注目の話題
これって付き合ってると思いますか?
同僚から紹介された相手とどうするのがよいでしょうか…
箱入り妹について

太っていてごめんなさい

レス95 HIT数 30991 あ+ あ-

天照( BBiWnb )
16/08/29 20:38(更新日時)

自分が経験した彼女との結婚までの実話です

16/02/18 01:11 追記
僭越ながら感想スレ立てました
良ければ御意見お聞かせ下さい

タグ

No.2301527 16/02/11 04:18(スレ作成日時)

投稿順
新着順
主のみ
付箋

No.51 16/03/07 02:02
天照 ( BBiWnb )

高橋の頼みはなんて事ない、車のタイヤをスペアタイヤに交換して欲しいという事だった
女性にとっては至難の技らしい
「分かった、直ぐに行けるよ」
俺は電話を切ってほそみに返す
「ほそみ、高橋の所行ってタイヤ交換してくるけどどうする?」
「行ってきて、私調べ物あるから あ!でも部屋に入っちゃダメだからね」
「何の心配してんだよ終わったら連絡する」
俺は軍手を持ち高橋の部屋へ向かった
高橋は駐車場にいた、俺は高橋に言う
「15分位で終わるから」
「ごめんね、ふとし君しか頼める人いないから」
「大丈夫だよ、筋トレ」
高橋は笑うと思ったが何故か泣きそうになって忘れ物と言って部屋に行ってしまった
作業はきっちり15分で終了した、高橋も戻ってきた、缶コーヒーを持っている
「終わった、高橋」
「うん、ありがとう」
なんか元気が無い、どうしたんだろう?
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「ふとし君、これ飲んで」
か細い声でそう言って俺に缶コーヒーを渡す
たわいも無い事を話しコーヒーも無くなりそうになった頃聞いてみた
「高橋、さっきから何で元気無いの?」
「何でだろう、自分でもわからない」
「高橋が困ったり大変だったらいつでも言っていいから、筋トレやりに来るから」
「うん、ありがとう ほそみが心配するね」
あ!電話しなきゃ
ほそみに電話する、終わった事を伝えると高橋に代わってと言われ携帯を渡す
「うん、うん、助かったよ、ありがとう、おやすみ」
高橋は電話を切る、すると何処かに電話をかけて直ぐに切った
「はい、私の携帯にかけといたから 今日はありがとう、おやすみなさい」
少し明るくなった高橋は部屋へ帰っていった、俺は最後のコーヒーを飲み干し部屋へ戻った
部屋に戻り一部始終をほそみに正直に話した
「そっか、ふとしには分からないと思うけど女の26って色々と考えてしまうんだよ 携帯は別にいいよ、正直に話してくれたし」
俺は以前から知りたかった高橋とほそみがどれ位仲が良かったのか聞いてみた
「中学の時凄く仲良かったよ、高校の時はユウが部活引退した後位から会ってたよ」
「高校の時にほそみから名前聞いた事無かったから何でかなって」
ほそみは俺の目を見て言った
「ユウがふとしの事好きだったの分かってたから、もしユウがふとしへの気持ちを声に出したら私とユウの関係はそこで終わりだから」

No.52 16/03/07 11:31
天照 ( BBiWnb )

チュン、チュン
久々に雀の鳴き声で目覚める
今日は精子検査の精子を提出する日だったのでゆっくり起きて少しでも良い状態のものを提出したかった
体重を計る、128kg順調だが最近は腹が減って寝付きが悪いしなんか肌もガサガサで空腹感が酷い
その分食事はとても美味い、ただ楽しみになり過ぎて同じ時間に同じ量、物を食べれないとイライラする
ダイエットって嬉しい事もあるけどしんどい事が多い、何となくダイエットしても続かない理由がよくわかる
朝食は珍しくパンだった、しかもフレンチトースト!俺はほそみのお義母さんのフレンチトーストが大好きだ、自分で食パンを買っていき5枚作って貰った事もある程だ
ほそみは印刷した紙を俺に渡す
「ほそみ、こんなに行きたい所あるの?」
お義母さんのと少し違うが美味しい
「それでも絞ったんだから文句言わない」
これを全部行くとなると出発までにルートをちゃんと考えないと
「ふとし、ユウから連絡あった?」
「高橋から?無いよ、ほら」
そう言って着信履歴を見せる
「見せなくていい!まったく!」
ほそみはやはり高橋の事が気になっている、当然だな俺がほそみの立場なら胃が痛い
ほそみをいつもより早めに職場へ送る
「じゃあ、頑張ってね」
「了解、ほそみも」
俺は病院へ向かう、精子検査って大変である
採取して30分以内って余程家が近く無いと家で採取して行くのは無理だ、大半の人が病院のトイレで取るしか無いだろう
8時半到着、受付を素通りしトイレに向かう
呼び止められる、説明する、気まずい
採取後に受付に容器を入れた封筒を渡す、恥ずかしい
最短でやる事はやった、後は検査結果が出るまで考えても一緒だ、自分一人で考えてはいけない問題だし
半休を取っていた為に部屋に戻る、旅のルートを作成する1時間で終わり暇になる
暇になると飢餓感が襲ってくる、タバコを吸いながらコーヒーを飲む
タバコを吸い終わればまた飢餓感が襲ってくる、この延々とループする地獄は何か集中出来る趣味でも無いと乗り切れそうに無い
俺は何がいいだろうと考え、閃いた
筋トレを趣味にすれば一石二鳥だ
すぐに近くのジムを調べ会費や通える時間を比較し最大手のジムへ行く事にした
俺は退路を断つ為にネットで必要な物を調べ足りない物をアマゾンで買う
俺はどんどん前向きな考えになっていく自分の事を少し好きになった

No.53 16/03/07 23:52
天照 ( BBiWnb )

「はい、プレゼント」
歩きから帰るとほそみから黒いパーカー、ジーンズ、白T、下着を貰った
「ありがとう、これがユニクロかぁ」
俺は感慨深かった、ユニクロの大きいサイズが着れるようになった、ユニクロを着るのは初めてだった
「ふとしもネットでしか買えないけどユニクロ着れる様になったね」
「うん、無地好きだし経済的だし」
「旅行で着てよね、今迄のはブカブカだし」
俺はこの時ほそみのサプライズに続きがある事に気付かなかった
深夜に出発し、空いている高速道を三重に向かいひた走る
二人ともジャージだ、向こうに朝早く着き温泉施設に行き、着替える
「ほそみ寝ていいよ」
「ふとし、髪伸ばそうよ」
またその話か
俺は安い、寝癖つかない、乾きやすい3拍子揃った最強の髪型坊主だ
「100kg切ったら伸ばすよ、ほそみの好きな髪型にしてあげよう、でも茶髪は無理だから」
「絶対だよ、私はふとしの好きな髪型にしてるんだから」
大嘘である、ほそみは昔から黒のロングだ
「ほそみ、クーラーからコーヒー取って」
「はいよ、それじゃあ寝るね」
ほそみは助手席を倒し、簡易オットマンに足を乗せ目を閉じた
渋滞に捕まる事も無く、途中休憩しながら目的の温泉施設に到着する
風呂に入り全身ユニクロ白いオールスターを履きほそみを待つ
ほそみがやって来た、俺は驚愕する
「どう?似合う?参ったかぁ」
やられた、ほそみは策士だ
「ふとし、結構ユニクロっていいね、オールスターも動きやすい」
ほそみは俺と全く同じ格好をしていた、靴の色まで一緒だ
何処からどう見てもペアルックだ、俺は着替えも持って来てないしどうする事も出来ない
向こうがこっちに合わせてくるとは思わなかった、一生の不覚
「やられた、みーちゃん、伊勢うどん食べ行こう」
「ちょっと写真!友達に送るんだから」
俺は旅の恥はかき捨てと心の中で呟き、ほそみと手を繋ぎ写真を撮った





No.54 16/03/08 13:26
天照 ( BBiWnb )

どこからどう見てもバカップルな俺たちは朝食を食べに行く
伊勢うどん、溜まり醤油ベースの優しい上品な甘さのタレに絡んだ柔らかい太い麺、麺にコシを求める人には合わないと思うが個人的には冬場の朝食にぴったりだ
お次は手こね寿司、ほそみと半分ずつ食べた
「ふとし、このマグロ美味しい!」
ほそみ、それはカツオだ
本当にマグロの赤身と間違えてしまう位漬けにされたカツオ は独特のクセが消えており酢飯に混ざった生姜とシソの分量も絶妙で美味かった
朝食を終え伊勢神宮内宮へ行き石段を登りお参りする、お願いした内容を聞く様な野暮な真似はお互いしない
ほそみはミカに御守りを買い、俺はほそみの実家と俺の部屋用にお札を買った
駐車場までの帰り道、ほそみはおやつにと赤福を買う
伊勢から鳥羽へと向かう、鳥羽水族館を素通りし、パールロードを登っていく
「ふとし、海が穏やかで綺麗だよ」
ほそみは太平洋をうっとりと眺めている、旅を満喫している、良かった
鳥羽では昼食に牡蠣の食べ放題を食べ、残りの時間は神社巡りだ
巡った殆どがパワースポット的な扱いになっており、かなりの賑わいだった
その中の1つ、女性の願いを1つだけ叶えてくれる神社でほそみは友達に頼まれた御守りをいくつも買い祈祷用紙を貰っている
ほそみが祈祷用紙を書いている、真剣な目で一文字ずつゆっくりと丁寧に書く
俺はほそみと一緒にお参りする、ほそみの願いをお願いしますと
翌日は伊勢二見の夫婦岩に行った
夫婦岩でペアルック、周りの視線が痛い
「仲いいね」
昨日から見ず知らずの人から何回聞いただろう、ほそみが笑っているからまぁいいか
隣接する二見シーパラダイスへ行く、鳥羽水族館と違い派手さはないが楽しめた
他人とは思えない、巨大な南ゾウアザラシと並んで写真を撮りゴマアザラシを触り俺は大満足だった
「楽しかったね、ふとしって動物とか好き過ぎだよね、ムツゴロウさんかと思った」
俺は動物と触れ合うとテンションが3倍増しになる、ほそみはその俺がツボらしい
「それじゃあ、旅の最後のお楽しみ有名店巡りして帰るか」
「うん、楽しみ、どんな所?」
「津の老舗の洋食屋さん」
車を出すとほそみが鳥羽の方向へ向かって叫んだ
「御守り返しにまた来るからねぇー、今度は3人で来るからねぇー」














No.55 16/03/09 17:12
天照 ( BBiWnb )

俺は三重から明け方に戻った、そのまま寝てしまい目を覚ませばもう昼過ぎだった
足のむくみが酷い、指で押すと粘土の様だ足首も動きが悪くなる程むくんでいる
「ほそみー」
返事が無い、買い物でも出掛けたか、大丈夫かな?
ほそみは運転があまり上手くない、いつもほそみ一人で出掛けると心配だ
テーブルに昼食と書き置きがある、やはりスーパーに行ったみたいだ、そういえば今日は卵と胸肉の特売日だ
起きて急いで行ったんだな、洗濯もしてない
俺は洗濯カゴに入っている洗濯物を洗う
パーカーを洗濯ネットに入れ洗剤はエマールを使う、ユニクロでも俺にとっては大事な物だ、出来るだけ長く綺麗に保ちたい
俺は一人で昼食を食べながら来週の日曜日の事を考えていた
来週の日曜日、お義父さんに話しを聞いてもらいに行く
検査結果が良ければ結婚の話、悪ければお義父さんにも伝えておかなければならない、その時は更に状況が悪くなるというかお義父さんに賛成して貰える日は来ないだろう
もう覚悟は出来ている、ほそみの幸せが俺の幸せなのだから
俺は洗濯物を干し、物干し竿に掛けられたペアルックを眺めながらタバコを吸っているとドアが開く音が聞こえた
ほそみかと思いベランダから部屋に目をやると俺は目を疑った、ほそみが老けている
俺は窓ガラスで自分を一瞬確認する、俺はいつもの俺だ
もう一度部屋に目をやると買い物袋を持ったいつものほそみがいた
なんだ、目の錯覚かと思い部屋に入るとキッチンから声がする
「ふとちゃん、お疲れだったね」
お義母さんだった、俺が鳥羽に行ったから浦島太郎の呪いでほそみが老けたかと思ったと言うとお義母さんは「ひどーい」と言って拗ねた
お義母さんには何故か気を遣わずに何でも言ってしまう、俺はほそみの家で会う度に何度この人が自分の母親だったらと思った事か
ほそみが俺を寝室に呼ぶ
「お母さん、あの人と喧嘩したみたい 今日泊まりたいんだって」
「喧嘩の理由聞いた?」
「聞いても言わない、ふとしには言うと思うから聞いてみて」
「わかった、夜にでも聞いてみる」
俺には喧嘩の理由が分かっていた
あの人宛への手紙をお義母さんは読んだのだろう

