『私に気づいて…』
24歳の私が書く、初めての小説です。
完全な素人ですので表現力不足などはご了承ください。
フィクションですが、内容に不快を感じる方はスルーしてください。
多くの方々に読んでもらい、いつか読者様による感想スレ立ち上げてくれたら嬉しいな…
🍀プロローグ
2010年12月15日(水)…
午後2時…
こんな時間まで何かをすることもなく、ただ起きているだけの私…
洗濯物は3日に一度くらい。彼氏の作業着は夜中にやる。今日の朝9時くらいに干したけど、終わったらまた布団の中に潜る。
暖房使うと電気代もったいないから布団から抜け出せない。
最近は外に出ない…というより、出れない。出たくない。
いつからだろう…
誰とも会いたくないんだ…
新しいレスの受付は終了しました
- 投稿制限
- スレ作成ユーザーのみ投稿可
🍀第1章🍀【現在】
わたしは24歳、女。
いまはバイトしてなく、毎日暇なんだけど、かといって退屈してるわけじゃない。
彼氏は朝早くから仕事…
とりあえず朝は弁当と、おにぎりを持たすのが日課。たまに私が寝坊して買い弁のときも(笑)
『いってらぁ、気をつけてね』
彼氏を朝見送ってからすぐ布団に潜る…だって寒いしやることないしっ。
私はお腹も減らないから朝飯、昼飯は食べない。
ちょっと日差しが暖かくなってくる昼過ぎにようやく布団から出る。…というより、トイレに行きたくて仕方ないからね(笑)
なんだろう…
最近は何をするのも面倒なんだ。トイレに行くのも面倒って…わたし大丈夫か?
バイト辞めてからそろそろ2ヶ月経つな…
最近は近所のスーパーすら行けない。外に出たくないから。だから彼氏が仕事休みの日に一緒に行く。彼氏と一緒になら、なんとか外に出れる…。
彼氏が仕事から帰ってくるのは夜7時半~8時すぎ。彼氏は玄関で作業着脱いで、そのまま風呂場へ直行。だって汚い作業着なんだもんっ。
それからすぐ夕飯。
そしてすぐ就寝…。だいたい9時💧早い。
体を使って仕事してる彼氏だから、いつも腹減らして帰ってきて、お腹が満たされたら爆睡。私も一緒になって布団に潜る。少しでも彼氏のそばにいたいから…。
わたし、寂しがりやだから…。
わたしの風呂?ちゃんと入ってるよ。夕方にね☆
わたし、最近元気ないんだ…。自分でもよくわかる。
何に対しても無気力になった。
週に何回か、夕飯すら作る元気もないときだってある。
わたし、変わっちゃったね…
こんな自分にいつか彼氏も愛想憑くだろう。
時間の問題?
だけど、こんな自分でも
『いいんだよ、ゆっくりしてな』
って…
最近、笑顔すら無くした私に
『はるチャ-ン❤元気してましゅか⁉😍❤✨➰』
っと、昼過ぎにバカみたいなメールをくれるんだ…
クスッと笑える自分がいる。
悩んでる私に対しては
『気にしな-い🎵気にしな-い❗😁👍』
こんなメールだけど、その一瞬は救われた気持ちになれるんだ。
今の私には楽しみがない。
生きがいもないだろう…。
もちろん趣味もない。
タバコは値上がり直前に絶った。だって経済的に余裕ないと思ったから、だから我慢できた。
昔は楽しかったことも、今はやりたくない、やる元気がない。
私は料理が得意で好きだった。彼氏が美味しいって何でも食べてくれるから。
掃除も好きだった。部屋がキレイなのが好きだし。というか潔癖症?(笑)
でもね…
どうしてかな…
夕飯、作りたくない、作れない。
掃除、しなくない、できない。
違うっ。
やりたくても…できないんだよ。なんか。
私がバイトしなくなってからは、さらに生活はカツカツ。
彼氏の給料だけじゃ生活してけない。足りなすぎる…。
そろそろ金が尽きる…。
バイトは探すが、いまの私には働ける自信がない。
人と会うのもイヤだし、化粧すら面倒くさくなって…
面接に行くのも、履歴書の写真代とかもったいないって思うようになっちゃった。
髪は染めてるけど、引きこもりになってからはファッションや身なりには無関心。
ひどいプリン状態の髪の毛に、化粧っけのないスッピン、朝から晩までパジャマ姿…
高校のとき、ギャルだった過去が想像できないね…
とりあえずムダ毛は処理してるけど、最近は処理すら面倒になってきたよ…
バイトを辞めてから日に日に強くなる倦怠感…
なんなんだろう…?
(このままじゃいけない!昔の自分に戻って普通に暮らしたい!!)
と思うが、その気持ちが強くなって焦るほどに何もできなくなってしまうんだ…
ちょっと昔の私とは似ても似つかないよ…。
🍀第2章🍀【学生時代】
小学生の頃。
わたしは活発な女児だ。
学校では男子にも勝る活発ぶりだったと思う。
私には兄がいるが、その影響か男子と過ごすのは苦じゃなかった。
学校の休み時間には男子と混ざってドッジボール。帰宅してからはミニ四駆…。
兄の友達の家に遊びに行ったりもしてた。女の子が1人、邪魔者だったかもしれないけどなぜか楽しかった。
もちろん女友達とも遊んでた。だけど私は可愛らしい人形や女の子らしい遊びは好きではなく、女友達と何して遊んだかは忘れてしまった。
まず服装からして私は女の子らしくなかったのだろう…兄のお下がりの服を着ていた私には、スカートが嫌いだった。
不思議と兄のお下がりを好んで着ていたのかもしれない…。
たまに家族でお出掛けのときなどは、母親は私に女の子らしい可愛い服を用意してくれた。
その出掛け先で学校の友達とばったりあってしまったことがあった。普段、たいして話さない女の子だった。
次の日
『はるー、昨日ピンクのスカートはいてたね!(笑)』
みんなの前で言われてしまった私はとても恥ずかしかった。
それ以来、なんだかさらに男っぽく振る舞ってしまった記憶がある。
兄の後を追いかけ、兄ばかり目標にしていた。
兄が六年生のとき、その年の運動会で兄は組の応援団長を務めた。
私も六年生になって、その年の運動会には組の応援団長を務めた。身長150センチにも満たない女子が声を枯らして秋の空に叫んでいた姿が実家のビデオにおさめられていた。
いつからだったろう…
兄は塾に通いだし、中学受験し、地元の公立中学校には行かなかった。
入試の合格祝いに、兄は塾から大きなトロフィーをもらってきた。それがとても羨ましく、私も欲しいなって思った。
私は小学生3年生から器械体操と書道の習い事をしていたが、塾に行くとなるとこの2つの習い事には行けなくなる…だからギリギリまで塾には入らなく、小学6年の始めまで器械体操と書道を満喫していた。
入塾したのは小学生6年の6月頃だったかなー。
兄とは違う塾に行った。だって…兄が通った塾、つぶれてたんだもん(笑)
とにかく初めは塾の勉強について行けなかった。
負けず嫌いで完璧主義だった私は寝る間も惜しんで塾の勉強をがんばった。
小学6年になっての中学受験…今となってはよく頑張ったなぁ自分っと思う。
とにかくがむしゃらに勉強した。
入試合格したら大きなトロフィーがもらえると信じて勉強した。
わたし、幼い頃は純粋だったんだなぁ(笑)
単純っとも言うよって?(笑)
想像してたよりも中学受験は大変だった。
授業中、先生は私の知らない単語を当たり前のようにしゃべっている。長く塾に通っている他の生徒は聞き慣れたように説明を受けている。
だから私は他の生徒より2倍3倍も勉強したと思う。
短期間で集中してありとあらゆる中学受験に必要な知識を詰め込むのだ。
夏の合宿には【入試合格!】と書かれたハチマキを頭に結び、避暑地・軽井沢で過ごした。
ちょうどその合宿中に、わたしの12回目の誕生日があった。
なぜだかその時の自分の誕生日はウキウキする気分でもなく、毎日の勉強漬けで誕生日すら忘れてしまっていたのかもしれない。
偶然かもしれないが、ちょうどこの合宿中に初めての生理がきた。いわゆる初潮というやつ…。それも誕生日に。
(パンツが汚い!!なにこれ⁉💧)
とりあえず何の確信もなかったが、これが生理ってやつだろうと思った。
ナプキンの使い方もわからなかったし焦ったっけなぁ。友達に聞くのも恥ずかしいし。
授業合間の休み時間、混んでる女子トイレでゆっくりナプキンと格闘してるゆとりもなく、袋からの開け方も知らなかったからそのままパンツに敷いてたな(笑)
とりあえず、合宿の旅行バックにナプキンを入れてくれた母親の優しさには助かった。
合宿が終わり、その日の夜、母親に生理が来たと告げた。そしたらなぜだか喜んでいたっけ。
『あんたナプキンの使い方わかったの?』
『知るわけないじゃん。そのままパンツに敷いたけど上手く使えなかったよ。』
『バカじゃん!(笑)こうやって開くのよ…』
ナプキンの正しい使い方を教わり、夕飯は外食で赤飯を食べた。
赤飯…嫌いだけどね(笑)
塾で勉強していないときでも頭は常に受験勉強のことばかり。毎日覚える新しい単語の意味すらわからずに、ひたすら何かを頭につめていた。
小学校の休み時間、担任の先生に
『黙秘権って何だっけ?』
などと唐突に質問してみたり。…きっと可愛いげのない小学生だったんだろうな(笑)
秋が過ぎ…
冬が来る。
受験シーズンがきた。
自分なりに勉強は頑張った。やれることはやった。
4教科の志望校、2教科の志望校…全部で何校受験し、何校合格したかは忘れてしまった。
ただ第一志望校には合格できなかった。それが当時の私にはショックであった。
まぁ合格ラインに届いてなかったしね…受かったらラッキー☆ってな感じ。
私は合格した中学校のうち、4教科で受験して受かった中学校に進学を決めた。せっかく社会と理科をがむしゃらに勉強したのだから、2教科で受かった中学校よりも思い入れが強かったからだ。
受験が終わり、これで塾も終了っ!
世話になった塾の講師との付き合いは短かったが、何か濃いものが得れた気がした。
特に塾長には感謝してもしきれない。私がいちばん解らなかった算数を付きっきりで教えてくれた、優しい塾長…
『つるかめ算っていうのはね……』
『これは入水算って言ってね……』
『速さは、道のり、割る時間。これ絶対暗記だよ。』
…塾長、元気かな?…
私の通っていた塾も、いつのまにか無くなっちゃってたね…
それに気づいたときは結構悲しかったな…。
小学校卒業まであと少し。
そのわずかな期間、休んでいた器械体操と書道の習い事を楽しんだ。
受験勉強で体はなまり、やや太ったが、器械体操には差し支えなかった。むしろ体を動かせるのが楽しかった。
そんなこんなで小学校は卒業した。
中学校の頃。
自分の力で受験を突破し、新しい世界へ一歩踏み出すとき…
これから始まる中学生活に期待を寄せ、私は入学式を迎える…。
入学式。
真新しい、やや大きめの制服に袖を通し、期待と不安を抱えつつ親と入学式に行ったことを覚えている。
私が選んだ中学校は、男女共学。高校までエスカレーター式の、ばりばりの進学校。しかも中学部はできたばかりで私が四期生だった。中学校舎が新しい。
制服は男女共にブレザー。これから6年間ブレザーなんだ…と思うと、なんだかセーラー服も着てみたかったなと思った。私の地元の公立中学校がセーラー服だったからね。
一緒に入学してきた他の生徒は…
みんな何処の坊っちゃんやらお嬢様やら…プライドが高そうな雰囲気💦
それにメガネ率っ高っっ!
あっ…わたしもメガネしてたし(笑)
この中学校までは、家から片道1時間半以上はかかった。不思議と入学したての私にはそれが遠いとも感じさせなかった。
朝は6:20には家を出なきゃ学校に遅刻してしまう。
しかし、すんなり無遅刻だった。
通学時間の長さより、校則の厳しさの方がキツかった。
これだけ通学時間が長いと、帰宅する時間が読めないのだ。学校から駅までのスクールバス、一本に乗り遅れたら相当予定が狂ってしまう。スクールバスのくせに規定時間発車だったし。
帰りに電車が人身事故だの起こってしまうと…😱
だから母親はかなり心配した。
やや過保護だった母親に、入学してからケータイ電話を持たされた。
『帰るときに電話してね』
空が暗くなっても帰らないと母親からケータイに電話がきた。
『いまどこっ!?』
ちゃんと帰ってるから安心してよ…💧
しかし規則の厳しいこの中学校…
ケータイなんて見つかったらすぐ個室へ呼び出しを喰らう。指導室という名の狭っ苦しい部屋に。
朝登校し、ホームルームが始まるまでの自習時間、早朝テストを生徒が取り組んでいる最中だった。
後ろのロッカーにある生徒たちの鞄の中身を先生2人が無言であさりだす。
『っ!!💦』
もう生徒たちは早朝テストどころではない。みんなヒヤヒヤしていただろう…。
ゲームやウォークマンなどが見つかった生徒は呼び出され、例の個室へ誘導された。
(やばい!ケータイが鞄の中に入ってるんだ!💦)
どうせ私もケータイ見つかって呼び出しか…と覚悟していたが、なぜか大丈夫だった。鞄の外チャックの、さらに内ポケットに忍ばせていたから見つからなかったのだろうか…。
校内の中央にあるデカいホールでたまに行う学年集会…ここでは身体検査というボディチェックがあったっけな…。
教頭のつまらない話を聞き終え、生徒が一列に並んで教室へ帰らされるまさにそのときにボディチェックが始まったのだ…。
持ち物検査…通称「持ち検」
生徒は持ち検には慣れてきていた。鞄などの手荷物に学校とは関係のない物を入れてたら没収&説教。
だから常に身につけて持ち運んでいた生徒が増えたのだろう…。
さらに女子にはスカートの長さチェック。
スカートの上を折り返して丈を短くしてる女子も捕まる…。
そんな中、いきなりのボディチェック。
さすがにこれには引いたよ…。
慌ててスカートを捲り下ろし、長さをMaxにする女子生徒…しかし先生たちの鋭い眼差しが容赦しない。スカートに手を伸ばす女子…ボディチェックされる前に捕まる女子が多発した。
(うわー。わたし捕まるじゃん⤵)
私はスカート丈はいじってなかったが、万歩計をつけていたのだ。
もちろん万歩計も学校に関係のない物だから没収&説教。
しかし…
万歩計はバレずに済んだ。
助かった。
もとからスカートの長さがMaxだった私に先生は目を付けていなかったのだろうか…。
こんな校則の厳しい学校に違和感を感じながらも、入学して初めてのテスト<定期テスト>の成績は上等な結果が出せた。
通学時間の長さを利用し、行き帰りの電車の中でも勉強していたからだ。
そう、私は優等生だった。
小学校のときの活発な少女の面影はなく、どこか内気な、物静かな少女となっていた…。
とにかく、この中学校は勉強!勉強!勉強!ばかり。
毎日課せられる宿題の量もハンパなかった。
だから毎日勉強しなければ勉強に付いていけなくなるという不安があったのだろう…。
家に帰ってからも机に向かう毎日。
小学生から続けていた習い事もいつしか行けなくなった。行く時間がなかった。帰る時間が遅くて習い事に遅刻してしまうから、習い事はやめてしまった。
中学校入学して初めての夏休みがきた。
これまた膨大な宿題の量だこと😢
私は小学生のときから夏休みの宿題は先に片付けてきた。宿題という厄介な荷物を終わらせてから思いっ切り遊ぶ方が気が楽だと思ってた。
もちろん中学のときも変わらずに夏休みの宿題を片っ端からやっつけていた。
しかし…終わらない。
各教科の先生は夏休みの毎日を勉強させるほどの宿題の量を出していた。
毎日3時間は机に向かわす方針だったと、後になって保護者会を終えた母親が言ってた。
だから中学初の夏休みはほぼ宿題の毎日…。
現代文の教科なんて、分厚い2冊の文章読解問題集と漢字問題集、それに漢検の勉強という宿題が出された。
コツコツ頑張る私でもかなり滅入った。
だって、夏休み終了後、始業式早々に<実力テスト>が待っていたから。
<実力テスト>は真面目に夏休みの宿題を行った生徒が高得点を取れるようなシステムになっていた。
課せられた宿題の問題集には答え用の冊子が挟まっていた。
もちろん解いた問題は自分で答え合わせをやれ、その上、間違えた問題は復習し理解するまで解き直せ…
そう物語ってるのは言うまでもない。
<実力テスト>は夏休みの宿題の中からピックアップされた問題ばかりだったから、適当に答えを写して赤丸をつけた生徒にとっては点数が稼げなかったのは言うまでもない。
まぁ…果たしてこれを実力テストと呼べるのかと聞かれたら違うのではないか?と感じなくもないが。
真面目に夏休みの宿題を制覇した私は、見事にテストの成績に比例していた。
私はますます勉強しかやることのない優等生になっていった。
こんなに勉強がんばっていたのに…
今の私は…
私は親の言うことを聞く、いわゆる【いい子】だった。
兄も私立中学、私も私立中学。
専業主婦だった母親は私が中学入学を期に仕事に就いた。
たまに母親が仕事で夕飯時にいない日もあった。
この頃からかな…
夕飯のオカズが手抜き料理、惣菜物ばかりになった。
母親の作る唐揚げや、甘い卵焼き、すごくおいしかったんだけどな…。
母親が夕飯を用意できなかったときや、日曜の昼飯など、私が作るようになった。
『ちょっとお母さん仕事でご飯支度できないから、はるチャン作っといてね!』
『うん。』
別に苦じゃなかったから自分なりに料理した。
保育所の頃から見ていた母親の料理する姿…手際…味付け…それに私のオリジナルを追加した。
『はるチャン、今日の昼ごはん、お兄ちゃんのも作っといてね!よろしくね!』
『うん。』
『お父さんの作業着、ここ縫っといてくれる?』
『わかった。』
『雨が降りそうなら洗濯物しまっといてね!』
『はぁい。』
洗濯物はしまう+畳んどく。母親に畳むことまでは要求されなかったが、プラスアルファすることにより母親に誉められるし、なにより母親の機嫌が良くなる。
母親も仕事でストレス抱えてくるのがわかっていた。
私は少しずつ周りに気の遣うことを覚えていった。
そしてなぜか母親の言われたことにイエスとしか言えなかった。断れなかった。
中学1年生からのテストの成績が好調だったためか、先生からも期待された。
『次のテストも成績を落とさないように頑張りなさい。』
期待されるのは嬉しかった。
成績が良いと親にも誉められるし。
ただ…
ここの中学校では心から気のおける友達ができなかった。
【親友】がいなかった…。
いつも一緒の友達と話したり行動してなかった。
いや、私なりの親友はいたんだ…一人だけ。
休み時間は一緒に行動し、学校が終わると一緒にバスに乗って駅まで行った。駅からはお互い反対方向だったからホームでバイバイしてた。
中①の2学期だったかなぁ…
その親友と思っていた女の子が突然口を聞いてくれなくなった。
(…??なんで?)
あまりに突然だったから自分でも何が原因だかわかるはずなかった。
私は焦った…。
どうにか仲直りしたかった。
自分のどこに非があって相手の気を悪くさせたのか定かではなかった。けど私から謝ることで許してほしかった。
それでもその女の子に無視され続けた。
『ウザいんだよね。』
………………………。
たった一言、冷たくポツリと言われた。目も合わされることなく…。
胸の底から苦しく、悲しい気持ちが込み上げてきた。
涙をこらえるのでいっぱいいっぱいだ。
私はそれ以上、その女の子に近づかなかった。
これ以上「ウザい」って言われたくなかったし思われたくなかった。
この日を境に、2人には大きな溝ができた。
一緒のクラスなのにお互い目も合わすことなく過ぎていく毎日が続いた…。
年が過ぎ、中学2年生になった。
話すことも目も合わすこともない女の子と、また一緒のクラスになってしまった…。
まあ新学期でいろんな友達ができたから気が紛れたけど。
でも心のどこかでまだ仲直りしたいな…って気持ちもあったんだよね。
友達関係がギクシャクするのって、こんな思春期真っ盛りの女の子にとってはダメージ大きいし!💧
そういえばこの中学校、金持ちの子供ばっかりだったな…。
歯医者の娘や接骨院の娘。どこかの教師の娘やらで、ほとんど育ちの良い子供だらけ。
うちは平凡な庶民…。
何度か友達の家にお邪魔させてもらったことはあったが、どの家もデカいし、土地も広い…。
なんか住む世界違う…って子供ながらに感じた。
ある女の子は
『この腕時計、親に買ってもらった➰✨○万円したんだょ❤』
と腕にはめた新しい時計を朝から披露してた。
『先生はどんな腕時計してるんですかー?⤴』
担任の先生にも自慢しに行ってた。
と、なにかの拍子に、机の角だかにその腕時計が『カツっ』とぶつかった。
『あっ…』
その女の子の動きは一瞬にして止まり、腕時計にキズが付いてないか目を凝らして探してた。
次の日からその女の子は腕時計をはめてこなかった。
自宅保管か…。腕時計買ってもらった意味ないじゃん。結局見せびらかしてただけだし。
生徒は十人十色、いろんなタイプがいたが、プライドが高い女の子ばかりだなって感じてた。
また、ある女の子と2人でTDLに行ったときのこと…。
仲良くアトラクションに乗ったり、ワゴンで買ったスナックを食べたり楽しんでいた。
だが何故だか急に友達の機嫌が悪くなり、口も聞かずにツンツンし始めた。
明らかに顔は怒っていた。
(まじ意味わかんないんだけど…。)
足早に歩く友達の後ろを付いていくだけの私…。
『どうかした?』
と聞いても小声でゴソゴソ言って、TDL独特の楽しげなBGMでかき消された。
はっきり言ってこのときのTDLがいちばん楽しくなかった。早く帰りたかった。
私にはよくわからなかったが、急に友達の機嫌は治った。
『ごめんね~。仲直りしよう✨』
そう言われ、とりあえず状況復活した。
私は自分が言う発言で場の空気を盛り下げたくない派だ。
だから友達に理不尽なことをされても黙っていた。
そのTDLの女の子に本当だったら
『お前意味わかんねぇし。自分の気分でコロコロ機嫌変えて…性格わりぃんだよ。』
と言ってやりたかった。
だけど現実の私は何も言わずに空気に身を流していた。
『仲直りに💡2人で一緒のお揃いの買おう🎵』
そう言われて、別に欲しくもなかったデカい帽子を一緒に買ったっけ…。
TDLパーク内では被って歩き回れたが、帰りの電車ではかさばって邪魔だった。
もちろん家に帰ったらそのデカい帽子は二度と使われることはなくなるのだが…。
それからか、友達ってめんどくさいなって思えてきた。
私は広く浅い友達付き合いをするようになってた。
わたし以外にもそう感じる生徒は少なからずいたと思う。
だけどそういう子は不登校になったり、自主退学の道を選んでいた。
勉強についていけなくて退学して行った生徒も何人かいた…。正確に言えば学校側からの圧力により退学させられたのかもしれない。
学力の低い生徒は校風のイメージダウンに繋がるから…。
何も退学して行く生徒ばかりではない。
3年生になってからは留学の道を選んだ生徒もいた。
そんな生徒は学校から華のように扱われた。
留学する前日に担任の先生から花束をプレゼントされ、先生生徒共に涙を流してたっけ…。
私はそれを遠くから眺めていた。
ちょうどこの頃イトコの結婚式があり、それに伴い美容院でストレートパーマをあてた。
わたし、酷い癖っ毛…というより天然パーマだったから💦
結婚式の次の日、登校して授業の合間の休み時間に担任に呼び出された。
真顔で先生が
『その髪の毛、どうしたの?』
(…?)
(どうしたも何も…ストパーしただけじゃん💧)
『ストレートパーマをあてました』
『どうして?』
『イトコの結婚式があり、ボサボサの髪じゃみっともないので美容院に行きました。』
『そう…。それなら仕方ないけど、今後はストレートパーマをしないように。学校規則でパーマは禁止。ストレートパーマも禁止です。そのままの毛質で登校してください。』
どこまで規則にしばられなきゃならないんだ…。ストパーくらいいいじゃん。
それに毎朝アイロンしなきゃ外に出歩けない髪の毛なんだし。
いつもアイロンはしていたが、ストパーの効果は大きかったのだろう…。すぐ先生の目に止まったのだ。
後にまた呼び出され、今度はアイロンすらしてくるなと忠告を受けた。
(そんなん無理だし…!)
真夏のクソ暑い時期…
学校から家に着くまでの長い道のりで喉が乾いたものだ。
途中、乗り換えの駅の自販でジュースを買って飲んでいたことがあった。
それを見ていた誰かが先生にチクったのだろう…。
私は呼び出しを喰らう回数が増えていた。
まぁ、あの乗り換えの駅を利用してる生徒は少なかったから何となく誰かはわかっていた。
何かこの中学校、居心地悪いな…
そう感じ始めた3年生の初めだった。
友達関係やら学校の規則による重圧やら…
そう思い始めてから今まで何とも思わなかった通学時間の長さが苦痛に感じてきた。
教科書を学校の机に起きっぱにする「置き勉」はもちろん禁止。そもそも置き勉すると宿題など、家で勉強ができなかった。
だから私は毎日重い重い鞄を下げて通ってた。
学校指定の鞄だけじゃとても入りきらないので兄の使っていたバッグと併用していた。
漬け物石のような重さの鞄を2つ…よく登校したよな私。
荷物がシンプルな生徒もけっこういた。
そんな生徒は教科書を別にもう一冊買って、自宅用と置き勉用にしていたのだ。
そうすれば教科書を忘れたりすることもなければ先生に怒られたりすることもない。
教科書を忘れたらその授業は廊下でひたすら立たされたっけ…。
イヤな思い出…。
だが同じ教科書を2冊も持つことが私には理解できなかった…お金もったいないし。
だから私は毎日、重い荷物を抱えて家と学校の長い距離を往復していた。
こんな日常を高校生になっても毎日続けるのかなーと思うと面倒くさって思えた。
私は決めた。
高校は近いところに行きたかった。
高校受験を決意した。
しかし今の中学校に在籍のまま高校受験することは許されることではなかった。
要は自主退学し、地元の公立中学校に転入してからじゃないと高校受験できないって…。
3年の1学期が終わる頃、母親と一緒に担任の先生と個室で話をした。
『通学時間が長いので高校は別の場所へ行きたい。』
…こんなストレートに言えるわけなく…
少し重い空気の中、母親が口を開いた…
『あの…実は、親の勝手な都合で離婚することになりまして…』
(…!!?)
そんな口実、前もって聞かされてなかった私は酷くビックリした。
『…私がこの娘を引き取る形になりまして…、金銭的に余裕がなくなるので公立中学校に転入したいと考えております。』
よくそんな嘘を思い付いたもんだね、お母さん(笑)
先生は真剣な面持ちで話を聞いていたが、私は下を向いて笑うことを必死に抑えていた。
話が終わり、帰り道に母親に怒られたのもムリはない…
『あんた笑ってるのがバレたらどーすんのよ!?お母さん、一生懸命理由考えてきたのに!!』
一生懸命考えてきてその理由??
余計に可笑しくて心の中で笑ってしまった。
そして2学期から地元の中学校に通った。
制服は前の学校のブレザーをそのまま着てった。
もちろん、周りはセーラー服に学ランだったから私は浮いていた。
孤独だったが卒業までの半年間、我慢すればいいだけのこと。
もちろん、こんな短期間に親友などできるわけなかった。
幸いにもここの中学校は修学旅行はすでに終わっていた。仲良い友達もいないのに転入して早々、修学旅行に行けるかって…。
前の中学校は2学期に修学旅行を控えていた。
だから私は修学旅行を経験することはなかった。
地元の中学校に転入してからの成績も上々だった。
授業中に配られる数学のプリントやテストなんて、あっと言う間に解けた。
私が問題を解くスピードに生徒たちは驚いていた。
<いきなり転入してきて、目立つ制服を着た女子があっちのクラスにいる!>
私はちょっと学年の有名人にもなった気分だった。
廊下を歩いてるとヤンキーっぽい男子が声をかけてきたりした。
私は男子には興味がなかった。
中学校になってから男子とは距離を置いていた。
教室でバカみたいに騒いでいる男子が子供っぽく見えた。
中学校になっておとなしい女子に変貌した私にとって男子は煙たい存在だった。
男子に話しかけられても無視してた記憶がある。いま考えたら私サイテーだな…。
転入してからの学校の行事イベントには淡々と参加した。
と言っても体育祭と音楽祭だけだった。
その2つのイベントが終わると受験シーズンに入った。
学校側から推薦をもらえたが、うちの母親が
『あんたは全部一般入試で受けな!』
と私に言うのだ。
母親にこう言われたのだから私は素直に従った。
合格した高校の中で一番通学が楽なとこを選んだのは言うまでもない。
受験が終わってからの中学校生活はあまり記憶にない…。
この頃、私には初めての彼氏がいた。
3つ上の、高校3年生の彼氏だった。
受験シーズン中に模擬試験を受けに1人で電車に乗っていた日だった…
その日は日曜日。
制服を着た私は試験会場の北○住駅を後に帰宅していた。
駅から電車に乗ると、私は気持ち悪いオッサンに腕を捕まれた…
『これからカラオケ行こうよ。』
耳元でボソッと言われ、あまりの気持ち悪さと恐怖で私は硬直状態になった。
私は声が出なかった…
日曜日の昼下がりの電車内は空いてる訳でもなく、すし詰め状態ほどでもない混み具合だった。
しかし、この私と変なオッサンの異変には誰かしら気付いてくれていたと思う。
乗客からの白い視線を私は感じていた。
だれも私を助けてくれなかった…。
相変わらずオッサンは私の腕を離してくれない…。
(次の駅で降りて、全速力で逃げよう…)
電車が駅のホームに入り、速度が緩やかになっていく…
ドアが開くと私は走った。オッサンの絡む腕がほどけた。
ここの駅は乗り換えがある。電車から降りてからのホームや階段は意外にも混んでて、私はオッサンに追い付かれてしまう。
また私の腕はオッサンに捕まれて離してくれなかった。
するとオッサンが
『逃げるな!』
と大声を出した。
周りにいた大勢の人は一斉にこちらに注目したが、数秒後には何もなかったかのように歩き出す…
(誰か1人くらい助けてくれたっていいのに…。)
私は泣きそうになった。
私がこれ以上騒ぐとまたオッサンに大声を出される。
それが怖くてオッサンに腕を捕まれたまま私はオッサンの進む方向へ付いていった。
『ここの駅、カラオケないの?』
オッサンに聞かれるが私は無言の抵抗。
間違っても「カラオケはこっちにあるよ」と誘導してしまったら、起こりうる事は想像できたからだ。
駅の改札口を出て、私はオッサンに腕を引かれるがままだ。
オッサンは挙動不審な行動。せかせかと急ぎ足で私を連れ回す。
駅ビルのエレベーターに乗り込んだときは、エレベーターの中にいたオバサンや子連れ親子がすごい目でこちらを見る。そして私たちの周りには一定の隙間ができていた…。
みんなして私たちを避ける。
私をどこへ連れていくつもりだろう…。
今度は駅の西口へ向かっていく。
駅周辺にいた駐車場警備員の横を通ったが、またもや私を助けてはくれなかった。
しかし事態は急転回する。
『やぁ!!久しぶりっ!!』
(!?…)
若い男の人が駆け寄ってきた。
とたんにオッサンは逃げるように走り去っていった…。
(『久しぶり』って言われたけど…この人…だれ?)
頭の中でそんな言葉がグルグルしてた。それを遮るように
『大丈夫だったか?』
男の人は優しく尋ねた。
見ず知らずの人に助けられた嬉しさと、恐怖から解放された安心感の気持ちで満たされたとき、私の目からは涙が落ちた…。
『あっ…ありがとぅぅ……ござぃます…。』
言葉にならない声だった。
『おいー💦泣くなよー😅俺が変なことしたって思われちゃうじゃん😅💦もう大丈夫だから泣くな😄☀』
『はい…』
私とその男の人は、適当な場所に腰かけた。
『あの変なオッサンに連れ回されてたのに誰も助けてくれなかったみたいだね。オレ駅の改札から気付いたんだ…』
『…。』
『だって明らかに不自然だったじゃん!オレ心配になって後をつけてたんだ…。』
『…。(じゃあすぐ助けてよ💧)』
『でも何もされてなくて良かったな😁👍』
『はい…ありがとうございます。』
『そんな堅っ苦しくすんなよ☀ところでさっ君いくつ?』
『15です…。』
『⁉💦…15歳⁉⁉💦高校生じゃないの⁉💧だってその制服…??』
中・高一貫の学校だったから制服を見て高校生と勘違いしたのだろう。
私は自分の学校履歴を簡単に話した。
『へぇー何かすごいね🌀オレは18歳で高③💡オレも今年受験だ😅』
『そうなんですか?お互い頑張らなくちゃですね(笑)』
2人の他愛のない会話が弾む。
『でも偶然だよねー⤴オレ今日友達と遊ぶ約束してたんだ。んで駅で待ってたんだけど友達急用で来れなくなっちゃって暇してたんだ➰したっけ、目の前に怪しいオッサンと君が通り過ぎてさ………』
『君、やっと笑顔になってきたね✨笑ってる方が可愛いよ👍せっかく出会えたんだし、暇だし➰カラオケでも行こ🎵ってかオレたち付き合わない⁉』
『……。(…え⁉いきなり💦)』
私は戸惑いの表情のまま何て応えればいいかわからなかった。
(確かにこの人は私を助けてくれた、とても優しい人…でも付き合うって何すればいいんだろう?)
