太っていてごめんなさい
自分が経験した彼女との結婚までの実話です
16/02/18 01:11 追記
僭越ながら感想スレ立てました
良ければ御意見お聞かせ下さい
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いつも謝る瞬間はあの曲が頭の中で流れる
ドラマもう誰も愛さないで聞いた曲だ
こうなると俺は心を閉ざしてブラックな俺が出てくる
「なんだこのおっさんも結局はそうなんだ、太ってる奴には娘はやれない、おっさんは違うと思ってたよ、あんたの奥さんが作る料理も俺は結構無理して全部食べていたのに」
などと考えていた時ほそみは急に立ち上がり
俺とおっさんにこう言い放った
「ふとし、もう出ようこんな家にはもう帰らない、お父さん、お母さんお世話になりました、私はふとしと生きて行きます」
不謹慎だが俺は嬉しかった、ついて行きますと思いながら最高の伴侶を得た強気な俺はこの時に何も言わずにほそみと実家を出て行ってしまった
ほそみは助手席で泣きながらお義父さんに対する文句を言っている
俺は同意を求められるが上の空で返事をしていた、冷静になるとお義父さんが賛成出来ないと言った事が当然だと思えてきたからだ
いつ死んでもおかしく無い奴に娘を渡す訳にはいかないだろう、たしかお義父さんは父親を子供の頃に病気で亡くして母親と二人で大変な思いをしてきたと聞いた事も思い出した
どこの親が可愛い娘に好き好んで爆弾抱かせる様な結婚に賛成できるだろうか、俺は自分の事を棚に上げた自分の浅はかな口だけな行動を心底恥じた
そんな事を考えているとほそみが「話聞いてる?御飯どうする?」と聞いてきた
そうだった、結婚に反対されるなど少しも考えてなかった俺は記念日に二人で行く店を予約していたんだった
「せっかくだから行こうか」と言うと
「うん、落ち着いて聞いて欲しい事もあるし」とほそみが言った、その言葉を聞いた時俺はほそみと初めて会った日の事を思い出した
桜を撮っているクラスメートを見ると裸足だった、ビーサンがジーンズの後ろのポケットに差し込まれていた
今度は一生懸命背伸びをして写真を撮ろうと頑張っている、でも駄目だったみたいだ
俺は残念そうにしてるクラスメートを見て手伝おうかと声を掛け、その場で馬になる
クラスメートはびっくりして笑い転げていた
重いよ、大丈夫?と言いながら恐る恐る乗るが乗った瞬間に凄い!岩みたいだ!と言ってまた笑い転げる
大笑いしている彼女を見て俺はなんだかホッとしていた、学校休んでるって事は俺が停学になったの気にしてるんだろうな、でもこの調子なら大丈夫そうだな
「俺は担任が嫌いで殴っただけだから気にせずに学校行けよ」
それを聞いたクラスメートは
「うん、ありがとう」
他にも何か言いたそうだが何か言い出せないでいる
どうした?と声を掛けると
「あの時助けてくれて本当に嬉しかった、落ち着いて話したい事があるからこれから家に来ない?」
俺はどうしようか迷ったが暗くなって来たし送って行くかと腰を上げた
あれから10年経ったんだなと考えていると予約していた店に着いた、時間が早くなったが直ぐに食事が出来た
ほそみが話し出す
「今日はゴメンね、お父さんがあんな人だとは思わなかった」
「私はもう家に帰らないから、ふとしと結婚するの反対なら私は縁切る」
俺が口を開く
「ほそみは俺の身体のことどう思う?」
「ふとしはそのままでいいよ、今だって健康なんだし」
「160kgっていつ死んでもおかしく無い体重なんだって、この前医者にも言われたよ」
「そうなんだ、でもふとしは痩せれないでしょ?」
そう言って俺の食べている皿を指差す
そうなんだ、俺は今迄ほそみがいた事もあり痩せようと思った事もした事も無かった
食事が終わり、コーヒーを頼んだところでほそみは真剣な目で俺を見る
この目をしてるほそみには何を言っても無駄だという事もわかっている
「ふとし、籍入れよう 婚姻届出そう」
「式は挙げなくていいから」
やっぱりそう来たか、ほそみはいつも俺に優しい、俺の体型を友達にバカにされた時もその場でその友達と縁を切った
今日のお義父さんに噛み付いたのも俺を傷付かせたと思い、許せなかったんだろう
ほそみは俺への気持ちを籍を入れるという行動で示してくれようとしているのだ
やっぱり俺にはほそみしかいない
しかし、ほそみの幸せを思えばこそ、このまま籍を入れる事は出来ない
どう話そうか、ほそみは覚悟を決めている
俺はやはりこのまま籍を入れる訳にはいかない、ほそみの両親にも認めて貰いたいしこのまま籍を入れるとほそみと両親の関係が終わってしまう様な気がした、それが俺の体型が原因だなんて俺には耐え切れない
まずはほそみに正直に話そう、俺の嘘はすぐバレる、思った通りを話そう
「ほそみ、やっぱりこのまま籍を入れる事は出来ないよ お義父さんも辛かったと思うよ、あんな事言いたくなかっただろうに」
「俺は明日から痩せるよ 痩せてお義父さんに認めて貰う、それから結婚しよう」
ほそみは何か言いたそうだったが店では話し辛いのか「出ようか」と言ったきりだった
帰りの車の中ではほそみは一言も発さない
目も合わさない
こんなほそみを見るのは初めてだ、何か嫌な予感がする
部屋に着くとほそみは直ぐにシャワーを浴びに行った、俺も着替えてほそみがシャワーから出てくるのを待っている
横になってウトウトしている内に寝てしまった
何だか苦しいな、息ができない、いつもの無呼吸とは違うな、苦しい
呼吸が出来なくて勢いよく目を開く、ほそみが俺に馬乗りになって泣きながら首を絞めていた
取り敢えず首を絞めている手を振りほどく、
「何するんだよ!」そう俺が言った瞬間
パーンという音と共に次はほそみの平手打ちがヒットした、結構痛かった
「何なんだよ、いきなり」
ほそみは泣きながら答える
「なんでふとしは寝れるの?痩せて認めて貰うで話が済んだとでも思ってるの?」
「ふとしが痩せるって何年かかるの?これから1年?2年?もし失敗したらどうするつもり?私はもう26だよ、ふとしもお父さんも分かっていないから言うけど女には出産適齢期っていうのがあるのよ、なんでそんなバカなの?」
返す言葉が無かった、そうだ俺は何も考えていなかった
ほそみは26まで待ちに待っていたんだ、そこにきて今回の反対、そして俺は脳天気な対応
殺したい気持ちがわかった
ほそみは泣きじゃくっている、俺はほそみを持ち上げて膝に乗せる
気が済むまで俺を叩いていいからと言うと容赦無いパンチが飛んできた
20発程受け止めたところで限界を感じ
「みーちゃんの気持ちわかって無かったよ、ごめん」と俺が言うとパンチが止んだ
ほそみの前で泣いたのは初めてだった、どうしようも無く恥ずかしい、ほそみが顔を上げなかった事がせめてもの救いだ
ほそみは気を使って顔を上げなかっただけかもしれない
ほそみはそのまま寝てしまった様だ、ソファに寝かせようとほそみをそっと抱え上げソファに寝かせる
するとテレビのリモコンがソファにあったのだろう、テレビが動き出す
テレビでは日曜の早朝アンパンマンが始まりだした
歌詞がヤバい、今の俺に刺さりまくる
また泣いてしまった
泣きながら心に思い描いたのは俺が得意の天丼マンのモノマネを披露するとまだ見ぬ我が子が桜の下のほそみの様に笑い転げる俺の夢であり俺の幸せである家庭だった
その時、後ろからふと視線を感じた
振り向くと寝ているはずのほそみと目が合う
俺は思い描いた幸せにすがる様な気持ちで泣きながら「てんてんどんどんてんどんどん」と言った
ソファには「バカじゃないの?」と言いながら笑い転げるあの日の裸足のクラスメートがいた
「起きて、起きて、ミカが来るの忘れてた」
俺は慌てているほそみに起こされた、時計は12時を回っていた
ミカというのはほそみの親友であり俺の最も苦手な女でもある
3年前に仕事の関係で東北へ引っ越してからは会っていない
シャワーでも浴びて逃げ出すかと思いながらお目覚めのプリンを食べる、その時何故か見慣れない箱が冷蔵庫を占領していた
ド・ン・ペ・リ?何でこんな物が
洗面所に入った瞬間にチャイムが鳴る、チッ
俺はほそみに禁止されている舌打ちを打つ
聞き耳をたてると何か様子がおかしい、男の声がする、訛っている
ミカと知らない男が一緒だ
俺は推理力が半端無い、というか誰でもこの新幹線に乗って男をわざわざ故郷へ連れてくる理由は察しが付く、ミカも両親に男を会わせたのだ
帰る前にほそみにも会わせたかったのだ
やめてくれ、今日だけはその報告はやめてくれ、何で今日なんだよ、肥満体が繰り出すネガティヴ推理は止まらない
俺はシャワーを頭から浴びながら考える
昨日ほそみは結婚を反対されるなんて微塵も思ってない、ミカに今度の日曜に会わせたい人がいると言われる、長期連休でも無いし、ほそみは当然察しが付く
親友と一緒に結婚の報告しあえるなんて素敵だと思う
記念日だ、お祝いだ、シャンパンだ、ドンペリだ!