No.56 16/03/10 08:13
天照 ( BBiWnb )

お義母さんとほそみはまだキッチンにいる
俺はソファに座り何となく番組表を見ていた
始まったばかりの浅見光彦の再放送を選ぶ
テレビの浅見光彦は相変わらずドSだ
自ら刑事局長の弟である事を隠し、自分を疑った地方の刑事を誘導し刑事局長である兄を使い終始申し訳なさそうな顔をして仕返しを行っている
浅見光彦の一番好きなシーンが終わった頃、キッチンからここ4ヶ月聞いていない軽快な揚げ物の音がする
しまった!お義母さんがおやつを作っている!俺はキッチンに急ぐ
「ままさん、サーターアンダギー?」
「正解!ふとちゃんの大好物!」
お義母さんは張り切っている、言えない、食べられないとは口が裂けても言えない
如何しよう、しかし美味しそうだと生唾を飲み込んでいるとほそみが言う
「黒糖使ってオリーブオイルで揚げてるから普通のより体にいいよ」
普通のよりというのが恐ろしいがここは食べるしかない、夢に出てきそうだ
ティータイムが始まる、お義母さんとほそみはお茶を飲みながら赤福を食べている、ほそみが写真を見せながら旅の話をしている
「ふとちゃん、私も何処か連れて行ってよ ほそみだけズルい」
「私もこの服買おうかな?ふとちゃん今から買いに行こうか」
お義母さんはいつもどこまで冗談で何処からが本気か分からないがそこが俺には面白い
夕方になっても二人の会話は終わらないので俺は歩きに行く事にした
歩き始めて4ヶ月ちょっと、初めて2日間休んだお陰か体に力がみなぎっている、いつもの足のダルさや重さが無くゴール間近になってもヘロヘロになる事は無かった
部屋に戻るとキッチンでほそみとお義母さんが話しながら夕食の準備をしている
「大根おろすよ」
二人がお願いと言う、やはり今日のメインはサンマだ
お義母さんは俺のサンマの食べ方を初めて見た時に感動したらしい、それ以来よくサンマが出て来る
夕食が始まる、俺がサンマの上に大根おろしを乗せて箸で掴むとお義母さんが注目する
俺は水族館のアシカの気持ちが少しわかった
俺は頭から骨ごと食べる、食べ終わった時には皿に何も残っていない
「ふとちゃん、お見事!フフフ」
お義母さんは嬉しそうに笑う、ほそみが言う
「ふとしの食べ方最初見た時、家族全員で驚いたもんね お母さんは運命だって言い出すし」
ほそみの言葉を聞いて俺はほそみを初めて家まで送った日の事を思い出していた

No.57 16/03/11 00:12
天照 ( BBiWnb )

俺は暗くなりかけた道をクラスメートと一緒に自転車で進んでいく
公園からクラスメートの家はかなり遠く30分位の距離にあった
俺は送っただけで帰ろうと思っていた
俺は親から見れば担任に手を上げて停学になっている問題児だ、そんな奴が家に行けば娘を心配するだろう
家の前で俺は自転車から降りずに帰ろうとする
「じゃあ、明日から学校行けよ、バイバイ」
「ちょっと、上がっていってよ!」
クラスメートはそう叫ぶと自転車から飛び降り後ろの荷台を掴んで放さない
俺はどうしたものかと自転車の上で考える
クラスメートの倒れた自転車のタイヤが回る音だけが聞こえている
玄関のドアが開く、クラスメートの母親みたいだ
「ほそみー、何やってるのー?」
「お母さん、ふとし君ビンタしてくれた子」
「えー!あのビンタの?わー!大きい」
俺は荷台をまだ放さないクラスメートに当たらないよう女の子みたいに自転車から降り、クラスメートの母親に挨拶した
「こんにちは、いや今晩は」
「今晩は、ふとし君ちょっと上がっていきなさいよ」
「はい」
観念した俺はクラスメートの自転車を起こし曲がったカゴを真っ直ぐに戻した
家に入ると居間に通される、もうすぐご飯だから食べながら話しましょうとクラスメートの母親に押し切られてしまった
「ばあちゃんが心配するので電話借りていいですか?」
俺には考えがあった、ばあちゃんがお世話にならずに帰ってこいと言うと思ったのだ
「もしもし、ばあちゃん、クラスの友達の家でご飯食べて行きなさいって言われて、ばあちゃんご飯作ったよね?」
ちょっと代わってとクラスメートの母親が受話器を俺から奪う
「はい、わかりました、帰りはうちのに送らせますので、失礼します」
ばあちゃんも押し切られてしまった
クラスメートは俺に見せたい物があると言い自分の部屋まで俺を引っ張り連れて行く
女の子の部屋に入るのは初めてだったが全く緊張しなかった、散らかり過ぎだった
俺の部屋の方が断然マシだ
クラスメートはベットの布団を剥ぐ、するとそこには大きな大きなクマのぬいぐるみがあった
「ほら、ふとし君に似てるでしょ?私、入学式でふとし君見た時からクマちゃんが人間になったって思ったもん」
クラスメートは嬉しそうに話すとフーと息を吐き、俺にこう言った
「ふとし君、学校辞めないよね?ふとし君が辞めたら私も学校いかないから」

No.58 16/03/11 23:13
天照 ( BBiWnb )

俺はクマのヌイグルミを起こしベッドに腰掛ける
「気にしてるかも知れないけど、俺が担任張り倒したのはあいつが嫌いだったし、悔しそうな顔してたから」
「悔しそう?」
「うん、痛いとか怖いじゃなくて叩かれながら悔しくて泣いてるんだろうな、思いっきり叩き返したいんだろうなって思って、代わりに俺がやってやろうって」
「何でそんな風に、話した事も殆どないのに…」
「ばあちゃんにいつも言われてて、勉強出来るよりも困った人や大変そうな人がいたらその人の気持ちになって行動出来る人間になりなさいって」
「ふとし君にはいいおばあちゃんがいるんだね」
「うん、手出したのは怒られたけど、ふとしは間違った事はしていないって結局褒められたよ」
それを聞くとクラスメートはニッコリ微笑んだ
「あと、学校は辞めないよ 途中で辞めたらばあちゃん怒るし」
「良かった、ホッとした」
そう言うとクラスメートはクマのぬいぐるみを俺の隣に座らせる
「ふとし君って授業中も休み時間もずっと寝てて動かなくて机にクマちゃん座ってるみたいってよく思ってた、担任をビンタしてくれた時もクマちゃんが助けてくれたって思ったもん」
そう言ってクラスメートはぬいぐるみの頭を撫でる
階段から大きな声で「ご飯出来たよ〜」と明るい声が聞こえてきた
「行こう」と言ってクラスメートはクマのぬいぐるみをベッドへ寝かし布団を掛けた
1階へ降りると丁度父親が帰って来た、クラスメートが俺を紹介すると父親は「大きいなふとし君、今日は一杯食べていきなさい」と微笑んだ、俺は歓迎してくれるんだなとホッとした
食卓を囲み夕食が始まる
俺はいつも通りサンマに大根おろしを乗せて頭から丸かじりする
「うわー!サンマの骨まで食べてる!」
クラスメートと父親が驚き、母親は何故か感動している
「死んだお父さんみたい、その食べ方 」
「そういえばお義父さんに何処と無く似てるなふとし君は」
「おじいちゃん?私会った事無いからなぁ、そうなんだ」
みんなに顔をジロジロ見られた俺は恥ずかしくなり、ご飯を自分でおかわりしようとする
「いいのよ、座ってて」
そう言って母親は茶碗を自然に受け取る
「はい、たくさんあるからね」
母親から受け取った茶碗にはご飯が優しくこんもりとよそってある
おかわりのご飯の優しさが懐かしくて嬉しくて俺はご飯が無くなるまでおかわりした

No.59 16/03/12 12:07
天照 ( BBiWnb )

「ままさん、二人でドライブ行こうか?」
「えー!ふとちゃんと二人?嬉しい!」
俺はお義父さんとお義母さんの喧嘩の原因を聞き出す為にお義母さんを外に連れ出すことにした
ほそみは高橋がお土産を取りに来るので丁度二人になれてよかった、俺もほそみから高校生の時に高橋が俺の事を好きだったという事を聞いて以来顔を合わせづらく思っていた
車を出す、車で15分ほどの喫茶店でお茶をした
「ふとちゃん、子供の方はどう?」
いきなり先制パンチを喰らってしまった
「うーん、頑張ってはいるんだけど」
取り敢えずこう答えた
「ふとちゃんの子供可愛いだろうね、ほそみの次ふとちゃんで、その次私ね」
「ままさん何が?」
「赤ちゃん抱っこする順番」
お義母さんは赤ちゃんをあやす真似をする、
本当に赤ちゃんが見えた様だった
そろそろ聞かなきゃ
「ままさん、何で出てきたの?」
「ふとちゃんあの人ね、ふとちゃんから貰った手紙読んだ時に泣いてたのよ」
お義父さんに気持ちは伝わったみたいだ
「私も気になってあの人が居ない時に読んだのよ、私も泣いたわよ、あんな事書いてくれたふとちゃんの事思ったら私あの人に言わずにいられなくなって」
やっぱりそうか、お義母さんらしい
「昨日の夜あの人に、すぐに二人の結婚許しなさいよ 許さないなら私もここから出て行くって言ったら喧嘩になって…」
それで出てきたのか、ほそみもだがお義母さんもカッとなると人が変わるみたいだ
「ままさん、ありがとう」
「来週の日曜、一人でお義父さんに会いに行って話させて貰うから」
「ふとちゃん、あの人納得させてね あの人も私もほそみもふとちゃんじゃなきゃ駄目なんだから」
「うん、ままさんと話すと元気になるよ お義父さん一人で大丈夫かな?」
「あの人は平気よ、多分忙しい独り暮らしを満喫してるわよフフフ」
お義母さんは何かを想像して笑っていた


No.60 16/03/13 02:24
天照 ( BBiWnb )

喫茶店から部屋へ戻ると高橋が来ていた
お義母さんは高橋の変貌に驚き久々の再会を喜んでいた
高橋も御守りを貰ったみたいだ、良かったほそみと高橋は以前と何ら変わりない
高橋が俺の事を高校生の頃好きだったと聞いて俺は何か気まずい
取り敢えず寝室へ逃げ込みベッドで画集を見ていた
俺は昔から鶴田一郎の描く女性が好きだ、切れ長の目で黒髪のロング俺のタイプだ
画集を見ているとほそみが入ってきた
「お母さんどうだった?」
俺は喫茶店で聞いた話をほそみに話す
「そっか、手紙なんて書いたの?」
「俺の正直な気持ち、ご両親とほそみの事」
「教えてくれないの?」
「俺の口からは言えない」
「残念…」
そう言うとほそみは肩を落として寝室から出て行く、隠す訳ではないがほそみには俺の口からは言えない
「ふとちゃ〜ん、写真撮って」
お義母さんが俺を呼ぶ、居間で3人の写真を撮る、ほそみは落ち込んでいた
高橋が帰り支度を始めた、俺は高橋と話していないので一言交わしておこうと
「高橋、どうやって来たの?」
「歩いて来たよ」
しまった、遅くに来ていたから車だと思った
「ふとちゃん、遅いから送ってあげて」
「了解、ほそみも行く?」
「ふとし、任せた」
やはり、手紙の事でほそみは拗ねている
俺は車であっさり送って行くつもりだった、マンションのエントランスから駐車場へ歩こうとすると
「ふとし君、歩きながら話ししよう」
と高橋が言った、俺は断れる訳もなく歩いて高橋を送る事にした
高橋と歩く、話ししようと言ってきたのに高橋は何も話さない
気まずい、何か話さなくては
「高橋は御守りになんてお願いする?」
「うーん、やっぱり結婚かなぁ」
「高橋はどんな人がいいの?」
高橋が足を止める
「大変な時に助けてくれる人かな」
そう言ってまた歩き出す
その言葉を聞いた俺は話題を変えた
「そういえば高橋、俺ジムに行こうとしてるんだけど」
「そうなんだ、そしたら早く痩せちゃうね」
「時間ないからね、何でもやらなきゃ」
「ふとし君はそのままでいてよ、そのまま」
幾ら脳天気な俺でも高橋の言おうとしている事は分かった
「高橋、俺…」
「着いちゃったね、ありがと、ふとし君」
そう言うと高橋はマンションへ駆けて行った
俺の部屋へ帰ろうとした時に携帯にメールが届く
闇夜に浮かぶ携帯の画面には
結婚しないで
そう一言書いてあった



