サプライズ
彼はサプライズが大好きな人!
14/11/13 10:17 追記
サプライズにお付き合い頂きありがとうございます。
感想はナルシストの部屋でお待ちしております。
……★ナルシスト★……
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父親は寝なかったのか、眠れなかったのであろう。
沙友理は仏壇の前で寝てしまっていた父親に、私がお父さんと、お腹の子供を守るからと誓った。
「お父さん、おはよう」
父親は昨日の興奮から冷めやり。
「沙友理、おはよう」
と笑顔で沙友理に返事をした。
「辞表届け出してくる」
突然の沙友理の行動に。
「働けるならもう少し後でもいいんじゃないか?」
「辛いの、今の仕事が…」
裕太と会う事も、大好きだった、本に囲まれた仕事が、沙友理には辛かったのであろう。
裕太との出逢いの場所、沙友理がこよなく愛した本、大好きだった仕事を辞めてまで、沙友理には裕太の思い出は、儚く残酷な結果で幕を閉じた。
沙友理は気持ちを切り替えたのか?
明るく辞表届けを出した。
一身上の都合
これしか便箋に書いていなかった。
上司にお礼を言い、今月末での退職が決まった。
「おはようございます」
何も知らされていない先輩は。
「沙友理さん、おはよう」
「今月末で急なんですが、退職します、長い間ありがとうございました」
先輩は濡耳に水のように。
「えっ?辞めちゃうの?会社には?」
「はい、辞表を出して来ました」
沙友理の顔は吹っ切れたのか?
明るい笑顔に戻っていた。
「ちょっと待ってよ、悪い冗談はなしだよ」
にっこり、ふくみ笑いなのか?
「辞めるんです、辞めたいんです」
少し引いた顔の先輩は。
「そうなんだ、お客さん悲しむよ」
「大丈夫です、本を愛してる、お客さんなら」
と言いながら、沙友理はエプロンをかけだした。
「在庫室に行って来ますね」
と沙友理は在庫室に歩いて行った。
在庫室には沢山今か今と自分の出番待ちの本達と、文具用品が並んでいた。
「沙友理さん~お客さんだよ」
「はぁーい」
在庫室にどれだけの時間を過ごしたのか?
時計を見るとお昼前だった。
沙友理は在庫室から出て、沙友理のお客さんだと言う人を見た。
「多田さん」
「こんにちは、大丈夫ですか?」
多田はあの事件以来沙友理の事が心配なのか?
よく覗くようになっていた。
「今市さん、お昼休み、時間取れませんか?」
沙友理は少し多田を待っていたのか?
「先輩、お昼休み頂けますか?」
多田と沙友理の関係が気になっているのか?
複雑な気持ちの沙友理の先輩は。
「ゆっくりして来ていいよ」
「私も多田さんにお話があったので、良かったです」
「そうなんだ~少し話せるね」
沙友理はお昼休みの許可が出たので、着ていたエプロンを脱ぎ、鞄を持ち店を後にした。
2人はお昼ご飯を食べて、ゆっくり話したかったが、あいにくお昼前で、どこも混み合っていた。
「お弁当買って公園に行きませんか?」
「それはいい考えだ」
2人はお弁当を売っている店に立ち寄った。
「今市さんは何弁当?僕は唐揚げ弁当にする」
沙友理は何を食べようかまよっていたが。
「幕ノ内弁当にします」
お金を払おうとする沙友理に、多田は財布を出し、2人分のお金を定員に渡した。
「多田さん、だめですよ、私 多田さんに沢山お礼言わないといけない立場なんだから」
困った顔をする沙友理に
「あの心配の事思ったら安い物です」
2人はビニール袋に入ったお弁当とお茶を持ちながら、公園へと歩いて行った。
どう見ても他人から見れば、たわいもない、どこにでもいる、カップに見えるだろう。
「今市さんあのベンチに座りませんか?」
多田が指指したベンチは木製の日焼けしたベンチだった。
「多田さんあそこにしませんか?」
屋根がある場所にこじんまり座れるスペース。
「女性は紫外線が敵ですからね?」
「紫外線は嫌いです」
落ち着く場所を確保し、2人はそれぞれのお弁当の、ふたを開けて話した。
「あれから…嫌がらせありませんか?」
多田は沙友理の事が心配なのか、あの凄まじい光景を見た、経験者なのであろうか?
「最後のメッセージが来ました」
「最後のメッセージ?」
うんと頷く沙友理
「郵送でした……」
「なんて?」
少し笑顔で沙友理は答えた。
「ゲーム終了だと」
多田は食い入るように沙友理に聞いた。
「犯人は?」
「分かりました」
「なら、警察に行きましょう」
多田は慌てるように沙友理に警察を進めた。
「終了なんてしていません、私には」
お互いに持っていた、箸が止まった。
「サプライズはまだ終了してません、しません」
沙友理は何を見ているのか?
視線は一点を見ていた。
「多田さん、あの人形とメッセージカード、警察にありますよね?」
「はい、●●警察署になると思います」
沙友理は何かを確認するかの様に。
「犯人がもし触っていたら、指紋付いてますよね?」
「はい、犯罪者リストからは、見つからなかったみたいです」
ニヤリと
「初犯なら、見つけにくいですよね?、でも指紋が一致すれば?」
「それは…捕まえれますが…今市さん犯人を知って居るんですか?」
沙友理は
「ええ、分かっています、今は黙っておきます。
あっすいません、多田さんのお話しは?」
多田はこの話の後話しづらいのか?
