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猫の背中を撫でながら

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匿名
19/12/14 21:09(更新日時)



ショート*ショートです。

気長に書いていくので気が向いたら
ぜひ、読んで下さい。

よろしくお願いします。

No.2078352 14/03/30 10:47(スレ作成日時)

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No.1 14/03/30 11:04
匿名0 


【3月の夜】

昼間、保育園の卒園式だった。

まだ薄ら寒い日差しの中、めいいっぱいおしゃれをした小さな天使たちの旅立ちの会。

あんなに小さかったのに、今日はもう卒園式。長かったような短かったような…
色んな思いと思い出がよみがえり、私は涙ぐむ。

「いっちゃんも春から1年生だね」

隣に座ってカメラ役をしているパパに呟くように言う。

「いづみ、大きくなったなぁ」

パパもひな壇に並んで、みんなと旅立ちの歌を歌ういづみをフェンダー越しに捉えながら、何気なく言う。

いづみは私たちのひとり娘…ずっとずっと見守ってきた。

私たちの後を追いかけたり、手をぎゅっと握ってきていたいずみが、こうして卒園式で立派な姿を見せてくれていることに素直に感動を覚えた。

No.2 14/03/30 11:23
匿名0 


昼のうちに家族でお祝いのご飯を食べた。
いづみはいつの間にかお子様ランチは卒業し、自分の好きなオムライスを食べる。

いづみはおしゃまさんでおしゃべり…誰に似たのかな?ってパパが笑う。

卒園式の後に保育園の遊び慣れた場所で、仲良しのミナちゃんと写真をたくさん撮った。

ミナちゃんはシングルの谷さんのひとり娘。同じ学区の小学校に通う。
いつもいづみと仲良くしてくれ、ハキハキとした明るい娘。

いづみとミナちゃんで頭をくっつけポーズをとる2人はまるで仲良し姉妹のようだった。

「夜、飲み会だろ?」

パパが不意に聞いてきた。

私はいづみの揺れた髪を撫でながら、

「うん、仕事の。ちょっと行ってくるね。いづみをお願い」

「おうッ、俺の休みが土日じゃないからな。こんなときでもないと游子(ゆうこ)は出られないから行っておいで」

私は耳に付けたパールのイヤリングにふれる。

「ありがとう」

それから美味しそうに食べるいづみを見つめた。

No.3 14/03/30 12:27
匿名0 


夜というか夕方、最寄りの駅で待ち合わせをしていた。

腕時計を見ながら、由比(ゆひ)くんが駅前の行き交う人たちに鹿嶋(かしま)さんを探しているのが分かった。

「…遅いですね」

「まだ時間じゃないよ」

私は少し笑って

「電話してみたら?」

と提案する。

「ぼくがですか?」

由比くんが戸惑った顔を見せる。

私は同じ仕事仲間の林さんに身体を寄せて、

「私たち、メアドしか知らないのよ」

そう言って、ちょっと意地悪に笑ってみせた。

でも、ホントは知ってる。
わざと由比くんにかけるようにしただけ。由比くんが鹿嶋さんを好きだから。

鹿嶋さんも林さんも由比くんも、みんな同じ仕事仲間。

由比くんだけ大学生、他にもバイトの子はいるけど、私たちと遠慮なく話すのは由比くんくらいなもの。

いたって普通?の大学生で来年度からは4回生になり、就職や卒論やゼミで忙しくなるから、バイトも3月いっぱいで辞めるのだ。

2年一緒に仕事をした。

「かけたけど、出ないですね」

「もう少し待ってみようか?」

陽も暮れ始めた空、だんだん夜になる。
待ち合わせ時間も過ぎた頃、ロータリーにバスが滑り込んで来る。

バスから降りる人の中に鹿嶋さんの姿…由比くんの顔がパッと明るくなった。

No.4 14/03/30 12:54
匿名0 



私の胸がザワついた。

私だけが気付いているのかな?
隣にいる林さんを横目に見る。林さんは走って来る鹿嶋さんに大きく手を振っていた。

私だけかな?由比くんが言ってきたわけでもないし、一見、分からないし、私が気付いちゃっただけかも…あーあ、若いっていいなぁ

「ごめん、バスが遅れちゃって!…由比くん、電話出れなくてごめんね」

くりっとした目の鹿嶋さんが私たちを順番に見て謝った。

鹿嶋さんは私や林さんのような年齢にも見えない童顔さで背も小さく、また可愛らしくニコッと笑う。

私が由比くんの気持ちに気付いたのは、見た目と実年齢の話をしていたときだった。

女同士集まって休憩中に、結婚していて同じくらいの子どもがいて、実際、何歳なの?と気心が知れるうちに話題になったのだ。

「秘密はなしだよ。私たちしかいないし」

私から聞いてみた。すると、林さんと鹿嶋さんが2コ上で、子どもは小学生。

「えー、見えないよ。もっと小さい子がいる感じ!」

お世辞じゃなく、私が言うと同時に休憩室のドアが開いた。と、

「やだなー歳上だって。子どもも2人だよ」

鹿嶋さんが照れて笑い、開いたドアを振り返る。

由比くんが立っていた。

No.5 14/03/30 13:16
匿名0 


鹿嶋さんは由比くんと分かるとすぐにこちらに顔を向けた。

「恥ずかしいよ、この話は終わり。休憩も終わり」

鹿嶋さんと林さんがさっとお昼の片付けをする。

私は先に仕事に戻る2人を見送り、これから休憩に入る由比くんにお茶をいれようと立ち上がった。

「由比くん、お茶でいいかな?」

いつもならすぐに返事があるのにないから不思議に思って振り返る。由比くんはさっき出て行った2人が出て行ったドアを見つめていた。

「由比くん?」

ようやく私の声に気付いた由比くんは、

「鹿嶋さんって結婚されてたんですね、ぼくとそれほど変わらないのかと思ってた」

私は由比くんの返事を待たずにお茶をいれ、由比くんのコトバに笑った。

「うん、鹿嶋さんって童顔だしね、ちょっと分からないよね」

椅子に座った由比くんにお茶を出し、彼を見るとぼんやりとしている。

「由比くん?」

「あ、はい。お茶、ありがとうございます。…結婚してたんだ」

「どうしたの?びっくりしたの?」

私が笑うと由比くんも笑った。だから、それでその話は終わりになった。

No.6 14/03/30 14:10
匿名0 



それからちょくちょく、由比くんが鹿嶋さんを見ている姿が目に入った。

鹿嶋さんが重そうな荷物を運ぼうとしているとスッと変わって持っていたり、高い場所のファイルを取ろうしている彼女に取ってさり気なく渡したり、鹿嶋さんと話していると由比くんが話に加わったりしていた。

…由比くんが鹿嶋さんを見ている。

それだけで私の中で由比くんは鹿嶋さんが好きなんだと思うようになっていった。

だから、由比くんがバイトを辞めると聞いたとき、

「じゃあさ、飲み会しない?たまにはいいでしょ?」

鹿嶋さんも林さんも誘って♡と言うと、由比くんは、

「え?あ、ハイ」

と歯切れ悪く返事をした。

「ヤなの?歳上のお姉さんたちばかりだから?」

クスッと私が笑うと、

「いえ、、、光栄です」

更に気まずそうにした。



そんなことを思い出しながら、みんなで居酒屋に移動する。
さっき、顔を明るくした由比くんを見て、やっぱり好きなんだよねと思う。

歳上の女性への憧れみたいなものでも、由比くんは鹿嶋さんが好きなんだろうな

No.7 14/03/30 14:31
匿名0 



「お疲れさま‼と由比くん頑張ってね会を始めます♪」

私の変なあいさつとともに乾杯をする。

自分たちの年齢がバレるような“とりあえずビール!”の私たちに対して、由比くんはオシャレにカンパリ☆

「飲めるんですけど、ぼくはコレで」

好きなように席について、由比くんは私の隣。林さんと鹿嶋さんは正面に並んで座り、食べたいものをメニューを見てはしゃいでいた。

「何食べる?」

私も由比くんにメニューを見せながら、私が隣でごめんと心の中で思った。

「チーズの中で泳ぐたこ焼き!」

前の2人が笑う。
由比くんがそれを気にしないように、メニューを見ながら、

「うーん、焼き鳥盛合わせと枝豆はどうっスか?」

ビールに合うツマミだねと軽くツッコミたいのを我慢して、まぐろのカルパッチョとトマトとモッツァレラのサラダを注文した。

料理が来るまで、軽く談笑し、テーブルに美味しそうに盛り付けられたお皿が並ぶと、みんなで代わる代わる取り皿に取り分け、由比くんはずっと私と話していた。

No.8 14/03/30 14:52
匿名0 


私は芋焼酎を頼む。
コレだと次の日に残らないから、いい。

由比くんはカルーアを頼んだ。
梅酒だった鹿嶋さんが由比くんと同じものを頼む。

林さんは日本酒…みんなそれぞれ好きなものを飲む。

時間制限の2時間をあっという間に過ぎ、デザートが食べたい!とほろ酔いなお姉さん3人組が騒ぎ始めた頃、ついに時間終了を店員さんに言われてしまった。

「次、どうする?」

携帯で時間を見ると20時をちょっと回ったところ。まだまだ解散には早い。

「デザートが食べたい☆」

「コーヒー!」

「まだ飲む〜‼」

好きなことを言う私たちの横で由比くんはさっさと歩き、二次会の場所を指さした。

「駅から離れてないココでいいですよね」

有名なチェーン店の和ダイニング居酒屋。
由比くんが先に店に入り、空いてるか聞いてくれた。少し浮かれた女3人で腕組みをして、ワケもなく笑う。

「空いてるって、ココにしましょう」

そして意味もなくハーイと手を挙げて、由比くんに返事をした。

No.9 14/03/31 20:00
匿名0 



靴を脱ぎ、靴箱に入れ、木札のカギを取る。私と林さんは店員さんに案内され、先にテーブルについた。

掘りごたつ形式のテーブル。

後から由比くんと鹿嶋さん。多分、靴を高い場所に入れていたのだろう。2人並んで座る。私の正面が由比くんになった。

彼はメニューを見ながら、

「デザート、ありますね」

店先のメニューも見てからこの居酒屋にしたのに、誰にそのセリフを言ってるのやら…ちょっと聞いていてこちらが照れくささを感じる。デザートと言っていたのは鹿嶋さんだからだ。

ドリンクをオーダー。由比くんはカンパリオレンジ、鹿嶋さんがカルーアミルク、私と林さんは芋焼酎。

ピザやポテト、唐揚げ、お新香なども頼む。先に頼んだドリンクが来ると由比くんは意外な行動に出た。

No.10 14/03/31 22:48
匿名0 



「甘ッ‼コレ、甘いですよ」

由比くんがグラスを鹿嶋さんに差し出す。鹿嶋さんが戸惑った。が、

「あ、甘いね」

と、口をつけて返した。

私はうわーッ‼とひとり心の中で悶えていた。

ボケ?
天然?
それとも大胆な計算?
イヤイヤ、これくらいで騒ぐことじゃないよね⁉

落ち着けーッと顔をパタパタと手で仰ぐ。

「宮元さん、暑い?」

鹿嶋さんが不思議そうに尋ねてきた。
私は氷の入ったお冷を飲んで、大丈夫!と返す。

あの子、無意識なんだ。
隣に鹿嶋さんが座って、酔ってる風には見えないし、一軒目と変わらないんだけど、嬉しいんだ。
なんて分かりやすい…!

あ、身体、寄せた…
アレ、肩あたるよ……

めっちゃ身体斜め、足、鹿嶋さんの方だし、ぶつかってるんだろうなぁ…

腕伸ばしてついて、後ろから鹿嶋さんの背中を覆うようだわ






……私が隣のときと全然違う。

No.11 14/03/31 23:15
匿名0 



みんなで談笑している風でも、

「鹿嶋さんは?」
「鹿嶋さん、、、」

と、名前を呼ぶ。

最初は甘酸っぱい恥ずかしいような気持ちだった私も由比くんの様子に、だんだん鹿嶋さんに気持ちを気付かれたらいいわとイジワルな気分になってきた。

「由比くん、彼女は?」

私は酔った振りをして、うるんとした瞳で由比くんを見る。

「作らないの?」

「ぼくはまだ、そんな気もないです」

「そうなんだ、どんな娘がいいの?」

「うーん、どんな娘ってないですね…あ、鹿嶋さん、取りますよ」

上手く交わされた感じ。
でもこんなのイジワルでもないか…。

鹿嶋さんが気付いてる様子もなく、もしかすれば、由比くんだって…分かってないのかも。

鹿嶋さんのこと、好きだって。

私は焼酎のグラスをカランと回した。

そう思うと、恋が恋にならずに終わるってどうなのかなと…

恋の切なさ、胸の苦しみなんて知らない方がいいのかな?

鹿嶋さんを大切にしようとしている気持ちは、由比くんの優しさ?

私は今までの中でいちばん仲良く話している2人を前に、静かに祈った。






由比くんの鹿嶋さんを思う気持ちがどうか恋になりますように







【3月の夜】 完

No.12 14/03/31 23:35
匿名0 



【メール】


就業時刻も過ぎた18時、川野さんが来た。
相談があって来たのだと思っていたら、違った。

「相談は他の先生にします」

そう言って、おれに小さな紙袋をくれた。

「異動だと思って、マグカップ。今までありがとうございました」

神妙な面持ちの川野さん。

ちょっと待ってよ、
なに、この終わり感。
何?オレじゃダメなの?

3月も終わりの27日。
突然の、、、最後。

No.13 14/04/01 00:13
匿名0 



昇降口前の階段にぺたりと座り込み、前に立つ川野さんを見た。

「異動?」

「そうだと思って、お礼と感謝の気持ちです」

「異動か分からないよ」

「...じゃ、普通のお礼で」

「言えないからさ、異動かどうかも他人に話しちゃダメだから」

「………」

川野さんが顔を俯かせた。

しばらくどっちもしゃべらなかった。

沈黙でオレは彼女を傷つけてる。
どうしてか、そう思った。

No.14 14/04/01 06:50
匿名0 



今日から4月がスタート。
川辺の桜も春の陽気に満開になりつつある。花びらが薄ピンク色で、川野さんの肌の色を思い出させた。

今度の新しい職場は前の所から数キロしか離れていない。

それでもピリッとした緊張感が朝からオレを包む。何回、経験してもダメだな…

なるべく早く向おう、早く慣れよう。

通勤には自転車を使う。

黒のスーツに大きいリュックを背負い、ペダルに足をかけた。

No.15 14/04/01 07:37
匿名0 


自宅から一気に坂を下る。
風を身体全体に感じながら、今日のスケジュールを確認する。

いつも通りに
普段通りに

オレは深呼吸をした。

坂を下りきり、道沿いにあるコンビニに寄る。

朝のコーヒーと新聞。
今日はコレを買わないと。

お昼は多分、お弁当を注文のはず…。

和気あいあいなランチタイムでどんな人間かを見られるのだ。

No.16 14/04/01 08:20
匿名0 



しばらくの沈黙の後、オレは立ち上がり、ついた砂を手で払う。

「ま、新聞買ってくださいよ」

「新聞は買いません」

「じゃ、その日にメールして、教えるから」

向こうで何か音がしたのか、川野さんはそっちに顔を向け、オレの顔を見ない。

最後じゃない
終わりじゃない

だけど、川野さんはオレを見ない。

4月一日、人事異動が新聞で発表される。
それを見れば、誰がどこに異動か、昇級か分かる。

異動なんだよ、ホントは…
だけど言えないんだよ、その歯がゆさ辛さを分かってくれよ
言ったらオレ、絶対、、、、、、

No.17 14/04/01 08:43
匿名0 


感傷的になる必要はない。

自転車を建物の脇に停めると、一度、スマホを見た。メール受信なし。

数ヶ月前には川野さんがメールをくれてた。朝のオレのリラックスタイムに返信をしてた。
軽い日常会話。

いつからか、、、楽しみになってた。

けど、ここ最近はメールが来ることはなかった。

新しい校舎に職員用玄関から入る。靴箱には花紙が飾られている。

清水 昌幸先生

オレのこれからの居場所。
だから、感傷的になる必要はない。なる暇もない。

No.18 14/04/01 11:40
匿名0 



管理職から面談を受け、今年度の担当する学年クラスが決まった。

ピカピカの1年生…
前の学校ではずっと高学年ばかりだったから、久しぶりの低学年。

一緒に成長するという意味では今のオレにはいいのかも知れない。

名簿や引き継いだ分掌等の書類を手に席に戻る。

ちょっと休憩しよう。
リュックから今まで使っていたマグカッ
プを取り出した。

川野さんがくれたマグは箱に入れたまま、いちばん下の引き出しにしまう。

休憩に買って来たコーヒーを飲むが、マグは職員室脇の給湯室の水切りカゴに置
いた。

午前中は新入生の入学手続きがあり、去年から残っていた先生たちが担当するため、職員室は人がまばらだった。

No.19 14/04/01 12:48
匿名0 



コーヒーを飲んでひと息つくと、向かい席の女性が声をかけてきた。

「私、秋山って言います。同じ1年生なので、よろしくお願いします」

オレより少し歳上な感じの秋山さん。

「私、この辺、初めてで…えと、清水さんは前もこの辺りだったんですか?」

「はい、前もこの地区で、妻が入院してるからあまり離れられなくて」

妻が、なんて口にすると照れくさく…ただそれ以上に青白くベッドに眠ったままの姿が思い浮かんだ。

「奥さん、具合が悪いのですか?心配ですね。早く良くなるといいですね」

オレは目を伏せがちにありがとうとお礼を言った。…ちょっと風邪をこじらせての入院なら、ホント早く良くなるといい。

……ひなみ、君はいつ目を覚ますんだい?

No.20 14/04/01 13:23
匿名0 


ひなみの実質的な看病はひなみの母がしてくれている。

だから、オレはこの仕事に打ち込める。
でなければ、時間的にも肉体的にも、精神的にもキツいこの仕事はできない。
ありがたいと思う。

だけど、ひなみの夫としてはどうなのだろう?満足なことひとつできてはいない。

ひなみに何もしてやれてない。見舞いに行って、ひなみの手をにぎり、髪を撫で、ひなみと声をかけるだけだ。

涙はとうに出なくなった。

泣きたい、叫びたい、苦しいと…オレは誰に言えるのだろう?

No.21 14/04/01 13:46
匿名0 


軽い歓談のランチタイムが無難に過ぎ、一人ひとりに与えられているPCを開いた。

薄白い画面と格闘していると、ゴトンとネームランドを置かれた。

同じ1年生を持つ田中さんである。去年、新任でここに来て、今年もまた1年生を持つようだ。

「清水先生、使います?」

教室のロッカーや靴箱、体操着などを引っかけるフックなどに名前をつけるためだ。
机に貼る名前にはコレとはまた違うもの
を使う。

「あー、ありがとう。オレ、これじゃなくてテープにする」

「はい、じゃ終いますね。必要なものがあったら言ってください」

「ん、ありがとう」

また画面を見つめると、胸ポケットに入れたスマホがわずかに振動した。

取り出して見ると、月1で来るメルマガだった。

そのままスマホを机の上に放り出す。

川野さんからは来ない。

オレは何を期待しているんだ?
自分からメール送ればいいのに
…コレは意地なのか?

