない言葉に
私は何も言えず泣きじゃくる…
するとお母さんは苛立ちを隠せず言った。
「 泣くんじゃない!
自分が悲しいからって! 」
見た事のない顔で
お母さんは私を怒鳴りつけた。
……私は必死に涙を堪えた。
「えっ…?」
確かに…聞こえた…
でも…耳には届いても
心は受け止められない……
お母さんが荷物を持ち立ち上がった。
「行かないで!!」
私はすがりつくように泣き叫んだ
そんな私にお母さんは…
また小さく……
そして冷たく言った……。
「こ の 鬼 〰 !!!」
お父さんの叫び声で我に返った…
私が気が付いた時には…
お父さんが見た事もない形相で泣き叫びながら…
お母さんの首を絞めていた……。
初めて見るお父さんの涙……。
激しく抵抗するお母さんが目に写っていた。
「 ………お父さん 」
絞り出し…やっと出た言葉…
お父さんがお母さんの首から手を離す…。
行き場ない悲しみが私を壊したのか…
私はそのまま気を失って…
倒れた……。
遠退く意識の中で私は
「お母さんともう会えない」
そう思っていた。
でも、直ぐに会う事になる。
気を失っていた私は
気が付くと布団に入っていた。
起き上がり、家中歩いた…
お父さんは出掛けていた。
涙が滲む……
声を出して泣いた…
何もかもが分からなかった。
私は……
逃げる場所を必死に探していた。
『 私のお母さん 』
お母さんは誰もが振り返るような特別な美人ではなかったけど
独特な雰囲気を持っていた。
それから…
ご近所さんの社交辞令…
「可愛いお子さま達ね~」
と言われれば、
「そうなんです!本当に可愛いんです!」
…と恥ずかし気もなく答える筋金入りの親バカだったり。
お父さんの事も同様
ラブラブでおしどり夫婦だった。
家はお祖父ちゃんの代から
小さい会社を経営していて…
でも、お祖父ちゃんは私が生まれて間もなく亡くなっていた…
だから、お父さんは跡を継ぎお叔父ちゃんの残した会社で毎日休まず働いて…
会社にお祖母ちゃんは住み、お父さんと共に働いていて、私達家族は隣のマンションに。
だから同居ではないものの、皆 毎日顔を合わせていた。
一生懸命思い出そうとしても私はお母さんに特に誉められたりした記憶がなかった。
でも、たった一度だけ激しく怒られた記憶はあった…。
甘えん坊でママっ子だった菜奈に
いつもお母さんを独占されていた
私はいつも我慢していた。
お姉ちゃんである自覚は常に持っていたから。
ある日、
お母さんの大学時代からの友人の沙恵おばちゃんが遊びに来た。
菜奈は嬉しくて沙恵おばちゃんにベッタリだった。
私はこんなチャンス滅多にない…
だから、
お母さんにくっつき甘えた。
今思えば、
調子に乗りすぎていたと思う…
我慢の爆発でどうかしていた…。
直ぐに…
「やめなさい」
お母さんは私に言った。
でもお母さんはまだ笑っていた…
私がブレーキするには弱い注意だった…。
だから止めなかった。
笑っていたのは沙恵おばちゃんや菜奈がいたからだった。
私は、離れたくなかった……。
もう少しだけ…
そんな気持ちだった。
「いい加減しなさい!