点と線が繋がってしまった
知りたくなかった、俺の推理力を育てた江戸川乱歩と松本清張を心から恨んだ
巨匠二人を恨んでも仕方ない、早く幸せな二人からほそみを守らなくてはと思い居間に向かう
「久しぶり」
挨拶しながら入っていく
「お邪魔してます」
ミカはこっちを見ただけでほそみと話している、隣のスーツ姿の男性が挨拶する
男がスーツ姿だった事で俺の推理が正しかった事を確信した
でもなんだろう、会話も弾んでないし
なんか二人共幸せ一杯とはいえないな
ほそみが話して気を使っているのか?いや、ほそみは俺との事を勝手に一人で話したりしない、話すとすれば俺が一緒にいる時だ
俺は人間観察に入る
ミカはいつもの如く俺には無愛想だな、ちょと丸くなってる珍しくゆったりした服着てるし太ったの気にしてるっぽいな
お土産はほそみの好きな笹蒲鉾と俺の好きな萩の月、しかも大きい箱だ、ミカが太った事はそっとしといてあげよう
男は年の頃は俺と同じ位、黒髪の短髪で純朴そうなナイスガイだ
今迄のミカの彼氏の中では1番好感が持てる
そんな事を考えているとほそみがお茶の準備に席を立つ、ミカも手伝いについて行った
ナイスアシストだ、ほそみ
青年と二人なら探りやすい、だが空気が重い
取り敢えずグルメネタで距離を縮める
「仙台に行ったら利休に絶対に行くんですよ」
「よく知ってますね、俺も好きですよ」
「タンも好きだけどテールスープ美味いよね」
「よくわかってる!」
自慢では無いが俺は美味いものに対する努力は惜しまない、全国各地の有名な店はこの年にして殆ど制覇していた
仙台のローカルそば屋や芋煮の話で盛り上がり過ぎてほそみ達が戻ってきてしまった
「ミカ、ふとしさん凄いよニッカの近くのそば屋まで知ってるよ」
「フーン、まさや楽しそうだね ふとしはごはんに対する執着心凄いからね ほそみが食べれないのに平気でもう一軒行くから」
俺に対する嫌味はいつもの事だが
なんだ、なんだ、未来の旦那に対してあの物言いは
これは間違いなくミカ達の結婚にも問題が生じている
二人の間の問題は分からないが反対されてはいないだろう、仕事も人柄も問題無さそうだしミカも結婚するにはいい年頃だ
ミカは気難しいからなんか気に食わない事があっただけかもな
まさやに萩の月のお礼を言い、ほそみがいれてくれたコーヒーを飲む
ちゃんとパイクプレースローストだ、甘いお菓子の時はこれが良く合う
萩の月の二個目を口に入れた時にほそみがチラリとこっちを見て鼻で笑った
なんだ、あの挑発的な笑い方は!まるでミカではないか!
そう思いながらミカを見るとミカだけ違うものを飲んでいる事に気が付いた
あれ?ミカはコーヒー大好きな筈なのにどうしたんだろう、まぁいっか
久々の萩の月とコーヒーのコンビネーションに満足した俺がタバコを吸ってくると言って席を立とうとするとまさやもじゃあ俺も、と言って立ち上がろうすると、ミカが飲んでいた湯のみをテーブルに叩きつけると肩を震わせて泣きだした
俺は初めて見るミカが取り乱した姿に動揺していた
まさやは立ち上がろうとしたまま止まっている
見かねたほそみが「ちょっと二人にしてくれない?」と俺に言うとやっとまさやは立ち上がった
俺たち二人は外でタバコを吸う、するとミカの行動を説明するかの様にまさやが話し出した
「ふとしさん、今日ミカの実家に結婚の挨拶に行ったんですがお義父さんに結婚するなら勝手にしろ、俺は認めないって怒らせてしまって」
やっぱりそうだったんだ、でも何でだろう?
「何で怒らせてしまったか聞いていい?」
失礼かと思ったがここは聞くべきだと思った
「実は出来婚なんですよ、それ言った途端お義父さん怒って出て行ってしまって」
何?出来婚!だからミカは太っていてコーヒー飲んでなかったのか
しかし、ミカが出来婚とは意外過ぎる出来婚だけはしたく無いと言っていたのに
聞いたからにはこっちも話さなくてはと思い俺も反対された事をまさやに話した
「えっ!まじですか?ミカがふとしさん達は結婚するのに何の障害もないって言ってたから、どうしてなんですか?」
俺自信が障害になっている事、ほそみが押し切って籍を入れようとしている事を話すとまさやもかける言葉がないらしく黙りこんでしまった
そんな時に俺の携帯にほそみから戻って来ていいよとメールが来た
俺はまさやに戻りますかとポンっと肩を叩き「お互い頑張ろう」と声をかけ部屋へ戻って行った
部屋に戻るとミカはもう部屋を出る準備をしていた、ほそみとの話は気になるが多分ほそみも反対された事を言っただろう
ほそみが二人を駅まで送っていこうと言い出した、いつもの俺なら心の中で舌打ちしたが、俺はミカが身籠っている事を知った後だったので快諾した
二人を少し離れた大きな駅まで送っていく、車中では誰も何も話さない、ただ福山の声だけが車内には響いていた
改札でトイレに行くふりをして急いで買って来たお土産を渡す、ミカには身体大事になと言ってたんぽぽコーヒーをあげた
少しミカの顔が明るくなった気がした
2人は土産のお礼を言うと東北へ帰って行った
見送りを終えたほそみが
「よし!ジャージと運動靴買いに行こう!」と言った
俺が「運動でもすんの?」と言うと
またほそみはフっと鼻で笑った、俺は我慢出来ずにほそみに言った
「さっきから何なんだよ、俺の事をバカにしてんの?」
ふー、今度は溜息だった
「誰かさんは結婚認めてもらう為に痩せるんじゃなかった?自分で言って忘れるならバカかもね」
しまった、俺は忘れてた
萩の月の時もほそみはやっぱりねって思ってたんだ
ほそみが続ける
「男は何でそうなんだろう、まさやさんもミカにタバコやめるって言って2時間でまた吸ったって」
「口だけの男についていけると思う?」
と冷たく言い残すとほそみはさっさっと一人で駐車場に歩き出した
俺は今迄ほそみが離れて行く事なんて考えた事がなかったが初めてその時意識した
ほそみがジャージを選んでいる、俺は何もせずに突っ立てる
これなんか好きなんじゃない?と言いながら一生懸命背伸びして俺にジャージを合わせている
ほそみは俺の事をよくわかっている、何も言わなくても俺の選ぶものと同じ物を持ってくる
ほそみはこれでいい?と言うと迷わずレジに向かう
そういえば好きな人の服を選ぶ程楽しい事は無いと言ってここ何年かはほそみが俺の服買ってくれてる
ほそみはどうして俺に甘いんだろう、そういえば俺がほそみに惚れられてるという自信は何処から来てるんだろう
冷たい表情を見せたほそみに俺は揺れていた
買い物を済ませ部屋に戻るとほそみはご飯作るから買ったやつ着て歩いてくれば?と言う
俺は正直疲れていたが渋々30分くらい歩いて部屋に戻った
するとテーブルにはいつものメニューがのったお盆と見慣れない魚や野菜中心のメニューがのったお盆が置いてあった
ほそみはテーブルに座っている、俺もテーブルに座り向かい合うとほそみは聞かせて欲しい事があると言い話し出す
「ふとしはこっちのお盆みたいな食事をこれからずっと出来るの?運動も毎日出来る?」
「出来る、俺は自分で言わない事はしないけど言った事は今迄やり遂げてきた」
あまり褒められた事じゃないなと言った後に気付いた
「俺もいつ死んでもおかしくない体が怖い、死んだらほそみと一緒にいられないから
ほそみと少しでも長くいられるなら何でも出来るよ」俺の正直な気持ちだった
ほそみが真剣な目をした
「そこまで言うのならふとし、子供作ろう」
俺の気持ちにほそみは応えようとしてる、俺も覚悟を決めなくては
ほそみはよし!ご飯食べようと言っていつものメニューのお盆を俺の前に置いた
「今日だけだよ、どっちにしても私はこんなに食べれないから」
と俺のお腹を撫でながら言う、ほそみはよく俺の腹と会話する、妊婦さんのお腹の中の子供に話しかけるように
食事中ずっと考えていた、ほそみが心配なお義父さん