No.22 14/04/01 19:04
匿名0 



夕方、今日しとく仕事はあらかた済んだ。早めに上がれそうだから、ひなみのところに行こう。

ひなみに会いたい。

まだ数名残っていた人たちにお先に!と声をかけて、自転車にまたがる。

こっからだと30分ほどだろうか?
自宅に戻って車でとも思ったが、今日は身体をくたくたに疲れさせたい。

途中、花屋に寄ってひなみの好きなチューリップを買う。

市立病院へ向かう道、夕焼け空にキレイなオレンジ色の太陽。

少し風が出てきた。

No.23 14/04/01 20:07
匿名0 



病院に着くと面会時間ギリギリで、あと数十分だった。駐輪場に自転車を停め、受付を済ませた。少し汗をかいたが、この疲れがまた心地いい。

エレベーターでひなみの病室へ…オフホワイトの扉を開けると、ひなみのお義母さんがいた。オレを見て、

「…昌幸さん」

と、少し驚いたように呼んだ。

「ご無沙汰してます。…ひなみは?」

ええとベッドに眠ったままのひなみに目を移した。オレはベッドに近づき、ひなみに声をかける。

「ひなみ、ごめんな。なかなか来れなくて…元気か?」

お義母さんがオレの持ってきた花を見つけて、ありがとうと花びんに挿してくれた。

ひなみの柔らかな髪を撫で、頬に触れるとわずかに伝わる温もりにオレは安心する。

「昌幸さん、元気そうで良かったわ。お仕事の方はどうかしら?忙しい?」

お義母さんがオレを真っ直ぐに見てきた。

No.24 14/04/01 20:40
匿名0 



真っ暗な自宅に戻る。
ただいまと言っても誰もいない。

そんな毎日が3年続いていた。

洗濯は明日、メシは…何か買えばよかったと思ったが食欲もない。

とりあえず明日も仕事、軽くシャワーに入り、汗を流した。気だるい疲れにオレは冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。

テーブルにスマホを転がし、椅子にあぐらをかく。
ひと口だけ口にしてビールを置き、スマホの受信メールを開く。

結婚してからのひなみのメールをスクロールする。

忙しいオレに送ってくれた頑張れ!の応援メールや時々、退屈や寂しいよ…と来たメール。
買い物に出たときに見つけたもの、美味しそうなケーキ、キレイな空や虹、面白い雲の形の写メ。散歩中の犬とひなみ。
どれもこれも懐かしいひなみの姿や言葉。

「ひなみ…」

胸がいっぱいになり、涙がこみ上げる。

さっき、病室で思いつめたように切り出したお義母さんの言葉を思い出す。

「昌幸さん、ひなみと…別れてほしい」

No.25 14/04/01 21:02
匿名0 


さっき、言われたことだ。
いろいろな感情がぐるぐると身体中をめぐる。

ひなみがくれたメール。
いちばん嬉しかった赤ちゃんができたと送ってきた日、オレはひなみをぎゅっと抱きしめた。

それから数週間後、お腹が痛い痛いと。
赤ちゃんがいなくなって、病室の窓から無表情な顔で外を見ていたひなみ、
突然、パニックになって激しく泣きじゃくる君をどれほど強く抱きしめたか……。

退院して、少し笑ってくれるひなみにオレは甘えてしまった。
まだまだ辛かったのに、元気じゃなかったのにひとりにしてしまったオレの悔やみ切れない後悔。

仕事中にお義母さんからの電話で入水自殺をはかったことを知った。
身体中が震え上がる。

後からメール受信に気付いた。

ごめんね、赤ちゃん
ごめんね、昌幸さん

君はいったい何を見て、何を感じたのだろう?
こんな言葉をだけを残して…。

No.26 14/04/02 10:36
匿名0 



この想像もしがたい絶望、苦しみ、叫び出したい哀しみ…眠ったままのひなみから解放されたいときもあった。

それを今日、お義母さんに見透かされたようだった。

「あなたはよくやってくれたわ。ひなみもあなたと出会えて幸せだったと思う。
昌幸さん、、、今の状態が誰のせいでもないことが分かったの……それから、ごめんなさい、ずっとあなたを恨んでた。だからいつまでも娘の側に、娘に縛りつけておきたかったのよ」

だんだん涙声になり、身体を小さく丸める。オレはびっくりして、動けなかった。

「お義母さん…」

ゆっくりと涙をふき、もう一度オレを見上げる。それから少し笑った。

「あなたのところにも届くと思う。だから、どうか幸せになって。意地を張ってごめんなさい。また改めてお父さんとあなたを訪ねるわ」

オレにそっと触れ、その手は離れた。

No.27 14/04/02 10:57
匿名0 



お義母さんに何があったのだろう?
オレには分からなかったが、ずっと恨んでいたと言葉にされ、ああ…と思った。

あの日、病院に駆けつけたとき、ICUの待合室でオレを見つけ、お義母さんが投げつけた言葉。

ずっとその気持ちはあったのだと思う、娘の眠った姿を見るにつけ、胸を苦しめるのだから。

オレは手を組んで祈るように、目を閉じた。

ブブブッ.…

スマホが小さく揺れ、メール受信を知らせる。しばらく身体が動かせず、少し身体が冷え、寒さを感じた。

寒い…

何気にスマホに目をやる。
メール受信1件。

オレはメールを開くと、、、
あまりにも衝撃すぎて、、、、、、、手が震えた。

No.28 14/04/02 11:13
匿名0 



昌幸さん、元気ですか?
えへへ、送っちゃいました!びっくりした?
でも私も隣にいて、このメールのことも忘れてて一緒に笑っているかもしれないね。
3年経って、赤ちゃん、すくすく育っているかな?男の子かな?女の子かな?
私、昌幸さんに似た男の子がいいな。
昌幸さんは仕事が大変かもしれないけど、いいパパになってるね、きっと。
私、赤ちゃんできたってメールした日、あなたがぎゅっと抱きしめてくれてすごい嬉しかった。愛されてるなぁって思ったよ。
なかなか言えないけど、私は昌幸さんが大好きです。幸せだよ。ありがとう。

3年前のひなみより3年後のパパへ

No.29 14/04/02 11:36
匿名0 



ひなみから届いたメール……。
オレは身体中がしびれ、震えた。

ひなみ…ひなみ、ひなみ、ひなみ……

「…ひなみ」

遠い昔を思い出す。

『ねえ、やってみようよ』

『やだよ、そんなの何がしたいんだ?』

『別に普通のメールでいいから!私、出してみたい。未来の昌幸さんにメールして…』

『そのときのオレを驚かすのか?』

『そう、すっごいびっくりするよ。だって私が隣にいるのにメールが来るんだよ?』

『長いよ、3年って。忘れてるって』

『もう!私、絶対、覚えてる‼ 』

あの頃は何気ない会話…。
あのとき話していた未来メール。

「…ほら、オレ、忘れてたよ」

涙が頬をつたう。
嬉しいからなのか悲しいからなのか、、、。

いや、、、嬉しいからだった。

No.30 14/04/02 18:29
匿名0 



握りしめたスマホがまたメール受信を知らせる。オレはぐしょぐしょになった顔のまま、メールを開いた。

“モンブランがいいな”

は?誰?

From は川野さん。

「ぷっ…何、このメール」

オレはスマホをテーブルに静かに置き、顔を洗いに洗面所へ。
鏡に映った自分を見て、

「あーあ、ひでぇ顔…ひなみに笑われる」

帰ってきたままのスーツ姿だったことにも気付いた。少しシワになったスーツを脱ぎ、スウェットに着替える。

すっかりぬるくなったビールをそのままにオレはひなみからのメールを読み返す。何度も何度も。

それから、ふと気付いた。
受け持った子どものことで相談を受けていたけれど、オレは川野さんを助けているようで、ホントはオレが救われていたんだと……。

オレは川野さんにメールを返す。

“本日付けで異動になりました。
これからもよろしくお願いします。
モンブラン、自分も好きですよ”







【メール】 完

No.31 14/04/03 07:50
匿名0 



【drops】

この春、中3になる娘が子猫を拾ってきた。学校の敷地内でうずくまって動かなかったらしい。

「拾っていい?」

学校の電話を借りて、私に電話してきた。

「お母さん、子猫、家に連れて帰りたい、迎えにきて」

娘の涙声でもうフォローのしようもないパニックになっていることが分かる。

(あー、ダメだ、もう何を言っても耳に入らない)

私は小さなため息をつき、担任に電話を変わってもらった。

「すいません、朋(とも)さん、泣じゃくってて、病院に連れて行きたい、連れて帰りたいと言ってお母さんに電話してほしいと職員室に来て言うんです」

「ご迷惑おかけしました。もうパニックを起こしているので、とりあえず迎えに行きます」

私は見えない相手におじきをする。そしてため息を小さくついた。

No.32 14/04/04 09:08
匿名0 


中学校の裏手にある駐車場につくと、朋がすぐに駆け寄ってきた。

「お母さん、ごめん。でもね、キャラに似てるの」

キャラはウチにいた15歳の長寿猫。半年前に眠るように寿命を全うした。全身茶色の毛でキャラメルみたいな色だから、キャラ。

ひとつの段ボールを囲んで人だかりができていてる。通用口から担任が出てきた。

「お母さん、来ていただいてありがとうございます。…どうやら事故にあったようでうずくまって動かないんです。ミルクをあげたりしてましたが、どうしようかと思っていて…」

私が拾うのが前提の言葉、この場の雰囲もそうなっている。

段ボールの中の子猫を見てみる。全身茶色でホントにキャラのようだ。ただシッポがとても長い。私は子猫を抱き上げた。

「ニャーーーーー」

まるで生きたいよと言っているように、長く長く鳴く子猫。身体を見ても、どこかケガをしている様子はない。手足を優しく触ると、

「ニャーーーーー」

もしかしたら、痛みがあるのかもしれない。汚れた毛とずっと動けなかっから糞尿の臭いもあった。

「連れてかえりますね」

私の言葉に周りがホッとするのが分かった。

「良かった、三日三晩いて…」

だんだん寒さを感じるようになっていたこの3日の間に大雨もあった。凍えるような寒い夜もあった。この子猫は死ぬのを待たれていたのか…。

「ニャーーーーー」

子猫が私の腕の中で鳴いた。

No.33 14/04/04 09:19
匿名0 



家に連れて帰ると、とりあえず温かいお湯でおしりを洗った。汚れた身体は濡らしたタオルで優しくふく。

体力が戻ったらお風呂だなと思いつつ、身体をキレイにする。

「お母さん、病院は?」

時計を見て、もう診察時間が終了間際なのを知り、

「明日かな?とりあえずご飯あげてみよう」

帰りに寄ったコンビニで買った猫缶。少しだけトレーに出してあげると臭いをかいでからはぐはぐと食べ始めた。

「お腹すいてたんだね」

食べている様子に安心するが、腰を浮かせたまま食べていることに気付いた。しばらくそっとしておくと、口をペロリペロリとさせ、おいしかったと言わんばかりに子猫は、

「ニャーーーーー」

と鳴いてみせた。

No.34 14/04/04 09:31
匿名0 



それから歩こうとすると………、一歩一歩を高く大きく踏み出す。そして数歩進むとその場に小さな輪を描くようにクルクルと回った。

「このコ、もしかして歩けない?」

いや、歩いてる…歩き方がおかしいのだ。

「事故って、頭をぶつけたのかも」

どこに行きたいのか、子猫はヨタヨタとバランスを崩して、ぺたりと倒れた。部屋の隅に簡単なベッドを用意し、そこに抱っこして連れていく。

自分のキレイになった毛を嬉しそうに毛づくろいし、さっきまでの外とは違って居心地も数段良くなり、お腹も満たされて子猫は丸くなる。

「キャラの最期みたいだね」

朋が小さく呟いた。

No.35 14/04/04 09:58
匿名0 



次の日、朋は学校、私は仕事へ。旦那は長期出張中で今週末に帰ってくる予定。

「お母さんが仕事から帰ったら、病院に連れていくね」

「うん、、、大丈夫かな?」

ご飯はさっきはぐはぐと食べ、お水も飲んだ。歩く範囲は狭く、昨日と同じでくるくる回る。朋の心配はトイレだった。

「夜はしなかったけど、トイレの場所、分からないよね」

キャラの使っていたトイレを引っ張りだし、猫砂はなかったからトイレシートを置いていた。子猫が寝場所としている一帯をペットシートを敷きつめ、とりあえずどこにしても大丈夫なようにはする。

「あまり動けないようだし、違うところでしちゃってたら拭くしかないよ…」

私はもう仕方ないがないよと朋の顔を見た。

「うん、……お父さん、何て言うかな?」

2人で子猫を見つめる。

「…お父さんはキャラが好きだったから、、、」

同じ全身茶色の子猫、目の見えないもしかしたら介助が必要なハンデのあるコ。

「あとで聞いてみるね」

朋と同じハンデのある子猫。

No.36 14/04/15 20:45
匿名0 



「お母さん、この子猫は歩けるようになるの?見えてるの?」

朋は学校から帰って来て、制服のまま子猫を撫でている。

私はカウンター越しにその様子を見ながら、動物病院で聞いて来たことを朋に話した。

「事故の後遺症か生まれつきか分からないけど、左半身の反応が鈍くて、視神経ももしかしたらダメになっているかもって」

丸くなっている子猫の背中から長いシッポにかけて、何回も優しく撫でる朋。子猫はぐるぐると喉を鳴らす。そのうちに伸びをするようにお腹を見せた。

「事故のショックから落ち着いてきて、反応が鈍いだけでケガをしてるわけじゃないから、歩けるようにもなるだろうって。視力はどのくらい視えているか分からないけど、まだ小さな子猫だからその治癒力に賭けるみたい」

「…お父さんは何て?」

私は紅茶を淹れようと、電気ポットに水を入れる。朋は子猫を抱っこする。

「うん、帰ってきてから、子猫の顔を見たいって」

キャラにしていたように朋は子猫に鼻をくっつけた。

「気に入るよね、お父さんも」

「多分ね」

目があまり見えないことも、歩くことがおぼつかなくても…この子猫はとても運がいい。朋に拾われたのだ。
どんなハンデでもお父さんにはそれだけの理由で十分なのだから。

No.37 14/04/15 21:41
匿名0 


あれから2年経ち、朋も高校生…。
真新しかった制服も上手に着こなし、すっかり大人びてきた。

私は仕事帰りに夕食の買い物をし、帰宅する。

玄関を開けて、ただいまと言うと少ししてキャラコがトテトテ…と歩いて来た。

あのときの子猫はすっかり大きくなり、キャラから名前をもらい、キャラコと名付けられた。とても長いシッポの先はしなり、優雅に歩いているように見せている。

「キャラコ、ただいま」

キャラコはあまり見えないため、歩くときは壁に沿うように歩く。足取りはしっかりし、拾ったときのようなぐるぐると回ることはなくなった。トイレの場所も家の間取りも覚え、それからは場所は変えていない。

視野の幅は狭く、いちいち顔を向け、確認をする。キャラコとの視点はなかなか合わないし、キャラコもどこ?どこ?と見回す。それもあり、キャラコはソファより高い場所にはジャンプはできなかった。

猫皿や用意したお水のお皿にもよく足が入り、そのまま食べたり、足をぶつけて水をこぼしたりした。

およそ猫らしくない…

それにキャラコは左には曲がれず、永遠と右だけ。キャラコが左に行きたいときには右回りに半分だけくるりと回る。

キャラコにしてみたら、これが普通のキャラコの世界。

以前いたキャラからしたら、猫の魅力は半分くらい…だけど、キャラコはキャラコ。

とっても可愛い、可愛いキャラコ。

No.38 14/04/16 20:32
匿名0 



「ただいま」

試験期間中の朋が帰ってきた。

「お母さん、お腹すいた!」

リビングのドアを開けた朋。
私の近くにいたキャラコはするりと朋の声のした方へ歩き出す。

朋はキャラコの近くをスッとを通り抜け、カバンと共にソファにドサッと座った。

私はキッチンで夕食の材料を冷蔵庫にしまう。冷蔵庫にあるモノをちょっと眺めて、お昼はミートスパゲティしようと思った。
ふとリビングのドアの前でキョロキョロしているキャラコを見つけた。

「朋、キャラコが探してるよ」

「あ、キャラコ、ごめん」

朋はキャラコの近くまで行き、

「キャラコ、キャラコ」

とキャラコに声をかける。
キャラコは声のする方に頭を動かし、ようやく朋を視界に捉えた。

「ニャーーーーー」

キャラコが朋を見つけた!と鳴く。朋がしゃがみ込んでキャラコの頭を撫でた。
キャラコはペタンと座って、撫でられて嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

キャラコはウチに来た幸せのしずく。
ハンデを負い目に感じずに長いシッポを優雅に揺らしながら、キャラコの普通の毎日と朋と私たち夫婦に幸せのdrops。







【drops】 完

No.39 14/04/18 21:45
匿名0 



【すごい空の見つけ方】


或る5月も終わりの土曜日。
くすんだ、でも晴れた空にそれはかかった。

それは不思議な感じ…太陽の周りに大きな輪。
虹色に輝いた日輪。

それから、気付いたかな?

またその日輪がもう一つ、できていたことを…すごい、すごいね!
あなたも見たかな?見上げたかな?

私、メールした。
あなたから返信、来たっけ?

忘れちゃった。

前はあんなにあなたからのメールを待っていたのに、、、ずっと待ってた。

だけど返信来ないから、私ね、あなたにメールしたことすらなかったことにしてた。

メールしてすぐに送信履歴もテキストも消してた。

だってすごく辛かった、、、。

ねぇ、あなたはいつ私のメールを見てたの?私がメールして、何週間後?何ヶ月後?

見てなかったんだよね、私のメール。
だから、私、ずっと苦しかった。

No.40 14/04/19 08:44
匿名0 



「このメアドは使ってないから、頻繁に見ないし、返信は遅くなる」

コレってやっぱり、、、社交辞令というか遠回しに“メールのやり取りはしない”って言われているんだよね。

私、信じちゃってた。
メアドも教えてもらえて嬉しかったし、2回目だったし、もうここからいなくな
るっていうときだったから。

そんな別れのときに社交辞令使われるなんて………違う、わざわざ使ってないメアドを教えて遠ざけるような姑息な手ではなく「教えられない」と言えるあなただから…メールしてもいいし、返信もあると。

恋は盲目、
あなたを信じた私がバカだったんだね。

No.41 14/04/19 10:06
匿名0 




次の年、また偶然にも虹が出た。

よく晴れた5月の空、雨の気配もない青空に小さな虹がかかった。

私、あなたにメールした?
しなかったよね、返信なかったから。

頻繁には見ないメアド、来ない返信…
ううん、来るの、一応。
数週間から数ヶ月経ってから、、、。

これでもやり取りは成立してるのかな?
私のメールはOKなのかな?
頻繁には見ないって、見たくない返信する気はないってことなのかな?

だけど、ごくたまに来る返信は長文で最近あった出来事やhappyだった事が来る…何なのかな?

私の図々しさはそれほど太くないから、すぐに折れた。

近況報告だよ…ね?
あなたとメールができるのは嬉しいけど、何かな?何なのかな?

私はネットで似たような相手とメールのやり取りをしているトピをのぞいた。

恋しちゃった!どうしよう⁉から始まって、メアドの交換やメールのやり取りなど私とは全然違う、嬉し恥ずかしのレスがたくさん。。。

私は…?
メールして数時間や数日で返信なんて来ない。

来ないよ?
筆不精とかメールが苦手?
ねぇ、私は普通にメールのやり取りがしてみたいよ…望んじゃいけないのかな。

No.42 14/04/19 10:30
匿名0 


それからね、月蝕があった。

ディズニーランドにいて長蛇の列のアトラクションに並んでいるときにあなたからメールが来た。

先月にメールして、数週間。
あなたからは返信来ないと思っていないと、辛いからね。

分かる?
いつ来るかって携帯を気にして、受信があったときにあなたじゃない脱力感、失望感、落胆。

もう待ちたくないんだよね、あなたのメール。

だけど今日は素直に嬉しい。
華やかなネオンとライトアップ。テクニカルパレードが始まる頃に大きな満月がビックサンダーマウンテンにかかるの。

それはそれはキレイだった。

日が傾き始めた夕刻だって、オレンジ色の空を背景に輝き出すシンデレラ城はまるで異国の地。

大人でさえ身を乗り出さんばかりに興奮してしまう、まさに魔法の国…。

そんな日に偶然、「今日は月蝕です」と教えてくれたあなた。
地球が太陽と月の間に入り、地球の影が月にかかることによって月が欠けて見える日。

何でか、こういうときばかりにあなたを思い出す。恋しくなる。
隣で空を見上げたくなる…。

No.43 14/04/19 10:41
匿名0 


5月21日は分かる?
金環日食‼

朝から外に出て日食グラスで太陽を見上げたよ。

「日食」は月が太陽の前を横切るために、月によって太陽の一部(または全部)が隠される現象で、太陽が月によって全部隠されるときには「皆既日食(または皆既食)」。

また、太陽のほうが月より大きく見えるために月のまわりから太陽がはみ出して見えるときには「金環日食(または金環食)」と呼ばれる…。

あは、私、調べちゃったし、たくさんトピックスでも取り上げられたね。

おなじみのトピでは金環日食のときに相手にメールして、すぐに返信があったって羨ましい人もいた。

私もメールしたかったなぁ。

No.44 14/04/19 11:15
匿名0 



私ね、あなたと普通に話がしたかった。

何でもない話。
「おはよう」だけでも良かった。
特別なことじゃなくていいの、何気ないちょっとしたこと。

あなたの隣で、私の話であなたが笑って
うなずいてくれたり、相づちをうってくれたり、、、あなたと話すのが好きだった。

なんか、もう遠い記憶…
細かいことはもう覚えてない
思い出も薄れてきたよ

あなたとの記憶って何かな?
何にもなかったんだけど、だから何もないんだけど、そんなだからよけいに思い出が欲しかったのかもしれない。

あなたと私の思い出。

恋してね、
好きだったから忘れられない。

好きだったなぁ、ホントに。
伝えたことはないけど、好きだったよ。

No.45 14/04/19 16:10
匿名0 



メールをあなたに送らなくなってから2年。

二重の架け橋の虹を何回も見た
夕焼け空の写メも撮った
ツバメが今年も来て、雛を育ててる
仕事先近くの道すがら、猫が落ちてる…
小手毬の花が満開、キレイ
川沿いの桜並木、たくさんの人を魅了してた
風が騒いで、ひと雨来そう、、、
カルガモの親子が公園の池に遊びに来てた
あそこのパン屋さん、メロンぱん最高!
夏の花火、ここから見えるんだよ
満天の星空、あなたは見た?

ねぇ、いっぱい話したいよ…
それから、あなたも話して。

一緒に笑って、あなたの近くにいたい。
あなたを見ていたい。

No.46 14/04/19 16:42
匿名0 



朝の通勤電車が仕事先の駅に緩やかに滑り込む。

いつものように人が降り、今日の私はちょっとご機嫌にホームに降りた。

私の前をリュックを背負った小学生くらいのコがお母さんと連れ立って歩く。
いつもの朝の風景にはいない親子。

私はその後ろから歌を小さく小さく口ずさみ、階段を上がる。

交通Cardを改札に通し、改札口前でさっきの親子が集まっていたグループに合流しているのが見えた。

何気に見てしまう…と同時に胸がきゅんとなった。

ふわっと涙が落ちそうになる。
切ない切ない切ない……
私はまだ立ち直っていなかったの?
もう大丈夫だと思ってたのに。

私は歩みを止めず、バスロータリーまで急いだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫と何回も心に唱える。

No.47 14/04/19 17:01
匿名0 



あなたがいた。
そして一瞬で目を伏せたのが分かった。

あなたの遅い返信メールと3年向き合い、メールをやめて2年。自然消滅……。
けど、私はずっとあなたに話しかけてた。

でも、これだけの時間が過ぎれば、もう、知らない者同士なんだね。

さっきの伏せた目ですべて分かった。

好きだった、ホントに。
好きになったから忘れられない。

バスロータリーに広がる朝の風景と今日は秋晴れ、心地良い風が甘い梨の香りを誘う。私は空を見上げる。

雲ひとつない空にひとすじの飛行機雲。

涙がこぼれ落ち、私はぎゅっと目を閉じた。この想いはあなたとのメールに似てる。届かない返らない、見上げていた空に消えていく。

同情でも社交辞令でも、あなたのメールが私に届いていたら、幸せだったろうに。

幸せだったろうに、、、。








【すごい空の見つけ方】 完

No.48 14/04/21 17:52
匿名0 



【イツカ…】


うわ〜ッ!
送っちゃってる‼
何で?何で?何で?

