🍀Happy Child🍀

ある日､私の携帯に一通のメールが届いた。送り主は『HappyChild』

内容は［今日出合う命を大事にして。それがあなたの嫌いな生き物だとしても］



…はぁ？ 何ｺﾚ？占いか何か？

ｴﾐは訝しげにメールを見つめたが、あまり気にせずにいた。

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>> 1 ｴﾐは社会人一年生の22才。

特に可愛い訳でもなく、要領がいい訳でもない。お人よしで、少しトロい…どちらかと言うと、欠点のほうが目立つタイプ…
本人も自覚しており、できるならこの性格を直したいと思ってるのだ…


そんなｴﾐにも彼氏位はいるのだ。

ﾏｺﾄ 大学時代の先輩で、人付き合いが良く活発。ｴﾐとは正反対だ。

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>> 2 ｴﾐとﾏｺﾄの付き合いは3年になる。ｴﾐが大学2年の春、ﾏｺﾄが所属するバンドのライブがあり、ｴﾐの友達から誘われて断り切れずに行ったライブハウスで知り合った。

ﾏｺﾄはバンドでヴォーカルを担当しており、かなり人気者だった。ｴﾐの友達ﾊﾙｶもﾏｺﾄが目当てで良くライブに顔を出していた。


要するに、ｴﾐは『引き立て役』に抜擢されたのだ。

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>> 3 断り切れないｴﾐは、ライブに顔を出したものの全く興味がなかったので、つまらなそうにジュースの入ったグラスを手で弄んでいた。


ﾏｺﾄは、そんなｴﾐの姿を見て…みんな自分に夢中なのに、アイツはなんであんなにつまらなそうなんだ…

（よし！絶対に落としてやる。）

次の日から、ﾏｺﾄのアプローチは始まった。まずはﾊﾙｶに近付き、ｴﾐの人となりを聞き出した。
思惑の外れたﾊﾙｶは、露骨に嫌な顔を見せた。しかしﾏｺﾄも引かなかった…

ﾏｺﾄはふいにﾊﾙｶへキスをして、耳元で「アイツに俺のほうを向けさせたいだけだ。夢中にさせたらそれでオシマイ。」そういうと、二人はタクシーでホテルへ消えて行った。

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>> 4 ﾊﾙｶはｴﾐに近付き、親友よろしく「あのね、ﾏｺﾄがｴﾐの事気になるって言ってるんだけど、ｴﾐはぶっちゃけどう思ってるの？」と言うと、ｴﾐは「気になるって言われると悪い気はしないけど、私のどこがいいのか私自身分からないなぁ…」

「じゃあさ～一度ﾏｺﾄと話してみれば？」とﾊﾙｶ。

…そうね、ﾊﾙｶがそういうなら…とｴﾐは了解した。


数日後…
ﾏｺﾄの待つスタジオに行ったｴﾐは、ﾏｺﾄに歌のプレゼントを受ける…

…しっとりとしたバラード調の曲に乗せた詞は、ｴﾐの胸に染み込むように入っていった…
（この人はこんな才能があるんだ…）

不覚にも、ﾏｺﾄの歌に涙を流したｴﾐは心を一気に奪われてしまった。

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>> 5 そんなきっかけで二人は付き合い始めたが、以外にも夢中になったのはﾏｺﾄだった。

ﾏｺﾄはｴﾐをゲーム感覚で落とす事を思い付いたのだが、彼女の為に書いた歌が今までにない出来に驚き、自分の気持ちが彼女に向いて行く事に気付かされていた。



こうして二人は付き合うようになった。

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>> 6 ﾏｺﾄは自分に尽くしてくれるｴﾐに不満はなかったが、バンド活動を続けるには経済的に厳しかった…


ﾏｺﾄのアパートでｴﾐと今後について話合っていた時…
窓際にゴキブリがいたのを見つけた。
ﾏｺﾄは「うわぁ！ｴﾐ、ティッシュ取ってくれ！」と言ったが、ふと今日のメールの事を思い出した。
私は「ちょっと待って！といって窓を開けてゴキブリを追い出した。」