お義父さんに悪いけど俺はほそみを失いたくない、俺は天に任せる事にした
風呂に入り、ほそみを居間に呼び隣に座らせる
「みーちゃん、今日から俺は避妊しない、もし子供が出来たのが分かったら今から書く婚姻届出そう」
婚姻届をテーブルに置く、ほそみはギュっと手を握ってきた
「俺が痩せたらその時はもう一度お義父さんに賛成出来るか許してもらえるかどっちになるか分からないけど聞きに行こう」
ほそみは浮かれて何も聞いていない子供の様にうんうんと首を縦に振り今迄でいちばんの笑顔で飾ってある桜の写真を見つめていた
いつもより1時間早く起き体重を計る、朝飯前に30分歩く事にした
歩いて帰るとほそみがおかえり、私も歩こうかなと言っている
ほそみは昔から体型が全然変わらない、甘いもの以外は俺と同じ物を食べているのだが量が少ないしゆっくり食べる
朝ご飯が出てくる、今迄朝は菓子パン2個とカフェオレとプリンだったが今日からは牛乳、目玉焼き、サラダ、鮭の切り身、味噌汁、ご飯だ
こんなに食べていいの?とほそみに聞くと菓子パンのカロリーの半分くらいしか無いらしい
ほそみと一緒に仕事に行くほそみとは職場が近くいつも行きは送っていくのだ
ほそみが明日からお昼はお弁当にするから帰りにスーパーで待ち合わせようと言って職場へ行った
昼は食堂でヘルシーメニューというのがある事に気付き恥ずかしかったがそれを食べた
いつもカツ丼とうどんだったので足りるか心配だったがヘルシーメニューも意外と美味しく満足した
15時の休憩、今日は菓子パンを我慢した
変わりに魚肉ソーセージを食べた
定時頃腹が減ってどうしようも無い、なんか脱力感がある、なんとか乗り切りスーパーに向かう
いつもならたい焼き屋に直行だが今日はほそみを探す、その時俺の携帯に意外な人から着信があった
着信はお義母さんからだった
「ふとちゃん、今ふとちゃん家の近くまで来てて、ほそみのいない所で話出来る?」
「うん、大丈夫だけど 今から帰ったら歩きに出るから 喫茶店で待ってて」
「ふとちゃん歩いてるの?珍しいフフフ」
「俺もままさんに聞いて欲しい事あるから」
「はーい、気をつけてね」
お義母さんはいつも通り明るかった、俺はほそみと合流してほそみにお義母さんから電話があった事を話す、ほそみは不満そうだ
歩いて喫茶店に行く、お義母さんはケーキを食べていた
「ふとちゃんもどう?」
「いや、減量始めたからアイスコーヒーだけでいいや」
「始めたんだね、ふとちゃんあの人の事怒ってる?」
「怒ってるわけ無いよ、親として当然だと思う、ままさんにも悪いなって思ってる」
「ふとちゃんの事、あの人は本気で心配してるのよ、あの人の同僚の息子さんがふとちゃん位大きくて先月急に亡くなったの、朝起きて来ないから起こしにいったら冷たくなってたって、なんの病気にもなってない健康な体でまだ22歳だったの」
俺はその話を聞いてタバコに火をつけるのをやめた
「私もふとちゃんには長く健康でいてもらわなきゃ困るんだから、ふとちゃんだからほそみがあんな事言って出て行っても安心していられるんだからね」
そう言われると天に任せる計画を話しづらい
でも俺はもう覚悟は出来ている
ままさんに俺がほそみと子供を作ろうとしている事、子供が出来たら入籍しようとしている事を話した
「ふとちゃん、それはナイスな考えよ、ほそみももう若く無いんだし」
俺は怒られると思っていたから拍子抜けした
「結局、私もあの人もほそみの相手はふとちゃんしかいないのわかってるから なる様になるわよ、ふとちゃん子供出来たら真っ先に知らせてね」
「うん、もちろん ほそみに会って行けば?さっきの話を聞いたらほそみも喜ぶよ」
ままさんは首を横に振る
「ほそみは一度言ったら聞かない子だから、まだ会うのは早いかな、あの人にも怒られそうだし」
「ふとちゃん、ダイエット頑張ってね でもふとちゃん痩せたらほそみが心配するわね、フフフ」
そう言うとお義母さんはテーブルの下から俺にお金を渡し、お釣りでほそみにお土産買って行きなさいと言って帰って行った
俺は足取り軽くお義母さんが食べていたケーキと同じ物をほそみのお土産に選んで部屋に戻った
部屋に戻り、ほそみにお土産を渡す
お義母さんとの一部始終を話すとそっかそっかと満足そうだった
夕食は健康的だった大好きなサンマがあったので満足した、食後のコーヒーを飲んでいる時にお義母さんが俺が痩せたらほそみが心配するって笑いながら言ってたよと言うとほそみはムっとして俺の前でわざと美味しそうにケーキを食べ始めた
ほそみは浮気とかあり得なくても想像して腹を立てるのだ、こういう話題は禁句だった
俺はいつも心配してるよと心の中で呟く、声に出せば信用して無いんだと又腹を立てるに違い無い、俺は風呂に逃げる
ほそみに言われた通り今日から40分入る
頭を洗っているとほそみが入って来た
ほそみが風呂に入って来る時に俺はいつも髪を洗っている、ほそみはこんな俺にも恥じらってくれてるんだなといつも嬉しくなる
ほそみは湯船に入ると寒そうだ、俺が先に入る時は湯船に少しのお湯しか入っていない、普通に湯を張れば入ると殆ど溢れてしまう
俺が入ると湯の高さは肩まで来る、ほそみは経済的だと笑った
経済的で思い出した、ほそみに言っておこう
「ほそみ、俺の給料全部管理してくれない?
買い食い出来るお金持ってると食べちゃうから、これからはタバコと弁当と水筒持って行くよ」
「いいけど、ふとし極端なんだから、緊急用に少しは持っておいてよね、アレも無くなると淋しいから」
アレとはほそみにサプライズを俺が気が向いた時に行う事だ、大概俺が仕事で辛い時にほそみの笑顔で癒されたくてやっている
「みーちゃん、子供出来たら体を1番に考えて仕事早めに休んで欲しい、お金の事は気にせずに二人で貯めた結婚資金使っていいから」
「あれは使えないよ、産休あるし、大丈夫だよ」
ほそみが俺に甘えないのは訳がある
頼れる親族が一人も居ない俺が貯金がないと不安になる事を知っているからだ
「みーちゃん、大丈夫だよ 俺もう貯金無くても不安じゃないから みーちゃんに使って欲しい」
「ありがと、もう家族になるんだもんね、わかった」
ほそみが手を握る幸せに浸っているのだろう、俺が動こうとするともうちょっとと言って離さない
俺は余りに長時間風呂に入ったせいでぶっ倒れそうだった
土曜日の朝6時やっと週末だ、今日は週一回の何でも食べていい日らしい
ダイエットを始めて6日、体重は月曜日にしか計らないからわからないがすこぶる体調が良い、朝起きると頭痛はしないし何と言ってもお腹が空になってる感覚がある
ご飯がまた美味しい、何でも食べていた時にはなかった感覚だった
ほそみを起こす、週末は一緒に歩く事にした
歩きながら朝ご飯は何にしようとほそみに話しているとほそみが声を掛けられた
あっ!いつも朝俺の事を見てくる人だ
「ほそみだよね?」ほそみはジッとそのジョギングウェアの女を見る
「あっ!ユウ?」
俺は来るぞ、来るぞ女性特有のテンションマックスな再会が、と冷ややかな目で眺めていた
「わー!久しぶり!」「元気にしてた?」
出た、8割方この言葉である
朝から耳がキーンとする
「あれ?ふとしくん?」
俺はこんな女の子は知らない、記憶力はいい方だし会った事ある人は忘れない自信がある
ほそみが言う「そうだよ、ふとし」
「ほそみと中学迄一緒だったユウです、私は
ふとし君の事知ってるんだよ。柔道やってたから」
俺は高校の時に柔道をやっていて県の代表だった、そういう事か、でも柔道やってる女性には見えないな
二人は話し込んでいる、ヤバいこのままではご飯食べた?と絶対どちらかが言う、すると朝ご飯食べに行こう!って事になる
ほそみはそういう時に俺を絶対に自由にさせない
「ほそみご飯食べに行かない?」出た!