「はい……」
「多田さん?」
「話しづらいです」
首を傾げて多田を見る沙友理だった。
「ごめんなさい、変な雰囲気にさせて…ごめんなさい」
多田は話しづらいのか、下を向いてしまった。
「多田さんの奢りのお弁当美味しいです!」
「今市さん僕と真剣に付き合って貰えませんか!」
沙友理のお箸も止まり
「多田さんと1年前に知り合いたかった…私会社辞めるんです…」
「何故? 突然に……」
多田が驚くのは無理な事ではない突然沙友理から聞いた言葉だけに
「私、彼の子供がお腹に居るんです」
多田はひたすらお茶を飲み、自分を落ち着かせていた。
「彼と結婚されるんですか! それはおめでとうございます」
「いえ、裏切られました、と言うか、捨てられました」
「えっ? 捨てられた? その人がピエロの犯人ですか?」
びっくりするのも当然である。
「いえ、犯人は関係者です」
「なら、警察に突き出しましょう!」
「だから、ゲームは終了していません」
多田は沙友理の犯人も何故突き出さないのかも、ゲーム終了ではない意味すら分からなかった。
「今市さん、今市さんの意味が僕には、分かりません、何故なんですか?」
「ある時期と時間が解決してくれます…そう、今は待つしかないんです」
多田は沙友理に覆い被さる様に
「お腹の子供さんは、沙友理は産むのですか?」
「勿論人生で一番愛した彼の子供ですから…」
2人のやり取り、時間がどれだけたったのか?
公園の鳩が一斉に飛び出した。
沈黙が続く気まずい雰囲気に
「最低な女でしょう? 私って?」
「いえ、最低だとは思いません」
多田の沙友理に対する気持ちは違う方向に向いてしまったのか?
多分本人の多田ですら分かっていないであろう。
「今市さん、あのお店にはいつまで?」
「今月末で退職届けも出しました、多田さん沢山の本が喜んでくれました」
「なら、今市さんとプライベートで会えますか?」
沙友理は多田の気持ちが嬉しかった。
「お腹に子供が居るんですよ? 私には」
「今市さん、時間を待って見ませんか?」
沙友理は少し驚き
「えっ?」
「傷を直すにも時間が必要に、僕を見るにも、時間が要りませんか?」
「多田さんのお気持ちは有り難く、今日の胸にしまわせて下さい」
「あっ、お昼休憩終わりましたから」
沙友理は食べかけのお弁当をビニール袋に入れ、走り去って行った。
沙友理の目には沢山の大粒の涙が溢れていた。
もっと早く多田と知り合っていたら、裕太との出逢いがなければ、こんなに涙する事など、なかったであろう。
沙友理が一番感じているだろう。
走り去る沙友理を眺める多田は、こぼしたお茶の缶を拾い、ため息を付いていた。
ずっと沙友理の事が好きだった多田には、やるせない気持ちだろう。
多田は唐揚げがほとんど残っている弁当を、丁寧に片付け、ゴミ箱に自分の気持ちと、弁当に、さようなら、と捨てた。
夕方になると皮肉にも、カラスが多田の唐揚げを餌にたかるのだろうか?
沙友理は店に慌てて帰って来た。
「すいません…遅くなりました」
本棚近くにいた先輩が振り返った。
「沙友理さん、心配してたけど、大丈夫だった?」
「すいません、話が盛り上がっちゃって」
すぐ沙友理は荷物を置き、エプロンをかけた。
「沙友理さんが居なくなるのは寂しいよ」
後ろのヒモをむすびながら
「良い人が入ればいいですね」
「沙友理さんには、ファンが沢山いたから」
「すぐにお客さんも慣れますよ」
「あっ、その雑誌はこっちにして」
沙友理は笑顔で
「はい」
と本の移動をしていた。
駅前にある沙友理の本屋には、電車が通過する音が鳴っていた。
この本に囲まれた仕事が大好きだったのに、今は早く辞めない気持ちだった。
多田さんに悪い事したかなぁ?
沙友理は多田さんの、傷を直すにも時間が必要との言葉に、多田さんの言う通りだと思っていた。
さぁ気持ち切り替えないと。
私は1人じゃないんだから。
「しらっしゃいませ」
「その本は左から2列目です」
お腹を触り母となる沙友理には、今しか考えれなかった。
過去を振り返るなら、見えない未来を信じたかった。
勤務時間も終わり沙友理は家の近所にあるスーパーに駆け寄った。
「お父さん、何たべるかなぁ?」
食材をかんがえながら
「たまには奮発して、すき焼きにしよう!」
少し材料は思いが、お腹の子供に声をかけ
「少しだけ、我慢してね、お母さん頑張るね」
よいしょ、よいしょ、と坂道を歩いていた。
家の玄関にたどり着いて、一瞬息を飲んだ沙友理。
まだあの恐怖から立ち直っていないのか?
恐る恐るポストにてをかけた。
ポストの中には、沙友理行きつけの、カットサロンの割り引きのハガキが入っていた。
「もう、来ないわ、来たって怖くない」
何をそう思える様になったのか?