『よし❗じゃあ付き合おう‼よろしくねっ😁✨オレは悠太💡』
(まだ何も言ってないんですが…💧)
こういう場でもハッキリ言えない私は相手のテンポに従うまでだ。
もちろん、場の空気は乱したくないし。
なんだかよくわからずに初めての彼氏ができた。
初めての彼氏<悠太>に促されるまま近くのカラオケBOXに入った。
当時、よく流れていたサザン桑田の波乗りジョニーを悠太は歌っていた…。
私はGLAYが大好きだったから悠太にリクエスト…意外にも悠太の歌声はTERUのややハスキーなそれに似ていた。
それだけで少しだけ悠太に惚れた気がした…。
1時間もしないうちに悠太はマイクを置いた。
『こっちにおいで…。』
私は悠太の真横に座る。
何もわからないフリをしながら私は次に起きることが想像できた。
2人は少し見つめ合い、キスを交わした…。
かなり緊張していた私は変な汗をかいていた。心臓はバクバクだった。
『オレの上に座って…』
『えっ⁉ムリです💦わたし重いし…💧』
『いいから大丈夫だよ😌』
NOと言えない私はしぶしぶ悠太の上に、向かい合わせに座る。
もう一度、ぎこちないキスを交わす…。
キスをしながら悠太の手は私の胸に伸びる…。
(…⁉💧)
キスにより口は塞がれているので声が出ない。
今度はパンツに手がかかってきた…。
『……いやっ❗』
ここはカラオケBOXだし、ドアの向こうには行き交う人がよく見えた。
『大丈夫だって🐱』
私は抵抗できなかった。
つい数時間前に助けてもらった相手に歯向かうことができなかった。
悠太の手はパンツの中まで入り、私の秘部は愛撫された。
(これ…痛いんだよね…)
性行為をするのはこれで2度目となる。
私の初体験はレイプというか何と言うか…。
中③になってすぐの事件。
このときはまだ私立だったから電車通学。
学校が終わり、電車の乗り換えでホームに突っ立っていた。
『おいで。一緒に遊ぼう。』
声をかけてきたのは27歳前後の男。
バカな私は好奇心に負け、何も知らずに付いて行ってしまう。
『うちにおいで。楽しいことしよう。』
(楽しいことって何だろう…。)
内心、ワクワクしていた私。
そう…私は箱入り娘で純粋だった(←過去形ねっ☆笑)
ラブホの意味すら知らなかった。
クラスの女子が下ネタで盛り上がってても私には何のことだか理解できず話しに付いていけなかった。
しばらくして男の住み処に到着した。
男はCDデッキで音楽をかけた。
♪~オレは東京生まれ HIP HOP育ち 悪そうなヤツはだいたい友達…♪
夕方の刻…外は薄暗いが男は部屋の電気を点けない。
会話はない。
『……処女だよね?』
(ショジョってなんだ??)
<処女>の意味がわからない私はキョトンとした顔になる。
『まぁいいや。まずはキス…ねっ。』
男の顔が近づく。
私の唇に男のが重なった。
これが私のファーストキス。
甘くもなんともなかった。
ただ一気に恐怖感に襲われた。
男は私の制服を脱がし始めた。
私は怖くて震えていただろう。声も出ない。
服を全て脱がされ、私はあらわな姿になった。
『綺麗なおっぱいだね…。』
男の目は怖かった。
『血…出るかな…?』
男の言った言葉の意味がわからない。なんで血の話?わたし…刺されるのかな…
『布団に寝て。』
私は男の言う通りにする。
『足…広げて…』
恥ずかしいのと怖い気持ちが入り交じるが、男に歯向かえばもっと怖いことが起こるような気がした。
そして私のアソコに何かが当たる。
ゆっくりと痛みが増してくる…。
(…なに?なにしてるの!?)
痛くて涙が流れる…。
『あれ?血ぃ出ないけど処女じゃなかったの?💦』
もはや質問に応える余裕もない。
その後のことはあまり覚えていない…。
ただ私の鞄の中のケータイがうるさく鳴っていたことは覚えている。
帰りが遅い私を心配して、母親が何度もコールしていたのだ。
次の日、学校のイスに上手く座れなかった。アソコが痛すぎた。
…これが私の初体験になった。
…悠太に愛撫されるが、気持ちいい感覚には至らない。
『オレのも触って…』
この日、初めて男の人の大きくなったモノを見た。ビックリした。
兄や父の風呂上がりのそれとはかなり違う形だったからだ。
『そのまま…ちょっと腰浮かして。』
悠太の上に向かい合わせに座った状態のまま、私は腰を浮かす。
私のパンツを少し横にずらし、悠太のモノがゆっくり入れられる…。
ドアの向こうの人たちに気付かれないうちに早く終わってほしかった。
(こんなことしてたらカラオケする時間なくなっちゃうじゃん…⤵)
正直、まだ歌っていたかった。
セックスの気持ち良さも感じなく、ただ苦痛に耐えなければなからなかった。
それだったらカラオケで歌う方が楽しいし。
このときの私はこの行為が何を意味するか、知らなかったと思う。
セックス・性行為・エッチと言う名で、コンドームをつける<避妊>をしなければ赤ちゃんができるということを知らなかった。
2人は座った状態のまま、悠太が私の腰を浮かしながら腰を上下に動かしていた。
私は苦痛に耐え続け、悠太は満足したのか行為は終わった。
『そろそろ出よっか💦』
そう言われ、会計は悠太がすべて出してくれた。
お互いの連絡先を交換し、その日はそれで帰った。
悠太の家は千葉県、私は埼玉県だから反対方向の電車に乗った。
家に帰ってから今日起こった事を思い出し、急にドキドキした。
変にソワソワしてたから家族にバレないように装った。
模擬試験やったことなんて頭から無くなっていた。
(付き合うって、ああゆう事をするのかな…?)
当時の私の頭に
付き合う=エッチな事をする
という変な知識が加わった。
この日寝る前に悠太からメールが来た。
〔悠太だよ!!これからよろしくね!お互い受験がんばろう(^-^)b〕
デコメがなかったから絵文字で表現をした時代…。
これが私と初めての彼氏、悠太との出会いになった。
受験を終えて進路が決まり、私は悠太に会いたくて仕方なかった。
一応、月①のペースで会ってはいたが、まだ4回しか遊んでいない。
いや、遊ぶと言うよりエッチしかしていなかった。
会ってからバイバイするまで2~3時間。しかも私が悠太の地元の駅まで通ってた。
悠太も進路は決まっていたがバイトで忙しい感じだった。だから私から会いに行った。
駅で悠太と待ち合わせし、悠太の家でエッチしていた。
不思議と悠太の家にはいつも誰もいなかった。
エッチが終わるとすぐにバイバイ。
私にはそれが普通だと思っていた。
だけど、エッチしなくても、ただ一緒にいたい…そばにいてくれるだけで良かった…。
そう思ってる私に悠太は
『好きだから、愛してるからエッチするんだよ…。』
(へぇ、そうなんだ。私は愛されてるんだ…。)
私は悠太の言葉を信じていた。
私は悠太にいろんな事を教わった。…エッチに関することだけだが…(笑)
ある時、悠太はバナナを買ってきて、私にフ○ラの練習をさせた。
もちろんフ○ラなんて知らなかった私に、悠太は
『歯は立てちゃダメだよ。ちょっと吸うような感じで…』
と、バナナ講習してくれた。
初めて悠太にフ○ラしたときは気持ち悪くて涙目になった。
上手く首を使って動かせない私の頭を掴んで、無理矢理動かされたっけ…。そのときはちょっと怖かったな…。
また、あるとき悠太はメールで
〔今日電車に乗ってくるとき、パンツは履いてこないでね!!服はミニスカで☆〕
(えぇー嫌だー💧)
そう思いながら断ることもできずに私はノーパンで電車に乗り、悠太と会った。
『電車乗ってるときどんな気分だった??階段上ってるときはどうだった???』
この人は変態か?
その日もエッチするのみだった。
たまにはカラオケとか、どっか遊び行きたいなー。
『ねえねぇ、たまにはどっか遊び行きたいよ🐱』
『えー💧うちんちで十分じゃん🌀オレ、大学の学費とか払わなきゃいけないからバイトの金は使いたくないんだ…。』
(そうなんだ…。何か悪いこと言っちゃったかな…。)
だから私は我慢した。
悠太と遊んだのは……
初めて会った日…
悠太に変なオッサンから助けてもらった日のカラオケだけだった。
中学校…卒業式。
校長、教育委員会の偉そうなオッサン、PTAのオバサンなどの長い話。
卒業生による体育館でおきまりの卒業歌や答辞。
…まわりの女子は嗚咽混じりに涙を流す中、私は冷静に直立不動。
あんな短期間しか通学してなかったから涙なんか出ないし…。
卒業式後の、特に女子の間で盛り上がる写真撮影会には困った。わたし、友達あんまいないし…。
それに部活もしてなかったから後輩もいないし…わたし以外には後輩が群がり、私はまた浮いていた。
卒業アルバムをもらったが嬉しくなかった。
クラス別の個人写真…わたしだけ制服が違うから変に目立ってた。
3年間の思い出のページなんて、わたし2枚しか写ってないからね…体育祭と音楽祭…。
私の中学校生活が終わった。
高校生の頃。
いや~、近いってイイね♪
中学とは違って片道30分ちょいの通学時間になった。
高校生活は軽めに楽しく過ごしたかった。
すこし遅めの反抗期だったのかよくわからないが、優等生だった私は入学式に髪を染めてった。
髪を染めただけで気分も軽くなり、私はだんだんとあか抜けてく…。
髪が明るい+落ち着いた性格の為だったのか…入学式、指定された自分のクラスに入ろうとした時だった…
『あっ先輩ですかあ??』
(わたしの事?💦💦)
いきなり先輩と間違えられた。
わたし、老けてる…?(笑)
クラスに入り、出席番号順の自分の机に座る。
隣や周辺に座っていた女子とすぐに友達になれた。
他に髪を染めてる子は…
見当たらない。
ちょっと私浮いてるかな…?
クラスには生徒がほぼ揃った…
担任の先生も来た。
その時、私よりさらに浮いた子が入ってきた…
『おっ❗須藤チャンじゃ➰ん☀☀』
明らかにギャルな感じのその子は、教室の後ろの入り口から正面の黒板にいる先生に話しかけた。
『なんだお前💧オレのクラスか⤵⤵😞(笑)』
先生はギャルに向かって話す。
どうやら、そのギャルはダブり…留年者のようだ。
ギャルは自分の席に着こうと教室の中に入ってきた。
留年者というのと、ギャルの風貌に新入生は引いていた。
私も関わりたくないなーと思っていた。むしろギャルなんかと絡んだことないしっ。
『ねぇ名前なんてゆーの⤴友達なろぉよ❤』
『えっ⁉』
まさか。
ギャルが私に話しかけてきた💧
近くで見たらギャルは可愛かった。
髪はサラサラの金髪ロング、
色白でナチュラルなメイク、
細すぎもしない健康体な足を短いスカートからさらけ出し、
ルーズソックスをはき、
ダボッとした大きめの白いセーター、
指定の制服のブレザーは片手に持っていた。
『えっ⁉わたし⁉…デスか?💦』
『だって髪茶色い子、他にいないし➰➰』
なんだ、そんな理由で私と友達になりたいなんて…
この高校は規則がゆるかった。
まぁ入学式から髪が茶色かった私は後で先生に怒られたが…
『ちゃんと黒くしてこいよ🎵』
この程度しか言われなかった。
『わたしさぁ➰ダブって1個上なんだけど🌀敬語とかやめてね✨友達なんだし👍』
私はギャルと友達になった。
このギャルとの出会いにより、私の人生はちょっと変わってったかもしれない…。
相変わらず彼氏の悠太とは月①ペースで会っていた。
でもそろそろ終わりかな…って感じてた。
ある日、どうしても悠太に会いたくなり、悠太に連絡したが返事が来ない。
しばらくして
〔なんか風邪ひいたっぽいから今日は会えないかも…〕
と返事が来た。
私はただ悠太に会いたかった。無性に会いたかっただけだ。
どうせ私が悠太の近くまで行くんだし…
行っちゃえ!!
悠太にアポなしで私は電車に乗った。
その日は雨が降っていた…。
電車を降り、歩き慣れた悠太の家までの道を独りで歩く…。
雨は止む気配がない。
悠太の家の近くまで来て、電話をかける。
プルルル- プルルル- …
出てくれない…。
なんで?
プルルル- プルルル- プルルル-
私は何度もかけなおす。
もはや鬼電(笑)
雨の降る中、傘をさしながら30分は待っただろうか…。
プルルル- プルっ
『もしもーし…』
気だるそうな悠太の声。
『あっ悠太?どうして電話に出てくれなかったの?…』
『ごめん…寝てたわ。』
『そっか…。…あのね、私どうしても会いたくて…来ちゃった…』
『はぁ⁉会えないって言ったじゃん💧いまどこだよ?』
『すぐそばまで来てる…』
『ちょっと待ってろ。』
10分くらいしてチャリに乗った悠太が現れた。
『もうーいきなりどうしたんだよー💧オレ風邪ひいてるんだよ。』
『ごめん…。ただ会いたかっただけ…』
『今日はエッチも何もできないよ?元気ないし…』
(別にエッチがしたくて会いに来たんじゃない…ただ悠太に会いたかっただけ…)
なんだか私は悲しくなった。
悠太は本当にエッチしか頭にないのだろうか…。
この日はすぐバイバイした。
これが悠太と会った、最後の日になった…。
家に帰るまでの電車の中で私はいろいろ考えた…。
家に帰ってからも考えた。
恋愛ってなんなんだろう…。
ただエッチすることだけ…じゃないよね…。
もっと色んな場所に遊び行ったり、お互い楽しく笑ったり…。
何よりも<会いたい>、ただそれだけの私の気持ちが悠太により消滅したような気がしたんだ…。
私は悠太に冷めたんだ…。
別れよう。
私はメールで悠太に別れたい事を伝えた。
悠太はビックリしていたようだ…
〔えっ?急にどうした!?俺たちずっと一緒にいようよ?お前のことが好きだよ!〕
私の気持ちは揺れない。
半ば強引に別れた。
後ろめたさもなかった…。
高校生活がスタートして私は彼氏と別れた。
次はもっと素敵な恋を見つけよう…。
友達になったギャルと毎日一緒に登下校するようになった。
だって地元が同じだったんだもん。
よくよく聞いたら私と同じ小学校だったみたい。
同じ小学校の1学年㊤にいたんだぁ…。
なんか偶然。
登下校はギャルと行動していたが、校内ではギャル以外とも付き合いは広くしてた。
心から気の置ける<親友>が欲しかった…。
高校ライフは軽めで楽しく過ごすつもりだったが勉強には手を抜けなかった。
勉強することが当たり前に定着していたからかな。
学校帰りにはギャルと遊んだ…。
プリクラ撮ったりカラオケしたり。
ギャルと一緒にいればいるほど、私もギャル色に染まっていく…。
いつのまにか化粧もしていた。毎朝メイクを欠かさず頑張った。ルーズソックスは当たり前に履いてた。
しかし肌は焼かない…。
友達のその子が<白いギャル>だったからかな…。
ギャルと一緒に歩いているとよくナンパもされた。
私はチャラい男は苦手だ…。
しかしギャルはノリが良い。
一見、尻軽そうなギャルだが、いまだに初体験はまだだと言っていた。
ギャルは意外と硬派だった。
これはもっと後の話になるが…ある日ギャルに
『ねぇ➰ハル➰➰初めてエッチするときって足の毛とか剃った方がいいのかなぁ?💦』
と聞かれたことがあった。
『えっ💧それゎ…毛深かったら剃ればいいんじゃん?😅』
このとき本当にギャルは処女だったんだーって思った。
この高校は過ごしやすかった。
校則がゆるかった為か、あらゆる女子があか抜けていく。
元からギャルだった子もいたようで、本領発揮したかのように個性を出していた。
そういえば先輩も跳びきり可愛いのがたくさんいた。
階段ですれ違う先輩を見ては後ろを振り返り、(キレイで可愛いな…)と感じた。
この高校を選んで良かったーと感じ始めた頃…
第2の恋が訪れた…。
平日の学校帰り…一緒に帰ってきてたギャルとバイバイし、私は1人でまた電車に乗った。
向かった場所は…悠太の地元の駅。
一方的に別れて後ろめたさも感じなかったつもり…。
けど本当は寂しかった。
また会いたかった。
忘れたはずの悠太の香り…それを思い出させる街並みを見に行った。
行ったところで何にもないが、その懐かしい風景に想いが揺れた…。
私は駅からその街並みを眺めていた…。
夕方で駅は人混みに溢れていた。
悠太は大学生…。この人混みの中にいるのかなぁ…。
でも別れて正解だったよね…あんなエッチするだけの恋愛なんて、なんか違ったよね…もっと素敵な恋をしたかったんだよね…
そう自分に言い聞かせ、もう2度とこの地には来ないと決めたんだ…。
でも…なんかさっきから妙な視線が気になる…。
駅のロータリーのバス停の近くでうろうろしてるヤツが私を見てる気がする…。
だんだんそいつが近づいてきた…
しかし私は平然としてた。
だってそいつ…真面目そうな男の子だったんだもん(笑)
そいつが私の目の前までやって来た。
私服で、白いパーカーにジーパン。いかにも若そう。
『ねぇ何してんの?💡だれかと待ち合わせ?⤴』
『いや…違いますけど!!』
明らかに若そうなヤツが私にタメ口聞いてきたからちょっとムカついた。
いつもの私なら煙たい表情をして無視。
けど今日は違った…。
この男の子、チャラくないし、真面目そうな雰囲気だが背も高いしよく見れば良い男。
『どこの高校生?✨俺は高①だけど☀』
(年下に見えたけどタメかぁ。)
『名前なんてゆーの?😄良かったら番号交換しよ🎵』
何も悪意がなさそうだったし、これも1つの出会いか💡と思い、私は連絡先を交換した。
この男の子、ナンパしてきた割にはナンパに慣れていないのがよくわかった。
うまく会話が続かないのだ。
なので、あまりしゃべりもせずに私は帰った。
家に帰り、夜の7時くらいに男の子からメールが届いた。
〔今日は番号交換してくれてありがとね😄オレ、勇太っていうんだ❗よろしく‼〕
勇太…
神様のいたずらだろうか…
ついこの間まで付き合ってたのは
悠太…
名前、かぶってるし!(笑)
なんだろう…この<勇太>に少しずつ興味が沸いたんだ。
〔オレさー、歳上の人だと思ってナンパしちゃったけど💧タメだったんだね☀〕
〔名前は何て呼んだらいい⁉〕
くだらないメールだが会話は弾む。
〔あっ❗サッカー始まるからまたね🌀〕
ちょうどこの頃、FIFAw杯の中継ばかりテレビで流れていた。
(勇太ってサッカー好きなんだ…。)
前に付き合ってた<悠太>は野球部だった。
ちょっと対称的な2人…。
私はさらに勇太に興味が沸いてきた。
次の日も勇太とのメールは弾んだ。
勇太は私のことをナンパしてきた軽そうなヤツだが、やはりチャラくはないように感じた。
聞けば、勇太は男子校で、ああいう風にナンパでもしなきゃ女の子との出会いがないのだという…。
部活はやはりサッカー部。毎週月曜日が休部らしい。
そういえば勇太にナンパされた日は月曜日だった…。
そして私が1人目のターゲットになったらしい。
あの日、私がふらっと悠太の地元の駅まで行かなければ出会わなかった2人…
偶然だかよくわからないが、たまたま勇太と出会っただけ…。
でもそれが自分なりに運命のような気がしてならなかった。
わたしは勇太に恋をしていた…。
〔なんで私をナンパしたの??〕
〔えっ⁉だって…駅で目立ってたし。可愛いって思ったから。〕
〔別に可愛くないし💧太ってるし💦〕
〔あのさ、うちら付き合わない?一目惚れしたんだ…〕
私は嬉しかった。
私もいつのまにか好きになってた。
断る理由なんてなかった。
2人目の彼氏、勇太。
背は175センチで細身、少し濃いめの顔立ち、焼けた肌が印象的な男の子だった。
盛れば<速水もこみち>に似ていた。
メールからの付き合いになってしまった私たちは、お互い早く会いたかった。
しかし会えるのは勇太が部活休みの月曜日のみだった。
それが待ち遠しくてたまらなかった。
ナンパされてから一週間後の月曜日…
私は会いに行った…
2人が出会った駅まで…
もう2度と行かないと決めた駅に…。
勇太は高校までチャリ通だったから電車には乗らないのだ…。
自分から会いに行くのは今まで普通にしてきたから何とも思わなかったし。
一週間ぶり、会うのは2回目…
駅の改札を出ると勇太は待っていた。
今日は学ラン姿の勇太。
(彼氏なんだ…)
と頭のなかで意識してしまうと
恥ずかしくて勇太の顔がまともに見れない…。
まさに甘酸っぱい恋っていうのがピッタリだ。
お互い高校①年生だし、健全なお付き合いが送れますように…。
勇太は優しかった。
紳士的なヤツだ。
どっかそこらへんに2人で適当に座ろうとしたとき、ハンカチをポケットから取り出して(この上にどうぞお座りください…)的な。
さりげない優しさを与えてくれた。
プリクラを撮りにゲーセンに行ったとき…タチの悪そうな男子たちに囲まれたが勇太は私を後ろに隠して守ってくれた。
頼りなさそうに見えた勇太だったが、自然と私が甘える関係になった。
週に①度しか会えなくてもメールは絶え間なく続いた。
ただ…やっぱりサッカー中継になると、お決まりのように音信不通になる。
(サッカー好きなんだからそこは仕方ないか…)
と、自分でも割りきるようにしていたが心底さびしかった。
そんな中、第1回目の定期テストが近づいてきた…。
私はテスト期間になると登校時間を早めて、だれもいない教室で勉強するのが好きだ。
だから毎日一緒に登下校するギャルには断りのメールを入れた。
〔テスト期間だから、早めに学校行って勉強したいから先に行ってるね⤴🌀🌀〕
ギャルから返事は来なかったが、気にはしなかった。
ひとり、静かな教室で勉強しているうちにクラスの皆は登校してきた。
そのうち、ギャルも教室に入ってきた…。
『おはよう。ってかさー、なんで朝から勉強するわけ⁉まじ意味わかんないし。』
ギャルにそう言われ、私は困惑した。
ギャルは朝から不機嫌だった。
(別に朝から勉強したっていいじゃん…。)
その日はあまりギャルと絡まなかったが、下校時間になると自然に2人で帰った。
『ねぇー明日も朝から勉強すんの??』
『えっ…いや、しないよ😅💦家でやるし。。。』
ギャルの機嫌を損ねたくなかった為、わたしは本心を言えなかった。
(あ➰ぁ⤵勉強したくてもできないし。)
まぁ家で勉強を頑張ろればいいだけの話だが…。
第1回目のテストは適当に頑張った。
しかし自分でも想像以上の成績が出せた。
クラスではトップ、学年でも1ケタの順位だった。
担任の先生にも驚かれたくらいだ。
『お前、見た目もしっかりしてくれればなぁー🐱🌀』
先生が私の髪や制服を見ながら言う。
ここの高校は少し名の通った進学校で、先には付属大学も続いていた。
一般入試した際、やはり倍率は高く、偏差値も高いように感じた。
受験も終わり、部活をやりだす時期のテストには気を緩めた生徒がたくさんいたのだろうか…。
一方、ギャルは……赤点の科目を叩き出していた。
ギャルにとってはそれが当たり前の事のようで、焦るわけでも落ち込んでいる様子でもなかった。
『うわぁ⤴赤点ばっか💡』
ギャルは自分の答案用紙を眺めながら言う。
『私も中学んときは頭良かったんだけどなー❤』
そう続けて言うギャル。
『はっ⁉まじ?💧』
その話が聞こえていた周辺の生徒と同じ表情をする。
まぁ、確かにそうだよね…。じゃなくちゃココの高校、入学できないしね。
高校生初の試験も終わり、またいつもの日常に戻る。
週①は勇太に会い、その他はギャルと遊んでから帰る…
私もギャルも部活はしなかったので帰宅部を満喫した。
しかし遊ぶと金はなくなる。
いい加減、親から遊ぶ金をもらうには恥ずかしく思えてきた。
なので駅近くのファミレスでバイトする事にした。
正直、毎日毎日ギャルと一緒にいるのは気が滅入ったから丁度良かった。
だってギャルとプリクラ撮ったとき、ギャルの写りが悪いと何枚も何枚も撮り直しさせられたから…。
カラオケだって延長!延長!の繰り返し…。自分の歌いたい歌に採点機能を付け、少しでも音程外したら同じ曲のリピート…。
そんなギャルに私は文句も言えずに毎日一緒にいたんだ…。
そして夏休みがやって来る。
8月は私の誕生日月。
夏休みとは言えど、勇太は相変わらず部活漬け。
わたしもバイトを頑張った。
勇太は合宿しに外国まで行っていた。
さびしかったが、朝からバイトすることで気が紛れる。ファミレスのランチタイムは尋常でないくらい忙しかった。
それでも、私の誕生日には一緒にTDLに行くことができた。
真夏の太陽が照りつけ、夏休みということでかなりの人混み…汗をかきながら長時間待ちのアトラクション…
しかし隣には大好きな勇太がいる…
それだけで充分しあわせだった。
夏休みも終わり、9月に入る。
毎週のように私は勇太の地元の駅まで通った。
いつも駅の周辺でうろうろし、マックに言って話をしたり、カラオケに行ったり…。
そんななか勇太に言われた…。
『あのさぁ、隠したくはないからハッキリ言っとくね…。』
『…なぁに??😓』
ちょっと聞くのが怖かった。
実は…この間の合宿先で……女の子に告白されたんだ。』
『えっ⁉合宿先って…外国人の女の子ってこと⁉💦』
『んまぁそうゆう事🌀💦隠しててゴメンね😅でもちゃんと断ったからね😋⤴』
断るって…当たり前じゃん。
ちょっと不機嫌になった私はもっと詳しく聞きたかった。
『本当にそれだけ⁉なんにもなかったの⁉⁉』
『…。断ったけど……日本に彼女がいるからって。でも、それでもいいから連絡先教えてって言われてさ💦住所だけ教えちゃった😣ゴメンね…。』
あぁ…やっぱり…。
相手は外国人で日本にいなくても、住所を教えてしまった事に苛立ちを感じた。
私はかなり嫉妬してしまった。
…合宿する前日の夜、少しの時間だったが勇太に会いに行ったのだ。
勇太の部活終わりの、ほんの数十分しか時間はなかったが私は会いに行ったのだ。
時間は8時半くらいだ。私も早く帰らないと母ちゃんに怒られる。
駅の改札口近くで2人は話をした。
『明日から日本からいなくなっちゃうし、ケータイも繋がらないけど安心してね😌✨帰ってきたらすぐに会おう❗約束だよ❤👍』
ほんの一週間の合宿だったが、毎日メールしていた私にとってケータイが繋がらないのはツラすぎる…。
私は何度も泣きそうな表情になった。
もうそろそろ帰らなきゃいけない時間になってきた。
そんなとき、勇太は2人の写メを撮ろうと言ってきた。
この頃、写メ機能が付いてるケータイが普及し始めていた。
駅の階段に2人は腰掛け、顔を寄せ合い、うまく撮れるまで何度もケータイのシャッターを切った。
お気に入りのベストショットが撮れ、お互いの待受画面にした。
『ほら💡これで毎日一緒だょ😄❤』
勇太は私を安心させ、わたしも笑顔になる。
私も笑顔で勇太を見送りたかった。
もうバイバイしなきゃ…。
この日は帰りの切符を勇太が買ってくれた。その大切な切符で改札口へ進む…。
改札口の横の、腰までの柵があるところ…
私は駅の内側から、勇太は外側から…
2人はその柵越しに手を繋いだ。
それまでこらえていた私の涙が溢れた…。
『勇太…気を付けてね…部活、がんばってね…。
早く帰ってきてね。』
涙でグチャグチャになった私を勇太は優しく抱き締めてくれた…。
柵が2人の邪魔をした。
改札を行き交う人々は、こんな初々しい高校生カップルを微笑ましい眼差しで見ていた。
『俺だって寂しいさ💦でもすぐ帰るから大丈夫だよ😄👍遅くなっちゃうから早く行きな✨電車に乗ったらすぐメールして❤』
『ぅん……勇太…大好きだよ、待ってるからね…。バイバイ…。』
『気を付けて帰れよ⤴👍俺も大好き❤』
涙で勇太の顔がにじんで見えだ。
私は涙を拭いながらホームへ行った…。
……こんなにドラマティックに見送ったのに!勇太ってヤツは❗(笑)
勇太のバカ…
季節も変わり冬が来る…。
私には悩み事がいくつかあった。
バイトはやりがいがあって楽しかったが、職場では私が一番若かったためか、場の空気に馴染めない…。
学校に行けばギャルと一緒に行動するのが苦痛に感じていた。
ハッキリと自分の主張を言えたらどんなにすっきりしたことだろう…。
もちろん、そんな事言える勇気もない私は愛想笑いしながら耐えていた。
それと…
試験が近づく頃になると、友達が私のノートを借りていった。
私は教科書や参考書の大切な内容も、自分なりに1つのノートにまとめていた。私にとってノートは財産に値するくらい大切なもの。
それがないと試験勉強できない…やる気がでなかった。
授業中にノートを録らなかった友達は寄って鷹って私のノートを借り回していた。
「イヤだ…貸したくないから無理。」
こんなこと言ったら友達いなくなっちゃうよ…
私は笑顔で自分のノートを貸していた。
ノートが試験前日まで返ってこないときもあった。
…私は勉強したいのに出来なくなっていた…
家に帰れば、お母さんが口うるさく言うんだ…
『はるかー⤴勉強してる??』
ノックもせずに、いきなりガラッと扉を開けてくる。
言われなくても毎日宿題していた。
内心、うるせぇなぁ…と感じる。
しかしそれがテスト期間になると毎日毎日言われたんだ…。
ノートが手元にない私は、ただ机に座っていた。勉強したくても、する材料がない。
やりたくてもできない【もどかしさ】…
それに母親からの「勉強してる??」の【追い討ち】…
私は…
ただ虚しくなった…。
家にいれば兄とケンカをした。
高校生にもなってケンカ??と疑問視するが、うちは激しくケンカしていた。
何が原因だったかは忘れてしまうくらい、くだらない理由だっただろう…。
そんな理由でさえも、兄は妹の私に容赦なく殴る。投げ飛ばす。
頭を思いきり壁に叩きつけられたときには、こめかみから血が垂れた…。
ガラスの扉に投げ飛ばされたときにはガラスが割れ、私の頭から全身にその破片が飛び散った。
体内に破片が埋まり、病院に行かなければわからないくらいだった。何日も気づかずに放置してたから後に手術を施したっけ…。
高校生のときはこんなものだったが、成人してからのケンカはさらに度が増した。
それに、まぁ高校生という年頃の女の子に…お父さんにはまだ小学生扱いされていた。
居間でテレビを見ていた私に、後ろからいきなりギューっと抱きつかれたり…
尻を触られたり…
風呂上がりの裸を見られたり…(故意に見に来ていたのかも)
ここまで綴ったら私のお父さんはただの変態オヤジ。
しかしまさしくその変態オヤジそのものだった。
この時期、私はお父さんに対して「クソオヤジ」と呼んでいた。
お母さんにはそれを訂正するように注意されたが、「クソオヤジ」以外に何て呼べばいいかわからなかった…。
まさにお父さんには「クソオヤジ」がピッタリだった。
※今は「お父さん」と呼んでます!(笑)
バイト先でも、
学校でも、
家でも…
私は自分の居場所を見失っていた…。
そんな、どこか寂しげな女子高生が当時16歳のわたし…。
すでに大きくなっていた心の穴を埋めに行くかのように、わたしは勇太に会いに行っていた。
勇太にすがっていた。
勇太に会えば寂しさが紛れた。
勇太は私に笑顔や優しさをくれる。
私を癒してくれるのは勇太だけ…。
ただ会うだけで私の心は癒えた。
私のことを理解してくれるのは勇太だけ…
そう信じて疑わなかったんだ。
今の居心地の悪い状況を勇太に相談したい…
勇太なら私のことわかってくれるはず…
勇太なら解決法を見いだしてくれるかも…
そんな気持ちで私は勇太に打ち明けた…。
『あのね勇太…。
なんか最近バイト先でも学校でも家でも自分の居場所がない気がするんだ…。
学校だと例のあのギャルといるのが嫌になってきてさぁ。
バイト先だと休憩中とか話し相手いないし…。
家に帰ればお母さんには「勉強してる?」って勝手に部屋に入ってくるし。お兄ちゃんとはケンカばっかり…。
』
『あのさぁ…せっかく2人で会ってるんだからそんな話じゃなくて、もっと楽しいこと話そうよ😞💧』
『………。💦💦そうだよね😅。2人で一緒にいるときくらい楽しみたいもんね💦ゴメンね…。』
(……。勇太…冷たい…。)
…勇太の口から予想に反する言葉が出てきたんだ…。
勇太ならわかってくれると思っていた…。
そう勘違いしていた私がバカだったね。
貴重な2人の時間にくだらない話しちゃってゴメンね…。
勇太にも相手にされなくなっちゃった…。
私って一体……
どこに居場所があるの…?
