猫の背中を撫でながら
ショート*ショートです。
気長に書いていくので気が向いたら
ぜひ、読んで下さい。
よろしくお願いします。
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【3月の夜】
昼間、保育園の卒園式だった。
まだ薄ら寒い日差しの中、めいいっぱいおしゃれをした小さな天使たちの旅立ちの会。
あんなに小さかったのに、今日はもう卒園式。長かったような短かったような…
色んな思いと思い出がよみがえり、私は涙ぐむ。
「いっちゃんも春から1年生だね」
隣に座ってカメラ役をしているパパに呟くように言う。
「いづみ、大きくなったなぁ」
パパもひな壇に並んで、みんなと旅立ちの歌を歌ういづみをフェンダー越しに捉えながら、何気なく言う。
いづみは私たちのひとり娘…ずっとずっと見守ってきた。
私たちの後を追いかけたり、手をぎゅっと握ってきていたいずみが、こうして卒園式で立派な姿を見せてくれていることに素直に感動を覚えた。
昼のうちに家族でお祝いのご飯を食べた。
いづみはいつの間にかお子様ランチは卒業し、自分の好きなオムライスを食べる。
いづみはおしゃまさんでおしゃべり…誰に似たのかな?ってパパが笑う。
卒園式の後に保育園の遊び慣れた場所で、仲良しのミナちゃんと写真をたくさん撮った。
ミナちゃんはシングルの谷さんのひとり娘。同じ学区の小学校に通う。
いつもいづみと仲良くしてくれ、ハキハキとした明るい娘。
いづみとミナちゃんで頭をくっつけポーズをとる2人はまるで仲良し姉妹のようだった。
「夜、飲み会だろ?」
パパが不意に聞いてきた。
私はいづみの揺れた髪を撫でながら、
「うん、仕事の。ちょっと行ってくるね。いづみをお願い」
「おうッ、俺の休みが土日じゃないからな。こんなときでもないと游子(ゆうこ)は出られないから行っておいで」
私は耳に付けたパールのイヤリングにふれる。
「ありがとう」
それから美味しそうに食べるいづみを見つめた。
夜というか夕方、最寄りの駅で待ち合わせをしていた。
腕時計を見ながら、由比(ゆひ)くんが駅前の行き交う人たちに鹿嶋(かしま)さんを探しているのが分かった。
「…遅いですね」
「まだ時間じゃないよ」
私は少し笑って
「電話してみたら?」
と提案する。
「ぼくがですか?」
由比くんが戸惑った顔を見せる。
私は同じ仕事仲間の林さんに身体を寄せて、
「私たち、メアドしか知らないのよ」
そう言って、ちょっと意地悪に笑ってみせた。
でも、ホントは知ってる。
わざと由比くんにかけるようにしただけ。由比くんが鹿嶋さんを好きだから。
鹿嶋さんも林さんも由比くんも、みんな同じ仕事仲間。
由比くんだけ大学生、他にもバイトの子はいるけど、私たちと遠慮なく話すのは由比くんくらいなもの。
いたって普通?の大学生で来年度からは4回生になり、就職や卒論やゼミで忙しくなるから、バイトも3月いっぱいで辞めるのだ。
2年一緒に仕事をした。
「かけたけど、出ないですね」
「もう少し待ってみようか?」
陽も暮れ始めた空、だんだん夜になる。
待ち合わせ時間も過ぎた頃、ロータリーにバスが滑り込んで来る。
バスから降りる人の中に鹿嶋さんの姿…由比くんの顔がパッと明るくなった。
私の胸がザワついた。
私だけが気付いているのかな?
隣にいる林さんを横目に見る。林さんは走って来る鹿嶋さんに大きく手を振っていた。
私だけかな?由比くんが言ってきたわけでもないし、一見、分からないし、私が気付いちゃっただけかも…あーあ、若いっていいなぁ
「ごめん、バスが遅れちゃって!…由比くん、電話出れなくてごめんね」
くりっとした目の鹿嶋さんが私たちを順番に見て謝った。
鹿嶋さんは私や林さんのような年齢にも見えない童顔さで背も小さく、また可愛らしくニコッと笑う。
私が由比くんの気持ちに気付いたのは、見た目と実年齢の話をしていたときだった。
女同士集まって休憩中に、結婚していて同じくらいの子どもがいて、実際、何歳なの?と気心が知れるうちに話題になったのだ。
「秘密はなしだよ。私たちしかいないし」
私から聞いてみた。すると、林さんと鹿嶋さんが2コ上で、子どもは小学生。
「えー、見えないよ。もっと小さい子がいる感じ!」
お世辞じゃなく、私が言うと同時に休憩室のドアが開いた。と、
「やだなー歳上だって。子どもも2人だよ」
鹿嶋さんが照れて笑い、開いたドアを振り返る。
由比くんが立っていた。
鹿嶋さんは由比くんと分かるとすぐにこちらに顔を向けた。
「恥ずかしいよ、この話は終わり。休憩も終わり」
鹿嶋さんと林さんがさっとお昼の片付けをする。
私は先に仕事に戻る2人を見送り、これから休憩に入る由比くんにお茶をいれようと立ち上がった。
「由比くん、お茶でいいかな?」
いつもならすぐに返事があるのにないから不思議に思って振り返る。由比くんはさっき出て行った2人が出て行ったドアを見つめていた。
「由比くん?」
ようやく私の声に気付いた由比くんは、