どうしよーーーΣ(・□・;)

完全にひとりでパニクり、キッチンの中で右往左往…

イヤイヤイヤ、落ち着こう、どうどう…
って私、馬じゃなーいヽ( ̄д ̄;)ノ=3=3

何、私、送っちゃってんの⁉⁉⁉

送らないって決めたのに、まだ1週間も経ってないよ。。。

どうしよ、でも、大したことないかな。

パパが仕事帰りにケーキを買うよってメールくれて、娘のは苺ショートって決まってるんだけど、ヒロは?って聞かれて…モンブランがいいなって。

清水先生にメールしてる‼‼‼
((((;゚Д゚)))))))

No.49 14/04/26 20:09
匿名0 



数週間前から耳がおかしかった。

左耳に閉塞感があり、キーンと鳴ってる。
あまり聞こえない。
誰かの話も自然と右耳で聞こうと横を向いてしまう。

朝に起きたときはぐわんぐわん、娘と話すときにも頭に自分の声が反響して、話す声が大きいのかと思って、だんだんと声が小さくなっていった。

娘やパパ、パート先でも会話が聞こえづらい。ボソボソや小さな声はホントに聞こえない。。。日常生活に支障があるのに病院には行っていない。

毎日、通って治療しなくてはならないから面倒でステロイド入りの軟膏をぬって、応急処置程度…。

そうしてしばらくすれば、ストレスがなくなれば良くなるのを私は知っていた。

それくらい何回も繰り返している。

今のストレス、仕事とたぶん、、、清水先生のことだろうと思う。

No.50 14/04/26 20:25
匿名0 



私自身、今の状態は分かっている。

私は恋に恋してる状態、恋にしちゃいけない、自分の気持ちに気付いちゃいけないと抑えている。

娘はもう卒業しているが、小学校時代の担任だった清水先生に相談にのってもらうスタイルがここ数年、続いていた。メールで先生の時間のあるときを聞いて、母校を訪ねて娘の話を聞いてもらう。

母校の管理職も娘の大変さは分かっていたから、中学校に入って良き先生、良きクラスメイトに恵まれたことには嬉しく思ってくれ、ただためて爆発する爆弾には私はずっと手を焼いていた。

保健室登校だった娘が選んだ道は清水先生と相談しあい、決めた道。

清水先生は娘の行く末を今も見守ってくれていた。

私は長い年月の間に、静かに静かに惹かれてしまったようで、、、でも、認めたくはなかった。

No.51 14/04/27 10:43
匿名0 



娘が卒業した年は私も初めての中学校生活に戸惑い、どちらかというと清水先生頼りで、勉強の仕方や試験前学習、またパニックの対応策など愚痴やため息が混じりながらも話していた。

娘も一緒で先生のクラスや相談室で話をしていて、それが普通になってきた頃には中学校生活1年目は終わりになった。

それが2年目になると様子が変わる。

年に数回でも、娘と保護者の私が分かる先生たちが少なくなり、清水先生の紹介で赴任してきた先生たちにあいさつすることも増えた。

「中学生になっても、こうして訪ねてきてくれて嬉しい」

そういってくれる先生もいたけれど、やはり、こうして訪ね、相談していることは違うんだと私自身、感じるようになってきた。

先生、忙しいよね、、、たまにと言っても時間を取ってることには変わりないし、連絡しても出張だから、会議だからと返信が来ることもあった。

先生はイヤな顔はしないけど、もう卒業もしてる、迷惑だろう負担だろうと私が離れなきゃ…だよね

No.52 14/04/27 11:02
匿名0 



メールでは相談の日時の確認だけで、プライベートなことは送ったこともなく、返信も大丈夫ですくらいだった。

娘の相談も会ってからしていた。

家でも娘が普通に清水先生のことや相談で母校に行っていることは話していたから、パパもそのことは知っていた。

「八生(やよい)は清水先生が好きだね」

「うん、テストの点数の目標を決めたんだ。数学、苦手なんだもん」

「先生も忙しいから、お世話になり過ぎるなよ、八生も中学生なんだから」

「うん、分かってるよ。清水先生ね、佐倉先生と知り合いなんだよ」

2人の噛み合わない会話を聞きながら、私は苦笑する。

だけど、パパの言う通りで、きっと私が頼り過ぎ、、、娘の八生よりも。

No.53 14/04/27 11:10
匿名0 



仲良しの友だちができた八生は、1年生の頃に比べたらすごく落ち着いた。

登下校もクラスも部活動も一緒の友だち。

小学校時代に娘が欲しくて欲しくてたまらなかった【友だち】。

清水先生に話すととても喜んでくれた。

「八生さんも明るい顔が増えて、オレも嬉しい」

だから、私が先生に日時確認メールをすることは自然と減っていった。

No.54 14/04/27 11:38
匿名0 



そんなある日、私がパート先でうっかりミスをした。

新人さんでもなければ、やらないような失敗!

周りにも後処理を手伝ってもらい、残業にもなった。泣きそうになる。

帰り道、頭の中がぐるぐるし、真っ白状態。パニックはだんだん収まって来ても今度はひどい落ち込み…。涙がうるり。

私は清水先生にメールをした。

“今日、お忙しいですか?”

退勤時間を過ぎていて、スマホがさわれる状態なら先生からは返信が来る。もちろん、出張や会議、仕事の忙しさに私のメールは多々、後回しになる。が、その日はすぐに返信があった。

“大丈夫ですよ、何時に来れますか?”

私は家事をバタバタと済ませ、娘に声をかけ、家を出た。

学校に到着したのが18時くらい…先生に“着きました”とメール。

もう鍵のかかった昇降口を開けてる先生の姿を見つける。私が以前、もう卒業生なのに学校内で相談はしづらいと言ったことを分かってくれて、少し前から昇降口で立ち話に変わっていた。

先生の姿にホッとして、それから、あれ?と思った。

私、何してるの?

急に現実に戻った。

No.55 14/04/27 12:00
匿名0 



「あれ、今日はひとり?八生さんは?」

いつもの優しい笑顔で迎えてくれた先生の言葉に、私は急に恥ずかしさを覚えた。

「今日はひとり、なんですけど…ごめんなさい、八生の相談じゃなくて」

ん?と先生の顔。
うわーッ‼スゴイ、恥ずかしい、めちゃくちゃ、、、私、顔が火照る。

「ごめんなさい、仕事でミスして落ち込んでて、、、先生にメールしてしまいました(>_<)」

「え?あ、あーそうなんだ…八生さんに何かあったんじゃないんですね」

先生は良かったとひとり言のように呟き、そしてちょっとの間、私は下を向いたままだった。

娘のことじゃないんだよね、相談じゃないんだから帰らないと(・_・;

「あの、すみませんでした。先生、忙しいのに、帰ります!ごめんなさい」

私、何で先生のところに来ちゃったんだろ?

「いえ、いいんですよ。……あーじゃ、コーヒー飲みに行きますか?寒いし」

「え?」

11月も半ば、朝に晩に肌寒さを増して来て、頬にあたる風も冷たく、しばらく外にいると寒く感じる。

ああ、寒いから

私の単純な頭はそう考え、はいと返事をした。

No.56 14/04/27 13:57
匿名0 



駅前のスタバで改めて待ち合わせする。

コーヒーを飲んで帰ろうと先に店内に入り、ほうじ茶ラテを頼む。
先生の分とも思ったが、何が好きかは分からない。とりあえず、ガラス張りの前に空いてる席を見つけ、スツールに座った。

後からスーツに着替えた清水先生が来る。私を見つけ、ブレンドを購入し、もう一度、店内を見回した。それから、

「向こうの席でもいいですか?」

と奥の席に移動。

「どうせならふかふかなソファにしましょう」

お尻が沈んでしまうくらいのクッション、先生と向かい合わせになると妙な感じ。

「八生さんは元気ですか?…中間はおわったのかな?」

「来月に期末になります」

「友だちとは仲良しですか?」

「仲良しですよ、この前、、、」

先生と八生の話。あったかいラテを手で包みながら、コクンと飲む。ほうじ茶の香りとラテの甘さ、先生とゆっくり話す心地良さ。

30分もしない内に飲み終わり、じゃ行きましょうかと席を立つ頃には私も落ち込みから少し立ち直っていた。

「また何かあったら連絡してくださいね。お母さん自身のことでも(笑)」

「もう大丈夫σ(^_^;)。先生、ありがとう。元気になりました」

素直にそう口にして、店の前で別れた。

晩ごはん…と時計を見ると19時過ぎ。駅前の大手ショッピングセンターのスーパーに寄る。

簡単にお惣菜を買い、レジに並ぶ。すると八生と小学校時代に一緒だった石井さんママにばったり会った。

No.57 14/04/27 15:15
匿名0 


「お久しぶり、川野さん。元気?」

石川さんは元気がよ過ぎて、おしゃべり好きで私は少し苦手だった。

「石井さんもお元気そうで」

「今、帰り?」

「うん、せ、……人に会ってたから今の時間」

娘と同じクラスで担任だったけれど、何となく清水先生の名前は出せなかった。

「あ、そうそう!さっき、そこで清水先生に会って^_^ちょっと話しちゃった。まだ仕事だったのかな、大変だよね~」

あっけらかんと笑う石井さんに、ふと、スタバで奥の席に移動した理由が分かった…気がした。

そうだよね、ダメだよね。卒業してる子の保護者でも2人でコーヒーなんて…

先生に悪いことをしてしまった
私が変に落ち込んで暗かったから気を使ってくれたのだろう

申し訳ないと思うと同時に先生の優しさが嬉しかった。

「先生、忙しいんだろうね」

私は感情も込めず、そう返すとすかさず石井さんが、

「何、上の空なの?何かあった?」

ぐいっと身体を寄せてくる。

「何もないよ(^_^;)」

「あ、清水先生、そろそろ異動じゃない?もう6年だもの。そう言えば、担任してもらってたとき、先生、休んでたことがあったよね」

休養なんて初めて聞いた。私、ずっと相談にのってもらってたのに……。

No.58 14/04/27 15:32
匿名0 



「ホラ、あったじゃない、先生が1週間くらい休んだこと」

私は思い出そうとしたが、全然記憶にない。もしかしたら、八生が学校に行きたくないと揉めていた頃かも知れない。

「先生、憔悴してて、今もまだ入院みたいだよ。市立病院にいて、休みの日に先生に会った人がいて、聞いたんだって!でも何か奥さん、寝たきりみたいだよ。チラっと病室見たら、点滴とモニターがあったって」

石井さんのおしゃべりが何だかよけいなお節介に感じてきた。先生の噂話、プライベートなことなのに、聞いてもいないのにピーチクパーチク…。

「先生だって若いのにね、これから大変だよね。アッチだってどうしてるんだろ⁉ねぇ( ̄Д ̄)」

「知らないよッ! ごめん、もう時間なくって。またね」

ちょっと興奮した自分がいた。
私の知らない先生の姿、噂話、プライベート。

乱暴に歩き、ちょっと涙ぐみながら、私はショッピングセンターを後にした。

家に着くと気持ちがぐちゃぐちゃだった。頭も痛かった。八生に出来合い晩ごはんを出し、パパには早めに寝るとメールする。

パジャマに着替え寝る支度をして、ベットに潜り込む。スマホを握りしめて、私は苛立った気持ちがいっぱいだった。

No.59 14/04/27 16:58
匿名0 




次の日、早目に寝たからか頭はスッキリしていた。

八生とパパのお弁当を作り、朝ごはんもいつもにしては美味しそうな和膳が並んだ。

時間の余裕がある、そんな感じ。

ゴミ出しと2人を見送り、私は後片付けを済ませ、ゆっくりとコーヒーを飲む。
目覚めの一杯♪

それから昨日のことを思い出す。
先生のこと、石川さんが話していた先生の奥さんのこと。
自分がしたミスは今は小さく感じて、あと少ししたら仕事に行かなければならないのに、頭の中にはほとんど残っていなかった。

「そういえば、先生のこと何も知らないなぁ」

私はひとり言ちた。

スマホを持ち出し、今までの先生とのやり取りを見返す。

口元が緩むほど、私も先生も通り一遍の言葉しか並んでいない。

私も娘のことで一生懸命だったんだ。

『やよいさんってどうして八に生きるって字なんですか?』

先生が担任だったときに不意に聞いてきたことがあった。

八生の字は読めないし、どんな意味があるの?とよく聞かれるから、私も慣れたもので、

『七転び八起きからです。主人が好きな言葉で、失敗してもくじけてもまた立ち上がるというか、何度でも頑張るというか…もう一度、生きるですね』

『もう一度…生きる……。いい名前ですね。八生さん』

ふっと遠い目をした。
あの頃だったのだろうか?奥さんの入院、寝たきりなんて、こんな長い長い時間。。。私にできることって何かあるのかな。

そう思うと、私は今までしたことがないメールを先生に送った。

No.60 14/05/04 09:08
匿名0 



初めて日時連絡以外のメールを送ったときは私のひとり言みたいな感じだったから、
先生から返信が来るとは思ってなかった。

その日の夜に短いながらも返信が来て、ちょっとびっくりしたものの、私はほんのり胸が暖かくなった。

それから朝にちょっとしたメールを送るようになると、夜だった返信が朝に返ってくるようになった。

単純に嬉しかった。

朝の忙しい中、隙間時間に先生からメールが来る。
私が送るから来るメールでも、、、嬉しかった。

No.61 14/05/04 10:23
匿名0 



前日にあったクスッと笑ってしまうようなこと、嬉しかったこと、楽しかったこと、何でもないちょっとしたことを送る。

何気ないことでも毎日続くと、それが楽しみになってくる。

1日1通のお互いのやり取り、それが私の中で大事になっていった。
(さすがに休日はしなかったけれども、休み明けは少し長めのメールになった)

3週間、4週間と時間が経つにつれ、ふと疑問が浮かぶ。

私、いいのかな…こんなメールしてて

先生からは迷惑とかやめて欲しいような返信では来ない。だからと言って、楽しみにしているような感じでもなく、メールが来てるから返信するといったような義理やビジネスメールみたい。

私もやめた方がいいと分かっていながら、朝のメールは送っていた。

毎日のメールってやっぱり、おかしいよね……だけど、送りたい

この頃は八生も落ち着いていて、前のような相談したいので学校を訪ねることはなくなり、今まで定番だった日時メールは姿を消していた。

それまで先生が出張だから会議だからと都合が合わないときに返ってくるメールはなく、決まった時間のメールのやり取りに私はだんだん安心感を得ていた。

だからよけいに、こんなことはいけないと思いながらやめられなかった。

No.62 14/05/06 13:21
匿名0 



だから、つい、私は親しくなったような気でいた。

メールで娘のこととは関係なく、ラフな内容でやり取り。私は少しずつ、先生のこと、好きだなぁと思うようになっていく。

特別感、優越感、親近感、それらも混ざっていたと思う。

先生への好意を自分で自覚すると、私の中で、とてつもない罪悪感が生まれた。

好意なだけ
ファンみたいなもの
想うだけなら…

言い訳のような言葉を並べ、ごまかしながら気持ちを抑えながら、私は先生に思慕する。

バカだなぁ…

いつも先生への想いを考えあぐね、私がたどり着くのはそれだった。

「私はバカだ」

口にしても同じ。叶う想いでも届く想いでもなく、それより、そんなことを思う私がバカなのだ。

こうなるとメールは哀しく切ないものでしかなくなった。

No.63 14/05/06 13:48
匿名0 



私から送らなければ、先生からは来ない。

それが先生の常識なのに、メールはやめられなかった。

それでも2学期が終わり、3学期に入るとやめなければ…の思いが強くなってくる。

石井さんの言葉が現実になるだろうと思うからだ。

『先生、異動だろうね』

私もそう思う。八生が卒業して2年経っていても見守ってくれている先生に、どんな形であれ、甘えすぎてる私。

先生が学校にいないのに、いつまでもメールだってできないだろう…

私は何となく、姿を見たり約束で会えることがなくなったら、メールはなしだと思っていた。なぜかは分からないけれど、普通に会うことができるからメールしていいと。…何でだろう?

私はそんな思いから、徐々にメールを送る間隔をあけていく。

“私が送らなければ、先生からは来ない”

その現実に向き合い、私は自分を傷つけ、この気持ちに終わりをつけようとしていた。

けれど、想像以上に、、、これは苦しく、そしてたくさん傷ついた。

No.64 14/05/06 15:44
匿名0 


娘のことで相談していた私、しかも八生に目が向いていた頃の支えの先生ではなく、八生のことが落ち着いた今になって先生に好意を持って、たくさん傷ついたと嘆くなんて、、、おこがましい。

自分を悲劇のヒロインにするつもりはないけれど、片思いなくせに泣いたり苦しかったり切なかったりと自分は何て可哀想なのだろうと浸っていたところはある。

本当、自分はバカ者…嬉しさや幸せをもらえることはなく、報われることも好意を見せることもできない恋なんて。

私はどんどん自分を追いつめ、先生に1ヶ月“メールしない”を達成した。

1日ずつ、メールを我慢をする。それが3日になり、1週間になると“ヨシ‼”に変わる。また1日ずつ、我慢。その繰り返し。

我慢をずっとして、送りたい日はわざと忙しくして気持ちを逃がし、送らなかった日には頑張ったじゃない^_^と自分をほめた。

そうして“私が送らなければ、先生からは来ない”が普通になったある日、スマホのメール受信が鳴る。

先生からメールが来てもいいのになとごくたまに思ったけれど、先生には用件なんてないんだと何度も私は自分を納得させていた。

とにかく私の我慢!
先生とのメールのやり取りやこの数年間の関わりを終わりにするには私の辛抱だけ。先生は私の気持ちなんて知らないのだから。

そんな2月も終わりに近付いた日、ピコン♪と先生からメールが届いたのだった。

No.65 14/05/17 11:17
匿名0 



“お元気ですか?
また何かありましたら連絡下さい”

先生からのメールに私はキョトンした。
それからすぐにかーッと身体が熱くなる。

先生から?Σ(・□・;)
イヤイヤ、大したことない、ない…

私は冷静になれ!とばかりにシンクに手をつき、目をつぶる、、、深呼吸。

ちょっとしてから、返信しよう

私はそう思うと手早く、晩ご飯の支度を進めるが裏返しにしたスマホの先生からのメールを気になり、鍋のふちで軽いヤケドをしたりした。

めっちゃ動揺して、挙動不審‼
たった1通のメールに私はワタワタして、そして、嬉しかった。

No.66 14/05/17 11:52
匿名0 



晩ご飯の後片付けも済み、パパのご飯はラップをする。

今日も遅いのかな?と時計を見る。八生はリビングでテレビを見ていた。

先生に返信しようか…

いくつかテキストを書いてみて、いちばん無難そうなメールを送った。先生にメールなんて久しぶりだった。

少しするとまた先生から来て、めずらしくやり取りがあって、私は高揚した。いつもならセーブするのに私はつい、会えるときはありますか?と送ってしまう。

先生からの返信、、、

“今週、水曜日なら。5時くらいに、着いたら連絡下さい”

結局、私は先生に会いたいのだ。
今まで我慢していた分、その日が楽しみだった。

No.67 14/05/17 13:09
匿名0 



水曜日、仕事から戻ると晩ご飯の支度を先にした。

洗濯物や朝、早かった分の家事を済ませ、私は無難なセーターから少し可愛らしいプルオーバーのシャツに着替え、クリーム色のカーディガンを羽織った。下はスキムジーンズ。

コートを手に八生には書き置きをし、家を出た。

6時には戻るから

そう心で呟き、私は久しぶりに先生の顔を見たくて、少しだけ声が聞きたくて、約束した5時に間に合うように家を出た。

日が傾き、もうすぐ暗闇がやって来る。そんな夕暮れ空を背にした校舎が見え、私はスマホを取り出した。手ぶくろを外した指先にその冷たさが伝わる。

「寒いなぁ」

3月になろうかというのにまだまだ冬将軍が居座っているようだ。

“着きました”

校舎にたどり着く前に以前と同じようにメールする。時刻は17:16だった。

No.68 14/05/17 13:45
匿名0 



差し入れを選んでいた分、遅くなってしまったようだ。私ははやる気持ちを抑え、いつも先生がいてくれる昇降口に急いだ。

が、今日はいなかった。まだ鍵も空いていたので、ひょっこりと校舎内に入る。いつもより暗い。事務室にも人はなく、電気は消えていた。

そのせいかな?と職員室に向かう。先生を待っていても良かったけれど、外で待つには少し寒過ぎた。

ノックをして扉を開ける…電気はついたまま、そこには誰もいなかった。

…誰もいない…

コートのポケットからスマホを取り出し、時刻とメールを確かめた。

17:23
メール受信なし

扉を静かに閉め、私はもと来た廊下を歩く。靴を履き、ふと事務室横に出された案内ボードを見つけた。

【広瀬大学宮下教授 ようこそおいで下さいました。3階の応接室までお越し下さい】

私はそれだけで先生たちの研究会だと分かった。校舎外から上を見上げると、確かにひとつの専科室に明かりがついている。

研究会、、、

私は自分で待ち合わせ時間や日にちを間違えたのかと思って、またスマホを取り出し、確認をした。

先生からのメールは今日の17時になっている。

先生が忘れてた?それにしてもこの数日で今日が研究会だって気付くだろう。朝にだって分かるはず…あとは私との面会を先生が忘れたかだ。

何にせよ、私は帰るしかない。校門を出て、もう一度、校舎を振り返る。明かりのこうこうとした専科室は、暗がりの中、とてもきれいに光っていた。来たときよりもいっそう、寒さと暗さの増した夜の道を私は歩き出した。