みっともない事しないの!」
お母さんの怒鳴り声が響く……
沙恵おばちゃんも菜奈も
驚いて場は静まりかえっていた…
分かっていたのに…
止めたくなかった…
私は言葉通り
「恥ずかしい事をしてしまった」と思った
たった、これしか私とお母さんの記憶はない…。
…私が気付かなかっただけ…。
楽しい毎日で、
みんな笑っていたから…。
私にだけ
笑いかけてくれていなかった事…
お母さんに捨てられる
あの日まで…
私は…
全然気が付かなかった。
『 お母さんとの別れ… 』
お兄ちゃんと菜奈だけ連れて出て行ったお母さん…
あの日、何をしていたのか…。
帰って来た菜奈と遊んでる時に
「お祖母ちゃんの家に居た」
と教えてくれた。
お兄ちゃんも訳分からず連れて行かれて…いきなり帰る事になったと……。
分からない事だらけ……
だけど私は子供だから全て解決したと思ってた。
この辺りから私は…
私ではなくなっていた…。
悲しみに押しつぶされないように強く 強く…
泣くな…
悲しむな…
求めるな…
強くなるとは、私にはそういう事だった。
私と菜奈の小学校入学式の前日。
朝からお父さんとお母さんが居なかったからお兄ちゃんと2人きりで色々聞いた。
お母さんが夜になると出掛ける事
毎日夜になると、怒鳴りあって2人が喧嘩をしてる事
お兄ちゃんは言った…
「離婚するかも知れない」
お兄ちゃんは何も知らない…。
「離婚」は私にとって…
お兄ちゃんと菜奈との別れを意味していた。
私達は入学式を終えた。
菜奈がニコニコ。
「お外でご飯だって」
菜奈は自分が主役の会に
はしゃいでいた。
何も知らない菜奈だけが
笑っていた。
と思っていた。
でも分かっていないのは私も同じだったと気付く事になる。
車で家の下に着くと
「先に上に上がりなさい」
お父さんが言った。
また私だけか…
抵抗する事なく立ち上がる私…
すると…嫌がる菜奈を
………お父さんが私に頼んだ。
「あれ…?何で……?」
私は菜奈の手を引き上がる。
菜奈は堪らず…
二階のベランダから下を覗く…
「お母さん!!」
菜奈が叫ぶ…
慌てて私が下を覗くと
駅に向かってお母さんが走ってる
「ただ事じゃない」
お母さんの後ろ姿が物語っていた
振り返ると…菜奈が居ない…!?
菜奈はお母さんを追って走り出していた…。
泣き叫びながら…
お兄ちゃんは菜奈を追う…
私も…走って追った。
駅に着き
泣き叫び…
探し続ける菜奈…
でも、お母さんの姿はどこにも見つからない…
私とお兄ちゃんは菜奈を押さえる
私達を見て周りは騒がしくなってきた。
お母さんはもう居ない…
「帰ろう…」
私の言葉に菜奈もお兄ちゃんも無言で歩きだした。
そこにお父さんが来て
「お母さんがぁ!」
と再び泣きじゃくる菜奈を
お父さんが強く抱き締めた。
お兄ちゃんの目には涙が溜まっていた…。
私は涙は出なかった…。
私は既に一度捨てられている…。
まだ捨てられたままだった…。
お母さんは
私だけじゃなく家族を捨てた…
『 お父さんの彼女 』
お母さんの居ない生活が始まった
お兄ちゃんはただでさえ大人しい性格だったのに、部屋に引きこもるようになった。
末っ子で甘やかされて育った菜奈はワガママがエスカレートしていく…。
悲しみ方が分からない私は…
普通に過ごしていた…。
お祖母ちゃんはそんな可哀相な私達だったが、決して甘やかす事はなかった。
「悲しんだらいけない」
そう言わんばかりの教えが毎日続く…。
私はそんなお祖母ちゃんが居心地が良かった。
悲しめない私には、悲しむなと言われる事は難しい事じゃなかったから。
でもお兄ちゃんと菜奈はそんなお祖母ちゃんに強気に反抗した。
お兄ちゃんも菜奈もお母さんの後ろに隠れていた面影などなくなっていた。
そこにお祖母ちゃんの凄さを感じた。
でも結局はお祖母ちゃんに太刀打ち出来ないお兄ちゃんと菜奈…。
行き場のない気持ちは、今まで以上に優しいお父さんに迷わず向かっていた…。