「うん、ふとしも行くよね?」終わった
「じゃあ、部屋に戻って車とってくるよ、この時間だとこの近く開いてないから」
「それならみんなで歩いて行こう、ふとしくんの家迄」
マンションに着く、一人で鍵を取りに行こうとするとユウがトイレを貸して欲しいと言ってついてきた、ほそみは猫と戯れていた
エレベーターでユウが話しかけてくる
「うちも近いよ、こんな近くだったんだね、ふとしくん、私の事覚えてない?」
?覚えてない?何か接点があるのか?柔道関係者なら合同練習とかで会ったのかな?
「ごめん、柔道やってる頃は必死だったから会場とか練習位なら覚えてない」
「そうだよね、ふとしくんの学校厳しかったもんね、ほそみとふとしくんが付き合ってるのバレた時も大変だったって聞いたよ」
なんか変わった子だなユウってなんでそんなにこだわるんだろう
部屋の外でユウを待つ、ほそみが上がって来た
「ユウさんって名字と高校は?」
「高橋、〇〇学園」
高橋、学園、女子柔道、あ!え!でも?
「そうだよ、今は痩せてるよ、別人みたい」
高橋ユウ、俺と同じ重量級代表だった、覚えている、当時に比べ50kgは減っている
同じ代表で宿泊所なんかでお菓子くれたりしたなぁ、道着を洗ってくれた事もあった
ユウが出てくる、ほそみと歩いている後姿を見て 頑張ったな高橋、どこからどう見ても普通の女性より締まったカッコいい女性だぞと何故か上から目線の感想を心で呟く
ふと思った、ユウは痩せて今は何を思うのだろうか、どんな事が変わったのだろう、今まで受けてきた惨めな思いを受けなくて済んだ時、痩せて良かったと思うのかやっぱり人は外見で判断するんだと嘆くのか
俺はユウに興味を持ち始めた
朝食はおしゃれコーヒーチェーン店にした、俺は不満だった。
せっかくの何でも食べていい日にこんな店に行くとは、おしゃれな店に行くのがおしゃれな感覚の奴らが居るのが気に食わない、俺は味で勝負しない飲食店が流行ってるのが大嫌いだ、外見で判断する奴らを思い出す
ユウはサラダとコーヒーか、ほそみは生クリームが浮いた不気味な飲み物、変なケーキ、俺は頼むものが無い!取り敢えずアイスコーヒーだ、朝飯は後で一人で王将でも行こう!
二人を席に着かせ出来上がりを待つ
遠目で二人を見るとカッコいい二人だ、ジョギングウェアを着ていてもおしゃれな店内にマッチしている
そんな中に俺が入るとどうだ、場違いである、俺がおしゃれな店が嫌いなのは味なんかではなく自分が浮くからなんじゃ無いだろうか、俺こそおしゃれな店にはおしゃれな奴しか居てはいけないと外見で判断してる奴そのものだ
そんな暗い俺にほそみが駆け寄って来た
「ふとし、ゴメンね、お昼何処か行こう」
「あ、あ違う違う、俺もユウさんにダイエットの話を聞きたいから丁度良かった、昼はほそみのスパゲッティでいいよ」
「で?」
しまった、でとがでは大違いなんだった
俺はわざと大きな声で
「ほそみのスパゲッティがいい」と言う
ほそみは周りを見渡し恥ずかしがる
俺はそれを見て笑う、そんな俺たちをユウが何とも言えない表情で離れた席から見ていた
高橋がいる席に行くと直ぐに今で言う女子会がスタートした
こんな時、部外者の男は話を聞いているふりをしてボーっとするしかない、特に相手がミカの時は酷く二時間、三時間は当たり前で俺はいつも不機嫌になる、だが今回は違った、俺に高橋が話を振ってくるのだ
俺にはわかっていた、高橋、太っていた時の癖で周りを気にするんだよな、いつも人の目を気にし気を使う 公共機関の座席に座れば隣の人に窮屈な思いをさせるんじゃ無いかと思い、座れない 無意識に周りを見ているからみんなが気づかない事にも気付く 笑われてるとかその人がどう思っているとか そんな洞察力が役に立つ事もある、先輩には気が利くやつと言われ後輩にはちゃんと見ていてくれる先輩、女性には優しい人と思われる
只、周りを気にし過ぎてネガティヴな思考が邪魔をして行動が萎縮してしまい自分を出せないのだ、自意識過剰とでもいうのか
高橋、俺には気を遣わなくていいんだよ、俺も同じだからとまたダイエット成功者の違う世界にいる高橋に何故か上から目線である
高橋が俺が柔道やっている女子から人気があったと言い出した、ほそみがその話題に喰いついている、放っておこう、何を言ってもムっとされるに決まっている
俺は柔道やってる女性を女として見た事が無い、それは俺の性格だろう、何か失礼だと思ってしまう、手を抜く事もした事が無い、相手が女性でも道着を着れば一本取る事しか頭に無い 、同志としか思えない
逆にそこが良かったのかも知れない、女性の受け止め方はファンタジスタだ
高橋が言う、ふとし君は女子でも本気で練習してくれたから、手を抜かれると悲しくなるんだよね
分かってくれてありがとう高橋、でも今の高橋とは練習出来ないよ
「そういえば高橋、いやユウさん今はどこで働いているの?」
「高橋でいいよ、さん付けはキモい、今は栄養士だよ、〇〇高校で女子柔道のコーチもしてる」
「頑張ってるね、随分痩せたけど高橋は痩せるのどれ位かかった?」
「三年位かな、ゆっくりやったから」
俺は絶望した、そんなにかかるのか
「でも、ちゃんと合理的にやればそんなにかからないかも、でも健康になる為に痩せるのにそれで体壊したら意味無いからゆっくりやった方がいいよ」
高橋、お前は簡単に言うけど俺には時間が無いんだよ、でも最もだ長生きする為にやせるんだから健康第一だな、容姿に囚われるのはおかしい
俺は部屋に戻って昼飯のスパゲッティを食べていた、粉チーズはかけなかった
ほそみは高橋の事を凄いねっ、ふとしが痩せたらどうなるのかな?想像出来ないね、なんか楽しくなってきたと言っている
俺は帰り際に高橋が言ってた言葉が気になっていた
「でも、たまにガラスとかに映った自分見ると誰だこの人って思うんだよね、自分の中では太ったまんまの惨めな私なんだよね」
どういう事だろう、素直に痩せた事を喜べないのか?今度、会ったら聞いてみよう
そういえば俺は大事な何かを忘れている、思い出せない
ほそみが何か言いたそうだ、何だ?
ほそみは俺に言いにくい事があると俺の周りをウロウロする
こういう時は優しく聞くに限る
「どうした?みーちゃん?」
「下着買いたいの、ちょっと高いやつ」
思い出した!ほそみが珍しく下着のカタログ見てたから何回も見てたページの下着をこっそり頼んでおいたのが今日届くんだった
「買っていいよ」
今回はいい笑顔が見れそうだ
「ありがと、もう一つ、婚姻届が無いの」
ここで気にするなよという意味でもなーんだそんな事かぁと言ってはいけない
この10年で鍛えられている、こんな時の正解は一つだけだ
「ほそみが婚姻届を最後見たのはいつ頃?」
真剣に一緒に探すのだ、俺は探し物が得意だ、というか得意になった
ほそみはすぐ物を隠すのに忘れるのだ
「3日前かな?テーブルで見てた様な」
まずは見える部分を探す、次は物に隠れていないか探す、次は引き出し、タンスの中、見つからない、薬箱の中、お盆の下、傘の中まで全部探したが無かった、もう19時過ぎだ
俺はまた書けばいいよと言ったがほそみはじゃあ一人で探すからと言う、ちょっと休憩しようとコーヒーをいれてほそみに渡した、インターホンが鳴る、宅急便だ
日本の物流最高!と心の中で呟きながら玄関へ行く、荷物を受け取り風呂場で箱を開けラッピングされた中身だけを後ろ手で持ちながらほそみの側へ行き下着のカタログを渡す「ほそみはどれ買いたいの?」と言うと
ほそみが内緒と言ってパラパラとめくると俺が買った下着のページがあっさりと開く、ページには婚姻届が挟まっていた、思い出した!ほそみが見ていたページを忘れない様にしおり代わりにしてたんだ!
注文した後、ほそみが風呂から上がってきたから急いで閉じたんだ
忘れていた大事な事はこれだった
犯人は俺だ!