「鹿嶋さんって結婚されてたんですね、ぼくとそれほど変わらないのかと思ってた」
私は由比くんの返事を待たずにお茶をいれ、由比くんのコトバに笑った。
「うん、鹿嶋さんって童顔だしね、ちょっと分からないよね」
椅子に座った由比くんにお茶を出し、彼を見るとぼんやりとしている。
「由比くん?」
「あ、はい。お茶、ありがとうございます。…結婚してたんだ」
「どうしたの?びっくりしたの?」
私が笑うと由比くんも笑った。だから、それでその話は終わりになった。
それからちょくちょく、由比くんが鹿嶋さんを見ている姿が目に入った。
鹿嶋さんが重そうな荷物を運ぼうとしているとスッと変わって持っていたり、高い場所のファイルを取ろうしている彼女に取ってさり気なく渡したり、鹿嶋さんと話していると由比くんが話に加わったりしていた。
…由比くんが鹿嶋さんを見ている。
それだけで私の中で由比くんは鹿嶋さんが好きなんだと思うようになっていった。
だから、由比くんがバイトを辞めると聞いたとき、
「じゃあさ、飲み会しない?たまにはいいでしょ?」
鹿嶋さんも林さんも誘って♡と言うと、由比くんは、
「え?あ、ハイ」
と歯切れ悪く返事をした。
「ヤなの?歳上のお姉さんたちばかりだから?」
クスッと私が笑うと、
「いえ、、、光栄です」
更に気まずそうにした。
そんなことを思い出しながら、みんなで居酒屋に移動する。
さっき、顔を明るくした由比くんを見て、やっぱり好きなんだよねと思う。
歳上の女性への憧れみたいなものでも、由比くんは鹿嶋さんが好きなんだろうな
「お疲れさま‼と由比くん頑張ってね会を始めます♪」
私の変なあいさつとともに乾杯をする。
自分たちの年齢がバレるような“とりあえずビール!”の私たちに対して、由比くんはオシャレにカンパリ☆
「飲めるんですけど、ぼくはコレで」
好きなように席について、由比くんは私の隣。林さんと鹿嶋さんは正面に並んで座り、食べたいものをメニューを見てはしゃいでいた。
「何食べる?」
私も由比くんにメニューを見せながら、私が隣でごめんと心の中で思った。
「チーズの中で泳ぐたこ焼き!」
前の2人が笑う。
由比くんがそれを気にしないように、メニューを見ながら、
「うーん、焼き鳥盛合わせと枝豆はどうっスか?」
ビールに合うツマミだねと軽くツッコミたいのを我慢して、まぐろのカルパッチョとトマトとモッツァレラのサラダを注文した。
料理が来るまで、軽く談笑し、テーブルに美味しそうに盛り付けられたお皿が並ぶと、みんなで代わる代わる取り皿に取り分け、由比くんはずっと私と話していた。
私は芋焼酎を頼む。
コレだと次の日に残らないから、いい。
由比くんはカルーアを頼んだ。
梅酒だった鹿嶋さんが由比くんと同じものを頼む。
林さんは日本酒…みんなそれぞれ好きなものを飲む。
時間制限の2時間をあっという間に過ぎ、デザートが食べたい!とほろ酔いなお姉さん3人組が騒ぎ始めた頃、ついに時間終了を店員さんに言われてしまった。
「次、どうする?」
携帯で時間を見ると20時をちょっと回ったところ。まだまだ解散には早い。
「デザートが食べたい☆」
「コーヒー!」
「まだ飲む〜‼」
好きなことを言う私たちの横で由比くんはさっさと歩き、二次会の場所を指さした。
「駅から離れてないココでいいですよね」
有名なチェーン店の和ダイニング居酒屋。
由比くんが先に店に入り、空いてるか聞いてくれた。少し浮かれた女3人で腕組みをして、ワケもなく笑う。
「空いてるって、ココにしましょう」
そして意味もなくハーイと手を挙げて、由比くんに返事をした。
靴を脱ぎ、靴箱に入れ、木札のカギを取る。私と林さんは店員さんに案内され、先にテーブルについた。
掘りごたつ形式のテーブル。
後から由比くんと鹿嶋さん。多分、靴を高い場所に入れていたのだろう。2人並んで座る。私の正面が由比くんになった。
彼はメニューを見ながら、
「デザート、ありますね」
店先のメニューも見てからこの居酒屋にしたのに、誰にそのセリフを言ってるのやら…ちょっと聞いていてこちらが照れくささを感じる。デザートと言っていたのは鹿嶋さんだからだ。
ドリンクをオーダー。由比くんはカンパリオレンジ、鹿嶋さんがカルーアミルク、私と林さんは芋焼酎。
ピザやポテト、唐揚げ、お新香なども頼む。先に頼んだドリンクが来ると由比くんは意外な行動に出た。
「甘ッ‼コレ、甘いですよ」
由比くんがグラスを鹿嶋さんに差し出す。鹿嶋さんが戸惑った。が、
「あ、甘いね」
と、口をつけて返した。
私はうわーッ‼とひとり心の中で悶えていた。
ボケ?
天然?
それとも大胆な計算?
イヤイヤ、これくらいで騒ぐことじゃないよね⁉
落ち着けーッと顔をパタパタと手で仰ぐ。
「宮元さん、暑い?」
鹿嶋さんが不思議そうに尋ねてきた。
私は氷の入ったお冷を飲んで、大丈夫!と返す。
あの子、無意識なんだ。
隣に鹿嶋さんが座って、酔ってる風には見えないし、一軒目と変わらないんだけど、嬉しいんだ。
なんて分かりやすい…!
