猫の背中を撫でながら
ショート*ショートです。
気長に書いていくので気が向いたら
ぜひ、読んで下さい。
よろしくお願いします。
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そのミセスは篠崎さんと言った
勤務は夕方からの時間帯らしく、週3で姿を見るようになった
新人さんが行なういつもの研修に入る…ただ違ったのは3週間くらいで終わる研修が篠崎さんの場合、チェックを1ヶ月していた
とても稀なケース…篠崎さんがゆっくり覚える人ではなく、彼女に教えられる社員の人やベテランミセスが夕方からの時間帯にはなかなかいなかったのだ
タイミングを合わせて、社員の人がつこうとしても夕方のディスカウントスーパーの混み具合に左右され、篠崎さんの勤務時間中には十分な研修時間が取れなかった
だから、よく2人制をしていた
俺はバイトだから、その2人制で一緒になることはなく、パート社員と呼ばれるミセスたちと組んでいた
バイト諸君では責任が取れないからがいちばんの理由だった
バイトの時間帯に篠崎さんの姿や後から入った他のバイトの人たちの姿にも慣れてきた頃、ふと声をかけられた
「2人制、お願いします」
ちょこんと篠崎さんが隣に入る
俺は会釈をして、サービスカウンターにいる宮崎さんを見た
お願いするような表情で俺を見てくる
バイト諸君のところは…と左右のレジを見ると、今日に限ってバイトだらけだった
篠崎さんがスキャンして渡してくる品物を俺は受け取りながら、俺よりはるかに小さい篠崎さんに教えなきゃ…の気持ちが出てきた
篠崎さんはお子さんが2人いる
ときどき上がりの後に子どもと一緒に待ち合わせをして、買い物をして帰るのを見かけていた
お子さんは中学生くらいだろうか?
だけど、このバイト先でミセスでお子さんがいる人なんてたくさんいる
歳だって俺と同じ大学生もいれば、ホントに低学年の小学生もいる
もっと言えば、俺のお袋だって、こんなデカイ子どものいるミセスになる
同じなんだよなぁーとぼんやり思った
篠崎さんを目で追うことが多くなった
週3の篠崎さんのシフトに普通にかぶる俺のバイト時間
篠崎さんの入るレジの前だったり、後ろだったり…偶然なだけなのに彼女が近くにいると困った時に助けてあげられると思ってしまう
篠崎さんがレジ対応で困ったり、戸惑ったりしたときに呼ぶ「サービスさん」の声につい反応してしまう
商品をスキャンしながら、お釣りの確認をしながら、篠崎さんの声や動きに反応してしまう自分がいた
俺が篠崎さんの新人研修をしているわけでもないのに…俺の目の届くところにいて欲しかった
少しずつ、自分でも篠崎さんを目で追ってる自分に気付き始めたころ、兄から引越しのことを言われた
え?引越し……
正直、イヤだった
大学にも慣れ、講義にもなれ、行き交う人の姿にも慣れたのに
バイトにも、ここで会う人たちにも慣れてきたのに
「ここからどこに?」
「大森…、悪りぃな」
兄がネクタイを緩めながら言う
「オレがムリになった」
聞き分けがいいとかそういうことじゃなく、兄のあまりに疲れた様子に仕方がないんだと理解した
俺が驚いた顔をしていると、兄がフッと笑った
「別に大学を辞めろとは言ってないぞ。ただ通うのが遠くなるだけだ」
俺は兄の顔をジッと見て、ああと頷いた
俺は何にショックを受けたのだろう?
これから長くなる通学?慣れた環境?張り切って頑張っていたのでバイト?