減量をはじめて1ヶ月経った、体重は16kg減っていた、144kgだ
週に一回だけ好きな物を食べる、運動は朝と夜に歩くだけだった
痩せた実感はないが体調は良い、歩くスピードも距離も増えていた
今日はミカとマサヤ、高橋がやってくる
ミカと高橋も同じ中学だから久しぶりに会いたいらしい、ほそみと高橋はあれ以来連絡を取り合っているみたいだ
ミカとマサヤはまた実家に行って来るのだろう
ほそみは朝から忙しくしている、オーブンでシフォンケーキを焼いたが2回失敗したらしい、それでも笑いながらやるのがほそみの良いところだ
ふとし時間だよ、お寿司取りに行って
帰りに迎えに行って来て
もうこんな時間かぁ、日曜は時間早いな
回転寿司屋で寿司を取りミカとマサヤを乗せる、なんか今日は幸せオーラが凄い
ミカの指に光っている物を見た時、俺は心の中で祝福した
次は高橋だ、マンションの前で待っている高橋が見えた時、俺は一瞬目を奪われた、白のシンプルな服装が高橋のスラリと引き締まった体を引き立てていて凛としたカラーの花の様な美しさを感じた、これまでほそみ以外に感じた事のない感覚だった
高橋が乗り込むとテンションマックスな再会だが今日は耳に入らない
俺はこの時少しでも早くほそみに会いたかった、高橋に感じたカラーの様な凛とした美しさをほそみの桜の様な艶やかな美しさで拭い去って欲しかった
マンションに着くと酒を買い忘れたと言って三人に先に部屋へ行って貰う、寿司はマサヤが持って行ってくれた
俺は車から降りてタバコを1本吸いながら我ながら情けない気持ちになっていた
ほそみ以外にこんな感覚を持った自分が恥ずかしかった、なんか思いっきりビンタして貰いたい気分だ、ほそみに電話した
「ほそみ、酒代足りなさそうだから持って来て」
俺はほそみにすぐ分かる嘘をつく、俺はここ3週間位買い食いしてしまわない様に小遣いは持ってないがさっきほそみから預かった寿司代のお釣りで酒を買うには問題無い
「うん、、、ついて行こうか?」
「うん、ついてきて」
ほそみが降りてきた、俺は車の中からごめんごめんと申し訳なさそうな顔をする
車をスーパーに走らせる
「ほそみ、ミカの指見た?」
「うん!光ってたね〜」
「って事は結納済ませたのかな?」
「わかんないけど、OKもらったって」
「式、急ぐだろうね、お腹の事もあるだろうし、お祝いしてあげよっか」
「しよう、しよう、盛り上げよう!」
ほそみは俺の様子が変だなと思っているのだろう、いつもより明るく振る舞っている
スーパーに着くと俺からほそみと手を繋いだ、ほそみはかなり驚いている
俺は明るい場所では手を繋ぐなんて恥ずかしくて今迄やってあげた事が無い
ほそみが腕を組ん出もいつの間にか俺は抜け出す、最後には俺の服を掴む事になっている、忍術みたいだとほそみはいつも言う
今日だけはちゃんと手を繋ぎたかった、そうしなければいけない気がした
ほそみの小さな左手は俺の大きな手にすっぽり収まる
ほそみが言っていた事を思い出す、昔ギリシャでは心臓の中心に愛があり、左手に心臓まで繋がる太い血管があると信じられていたから左手の薬指に指輪をはめて永遠の愛を誓うって
ほそみの薬指を指で撫でてみる、くすぐったいのかケラケラ笑い出す、それを見て俺も自然と笑いが込み上げてくる
ほそみの手には乾いたケーキの生地が貼り付いていた、俺には分かった急いで降りてきてくれた事がその手には俺への愛だけがあった
買い物を終えて駐車場の車へ戻る、繋いだ手を離す前にほそみにやってほしい事があった
「みーちゃん、俺の左手の薬指噛んでくれ」
ほそみは何か勘付いた様だったが何も言わずにチュッと俺の左手の薬指にキスをした
その瞬間、俺の心から凛とした美しさは消え去り、桜色の鍵がかかった
部屋に戻るとテーブルには綺麗にお寿司やグラスがセットされており、ミカと高橋はソファで話し込んでいる、マサヤは暇そうにベランダから外を眺め、俺に気付くと嬉しそうにお土産のずんだ餅と牛タンを見せ微笑む
ほそみがみんなをテーブルへ呼ぶ、まずはミカとマサヤに報告をして貰う、ミカは笑顔で泣き出す、女子二人はもらい泣き、俺とマサヤはそんな女子を見て微笑み合い、「俺も直ぐに続くから」と言って握手をした
乾杯の前にほそみがフィルムカメラで写真を撮る、記念日の恒例行事だ
みんなでお寿司を食べ、高橋が持って来たワインを飲む、みんな幸せそうだ、女子達は中学生に戻ったみたいにはしゃぎ、俺とマサヤはそれを見て笑う
ほそみのシフォンケーキとお土産のずんだ餅を食べている時にミカがほそみの写真で結婚式で使えるものないかな?と言い出した
ヤバい、ほそみのアルバムには俺のプライバシーが満載である、このままではマサヤと高橋にも晒されてしまう
「うん、後で2、3枚選んで送るよ」と言った
ほそみはアルバムを持って来ると思ったが助かった
ミカは高橋に「ユウ、彼氏は?」と言った
そういえば、高橋は男関係はどうなってるんだろう?今の高橋ならモテるだろう、立派なクールビューティだし
高橋は「いない、いない、私今迄彼氏出来た事がないから」と言うと
マサヤが「え!意外ですね」と驚く
高橋は「ずっと太ってたし、それにずっと…」なんか困っている
高橋、大丈夫、今の君ならすぐに出来る
でも最後のずっとは何と言おうとしたんだろう?
ほそみが「でもユウ凄いよね、こんなに綺麗に痩せるなんて」と話題を変えた、気が利く
「大変だったよ、最初は楽に減るけど途中から何やっても減らない時期とかあったし」
え!そうなの?そんなの地獄じゃん
「減らない時期はキツイけど、絶対来るからそこで気持ち切れないように頑張った、普通の店で服買えるようになった時は嬉しくて泣けたなぁ」と感慨深く言った
ミカとマサヤが帰る時間になる、俺もほそみも飲んでいるのでタクシーを呼ぶ
帰る間際、俺はほそみに頼まれ女子三人だけの写真を撮った
二人をタクシーまで見送り、部屋へ戻る
「じゃあ、私もそろそろ」と高橋が帰ろうとすると「ユウ、まだ時間ある?色々聞きたいことがあって」とほそみが高橋を呼び止めた
「大丈夫だよ、帰ってもやる事ないし」
高橋は呼び止められて嬉しそうだ
そういえば、ほそみと高橋ってどの位の仲なんだろう?
高校の時に聞いた事無いし、ほそみから高橋の事
それに話って何だろう、酔っ払うと推理力が低下する、わからん
「良かった、ちょっと片付けるね」
「ほそみ、手伝うよ」
そう言って二人はテーブルへ向かう
一人だけソファで休んでるのが後ろめたいのでゆっくりと立ち上がろうとすると期待通りに二人から「座ってていいよ」と言われソファで目を閉じて考え事をしていた
みんなに祝福されて結婚式を挙げるミカを見てほそみは今の境遇をどう思うのだろうか?