沙友理が一番分かっている。
沙友理のお腹は見た目ではまだ分かりにくいが、洋服を着替える時に、若干出て来ている。
「すぐに成長するよね、頑張って生きてね」
洋服を着替え家庭用のエプロン姿で野菜を切っていたら、父親が帰宅した。
「ただいま」
「お父さん、おかえりー」
お父さんの帰りを今かと待っていた沙友理。
「今日もお疲れ様でした」
「会社に辞表出したのか?」
父親の鞄を持ちながら
「うん、今月末に退職する」
「そうかぁ…晩ご飯は鍋か?」
「ハズレ!すき焼きでした~」
クスクス笑う沙友理に父親は少し顔が優しくなった。
現実昨日の沙友理の話に納得も、良かったとは喜べない。
「お父さん、お風呂沸いてるよ」
「先に飯にするか!」
慌てながら
「すぐに支度するからね」
父親は母の仏壇に手を合わせていた。
「さぁ!誰にでも作れる、すき焼き、頂こうか!」
「失礼だわ、むかつく」
と怒りながら、鍋に材料を入れだした。
「沙友理?今後どうするんだ? 働かなくても、お前1人くらいなら、食べさせれる」
野菜を入れながら沙友理は
「子供をちゃんと産んでから、私がまたフルで働いて、お父さんには、お腹の赤ちゃんを見て欲しいの、ゆっくり孫と暮らして欲しいの」
びっくりした父親は
「孫の面倒? 勘弁してくれよ~」
「別にいいじゃんか」
「お父さんはまだ、心の整理すら付けてない、結婚も出来ない、相手の男に捨てられた、孫なんて……」
沙友理は箸を置いた
「ごめんなさい、でも気持ちは変わらないの、お腹の父親を愛しているの、私は前しか向かない事にしたの!」
父親は黙って器の卵をかき混ぜていた。
久しぶりにお父さんと笑える会話が出来た。
あれからピッタリメッセージカードも、ピエロ人形も贈られて来なくなった。
沙友理は「わかってんのよ」
洗い物をしながら1人呟いていた。
「お父さん~時計の音大丈夫だよ~またお母さん復活させてよ~」
「沙友理? 何か合ったのか?」
沙友理の洗い物の手が一瞬止まり
「怖くなくなっただけ」
また洗い物を洗い出す沙友理であった。
父親はまた椅子に乗り、時計の裏を触りだし、時計の時間になれば、鳴りだす設定にした。
「よし!またこれから鳴り出すぞ!母さんの時計だ!」
嬉しそうに時計を眺める父親に沙友理も安らいだ。
時計の時間がやってきた、ボーン、とキッチリ役目を果たす時計に、思わず拍手する沙友理。
「お母さん~復活したわよ~ごめんね。」
「母さんは大丈夫だ!」
「お父さん、今日から自分の部屋で寝るね、お父さんもゆっくり眠れるでしょう?」
「沙友理と昔の話したのしかったぞ」
「お父さんから解放してあげるわ」
お風呂の用意をしながら沙友理は父親に話しかけた。
「お父さん?」
「お父さん?
「体調悪いの?」
「お父さん?」
「沙友理…胸が苦しい」
父親は心臓辺りを両手で押さえている。
「お父さん、大丈夫だから、すぐ救急車呼ぶから、待っててね」
沙友理は慌てながら電話を持ち
「救急車って、110だっけ?119だったっけ?」
パニックになってしまっていた。
深呼吸をし。
「すいません、救急車お願いします、住所は○○市○○番地です、すぐにお願いします!
「お父さん、今から救急車来てくれるから、大丈夫だよ、私もここに居るから!」
苦しそうに胸を押さえる父親。
そばで何もしてあげれないもどかしさを感じていた。
すうく救急車のサイレンが沙友理の家に近付いて来た。
「お父さん、大丈夫だよ、もう少し頑張ってね」
沙友理は父親を抱きしめ救急車の到着を、今か今かと待っていた。
「お父さん、お父さん、大丈夫だからね」
大丈夫と自分自身にも言い聞かせていた。
お父さんは苦しそうだが
「大丈夫だ」
救急隊に
「急に胸を痛いと言い出して」
沙友理はどうすれば良いのか?
「娘さんですか?」
「はい、娘です、大丈夫ですか?」
救急隊は父親の意識レベルを確認しながら、受け入れ先の病院を探していた。
ピーポー、ピーポーとサイレンの音とガタガタ震える救急車。
「そこの車救急車が通過します、端によけて下さい」
救急車は他人事で見ると、早い気がするが、搬送される家族には、決して早い速度ではない。
救急隊
「詳しい詳細教えて下さい」
「今市さん、大丈夫ですよ、少しの辛抱です」
救急隊は父親の意識レベルの確認と、沙友理には父親の状況を聞いていた。
早く受け入れ先の病院に着いて欲しい。
2人の救急隊は役割分担で狭い車の中で必死に対応していた。
沙友理は父親の手を握り締め、ガタガタと揺れる救急車に耐えていた。
「普段からこんな発作はありましたか?」
沙友理は泣きそうな声になり
「いえ、初めてです、大丈夫ですか?」
救急隊は患者の脈拍、血圧、意識レベルを確認すると、搬送されるであろう、病院に報告していた。
「お父さん、お父さん」
救急隊
「大丈夫ですよ、あまり興奮しないで下さい、本人さんは、意識がありますから」
ガタガタが中途半端ではない。
急速な上に曲がる角度が付いて行かないのか?
ガタガタが恐怖さえ感じる。
「今市一生さん、57歳、男性で、意識は少しあり、受け答えの反応あり」
救急隊は沙友理の父親に終始声掛けをしていた。
沙友理は父親がこのまま亡くなってしまうのか?
「お父さん、1人にしないで!お願い!」
「大丈夫ですから、興奮しないで下さい」
何時間救急車に乗っているか?
錯覚するぐらい、沙友理には長い恐怖だった。
受け入れ先の病院は父親を待っているかのごとく、病院のストレスに移り、処置室に入って行った。
沙友理は待ちあい室で、医師からの説明まで、待つしかなかった。
1人になってしまうふあんと、恐怖に怯えていた。
看護師さん
「今市一生さんの御家族ですか?」
沙友理は覚悟していた。
「はい、娘です」
「先生の説明がありますから、中に入って下さい」
息を飲んだ、沙友理は、ゆっくり処置室に入った。
医師
「今回今市一生さんの発作は、心臓に疾患がありました、命に別状はありません、ただいつ発作があるか?分かりませんので、念のため検査してみましょう、かなりストレスも原因かもしれません、明日検査しましょう、今日は点滴処置出来ました、再度受診して下さい、お大事に。」
夜間の処置はあくまでも緊急の手当てだけだった。
本格的な検査は明日以降だとの事、点滴が終われば帰れそうだ。
少し安心した。
もうお父さん以外私には見方はいない。
そして沙友理は父親の病気が自分にも責任があると責任を感じていた。
処置室に入り父親に。
「お父さん、胸の痛み楽になった?」
「沙友理、心配かけたね」
その父親の気遣いに胸が痛かった。
「お父さん、一度検査受けようね? お父さん頑張り過ぎたね、有り難う」
父親は娘のその言葉に
「孫を見るまで、死ねないよ、母さんは迎えにこないから、安心しなさい」
沙友理には一番嬉しい言葉だった」
「孫の顔見るまで死ねない…」
父親の本当の言葉に
「必ずお父さんの孫頑張って産むからね」
場所は病気だったが、2人の決意は、固まっていた。
お父さんと向き合い話すなんて想像もしていなかった。
何をどう相談すれば良いのか?
