とりかご
あはれに忘れず身にしむは
忍びし折々 待ちし宵
頼めし言の葉もろともに
二人 有明の月の影
思へばいとこそ悲しけれ
身にしみ忘れられないのは
忍ぶ恋の日待つ夕べ
2人で約束した言葉は
夜明けの月に浮かぶ影
思い出すたび
ただ愛しくて
14/11/28 07:36 追記
お気づきの方もいらっしゃると思います。
ベースは、とはずがたりです。
なのでラストは…ハッピーエンドになるかどうか。
そしてやっぱり書き手は、詐欺師つゆりです。
今回は携帯で書きためて投下更新の形です。
14/12/22 12:29 追記
スレもったいないんで黒雪姫と2本立てにしました。
紛らわしくてごめんなさい。
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旦那様がそんな事を言うはずありません。
逃げようとしましたが、すごい力でベッドに押し倒されました。
気持ちの悪い感触が体を這いずります。
ひたすら抵抗しましたが、無駄でした。
心の中で助けを呼びました。
圭の名前を呼びました。
旦那様の名前を呼びました。
長い長い時間が終わり、泣いている私の頭を撫でてから鷹司様は出ていきました。
悪い夢だと思っても体にはしっかり違和感が残っています。
茫然とし、泣きながら体を洗い流しました。
ベッドで泣いているとお酒に酔った旦那様が部屋に入ってきました。
すぐに鷹司様の事を言おうとした時です。
「お疲れ様、由真は喜ばないで泣いちゃったのか」
そして本当に嬉しそうに抱きしめられたのです。
目の前が真っ暗になりました。
仕組まれたんだ、と。
もう私にはそんな価値しかないんだとわかりました。
旦那様を裏切り、圭の子を産んだ女です。
こんな扱いをされても仕方ないのかもしれません。
それでもぶつけようのない思いが湧き上がり、泣くしかありませんでした。
そしてその時にブレス・フォンを渡されました。
腕にはめる通話通信機です。
「常にはめておくようにな、呼んだらすぐに来るんだよ」
それが何を意味するのかわかり絶望しました。
このブレスで何度も呼ばれ、その度に覚悟しましたが大抵は大した事の無い用でした。
…鷹司様の時もありましたが。
広間で次のパーティーの話を聞いている時、目眩がして座るのも辛くなりました。
二度目の妊娠でした。
早速、旦那様に報告しました。
「今回はダメだ」
「…え?」
「鷹司の子の可能性もある。今回は堕ろせ」
全身の血が沸騰しました。
旦那様が仕組んでおいて、という気持ちが強かったと思います。
後先を考えず逃げようとしましたが庭で捕まり、そのまま入院して堕胎する事になりました。
手術の日。
お腹の子に謝りながら意識が遠くなり、麻酔から目を覚ますと懐かしい人がいました。
同級生だった神崎リンが白衣を着て立っていました。
「久しぶり、色々聞いてるよ由真。あんた今幸せ?」
「リンこそ…最近厳しいらしいのに、お医者さんてこんなに早くなれるの?」
白衣姿のリンはとても頼もしく、そして少し怒った顔をして言いました。
「医者不足だし、これでも有能なんだよ」
私は色々打ち上けました。
結婚の事。圭の事。
子供の事。襲われた事。
そして今回の堕胎の事。
「離婚して逃げちゃえばいいじゃない」
「逃げたけど捕まっちゃった。それにあの家を出たら圭に会える可能性が本当に無くなっちゃう。それだけは嫌」
「ふーん、その圭ってフルネームは?」
「西園 圭…」
「わかった。ちょっと色々調べてみるわ」
そう言い残し、リンは白衣を翻し病室を出ていきました。
その後はいなくなってしまった赤ちゃんに謝り続け、タオルが手放せなかった事を覚えています。
旦那様がお見舞いにきてくれましたが、あまり会いたくありませんでした。
「体調が不安定だと聞いたが大丈夫か?由真」
「……あまり」
「体に負担がかかったんだろう。ゆっくり休むといい。帰ってくるのを待ってるから」
…帰る?
…あの家に?