お兄ちゃんと菜奈は悪いのはお父さんだと思っていたから。
菜奈はワガママを言ってお父さんを試していた。
「お母さんは、してくれたよ」
言葉なくても顔がそう言っていた
お父さんは精一杯、菜奈のワガママに答えていた。
お兄ちゃんは反抗期真っ只中。
お父さんを無視と決め込んだようだ。
お兄ちゃんと菜奈はお父さんが悪いと確信していた。
お兄ちゃんと菜奈にとったら、お母さんは良いお母さんだった。
お母さんが居ない日なんて一度もなかった。
いつからかお父さんは夜遊びが始まっていた。
寂しい思いをさせるお父さん…
お兄ちゃんと菜奈がお父さんのせいにするには充分な理由だった。
「お父さんが浮気したからお母さんが出て行った」
だって直ぐにお父さんに彼女が出来たから…。
ある日、お父さんに遊園地に誘われた。
はしゃぐ私と菜奈。
遊園地に着くと綺麗なお姉さんが
「こんにちは」
と現れた。
私は直ぐに「お父さんの彼女だ」と思った。
特に何も考えず仲良くした。
でも菜奈は違った。
敵意のようなものだろう…。
でもお父さんの取り合いなんてものじゃない。
お父さんの彼女に
「お父さんは私の方が好きなの」
そう伝えるだけに過ぎない。
お父さんと彼女に話す隙すら与えなかった。
お父さんから離れず、話し続けていた。
お姉さんがトイレに行った隙に菜奈が口を開く…
「…誰?」
菜奈のお父さんへ事情聴取が始まっていた。
お父さんは菜奈の迫力に嘘ばかり言っていた。
「子供一人に大人が一人いないと乗り物に乗れないから頼んで来て貰ったんだよ…」
でも菜奈はお父さんの有り得ない嘘をまともに信じていた。
そこはやっぱり子供だった。
私は何も聞かなかった。
お母さん離れをした私は限度が分からず、お父さんやお祖母ちゃん離れまでも中途半端に始めていたから。
楽しく時間は終わり
「またね」
と別れた。
『お祖母ちゃんとお母さん』
それから直ぐだった。
お祖母ちゃんが倒れた。
即、入院だった。
お父さんは私達の世話、お祖母ちゃんの世話、仕事…。
もう笑う事はなくなっていた。
誰がどう見ても疲れ切っていた…
ある日学校から帰るとご飯の支度がされていた。
「お母さん来たんだ…」
それは間違いなくお母さんの料理だった。
胸の鼓動が激しくなる…。
私は時間が解決し悲しい思い出は薄れていた…。
私は逃げ道を見つけていたのだ。
「お母さんも辛いんだ」
「本心じゃないかも」
…いつしか自分が都合の良いように解釈するようになっていた。
私なりの逃げ道だった…。
だからこそ、お母さんとの再会は複雑だった。
ガチャ…
振り返ると菜奈を抱いてお母さんが帰ってきた。
お兄ちゃんも一緒に居て笑っていた。
嫌でも甦るあの日の記憶が私の胸を苦しめた。
私が出した答えは精一杯の強がりだった。
「 私は平気 」
お母さんが居なくても問題ない振り…。
お兄ちゃんと菜奈は空白の時間を埋めるようにお母さんに甘えた。
お母さんは次の日も次の日も来た
結局はただの強がりの私…
学校が終わるのが待ち遠おしくて
終わると真っ直ぐ帰っていた。
ある日、菜奈は聞いた…
「お母さん、
ずっとこれから家に来れる?」
お母さんは…
目に涙を浮かべて言った…。
「寂しいよね…ごめんね…」
「寂しいよ…」って泣く菜奈…
お母さんも泣いていた。
菜奈をお母さんは抱き締めた。
お母さんが帰らないといけない時間になると、みんなで車まで見送る。
「また明日ね」
そんな繰り返しが2~3日続いた
そんなある日、お母さんと2人きりの日があった。
動揺し何も話せない私…。
そんな私を気にも止めずお母さんは淡々と夕飯の支度を始めていた
支度が終わるといつもなら帰る時間じゃないのに
「じゃあ、行くから」
お母さんの言葉に私は見送りしようと立ち上がった。
もちろん話す事など浮かばない。
黙って後ろを歩いていた。
…寂しさが襲う。
どうしていつもより早く帰るの?
私しかいないから…?