いつも相談事は裕太の役割だった。
信頼していた、父親より愛していた裕太に裏切られ、親って可哀想な存在なのかなぁ?
黙っていても一番心配してくれるのは親なんだとつくづく今回で味わった。
お腹の子供も私を悩ませ、心配させるのかなぁ?
お腹をさすりながら考えていた。
私とお父さんは夜深夜に帰宅した。
「お父さん、仕事辞めてくれない?」
体調が思わしくない父親に問いかけた。
「大丈夫だよ、通院すれば良い話だ」
「私が働くし、お母さんが残してくるた、貯金もあるから」
父親は母親の仏壇に目をやり
「母さんの残してくれたお金使いたくない」
少し怒った口調になった。
「お父さんの治療の為に使うんだよ、お母さんの気持ち分からないかなぁ?」
「分かるから、手を付けたくない」
「お母さんの幸せは、私達が元気で暮らす事なんだと思うよ、違うかなぁ?」
一瞬父親は言葉を詰まらせた。
沙友理は父親の気持ちを確認するかの様に話した。
「お父さんに、今までご苦労様でした。ってお母さん言っとるよ、私には聞こえるけど、お父さん聞こえない?」
仏壇を眺め
「本当にそう思ってるのか?」
お母さんの写真は笑っていた。
「お父さん、今日は疲れたでしょう?」
肩を落として黙っている父親の背中が小さく見えた。
男性って弱いのね。
お父さんはお母さんがいないと駄目なんだね。
声には出せないけど私はそう感じた。
「おじいちゃん、早く寝て元気でいないと、孫抱けないよ」
冗談半分でおじいちゃんと呼んでみた。
「おじいちゃん、か…悪くないな」
少し笑ってくれた、お父さん。
「沙友理は強いなぁ!」
「だってお母さんの娘だから」
少しお母さんの自慢もしないとね。
2人は別々の部屋に入り、残り少ない明日の時間を過ごした。
お互いに離れて寝ていても、同じ事を考え、眠れなかったのかも知れない。
「お父さん、早く起きて!今日必ず病院に行ってね! 分かった!」
うるさいと言わんばかりに
「はい、はい、行きますよ!まるで母さんみたいだ」
私は会社に少し事情を話したいので、慌てて家を飛び出した。
会社に行っても父親の病気が心配な沙友理だった。
「おはようございます」
昨日徹夜で寝れなかった沙友理だが、笑顔だけは絶やさなかった。
「先輩…すいません、勝手なお願いなんですが」
先輩は本を両手に持ち
「沙友理さん、おはよう、どうしたの?」
「父親が昨日倒れまして、明日から2日間休ませて貰えますか?」
本を置き、スケジュールを見た先輩
「バイトに連絡してみるよ、大丈夫なの?」
「うわー助かります、月末の予定なのに、すいません」
「沙友理さんも大変だね~」
「有り難う御座います」
沙友理は頭を下げ、エプロンを掛け始めた。
本屋さんは昨日の出来事など知る事もなく、夜勤明けの本好きな常連さんなどがパラパラと入って来た。
多田も事情を知っていたのか?
「今市さん、昨夜大変でしたね」
と入ってきた。
沙友理さ少し驚いたのか?
「多田さんご存知なんですか?」
「ええ、前にも話しましたよね?消防と救急は同じ管轄なんですよ」
誰しも知らない事だろう。
消防と救急は同じ管轄でも、消防は救急車には乗れない。
同じ場所にいるだけで、それぞれの役割は全く違う。
しかし消防と救急は同じ部署により、情報くらいは耳に入っても、全く可笑しくない。
多田は救急隊から沙友理の父親の話をきいたのであろう。
「お父さん、大丈夫でしたか?」
沙友理は少し警戒しているのか?
「はい、大丈夫でした、多田さん何故そんなに詳しいのですか? 何故そんなに気にしてくれるんですか?」
多田は沙友理に誤解されていると思ったのか?
「今市さんの事が話になって…………」
沙友理は冷たく
「個人情報もないのかしら?」
「すいません…内部の話に首突っ込む僕が間違っていました……」
2人は黙り込んでしまった。
「大変だったの?」
気まずい雰囲気を消してくれたのは先輩の言葉だった。
「いえ、大丈夫なんですが、大事を取りたくて」
沙友理は混乱していた。
多田の情報と先輩の声かけに…
先輩
「緊急の時は相談してくれよね」
沙友理にはいつも笑顔で仕事では良き兄貴的な存在だった。
多田はバツが悪いのか、沙友理の言葉に困ったのか?
「今市さん、すいません…余計な事まで話してしまい」
「心配して下さる気持ちだけ、頂きます」
先輩
「仲がいいんだね、お2人は…」
多田にやきもち焼いているかのようなタイミング、冷やかしているのか?