そう考えた途端、嘔吐していました。
検査した結果、精神的なものという事でした。
旦那様にも説明が行き、1ヶ月入院できる事になりました。
久しぶりの開放感を味わえました。
人目を気にしなくていい事が、こんなにも心を軽くするなんて。
痛いくらい寒そうな朝、病室の窓から外を見ると雪が降っています。
雪を見ると圭との夜が思い出されました。
こんな寒さで仕事は大丈夫なのか。
風邪はひいてないだろうか。
あれから元気でいるだろうか。
幸せでいてくれているだろうか。
まだ私を覚えていてくれているだろうか。
入院生活にも慣れた頃、泣いている家族らしき人達を見かけました。
「尊厳死で逝かれたんだけど、泣いてくれるご家族がいたなら複雑よね…」
ナースさんの呟きが聞こえました。
尊厳死。
身分証明書と強い希望があれば受けられる制度です。
私はこの時に尊厳死を望むようになりました。
両親も子供もいない、兄弟とも疎遠。
旦那様も今は10人の奥様がいる。
お見舞いには来てくれるけどすぐに忘れるだろう。
圭とはもう会えないのは薄々わかっている。
私が死んで泣く人はいないし、思い残す事もない。
早速リンに相談しましたが、いい顔はしてくれませんでした。
腕のブレスで非合法の尊厳死会社も調べましたが、どれも胡散臭いものばかりでした。
そんな事をしていると仕事帰りなのか、私服のリンが訪れました。
「あんたの西園圭だけど、2年前に離婚して解雇されてる。
行方はわからない。どうする?」
圭のいない家に2年も気づかずにいた事よりも、行方が気になるに決まっています。
「探したい…探して見つけたい」
「資金は?まずはお金が必要になるよ」
「あ…」
そうです。私は不自由なく生活させてもらっていましたが、自分のお金は持っていませんでした。
「そのブレス売りなよ、限定品で機能もいいしまとまった金額になる」
「売れるの?どこで?」
リンは爆笑して
「これだから結婚組は」
と言いブレスを預かってくれました。
そして先払いだと、しばらくは暮らせそうな金額を渡してくれました。
「それにね、これ発信機になってる。手術前に盗聴機能は外しておいたから大丈夫だけど、持たないほうがいい」
発信機に盗聴器。
気がつかない自分に呆れました。
「やる気になってくれて良かったよ。これでまた死にたいとか言われたら、手の打ちようが無かった」
「手の打ちよう?」
「うん、まず由真。
あんたそのお金で尊厳死して別の人間になりなさい」
そしてリンは私でも理解できるように教えてくれました。
尊厳死も犯罪や借金があればできない事。
調べてそれらが無ければ、事前の希望ですぐに火葬もできてしまえる事。
出産を終えてから、重婚制度で苦しんでる妻がそれを利用して尊厳死を選ぶ事がある事。
「だって替わりの遺体は?」
「ここ病院だよ?詳しくは言えないけど、色々な事情の人がいるんだよ」
「そんな事してリンは危なくないの?」
「前に先輩ドクターが事情のある患者さんにやったの見てるから大丈夫」
頼もしいと言うか、不謹慎と言えばいいのかそんな笑顔でした。
そして体調不良を装い入院を続けていると、その日はきました。
リンに連れられた痛々しい姿の女性。
話を聞くと、子供を次々と8人産まされた後に離婚され、身寄りも無く死を選んだと言っていました。
「私はもう帰る所も無いし、疲れてどうでもいいんです。
役に立つなら私の名前を引き継いで下さってかまいません」
そう言われ急に怖くなりました。
本当にこんな事をしていいのか。
いらないからといって、他人の人生をもらってもいいのか。
決心した筈でしたが、いざとなると踏ん切りがつきません。
「あの、でも生きていたらいい事があるかもしれませんよ?」
私の偽善的で無責任な発言でした。
事情を聞いて後悔しました。
大勢いるからといっても、自分の妻にそんなにひどい事ができるのかと言葉に詰まりました。
「割礼ごっこだそうです。これ以上は必要ないからと縫われました、もう男の玩具になるのは嫌なんです」
処女割礼。
聞いた事はあります。
本来は少女に施す、処女性を重視した外国の古い残酷な風習だったと。
そして
『玩具になりたくない』