あ、身体、寄せた…
アレ、肩あたるよ……
めっちゃ身体斜め、足、鹿嶋さんの方だし、ぶつかってるんだろうなぁ…
腕伸ばしてついて、後ろから鹿嶋さんの背中を覆うようだわ
……私が隣のときと全然違う。
みんなで談笑している風でも、
「鹿嶋さんは?」
「鹿嶋さん、、、」
と、名前を呼ぶ。
最初は甘酸っぱい恥ずかしいような気持ちだった私も由比くんの様子に、だんだん鹿嶋さんに気持ちを気付かれたらいいわとイジワルな気分になってきた。
「由比くん、彼女は?」
私は酔った振りをして、うるんとした瞳で由比くんを見る。
「作らないの?」
「ぼくはまだ、そんな気もないです」
「そうなんだ、どんな娘がいいの?」
「うーん、どんな娘ってないですね…あ、鹿嶋さん、取りますよ」
上手く交わされた感じ。
でもこんなのイジワルでもないか…。
鹿嶋さんが気付いてる様子もなく、もしかすれば、由比くんだって…分かってないのかも。
鹿嶋さんのこと、好きだって。
私は焼酎のグラスをカランと回した。
そう思うと、恋が恋にならずに終わるってどうなのかなと…
恋の切なさ、胸の苦しみなんて知らない方がいいのかな?
鹿嶋さんを大切にしようとしている気持ちは、由比くんの優しさ?
私は今までの中でいちばん仲良く話している2人を前に、静かに祈った。
由比くんの鹿嶋さんを思う気持ちがどうか恋になりますように
【3月の夜】 完
【メール】
就業時刻も過ぎた18時、川野さんが来た。
相談があって来たのだと思っていたら、違った。
「相談は他の先生にします」
そう言って、おれに小さな紙袋をくれた。
「異動だと思って、マグカップ。今までありがとうございました」
神妙な面持ちの川野さん。
ちょっと待ってよ、
なに、この終わり感。
何?オレじゃダメなの?
3月も終わりの27日。
突然の、、、最後。
昇降口前の階段にぺたりと座り込み、前に立つ川野さんを見た。
「異動?」
「そうだと思って、お礼と感謝の気持ちです」
「異動か分からないよ」
「...じゃ、普通のお礼で」
「言えないからさ、異動かどうかも他人に話しちゃダメだから」
「………」
川野さんが顔を俯かせた。
しばらくどっちもしゃべらなかった。
沈黙でオレは彼女を傷つけてる。
どうしてか、そう思った。
今日から4月がスタート。
川辺の桜も春の陽気に満開になりつつある。花びらが薄ピンク色で、川野さんの肌の色を思い出させた。
今度の新しい職場は前の所から数キロしか離れていない。
それでもピリッとした緊張感が朝からオレを包む。何回、経験してもダメだな…
なるべく早く向おう、早く慣れよう。
通勤には自転車を使う。
黒のスーツに大きいリュックを背負い、ペダルに足をかけた。
自宅から一気に坂を下る。
風を身体全体に感じながら、今日のスケジュールを確認する。
いつも通りに
普段通りに
オレは深呼吸をした。
坂を下りきり、道沿いにあるコンビニに寄る。
朝のコーヒーと新聞。
今日はコレを買わないと。
お昼は多分、お弁当を注文のはず…。
和気あいあいなランチタイムでどんな人間かを見られるのだ。
しばらくの沈黙の後、オレは立ち上がり、ついた砂を手で払う。
「ま、新聞買ってくださいよ」
「新聞は買いません」
「じゃ、その日にメールして、教えるから」
向こうで何か音がしたのか、川野さんはそっちに顔を向け、オレの顔を見ない。
最後じゃない
終わりじゃない
だけど、川野さんはオレを見ない。
4月一日、人事異動が新聞で発表される。
それを見れば、誰がどこに異動か、昇級か分かる。
異動なんだよ、ホントは…
だけど言えないんだよ、その歯がゆさ辛さを分かってくれよ
言ったらオレ、絶対、、、、、、
感傷的になる必要はない。
自転車を建物の脇に停めると、一度、スマホを見た。メール受信なし。
数ヶ月前には川野さんがメールをくれてた。朝のオレのリラックスタイムに返信をしてた。
軽い日常会話。
いつからか、、、楽しみになってた。
けど、ここ最近はメールが来ることはなかった。
新しい校舎に職員用玄関から入る。靴箱には花紙が飾られている。
清水 昌幸先生
オレのこれからの居場所。
だから、感傷的になる必要はない。なる暇もない。
管理職から面談を受け、今年度の担当する学年クラスが決まった。
ピカピカの1年生…
前の学校ではずっと高学年ばかりだったから、久しぶりの低学年。
一緒に成長するという意味では今のオレにはいいのかも知れない。
名簿や引き継いだ分掌等の書類を手に席に戻る。
ちょっと休憩しよう。
リュックから今まで使っていたマグカッ
プを取り出した。
川野さんがくれたマグは箱に入れたまま、いちばん下の引き出しにしまう。
休憩に買って来たコーヒーを飲むが、マグは職員室脇の給湯室の水切りカゴに置
いた。
午前中は新入生の入学手続きがあり、去年から残っていた先生たちが担当するため、職員室は人がまばらだった。
コーヒーを飲んでひと息つくと、向かい席の女性が声をかけてきた。
「私、秋山って言います。同じ1年生なので、よろしくお願いします」
オレより少し歳上な感じの秋山さん。
「私、この辺、初めてで…えと、清水さんは前もこの辺りだったんですか?」
「はい、前もこの地区で、妻が入院してるからあまり離れられなくて」
妻が、なんて口にすると照れくさく…ただそれ以上に青白くベッドに眠ったままの姿が思い浮かんだ。
「奥さん、具合が悪いのですか?心配ですね。早く良くなるといいですね」
オレは目を伏せがちにありがとうとお礼を言った。…ちょっと風邪をこじらせての入院なら、ホント早く良くなるといい。
……ひなみ、君はいつ目を覚ますんだい?