「多田さん、ちょっと」
沙友理に誘われた多田は、店の隅で話し始めた。
「すいません、多田さん、私の携帯番号教えても良いですか?」
「はい、喜んで」
ポケットから買い物でもしたのであろう、レシートの裏に書き込もうとした。
「多田さん、それレシートですね」
沙友理は多田を見て、クスリと笑った。
多田は困ったのかの様に苦笑いをしていた。
店内は時間帯もあり、まだガラガラの状態で、2人の事を先輩は眺めていた。
「では、また連絡します」
「多田さん…」
沙友理はお腹をさすり多田にサインを出した。
「分かってます」
何かに吹っ切ったのか?
多田の気持ちは揺るがない笑顔を見せた。
「先輩、すいません」
職場に戻って行く姿を見届けると多田は本すら手にしないで帰って行った。
先輩は多田がいない事を確認するかの様に
「あれ? 多田さん帰ったの?」
沙友理は多田が何を用事に来たのか把握していなかった。
ただ、仕事の邪魔にならない様に連絡先を渡したのだろう。
「さぁ? 何の用事なのか?」
首を傾けた。
「いらっしゃいませ!」
沙友理の明るい声が店内をより一層明るくしてくれた。
電車の音も時間帯により変わりだした。
「沙友理さん、お昼休みしてくれていいよ」
時計を見ると11時30分に針が止まっていた。
「お先に休憩させて頂きます」
沙友理はまず父親に連絡を入れていた。
「あっ、お父さん?病院に行った?」
「行って来たよ、なぁ沙友理、今の病院は遠くて、父さん通えないから、近所のお医者さんに、紹介状を書いて貰ったんだ」
沙友理は多少遠くても大きな病院が安心だったように。
「大丈夫なの? 町のお医者さんで?」
「先生も定期的に様子見ようって言ってくれてるから」
少し機嫌が悪い沙友理は
「お父さんがいいならそうすれば」
投げやりの言葉になってしまった。
「大丈夫だ!沙友理は大丈夫なのか? お腹の調子は?」
「だから、お母さんの生まれ変わりだから、大丈夫よ、あっ明日から2日間お休み貰ったの!」
朝そんな話しすらゆっくり出来ていなかった父親は、少し驚いた様子だった。
「退職するのに、大丈夫なのか? 会社に迷惑かけてないのか?」
「心配症なんだから、お父さんは」
少し鼻で話す口調は母親似だった。
「気をつけて帰ってこいよ」
「じゃあね!」
お父さんは私がどれだけ心配なのか、分かってるのかなぁ?
父親は沙友理の一連のピエロ事件を引きずりながら仕事に向かった。
お互いに話す話題は暗い事ばかり。
あのピエロの犯人を確実の物にするには、沙友理のあの確認が必要だった。
沙友理の今の楽しみはやはり読者だ。
沢山の恋愛小説を読みあさり、自分と裕太を重ねていた。
沙友理が今手にしている本の題名は、貴方の裏切り、沙友理が今体験している事を知っているかのごとく、大切に鞄の中にしまっていた、その本には、途中で読み止まっている、しおり、が挟んであった。
「私が作者なら結末は、こうならないわ」
クスッと笑いながら、しおりを取り出し読み始めた。
沙友理のお昼休みは人と会わない時は、手作り弁当を食べ、本が今か今かと待ちわびる、在庫の部屋の片隅で、読書を楽しんでた。
有名作者や自主出版の作者の並ぶ倉庫である。
沙友理の携帯が鳴りだした。
非通知。
「ごめんなさい、全て分かってるから」
鳴り続ける非通知に沙友理は出る事はなかった。
「赤トンボでしょう?」
ほら聞こえて来たわよ。
赤トンボが…
怖がる様子すらなく、反対に挑発したいくらいの沙友理の目つきに、強い意志が固まっていた。
沙友理は赤トンボの主に。
「まだ、出番ではないのよ」
と囁きながら、鞄の奥に携帯を入れていた。
沙友理はまた裏切られた主人公の世界に入り込んだ。
時計を見て。
「あっ!時間だ!」
お腹を触りながら、裕太との再会を夢見ていた。
「お母さん頑張って来るからね!」
エプロンのシワを直し、後ろ紐をくくり直し。
「先輩、お先でした~」
ドアを開け。
「いらっしゃいませ!」
沙友理には今気になるのは父親の病状だけであった。
夕方近くになると電車の本数も通過する電車の数も増えてくる。
ここからが店のお客さんとの戦いである。
やはり週末は混み合い、万引きの数も多くなる。
現行犯逮捕は先輩の役目であった。
「あの主婦のおばさん、鞄に何か入れそうですよ」
先輩は背伸びをして沙友理の言う主婦を見ていた。
「ひと目気にするのは、怪しいなぁ」
「私と目が合っちゃいました!」
なかなかの常習犯はすぐに手出しはしない。
沙友理は本を片付ける振りをしてその主婦に近づいて行った。
エプロン姿なので店の人間だとは直ぐわかる。
主婦は何もなかったように店から出て行った。
最近小学生など低年齢の万引きも増えている。
文具類も置いてあるコーナーには、沢山の子供達が喜ぶ魅力的なキラキラシール。
友達同士で流行っている交換手帳など。
子供の万引きは至ってシンプル。
ほとんどの親は連絡すれば、逆切れされる。
「あのね!家の子供が万引きなんてする訳がないわよ! ムカつく書店だわ!2度と来ないわこんな店!」
毒説吐いてお金はトレイに置いて行く。
おつりは要らないからとトレイのお札は言っている。
やるせなくなる事も沢山あった。
仕事終わりの合図の様に、先輩が声を出した。
「沙友理さん上がってくれていいよ」
「お疲れ様です、2日間わがままさせて頂きます」
「気をつけて……」
私はエプロンを外し、買い物を済ませ、家路に急いだ。
あの赤トンボは私に何を伝えたかったのか?
電話に出れば良かったかなぁ?