という言葉は私にも痛いくらい理解できるものでした。
かける言葉が無く、ただ泣いている私はさぞ情けない姿だったでしょう。
肩に手を置かれ、遺言を託すかのように言われました。
「私があなたとして死ねば手篤く埋葬されるでしょう。
だからあなたとして楽に薬で死にたいんです、立花由真さん」
「珍しくないんだよ」
2人になった時にリンがポツリと言いました。
「女を産む機械だと思ってる男ってさ、意外にいっぱいいる。うちの父親もそう。体の傷なら治せるけど、心の傷は難しい。本人が死を望むくらいだから相当な目にあったんだど思う」
飲んでたコーヒーのカップを、力いっぱいゴミ箱に投げ捨ててリンは言いました。
「重婚制度も考えものだよね。一見、効率良く見えても問題は色々あるよ。だから由真、強制はしない。色んな角度から考えて、受け継ぐかやめるかはあんたに任せるよ」
自分で決める。
私は今までそれをした事が無かったのです。
学校や結婚は親任せ。
結婚してからは旦那様任せ。
周りに流されてばかりでした。
そして今、初めて自分の人生を自分決める怖さを知ったのです。
ベッドで膝を抱え色々な事を考えました。
私には小さくもあり、また大きな望みが残っていました。
きっと人には非難されるでしょう。
望みはたったひとつ。
「圭に会いたい」
そんなエゴイストな理由なんですから。
私は書類を書き拇印をして
その女性、佐伯奈々さんに渡しました。
「由真さん、これからの私の人生を自由に使って。できれば幸せな人生にしてやって」
そう言われ抱きしめられた事は忘れられません。
今でも申し訳なさと有り難さと、最期に人に優しくできる彼女に涙が溢れてきます。
立花由真として亡くなった彼女の葬儀に、私は出る事はできません。
佐伯奈々になった私は、泊まったホテルで手を合わせる事しかできませんでした。
葬儀に出席したリンの話では、旦那様は泣き崩れていたそうです。
旦那様なりに少しは情をかけていてくれたのかもしれませんが、もう私の心には響かない話でした。
そして佐伯奈々として圭を探す事にしました。
メインシティのコンピューターで西園圭を調べましたが、身内ではない私では立花家で働いていた経歴までしかわかりませんでした。
そして綺麗だと思っていた街の裏側に驚きました。
路上で生活する人や放置されたままの遺体。
小さな公園に子供の姿は無く、工作したような家が並んでいました。
仕事はなかなか見つからず、立ったままで食事をするという経験もしました。
自分がどんなに恵まれていたのかわかりました。
ちょうど恋人と別れたリンのマンションに居候させてもらえましたが、仕事はなかなか見つかりませんでした。
どこかのお屋敷では顔がわかってしまうかもしれないので、勤める事はできません。
働いた経験の無い私がやっと見つけたのは、ホテルの掃除婦でした。
旦那様が新しい奥様を迎えると聞いた時は、またかと思った。
今いる奥様方も大切にしているように見えて実はそうじゃない。
使用人という立場をわきまえ、口には出さなかった。
新しい奥様は中学卒業後にすぐに迎え入れる予定らしく、それに合わせて準備が行われた。
卒業してすぐに結婚という話は別段珍しくもないので、淡々と準備を行った。
父の会社が潰れなければ俺もこんな風に妻を次々と迎え入れていたんだろうか。
ただ今回迎える奥様の準備はいつもより念入りだとは感じていた。
披露宴、挙式と順調に進んだ。
まだ幼く見える新しい奥様は嫉妬の目には気づいてないようだ。
貧血で具合が悪くなったらしく、部屋まで運んで休んでもらった。
あとは新郎である旦那様の役目だろう。
こんなに幼く見えるのに人妻というのは、幸せなのか不幸なのか。
まあ、俺は今まで通り言いつけられた事をこなせばいい。
ただ旦那様がいつになく新しい奥様に夢中になり、他の奥様方が段々イライラしてくるのがわかった。
わざと足を引っ掛けて転ばされたり、飲み物をかけられたり。
女のやっかみが見ていられなかった。
階段から突き落とされそうになった時は危なかった。
「ありがとう、足がもつれたみたい」
支えた体は小刻みに震えていた、無理もないだろう。
あれ?
間近で見ると病院で会った子じゃないか?