ひなみの実質的な看病はひなみの母がしてくれている。
だから、オレはこの仕事に打ち込める。
でなければ、時間的にも肉体的にも、精神的にもキツいこの仕事はできない。
ありがたいと思う。
だけど、ひなみの夫としてはどうなのだろう?満足なことひとつできてはいない。
ひなみに何もしてやれてない。見舞いに行って、ひなみの手をにぎり、髪を撫で、ひなみと声をかけるだけだ。
涙はとうに出なくなった。
泣きたい、叫びたい、苦しいと…オレは誰に言えるのだろう?
軽い歓談のランチタイムが無難に過ぎ、一人ひとりに与えられているPCを開いた。
薄白い画面と格闘していると、ゴトンとネームランドを置かれた。
同じ1年生を持つ田中さんである。去年、新任でここに来て、今年もまた1年生を持つようだ。
「清水先生、使います?」
教室のロッカーや靴箱、体操着などを引っかけるフックなどに名前をつけるためだ。
机に貼る名前にはコレとはまた違うもの
を使う。
「あー、ありがとう。オレ、これじゃなくてテープにする」
「はい、じゃ終いますね。必要なものがあったら言ってください」
「ん、ありがとう」
また画面を見つめると、胸ポケットに入れたスマホがわずかに振動した。
取り出して見ると、月1で来るメルマガだった。
そのままスマホを机の上に放り出す。
川野さんからは来ない。
オレは何を期待しているんだ?
自分からメール送ればいいのに
…コレは意地なのか?
夕方、今日しとく仕事はあらかた済んだ。早めに上がれそうだから、ひなみのところに行こう。
ひなみに会いたい。
まだ数名残っていた人たちにお先に!と声をかけて、自転車にまたがる。
こっからだと30分ほどだろうか?
自宅に戻って車でとも思ったが、今日は身体をくたくたに疲れさせたい。
途中、花屋に寄ってひなみの好きなチューリップを買う。
市立病院へ向かう道、夕焼け空にキレイなオレンジ色の太陽。
少し風が出てきた。
病院に着くと面会時間ギリギリで、あと数十分だった。駐輪場に自転車を停め、受付を済ませた。少し汗をかいたが、この疲れがまた心地いい。
エレベーターでひなみの病室へ…オフホワイトの扉を開けると、ひなみのお義母さんがいた。オレを見て、
「…昌幸さん」
と、少し驚いたように呼んだ。
「ご無沙汰してます。…ひなみは?」
ええとベッドに眠ったままのひなみに目を移した。オレはベッドに近づき、ひなみに声をかける。
「ひなみ、ごめんな。なかなか来れなくて…元気か?」
お義母さんがオレの持ってきた花を見つけて、ありがとうと花びんに挿してくれた。
ひなみの柔らかな髪を撫で、頬に触れるとわずかに伝わる温もりにオレは安心する。
「昌幸さん、元気そうで良かったわ。お仕事の方はどうかしら?忙しい?」
お義母さんがオレを真っ直ぐに見てきた。
真っ暗な自宅に戻る。
ただいまと言っても誰もいない。
そんな毎日が3年続いていた。
洗濯は明日、メシは…何か買えばよかったと思ったが食欲もない。
とりあえず明日も仕事、軽くシャワーに入り、汗を流した。気だるい疲れにオレは冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。
テーブルにスマホを転がし、椅子にあぐらをかく。
ひと口だけ口にしてビールを置き、スマホの受信メールを開く。
結婚してからのひなみのメールをスクロールする。
忙しいオレに送ってくれた頑張れ!の応援メールや時々、退屈や寂しいよ…と来たメール。
買い物に出たときに見つけたもの、美味しそうなケーキ、キレイな空や虹、面白い雲の形の写メ。散歩中の犬とひなみ。
どれもこれも懐かしいひなみの姿や言葉。
「ひなみ…」
胸がいっぱいになり、涙がこみ上げる。
さっき、病室で思いつめたように切り出したお義母さんの言葉を思い出す。
「昌幸さん、ひなみと…別れてほしい」
さっき、言われたことだ。
いろいろな感情がぐるぐると身体中をめぐる。
ひなみがくれたメール。
いちばん嬉しかった赤ちゃんができたと送ってきた日、オレはひなみをぎゅっと抱きしめた。
それから数週間後、お腹が痛い痛いと。
赤ちゃんがいなくなって、病室の窓から無表情な顔で外を見ていたひなみ、
突然、パニックになって激しく泣きじゃくる君をどれほど強く抱きしめたか……。
退院して、少し笑ってくれるひなみにオレは甘えてしまった。
まだまだ辛かったのに、元気じゃなかったのにひとりにしてしまったオレの悔やみ切れない後悔。
仕事中にお義母さんからの電話で入水自殺をはかったことを知った。
身体中が震え上がる。
後からメール受信に気付いた。
ごめんね、赤ちゃん
ごめんね、昌幸さん
君はいったい何を見て、何を感じたのだろう?