翌日、ﾏｺﾄと食事をするため駅で待ち合わせをした。少し遅れて行くと、ﾏｺﾄは先に来ていた。

「お待たせ。？何してるの？」と私が聞くと「今、3：24だから 3・2・4と… ん？これ？宝くじさ！NUMBERS 3」

「当たれば100万円だぜ」



その時、が来た。


Happy Child だ…
内容は［7・1・3］

この数字は…？
半信半疑で…
「私も買って見ようかな？」

200円で［7・1・3］をストレートで買ってみた。後日新聞を見てびっくり！

一等が当選したのだ。百万円！

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>> 7 百万円の使い道は決まってる…バンドの活動費用。

私が幸せと思える使い道。
インディーズでもいい…自費でのリリースでもいい。私に贈ってくれたあの歌を、形にしたかった。
当面はお金の心配をしないで済むのは有り難かった。





しかし、私の気持ちとは違う道を現実は進み始めた…
ﾏｺﾄは私に…いいえ、私のお金に依存し始めた。

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>> 8 人間はお金に弱い…
お金の魔力には、人の優しさなんて何の役にも立たない…


ﾏｺﾄは私に仕事をさせる事に何の感謝もない。当たり前と思ってる。
自分のやりたい事を続ける事が、私の幸せだと思ってる…

私もついこの前まではそう思っていた。
そんな事を考えていたら、私の携帯にが来た。

Happy Child…
内容はなく、ただ電話番号だけが記されていた…


私はその番号を押してみた…（何なのだろう…）
電話は簡単に繋がった。


「…はい、こちらはブルー・ダスト・プロモーションでございます」元気な女性の声だ…
私は、おずおずと尋ねた。「つかぬ事をお聞き致しますが、そちらは何をされているところですか？」（…私、めちゃめちゃ怪しい(;￢_￢)）

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>> 9 電話の向こうで、少し間があって「…こちらは、俳優やモデル・ミュージシャンなどの発掘、マネジメントを行っております。」

私は「不躾ですが、聴いて戴きたいバンドがあるのですが…」と言うと、「…ただ今担当の者と代わりますので、少々お待ち下さい。」

私は、ドキドキしながら待っていると「はい、お電話代わりました、私は武内と申します。…なんでも、聴いて欲しい歌があるそうで。」


私は丁寧に、簡潔にﾏｺﾄのバンドを紹介した。
すると、「本来こういう形では承けていないのですが、ちょっと興味がありますね…」と言う答えが帰ってきた…

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>> 10 ﾏｺﾄと私はマスターCDを持って武内さんに指定された雑居ビルの一角へ足を運んだ。
ﾏｺﾄは思いがけないチャンスに興奮している様子。事務所の応接ルームへ通された二人は、所在なさ気に座って黙っていた。
程なく武内さんがやってきた…
一見優しそうに見える風貌だが、鋭い眼差しが印象的だ。

武内さんは、挨拶もほどほどに「じゃ、早速聴かせて貰おうか」と言って、テーブルの上のCDをコンポにセットして再生ボタンを押した。

流れるメロディは、あの時聴いたそのままの、綺麗な旋律を奏でていた。
聴き終わると、難しい顔をして「君のバンドはこういうジャンルで売っているのかい？」と言うと、ﾏｺﾄは「普段はこう、もっとアップテンポというか…」

武内さんは「バンドの音楽性を変える事は出来るかね？」と言い、更に「通常の楽曲を聴いていないから何とも言えないが、この歌を聴く限り可能性がない訳でもない。」

「ただ、君達の音楽スタイルを否定するつもりはないから、皆でよく相談してくれ」

そう言うと、名刺をポケットからとりだすとﾏｺﾄに渡し、「いつでも連絡しなさい」と言った。

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>> 11 武内さんの言葉をバンドのメンバーに伝えたﾏｺﾄだったが…

反応は冷ややかだった。
なぜなら、このバンド自体、ﾏｺﾄのワンマンな態度を不満に思うメンバーがいたからだ。

この提案はバンドの空中分解を招いてしまったのだ。
結局のところ、ﾏｺﾄとｶｲｼﾞの二人だけが残った。

ﾏｺﾄとｶｲｼﾞはデュオという形で再出発することになった。


ﾏｺﾄは武内さんに連絡をとり、いきさつを説明したうえで武内さんにプロデュースを依頼した。

そして、ついにあの歌をリリースする準備が始まった…

曲のタイトルは『いつか…』とした。


ﾏｺﾄは「この曲が本当に受け入れられたら、結婚してくれ」と私に言った。嬉しかった。

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>> 12 ｴﾐは、あの『HappyChild』というメールが私とﾏｺﾄに幸せをもたらすメールだと言う事を知った。