次のバイトのときにチーフに辞めることを伝えた
「え?辞めるの?大学はこっちだから続けられない?」
俺は一瞬、考えてみたがすぐに
「無理、です。ラストまでいて大森に帰ると24時超えてしまう…ので」
「時間を4時間にしても?」
「その帰りが2時間、かかります」
困った顔で俺はいたと思う
チーフはうーんと(・_・;と唸って、
「きみの穴は大きいなぁ…でも、あまり引き留めてもよくないね」
少し考えていたチーフは困ったように笑ってから、
「いつが引越し?それまでは時間が許す限り、バリバリ働いてもらおうかな!」
俺は笑って、ハイと答えた
チーフは時間が許す限りと言っていたが実際は今まで通りで変わらず、むしろ、レジに入るよりサービスカウンターで過ごすことが多くなった
手元での作業や掃除、カゴ戻しなどをしながら、社員さんやミセスたちと代わる代わる話をする
どの人も俺が辞めることを知っていて、今までのことやこれからのことを聞いて頑張れ!と応援してくれた
そのひとつひとつの言葉に俺は有難いなと思った
バイトを始めて半年、自分の都合とはいえ、辞める俺に暖かく接してくれ、学生の身分なのに信頼してもらい、領分外の仕事も任せてくれた
頑張ったんだなと思った
バイトを辞める当日、俺は30分早くに仕事に出る
夕方のレジ混雑時にはレジに入ったが、あとはいつも通り、サービスカウンターにいた
今日は篠崎さんも仕事の日
サービスカウンターと向かい合わせなレジ列で、ここからはみんなやお客様の動き、様子がよく見える
「今日で最後だね」
遅番のチーフが休憩上がりにサービスカウンターに来て、俺に言う
「お世話になりました」
「締めまでお願いね。20歳になってれば帰りに飲みに行こうってさそえるんだけど」
チーフが笑った
「まだダメですねー」
駐車券対応やカゴ戻し、キャンセル品の戻しをしながら、俺はゆっくりと最後のバイト時間を過ごす
そのうちに篠崎さんの仕事上がりの時間になった
ドロワを持った篠崎さんがサービスカウンターに来た
「清算です。お疲れさま」
「お疲れさまです」
篠崎さんがサービスカウンターにいる俺に会釈をしてくれる
「お疲れさまです」
それだけでただ通り過ぎる篠崎さんに俺は声をかけた
「篠崎さん、俺、今日で終わりなんです」
その声で篠崎さんが振り返った
「今までありがとうございました」
俺の言葉に篠崎さんはびっくりした様子で、それでもすぐに
「色々お世話になりました。こちらこそありがとうございました」
篠崎さんの、ミセスの対応…
それは当たり前の社交辞令
順々に並んでいるお客様のカゴを流しながら、自分が頑張ってやってきたことの自信が内なる中にしっかりとあると感じていた
手応えのようなもの
半年という短い期間ではあったものの、失敗したり、少しイヤに思うときもあったけれど、それでもここで過ごした時間は自分の成長になったと思う
「いらっしゃいませ」
次のカゴを手にして、お客様の顔を見ると、それは篠崎さんだった
「お疲れさまです」
篠崎さんの買い物カゴの商品をスキャンしながら
「お疲れさまです」
と返した
「今日、最後だって聞いたから並んでみました」
ニコと笑った篠崎さん
自分のレジを選んで並んでくれた篠崎さんにさっき肩の力が抜けた俺なのに、今度は胸に熱いものを感じた
「ありがとう」
素直な気持ちが言葉に出た
「困っていたときに助けてもらってましたから、こちらこそ、ありがとうございました」
「俺の方こそ、まだ半年そこそこなのに人に教えるとか、ナイですよね」
「そんなことはないですよ。私はすごく頼りに感じていましたから」
俺のレジ清算は早い…それはいつも周りからもお客様からも言われていた
それが誇らしいときもあったが今はそれが恨めしい
もう終わってしまう、篠崎さんとの時間が………
「2660円になります」
「はい…じゃ、2700円で」
「2700円、お預かりします」
キャッシャーでの清算を済ませ、40円のお釣りを篠崎さんに渡した
「大学はこっちだから、顔を出します」
「ぜひ、そうして下さいね。ありがとう、お疲れさまです」
それが篠崎さんとの最後
俺はすぐに次のお客様を迎える
短い時間の会話だったけれど、気持ちがすごくスッキリした
俺はずっと篠崎さんと話がしたかったんだな…なんでもないことでもいいから
それから1ヶ月くらいして、俺は大学帰りにひょっこりとバイト先に顔を出した…クッキーのお土産を持って
「お久しぶりです」
サービスカウンターに顔を出すと遅番出のチーフがいた
俺を見ると明るく迎えてくれ、嬉しそうに笑ってくれる