No.69 14/05/17 14:11
匿名0 



18時近く、メール受信の音がした。それはもうすぐ家に着くときで、先生からだと思った。

コートのポケットの中で、何回も鳴る。

私は自分の今の感情が何なのか分からなくて、困っていた。泣きたいのか悔しいのか怒りたいのか寂しいのか、、、ただショックだったのは分かった。

けれどもそれをどんな風に表現をすればいいのか分からなかった。

メールから電話の呼び出し音に変わる。

私はそれにも出れなかった。呼び出し音が切れては鳴るが繰り返され、それがだんだん私の心に響いてくる。少しずつ少しずつ、訳の分からなかった感情があふれてきた。

私は手探りでスマホの電源を切った…と同時に涙がこぼれ落ちた。あの振り返って校舎の明かりを見つめてから、私は涙を我慢してたのか……私の感情はようやく答えが見つかり、あふれ出たようだ。

家まであと少し、家路を急ぐ人の中、私は泣きながら歩いた。

No.70 14/05/17 15:05
匿名0 



夜の帳が下りた街のあちらこちらについた明かりは、何と安心感を与えてくれるのだろう。私のぼぅとした頭にそれは静かに染み込んで来た。

家の前で涙を拭いて、気持ちを整え、私はドアを開けた。

「おかえり、先にご飯を食べたよ」

八生の声だけが玄関に届いた。ん、と返事をするとリビングには顔を出さずに洗面所に向かう。コートを脱いで、腕をまくり、手と顔を洗った。

少しは大丈夫かな…

カーディガンもプルオーバーのシャツも脱ぎ、ざっくりとしたセーターに着替える。

リビングに行くと部屋が暖かかった。

ああそうだ
寒かったからココアでも飲もう

八生に飲む?と聞くとキッチンにいる私には振り返らず、うんと返事をしてくる。シンクにはお皿や茶碗が水に浸してあった。

「パパは?」

「早めに帰ってくるみたいだよ」

八生に返事をして、マグにお湯を注いだ。

暖かなココアをひと口飲んで、椅子に座った。八生にも差し出すと、ありがとと言ってマグを受け取る。

私は八生の見ているTV番組をただ見てい
た。ときどき八生が笑うその声でふっと現実に戻るような、そんな現(うつつ)の中にいた。心在らずだった。

No.71 14/05/17 15:36
匿名0 



その週の私は落ちたまま、ただ時間は過ぎた。

翌日に電源を入れたスマホには数件のメールと電話の受信が残っていた。私はそれを開かずにそのままにした。

次に何かのメールが来たら、開くことにして放っておく。今の気持ちからはどうしても開けなかった。

先生が悪いんじゃない。
あの日、会えなかったのは、どうしてかは分からない。けど、どうしようもなく哀しかった。この哀しみが癒えるまで、新たなメールは来ないで欲しかった。(パパとはLINEでやり取りをしていたから、メールは開くことはなかったのだ)

翌週、週1で来るメルマガのタイミングで、私はとうとうメールを開いた。

見ても大丈夫! と妙な意気込みを持って、私はようやくメールを開く。

……先生からのメールは、今、どこにいるのかと謝りの内容で、あの日、思っていたより研究会が長引いたようだった。
携帯電話等は持ち込み出来ず、私が来たことも分からず、時間が押しても私に連絡が取れなかったらしい。

終わってすぐにスマホを見たときには約束の時間からすでに1時間が経っていたようだ。

謝りと電話かメールして、と。

ほら、やっぱり先生を責められないと思った。仕事優先だもの、それが当たり前….。

だけど、モヤモヤする。
あのときの涙は乾いたけれど、私が抱えたこの塊はいったい、、、どうしたらなくなる?…未だ胸に残るよ…

No.72 14/05/17 16:16
匿名0 



“お疲れさまです。連絡が遅くなりました。仕事ですから仕方ありません。忙しくないときにまたお願いします”

メールを確認した日、私はそう返した。すでに1週間は過ぎ、時刻も18時半は過ぎていた。
先生は前回のことはもう気にないと思っていた。いつも忙しく、八生と行く面会のときも出張やら会議やらでダメなときがあったのだから、それと同じだろうと思っていた。

だから、すぐに返信があったときにはびっくりした。

“今日、大丈夫です。前のスタバで19時半は過ぎますがどうですか?”

私はそれをとても冷静に読んで、そしてすぐには返さなかった。
パパは基本的に21時半は過ぎる。だから行けなくはない時間…会いたい気持ちは確かにある。けど、、、19時半。八生を家に置いて…会う?

どうする?
どうするかって?
私は非難されるバカ女だ。そしてズルい。

LINEでパパの帰りが何時になりそうか聞いた、というより確かめる。今日は22時になりそうなのが分かった。

八生にも聞いた。ママ、1時間くらい家を空けるね…どこに行くの?と聞かれた。

「先生に本を借りてくるよ」

そんなとっさの言い訳をした。
時計はもうすぐ、19時。

“行きます。長くはいられないけど”

“待ってます”

先生からのメールに私は変に勇気づけられた。

No.73 14/05/18 09:38
匿名0 



駅前は人であふれていた。
今から帰宅する人、仕事帰りの人、待ち合わせの人、塾帰りの子ども…そんな中、私は少し緊張した面持ちで歩く。冷たい空気が夜の闇に溶けていた。

こんな夜の時間に外にいて、人と会う…それが後ろめたい。

気が弱いのか何かのか、分からないけど、嘘をついてまで会うなんて私には出来ない(今ですら、苦しい!)と思った。

この場の勢いに任せ、ただ好きな人に会うという感情に任せ、、、私はスタバに着くと今日はカフェオレを頼み、前回と同じように、通りから離れた席に座った。

先生、またスーツかな?

ちょっとだけドキドキしてきた。

何を話そう?
話すことって何かあるかな?

テーブルに置いたスマホがメール着信を知らせる。頼んだカフェオレはまだ口にしてない。

“すみません、行けなくなりました。保護者から電話があり、管理職と対応してます。こちらから声をかけたのに申し訳ありません。また連絡します”

メールを読んで、、、、、

え?

私の最初の感情はそれだった。

No.74 14/05/18 09:46
匿名0 



私はすぐに物分りのいい大人にならねば!と思った。

返信しなきゃ…“はい”かな? “分かりました”かな?
だけど…だけど何か…おかしいよ

心は動揺はしてる。混乱、困惑もしてる。だけど、それを先生に知られたくなかった。

普通なら、こんな時間に外に出ないし会わないのに、家族をあざむいて、あなたに会おうとしていた私を“待っています”とここで会うハズだった…先生。

だけど、その先生にすら、今、私は思いやるように返信しようとしてる。私の気持ちを知られたくないと隠して、とりあえず返信することが思いやり?私は大丈夫だから、心配しないでと?

“分かりました”

そう返信し、この数十分の自分の行動を思う。

私、何してるんだろう?
何でここにいて、先生を待っていたのかな?
おかしいよね?変だよ。

まだひと口も飲んでなかったカフェオレを口に運ぶ。味はなかった。ただ温かなウォーター、全然、美味しくなかった。

No.75 14/05/18 10:12
匿名0 


それからずっと毎日、悶々としていた。

“…また連絡します”

と先生は言っていたのに、あれからメールが来ることはなかった。

アレって実は嘘だったのかな?
自分から言ったけど、実際、会うとなったら私みたいに後ろめたくなったのかもしれない。

だから、あんなことを…もし本当だとしても、あれから連絡は入らない。それは私のことはどうでもいいってことだよね?

しかも2回、連続…ドタキャン。

だけど、ふと思う。

先生と私は好き合ってるわけでも付き合ってるわけでもないと。

ただの先生と元保護者の関係…それでも夜に会うなど行き過ぎには違いない。

私が好きだっただけ

こんな悶々とした毎日を続けるのはもう終わりにしたい。もうイヤだ。

季節は春三月…。出会いと別れの季節。
先生とはもう、離れていい。八生だってとっくに卒業しているのだから。

私は意を決して、先生にメールをした。
卒業式も終業式も終わり、春休み。先生は異動なのかは分からないけれど、そう思って今までのお礼も兼ねて、最後に。

…会おう。

今の苦しさから逃れるために、当たり前な別れの終わりを選ぶ。ただ私が好きだったから、、、もし、この感情がなければ意を決した別れの終わりなどいらないのだろう。

やっぱり、私はバカなんだと思うと、この数ヶ月の先生とのことは仕方のないことだったんだと、、、自分を慰めた。


No.76 14/05/18 15:57
匿名0 



私の左耳の聴こえが悪くなったのはこの頃…いかにストレスをため込んだことか。

聴こえないその耳は私自身の戦いのようでもあった。

“25、26、27日は通常勤務です。28日は半日、31日は1日おります。川野さんの都合のよい日にどうぞ。お待ちしてます”

憎々しい返信メールにも感じる。この前のことはなかったことなのだろうか?
所詮、私はこの程度ということなのだろう。何とも思われていない…だったら、何であんな時間に誘うのか、、、、、。

【会いたい】と思ってくれたからと思いたいものの、こうも冷たいあっさりとした返信だと、今また会いに行こうとしている私が痛々しく感じる。

好きになった…惚れた方の負け、なんだ

妙な気分だ。とにかく、私は先生にとって特別ではない。知人や友人でもない。
それは分かった。

“私も忙しいので、どの日に行けるかは当日でないと分かりません。そのときに連絡します”

私にしては意地悪く言ったメール。
あなたのことなんて何も気にしてませーんという雰囲気を醸し出したい!
分かる?この気持ち…(。-_-。)結局はそう思う時点でダメ何だろうけど。

私は先生に言われた日ばかりに八生と出かけ、先生の退勤時間頃には家にいないようにした。

それで会えないまま、4月になればいいと…返信には4月の予定はなかったから、やっぱり異動なんだとそれだけは確信に変わった。

No.77 14/05/18 16:17
匿名0 


八生と買い物や本屋さん巡り、ケーキバイキングに行ったりと、ゆっくりと暖かくなる春の陽気に誘われて出かけていると私も穏やかな気持ちになる。

先生との約束はまるでなかったかのように。

「ママ、私、新学期には3年生だし、新しいノートが欲しい。ペンも欲しいな」

「じゃ、駅前のショッピングモールに入ってる本屋さんはどう?あそこに文房具屋さんもあったから」

仕事から戻り、八生とお昼ご飯を食べているときに話はまとまった。ちなみに八生は文化部で春休みということもあり、部活動はなく、ほとんど家にいる。

「あそこに可愛い雑貨屋さんもあるの、のぞいていい?」

小学校時代に比べ、明るく元気になった八生が笑顔で言ってくる。それでも友だち出かけることはあまりなく、それが心配でもあった。

No.78 14/05/18 16:36
匿名0 



八生と出かけた駅前のショッピングセンター、私は失敗したと思った。

先生と待ち合わせたあのスタバがあるのを忘れていたのだ。

大手ショッピングセンターの正面入り口の真ん前にスタバがあるから、否が応でもでも目に入る。八生と歩きながら話しながらいても、あそこだけは意識してしまった。

私、あの店にはもう入れないな……

なるべく先生を思い起こさないようにしていたのに、それをきっかけに次々に思い出してしまった。

八生がノートとペンを買い、雑貨屋さんに入ったときに、すぐに目についたのがマグカップだった。

先生に…なんて思ったら、もうダメだった。ずっとずっと抑え込んでいた想いがあふれ出す。

先生に渡しに行こうか…

それでも時間を作って会いに行くのはイヤだった。だから、賭けみたいなことをした。

もし、八生と普通に時間を過ごし、家に戻ったときに17時くらいだったら、、、、、先生に会いに行くと連絡しよう

No.79 14/05/18 20:27
匿名0 



普通に晩ご飯の買い物もしても17時前に家に着いた。ここのところ、ずっと出歩いていたから八生ももういいらしい。。。

買ったものを冷蔵庫にしまうと、スキマ時間ができてしまった。先生にメール?

あ、洗濯物…。パタパタ…。しまう。おしまい。晩ご飯は今日は簡単に済ませるつもり。時計を見上げる。

17:25

ダメだ、諦めよう、気になって仕方ない

“今から行きます。何時まで大丈夫ですか?”

少しして返信来た。

“18時半くらいです”

私は八生にちょっと出てくると声をかけて、先生のいる学校に向かった。バックの中にさっき買ったマグを入れ、これで最後と気持ちを決める。

1ヶ月前に先生を訪ねたときよりも、寒さは和らいでいた。

No.80 14/05/18 21:47
匿名0 



今までと同じように昇降口にいる先生を見つけた。
ペコンと会釈をする。何の話をしようとか考えてなかった私は唐突に、

「今日は相談じゃなくて、、、」

バックからマグの入った小さな紙袋を取り出す。

「相談は違う先生にします」

半ば強引に紙袋を先生に渡した。

「異動だと思って、マグカップ。今までありがとうございました」

とりあえず言わなきゃいけないことは言えた。緊張する。顔が笑わない。

先生は昇降口の数段の階段にぺたりと座る。それから、私を見上げて来た。何だか怒っているような感じ、、、。

「異動?」

先生が何、言ってるの?と鼻で笑うように言葉が軽い。

「そうだと思って。お礼と感謝の気持ちです」

「異動か分からないよ」

今度はすごくイラつくように先生は返して来た。今まで接してきた穏やかな先生じゃないみたい。私は泣きそうになる。

「…じゃ、普通のお礼で」

「言えないからさ、異動かどうかも他人に話しちゃダメだから」

他人、、、私は言葉が出ない。私は顔を俯かせた。やっぱり、私なんて何とも思われていない。

先生はしゃべらない。まるで私との壁を強硬にするべく、黙っているようだ。いつもの先生らしくない…私は自分だけが今までを大切にしていたことに気付いて、とても傷ついた。

No.81 14/05/20 08:26
匿名0 



しばらくの沈黙の後、先生がお尻についた砂を払いながら、

「ま、新聞を買ってくださいよ」

と言ってくる。何の感情もなく。

「新聞は買いません」

「じゃ、その日にメールして。教えるから」

ぶわぁーんと耳鳴り…先生の声が聴こえなかった。私はとっさに左を向いた。右耳で聞こうと、私にしてみたら普通の動き。

先生は何も言わなかった。

私はもう終わりと思い、お礼を言って帰る。いつもなら見送る先生も、今日はすぐに校舎内に入った。

最後
終わり

私の中でそれだけが繰り返される。きちんとつけた区切りなんだと私は思っていた。

そして、届いた先生からのメール……。

No.82 14/05/20 08:38
匿名0 



私が間違えて送ってしまったのだけれど。

“本日付けで異動になりました。
これからもよろしくお願いします。
モンブラン、自分も好きですよ”

先生に何が届いたのだろうか?

短いメールの中に今までのやり取り以外の思いが入ってる。そう、感じたのは私の自意識じゃないと思う。

嬉しかった。

もう会うこともメールすることもないだろうけど、ただ一度、心に届いたメッセージ。

イツカマタアエル

そう信じて、私は大騒ぎした心をやっと落ちつかせることができた。








【イツカ…】 完

No.83 14/05/25 12:55
匿名0 



【soulmate ❶】

ソウルメイト (soulmate, soul mate) は、魂 (soul) の仲間 (mate) という意味で、互いに深い精神的な繋がりを感じる大切な人物のことである。古くは恋人・夫婦など男女の仲を詩的に表現した言葉であった。スポーツ、ビジネス、アートなど分野に限らず大きな成功を掴む成功者達には必ずとも言って良い程、家族、仲間などソウルメイトの存在が見られる。

なお、近年はしばしばスピリチュアリズムな分野で語られ、「前世での知り合い」「(超自然的な)運命で結ばれた仲間」「いくつもの転生の中で何度も身近な存在(家族・友人など)として出会っているグループ」という意味も持つ。

※出典不明

No.84 15/01/01 17:30
匿名 



こんなにたくさんの人がいる中で
どうしてあなたがそこにいるんだろう?

たくさんの人がいるから?
たくさんの人がいても?

どちらでも同じかな…

あなたの驚いた顔とすぐに目を反らした姿にぼくは声さえも出ない

行き交う人の流れに逆らわず、たった一瞬見せた表情だけを残し、あなたはぼくたちとすれ違った

少し顔を俯かせ、緊張して…ぼくは歩みを止めたまま、あなたが通り過ぎるまで身体が動かなかった
動けなかった

急に立ち止まったぼくの腕にそっと手を添えてくるサチ
不思議そうにぼくを見、通り過ぎる人の流れに目をやるサチは少し首を傾げた

No.85 15/01/01 18:01
匿名 



色鮮やかなサインネオンの明かりやクリスマスカラーに彩られた街のイルミネーション、光があふれた中をぼくはサチと一緒に歩いていた

今日は約束をしていたわけでもなく、ただクリスマスも慌ただしく過ぎるだけになっているぼくにサチが書店で声をかけて来たのだ

「偶然ですね、誰かにクリスマスプレゼントですか?」

ぼくが手にしている本は全く色気がなく、プレゼント選びをしているわけでもないのは一目瞭然だったからか、サチは笑った

「下田さんこそ、これからですか?」

赤いニットのワンピースを来て、ブーツを履いたサチはいつもの仕事の様子と違い、可愛らしかった
手にはモスグリーンのコートと大きなリボンのついた黒のバック持っている

「だと、いいんですが予定もなくて」

ぼくも同じですよとサチと2人で小さく笑った

「そろそろ帰ろうかと思って」

ハードカバーの本を新書のフェアで山積みになった元の場所に戻した

「勉強熱心ですね」

置いた本のタイトルを見て、サチが言う

「前にも読んだんだけど、また続編が出てるから」

これから休みに入る前に数冊、本を読もうかとその品定めをしていたのもある
腕時計を見れば、長い時間、ここにいて少し疲れも感じた

だからサチに「東(アズマ)さん、この後は?」と聞かれて、一緒に書店を出たのだ

駅前のショッピングモールにミスドがあった
軽くコーヒー、また週1で職場に来るサチとお茶をするくらいならと思ったのだ
ぼくはあまり女性とは縁がなく、もっと気の利いた場所に入ることは考えなかった
マックじゃないだけ、まだ、マシなのかもしれないが……

そこに向かう途中の道すがら、あなたに会ったのだ

あなたが住む街とぼくやサチが住む街とは離れていて、日常、会うことはないのに

No.86 15/01/01 18:24
匿名 



カップルやファミリーで程よく混んでいるミスドで重量感のあるコーヒーカップを手にぼくはさっきのことを思い出していた

「気になります?」

サチが押し黙ったままのぼくに聞いて来た

「さっき、見かけたの神谷さんですよね?」

やはりサチも気付いたらしく、その名前を口にした
ぼくはギクとしたが何でもないようにコーヒーカップをソーサーに置いた

「2人でいるところ、見られちゃいましたね」

サチはぼくが思っていることとは全然違うことを口にした

「え?」

「私、もう少し東さんとお話ししたいです。もし良かったらこの後、食事もどうですか?」

サチが恥ずかしそうに、だけどはっきりとした口調でぼくをまっすぐに見て言ってきた

ぼくはマジマジとサチを見てしまう
なんで下田さんとご飯?とサチの好意が全く分からないぼくはいつもこうやってめぐって来るチャンスを逃しているらしい……

もしかしたら大の大人への気前のいいサンタクロースからのプレゼントだったかもしれないのに

No.87 15/01/01 18:41
匿名 



「どうして下田さんとご飯なんですか?お腹すきました?」

ぼくはホントにそう思って、サチに聞いた
サチは面を食らって、苦笑いをして

「東さんはお腹すきません?私、美味しいパスタとピザのお店を知っているんです。それとも軽く飲みますか?」

サチは負けじと食事を申し込んできた
苦笑いから攻めの微笑みを浮かべたサチにぼくはますます意味が分からず、

「すみません、今日は帰ります。明日、仕事ですし、飲まないことにしてますので」

カップに残っていたコーヒーを飲み干すと、ぼくは席を立つ

まだ座ったままのサチに会釈をして、そのままミスドを後にした

サチが見せてきた好意は今日だけじゃなかった
週1で職場で会うときも立ち話で話はするが、それはあくまで仕事
ぼくは仕事以上に関心がなかったのかもしれない

今度、サチと会うのは年明けだろう

No.88 15/01/01 19:17
匿名 



毎朝のことでキャビネットの上に出された連絡帳にぼくはひと通り目を通す

今日は24日、クリスマスイブで子どもたちもどことなく浮ついている
楽しみなのは分かる

クリスマス、冬休み、お正月と子どもたちにしてみればお楽しみがたくさんで待ち遠しくて…まぁ自分も長い2学期がようやく終わりになる気持ちがどこかにあるから分からなくもないが……