でも『HappyChild』って一体何なのかしら…と疑問を感じない訳ではなかったが…

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>> 13 『いつか』のリリースの日を迎えて、私はショップへ足を運んだ。
CDを見つけて私は何とも言えない感慨に浸っていた…
すると背後から、「その歌をご存知ですか？」と声をかけられた。…ショップの店員ｻﾝだ「私も聴いてみたんですけど、結構いい歌ですよ。新人なんですけどね…」
私は知らない振りをして、「オススメなら下さい、コレ。」と言った。家に帰って早速聴いた。ｶｲｼﾞとのデュオは予想以上に合っており、とても綺麗なハーモニーを織り成していた。

CDのリリースから二週間、有線などにもリクエストがあったり街でも耳にするようになって来た。大ヒット…とまではいかないが、曲が流れると「あぁ、聴いた事ある！」と言われる程になっていた。

ﾏｺﾄも徐々に忙しくなって、会えない日が多くなった。そんなある日、ﾏｺﾄからメールが来て来週の金曜日なんだけど、夜に会えないかな？
と言って来た。私が了解すると､じゃあ来週の金曜日に逢おう！との返事。
約束の日…
ﾏｺﾄは上機嫌で、私に花束孖と指輪偀を渡し…ｴﾐ､俺と結婚してくれ！と言った。
私は黙って頷くと、ﾏｺﾄは人懐っこい笑顔を私に向けた…

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>> 14 お人よしで、これと言った取り柄もない私が順調に幸せを掴んでいるのは、間違いなく『HappyChild』からのメールである。誰からのメールかは知らないが、ｴﾐは、この事を誰にも知らせるつもりもなかった。



そしてﾏｺﾄとｴﾐは結婚した。
私達の結婚がワイドショーに取り上げられる。私は内助の功の妻として、仕立て上げられた。

新婚旅行はハワイ。いかにも芸能人らしい…その後、ＮＹでのレコーディングにも同行させて貰った。武内さんのご厚意だ。

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>> 15 …ﾏｺﾄは相変わらず忙しい様子だ。
家に帰って来るのは週に1～2回、帰って来ても仮眠をとって出掛ける事もしばしば。


…それでも帰ってくれば必ず求めてくるﾏｺﾄを私は愛おしく思ってるそんな努力が報われてか、私のお腹に新しい命が宿った。

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>> 16 ﾏｺﾄとの連絡手段はメールであることが多い。移動中だったり、打ち合わせ中だったりで、なかなか繋がらないからだ…


妊娠の報告もメールでした。

今日ね、病院に行って来た。三ヶ月だって戓いつ帰って来れるか連絡ちょうだい兊

その夜にﾏｺﾄは帰って来た。夜遅くなったので先に寝てて欲しいとの理由で連絡はなかった。


ﾏｺﾄなりの優しさなのかな…。でも、メール位くれてもいいのに…

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>> 17 私は妊娠をきっかけに仕事を辞めた。ﾏｺﾄは今まで以上に働いた。

そして６ヶ月になった頃に、ﾏｺﾄが「子供も産まれて来る事だし、家を建てないか？」と提案してきた。私は喜んでﾏｺﾄに「ありがとう！ﾏｺﾄ」と同意した。

ｴﾐは自分が描いていた幸せが形になっていく事を感じていた。

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>> 18 不動産屋さん巡りを始めた二人は新居の場所から意見が合わない…今までなら、ｴﾐが譲って来たのだが、どうにも譲れないのである。


ｴﾐは少しでも自然が残る『湘南エリア』

野心家のﾏｺﾄは王道の『田園調布・成城エリア』

結局、ﾏｺﾄが折れて『辻堂』に決めたのである。



しかし、二人にはどうにもならない問題が待ち構えていた。

…ローンが組めないのである。
ｴﾐは、自分自身の意思で『HappyChild』に返信でメールをしてみた…「家を建てるお金が欲しい」と…

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>> 19 数日後…
私が家事を一通り終えた午後１時頃、ポストに郵便物が入る音がした…『…ｶｼｬﾝ』