No.61 16/03/13 22:07
天照 ( BBiWnb )

俺は立ち止まり高橋からのメールを何度も見返した
見返す度にほそみの言葉が脳裏をよぎる
「私とユウの関係はそこで終わりだから」
俺はメールを削除し、部屋へ戻った
部屋へ戻るとお義母さんは風呂に入っていた
ほそみはお義母さんの寝床を準備しようとシーツを取り出そうとしていた
「遅かったね」
ほそみはこっちを見ない
「歩いて送ってきた」
「そうなんだ、お義母さん居間に寝て貰うから」
「それなら朝早いし俺がソファで寝るよ、お義母さんは寝室に布団敷いて寝て貰えば?」
「そうだね、お母さん低血圧だし」
ほそみはさっさとシーツを布団に置いて行ってしまった、俺はお義母さんの布団にシーツをかけ終えてもほそみが風呂に入るまで寝室から出なかった
ほそみが風呂に入るのを確認して俺は居間に行く、入れ替わりにお義母さんが床についた
ソファでほそみを待っている間、高橋のメールの事を考えていたがそのまま眠ってしまった
俺は深夜に寒くて目が覚める、電気も点けっぱなしだった、ほそみも俺に会いたくなくて風呂から上がって声も掛けずにそのまま寝たみたいだ
電気を消しブランケットを掛けて寝る
目覚ましで起きる、いつもの様に歩きに行って帰ってくる、部屋へ戻ると誰も起きていなかった
寝室へ行くとほそみはまだ布団を被っていた
「ほそみ、そろそろ起きないと」
「私、有給とってるから」
「分かった、車置いてくから」
俺にはほそみの有給が嘘だと分かったが何も言わなかった、仕事にプライベートを持ち込むほそみに腹を立てていた
電車で行くならもう出なくては、俺は何も食べずに仕事へ向かう、駅には早く着いた、歩くのが早くなっている
電車に乗り込むとマスクをしている高橋がいた、気づくなという俺の思いは届かず気付かれてしまった
「あれ?ふとし君、今日電車?ゴホゴホ」
高橋は風邪を引いているみたいだ、無理して出勤してるんだろう
「風邪ひいた?昨日寒かったから 今日は電車、ほそみは有給でお義母さんいるから車置いてきた」
ほそみはズル休みとは言えない
「そういえば、ふとし君ジムって何処に行くの?」
「近所の〇〇、帰りに見学して入会する予定」
「仕事大体何時まで?」
「17時だよ、何で?」
「何時かなぁって」
電車が駅に着く、此処で別々の路線だ
「じゃあな」と高橋と別れ俺は会社へ急いだ

No.62 16/03/14 01:10
天照 ( BBiWnb )

仕事が終わる、俺は携帯を確認する
はぁ、やっぱり来てないか
ほそみは有給の時は俺を今迄はいつも迎えに来ていた、今日来ないという事はまだあの調子なんだろう、憂鬱だ
会社の最寄り駅へ歩いて向かう、電車通勤って大変だな
電車に乗り込む
電車が混んでいる、俺は肩身が狭い
部屋の最寄り駅にやっと着いた、ホームに降り、さぁジムへ行こうとすると見覚えのあるマスクをした女性が立っていた、高橋だ
「ふとし君、一緒に見学に行こうと思って」
凄く体調が悪そうだ、フラついている
「高橋!見学より病院行かなきゃ」
大丈夫と言うがどう見ても大丈夫ではない
「病院行こう」
そう言って俺は高橋の荷物を持つ、階段も上手く登れていないフラついている高橋の背中に手をまわす
駅のすぐ近くの内科へ高橋を連れて行く、診察を待つ間も辛そうだ
「高橋、何か飲む?ポカリでも買ってこようか?」
「ふとし君、あの時みたいにコーラ」
俺は思い出した、県の代表選手で行った夏の合宿、窓を閉め切った体育館で水も飲ませて貰えずに練習した後、先生達に隠れて俺と高橋は俺の靴に隠してあったお金でこっそりコーラを飲んだんだった、あの時のコーラの味は俺の中でも断トツの1位だ
「赤?黒なんてあの時なかったもんな」
「うん、赤いコーラ」
俺はコーラを買い、プルタブを起こし高橋へ渡す、高橋はチビチビと少しずつ飲んでいた
高橋はまだ入っているコーラを俺に渡すと
「やっぱり美味しい」
そう言って隣に座っている俺の肩に頭を寄せた
診察が終わると俺は隣接された薬局に処方箋を持ち薬と必要なものを買ってくる、病院へ戻るとタクシーを呼び高橋を部屋まで送っていく
そのまま高橋の部屋の中に俺は入ってしまう、今更だがほそみへの背徳行為だ
事情が事情なだけに正直に話せばいい
エアコンのスイッチを入れ、高橋が着替えている間にキッチンに置いてあったリンゴとグレープフルーツを剥き、一切れずつ皿に入れ残りはタッパーに入れて冷蔵庫へ
白湯を作り、果物を食べさせ薬を飲ませ、冷えピタシートを高橋に渡す
俺が友達として高橋にできる事はここまでだ
包丁とまな板を洗い高橋の元へ戻ると高橋は眠っていた、俺は書き置きを書き玄関の鍵をそおっと閉め、郵便受けから鍵を戻し帰った
俺は何をやってるんだろう、自分で自分がわからなかった

No.63 16/03/14 22:40
天照 ( BBiWnb )

マンションに着いた、俺は下から部屋の階を見上げて溜息をつく、もう20時過ぎだあんな調子のほそみに何から話そうか
部屋へ戻ると誰も居なかった、俺は実家にお義母さんを送りに行ったのかな?と思い、夕食を探すが何もない
車もないので俺はジャージに着替えてリュックを背負って部屋を出る、まだジムに行ける時間だ
途中腹が減ったのでコンビニでおでんを食べる、大根、卵、白滝この3品だけしか頼めない
歩いてジムに行き説明を受け入会する事にした、思ったよりも年齢層は高く落ち着いた感じの雰囲気だった、というよりあまり本気でスポーツというよりはストレス解消みたいな感じだった
結構、俺みたいに体重のある人も運動していて行きにくいという雰囲気はない
1つ気になったのがスタッフの愛想笑いが過ぎる、俺は余り過剰サービスが好きではない、普通にしていて欲しいものだ
今日は夜歩いていないので運動して行く事にする、取り敢えず自転車やランニングマシーン、サウナに入り汗を流した
シャワーを浴びてジムを出る、もう23時だ
そうだ携帯を長らく見ていない、携帯を確認するとほそみから着信が10件も入っていた
俺が携帯を最後に見たのが21時頃なので2時間で10件とは何かあったのではないかと電話するとすぐにほそみにつながる
「ふとし、今何処なの? 何してるの?」
「帰ったら誰も居なくてほそみに電話したけど、ジムに入会して運動してた、何かあった?」
「ちょっとそこにいて、迎えに行くから」
「大丈夫だよ、歩いて帰れるし」
「いいから居てよ、すぐに行くから」
そう言ってほそみは返事も聞かずに切る
タバコを2本程吸った頃にほそみが迎えに来た
「御飯無かったでしょ?ごめんね、お寿司あるよ」
ほそみの機嫌が戻っている、嬉しい事があったみたいだ、もしかして
「お義母さん送って、ほそみも実家寄ってきた?」
「うん、お父さんとは会ってないけど」
俺はほそみが何故、実家に行ったのかすぐに分かったが敢えてその事には触れなかった
俺はほそみのとった行動に腹を立てていた



No.64 16/03/15 10:31
天照 ( BBiWnb )

部屋に戻るとほそみがいつもよりよく話す
人は後ろめたい事があるとよく喋る
「ほそみ、何か言うことない?」
ほそみは無いよと言った、俺はこの時完全に怒ってしまう
じゃあ、俺も高橋の事は言わないと怒りに任せ勝手に自己処理する
俺は怒っても表に出さない、ただ何も言わずに心がそっぽを向く、小学生並だ
その後の会話は覚えていない、俺は適当に相槌を打ち、聞き流しほそみが風呂に入ると俺はベッドで先に寝た
朝起きる、昨日イライラしたせいか頭が重い
歩きに行こうとした時に携帯にメールが来た、高橋だ
昨日のお礼とまだ熱が下がっていない事が書いてあった
俺はすぐに財布を持って歩きに出た
俺は高橋の部屋の冷蔵庫に殆ど何も入っていないのを昨日見て知っていたからコンビニで買い出しして高橋の部屋のドアノブへ掛けておくとメールした
コンビニに寄り具合が悪くても食べれそうな物を買い、高橋の部屋の前に着くとドアノブに袋を掛ける、するとドアが開いた、まだ熱が下がっていない高橋が出て来た
顔は真っ赤でパンパンに浮腫んでいるまだ熱が高いみたいで辛そうだ
「ありがとう、ふとし君」
「はい、筋トレ」
そう言って俺はコンビニの袋を高橋に渡す
「ふとし君、寒いから入って」
そう高橋に言われた俺は部屋に入った
「高橋、何か食べた?」
高橋は首を横に振る
「お粥でも作ろうか、出来たら起こすから、高橋寝といて」
高橋はありがとうと言うとベッドへ行った
俺は買ってきた鮭おにぎりでお粥を作りベッドへ持って行く、高橋は起き上がりお粥を食べようとするが熱すぎて食べれない、フーフーしようにも息がゼェゼェで出来ない
俺はこの時ほそみへの当てつけなのかほそみが具合が悪かった時と同じ行動をとる
俺は高橋の隣へ座る、マットレスが俺の方へ傾く、力の入らない高橋は俺に寄り掛かる
俺は高橋の背中から腕を回しお粥のお椀をその手で持ち、もう片方の手でスプーンを持ちお粥を冷ましながら高橋へ食べさせる
高橋は何も言わずにただ食べていた
高橋が薬を飲み終え、ベッドに横になると俺はちゃんとお昼も食べて薬を飲むように伝えて部屋を出ようとすると高橋がゼェゼェの小さな声で
「いってらっしゃい」
と言った、その小さな声を聞いた俺は
「また仕事終わったら来るよ」
そう言って部屋を出た
俺は部屋へ戻りながらほそみへの当てつけで高橋の心を弄んだ罪悪感に苛まれていた

No.65 16/03/17 21:12
天照 ( BBiWnb )

部屋に戻るとほそみが朝食を食べていた
俺も朝食を食べる、夜食べなかった寿司だ
「ふとし、今日遅かったね」
「コンビニ寄ってた」
俺はほそみを避けるかの様に朝食をさっさっと済ますと着替え始めた
ほそみは俺についてまわってくるが話は弾まない、車でほそみを送り届ける迄、俺は後ろめたくて相槌を打つのがやっとだった
昼休みになると高橋から来ていたメールに目を通す、熱が下がった様だ
良かった、無理しない様にと返事を送る
すぐに高橋から返事が来る
駆け引き等一切ない、メールが来るのを待ちに待ってた感が伝わる返信の速さだ、なんか高橋の素直過ぎる気持ちを思うと心が痛かった
仕事が終わりほそみを迎えに行く、一緒に部屋まで戻り夕食を食べる、ほそみが何を話しても上の空だ
夕食が終わるとコーヒーも飲まずに俺は着替える
「ジムに歩いて行ってくるから」
ほそみの顔も見ずにそう言って俺は部屋を出るとジムとは違う方向へ歩き出す
高橋に言わなくてはいけない、もう来れないと
高橋の部屋へ着く、高橋は熱も下がり元気そうだった
「高橋、もう大丈夫そうだね」
「うん、お陰様で」
高橋は俺の胸に正面から寄り掛かる
「俺、もう高橋の部屋へ来れないよ」
「うん、分かってる 今日だけ、帰るまで」
高橋が俺を困らせない様に聞き分けの良いふりをしているのがよく分かり、居た堪れなくなる
「ごめん、高橋の事…」
「何も言わなくていい」
そうやって高橋に俺が伝えるべき事を遮られた
「ふとし君はほそみじゃなきゃ駄目なの?」
急に高橋が胸から離れ、俺に聞いてきた
「ほそみじゃないと駄目だよ」
俺はキッパリと答える
「他の人と付き合った事無いのに何でそう言えるの?」
俺は高橋の素直な気持ちに正面から向き合おうと本心を話す
「俺の中でほそみが一番だからそう言える ほそみの中で俺は何番でも関係無くて、ほそみの幸せが俺の幸せだから」
俺がそう言うと高橋はハッと何かに気づかされた様な顔をした
俺はこの時ほそみに対する思いが高橋にも伝わり分かってくれたんだなと思っていたが次の瞬間、女性の受取り方はファンタジスタだという事を思い知らされる
「ふとし君、私ほそみと友達やめる、私の中でふとし君が一番だから私がふとし君を幸せにする」
その言葉を聞いた俺は事の重大さに震えていた