大抵は普通の大学ノートを連絡帳にし、神谷さんも同じだった

パラパラとめくり、変わった様子のない連絡帳を閉じる

昨日、あの場所で会ったのは神谷さんだったのか?それすらもぼくはどうでもよくなる

神谷さんだったら?
一体、何があるっていうんだ

朝の学活が始まる前にぼくの学級の優木(ユウキ)が湊人(ミナト)に声をかけていた

優木と湊人は6年生で大の仲良し

「ミナトー、年賀状を書きたいから住所、教えて」

それはごく普通の光景、だけど最近ではあまり見かけないないこと
ぼくでさえ、そこまでは考えていなかった

「ユウキ、年賀状を書くの?」

ぼくが尋ねるといかにもうっとおしそうに優木はハイと答えた

お母さんに言われたのか?と聞こうかと思ったがおそらく「自分で考えました」と返ってくるだろう

優木は少し大人びた子、学級のどの子よりも大人のご機嫌さ不愉快さ、期待を感じ取り、そこから行動ができる社会性は身についていた

だから、よけいに”普通の子”と同じに接してしまい、今は全く信頼関係がなくなっている

ぼくと優木の、
ぼくと神谷さんの関係

No.89 15/01/01 19:40
匿名 



何が良くなかったのか
何が合わないのか?
ぼくにはそれすら分からない

ただ普通の信頼関係もなく、優木はぼくを嫌い、神谷さんはぼくを遠ざけた

こういう仕事だ
もちろん子どもたちの教育を第一に考えても多少の誤解やすれ違いはある
今までだってこういったことはあった
ぼくは問題をトラブルにせず、上手くこなしてきた、かわしてきた

なのに、今回だけは今までのケースと違う

打つ手を尽くしても変わらなければ、もう仕方ないのだ

お互い、人間同士、年齢の差や立場はあれど、気が合わなかったり違いがあるし、それが大きければ傷つけ合うようにもなる

ぼくと優木
ぼくと神谷さんはそんな関係

No.90 15/01/01 23:42
匿名 



その日の夕方、ぼくは自分の学級の子どもたちに渡す「冬休みの宿題 一覧」に年賀状を出すと書き加えた

なぜだろう、いつも神谷さん親子に調子を狂わせられる

完璧!なまでの自分の仕事に、本当に何気ない当たり前の”普通”により自分の教育指導が変わる

今回の年賀状だって、ぼくは学級の子どもたちやプライベートでも出すつもりでいた

だから、どこか頭では分かり切ったことで、あんな目の前で「年賀状、出すから住所教えて」なんて光景を見せられて、初めて【年賀状を出す】ことがこの年代の子どもたちにしてみると一般化してないことに気付かされた

民政化された郵便局のCMじゃないが、確かに今は年賀状を出す、手紙のやり取りなんて子どもたちは無縁に近い

携帯電話、スマホの普及でメールやライン、SNS等でメッセージのやり取りが大人の中でも普通になってきてる

見過ごしがちな、人とのつながりの大切さ

自分も分かっていながら、優木の言葉で初めて気付いたのだ

なぜ、いつも優木なんだ?
まだ幼さが残る可愛らしい顔立ちと少年の出で立ちで、最も冷静だと思う職場にいるぼくを見据えてくる

No.91 15/01/02 00:26
匿名 



この春、ぼくはこの学校に赴任してきた

前は歴史のある街で、地域ブロックごとに小中一貫教育が邁進され、その中でも先駆けの学校だった

今回初めての転勤で、ぼくが前の学校で残した実績を考えると、この学校で任された学級は自分の意思とは違っていた

最寄りの私鉄駅から歩いて10分ほどの高台にある小学校
付近の山は切り崩され、宅地開発が進み、近年、入学者数が増加
それに伴い、再来年からは校舎の増築工事が始まる
各学年2学級から3学級、38名〜40名の中規模校

そして、そこにはぼくが担任をしている知的障がい児の特別支援学級がある

優木は6年生からの転入で、日常生活、会話等の社会性は通常級の子らとなんら変わらない

不登校ぎみと学習の遅れから支援学級にいるが、ぼくが受け持ちになり、その中で学習の理解の遅れというよりは気持ちの波の大きさと本人の自己肯定感の低さに課題が感じられた

知的遅れはほとんどなく、不登校ぎみなどどこ吹く風で毎日、元気に学校に来ている

ぼく自身、去年までの受け持ちが高学年だったこともあり、支援級の中の高学年に当たるクラスを担当
優木や湊人、由香、淳(ジュン)、智史(サトシ)の4.5.6年生と混じった子たちと対面したのである

No.92 15/01/02 00:58
匿名 


6年生からの転入はあまり聞かないが優木は今までいたかのように、ぼくよりもはるかに早く学級になじんでいる姿があった

通常級とは違うルールや学級目標もなんなく覚え、守り、その年に入学した1年生や低学年にも優しく丁寧に接して、入学前から恐らく手こずるだろうと思われていた男子児童も「お兄ちゃん」と懐かれるくらいだった

その子、洋介は事あるごとに我々には言うことは聞かず暴れたりしたが優木の言葉にはきちんと反応した

学級の中の生活班では洋介と優木は同じ班で、その班のリーダーは高学年の優木
おかげでたびたび助かることが多かった

生活班で給食や掃除、図工や調理実習、宿泊学習などが組まれ、優木は他の誰よりも低学年の扱いがうまかったし、教えてあげることにも別段、ぼくが何を言うこともなく、事を上手く運んだ

本当にぼくが見た去年の6年生たちより、大人びた子だった

だから、ぼくは”普通の子”として優木を見ていたし、通常級担任だった自分の中でこうあって欲しい理想と期待を優木に見せて欲しかった

No.93 15/01/02 09:45
匿名 



2学期最後の今日は終業式

いつものように出された連絡帳をひと通り目を通し、だいたい感謝とお礼の言葉が並んでいた

神谷さんの連絡帳にも似たようなもので、むしろ今学期はご迷惑をおかけしましたとお詫びが書かれている
ぼくは書かれている言葉の通りを受け取る
その言葉以外に真実はないと思うし、言いたいことを率直に書いて家庭と学級との協力と連携とのやり取りにすべきだと考えている
連絡帳以外に電話のやり取りもあるがぼくは必要とは思わない

連絡帳に書いたらいいのだ
何でも
それについてなら、ぼくはきちんと返信する

終業式のため、廊下にに並び、体育館に移動する
体育館に着くと2列に並び、おしゃべりも身体のふらつきもない支援学級の子どもたち
「お行儀よくしている」姿にぼくは今までの長い時間をかけて積み重ねた指導の賜物を思う
ここまでの指導はそうそうできない
現に通常級からのざわめきが体育館に広がっていた

終業式が始まれば確かに止むが、今度は下を向いたり手いじり、手悪さ、前の子へのちょっかいがある

後ろから見ているとそれがよく分かる
美しくない…が、ぼくは自分の学級に集中した


No.94 15/01/02 10:22
匿名 



終業式が終わり、今度は学級会に入る
教室内の大掃除は昨日終わり、あとは個人の荷物の片付けと整理整頓
冬休みの過ごし方と宿題の話
子どもたちの冬休みのお楽しみのことをみんなで話して笑った

それから今学期の児童生徒の学習の成果や生活の様子を保護者や子どもたちに知らせるあゆみを渡す

全体学級会が終われば、子どもたちはそれぞれお迎えに来ている保護者と帰っていく

優木や湊人は自立登校だから2人で連れ立って帰っていく
由香はひとりでも帰れるがお母さんが心配性なため、送迎がある

教室からぼくは見送り、ふーとひと息ついた
2学期が終わり、3学期に入ればもう6年生は卒業準備で忙しくなる

卒業に向けてカウントダウンが始まるのだ

No.95 15/01/02 13:01
匿名 



4月の新学期を迎える前にこれから担任になる子どもたちの実態把握が必要で、引き継ぎ資料に目を通した

前担任の話も聞けたから個別の指導計画の案や配慮しなければいけないことを留意する

ただ優木に関しては前の学校の担任に話を聞こうと思ったが転勤のため、ムリだった

教育支援センターや前の学校の担任が書いた書類を見ただけに終わる

神谷 優木
ぼくの中で謎な子ではあったが、特別、配慮が必要な所見は書かれてなかったから始業式に会ったときの感覚を大事にしようと思った

新学期、始業式の日
少し緊張した優木とお母さんの姿があり、おとなしめな印象を優木から受ける

それは教室で席についた優木と対面したときも同じだった

No.96 15/01/02 15:03
匿名 



優木のお母さんと初めて会ったのは運動会も過ぎ、6月の個人面談だった

ひとり20分程度で子どものら学校生活のこと、家での様子、また子どもへの願い、6年生だから中学校の進路についての話をする

初めて会った神谷さんは、フワゆるな髪を後ろでアップで止め、フード付きのお尻まで隠れるチュニックを着て、目が優木そっくりだ

面談時間に教室の扉付近に顔を出し、会釈をし、目を伏せる横顔が一瞬、優木と重なる

親子なんだから似てるか…と思いつつ、自分の向かいの椅子を勧めた

「優木くんは…」と学校生活、友人関係の話をし、ぼくは褒め、また不登校ぎみだったなんて感じさせないくらい、毎日楽しく過ごしていると伝えた

神谷さんは小さく頷きながら聞き、他の保護者との面談と変わりなかった

中学校進学について、9月半ば頃までに書いて欲しい書類を渡しながら、どんな意向なのか尋ねると、

「まだ半々の気持ちですが通常級+通級か支援級かといった感じです」

と…ぼくはすかさず、

「支援級ですね。分からない勉強を前に1日過ごすよりいいです。お母さんからも優木くんを説得されてはいかがですか?」

神谷さんはえ?と驚いたようにぼくを見て

「まだ考え中です」

と言った

「優木くんは知的障がいがない分、支援級に行くなら医師の診断書が必要になります。9月に書類提出を考えると早めに療育センターに予約を入れないと間に合いませんよ?どちらかにかかってますか?」

「◇◇センターにかかってます」

「じゃ、早めにお願いします。お母さん、優木くんのことで何かお話はありますか?」

「…いいえ」

「そうですか。ではこれで面談を終わりにします。ありがとうございました」

神谷さんはゆっくり立ち上がると、頭を下げ、教室から出ていった

優木のアセスメントはしてない状態での面談…だけどぼくの言うことに間違いはないのだ

それは誰に言われようが自負している

No.97 15/01/02 15:18
匿名 



7月に入ると通常級と合わせた宿泊学習がある
ここら辺では日光らしい

またそれに向けて準備が始まる
実踏にも通常級の先生と一緒に行く

この頃に淳の保護者から宿題の件を言われた
漢字の書き取りを中心に3つないし4つの宿題を出していたが淳には量が多いと

「頑張ってやっていますが休みの日は1日かかります。終わらないようと泣くこともあるし、家族でどこにも出られません。少し減らしていただけませんか?」

「アツシくんが減らしてほしいと言っていますか?」

「アツシは自分の力になるからという先生の言葉を信じてます」

「お母さん、ぼくはアツシくんに期待してます。絶対、伸びますよ」

ぼくは涼やかに笑った
だってどこにも嘘はないから

No.98 15/01/02 15:47
匿名 



もう一つ、神谷さんから連絡帳の記入がなくなった

正確に言えば、あの面談後から
ぼくは優木に連絡帳を書いてとお母さんに言ってと伝えた

優木はぼくを見て、ハイと返事をしたが、それでも書き込まれることはなかった

夏休みが始まる10日ほど前、移動教室の説明会が土曜参観も合わせた日に行われた

この日に移動教室の集金も合わせてあり、優木の連絡帳に「集金が合わせてあります。来られますか?」と書いたが、特に印もサインもなかった

土曜参観の朝に優木にお母さんは来るのか聞いてみると来るとぶっきらぼうに答えてきた

ぼくはその言い方にカチンと来て、来ますだろと言い直しをさせた

こういうひとつひとが大事
先生は友だちじゃないんだから

朝からの土曜参観にどの保護者も姿を見せ、移動教室の説明会にも参加があり、神谷さんもいて移動教室費も問題なく全員から回収できた

夏休みに入ってすぐに2泊3日の移動教室がある

説明会も無事に終わり、預かった移動教室費を職員室に持って行こうとしたとき、階段のところで神谷さんに呼び止められた

「すみません、連絡帳、書けないです」

何のことかと思ったら、そんなこと

「はい、じゃ、連絡事項に見た印かサインをお願いします」

大した問題じゃなかった、連絡帳なんだから連絡事項が賄えればそれでいい

神谷さんがその足で管理職に会って、先月の面談について話をしてるなど、ぼくは思いもしなかった

No.99 15/01/02 16:32
匿名 



その日、管理職からの呼び出しがあり、6月の面談の様子を聞かれた

校長室のソファに座り、校長を前に特に問題はなかったと答える

「実は神谷さんが来られて、何故、進路を決めつけるのか?と言われた。君は何を言ったんだい?」

決めつける?
別に決めつけてはいない

「通常級か支援級かで迷われてる様子だったので、支援級ではどうか?とアドバイスをしたつもりですが…」

「じゃ、誤解かな?お母さん、相談もなしに進路を勝手に決めるのですか?と言ってた。あとで神谷さんところに電話をしておいて」

勝手な誤解もいいところ…
なんだよ、決めつけるって
アドバイスじゃないか

夕方に電話したが、神谷さん宅は留守

ちょうど片付けないといけない仕事があっから、今度は20時近くに電話をすると優木が出た

「●●小学校の東ですが、お母さんいますか?」

静かに電話を変わる

「はい、お待たせしました。神谷です」

「●●小学校の東です。お母さんですか?」

「…はい」

明らかにトーンダウンした

「今日、校長先生から話を聞きました。お母さん、誤解ですよ」

「は?」

「ぼくはそんなこと言ってません」

「いえ、言いましたよ。支援級にしなさいって。何の相談もなく、、、避難的に今は支援級にいて確かに学習は遅れてますが決めつけるのはどうなのですか?それを誤解だって言うのはおかしくないですか?」

「お母さん、勘違いですよ。相談なら学校に来ていただいて、話をしましょう。どうですか?」

「東先生!私は勘違いだって誤解だってしていません」

「だから。ちゃんと話しませんか?」

「…では、機会があればそうしましょう。お電話ありがとうございました」

一方的に電話を切られた。
話をしようとこちらから持ちかけているのになぜ怒られる?

意味が分からん…

No.100 15/01/02 17:01
匿名 



そういえばサチに言われたことがある

下田サチは週1で学校に来る臨床心理士、スクールカウンセラーだ

来た日には各教室を周り、管理職や保護者からの依頼があった子の様子を見ている

また保護者面談や放課後には我々教員からの相談を受けていた

ぼくは相談をしたことはなかったが、優木は保護者からの依頼で観察対象になっていて、直近の彼の様子を話すことが常になっていた

春頃、優木の話をしているときにサチが言った言葉があった

「先生って先見の明がおありなんですね」

「事が起こる前に何が起こるか予見できるですか?」

にっこりと笑ってサチはぼくを褒めたらしいが、ぼくはそうか?と思ったくらいだった
だってぼくは間違うことはないのだから

今までだって子どもの指導力では信頼され、保護者からも仲間内からも高く評価され、認められてきた

今、神谷さんと意見が合わなくても、ぼくが正しい
結局はぼくが担任で良かったと言われるのだ

サチが毎週のように話をしていて、ぼくと気が合うとどこで思ったのかは分からないがぼくはぼくで良い出会いがあったらいいなとは思っている

それがサチではないのは先見の明がなくても明らかだった

No.101 15/01/02 17:36
匿名 




すぐに夏休みに入って、移動教室があり、それが終われば、由香と由香のお母さんとの三者面談が控えてる

ちゃんと相談に乗っている自分

由香は学習には問題はないがソーシャルスキルが育っていない
自分で身の周りに起こった問題解決ができずパニックになる
また自分のキライなこと、主に身体を動かすことだがそれがイヤで駄々をゴネる等があり、母親がそこからイジメや彼女の精神が病気になってしまうのではないかと心配なのだ

ぼくはゆっくりと諭す
通常級でもやっていける力はあるよ
気の合う友だちもできるよ
助けてもらうことをまずできるようになろう

そうしてようやく2学期入ったら、交流級でお試しで過ごしてみると由香が言ったのだ

由香、頑張ろうね

お母さんは相変わらず、不安が隠せない様子だったが、先生が言うなら…と承諾してくれた

ぼくだって個々の持つ特性に配慮している
保護者の不安を聞いたり、応援したり、淳のときのように絶対、伸びるから!と強めに出るときもあるけれど、いずれ、みんな感謝するのだ

だからといってぼくは奢らない

ストイックに子どもたちの成長を願うだけだ

No.102 15/01/02 17:54
bear ( WC3Tnb )


8月の初旬から夏休みをもらう
夏季休暇だ
それにプラスして有休をもらう
そのあとからは研修や出張と入り、学校には出向かず、直行直帰にした

その夏季休暇に入った当日、神谷さんから電話があった

8/5 神谷さんから電話有り
09×15××361×
電話を下さいとのこと

ぼくがそのメモを見つけたときにはゆうに3週間が経っていた

神谷さんからの電話
なんだろうな

朝には会議があって、ひと段落ついた昼過ぎに電話をかけた

夏休み中の保護者からの電話
夏季休暇とはいえ、3週間も放置

ぼくは自分の信頼が失われていることに全く気付かなかった

No.103 15/01/02 18:07
匿名 



♪♪♪〜

「ハイ、神谷です。、、、ただ今、留守にしております」

自宅の電話にかけたが留守電だった
メモ紙にあった携帯電話に電話をする

♪♪♪♪♪〜

auお留守番サービスに接続いたします
ピーの発信音の後に…

ぼくは電話を切った

お出かけかな

ぼくはどちらの留守電にもメッセージは残さなかった

その日の夕方に再び、家の電話に連絡したが留守番のメッセージは解除されていたが何コールしても電話はつながらなかった

それから神谷さんへの電話はしなかった
あのメモ紙を見たときに捨ててしまい、すっかり電話のことを忘れてしまったのだ

いつもはそんなことはないのにどうかしていたようだった

No.104 15/01/02 18:42
匿名 


新学期開始の9/1は防災訓練も兼ね、引き取り訓練が行われる

始業式を行い、元気な子どもたちと会って安心する
肌の色も黒い子もいれば白い肌のままの子もおり、ひと回り大きくなった子どもたちとの対面は嬉しさと頼もしさを感じさせてくれる

が、そんな中、優木だけは笑っていなかった
連絡帳にも記入はないため、何があったのか分からない

昨日、夏休み最後の夜と夜更かしをしたのか?とも思ったが、見て取れるのは身体の疲れではなかった

いつも通り、ぼくは優木に声をかけた
が、聞こえないのかぼくを見ない

肩に手を置いて

「ユウキ」

と声をかけると、その手を払われた

「ユウキ!こっちを見ろ!」

顔は背けたまま、身体も向けない

周りもぼくたちを見ている
が、学級主任が今から引き取り訓練になりますと告げると、それぞれ各クラスに戻って行った

湊人が優木に声かけ、席に着くように促した
憮然とした態度のまま、優木は席につく
湊人も由香も淳も悟志も優木に目をやるが、前にぼくが立つと身体を前に向けた

「震度5以上の地震が起きた。みんなの安全を確認、確保できたら今日は引き取り訓練に入る。お迎えが来たら、各自名前を呼ぶからお迎えの人を確認、防災頭巾、荷物を持って帰るように。家に帰るまでが訓練だからな」

優木に目を向けると訓練に対する真剣さが足りないと感じた

「ユウキ、しっかりやれ。訓練でも有事のときに動けないぞ!」

「ハーイ」

「ユウキ!」

ふざけた返事に強めに優木の名を呼ぶ
優木の睨んだ目がぼくに向けられた

ぼくはゾクッとした

No.105 15/01/02 19:05
匿名 



各クラスの廊下に保護者が並び始めている

扉付近に各担任は立ち、迎えに来た人を確認
子どもの名前を呼び、一緒に帰るように促す

その列に神谷さんの姿もあり、少しホッとした

「神谷 優木の母です」

淡々とした口調のお母さんに不思議なもので優木のまとうオーラを感じた
それは”怒り”

ぼくは何かしたか?と思いつつ、

「ユウキ」

と呼んだ

湊人が出す手にあいさつ代りにはパチンと手を合わせ、優木が来る
神谷さんの後にも並んでる保護者はいるがぼくは優木に

「明日、来いよ」

と言った

優木は通り過ぎ、いったん立ち止まってから振り向かずに

「来ない」

そのひと言だけだった

ぼくはえ?と思ったものの、もう次のお母さんが目の前にいた

それでそのまま引き取り訓練を続ける

次の日の朝、教室に向かうとそこには優木の姿はなかった
あのひと言の宣言通り、彼は来なかったのである

No.106 15/01/02 19:17
匿名 



登校時刻も過ぎ、学級全体で朝の会をしていると、事務の人がメモ紙を持って来た

それを受け取り、内容を見ると「神谷 優木 体調不良のため休み」とあった

なんだ、風邪か?
昨日の様子もおかしかったが体調不良だったのか?