普段なら気付かないのに、この時は何故だか気付いた。

ポストには、ｴﾐ宛の郵便物が一通…
差出人は『HappyChild』となっていた。
私は急いで中を確かめた。


中に入っていたものは、ジャンボ宝くじが一枚と、ﾄﾞﾅｰｶｰﾄﾞが入っていた。しかも裏面にはｴﾐの名前が署名されている…
そこには「角膜・心臓・肝臓・腎臓」の提供意思が示されていた。


「…何？…何なの？」ｴﾐは状況が飲み込めない訳ではないが、頭が拒否反応を示している。
「危ないよ！誰がこんな悪戯を…？」

悪戯など出来る訳がないのはｴﾐが一番よく知っていた…

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>> 20 ｴﾐは『HappyChild』の存在を誰にも話していない…ﾏｺﾄにさえも。

この宝くじが当選したら、ｴﾐの体は抵当に入ったも同然…

「…そんなの…イヤよ」ｴﾐは誰にともなく呟いた。

ｴﾐはﾄﾞﾅｰ登録を取り消す事を考えた。もう、当たりくじは手元にあるのだから…それに、元々同意などしていないのだから…

ｴﾐは携帯電話を取り出して電話をかけた…「ドナー登録をした覚えがないのですが…」

「…はい」
「…はい…」
「…そんなハズは…」



電話の向こうでは、身元確認をした上で御登録頂いております。そして登録は『御本人様』がされておりますが、いかがなされますか？


…どうなっているの？一体誰が？

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>> 21 「とにかく私は登録した覚えがありません。申し訳ありませんが取り消して下さいお願いします。」

ｴﾐはそう言って電話を切った…



そして、宝くじの当選発表の日…
同封されていた宝くじは…


…ハズレていた。


それから数カ月後。

ｴﾐは男の赤ちゃんを出産した。
ﾏｺﾄは喜んで、ツアー先からタクシーに乗って駆け付けた。

男の子は『漣音（れのん）』と名付けられた。ﾏｺﾄがミュージシャンだから『音』つながりで考えられた名前だ。



しかし、それだけ喜んでいたはずのﾏｺﾄはそれから家に帰って来る事が少なくなっていった…

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>> 22 漣音が産まれてからは、育児に追われて余計な事を考えずにすんだ。

しかし、なにげに点けていたテレビから思いがけない事実を知らされることになる…

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>> 23 人気デュオ「スティア」のﾏｺﾄに女性スキャンダル俉

そんな見出しで、写真週刊誌の記事を引用しながら報道していた。

ｴﾐは、写真に写ったその女性に見覚えがあった。目の部分を隠していても…。


…ﾊﾙｶだ。

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>> 24 何故ﾊﾙｶがﾏｺﾄと？
いくら考えても答はでない…

ｴﾐはﾏｺﾄの携帯に電話してみた。

…ダメだ…電源が入っていない。

ﾏｺﾄ…裏切ったの？私と漣音への愛情を失ってしまったの？


ﾏｺﾄへの信頼は疑念に変わっていった…


すると、自宅の電話が鳴り出した。ディスプレイには『ﾋﾂｳﾁ』の文字が…非通知の電話には出ない事になっていた。

しばらくすると留守電へと切り替わる。


「ｴﾐ…俺だ、ﾏｺﾄだ心配掛けてすまない…テレビの内容は嘘だ！信じてくれ！…落ち着いたらゆっくり話そう」と言うと電話は切れた…


そのあとは、報道陣からの電話と訪問で私は、おかしくなりそうだった…

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>> 25 ﾊﾙｶはテレビでﾏｺﾄが結婚会見をしたあたりから、ｴﾐを逆恨みするようになっていった。「本当は私が…」と、妄想か現実かが区別つかない状態になっていて
「ｴﾐなんか遊ばれているだけなんだから…」と言うﾊﾙｶの目は…