沙友理のビニール袋には、おでんの材料が入っていた。
ビニール袋を2つ両手に抱え坂道を歩いていく。
後ろから人が歩く足跡が沙友理の耳に入ってきた。
歩幅数が違うのでやけに恐怖にかられる。
私なの?
ピエロの主なの?
携帯が鳴った。
関係ないのだが、どきっとした。
「今市さん発見」
「えっ?」
笑いながら
「後ろ、う し ろ ですよ」
沙友理は恐れながら振り返ると
「重いでしょう」
両手を出して微笑む多田の姿が見えた。
「驚かさないで下さいよ」
ビニール袋を持ち返しながら
「連絡1号です、偶然です、家まで送りますよ」
沙友理はこの多田が少し怖かった。
偶然が多すぎる、でも仕事は消防士は、間違いない。
「多田さんは不思議な人ですね?」
「そうですか?」
沙友理の疑問を質問してみた。
「多田さんのお仕事、お休みが多くありませんか?」
多田はクスリと笑い。
「1日勤務で2日休みなんですよ」
沙友理はまた質問した。
「例えば火事があれば勤務体制かわりますよね?」
多田と沙友理は歩きながら
「筋トレや練習はありますよ、救急隊より出番が少ないだけ、まだ日本は治安が良いって事です」
分かる様な分からない様な。
「足元気をつけてくださいね」
多田は重いスーパーの袋を両手に持ち囁いた。
「多田さんって不思議な方ですね?」
口元が緩む多田が
「いたって普通だと自覚してますが、不思議ですか?」
「ピエロの時も……」
「今市さんとは何か縁があるんですかねぇ?」
多田のその言葉の意味すら沙友理は分からなかった。
「お父さん帰ってるみたいです」
沙友理を待つかと家には明かりがついていた。
沙友理は少し笑顔で
「多田さん、有り難う御座いました」
「せっかくなので家まで運びますよ」
慌てた様子の態度に多田は沙友理が少し迷惑なのかと感じていた。
後何歩の家までの距離。
父親が玄関の扉を開け、沙友理の帰りを待っていた。
これも親子の感なのか?
沙友理は父親の顔を見て多田の顔を見て
「多田さん、有り難う御座いました」
玄関の扉から半分身体を出した父親が
「沙友理?」
2人が何故一緒なのか?
父親は驚いた顔をしていた。
「お父さん、ただいま」
多田が持っているスーパーの袋を沙友理は持ち
「お父さん、多田さん、お店のお客さんで、ピエロの時にもお世話になったの」
「それはお世話をお掛けしました、沙友理の父親です、どうぞ」
父親は多田を家に招こうてしていた。
沙友理は少し困った顔で
「お父さん、多田さんにご迷惑だから」
「多田さん? ご迷惑ですか?」
嬉しそうな笑顔で
「迷惑どころか、反対に良いんですか?」
父親と多田の関係など、面識すらない、何故知らない多田を沙友理の父親は招くのか?
「多田さんでしたね? 汚い家ですがどうぞ」
多田は沙友理の顔を見る事もなく
「では、お言葉に甘えて、お邪魔しま~す」
沙友理より先に多田は家に入って行った。
呆れ顔の沙友理は後から黙り玄関のドアを閉めた。
誘導する父親
「さぁ、さぁ、沙友理がお世話になりました」
テーブルにおでんの材料が置かれ、沙友理は無言で台所に立ち始めた。
父親と多田はお互いに自己紹介を始めていた。
夕食の支度をし始めた沙友理は、2人の会話を台所から聞いていた。
「そうなんですか?消防のお仕事を」
「救急隊からお父さんが運ばれた話し聞きましたが体調如何ですか?」
多田のアピールなのか?
ただの野次馬なのか?
沙友理は多田を台所からチラリと見ながら、お鍋がぐつぐついいだしたので、火を緩め2人の元へ入って行った。
「何盛り上がってるの?」
自分だけ会話のはみごになっていると思っている。
「誠実な青年だね多田さんは」
お父さんは多田を褒めだした。
裕太がその存在なら分かるが、お腹の子供の父親ではない多田を何故父親は多田を受け入れるのか?
「沙友理、飯の支度出来たなら、多田さん沙友理のご飯食べてやって下さいよ」
沙友理は父親の気まぐれですぐ帰るものと思っていたのでびっくりしていた。
「えっ? はい」
「何か図々しいですよね、僕…」
多田に遠慮と言う言葉はないのか?
父親と会話の中で意気投合しているのを聞いた沙友理は複雑な思いだった。
沙友理は妊娠していて、それは多田も知っている。
知らない男性の子供を身ごもり、会社も辞める沙友理に、何故多田は近づいて来たのか?
沙友理のピエロ犯人の正体は、あの人のはず。
沙友理の勘違いなのか?
ピエロ犯人は?
2人に熱々のおでんと、母親の自慢料理のいかなごの佃にを小鉢に入れ、茶碗に軽くご飯を入れた。
「お代わりしてして下さいね」
「美味しいです! 竹輪大好きなんです」
「案外こう見えてもって、沙友理は飯は上手いんです」
2人に褒めて貰っても、あまり嬉しくない。
多田さんが裕太だったら、私の気持ちも嬉しかったのに…
沙友理はまだ裕太を引きずっている。
覚悟を決めて子供を産む位だから、沙友理に取って裕太は忘れる事はない存在だった。
父親と多田は、上手い、と口に出す2人を見て。
「2人共、大きな子供みたい」
と2人に聞こえる様に言葉を投げかけた。
今市家は時には笑い声が聞こえていた。
沙友理の携帯が鳴りだし、テーブルから離れて、携帯を見た、非通知、沙友理は、ピエロの主なの?
もしかしたら?
裕太なの?