両親への手紙を読むミカを見て何と思うのだろう?ほそみに俺のせいで消えない大きな心の傷を付けてしまうのでは無いか
自問自答を繰り返すが答えは出ない
ブランケットが俺に掛けられ俺は目を開ける、ほそみが「考え事?」と笑顔で言う、「そう、寝てない」と聞かれてもいない事に答える、いつものソファでのやりとりだ
「お茶入ったよ、こっちで飲んでいい?」
「うん、お疲れさん、夕飯俺が作ろうか?」
「え!いいの?今日優しいね」
俺は色々とほそみに申し訳ない気持ちで一杯で取り敢えず何かしてあげたかった
「何作ろうかな?高橋も食べて行けよ、歩きで良ければ送っていくし」
「ふとし君って料理作れるの?意外なんだけど、ご馳走になろうかな」
高橋はやけに嬉しそうだ、帰って一人で御飯食べるのも寂しいのだろう
「ユウ、話ってね」
「ふとしが食べてるカロリーがこれ位で…」
ほそみが俺の食事のカロリーや運動量、体重の推移などを高橋に話し出した
「ほそみよく調べたね、問題無いと思うよ」
高橋がほそみを褒めると照れている、そうか高橋は栄養士だった
健康的な夕食を俺が作っている時も高橋は色々な事をほそみに教えてくれた、ほそみは熱心にメモを取っていた
夕食を食べてゆっくりしているとほそみはいつの間にかソファーに座りながら寝てしまっていた
朝早くから動いていたので疲れていたのだろう、俺はほそみにブランケットを掛け、流しで食器を洗いだした、高橋が手伝うと言って俺が洗った食器を拭きながらこう言った
「ふとし君、本当に痩せる気あるなら自分でもっと勉強しなきゃ駄目だよ!ほそみが痩せるんじゃないんだから」
高橋は本気で俺に怒っていた、俺の甘えが高橋にも伝わっていた
「ふとし君、痩せるのって大変だよ、痩せてからも好きな物食べれるわけじゃ無いし」
そう言った高橋は何だか元気が無かった
食器の片付けも終わり、ソファーへ戻るとほそみはまだ寝ていた
高橋は「じゃあ、帰るね」と一人で帰ろうとする
俺は「ちょっと待って」と言ってジャージに着替えて歩くついでに送っていく事にした
俺はどんな女性でも暗くなると送っていく、ほそみも知っているから問題無いと考えていた
送って行く途中、俺は高橋に色々と話を聞いてもらった、何故か高橋には話し易いし注意をされても素直に聞ける、自然体になれる
マンションの前に着く
「もう着いた」と言ってフーっと高橋が溜息をつく
なんか寂しそうだ、誰も居ない暗い部屋に戻るのは寂しいのだろうと俺は思っていた
「ふとし君、ちょっと待ってて」
そう言うと高橋は部屋から紙袋を持って来た
「これ、ほそみと一緒に読んで、ためになる事書いてあるから」と言って本が入った紙袋をくれた
「ありがとう!頑張るよ」
「今日は御馳走様、応援してるよ、またね、ふとし君」
俺は初めての異性の友達に大きく手を振って帰っていった
部屋に戻るとほそみはまだソファーで寝ていた
座ったまま寝ているので首が痛そうだ、抱え込んで横に寝せる、俺は床に座ってソファーに向かいほそみの髪を撫でる、至福の時だ
その時、ほそみの携帯が鳴る、ほそみが起きてしまった
ミカが無事到着のメールを送ってきたのだ
ほそみが横になったままメールを確認して携帯を俺に見せる、そこにはふとしにも式に出て欲しいと書いてあった
ほそみは背伸びをしながら髪を撫でている俺の手を払う
「ユウは?帰った?」
「うん、歩くついでに送って行った」
「えー!二人っきりで?優しい〜」
と俺の今の精神状態とは真逆の反応だ
「ねぇ、ユウってふとしのタイプだよね」
ほそみは寝起きが悪い、本心が出てしまう
「切れ長の鋭い目をしてて、背が高くて、黒髪のロング、ぴったしじゃん」
よくご存知で、俺の目の前にもいるよ
「普通、起こすよね?何でそういう事するかなぁ?」
「何にも心配要らないよ、俺は寝てるみーちゃんの髪撫でている時が一番幸せだから」
「ふとし、、、浮気したらぶっ殺す!」
そう言うとほそみは俺の左手の薬指を思いっきり噛んだ、俺が本当に折れたと思う位
減量を始めて4ヶ月が経っていた、体重はあっさり30kg減り130kgだった
高橋に貰った本に書いてあった通りに歩き、食事も基礎代謝よりカロリーを減らす事をせず、バランスよい食事を心掛けた
この頃になると会社でも痩せたね?病気?と言われるようになり、俺はどんどん減っていく体重と周囲の反応に喜びを感じる様になり、最近は週一の何でも食べていい日もメニューを変えなくなっていた
今日は日曜日、来週はミカの結婚式が行われる為、朝からほそみは準備をしている
昼食を食べているとテレビでは新婚さんのトーク番組が流れていた、俺は製作者側からの指導であろうわざとらしい方言の使い方と司会者に対する物言いに呆れている、ほそみは楽しそうに見ている、最後に旅行を賭けてゲームする、ほそみがいいなぁヨーロッパと言う
次は俺の好きなクイズ番組だ、俺は勝負所での解答者に対する司会者のぼやきと旅行をかけた最終問題の難易度のムラが好きでよく見ている、ほそみはとてもつまらなさそうだ
解答者が旅行を獲得した、ほそみはまたいいなぁ、地中海、国内でもいいなぁと言った
松島クルーズなら来週行けるよと言ったが無視された
俺はほそみが言いたい事はよく分かっていた
社会人になってからは年に2、3回はほそみと旅行へ行っていた、だがここ10ヶ月程何処にも連れて行っていない
行っていない理由はある、結婚に反対されるなど思っていなかった俺は旅行を我慢しておいて新婚旅行で海外へ行くつもりだった
「仙台は行って帰ってくるだけだもんね」
来週の仙台は旅行に入らないからとほそみは言いたいのだろう
「そういえば、ダイエット始めてから食費凄く安いんだよ、始める前に比べて月4万は浮いてる」
いかに以前の食費が異常値だったか分かる、俺の買い食い分、偏頭痛の病院代も合わせればかなりの額が毎月浮いてる、ダイエットは経済的だ!というのをほそみは言いたいわけではない、日頃の労をねぎらい早く旅行に連れて行けと言っているのだ
何処が良いだろう?ほそみは何処に行きたがってるんだろうと考えていた
ほそみは結婚式に着て行く服を合わせている、珍しく俺を呼び婚約指輪代わりの真珠のネックレスを俺に渡し「付けて」と言った
変だ、俺が触ると壊れそうと言って最初に渡した時以来手伝わせてくれなかったのに
俺は何か試されている、ほそみは俺に何を伝えようとしてるのだろう?
今日は朝一に新幹線で仙台へ向かう、友達想いのほそみ達は前日のホテルをミカの負担になるという理由で当日行く事にしたのだ
俺は二人で前日にビジネスホテルにでも泊まろうと提案したがほそみに却下された
俺はほそみ達と離れた場所で新幹線を待っている、会った事のない何人ものほそみの友達に挨拶するのが嫌になったのだ
高橋がこっちに向かってくる、黒いドレスを着て007に出て来そうな格好の良さだ、高橋も旧友に痩せた事を説明するのが面倒になったのだろう、まだ朝の6時だし
「高橋、似合ってるね」
「そうかな?こんなの着た事無かったから恥ずかしくて」
「自信持って、高橋は綺麗だよ」
友達への応援だった、いつもは心の中で呟く言葉を声に出してしまっていた、しまった!と後悔する
高橋はもう昔の高橋ではない、俺みたいな男に上から目線で物を言われるのは太っていた頃の自分を知られてるだけに屈辱だろうと思ったが、高橋の反応は違った
「ありがとう、嬉しい、戻るね」
と言って戻って行く
危なかった、俺は高橋に対して自然体になり過ぎだ、いつか傷付ける様な事を口走ってしまうかもしれないと反省していた
発車ギリギリになって新幹線に乗り込むと俺は真っ先に喫煙所へ入る、ここで仙台まで過ごすのだ、新幹線の座席は狭すぎる、隣に気を使うなら俺は立っていた方が気が楽だ
しかしダイエットしていると暇でやる事が無い
いつもならアーモンドチョコとじゃがりこを頬張って暇を潰せるのだがタバコ吸ってブラックコーヒーを飲むのも限界がある、そんな時にほそみが喫煙所の外から俺を呼ぶ
「ふとし、ありがとね」
ほそみは何故か俺に礼を言い出した
「ミカってふとしにキツイ事ばかり言ってきたでしょ?何故だかわかる?」
「ほそみに甘えて苦労させてるから?」
「違うよ、自分に素直で正直な所が妬ましかったんだって、自分は出来ないから、でも東北行って一人で悩んだ時にふとしの事思い出して自分に素直に正直に生きてみたら救われたんだって」
お土産の萩の月が大きい箱だった理由が解明した
「三年振りに会った時に謝ろうと思ってたけどあんな事になって謝れなくて、ふとし自身が大変な時なのに自分の体の心配までしてくれた、ふとしの心の広さが身に沁みたって」
俺はそんないい奴ではない、自分自身を諦めていたんだ、無責任だったんだ、そんな俺でも誰かの役に立ってた事が今は素直に嬉しかった
結婚式は厳かな雰囲気で進んでいる
俺はほそみの事を式が始まる前から注意して見ている、俺はとても不安だ
ミカが俺を式に呼んだ理由が分かった気がした、ほそみの不安を取り除けるのは俺だけなんだ
今日のほそみはとても素敵だ、特に真珠のネックレスを付けているほそみは滅多にお目に掛かれないのでよく見ておこう
指輪の交換が行われている、ほそみが俺の指を握る、俺も同じ気持ちだ
無事に誓いのキスが終わりフラワーシャワーへ移動している時だった
「二人だけでも結婚式出来ないかな」
ほそみは素直な気持ちを小さな声でポツリとこぼした
俺は滅多にしない真剣な顔をして首を縦に振った、ほそみは今にも泣き出しそうだった
披露宴が始まる、新婦友人席には異様な光景が広がっていた
ドレスアップされた女性ばかりのテーブルに182cm130kgの大男が一人だけ座っている