ハッピーエンドがどうとか言ってた…。
すごい偶然もあるものだと思った。
面識があったからじゃないが、旦那様に少し報告した。
「由真を守ればいい」
守れてないから今の事態になってんだよなぁ。
なんとか食い下がり、考えてもらったがどう考えてもうまいやり方じゃなかった。
人の心がイマイチわかってないんだよ、旦那様。
夜の10時頃だったと思う。庭のベンチで夜空を眺めている姿を見かけた。
気持ちはわかるが冷えこんだ外に居させる訳にもいかない。
旦那様の下手なやり方で傷ついているのは容易に想像できた。
ほっとく訳にもいかないので、屋敷に戻ってもらえるように声をかけに行った。
「風邪引きますよ、奥様」
泣いてたんだろうか、強気そうに顔をゴシゴシこする姿を可愛いと思った。
「ハッピーエンドじゃなかったですか?」
少しの期待を混ぜながら問いかけた。
すぐにはピンとこなかったらしく、ヒントを出したらやっと思い出したようだった。
育ちはいいだろうに相当驚いたらしく、指をさしてきたのが面白かった。
屋敷に戻る時にお礼を言われたのは驚いた。
使用人として働いて、お礼を言われたのは初めてだった。
『ありがとう圭、おやすみなさい』
その言葉がしばらく頭から離れなかった。
それからはバッタリ会うたびによく話すようになった。
3番目の奥様の葬儀の時、旦那様の様子が少し変だとは感じた。
あまり悲しんでいるように見えなかったからだ。
それから旦那様は平等に奥様方の部屋に行くようになり、安心したが。
由真奥様だけには難儀をしていたらしいが、旦那様のやり方がまずかっただけだ。
愚痴は適当に聞き流した。
『圭、トランプ持ってる?』
由真奥様に唐突に聞かれたので驚いたが、トランプタワーを作って壊したいと。
それはどう考えても健全じゃないだろ。
砂の城を作るようなものだ。
これはまずいと思い、まずはババ抜きの相手をする事にした。
トランプをしながら好きな食べ物や、遊び。
俺の生い立ちなどを話した。
『もしかしたら俺の花嫁になっていたかもしれない』
そんな事を思ってしまうまで、そう時間はかからなかった。
トランプばかりも飽きるだろうと思い、ジェンガを持っていった時だった。
旦那様は今夜も違う部屋だ。
少しでも慰めになればいいと思った。
『圭、いらっしゃい』
いつものように迎えてくれる由真。
この頃には奥様と呼ばれるのを由真が嫌がるので、2人きりの時は呼び捨てになっていた。
そしてそれは俺も内心嬉しく感じていた。
ジェンガが崩れそうになった時、お互い反射的に支えて手が重なった。
由真の手を包み込んだ俺の手はわざと動かさなかった。
『圭、手を離して』
由真は困っているんだろう。
ただ、この時は止められなかった。
『嫌です、と言ったら?』
真っ赤になった由真の顔が可愛く愛しかった。
身の程もわきまえず大事にしたいと思った。
決していい加減な気持ちではなく、由真を抱いた。
由真を苦しめる結果になる事は、火を見るより明らかだったにも関わらず。
それから旦那様の行動に気をつけながら由真と会い続けた。
年が近いせいもあり、話も尽きなかった。
無駄だとわかっていたのに、由真を自分のものにしたかった。
『圭、私妊娠したみたい』
青白い顔をした由真からそう言われ俺も色々考えた。
連れて逃げようか?