「久しぶりだね、元気にしてた?」
「はい、皆さんもお元気でしたか?」
「相変わらずだよ、今日もいつもと同じ」
視線をレジ列に移すと、自分がいた頃と変わらない
どのレジもお客様がカゴいっぱいにして並んでいた
「篠崎さんは今日のシフトじゃないよ」
何気なくチーフからそう言われたが、俺自身、それを分かって顔を出したのだ
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
俺は苦笑いをした
「そんなに分かり易かったですかね?」
「まぁ、あんなに見てれば」
チーフはイタズラっぽく笑い、
「気付いてる人はいないだろうから、大丈夫だよ」
チーフを見ると口に人差し指を立て、シィとしてる
俺はそんなチーフを見て、笑ってしまった
サービスカウンターにお客様が来て、チーフは商品の発注やら駐車券の対応に追われる
夕方の混雑時間を迎え、ストアの中が一気に活気づき、忙しくなった
俺はその雰囲気を懐かしく思い、篠崎さんのいない日を選んで良かったと思う
俺はやっぱり、このバイト先が好きだ
雰囲気も忙しさも人の流れも…
今日もいつもと変わらず、皆、頑張っている
しばらくサービスカウンター付近にいたが電話で話をしているチーフに目でお礼を言い、会釈をしてバイト先を後にした
もうここには来ない予感が俺にはある
俺はここでミセスに会った
ただそれだけだから
【ボーイ ミーツ ミセス】完
【soulmate❷】
パートから戻り、私は買い物をしてきたものを冷蔵庫にしまう。
5月の風薫る季節が過ぎ、少し湿った空気が肌にまとわりつく。もうすぐ梅雨入りの時期。
一人娘のるーが「ただいまー」と帰ってきた。すぐに放り出すランドセル。
紫色でピンクのスティッチ、買ったばかりの頃は小さなるーの背中にあって、夢が詰まっていた。あの頃のランドセルが懐かしすぎる 。
るーのランドセルをいつものように開け、宿題ファイルを取り出す。
「るー、宿題」
日課となった言葉がけ。
「んー」
お気に入りカバンから3DSを取り出し、入ってるカセットを確認しているようだった。
話を聞いてないと思って、少しイラッと来た。
「るー!聞いてる?また東先生に怒られるよ‼︎」
ムカムカしてくる。こんなイラつく自分がイヤ。だけど止まらない。
「るー、聞いてる?宿題、やるんだよ。時間かかるんだから」
秋本 瑠夏 (るか)小学1年生。
ピカピカな期待と希望でいっぱいの春を迎えたのに、もう挫折感いっぱい。
1年生ってもっと……可愛らしいものだと思ってた。なのに私は毎日、怒ってる。
去年の10月、教育センターの人と一緒に家からいちばん近い小学校の支援級をるーと見学体験した。
朝学活から2時間ほど、どんな勉強でどんな雰囲気なのか、どんな子どもたちがいて、またどんな先生たちなのかをじっくり見学をする。
教育センターの人には
「瑠夏さんがここにいたら、どんなだろう?と想像しながら見てください」
と言われていた。
もちろん見学体験だから、幼稚園の年長だった瑠夏は体験に入り、30人ほどの学級の前で自分の名前を言ってあいさつをする。
最初は照れていたけれど、憧れの小学校、自分は幼稚園のお友だちよりひと足早く、体験できることに軽く興奮していた。
「秋本 瑠夏。年長さんです」
そう言っただけでも、みんなから大きな拍手をもらえ、るーはその反応に最初はびっくりしたものの、すぐににーッ!と満面の笑みを浮かべる。
見学してる私の緊張もその笑みで少しほどけた気がした。
「さぁ、瑠夏さんはこの席に座って」
先生がひとつ椅子を用意してくれた。学級の子どもたちが集まっての朝学活、自分の椅子を持って来て5ずつ6列と整然と並んで、低学年から座っている。
「日直さんが1年生から名前を呼びます。瑠夏さんは順番に隣が呼ばれたら元気よく返事をして下さい」
椅子に座ったるーに屈んで、そう伝えてくれたのはまだ若い男の先生。背の高い痩身、見た感じ良さそうな印象。
「今日の日直さんは井坂 まなびくんです」
まだ低学年の子のようで、名前を呼ばれて元気よく返事をし、立ち上がった。
その子が順々に一人ひとりの顔を見て名前を呼ぶと、次々に元気な返事が返ってきた。るーも瑠夏さんと呼ばれるとみんなの元気に負けずに大きな声でハイッと言った。
さっきの先生がニコといい返事ですね!と言ってくれ、私もくすぐったくなる。
こんな居心地の良さは私も久しぶりだった。幼稚園の参観日などはいつも私は下を向いていたように思う。るーは何も悪くないのに……。
最後の子まで来ると日直さんの子はくるりと男の先生を見て、軽く敬礼!