勇太と笑顔でバイバイしたものの、私の心にはさらに大きな傷が出来ていた…。
そんな真冬の12月の夜のことだった…。
もうそろそろ期末テストがやってくる。
いつものように朝は学校へ行き、そのまま帰りはバイトへ向かう…。
未成年の私は夜の10時以降は仕事ができないので、だいたいこの時間に帰る。
この日は自転車乗ってこなかったから徒歩で帰っていた…。
時計を見るとpm10:15。
吐く息が白い。
急いで帰ろう…。
私の足でどんなに急いでも35分はかかる道のりは、駅から離れるにつれて街灯もなくなり人気もなくなっていく…。
暗くて怖い道を下を向いて無心に歩いていた…。
何個目かの交差点に差し掛かると、右側から一台の白いハイエースが走ってきた。
その運転席側の窓が開き
『ねえねぇ✋いま帰り??寒いでしょ?😄家まで乗せてってくよ💡』
30歳くらいのオッサンだった。
私はそれを無視し、振り切るように小走りになった。
でも…
ハイエースは私にスピードを合わせ低速でついてくる…。
『よおっ☀寒いだろ??乗せてくよ🌀なんにもしないから大丈夫だって😄✨』
なんにもされないわけないだろ…
と思いながらそのオッサンと目が合ってしまった。
なんでだろう…
見た目は少しイカつい系で全くタイプではなかったが、私はその作業着のオッサンに妙に安心感を覚えた。
私のお父さんも作業着の仕事だったからかな…。
スーツ姿より作業着の方が親近感をもてた。
『ほら〰寒いだろ??隣乗んな💡』
『すいません…。ありがとうございます。』
ちょっとためらいながらも助手席へ乗らせてもらった。
『家、どっち方面??』
『この道を真っ直ぐです…。』
『…。俺さぁ❗女子高生ナンパしたの初めてだよ❗😁でもこんな遅い時間まで何してたの?』
『駅近くのファミレスでバイトを…。』
『あそこのファミレスか💡そこならよく行くよ😄なんか君の顔、見たことあるかもしんないし(笑)。』
そんな事を言ってると私の家まで近づいてきた。
『あっ…もうここら辺で大丈夫です。ありがとうございます。』
『早かったな🐱まぁ、とりあえずケータイの番号でも交換しない?⤴オレも連絡するかわかんないけど(笑)。』
乗せてもらったお礼とでも。私は番号を交換した。
ただ発信履歴に名前も付けないで残ってるだけ、それがオッサンの番号。
どうせ私からも連絡することはないんだし。
期末テストが近づいてくる…。
決まってお母さんが口うるさく言う…
「勉強してる?」
…と。
手元にノートがない私は…
やるせなくなった。
虚しさと悲しさと孤独感が私を襲う…。
それと同時に何かがふっ切れた。
私はコートを羽織り、ブーツを履いて家を飛び出した。
もう学校もバイトも家族も…
どうでもいい。
ただ逃げ出したかっただけなのかも…。
私はケータイを取り出し、発信履歴にある未登録の番号に電話した。
プルルルー… プルルルー…
(お願い…出て!!)
プルルっ ガチャッ!
『もしもーし?』
『あっもしもし?この間、夜に送ってもらった…』
『あぁ❗君か😄どうした?』
『いまどこにいます?』
『今仕事帰り🌀また送りか?(笑)』
『いえ…ちょっと会いたいなって…。』
『😓💦💦どうしたー?話なら聞くからちょっと待ってろ、すぐ帰る👍』
そろそろ私がいなくなった事に気付いた親から電話がかかってくるだろう…
私はケータイをマナーモードに設定した。
オッサンは間もなく迎えに来てくれた。
この間と同じ、白いハイエースだった。
『ボロい車でごめんな😄💧』
オッサンは笑いながら謝る。
聞くところによれば会社の車だと言う…。
私はお父さんの仕事車に乗り慣れていたから特にイヤな気にはならなかった。
『まさか君から電話かけてくるなんてさぁ💡夢にも思わなかったよ❗😅ぜったいかかってくるわけないって思ってたし💡』
私はオッサンを呼んだ理由を簡単に話した。
『そっか…。でも明日も学校でしょ⁉大丈夫なの⁉💧ってか俺でいいの?😅』
(俺でいいってゆうか…オッサンしか私を連れ出してくれる人いなかったし。)
『まっ💡オレも今カミさんと上手くいってないし…』
オッサンの左の薬指に指輪が光っていた。
(既婚者だったんだ…わたし悪いことしちゃったかな…。)
曇る私の表情に気付いたオッサンは
『これからどうする?とりあえず何か食べよっか😄』
『はい。
…なるべく家から遠くに行きたいな…。』
ハイエースは走り出す…
こうして2人の【家出】が始まった。
適当にご飯を食べたら、けっこう遅い時間だった。
『どっか寝る場所見つけなきゃな…💦
…ラブホでいいかな?😅』
『どこでもいいです…。』
ハイエースが通りかかりのラブホの駐車場へと入る。
部屋に入り、しばらくオッサンと話をした。
カミさんと上手くいってない事や、子供の話を聞かされた。興味のない私は聞き流していた。
途中途中、オッサンのケータイが鳴っていた。
きっと奥さんからなんだろうな…。
私も自分のケータイに目をやると、数十件もの着歴があった。
(うわ💦……)
これ以上ケータイを見るのが怖くなってバッグにしまった。
かなり夜も更け、丑の時刻になっていた。
アクビが止まらない私に布団へ入りなとオッサンは言う。
オッサンも一緒に布団へ入る…。
オッサンは優しく私の体を触ってきた。
この夜、私とオッサンはカラダの関係を持ってしまった。
いつの間にか私とオッサンは寝ていた。
気がつくと朝の10:30…
チェックアウトの時間は過ぎていた。
(初めて学校、無断欠席しちゃった…。)
わたしは少し罪悪感を感じていた。
オッサンも起きて、延滞金も払ってホテルを出た。
天気は冬晴れ。
どっかの国道沿いのファミレスでご飯を食べ、あてもなく車を走らせた。
オッサンも仕事を無断欠勤してる身…。
しかも2人が乗ってるこの車は社有車。
『この車…もし警察とかにバレたら捕まるな…。』
オッサンは前を見ながら言った。
仕事をバックれ、会社の車を乗り回しているのだから盗難車になるようなことを言っていた。
ガソリンもなくなりそうだった…。
あいにくオッサンは手持ちの金もなければカードも持ってないらしく、2人の【家出ごっこ】は長くて今日の夜までだった…。
時間とともに、私もオッサンも次第に無言になっていった。
『なんかゴメンな…連れ回しちゃってさ😞⤵』
オッサンが申し訳なさそうに私に言った。
『学校も休んじゃったし…。なんかオレ人生狂わせちゃったな😅💦ほんとゴメンな…。』
(私がオッサンを誘ったのに…謝るのは私の方だよ…。)
『私が電話で呼んじゃったから、悪いのは私です。奥さんにも子供さんにも、申し訳ないです…。』
『謝るなって😄でもオレ、楽しかったよ✨結婚して初めて浮気したわぁ👍…初めてカミさん以外の女に惚れたよ😌』
『えっ💦』
私は言葉に詰まってしまった。
『もう家に帰りな🌀駅まで送るから💡オレも家帰って〰新しい仕事見つけなきゃ😅』
走っていた一番近くの駅で私は降りた。
『んじゃあ元気でな✨楽しかったよ❗😄』
オッサンの運転するハイエースが去っていった…。
とりあえず、放置していたケータイを取り出し母親に電話した。
(連絡しなかったからお母さん怒ってるだろうなぁ…。)
しかし電話に出た母親は心配する声色で、優しく「今どこ?」と聞いてきた。
降ろされた駅は家から遠く、いちばん近くに住んでいた親戚が私を迎えに来てくれるように母は連絡網を回してくれた。
迎えに来てくれた親戚の車に乗り、そのまま親戚の家に着いた。
私は何も話さず、親戚の人にも何も聞かれもしなかった。
ただ、なんか疲れていたからすぐにベットで寝てしまった。
親戚の家で一夜を明かし、翌日母親が迎えに来てくれた。
母親に家出をした理由を聞かれるのは言うまでもないが、わたしは黙りこくったまま視線を下げ表情を曇らせるばかり。これが私にできる精一杯の抵抗…
どうせ理由なんか言ったって伝わりっこない、理解してくれない…毎日一緒に住んでる家族が私の微細な変化に気づいてくれなかった。それがイヤでイヤでたまらなかった。
でも、聞かれても答えない私もバカだよね…
答えないってゆうか、言えない…
言葉が上手く口から出てこないんだよね。
今でも変わらずそうなんだけどさ💧
母親にはサラッと家出の理由を伝え、しばらく学校には行きたくない意思を伝えた。
学校でのギャルとの一件は母親も理解してくれた。
試験間際に私のノートを借りに来る友達がいることも母親に伝えた。母親は意外にもそれを自分のことのように受け止め、遺憾の意を示していた。
これで私は第2学期末テストを受けなかった。
きっと留年だ。
ギャルみたいに…。
勇太…
わたしの相談に乗ってくれなかった勇太。
それでも勇太への好きな気持ちは変わらないままだった。
しかし家出を境に、会いに行くことはなくなった。
メールはしていたが漠然に少なくなった。
私が家出したとき、母親が勇太に連絡を入れたみたいで勇太もかなり心配したらしい…。
私はどこまで人騒がせなんだろう…
勇太からはたくさんメールが来るのだが、それに返信していく気持ちの余裕がなくなってしまった。
わたしからメールをしなくなっていった…
このとき、どれだけ勇太は心配しただろう…
勇太からの会いたいって言葉にも拒絶してしまった私って…
学校にも行かず、勇太とも疎遠になり、年暮れになる。
あっけなく新年になり、正月モードも消えつつあった1月6日のこと…
今でもこの日のことはよく覚えている。
1月6日の朝…
まだ布団の中にいた私はふとケータイに手をのばす。
なんか暇だしつまんなかったから、当時流行りの出会い系サイトを興味本意で初めて覗いてみた。
私は何を考えていたのだろうか…
〔16歳・女。車持ちの男性いませんか?〕
こんな内容を掲示板に載せた。
その掲示板には自分の写メなど載せるシステムがなかったが、すぐに何通も返信が来た。
その中で一番近くに住んでいた男性にメールを返した。
〔165/60、21歳、○○市住みで車あるよ〕
なんのためらいも無く、私はすぐにこの人と会う約束をした。
メイクや着替えを済まし、バックには化粧ポーチ、ミラー、鍵、財布だけを詰めam11:00には家を飛び出した。
ちょっと遊んだら帰るつもりだ。
財布には350円程度しか入ってないし…。
前回の家出を期にバイトも辞めちゃったしね。
その男性はわたしの家の本当にすぐ近所まで迎えに来てくれた。
道に詳しい人やわね-って感じた。
お互い顔は分からなかったが、こんな正月すぎの昼前で人通りの少ない道を若い女の子が一人…男性が運転する車はそんな私に気付いて停まってくれた。
白いセダンの車…その助手席のドアを開け、
『あっどうも-はじめまして。迎えに来てくれてありがとうございます。』
と挨拶しながら運転席の男性に目をやった。
肌が白く、キリッとした二重だが優しい顔…しかしどこか寂しげな表情をしていた。
あっ…足、短っ!💦
第一印象は正直こんなもんだった。
私も低身長で足は短いが、勇太に比べたらその長さの違いは一目瞭然だった。
運転席に座る、その男性の足の付け根から膝までの長さの短かさもスゲ-と感じたが、それよりファッションセンスの無さも強烈だった。
白いアルファベットのロゴ入りの青いトレーナー?的な上着に、白っぽいキャップ、UNI●LOに売ってそうなジーパン…
白っぽいキャップの下から覗かせるのは短髪の金髪…(笑)
突っ込みどころ満載っww
でも初対面だし、そこにはまだ触れないでおこう…。
『どこ行こっか⤴なんか行きたい場所とかある?』
『うーん………』
『んじゃぁゲーセンでもいい?』
『はい。。。』
ゲーセンまでの道中は40分くらいかかったが、男性は物静かで口数の少ない人だった。
マルメンライトのロングを吸っていた。
お互いの名前は教え合ったが、特に深入りする話しはなく私はウィンドウからの流れる景色を見ていた。
着いた先は【大●園】。
千葉の○川市ではそこそこ有名だと思う。
しかし初めて行った私にとっては印象的なゲーセンだった。
なにより広い。
こんなゲーセン、来たことなかった。
ただのアミューズメントパークなのだが、気分は高潮した。
山盛りになってるUFOキャッチャー。アームが触れただけで落ちてしまいそうな景品の山…。
UFOキャッチャーの設置台数の多いこと…見渡す限りUFOキャッチャー。店内にも店外にも。景品の品揃えも豊富だ。
屋外にはバッティングやカラオケ、ビリヤードもあり、ヘリや数台のスーパーカーも展示されていた。
別館?にはゴーカートが鳴り響く音とガソリンが燃焼する匂いがあふれていた。
そしてバラエティーに富んだパチンコ、スロット台も数多く並んでいた。
見ているだけで私の心は踊った。
男性が教えてくれた名は【真治】。
しかし名前で呼ぶのはまだ気恥ずかしい…。
「あの…」
と、彼の袖を引っ張り、気になるUFOキャッチャーを指差して夢中になって遊んだ。
真治はゲーセンが好きなように感じた。
私が指差すUFOキャッチャーの景品を楽しそうにかつ真剣に取ってくれた。
景品が下の取り出し口に見事に落下すると、満面の笑みを浮かべていた。
口数の少ない真治であったが、一緒にいてとても気が楽だった。
あっと言う間に時間は流れ、夕御飯もファミレスでご馳走してもらった。
『このあとどうする?家へ帰る?』
真治に聞かれるが、私は家に帰りたくなかった。まだまだ遊びたかった。
『まだ帰りたくない…。』
そう伝え、車はまた走り出す。
『今日どうするの?俺んちで寝る?』
『っ⁉💦……迷惑…ですよね?😅』
『オレは大丈夫だけど、君は大丈夫なの?学校とかあるんじゃない?』
『んまぁ…あるけど…帰りたくないってゆうか…。』
私は家に帰りたくなかった。また家出したい気持ちが込み上げてきた。
家にいても、どうせ自分の居場所なんてない…そう思い込んでしまっていた。
私は真治に家に帰りたくない理由を少し話した。
学校での話や、彼氏の勇太のことも話した。
そんな私に真治は
『そっか…。でも君の好きにしたらいいと思うよ。学校に行きたくないンなら行かなくていいと思う。家に帰りたくないんなら帰んなくてもいいと思う。でも親御さんが心配するだろうから連絡くらいは入れた方がいいよ。』
真治…
好きになってしまいそう…
今まで私は人の言われるがままに従ってきた。
親にレールのひかれた道をひたすら進み、学校ではギャルに気を遣い、勇太にも少しだけ気を遣うようになっていた…。
しかし、目の前にいる真治は私に【自由】を与えてくれた…。
〔自分の好きなようにすればいい…〕
この言葉がどれだけ私を救ってくれたろう…。
とても気分が楽になれた。
そんな新鮮な言葉をかけてくれて、自分に新しい道ができたように思えた。
勇太に相談したときは解決できなかったことが、真治は一瞬で私を悩みから解放してくれた…そんな錯覚に陥ってしまったのだろうか…。
真治についていきたい、そう思った。
しばらく家には帰らない…そう決めた。
しかし親に連絡はしたほうがいいって真治にアドバイスされたが、わたしは連絡しなかった。
完全に親とシャットアウトしたかった…。
ほどなくして車はアパートの駐車場に着いた。
(ここが真治の家かぁ…)
2階までで、4世帯しか入居できない小規模なアパートだ。
外階段を上がり、2階の部屋に向かう。
「お邪魔します…」
他所様の家にあがるときは靴を揃えて…っと♪
中に入ると比較的新しい雰囲気だった。
3DKくらいかな?
テレビとコタツと布団がある部屋に入ると、そこは男の一人暮らしらしい生活観溢れる部屋だった。
でも壁には画ビョウでぶら下げたぬいぐるみがたくさん飾ってあった。きっとゲーセンで捕ったやつだろう。
少しゴチャっとした部屋だったが、あまり汚くなかった。
「座りな。」
と言われたが、座る場所がわからなくてしばらく挙動不審になっていた。(笑)
真治は無心にテレビをつけ、2人で深夜番組を見入っていた。
「本当に家に帰らなくて大丈夫なの?」
「帰るのイヤだし…。」
「まぁ自分の好きなようにしな。でも後悔はしないように。」
こんなことを言ってくれる真治にますます心を許してしまった。
2人とも無言のままテレビに目をやっていた。
いい加減、眠たくなってくる…。
真治は一人、布団に潜った。
『……おいで。』
そう言われて私も布団に入る。
シングルサイズの狭い敷き布団は2人を自然と密着させた…。
『すきだよ…』
真治が小声で囁き、かるくキスされた…。
わたしの服に真治の手がかかり、するすると脱がされた。
…わたしは拒まなかった。
そのあとは真治に身を委ねた…。
寒い冬の夜だった…。
(勇太には別れを告げよう…)
そう決断した夜でもあった…。
翌朝ケータイを見ると、ものすごい着信件数があった。
すべて母親や親戚の類いの履歴だ。
わたしはそれを無視し、勇太にメールを作成した。
ただ〔別れたい…〕という一方的な文章を作った。
途中途中で何回か母親から着信があったから、それに出ないように気を付けながらメールを作った。
勇太にメールを送り終え、少し後ろめたさはあったがその反面スッキリした気持ちにもなれた。
…いつまで真治との生活が続けられるのだろう…
そんな不安が生まれつつあった…。
勇太にメールを送った、家出2日目…
わたしと真治はまた遊びに出掛けた。
一緒にいるだけで楽しかった。
常に誰かがとなりにいてくれるだけで嬉しかった。
わたし…寂しかっただけなのかな…。
真治は私をいろんな場所へ連れてってくれた。
時間が経つのが惜しいくらいだった。
家出3日目…
相変わらず私たちは遊びまくっていた。
まだ私が行ったことのない場所へ真治は連れてってくれる。
車持ちの人っていいなぁって感じた。
この日、わたしと真治は恋人同士になった。
1月8日のことだった。
夜アパートへ帰り、眠りに就こうとするとパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
私はその音に怯えていた。
きっと捜索願が出され、警察が私を探しているんだろう…
もし見つかったら私は保護され自宅へ帰される、真治は未成年をかくまったとして連行されてしまうのではないか…そんな不安ばかり募った。
真治の【親には連絡したほうがいい】という意見を聞き流してしまったせいだ。
きっとこうなることは解ってはいたが親に連絡するなんてゼッタイにイヤだった。
ケータイには着信履歴が増えるばかりだった…。
家出4日目…
『そろそろ自炊しなきゃヤバいかも。』
そう真治がつぶやく。
そりゃそうだ。
何日も遊び三昧、ご飯もすべて外で食べていれば金なんてすぐなくなる。
『そろそろ仕事しなきゃな…。』
そういえば今まで不思議に思わなかったが、真治は常に私と遊んでいて仕事なんてしてるようには思わなかった。
でも…仕事してないなんてあり得ない。
『明日は仕事行ってくる。』
…いったい真治は何の仕事をしてるのか全くわからなかった。
しかし私はそんなことどうでもよかった。興味ないし。
この日の夕飯は2人でキッチンに立ち、スパゲッティを作った。
一緒に食べ終わったら、後片付けも2人でやった。
なんでも2人でやるのが楽しくて嬉しかった。
いつでもどんなときでも、真治と一緒にやった。
すでに風呂も一緒に入っていた。
家出だったから着替えも用意してなかったが、パンツは真治のトランクスを借りていた(笑)
寝るときは真治のスウェットを着ていた。
身長の大きくない真治だったから、借りたものはちょうどよく着れた。
家出5日目…
『仕事行ってくるね。』
真治を玄関のドアで見送りバイバイした。
今日は真治に渡されたお金で近所のスーパーへ行き、食材を買ってきてと頼まれた。
真治のボロいチャリンコをこいでスーパーに行き、渡された2000円で何を買うか試行錯誤していた。
(苺ってこんなに高いんだぁ。)
なんて思いながら青果コーナーや精肉コーナーをうろうろしていたのだが、他の買い物客のおばさんの視線が冷たく私に向けられていた。
まぁね…高校生っぽい子が一人で昼からスーパーで買い物してたらおかしいもんね…。
自分なりに飯の材料をチョイスし、レジで会計を済ましたときにびっくりした。
自分の中では計1500円のハズだったが、なぜか1900円も請求されてしまった。
レシートをよく見たら、ウィンナーのシャウ●ッセンが600円くらいしていた。
(あれ…シャウ●ッセンなんてカゴに入れた記憶ないけど…💧)
その代わり、入れたと思っていた激安のウィンナーがなかったのだ。
(うわー💦間違って隣に並んでたシャウ●ッセン入れちゃってたんだ😱)
バカなわたしだ…。
まだまだ小心者の私は、いま買ったばかりのものを返品する度胸もなくそのまま帰ったのだ。
真治は夕方には帰ってきてくれた。
今まで常に真治と一緒にいたから仕事から帰ってくるのが待ち遠しかった。
『寂しかった?』
『メッチャ寂しかった。仕事行かないでほしい。』
…そんな私の一言で真治が仕事を怠ってしまうなんて……このときは思うはずなかった。
夕飯はもちろん、2人で協力して作った。
冷蔵庫にシャウ●ッセンがあることに真治が気づいた。
『シャウ●ッセン、高かったんじゃないの?💧』
『ごめんなさい…隣の安いウィンナーと間違って買っちゃった😅』
『バカじゃん⤴😄』
こんな他愛のない会話が弾んだ。
ただただ、楽しかった。
家出6日目…
真治は仕事に行かなかった。
私が寂しいと言ったせいだろうか…。
でもこのときは仕事も行かずに私のそばにいてくれる事の方が嬉しく思えた。
だから仕事に行かなくても心配などしなかった。
この日は真治はバイクに乗せてくれた。
アパートの駐車場にシートの被ったバイクが放置されていたが、真治のバイクだったようだ。
しばらく動かしていなかったためか、エンジンがなかなかかからない…。
なんども真治はキック?で頑張っていた。
初めてまたがるバイクに私は興奮した。
真治の後ろに…ぴったり密着するような体勢で…。
スピードを上げると共に真冬の冷たい風が容赦なく吹き付けるが、初めて乗るバイクに私は夢中で寒さも平気だった。
バイクに乗って風を切るのがなんとも心地よかった。
真治は常に私に新鮮さをくれた。
家出7日目…
そろそろ着替えが欲しいと思っていたので、親になんの連絡もなしに家に取りに行こうと思った。
お昼過ぎ…
1週間ぶりの実家には親の車はなかった。
玄関も鍵がかかっていた。
(家には誰もいないな…。)
そう思って安心して家に入った。
玄関をあがり、廊下を歩くと奥の部屋に電気が点いているのに気づく…。
それと同時に兄が現れて…
私は激しく殴られた。
兄は一言もしゃべらずに私をひたすら殴ってくる。
強烈な痛みが私を襲う、しかし私の頭の中は【???】だった。
なんでいきなり殴られるのか理解できなかった。
痛みでわたしがうずくまると兄が
『お前なに親に心配かけてんだよ!』
と言う。
私は兄をキッと睨んだ。
こんな暴力を振るってくる兄貴もキライだし、親もこんなときだけしか私を心配できないのが憎かった。
だから家出したんだ…。
親に心配かけてる?
違うよ…
心配されてないと思ったから家出したんだ。
兄を睨み付け、私は無言で自分の荷物を用意しはじめた。
『おまえ!人の話聞いてんのかよ❗』
また兄が殴る…。
用意した荷物が無惨に散らばる…。
そのとき部屋の奥にもう一人だれかがいた。
いとこのお姉ちゃんだ。
いとこのお姉ちゃんが兄貴の暴力を止めに入ってくれた。
しかし兄貴は殴ることを止めてはくれなかった。
そのとき玄関のドアが勢いよく開いた。
『はるか⁉帰ったの⁉⁉』
お母さんだ…。
お母さんが兄貴を止めてくれた。
私は殴られた痛みから泣き出してしまった。
『こんなお兄ちゃんが家にいるから帰りたくないんだよ‼』
私はこのときの感情を精一杯叫んだ。
『とりあえず…落ち着いて話をしよう。』
母親に言われコタツに座り、私が思っていることを吐き出した。
その中で親戚のオバチャンなどが来てくれた。
親戚中で家出した私を探してくれてたみたいだ。
このとき、私は自分のしたことの重大さに気づき出した…。
『みんな心配してるんだし帰ってきなさい…。』
その言葉に私は首を横に振る。
正直、みんなに迷惑かけたと気づいても全く家には帰る気持ちになれなかった。
こんな兄貴と一緒にいたらいつか殺されてしまいそうな気さえした。
私は親に、いま住ましてもらっている家があること、真治のことを話した。
そりゃあ親としてみればそんな場所に私が住むことは快く思わない。
それでも私は真治を信頼していたので、しばらく家には帰りたくないと主張した。
今日は必要な荷物を取りに来ただけ…そしたらいきなり兄貴に激しく殴られた。だからこんな家、余計に帰りたくなくなった…
と母親に言った。
頑なに家には戻ってこないことを母親に訴えた。
長い話し合いの中で母親は私の意見を承諾してくれた。
『じゃあ…しばらくはその人のお世話に甘えるしかないわね…。』
私は嬉しかった。
『だけどこれだけは約束して。連絡はちゃんとしなさい。』
『わかった…。』
きっと親不孝者だが、また真治と一緒にいれることのほうが良かったのだ。
こんな兄貴とおさらばできることにも笑みがこぼれる…。
さっさと自分の荷物を支度し、真治に迎えに来てもらってアパートに帰った。
『学校はどうすんの?』
『しばらくは行かなくていいって。お母さんが学校に言って担任の先生に相談だか何だかするみたい。』
『ハルはそれでいいの?』
『………
わかんない…。』
心のどこかで不安がありながらも、そんなことどうでもいいや!!考えたくない!!っという甘えた気持ちになっていた。
今まで積み上げてきたものが崩れてしまったのだ。
必死に中学受験をしたのは何の為だったのだろうか…。
何のために近場の進学校に入学したのだろうか…。
ただ私は現実から逃げたかっただけだったのだろうか…。
まだまだ幼かった16歳の少女が悩んでも解決策なんて見いだせずにいた…。
真治のアパートに私が飼っていたインコも連れてきた。
真治は意外にも動物好きだった。私のインコをとても可愛がってくれた。
そういえば…
毎日かかさず私がインコの餌や水を変え、家族は世話を手伝ってはくれなかった。もちろん、私が欲しくて買ってもらったインコだったから毎日わたしがしてただけで…。
私が家出してた間、だれかがこのインコの世話をしてくれてたわけだよね…?
…私はちょっとだけ家族の有り難みを受け止めた。
真治との楽しい毎日は続いた。
母親とも必要な連絡は取っていた。
しかし真治は相変わらず仕事に行かなかった。私が行かないでって言ったせいだけど…。
でも私は(お金…よく大丈夫だったな)って思っていた。
しかし1月も終わりに近づくと、さすがの真治も金が底をつく危機感に気づき始めていたみたいだった。
『昔、友達に貸した金を返してもらってくる。』
そう言って出掛けた日があった。
真治がアパートを留守にしている間、光熱費徴収のオッサンが支払いの請求に来たこともあった。滞納してたようだった。
真治はついにはバイクも売ってきてしまった。
これは私なりに結構ショックだった。
初めて乗ったバイク…
まだまだ乗りたかったな…。
その頃、母親から一報があり、
『あんた、アパートかどっかに住む?そしたらお兄ちゃんとも顔合わせなくて住むし、うちの近くのアパートに住んでもらったほうがお母さんは安心だわ…。』
そんなこんなで、アパートを探すために母親と不動産に出向いた。
実家から一番近くの物件にした。しかしここはアパートではなくマンションだった。家賃も安いわけではない。
『お母さん…もっと安いとこでいいよ…。』
『そお?お母さんはここが気に入ったけど💡』
このときはお母さんも借りる物件に半同棲してくれるものだと思っていた。
マンションの契約が終わり、引き渡される日が来るまで真治のアパートで過ごしていた。
3学期はとっくに始まっていたが、まだ1日も出席していない…。
確かテストもあったような…。
そんな中、私とお母さんとお父さんで学校に行った。
職員室の隣の、狭い部屋に通された。
担任の先生と長脚を挟み、面談が始まった。
『まずハルカさん…
2学期の期末試験と今回の試験は未受験です、ふつうならこの時点で2学年へは上がれません。
しかしハルカさんの1学期の成績、2学期の成績がかなり優秀で申し分ない。点数に置いては未受験のテストを含めても平均点を上回ります。受けた試験でかなり点数を貯金できたからです。それにハルカさんは勉強すれば優秀なのはわかっています。なので校長の方にも2学年への進学の許可をいただきました。
しかしこのまま欠席を続けたら出席日数が足りず2学年へは上がれません。
これから学校に出席し、残りの期末テストを受けなければなりません。
』
そんなことを先生は話していた。
『しかし、今回の家出の件…
ハルカさん、あなたがどれだけ親御さんに迷惑かけたか…親御さんだけではなくたくさんの人があなたを心配した。もちろん先生も。
どんな理由があろうとみんなに迷惑がかかる家出は良くないことだよ。
家出をするまえに誰かに相談してください…。友達でもいい、先生でもいいから。
しかし、学校側にも問題があったようだね…例のあの子だよね?それに関してはこちら側で十分に対策を整えておきます。
留年生をハルカさんと同じクラスにしてしまったのもこちらの責任です。少なからずとも影響があってしまったことは問題です。
でもあの子も悪気があったわけじゃない、ああいう子なんだよ。しかしこれからは一切関わるなとかじゃなくて普通に接していく程度でいいと思う。先生もあの子が傷付かないくらいに言っとくから。
ハルカさんが明日からでも出席できるような環境を整えとくからね。
』
『それと…
家庭環境も問題があったようですね…。
なにもすべてお子さんが悪いとは限りません。
お母さん…少しでもハルカさんの変化に気づいていましたか?気づいてあげられなかったとしたらそこに問題があります。
わたしも気づいているように、ハルカさんは素直に思ったことを言えない生徒です。人に物を頼まれたら断れない性格なようです。
心の中に思っていることを口に出せないお子さんは、大人が思っているほど以上にいい子を演じてしまいます。周りに気を遣って生活してます。それはそういう環境で育ってたからではないでしょうか?
毎日の会話の中で少しづつ心の声を聞いてあげられませんか?
それとお父さん…教育はお母さんに任せっきりですよね?それは非常に良くないです。お年頃の娘さんだからといって疎遠にしてはいけません…
』
先生は私だけでなく、お母さんお父さんにも説教をしてくれた。
そしてうちの兄貴の件に対しても、先生はお母さんお父さんに注意してくれた。
お母さんとお父さんは、ただただ先生の話を聞き入れていた。
ただの担任の先生なのに、ここまで話してくれるんだ…
ちょっとした金八先生のように思えた。
マンションに入居できる日が来たので、私は母親と電気屋や家具屋に行っては必要な一式を購入していた。
母親はすべて新しいもの、そして冷蔵庫なんかはファミリー向けのでかいやつを買ってくれた。
台所の小物は可愛いキティちゃんので揃えたりした。
しめて合計いくらかかったのだろうか…。
恐ろしくて聞けなかったなぁ。
私が新居へ引っ越しの準備で忙しい中、真治はついに金がつきたのかアパートを出ることにした。
私も合間を縫っては真治のアパートの片付けを手伝った。
ほんのわずかな期間だったが真治と過ごした部屋を去るのは私を寂しい気持ちにさせた。
真治は実家へ帰るみたいだ。
真治は原付きも持っていたが、それを実家まで持っていくのを私が手伝った。
持っていくというか、乗っていくのだ。
真夜中、交通量が少ない道を選び、真治の運転する車の後ろを追って私は原付きを走らせた。
もちろん無免許だ。
このとき、無免の罪悪感にかられながらも悪いことするって楽しいかも…と思ってしまった。
45分くらいの道のりをひたすら走った。
ただ真冬の夜のバイクは予想以上に寒かったー。
そして2月のある日…
私はマンションで暮らし始めた。
それと同時に学校にも登校した。
お母さんは…マンションには一切来てくれなかった。
だから毎日自炊や掃除やら買い出しにも行くことになった。
弁当も毎日作った。
どうせ母親が来ないのなら…
私はマンションに真治を呼んだ。
また2人の生活が始まった。
このことが母親にバレたらまずいことはわかっていた。
私はなんて悪い子供なんだろう…
真治はマンションに入り浸ってしまったが、独りで夕飯食べるのも寂しかったし一緒に買い物行くのも楽しかったしちょうど良かった。
生活費は親がいくらかくれた。
私が学校に行ってる間は真治は実家へ帰っていた。
久しぶりの学校…
クラスの女子の視線が痛い…。
そいつらの間で私に関するイヤな噂話が流れていた…。
しかし私に手を差しのべてくれる優しい子もいた…。
そう…
あのギャルだった。
『さっきアイツらがさぁ➰
ハルのことヤリマン➰➰とか変な噂流してたんだょね💥💥
はっ⁉💢勝手に変な噂作んなしっ❗って言っといたょ❤😄まじアイツら最低じゃね-⁉💢』
あー
ギャルも捨てたもんじゃないな…
こういうときのギャルの友情って熱いんだな…
なのに私は………
私はギャルに
(勝手に迷惑ぶっちゃってゴメン…。今はすごく感謝してる、ありがとう😢)
と心の中で礼を言った。
ギャルと一緒にいるのが嫌で学校に行きたくないこと…ギャルには伝わっていたのだろうか。担任の先生から伝わっていたのだろうか。
そうでないにしろ、ギャルは私に優しくしてくれた…。
友達…大切にしなきゃってホントに痛感した。
相変わらず私はクラスの女子からは煙たい扱いをされたが、ギャルがいたから乗り越えられた。
クラスの女子もギャルには逆らえないみたい。
ギャルにはそういう強いオーラがあった。
まぁ…歳も上なことですし。
終業式までの短い期間ではあったが、きっとギャルがいなかったら私はまた登校拒否でもしていただろう…。
クラスの女子の冷たい視線に耐えられない…なんて。
わたしはどこまで弱い人間なんだろ…。
そんな私のそばにいてくれたギャル…
今では感謝してるよ!