無理だ、贅沢に慣れている由真に普通の生活は耐えられない。
旦那様の目を盗んで里帰りした由真の実家近くまで何度か会いに行った。
子供は俺の子だった。
罪悪感よりも喜びが勝ち2人で喜んだ。
『大事に育てるからね』
母親の顔をした由真は幸せそうだった。
由真の体の事もあり、結局いい考えも浮かばず連れて逃げるチャンスは無いまま子は産まれた。
産まれた子はナニーに預けられ、由真は手元で育てられない事を悲しんでいた。
旦那様も同じように育った筈なのに、何故わからないのか不思議だった。
由真を慰めたくて頻繁に部屋に行くようになった。
誰かにそれを見られたらしい。
旦那様に呼び出された。
『圭、来週からオート制御の監視係だ』
クビにならなかったのは不思議だった。
同じ家にいれば由真に会えるチャンスは必ずある。
とりあえず仕事に専念した。
下働きをやって気づいたが、ありとあらゆる噂が流れてくる。
その噂で息子が死んだ事を知った。
あてつけなのか、旦那様に嫁を用意されたが相手も乗り気ではなかったらしく、逆に気が合った。
好きな男がいると言うので、応援して逃亡の手伝いもした。
その後、由真の両親が亡くなった事も知った。
どれだけ悲しんでいるだろうと心配で仕事が手につかなかった。
もうじき大晦日だ。
その夜だけは旦那様は確実に新しい奥様と過ごす。
薄暗い廊下を歩き、部屋のドアを4回ゆっくりと叩いた。
すぐにドアが開き少し痩せた由真がいた。
顔を見るなり由真に泣かれてしまった。
色々あったし当たり前だよな。
そばに居られなかった事が本当に悔しかった。
この時に由真を盗もうと決めた。
生活はゆっくり慣れればいい。
食べていく位ならなんとかなる。
計画を立てて、実行に移すまで時間がかかった。
由真がどんな状況なのかは噂で逐一把握できた。
由真の部屋に行き、ドアを叩くと出てきたのは旦那様だった。
そしてみぞおちへの一撃。
ヒョロいくせになかなかの強さだった。
由真は別の部屋に移されていたらしい。
そういう噂こそ流れてこいよ。
ボロボロにされて立花家を追い出された。
ゴミ捨て場でゴミに囲まれながら思った。
あーヤバい、俺このまま死ぬのか?
最後に由真の顔見たかったなあ……。
**********
掃除婦という仕事を見つけてから、怒鳴られ叱られ仕事に慣れた頃には1年が経っていました。
「おっ奈々ちゃん、お疲れー!」
「お疲れ様です。寒くなりましたね~」
職場で仲良くなったマネージャーさんと休憩が一緒になった時でした。
「奈々ちゃん好きな人は見つかったん?」
「まだなんです。忘れられてたらどうしよう」
笑って答えられるようになっていました。
もう圭には好きな人がいるかもしれない。
結婚しているかもしれない。
不安は当然ありました。
「じゃあさ、やっぱり俺にしちゃわない?」
マネージャーのいつもの冗談です。
最初は返事に困ってしまい、好きな人がいると馬鹿正直に答えてしまいました。
「そうですねえ……。死ぬまでに見つからなかったらお願いします!」
「振られたか…。今夜また枕を濡らすよ」
会えないのに私はいつまで忘れられないのか、考えたりもしました。
でも答はわかりませんでした。
圭が好きで、忘れられない。
それだけでした。
想いが溢れて手のひらが痛くなります。
気持ちが弱ったりすると名前を呟きそうになるけれど、大切な名前を安っぽく呼んだりしない。
そう決めていました。
「マネージャーにまたからかわれたよ、もう完璧面白がられてる~。でもやっと仕事も生活も慣れてきたなあ。んっ、このビール美味しいよ!」
リンと軽くお酒を飲んだ時に笑いながら言いました。
「由真、本当に?」
「うん贅沢できないけど自由だし。もう少しお金貯まったら有料の探偵サイトにも頼むつもり。玉砕したらその時に泣くから胸貸してね、リン。それよりいい加減、由真はやめてよ~」
リンはなかなか新しい名前で呼んでくれません。
「今の生活に慣れたか、じゃあこれ頼もうかな。前のナヨナヨで甘ったれ~な由真じゃ絶対ダメだと思ったからさ」
住所と名前が書かれた紙を渡されました。
「お使いくらいできるよ。なぁにこれ、誰?」
「元患者。そこの桐山祐太って人にコレ届けてくれるかな?私忙しいからさ」
小さな箱を渡されました。
リンのマンションから1時間。
ちょっと治安の悪そうな雑居ビルに着きました。
確かに1年前の私なら怖くて入れない雰囲気のビルです。
「すみません、桐山祐太さんいらっしゃいますか?」
部屋のパネルを押して声をかけました。
「すぐ開けます、ちょっと待って下さい」
機械が古いせいか、雑音混じりのくぐもった声で返事がきました。
リンの患者さんだったらしいし、危ない人では無いだろうと思っていました。
預かりものを渡して帰るだけ。
そう思っていました。
ガチャリ、とドアが開きました。
「すみません、お待たせしました。桐山祐太です。はじめまして」
「…佐伯奈々です、はじめまし…て?」
「待ってた、奈々」
「……なんで?」
そこには探しているはずの圭が笑顔で立っていました。
「圭じゃない、桐山祐太だよ。だから初めまして。
主人の妻を好きになった西園圭は、忍び込む時に見つかって殺されそうになりました。そこを美人な女医2人に助けられて、尊厳死させられました」
シャツをめくってお腹の傷痕を見せて笑ってます。
女医2人って…リン!?