「みんな元気です!お休みは6年生の優木くんです」
ピッと敬礼から直ると、スタスタと自分の席に戻る。
どの先生も苦笑混じりで
「まなびくん、日直ありがとう。でも敬礼はいらないからね」
子どもたちの間からもププ…と笑い声が聞こえた。
なんか、あったかいなぁと見ていて、私は思った。
るーもこういうところがいいのかもしれない。普通級でも、、、と思うけれど、みんなで見守ってくれて、一人ひとりを大事にしてくれそう…。
ほんわかしてしまった。
だけど、私は見落としてしまったのである。先生たち5人の他に支援員の先生が2人、そこにあとひとり。
私はほんわかした空気の中、ひとりだけ様子の違う人を…神谷 優木、その子のお母さんだった。
こんばんは
久しぶりにのぞいてみたら
前レスからちょうど1年でした
びっくり!(´・Д・)
また書こうかな…
でもsoulmate❷の続きは書けません
ゴメンなさい>_<
気長に
暇つぶしに
温かい目でお立ち寄りください(^_^*)
よろしくお願いします
【ハナミズキ】
「何で貴女がね、ずっと好きなのか……」
紫穂(しほ)さんが私を見据えて言ってくる
「何もなかったんでしょ?」
私はちょっと目を逸らしながら、ただうなずいた
「…紫穂さんとこみたいには何もないよ」
自分でそう言いながら、やはり“何もなかった”ことに今までと同じに傷付いてしまった
生ビールのジョッキ、2杯目
若い時ほど飲めなくなり、ゆっくりとおしゃべりしながら、久しぶりの再会が嬉しくて楽しくて時間が過ぎる
私と紫穂さんが会えば、当然、話題はひとつ
それでも紫穂さんとこんな風に会うのは、7年ぶりくらいだろうか?
あれから
もう7年…
まだ7年…
そんな時間が流れた久しぶりの再会、、、私が仕事を辞めて転職した先に紫穂さんが偶然、来て、、、アノコトで話をしていたのは紫穂さんだけだから、、、プチ女子会になったのだ
紫穂さんとアノコトの話をしていると、感傷的な気持ちになり、ビールを一口ゴクリ!というよりかは口にふくんでゆっくりと喉の奥に流した
…苦かった
注文してあったポテトにケチャップを付け、パクリ
ふぅ、、、
「キョドリすぎ!」
紫穂さんが笑う
私はこういう話を明け透けなくできず、ものすごく恥ずかしいか罪悪感がハンパなくなる
感傷的な気持ちになったのを紫穂さんのひと言で今度はどうしようもなく、身体が火照る
「紫穂さんは、あれからは?」
私も聞いてみる
自家製ポテトサラダを取り分けてくれてる紫穂さんはううんと照れるわけでもなく、以前と変わらず
「結婚してね、それからは何もないよ」
私の前にポテトサラダを置いてから、ニコッと笑った
「だってもう30手前だよ。ちゃんと身を固めた方がいいって」
「異動して、1回は顔を出してくれて、2人で飲む話も出たし、連絡も取り合ってたけど実現しなかった。。。去年かな、結婚したって。もういい歳なんだもの、そうでなきゃね!」
結婚したんだ、、、
「そういう出会いがあって良かったんだし、アタシはホントに幸せを願ってる」
「貴女もそうでしょ⁉︎」
相手の幸せを願う
ずっとずっとそうだよ
そうだけど、、、
「……私、まだ好きだよ、、、」
そう言葉にすると込み上げてくるものがあり、涙が、、、
「もう!泣かないの‼︎」
「だって何もなかったのにさ、まだ好きってオカシイじゃん‼︎紫穂さんみたいに色々あれば分かるけど、私、幸せな記憶、何にもないよ」
ハンカチをカバンから出す暇もなく、涙がこぼれ落ちた
ハンカチを取り出し、目元を軽く押さえる
鼻もくすんとすすり上げた
「ホーント、好きだよねー」
長くを吐くかのように紫穂さんがつぶやく
「名前だけだっけ?歳は?」
「…同い年なんだけど、学年がひとつ上だった」
「ふーん、、、でも同い年っていいよね!アタシなんか14も違う‼︎もう何しても可愛くってさ☆」
紫穂さんはニヤニヤっとした
それからクフフと頬杖をついて、あの頃を思い出してるのだろうか、少し遠い目をした
「何、思い出してるの?…顔がニヤけまくってるよ〜」
「やぁだ♡、、、うん、ちょっとね♡♡♡」
ああ、♡が飛びまくってる( ´Д`)
いいな、いいな
私も♡飛ばしたい
だけど、ホント、何もなかったんだよね
紫穂さんのニヤけぶりに私ははぁ〜とため息
「あーーー、私も恋したい」
大きくひとりごちた
紫穂さんとの久しぶりの再会で静かに封印していた想いがにわかに熱を帯びてくるのが分かった
私の中のあの人への想い
長く長くこんなにも長い時間、ホントに何もないのに好きで好きで、、、ただただ愛してる
こんな自分の気持ちにあまりにオカシイと自分自身が気付いたのは去年だった
朝、目覚めたときからあの人に心の中で話しかけている
昼間も夜も、明け方や寝入る前の夢うつつな時間でさえ、私はあの人が当たり前に自分の側にいるかのように感じ、それが当然だった
それがある日、あの人の声も姿も温もりも全く自分の側にはないことに気付いたのだ
あれ?あの人は?