3月に入り、終業式も終えたら春休みがくる。
春休みの間は毎日真治と過ごした。
真治はどっから稼いできたのか知らないが、一緒にゲーセンやドンキに行ってはかなりの金を使っていた。
深夜を通り越して翌朝までゲーセンにいた。
このとき真治にスロットを教わったのだ。
大花火、ネオプラ、キンパル、巨人の星、アラジン、…今となっては懐かしい4号機たち。
ほぼスロットで景品をGETして遊んでいた。
おかげで部屋はあっという間にゲーセンの景品だらけ…。
それでも当時は楽しかったし。
2学年…新学期。
新しいクラスでのスタート。
ここから高校生活やり直そうと思った。
新しいクラスメートは人が良さそうな子ばかりで安心した。
まぁ始業式早々、遅刻したけどね。
ゲーセン入り浸りすぎたんで朝起きれず(笑)
真治と楽しく過ごし、高校2年生はあっという間に終わった。
勉強は昔ほどやらなくなったせいか、成績はガタ落ちした。
勉強が嫌いになったというよりはテスト期間が嫌いになった。
母親に「勉強してるの!?」と言われ続けられたテスト期間…
マンションに住み、母親がいなくなってもその口癖が妙に耳に残ってしまい私にストレスを与えた。
それに【いい成績を出さなきゃ!】という自分自身へのプレッシャーも逆効果になり、焦れば焦るほど気が散って勉強に集中できなくなってしまった。
勉強は怠ってしまったが少し興味のあった部活動の体入をしてみたり、思いきり学園祭に力を注いだりした。
これまで帰宅部だった私が夜遅くまで学校に残り、時には汗をかき、泥まみれになって帰った日もあった。
高校2年生は自分にとって青春したなぁと感じた年になった。
そして高校3年生になった。
なんだかんだ一緒につるんできたあのギャルの姿はなかった…。
また留年になったらしく、学校を辞めたみたいだった。
別の高校へ編入したみたいだったが、たまに電車で会ったときは言葉を失ってしまうほど進化した姿に変わっていた。
まず制服がない高校で私服で通学してたのだが、服装もヤバかったがそれ以上に肌の色にびっくりした。
いままで白い肌だったギャルが真っ黒に変貌していた。
一体この短期間に何回焼きに行ったのだろうか…。
髪の毛は色を抜きすぎたのか、艶のあったストレートヘアがひどくパサついた髪になってしまっていた。付け加え、ピンク色のエクステ…。
そして原色をふんだんに取り入れたカラフルな服装…。何重にも重ねたアクセが絶え間なく揺れている。
極めつけはでかすぎるテンガロンハット…。それで電車に乗って学校行くの?;
たまに連絡とって遊んだりはしたが、2人同士でいても私はどうも浮いてしまった。
進路も考えなくてはならない3年生…。
私は小さい頃からの夢があった。
婦人警察官になること。
白バイに乗る女性警察官に憧れていた…。
白バイは大型二輪免許…
免許がほしくて教習所に通った。まずは普通自動二輪。
倒れた状態のバイクを起こし、それに股がった私に教官は言った…
『おまえ足とどかないからやめちまえ。』
わたし…足は短いけどさ💧身長も小さいし。小学校卒業してから3センチも伸びてないし。
たしかに足は地に着かなく、かなり不安定でいつバイクが倒れてもおかしくなかったのだ。
パンチパーマのイカつい教官に圧倒され、免許は断念してしまった。
わたしって根性ないなぁ…
白バイに乗れなくとも、警察官にはなりたい。
どこかの大学に行く気はあったが、オープンキャンパスに行ってもいまいち実感が沸かなく興味も出ない…
そんな初夏を過ごしていた。
(あれ?そういえば生理が来てない…)
真治と一緒にドラッグストアに行き、初めて妊娠検査薬を買った。
マンションに帰って検査薬を使ってみたが、クッキリ陽性が出てしまった…。
こんなこと母親に言えるわけなかった。
真治はいまだに定職に就いておらず、私に産んでほしい気持ちはあったみたいだが現実的には厳しい。
もしこのまま過ごしても卒業前にはお腹が大きくなってしまい、余儀なく退学させられてしまうかもしれない。
もちろん母親に相談したところで産むなと言われるのは目に見えていた。
安易に産んでも、そのさき一生面倒が見れるのだろうか…金銭的問題の不安は消えることはないだろう…。
産んだあとに後悔しても遅すぎる話。いちばん可哀想なのは赤ちゃんだ。
産んでから面倒が見れなくなる…そうなるよりは…
赤ちゃんには本当に申し訳なかったが私は中絶の方法を選んだ。
真治と一緒に地元から離れた産婦人科へ行った。
古くからある産婦人科みたいで木造建築のその病院はどこか懐かしく、私の不安を取り除いてくれた。
診察台へ上がる恐怖はあったものの、おじいちゃんの先生だったので幾らか気持ちもやわらいだ。
そして初めて見る、わたしのお腹を写したエコー写真…
すでに3ヶ月ほど経過していたので、初めて見たわたしの赤ちゃんは想像以上に大きかった。
わたしはショックを受けた。
中絶するとは決めたものの、わたしのお腹の中で一生懸命生きていた赤ちゃんの力強さが写真を通じてひしひしと伝わった。
手術する日程を決め、その日はすぐ帰宅した。
マンションに帰って、しばらくお腹の赤ちゃんのことを考えた。
わたしの目から熱いものがが頬を伝う…。
あらためて自分のしてしまった過ちを悔やんだ。
なんて軽率だったんだろう…。
いつもは避妊していたが、あの日はなぜか避妊をしなかった。まさかその日で赤ちゃんができるとは思わなかった。
未熟なわたしのせいで育てることのできない命…
悔やんでも悔やみきれなかった。
妊娠して中絶するとき、傷つくのは女性というが、実際いちばん傷つくのは赤ちゃんだと思う…。
外の空気に触れさせてやることもできず、見させてあげることもできず、感じさせてあげることもできず…
本当にごめんなさい。
それから一週間後、再び真治と産婦人科を訪れた。
朝の8時…
複雑な心境のなか人工中絶手術が始まった。
診察台に横になり、オバチャン看護婦さんが点滴の針を慣れた手つきで刺す。
『これは全身麻酔ですからねー。10秒数えてくださいねー。』
『……。』
『声に出して数えてくださいねー。』
『いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅ……』
ここで私は意識を失った。
この後のことはまったく覚えていない。
気がついたら別室に寝かされていて隣には真治がいた。
『大丈夫?立てる?』
『まだフラフラする…。』
麻酔が覚めきらないままだったが体の痛みとかはなかったのですぐ帰った。
昼下がりの夏の陽射しが私の肌をジリジリ照りつけた。
帰宅してからもしばらく安静にしなくてはいけないと先生に言われていたが、なにもする気が起きなかった。
ベッドに横になり自分の腹を擦りながら考えた。
(わたしの赤ちゃん…どこに行っちゃったんだろう…)
(どんな顔してたのかな…せめて一目だけでも見たかったなぁ…)
(わたし…赤ちゃんに一生恨まれるのかな…)
もう涙がボロボロ落ちた。
自分でもなに考えてるのかよくわからなくなるほど泣いた。
私は1人の命を奪ってしまった。
酷い後悔の念しか残らなかった。
私にバチが当たっても受け止めようと思った。もう次は妊娠できない体になっても仕方ないと思った。
その代わり、もしこの先また妊娠できることがあるのなら…絶対に2度と中絶はしないと心に決めた。
…人の命の尊さを知った、17歳の夏だった…。
夏休みが終わり、2学期に入る。
そろそろ本格的に自分の進路について決めなければならないのだが、私は自分の道を見失っていた。
警察官について自分なりに調べてはいたが…各県警も警視庁も身長規定が定められていた。
それが154cmやら156cmだった。
わたしの身長じゃ全然足りない…。
わたし…警察官になれないんだ…。
私は一気に大学へ行く気が失せてしまった。
小さい頃からの夢が見事に崩れ去った。
それだけ思い入れがあったのでショックはかなり大きいものだった。
何かを見つけるために…新しい道を探すために大学へ行ったほうがいいと母親に言われたが、中途半端な気持ちで大学へ行くのも面倒くさかった。
この頃、わたしはマンションを出て実家へ戻った。
兄も落ち着き、もう私に暴力を奮わない約束をしたので実家へ帰っても安全だった。
実家へ戻り、あまり兄とは口を聞かないようにしたが、なにより朝ごはんや夕御飯を自分で作らなくても用意されてるのが嬉しかった。
ちょっと母親の有り難みを知った。
それに母親も昔と比べて【勉強!勉強!!】と言わなくなっていた。とても気持ちが楽になった。
…そのまま年も明け、私はセンター試験も受けることなく過ごしていた。
自分の将来のことなんて考えてなく、ただその時だけを過ごしていた。
あっという間に3学期になり、高校生活の最後を迎えた。
クラスに私と同じような生徒もいたから卒業後のことも何も心配しなかった。
ただフツーに高校生活が終わり、卒業式も終わった。
しかし…
今もふと考えるときがある…。
もし私が大学へ進学していたなら…
今よりもっとマシな人生を歩んでいたのかな…
一方、真治はコンビニの深夜バイトをしていた。
たいした給料ではなかったが遊べるくらいの金にはなっていた。
わたしも高校卒業したし、真治にはちゃんとした職に就いてほしい気持ちは日に日に増していくばかりだ。
もし真治がこのままバイトを続けるようなら…
別れも必要かなと思う。
それを真治にも伝えていた。
むしろ伝え始めたのはかなり前からだった。
私が高校3年生になったときぐらい。
『わたしが高校卒業するまで就職しなかったら別れるよ?』
この言葉は真治には届かないまま、わたしは卒業した。
真治はわたしに甘えてしまっているだけなのか…
どんなことがあっても、2人に【別れ】はないと思われているのだろうか…
ただ私もすっかり真治に依存していた。
決してカッコイイ男ではない。
決して浮気しない男ではない。
古着のTシャツかトレーナーに、UNI●LOのジーパン、ロゴ入りのキャップとN●KEのスニーカー。
それが真治のいつものスタイル。
出会い系のサイトを覗いては女の子とメールのやりとりを繰り返す。
こんなこと書いてしまえば真治に長所はないように感じるのだが、わたしはそれでも真治が好きだった。
一緒にいて楽だから…。
優柔不断な私を引っ張っていってくれる。
ちょっとしたことに包容力も感じる。
ただこれだけ…
これだけで私は真治とずっと一緒にいたかった。
真治は私のことどう思ってるのかわからない。
『ハルには俺がいなきゃダメ。ハルは俺が必要なんだ。』
こんなことをよく真治は言っていた。
私も真治も、お互いに依存し合っていた。
真治とは今後どうしていくべきかをゆっくり考えることにする。
だって真治のこと嫌いじゃない。
今までずっと一緒にいたぶん、別れるなんて考えたくなかった。
違う。
別れる【勇気】が見出だせずにいただけ…。
その頃はそんなことも気づかなかった私。
だれかに教えられるまでは…。
桜が咲き乱れる季節…
私は自動車免許をとりに行く。
通学じゃ面倒くさいし、料金も安い合宿を選んだ。
行き先は那須高原。なんとなく。
かさ張る荷物を片手に新幹線へと乗り込む。
新幹線に乗るのは何回かあったが、独りで乗るのは初。ちょっと心細い。
目的の駅で降り、未知の土地に踏み込む。
合宿先の教習所への送迎バスを探していると、私より大人びた女の子が1人いた。
その子も同じ送迎バスへ乗り込む。
(あの子も今日から合宿かぁ。友達になりたいなー。)
バスが教習所へ着き、受け付に手続きをするときに私はその子に声をかけた。
とても気さくな女の子ですぐ打ち解け合った。
少し格好が派手な女の子だったが、キャバ嬢をしているとのこと。
合宿中は常にゼブラ柄のストールをまとい、VUIT●ONのアクセポーチを持ち、Di●rのサンダルを履いていた。
私と同い年の18歳だったがその子はタバコも吸っていた。
教習を受ける以外は暇な合宿生活も、キャバ嬢と共に行動することで楽しく過ごせた。
メイクの仕方やアイロン、コテの使い方…私はキャバ嬢から知識をもらった。
私にとっては気持ち悪い男性教官がいたが、キャバ嬢にとってはいい獲物になっていた。
さすがはキャバ嬢。口がうまい。
その気持ち悪い教官が教習が終わってから、キャバ嬢のためにわざわざコンビニへ行き、値段の高いハーゲンダッツのアイスを袋いっぱいに買ってきた。
『なんかいっぱいアイスもらったから一緒に食べよ-❤』
『えっ⁉全部ハーゲンダッツじゃん💦どうしたの?😅』
『アイスが好きなの-❤食べたい-❤❤って言ったらアイツ買ってくれた👍』
『わたしアイツ気持ち悪いから嫌い⤵』
『そお⁉けっこうイイ奴だよ😄✨』
『…さすがだね💧』
そんな感じで教習期間の2週間はあっと言う間に終わった。
私もキャバ嬢も延期することなく卒業できた。
帰りの新幹線も一緒に仲良く帰った。もちろん喫煙車両で。
キャバ嬢も私と同じ埼玉から来たので、次の日は一緒に免許センターに行って学科を受け、真新しい免許証をもらった。
それ以来キャバ嬢とは連絡は取っていないが、きっと彼女は今ごろ東京のどこかにいるだろう…
キャバクラで稼いだお金で東京に引っ越し、美容の学校に通うと言っていたキャバ嬢…
高校は中退してしまったから親に迷惑はかけられないと、学費や引っ越し代はすべて自分で出すと言っていた…
わたしはそんな彼女を今でも尊敬している…。
免許は取れた。
しかし私はこれから何をしたらいいかわからず、方向性を見失っていた。
大学には進まなかったが気持ちのどこかでまだ婦人警察官の夢を諦めきれないでいたのかもしれない。どこかがモヤモヤしていたのは確かだった…。
そのうち、母親が『東京○○○○ー』という予備校?みたいな学校に入塾するのを私に薦めてきた。
看護師や教師、警察官や消防士などの公務員向けの試験、進学を売りにしている学校だ。
電車で20分の場所。週に3日、朝から夕方まで授業は続いた。
授業の内容は意外にもよく理解でき、テストも揚々とこなせた。
勉強はついていけることがわかった私は、もっと自分のファッションに気を遣うようになっていった。私服で週に3日も電車に乗り、自分と同じクラスにはいろんな世代(18~29歳)の男女がいたからだ。
私はまずギャル服を卒業した。クラスでは私が一番若く、歳上の女性と男性がほとんどだったので落ち着いた服を買うようになった。
クラスの生徒は授業の休み時間を通してみんなでワイワイ盛り上がったり、とても仲良くなった。
そんななか、私の19回目の誕生日を迎えようとしていた初夏の出来事だった…
そのクラスで親睦会という名の飲み会をすることになった。
秋ぐらいから徐々に試験が始まるので、その前の源担ぎみたいなもんみたいな。
授業の終わりに近くの居酒屋に集合した。集まった人数は15人前後。
わたし、まだ未成年だったが居酒屋の店員に身分証などの提示を求められなかったのですんなりアルコールを注文できた。中には身分証の提示を請求された生徒もいたが…。
みんなでワイワイうるさく飲み明かした。すごく楽しかった。
居酒屋を出て、二次会に参加するメンツは私を含め4人しかいなかった。男女2人づつ。
電車もなくなる時間帯だったので、そのメンツの内の1人、23歳の男の家へ向かうことにした。
男の家へ行くのなら私は正直帰りたかった。
その男の家(実家)には深夜だというのに誰もいなかった。いま両親は旅行中、兄弟は自立しているとのこと。
私は男に興味なかったから、その男の部屋でその男の自慢話や過去の恋愛話を聞いているのがめんどくさかった。
いや、きっと他の2人もそんな話、興味なかったと思う。しかし男は永遠としゃべっていた。
深夜3時、そろそろアルコールも抜けてきてぼちぼち帰る事となった。
その男が車を出し、住んでいる場所が近い人から順に送ってくれた。
…私がいちばん遠かったので、最終的に車内は私とその男、2人きりになった。
だいたい30分くらい走って私の家に着いた。
『ありがとうございます。助かりました。』
と言って別れた。
家の玄関を開けようとバックの中の鍵を探すが見つからない…
(……!!っうわー鍵ないし😞⤵)
親に電話をかけてみるがもちろん出てくれない。
もうどうしようかと落ち着きのなくなった私の目に止まったものがあった…
あの男の車!
まだいんの!?💧
うちの玄関近くにまだ男の車が止まっていた。
「どうしたのー?」
と男がウィンドウ越しに話しかけてきた。
「鍵ないし…玄関開かないし…💦」
「なんだぁー、それじゃあまた俺んちに行く??」
少し嫌だなーとは思いつつも、このまま朝まで閉め出しを食らうよりはと思い、わたしはまた男の車に乗った。
とりあえずまた男の部屋に戻り、今度は私の恋愛話をさせられた。
窓から見える空は少しずつ明るく染まっていく…。
私の過去の恋愛話を一通り聞いた男はだまりこくって少し難しい表情をしていた。
過去の恋愛話って言っても、いま付き合っている【真治】の話をしたのだ。
真治はまだ定職に就いておらず、バイトする日々を送っていた…25歳にもなる男がバイトって…💦
正直、真治は大好きだったが、就職してないことが私の気持ちをかなり鈍らせた。
真治は何があっても私たちに【別れ】はないものだと思っている…。真治は甘えている。きっとこの先も私に甘えて就職しないかもしれない…。それじゃあお互いにマイナスだ。この恋愛に終止符を打った方がいいのかもしれない…
そんな気持ちと、まだ真治と一緒にいたいという気持ちが私の中で格闘していた。
「25歳でバイトってヤバいっしょ!?早く別れるべきだよ!」
男は言う。
(なんだよ💢定職してないお前に言われたくねーし❗)
心の中で呟いたが、男に見せる表情は落ち着いていた。
しかし正直、真治とは別れるべきだという気持ちが心のスペースの半分以上を占めていた。
(やっぱ別れた方がいいんかなー…でも真治は大好きだしなー)
私の頭は混乱する。
「そうだ❗そんなに悩んでるならオレと付き合わない⁉そしたら別れられるんじゃん⁉⁉」
……は⁉なにこの人💢……
男の強引な言葉に苛立ちを覚えつつある私に、男はまた強引にキスをしてきた…
⁉⁉まじ何なんコイツ…
キスは浅く長く、男の手は私の服へと伸びる…
「エッチしちゃえば別れられるっしょ?それにオレと付き合えるし💡」
男のあまりにも自己チューな考えに圧倒されてしまった。
すでに刻は明け方…2人とも眠さのピークで冷静な考えなんてできなかったのかもしれない…
確かに…コイツと無理やり付き合えば真治と別れられる…
私は本当にバカな女だ…
まわりの状況に身を委ね、また自分を見失ってしまうのか…
男と私が1つに重なった、初夏の出来事だった…。
その男…
今の私にはあまり記憶にないくらいの男だった…。
名前は確か…克樹?だったと思う。
細身で175センチ前後の、ケンカッ早そうな人。
なんか髪の毛の左の襟足に妙に長いエクステ1本つけている、変なヤツ…超ださい。
でも克樹はそれは自分なりに超オシャレと思っていたのか…外そうとはしなかった。
克樹はB型みたいだったが、まさに典型的なB型人間の本性を発揮していた。
私はさんざん克樹に振り回された。
真治とはメールで別れを告げた。真治は『???』な気持ちだったろう…。あまり別れに理解をしてくれなかった。
季節も秋に近づいていた。
クラスには私と克樹が付き合っていることがすぐに広まった。
だって克樹がクラスの中で手を繋いできたりするんだもん…
でも私はイヤだった…
いろんな人のいる前でイチャイチャしたりするのが嫌いだった。私は克樹を煙たがっていた。
私は警視庁第Ⅲ課と、埼玉県警第Ⅲ課、それに皇宮護衛官とあと何かを受験した。
どれも身長規定があった。
一次試験のペーパーテストは簡単に感じ、自分でも通ると思っていた。
しかしそれが仇になった。
ペーパーテスト後には身長、体重測定があった。
飛び抜けて低身長な私…身長を測られ、測定者が何やら私の氏名と住所を別の紙に書いていた。
私の前に並んでいた170センチはありそうな女の子はそんなことさせられていなかった。
私は(落ちたな…)と悟った。
やはり後日、不合格通知が届いた。
わたしは婦人警察官を諦めた。
一方、克樹の方も受からなかったらしい。
克樹の家計は父、兄2人とも警察官だった。
そんな家計の克樹はコネかなにかで警察官になれるものだと思っていたが不合格になり、克樹も道を見失っていた。
私はとりあえず何かバイトでもしようと前向きに過ごしていた。
駅近くにあるパチンコ屋でのバイトを選んだ。昔、ファミレスをしていた近所だった。
🍀第3章🍀 【フリーター時代】
パチンコのバイトを始めたのはちょうど10月の後半あたり。
早番、遅番をこなす、週5で出勤した。
時給もそれなりに高く、ファミレスのときと比べ物にならない給料に胸が踊った。
バイトを始めて1ヶ月も過ぎたら常連の客の顔もわかってきた。
克樹の方は…派遣でバイトをしていたが、私の給料にはかなわなく、そのうち私が金を出す機会が増えていった。
正直、付き合ってるのがめんどくさく感じてきた。
年も明け、1月になった。
そのあたりからかな…わたしは1人の常連客に惹かれていった。
いつも遅番の時間帯に来る、ニッカをはいた作業着姿で頭には白いタオルを巻いている若そうな兄ちゃん。
その兄ちゃんはいつもニコニコしていた…。
その笑顔に私は堕ちていったのかもしれない…。
兄ちゃんは勝っても負けてもニコニコしていた。
でも連日のように勝っていた。ときにはスロットで万枚を2日続けて出していったから、バイトスタッフでは有名な客だった。当時は吉宗、アラジン、大花火などの華の4号機がまだあった時代だ。
そんな中、克樹が私を旅行に誘った。といっても料金は半々で出すのだが…。ユニバーサルすたじおジャパンへ一泊2日の旅のプランを組んだ。日程は2月の半ば…。
正直、かなり行きたくなかった。
途端に、白いタオルを巻いた兄ちゃんは店に来なくなった。
それが1ヶ月弱続いた。
…2月上旬になり、ひょっこり兄ちゃんはまた店に来てくれた。
他のスタッフが兄ちゃんに聞いたところ、兄ちゃんの車が盗難されて大変だったらしい…。
私はまた兄ちゃんのニコニコの笑顔に酔いしれていた。
そんなある日、わたしは早番を終え、帰宅しようと店の前を通りすぎようとしたら兄ちゃんが現れた。
……目があった。
しかしそのまま兄ちゃんは店の奥へと消えていった…。
他の早番を終えたバイトの男の子と一緒に帰宅しようとしていたのだが、わたしはたまらなく兄ちゃんに近づきたいと思い、その男の子に頼んで店の奥に行った兄ちゃんを店の正面へ呼んでもらった。
兄ちゃんは『?』な表情をしていた。
私は顔が赤くなり、下を向きながら声を出した。
「……あの…
…いま彼女いますか?」
「彼女?いないよ😓」
「本当ですか⁉…ケータイの番号交換してほしいんですけど❗😣」
「いいよ😄」
私は胸が高鳴った。
店の中にいたスタッフが私たちのやりとりを始終眺めていた…ニヤニヤしているのがわかった。
本当は客との接近なんてタブーなのだがスタッフは暗黙の了解をしてくれた。
私には克樹がいたが、もはやそれどころではなかった。
克樹とは別れようっと心に決めた。
番号を交換し終え、高鳴る胸をおさえて私は急いで帰宅した。
兄ちゃんは今ごろパチンコに夢中だろう…。
でも私は兄ちゃんにすぐメールしてみた。
返信は…
意外にも早く返してくれた。
兄ちゃんは『パチンコの店員さんに番号聞かれて正直びっくりしたけど嬉しかった』とメールで返してくれた。
『本当は…
俺もキミのことが気になってたんだよね😄💦でも番号聞ける勇気がなくってさ(笑)自分の連絡先書いた紙をポケットにいつも入れてたけど(笑)』
兄ちゃんと私は、お互いにひかれあっていたのだった…。
私は克樹にメールを送った。
『別れたい』と…。
克樹はすんなり承諾してくれた。
ユニバーサルすたじおジャパンの旅行はキャンセルしなければならないが、それは克樹がやってくれるとのこと。
『戻ってくるお金はどうする?』と聞かれた。お互い半々で出した金だったからだ。
私は『いらない』と返事した。
そしたら
『ごちそうさまでーす。』
と返事が来た。
(なんだコイツ…)
克樹とは最初から最後までつかめないヤツだった。
それが克樹との最後の連絡になった。
白いタオルの兄ちゃん。
名前は和孝(カズノリ)。
歳は23歳。
見た目がすごく若く見えた兄ちゃんが私より4つも上な事に驚いた。せめて二十歳前後だろうと思っていたからだ。
165センチくらいですごく細身。いつも作業着を着ているのだが、もうちょい高く見えた。
でも大工さんをやってるから腕の筋肉などは素敵に見えた。
この人が将来、私の人生を大きく変える人物となる…。
私は兄ちゃんのことを【カズくん】と呼んだ。
兄ちゃんは私を【はるちゃん】と呼んだ。
カズくんは車を盗難されたと言っていたが、車内には今までパチンコで勝った金を置いといていたらしい…。
その額を聞いて私は驚いた。
600万円も。
嘘だろっと思ったが、カズくんは私の店の常連になる前のパチンコ屋で、あまりにも勝って帰るから出禁にされたらしい…。
確かに私の店でもほぼ勝って帰ってったから、にわかに信じられた。
でも盗難された車は買ったばかりの高級セダンで、まだたっぷりローンが残っていたらしい。
セキュリティも高価なやつを取り付けてあったらしいので保険には加入してなかったようだ。
よくそんな高級車買ったね~と何気なく言ったら、カズくんは自分の兄ちゃんと半々で購入したらしい。
盗難された車の前は、兄ちゃんとセルシオを買ったみたいだ。
しかしまだ買って数ヶ月だという…残りのローン額は怖くて聞けなかった。
カズくんと番号を交換して、数日後に一緒に遊んだ。
服を買いにショッピングに行った。
初めてカズくんの私服を見たが、やはり幼く見えた。
まだ会話もぎこちない2人だったが、ショッピングを満喫し、夜はファミレスで夕飯を食べた。
そのあと、わたしはカズくんに『付き合ってほしい』と言われた。
断る理由なんてなかった。
笑顔が可愛いし、ちゃんと仕事もしてる。容姿は二の次だから申し分ない男性だった。
これが2月7日のことだった。
それからの日々は楽しかった。
遅番のバイトならカズくんが客として来てくれるから自然に会えた。
バイトが楽しくて仕方なかった。
早番が終わればカズくんと一緒に夕飯を食べた。
カズくんは実家暮らしではないため、たまにカズくんちに夕飯を作りに行った。
そのうちに私はカズくんちへ転がり込むように住み着いた。
初めて一緒に寝た夜はカズくんは私に手を出さなかった。
いや…出しては来たが私は拒んだ。
生理だったしね(笑)
カズくんと初めて結ばれた夜は何とも言えなかった…。
「おれ…童貞なんだ…。ごめんね、初めてで😞」
私はびっくりした。
…いまどき童貞の23歳なんているんだ…。
確かにカズくんの動きはぎこちなく、果てるのも早かった。
私はそんなカズくんが可愛くてたまらなかった。
カズくん…純粋すぎ…❤
いつのまにか2人は同棲生活を始めた。
でもカズくんの家は違和感あるものばかりだった。
赤ちゃんものの食器や小さい靴など発見してしまった。
カズくんに恐る恐る聞くと、昔はこの家に家族と住んでたみたいで、兄ちゃん夫婦の子供のものがまだ残っているのだと言っていた。
少し前に両親は都内にマンションを購入し、兄ちゃん夫婦も出ていったらしい。
しかしここは県営団地…ファミリータイプの間取りだったが、そんな大所帯ではいくらなんでも狭かったのではないか…?
少し疑問が残ったが気にしないでいた…。
カズくんとの生活は楽しかった。
車は盗難されたが、カズくんは安い軽を買ってきたのでお出掛けはできた。
ディズニーランドやシーに行ったり、動物園に行ったりと休日は充実していた。
カズくんも真面目に働いてるし、私もバイトの稼ぎを生活費にあてていた。
2人の稼ぎは満ち足りていて、毎月10万円は貯金できた。それはカズくんの口座に貯めていた。
この人なら結婚してもいいかな…なんて思ったりもした。
そんな矢先、私が遅番を終え、ふとケータイを見るとカズくんからメールが入っていた。
やたら長ったらしいメールだ。
『はるちゃん、ごめん…。今まで隠してたことがあるんだ…。
実はオレ…バツイチなんだ…。
今まで黙ってて本当にごめん。
でもバツイチっていってもね…
実は会社の後輩の嫁さんと結婚してたんだ…。
後輩とは仲良くて、後輩に子供が産まれてよく遊んでた。でも後輩が突然亡くなって…
その子供がオレのこと、パパ、パパって呼ぶんだ…。
子供が可哀想だから後輩の嫁さんと結婚したんだ…。
だけど好きで結婚したわけじゃなかったから上手く長続きしなくて離婚したんだ…。
後輩の嫁さんとは何もしてないからオレが童貞っていうのは本当だよ!信じて…。
今まで黙っててごめん…。
もうオレのこと、嫌いになっちゃったかな?…
嫌いになっても仕方ないよね…
別れるの覚悟でメールしたよ、本当黙っててごめんなさい。
』
私はそのメールを読みながら無意識に涙がボロボロ流れた。
カズくんがバツイチ⁉
後輩が亡くなった⁉
それで結婚⁉
別れるの覚悟でメール⁉
いろんな単語が私の頭をぐるぐる回り、整理がつかないでいた…。
なにより、カズくんが私と別れるのを覚悟でメールしたっていう内容がいちばんショックだった。
私は急いで帰った。
カズくんの家に帰ると、電気は点けっぱなしでカズくんは寝ていた。
わたしはカズくんを起こし、メールの内容がよくわからないからカズくんの口から直接聞いた。
聞いたはいいが、メールの内容そのままを告げられた…。
カズくんはバツイチ。
子供のために亡くなった後輩の嫁さんと結婚。しかし長続きせずに離婚。
それでもカズくんは童貞のまま。
なんだ…子供のためにカズくんは結婚してバツイチになっただけじゃないか…
カズくんは優しすぎるんだよ…
私は怒るどころか、カズくんの優しさを美化していた。
子供のために結婚するカズくんは優しすぎるよ…。
この真実を告げられても私は別れる気にはならなかった。
バツイチなのは引っ掛かるが、それはすべて優しさ故の代償にすぎない…
そう頭の中で整理をつけたのだ。
季節は変わり、夏が来る…。
夏はプールへ遊びに行った。
私は海の方が好きなのだがカズくんは海が苦手らしく、プールで我慢した。
カズくんの為なら何でも我慢できた。
私はカズくんのために朝はきちんと朝ご飯を作り、弁当も作った。
カズくんのためなら苦にならなかった。
しかしカズくんには怪しい点があった。
私には絶対に通帳を見せてくれなかった。
そりゃあまだ結婚してるわけでもないから通帳見たいなんて言えないし、給料明細も見せてなんて言えない。
しかしカズくんは頑なに拒んだ。
カズくんは元嫁さんに通帳を預けていたらしいのだが、やりくりが下手だったらしく、それがトラウマで通帳は自分で管理すると言っていた。
いずれカズくんと結婚したいなーなんて思っていたから、貯金がどのくらい貯まってるのか気になっていた私…。
カズくんは『大丈夫だよ。毎月10万円は貯めてあるし、それは印鑑がなきゃ引き出せないようにしてあるから😄』と言っていた。
だから私は安心していた。
カズくんはたまに私に『お金…貸して💦』と言ってきた。
理由を聞けば、両親が都内に買ったマンションは、カズくん兄弟が両親へのプレゼントとして、兄弟折半で毎月仕送りしてるらしい…。
カズくんにはお姉さん、お兄さんがいるらしいので、1人毎月5万円ずつ、計15万円も仕送りしているという。
カズくんの給料が少ない月は仕送りが困難だったみたいで私にお金を貸してとせがんできた。
両親への仕送りなら仕方ないか…むしろ偉いじゃん!と思い、わたしは何の疑いもなくカズくんにお金を貸していった。
いま思えば30万くらいカズくんに貸しただろう…。
季節はまた変わり、秋になる…。
11月…カズくんのお姉さんが結婚式を挙げるのだが、もちろん私は御呼ばれされない。
カズくんのお姉さんは新潟に嫁いだので、2日かけてカズくん家族は結婚式に出向いた。
私はお留守番…。
ちょっと寂しかった…。
カズくんのお姉さんの結婚式が終わり、またカズくんは私にとんでもないことを告げてきたのだった…。
それはカズくんのお姉さんがカズくんに、『カズも結婚を考えてるのなら、本当のことをハルカさんに話した方がいいんじゃない…?』と言われたそうだ。
カズくんは神妙な面持ちで、涙を流しながら私に話してきた…
『オレ…
本当は……
本当に子供がいるんだ。
童貞なんてウソだったんだ。
昔、好きな人と付き合ってデキちゃった結婚をしたんだ…。
オレ、本当最悪なヤツだよね…。
』
……はぁーーー⁉⁉⁉⁉
私の頭は混乱するばかり。
カズくんは童貞じゃない。
実の子供がいる。
子供は男の子で2歳…。
えっ⁉⁉⁉じゃあ養育費とかは⁉⁉子供に会ったりしてたの⁉⁉⁉
いろいろ問いただすとカズくんはボロを吐いた。
ちょっと前に仕事で出張で一泊家を空けたときがあったのだが、どうやらそれは仕事ではなくて子供と動物園に行っていたようだった。
どおりでバッグに私服を積めていた訳か…。
いつも子供に会うときは、カズくんの父さんが子供を都内のマンションに連れてきて泊めているらしい…。
何度かカズくんの両親に会っているが、そんなこと一度も言われたことがない。
カズくんちに子供用の物があったのもそのためだったらしい。
要は、私はカズくんの元嫁さんと一緒に住んでいた【愛の住み処】にズカズカ足を踏み入れていたわけだ。
申し訳ない気持ちと、どこにぶつけていいのかわからない怒りが込み上げてきた。
いままで私に話してきた事はウソだったのね!