No.66 16/03/18 01:25
天照 ( BBiWnb )

俺は神を信じていない、だが今日だけは別だ、部屋のドアの前で一度手を合わせ鍵をそっと開ける、ほそみが風呂に入っている事を祈りながら
「ふとし、早かったね」
玄関を開けた瞬間ほそみが目の前にいた、俺の都合の良すぎる願いはあっさり却下された、考えてみれば神がいるなら今の俺に与えるのは罰しかないだろう
「うん、風邪気味で早目に帰ってきた」
風邪気味は本当だった、高橋のが感染ったみたいだ
「ふーん、早目にねぇ ジム行ったんだ」
おかしい、ほそみが強気だ もしかして高橋が戦線布告したのか?
「疲れた、ほそみ風呂入った?」
俺が玄関から部屋に上がろうとするとほそみが俺のリュックを奪う
俺はジムには行っていない、リュックの着替えを見られたらすぐバレる
しかし俺は無類の推理好きな用意周到な卑劣な男だ、中の着替えは水で濡らしてビニール袋に入れてある
ほそみはリュックの中の着替えを確認すると俺の予想と反する言葉を口にする
「ふとし、ちょっとソファで話そうか」
フーっと言いながらほそみはソファに座る
俺は高橋がほそみに戦線布告したに違いないと思い何から話そうか考えていた
「ふとし、何やってるの?財布出して」
俺はすぐに財布を出す、ほそみは緊急用のお金を確認する、レシートとジムの領収書も照らし合せている
「2000円位足りないね」
高橋の為に使ったレシートだけ捨てたのが仇となる
「ふとし、何で何も言わないの?」
ほそみは何を何処まで知ってるんだろう、もう何も分からない
「買い食いとかじゃないけど、ちょっと使った」
なんか塾の月謝使い込んだ小学生みたいだ
「じゃあ、もう一つ質問、ジム行かずに何処いってたの?」
「…」
「じゃあ何処でジャージ濡らして来たの?今日ジム休みだよ、ふとし見に行こうとジム行ったら閉まってたよ」
俺はほそみの掌で転がされていた、もう自首するしかない
高橋を病院に連れて行った事から今迄の事をほそみに話す、ただ高橋が俺を幸せにすると言った事は言えなかった
「ふとしは友達として当然の事してるつもりでもユウにはそう割り切れないよ、ふとしの事が欲しくなるよ、ユウを結婚出来なくなる位傷付けたいの?」
「そんなつもりは…」
「ユウが勝手に我慢出来なくなった?それは違うよふとしの行動がそうさせてるんだって」
俺は何も言う事が出来なかった



No.67 16/03/18 03:34
天照 ( BBiWnb )

「ふとしが私以外に優しくしてるの見るの本当は嫌でしょうがないんだから、ふとしはなんか勘違いしてるけど女って結局内面見てるんだから男の人の」
そうなのか?俺は自分の事を永遠の超安全牌だと思っていた
ほそみには悪いがほそみがいなければ女の子と付き合う事は愚か手も握手会にでも行かなくては握れないと本気で思っていた
ほそみは続ける
「ふとしって私の事わかってるようでわかってないよね、絶対に私の領域に入ってこないし、自分の領域に私を入れないでしょ」
それは図星だ、俺は他人を尊重するけど自分も尊重して欲しい、自分の世界を持っている
その世界観で行動しているから俺には意味ある行動でも他人には変わってるだとか非常識だとよく言われるが気にした事は無い
ただ、ほそみはよく理解してくれていた
「ふとし、私に言いたい事あるなら何でも言ってよ、私に気遣う事なんてこれから一切やめてよ」
また俺はほそみを自分自身の甘さで苦しめている、いつもほそみが苦しんでばかりだ
「みーちゃん、自分の事責めずに俺の事責めて欲しい」
「だって私が仕事休んでふとしがお父さんに書いた手紙読んだのが原因でしょ」
「ふとしの領域に私が勝手に入ったんだよね、だからふとし怒ったんだよね」
ほそみは今にも泣きそうだ、俺は何回こんな顔をほそみにさせているのだろう
「みーちゃん困らせたかったのかな、俺が甘えられるのみーちゃんしかいないから」
「ユウには甘えなかったの?」
いきなりのキラーパスだ、やはり高橋の話は別みたいだ、ほそみの目は鋭い、心に突き刺さる程だ
「果物切ったりお粥作っただけだって」
「ふーん、作っただけねぇ」
「高橋も今日の昼まで熱下がらなかったんだよ」
「そうかぁ、夜は下がってたんだ」
「ふとし、お風呂で身体検査しようか」
ほそみの俺への取り調べは深夜3時迄続いた

No.68 16/03/20 02:33
天照 ( BBiWnb )

今日は遅めの6時に起きる、朝ご飯を先に作る
今日から朝食作りは俺の役目になった、俺にほそみから課せられた懲役だ
俺は元々料理が好きなので苦にならない、ただ昔の様に美味しいだけの料理を作れないのは辛い
昨日運動をさぼっているので遅く寝ても30分だけでも運動したかった
俺は歩きに出る、今日は隣にほそみがいる
「ふとし、早くなったね歩くの」
「これならユウのマンションまで10分位で行けてたね」
ほそみは未だ俺への口撃をやめない、俺は黙って聞くだけだ
「ふとし、これから私も毎日歩くから」
「いいけど、朝起きれる?」
「起きれるよ、結婚式迄に引き締めなきゃ」
そう言ってほそみは頬をすぼめる
「ほそみは今のままでいいよ」
「そういう訳にはいかないんだよ、女は」
ほそみの理想はまだ痩せていたいのか、美意識というやつか
ほそみが頑張っても隣に坊主の大男だと可哀想だな
そんな事を考えていると部屋に着いた、急いで朝食を食べ出勤する
いつも通り仕事をこなし、ほそみを迎えに行く
部屋に帰るとほそみは俺の携帯をいじっている
「ほそみ何やってるの?」
「ちょっとね、はい」
携帯を見ると何故かお義母さんの写真が待ち受けになっていた
「魔除け」
そう言ってほそみは笑っていた
夕食を二人で作り食べる、俺は明日の事を思うと気が重かった
考えても仕方がないのでジムにでも行くかと腰を上げるとほそみが俺を呼び止める
「ふとし、ユウの番号拒否しといたから もうユウと連絡とらないで」
「わかった、ごめん」
「ふとし、私から逃げても無駄だからね、どこにいてもすぐに見つけるからね」
俺はほそみのこの言葉の意味をこの時は全くわからなかった
ただ俺の行動によって不安になっていると思っていた
「みーちゃんから逃げる訳ないよ、大丈夫」
そう言うと俺はジムへ行こうと準備を始めた
部屋から出ようとした時にほそみの携帯にミカから電話が入る、会話を遮るのも悪いから黙って出て行った
ジムで1時間程運動を行い帰りに本屋へ寄る、暫く立ち読みしていると後ろからいきなり声を掛けられる
「何で電話でないの?」

No.69 16/03/21 13:42
天照 ( BBiWnb )

いきなりの声に驚き、振り返るとほそみがいた
「びっくりした、電話した?」
そう言ってポケットの中をまさぐるが携帯が無い、リュックの中を探すと携帯が出てきた
「どうした?」
着信履歴を見ると5件と表示されている
わざわざ探しに来たのだから急ぎなのだろう
「何にも言わないで出て行くから、今度からはジム着いてからと出る前に電話してよね」
今迄こんな事をほそみは言った事が無かった
「これからは連絡するよ、ほそみそれだけで探しに来たの?」
「本買いに来たら、ふとしがいただけ」
そう言いながらもほそみは本には興味なさげだった
部屋に戻るとほそみは録画していたドラマを見だす、俺が席を立とうとすると一緒に見ようと言って聞かない
その日は寝るまでずっと一緒にいたがほそみは寝るまで落ち着きが無かった
次の日の朝、いつもの様に起きて歩きに行こうとしたがほそみは俺が起き上がるのを許さない、しょうがなく出勤時間ギリギリまでベットで添い寝する
車で送っている時も俺の携帯をチェックしている、休憩時間にはメールを昼休みには電話する様にほそみに言われる
俺はほそみの変わり様に不安になっていた、昼休みほそみに電話すると休憩時間に送ったメールが短すぎると怒られる
俺は15時の休憩にはちゃんと書くからと言い電話を切ったがその日は運悪く仕事が終わるまで休憩は取れなかった
ほそみを迎えに行くと見るからに機嫌が悪かった
「ほそみ、休憩時間取れなかったからメール出せなくて、ごめん」
「いいよ、別に」
そう言うとほそみはそっぽを向く
検査の結果を聞きに病院へ行く、30分程待たされやっと検査結果を聞かされる
検査結果に問題はなかった、俺は胸を撫で下ろしたが隣でほそみが神妙な面持ちをしていたのが気掛かりだった
病院から部屋へ戻るとほそみは寝室に行ったきり出て来ない、俺が夕食を作り寝室へ呼びに行くが食べたくないと言う
俺はほそみが被っている布団に入り込む
「みーちゃん、どうした?」
「子供出来ないの、私のせいかな?」
布団から顔を出しほそみは天井を見ながら話す
「誰のせいとかじゃないよ、こればっかりは もうちょっと様子見よう」
「もし、私に子供出来なくても結婚してくれる?逃げない?」
そう言うとほそみは布団を被ってしまった
俺はほそみの心が壊れ始めているのを直感した

No.70 16/03/22 01:52
天照 ( BBiWnb )

深夜3時、俺はキッチンでコソコソしている
俺には不似合いの可愛い手帳型のケースに入った携帯を片手に迷っていた
ほそみの様子がおかしい、原因は子供が出来ない事以外にもある筈だ、検査の結果が出る前の日から変だった
携帯を見ればわかるかもしれないと思い、ほそみが寝ている隙に持ってきた
俺は今迄ほそみの持ち物はどんな物でも勝手に見た事はない、ほそみの事を疑った事が無いし、自分に自信が無いから知らない方が良い事を知ってしまった時にほそみから身を引く恐怖もある
だが今回はほそみに起きている出来事を知りたい一心で行動を起こしてしまった
みーちゃんごめん、と意を決して携帯を開く、認証画面が表示される
俺もほそみも互いの誕生日をパスワードに設定している
携帯を開く、着信履歴を見るが変わった点が無い
メールを見てみるとこの2日間で高橋と何通もメールのやり取りをしている
受信メールには俺とのやり取りが事細かに多少オーバーに記してあったり、最後のメールにはほそみと決別する様な内容が書いてある
送信メールを見てみる、そこには一切高橋の事を責めずに俺が勘違いさせる様な行動をとった事を詫び、なんとか今迄通りに高橋と友達として関係を続けようとしているほそみの優しさと強さが伺える内容だった
その強くて優しい心が壊れようとしている
俺はほそみの壊れていく心を元に戻す事で償えるだろうか、このままの俺ではほそみと一緒にはいられない
俺はこの時から暫く一方的な空回りをしてしまう、ほそみの幸せに気づかずに
ほそみの携帯を元に戻しベッドへ戻る、すぐに寝ているほそみが無意識に俺の寝巻きを掴む
俺はほそみの手を握り眠りについた
翌朝、俺が起きて朝ごはんを作っているとほそみが寝室から何度も俺を呼ぶ、俺がちゃんといるか確認している様だ
この日ほそみは起き上がらずにベッドで朝食を食べる、何かボーっとしている
「みーちゃん、今日は仕事休みなよ」
「私が仕事休むとふとしが怒って何処か行くから」
そう言うとほそみは急に泣き出してしまう
出勤時間になっても泣き止まないほそみを俺は放っておく事も出来ずに俺はその日仕事を休んだ