夢でもなかなか会えなかった圭に抱きついた。
圭も痛いくらい抱き返してくれたから夢じゃない。
「どうして、なんで?ずっと探してたのにリン知ってたの?」
「リンさんからは連絡もらってたんだ。
前のお嬢様な由真…じゃなかった。奈々だと生活に慣れるのは難しいから、少し世間に揉ませてみせるからって。
忘れないでいてくれてありがとうな」
確かに1年前の私じゃダメだったかもしれない。
恋愛と結婚は違う。
もし圭と結婚できても環境に馴染めなくてダメになっていたかもしれない。
「それに今なら俺も奈々も独身だ。誰にも何も言われない、手を繋いで外も歩ける」
もう泣きすぎて返事ができない。
顔もぐちゃぐちゃだ。
「俺も内心ヒヤヒヤだった、たまに様子見に行ったりもした。
奈々、色々あったけど今度こそ一緒にいよう」
更に強く抱きしめられて、コクコクと頷くしかできなかった。
やっと私が落ち着いた時、リンから預かったものを開けてみると便箋が一枚入ってました。
―佐伯奈々へ―
黙っててごめん、お探しの人だよ。
他に好きな人ができたり弱音吐いて諦めてたら、この手紙は渡さないつもりでした。
私もそろそろ可愛い彼女作りたいから帰ってこないでね。
あんたを自由にしてくれた恩人、もう1人の佐伯奈々さんを忘れないで。
『恩送り』
わからなかったら調べなさい。
―神崎リン―
やっぱりリンにはかないません。
私は泣き笑いになりました。
恩送り
恩返しをする相手がいない場合は、別の人に恩を返すという意味だったと思います。
私のお話はこの辺でおしまいです。
今は祐太に会えてハッピーエンドだけれど、これから何があるかわかりません。
きっとまた色々な事があるでしょう。
もう流されたり逃げたりせずにちゃんと向き合って、たまにバッドエンドになっちゃっても
ハッピーエンドを上書きして歩いていけばいい。
圭…じゃなかった
祐太と一緒に。
とりかご・終
読んで下さった方、ありがとうございます。
なるべく原作に沿ってアレンジしてと思っていたのですが、途中から圭と由真がどうしてもくっつきたいと主張しだしまして…。
書き手の力が及ばず書いてるこちらが振り回されちゃいまして。
圭の心理描写は慌てて付け足しました。
原作ではあと2人男性が登場するのですが、由真が可哀想になりやめました。
帝と法親王を期待された方ごめんなさい。
それでは
ありがとうございました!
そして
ハッピーエンドを書いたら
バッドエンドも書きたくなります
なるんです
なっちゃうんです
できればマルチエンドで色々書きたくなります
とりかごバッドエンド
1レス劇場~
バッドエンド嫌いな方は次は読まないで下さい
m(_ _)m
ぼんやりと幸せな夢を見ていた気がします。
圭との事が旦那様に気づかれてしまってから、一週間。
私は圭と地下室に幽閉されました。
2人一緒に閉じ込められた事は私には幸福でした。
「圭…お腹はすいてない?」
もう圭の返事はありません。
「寒いね、圭」
圭の頭を抱き寄せました。
ずいぶん汚れてしまった圭の髪を撫で
両頬を支え口づけをし、また抱きしめます。
圭がどんなに汚れても気持ちは変わりませんでした。
そしてまた圭の頭を抱き、私は体を横にします。
旦那様は圭を抱きしめやすくしてくれました。
私の両腕におさまる大きさになった、小さな圭。
抱きしめてもらう事はもう無理だけど、私が抱きしめるから大丈夫です。
大切な圭を抱きながら、私はまた幸せな夢を見てクスクスと笑うのです。
【神崎リンの恋愛事情】
由真が出て行って3ヶ月。
正直、すぐにへこたれると思っていた。
意外に根性あったのには驚いた。
さて、私もそろそろ彼女が欲しいなー。
狙ってるのは新人ナースのリツコちゃん。
どうやって誘おうかな。
ミスして怒られてたから飲みに行って慰めて、そのまま家に連れ込んだ。
これから!って時に
「私、彼氏いますっ」
…部屋まで来といて、そりゃないでしょー。
さすがに落ち込むよ。
ま、しょうがない。