とりあえず、連絡があったことで休みの理由が分かった

ぼくは明確な理由があれば休んだ児童に電話はしない
体調管理などきちんと自分で出来なければ高学年とは言えない
体調不良で休みなど甘えているのも同然
配慮など無用と思っている
次の日に学級で必要なものや時間割りなどはもう一週間単位でお便りを出しているから、それを見れば分かる

だから、電話などしない

No.107 15/01/02 19:33
匿名 



翌日も優木は来なかった

理由は「元気になったら行きます」だった
遅刻で来るつもりなのか、それもぼくは許せなかった
が、結局、来なかった
それが4日続いたが、欠席の電話はあの日だけであとは連絡もなかった

金曜日、学級主任が声をぼくに声をかけてきた

「ユウキ、来てないけど欠席理由って何?」

「体調不良のようですね」

「ふーん、ユウキんとこに電話してる?」

「してないです」

「なんで?」

「体調不良なんて自己管理もできない甘えですよ。そんなんにいちいち電話しません」

「そうなんだ。東さんがそう考えてるなら私はとやかく言わないけど、向こうが出る出ないはともかく電話の履歴は残した方がいいよ。後で揉めるから」

お先にと学級主任は手をひらひらさせた

そんなものかとぼくは思った

No.108 15/01/02 20:16
匿名 


学級主任に言われた通り、夕方に神谷さん宅に電話した
けれど何コールしても誰も出なかった

これでいいのか
あっさりしてる

土日をはさんで気分も変われば、月曜から来るだろう

ぼくはそう思った

No.109 15/01/02 20:58
匿名 



月曜日、まだ涼しい朝のうち、緩やかな坂道を歩いて職場に向かうだけでも軽く汗をかいた

校門付近に誰かいるが別段、気にせずに歩いて行く

学校の周りにはマンションや公団が立ち並び、人の往来は多く、また涼しい時間帯に犬の散歩をする人もいるからだ

人影がありつつもその横を通り過ぎると

「おはようございます」

と声をかけられた
顔を上げると神谷さんだった

「連絡帳をお願いします」

「あ、はい」

ぼくは連絡帳を受け取り、そのまま学校内に入った

職員用で入り口に事務室があり、ガラス戸の向こうから事務の川野さんがぼくを呼び止めた

「おはようございます、東先生。保護者の方に会いました?」

靴を履き替えながら、会ったよと連絡帳の大学ノートを持ち上げて見せた

「良かった。ずいぶん前から待ってて。ノートを預かりましょうか?と言っても直接、渡したいのでって言われて」

「ずっといたの?」

「そうですね、30分くらいかな?何か話しました?」

「別に何も」

「えー⁉︎神谷さんですよね。ユウキくん、今日も休みですよ」

優木、休み…連れて来たんだと思った

「欠席理由は?」

「先生に伝えてありますって」

はぁ?聞いてないよ
いい加減にしろよ、何なんだよ

No.110 15/01/02 21:47
匿名 



まだ子どもたちのいない静かな廊下を歩きながら、神谷さんからの連絡帳を開いた

よく考えれば、久しぶりの連絡帳

そこには1行だけ

【ご相談したかったのですが、お電話がなかったので】

相談?
電話?
電話ならしたぞ?
学級主任に言われてかけた履歴残しの電話






「神谷さんが連絡帳を持って来たの?話した?」

「いえ、ユウキを連れて来たんだと思ったんで」

「ちょっとーしっかりしてよ。で、ユウキは休みで欠席理由は東さんが知ってると?分かるの?」

「分かりません」

学年主任に神谷さんからの連絡帳を見せ、何のことが分からない1行の言葉の意味を教えてもらおうと思った

「私も分からないよ、、、ユウキって前の学校、◇◇だよね?前の担任は?」

「転勤でいません」

「特支のコーディネーターは?」

「あ、聞いてません」

「電話して、ユウキのこと聞いて。朝学活はこっちでやるから」

バタバタと職員室に向かい、◇◇小学校に電話する

「もしもし、◇◇小学校ですか?わたくし神谷優木くんの担任の東と申します。朝から申し訳ありませんがコーディネーターの先生いらっしゃいますか?」

「今、朝会議中でして、折り返しますよ。●●小学校の東先生でいいですか?担任を持っているから夕方かもしれないけど、大丈夫かな?ああ、そうそうユウキくん、夏休みにうちに来て、コーディネーターに会ってたよ」

電話の向こう、控えめに笑いつつも管理職の応対だったのが分かり、ぼくは静かに電話を切った

とにかく、今日は優木は休み
あの日からずっと、ぼくの声を聞かず、手を払いのけ、睨み、振り返らない優木

なんで突然…、、、ぼくには訳が分からなかった


No.111 15/01/02 22:18
匿名 


学級の子どもたちが帰った後、学級主任と話をする

「コーディネーターからの電話待ちじゃ、今、話をしても仕方ないわね。神谷さんとこにまた電話してみて」

コールするが、やはり出ない

「お父さんの携帯は?」

マル秘の個人調査表や保健調査表を見ても、お母さんの携帯と自宅の電話番号のみだった

「連絡がつかない…」

「自宅に行くしかないんじゃない?電話連絡じゃラチが空かないわよ」

学級主任の顔をマジマジと見る
そこに電話がなり、ぼくは呼ばれた

「◇◇小学校の工藤です。すいません、遅くなりました。東先生ですか?朝にお電話を頂いたのに、担任も持ってるもので」

ハキハキとした電話口での声、自分とそう変わらない年齢に感じた

「東です、朝は失礼しました。お忙しいところ、お電話ありがとうございます。
わたくし、今年度、ユウキくんの担任なのですが…」

「電話を待ってましたよ。ユウキくん、元気にしてますか?」

「実は今、学校を休んでいまして…その理由が分からなくて」

「それは大変ですね、そうか休んでるんだ。夏休みに会ったときには元気にしてたんだけどな」

「何か聞いてますか?」

「うん、聞いてるけど、そちらのコーディネーターの先生、いますか?」

「え?ぼくではダメですか?」

「申し訳ないけど、コーディネーターの先生と代わってもらえますか?」

うちの学校では養護教諭がコーディネーターだった
そして電話を変わる

No.112 15/01/02 22:31
匿名 


特支の研修会等で会うのだろう、養護教諭の田所さんは工藤さんとサクサクと話をしている

しばらくすると、電話が終わり、田所さんはぼくに学級主任の居場所を聞いてきた

「多分、クラスかと」

「ごめん、呼んで来てくれる?」

ぼくには何がなんだか分からないが、職員室を出て学級主任を呼びに行く
その後ろで田所さんが管理職に声をかけているのが聞こえた

学級主任と職員室に戻ると腕組みをした校長と教頭が待っていた

「校長室で話しましょう」

「しばらく緊急会議に入ります。電話等は折り返しでお願いします」

と教頭が職員室にいる先生たちに伝え、ぼくも続いて、校長室に入ろうとすると、田所さんに止められた

「東先生は待ってて」

ぼくは当事者じゃないのか?
こんなカヤの外なんて…

No.113 15/01/02 23:14
匿名 



1時間ほどで田所さんが校長室から顔を出し、ぼくを手招きした

自分の席で落ち着かずにいたぼくはすぐに立ち上がる
他の先生たちのチラ見も少し耐えられなくなっていたところだった

「こっち、座って」

ぼくは数ヶ月に座ったソファに軽く腰掛けた

「東先生、神谷さんと連絡は取れた?」

「いえ、取れてないです」

「じゃ、いつ神谷と会ったり話をした?」

「今日の朝、会いました」

「でも、話してないのよね?」

学級主任が横から口を挟む
ぼくは頷いた

「その前は?」

えーとと思い出す

「あ、引き取り訓練の日です」

「夏休みに神谷さんから電話は?」

矢継ぎ早に質問してくるのは田所さんだ

「電話?……あったかな?」

考える
夏季休暇と出張、研修明けでここに来たときにメモ紙が……

「確かありましたが、折り返しました」

「話したの?」

今度は学級主任が聞いてくる

「いえ、お出かけのようで留守でした」

「留守電になったの?メッセージは残した?」

「いえ、残していません」

「じゃ、いつ神谷さんと話をしたんだい?連絡帳は6月からやり取りはないようだし」

校長が大学ノートの連絡帳を軽く叩きながら言う

「7月です。校長先生に言われたときに電話で話しました」

「何の話?」

「6月の面談時のことを勘違いされているようでしたので、そのことと話をしたいと言いましたが、機会があればと電話を切られました」

No.114 15/01/03 10:57
匿名 



「その機会があれば…が夏休みの電話だったんじゃないの?」

学級主任が刺々しく言ってくる

「神谷さんは引き取り訓練のときには何も言っていません」

「東先生からの電話がなかったからでしょ」

「とにかく、神谷さんと話をしないと。工藤先生に全部話をしていたようだよ。6月の面談、7月の電話、夏休みに進路相談、引き取り訓練時のユウキくんに声を荒げたこと、今日の連絡帳の受け取り方…東先生、工藤先生も他校のことに口は出したくないがひどい対応すぎると」

「保護者との信頼関係をどう考えてる?それから、今回のユウキくんの休みに関して家庭と連絡はついてるのか?」

ぼくは首を振った

「何故だね?」

校長が深いため息とともに聞いてくる

「体調管理は自己責任です。管理がしっかりできていないのはユウキの甘えです」

誰も何も言わない
重たい空気が流れる

「…東先生、確かに正論だが君は正義か?本当にユウキくんは体調不良?」

「保護者がそう言ってます」

「その電話は1回で翌日は元気になったら行きますじゃないのか?」

「だから、体調不良だと」

「元気になるのは身体だけか?心もだろう?…ちゃんと神谷さんと話をしなさい。連絡をつけて、話をするんだ。言っとくが東先生、神谷さんユウキくんからの信頼はないぞ。教育熱心で真っ直ぐなのはいいが、心を大切にして欲しい」

校長からの檄がとんだ


No.115 15/01/03 11:15
匿名 



職員室の自分の席に戻り、ガタンと乱暴に座り、頭を抱える

「クサクサしてるね、東先生。コーヒー飲む?」

学級の別クラスの担任、金澤先生が声をかけてきた

「ありがとうございます」

一緒にため息も出る

「ハイ、…保護者なんてさ、勝手なときあるよ。話をただ聞いときゃいい。君が潰れるよ」

マグカップを受け取り、小さくハイと言う

「僕もさ、若い頃はいろいろだよー散々だよ。そのときは大変だけど結局、通らなきゃいけない経験、頑張れ!」

遠巻きにぼくを見ている先生たちの中で、こうして声をかけてくれる先輩もいる
そうして、少し、少し元気になった自分がいた

「……心の元気か」

今の自分なんだなと、意外と冷静に分析をしてしまう

あー、電話、しないと

No.116 15/01/03 11:37
匿名 



翌日の夕方、心を決めて神谷さんの自宅に電話をした

が、出ない
留守電にもならず、コール音のみ
神谷さんの携帯電話に電話
やはりコール音だけが響き、またぼくは切ろうとした
自宅に行くしか、ないかなと思っているとカチャと遠く音が聞こえた

留守番メッセージか?

「もしもし、神谷です」

神谷さん本人だった

「●●小学校の東です。お母さんですか?」

ここから長い長い攻防戦が繰り広げられ、最後には神谷さんと面談の時間を約束できた

学級主任と管理職、コーディネーターの田所さんに知らせる

「まずは一歩前進!面談はいつ?」

「明後日、17時です」

学級主任が教頭に

「先生、一緒の面談がいいですよね」

「はい、そうしましょう。私も入ります」

学級主任、自分、教頭、神谷さんとの四者面談
学級の主任として、学校の管理者として入る2人の先生

が、これがまた失敗だったのである

No.117 15/01/03 12:29
匿名 



夏の暑さがまだじっとりと残り、開けた窓からは微かな風が入ってきた

「まだ暑いな」

5時前、ぼくは神谷さんとの面談を前に机を4つ四角にくっつける

この前、ようやく神谷さんと電話で話ができたがなかなか難しかった
電話を切られはしなかったが、ぼくと話すことは不快でしかないようで、だが淡々と静かに話していた

まず優木と話したいと言うとお断りしますと少しの隙もなかった

優木の休んでいる理由を尋ねると体調不良

「1週間も休んでいたら元気になりませんか?月曜日には来れると思ってました」

「そうですね」

「どうですか?明日には来れそうですか?」

「無理です」

「どうしてですか?ずっと休んでいると学習も遅れるし、友だちも心配してます」

「そうですね」

「ユウキくんと話をさせて下さい」

「ダメです」

「お母さん、、、理由が分からないですよ。ユウキくんが学校に来ない理由が」

「溜まっていたものが今、爆発したからじゃなないですか?」

引き取り訓練時の優木の怒りのオーラを思い出していた

「お母さん、話したいこと言いたいことがありますよね?もっと信頼して、頼って、ひとりで抱えないで」

「……先生とは話したくない」

こんなこじれるほどぼくは何かしたか?

「ぼくは話したい」

話を聞いていると”信頼関係”がないことが分かる

「話をしましょう」

学校への不信
学級への不信
担任への不信

しっかりと信頼関係を築いていればこんなことにはならないのか?
クラスの誰の保護者ともこんな面倒なことになっていない

何がそうさせてる?
ぼくか?神谷さんか?優木か?

とにかく、ぼくへの不信ならば今回の四者面談は有効に思えた

No.118 15/01/03 13:26
匿名 



教室の時計の針が5時15分をさしている
3人で神谷さんが来るのを待っていた

「来ませんね、本当に5時?」

「まぁ、来にくい感もあるから。来ない連絡もないし」

まさかドタキャンじゃないよな

先に教頭が立ち上がった

「上で待ちますね。来たら教えて下さい」

「私も仕事が残ってるし。内線でもいいから連絡して」

学級主任も教室を出た
ぼくも廊下に出て、事務室前の廊下に目をやる

静かだ

事務室横の保健室には明かりがついていて、田所さんがいるのだろう

ぼくは首に手をやり、短く息を吐いた

カタンと小さく音がして、パタパタとスリッパの音が聞こえてくる

ようやく、か

ぼくは自分の鼓動が早くなるのを感じた

「すみません、遅くなりました」

神谷さんが焦ったように言い、早足でこちらに向かってくる

気持ちを落ち着けようと教室の扉枠の上部に手をかけ、身体を伸ばした
と、時計が目に入る

5時28分…

「遅くなってしまい、申し訳ありません」

ぼくの近くで立ち止まり、しっかりとぼくを見て言う神谷さん

それには答えず、神谷さんに身体を向け、

「今日の面談に学級主任、教頭先生にも入っていただきます…言った言わないがないようにみんなで話しましょう」

っと、間が空いた

「そういうお話でしたら、帰ります」

くるりと踵を返す神谷さん

はぁ⁉︎⁉︎

「ちょっと待ってくださいよ!」

信じられなかった

「おかしいですよ⁉︎面談時間だってとっくに過ぎてるんですよ?」

遅刻は許せない

「教育支援センターの方と電話してました。私、言いましたよね?面談時間は取れないくらい、今、忙しいと」

こっちを優先しろよ

「今日も教育支援センターで面談だったのを電話にしてもらったんです。就学支援の提出日、今週末でしょう⁉︎」

「こっちだって時間はないんだ。みんな忙しいんだ。来週からはユカの交流だって始まる、授業準備もある、会議も研修も、ユウキがいなくたって全部、時間通りに進むんだ」

No.119 15/01/03 13:33
匿名 



「だったら面談なんて結構!帰ります」

「話しないんですか⁉︎」

「私も信頼できる人を呼びます」

「そうしてください。お待ちしてます」

今来た廊下を戻る神谷さん
途中に保健室があり、何事かと田所が顔を出した

「ちょっと、神谷さん、待ってください」

田所さんはぼくを見、神谷さんの後ろ姿を見、神谷さんを追いかけた

ぼくは教室に入り、手荒に面談用にした机を元に戻した

窓を閉め、壁の電気スイッチをバンッと叩いて消す

それから二階の職員室に戻った

田所さんから話を聞いた学級主任、教頭からこっぴどく言われたがどうでも良くなる

そうだよ、ぼくだって抱えてる仕事がある
優木だけがぼくの児童ではない

No.120 15/01/03 14:13
匿名 



神谷さんとぼくはどちらからも連絡はしなかった

由香の通常級交流は概ね成功した
学習も友だちとの関係も上手くいき、ただ困っているときに助けを求められない、弱みを見せたくないプライドは強いらしく、意固地になる場面はあったようだ
それは由香の今後の課題になる

交流クラスの担任、片岡先生は長く休む優木について、

「交流クラスに入れたらどう?ユウキくんなら大丈夫でしょ?もともと通常級だったんだし、中学校は支援級じゃないんでしょ」

学校の事務室に届けられた就学支援の書類には通常級を希望となっていた

「いえ、いいですよ。ユウキはダメです」

「そう?でも考えてみてね。不登校で休んでる子ってそこで時間が止まるから、早めに学校に来れるようにしたほうがいいわよ」

ハイと言葉はありがたく受け取る
が、神谷さんに連絡する気などまるでなかった

それから数日後、ぼくはまた管理職に呼び出された

「神谷さんから連絡があり、面談をしたいそうだ。東先生、どうする?」

ぼくに選択肢があるのか?
ちょっと苦笑いをして、面談しますと答えた

「それで、神谷さんが自分ともう1人で面談を申し込みたいという。発達地域支援センターの先生だそうだ。いいね」

「はい」

発達地域支援センター?
神谷さんのいう信頼できる人か……

No.121 15/01/03 15:38
匿名 


その人は発達地域支援センターの嶋ですと言った

大柄な体格の嶋先生の横にちょこんとと座る神谷さんは強い緊張感は感じられるず、あれから初めて会ったぼくには見向きもしなかった

「自分はいいよと言ったのですが、神谷さんがお願いしたいというので、一応は正式な学校支援の形ですので今日はよろしくお願いします。それから、コレを、置かせてください」

ゴトッとテーブルに置くソレは手に収まるくらいの小さなボイスレコーダーだった

「東先生もよろしいですね」

ぼくは頷いた

「まずは2.3お聞きしたいことがあります。東先生はユウキくんの今の状況をどうお考えですか?自分は神谷さんからしか話を聞いていませんので、先生のお話も教えてください」

「はい、ぼくにはユウキくんがどうして学校に来ないのか、思い当たる理由がありません。お母さんかも話を聞きたいのですか、なかなか上手く行かなくて」

「理由が分からないのですね、その話は誰かに話していますか?」

「学級主任と管理職、特支のコーディネーターです」

「相談はされていた、ユウキくんが休み始めてもう1ヶ月近くですが、自分が知る限りでは特に対応はされていませんね。それはどうしてですか?」

「理由が分からないから対応のしようがないのです」

「ユウキくんとは会ったり、話をしていますか?」

「いえ、お母さんが許してくれないので」

「では、学習のプリントやお手紙なんかはどうしてました?1ヶ月間でずいぶん溜まるのでは?」

「ありません」

「ない?」

「ユウキくんの分は数に入れていません」

「ちょっと待ってください。ユウキくんの分は数に入れてないって東先生の学級の子では?」

「そうですが、いない子の分は刷りません」

「予備は?」

「予備分のみです」

「そうですか、申し訳ないけど管理職を呼んでいただけますか?教頭先生がいいかな。神谷さん、ちょっと」

応接室の隅で話をする2人を置いて、ぼくは教頭を職員室に呼びに行った

「教頭先生、すみません、発達地域支援センターの嶋先生がお呼びです」

パソコンに向かっていた教頭はぼくの顔を見ずに立ち上がる
予想してたのか?

No.122 15/01/03 16:04
匿名 



改めて、嶋ですと自己紹介をし、教頭はぼくの横に座った

「先ほど、東先生と少し話したのですがユウキくんが休みの間、なんら接触はないようですね。学習プリントやお手紙を届けることもなく、ソレ自体もないそうです。これは学校自体の対応の仕方ですか?」

教頭はゆっくりとぼくを見て

「いいえ、違います…なんでユウキくんのはないの?」

「ユウキが休みでいなくて、また家で学習プリントをただやっただけでは意味がありません。学校で教育指導がなければ理解にはつながらないからです。お便りは持っていく子がいないのとユウキが気まぐれで学校に来るのではなく、きちんと学校で勉強するんだという気持ちで来て欲しいから、自分で取りに来るくらいになれたら渡したいと思っています」

唖然というのだろうか?
しいんとした空気の中、今まで黙っていた神谷さんが口を開いた

「先生にとって教育とは?」

「目の前にいる子たちを今の力以上に伸ばし、自分で頑張る子を育てたい」

「先生にとってユウキは?」

ぼくは神谷さんを見た

「たまたま担任になったお子さんですのでその間は一生懸命、見させていただきます」

No.123 15/01/03 16:29
匿名 



それから数週間の間にすっかり秋めき、学校のイチョウもきれいな黄色に色づいた

発達地域支援センターの嶋先生との面談が終わり、優木が学校に来ることになった

なぜ急にそう思ったのかは分からないが、ある日の夕方、優木が教室に姿を見せた

「ユウキ、久しぶりだな」

「来週から来ます。休んでいてすみませんでした」

薄手の長袖のパーカーにジーンズ姿の優木は少し痩せただろうか?