いないよ、、、
現実にはお互いに家庭があり、7年も前から一緒にはというか、最初から私の側にはいなかった
それなのに、毎日、愛してるあの人と一緒にいる感覚を感じているなんて、私の頭はオカシイとようやく分かった
あの人への想いを断ち切るには新しい恋!
そんな図式が私の中にはあり、紫穂さんの♡が飛び交うニヤけぶりにそうひとりごちたのも無理はなかった
「だけどさ、そこまで好きなんだからよっぽど前世の縁が強かったんだね!」
紫穂さんがようやくこっちに戻ってきて、笑った
「そういう前世でした約束もロマンチックじゃない?」
「…来世でも会おう的な?」
紫穂さんは乙女チックな甘い恋の話に同調して目をキラキラと輝かせ、うっとりとした
まるでウブな初恋しか知らない女の子の顔で幻想に酔いしれてる
「あー、ハイハイ。確かに会えましたねー」
私はふてくされた
そりゃあ、バカみたいにずっと恋してますよ⁉︎
好きですよ、ずっと
だけどさぁ、前世からの縁ならちゃんと一緒になるんじゃない⁉︎
あなたと離れたら死んじゃう…(T ^ T)みたいな男女の仲だったら、もうちょっとこう、ドラマみたいに盛り上がってもいいんじゃない?
頼んだ漬け物をパリパリと食べ、生ビールをゴキュゴキュと飲み干した
「イヤン、そんな色気なしじゃ新しい恋も出来なくてよ☆」
そう言いながらWink☆をしてくる紫穂さんに軽く怒りが沸くのは私だけじゃないと思う
紫穂さんと熱い交流の後、しばらくは新しい仕事に精を出した
以前に比べたら仕事内容も単純
ネジにボルトを付けるような作業を繰り返し繰り返し、時間が来れば終わる
ボルトの太さが違うから1本1本合うようにボルトを選ぶ正確さは必要ではあるがどんどんそこから仕事が片付づいていくのは楽だった
以前は毎日何かしらが起こる中で、自分の頭をフル回転させてその場その場で解決し、またそこからの成長を見出していくような仕事で、忙しい時間が生きがいとかステイタスとか思って、蓄積されたストレスや疲れを見ないで頑張ってきたんだよね
まぁ、あんなことがなければ今みたいなゆっくりした時間は得られないけど…ようは自分のキャパを超え、私は倒れたのだ
朝に家族のお弁当を作り見送り、掃除や家事をし仕事に行き、14時には戻り、洗濯物を取り込みたたみ、お風呂の用意や晩ご飯を作り、家族の帰りを待つ
今はこんな感じ
だけど、コレもなかなか気に入ってる
だってあんなに好きで好きで頭から離れなかったあの人を想うことがなくなってきたんだもの
家族を大切にする
自分と向き合う時間
あの人への想い(執着心)をなくす
今はホントにコレができているから
私は今の自分が好き
ツバメが低く飛び交う季節
ある日、仕事から帰宅した旦那が晩ご飯を食べながら
「なぁ、旅行にでも行かないか?」
と言い出した
「…どうしたの?急に」
晩ご飯後の旦那の晩酌の用意をしながら、私は聞き返した
「いや、今までオレもお前も仕事が忙しくて家族で旅行に出ることなかったじゃないか。それにお前が入院してさ、オレ、思ったんだ。今まで家族らしいことなかったなって」
旦那がハシを止める
「お前が今すぐどうこうなる病気じゃなかったけど、今、お前がいなくなったら、何か、思い出というか、家族の時間ってあったのかな?って思ったんだ」