No.71 16/03/23 23:31
天照 ( BBiWnb )

俺はこんなほそみを10年間で初めて見る
最近色々あり過ぎた、というか色々の全ての原因が俺にある
どう考えてもほそみの厄病神になっているし、幸せにするどころか不幸にしている
これからもほそみの事を更に不幸にしてしまうのではないか
俺の中での一番はほそみだがほそみが幸せになってくれるなら俺はほそみにとって一番にならなくてもいい
ほそみに時間が無いなら俺が一刻も早くほそみの前から消える事が一番ほそみの為になるのでは無いだろうか
何も言わずに消えるのは俺に捨てられたと思ってしまう、ほそみから俺を捨ててくれれば一番いい
こんな時に誰かに相談できる素直な強い人間なら良かったのかもしれないが俺は他人に悩みを打ち明けれない弱い人間だった
俺は一人で勝手に嫌われようと空回りだす
ほそみが昼前に起きてくると俺は昼食を食べに行こうと乗り気では無いほそみを外に連れ出す
ファストフード店に行きダイエット以前に食べていた様な食べ方をする、わざとダイエットがキツいもうやめたい、太っているからって結婚に反対するのは俺の人格を無視したおかしな話だとほそみに言う
帰りにスーパーでジャンクフードとビールを大量に買い込みテレビを見ながら飲んで食べる
ほそみは何も言わない、俺は心の中で早く俺に呆れてくれと願う
そんな時に俺の携帯に知らない番号から着信が入った

No.72 16/03/24 17:58
天照 ( BBiWnb )

俺は立ち上がり寝室へ行き電話に出る
「もしもし」
「ふとし君、電話繋がらないから仕事の携帯でかけた」
高橋だった
「そっか、もう電話してきても出ない 俺みたいな奴に構ってたらろくな事無いよ じゃあ」
そう言って高橋の返事も聞かずに電話を切る
寝室のドアを開けるとほそみが立っていた
「誰だった?」
「高橋」
「なんで?」
「違う携帯からかけてきた」
「ふとし、番号変えてよ」
「もう取らないから大丈夫」
「変えてよ」
「変えない、誰と電話で話そうが俺の勝手だし どうせほそみは俺の携帯チェックしたり盗み聴きするから問題無いでしょ?」
俺がそう言うとほそみは納得いかないのか俺の前を動かない
「ほそみ、俺が高橋の部屋に行ったの悪かったと思ってたから仕事も休んで付き合ってたけど、もう付き合いきれないよ」
「ごめんなさい、でも不安で……」
「ほそみが俺の事もう信用してないって事がわかったよ」
そう言って俺は部屋を飛び出した

No.73 16/03/25 02:58
天照 ( BBiWnb )

下に降りるエレベーターを待ちながら俺は心の中でずっと謝っている
みーちゃん、酷い事言ってごめん
早く嫌いになってくれ、こんな思いは辛すぎる
俺がエレベーターで1階に降りた頃、階段から急いで降りてくる足音が聞こえてくる
あの足音はほそみに違いない
俺は暗がりに身を隠す、ほそみが飛び出して駐車場に車があるのを確認すると歩道を歩いて俺を探している、俺は後ろからほそみの姿を追う
みーちゃん何やってるんだよ、暗くなったら一人で歩かないって約束してるのに
そんな薄着でサンダル履いて風邪引くだろ
もう20分もほそみは俺を探している
俺はほそみの幸せを思ってこんな事をやっているのにほそみに何かあったら俺は……
「みーちゃん!」
俺はもう限界だった、思いっきり叫んでいた
ほそみが振り向き俺に向かって走ってくる、あ!転んだ!
俺は全力でダッシュをしたが飲んでいる事を忘れていた、俺も思いっきり転びそうになるが受け身をとりほそみに駆け寄る
「みーちゃん、ごめん、本当にごめん」
ほそみは膝を擦りむいている、サンダルも脱げている
「ふとし、大丈夫?手痛くない?」
ほそみは受け身をとった俺の手を心配する
「みーちゃん、ごめん、本当にごめん」
俺はこれしか言えない、もう泣いてしまった
「ふとし、痛いの?病院行こう」
俺は首を横に振って鼻をすする
俺はほそみに着ていた上着を掛け、腰を落とす
「みーちゃんもう戻ろう、乗って」
ほそみはサンダルを手に持ちながら
「うん、重いよ」
いつか聞いた様な事を言いながら背中に乗る
ほそみは初めて俺の背中に乗った時の事を本当に嬉しそうに話しだす
俺も何であんな事したんだろうと笑う、あれから10年間幸せな事ばっかりだった
ほそみにはこれからも幸せでいて欲しい
コンビニに通りかかるとほそみが大好きなベルギーチョコソフトを買ってくる
俺の背中に乗りソフトクリームを食べながら
「幸せ」
と言う
「美味しかった?」
と俺が聞くと
「ふとしが一緒にいるだけで幸せ、私の幸せ奪わないでね、これあげるから」
そう言ってコーンの紙を取り、両手の使えない俺の口にわざと広い方から差し込む
「ふとし、鳥みたい」
そう言われてガラスに映った自分を見ると咥えたコーンがくちばしみたいになっていた
「ふとしは私の青い鳥なんだからね、離さないよ」
ほそみはそう言うと俺を背中からきつく抱き締めた

No.74 16/03/26 02:30
天照 ( BBiWnb )

朝起きると直ぐに体重を計る、昨日の暴飲暴食で体重が3kg増えていた
大体6000キロカロリー位昨日は摂取した、これなら戻るのもすぐだな、気を引き締めなければ
ほそみが起きてくる、足が痛いみたいだ
取り敢えずテーピングをほそみに施し留守番する様に告げる
俺は歩きに出る、暴飲暴食のせいか足のむくみが兎に角酷い
歩いてる足の感覚が鈍い、なんか頭もフワフワしてしまう、こんな時は怪我に注意だ
よし、昨日の分を取り返すぞと遠回りする為にいつもは曲がらない道を張り切って曲がった
次の瞬間俺は宙を舞う、スローモーションに突入した
お義母さんが得意な中森明菜の歌みたいだった、ただ俺の出会いは車だった
あ、ヤバい、受身取らなきゃ、あれ?右手が動かない、えーい、顎だけ引いとけ
どすん!俺は背中から思いっきりアスファルトに叩き突けられる
痛い、鼻が焼ける様に熱く痛い、右手が動かない痛い、鼻水が止まらない苦しい、左手で鼻を拭うとそれが鼻血だと気付く
ほそみの足が痛くて良かった、昨日の俺の空回りが役に立つとは
人生とは本当に何が正解か分からない
「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
運転手が俺の耳元で大声を出す、全身に響く
俺はほそみの事を考えていた
俺が時間通り帰らないとほそみをまた不安にさせる、病院から部屋の電話に連絡あるとほそみが取り乱す、そんなほそみに運転させられない
取り敢えず何でもいいからほそみに連絡させてくれ!
「携帯貸して下さい、ぷはぁ」
俺は鼻で息が出来なくて口に入ってきた鼻血を吐く、運転手は勘違いする
「動いちゃ駄目ですって、救急車来ますから」
「鼻血だから大丈夫ですよ 今から言う番号にかけて貰えませんか?汚したら悪いんでスピーカーでお願いします」
俺が落ち着いて説明すると運転手も落ち着いた
「もしもし、どちら様ですか?」
ほそみは他人にはこんな感じなんだと新鮮だった
「青い鳥です」
「なんだぁ、びっくりした」
「みーちゃん、軽く自転車とぶつかって大丈夫って言ったんだけど 念の為に病院行こうって事だから行ってくるね」
「大丈夫?今から車で行こうか?」
「全然大丈夫だよ、病院着いたら連絡するから」
「はーい、気をつけてね」
「了解」
電話を切った頃に救急車のサイレンの音が聞こえてきた

No.75 16/03/31 21:34
天照 ( BBiWnb )

俺は検温に来た看護士さんの声で目を覚ます
俺の怪我は鼻と右腕が折れて肩は脱臼していた、先生には体が丈夫で良かったですねと言われた
応急処置の後、検査を受けてほそみに連絡して病室へ行き点滴を受けている内に寝てしまった様だ
顔がパンパンに腫れて熱もある、ベッドの脇にほそみが座っている事に気付く
「みーちゃん、驚いた?大丈夫だからね」
「ふとし、喋らなくていいから」
ほそみは怒っているとも心配してるとも何とも言えない表情でそう言った
「みーちゃん、起こしてくれたら良かったのに、気付かなかった」
「心配したんだから」
そう言ってほそみは下を向く、俺は左手を伸ばしてほそみの髪を撫でたかったが点滴が邪魔して出来なかった
「みーちゃん、いつも心配かけてごめん」
そう言うと、朝から何も食べていない俺のお腹が鳴る
「ふとし、食欲あるの?食べたい?」
ほそみはトートバックから何か取り出した
「食べていいのかな?ふとし飲み込めるの?」
「うん、食べていいよ、腹減った」
俺は朝から何も食べていない、喰いたい一心で適当な事を言う
ほそみは病室を出て行く、適当な事を言ったのがバレてた
ほそみが戻ってくる
「ふとし、もうすぐご飯だから食べ過ぎない様にって」
そう言ってほそみはサンドイッチを俺の口に差し出す一口でペロリと平らげた
落ち着いた俺はほそみに気掛かりだった事を話す
「みーちゃん、明日お義父さんに挨拶行けなくなったの伝えてくれない?」
明日はお義父さんと話し合いに行く予定だったがこのままでは行けない
「もうすぐお母さん来るから言っておくよ」
ほそみは俺が寝ている間にお義母さんに連絡したらしい
俺は呑気にお義母さん、ゼリーか果物持って来ないかなと考えていた
「ふとし、携帯持ってきたけど着信入ってたよ」
知らない番号から3件入っていた
「多分、事故った相手だよ 俺の携帯教えておいたから」
そう言えば落ち着いたら着信入れますって言ってたな、気になってるだろうな
電話出来ないしショートメールで教えてあげよう、左手だけでは無理だほそみにやって貰った
その時、病室をノックする音が聞こえた



No.76 16/04/01 01:34
天照 ( BBiWnb )

ドアが開く
「ふとちゃん!」
お義母さんだ
お義母さんがベッドへ駆け寄ってくる、俺はいつもの底抜けに明るいお義母さんを想像していた
俺の視界に飛び込んできたお義母さんは今にも泣き出しそうだった
10年の付き合いの中で初めて見るお義母さんの泣きそうな顔、俺は何だかジーンときてしまった
「ふとちゃん、痛かったね、痛かったね」
お義母さんは泣き出しそうな声だ、俺も泣きそうだがいきなり鼻が激痛に襲われる、わさびでツーンと来た時の100倍位の痛みだ
思わず声にならない声を出してのたうちまわる
ほそみが
「お母さん、安静にしておかなきゃ」
そう言ってお義母さんを落ち着かせる
「ままさん、大丈夫だよ 見た目程酷くないから」
やっと声が出せた
「良かった、ふとちゃんに何かあったら私達ふとちゃんのご両親に顔向け出来ないわ」
お義母さんはまた泣きそうだ
「大丈夫、俺の中ではお義父さんとままさんが両親だから」
俺がそう言うとお義母さんはちょっとリンゴでも買ってくると言って外に出た
「ふとし、お母さん絶対泣いてるよ 嬉しくて」
そう言いながらほそみも嬉しそうだった
そんな時、病室のドアがいきなり開く
ほそみはドアの方を向いたまま固まる、俺はすぐに誰だか分かった
「ふとし!お前、大丈夫か?」
躊躇なくベッドへやって来たのはゴルフウェアを着たお義父さんだった
俺は余りに驚いたせいかまた鼻が痛むが今度は堪え平静を装い挨拶する
「お久しぶりです、大丈夫ですよ、体だけは丈夫ですから」
お義父さんはいつもの優しい笑顔でそうか、そうかと安心していた
ほそみに目をやるとまだ固まっている、いつもならお義母さんが何とかしてくれるのだが今は俺が繋ぐ他ない
「すみません、みなさんに心配かけちゃって」
「電話で聞いて飛んできたよ、あいつまだ来てないのか?」
「さっき入れ替わりで果物買いに」
暫く沈黙が流れる
このままだとお義父さんは帰ってしまう
「ふとし、何か買ってくるよ 何がいい?」
こういう時遠慮するとお義父さんは悲しむ
「ドーナッツがいいです、いつも買って来てくれたやつ」
「分かった、買ってくるよ」
そう言うとお義父さんは病室から出ていった
「みーちゃん、どうした?びっくりした?」
「うん、いきなりだったから」
ほそみは予期せぬ来訪者に動揺を隠せない様子だった