明日は研修医のマナちゃん狙おうっと♪
こっくりさんには感謝だが、やはり疎まれたようだ。
一応は姫だというのに畑仕事、馬の世話、掃除もばっちりこなせるように育った。
城から離れた小屋で寝起きして14年。
気づけば肉体労働のおかげでしなやかな体になっていた。
やはり人間、体を動かすのが一番だ。
そんな事を思いながら採れたてのトウモロコシをかじる。
「黒雪!」
なんか誰かに呼ばれた。
姫をつけろよ、姫を。
今更どうでもいいけど。
「あっちの池にヌシがいた!見に行こうぜ」
なんとヌシとな。
それは是非とも見てみたい。
ちなみにこの少年は同い年のコウヤ。
兄妹のように育ったので、私が姫だという事を忘れている。
っていうか知らないんじゃないのか?と時たま思う。
だって普通は姫に馬糞を運ばせたりしないだろう。
しないんじゃないかな。
多分しないと思う。
コウヤとヌシを見に行った。林の奥にある割と大きな池だ。
エメラルドグリーンの綺麗な色が特長なので、エメラルドグリーン池と呼んでいる。
「やっぱりヌシもエメラルド色なのかな?」
ドキドキしながら聞いた時、ヌシは現れた。
緑色の体、鋭い目つき、頭には皿。
カッパだった。
どう見てもカッパだった。
カッパが聞いてきた。
「キュウリ持ってる?」
伝説どうり、キュウリが好きみたいだった。
伝説ってあなどれない。
急いでキュウリを採ってきて渡した。
自慢のキュウリだ、気に入ってくれるだろう。
「なかなかのキュウリだ、黒姫さん」
ん?なんでこいつ私が姫って知ってる?
そしてコウヤ、こっち見るな。
お前絶対、今知っただろ。
黒雪姫なのにカッパごときに黒姫呼ばわりされるとは。
「キュウリのお礼に教えてやる。黒いのは呪いか呪いがかけられているせいだ」
呪いか呪い?
同じだろ、それ。
「携帯で変換してみろ。まじない、のろい。同じ漢字だ」
あっホントだ!
カッパすごい!
さすが妖怪だ!
でもかっこつけてもカッパだとイマイチ…。
イケメンだったら恋に落ちるシチュエーションなのに。
うーむ、私もたまには姫らしいところを見せよう。
コウヤに思い知らせる為にも。
「カッパ!この呪いか呪いを解く方法を知っているのか?」
あ、ヤバい。
カッパ呼ばわりは不快だったみたい。
こっち見てくれなくなった。
でも他になんて呼べと言うんだ?
漢字で河童とかか?
「クリストファーだ」
ん?
「クリストファー・ウル・ラピュタ。俺の本当の名前だ」
……。
いや、クリストファーは信じてもいいけどウル・ラピュタは嘘だろ。
「で、クリスは何を知っている?」
ちょっとイラッときたので、ラピュタは無視して名前も略してやった。
黒姫呼ばわりだし、おあいこだろう。
「その黒が呪いだった場合は何かから守られてる、解くのは危険だ。呪いだった場合はそのままだ」
あああ、漢字ややこしっ!
どっちがノロイでどっちがマジナイなんだ?
「前者がマジナイで後者がノロイだ。ノロイで黒姫になってるならこれ以上の被害は出ない」
おお、カタカナ便利だな。
グッとわかりやすくなった。
「わかった、クリス。ありがとう」
姫でも感謝した時には礼くらい言う。
コウヤはいつまで固まってるんだ。
わりと面倒くさいやつだな。
さて、そうなると聞く相手はあれだな。
こっくりさんやった人。
たぶん何か知ってるだろう。
あまり気がすすまないが城に行く事にした。
なんとなく懐かしい廊下を歩いて父さまの所へ向かう途中。
「黒雪姫!どれくらいぶり?母さまに顔をよく見せてちょうだい」
不幸設定が早速壊れた。
この過保護さが嫌で早くに自立したのに。
でもせっかくだから不幸そうなほうが、健気っぽく見えて株が上がるじゃないか。
「あらあらあら、姫様お久しぶりです。相変わらず黒いわねぇ」
母さまの後ろからやってきた見知らぬ男性。
オネエ口調が似合っているが、いきなり黒いとか失礼だろう。
「黒雪ったら睨んじゃダメよ、ご挨拶して?母さまのお友達のこっくりさんよ」
え?こっくりさんて名前なの?