こんな言葉をだけを残して…。
この想像もしがたい絶望、苦しみ、叫び出したい哀しみ…眠ったままのひなみから解放されたいときもあった。
それを今日、お義母さんに見透かされたようだった。
「あなたはよくやってくれたわ。ひなみもあなたと出会えて幸せだったと思う。
昌幸さん、、、今の状態が誰のせいでもないことが分かったの……それから、ごめんなさい、ずっとあなたを恨んでた。だからいつまでも娘の側に、娘に縛りつけておきたかったのよ」
だんだん涙声になり、身体を小さく丸める。オレはびっくりして、動けなかった。
「お義母さん…」
ゆっくりと涙をふき、もう一度オレを見上げる。それから少し笑った。
「あなたのところにも届くと思う。だから、どうか幸せになって。意地を張ってごめんなさい。また改めてお父さんとあなたを訪ねるわ」
オレにそっと触れ、その手は離れた。
お義母さんに何があったのだろう?
オレには分からなかったが、ずっと恨んでいたと言葉にされ、ああ…と思った。
あの日、病院に駆けつけたとき、ICUの待合室でオレを見つけ、お義母さんが投げつけた言葉。
ずっとその気持ちはあったのだと思う、娘の眠った姿を見るにつけ、胸を苦しめるのだから。
オレは手を組んで祈るように、目を閉じた。
ブブブッ.…
スマホが小さく揺れ、メール受信を知らせる。しばらく身体が動かせず、少し身体が冷え、寒さを感じた。
寒い…
何気にスマホに目をやる。
メール受信1件。
オレはメールを開くと、、、
あまりにも衝撃すぎて、、、、、、、手が震えた。
昌幸さん、元気ですか?
えへへ、送っちゃいました!びっくりした?
でも私も隣にいて、このメールのことも忘れてて一緒に笑っているかもしれないね。
3年経って、赤ちゃん、すくすく育っているかな?男の子かな?女の子かな?
私、昌幸さんに似た男の子がいいな。
昌幸さんは仕事が大変かもしれないけど、いいパパになってるね、きっと。
私、赤ちゃんできたってメールした日、あなたがぎゅっと抱きしめてくれてすごい嬉しかった。愛されてるなぁって思ったよ。
なかなか言えないけど、私は昌幸さんが大好きです。幸せだよ。ありがとう。
3年前のひなみより3年後のパパへ
ひなみから届いたメール……。
オレは身体中がしびれ、震えた。
ひなみ…ひなみ、ひなみ、ひなみ……
「…ひなみ」
遠い昔を思い出す。
『ねえ、やってみようよ』
『やだよ、そんなの何がしたいんだ?』
『別に普通のメールでいいから!私、出してみたい。未来の昌幸さんにメールして…』
『そのときのオレを驚かすのか?』
『そう、すっごいびっくりするよ。だって私が隣にいるのにメールが来るんだよ?』
『長いよ、3年って。忘れてるって』
『もう!私、絶対、覚えてる‼ 』
あの頃は何気ない会話…。
あのとき話していた未来メール。
「…ほら、オレ、忘れてたよ」
涙が頬をつたう。
嬉しいからなのか悲しいからなのか、、、。
いや、、、嬉しいからだった。
握りしめたスマホがまたメール受信を知らせる。オレはぐしょぐしょになった顔のまま、メールを開いた。
“モンブランがいいな”
は?誰?
From は川野さん。
「ぷっ…何、このメール」
オレはスマホをテーブルに静かに置き、顔を洗いに洗面所へ。
鏡に映った自分を見て、
「あーあ、ひでぇ顔…ひなみに笑われる」
帰ってきたままのスーツ姿だったことにも気付いた。少しシワになったスーツを脱ぎ、スウェットに着替える。
すっかりぬるくなったビールをそのままにオレはひなみからのメールを読み返す。何度も何度も。
それから、ふと気付いた。
受け持った子どものことで相談を受けていたけれど、オレは川野さんを助けているようで、ホントはオレが救われていたんだと……。
オレは川野さんにメールを返す。
“本日付けで異動になりました。
これからもよろしくお願いします。
モンブラン、自分も好きですよ”
【メール】 完
【drops】
この春、中3になる娘が子猫を拾ってきた。学校の敷地内でうずくまって動かなかったらしい。
「拾っていい?」
学校の電話を借りて、私に電話してきた。
「お母さん、子猫、家に連れて帰りたい、迎えにきて」
娘の涙声でもうフォローのしようもないパニックになっていることが分かる。
(あー、ダメだ、もう何を言っても耳に入らない)
私は小さなため息をつき、担任に電話を変わってもらった。
「すいません、朋(とも)さん、泣じゃくってて、病院に連れて行きたい、連れて帰りたいと言ってお母さんに電話してほしいと職員室に来て言うんです」
「ご迷惑おかけしました。もうパニックを起こしているので、とりあえず迎えに行きます」
私は見えない相手におじきをする。そしてため息を小さくついた。
中学校の裏手にある駐車場につくと、朋がすぐに駆け寄ってきた。
「お母さん、ごめん。でもね、キャラに似てるの」
キャラはウチにいた15歳の長寿猫。半年前に眠るように寿命を全うした。全身茶色の毛でキャラメルみたいな色だから、キャラ。
ひとつの段ボールを囲んで人だかりができていてる。通用口から担任が出てきた。
「お母さん、来ていただいてありがとうございます。…どうやら事故にあったようでうずくまって動かないんです。ミルクをあげたりしてましたが、どうしようかと思っていて…」
私が拾うのが前提の言葉、この場の雰囲もそうなっている。
段ボールの中の子猫を見てみる。全身茶色でホントにキャラのようだ。ただシッポがとても長い。私は子猫を抱き上げた。
「ニャーーーーー」
まるで生きたいよと言っているように、長く長く鳴く子猫。身体を見ても、どこかケガをしている様子はない。手足を優しく触ると、
「ニャーーーーー」
もしかしたら、痛みがあるのかもしれない。汚れた毛とずっと動けなかっから糞尿の臭いもあった。
「連れてかえりますね」
私の言葉に周りがホッとするのが分かった。
「良かった、三日三晩いて…」
だんだん寒さを感じるようになっていたこの3日の間に大雨もあった。凍えるような寒い夜もあった。この子猫は死ぬのを待たれていたのか…。
「ニャーーーーー」
子猫が私の腕の中で鳴いた。
家に連れて帰ると、とりあえず温かいお湯でおしりを洗った。汚れた身体は濡らしたタオルで優しくふく。
体力が戻ったらお風呂だなと思いつつ、身体をキレイにする。
