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黄昏の時 vol . 2

No.4 13/10/12 17:23
@白猫@ ( 34BTnb )
あ+あ-

「ところでコウ..突然帰って来たのは、どうしてだ。何かあったのか」

辰蔵は手話を交えずに、声だけを出して訊ねた。辰蔵はコウが、意味もなく日本へ戻って来たとは思っていなかった。辰蔵は、数年前からある噂を耳にしていた。それは、聴力を失っている殺し屋が世界で暗躍しているといったものであった。その暗殺者は、聴力は失ってはいるが、残された感覚を超人的に鍛えあげ、また、エスパーでもあるかのような洞察力を兼ね備えているらしい


辰蔵は、コウが聴力を失いながらも生命の片鱗に触れるような、世界に生きる意味を探していることを見抜いてていた。コウのように、ハンディを背負った者が、一瞬で血の雨が降りそそぐ世界で生き残るためには、よほどの幸運か人智を越えるほどの能力を身につけている者であろう。辰蔵は、コウとその暗殺者を結びつけずにはいられなかった。それに、もう一つ気掛かりなことがあった。コウの実父であり、前御河商事の代表取締役であった、岡崎玄一郎が辰蔵に実権を譲り、海外へ多角的な事業を展開し、軌道にのり出した時期が、噂が耳に入り始めた時期と重なるのだ。辰蔵も、表舞台はもとより裏社会にも豊富な人脈を持っており、あらゆる情報はすぐに得ることができたが、岡崎玄一郎に関する情報だけは、何故か一言たりともわからなかった

コウは、そんな辰蔵の気配に反応したように、辰蔵の視線を受け止めた。コウには、辰蔵の自分を見る眼が酷く哀しげに映った。コウはその瞬間に悟った

― この人はすべてを知っている

『晴姉さんは元気?』

コウは、辰蔵の思惑から逃れたいように
その場には不釣り合いなほどの笑顔で、手話を送った

辰蔵は、フッと視線を落として微笑んだ

『晴代は、相変わらず元気だ..まだ嫁にも行っとらん』

辰蔵の手話が、終わらないうちにコウは声もなく笑い出していた

辰蔵が、バーボンの入ったロックグラスに指先をかけると、携帯が鳴り出した

「叔父さん、私、晴代。ちょっと調べてもらいたい事があるんだけど」

と、言い残すとブツリと電話が切れた

「何だ?」

辰蔵は着信を確かめると、すぐに晴代へ電話をしたが機械的なアナウンスが、繰り返されるだけであった

「誰から?」

景子が、酔いの回った口調で辰蔵の携帯を覗き込んだ。コウも気になったらしく、手話で誰からだと訊ねた

「晴代からだ..」

そう言って辰蔵は晴代の自宅にも電話をしたが、留守電に繋がるだけであった

― 子供じゃあるまいし..何もないと思うが..

辰蔵は、何故かこの時ばかりは晴代の途切れた電話が妙に気になった

コウは、そんな辰蔵を暫く見続けると、晴代の車とナンバー、交友、社内関係や最近、仕事上のトラブルや異変がなかったかを辰蔵に訊ね始めた

コウの眼は辰蔵の知っているコウの眼ではなく、標的を捕らえようとする獰猛な獣のような眼に似ていた




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