狂気に満ちていた…

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>> 26 ｴﾐは、ﾊﾙｶに電話をかけてみた。

…呼出し音はするが出る気配はない。



ｴﾐは仕方なく電話を切ると、漣音にミルクを与えて寝かしつける事にした。




…眠った漣音は、ﾏｺﾄにそっくりだった…
（ねぇ、ﾏｺﾄ…どこにいるの？体壊してない？）

返事はあるわけもない…



…………
…… ん？ いつの間にか眠ってしまったようだ。
（今何時だろう…）
携帯で時間を確認しようとしたらメールが来ていたようだ。


見てみると、ﾏｺﾄからだった…

ｴﾐ、心配掛けてゴメン。今は帰れない…ﾊﾙｶから連絡がきても、絶対に無視するんだ！！
いいな！絶対だ


（二人に何があったんだろう？）

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>> 27 ﾏｺﾄはホテルで生活していた。決してマスコミから逃げる為ではない… ﾊﾙｶだ。

（あいつは狂ってる！何とかしないと俺達の生活が壊されてしまう…）



時計をみると、午後９時になるところだ。（そろそろマネージャーが来る頃だな。）

…ピンポン兊

（本当に時間に正確だな。）


…ドアを空けたら、立っていたのは……

…ﾊﾙｶだった。

慌ててドアを閉めようとした時、体に電気が走り動けなくなってしまった。

ﾏｺﾄは、ﾊﾙｶに手錠をかけられ監禁されてしまったのだ…

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>> 28 ﾊﾙｶはベッドにﾏｺﾄを縛りつけると、体を求めてきた。

抵抗する術のないﾏｺﾄはﾊﾙｶに凌辱され続けた。「あなたは私に何ひとつくれなかった…だから、私はあなたから赤ちゃんをもらうわ」


ﾏｺﾄはこんな状態でも、何度も果てた…





マネージャーの機転で、ﾊﾙｶは警察に捕まった。 そして、ﾊﾙｶとﾏｺﾄのスキャンダル報道は誤報だった事が証明された。


数日後…
ﾏｺﾄは家に帰った。
ｴﾐに全てを話したﾏｺﾄは、ﾊﾙｶと昔、一度だけ関係を持った事。
ｴﾐを弄ぼうと二人で画策したこと。
ｴﾐに本気になった事。

…そして今でも、ｴﾐと漣音を愛してる事を…。

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>> 29 ﾏｺﾄのスキャンダル報道は、少なからず仕事に影響を及ぼした。
CDを出すペースも長くなり、それぞれの売れ行きも好調とは言い難いものだった…


ﾏｺﾄはｴﾐと相談をして、第一線から退く事にした。これからは、作詞・作曲を仕事として、TVから姿を消した…


二年後、郊外に家を建てて幸せな生活を三人で取り戻そうとしていた。

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>> 30 ﾊﾙｶはﾏｺﾄの子供を身篭っていたが、流産してしまい…

懲役を終えて、出所したﾊﾙｶは、ﾏｺﾄがTVに出ていない事を知る事になる。
流産したことでﾏｺﾄとの繋がりを失ったﾊﾙｶは、心の寄りどころを求めてﾏｺﾄの居場所を捜していた…

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>> 31 ｴﾐは今の生活に幸せを感じていた…
が、今までとは何かが違うと軽い違和感があった。

ﾏｺﾄも華やかな表舞台から去って、物足りなさを感じていた。

人間は幸せの高みを経験してしまうと、平凡な日常に幸せを感じる事が出来なくなり、今の状態すら不満を感じてしまう…

ｴﾐもﾏｺﾄもそんな心情だったと思う…

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>> 32 そんなある日、幼稚園から帰って来た漣音は、いつものようにおやつを食べると、公園に行きたがったが、来客の予定がある私は「お庭で遊んでなさい」と促した。


程なく約束の時間になるので、庭で遊んでいる漣音に声をかけた。「漣音、お片付けしてお家に入りなさい。」漣音は「ヤ～まだあとぶの～」と言う事を聞かない。

私は無理矢理、漣音を抱き抱えて家の中に入れた…

漣音は火が着いたように泣き出し、来客があっても全く泣き止まない。

私はお客様をリビングに通し、漣音を再度庭で遊ばせた。


お客様を見送り、漣音のご機嫌をなだめようと「漣音～、さっきはごめんね、公園に…」と庭を覗き込むと…


…漣音がいない。
「漣音～！」大声で呼んでも返事がない…

漣音は居なくなってしまったのだ！

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>> 33 私は取るものも取りあえず、近くを探し回った…