「お母さん、病院は?」
時計を見て、もう診察時間が終了間際なのを知り、
「明日かな?とりあえずご飯あげてみよう」
帰りに寄ったコンビニで買った猫缶。少しだけトレーに出してあげると臭いをかいでからはぐはぐと食べ始めた。
「お腹すいてたんだね」
食べている様子に安心するが、腰を浮かせたまま食べていることに気付いた。しばらくそっとしておくと、口をペロリペロリとさせ、おいしかったと言わんばかりに子猫は、
「ニャーーーーー」
と鳴いてみせた。
それから歩こうとすると………、一歩一歩を高く大きく踏み出す。そして数歩進むとその場に小さな輪を描くようにクルクルと回った。
「このコ、もしかして歩けない?」
いや、歩いてる…歩き方がおかしいのだ。
「事故って、頭をぶつけたのかも」
どこに行きたいのか、子猫はヨタヨタとバランスを崩して、ぺたりと倒れた。部屋の隅に簡単なベッドを用意し、そこに抱っこして連れていく。
自分のキレイになった毛を嬉しそうに毛づくろいし、さっきまでの外とは違って居心地も数段良くなり、お腹も満たされて子猫は丸くなる。
「キャラの最期みたいだね」
朋が小さく呟いた。
次の日、朋は学校、私は仕事へ。旦那は長期出張中で今週末に帰ってくる予定。
「お母さんが仕事から帰ったら、病院に連れていくね」
「うん、、、大丈夫かな?」
ご飯はさっきはぐはぐと食べ、お水も飲んだ。歩く範囲は狭く、昨日と同じでくるくる回る。朋の心配はトイレだった。
「夜はしなかったけど、トイレの場所、分からないよね」
キャラの使っていたトイレを引っ張りだし、猫砂はなかったからトイレシートを置いていた。子猫が寝場所としている一帯をペットシートを敷きつめ、とりあえずどこにしても大丈夫なようにはする。
「あまり動けないようだし、違うところでしちゃってたら拭くしかないよ…」
私はもう仕方ないがないよと朋の顔を見た。
「うん、……お父さん、何て言うかな?」
2人で子猫を見つめる。
「…お父さんはキャラが好きだったから、、、」
同じ全身茶色の子猫、目の見えないもしかしたら介助が必要なハンデのあるコ。
「あとで聞いてみるね」
朋と同じハンデのある子猫。
「お母さん、この子猫は歩けるようになるの?見えてるの?」
朋は学校から帰って来て、制服のまま子猫を撫でている。
私はカウンター越しにその様子を見ながら、動物病院で聞いて来たことを朋に話した。
「事故の後遺症か生まれつきか分からないけど、左半身の反応が鈍くて、視神経ももしかしたらダメになっているかもって」
丸くなっている子猫の背中から長いシッポにかけて、何回も優しく撫でる朋。子猫はぐるぐると喉を鳴らす。そのうちに伸びをするようにお腹を見せた。
「事故のショックから落ち着いてきて、反応が鈍いだけでケガをしてるわけじゃないから、歩けるようにもなるだろうって。視力はどのくらい視えているか分からないけど、まだ小さな子猫だからその治癒力に賭けるみたい」
「…お父さんは何て?」
私は紅茶を淹れようと、電気ポットに水を入れる。朋は子猫を抱っこする。
「うん、帰ってきてから、子猫の顔を見たいって」
キャラにしていたように朋は子猫に鼻をくっつけた。
「気に入るよね、お父さんも」
「多分ね」
目があまり見えないことも、歩くことがおぼつかなくても…この子猫はとても運がいい。朋に拾われたのだ。
どんなハンデでもお父さんにはそれだけの理由で十分なのだから。
あれから2年経ち、朋も高校生…。
真新しかった制服も上手に着こなし、すっかり大人びてきた。
私は仕事帰りに夕食の買い物をし、帰宅する。
玄関を開けて、ただいまと言うと少ししてキャラコがトテトテ…と歩いて来た。
あのときの子猫はすっかり大きくなり、キャラから名前をもらい、キャラコと名付けられた。とても長いシッポの先はしなり、優雅に歩いているように見せている。
「キャラコ、ただいま」
キャラコはあまり見えないため、歩くときは壁に沿うように歩く。足取りはしっかりし、拾ったときのようなぐるぐると回ることはなくなった。トイレの場所も家の間取りも覚え、それからは場所は変えていない。
視野の幅は狭く、いちいち顔を向け、確認をする。キャラコとの視点はなかなか合わないし、キャラコもどこ?どこ?と見回す。それもあり、キャラコはソファより高い場所にはジャンプはできなかった。
猫皿や用意したお水のお皿にもよく足が入り、そのまま食べたり、足をぶつけて水をこぼしたりした。
およそ猫らしくない…
それにキャラコは左には曲がれず、永遠と右だけ。キャラコが左に行きたいときには右回りに半分だけくるりと回る。
キャラコにしてみたら、これが普通のキャラコの世界。
以前いたキャラからしたら、猫の魅力は半分くらい…だけど、キャラコはキャラコ。
とっても可愛い、可愛いキャラコ。
「ただいま」
試験期間中の朋が帰ってきた。
「お母さん、お腹すいた!」
リビングのドアを開けた朋。
私の近くにいたキャラコはするりと朋の声のした方へ歩き出す。
朋はキャラコの近くをスッとを通り抜け、カバンと共にソファにドサッと座った。
私はキッチンで夕食の材料を冷蔵庫にしまう。冷蔵庫にあるモノをちょっと眺めて、お昼はミートスパゲティしようと思った。
ふとリビングのドアの前でキョロキョロしているキャラコを見つけた。
「朋、キャラコが探してるよ」
「あ、キャラコ、ごめん」
朋はキャラコの近くまで行き、
「キャラコ、キャラコ」
とキャラコに声をかける。
キャラコは声のする方に頭を動かし、ようやく朋を視界に捉えた。
「ニャーーーーー」
キャラコが朋を見つけた!と鳴く。朋がしゃがみ込んでキャラコの頭を撫でた。
キャラコはペタンと座って、撫でられて嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
キャラコはウチに来た幸せのしずく。
ハンデを負い目に感じずに長いシッポを優雅に揺らしながら、キャラコの普通の毎日と朋と私たち夫婦に幸せのdrops。
【drops】 完
【すごい空の見つけ方】
或る5月も終わりの土曜日。
くすんだ、でも晴れた空にそれはかかった。
それは不思議な感じ…太陽の周りに大きな輪。
虹色に輝いた日輪。
それから、気付いたかな?