私がいらないから……?
そんな気持ちが私の表情を曇らしていた。
私を見たお母さんの顔が苛立つ…
その表情に私は体が固まった…。
「…外でそんな顔しないで!」
恐怖で何も言えずに黙る私
お母さんは深いため息をついた。
「お母さんを外で怒らしたりして 嫌な人だと思われるでしょ?」
信じられない言葉…
そんな事すら私のせいだった…。
そして…
倒れてから1週間後…。
お祖母ちゃんは亡くなった…。
小さかった私達はお見舞いすら行かせて貰えなかった。
初めて人の死を目の当たりにした私にはまだ実感が持てなかった。
私が初めて経験したお葬式。
みんなが泣いていた。
私はハンカチを目に当てた……。
涙は出ない……。
お祖母ちゃん……。
親戚やらお祖母ちゃんの友人やらで食事が始まる。
お酒で酔った親戚の叔父ちゃんがお父さんを怒鳴っていた。
「お前が苦労掛けるからだ!
どんなに大変だと思ってる!?」
「私達のせいで……
お祖母ちゃんが死んだんだ」
私は初めて気が付いた。
…悲しみが襲う。
でもやっぱり涙が出なかった…。
でも本当に本当に悲しかったよ、お祖母ちゃん…。
私の持ち物の殆どがお祖母ちゃんが買ってくれた物だった。
幼稚園の制服も小学校のランドセルも一緒に買いに行ってくれたのはお母さんではなくお祖母ちゃんだった。
お祖母ちゃんにいつも言われていた言葉
「莉梨は掴みにくいこんにゃく」
事有るごとに
「またこんにゃくになってる!」
って怒られたな…。
私はまた小さかったからウジウジしてるとかそんな意味だと思っていた。
今なら分かるけど…
なかなか変われなかったよ…。
私は相変らず「掴み所のない女」
お祖母ちゃんの死をきっかけに、私がお母さんを求める気持ちがなくなった。
ここまで育ててくれたのはお母さんじゃなく、お祖母ちゃんだと思ったから。
ありがとう、お祖母ちゃん…。
【莉梨8歳】
『 お父さんとお母さん 』
お祖母ちゃんのお葬式にも顔を出さなかったお母さん。
その後も御飯を作りに来る事もなくなっていた。
お祖母ちゃんの居ない生活の大変さに追われ…
お兄ちゃんも菜奈もお母さんの事を口にする事はなくなっていた。
来たのはお継母さんだった。
そう、遊園地のお姉ちゃん。
ご近所さんの偏見の目にも動じず堂々と私達の家族になった…。
でもお父さんは菜奈に
「家政婦さん」と…相変わらず。
菜奈はもちろん
「うちには家政婦がいるんだ」
言い振らしていた……。
お継母さんのお腹の中には…
お父さんとの赤ちゃんがいたのだ
何だか考えられない状況だった…
でも逆にこの状況が良かった。
お継母さんを家族として…
受け入れるか…そんな以前に
お継母さんのお腹の中の家族に会えるのが楽しみになったから。
お継母さんもまた、思った事を口にする正直な人。
気が強くお兄ちゃんも菜奈も喧嘩が絶えなかったけど、始まったばかりの家族。
何とか楽しくやっていた。
生まれたのは可愛い男の子。
可愛くて可愛くて…
みんな毎日笑顔だった。
そんなある日マンションの電話が鳴った。
出るとお母さんからだった。
「菜奈と来て欲しいの」
急な出来事に黙り込む…
「莉梨お願い!