No.77 16/04/18 21:57
天照 ( BBiWnb )

ほそみは病室の窓から外を眺めている
「みーちゃん、お義父さん普通だったね お義父さんらしいね」
「うん、そこがまた癪にさわる」
ほそみはそう言うと俺のベットに戻って来る
「みーちゃん、俺が退院するまで実家に行ってきな」
「何でよ、ふとしの部屋の方が病院近いし」
「あんまり良い場所じゃないから、ほそみ一人だと心配なんだよ」
俺は心配症だ、ほそみの事となると尚更神経質になってしまう
何かが起きてからでは遅いのだ、ほそみが嫌がってもここは引けない
「一週間位だよ、長くても お義父さんとは今から話するから」
「今日じゃなくても良くない?ふとしどんどん具合悪くなってそうだし」
体調は万全では無いがお義父さんとの話を先延ばしにするのは嫌だった
病室へ食事が運ばれてくる、俺はお盆を見て今日はつくづくついていないと思い知る
俺は嫌いな食べ物は殆ど無いのだが唯一揚げ魚のあんかけだけは嫌いだ、それがお盆には乗っていた
ほそみはついてないねと笑っている、そんな時にお義母さんが戻ってきた
お義母さんも俺のお盆を見るなり苦笑いした
俺はリンゴを食べ、ほそみとお義母さんに病院食を食べて貰っているとお義父さんが戻って来た
「ふとしの飯取られたのか、ふとしドーナッツ」
お義父さんは一言多い、買ってきたドーナッツを俺のベットへ置く
「ありがとうございます、お義父さんちょっと話してもいいですか?」
「この前の手紙見てわかっているから、今のふとしなら身体の事では反対しない、だけど他にもこれだけはやって欲しい条件がある」
「何よ、条件って?」
ほそみが思わず強い口調で口を挟む
お義父さんは久々の親子の会話に苦笑いすると条件を口にした

No.78 16/04/19 20:38
天照 ( BBiWnb )

「何がこれだけはやって欲しいよ、偉そうに」
ほそみはブツブツ言っている、お義母さんは条件を知っているのだろう何も言わない
「御両親の事なんだよ、 ふとしが親と思っていなくても親には違いない、御両親に挨拶して了承を得る事と結婚式には出席して貰う事」
俺は不意をつかれた、俺が一番向き合いたくない事がお義父さんのが条件だった
「お父さん、それが条件なんだね?それだけなんだね」
ほそみは声が震えている、嬉しいのだろう
「ほそみ、ふとしは痩せたのにお前太ったんじゃないか?また寿司ばっかり食べてるんだろう?」
お義父さんは照れ隠しなのかワザと悪びれる
その後の二人は何ヶ月前振りかにお互いに仲良くけなしあっていた
お義母さんはそんな二人をよそに俺の事を心配そうな面持ちで帰るまで見つめていた
お義母さんは昔から俺がいかに両親の事を憎み、忘れたがっていたか知っている
お義母さんは俺が今何を思うのか心配なんだろう
お義父さんとお義母さんにほそみの事を連れて帰って貰い俺は一人になった
身体中が痛い頭も痛い何も考えずにいたかったが頭の中をグルグル今迄忘れていた父と母の思い出が走馬灯の様に駆け巡る
駄目だ、落ち着かない、イライラする
タバコを吸いたい、駄目だ、コンビニまでは歩いていける自信が無い
そうだ、ドーナッツを食べよう、俺は起き上がりドーナッツの箱に手をかけようとしたその時、足音がした
トントン
誰かが病室のドアをノックする
「どうぞ」
誰だ、こんなに遅くに面会時間過ぎてるんじゃないか
ゆっくりとドアが開くとそこには下を向いた女の人が立っていた

No.79 16/04/23 13:57
天照 ( BBiWnb )

下を向いた女の人は母親だった
「ふとし、ほそみさんから聞いて」
ほそみは余計な事をしてくれた
まだ下を向いて入ってこない、イライラする
「わざわざすみません」
母親は目も合わせない、そう言えば祖母の葬式で会った時も俺とは目を合わせなかった
「これ、お見舞い」
「そのまま持って帰って下さい」
俺が受け取らないと母親は引き出しにお見舞いをしまう、俺は舌打ちする
「ふとし、お母さん何も出来ないから受け取って」
まだ母親ぶる態度に腹が立ちつい本音が出る
「何も出来ないのはわかってますよ、昔から」
母親は下を向く
「正直言ってよくお母さんって言えるなって思いますよ、今迄通りお互いに存在しないものと思って暮らした方が幸せでしょう」
「ごめんね、本当にごめんね」
そう言って母親は去って行った
余計にイライラしてしまったが少しスッキリした
俺がほそみに電話をかけようとした時に着信が入る、また違う知らない番号だ
電話をとると事故相手からの電話だった
取り敢えず現状を説明して保険屋に任せましょうと挨拶して俺は電話を切る、ほそみに送って貰ったメールは誰に届いたんだろうと考えている内に俺はいつの間にか眠っていた
検温で目を覚ます、もう朝だ
携帯にメールが2通届いている
お義母さんとほそみからだ
お義母さんのメールにはほそみが熊のぬいぐるみの鼻を撫でている写真、ほそみのメールにはお義母さんが熊のぬいぐるみとアイドル風に写っている写真が添付してあった
メールが届いたのは6時、親子揃って朝っぱらからどんなテンションなんだと考えていると笑えてきた
俺は朝食を済ますと病院内を徘徊する、渡り廊下に丁度俺くらいの体型も年も同じ位の男が母親に付き添われながら手すりにつかまりリハビリみたいな事をしていた
体の左半身が不自由な様だ、俺が通り過ぎようとした時に男がバランスを崩す
俺は支えようと手を出したが間に合わなかった、支えようとした母親と共に男は倒れてしまう、俺は右手が使えないので起こしてやる事も出来ずに誰か呼んできますと伝えナースステーションへ行き看護士に伝える
俺が看護士と渡り廊下へ戻る、やはり女性の看護士では男を起こす事が出来ない
男性看護士を待っている間に倒れた男は自分で立つ事も出来ない、情けないと言って人目もはばからず泣きだした

No.80 16/04/24 23:49
天照 ( BBiWnb )

ベットへ戻って点滴を受けている間泣いていた男の事が頭から離れなかった
点滴が終わった頃にほそみがやってくる
何だかウロウロしている、何だろう?
「勝手な事してごめん、お母さん来たよね?」
「うん来たよ、お見舞い置いていったから配達記録で送り返そうか」
「そんな事したら駄目だよ、どうだった?」
「文句言ったら帰った、俺は無理だな親とは思えない」
「そっか、ごめん」
ほそみは本当は結婚の話をして欲しかったのだろう、でも俺には出来そうもない
「みーちゃん、意地とかじゃないけど俺痩せるまで式は挙げないつもりだから」
「どうして?お義父さんもいいって言ってるのに」
「今のままでは俺胸張ってみーちゃんの事幸せにしますって言えないよ」
「ふとし、マリッジブルーなの?」
俺は倒れて泣いていた男の事をほそみに話した
「後5ヶ月しかないからね、ふとしは言った事はやる男なんでしょ?ちゃんと期限は守ってよね」
「わかってる、ちゃんと約束守るから」
「見てこれ買ってきた」
そう言うと分厚い結婚情報誌を取り出し読み出す、ほそみを怒らせたみたいだ
ほそみはその日いつもより早く帰った、帰るまで怒っていた

今日は入院して4日目だがほそみは怒って帰って以来来ていない、メールをしても返信がない
同僚が持ってきたお見舞いを食べながら心配していた
そんな時に間違ってメールした番号から着信が入る、俺はすぐに出る
「もしもし、ふとし君怪我大丈夫?」
電話の声は高橋だった
「高橋だったのか、大丈夫だよ」
「良かった、元気そうで」
「もう携帯変えて電話したら駄目だよ」
「わかった、ほそみは元気?」
「どうだろう、怒らせてるから会ってない」
「そうなんだ、じゃあごめんね」
そう言って電話は切れた
俺はずっと高橋の事を気にかけていたがもう大丈夫そうだ
その日の夜、病室のドアが開く
やっとほそみが来たかと思い振り返るとそこには高橋がいた
「ふとし君、お見舞い」
高橋は笑顔でお見舞いの果物を俺に見せる
「高橋……」
「心配でお見舞いに来ただけだから」
「大丈夫だよもうすぐ退院」
「良かった安心した、ほそみは?」
「今日も来てないね、怒ったら止まらないからほそみは」
「ふとし君、幸せ?」
高橋はそう言ってベットへ腰掛けた


No.81 16/04/25 17:08
天照 ( BBiWnb )

高橋は俺の目をジッと見る、俺も目をそらさない
「幸せだよ」
「それならいいけど」
「ふとし君、退院いつ?」
「明後日」
「困った事あったら教えてね、それじゃあ」
と言って立ち上がり帰っていった
俺は幸せじゃない顔をしているのだろうか、高橋にはそう見えたのだろうか
俺は窓ガラスに映った自分の顔を見ながら考えていた

退院の日、俺は一人で手続きを行っていた
ほそみからはまだ音沙汰がない、ほそみは仕事だからどのみち一人で帰るのだが
部屋へ戻り19時になるがほそみは戻って来ない、メールするが返信もない
ほそみは実家で俺が迎えに行くのを待っているのだろうか、それとも顔も見たくないと怒っているのだろうか
考えてもしょうがない、俺は片手で運転するのも危ないので電車を使ってほそみの実家へ行く
ほそみの実家へ着くとほそみの部屋だけ明るかった
俺がチャイムを鳴らすとほそみが降りてきた
インターホンからほそみの声がする
「どちら様ですか?」
「ほそみ、連絡くらい」
「ガチャッ」
話している途中でインターホンが切れた
歩いてくる音がする、扉の前で足音は止まる
鍵は開かない
「ほそみ……」
10分程呼びかけるが返事は無い
「ほそみが元気なら良かったよ、じゃあまた来るよおやすみ」
扉の向こうのほそみにそう告げて俺はトボトボと帰っていった
部屋に戻ると左手だけで料理するのは大変だった、最終的には圧力鍋に切らずに材料を全て入れて煮た
馬のエサみたいな人参が入った鍋を食べていると携帯が鳴る、ほそみかと思ったが携帯を見ると高橋からだった
「もしもし」
「ふとし君、退院した?何してる?」
「うん退院したよ、今は一人寂しく食事してるよ」
「ほそみは?いないの?」
「うん、実家に帰ったまま」
「何か困ってる事無い?」
「利き手が使えないからごはんもろくに作れないね」
「わかった、待ってて」
高橋はそう言って電話を切る、俺は電話をかけ直すが高橋がでる事は無かった

No.82 16/04/27 01:47
天照 ( BBiWnb )