その大男は隣の女性が残した料理まで平らげパンもおかわりしている、そう俺だ
最近、何でも食べていい日に食べていなかったせいか食べ出したら止まらなくなってしまった、ほそみ、高橋、テーブルのみんなが笑っている俺も幸せだ
友人代表のスピーチ、もちろんほそみだ
俺は緊張しているほそみの背中をさすって大丈夫だからと声を掛ける
昨日の夜遅くまで練習した甲斐があり完璧だった、がやっぱり泣いてしまった
ほそみが泣くとミカは号泣、マサヤも上を見ている、俺とほそみの事を知っているマサヤは思う所あったのだろう、人の事を思って泣ける素晴らしい男だ
気付けば高橋もテーブルのみんなが泣いていた、俺は一人頭の中で違う光景を思い描いていた
余興も終わり、照明が落ち新婦の両親への手紙が始まった
ほそみは手を固く固く握り締めて聞いていた
お義父さんお義母さんへの色々な思いが交錯しているのだろう、そんなほそみを隣で見ていると俺の頭の中にはまた違う光景が広がっている
手紙が終わり、拍手を送りながら俺は一つの決意を持った
俺は一人で仙台駅のステンドグラス前にいた
帰りの新幹線までまだ時間があったのでほそみ達はカフェで締めの女子会である
俺はカフェに行くとまた食べてしまいそうだからと言って待ち合わせの時間と場所を決め仙台での自由を得る
駅を一通り散策して待ち合わせ場所で暇を潰していた
暫くすると高橋がやって来た、引き出物とお土産、バックを持った高橋はじゃんけんで負けた帰り道の小学生みたいだ
「一杯買ったね、一人?」
「仙台出身の先輩に頼まれた物があって、ちょっと駅出て買ってきた」
「指痛そう、これに入れとけよ」
そう言って俺はポケットからポケッタブルのトートバッグを得意気に取り出す
「こんなのあるんだね、凄〜い」
俺はポケッタブルな物に凝っており、ほそみにはドラえもんみたいでウケると言われていた
俺はバッグを広げ高橋の持っていたお土産を入れた
「まだまだ入るね、便利、私が持つよ」
「大丈夫、食べ過ぎたから筋トレ」
「前もそうやって持ってくれたよね、食べ過ぎたは無かったけど筋トレだって」
「そうだった?力だけはあるから俺は苦にならないし、大変そうだったんじゃない?今みたいに」
高橋、俺は餅は餅屋的な考えの紳士なんだ
「ほそみ達見てくるね」
そう言って高橋はカフェの方向へ消える
ほそみがやって来た、一人だ
「高橋と会った?」
「うん、みんなといるよ」
「呼びに来てくれた?電話してくれればよかったのに」
「ふとしダイエットやめよう、披露宴の料理食べてるふとし見て思った、あんな風に私の料理食べてるふとしを毎日見るのが幸せなんだって、この4ヶ月見てきてふとしの気持ち分かったよ30kgで充分過ぎるよ」
俺はいきなりのほそみの提案に驚いた
ほそみは続ける
「結婚式二人で挙げるってみんなに話したらみんながやってくれるって」
ほそみはいい友達を持っている、俺にはそんな事を言ってくれる友達はいないだろう
でもそれだけでは駄目なんだ、ほそみには
「みーちゃんがミカにスピーチ読まれてみーちゃんがお義父さん、お義母さんに手紙を読むちゃんとしたみんなに祝福された結婚式挙げてみせる、6ヶ月だけ俺にくれ」
ほそみは真剣な目でこう言った
「あげる、私はふとしが桜の樹の下で寝てた時から一生あげてるから」
ミカの結婚式の次の日の朝、俺は体重計に乗って目を疑っていた
昨日あんなに食べたのに体重が増えていなかった、俺は助かったのに腑に落ちなかった
今日はいつもより早く起きた、今日から更に歩く時間を増やすのだ
1時間半を時速7kmでぎりぎり歩いた、少しだけ走ってみたが500mも走れなかった
酸欠状態でふくらはぎもパンパンだ
部屋に戻るとほそみが朝ごはんを作っていた、シャワーを浴びながら最近の俺が美味しそうにごはん食べて無かったのかな?と考えた、ダイエットを始める前より今はとにかく何でも美味い、毎日が沢庵和尚にたくあんとごはん喰わされた金持ち状態なのだが
風呂からあがるとほそみはシチューを食べていた、珍しいなと思って見ていると
「冷え性だと赤ちゃん出来にくくなるんだって」
「そうなんだ、今月も来た?」
「うん、でもこればっかりはねぇ」
ほそみと子作りを始めて4ヶ月、未だに朗報は届かない、俺は思い当たる節があった
自分のへその右下にある手術痕が気になっていた、6歳の頃手術したのだが何の病気だったか病院名も分からない、俺は両親の離婚後に12で祖母に養子に出され4年前の祖母の葬儀で母親に会ったきりだ、両親共に新しい家庭を持ち子供がいる事も知っている
しかし聞くしかない、恨んだりした事もあったが今はそんな感情は無いし他人だと思っている
夜、電話してみるか
そういえばお義母さんから誤字だらけの返信メール来てたな、ほそみに言っておかなきゃ
「今日、仕事終わってお義母さんに会いに行くから」
「また?お義母さん何て?」
「いや、俺が呼んだ、ほそみも一緒に行く」
少し間が空く
「分かった、あの人いないでしょうね?」
俺も20年後はあの人扱いなのかな
「いないよ、約束する」
「居たらペアルックだからね」
ほそみは何故かペアルックに相当な憧れがある、俺が恥ずかしくて無理だから実現しない
「よし!ご飯2杯たべようかな!」
そう言って俺は茶碗半分のご飯をこっそりよそってほそみに見えないように食べる
「うん、食べた方がいいよ」
そう言うとほそみはうれしそうに笑った
仕事が終わりほそみを迎えに行く、お義母さん指定の喫茶店へ向かう
喫茶店は俺の部屋からもほそみの実家からも離れた場所にあった、小綺麗なケーキ屋さんの中だ、ほそみのテンションが上がる
お義母さんはまだ来ていない、テーブルについて注文を終える
ほそみはケーキセットのケーキをショーケースの前に一人で選びに行く、今迄なら一緒に行って俺がほそみの二番目に食べたいだろうケーキを選ぶ
するとほそみの口癖の「わかってらっしゃる」が出てケーキを二人で半分ずつ食べる
ダイエットでほそみに寂しい思いさせてごめん
ほそみが戻って来る、お義母さんも入ってきた当然だが似てる、歩き方も一緒だ
「ふとちゃん久しぶり、痩せたね、大丈夫?ほそみは元気そうね」
お義母さんはいつも通り明るく入ってくる
「ままさん、久しぶり 健康だよ ほそみのおかげ」
ほそみは何も言わない
お義母さんが注文する、やっぱりケーキセット、選びに行く
お義母さんが戻ると、取り敢えず大袈裟なダイエット話で俺が場をあたためる、お義母さんは笑ってくれている
2人に同じケーキが運ばれて来る、俺には仲直りのケーキに見えた
俺がほそみの真似をして「わかってらっしゃる」と二人に言う
お義母さんが「似てるフフフ」と笑うと
ほそみは「全然似てない」と笑った
それからのほそみは堰を切ったよう様に会えなかった間のミカや高橋や俺の事を仲の良い親子に戻りお義母さんに話している
「ふとしがミカにコーヒーあげて…」
「まぁ、ふとちゃん優しい、痩せたらほそみ捨てるのは無しよフフフ」
「ふとしはそんな事しないもんね、ふとし!何で何にも言わないのよ」
あっという間に2時間経っていた、トイレに行く振りをしてこっそり会計を済ます
「そろそろ行かなきゃ、あの人帰って来ちゃう、ふとちゃんありがとう」
「ままさん、これお土産と手紙」
そう言って俺はあの人の好きな長茄子漬けとあの人宛の手紙を渡す
「ふとちゃん私のは?あの人だけ?」
ほそみが保冷バッグをままさんに渡す
「しょうがないなぁ、はい、お母さんの好きな笹蒲鉾」
「わかってらっしゃる」
お義母さんは照れ隠しにほそみの真似をした
喫茶店からの帰り道、在るべき親子の関係を見せつけられた俺は、親を心から他人だと思っている自分を冷たく感じていた
そんな事より早く手術の事を聞かなくては
もう21時過ぎ、部屋へ戻ってからでは遅い、こういう事は思いついた勢いでやっておくべきだと考えコンビニへ立ち寄る、ほそみは店内に入りトイレへ行った
喫煙スペースでタバコを吸いながら母親に話す事を整理する、俺がタバコを吸い終わると同時にほそみもトイレから出てくる
俺は店内のほそみの動きを外から目で追いながら電話をかける
出ない、やっぱり家族の前では出にくいよな
ショートメールにしておけば良かったかな?でもメール使えない人だと困るし
店に入りほそみの元へ向かうと寿司を買おうか買うまいか迷っていた
ほそみは寿司の気分かぁ、コンビニの寿司食べる位なら、久々に回転寿し位連れて行くか
「ふとし何か買う?」
「ちょっと電話したかっただけ」
「ふとしお腹減った!」
「回転寿しにしよう」
「大賛成!」
「ほそみは嬉しい事あると寿司だから」
車を回転寿し屋に走らせる、助手席側のダッシュボードに置いてある携帯が鳴る
ほそみが携帯を見る、名前を見られた
「誰?この女」
言うしかないか、気が進まない
「母親」
「え?お母さん?緊急なんじゃないの?」
向こうもそう思ってかけてきたんだろう
「違う違う、ちょっと聞いてみたい事あってさっき電話したから、へその下の傷の事」
「あれね、ふとしも何の手術かわからないって言ってたもんね、どうして今頃?」
「なんか最近気になって、結婚前に調べておこうと思った」
「そっか、偉い!着いた〜!」
回転寿し屋の駐車場に着くと俺は母親へ電話する、ほそみは横で聞き耳を立てている
「ふとしですがお久しぶりです、お伺いしたい事があって…わかりました夜分に申し訳ありませんでした失礼します」
「仕事じゃないんだから、お母さん何て?」
「ソケイヘルニアって後でショートメールで病院名と病名送ってくれるって」
俺はヘルニアと言えば腰か何かの手術だと思って安心した