菜奈1人だとお父さんには見つかっちゃうから
付いて来てくれるだけで良いの」
すがるように頼むお母さん…。
お父さんに悪いな…って
気持ちはもちろんあった。
でもこの時の私は
お母さんに会いたかった…。
何がして欲しい訳じゃない。
まだお母さんを心が求めていた。
「分かった…」
と告げていた。
次の日、隣町での再会が決まった
久々の菜奈に満面の笑みで近づき
菜奈の手を引きながらお母さんは言った。
「お母さんの家に行こう」
お母さんは私には用はない…
直ぐに伝わった…。
菜奈もそれに気付いた。
「莉梨は?」
「待ってるから行って来な」
私がそう言うと菜奈は…
「莉梨が行かないなら
行かないよ行くなら莉梨もだよ」
お母さんと離れて菜奈は変わった
菜奈は仲間外れなんて許さない…
強く、優しい子に育っていた。
結局、3人で向かった。
家に着くと知らないおじちゃんと赤ちゃんが居た。
お母さんにも新しい家族が出来ていたのだ。
お母さんは菜奈に生まれた赤ちゃんを見せたかったんだ…
でも、悲しい顔の菜奈…。
私には何で菜奈が悲しいのか分からなかった。
悲しい顔、何で元気がないの…?
私は見兼ねて言った…。
「菜奈帰る…?」
頷く菜奈…
そんな菜奈を見てお母さんは酷く落ち込んでいた…。
帰りにお母さんは私達に五百円ずつ渡して別れた。
帰り道、私は聞いた…
「どうしたの?」
「私の知らない子のお母さんになって悲しかった」
最初からお母さんの愛を知らない私と、お母さんの愛を充分に感じ育った菜奈。
気が付いてあげれない程、感じる事が致命的に違っていた…。
菜奈…ごめんね…。
落ち込む菜奈の手を引き…
ようやく家に着くと…
「莉梨、こっちに来なさい」
お父さんに呼ばれた。
ただ事じゃないお父さんの雰囲気を感じ取る…。
「 怖 い … 」
もうバレている…
直感だった…。
悪いと分かってる…。
だからこそ、怖かった……。
無言が続く…。
お父さんの悲しみが伝わる…。
堪らず…私が言った。
「ごめんなさい……」
「…嫌な思いしなかったか?」
お父さんの優しさが心に染みて…言葉が出ずただ頷いた。
そして、言葉を絞り出すように…
「まだ…関わるな…
分かったら…もう行って良い」
私は部屋に戻った。
もう二度とこんな事しないと誓った…。
菜奈はその後
「20歳になったら会わせてあげるから」と言われたらしい。
何でバレたかはご近所さんの目撃情報だった。
お父さんの怒りは直ぐにお母さんへ…。
ここから…18歳まで
お母さんとの接触はなくなる。
【莉梨9歳】
『沙恵おばちゃんとの再会』
高校生になった私は近所のスーパーでアルバイトを始めた。
そこでパートで入った沙恵おばちゃんと再会した。
私を発見した沙恵おばちゃんは
「……余りにお母さんに似てるから…、学生時代を思い出しちゃったわよ!!」
本当にビックリしているようで興奮していた。
私はもちろん…
複雑な気持ちだった。
誰かに似てると言われる度に、私は間違いなくお母さんね子供なんだと痛感するから…
沙恵おばちゃんは休憩時間が重なると良くお母さんの話をしてきた
「本当にモテモテでお父さんは
何人ものライバルから勝ち取ったのよぉ!」
「脚が綺麗でスタイルが良くて
すごく目立ってたのよ。
恥ずかしがり屋な部分がクールに見えてね…話し掛けにくい感じ…
でも話すと明るくて、それでイチコロよ!キャップよね~」
そんな話を聞いていると、
「どうでも良い…」
そんな風に思えない自分に戸惑っていた…。
ある日の休憩時間…。
話はとうとうお母さんが出て行ったあの日の話になった。
沙恵おばちゃんは目に涙を浮かべて言った…。
「あの時、莉梨だけは笑顔を絶やさなくてね…
お兄ちゃんや菜奈は私の前で泣いていたのに…
強い子と誰もが思ったのよ…
ある時、莉梨を見たら一点を見つめてボーッとしていたの…
私はそれを見て涙が止まらなかった 」
「お母さんは莉梨は何考えてるか分からないって言って来た事があってね…
あんな状況でも泣かずに強くて子供らしくない所が莉梨はあったのよ…
それ見て少し安心したの」
「何考えてるか分からない」か…。
だから私はいらなかったの……?
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