高橋はもうこっちに向かっているのだろう
もう23時だ、こんな時間なのに
暫くするとインターホンが鳴る、俺はドアを開ける
目の前にはスエットを着た風呂上がりの高橋が買い物袋をぶら下げて立っていた
「高橋こんな時間に急に来るなよ」
「ふとし君に看病のお返しに来た」
「お返しとかもういいから、ほそみと俺はもう結婚するんだからそっとしておいてくれよ」
高橋が唇を噛む
「だったらふとし君はどうして私に優しくした?ズルいよふとし君」
俺は何も言えなかった
「私はふとし君が困っている時に何があってもいなくなったりはしないよ、ほそみみたいに」
「ほそみがいないのは俺のせいだから」
「ほそみにだって責任あるよ、私がふとし君の事好きなの分かってたのにふとし君一人で私の所に行かせたり」
「ほそみも俺も高橋が大変そうだったから友達として力になりたかったそれだけだよ、それにほそみはどんな時でも高橋の事悪く言ったりしないよ大事な友達だから」
高橋の目には涙が溜まっている
「でもふとし君が幸せそうに見えない」
高橋は泣き出した
「今の俺が幸せじゃないのは今のほそみが幸せじゃないから」
俺は高橋の目を見る
「こんな俺でも何が自分の幸せかちゃんとわかってるよ、ほそみが幸せでいる事が俺の幸せ、その為だけに生きていこうと決めてる」
俺はこんな恥ずかしい事を他人に言うとは思わなかった、自然体になれる高橋だから言えたのだろうか
「もし高橋が俺の幸せを望んでくれるのならほそみの幸せを祝福して欲しい」
高橋は何も言わずに頷いてドアを開け出て行こうとすると目の前にほそみがいた
俺はいきなり現れたほそみの目が真っ赤だったので怒っていると思ったが違っていた
「ユウ……」
「ごめんね、ほそみ」
二人は泣いていた、ほそみは高橋を駐車場まで送り戻って来る
「ふとし、さっきは迎えに来てくれたのにごめん」
「ほそみ、いつからいた?」
「ふとしが迎えに来て帰る時やっぱり心配になって後ろからついてきた、でも入り辛くて階段に座ってドア見てたらユウが来てそこからずっと聞いてた」
「全部?」
「うん全部、私の前でもう一回言って」
ほそみは幸せそうな顔でそう言った

No.83 16/04/27 17:58
天照 ( BBiWnb )

退院した翌日、会社はまだ休んでいて暇なので入院していた時に仕入れた情報を元に肥満外来のある病院に訪れていた
情報源は渡り廊下で倒れていた男の母親だ
わざわざ病室へお礼を言いに来てくれ、息子に似た俺の事が心配になったのかこんな病院もあるよと教えてくれた
受診が始まる、先生は俺の体を見るなり叱責した
「そんな体によくなれたね、毎日1万カロリー位摂ってるんじゃ無いの?」
「これでも30kg落としたんですが」
「え?160kgあったの?信じられんな、どんな生活だったらそこまで太れるの?」
じじいガンガン来るな、こんな医者初めてだ
その日は血液検査やウエスト、体重、身長、血圧などを計測し
「とりあえず、減量は続けて下さい」
診察はそれだけだった
俺が慣れないバスを駆使して帰るとポストに宅急便の不在通知が届いていた
差出人を見ると父親の名前が書いてあった、母親が教えたのだろうか?
あいつら疎遠の筈なんだけどな
見舞いでも送ってきたのだろう、いらないから無視しよう
部屋に戻るとインターホンが鳴る、宅急便だ
他の部屋に持ってきたついでに声をかけてくれたみたいだ、しょうがなく宅急便を受け取る
薄い箱だ、箱を開けると紐付きの封筒と手紙が入っていた
俺は紐付き封筒を先に開ける、昔話では地獄行きのタイプだ
そこには俺名義の通帳と印鑑が入っていた
結構な額が入っている、丁度母親と離婚した時から貯めていたみたいだ
俺は別に感動などせずに贈与税の事を考えて封筒を開けようとハサミを持ったが読むのをやめた
何故か一人で読みたくなかった、ほそみが帰って来るのを待つ事にする
ほそみが戻り夕食後に手紙を読んで貰った
「ふとし、お義母さんは悪くないから許してあげて欲しいって書いてある」
「そっか、通帳は何て?」
「ふとしの結婚資金に使って欲しいって」
「ハハハ、俺とほそみを舐めとるな」
俺とほそみは二人で働き出した時から貯金を続けている
誰にも頼らずに結婚式なんて挙げれる
「ふとし、どうする?」
「まぁ貰っとくか、ほそみの軽自動車でも買って残りは俺のヘソクリにでもしとこうか」
「そうじゃなくて、お義父さんとお義母さんに挨拶」
「式挙げる為に行くよ、俺は二人と結婚式でお別れするつもりだから」

No.84 16/04/28 11:22
天照 ( BBiWnb )

目覚ましが鳴る五分前に起き、ほそみを起こす
ブラックコーヒーを一杯飲む
二人で歩きに行く、運動は良くないと言われていたがじっとしてはいられなかった
大丈夫と言ったがほそみがしつこいので車で大きな公園まで行き一周7kmのウォーキングコースを歩く事にする
思った通り結構な人数歩いていた、俺は挨拶が面倒だからこういうコースは苦手だ
ほそみは歩くのではなく歩くみたいに走っているスロージョギングというらしい
腹が減った状態で歩くと脂肪が燃焼するらしいがもっと大事なものを失っている気がする何も食べずに運動するとやる気や体のキレが吸い取られていく、朝からフラフラだ
「ほそみもダイエット?」
俺の体重推移グラフにほそみが自分の体重を書き出したのを見て声をかける
「うん、もう私も時間無いから」
ほそみは別に痩せる必要は無いのに
「もし俺が痩せたら最初は何したい?」
「普通のお店で色んな服からふとしの服選んでそれ着て写真を一緒に撮りたい」
そっか、ほそみも大きいサイズの種類の少なさは物足りないんだな
俺は取り敢えずXLが入る位の体型を目指そう
「ふとしってお義父さん似?お義母さん似?」
ほそみがこんな事聞くの初めてだな
「どっちにも似てない、父親の方の爺ちゃん似らしい」
俺が産まれた時にはもういなかった
「へーそうなんだ、挨拶ってやっぱり何処か予約しなきゃいけないよね」
「取り敢えず、顔見せ程度やってママさん達と会わせる時に何処か予約すればいいよ」
「緊張する、お義父さんってどんな人?」
「今思えば最低な人かな、外に女作ってたまに帰ってきても小遣いくれるだけ、何処か連れて行って貰った記憶も無いし」
ほそみは話題を変える
「そういえばふとし、婿養子に入るって本当?無理してない?」
「無理なんてしてないよ、お義父さんはそれも込みで結婚を許してくれたんだと思うよ」
その事はお義父さんへの手紙で伝えてあった、将来的には面倒を見させて欲しいとも書いた
そろそろジムへ行く時間だ
「ほそみもジム行ってみる?体験出来るよ」
「うん、行ってみたい」
その日ジムに行ったほそみはそのまま入会した

No.85 16/04/28 18:39
天照 ( BBiWnb )

「ふとしもプログラム出ようよ」
「無理、ダンスとか出来ないし、したくない」
歩きながらほそみのしつこい要求を断る
ここ二週間、朝は毎日歩き月、水、金の仕事帰り、土日のどちらかの週4回ジムに行き2時間程度運動するというハードな毎日をほそみと共に送っていた
ジムでは無酸素運動、マシーンを使った筋トレを主に行い、直後に30分〜60分の有酸素運動を行う
ほそみはスタジオプログラムというダンスやヨガといったものを中心に行っていた
部屋に戻り体重を計る、また減っている
俺は上機嫌でグラフに書き込む、120kg
ほそみの方は最初の一週間で1kg減ったがそこからはずっと停滞している
「やっぱりほそみはそこがベストな体重なんだよ」
「ふとしどんどん減ってるよね、なんかズルくない?」
俺は心配していた、職場で同僚の妹がダイエットに嵌り拒食症みたいになってしまったという話を聞いたからだ
「ほそみ、今日は食べていい日だから行きたい所連れて行くよ」
俺は週に一度の何でも食べていい日をやめて二週間に一度体に良いものなら何でも食べていい日をはじめた
「うーん、迷うなぁ美しくなれてスイーツが美味しい所がいいな」
ほそみに拒食症の心配はいらないみたいだ
「ふとし、言ってなかったけど今日ブライダルフェアだった」
「何ソレ?お祭り?」
「行ったらわかるよ、デジカメ持っていくから充電チェックしておいてね」
無知な俺はほそみにそそのかされブライダルフェアへ連れて行かれた
式場へ行くと説明やら何やら俺が休日に最もやりたくない事が盛り沢山だった
そんな中で一つだけ良かった事がある、ドレスの試着会だ
ドレスを着たほそみはとても綺麗だった、そんな事を考えながら写真を撮った為に写真はブレブレだった
試着会が終わると俺の出番だ、あの手この手で仮予約を勧めてくるスタッフを軽くあしらいウエディングフェアを終えた
「ふとしって何でも断れるよね、凄いね」
「うん、俺はNOと言える日本人だから」
俺は運転をしながらほそみのウエディングドレス姿を思い出す
あの隣に立つ為ならどんな事でもどんな努力も惜しまないと心に誓った

No.86 16/04/29 01:29
天照 ( BBiWnb )

体重計に乗り溜め息をついていた、116kg
ウエディングフェアから2週間で4kgしか減っていない、正確には10日間体重が動いていない、ちゃんと毎朝歩きジムにも行っているのに何故なんだ
最近は膝を曲げると痛く、常に太ももの外側が異常に張っている感覚がある
だけど体重が落ちていないのに運動を休むわけには行かない、足が痛くなるとほそみのドレス姿を思い出して頑張っていた
「ほそみ、ミカの家行くの今日だっけ?」
「うん、ふとしもね」
「俺はよくない?送ってほそみの家にでも行って、電話くれたら迎え行くから」
出産の為に里帰りしてきたミカにほそみは会いに行く、高橋の事をミカも聞いているだろうから何を言われるか察しがつく、俺が行くと妊婦の大敵ストレスをミカに与えてしまう
「駄目だよ、ふとしが痩せてるの見せるんだから」
最近はこればっかりだ、俺は渋々了承した
「驚いた!誰かと思った、ふとし痩せたね」
驚いたのはこっちの方だミカはかなり太っている、でも幸せそうで安心した
コーヒーと共に出された萩の月を無視して俺はジップロックを取り出し素焼きアーモンドを3粒食べる
「凄いね、ふとしが萩の月食べないなんて」
「そうなの、最近おやつにアーモンド10粒しか食べないの」
決して食べないではない、食べれないんだ
そこからは女子会が始まり俺は二人を見ながら一つだけ心に引っかかる事があった
本当は高橋もここにいるべきなんだよな、高橋がここに居ないのは俺のせいなんだよな
何とか戻れないかな、でも俺の口からは言えないよな
そんな事を考えているとミカの父親に俺は呼ばれる
ミカの父親は警官で柔道関係者だ、俺の事を知っている
「え?そうなんですか?何も会社から聞いてないですよ」
俺は耳を疑った、俺の会社がやっている地域貢献活動による小学生柔道教室の指導者の欄に俺の名前があったと言う
子供は好きだが教えるのは苦手だ、考えるな感じろと言っても今の子供は笑ってもくれないだろう
俺はもう柔道とは関わりたく無いのに社命なら従わざるを得ない、何とか断れないものか
何だか柔道関係者と会うとロクな事が起きない、やっぱり俺は柔道が嫌いだ

No.87 16/04/29 16:36
天照 ( BBiWnb )

次の週の土曜日、俺は朝からヒーヒー言っていた
歩く足の回転を速くしていった結果ゆっくりだがいつの間にか走る事が出来る様になる
「ふとし、ちょっとやり過ぎなんじゃない?」
俺は体重が減らなくなると焦り、膝の痛みも無視して運動の強度と量を増やし毎日フラフラになる迄運動していた、ジムにもジムが休みの日以外毎日行く様になっていた
「大丈夫、無理はしてないよ」
平気では無いが俺は目標を二桁から80kgに変えていた、それを達成するには多少無理は仕方が無い
体重計に乗る度に固唾を飲む、減っていない時の満たされないストレスは計り知れない、体重が減らないとその日は余計に腹が減りイライラしてしまう
「ふとし、これでいいかな?」
ほそみはとても緊張している、今日は俺の両親と会う
「うん似合ってる、問題無いよ」
この頃ほそみの体に見た目で分かる変化が起きる、体重は殆ど変わらないが体つきが違うジムに行った効果が現れ始めていた
「手土産何買って行く?」
「どっちも子供いるから和菓子とかよりうまい棒300本位あげた方が喜ぶんじゃない?」
「ふざけないでよ!真剣に聞いてるのに……でもふとしには弟や妹がいるんだね」
「会う事ないだろうけどね」
弟や妹と呼んでいいものか分からないがどういう風に育っているのか見てみたい気もする
出発し、途中で手土産に一番安いカステラを買う、車に戻るとレシートでほそみにバレて高い物と交換するハメになった
「ふとし、御両親の事責める様な事しないでね」
「時間作って貰っておいてそんな事はしないよ」
「最近、怒りっぽいから……」
待ち合わせの場所へ着き、席へ案内されると両親共にもう席に座っていた
十何年振りに見る父親はもう昔の記憶が無いので変わっているのかさえ分からない、母親は相変わらず俺とは目を合わさない
お互い挨拶を行う、俺はその後挨拶意外何も話さなかった
1時間位ほそみと両親が会話しそろそろお開きだ、俺が伝票を取り立ち上がろうとすると父親が俺の腕をいきなり掴んで謝りだす
俺はすぐに振りほどき謝罪している父親を一瞥すると靴紐を結びながら声をかける
「申し訳ないと思うのなら結納と結婚式だけ付き合って下さい、もう謝ったりするのもやめて下さいおめでたい席なんで」
俺はそう言うと伝票を持ち会計へ向かった