「ちょっと何でコロスの?(笑)」
「コロシてないよ!…ただ結子やみのりと家族で出かけただっていう記憶を残してもいいんじゃないかと」
何か私がいなくなる前提ぽい話なんですけど…(。-_-。)
冷奴と枝豆をトレイに載せ、テーブルに運ぶ
冷やした発泡酒も並べ、私も椅子に座った
「そうねぇ、お出かけや実家に帰るようなことはあったけど家族旅行っていうのはなかったよね。(私がいなくなる前提ぽいのは気になるけど)みんなで旅行に行きたいね」
私が旦那を見ると、旦那は安心したような顔をした
「…私が反対すると思ったの?」
「そうじゃないけど、何かしらの理由を言って断わるかなって」
まぁ、以前の私ならピキッと腹ただしさの琴線に触れていたかな?仕事優先だったしね
「私だって、点滴されながら病院の天井を見上げていれば、いろいろと考えます」
拗ねたように私はプイと横を向いた
手のかからなくなった結子とみのりもこれからは私たちから離れていくだろうし、こうして家族の思い出も作るのも大事かもしれない
子どもたちが大きくなるのは喜ばしいことだけど、これからは旦那とふたりの時間が確実に増えていく
家族として過ごす時間はもしかしたら限りがあるのかもしれない
「…家族旅行か」
私は目を伏せ小さく呟き、自分でも気付かない小さな小さなため息をついた
〈今年の夏、友人の美術展に誘われ家族でnに行きました〉
そんなメールをあの人からもらったのは6年前くらいだろうか?
全くメールをくれないあの人から、来たと心躍らせればそんないち文だけ
nか、、、私の実家がある県のn
街の名前くらいは知ってるけど、どんなところかは知らない
家族旅行に行ったんだね
…私の小さな小さなため息…
それから数日して旦那が会社の保養所を宿にしないかと言って来た
千葉、長野、神奈川、群馬の関東近郊に点在している保養所
「南房総か箱根がいいかな」
「大涌谷ってもう行けるの?」
「まだじゃないか?規制解除はされてるだろうけど黒タマゴは食べられないハズ」
テレビを見ていたみのりがこっちに振り向いて
「黒タマゴって何?」
と聞いて来た
大涌谷の硫黄泉でタマゴを茹でると殻が真っ黒になる
その黒タマゴを1個食べると寿命が7年延びると言われてる話をした
「みのりは行ったことなかったっけ?ああ、あのときはまだ私のお腹の中だわ」
もう14年も前になる
結子が3歳くらい
私は家族で揃って旅行に行ってないことをようやく思い出した
旦那の顔をつい見てしまう
みのりがソファからだらんと腕を垂らし
「ねぇねぇ、家族旅行なんでしょ?だったら私、温泉旅行がいい。みんなで浴衣着て、湯畑で写真を撮るの、良くない⁇」
「みのり、、、何の話だ?」
旦那が何のこっちゃ?とみのりに聞くとすぐにみのりはテレビを指差した
「これ、テルマエ・ロマエ!いいな、ここ行ってみたい♪」
あっけらかんとみのりは言い、私も旦那も呆気の取られた後、2人で笑い合う
テレビ画面には阿部寛が扮したローマ人シリウスと上戸彩のヒロイン真実の草津・湯畑をバックにしたシーンが映し出されていた
家族旅行の行き先はみのりの提案により、草津になった
出発は1ヶ月後の8月6日から一泊二日
真夏に温泉?