個人名?
10円玉使うやつじゃないの?
「こっくりよ、よろしくね」
女より女らしい仕草が眩しかった。
「私の黒は呪いか、呪いか。それを聞きにきました」
多分この後は物語的になんか試練とかあるんだろう。
じゃなきゃ話が進まないしな。
「ああ、そういう事ね。じゃ、こっくりさんで調べるから1万円になりまぁす」
は?1万円?
こっくりさんで1万円?
「こっくりさんも占いなの。タダじゃないのよ」
聞けばこのこっくりさんはこっくり検定7段。
こっくりのプロらしい。
どうしてこんな胡散臭い友人がいるんだ、ママン。
とりあえず1万円は後払いにしてもらった。
だって私の1ヶ月のお小遣いだよ、1万円。
そして始まったこっくりさん。
YES/NOとひらがな。
鳥居のマーク。
うん、正統派のこっくりさんだ。
誰にでもできそうなくらいの正統派だ。
こっくり野郎がますます胡散臭く見えてきた。
「こっくりさん、こっくりさん。この子の黒は呪いですか?呪いですか?」
10円玉が動く。
の・ろ・い
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ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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満員電車とアタシとイケメン痴漢25レス 742HIT 修行中さん
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君は私のマイキー、君は俺のアイドル9レス 188HIT ライターさん
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タイムマシン鏡の世界7レス 186HIT なかお (60代 ♂)
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運命0レス 91HIT 旅人さん
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九つの哀しみの星の歌1レス 105HIT 小説好きさん
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神社仏閣珍道中・改
そんな鬱々としたことを考え、ご不浄の掃除にまいりますと、あるお寺さんで…(旅人さん0)
345レス 11799HIT 旅人さん -
満員電車とアタシとイケメン痴漢
ルルを探しなさい(師匠)
25レス 742HIT 修行中さん -
私の煌めきに魅せられて
彼はその時野球少年丸坊主みたいな感じで、当時の私は彼を知らなかった。 …(瑠璃姫)
76レス 929HIT 瑠璃姫 -
また貴方と逢えるのなら
「あなたは今デビルを生き返らせようとしているかしら?」 「いや、特に…(読者さん0)
13レス 405HIT 読者さん -
わたしとアノコ
【苺花目線】 あぁあゎわわわわゎわ,,,。。 やってしまったっー!…(小説好きさん0)
175レス 2896HIT 小説好きさん (10代 ♀)
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🌊鯨の唄🌊②4レス 147HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 154HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 191HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 537HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 993HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 147HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 154HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 191HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1427HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 537HIT 旅人さん
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俺は正しい!まともだ!
俺は支援機関の女性カウンセラーを退職に追い遣った利用者だ。職員が俺の悪口を言っている気がして、電話で…
42レス 1026HIT 聞いてほしいさん (50代 男性 ) -
マイナンバーカードを持ってない人へ
マイナンバーカードって任意なのに、マイナンバーは?と聞かれて作ってないという、作ってないの?なんで?…
25レス 759HIT ちょっと教えて!さん -
あまりにも稚拙な旦那にウンザリです
1)私の旦那は私の反対を押し切り転職し 自分の実家の会社に行きました。 案の定、全く合わなく直ぐ…
11レス 380HIT 結婚の話題好きさん (30代 女性 ) -
彼女に敢えて冷たく接すべきか悩みます
どうすれば良いか教えてください 自分24歳男、彼女25歳 先日2人で旅行に行った際、2日…
15レス 545HIT 恋愛好きさん (20代 男性 ) -
自分は47なのに、29の私に女として終わりと言う彼
付き合って4ヶ月になる彼氏なのですが、話していて ん…?となることがよくあります。 ・一般常識…
16レス 399HIT 聞いてほしいさん -
怪しくないでしょうか?
彼氏がSNSに、高層で夕暮れの景色をバックに、お風呂のような桶で撮ったピンの写真をあげていました。 …
6レス 179HIT おしゃべり好きさん (20代 女性 ) - もっと見る