いつも行く公園にも行ってみたが、漣音の姿は見当たらなかった。


私はﾏｺﾄに電話をした。いつもはメールなのだが、今は緊急事態だ。

何度も何度も呼び出した…
すると、不機嫌そうにﾏｺﾄが出たが私は構わず「漣音が居なくなったの！庭で遊んでいたのに…」


ﾏｺﾄは、「ｴﾐ、落ち着け！近くを探したのか？」と言い、言葉を続けようとした時、それを遮るように「探したわよ！近所だって…公…園だっ…て」ｴﾐは涙で言葉が続かない…


ﾏｺﾄは、「関係あるか知らないが、ﾊﾙｶが出て来てるらしい…警察へ届けたほうがいいな。」

ｴﾐは「わかったわ…すぐに警察に行って来る…ﾏｺﾄ、今日帰って来てね。」と言うと電話を切った

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>> 34 警察へ電話をしたｴﾐは、順序だてて出来るだけ冷静に漣音が居なくなった経緯を説明しました。


警察は事件・事故の両面が考えられるものの、営利誘拐の可能性もある…との事から、水面下での捜査になることを説明された。

また、ﾏｺﾄから聞いた『ﾊﾙｶの存在』も話した。

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>> 35 漣音が居なくなってから三日が経った…

ｴﾐとﾏｺﾄは、心労と苛立ちから言い争う事が多くなっていった。
二人とも、漣音の安否を心配している筈なのに…なぜかお互いを傷つけ合う言葉…いわゆる『NGワード』を連発した。

ﾏｺﾄは、そんな言い争いに嫌気がさしたのか、仕事と言って家を出ていってしまった… 逃げ出したのである。


ｴﾐは警察から家を空けないように言われているが、いつも漣音を捜して歩きたい自分と葛藤していた。

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>> 36 ｴﾐは漣音が無事に戻って来るのなら、自分の命を差し出しても良いとさえ思っていた。

そんな母親の愛情に呼応するように一通のメールが届いた…

ｴﾐは見なくても、何処から来たメールかが分かっていた。
『HappyChild』

…それは、漣音がくれたものだと確信していた。

『HappyChild』
（幸せな子供…）


ｴﾐは携帯を取り出し、メールを開いた。
そこには、ある住所が記されていた。

ｴﾐは、その場所へ向かいながら、たった一つの事を想っていた。（どうか漣音が無事でありますように…）

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>> 37 ｴﾐはメールに記されていた住所へやって来ると、大きく深呼吸した。

意を決すると、迷うことなく玄関のチャイムを押した。
…そこから出てきたのは…… ﾊﾙｶだった。

ﾊﾙｶは私の顔を見て、「わぁ！ｴﾐ～久しぶりだね♪今何してるの？」（ﾊﾙｶの精神は完全に崩壊していた…）


ｴﾐは、「…を返して！」様子が飲み込めないﾊﾙｶに、「漣音を返して！」と言うとﾊﾙｶに向かって体当たりした。


したたかに尻もちをついたﾊﾙｶは、ｴﾐを見上げた。漣音を抱いたｴﾐが「私の子供をどうするつもり！？」と言うと、ﾊﾙｶは声を上げて笑った。


「あんた、頭おかしいんじゃないの？」

「確かにあんたはﾏｺﾄと結婚したわよ！」

「でもね、あんた達には子供が出来なかったじゃない！」

「やっとできた子供だって流産したじゃないの！」

「この子は私の子供なのよ。」



…私には、何が何だかわからなくなっていった…………

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>> 38 自信たっぷりのﾊﾙｶに、ｴﾐは自分がおかしいんじゃないか？と思えてきた…

今までの私は幻？



あの幸せだった生活も、全てが幻想だったの？

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>> 39 ｴﾐは、自分の存在が全否定されたショックで声にならない叫び声を上げて、その場に崩折れた…