「おう、準備しとく。遅れた分は取り戻せよ、それからずっと休んでいた間、ユウキの仕事は分担してた。湊人たちや班のメンバーにちゃんとお礼を言いなさい」

子どもたちの読む本を整理していた手を止め、ふと優木に聞いてみた

「ユウキ、どうして学校に来る気になったんだ?自分で来ようと思ったのか?」

帰りかけた優木は静かに振り向いて

「みんなが先生の正体を分かってくれたから」

ぼくは笑った

「おいおい、先生は化け物じゃないぞ!」

ふふと以前と変わらない優木の笑顔
これで元に戻った、、、ハズ……

No.124 15/01/03 17:12
匿名 


冬休みが終わり、3学期を迎えた

6年生の子たちも総復習が終われば、2月の終わりからは卒業式の練習にほとんどの時間が使われる

年賀状はぼくの学級の子たちはみんな学校宛てに出してくれ、学級主任も面白そうに1枚1枚を読んでいた

「ユウキのは住所だけね、今どきの子かしら?」

だけど、ぼくは知っている
湊人が優木から来た年賀状を嬉しそうに見せてくれたから
そこには湊人に対し、たくさんの言葉と絵があり、ぼくのところに来た年賀状はただ出しただけだった

だけど、あまり深追いはしない
湊人も由香たちも優木からの年賀状は嬉しかったようだし、卒業しても来年もまた続くだろうと思われたからだ

登校拒否をしていた優木はあのあと少しつまづきながら学習にも追いつき、休んでいた間の生活単元や人間関係も上手くこなし、たくさん力をつけた

そう、ぼくが望むところの今以上の力
優木は見事に期待に応えた

が、ぼくは調子が狂うばかり
いつも指導して行く中で、完璧!なぼくの指導案や完成度を優木が変える

たったささいなひと言で
当たり前の普通で

優木とお母さんの神谷さんがぼくの中で、不思議形のまま、存在し始めた

彼らは一体なんだ?と

No.125 15/01/03 18:47
匿名 



優木が学校に戻るにあたって神谷さんがひとつだけお願いしてきたことがあった

ぼくと優木が話をする時間を作ってほしいというものだった

ぼくたち2人だけで

最初は優木の心のリハビリに思ったからサチでいいんじゃないか?と思った
スクールカウンセラーその人だから

神谷さんにそう伝えると

「彼女、下手なんで…」

といつもは感情を押さえた口調なのに、このときは腹を立てていた

「しかも、邪な気持ちがあるし」

ぷん!と本気で怒った顔をする神谷さんがおかしくて、つい笑ってしまった

「あー、何で笑うの?先生の鈍さが問題でしょう?」

ずっと後にコーディネーターの田所さんに聞いた話では、神谷さんとサチはやりあったらしい

現職の臨床心理士を捕まえて、カウンセリングが下手すぎる!と優木を真ん中に

「下田先生じゃなくて、先生とユウキでお願いします」

「分かりました、ユウキの心のフォローになれば…」

が、これに異論を唱えたのが教頭だった

信頼関係もなかった2人が2人だけで話をするなんてリハビリでもフォローでもない

もっと深い傷をつけあうだけだと

確かにそうかもしれない
けれどぼくは優木と話してみてもいいんじゃないか?と思った

ぼく自身、優木との関係で信頼関係こそないものの、傷など受けていなかったから

目の前にいる子どもを一生懸命みるのがぼくのやり方だから

No.126 15/01/03 19:54
匿名 


最初はぎこちなかった
会話を続けることもできなかった

話なんて全く…難しいだけで優木もすぐに離れていった

教頭の言葉が頭をよぎる

お互い傷つけ合うだけ

ぼくは優木を傷つけてるのか
優木はぼくを傷つけてるのか
分からなかった

ある日、休み時間、裏庭でひとりポツンと立ってる優木を見つけた

そっと近づく
優木は葉の落ちた3mほどの木立をただ見つめている

「ユウキ?」

シッと人差し指を口に立て、それから静かに指差した

「あれ、鳥が果物を食べに来てる」

枝に八つ切りほどにしたオレンジが刺さっている

「ああ、あれは4年生が生活科で取り組んでるんだ」

「….先生、つまんない」

優木!と言おうと横を見ると、優木は優しい目で鳥の姿を追っている

「あ、先生、また来たよ。ケンカしないんだね」

優木の輝いた目の光から、ぼくは身近な鳥の観察と巣箱を作ってみよう!をやってみた

鳥なんて、スズメやカラス、よくてハトくらいしか知らなかった子どもたちが夕方に街路樹をねぐらにするムクドリやキキキーと高い声で鳴くモズ、水辺で尾をチョンチョンとしながらせわしく動くハクセキレイを見つけられるようになった

巣箱もある程度板を切っておいて、班で作ってごらんと言っただけなのに、班の中で分担を決め、低学年の子の意見を取り入れながら、自分たちで作り上げた

晴れた日など窓に張り付いて、巣箱に遊びに来ないかなぁと1年生が見てたりしている

No.127 15/01/03 20:06
匿名 


そのうち言葉は少しだけで優木と並んでいるだけで、いろんなことを感じるようになった

2学期の終わりに偶然、会うはずのない街角で神谷さんを見かけた

隣にはサチがいて、驚いた表情を見せたあなた

ぼくは自分と優木を引き合わせた神谷さんがずっと心にある

あなたはどう思ったのだろう?

「邪な気持ちがあるから」
「鈍感なんだから」

とサチとぼくを言っていたけど、実際、2人でいたぼくらを見て、あなたはどう思ったのかな?

No.128 15/01/03 23:21
匿名 



あなたに会ったあと、サチとミスドに入った

向かい合わせに座って重量感のある白いカップのコーヒーを飲みながら、ぼくはサチが言ったことより、もっともっと違うことを考えていた

あり得ないけど、、、
ぼくが優木とこうしてプライベートの時間も一緒にいれたら

そんなバカなことを初めて思った

ぼくが今まで過ごしてきた年齢の時間、家族も友人も恋人もいた
きっとまだ見ぬぼくの嫁さんや子どもも大切に思うだろう

そんな中に優木はいない

そんなのおかしいじゃないか
……いや、ぼくがおかしい?

12月以来、ぼくは考え、答えは出ないまま、とうとう優木たちの卒業式を迎える

No.129 15/01/04 15:38
匿名 



3月24日、優木たちの卒業式

朝方に雨が降り、地面が濡れている
日がのぼるにつれ、小さなしずくが光を受け、輝き始めた

今日は正装で更衣室のロッカーには白いネクタイが置いてある
昨年度も6年生を担任していたから、今年も再び、、、気持ちが引き締まる思いがした

早めに行くと、まだ誰もいないガランとした教室に朝の空気が広がっていた

今年度はいろんなことがあったな

自分の力を全力で出し切る、それはいつものことだけど、それも確かにあったけれど…人との出会いを初めて感じたように思った

湊人はすぐに調子に乗るけど、困ってる子がいたら助けてあげて、由香はピクチャーロジックが好きで飽きずに何枚もやって、あと少し身体を動かすことも好きになった
淳はコツコツと努力し、クラスで漢字博士と呼ばれるくらいになって、自分に自信がついた
悟史は本が好きな大人しい子で、本の紹介やぼくにも読み聞かせをしてくれた
優木は、、、優木だったかな

ひとりひとりの机をなぞりながら、少しだけ想いに耽る

校舎の外がザワザワとし出した
6年生を送る在校生の登校、そのあとに卒業生がやってくる

さぁ、迎える準備をしよう

No.130 15/01/04 15:54
匿名 


「卒業生の入場です。大きな拍手をお願いいたします」

会場から拍手が鳴り響く
通常級の6年生2クラスが入り、今度は支援級の子どもたちが続く

ピンクの華を胸に付け、中学校の制服や正装で登場、どの子も綺麗で立派だった

全員が椅子に座り終わると、拍手が止み、教頭が厳かに言う

「これから第26回、卒業式を始めます」

優木たちの卒業式が始まった

No.131 15/01/04 22:42
匿名 



桜はまだ蕾のままだが、あと1週間もすれば開花するだろう
春3月、君たちは巣立つ
嬉しくもあり頼もしくもあり寂しくもあり…

君たちは前に歩いて行く
頑張れ!応援してる







今日1日が終わり、帰り仕度を済ませる
職員室から通用口に行くのに、ぼくは少し遠回りをした

朝まで卒業生たちの姿があった教室を最後に…
明日からはガランと静かになる

並んだ机
何も入っていないロッカー
教材の棚
ピアノ
当番表
カレンダー

ひとつひとつゆっくりと見て、毎朝、連絡帳が出されていたキャビネットを見た
その上に誰かの忘れ物のように置かれた白い封筒

いつ?

封筒にはぼく宛ての名前
封はされず、ぼくは中にある紙を取り出した

それは誰からの手紙であったろうか?



【soulmate❶】完

No.132 15/01/12 11:35
匿名 



【齋藤式 猫の年齢換算法】


うちの猫は元気だ
家族からは「長老」と呼ばれている
もしかしたら、一緒に住んでいる他の猫たちからも呼ばれているかもしれない
「長老さま」と

室内飼いだから
とても小さい小さい世界だ

長老はとても軽い
そして骨ばっていて肉がついてなくて、俗にいう骨と皮ばかり

毛ヅヤはなく、毛づくろいもほとんどしないため、パサパサしている

昼間も夜も寝ている姿ばかりが見受けられる、今日この頃の長老

No.133 15/01/14 16:10
匿名 



齢19歳…老年期を迎え、私も家族も15歳を過ぎた辺りから「もしかしたら…」と一応の覚悟は持つ

が、猛暑や厳しい残暑を乗り越え、最大級の記録が何度も塗り替えられる大型台風が通り、土砂崩れや川の反乱が心配される長雨の秋が過ぎ、例年になく豪雪な冬を幾たび重ね、、、季節は移り変わるものの、快適な雨風防げる家屋の中では、長老も大したストレスは抱えなかったのかも知れない

飼い主の人間社会の方がつらく、厳しいかも(T_T)

長老はいつも気ままにいる
家族はその優雅さやマイペースさを横目に

「猫っていいなぁ」

とつぶやいていた


No.134 15/01/16 20:33
匿名 



家の中にキャットタワーと猫ベッドと爪とぎがあり、普通な猫缶を食べて、トイレして、毛づくろいが終わると、暖かな陽だまりにうつらうつらと眠る…穏やかな生活

長老に気に入ってもらえたのだろうか?

こんなにも長く、家族として一緒にいられるなんて

ときどき、プス〜と寝息が聞こえ、まだまだ元気でいてもらいたいと目を細める

元気……そう、老年期にも入り、足腰が弱く、目も見えずらくなるだろうに、長老は長老とあだ名されるより、実は元気なのだ

長老の19歳を人間の歳に換算すると……

No.135 15/01/16 20:40
匿名 



年齢を人間の年齢に置き換える、齋藤昭男さんという獣医さんが考案した「齋藤式」なるものがある

猫は1年で生殖能力をもった立派な大人になることから、まず生後12ヶ月を人間の20歳とみなし、1~5歳を成人期

猫の年齢に6をかけ15を足した値を人間の歳とみなす(たとえば猫の2歳は2x6+15=27で、人間の27歳)

6~10歳は中高年期は猫の年齢x5+20
11から15歳は高齢期で、猫の年齢x4+30
16歳以上が老齢期で、猫の年x3+45……

この換算方式で猫の19歳は人間でいうと92歳!

長老はやっぱり長老と言えよう‼︎



No.136 15/01/16 20:55
匿名 



かなり以前、猫は10年生きれば寿命と言われていた

15年生きれば「猫はしゃべる」
20年生きれば「猫又になる」と

それも本当に昔の話
今では猫又年齢が珍しくないくらい15歳越えの長老組が増えている

うーん、人間だったら92歳のお年を召した方には「元気の秘訣は?」と聞かれるよね

長老、元気の秘訣は?
それとも、、、もしかして猫又になった?

No.137 15/01/18 08:07
匿名 



長老は見た感じは確かに毛ヅヤがなく、ガリなお年寄り…

猫缶も15歳以上のなめて食べられるペーストのものだったりするが、味が濃いもの方が鼻先をくすぐるのか、人間の食べ物にも最近では、興味を持つようになってきていた

もちろん、あげないけれどご相伴あずかろうと、家族の食事中に誰かしらの膝に乗る

そうして箸の動く先をジッと目で追ったり、ときどき、丸っこい手の先がそろりそろりとテーブルに伸びる

大抵は「長老!」と言われ、仕方なしに手を引っ込める

が、また誰も見ていないだろう気付かないだろうと、可愛い手がそろりと出てくる

その動きが家族の笑いを誘う

No.138 15/01/18 08:34
匿名 



長老の可愛い手そろりが当たり前になってきた頃、とうとう長老が猫又になる

ある晩、食卓には晩酌のおつまみに焼き鳥が出ていた

皮、ねぎま、レバー、ももとあったがするりとももを口にくわえ、タッとテーブルからジャンプしたのである

一緒、何が起きたか分からず、ただ長老がテーブルから落ちたように感じた

「長老?」

座り込んでる長老をどうしたのかと思い、のぞきこむと前足で串を器用に押さえ込み、もも肉をむしゃむしゃと食べているではないか!

「長老⁉︎」

慌てて焼き鳥をのせた皿を見ると、確かにももが一本ない

「長老!」

今まで一度も人間の食事をとることのなかった長老にただただびっくり‼︎

すぐに焼き鳥は取り上げられ、ニャーニャーと返せ!と言わんばかりの長老の、お年寄りには思えない素早すぎる動きに呆気に取られてた

それから、夫と顔を見合わせ、笑った

No.139 15/01/21 15:47
匿名 



全く長老は…^_^と思えていたのはその日くらいだった
長老が味をしめたのである

それから晩ご飯どきには誰かしらの膝にのり、ご相伴ではなく、美味しい食事をあずかろうと目をテーブルに向けている

隙あらば、カレイの干物でもちくわでもとり肉でもカニカマでも…何でも手を出し、何でもかじろうとする

これには家族で辟易した

何度か膝から降ろしたが、すぐにぴょんとのる

じゃあと先に長老のご飯をあげて、お腹を満腹にしてみても、やっぱり、ひざにのる
そしてねだる

ダメダメと言ってもニャーニャーニャーとしつこいくらいに鳴く
手を伸ばす

本当に家族がゆっくりご飯を食べるなんて、程遠くなってしまった

No.140 15/01/23 15:21
匿名 



92歳のお年寄りを前に苦肉の策もない

「長老、さっき食べたよ?」

と言ってみても、ソウカニャー?と首を傾げるでもなく、むしろ美味しいものをくれるまで動かない頑固さを見せる

「長老…」

こちらはため息が出る
猫又になって、本当にしゃべるようになったらどんなにラクか?

長老の健康に嗜好に遊びに昼寝に…たくさん聞きたいことがあって、長老がして欲しいこともきっと教えてもらえる

長老にはいつまでもいつまでも元気でいてもらいたいから

だから、90歳を過ぎた辺りからは老年期真っ盛りで人間の言葉が話せるように、齋藤獣医にその方法を探して欲しい!

猫又になる術
尻尾の先が二股になればいいらしいが長老にはその気はないようだ

また私の顔を見上げて、おねだりしてる

「長老?そんなに食べたら吐いちゃよ?」

私は長老の骨ばったゴツゴツの身体を撫でた

「ニャーン」

とても良いお返事をしてくれた
だけど、またご飯をねだりに来る

これが今の私の日常である





【齋藤式 猫の年齢換算法】完

No.141 15/01/25 18:23
匿名 



【ボーイ ミーツ ミセス】

まさかの引越し…
それに伴って春から始めたバイトを辞めることになった

が、仕方ない
一緒に住んでいた兄の職場が都内で、朝も夜もない仕事にいちいち部屋に帰る時間もなく、そのため住居も同じ区に変えるのだ

兄と一緒に住むことを条件に東京の大学に出してもらえた俺にしてみると、自分が通う大学が遠くなるものの、仕事をして自分の身を立ててる兄に甘えているが、家賃は兄が出してくれている

親にしてみれば、俺も一人暮らしをさせるよりは負担が減るし、一緒に住むことで、なんだかんだ兄の暴走の歯止め役にしているのだろう

彼女のひとりやふたり…とも思うが、兄は今は仕事一筋!彼女を作る時間もないし、惜しいと言っていた

実際、新しい部屋に移ってから、大学に通うのも1時間半以上、かかる

反対に言えば、今までは兄が通勤していたのだ
終電ギリギリや会社や漫喫で寝泊まりする日も確かにあった

学生の俺の方がまだ時間の余裕はあるかと思う

まさかの引越し…
だけどそれは仕方のないこと

No.142 15/01/30 16:39
匿名 


大学に入学とともに近くの大型スーパーでバイトを始めた

夕方から閉店まで
学生バイトが多い中、社員さんやそれこそ俺くらいの子どもを持つパートさんもいた

俺はそこでレジ担当をしていたが、始めた頃はホントに右も左も分からず、レジ用語やレジ指導をチーフや社員の人、パートのミセスたちが丁寧に教えてくれた

ひとつひとつの単語や動作に意味はあるのだが、まだ慣れていない時間や場所、バイトに緊張し、俺はメモ紙にメモるだけで精いっぱいだった

バイトは週3日ほどで入っていた
しばらくするとそこで会う人たちにも慣れ、名前も顔も一致する頃には雑談もできるようになっていた

No.143 15/01/30 20:56
匿名 



夕方からのかき入れ時と閉店前の駆け込みとなかなかの忙しさに体も神経もついていけるようになると、だいぶ楽になる

少しずつ余裕も出てくると、教えてもらえることがまた少しずつ増えた

最初に教えてもらったレジ用語や行動が道すじが立ったものだとだんだん分かってくる

そうなって自分ができることが増え、慣れて来て、ちょろいぜ!と思っているとやらかすのが高額不足金である

声出しをしてきちんと確認しているのにも関わらず、どこかで気の抜けた間が出来てしまうのだろう

つと、俺もやってしまった

No.144 15/01/30 23:57
匿名 



金庫室で自分のドロワの清算をする
今日の売り上げの総合計と実際の金銭の収支が合ってるかどうか、俺は余裕綽々で画面の前に立っていた

”過不足0”がいちばんなのだが、この日は違っていた

「ー500」の画面表示!
全く身に覚えがない…

「自分が入っていたところを探しておいで」

金庫室にいたチーフの佐々木さんに言われる

さっきまでいたレジに戻り、キャッシャー周辺を探しているとサービスカウンターにいた社員の宮崎さんが声をかけてくれる

「佐々木さんに言われたんだけど、出しちゃったんだって?慣れてくる頃にやるから、みんな」

一緒に見落としがないか、探してくれる

「1円でもあればいいんだけど」

宮崎さんがキャッシャー台も持ち上げて見てくれた

お客様との金銭の受け渡しは一回一回確認しながらしているし、落としてしまったなんて覚えもない
だからよけいにそんなところにあるのか?と思ってしまう

「隙間に入ることってあるよー」

とチェッカー台の下も動かしてみると、ひょっこり出てきた…10円玉が

「あ、あったよ、良かったね」

なんか素直に喜べない…今日の売り上げにー500を出してしまった自分なのに、やっぱり覚えのない10円が出てきたからって‘はい、俺が落としました’とは思えなかったし、良かったとも思えなかった

過不足金は出さないし、確認をきちんとすれば出ないもの

俺の単純なミスをたまたま出てきた10円玉に助けてもらうのか?

「500円以上だと、始末書だよ?」

宮崎さんが少したしなめるように言い、俺は複雑な気持ちでその10円玉を受け取った


No.145 15/01/31 10:00
匿名 



金庫室に戻り、宮崎さんが見つけてくれた10円玉を佐々木さんに渡した

清算機に10円を入れ、またやり直し
画面にはー490の過不足金が表示される

「今回は始末書は書かないけど、今後、気をつけてね。位ごとに確認をして」

「すみませんでした」

「みんな一度はするから、これから頑張って。お疲れさま」

「…お疲れさまです」

男子更衣室でひとりになってから、俺は
ものすごく凹んだ

深いため息をついた

No.146 15/01/31 16:56
匿名 



お客様が買い物されたものをひとつひとつスキャンしながら、会計をする作業の中で、自分の未熟さから失敗してしまうことがある

それは徐々に少なくなり、ほとんどミスはなくなってきた

その中での今回の過不足金を出したことは初めてということあり、かなりのショックだ

気持ちがしぼんだまま、着替えをし、更衣室から出る

今日は早めに休むとしよう
二十歳になっていれば、お酒の力を借りて今日のことは忘れたいくらいだ

通用口から出て、もう暗い夜の中、ぽっかりと浮かんだ月を見上げた

とにかく、明日からはひとつひとつを丁寧に、確認をきっちりしよう!