回転寿しを食べる、ほそみが選んでくれた高タンパク低脂肪なネタ5皿で終了した
ほそみは茶碗蒸しと3皿程だ、二人で千円ちょっとという初めての会計に回転寿しって安いと驚いた、以前なら3000円で足りてない
部屋へ戻り風呂からあがるとショートメールが届いていた
ショートメールを開く
〇〇総合病院 片側鼠蹊部ヘルニア
手術前に何も食べれずに泣いて暴れていた事は昨日の事の様に覚えています
どこか具合が悪いのでしょうか?心配です
また良ければ連絡下さい
ふとしの声が聞けて嬉しかったです
まずはショートメールって最近はこんなに長文書けるんだと驚く
病院名と病名を手帳に書き写す
片側鼠蹊部ヘルニア とネット検索する、何だ脱腸か、と安心していると術後の症状の中の不妊という文字に俺は血の気が引く
直ぐに片側鼠蹊部ヘルニア 不妊と検索する、俺が調べた所
不妊になる確率は手術が遅い程高く、6才は遅い方、片側は問題ないので不妊の原因になるとは何とも言えないと何とも言えない事が書いてあった
どちらにしろ、先ずは病院に行こう
検査前にほそみに必ず言うべきだ
ほそみが風呂からあがってくる、メールが来ていて調べた事をほそみに伝えた
ほそみはショックを受けている、俺のせいでゴメンと心の中で呟いた後、決意を話す
「みーちゃんに心配掛けたくないから検査結果が分かった後に言うっていうのは俺の中で逃げだと思った、俺は何からも逃げないよ」
ほそみが子供の様に泣き出した、なんかいつもと違う
「悲しくて泣いてるんじゃないから、ふとしの成長が嬉しくて嬉しくて」
ほそみは本当に優くて強い子だ、何ものにも代え難い
俺には自分が強くなった理由は分かっている、ショートメールに書いてあった母親のとってつけた様な心配ですという文字を見てしまった時からだ
あれこそ逃げだ、母親の汚い部分が滲み出ている最悪の逃げだ
12の俺を親に預け、勝手に別の家庭を築き、自分の親が死ぬまで会いにも連絡もよこさなかった逃げてばかりの人生の母親に俺は何からも逃ない人生を送る事で絶対見返してやる
「ふとし、怖い顔してどうしたの?」
俺は我に返る
「みーちゃん、子供出来たら絶対に寂しい思いさせない様にしよう、どっちか絶対に一緒にいてあげよう」
「うん、何があってもそうする、ふとしにも寂しい思いさせない」
その言葉を聞いた時、俺が子供の様に泣きたかった
次の日の朝、俺は目覚ましが起きるより1時間も早く起きた
ほそみを起こさない様にキッチンへ向かう
いつもより早いから朝食は俺が作ろう
まずすし太郎でチラシ寿司を作りフライパンで薄焼き卵を焼きチラシ寿司を包む、最後に国旗を立てオム太郎が完成した、ほそみは気付くだろうか国旗がチラシで出来ているのが中身を指している事に
歩きに行き部屋へ戻るとほそみがオム太郎を食べていた
「先に食べてるよ、美味しい オムライスと思ってたからひと口目ビックリしたけど」
俺はいつも不思議だ、俺の気持ちはいつも見抜かれているのにこういう事にはほそみは全く気付かない
職場で昼休みに手術を行った病院へ電話を入れる
総合病院は午前中しか受診出来ないので小さい泌尿器科で仕事帰りに受診する事にした
泌尿器科で触診を受け、精子検査を行っておいた方が良いと言われ、木曜日に精子を提出すれば翌週には結果が出るとの事だった
部屋へ戻る、ほそみに病院での事を話し結果は二人で聞きに行こうと言って歩きに出た
歩きながら考える
取り敢えず検査結果を聞くまでは二人で楽しい事を考えよう、ほそみを旅行に連れて行くいいタイミングだ
運動しながら考えると我ながら前向きな考えになるな
部屋に戻り夕食を食べコーヒーを飲みながらゆっくりしている時に話す
「ほそみ今週の金曜って今からでも有給とれる?」
「大丈夫だと思うけど、何で?」
ほそみの目が輝き口元が緩む、バレたな
「牡蠣食べに行こうかなって」
「どこに?どこに?」
「鳥羽」
「ふとし探偵には参るなぁ」
流石に真珠のネックレスだけではわからなかったけど、パソコンの履歴たまたま見た時に気付いたよ
「車で行こうか、かなり遠いけど」
「運転、手伝うよ また夜出る?」
「ほそみの運転は…大丈夫、木曜の深夜に出よう、日曜の明け方には戻って来るつもり」
「やったー!最高!サービスエリア調べなきゃ」
ほそみはサービスエリアが大好きで下調べは欠かさない、もうパソコンで調べ出している
そんな時にほそみの携帯が鳴る、高橋みたいだ
ほそみが俺に携帯を渡す
「ユウがふとしにどうしても頼みたい事があるって」
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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幸せとは0レス 74HIT 旅人さん
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依田桃の印象7レス 184HIT 依田桃の旦那 (50代 ♂)
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ゲゲゲの謎 二次創作12レス 134HIT 小説好きさん
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私の煌めきに魅せられて40レス 427HIT 瑠璃姫
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✴️子供革命記!✴️13レス 96HIT 読者さん
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私の煌めきに魅せられて
ジリリリリリリリリリリリリ! あっ、朝か。 憂鬱だなあ。これほ…(瑠璃姫)
40レス 427HIT 瑠璃姫 -
神社仏閣珍道中・改
(樺崎八幡宮の続き) …と申しましても、私、まだ樺崎八幡宮さんに…(旅人さん0)
254レス 8478HIT 旅人さん -
仮名 轟新吾へ(これは小説です)
なるほど【🍀謎が解けた❗】 あなたとの縁は、(過去世も) 今世も、…(匿名さん72)
192レス 2883HIT 恋愛博士さん (50代 ♀) -
幸せとは0レス 74HIT 旅人さん
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猫さんタヌキさんさくら祭り
ポンとボンとタヌキさんの太鼓よこなりました、さあ春祭りにいこうとタヌキ…(なかお)
3レス 102HIT なかお (60代 ♂)
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🌊鯨の唄🌊②4レス 131HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 129HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 142HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 513HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 960HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 131HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 129HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 142HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1398HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 513HIT 旅人さん
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注目の話題
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もう期待させないでください。
都内在住の会社員女性、地方在住(電車で2時間の距離)同い年の男性のお話についてご相談したいです。 …
21レス 1187HIT 一途な恋心さん (20代 女性 ) -
小学生が転校せずにのぞみで通学
小学生の子がいる人です。引っ越し予定がありますが、うちの子が引っ越しても他の小学校に行きたくなくて、…
12レス 574HIT おしゃべり好きさん -
彼女が貧乳だと嫌ですか?
男性の方に質問です。 彼女が胸ないと嫌ですか? 巨乳より貧乳の方が好きって人はいないですよね? …
7レス 255HIT みか (20代 女性 ) -
この年でもう手遅れかもしれないけど
恋愛ってそもそもどうやるのかわかりません。 年齢的に恋愛の要素は諦めて現実的な結婚しか考えてはいけ…
9レス 205HIT 匿名さん (20代 男性 ) -
立場と言い回しが噛み合わない。
最近、よく疑問に思っています。 あなたの立場で、その発言はおかしくない?と思うことが多いです。 …
11レス 257HIT 教えてほしいさん -
美人や可愛い子は恋愛で苦労しない
男性が彼女候補を選ぶ時って顔やスタイルなどの容姿がクリアしたら内面を見ていくって感じじゃないですか?…
14レス 236HIT 恋愛したいさん (30代 女性 ) - もっと見る