ｴﾐは自我が崩壊する寸前で、神の声を聞いた。


「…マ、…マ」
「ママ～！」


漣音が私に抱き着いて『ママ』と叫んでいる…

ｴﾐにとって、漣音の言葉はまさに『神の声』だった。





漣音は紛れもなく、私の子供なのだ！自分は自分で良いのだ。そう思えた瞬間、心の底から力が沸き上がるのを感じた。

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>> 40 ﾊﾙｶは漣音がｴﾐに対して『ママ』と呼んだ事に、ひどく狼狽した。そんな事に構わず、漣音を抱いて家を出たｴﾐは後ろを振り返る事なく歩いて行った。



ﾊﾙｶは子供を取り上げられた事で、全てを失ったのだ…

ﾊﾙｶは台所へ向かい包丁を手に取ると、ｴﾐの後を追った。その時のﾊﾙｶの目は狂気に満ちていたが、涙をいっぱいに溜めたそれは『母親の目』でもあった。

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>> 41 ﾏｺﾄは急いでいた。
タクシーに乗って家へ向かっていたが、渋滞で思うように進まない。


ﾏｺﾄはタクシーを降りて走った。
車道も信号も関係なく…

心臓が破裂しそうで、水の中みたいに呼吸が出来なくて苦しくても構わず走り続けた。

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>> 42 自宅の玄関が見えた…


その時、背後から人の足音が聞こえて来た。…守るべき者を知ったｴﾐに恐れるものは何もなかった。

迷わず振り返ると、そこにﾏｺﾄが立っていた。
「…ﾊｧ…ﾊｧ…」
苦しそうなﾏｺﾄに「どうしたの？」と聞くと、「何回も電話したって繋がらないから、何かあったんじゃないかと思って…」


ｴﾐは携帯を取り出すと…

電池が切れていた…

「ごめんなさい、私…」と言うと「いいんだ。みんなが無事ならそれで…」


三人で玄関へ向かうと、脇から人影がｴﾐに向かって一直線に走って来た。

ﾏｺﾄが「ｴﾐ！危ない！」と叫ぶとｴﾐを庇おうと近寄った。

ｴﾐも漣音を庇おうと人影に背を向けた瞬間、腰より少し上の背中に激痛が走った。

ﾊﾙｶだった…

「ｴﾐが幸せになるのは許さない！私の大事な赤ちゃんまで奪って…」

ﾏｺﾄは、ﾊﾙｶから包丁を奪うと携帯電話で救急車を呼んだ…

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>> 43 病院の『手術中』の文字ランプがなかなか消えない。

ﾏｺﾄはじっと座っていられず、廊下をｳﾛｳﾛしてみたり…ランプを凝視してみたり。

やっと『手術中』のランプが消え、間もなくドクターが出て来た。ﾏｺﾄはドクターに近寄って「ｴﾐは？」聞くのは怖いが聞かずにはいられない。


「命に別条はありません。」とドクターは言った。続けて「しかし、刃物が脊椎にダメージを与えてしまい、今までと同じようには…」

「どういう事ですか？」ﾏｺﾄが尋ねる。



「おそらく下半身を動かすのは、相当の努力が必要だと思います。」

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>> 44 ｴﾐは麻酔から醒めて辺りを見回した。

ﾏｺﾄが枕元にいたが、漣音の姿が見えない…
「漣音は？」とｴﾐが聞いた。
「看護士さんが面倒を見てくれてる。心配いらないよ、無事だ。」

ﾏｺﾄが言うと、ｴﾐは涙を流して「…本当によかった…」と言った。

ﾏｺﾄが何か言いたげにしていると、「どうしたの？何か心配事でもあるの？」とｴﾐ。

ﾏｺﾄは意を決すると、「実はｴﾐの足に麻痺が残るかも知れないんだ。」と告げた。

ｴﾐは少なからずショックを受けた様子だったが、「漣音を失う辛さを考えたら、絶望する程ではないわ。」

「おまえ、強くなったんだな。」

「私はﾏｺﾄと漣音が一緒にいてくれるだけで幸せなの」

「俺、漣音を連れて来るよ。」






先生が、麻痺について説明してくれた。

その時漣音が言った。

「ママ、ぼく早く大きくなってママの足になってあげる！」

ｴﾐは涙を流し、「うん…うん…」と言うのが精一杯だった。

この時ｴﾐは、最高の優しさと最高の幸せを同時に手に入れたのだった… ～終～

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