勇気を出して、非通知の電話に出た。
「もし、もし、」
沙友理が電話に出ると非通知は電話を切った。
誰だのだろう?
裕太なの?
今どんな暮らししてるの?
沙友理は父親と多田の事などうでも良かった。
この電話の主が知りたかった。
隣では父親と多田が楽しく食事をし、楽しく笑う会話が弾んでいた。
何年も前から、甥と叔父さんみたいな、距離まで近づいた関係みたい。
「お父さん、病気の原因は?」
大根を口にしながら
「軽い心筋梗塞で、大した事はなくて、町医者に見て貰い、定期的に総合病院に、検査に行く程度」
「安心しましたよ」
多田に笑顔が出た。
2人共、ましてや、多田はお酒は飲まない。
仕事柄のせいなのか?
アルコールは一切飲まない。
「今市さん、まだいたずらの連絡あるんですか?」
「いえ、間違いない電話でした。」
聞いているんだこの人。
早く帰って欲しかった。
時計は9時にボーンと鳴りだした。
「お父さん、多田さん、明日仕事よ」
「すいません、話が弾んで、また来て下さいな」
「こちらこそ、甘えてしまい…今市さん、ではまた」
多田は父親に礼を言い帰って行った。
沙友理は待ってましたの様に父親を突き放す発言をした。
「何故、多田さんを家に入れたの? 初対面で、いきなり、失礼だわ、あの多田さんも失礼な人だわ!」
沙友理に叱られ少し反省するかの様に父親は話し出した。
「彼は良い人だと思ったんだ、父さんが居なくなれば、多田さんなら沙友理を任せられる」
「私妊娠してるのよ? 多田さんの子供じゃないんだよ? 分かってるの?」
「人間性だよ、沙友理の彼は父さんに、挨拶に来た事あるか? 妊娠させておきながら、親に謝る事もなく、沙友理を捨てた男に未練あるのか?
沙友理はそんな事も分からない女性なのか?」
だからって多田を沙友理のわがままで、多田の人生を狂わせるのか?
ただ、多田が沙友理の親に会うと言う事は、沙友理の妊娠も含めての、正直な気持ちなんだろう。
「お父さんは多田さんにお腹の父親になって欲しいと思ってるの?そんな浅はかな考え方なんだ!」
「沙友理は1人っ子だ、多田さんなら、自分に家庭を持っても、沙友理を妹の様に、気にかけてくれる。 沙友理は父親探しをしているのか?」
お父さんの言葉には納得した。
「明日お医者さんなんだから、早く寝てよね!」
沙友理は父親の気持ちとは全く考えを想像していた事が恥ずかしかった。
お兄さん的存在ねぇ…
会社の先輩はまた違う兄貴的存在だった。
お父さんもお父さんなりに、心配してくれてたんだぁ…
ごめんなさい。
お父さん。
沙友理はお父さんの気持ちと多田に対する誤解を考え直していた。
荒いものをしながら。
水道は沙友理が手を止めていても流れていた。
多田の優しさは同情なのか?
そして会った事も偶然なのか?
沙友理は未来など分からなかった。
誰も沙友理の今後など分かる筈がない。
「沙友理 風呂空いたぞ!」
止めていた手の周りは水浸しになっていた。
「やっちゃった!」
沙友理はタオルで飛び散った水滴を拭いていた。
明日は父親とお医者さんに行くのので、早くお風呂に入り、部屋の電気を消した。
「お父さん、支度出来た?」
沙友理は、父の顔を見て笑った。
「お父さん髪の毛、後ろはねてるよ! 子供みたい」
「そうかぁ?」
髪を触りながら、照れくさそうに、沙友理の目を見ていた。
「保険証と紹介状もったわね?」
ぶっきらぼうに父親は
「母さんみたいな台詞いうな!」
少し気分が悪くなったのか?
無言で靴を履くお父さん。
沙友理はお母さんみたいに父親を急かした。
「はい、はい、早く行くわよ」
首を傾けて
「何故女の子は父親にキツい事平気で言えるのかねぇ…」
2人は紹介状を持ち小さな病院に足を運んだ。
総合病院と違って、往診もしてくれるので、父親はそこを希望したのだと、沙友理は少し安心した。
診察室に2人が入ると先生の説明は始まった。
白髪の父親より少し年配だが、言葉の優しさが安心させてくれる。
「今回は軽い心筋梗塞でしたが、お薬は必ず服用して下さいね。 年に1度は総合病院にお願いしましょう」
父親がお礼を言う前に
「今のところ命には別状はないんですね?」
その沙友理の質問に母さんみたいだなぁ?
と感じてた父親一生の顔が笑っていた。
「お父さん、良かったね、感じのいい先生で」
「家から近いのが一番だよ」
沙友理は半歩父親より先に歩いている。
父親はその沙友理の姿をどう思ってるのか?
父親なんて所詮娘には弱い生き物なのか?
会ってもない男性の子供を身ごもり、娘が男性と性行為した現実を、父親として何より辛い気持ちだろう。
それを承知で沙友理に寄り添う多田は父親としては、大切な存在なのであろうか?
沙友理は父親の胸の内など考えもしていないであろう。
少しお腹が若干ふっくらしてきたように父親一生は感じてた。
一生の知らない男性…
我が娘を捨てた男性…
娘の身体を汚した男性…
憎くて当たり前な筈ですある。
沙友理から妊娠を告白された時、一生は父親として、1人の男性として、どう感じだのだろう。
「沙友理、せっかく外出したんだから、出産の用意買いに行こうか?」
一生の精一杯の沙友理への愛情だった。。
「ありがとう、明日行こうと思ってたの」
一生の顔は少し曇っていた。
娘が哀れなのだと。
「沙友理、後悔しないか?」
一生の出す言葉はその後悔と言う重みを沙友理は覚悟しているのか?