と血圧は上がりながらも、正直に話してくれたカズくんを許してしまった…。
今さら嫌いになれない…。
そこまで私はカズくんを好きになっていた…。
離婚理由は、元嫁さんが生活費のやりくいがカズくんの給料内でできずに、多額の借金を作ってきたらしい…。それもカズくん名義で。しかもエステまで行って金を使い込んだらしい…。
しめてその額、5~600万円。
???…どっかで見たような数字…。
『じゃあその借金、パチンコで勝ってた、例の車にあった金で完済できたんじゃない?』
『そうなんだよね…。早く返しちゃえば良かったんだけど…オレ、バカだよね…。まさか盗まれちゃうなんて思わなかったし…。』
『養育費はちゃんと払ってるの?』
『元嫁が作った借金をオレが払ってるから、養育費はチャラになった。だけど子供に会うときは金渡してる。』
『………。』
まあ人にはそれぞれの人生があるが、カズくんはたまたま失敗してしまっただけのこと…。カズくんが悪くて離婚したわけじゃないし…。
私はカズくんのすべてを受け入れた。
なんて可哀想なカズくん…。
そんなカズくんは子供が忘れられないのか、早く私との間に赤ちゃんが欲しいと言ってきた。
それでカズくんの悲しみが癒えるのなら…それでも構わないと私は思った。
来年の2月7日…ちょうど付き合って1年になる日に籍を入れよう、結婚しようと約束をした…。
元嫁さんはカズくんに新しい恋人がいると知らなかったらしい。
私の存在を知ってから、子供に会わないでほしい、新しい彼女と上手くやってほしいと言ってたそうだ…。
結婚すると決めた私たちは、まずカズくんの両親の家へ挨拶しに行った。
カズくんの母親は『まだ結婚するの早いんじゃない?もう少しゆっくり考えたら…?』と、あまり快くは思っていなかった。
『もうハルト(元嫁さんとの子供)に会えなくなるのなんて…可哀想…』
と、カズくんの母親は泣き出してしまった。
私はひどく困惑した。
私のことはどうでもいいのね…
私より元嫁さんとの子供の方が大切なのね…
そう感じた。
最終的には
『あなたたち2人の問題だから何も言えないけど…ハルトが可哀想…』
と、最後まで元嫁さんとの子供を惜しんでいた。
まぁ孫なんだし…そう思うのも仕方ないのかな…と、無理やり自分を納得させた。
そして私の実家へ挨拶しに行った…。
カズくんがバツイチなのを知り、私の母親はカズくんをすごく拒絶していた。
理由を聞けば母親も少しは理解してくれるだろうと思っていたが、浅はかな考えにすぎなかった。
『もう少しよく考えて!とりあえず籍を入れるなんて絶対にダメだからね!!』
問答無用、結婚の🆗はもらえなかった。
(なんでお母さん、許してくれないんだろう…カズくんは悪くないのに…)
2人で撃沈しながら帰った。
しかしカズくんは怒っていた。
「なんでオレ、あんなに言われなきゃいけないの⁉あそこまで言われる筋ねえし❗あんな家、二度と行かねえ❗」
カズくんは怒りを露にしていた。こんなカズくん、初めてだった。
結婚を反対された彼氏は、お許しをもらえるまで何度も何度も頭を下げに行くもんだと思っていたからこれは予想外な展開になった。
私の母親も、『あんな子、二度とうちの門をくぐることを許さないからね❗』と、ご立腹だった…。
これじゃあ円満に結婚できないじゃん…
カズくんは私の親と二度と会わない、私の親もカズくんと会いたくない…
それでも私は結婚したかった。
もう駆け落ち覚悟でいた。
とりあえず母親には『2月7日に籍入れるから、その前後にカズくんの両親と顔合わせくらいしてね!』とむりやり頼んだ。
なんか祝福されない結婚になりそう…。
私はそれでもカズくんと結婚する気は変わらなかった。
予定通り、年が明けてからの2月7日に婚姻届けを出した。
ただの紙を出したのだから生活環境は変わらず、いまいち結婚した実感にひたれずにいた。
しかし、その婚姻届けを出す際に取った、カズくんの戸籍謄本を眺めていたらまた新たな事実が発覚したのだった…。
カズくんが離婚したのが…
去年の2月18日……
⁉⁉⁉
えっ⁉ちょっと…カズくん、離婚する前に私と付き合ってたってことになるけど❗😲😲😲
なに⁉不倫⁉⁉💦
カズくんとケータイ番号を交換したあの日…まだ嫁さんといたってこと⁉😱
カズくん…『彼女はいない』って言ってたけど『嫁さんはいた』ってこと⁉😢😢
嫁さんいながらも私のことが気になってたってこと⁉⁉😞
もうー何なの…😫⤵
つまり、カズくんは離婚して1年も経たないで再婚したってことになるけど…💧
なんか悲しい⤵
私もこれ発見したときは籍入れるのを思い止まれば良かったのかなーなんて後で後悔した。
でもカズくんは、
『離婚するのは決まってたけど裁判所行ったり、仕事があったりでなかなか離婚が進まなくて…
確かにはるちゃんと付き合い始めはまだ結婚してたけど、言えなかった…。それ言って別れるのが嫌だったから…。隠しててごめん…。
離婚するの決まっててオレははるちゃんのことが好きになったから、その気持ちはウソじゃないから!それだけは信じてほしい…。
』
『わかった…。許してあげる…。
でもね、ウソはいずれバレてしまうものなんだよ?自分で嘘ついてて苦しくない?隠してて苦しくない?どうせ後でバレちゃうんなら、ウソはつかないで初めから正直に話そうよ❗これは約束しよう❗もう夫婦になるんだから隠し事やウソはだめだよ❗』
『わかった…。本当ごめん。本当のことを言って、はるちゃんに嫌われちゃうんじゃないかって思うと事実が言えなかったんだ…。
隠し通すことでケンカにならないことってあるでしょ?知らなくていいことってあってもいいものだと思ってたから…。平和でいられるって思ってたから…。
でも後でバレちゃうんだね…。
でも自分もウソついたり隠し事するのはオレだって辛かった…。だからもうしないよ!!約束する…。ごめんなさい…。』
2人は固く誓った…。
二度と隠し事しない、嘘を言わない、正直になんでも話す事を…。
私は少しモヤモヤが残りながらもカズくんと結婚した。
あとはお互いの両親の顔合わせをしなきゃ!
お互いの親に都合いい日を聞き出し、なんとか日程は決まった。
それに向け準備をしていた。
…顔合わせ予定日、3日前のこと…
カズくんの母親が急に都合が悪くなったらしく、その日は仕事を断れなくなったらしい。
それに私の母親は激怒した。
『こっちだって仕事してるけど、そんな大事な日くらい仕事入れないようにするものなんじゃない⁉うちも予定空けるの難しくてやっと休みにしたのに❗向こうの親は何なの⁉そんな大事な日にドタキャンするなんて❗非常識よ❗息子も息子なら親も親ね❗うちの娘が嫁ぐのに、いったいどういう考えなのかしらね‼もう絶対に顔合わせなんてしないからね‼』
よって顔合わせは無くなってしまった。
私の結婚って最悪なスタートだな…
まぁこの先が幸せならいいよね…前向きに考えなきゃ!!
しかし結婚した私に、母親は口うるさく言うのである。
『子供だけは作るな』
と…。
いやいやいや…結婚したんだし、それは当事者の自由でしょ💧
🍀第4賞🍀 【結婚生活】
幸せなスタートはできなかったものの、私とカズくんは2人だけの世界で幸せになることを誓った。
親がどう言おうと、第三者に何言われようが、2人が幸せならそれで構わないことにした。
きっと私たちは誰からも祝福されないから…。
結婚式をする貯金もあったが、そんなのできるわけなかった…。
その貯金は、この先、産まれてくる赤ちゃんのために使おうと思う…。
カズくんは車好きだ。
とくにVIP車が好きらしい。
いい加減、軽にも飽きてきたようで、新しい車を買いに中古車を見に行った。
カズくんはあらかじめケータイで欲しい車を見つけていたみたいで、その車が置いてある中古車屋に向かった。
それは黒塗りのVIP車…
まだ真新しいNISSANの車だった…。
カズくんは一目見るなりそれに決めていたらしい。
走行距離2000キロ、1年落ちの中古車。
値段もまあまあ高い。
しかしその車にしてはカズくんは安いと言う。
事故車なんじゃないのか不安に思い、店員に聞いたが、ちょっと右前をぶつけたと説明してくれた。
店員さんも一押しの車だったので迷わず購入決定した。
わたし…こんなデカくて高級な車…運転するの怖い…って感じた。
車の購入手続きをしていたが、もちろんカズくん名義で買うのだが、ローンの審査が通らない。
原因は昔盗難された車のローンが払い終わってない、元嫁さんによる借金の件で審査に落ちたようだ。
なので代わりに私の名義で買ってしまった。ほんの軽い気持ちで自分名義で高い車を買った。これが後に仇になるとは…。
しかも4年半ローンで月7万強。
このときは共働きだったから何とも感じない返済額だった。
ただ整備費に50万も取られたのには私でも高過ぎって思った。
なんとも平凡な結婚生活が続いた。
毎日平和だった。
貯金もだいぶ貯まったであろう…。
結婚式はできないので、そろそろ赤ちゃんできてもいいかなっと思っていたら見事に妊娠した。
結婚して2ヶ月しか経ってなかったが、赤ちゃんができたことが嬉しく思えた。
しかし、私の母親は『赤ちゃん作るな!!』と言ってたから黙ったままにしといた。どうせ腹がでかくなればわかるんだし…。
幸い、悪阻も全くなかったのでバイトはそのまま続けていた…。
そんな中、カズくんはまたトラブルを持ってきた。
私が夕飯の支度をしているときカズくんは帰ってきた…いつもと様子がおかしい…。
「あのね、はるちゃん…怒らないでね…」
カズくんは涙を流していた。
「今朝、会社の車で運転中に事故っちゃって…
俺が運転してたんだけど眠たくて居眠りしてたみたいで…
前の赤信号で止まってたベンツに突っ込んじゃったんだ…。
そのベンツが反対斜線に飛んで、対向車に当たっちゃって…
」
「えっ⁉大丈夫なの⁉怪我はなかったの⁉」
「怪我は平気なんだけど…
会社の車だからある程度、保険金は降りるから大丈夫なんだけど、上限が100万までらしくて、残りの金は自腹だって…。
ベンツの修理代、ベンツの運転手の病院代、対向車の修理代…いっぱい金かかりそうで…。」
「自腹って…貯金額で間に合うの?」
「たぶんギリギリだと思う…」
「そっか…それなら良かった。カズくんに怪我がなくて不幸中の幸いだね。心配しちゃったじゃん。」
「オレ、今日は正直に話したよ。…偉い?」
「偉いけど、偉くない!それが当たり前!!(笑)」
「そうだね…ごめんね!(笑)」
私は正直に話したカズくんを笑って許したが、本当は貯金がなくなるのが不安だった。
お腹にできた赤ちゃんの出産費用…
見事に貯金はなくなり、一文無しになってしまった。
まぁ、私が臨月までバイトすれば何とかなるだろう…そう思い込んだ。
私のお腹は徐々に大きくなるがバイトは頑張って続けた。
パチンコ屋に腹が膨らんだ妊婦がバイトしてるので、お客さんに『もう産休にしたら?』とか『俺…タバコ吸っていいの?』と、逆に気を遣わせてしまった。
それでも私は出産費用のために働いた。
しかし金は一向に貯まらない。
籍を入れて、私の税金通知が来るようになり、それを払うと生活はカツカツになった。
一方、カズくんの給料は下がっているみたいだった。
最近、仕事が入らないらしい。
カズくんは家を建ててナンボの仕事だから、営業がしっかり働かないと大工さんは暇になってしまう。
酷いときは3日に一度しか出勤しない日もあった。
本当に給料が下がってるのかわからないので、これを期にカズくんに頼み込んで初めて給料明細を見させてもらった。
【9月度給料明細証、手取り額…13万円】
13万⁉それっぽっち⁉💧
それはマズイ❗
「ねぇカズくん…この先仕事は増えそうなの?」
「どうだろう…営業がしっかりしてくれないからさ…。もう建てる土地がないって言ってるらしいよ💦」
「ほんと⁉💧それじゃあ給料あがる見込みないの?」
「たぶんね…だから最近こんな給料ばっかりで同僚たち辞めていくヤツ、増えてるんだ…。」
「うわぁー。カズくんも次の仕事探した方がいいんじゃない?」
「そうだね…給料13万なんてヤバいもんね⤵」
そんなに給料少ないのにカズくんは親へ仕送りできるのだろうか…
ちょっと気になったのでカズくんに聞いたのだが、返事は曖昧…。
そもそも盗難された車のローンや、新しく買った車のローン、それに元嫁さんが作った借金の返済…。こんなに毎月払えているのだろうか…。
私は日に日に不安になった。
しかしカズくんは言葉を濁すばかりだった。
あまり給料やお金がらみについて聞こうとしても、カズくんは昔のトラウマがどうたらこうたらで話そうとしない。
でも盗難された車のローンについては、カズくんの兄さんと折半してたということで、カズくんの父親を交えて片付けたらしい。
そのときに私はとんでもないことを聞いたのだ。
「はるちゃん…オレ…自己破産してたんだ…。」
わたしは一瞬、【自己破産】の意味が理解できなかった。
(え…自己破産って………ん⁉自己破産⁉⁉⁉)
わたしは言葉を失った。
自己破産してる人とこの先一生暮らしていけるのか…。
ますます不安が募るばかりだ。
「元嫁が作った借金が払えなくて自己破産してたんだ…。」
「えっ⁉いつ自己破産したの⁉⁉」
「はるちゃんと付き合ってすぐに…。」
「ちゃんと返済してなかったの⁉」
「うん…だって毎月20万だよ?始めの何回かは払ったけどムリだよ…。」
諦めるの早っ❗
ってか毎月20万円の返済って…💧どんだけだよ…
だから車買ったとき、審査が通らなかったのね…。原因は自己破産ですか…。そりゃムリだよ。
妊娠6ヶ月のときにそんな衝撃的な事実を聞かされたのだから精神的に参った…。
ベビー用品を揃える金もなければ自分たちの生活していく金も危ないのだ…。
ましてやカズくんの低給料…。
わたし、ギリギリまでバイト頑張らなきゃ…。
産婦人科へ検診に行くと、お腹の赤ちゃんは標準よりやや小さいと医師に言われた…。
ストレスが原因だろうか…。
それでも私は負けなかった。
カズくんは私が選んだ結婚相手。好きな気持ちは変わらずにいた。それがせめてもの力になっていたのかもしれない。
だから私は頑張れた。
カズくんは仕事を変える為に退職した。退職金は微々たるものだった。ほんの数万円…これじゃあ出産費用の足しにもならない。
カズくんは引き続き大工をやりたいらしい。
しかしこのご時世、知り合いの建築関係会社を片っ端から訪ねたがどこも人手は足りていると…。
次の仕事先が決まってから退職すべきだったが、私もいろいろ抱え込んでいたためだろうか…そこまで頭が回らなかった。
カズくんは無職になり1ヶ月が経ってしまった。
とりあえず雇用保険を利用し、それと私のバイトでなんとか食いつないでいけた。
…いつのまにか12月になっていた…。
私の腹もパンパンになり、これ以上はバイトのユニフォームに収まらなくなっていた。
私は12月いっぱいでバイトを辞めることにした。
カズくんは相変わらず仕事が見つからない。ハローワークに行っても希望するような仕事がないそうだ。
もうこうなったら私がバイトを辞めると引き換えに、カズくんをパチンコ屋で働かせることにした。
どこかヤケクソ的な気もしたが、パチンコ屋の社員は安定した給料がもらえるからとりあえずは大丈夫なのだ。
こんな流れで、私とカズくんはパチンコ屋での仕事をバトンタッチした。
私はバイトを辞めてから毎日暇だった。
とりあえず今は収入が少ないし…なんとかならないかな…。
そんなとき丁度いい話が転がってきた。
親戚の叔父が一軒家を貸してくれるのだという…それも毎月3万円でいいと。
迷わず私たちはそこに引っ越した。
その一軒家は、私の実家のすぐ近所にある。
毎日暇になった私は、金もないのだから実家へ遊びにいくようになった。
もう母親には私の腹の中に赤ちゃんがいることがバレていた…。
「あんた腹でかくない⁉赤ちゃん⁉⁉」
「まあね…。」
「なんで⁉あんなに赤ちゃんだけは作るなって言ったのに💦…籍入れるなって言えば入れちゃうし、赤ちゃん作るなって言っても作っちゃうし…。あきれた。」
「…。」
「ところであんたんとこお金大丈夫なの?赤ちゃん産めるの?」
「いや…貯金してたんだけどね……それが…」
私は母親に、カズくんの居眠り事故の話をした。
「そんな会社おかしい❗ふつう会社の車の保険はどんなに事故しても上限100万円ってことはない❗ぶつかったのがベンツだってのも怪しいし❗その話は本当なの⁉ちゃんと会社から聞いてみたの⁉」
「いや、聞いてない💦」
「そんなおかしな話ない❗カズは嘘ついてるんじゃない⁉貯金してた金がぴったり残りの事故処理金として無くなるのも不自然すぎ‼」
「……。」
母親にそう言われ、私は不安になる。
昔、カズくんの仕事仲間の家族とバーベキューしたことがあったので、その同僚の嫁さんにメールしてみた。
『うちのカズくんが会社の車で大きな事故したんだけど…それについて何か知ってる?』
数日後に来たメールはこうだ。
『うちの旦那に聞いてみたんだけど、そんな事故知らないって💦それに会社の車で事故したらすぐに会社中に広まるらしいから…ありえないって💧』
………やられた。
会社の車の事故はウソだったのだ。
そしたら…あの貯金はどこへ消えたのか…。
その日、パチンコの仕事から帰ってきたカズくんに問いただした。
「ってかさあ、なに勝手なことしてんの⁉さっき前の会社のヤツから連絡あったんだよね。事故の話しただろ⁉余計なことすんなよ❗」
カズくんは怒っていた。
なんで私が怒られるんだ…。
「あのさ、事故ったの?本当はしてないんでしょ?」
「事故はしたよ❗そんなに疑うんなら会社に電話してみろよ❗確認してみろよ❗」
「わかった。そこまで自信あるんなら信じてあげる…。」
信じたくはなかったが、これ以上カズくんが怒る顔は見たくなかったから信じた。
いつもの笑顔のカズくんでいてほしかったから…。
会社に電話して確認してみろと言えるほどなのだから、きっと本当だったのだろう…。
そう思うようにした。
無くなった金はいまさら元に戻ることなんてないんだしね…。
もう新年……年明けからあまり気分のいいものではなかった…。
もうそろそろ赤ちゃんが産まれてくるのに、ベビー用品が揃えられずにいた。
金がないって不敏…。
出産予定日は3月9日。
…昔カズくんがカラオケで【3月9日】という曲を歌ってくれたっけ…。わたしのすごく好きな歌。
本当に金がないので私は自分の母親に頭を下げてベビー用品一式を買ってもらった。
わたし、親の反対を押しきって嫁に出て…しまいには作るなと言われた赤ちゃんも作って…
なんて私は親不孝なんだろう…
あげく親に金をも頼ってしまった自分がなさけなく思えた…。
多少なりとも母親に小言は言われたが、それでも赤ちゃんのためにベビー用品を買ってくれたのだ…。
私は親のありがたさを心より感じた…。
お腹の赤ちゃんは順調に育っていた。
カズくんは赤ちゃんを心待ちにしていた。
私のお腹をさすっては、顔をあて、耳をあてて赤ちゃんに話しかけていた。
夜、寝るときも『こういう体勢で寝た方がお腹の赤ちゃんも楽なんだよ。』と私にアドバイスしてきた。
そっか…カズくんは一度嫁さんの出産を経験してるんだもんね…。私より何でも知ってるんだね…。
出産が初めての私だが、カズくんは2度目のことなので出産のことはよくわかっている…。
とても心強かったが、それが逆に私を嫉妬させた…。元嫁さんへの嫉妬だろうか…いや、カズくんが私より出産に関する知識があることに対しての嫉妬だろう。
(お互い、初めての結婚で、初めての出産ならなぁ。なんでもスタートラインを同じにしたかったなぁ…。)
そして2月7日…
ちょうど結婚して1年が経つ、2人の結婚記念日…。
金はなかっから、この日の夕飯はいつもより少しだけ豪華な料理を作ってみた。
スーパーで半額になった霜降り和牛ステーキ、ピザ、カレー、フライドチキン…
肉ばっか。
あっそうそう。カズくんは野菜、キノコ類がすべて食べられない、典型的な肉食系統なのだ。なので食卓にのぼる料理は全部肉。見てて気持ち悪くなるくらい。
もちろん、スーパーで買い物するときはカゴいっぱいに肉しか買わない。
私は野菜、大好きだけど、カズくんが食べないから買っても仕方ないのだ。
すべてはカズくんを中心に動いてた私…
いま思えば、私はカズくんと一緒にいたときは自分を無くしてしまってたのかもしれない。自分を犠牲にしていたのかもしれない。
でも苦にならなかった…。
よく【惚れた方の負け】と聞くのだが、当時の私は負けていたのかもしれない…。【負け】というより、カズくんより一歩引いていた生活をしていた。
いつもカズくん優先にしてた。
それはカズくんの笑顔を見ていたいから…。
たまにしか怒らなかったカズくんだが、もうカズくんを怒らせたくなかった…。
カズくんは嘘ばかりつく人だったが、私はそれでもカズくんを信じた。いつかカズくんが正直な人になってくれると信じて…。
【信じられると嬉しいし裏切れない、だから信じる】
この言葉を頭の隅に入れ、私はカズくんを信じ続けた。
出産予定日も近づいてきた3月上旬。
3月9日の予定日を過ぎても陣痛の兆候は見られなかった…。
初産だから多少予定日を過ぎても私は何とも思っていなかった。
そんなのんきに過ごしていた3月17日の夜、眠りにつこうと布団に入ったら腹部が軽く痛み出した。
まだまだ痛みは軽いし大丈夫だろうと様子を見ながら寝ていたのだが、時間毎に増す痛みに急に不安に襲われた…。
寝ていたカズくんも私を心配してくれて、産婦人科へ入院する荷物を車に詰め込み、2人で深夜に産婦人科へ向かった。
まだまだ子宮口は狭く、すぐに赤ちゃんも産まれないのでカズくんは家に帰っていった。
私は定時間毎にくる痛みで眠れなかった。
明け方につれてその痛みは耐えられないものになっていく…。
それは私が今まで経験したことのないもの。
うめき声をあげ、冷や汗をかいては一旦おさまる痛み…合間に眠気が襲うが、それは再度くる痛みにかきけされるのだ…。
私がいた陣痛室には先にもう一人の妊婦さんも陣痛と闘っていた。
その妊婦さんは2回目の出産だそうで陣痛には慣れていた。私みたいにうめき声なんてあげていない。
日付は3月18日。
朝7時に朝食が配当された。
お腹は空いていなかったが看護婦さんは食べろと言うので少しづつ頂いた。
食べているときにも陣痛は襲ってくる…そのたびに口に入れたものが痛みに耐えきれなく口からボロボロ落ちてしまった…。
それを見ていた看護婦さんが『あんたしっかりしなさいよ!!そんなんじゃ母親になれないわよ❗』と私に活を入れた…。
出産ってこんなにツラいものだったなんて…。
さらに時間が経ち、痛みも表現できないものへ変わる…。
うめき声だった私が、今度は絶叫するほどになってしまった…。
昼になっても子宮口はまだ小さかった。
私の絶叫があまりにもうるさく、看護婦さんも手に追えないほどになってしまっていた。看護婦さんは私の母親を呼んだ…。それと一緒にカズくんも来てくれた…。
「あんたうるさいわねぇ💦陣痛は痛いものだと思えば少しは楽よ!!」
…母親は私に気丈に振る舞い、さりげなく出産費用を渡してくれた…。そして少ししたら帰ってしまった。
(お母さん…ありがとう…。)
カズくんは私のとなりに寄り添ってくれた…。
大好きなカズくんが隣にいてくれるだけで心強かった…。
そして午後1時には、一緒の陣痛室にいた妊婦さんが無事に赤ちゃんを産んだ。オギャーオギャーと元気な赤ちゃんの声が聞こえた…。
(私も早く産んで痛みから解放されたい…。)
午後3時ごろに、わたしはようやく分娩室へ移動できた。
そこからが地獄のようだった…。
痛みがピークになり、その度に絶叫していた私は汗が止まらなく、疲れはて、意識が遠退きそうになっていた。
(もうこんな痛みがまだ続くなら死んでしまいたい…。)
たまらず看護婦さんに無痛分娩をお願いしたら、『もうすぐ産まれるんだし我慢しなさい❗そんな痛みも経験しないで赤ちゃん産もうなんて母親になれないわよ❗最近の若い娘は…。』と言われてしまった。
(もう本当死にたい…)
叫び声をあげる力も無くなってしまった私は、半分、生きている心地がしなかった…。
午後5時すぎ…
ようやく先生が分娩室に来てくれた。
子宮口は全開、間もなく赤ちゃんが産まれるらしい…。
1分間隔を切った陣痛…、そのタイミングで助産婦さんは『いきんで下さいねー。』と言う。
(『いきむ』って何…?)
いきむことを、具体的にどうしていいかわからずに、よくドラマ等で見る出産シーンを思い浮かべ、かたち的にいきんでみた。
「もっと強くいきんで下さいねー。」
「いきむって…何したらいいんですか…?」
息を切らしながら助産婦さんに聞く。
「お腹の下の方に力を入れるんですよー。はい、次の陣痛でいきみましょうねー。」
❗❗❗💦
自分なりにいきんでみたが、赤ちゃんは少しだけ出てきた感じがする。
「はい、次の陣痛で赤ちゃん産まれますからねー。」
❗❗❗‼‼‼💦
そのとき、先生が「ちょっと狭いから切りますねー。」と言ってきた。
『ジョキンっ』という音とともに、ズルッと赤ちゃんが産まれた…。
それは痛みからやっと解放された瞬間で、とてつもない達成感と安堵感が募った。
赤ちゃんも元気よく泣いてくれた。
「はーい、可愛い女の子だよー。」
まだ少し血のついていた赤ちゃんを見てビックリした。
本当に小さい赤ちゃんが、精一杯震えながら泣いていた。
こんなにも力強く赤ちゃんは産まれてきてくれたのだ…。
自分の産んだ初めての赤ちゃんは本当に小さく感じた。
陣痛は酷だったが、赤ちゃんを見るなり、産んでよかったと心から感じることができた。
赤ちゃんを見て一息ついたと思ったら、先生は先ほど切った部位の縫合を始めた。
周囲に麻酔が打たれるのも痛かったが、その麻酔が効く前に縫われいたので泣きそうになった。
入院は5日間。
毎日カズくんは私と赤ちゃんを見に病院に来てくれた。
しかし後になって発覚したのだが、私が入院中にカズくんは元嫁さんと連絡を取り合っていたのだ。何の用事かわからなかったが、出産し、入院中の大切な時にコソコソやられたのは残念だった…。
退院日にはカズくんが迎えに来てくれた。
春の兆しが降り注ぐ日だったが、まだ少し風は冷たく感じた。
赤ちゃんの初めての【お外デビュー】にはちょうどいい天気だったろう。
産まれてきた赤ちゃんはカズくんに似ていた。目が一重なところがパパそっくり。
あれだけ苦労して産んだ赤ちゃんが私に似ていなくて少し残念な気もした…。
それと同時に『今度は私にそっくりな赤ちゃんが欲しい』と思った。
あんなツラい陣痛は2度とゴメンだと思っていたが、私に似ている子供が欲しくてたまらなかった。
それにしても私の第1子はカズくんに似すぎていて笑えた。
誰がどう見ても『パパ似ですねー。』と口を揃えて言うのだ。
5日ぶりに家に帰宅したが、体はまだ自由が利かなかったが、掃除に洗濯と私は頑張った。家にいるとやるべきことはたくさんあるのだ。
市役所に出生届も出しに行かなくちゃ…。
赤ちゃんの名前はすでに決まっていた。
カズくんが名前の響きを考え、私が漢字をあてはめた。
※仮に、仮にです!