お湯に入ってもかなり湯当たりが早く、温泉気分に浸れるか分からなかったが結子とみのりの部活動関係からそうなった
お盆が良かろうと思ったが帰省ラッシュに引っかかるのも癪で、子どもたちも国民大移動のときにわざわざ出かける必要はないと変な主張をした
お盆時期に閑散とした都内に友人と出かけたり、近い実家に立ち寄ることのほうがよほど有意義らしい
真夏の温泉って、ホント温泉たまごより早く茹で上がりそうだわ(´・_・`)
だけど、とても楽しみだ
旦那がスマホを使ってサイトで湯畑付近の宿泊先を探し始めた
「あれ?会社の保養所じゃないの?」
晩ご飯を食べながらなので、いささか行儀が悪い、、、
「うん、そうなんだけど…そうすると湯畑から離れてて、みのりのいう浴衣で出かけられないんだよな。保養所から送迎バスはあるんだけど味気ないし」
ふーん…なんか良く分からない(´・_・`)
私も後で草津温泉を調べてみようかな
「保養所で食事のランクを選んでひとり1万円前後なら、湯畑近くで宿が取れるんだよね」
スマホとにらめっこをしている旦那
子どもたちは家族旅行がまだ先と思っているのか、同じリビングにいてものんきにテレビを見ている
「ちょっとー、テレビを見てるけどもう期末でしょう?テスト勉強は?」
「コレが終わったらするー(^_^)」
「期末、終わったー」
2人同時に言ってくる
みのりの方は先月末に終わったようだ
今年度から中間試験がなくなり、期末試験だけになっていた
結子もみのりと同じ中学校卒だが中間、期末とあり、春にその話を聞いたときにはズルい(T ^ T)と言っていたのだ
「えー、でも範囲は広いよ〜メンドウだよ」
2人してぶうぶう言い出し、やかましい!と思った
「結子、いつから?」
「明日と来週の月、火、水」
「お弁当は?」
「明日はいらない。あと月、火も。水曜日は部活があるから作って、、、下さい」
「お弁当いる、いらないは早めに言ってっていつも言ってるじゃない!」
私のイラっとしたオーラに結子は“下さい”と付け足す
お弁当作りが苦手な私は夜のうちに朝ごはんとお弁当用のおかずの下ごしらえを夜のうちにする
それは仕事が変わった今でも変わらない
時間に余裕のある朝に変わっても、やっぱりお弁当作りは苦手だった
私たちのやり取りに旦那があっ!と顔を上げる
「ゴメン、オレも弁当、いらない。明日、出張だった」
仕事が終わって家の近くの食品ストアで買い物をする
仕事終わりはいつもお昼を過ぎているから、お腹が空いていて、ついよけいにお菓子やデザートを買ってしまうのがやっかいだ
野菜売り場でオクラを選んでいると、さっきまで仕事先で一緒だった志真(しま)くんが人なっこく声をかけてきた
志真くんはひと月前に入ったバイトの大学生
ときどき工程のグループになり、黙々と作業を進める
「お疲れさまです。買い物ですか?」
志真くんは並びのトマトの陳列棚で止まる
「…トマトってどれが美味しいですかね?」
大粒の色と形の良いトマトの箱売りや袋詰め、プチトマトのパック売り、1個売りのトマトまでさまざまある
トマト?
「志真くん、トマト好きなの?」
「はい」
たくさん並んでいるトマトを嬉しそうに見て、値段も手ごろな袋詰めを持ち上げた
「トマト、、、好きなんだ」
私が繰り返して言うと志真くんが不思議そうに私を見てきた
「好きですよ?普通に」
「あ、じゃあ、あそこの××ファームのトマトがいいんじゃない?」
すぐ近くに地元産の採れたて野菜を並べた一角があり、私はそれを指差した
志真くんはそれを見て、なんと目を輝かせた
「美味そう!」
ニコニコと嬉しそうに笑う
このコ、ひとり暮らしだっけ?
トマトひとつですご〜く喜んでる!
素直だ!いいコだなぁ
多分、結子と3つ違いくらい…じゃないのかな?
私は新鮮なトマトで喜ぶ志真くんにほんわかした気持ちを感じた
全く、結子なんてプチトマトをお弁当に入れても残してくるのに‼︎
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5ヶ月付き合っているけど実はこれが初めてのデート、初めてだから行きたい場所を聞いてみたら彼女は「私は…
17レス 366HIT 張俊 (10代 男性 ) -
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LINEが1日返ってこなかっただけで寂しいと感じる彼女は重いですか...? 私も返す頻度はバラバラ…
7レス 292HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
誕生日のお祝いについて
彼氏にカラオケおごってあげるといわれましたが、全然嬉しくありません…。 皆さんだったらどう思います…
12レス 257HIT 恋わずらいさん (40代 女性 ) -
他界した高齢の姑に、生前夫や私が贈ってた品々
昨年、高齢の姑が天寿を全うしました。 法要等色々と終わり、生活が落ち着いて来たので、遺品整理につい…
20レス 464HIT やりきれないさん (50代 女性 ) - もっと見る