またその日輪がもう一つ、できていたことを…すごい、すごいね!
あなたも見たかな?見上げたかな?
私、メールした。
あなたから返信、来たっけ?
忘れちゃった。
前はあんなにあなたからのメールを待っていたのに、、、ずっと待ってた。
だけど返信来ないから、私ね、あなたにメールしたことすらなかったことにしてた。
メールしてすぐに送信履歴もテキストも消してた。
だってすごく辛かった、、、。
ねぇ、あなたはいつ私のメールを見てたの?私がメールして、何週間後?何ヶ月後?
見てなかったんだよね、私のメール。
だから、私、ずっと苦しかった。
「このメアドは使ってないから、頻繁に見ないし、返信は遅くなる」
コレってやっぱり、、、社交辞令というか遠回しに“メールのやり取りはしない”って言われているんだよね。
私、信じちゃってた。
メアドも教えてもらえて嬉しかったし、2回目だったし、もうここからいなくな
るっていうときだったから。
そんな別れのときに社交辞令使われるなんて………違う、わざわざ使ってないメアドを教えて遠ざけるような姑息な手ではなく「教えられない」と言えるあなただから…メールしてもいいし、返信もあると。
恋は盲目、
あなたを信じた私がバカだったんだね。
次の年、また偶然にも虹が出た。
よく晴れた5月の空、雨の気配もない青空に小さな虹がかかった。
私、あなたにメールした?
しなかったよね、返信なかったから。
頻繁には見ないメアド、来ない返信…
ううん、来るの、一応。
数週間から数ヶ月経ってから、、、。
これでもやり取りは成立してるのかな?
私のメールはOKなのかな?
頻繁には見ないって、見たくない返信する気はないってことなのかな?
だけど、ごくたまに来る返信は長文で最近あった出来事やhappyだった事が来る…何なのかな?
私の図々しさはそれほど太くないから、すぐに折れた。
近況報告だよ…ね?
あなたとメールができるのは嬉しいけど、何かな?何なのかな?
私はネットで似たような相手とメールのやり取りをしているトピをのぞいた。
恋しちゃった!どうしよう⁉から始まって、メアドの交換やメールのやり取りなど私とは全然違う、嬉し恥ずかしのレスがたくさん。。。
私は…?
メールして数時間や数日で返信なんて来ない。
来ないよ?
筆不精とかメールが苦手?
ねぇ、私は普通にメールのやり取りがしてみたいよ…望んじゃいけないのかな。
それからね、月蝕があった。
ディズニーランドにいて長蛇の列のアトラクションに並んでいるときにあなたからメールが来た。
先月にメールして、数週間。
あなたからは返信来ないと思っていないと、辛いからね。
分かる?
いつ来るかって携帯を気にして、受信があったときにあなたじゃない脱力感、失望感、落胆。
もう待ちたくないんだよね、あなたのメール。
だけど今日は素直に嬉しい。
華やかなネオンとライトアップ。テクニカルパレードが始まる頃に大きな満月がビックサンダーマウンテンにかかるの。
それはそれはキレイだった。
日が傾き始めた夕刻だって、オレンジ色の空を背景に輝き出すシンデレラ城はまるで異国の地。
大人でさえ身を乗り出さんばかりに興奮してしまう、まさに魔法の国…。
そんな日に偶然、「今日は月蝕です」と教えてくれたあなた。
地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える日。
何でか、こういうときばかりにあなたを思い出す。恋しくなる。
隣で空を見上げたくなる…。
5月21日は分かる?