「後悔はしていない、お父さんも、私が産まれた時、後悔した?」
一瞬沙友理の言葉に戸惑った。
沙友理はシングルマザーを望んでいる。
母さんがいてくれたら、俺はこんなに悩まなかった。
多分母さんに、おろさせろ、と投げていたと思う。
頑固親父で娘に嫌われていただろう。
そんな事を思いながら沙友理とベビー用品店に向かっていた。
沙友理は父親がベビー用品店など苦手なんて気にもしていなかった。
「お父さん、こっち、こっち」
手招く沙友理
「父さんは外で待ってるよ」
「1人は寂しいよ」
その沙友理の言葉に、1人で産み、1人で育てる我が娘が哀れだった。
一生は沙友理に手を引っ張られ店内に入って行った。
はっきり言って嫌だった。
本来なら沙友理の隣りにいる父親の存在はいない。
諦めるしかなかった。
ベビー用品店の店内は女性で溢れてた。
男性がたまにチラホラ居るだけ。
一生には場違いの雰囲気だ。
幸せに子供服を探す女性や、2人目を待ちわびる若夫婦。
「お父さん、これどうかなぁ?」
少し視線を感じていた。
親子で来てるが、父親と娘の光景に、自然と違和感らしい視線を。
「沙友理の好きな服選びなさい、父さんやっぱり外がいいよ」
沙友理に一万円札を2枚渡し、一生は逃げる様に店内から出て行った。
一生の目は涙がこぼれそうだった。
どれだけ沙友理を待っていたか?
「ごめんね、お待たせ」
沙友理の手には3袋を両手で下げて嬉しそうな顔で店内から出て来た。
「お父さんが持つから、かしなさい」
沙友理は父親に紙袋を2個渡した。
「お父さん、大丈夫?」
父親の体調も考え沙友理は1袋だけ手元から離さなかった。
見えない娘の気遣いなのか?
「お金足りたかい?」
「大丈夫だったよ、ありがとうね」
この会話は父親と娘の距離なのか?
母親ならもっと弾けた会話であったと思うと沙友理は感じていた。
「沢山買えたよ、お父さん、ありがとう」
「何か栄養のつく食べ物食べよう」
そんな不器用な父親は沙友理の顔も見ず歩いて行った。
不器用な父親の愛情である。
「お父さん、ここで食べようか?」
セルフサービスの食堂を指差した。
「おぃ、もっと肉なんかでいいんじゃないか?栄養取らないと…」
「これから沢山お金も掛かるから、贅沢な事出来ないよ、お父さんの好きな、焼き魚もあるし、快適なくらいよ」
娘の口が節約だの身体を労ってくれる言葉に、一生は、病気も時には悪くないかもと心の隅に思っていた。
「ほら、お父さん早くしてよ」
沙友理は父親の事などそっちのけのように歩いていた。
さっきの気持ちはどちらに?
一生はキツい事を言うが父親思いの娘に黙って着いて行った。
親から見ればいくつになっても可愛い娘、お父さん大好き! 大きくなったらお父さんと結婚するの! 世の父親も必ず幼い頃の娘の言葉を、忘れないでいると思う。
沙友理とセルフサービスのお店に入り、一生の好きな物をトレイに乗せた。
「お父さん美味しいでしょう?」
「なかなか旨い」
「卵焼きいただき!」
「沙友理の唐揚げ貰うぞ!」
たわいもないこの一時が一生には嬉しかった。
沙友理は無邪気に一生から取り上げた卵焼きを必死に食べていた。
この沙友理にあの残酷なピエロ時間が合ったとは思えない無邪気な顔をしていた。
「ご馳走さまでした!」
沙友理の携帯が鳴りだした。
「また非通知だわ」
沙友理が電話に出るとすぐ切れた。
「間違い電話か?」
「違うの非通知設定されていて誰だか分からないの」
ピエロの主がかけてきているのか?
一生にとって一番避けたい相手は違っていた。
「沙友理の、その…お腹の父親かもしれないぞ」
沙友理は、裕太からの連絡を待っていた。
席からバサッとと言う表現が一番適している。
「沙友理携帯屋さんに行こう」
沙友理はいきなり父親から携帯ショップの言葉が出た事に驚いた。
「どうしたの? いきなり…」
「もう 過去と縁を切れ」
裕太からの少しでも光が消えてしまう、裕太との繋がりがなくなってしまう。
沙友理の気持ちを確かめたかった。
「沙友理はその男に未練があるのか? いつか沙友理を迎えに来ると思っているのか?」
今まで沙友理が見た事がない口調で父親は沙友理を睨みつけていた。
「沙友理が今から歩んで行く意味とはそう言う事だと自覚しているのか?」
そんな事まで考えていなかった。
まだ裕太が迎えに来てくれると…
「お父さん、明日私が行くから…」
「父さんと行けない理由でもあるのか?」
行き止まりでバックも避ける道もない車のような気持ちだった。
父親と歩きながら、裕太、もう、さようなら、なんだよ。
裕太と歩んで行きたかったし、まだ本当に吹っ切れ…いないのか…
沙友理の前を歩くお父さんは、力強く携帯ショップに向かい歩いていた。
私とお父さんは携帯ショップに行き、いきなり番号札も取らずに
「この子の携帯番号を変えてくれ!」
「お父さん、番号札取らないと…」
憎いのであろう。
娘を捨ておきながら、無言電話をする相手。
一生にはその無言相手が裕太と思い切っている。
カウンターに座り、沙友理の携帯番号は、変わった。
裕太との連絡は完全に閉ざされた沙友理。
裕太…
さようなら…
「さぁ、これですっきりした」
父親は長い携帯ショップの話の疲れと、沙友理には近寄って欲しくない、存在がいなくなり、ドアが開くなり、両手を大きく伸ばした。
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