No.88 16/04/30 01:29
天照 ( BBiWnb )

「おい、ふとしお前スポーツ振興の説明会だろ?何で行ってないんだ?」
上司に声を掛けられ思いだす、しまったあまりのやる気の無さに忘れていた
説明会はもう始まっていた、急いで席に着くと隣の若い女子社員に挨拶をされる
「女子を担当する石川です、よろしくお願いします」
「遅れましたすみません、よろしくお願いします」
同じ会社でも見た事無いもの同士名刺交換する
石川は22歳のショートカットが似合う小柄で健康的な女子社員だった、石川も高校生の頃は県の代表だったらしい
説明会が終わり石川の話を聞いて不安になる
石川は柔道の素晴らしさを子供達にみたいな若いというか熱苦しい、こういうタイプが指導者になると周りが見えなくなって空回りする
俺は片手間でやるだけだ、痩せなくてはいけないし結婚式の準備もある
不幸中の幸いは柔道教室の日は木曜日、ジムが休みの日に軽い運動しながらの休養、積極的休養が出来るいう事だった

「仕方が無いよ、ふとしとその子の考え方は違うんだし、私も見に行っていい?」
「いいけど、その子俺のタイプじゃ無いから大丈夫だよ」
「違うよふとしが子供達に柔道教えている所見たいの、ていうかタイプだったら大丈夫じゃないんだ」
ほそみは面倒くさい、すぐに揚げ足を取る
「手当て出るし子供預かるんだからきっちりやるよ、ほそみも受け身位教えてやろうか」
俺はそう言ってベットにほそみを投げた

柔道教室の初日、俺は山本五十六の格言を胸に指導を行い子供達の心を掴む事に成功した
ほそみも嬉しそうに見学していた
帰りの車で子供の話になる
「ふとしは子供に柔道やらせる?」
「やりたければ反対しないけど勧める事はしない、柔道って辛くて危険だから」
「私はふとしが子供と一緒に何かやってる所見ながら年取っていきたいな、早くふとし似の子供出来ないかな」
ほそみは前より凹んだお腹をさする
「俺に似たら大変だよ、ほそみに似てくれないと困るよ」
「ふとし私やっぱり病院行こうかな、結婚前に検査したいし」
安心したいほそみと一緒に検査に行く事にした

No.89 16/04/30 13:37
天照 ( BBiWnb )

ほそみと約束した期限まで後三ヶ月半になった頃俺は会社を休み整形外科を受診していた
「太ももの張りを感じた時点で休養するべきでしたね、原因はオーバーワークですよ」
前日、ジムで走っている時にその痛みは訪れた
最初はいつも走ってる内に消える痛みだったがその日は30分走っても酷くなる一方だった
俺は何故か痛みを我慢していつもの60分間走り続け、帰る頃には膝を曲げて歩けなくなっていた
ちょうけい靭帯炎といって走る人にはメジャーな疾患らしい
初期段階ではすぐ治るらしいが俺の場合限界まで我慢してるので長くかかるだろうという事だった、酷い人では三ヶ月以上かかる人も慢性化する人もいるという
俺は朝夕のジョギングで毎日14km走っていたのでそのカロリーが消費出来なくなる
その日から有酸素運動は自転車漕ぎをやるしかなくなった
筋トレは今でも限界まで追い込んでいる、増やす事は出来ないどうしようと考えているとほそみを迎えに行く時間になる
ほそみの検査結果を婦人科に聞きに行く、ほそみの体は何も問題無かった
二人でささやかなお祝いを早過ぎる夕食で行う
回転寿司を食べながら怪我の事をほそみに話す
「ふとし怪我したら意味無いし、これからは引き締めるだけにしたら?」
108kgになった俺は1年振りに会う人には気付かれない位の変貌を遂げていた
唯、それは服を着ている時だけの話だ
体脂肪率は何故か低いのに服を脱げば皮なのか脂肪なのかよくわからない腰回りがダルダルの腹だ
「まだ減量やめないよ、二桁にもなって無いし最近快適なんだよ生きている事が」
本当に快適だった、160kgだった頃には想像出来ない位のびのびと生きている
知らない人に笑われる事も無いし好奇の目で見られる事も無くなった
今では飛行機も新幹線もちゃんと一人分の座席で収まり、隣の人に気を使わなくて良い
普通の人はこんなに楽に暮らしていたのかと驚いた
一度味をしめた俺には当初の目標通り80kg迄やり遂げるモチベーションが備わっている

No.90 16/05/02 22:38
天照 ( BBiWnb )

走れなくなり10日が経っていた、もう大丈夫かなと思い走ってみたが10分後には足を引きずっていた
体重は何とかキープしているが焦っている、このまま足が治らないと80kgどころか二桁も遠い
ここまで順調だっただけに目先の体重減少に囚われ体調管理を疎かにした事が悔やまれる
ほそみにも問題が起きていた
幾つものブライダルフェアへ行くが式場が決まらない、そのストレスからか一週間前に試食会でケーキを食べて以降甘い物への欲求が止まらなくなってしまっていた
ほそみは甲斐甲斐しく玉ねぎや人参の甘みを調理法で限界まで引き出して食べていたがもう我慢の限界の様だ、今日の朝コンビニのスイーツ売り場を5分位見ていた
女性は甘い物を我慢するストレスを抱える位なら食べた方が健康に良いと聞いた事がある
今はデリケートな時期だからこれが原因でマリッジブルーが発動すれば俺の人生は孤独死へと進んで行くだろう
ネガティヴな考えに囚われた俺はほそみのプライドを傷付けない様に誘う
「ほそみ、貰った優待券今日までだから外食行こうか」
優待券など存在しなかったがこう言えば絶対に行かざるを得ない、ほそみは優待券や割引券は無理しても使わないと気が済まない性格だ
「えー!それは使わなきゃ、今日食べていい日だし丁度良かったね」
先ずはジムへ行き運動を行いホテルのケーキバイキングへ行く、運動後の食べても脂肪になりにくい時間を作り代謝が高い時間に食べれば少しでもほとみの負担も減るだろう
「ふとし、今日は無礼講だから」
そう言うとほそみはケーキを取りに行く、張り切って歩くほそみを見て心から可愛らしいと思った
そんな時に近くの席のカップルの声が耳に入る
「あれ見て!痩せようと思わないのかな?」
「あんなんで良く付き合ってくれるやついるな、物好きがいるんだね」
俺はカップルの席に鋭い視線を向けた


No.91 16/05/05 01:52
天照 ( BBiWnb )

俺の視線の先にはネットで調べた異性受けする格好を鵜呑みにしている様な男女がいた
カップルの視線の先にはふくよかな女性がいた、俺の事では無かった
女性は彼氏とデートしているだけだ何も迷惑を掛けていない
それを太っているだけで見知らぬ人から揶揄され、一緒にいる人間迄否定する
太っている奴が悪く言われるのは当たり前、統計取って割っただけの標準というラインからオーバーしてるだけで何言われても当たり前の世の中なんだよな
そんなやるせない気持ちでいるとほそみが皿二枚にケーキを乗せて溢れんばかりの笑顔で戻ってきた
「ふとし!おばさん達がふとしの事、男前って言ってたよ」
ほそみはケーキフィルムを外しながら嬉しそうに報告する
「相撲ファンなんだよ、おばさん達」
俺はおばさんには昔からモテる、この時はそう思っていた
ほそみは余程美味しいかったのだろう、ケーキを一口食べる毎に歓喜の声をあげている
俺は欲張りなほそみが持ってこれなかった紅茶と自分のコーヒーを汲みに行く
機械からコーヒーが出る迄の間ケーキコーナーを眺めていた、昔の俺なら具合が悪くなる迄大好きなモンブランとチーズケーキを五十個は食べただろう、計算したら一万五千カロリー、今の一週間分のカロリーより高いな
食べれるものがないかフルーツを覗く、カロリーが低くて足りてないビタミンCを補えるのは苺だけだ
何か食べようとするとこんな事を考えるようになってしまった、無機質な最低限のカロリーと足りない栄養素の補給
減量を達成するまではやれる自信はある、これが達成した後も続けられるかと言われると分からない
今の満たされない気分を補ってくれる程の世界が待っているのだろうか、痩せれば

No.92 16/05/06 20:04
天照 ( BBiWnb )

期限まで残り三ヶ月、やっと式場が決まり結納の日取りも決まった
結納と言っても家なき子が婿養子なのでただの両親の顔合わせだ
後は俺が痩せるだけだが足はまだ治らない、上半身の筋トレを泣きたくなる位に一生懸命行い、自転車を本気で漕いで凌いでいた
それでも走っていた頃に比べると全く減らない、1kg減れば次の日には1kg増えるといったストレスの溜まる展開だった
こんな時は誰かを太らせるに限る
今日はほそみの友人達がやって来る、俺のストレス解消に付き合って貰おう
俺を160kgまで太らせたと言っても過言ではない超高カロリーな昼食の為にピザ生地も作った、とっておきのクッキーも作る
ほそみの友人がやってくると俺は不敵な笑みを浮かべキッチンに消える
まずはシーザーサラダ、野菜よりクルトンが多い
次はピザ、生地は極薄でチーズで厚みを出した問題作、オリーブオイルはもこみち並みに使った
とどめにパスタ、ミンチ比率が異常に高いミートソース、そこにスペアリブを乗せる
おやつはラードと白砂糖をたっぷり使ったクッキーにアイシングを施した、歯が溶けそうになる位甘いだろう
何だかとてもすっきりした、今だから分かるけどこんなの毎日喰ってたらそりゃ早死にするな
でも美味しくて楽しいんだよな
昼食が始まるとキッチンのテーブルからは歓声が上がる、俺は居間で一人分のシーザーサラダよりカロリーが低い昼食を食べているとほそみの友人がコソコソ話しかけてきた
「ふとし君、式で流すサプライズビデオ撮りたいんだけど」
「無理、そういうの嫌いだから」
新郎と新婦、新婦の友人以外にはそういうビデオは大体スベっている、俺はそういう空気に敏感で耐えられないんだ
「そんな事言わないでよ、一生に一回なんだから、ほそみも喜ぶよ」
「そう言われると……俺が考えたのでいいなら撮るよ」
俺としてはみんなが笑えてほそみが感動するビデオを撮りたい
「ちゃんと連絡してよ、ほそみにバレないようにね」
そう言ってほそみの友人と携帯の番号を交換した
女性ってこういうのが大好きだな、やって貰いたいって分かってるからかな
俺は焼けたピザを切りながらサラミを忘れた事に気付いた瞬間にある案を思い付く
これならいける、みんなが笑えてほそみは感動する
俺は思い立ったが吉日とすぐにある人物へ電話をかけた

No.93 16/05/25 08:40
名無し93 

面白いです!

No.94 16/08/29 18:12
天照 ( BBiWnb )

少しずつですが書いていきます、急に休んで申し訳ありませんでした

No.95 16/08/29 20:38
名無し95 ( 30代 ♀ )

>> 94 うれしいです!
待ってました ^ - ^

投稿順
新着順
主のみ
付箋
このスレに返信する

小説・エッセイ掲示板のスレ一覧

ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。

  • レス新
  • 人気
  • スレ新
  • レス少
新しくスレを作成する

サブ掲示板

注目の話題

カテゴリ一覧