赤ちゃんの名前を【ウメ】とします。
産まれてきたばかりのウメに3時間ごとにミルクやらオムツを代えるのだが、夜も眠れないのがツラい。まぁこれも2ヶ月くらいの辛抱だ。
幸い、ウメは無駄に泣いたりせず、多少の騒音でうるさくてもスヤスヤ眠ってくれた。なんて手のかからない子なんだろう。
ウメの風呂は、カズくんが進んでやってくれた。
慣れた手つきでウメの体を洗ってくれた…。
それを見る度に私の心は少し痛んだ…。
(きっと元嫁さんとの子供も毎日風呂入れてあげてたんだなー。)
(お願いだから、元嫁さんとの子供さんとウメを照らし合わせないで…カズくん。)
それにカズくんは私よりウメの面倒を見てくれた。
仕事から帰宅すれば、ウメに寄り添ってくれていた。
(そんなに赤ちゃんが好きだったんだね…)
赤ちゃんが産まれたという知らせを受けたカズくんの両親はすぐさま駆けつけた。
産まれてすぐにカズくんが連絡をいれた。
入院2日目、他の親戚のだれよりも早く赤ちゃんを見に来た。カズくんのお姉さんも来てくれた。
カズくんのお姉さんはすごく大人しそうな女性だった。1歳半の男の子の息子さんも一緒にきてくれた。旦那さんは新潟でお留守番のようだ。
退院して2週間ほど経ってからもカズくん両親とお姉さんはウメを見に来た。
結婚してから何にもなかったが、赤ちゃんが産まれたとたんに会う機会が増えた。
(孫が産まれた途端に頻繁に来やがって…)
私は心の中でカズくん両親を嫌っていた。
私の両親と顔も合わせないのに、産まれたウメに会いに来るカズくんの両親が憎らしかった。
孫が産まれたのだから『今からでも構いませんので私の両親と会っていただけませんか?』と、下から丁寧にお願いしても『今さら合わす顔なんてない』と言われてしまうのだった…。
私の両親も『孫が産まれても向こうの両親は会おうとしないで💢』と激怒していた。
そんな私の母親は、産まれてきたウメを心から愛してるようには見えなかった…。
私の母親からしたら初孫にあたるのでとても喜んでくれると思っていたのだが…ウメの容姿はカズくんにそっくりなので、それが母親には気にくわなかったのだろう…。
『はるかに似たら大きな二重のお目目になってたのに💢あんなカズに似ちゃってさ💦…』
私の心は痛んだ。
実の母親に、一生懸命産んだ我が子を批判された…。
『きっとウメも将来はカズやカズの親に似て非常識な性格になるだろうね…』
母親はどこまでウメをけなすのだろうか…
見た目は確かにカズくんそっくりだが、まだ性格や将来なんてわかりっこないのに…。
まだまだ無垢な可愛い赤ちゃんなのに…。
実の母親に何と言われようがウメは私が産んだ娘。私だけがこの子を守っていかなくちゃ…ね……。
このころ、生活は本当にキツキツだった。
何より車のローンが高い。
それに去年、私がフルでバイトしていたからその分の税金が高すぎた。
ガソリンなんて入れる金ない…。
いっそ車を売った方がいいのかと感じたが、売ったところで差額がついてローンが残り、一括で払えないから無理だった…。
とてもウメのミルクやオムツや服などを買う余裕がない…。
自分たちの食事も危なくなっていた…。
米は買う余裕もなく、カズくんのお姉さんの新潟から譲ってもらったりして何とかしのげた。
ウメのオムツなどは、私の母親が助けてくれたのだった…情けない…。
母親はあれだけウメをボロクソに言うのだが、孫は孫……ウメに必要なものを買ってくれるのだ…。
こんなに生活が厳しいのだから、カズくんの両親に仕送りするのも命取りになる…。
私はカズくんに仕送りをするのを止めてもらうように頼んだ。
『うちの生活が苦しいのはわかるけど、兄弟で俺だけ仕送りしないわけにもいかないし…』
そりゃそうだ。
しかし現実問題、自分たちの生活が苦しいのに、それを強いられても仕送りをする理由などあるのだろうか…。こっちは乳のみ子だっているのに…。
それにカズくん両親はさりげなく裕福な生活をしているのに…。
ついこの間は新車を購入したらしく、さっそくそれに乗ってウメを見に来たのだし…。
数日して、カズくんは『仕送りはしなくても大丈夫になったよ。』と言っていた。
(よかったー、これで少しは生活楽になれるかな…)
ウメが産まれて1ヶ月が経ち、ウメはとても太くなった。ミルクをよく飲んでくれるのだ。
ちょうどお宮参りをする時期なので、私の母親はウメのために立派な着物を用意してくれた。
もちろん、カズくんの両親は呼ばなかったし、向こうもお宮参りについては何にも言ってこなかった。
生後100日のお食い初めのときだって同じだった。
うちの両親は祝ってくれたが、カズくん両親は何も連絡なし…。
孫のイベントのときはうちに来なかった…。別に一緒に祝ってほしくなんてないが、それはそれでムカついた。
それでもウメはすくすく成長していった…。
日に日に太っていくウメは、昔見た私のアルバムの中の【私】に似ていた…。
色白でコロコロ太っていて、いつもニカニカの眩しい笑顔を振りまいていた、昔の写真の【私】…。
それがお目目が一重になっているだけの目の前にいるウメは私の分身と言えばいいのだろうか…。
ウメはこのころは本当にいつもニコニコしていて、私が喋りかけるといい反応を見せてくれたのでたまらなく可愛かった。
ウメの4ヶ月検診のとき、診てくれた先生が『この子は運動発達が著しいねー。』と言っていた。
私にとっては初めての赤ちゃんなので何とも思っていなかったが、ウメは4ヶ月で腹這いになり起き上がろうとしていた。
5ヶ月ではハイハイもでき、すでに補歩器で遊ばせていた。
つかまり立ちもすぐできてしまった。
しかしここからの二足歩行にウメは悪戦苦闘していた。
専業主婦になり、毎日ウメの面倒を見るようになっていくうちに感じたのだが…夏になっても生理は来なかった。
ウメは完ミなのでそろそろ生理が来てもおかしくなかったのでまさかとは思っていたが…
また妊娠していた。
予定日は来年2月。
ということはウメが1歳の誕生日を迎える前に新しい命が誕生することになる…。
生活が厳しかったが、妊娠したのも嬉しかったので次の出産に前向きでいた。
ウメの子育てが一段落して…またバイト復帰して……また妊娠してバイト休むよりは合理的かなと思った。
そして秋になり、ウメの離乳食も進んでいた11月のこと…
カズくんの元嫁さんが養育費が欲しいと言ってきたそうだ。
この期に及んで今さら何ですか…と思った。
こっちだって生活厳しいし…。
カズくんが元嫁さんと連絡を鈍っていたので、私はたまらずカズくんのケータイを取り上げ、怒りのまま元嫁さんに電話をかけた。
ープルルルルーッ…ガチャ、
「あっもしもしー、初めまして、カズの今の嫁ですが養育費払えません、うちも赤ちゃん産まれたんでー。
ってか借金作ったのそっちなのに今さら養育費もらおうとかって何なの⁉💢」
「はっ⁉⁉何の話⁉💧借金って何⁉⁉」
元嫁さんは突然の私からの電話と、私の言っていることが何なのか理解できないでいるように感じた。
私も『??』と感じ、電話口でちょっと沈黙が続いた…。
それに気付いたカズくんがすかさずケータイを取り上げ、通話を切ってしまった。
『勝手なことすんなよ❗元嫁のことは俺が片付けるからお前がしゃしゃりでるなよ❗』
『カズくんがもたもたして連絡しないから私がしたんでしょー❗だいたい元嫁さんは借金作ってきたのに養育費ももらおうなんて図々しいのよ❗その借金でカズくんは自己破産したのにさ💢』
『とりあえず、もうこの件は俺が片付けるから、はるチャンは安心して…。』
『わかった…。』
私はカズくんを信じようとしていたが、電話口で聞いた元嫁さんの『借金って…??』の反応が気にかかって仕方なかった…。
私はどうしても元嫁さんのあのときの反応が気になり、カズくんのケータイから元嫁さんの番号をメモし、カズくんの仕事中に元嫁さんに電話をかけた。
カズくんの両親が元嫁さんについて何か言っていたが、『あの子はちょっと精神が異常でね…話がわからない子なんだよ。あの子がちゃんと子育てできるのか不安でね…。』と、ボロクソに言っていた。
しかし、電話に出てくれた元嫁さんは至って普通の女の子だった。私より1つか2つ歳上で、話し方からして落ち着いてしっかりした女性に感じた。
そして私は元嫁さんから本当の真実を聞かされた…。
元嫁さんが言うには、カズくんとカズくんの両親はとんでもなく嘘つきみたいだ。
話を聞くと、元嫁さんもカズくんとの結婚生活はかなり厳しかったようだ。元嫁さんもカズくんの給料の詳細はわからず、毎月の生活費には苦労していたらしい…。
しかし子供も産まれ、元嫁さんは苦しいながらも頑張ったらしい。
そんな中、カズくんが新しい車を買いたいと言ってきたそうだ。生活費が足りないのに新しい車を欲しがるカズくんを元嫁さんは止めたらしい。当たり前のことだが。
しかしカズくんは車を買い、それにつけるセキュリティも無断で取り付けたらしい。セキュリティで30万もしたそうだ。
そのくせすぐに盗難…。
ろくに生活費もくれないカズくんに元嫁さんはしびれを切らし、離婚したらしい…。
そして私がカズくんから聞いた、元嫁さんの作ってきた借金の件…
これは実はカズくんが自分で作って来たものらしい。パチンコで負けては金を借りてきたんだと思うよと元嫁さんが教えてくれた。いろんな金融会社に手当たり次第に借りていたらしい…。
メッチャ騙された‼‼
興奮がおさまらず、まだ頭の中で話の整理もつかず、私は怒りに満ちていた。
カズくんの言ってたことは全部嘘だった‼
悪いのは元嫁さんじゃない‼
カズくんじゃん‼‼‼
元嫁さんを悪者にしたてあげ、自分はさも被害者かのように、かつ自分のことを棚に上げて私に笑顔を振りまいていたカズくんが許せなかった。
かといって嫌いになれなかった…。
私はカズくんに惚れていたからかな…。
今となってはこんな男に惚れる理由なんて何一つないのだが…。
私はたまらずカズくんの親に怒鳴り付けてやりたかったが、あいつの親とは話したくもなかったので、まだ話のわかりそうなお姉さんに電話をかけた。
カズくんが今まで嘘をついていたことを私は赤裸々にお姉さんに喋った。
『えー。カズがそんなことを…。それは酷い…。カズ病気なのかな…いくらなんでもその嘘はないよ…。』
お姉さんも絶句していた。
お姉さんと話が進むにつれ、また色々なことがわかった。
まず兄弟で親に仕送りなんかしていない。そんな話なんてないと…。
今まで仕送りとしてた金は全部パチンコでスっていたのか…そんな想像、怖くてできなかった。
それにカズくんの兄さんは、カズくんと折半して車なんて買ってないらしい…。そもそも兄さんは免許も持っていないみたい…。
そして兄さんは子供なんていないし結婚もしていないらしい。
カズくんが一人暮らししてた場所に、家族全員で住んでたなんてあり得ない、あそこには住んだことなんてない…と言っていた。
借金の話をお姉さんに伝えると、お姉さんも絶句していた…。
『ちょっと待ってね。その話はあまりに深刻だから、うちのお父さんに相談してみるわ。そんなカズとハルカさんも一生いるには辛すぎるものね…。何か変わるわけではないと思うけど、とりあえず待っててね。』
と言われた。
数日経って、カズくんのお父さんから電話がきた。
『その件については、私たちが何とかするから、ハルカさんは何もせずに待っててくれ。』
???
カズくんの言葉にそっくり…。
カズくんのお父さんが待っててくれと言うので、私は待った。
しかし連絡なんて来なかった。
放置されてムカついたので、私は元嫁さんと何度も電話していた。
元嫁さんもカズくんとの苦労は耐えなかったと言う。
カズくんに新しい彼女ができたと聞いてはいたが、結婚し、赤ちゃんができたとは聞いてなかったようだ。
『カズもダメな人間だったけど、新しい彼女と一緒に上手くやっていってるもんだと思ってたけど…やっぱりダメだったみたいね…。』
と言っていた。
元嫁さんが作った借金ではないし、離婚原因はカズくんだから当然養育費は求めていたらしい。…当たり前だ。
だから毎月養育費を要求していたことになる。だからカズくんはたまに元嫁さんと連絡を取り合っていたわけか…。
なんだか元嫁さんと話をしていくうちに意気投合してしまった。
最後に元嫁さんは私にこう忠告してくれた…
『あいつら家族はホントあてにしないほうがいいよ。私も離婚するとき、待ってくれって向こうの親父に言われたけど結局何もしてくれなかったもん。あと、お姉さんは話のわかりそうな人だけど、結局は役に立たないからね。あいつら家族は全員嘘つきだから。』
待っても連絡をしてこないカズくんのお父さんに『いつまで待ってればいいですか?』とメールを入れたが、『いま状況を確認してるからもう少し待ってくれ』と言われた。
状況はわかりきってるじゃん‼
親なんだから息子にガツンっと言えないの⁉
多額の借金作って自己破産して、それも知らないで結婚した私は何なの⁉
しかもそれを元嫁さんに擦り付けて‼
私はもう、あのクソ親父はほっといた。
私は怒りがおさまらず、仕事から帰ってきたカズくんに真実を言い、
「すべてがバレてるんだよ⁉こんなこと知ってたら私はアンタと結婚しなかった‼
アンタなんかと結婚するんじゃなかったわよ‼‼‼」
と怒鳴ってしまった。
そうしていても、ウメやお腹の赤ちゃんはどんどん成長していくのだった…。
私はとんでもない男と結婚してしまった…。
まるで結婚詐欺にでもあった感じだ。
しかし今は子供も産まれ、お腹には赤ちゃんもいる…。生活もかなり苦しいが、私は離婚だけはしたくなかった。子供たちのために。
カズくんは救いようのない人間だが、私は一生この男に付き合っていこうと思った。この先またどんなことが起こるかわからないが、きっといつか幸せになれる日がくることを願って…。
あのクソ親父とは連絡が途絶えたが、カズくんのお姉さんとは引き続き連絡を取り合っていた。
「うちのお父さんも忙しくてなかなか話が進まなかったみたいでごめんなさい…。私でよければいつでも相談に乗りますから気軽に連絡くださいね…。」
元嫁さんはカズくんのお姉さんも役に立たないと言っていたが、私にはまだ手を差し伸べてくれる優しい味方になっていた。
(でも嘘ついちゃって。あのクソ親父は定年退職して毎日が暇だってこと、私は知ってるんだよ…)
…そして時は流れ、年も明けた。
赤ちゃんは2月に産まれる予定なのだが、年が明けてからカズくんは毎日のように残業があるからと帰りがとても遅かった…。
とても大きくなったお腹でウメを風呂に入れてあげるのがツラかった…。いままでは毎日のようにカズくんが風呂に入れてあげてたのにな…。
週に一度ある休日も、急にシフトが入っちゃって出勤になったと、休みがない日も増えた。
カズくんの勤務先のパチンコ屋には私の友達もたくさんいたから、嫌な予感は頭によぎったが大丈夫だろうと気にしないようにはしていた…。
そこのパチンコ屋は、残業は給料が発生するシステムになっている。
しかし翌月のカズくんの給料はいつもとたいして変わらなかったようでカツカツの生活だった。
この頃、どうしようもないくらい貧乏だった。もうさすがに毎月毎月、私の母親にオムツだのミルクだの買ってもらうことが気にさわり、自分たちのお金で買っていたからだ。
お腹の赤ちゃんのために栄養のある食事を捕りたいのだが、ウメにはひもじい食事なんてさせたくなかったのでウメだけには栄養のあるものをあげ、私は白米しか食べなかった。
ときにはストレスと過度の空腹で、気づいたら無意識に米を炊き、ひたすら白米だけを暴食していた…。そんな自分が情けなくなり、我に還ったら涙を流しながら白米を食べていた…。
(お腹の赤ちゃん…ママ、白米しか食べれてあげられなくてごめんなさい…。)
こんなにカズくんは残業してるのに給料がいつもと変わらないなんておかしい…。
そう感じ、私はそこのパチンコ屋で働いている友達に連絡してみた。
「いまバイトの子が不足してて毎日忙しいのは事実だよ。でも週に一度の休みは働いちゃいけない規則になってるから…そこは出勤にならないと思う…。」
嫌な予感は現実のものとなっていく…。
また週に一度の休日に急に出勤になったと、カズくんは朝から深夜まで帰ってこなかった。
その日に私はパチンコ屋に電話してやった。
ープルルルーッ…ガチャッ
「お電話ありがとうございます。○○○、○○店でございます。」
「あっもしもしーお疲れ、私だよ△△さん、久しぶりだね✨あの、マネージャーに代わってくれます??」
「あー久しぶり!!元気してた?いまマネージャーに代わるね!」
♪♪♪~……
「お電話代わりました、◇◇です。」
「あっもしもしお疲れ様です。○○の家内です、いつも○○がお世話になってます…あのお聞きしたいのですが、本日、うちの○○は出勤してますでしょうか?」
「あー○○くんは今日は定休日のはずだよ。出勤してないけどどうかした?」
「あっ…いえ…そうでしたか…ありがとうございます。それだけなんで、お騒がせしました。お疲れ様です、失礼します…。」
私の嫌な予感は確信へと変わった。
深夜に帰宅し、風呂に入っている間にカズくんのケータイをチェックしてみる。
怪しいメモリーは…
ない。
怪しい着信履歴も…
ない。
怪しい発信履歴も…
もちろんない。
怪しいメールも…
見当たらない。
証拠が見つからない。
半ば諦めかけたが、もしかしてと思い、メール作成した際の文章のコピーを張り付けにしてみた。
出てきた❗
怪しい匂いが満載のメアドが。
メモリーに登録できない相手とカズくんはメールをし、証拠はすべて消し去っているように見せかけたが携帯は真実を語る…。
今度はメール作成し、「あ~わ」の予測変換をさぐってみた。
出てきた出てきた、怪しい文章…。
【○○○ちゃん】
【俺も】
【大好きだからね】
【楽しかったね】
【ディズニーランドは】
【厳しいなあー】
込み上げる怒りを抑え、とりあえずこの日は大人しくカズくんに振る舞った。
次の日、パチンコ屋の友達に連絡をした。
「あのさぁ、○○○っていう子、そこで働いてる?」
「ああ、○○○っているよ、バイトの子。バツイチで子持ちだけど。」
「うちのカズがその子と怪しい関係にある気がするんだけどさぁ、実際どんな感じ?」
「ああー、言われてみればそんな感じかも。この間は早番終わって2人で一緒に帰ってたし、前の飲み会ん時なんてラブラブでべたべたしてたよ。カップルみたいだった。」
「そう…教えてくれてありがとう…。」
「まぁあの2人は同い年でお互いバツイチだからね、話も合うんじゃないの?ハルちゃんには申し訳ない話だけど…。この間の遅番のときなんて終わってから駐車場で2人で一緒にいるのをマネージャーが目撃したからヤバい感じだったよ。」
「うん、わかった、ありがとう…。」
証拠なんていくらでもあるじゃないか。
カズくんは仕事先で堂々と浮気して遊んでいた。
まぁパチンコ屋には可愛い女の子の入れ代わりが激しいから予想できなくもないことだが。
カズくんはイケメンでもないし、身長も低いし…どうして浮気なんかできるのか…。
それはカズくんが嘘の話を造り上げ、自分を美化し、相手を魅了する話術とあの笑顔があったからだ。相手をだますテクが磨かれているからだ。
……まだこんな小さいウメもいるし、私は臨月になるのに。
すべての真実を知り、だが私は冷静にカズくんに問う。
「あのさぁ、カズくん浮気してるでしょ?全部知ってるんだからね。休日出勤してた日も本当は仕事なかったってマネージャーに聞いたし、○○○ちゃんって子とも仲良くしてることも教えてくれてた。」
「………。」
「黙ってないでなんか言えよ❗オメエこんな小さいウメもいるのに、私も臨月なのになに浮気してんの⁉なに他の女と遊んでんの⁉残業とか嘘ついてないでウメを風呂に入れてあげたら⁉⁉アンタ父親失格だよ⁉⁉これじゃあ元嫁さんとの子供もガッカリじゃない⁉⁉合わせる顔なくなるよ⁉⁉テメェ人間としてサイテーだよ‼」
「……。
だって…お前が『俺と結婚するんじゃなかった』って言った日あったじゃん?そのときからお前が好きじゃなくなった。好きな気持ちがなくなったから…。
家に帰りたくなくなった…。
」
「だからって浮気していいわけ⁉⁉オメエはどこまで都合いい人間なの⁉たいしてイイ男でもないのによく浮気なんてできるよな❗またどーせ嘘つきまくって女騙したんだろ⁉⁉オメエがいたらどんだけ騙される女が増えると思ってんだよ❗私だけで止めとけよ❗これ以上女泣かすなよ❗テメー最低だよ‼」
「……ごめん…。ちゃんと帰ってくるから…。だけどハルちゃんが家にいたら帰りたくない…。」
「じゃあ私は実家に帰らせていただきます❗」
…という流れで私は実家に帰った。
それはお腹の赤ちゃんが産まれる2週間くらい前だったと思う…。
私はウメを連れて実家で暮らし始めた…。
それでもどこかで私はカズくんを心配していた…。
ちゃんと仕事終わったらすぐに帰っているのか…。
たまらずパチンコ屋の友達に状況を聞いたりもした…。
私も…
情けない女だ…。
私とカズくんはすれ違いの生活になったわけだが、メールだけで繋がっていた。
今日のウメの様子はどう?
とか、
ハルちゃんのお腹は大丈夫?赤ちゃんは大丈夫?
とか…。
気になるんなら一緒に生活してもいいんじゃない?って思うが、相変わらず私に会いたくないようだ。
それでも私の身体は心配してくれるカズくん……
カズくんは一体なにを考えているの?
もう私のこと嫌いなんでしょ?
だったら私の身体の心配なんてしないで…
変に期待しちゃうじゃない…
また昔のように楽しく笑いあって2人で過ごす家庭を私は想像してしまうのだった…。
(昔みたいに幸せな2人に戻りたいなあ…)
だんだん産まれそうになるお腹をかかえ、私はカズくんにメールした。
『お願いだから昔のように2人で生活しよ…。こんな離ればなれの生活なんて嫌だよ…。ウメだってパパに会えなくて可哀想だよ…。もうカズくんのことは何にも文句言わないからさ…私、カズくんの全部を受け止めるから…。どんなカズくんでも構わないから…。もう怒ったりしないから…。』
『また俺が嘘ついても怒ったりしないの?そんなわけないでしょ…。あんなにボロクソに言われて、俺だって気持ちの整理がつかないからお前と一緒に生活するなんてムリだね…。』
私は堕ちた…。
もうどうしたらいいのかわからなかった。
ウメのために、子供たちのためにパパと一緒に生活しなきゃいけないのに…。
でも私が真実を探り、すべてを知ってカズくんを怒鳴り散らし、生活環境をめちゃくちゃに壊してしまった…。
(真実なんて知るもんじゃなかったのかな…知っちゃマズかったのかな…)
私は何が正しいのかそうでないのかわからなくなり道を見失いそうになっていった…。
カズくんと離れ離れの生活を続けていた2月25日、早朝…
お腹が痛む…。
陣痛の始まりだ…。
経産婦なら早めに病院に行かなくてはならないので、まだ隣でスヤスヤ寝ているウメを起こさないように部屋を出て、私は母親に朝6時に病院へ送ってもらった。
ウメと離ればなれになるのは初めてだったので不安な気持ちと寂しい気持ちが入り混ざる…。
病院へ着き、内診した看護婦さんが昼頃には産まれると教えてくれた。
前回のお産は恥ずかしいばかりの記憶しか残っていなかったので、今回はどんなに苦しい陣痛でも声はあげずに耐え抜こうと目標を持った。
でもね…
こんな苦しい陣痛に耐えても、やっぱり夫…カズくんには傍にいてほしかったよ…
私は涙が止まらなかった。
それは痛みから来るものではなく、淋しさゆえの悲しい涙だった…。
私は陣痛に耐えながらもカズくんに連絡を入れ続けた…
(お願い…来てカズくん…。私とカズくんの赤ちゃんを2人で迎えようよ…)
不安と痛みに耐えながらも赤ちゃんが産まれる時間の昼を回っていた。
まだ子宮口が全開にならないでいた…
夕方になり、外は真っ暗な闇につつまれる…
私は夜の7時頃にようやく分娩台にあがれた。
先生も分娩室に入り、お産が始まる…
助産婦さんの『はい、いきんで!!』と言われたときだけ今まで我慢していた声が思わず出てしまった。
そんなバタバタしてた中にカズくんは駆けつけてくれた。
カズくんが分娩室に入るための着替えを済まし、いざ分娩室に入ってくれて来たときには…
赤ちゃんは産まれていた。
カズくんは赤ちゃんとの対面に間に合わなかった。
私は1人でお産をした。
あんなに心細かった気持ちが、1人でお産を済ませたことにより強靭になっていたような気がした。
(カズくんがいなくても…
私は…
頑張れた…)
分娩室に入ってきたカズくんはすでに産まれていた赤ちゃんを見るなり、すぐに
「オレ、もう用ないから帰るわ。」
と言う。
「えっ⁉もう帰るの?…💦」
「帰るよ。赤ちゃんも産まれちゃってたし。じゃあね。」
私は言葉が出なかった…。
まだ分娩台で胎盤の処置を施す前にカズくんは帰っていった。
(カズくんは私の体の心配なんかしてないんだね…赤ちゃんだけ無事に産まれたか見に来ただけなんだね…)
私は少しずつカズくんに冷めていくような感覚がしていた。
次の日、カズくんは見舞い(?)に来てくれた。
正確に言えば赤ちゃんだけを見に来ただけなんだよね…。
赤ちゃんの名前がまだ決まってなかったので、私はカズくんに問う。
「あっあのさあ、名前どうする?漢字とかさ…なんか好きな……」
「お前が決めれば?どうせ育てんのお前なんだし、オレ関係ないし。名字もお前のになるんだし。」
「………」
なんて冷たい野郎だ。
もう離婚する気マンマンじゃないか。
離婚するなんてこのときはまだ決まってなかったんだし。
そもそもコイツは父親を放棄する発言をしていた…
それに私は無償に腹が立った。
入院している部屋の窓からは鈍く明るめな灰色の空からチラチラと雪が降っていた…
カズくんの両親も見舞いに来た。
正直、うざかった。
こんなヤツらに育てられたカズくんもコイツらも、最低だ。
カズくんはぼぼ毎日赤ちゃんを見に来た。
そして毎回、帰り際に私に金をせびってきた。
出産祝い金や、入院費用があることをコイツは知っているのだ。
金をせびるために毎日来るコイツは本当に父親なのか…
だんだん殺意が沸いてきた。
退院し、私はカズくんとの住まいに戻った。
自分ちの方が子供たちのミルクや布団や風呂などの勝手がいいし、なにより落ち着く…。
しかし私が帰ったことで、もちろんカズくんは仕事が終わっても家には帰ってこない。
ウメと産まれたばかりの赤ちゃんの風呂を私1人でこなすのは想像以上に大変だった。
でも2人とも可愛い可愛い我が子。
…表記が遅れたが、2人目の赤ちゃんも女の子。ウメとは似つかない、二重で鼻筋の通った顔立ち。
2人目の赤ちゃんを見る人は口を揃えて『ママ似だねー』と言う。
ウメは私の幼少期そのものだが、2人目は今現在の私そのもの。
2人とも間違いなく私の可愛い我が子。
そんな2人目の赤ちゃんには…
【はな】と名付けた。
あえて平仮名で。
あの雪の降った日にそう決めた。
響きは『はな』としていたが当てはめる漢字がなかなか思い浮かばなかった。
そんな中、窓の外の白い雪を見て平仮名に決めたのだ。漢字を当てはめたらその意味だけを記すことになるが、平仮名であれば無限大の想像ができる。…真っ白な雪が教えてくれたこと…。
花のように可愛らしく、華のある人生を歩み、誰からも愛される心優しい、美しい【はな】でありますように…
ハナちゃん…この子にぴったりな名前を付けたようで私は満足している。
ちなみにウメの本当の名前は【夢采】。読みは〔ゆめな〕。
采という字は手に入れる、つかみとるという意。
どうか大きな夢を持ち、その夢を叶えて成し遂げてほしいという願いをウメの名前に込めました。
私は婦人警察官にはなれなかったが、ウメには夢を叶えてほしく、その漢字を当てました。
毎日帰ってこないパパ…とは呼べないカズくん。
いつもどこにいたのだか…。
そんなパパなんていらなかった。必要ない。
私は気持ちがモヤモヤしながらもウメとハナの育児に奮闘していた。
ウメはまだ一歳にも満たないが、すでにハナにお姉ちゃんっぷりを発揮していた。
ハナが泣いたらおしゃぶりを持ってきては口元にねじ込んでみたり、ハナが寝んねしてたら頭を乱雑に撫でてくれたり…
そんなウメのお姉ちゃんぶる行動にいつも私は癒された。
ハナが飲み残したミルクを飲んだり、ハナ用のオモチャで遊んでたりはしていたが一歳にもなっていないウメもまだまだ赤ちゃん…。
そんなウメが愛くるしい…
ウメは本当にいい子だ…。
3月になり、ウメの初節句で私の母親がお祝いをしてくれた。
ウメのために豪華な雛人形を浅草まで買いに行き、飾るのも母親が手伝ってくれた。
夕飯はケンタッキーや寿司やホールケーキを用意してくれて豪華に彩った。
雛人形越しにウメと一緒に写真を撮ったのだが、今ではいい思い出として残っている…。
ウメはきれいな雛人形よりも初めて食べるご馳走やケーキに夢中だった。
もちろんハナはまだミルク。そんなハナはスヤスヤいい子に寝んねしていた。
初節句なので、いちおう向こうの両親に雛人形を飾ったと連絡を入れたのだが全く見に来るどころか、ウメにお祝いもしてくれなかった。
クリスマスも何もプレゼントなし…孫には何もプレゼントをあげないのが普通なのかな…?
いや、元嫁さんとの子供には今でも誕生日プレゼントを送っているらしい…
私の子供には何にも無しですか…。
3月18日を迎えた。
ウメの一歳の誕生日だ。
この日も私の母親が祝ってくれた。
パパのいない誕生日…ウメは可哀想な子供だ…。
どうせカズくんは帰ってこないのだから、ウメの誕生日パーティーは実家で行った。
ウメは好きなだけ好きなものを腹いっぱい食べて幸せそうだ…。
ケーキの生クリームを鼻につけ、頬張って…始終無邪気に笑うウメ…
可愛くて仕方ない…
お金がないながらも私はウメにプレゼントを買った。アンパンマンのオモチャ。
私はウメの笑顔が今でも好きだ…。
4月になった。
ハナちゃんはまだ夜中にミルクやオムツで泣くので、夜はウメと別の部屋で寝かせた。
ハナちゃんの泣き声でウメも起きたら可哀想だし。
ウメは1人で寝んねさせた。私とカズくんが寝ていたセミダブルの布団で。これなら寝相の悪いウメでも大丈夫な広さ。
私はハナちゃんと同じ部屋で寝た。ハナちゃんが泣いたらすぐにお世話するために。
わたし1人でこの子供たち…まだ赤ちゃん2人を育児するのは本当疲れる。
そんな疲れが一気に私を襲う…
ある夜、すごく体が熱く、気だるい感じがした。
いつもなら何とも思わない熱や頭痛だったがこの日は違った。
何気なく体温計で計った熱に自分で驚いた…。
41,1℃…
体温計、壊れてるのかな…
こんな熱なんて出したこともない。
滅多に風邪をひいたこともなく、病気と言えば小学生のときインフルエンザで38℃を出した以来だ。
日中、スーパーへ行くのも背中にウメをおんぶし、ハナちゃんはベビーカーで徒歩で頑張った。
行きはいいが帰りはスーパーの袋もかさばり、しんどい。
子供たちばかり優先し、自分のことは後回し…
子供たちの風呂も頑張ってこなすが、私も風呂に一緒に入り、最後に自分の体を拭くとすでに冷えきっている…
食事もウメの残り物を食べる…
しかしウメは大食だからほぼ完食し、私は白米のみを食す。
付け加え、頭の片隅で心配している自分が情けないがカズくんの行方…
精神的にも肉体的にも、私は追い込まれていった…
だからこんな高熱が出たのであろうか…
さすがに体を起こすこともツラすぎる…
育児に影響が出てしまう…
なにより、子供たちに移してはいけない…
1人じゃ満足に育児すらできない自分が情けなかった…
誰かの力を借りなきゃこの子たちは育てられないのだろうか…
しかし本来、子供は夫婦あっての結晶…2人で助け合って子供を育てるものなんじゃないか…
いま家にいないカズくんに怒りが込み上がるが、今すぐにでも帰ってきて私を助けてほしかった…
かなりの矛盾した感情が折り重なり、私は混乱しながら自分が情けなくなり涙を流してしまった…
こんな熱でツラい日くらい、カズくんにどうしても帰ってきてほしかった。
仕事が終わったであろう時間帯を見計らい、まずメールする、帰ってきて…と。
返事は『帰りたくない、むり。』。
『体調崩して熱が出たから、子供たちに移したくないから帰ってきて育児手伝って…』とメールしても無視された。
少し頭にきて鬼電コール。
……が、まったく電話に出ない。
そのまま40分くらいコールを鳴らし続けた。
(浮気相手がいても、これじゃ連絡もとれないだろうな…)
と、ひそかに笑ってしまう自分がいた。
ようやくカズくんが電話に出てくれたのは深夜1:30過ぎ。
向こうも観念し、今から家に帰るからと約束してくれた。
帰ってきたカズくんの手にはコンビニの袋…
中身はポカリ、リポD、ヨーグルト…
さりげなくそれを私にくれたカズくん。
なんなの?
こういう小さい優しさが余計に私を混乱させるんだよ…
私のこと嫌いなんでしょ?
偽りの優しさなんていらないよ!
…
……カズくんのばか。
家に帰ってきたカズくんを見るのは久しぶり。
しかし、そんな小さな優しさがあってもカズくんはすぐに家を出ていってしまった…
「オレはウメちゃんを見るから、ハナちゃんはお前でがんばって。ウメちゃん連れて実家帰るわ。」
「あっ…そう。」
外にはカズくんの父さん…あのクソ親父が車でカズくんを迎えに来ていた。
よくこんな深夜に…
愚息を迎えにくるよな…
嫁の私は高熱で苦しんでるのに、息子を実家に連れて帰れる神経がイカれてる…
普通だったらさ、
嫁が体調不良の日ぐらいは家に帰ってやれとかさ、
言うでしょ。
ってか毎日家に帰ってやれって言うのが筋なんじゃねえの!?