金環日食‼
朝から外に出て日食グラスで太陽を見上げたよ。
「日食」は月が太陽の前を横切るために、月によって太陽の一部(または全部)が隠される現象で、太陽が月によって全部隠されるときには「皆既日食(または皆既食)」。
また、太陽のほうが月より大きく見えるために月のまわりから太陽がはみ出して見えるときには「金環日食(または金環食)」と呼ばれる…。
あは、私、調べちゃったし、たくさんトピックスでも取り上げられたね。
おなじみのトピでは金環日食のときに相手にメールして、すぐに返信があったって羨ましい人もいた。
私もメールしたかったなぁ。
私ね、あなたと普通に話がしたかった。
何でもない話。
「おはよう」だけでも良かった。
特別なことじゃなくていいの、何気ないちょっとしたこと。
あなたの隣で、私の話であなたが笑って
うなずいてくれたり、相づちをうってくれたり、、、あなたと話すのが好きだった。
なんか、もう遠い記憶…
細かいことはもう覚えてない
思い出も薄れてきたよ
あなたとの記憶って何かな?
何にもなかったんだけど、だから何もないんだけど、そんなだからよけいに思い出が欲しかったのかもしれない。
あなたと私の思い出。
恋してね、
好きだったから忘れられない。
好きだったなぁ、ホントに。
伝えたことはないけど、好きだったよ。
メールをあなたに送らなくなってから2年。
二重の架け橋の虹を何回も見た
夕焼け空の写メも撮った
ツバメが今年も来て、雛を育ててる
仕事先近くの道すがら、猫が落ちてる…
小手毬の花が満開、キレイ
川沿いの桜並木、たくさんの人を魅了してた
風が騒いで、ひと雨来そう、、、
カルガモの親子が公園の池に遊びに来てた
あそこのパン屋さん、メロンぱん最高!
夏の花火、ここから見えるんだよ
満天の星空、あなたは見た?
ねぇ、いっぱい話したいよ…
それから、あなたも話して。
一緒に笑って、あなたの近くにいたい。
あなたを見ていたい。
朝の通勤電車が仕事先の駅に緩やかに滑り込む。
いつものように人が降り、今日の私はちょっとご機嫌にホームに降りた。
私の前をリュックを背負った小学生くらいのコがお母さんと連れ立って歩く。
いつもの朝の風景にはいない親子。
私はその後ろから歌を小さく小さく口ずさみ、階段を上がる。
交通Cardを改札に通し、改札口前でさっきの親子が集まっていたグループに合流しているのが見えた。
何気に見てしまう…と同時に胸がきゅんとなった。
ふわっと涙が落ちそうになる。
切ない切ない切ない……
私はまだ立ち直っていなかったの?
もう大丈夫だと思ってたのに。
私は歩みを止めず、バスロータリーまで急いだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫と何回も心に唱える。
あなたがいた。
そして一瞬で目を伏せたのが分かった。
あなたの遅い返信メールと3年向き合い、メールをやめて2年。自然消滅……。
けど、私はずっとあなたに話しかけてた。
でも、これだけの時間が過ぎれば、もう、知らない者同士なんだね。
さっきの伏せた目ですべて分かった。
好きだった、ホントに。
好きになったから忘れられない。
バスロータリーに広がる朝の風景と今日は秋晴れ、心地良い風が甘い梨の香りを誘う。私は空を見上げる。
雲ひとつない空にひとすじの飛行機雲。
涙がこぼれ落ち、私はぎゅっと目を閉じた。この想いはあなたとのメールに似てる。届かない返らない、見上げていた空に消えていく。
同情でも社交辞令でも、あなたのメールが私に届いていたら、幸せだったろうに。
幸せだったろうに、、、。
【すごい空の見つけ方】 完
【イツカ…】
うわ〜ッ!
送っちゃってる‼
何で?何で?何で?
どうしよーーーΣ(・□・;)
完全にひとりでパニクり、キッチンの中で右往左往…
イヤイヤイヤ、落ち着こう、どうどう…
って私、馬じゃなーいヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3
何、私、送っちゃってんの⁉⁉⁉
送らないって決めたのに、まだ1週間も経ってないよ。。。
どうしよ、でも、大したことないかな。
パパが仕事帰りにケーキを買うよってメールくれて、娘のは苺ショートって決まってるんだけど、ヒロは?って聞かれて…モンブランがいいなって。
清水先生にメールしてる‼‼‼
((((;゚Д゚)))))))
数週間前から耳がおかしかった。
左耳に閉塞感があり、キーンと鳴ってる。
あまり聞こえない。
誰かの話も自然と右耳で聞こうと横を向いてしまう。
朝に起きたときはぐわんぐわん、娘と話すときにも頭に自分の声が反響して、話す声が大きいのかと思って、だんだんと声が小さくなっていった。
娘やパパ、パート先でも会話が聞こえづらい。ボソボソや小さな声はホントに聞こえない。。。日常生活に支障があるのに病院には行っていない。
毎日、通って治療しなくてはならないから面倒でステロイド入りの軟膏をぬって、応急処置程度…。
そうしてしばらくすれば、ストレスがなくなれば良くなるのを私は知っていた。
それくらい何回も繰り返している。
今のストレス、仕事とたぶん、、、清水先生のことだろうと思う。
私自身、今の状態は分かっている。
私は恋に恋してる状態、恋にしちゃいけない、自分の気持ちに気付いちゃいけないと抑えている。
娘はもう卒業しているが、小学校時代の担任だった清水先生に相談にのってもらうスタイルがここ数年、続いていた。メールで先生の時間のあるときを聞いて、母校を訪ねて娘の話を聞いてもらう。
母校の管理職も娘の大変さは分かっていたから、中学校に入って良き先生、良きクラスメイトに恵まれたことには嬉しく思ってくれ、ただためて爆発する爆弾には私はずっと手を焼いていた。
保健室登校だった娘が選んだ道は清水先生と相談しあい、決めた道。
清水先生は娘の行く末を今も見守ってくれていた。
私は長い年月の間に、静かに静かに惹かれてしまったようで、、、でも、認めたくはなかった。
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