親としてさ。
まったく本当ダメなクソ親父なことで…。
カズくんはウメを連れて、クソ親父の運転する車で実家に帰って行った…
ウメは起こされて不思議そうな表情をしていたが、久しぶりのパパに会えて嬉しそうだった…
次の日の昼。
カズくんはウメを連れて帰ってきた。
しかしカズくんの表情がおかしい…
ぜったい何かあると私は直感でわかった。
「どうしたの?何かあったの?」
「う……うん…」
「どうしたの?話さなきゃわからないでしょ?」
「昨日さ…ウメちゃん連れて実家帰ったじゃん…。ウメが家帰ってから泣いちゃってさ…」
「そんで?」
「ウメちゃん…全然泣き止まなくて、夜も寝てくれなかったんだ…」
「あぁそう…。ウメ、カズくんの実家嫌いなんじゃん?」
「うーん…。それでさ、ウメの鳴き声がうるさくて、お父さんがうるさい!眠れないじゃないか!って怒っちゃってさ………」
カズくんは泣いていた。
実の父親に、自分の娘の鳴き声でうるさいと怒鳴られたため、府に落ちない様子のカズくん。
カズくんは泣いているが私は心の底から怒りが沸いた。
孫の鳴き声がうるさい⁉
そのせいで寝られない⁉
はぁ⁉⁉⁉
あいつは本当に人の親か⁉
そんなクソ親父がいる家じゃウメもさぞ悲しかったろうに…
ウメ…そんなクソ親父のいる家が嫌いなんだね…ウメもわかるもんね…ごめんね…ママ、熱でも1人で面倒見ててあげればよかったね…
後悔と怒りに私の心は支配された。
「ウメちゃん、寝てないし疲れてるから布団で休ませてあげて…」
と、カズくんはウメを私に預けた。
こんな可愛くてまだまだ赤ちゃんなのに、怒鳴るなんてサイテーだな、あのクソ親父…。
ウメを渡され、カズくんはどっか行くんだろうなーと思っていたがカズくんは家を出ようとはしてない。
「どうしたの?」
「えっ…まぁ……。なんかハルちゃん、熱出たり、子供2人の面倒見たりで大変だってわかったから、ちゃんと家にいようかなって…思って…」
「まぁそれが普通でしょ。今までのことは反省したの?また私が怒ったからって家に帰って来なくなるのはダメだからね。」
「うん、わかってる…ごめんね…。」
少しカズくんが反省し、わかってくれたような気がして私は嬉しかった。このまま昔のように普通の生活が送れることを信じた…。
でもさ、少し頭ひねればさ、父親に自分の娘を怒鳴られてバツが悪くなって家に帰ってきただけのことなんだよね…
浮気相手の家に毎日停まるのも実質不可能なこと…男が女の家に毎日停まるのは情けないし、実家にも行きづらくなったから帰れるのは本来の家。
私はそれでも快くカズくんを受け入れた。
ただ、子供たちのためにも、形だけでも仲の良い夫婦に戻りたかったんだ…。
しかしカズくんとの暮らしは長続きしない…。
私が疑いすぎたのも確かに悪かったんだ…。
家に帰ってきたカズくんではあったが、やはり夫として、パパとして、健全な人間像を求める私。
さりげなくカズくんのケータイを見る。
やはり怪しい証拠がまたあった。
私は尋常でないパニック思考回路になり、また怒りを抑えきれずにカズくんに怒鳴ってしまった。
「なんなのこれ‼⁉なんでまた浮気なんてすんの⁉⁉」
カズくんは悪びれる様子もなく、面倒臭そうな表情で私をあしらう。
「また大声で怒鳴って…。そういうお前が嫌いなんだよ…わかってよ…」
「浮気されて怒らないわけないでしょ‼あんたわかってんの⁉不倫でしょ⁉相手は何歳よ‼なんなの⁉」
冷静さを失った私はかなり動揺し、自分の言ってることすら何だか訳がわからない…。
「相手は…学生じゃん。コミュニティサイトで知り合ったから。今の俺等の関係について、女側からの意見とか聞いてみたかったから…まぁ結論は俺がすべて悪いんだけどね。」
「学生の女の子にそんなん聞いたって解決できると思ってんの⁉お前どこまでバカなん‼⁉お前に姉ちゃんいるんだから姉ちゃんに聞けよ‼しかも誰に聞かなくてもお前が悪ぃんだよ‼💢根本的にお前おかしいんだよ‼」
「いちいちうるせーんだよ‼そんな言われる筋ねーよ‼もうこんな家いたくねーよ‼出てくよ‼‼」
カズくんもキレて家を飛び出した。
家を飛び出したカズくんを追いかけ、腕をつかみ止めた。
「あのさ、どっか行くのは構わないんだけど浮気した証拠、あんたのケータイちょーだい。これから離婚するのに必要だし。」
私はもうカズくんとは仲良く暮らせないと悟り、離婚を覚悟したのだ。
「うっせーんだよ‼腕離せよ‼」
「そのケータイがなきゃお前から慰謝料取れねーだろうがよ‼‼よこせよ‼」
「マジしつけーんだよ‼」
………バキッ‼
カズくんはケータイを真っ二つにへし折った…
証拠隠滅。
その残骸を下に投げ捨て、私に背を向けスタスタ歩いていくカズくん…。
奴が証拠隠滅のために自らへし折ったケータイも証拠になるかなと、私は残骸を拾った。
「おめえ何してんだよ‼」
歩いていったカズくんが焦って戻ってくる。
「自分で証拠隠滅のためにケータイを折ったのも証拠になりそうじゃん✨👍」
「バカ言ってんじゃねえよ‼‼」
カズくんは私からケータイの残骸を奪いあげ、そのままどっか行ってしまった…。
どこまでも憎たらしい男よ……
(…………死ね❗)
それからカズくんは私に姿を見せなかった。
もちろんカズくんから連絡はない。
もうそんなことすら私は気にならなくなった。
ただお金は家に入れてほしいな…と、生活費の心配をしていた。
数日後、カズくんから来たメール…
『市役所から離婚届もらってきて書ける場所書いといて。そしたらそれちょーだい。』
離婚には前向きな気持ちになってはいたが、いざ離婚届をもらいに赤子2人を抱えながら市役所に行ったら複雑な気持ちになった…
…私は将来が不安で仕方なかった。
これから子供2人をかかえてどうやって生活していこう…
まず、あのローンが馬鹿にならない車をどうにかしなくては…
もし私が働きに行けても、1歳と生後2ヶ月の子供たちを引き受けてくれる保育所なんてない…
私の親…は共働きだから子供の面倒は見てもらえない…
車を売るにあたって査定をつけてもらったのだが、残りの残債の方が上回り、残高を一括で払わなければ売れないようだ…
そんなまとまった金なんてあるわけない。
苦しすぎるが車は手放すことはできなかった。
月7万円強のローンに保険を合わせると、8万5千円はぶっ飛ぶ。
こんな借金しながら子供2人を育てていけるのだろうか…
いや、車を持ってたら母子手当てなんて申請できないんじゃ……
かといって実家に行っても親は子供の面倒を見れるわけじゃない…
「あんたはこれから一生かけて子供の面倒を見る必要はない。
まだまだ若いんだし、いくらでもやり直せる。
今回の結婚は1つの経験としてこれからは失敗しないようにすればいい。
…子供の親権はカズにやっちゃいなさい。
あの男はこれで2回目の失敗になるんでしょ?これで野放しにしたらまた女作って…犠牲者が増えるだけ。
ウメもハナちゃんもカズの子に間違いないんだし、子供渡して責任取らせなきゃ!
じゃないとまた同じことの繰り返しになるだけよ。
それに将来、ウメもハナちゃんもカズみたいになったら困るでしょ?
あんたにとってはお腹痛めて産んだ子たちだけど、子供たちを産んだことは忘れなさい…。」
これはすべて母親に言われた言葉になる。
頭がおかしくなるほど私には理解しがたい発言だった。
実の孫にあたるのだから少しは援助してくれたり面倒見てくれることを期待していたが…
私の母親はウメとハナちゃんのことが可愛くないのかな…
『将来、カズみたいになったら困る』って…
子供はみな純粋無垢で愛しい。
ウメもハナちゃんも私は心の底からいとおしい。
だけど…私のお母さんはカズの血が流れているウメとハナちゃんを心の底から愛せないでいたのだろう…
お母さんの娘として、ウメとハナちゃんの母親として、私は複雑で悲しい気持ちになった…。
なにより…
ウメとハナちゃんを産んだことを忘れることなんて…できないよ…
忘れるわけないじゃん…
あんな可愛い2人の娘…
忘れるなんて…産まなかったことにするなんて…
私の記憶からウメとハナちゃんはいつまでも消えない…
今でも…
あれから毎日、あなたたちのことを想っています。
あなたたちのことを思い浮かべると…
眩しいほどの笑顔のウメがいて、まだ寝返りもできないハナちゃんがいて…
今でもあのときの記憶のままだよ…
あなたたちの成長はずっとあのときのまま…
そしてさらに追い討ちをかけるように、郵便受けに一通の郵便が届いた。
私の記憶にない、キャッシングの利用通知…
あわてて自分の財布を見たが、カードが一枚足りない。
カズだ…。
あいつが私の財布からカードを盗り、勝手に金を借りたとしか思えない。
カズに鬼電して確認したら、あっさり犯行を認めた。
「暗証番号?お前が考えそうなやつで当たったよ(笑)」
カズは悪びれる様子すら見せなかった。
上限の満額…と言ってもそこまで大金ではないのだが、私にとってはまた借金が重なり、ますます子供を育てるには難しい状況だった…。
私は子供をカズに引き渡す決意を自分の中で燃焼できないまま、そうさせざるをえない状況に納得せねばならなかった…。
カズも『子供の面倒見れないんなら俺が引き取るよ』と言っていた。
カズも子供だけは愛しているようで、そこだけは救いだった。
離婚届を書き上げ、カズの仕事場に直接持っていった。
パチンコ屋で仕事しているのだから、ホールに行けばカズはいるだろうと思った。
私が離婚届を生身でカズに渡したから他のアルバイトのスタッフや常連客に注目を浴びたが私は構わなかった。
仕事先で浮気した糞野郎に少しでも恥をかかせたかった。
化粧もバッチリし、容姿は悪く言われたことのない私はパチンコでバイトしてる現役の女の子より自信はある。(言い過ぎですね、ごめんなさい。)
そんな私が表情を一切変えずにカズに離婚届を第三者に見えるように押し付けたから野次馬はビックリしただろう。
私の昔の職場でもあったから、知っている昔の上司が何とも言えない表情をしていた。
これだけの行動でも、少しだけスカッとした気持ちになれた。
この離婚に関しては、私は自分に非がないものだと思っていた。というかそれが当たり前だ。
当然、カズから慰謝料をもらう気でいた。
「慰謝料?なんで俺がお前に払うの?」
「当たり前でしょ❗💢浮気した上に人のカードで借金作ったくせに‼悪いのはあんたなんだよ‼」
「はっ⁉⁉
確かにそうだけど、俺がそうしたのはお前に昔『あんたと結婚しなきゃ良かった!』って言われたからだし。
お前がそんなこと言わなきゃ良かっただけ。あんなこと言われたら家に帰りたくなくなるしお前なんか好きじゃなくなる。
だから離婚原因はお前なんだよ❗」
離婚原因は私である…と一点張りするカズはすでに人間として通用しないようだ。
こんなやつと離婚できて本当に良かったと思えた。
こんなやつと浮気するような女は惨めだな…
カズの次の犠牲者になるだけなのに…。
言葉巧みに女を騙し、むさぼりとれるだけ金を吸いとられ、ちょっと気に障ることがあればすぐに捨てられる…。
追記、低身長でダサい。
そんな男でよければどーぞどーぞ。
時は5月に入った。
カズに離婚届を突き付けてから、あいつから一向に連絡がない。
もちろんカズから給料も渡されない…。
家賃滞納、車ローン滞納、付け加え税金滞納…
明日食う金も底を尽きてきた…。
金もなければウメもハナちゃんもこれ以上私が面倒見ることなんてできない…。
カズに電話しても『引き取りには行くから…』の口約束のみ。
私は生活に限界が見えた。
「あのさ、少しくらい金入れてくれない?これじゃ子供たちにご飯食べさせていけないんだけど。」
「は⁉なんで離婚したのに給料渡さなきゃなんねぇの⁉」
「この子たちの親権はあなたよ❗この子たちの食べるご飯買う金くらい出せないわけ⁉」
「いまアパート借りたりするのに金いるから渡す金ないし。」
「あっそ❗でも私もこれ以上面倒見る金ないの‼そんな無責任なことばっかり言って…あんたんところの親に渡してきてもいいの⁉」
「勝手にすれば⁉⁉💢」
私も頭にきた。
明日暮らす金もない私はそれだけでストレスが溜まり、冷静な判断なんてできないでいた。
とりあえず早く働きに行かなきゃ…それしか頭になかった。
その間、子供たちを見てくれるカズの両親の家へ預ける…その程度しか思っていなかったのが失敗だった。
その夜、カズの実家へ連絡し、『これから伺います』とだけ伝えて、ウメとハナちゃん、そして私の母親を連れてカズの実家へ向かった。
「息子も息子なら親も親よねえ。×が2個つくのにまだ懲りないなんてね…。
親はガツンと言えないのかしらね…。
今回は子供引き取るのに、金もかかるだろうに、アパートなんか借りちゃって…。
親は実家に帰ってこいとも言わないもんかね…。
少し生活が落ち着くまで実家に住ませるもんじゃないのかね…。
」
車でカズの実家に向かっている道中に母親と話す…。
「まぁ…ウメとハナちゃんには辛い思いをさせるだろうけど…
これもこの子たちの人生よ。
女の子なんだし、ある程度成長したら実の母親に会いに来るわよ。
ハナちゃんはまだ生まれたてで性格はわからないけど、ウメは剽軽(ヒョウキン)でいつもニコニコしてて人当たりいい子だからウメは絶対大丈夫!
ウメはいい子よ!
昔のあんたにそっくりで…誰にでも笑顔で…
本当、あんたにそっくりでこんなに可愛いのにね…
カズがパパじゃなければ良かったのにね…
」
母親は下を向いて泣いていた。
本当はウメもハナちゃんも可愛く思ってくれてたんだね…
私が男見る目なかったのがいけなかったんだよね…
お母さん…
お母さんの言うことを聞かずに結婚してしまってごめんなさい…。
お母さんが本当は孫が可愛いと思ってくれていたことに私はウメとハナちゃんを産んで良かったと思えた。
でも…
もうすぐこの子たちは…
私の手から離れてしまうのだ…
ウメは車に乗ってこれからどこかに行けると思っているようでニコニコしている…。
ハナちゃんは大人しく寝んねしている…。
私も生活のために仕事に行かなくてはならないのだが、この子たちを手離すことを冷静に考えたらなんて私は酷い母親なんだろうと気付く…。
いや…
母親と名乗る資格もなくなってしまうのではないのだろうか…
とりあえず生活の確保のため、子供の面倒が見れるカズの実家に渡すだけ…
いや、本当にそう言えるのだろうか…
本当はもうウメとハナちゃんに会えなくなることくらい、わかってたんじゃないのか…
このときは子供たちと離れることは寂しいと感じなかった。
金を稼がなくては…明日から行く仕事でほぼ頭がいっぱいだった。その不安で寂しさがかき消された。
それにカズは慰謝料は払わないと言ったが、カズが作った借金は『俺が借りたってゆう証拠がないだろ。だから俺が返済する義務はない。』と言われたために私が支払う、そのかわり子供たちとはいつでも会える約束をしたのだ。
そんな中、まだ数回しか行ったことのないカズの実家に着いた。
都内のマンションで、ロビーへ入るには住人がロックを解除しなければ自動ドアが開かないシステム。
まずカズの両親が何号室に住んでるのか知らなかったし…これじゃ入れない。
ちょっと困ってたら中から住人が出てきて都合よく自動ドアが開いたからそれに便乗してロビーへ侵入できた。
エスカレーターに乗り、降りてすぐ左にある玄関がカズの実家。
母親がピンポンを押す。
中から何も状況を知らないカズの母親が出てきた。
私とウメとハナちゃん、それに顔合わせすらドタキャンされて今さら合わす顔がないと言われた私の母親がスタンバっている。
私「こんばんはー。突然お邪魔してすいません…。」
カズ母「こんばんはー。ウメちゃんにハナちゃんも…どうしたの?」
玄関先で話は進む。
私の母「こんばんは。夜分遅く突然おしかけて申し訳ないです…。実は…」
―私の母親はあくまで丁寧に、下から申す―
私の母「お宅の息子さんが離婚したのはいいんですが、お金を渡してくれないらしいのでハルカと子供たちが生活できないでいます。
親権はそちらにあります。
ですが息子さんは子供たちを引き取りに来ないで、ハルカもお金がないから働かなくてはいけないのです。
うちも共働きですので面倒が見れないのですが、こちらに非があるのを承知で今日は子供たちをこちらのお宅に引き渡しに来ました。」
カズ母「はぁ……。」
奥の部屋にいたカズの父親が顔を出さないまま怒鳴ってきた。
「俺はな!そんな話なら聞かないからな!!」
いい歳こいた大人(定年退職したメタボ親父)がこんな事を言うのだろうか…
カズ母「すいませんねえ…うちの者はガンコでして…」
また奥から怒鳴り声が聞こえる。
「だいたいな!カズだってアパート探したりしてるんだから引き取れるわけないだろ❗そんなこともわからないでバカじゃないのか‼」
(あー、だんだん殺意が沸いてくる…)
カズ母「でも…急に来られてもねぇ…。」
私「だってあの人(カズ父)定年退職してるんですよね?面倒見れるんじゃないですか?それに今日子供たちを置きに来ることはカズから許可もらったし。」
カズ母「えっ?あの子が?」
私「そうですよ。勝手にしろって言ってたから。」
カズ母「まったくあの子ったら…。」
私「そうやって甘やかして育てたからあんな男になったんじゃないんですか?だいたい今回で2度目の離婚ですよ⁉
親として何とも思わないんですか⁉
親として一度でもガツンと叱ったことあります⁉
前の嫁さんも苦労してますよ⁉あなたたちは真実を知ってますか⁉カズは親にも平気で嘘ついて自分を正当化してるんですよ⁉
今回だって借金はするし、ハナちゃん産まれる前から浮気はするし❗
だいたい自己破産してたなんて知ってたら付き合ってもなかったけど‼
」
カズ母「息子を悪く言わないで‼‼」
パチンっ❗
私はカズの母親からビンタされた。
「さっきから聞いてれば好き放題言いやがって‼」
ドスっ❗
奥から出てきたカズの父親から腹部に蹴りを入れられた。
私の母親のいる目の前で…。
私は今まで我慢していたものが一気に込み上げ、理性を失った。
「てめぇらいい加減にしろ‼ふざけんじゃねぇよ‼‼」
私は無意識にクソババアの胸ぐらを掴んだ。
クソオヤジは私に蹴りを入れたらスタスタとまた奥へ消えてった。
「おい‼逃げんなよテメェ‼こっち来いよ‼‼てめぇら人に手ぇ挙げたんだから傷害罪で警察呼んでやってもいいんだぞ‼‼逃げんなよ‼‼」
「やめなさいハルカ‼」
私の母親が止めに入る。
「あんたがここで手を出しちゃダメなの❗こっちは子供たちを預けに来た身よ❗
ここは頭を下げてでも…
私だって悔しいわよ❗」
母親は泣いていた…。
ウメもハナちゃんも…
状況がわかるのか…
可哀想なくらいギャンギャン泣き叫んでいた…。
「ハルカ…手を離しなさい…。謝りなさい。」
私も悔しくて悔しくて涙が溢れた…。
…クソババアから手を離す。
「申し訳なかったです、すいません…。」
私の母「うちのハルカが申し訳ないことをしました、すいませんでした。
でもですよ?うちのハルカの気持ちもわかってやってください。今までどれだけ悔しい思い、辛い思いをしてきたかを…。
こんな獰猛な娘ですが、そちらの息子さんを信じて結婚し、裕福な生活はできなかったかもしれませんがこの子なりに幸せにやってたんです。
ハルカはお宅の息子さんを最後まで信じていましたが、結果、浮気をされたんです。それがどれだけ悔しいことだかわかりますか?
こういう事にあまり親が口を出すのも良くないことだと思いますが、親あっての子供です。あなた方は息子に無関心なのか甘やかしてるのかわかりませんが、都合のいいときだけ息子をかばい、都合の悪いときだけ知らないふりをする…。
あまり他所の息子さんを悪く言うつもりはありませんが、子は親の鏡です。ああいう話の聞かない父親なら仕方ないようですね。
自分の子供は養護するが他所の娘に手を出す・蹴るなどの暴力を振るったのは事実です。
うちの娘に謝ってください❗
」
クソババア「そうですね…すいませんでした。」
クソババア「でも…ガンコなのよ…。うちのお父さんもカズも。」
私「ガンコって言わねえよ❗話の聞けねぇただのワガママなんだよ‼頭わりぃのか⁉⁉」
私の母「やめなさい、ハルカ。」
私「………。」
私の母親「そういうわけで、ハルカも明日から仕事を始めます。お願いするのも変な話ですが、どうか子供たちをよろしくお願いいたします。」
クソババア「そうですね…。わかりました。」
私の母「ウメはもう何でも食べる、いい子です。よく人の話も聞きますし、ダメな事もわかってます。とてもいい子です。
どうか頭ごなしに怒るのはやめてください…。
」
私「ハナちゃんは風呂に入れましたがウメはまだです。2人ともご飯もまだです。これがハナちゃんのオムツで…哺乳瓶はこの袋に入ってます。」
クソババア「ハナちゃんは可愛いわねぇ、おめめパッチリで美人さんだわ。うちのお姉ちゃんにそっくり。」
(カズの姉ちゃん、一重だったぞ…)
クソババア「ウメちゃんはママにそっくりねぇ…。」
ウメ一重。わたし二重。
カズが一重。
ウメは不細工だが愛嬌あっていつもニコニコしてるから最高に可愛い。
私「ウメは可愛くないんですか?ウメの一重はお宅の遺伝ですよ?一重でも可愛いです。
ハナちゃんは誰が見てもママ似だねって言います。
前の嫁さんの子供はカズそっくりで、離婚した後も会ったりプレゼントあげてたそうですね。
うちの娘たちには誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントすらくれないのに…。
お宅の車のナンバーなんて前の嫁さんの子供の誕生日だし…。
そんなに私の娘たちが可愛くないんすか?
」
私の母「やめなさいったら!」
私は精一杯クソババアにメンチを切らした。
私の母「それじゃあどうか子供たちをよろしくお願いいたします。」
私「よろしくお願いいたします。」
深々と下げたくない頭をさげ、ウメとハナちゃんを置いて玄関を出た。
あれだけキレて気持ちも落ち着いてなかったので、ウメとハナちゃんにきちんとバイバイすることができなかった。
玄関を出るまでウメは終始泣いていた…。
ウメはあの家が大嫌いだったのに…
ごめんね…
涙と鼻水でグチャグチャになったウメの顔が別れ際の記憶に鮮明に残っている…。
ママ…行かないでって、そう言ってるような気がした。
帰り道、母親と2人で静かに話す。
「ウメは…可愛かったね…
本当に…
いい子だよ。」
母親の言葉に涙が止まらなかった。
「でもあんな親だったから納得したね。親が親だからカズもダメだったんだね。
話も聞けない父親なんて初めてだわ。
次に付き合うんだったらまず親を見極めなきゃね。ハルカがまた間違わないように、お母さんが見てあげるわ。
」
「とりあえず、ハルカも明日は朝早いんだから今日のことは忘れて早く寝なね。」
家に着いた。
私は1人ぼっち。
ガランと静かな部屋…。
もうここにウメのはしゃぐ声やハナちゃんの泣き声も響くことはない。
無造作に散らばっているウメのおもちゃ…
ウメとハナちゃんのベビーベッドや服…
ウメの遊びかけの、おもちゃが…
もう辛くて悲しくてこれ以上は…
涙でケータイがにじんで見えます。
フィクションではありますが、だいたいは真実です、お詫びします。
🌱第5章🌱 【バツイチの生活】
次の日、早朝に起きて私はお父さんの職場に出た。
自営の内装業。
ほかの業者の男たちに混ざり、作業着を身にまとい、汗を流す仕事はあの悲しみを一時的に解放してくれた。
しかしふとした時に思い出してしまうと、たとえ仕事中でも目から大粒の涙が落ち、それは止まらなかった。
仕事中、1日に3回は涙を流していた。
「お前、昨日向こうの親父に腹蹴られたんだって?大丈夫か?」
「キ●タマ蹴り飛ばしたくなったよ(笑)」
「そりゃ痛えな(笑)」
仕事中、お父さんは私に気遣ったりしてくれたが、それは笑いでかき消された。
無理にでも笑わなきゃまた涙が落ちるから…。
ウメとハナちゃんがいない家に住み続けるのは言葉では表現できないほど寂しく、切なく、虚しい。
それにこの家に住み続ける理由もない。
光熱費だってかかるし、私の親も実家に帰ってこいって言ってくれた。
ウメとハナちゃんがいなくなってから1週間もしないうちに私は引っ越しを済ませた。
もちろん業者に頼まず、車で地道に運んだ。
元旦那にウメとハナちゃんの必要な衣類や小道具、おもちゃや寝具を取りに来させた。
元旦那はついでにテレビや冷蔵庫なども持ってった。
あとの片付けやそうじ、いらないゴミの処理はぜんぶ私がやった。
「ウメとハナちゃんは?」
「今はお父さんが見てくれてるよ。」
「元気なの?」
「元気だよ。」
「いつでもウメとハナちゃんに会わせてくれるんでしょ?」
「んん、まぁな。」
いつでも会いたくなったら子供たちに会わせてくれる約束、それを今一度確認できて安心した。
「じゃあな、お前も頑張れよ👍」
自分が欲しい荷物を積み込んだ元旦那は別れ際に私の頭をグシャグシャっと撫でてった。
(もう…何考えてるんだかわからないよ…)
すでに母親の資格なんてなくなった私…それでも子供たちが心配でたまらない。
眠れぬ夜を経験したのも人生初。
不安で、寂しくて、会いたくて…。
もはや子供たちを心配する権利さえ自分にはあるのかと…毎晩、自分との葛藤に苦しんだ。
ウメとハナちゃんと過ごした家を離れるのも、また違う寂しさが沸く。
キレイに掃除し、何もなくなった部屋、リビング、台所…
この家にはもう何もないが、ウメがニコニコして遊んでる姿や、まだまだ小さいハナちゃんが目に浮かぶ。とても鮮明に。
ウメのまだ日本語の言葉にならない声やキャッキャ言ってる声…
ハナちゃんのミルクを欲しがる泣き声…
何もかもこの家に思い出として詰まってる…
私は決して忘れることのない思い出とともに、最後の玄関の扉を締め、鍵をかけた。
『ここは私とウメとハナちゃんが過ごした証の家』
仕事を始めて2週間くらい経った頃であろうか…
私のイトコのお姉さんが見てしまったらしい。
駅前のお店でウメとハナちゃんと元旦那を…。
元旦那の隣には知らない女の子がいたらしい。
後ほど知ったことになるが、その女の子は仕事先のバイトの子だったらしい。
まだ離婚して2週間なのに!
あんな悔しい思いして離婚したのに!
こっちは元旦那の作った、払いたくもない借金かかえて仕事してんのに!
手離したくない子供を悔しい思いして手離したのに!
ウメとハナちゃんに会えなくてどれだけ辛いか、寂しいか、心配してるか…
この思いの積はきっと私にしかわからないだろう…
なのにノウノウと知らない女と私が産んだ子供たちを平気で並んで歩かせる元旦那が許せない!
またそれがよく頭に想像つくのだ。
悔しい❗
すごく悔しいよ❗
気が狂いそうになるほど悔しい思いをした…。
ウメ…
ごめんね…
きっと混乱してるよね…
ママがいなくなったり、
寝る家が変わったり、
一緒にいてくれる人が変わったり、
今までいなかったパパと生活したり、
今度は知らない女の人と歩かされたり…
ウメもママ以上に辛い思いしてるんだよね…
本当にごめんね…ウメ…。
ちょっとパパを叱ってあげなくちゃね。
元旦那の仕事先…私の昔の仕事先の友達と連絡を取り合い、いま元旦那がどこに暮らしているのかが判明した。
それは駅の程近くのアパート。
元旦那に何のアポイントメントもなしに、そのアパートの前で待ち伏せしてやった。
ちょうど昼下がりの午後。
この日は元旦那は休日。
しばらく待っていると…
どっからか歩いて来たよ…あの女ったらしが…。
両手にはオムツやトイレットペーパーなどの日用品の袋をぶら下げてアパートまで歩いていく元旦那。
そこにウメとハナちゃんの姿はない…。
「ちょっと待って✋」
「あっ…なんだハルカか。」
「あんたマジ最低っ‼‼」
ビッターン❗
私は容赦なく元旦那に平手打ちを喰らわせた。
「目ぇ覚ませ‼‼
アンタもう新しい女と一緒に暮らしてるの⁉
すぐそこの店でウメとハナちゃんと知らない女を歩かせてたんだってね‼仕事先の女の子だってことも知ってるんだからね‼
アンタ…ウメとハナちゃんが可哀想だと思わないの⁉
きっとウメ混乱してるよ⁉
新しいママを作るにしても早すぎでしょ⁉
そんなに新しい女すぐ作らなきゃダメなの⁉
」
「………。
……ごめん。」
「謝るんなら私じゃなくてウメに謝って‼」
「そうだね…。
でも一緒には暮らしてないよ。」
「じゃあ今ウメたちはどこにいんのよ⁉」
「いまアパートでお父さんが見てくれてる…。」
「あんなヤツ1人で大丈夫なの⁉あいつウメ嫌いなんでしょ⁉ウメが泣くとイライラしてんだしさ‼」
「………。仕方ないけど見てもらってる。」
「…私はねぇ‼
……私は…
……私は
子供たちが心配でたまんないんだよ❗
ハッキリ言ってあんたに親権渡したくなかったよ❗
お前が責任とって借金払うんなら子供たち手離さなくて済んだのに‼悔しいよ‼
」
「あのさ…ハルカ……」
「んだよ⁉💢」
「今さら無理なのかもしれないけど……
また昔みたいに一緒に暮らせないかな…
」
元旦那の目からは涙が落ちた。
(………はぁ⁉💧💧
………コイツ…
もう新しい女にフラれたのか?
)
「バカ言ってんじゃないよ‼‼
無理っ‼」
私は元旦那の胸ぐらを掴み、再度平手打ちした。
「アンタみたいな旦那はもうウンザリ‼
しかも離婚して1ヶ月も経ってないのに意味わかんねぇし‼
そういうことは離婚する前に気づくべきだったね‼
バカか⁉」
「………そうだよね…。
やっぱ上手く行かなくてさぁ…。
今さらハルカの大切さに気付いたよ…。
ハルカの言う事、聞いとくべきだったね…。」
「とにかく‼
ウメとハナちゃんを泣かせるような事したら私が許さないからね‼‼
」
私は都合のいい女になんかなりません✋
元旦那にキツくあしらい、気丈に振る舞って御灸を据えてやった。
これで少しはアイツも反省してくれただろうか…
ほんの一目だけでいいからウメとハナちゃんに会いたかったが、あのクソオヤジがいるみたいだし私はすぐ帰った。
会いたいときに会えるんだし💡…
でもね…
正直不安でしかたなかった。
ほんの数週間、1ヶ月間会えなくて…
ウメが私のこと忘れてしまうのではないだろうか…
ウメ…
ハナちゃん…
あなたたちのママは
わたしだけだよ。
忘れないでね…
それから数日後。
元旦那から連絡が来た。
あいつから連絡してくるのは初めてのこと。
聞けば、保育園で使うウメの赤白帽子がどこに売ってるのかわからない…そうだ。
ウメに会いたいのもあって一緒に買いに行くことにした。
元旦那はクソオヤジが乗ってる車で来た。
ウメは大人しく助手席でシートベルトを着用してる…可愛い(♥´∀`♥)
「ウメー❤
元気してた?💡ママだよ🍀わかるかな?💦」
助手席に座ってるウメを私は抱きかかえた。
久しぶりの愛する我が子。
その温もりは変わらず、あたたかい。
ウメは表情が曇っている…混乱してしまっているのだろうか…
でもウメを抱いている私の体を、ウメもピタッと両手で私を抱きかかえてくれて、それは離さない。
(ウメ…
とっても寂しかったんだね…
本当にごめんね……
)
ちょっとウメの髪型が変わったことに気付く。
「俺がウメちゃんの髪切ったんだよ。うまいでしょ?」
「うん…ちょっと印象変わったね、ウメ。ちゃんとご飯は食べさせてるの?」
「ウメは本当よく食べるね💦ちゃんとバナナ一本は食後に食べさせてる😄」
「そう…ならよかった…。」
ハナちゃんはアパートでクソオヤジとお留守番だそうだ。
私はウメを抱っこしたまま……お互い離れたくなかったのが理由だけど……助手席に乗り、車は近くの商店街へ走らせた。
ウメと一緒に買い物した時間はあっという間に終わった。
赤白帽を試着させたウメの姿は少し成長したようにも見え、また、この姿を毎日見守ってあげることができない劣等感が募った。
買い物が終わって別れ際、ウメを車の助手席に座らせたのだがウメは始終寂しい顔をしていた…。
(ママ…行かないで……)
そんな表情をウメは見せた。
私は泣きそうになった。
「ウメ、ばいばい…またね…。」
元旦那が運転する車は走り去ってしまった。
ウメはウィンドウ越しからずっと寂しそうな目で私を追っていた…。
(ウメ…ごめんね…
また…
会えるからね……)
ずっと抱っこしていたウメの温もりがまだ残っている。
それが余計に私を寂しくさせたのだった……。
お父さんの仕事は時にはハードだった。
梅雨の6月。
朝からどしゃ降りの雨に撃たれながら材料の搬入は過酷だった。
道具だって半端なく重たい。
お父さんは腰を痛めてるので重い荷物は私が持つ。
荒現場のときには石の裁断の現場で粉塵が舞うなか、視界が悪かったり、むせたりしながらの作業になった。おかげで髪の毛は真っ白。鼻の中は真っ黒。
大手ゼネコンが入る現場では現場監督や若い作業員が私を舐めるように見てきた。
いろんな現場に行った。
横浜にあるウェディングチャペル、みなとみらいのビル街、中学校、ズーラシア…。
千葉の地下の飲食店、ショッピングモール、市役所、房総半島の先端の海が見える小学校…。
都内の幼稚園、あの有名な早稲田大学、老人ホーム、中学校、工場のプレハブ…。
また鬼怒川に新しくできたホテル三日月や、沼津にある港など、現場は様々だった。
お父さんの仕事は大変だった。
梅雨が終わり、夏が来る。
暑い。
とにかく暑い。
内装だから風がない。風の循環がない。
グランドオープンするラウンド1の現場なんて窓が一切なく、また材料の搬入が外階段を使って4階まで上ったから死ぬほど辛かった。
しかしそれはやりがいがあり、物を作った達成感が味わえた。
仕事を覚えて一人前になって、将来はお父さんと二人三脚で仕事がしたいと思うようになった。
私はまだ見習いだから日当は5千円をもらっていた。
お父さんの会社だが、娘だからって高給料はもらわない。ちゃんと働いた分の妥当な給料をもらった。
時々はウメとハナちゃんが頭によぎり、何度も涙を流しながら仕事した。
きっと他のアルバイトの方が稼げたハズだが、他所の会社で仕事ができるまで精神は安定していない。
お父さんと一緒に仕事して汗水涙を流して稼いでも、その金は借金へと消えていった…元旦那の。
それでも、好きなときに子供たちに会えるのを励みに毎日わたしは頑張ったのだ。
…そして7月が過ぎ、8月になる。
ウメに最後に会ってから3ヶ月も経ってしまった…。
その間、元旦那と連絡は一切してない。
途中で何度も何度も子供たちに会いたくて元旦那に連絡をしようと思ったが、怖くてできなかった…
そりゃあ毎日でも会いたいが、私と会うことでさらにウメが混乱してしまうような気がしたから…。
それに、たまに会うことによって、会えなくなる期間はウメに余計に寂しい思いをさせてしまうような気がしたから…
自分でもどうすることが子供たちにとって一番なのかわからずにいた…。
それでも…
それでも…
やっぱりウメとハナちゃんに会いたい。
日に日に成長する娘たちを1日足りとも見逃したくはないんだよ…。
そう思い立って私は元旦那へメールをした。
『ウメとハナちゃんは元気にしてる?今度、休みが合ったときでいいから、都合が合った日でいいからウメとハナちゃんに会いたい。連絡待ってます。』
しかしいくら待っても返信は来なかった…。
数日後、わたしはたまらず元旦那に電話を入れた。
プルルルー…プルルルー…
「お客様がお掛けになった電話は現在……」
電話のアナウンスをすべて聞き終わる前にわたしは泣いてしまった。
これですべてを悟った気がした…。
もう元旦那には新しい家族ができたのか…
私にウメとハナちゃんを会わせたくないのか…
私に邪魔されたくないのか…
やっぱり電話しなきゃ良かったと後悔するばかりだった。
会いたいときにいつでも子供たちに会わせてくれる…なんて…
また約束破られちゃった。
もとから嘘ばかりつく元旦那だったから私はこれ以上深入りするのも無駄だろうと感じた。
でも…
なんかやるせない。
少し怒りにも似た感情も込み上げた。
私は…
あの娘たちにとって…
なんだったのだろう…
私は…
あの娘たちのために今まで何かしてやれたのだろうか…
私は…
あの娘たちにとって、【ママ】だったのだろうか…
教えて…
ウメ、ハナちゃん。
私は…
ママは…
あなたたちの何だったの?…
私のお母さんは、元旦那と連絡が取れなくなったことに関しては何にも思ってなかった。
「今さらなことじゃない?どうせまた女作ってるんでしょうよ…。ウメたちには可哀想だけど、新しいお母さんができると思えばハルカはウメたちに会わない方が子供たちのためにもなるのよ。
…辛いだろうけど、ウメたちには今後会わない方がいいんじゃない?」
やっぱりそうなのかな…。
私はウメとハナちゃんにとって、ただの産みの親でしかなれなかったのかな…
でも…
そんなことない!
本当はずっとずっと、ウメとハナちゃんのそばにいたかったんだよ。
私はただ普通の家庭を築きたかっただけ…。
それを崩した元旦那が許せない。
でも、そんな元旦那を選んでしまったのも私の責任。
泣き寝入りするしかできないのかな…。
「でもね、ハルカ…。
ウメもハナちゃんも娘、女の子なんだから、いつかは実の母親に会いに来る日がくるよ。その日までの辛抱だよ。いつになるかわからないけど、絶対ウメたちは会いに来るよ。」
「でもさー、カズが嘘ついて私が悪者にされて離婚したってウメたちに言うかもしれないじゃん⤵そしたらいくら実の母親でも会いに来ないよ…。」
「まぁそうなるかもしんないけど…
でもね、アンタに1つだけ誉めてあげる。
ウメがあんなによくニコニコしてたのは、アンタの育児が良かったからじゃないかなって思う。
あんなにニコニコの赤ちゃんなんてそうそう見ないしさ😄
確かにウメは一重でブサイクだけど、あんだけ笑顔でいたら可愛いもんだよ。
一重じゃなければアンタのちっちゃい頃にそっくりだしね。コロコロした体格、クリンクリンの髪の毛、なによりあの笑顔がアンタと一緒だから。
アンタの育児だけは良かったと思うよ、お母さんは😌
」
「そうなの?」
「そうだよ😌
それにウメは物覚えもいいし、人の表情もよく見て状況判断もできるし…
でも逆に言えばウメは我慢してたのかもね。
ウメは本当に我慢強かったよ。
ウメはいい子だったよ…。」
なんか母親と話してしんみりする空気は苦手だから私は言葉に詰まってしまった。
でも、お母さんに育児を誉められたのは素直に嬉しかった。
お母さんも心底はウメとハナちゃんが大好きなのだ。
私はそれだけであの娘たちを産んで良かったと思えた。
私はただひたすらに仕事した。
がむしゃらに頑張った。
女を捨てたように、男に混ざり仕事した。
それは愛するウメとハナちゃんに会えない寂しさを紛らわすため…?
それとも、いつ会えるかわからない子供たちを忘れるため…?
元旦那に怒りを向けられない矛先を仕事で紛らわしてるため…?
違う。
いつかウメとハナちゃんに会える日が来るのを楽しみにしてるから。
アイツの借金をまず完済し、そしたらウメとハナちゃんたちにいつ会えてもいいように貯金するんだ。
いつか、あの娘たちに会える日を夢みながら…
そんな中、私は自分の貪欲さに気づく。それは女としての欲なのだろうか…。
(……。
なんか寂しい…。)
その寂しさは娘たちが傍にいない類いではない。
実家に戻って家族と一緒にいても、なんか心安らぐ空間がない。
そりゃそうだ。
高校生のとき、家に自分の居場所がなくて家出した私。
実家に戻っても私は出戻りの身分。肩身が狭い思いをしてた。
自分の飯や風呂掃除、家族で使う日用雑貨くらいは私が用意したが、なんか家族が他人みたいな感じがするほど居心地が悪かった。
私は…
自分の本音、素の自分、ありのままの私をさらけ出せるパートナーが欲しいと思った。
それは私の欲求を満たし、一緒にいて気を遣わない関係の人。
私の家族では満たしてくれない、私だけに愛情を向けてくれる人。
なにより、いつも私の傍にいてくれる人…。
私がいつも笑顔でいられる人…。
今の私に心安らぐ、大切な人が欲しい…。
でも、次にお付き合いするとしたら絶対【イケメン】にしようと決めてた。
元旦那みたいに低身長、一重でnotイケメンだからって浮気しないだろう…と安心してたがあっさり平気で浮気されたしね。
同じ男でもどうせ浮気されるんなら、【イケメン】が浮気する方が納得できるし。
わたしって何てひねくれた心になってしまったんだろ…。
でも一理あるでしょ??(笑)
次は浮気されてもいいから、一生に一度でも【イケメン】と付き合ってみたいという気持ちが高まった。
これではまるで話が矛盾してしまうのだが、あわよくば【イケメン】で、浮気はせずに、私の心の支えになってくれる、そんな素敵な男性に出逢えたら最高だと…
勝手に妄想で計画を立てた。
もちろん次に付き合う人としたら、
まずは自己破産してないか、
離婚歴はあるか、
嘘つくような人か、
ギャンブルはするか、
借金歴はあるか、
キャッシュカードの使い方は知ってるか否か、
ご両親は常識的か否か、
それらをクリアできない男は無理な話。
まぁだいたいの世の男性はクリアすると思うが…。
元旦那以上に悪い人間に出会う確率の方が低いだろう。
私はかなりのワガママ女。
自分でも自覚してるくらいだから相当ワガママだと思う。
それに加え、バツイチで出産歴もある私なんかに【イケメン】は手を差し伸べてくれるのだろうか…。
まぁきっとそんな都合よく人生うまくはいかないよ💡
成るように成る❗んだから
毎日、お父さんと仕事が終わって暇な時間に私はSNSやコミュニティサイトで出会いを探した。
そんなところで真面目に出会いを求めてしまう自分だが、運よく良い男性に巡り会えれば…と希望をかけた。
でも元旦那みたいに、既婚者には手を出したくない。
嫁さんがいるのに出会いを求めてる男性は最低だが、それを知ってても知らなくても既婚者には興味はない。
そもそも愛する旦那が違う女に手を出している…という現状は嫁さん側からしてみたら悔しい、悲しい思いをするのは痛いほど理解できたから。
サイトを通じて私は数名の男性と出会えた。
1人は30代後半、金は持っているが容姿はイマイチ。
でもどこかで見たような…
昔パチ屋で働いてたときの常連客??
「きみ、○○のパチンコ屋で働いてた?」
(やっぱりそうか…)
世の中、なんて狭いんだ…。
まずギャンブルする男性なので私は興味が沸かない。
しかもあまり金持ちだと女遊びしちゃうのかな…と変な予想をしてしまうので、この男性とはすぐ縁を切った。
1人は20代半ば過ぎの、まあまぁのイケメン。濃い感じの。車の趣味も私と系統が似てる。
でも一晩遊んで、次の日から連絡が途絶えたからそれ以上わたしも連絡しなくなった。
要は一晩遊ばれただけ。
一気にむなしくなった。
1人は私より2つ上の、細身で【俺様】的な人。
まあまあ年収も良かったが、わたしはオラオラ系はかなり無理。
素直に「私はあなたとこれ以上仲良くなれる自信ないから…」とお付き合いを断ったのだが…
オラオラ兄ちゃんは激怒。
真夜中、駐車場で全裸になって土下座しろと言われた。しかも車のライトを浴びながら。
それができないんなら金で勘弁してやるって…。
私は金は渡したくなかったから、それなら全裸になってやると覚悟し服を脱ぎ始めたのだがオラオラ兄ちゃんは「待って💦…」だと。
「そんなことさせたら俺が捕まる…」だって。
コイツみたいな奴に二度と引っ掛かりたくないと思った。
1人は、顔は元旦那より上でちゃんと働いてるし草野球もしてる、私生活が充実してる男性。
相手から告白されてお付き合いしてみたが、私は好きになれなかったしすぐ別れた。
私から車で40分かけて会ったりしたが、「これから友達と遊ぶんだ➰」って言われてすぐバイバイした。
それなら最初からそう言えよって思った。
そして…
わたしが今、まさにお付き合いしている男性に出会った。
その男性は当時28歳。
私は23歳。
最初はメールのやりとりのみ。すぐに会うことはしなかった。
少し遠距離だったからかな。
相手も「すぐ会おう」なんてことは言ってこなかった。
お互い慎重にメールだけをした。
写メも要求はしてこなかった。
メールをして一週間後、初めて電話をした。
それは28歳の声にしては若すぎるように感じた。
ノリはいいかんじで話しやすい。
確かにメールも絵文字デコメ満載で、女の子とメールしてるように感じたくらいだ。
その男性は早朝から仕事をしているみたいだった。
朝6時には
『
おはょ➰➰😄☀☀
今日もいぃ天気だね😍😍😍❤
そぃじゃぁ🎵➰
1日がんばろぉね✨😆😆⤴⤴
』
なんて、ちょっと笑っちゃう、けど元気をくれるメールが来た。毎日。
私より絵文字をたくさん使うから私は少し参ってしまった。それでも好印象だったからメールは続けた。
その男性はきっと私以外にもメールをしてる女性がいるような気がした。
『
おつかれー😆😆✨今日も仕事がんばったょ😜💦
これから用事があるからちょっと出掛けてくるね🎶🎶
』
まだ深い関係じゃないし、なるべく気にはしないよう努めた。
でも気になっちゃうんだよね~
どこに出掛けるんだろ…
誰と会うんだろ…
ひょっとしたら女の子…
とか。
明け方にようやく男性からメールがきた。
『
お待たせーただいま😍💓
待たせてゴメンね😢❤❤
嫉妬しちゃった⁉⁉😉
』
はい、嫉妬してます。
私もなんて必要以上に依存する女なんだろう…。
結局、男性は女友達と遊んでたらしい。
女友達が寝かせてくれなくてずっと話したりしてたみたい。
…寝かせてくれない!?💧
一緒の布団にでも入ってたのか…?
(この人って軽い感じなのかな…)
『
女友達と一緒に寝るとか意味わからないんですが…
私がメールするの、邪魔でしたらハッキリ言ってくださいねー✋
』
『
あっ😓
なんか気ぃ悪くさせちゃったみたいでゴメンね😢😢😢💔
誤解しないでね😱布団で寝るっても別に変な意味じゃないからね👍
実際なんにもしてないしさ😅😅
』
『
女友達と同じ布団に入るような男性はわたし苦手です⤵
軽いイメージしかないんで…
』
『
そうだょねーホントごめん😞💔💔
はるチャンが嫌ならもうしないって約束するから💡
だから許して😣💕
』
『
信じたい気持ちはありますが実際のところ現場を見たりしてないし、まだ会ったりもしてない人を疑ったり嫉妬するのも変な話ですよね…わたしの方こそすいません。
』
こんな感じで男性とは気まずくなってしまった。
それでも男性から毎日かかさず、早朝にメールが届いた。
そんな彼に私は少しずつ心を開いていった…。
やっぱり彼からのメールは元気が出る。
私は彼から毎日元気をもらっている。
たまにかけてきてくれる電話はもっと私を元気にさせる。
知らず知らず私は『彼に会ってみたい』と思うようになっていた。
まだ顔も見たことのない彼に会いたくてたまらなかった。
…私に元気を分けてください…
『
わたし以外に出会い系で知り合った女性っています??
』
『
う➰➰んとね💡
5人くらいいたけど今ははるチャンだけとメールしてる感じ😁😁❤
他はキモかったりウザイ女だったし⚡➰
1人だけ可愛い子いたけど止めた💡💡
』
『
なんで可愛い子と知り合えたのに止めちゃったんですか?😓
』
『
えっ⁉⁉
それ聞いちゃう?⤴⤴😉
はるチャンとメールしたかったからだょ❤❤はるチャン、素直そうで良い子そうだしね😄😄✨✨✨
こないだの女友達んちに泊まったときもはるチャン嫉妬して嬉しかった💕💕😌
俺の今までの彼女、嫉妬してこなかったからはるチャンって素直で可愛いなってホント思うょ😍😍❤ゎら
』
『
私には写メ要求しないんですか??
』
『
そりゃあ気になるけどメールだけでもはるチャンは十分😜🎶
大切にしたいから❤😍
』
正直かなり嬉しかった。
もし相手が本当のことを言ってるのなら私はかなり信じちゃうかも。
だって写メ見てもないのにそんな私と長々とメールくれるんだもん。
信じてみてもいいのかな…
でも元旦那にボロボロに裏切られたからまだ信じきるのは止めよう…
少しずつ相手を見て、どんな男性か見極めなきゃ。
すでにギャンブルや借金してるようならすぐ関係は絶とうと思う。
あとどういう家庭で育ったのか。
さんざん甘やかされて育ってきた男なんてもうムリ。
男としてどれほど自立できているかが一番気になる。
それも踏まえて彼に会って話してみたいと思った。
とある日、彼から今度の週末に私に会いに行くとメールが来た。
いざそうなると心の準備が整わずに焦っていた。
髪の毛だってボサボサで、ウメを出産してから1度も美容院に行ってない。自分なりにスキバサミでカットしてる。
胸下くらいのロングで、髪の量を減らしていただけだからエクステつけてるみないな感じ。
もちろん体型にも自信はない。はなチャンを産んで1年も経ってないからお腹の肉がビロビロ…💧
化粧だって最近まともにしてないし…。
お父さんとの仕事で肌は焼けてるし。
可愛い服なんて結婚してから買ってなかったし。
こんなありのままの自分でも受け入れてくれるのなら…
週末、会う約束をした。
彼がこっちまで来てくれるみたい。
…期待と不安が入り雑じりながら週末になる。
土曜日の夜、彼から電話がきた。
「もしも➰し🎶
やっほ💡💡はるチャン?😉
今から向かっても大丈夫??⤴」
「かなり急にですね😅
仕事終わったんですか?」
「今ね➰➰
仕事終わって💡
風呂入って💡
着替えて💡
ソッコー車に乗った😁⤴
もう高速乗るけど住所教えてくんない?🎶
あっ無理なら構わないけど~はるチャンちの近くになんか目印になる建物とかない?💡
」
「うーん💦
メジャーな建物がないです😅
近くに🌕🌕警察署ならありますが💧」
「んじゃあソコ目指して行くわ😆✨
三●インター出口でいいんだょね?😄😄」
「正解です✨
もしわからなかったら住所教えますんで😋」
「んじゃぁ➰とりあえず超高速モードで車走らせるから待ってて😉💓
たぶん1時間ちょいかな🎵また電話するよ😄😄💡
じゃまたね➰ばいばい💓はるチャン😍😍」
なんか彼は話の勢いが凄い。テンポが早いと言うか…
歳の割には落ち着きさが感じられない(笑)
それでももうすぐ会える男性にワクワクしっぱなしだった。
車で1時間もかかる距離を、顔も知らない私に会いに…
それだけで私は嬉しかったのだ。
補足になるが彼は横🌕市に住んでいるらしい。
横🌕なんて都会だし、こんな田舎にわざわざ来てもらっちゃって💡
途中、彼から何度も電話があった。
『
やっほ💡💡➰はるチャン❤💓
いま東京だけど⤴
メッチャ夜景がきれいだょ😍😍✨
今度オレと一緒に🎶キレイな夜景見に行こぉね😉❤❤
』
『
やっほ➰➰🎵はるチャン😆💕
いま埼玉県入ったから➰もうすぐ着くかな😉💡
やっと逢えるんだね❤😍なんかドキドキしちゃうねー💥😍😍
』
『
はるチャン❤やっほ😉✨
いま高速降りたんだけど➰
とりあえず🌕🌕警察署に向かうね💡👍👍
またわからなくなったら電話するね😉💓💓
』
『
はるチャン➰➰❤
たぶん着いた❤❤😄
いま近所にいると思うんだけど…
家から出てきてくれる??
オレと逢ってくれる??
怖かったらムリしなくていいんだょ😉💡
』
わざわざ車で1時間もかけて…
うちまで来てくれて…
それでも怖かったら逢わなくても大丈夫だよって…
こんな優しくて紳士的な言葉に、私の彼への恐怖心が一切廃除された。
私は慌てて玄関を飛び出した。
そこには若い青年がひとり…。
顔も知らない2人だったが、お互いを確認するのに術はいらなかった。
青年は私と目が合うとニッコリ笑った。
笑った青年と私との距離はどんどん縮まり、すでに無に等しい。
『
はるチャン⁉⁉❤
逢いたかったー💓
ずーっと逢いたかったょ❤
』
私は彼の腕の中にいた。
ギューっと私を強く抱きしめる。
(
私も…
ずっとあなたに逢いたかったんだよ…
)
それは初めて逢った人とは感じられない気持ちだった。
とおい昔に、もう十数年と逢ってない愛しい人と再開できたような…
不思議な感覚…
それでいて心地よかった…。
彼の腕の中はどこか懐かしく、落ち着く。
逢いたくて逢いたくて彼にやっと逢えた嬉しさ…
初めて逢ったはずなのにそうは思えない感動の対面を果たしたような気持ち…
気分が高揚し私は涙が溢れてしまった…
「どぉしたの⁉⁉大丈夫?はるチャン……」
涙が頬をつたった私に気づいた青年が尋ねる。
「ううん…
大丈夫です❗😢😢
嬉しいんです…」
さらに青年はギュッと私を包んでくれた。
少し落ち着き、2人は互いの顔を見合った。
ぼんやりとした月明かりにより彼の顔が照らされた。
先ほど青年に見えたのは服装のせいだった訳じゃない。
顔もかなり若く見えた。
(25……💧
24歳…くらいかな!!💧💧)
「はるチャン………
はるチャン➰➰可愛ぃね❤❤😍
オレゎはるチャン好みだょ😁💓💓✨」
「あっ…😅💧
そこまで可愛くないです💧
それにホントに28歳ですか?😓」
「ホントだょ😁😁⤴
ウソじゃないし👍
よく若く見られるんょね➰➰😜😆
にしても💡
はるチャンまじ可愛えぇ❤❤😍」
「わざわざ遠くから来てくれてありがとう💓
優しいんですね😌」
「こんな可愛いってわかってたら➰➰
もっと早く逢いに来ちゃうべ😋🎵🎵
ってかオレどう⁉⁉
キモい⁉」
「ぶっちゃけカッコいい…かも😋💓」
「なんだそれ😆😆(笑)
でも実際に逢ってみて良かった⁉⁉✨」
「そうですね🐱
まだまだ話足りないんで何とも言えないです🐱🐱(笑)」
「だよねー😅😅💦
んじゃ⤴もっとお互い知ってこう‼😉😉」
そんな会話を30分程したっけ…。
まだ何にも知らない2人だったが、ここから芽を出し、花を咲かせ、互いに成長し合うのはこの後の話。
🌱第6章🌱① 【トミーとの遠距離恋愛】
その男、名はトミー。
青年に見えたヤツのこと。
高橋富和だからトミーって呼んでる。
でも最初は恥ずかしくて『カズくん』って呼んじゃってた。
元旦那と同じ呼び方…ちょっと昔を思い出したりしたが、カズくんって言いやすかった。
あの日、初めて逢ったときのトミーは…
まずファッション的にチャラ男。
ピンクでチェック柄のシャツを素肌に来ていてボタン全開。どんだけ見せたがり?(笑)
ジーパンは程よく色落ちして派手にクラッシュしていた。
かなり細身で身長180㎝前後。。
わたしが149㎝だから大差歴然。
ギュッて抱き締められたとき身長差を感じた。自然と私はつま先立ちになっていた。
トミーの長い脚にはそのクラッシュジーパンがよく似合っていた。
トミーと✉していたときにアメカジ着るって言ってたから、アメカジってこんなんだったかな…と無理に自分を納得させたけど(笑)。
髪の毛はサラサラで茶色。あんまり男の髪型ってよくわからないがミディアムくらいで、連想するなら嵐の相葉クンを想像させよう。むしろ相葉クンそのものだ。
顔ももはや相葉クン。爽やか。第一印象は相葉クンだがよく見れば岩城晃一。
…じゃなくて反町隆史に似てる。
要はトータル的にイケメン。レベル高し。
それにトミーは綺麗な瞳を持っていた。
二重の茶色い目で、力強くてまっすぐな眼差し。
見ていても吸い込まれないけど吸い込まれそうな…。
…未だに吸い込まれないが私はその瞳、大好き。
華奢に見えたトミーの腕だが脱いだらキレイな筋の入った腕だった。木工大工や鳶を経験してるだけの筋力を持っていた。
喋り方はやっぱりチャラ男。
ノリは毎日絶好調。
トミーがいると賑やかになる。
うるさく感じる。
トミーは、地元の友達はみんなこんな感じって言う。
だからハマッ子ってチャラ男のイメージ。
トミーは3日間、うちに泊まった。
初めて逢って、初日でお泊まり。
私の親には内緒で…。
トミーと1つの布団で寝たのだが私に手を出してこなかった。それが益々トミーを紳士に写した。
見た目はチャラ男だが根はしっかりしていた。
いや…当時はまだネコを被ってたのかもしれない。
2日目の朝。
トミーは夜明けと共に起きる。
起きたらまず『お腹すいた❤❤朝ごはんどぉする⁉✨』だって。
朝ごはんなんて久しく食べてなかったけどトミーのために作った。
簡単に目玉焼きとベーコン焼いたやつに白米。
トミーは朝からガッツリ食べる。
そんなトミーの姿が微笑ましく見えた。
昼はテキトーに買い物行ったりして時間を潰した。
昼飯を外で済ませ家に帰ったらトミーは『眠い…ちょっと寝ていい?』と、すぐ爆睡した。
ドラえもんののび太くんにも勝る早さで寝てしまった。
そんなトミーを放っといて私は夕飯の支度に取り掛かる。
トミーに作る初めての夕御飯だから何か洒落たものを食べさせたかった。
この日のメニューは【タコと生姜の炒飯】。小ネギも入っててサッパリした和風チャーハン。わたしの自信作を、寝起きのトミーはガツガツ平らげた。
完食したトミーはなんか物足りなそうな表情を見せた。
トミーはもっと食べたかった様子だった。
3日目は家でダラダラ過ごした。
唯一わたしが持っているワンピースの漫画本を読んでみたり、読んでみたり、読んでみたり…。
テレビを見たり見なかったり付けっぱなしにしたり…。
すでにマッタリムードが漂っているこの空間は出逢って3日目の男女とは思えない光景だろう。
この日の夕御飯のメニューは忘れてしまったが、トミーが暴食していたのは間違いない。
もうこのあたりからトミーは私の前でオナラもするようになっていた。
初めは私もビックリしてデリカシーのない人だなーっと思ったが『健康的だね😅我慢してたら体に良くないからね✨👍』と言ってあげたわ。
夜寝るときに一緒に布団に入るとトミーは私をギュッと抱きしめた。
そして耳元でこう言うのだ…
「好きだょ❤❤はるチャン😌💓もう…今日は我慢できないよ…」
トミーと出逢って3日目。
私とトミーは身体を重ねた…。
トミーもよく我慢したなって思う。女が隣で寝てるのに2日間はこらえたんだもん。
トミーのキスから始まり、
優しく…
ゆっくりと…
大切に愛撫されてゆく…。
私はこんなイケメンとエッチしたことなんてないから緊張しすぎて体が強張った。
それがトミーに伝わり「そんな緊張しないで❤😉」と言われてしまった。
ちょっとだけ【女慣れ】してるのかな…と思ったがトミーのテクを身体全体で感じ、私の思考回路は乱れた。
トミーの綺麗な身体が私の視覚を満足させ
トミーの独特な癖のある声が私の聴覚を刺激し
トミーのキスが私の味覚を麻痺させ
トミーの匂いが私の臭覚を包み込み
私がトミーを抱きしめることで最後の五感が充たされる。
私はトミーに抱かれて幸せだった。
嬉しかった。
トミーはどうだったのだろう…
私のことが好きで抱いていたのだろうか…
ただ目の前にいる女を抱きたかっただけだったのだろうか…
少なくとも私はトミーを信じ、女として抱かれる喜びを感じていた…。
ちょっとトミーと目を合わすのが恥ずかしくなった。
初めての行為のあとはやっぱり照れくさい。
そんな余韻に浸ってるまもなく、トミーは帰らなければならない。次の日は早朝から仕事。朝帰りでは間に合わない。
深夜に帰るトミーを見送るのはとても辛かった。
さっきまでは2人繋がって幸せ感じてたのに…だから余計に寂しく感じた。
この時わたしはトミーをどれほど好きでいたのだろう…
トミーとバイバイしたら無性に寂しさが募る。
それでもトミーはすぐメールをくれたから気分は紛れた。
3日間トミーと過ごしたが、私のことはだいたい話した。私がバツイチであることを…。
すべて話してもトミーは私を受け入れてくれた。やはり初めは驚いて引いてしまってたが私はトミーと一緒にいたいと強く思った。
トミーは甘えられるのがすごく好きなタイプらしい。
私はきっと甘えたがりだが、離婚を経験して【甘える】ことが上手くできなくなった。
子供を手放しはしたがいつか胸を張って子供に会える日を願い、『しっかり生きていかなきゃ』と自分に言い聞かせるようになっていた。
そんな胸の内をこのときのトミーはまだ知らない…。
トミーはもし私が子供を引き取っていたなら私には逢わなかったと言っていた。
そうだよね…
バツイチで子供2人もいたら…
トミーには重いよね…。
でもね、
今となってはトミーも理解してくれるようになったの。
「俺にもっと経済力があったら子供たちを引き取れてたのかな…」って。
そして1週間後の週末、またトミーが会いに来てくれた。
「どっか行こっか🎵🎵😁」
そう言われ、わたしは夜景が見たいとリクエストした。
真夜中に車を走らせ、向かう先は江ノ島の海。
トミーは横浜の人だからいま来た道をまた折り返す。
私は今まで夜景を見に行ったことがなかったから楽しみだった。
1時間強ドライブして潮風の抜ける江ノ島へ着いた。
静かだ…
江ノ島のシンボルである灯台のライトが湘南の静かな夜の海を見つめている…。
少し強めに流れてくる潮風が私の肌に心地よく触れる…。
そして時々聞こえる波の音が余計に辺りの静けさを強調させる…。
私は真夜中の湘南の海はもっと若い衆だらけで賑かなものと思っていたが、全く予想に反した。
もちろん多少なりとも周りに人はいた。
みんな静かに湘南の夜景を満喫していた…。
「ねえねぇはるチャン🎵🎵🎶
今から海に向かって2人で大声出さない⁉⁉😁」
「えっ⁉💧
ヤだ❗😒
ムリだし恥ずかしい⚡」
「んなこと言わないでやろー❤❤😍
俺が先に言うから、そしたらはるチャンも叫んでね❗やくそく❤😉」
「なに言えばいいかわからないからムリ❤😉💢💢」
「俺が先に言うことにはるチャンが続けてくれればいいだけ❗💡
カンタン❤😜」
私は静かに夜景を見たかっただけなのに…
周りは暗闇ではあるが、眼で確認できる距離にギャラリーいるし…
こんな中学生みたいなトミーのせいで私の理想してた【夜景を見る】…
2人静かに肩を寄り添いながら美しい夜の風景を眺め、時間を気にすることなくゆっくり過ごす…
という計画が台無しになった。
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
運命0レス 35HIT 旅人さん
-
九つの哀しみの星の歌1レス 58HIT 小説好きさん
-
夢遊病者の歌1レス 74HIT 小説好きさん
-
カランコエに依り頼む歌2レス 86HIT 小説好きさん
-
北進ゼミナール フィクション物語11レス 112HIT 作家さん
-
マントラミルキー
マントラミルキーは、お釈迦様からお坊さんになるため得度と言われる儀式受…(小説好きさん0)
26レス 676HIT 小説好きさん (60代 ♂) -
西内威張ってセクハラ 北進
高恥順次恥知らずで飲酒運転 酉肉威張ってマスク禁止令 今ほど罰則も社会…(自由なパンダさん1)
93レス 3049HIT 小説好きさん -
北進ゼミナール フィクション物語
勘違いじゃないだろ飲酒運転してたのは本当なんだから日本語わからないのか…(作家さん0)
11レス 112HIT 作家さん -
神社仏閣珍道中・改
【鑁阿寺 春の大祭】 つい最近参拝しておりましたこともあり、当初…(旅人さん0)
258レス 8755HIT 旅人さん -
私の煌めきに魅せられて
「うんっ!また!」 私は彼に背を向けながら手をヒラヒラ振った。少し泣…(瑠璃姫)
47レス 500HIT 瑠璃姫
-
-
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②4レス 131HIT 小説好きさん
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?11レス 130HIT 永遠の3歳
-
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令1レス 143HIT 小説家さん
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 513HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 962HIT 匿名さん
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 131HIT 小説好きさん -
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 130HIT 永遠の3歳 -
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 143HIT 小説家さん -
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1398HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 513HIT 旅人さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
母親は子どもを健康に産んだだけでも素晴らしいし偉い?
よく言われてました 「あんたは健康に産んでもらったんだから幸せよ。ありがたいことよ。親に感謝しない…
42レス 1394HIT 育児の話題好きさん (30代 女性 ) -
美人や可愛い子は恋愛で苦労しない
男性が彼女候補を選ぶ時って顔やスタイルなどの容姿がクリアしたら内面を見ていくって感じじゃないですか?…
67レス 1841HIT 恋愛したいさん (30代 女性 ) -
婚約者と別れました
婚約者と別れました 先週彼とお別れし、一昨日彼が荷物を取りに来た際、体を求められ、とりあえず告白し…
21レス 1065HIT 恋愛初心者さん (30代 女性 ) -
私が悪いことをしてしまった?
他の方から見て、自分が悪いことをやらかしてしまったのか知りたいです。 昨日、ネット友達Aに「お…
10レス 469HIT 匿名さん -
怒られた意味がわかりません。
旦那の親戚から出産祝いを頂いたので内祝いを送りましたが、めちゃめちゃ怒られました。 お返しはい…
9レス 415HIT 聞いてほしいさん -
パパ活と間違えられる
結構だいぶ前からなんですけれどパパ活っていうのがニュースで流れてきたときに個人の意見としては援助交際…
14レス 452HIT 教えてほしいさん - もっと見る