俺は頑張るゾ!と握りこぶしを胸のまえで作る

「ヨシ!」

と、声に出すと明日からまた頑張れそうな気がした

No.147 15/01/31 17:20
匿名 


翌日は大学でずっとぼんやりしてた

6月ともなれば、だいぶ友だちやサークル、部活動を通じて仲良くつるむ仲間もできる

俺は特にサークルには興味もなく、部活動にも入ってなかったから、仲のいい友だちはいなかった

何度か同じ講義室で会う顔馴染みができたくらいで、別段、不都合はなかった

お昼の時間も学食やコンビニで簡単に済まし、空き時間同様、図書館で時間を有効に使った

仲のいい友だちがいたら、きっともっと楽しいのだろうが積極的に欲しいとは思わなかった

ひとりでも寂しさは感じず、むしろ振り回されることなく快適なくらい…俺のキャンパスライフ

No.148 15/01/31 18:03
匿名 



大学からバイト先へ

夕方から入るのが普通になり、ここが自分の居場所のひとつになっていたのは確かだ

大学にいるときよりも自分の存在感を確かに感じる

生き生きしてるかもしれない

周りが同じ学生バイトであっても、むしろ社員さんやパートのミセスたちと話すことが多い

休憩時間に少し、仕事上がりに雑談したり、そのせいか任せてもらえる仕事も他の学生バイトの人たちよりははるかに多かった

気が楽だったのもある
どんな話でも笑って聞いてくれたから

No.149 15/02/06 22:13
匿名 



俺がバイトを始めてからも新しいバイトやパートの人は入ってきていた

同じ大学生や既婚のミセスたちで…レジ部門は昼間がミセス、夕方からは大学生と仕事のできる時間帯がはっきり分かれた

新しく入った人たちはレジ周りの雑用から始まり、カゴ出し戻しやゴミの片付け、買わなかった商品の戻しや清掃をして緊張をほぐしてから、レジの練習…2人制を経験する

チェックとキャッシャーに分かれて、商品をスキャンして精算済みのカゴに移して行く作業をしていく

そこで値引き品や精算済みカゴにどう商品を入れていくかを学ぶのだ

食料品や雑貨は別、柔らかいパンやお菓子は上、お弁当にお箸をつけるか、破れてしまった商品のお取り替え、卵やお肉を下に入れないなど身を持って覚える

飲み込みの早い人、ゆっくりな人はいるが大抵は3週間もしないうちに、今度はキャッシャー、お客様とのお金のやり取りに移っていく

No.150 15/02/07 10:14
匿名 



実際に金種に分かれた小銭、5千円、千円のお札を自分の手元で扱う
今は自動精算のキャッシャー台の最新鋭もあるが、俺の勤めるディスカウントスーパーは人による人の目で行なうひと昔前のものだった

だから高額不足金が出る…と思ったところでも、皆、5時間、8時間と勤務しても過不足0が普通だったから、なんて人の能力は高いんだろうと感心した

お客様との言葉のやり取りの中でも大事になるのがアイコンタクトで、預かったお金、お釣りの確認には一緒に確認する意味もある

2人制のキャッシャーに入り、付いてくれている人に監督になり、お金を扱うことになれてくると今度は「研修中」をアピールしながら、ひとりでレジを担当する

それでもしばらくはベテランのミセスがついているからまだ1人じゃないが、ひとりレジになるのはそう時間はかからないのだ

俺が春からバイトを始め、半年も過ぎた頃、また新しいミセスが入ってきた

No.151 15/02/08 21:13
匿名 



そのミセスは篠崎さんと言った

勤務は夕方からの時間帯らしく、週3で姿を見るようになった

新人さんが行なういつもの研修に入る…ただ違ったのは3週間くらいで終わる研修が篠崎さんの場合、チェックを1ヶ月していた

とても稀なケース…篠崎さんがゆっくり覚える人ではなく、彼女に教えられる社員の人やベテランミセスが夕方からの時間帯にはなかなかいなかったのだ

タイミングを合わせて、社員の人がつこうとしても夕方のディスカウントスーパーの混み具合に左右され、篠崎さんの勤務時間中には十分な研修時間が取れなかった

だから、よく2人制をしていた

俺はバイトだから、その2人制で一緒になることはなく、パート社員と呼ばれるミセスたちと組んでいた

バイト諸君では責任が取れないからがいちばんの理由だった

No.152 15/02/17 15:19
匿名 



バイトの時間帯に篠崎さんの姿や後から入った他のバイトの人たちの姿にも慣れてきた頃、ふと声をかけられた

「2人制、お願いします」

ちょこんと篠崎さんが隣に入る
俺は会釈をして、サービスカウンターにいる宮崎さんを見た

お願いするような表情で俺を見てくる

バイト諸君のところは…と左右のレジを見ると、今日に限ってバイトだらけだった

篠崎さんがスキャンして渡してくる品物を俺は受け取りながら、俺よりはるかに小さい篠崎さんに教えなきゃ…の気持ちが出てきた

No.153 15/02/17 22:11
匿名 



篠崎さんはお子さんが2人いる

ときどき上がりの後に子どもと一緒に待ち合わせをして、買い物をして帰るのを見かけていた

お子さんは中学生くらいだろうか?

だけど、このバイト先でミセスでお子さんがいる人なんてたくさんいる

歳だって俺と同じ大学生もいれば、ホントに低学年の小学生もいる

もっと言えば、俺のお袋だって、こんなデカイ子どものいるミセスになる

同じなんだよなぁーとぼんやり思った


No.154 15/02/20 16:11
匿名 



篠崎さんの何が気になるでもない

何をとっても、今までの誰とも同じ
宮崎さんやチーフやバイト仲間、ミセスたちと同じ

ただ一度だけ、2人制で俺と組んだだけ
俺が教える側に、なっただけ

No.155 15/02/21 20:43
匿名 



篠崎さんを目で追うことが多くなった

週3の篠崎さんのシフトに普通にかぶる俺のバイト時間

篠崎さんの入るレジの前だったり、後ろだったり…偶然なだけなのに彼女が近くにいると困った時に助けてあげられると思ってしまう

篠崎さんがレジ対応で困ったり、戸惑ったりしたときに呼ぶ「サービスさん」の声につい反応してしまう

商品をスキャンしながら、お釣りの確認をしながら、篠崎さんの声や動きに反応してしまう自分がいた

俺が篠崎さんの新人研修をしているわけでもないのに…俺の目の届くところにいて欲しかった

No.156 15/02/23 15:14
匿名 



少しずつ、自分でも篠崎さんを目で追ってる自分に気付き始めたころ、兄から引越しのことを言われた

え?引越し……

正直、イヤだった

大学にも慣れ、講義にもなれ、行き交う人の姿にも慣れたのに

バイトにも、ここで会う人たちにも慣れてきたのに

「ここからどこに?」
「大森…、悪りぃな」

兄がネクタイを緩めながら言う

「オレがムリになった」

聞き分けがいいとかそういうことじゃなく、兄のあまりに疲れた様子に仕方がないんだと理解した

No.157 15/03/04 07:59
匿名 



俺が驚いた顔をしていると、兄がフッと笑った

「別に大学を辞めろとは言ってないぞ。ただ通うのが遠くなるだけだ」

俺は兄の顔をジッと見て、ああと頷いた

俺は何にショックを受けたのだろう?

これから長くなる通学?慣れた環境?張り切って頑張っていたのでバイト?

No.158 15/03/04 09:11
匿名 



次のバイトのときにチーフに辞めることを伝えた

「え?辞めるの?大学はこっちだから続けられない?」

俺は一瞬、考えてみたがすぐに

「無理、です。ラストまでいて大森に帰ると24時超えてしまう…ので」

「時間を4時間にしても?」

「その帰りが2時間、かかります」

困った顔で俺はいたと思う
チーフはうーんと(・_・;と唸って、

「きみの穴は大きいなぁ…でも、あまり引き留めてもよくないね」

少し考えていたチーフは困ったように笑ってから、

「いつが引越し?それまでは時間が許す限り、バリバリ働いてもらおうかな!」

俺は笑って、ハイと答えた

No.159 15/03/27 11:43
匿名 



チーフは時間が許す限りと言っていたが実際は今まで通りで変わらず、むしろ、レジに入るよりサービスカウンターで過ごすことが多くなった

手元での作業や掃除、カゴ戻しなどをしながら、社員さんやミセスたちと代わる代わる話をする

どの人も俺が辞めることを知っていて、今までのことやこれからのことを聞いて頑張れ!と応援してくれた

そのひとつひとつの言葉に俺は有難いなと思った

バイトを始めて半年、自分の都合とはいえ、辞める俺に暖かく接してくれ、学生の身分なのに信頼してもらい、領分外の仕事も任せてくれた

頑張ったんだなと思った

No.160 15/03/28 08:10
匿名 


バイトを辞める当日、俺は30分早くに仕事に出る

夕方のレジ混雑時にはレジに入ったが、あとはいつも通り、サービスカウンターにいた

今日は篠崎さんも仕事の日
サービスカウンターと向かい合わせなレジ列で、ここからはみんなやお客様の動き、様子がよく見える

「今日で最後だね」

遅番のチーフが休憩上がりにサービスカウンターに来て、俺に言う

「お世話になりました」

「締めまでお願いね。20歳になってれば帰りに飲みに行こうってさそえるんだけど」

チーフが笑った

「まだダメですねー」

駐車券対応やカゴ戻し、キャンセル品の戻しをしながら、俺はゆっくりと最後のバイト時間を過ごす

そのうちに篠崎さんの仕事上がりの時間になった

No.161 15/03/30 08:59
匿名 



ドロワを持った篠崎さんがサービスカウンターに来た

「清算です。お疲れさま」

「お疲れさまです」

篠崎さんがサービスカウンターにいる俺に会釈をしてくれる

「お疲れさまです」

それだけでただ通り過ぎる篠崎さんに俺は声をかけた

「篠崎さん、俺、今日で終わりなんです」

その声で篠崎さんが振り返った

「今までありがとうございました」

俺の言葉に篠崎さんはびっくりした様子で、それでもすぐに

「色々お世話になりました。こちらこそありがとうございました」

篠崎さんの、ミセスの対応…

















それは当たり前の社交辞令

No.162 15/03/30 09:13
匿名 



篠崎さんが仕事を上がり、しばらくするとチーフが入る?と聞いてきた

それほど混んではいないが、自分が仕事をしてきたレジ列を見渡す

「入ります」

そうチーフに言うと、肩の力がスッと抜けた気がした

No.163 15/03/30 12:01
匿名 



順々に並んでいるお客様のカゴを流しながら、自分が頑張ってやってきたことの自信が内なる中にしっかりとあると感じていた

手応えのようなもの

半年という短い期間ではあったものの、失敗したり、少しイヤに思うときもあったけれど、それでもここで過ごした時間は自分の成長になったと思う

「いらっしゃいませ」

次のカゴを手にして、お客様の顔を見ると、それは篠崎さんだった

No.164 15/03/30 12:30
匿名 



「お疲れさまです」

篠崎さんの買い物カゴの商品をスキャンしながら

「お疲れさまです」

と返した

「今日、最後だって聞いたから並んでみました」

ニコと笑った篠崎さん
自分のレジを選んで並んでくれた篠崎さんにさっき肩の力が抜けた俺なのに、今度は胸に熱いものを感じた

「ありがとう」

素直な気持ちが言葉に出た

「困っていたときに助けてもらってましたから、こちらこそ、ありがとうございました」

「俺の方こそ、まだ半年そこそこなのに人に教えるとか、ナイですよね」

「そんなことはないですよ。私はすごく頼りに感じていましたから」

俺のレジ清算は早い…それはいつも周りからもお客様からも言われていた
それが誇らしいときもあったが今はそれが恨めしい

もう終わってしまう、篠崎さんとの時間が………

「2660円になります」

「はい…じゃ、2700円で」

「2700円、お預かりします」

キャッシャーでの清算を済ませ、40円のお釣りを篠崎さんに渡した

「大学はこっちだから、顔を出します」

「ぜひ、そうして下さいね。ありがとう、お疲れさまです」

それが篠崎さんとの最後
俺はすぐに次のお客様を迎える

短い時間の会話だったけれど、気持ちがすごくスッキリした

俺はずっと篠崎さんと話がしたかったんだな…なんでもないことでもいいから

No.165 15/03/30 14:31
匿名 



それから1ヶ月くらいして、俺は大学帰りにひょっこりとバイト先に顔を出した…クッキーのお土産を持って

「お久しぶりです」

サービスカウンターに顔を出すと遅番出のチーフがいた
俺を見ると明るく迎えてくれ、嬉しそうに笑ってくれる

「久しぶりだね、元気にしてた?」

「はい、皆さんもお元気でしたか?」

「相変わらずだよ、今日もいつもと同じ」

視線をレジ列に移すと、自分がいた頃と変わらない
どのレジもお客様がカゴいっぱいにして並んでいた

「篠崎さんは今日のシフトじゃないよ」

何気なくチーフからそう言われたが、俺自身、それを分かって顔を出したのだ

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

俺は苦笑いをした

「そんなに分かり易かったですかね?」

「まぁ、あんなに見てれば」

チーフはイタズラっぽく笑い、

「気付いてる人はいないだろうから、大丈夫だよ」

チーフを見ると口に人差し指を立て、シィとしてる

俺はそんなチーフを見て、笑ってしまった

サービスカウンターにお客様が来て、チーフは商品の発注やら駐車券の対応に追われる
夕方の混雑時間を迎え、ストアの中が一気に活気づき、忙しくなった

俺はその雰囲気を懐かしく思い、篠崎さんのいない日を選んで良かったと思う

俺はやっぱり、このバイト先が好きだ

雰囲気も忙しさも人の流れも…
今日もいつもと変わらず、皆、頑張っている

しばらくサービスカウンター付近にいたが電話で話をしているチーフに目でお礼を言い、会釈をしてバイト先を後にした

もうここには来ない予感が俺にはある

俺はここでミセスに会った
ただそれだけだから







【ボーイ ミーツ ミセス】完

No.166 15/03/31 10:28
匿名 


【soulmate❷】


パートから戻り、私は買い物をしてきたものを冷蔵庫にしまう。
5月の風薫る季節が過ぎ、少し湿った空気が肌にまとわりつく。もうすぐ梅雨入りの時期。

一人娘のるーが「ただいまー」と帰ってきた。すぐに放り出すランドセル。
紫色でピンクのスティッチ、買ったばかりの頃は小さなるーの背中にあって、夢が詰まっていた。あの頃のランドセルが懐かしすぎる 。
るーのランドセルをいつものように開け、宿題ファイルを取り出す。

「るー、宿題」

日課となった言葉がけ。

「んー」

お気に入りカバンから3DSを取り出し、入ってるカセットを確認しているようだった。

話を聞いてないと思って、少しイラッと来た。

「るー!聞いてる?また東先生に怒られるよ‼︎」

ムカムカしてくる。こんなイラつく自分がイヤ。だけど止まらない。

「るー、聞いてる?宿題、やるんだよ。時間かかるんだから」

秋本 瑠夏 (るか)小学1年生。
ピカピカな期待と希望でいっぱいの春を迎えたのに、もう挫折感いっぱい。

1年生ってもっと……可愛らしいものだと思ってた。なのに私は毎日、怒ってる。

No.167 15/04/03 08:24
匿名 



去年の10月、教育センターの人と一緒に家からいちばん近い小学校の支援級をるーと見学体験した。

朝学活から2時間ほど、どんな勉強でどんな雰囲気なのか、どんな子どもたちがいて、またどんな先生たちなのかをじっくり見学をする。

教育センターの人には

「瑠夏さんがここにいたら、どんなだろう?と想像しながら見てください」

と言われていた。

もちろん見学体験だから、幼稚園の年長だった瑠夏は体験に入り、30人ほどの学級の前で自分の名前を言ってあいさつをする。

最初は照れていたけれど、憧れの小学校、自分は幼稚園のお友だちよりひと足早く、体験できることに軽く興奮していた。

「秋本 瑠夏。年長さんです」

そう言っただけでも、みんなから大きな拍手をもらえ、るーはその反応に最初はびっくりしたものの、すぐににーッ!と満面の笑みを浮かべる。

見学してる私の緊張もその笑みで少しほどけた気がした。

No.168 15/04/03 11:23
匿名 


「さぁ、瑠夏さんはこの席に座って」

先生がひとつ椅子を用意してくれた。学級の子どもたちが集まっての朝学活、自分の椅子を持って来て5ずつ6列と整然と並んで、低学年から座っている。

「日直さんが1年生から名前を呼びます。瑠夏さんは順番に隣が呼ばれたら元気よく返事をして下さい」

椅子に座ったるーに屈んで、そう伝えてくれたのはまだ若い男の先生。背の高い痩身、見た感じ良さそうな印象。

「今日の日直さんは井坂 まなびくんです」

まだ低学年の子のようで、名前を呼ばれて元気よく返事をし、立ち上がった。

その子が順々に一人ひとりの顔を見て名前を呼ぶと、次々に元気な返事が返ってきた。るーも瑠夏さんと呼ばれるとみんなの元気に負けずに大きな声でハイッと言った。

さっきの先生がニコといい返事ですね!と言ってくれ、私もくすぐったくなる。

こんな居心地の良さは私も久しぶりだった。幼稚園の参観日などはいつも私は下を向いていたように思う。るーは何も悪くないのに……。

No.169 15/04/03 11:43
匿名 



最後の子まで来ると日直さんの子はくるりと男の先生を見て、軽く敬礼!

「みんな元気です!お休みは6年生の優木くんです」

ピッと敬礼から直ると、スタスタと自分の席に戻る。

どの先生も苦笑混じりで

「まなびくん、日直ありがとう。でも敬礼はいらないからね」

子どもたちの間からもププ…と笑い声が聞こえた。

なんか、あったかいなぁと見ていて、私は思った。

るーもこういうところがいいのかもしれない。普通級でも、、、と思うけれど、みんなで見守ってくれて、一人ひとりを大事にしてくれそう…。

ほんわかしてしまった。

だけど、私は見落としてしまったのである。先生たち5人の他に支援員の先生が2人、そこにあとひとり。

私はほんわかした空気の中、ひとりだけ様子の違う人を…神谷 優木、その子のお母さんだった。

No.170 15/05/02 07:37
匿名 



主です。
すみません、ちょっと休みます。

No.171 15/05/05 23:29
匿名 



主です。

ここまで書いてきましたが主の事情によりこれより先を書けなくなりました。
読んでくれていた方がいましたら申し訳ありません。
今までありがとうございました。

No.172 16/05/05 22:39
匿名 



こんばんは

久しぶりにのぞいてみたら
前レスからちょうど1年でした

びっくり!(´・Д・)



また書こうかな…
でもsoulmate❷の続きは書けません
ゴメンなさい>_<

気長に
暇つぶしに
温かい目でお立ち寄りください(^_^*)

よろしくお願いします

No.173 16/06/08 13:03
匿名 



ひさびさです

毎話プロットは立ててないので、話の筋が通らないところがあるかもしれませんが、どうぞ見逃してください(*^_^*)

なにぶん素人ですので、、、
よろしくお願いしますm(_ _)m

No.174 16/06/08 13:31
匿名 



【ハナミズキ】


「何で貴女がね、ずっと好きなのか……」

紫穂(しほ)さんが私を見据えて言ってくる

「何もなかったんでしょ?」

私はちょっと目を逸らしながら、ただうなずいた

「…紫穂さんとこみたいには何もないよ」

自分でそう言いながら、やはり“何もなかった”ことに今までと同じに傷付いてしまった

生ビールのジョッキ、2杯目
若い時ほど飲めなくなり、ゆっくりとおしゃべりしながら、久しぶりの再会が嬉しくて楽しくて時間が過ぎる

私と紫穂さんが会えば、当然、話題はひとつ
それでも紫穂さんとこんな風に会うのは、7年ぶりくらいだろうか?

あれから
もう7年…
まだ7年…

そんな時間が流れた久しぶりの再会、、、私が仕事を辞めて転職した先に紫穂さんが偶然、来て、、、アノコトで話をしていたのは紫穂さんだけだから、、、プチ女子会になったのだ

No.175 16/06/08 14:17
匿名 



紫穂さんとアノコトの話をしていると、感傷的な気持ちになり、ビールを一口ゴクリ!というよりかは口にふくんでゆっくりと喉の奥に流した

…苦かった

注文してあったポテトにケチャップを付け、パクリ
ふぅ、、、

「キョドリすぎ!」

紫穂さんが笑う
私はこういう話を明け透けなくできず、ものすごく恥ずかしいか罪悪感がハンパなくなる

感傷的な気持ちになったのを紫穂さんのひと言で今度はどうしようもなく、身体が火照る

「紫穂さんは、あれからは?」

私も聞いてみる
自家製ポテトサラダを取り分けてくれてる紫穂さんはううんと照れるわけでもなく、以前と変わらず

「結婚してね、それからは何もないよ」

私の前にポテトサラダを置いてから、ニコッと笑った

「だってもう30手前だよ。ちゃんと身を固めた方がいいって」

「異動して、1回は顔を出してくれて、2人で飲む話も出たし、連絡も取り合ってたけど実現しなかった。。。去年かな、結婚したって。もういい歳なんだもの、そうでなきゃね!」

結婚したんだ、、、

「そういう出会いがあって良かったんだし、アタシはホントに幸せを願ってる」

「貴女もそうでしょ⁉︎」

相手の幸せを願う
ずっとずっとそうだよ

そうだけど、、、

「……私、まだ好きだよ、、、」

そう言葉にすると込み上げてくるものがあり、涙が、、、

「もう!泣かないの‼︎」

「だって何もなかったのにさ、まだ好きってオカシイじゃん‼︎紫穂さんみたいに色々あれば分かるけど、私、幸せな記憶、何にもないよ」

ハンカチをカバンから出す暇もなく、涙がこぼれ落ちた



No.176 16/06/09 15:31
匿名 



ハンカチを取り出し、目元を軽く押さえる
鼻もくすんとすすり上げた

「ホーント、好きだよねー」

長くを吐くかのように紫穂さんがつぶやく

「名前だけだっけ?歳は?」

「…同い年なんだけど、学年がひとつ上だった」

「ふーん、、、でも同い年っていいよね!アタシなんか14も違う‼︎もう何しても可愛くってさ☆」

紫穂さんはニヤニヤっとした
それからクフフと頬杖をついて、あの頃を思い出してるのだろうか、少し遠い目をした

「何、思い出してるの?…顔がニヤけまくってるよ〜」

「やぁだ♡、、、うん、ちょっとね♡♡♡」

ああ、♡が飛びまくってる( ´Д`)

いいな、いいな
私も♡飛ばしたい

だけど、ホント、何もなかったんだよね

紫穂さんのニヤけぶりに私ははぁ〜とため息

「あーーー、私も恋したい」

大きくひとりごちた

No.177 16/06/29 11:12
匿名 



紫穂さんとの久しぶりの再会で静かに封印していた想いがにわかに熱を帯びてくるのが分かった

私の中のあの人への想い

長く長くこんなにも長い時間、ホントに何もないのに好きで好きで、、、ただただ愛してる







こんな自分の気持ちにあまりにオカシイと自分自身が気付いたのは去年だった

朝、目覚めたときからあの人に心の中で話しかけている
昼間も夜も、明け方や寝入る前の夢うつつな時間でさえ、私はあの人が当たり前に自分の側にいるかのように感じ、それが当然だった

それがある日、あの人の声も姿も温もりも全く自分の側にはないことに気付いたのだ

あれ?あの人は?
いないよ、、、

現実にはお互いに家庭があり、7年も前から一緒にはというか、最初から私の側にはいなかった

それなのに、毎日、愛してるあの人と一緒にいる感覚を感じているなんて、私の頭はオカシイとようやく分かった

No.178 16/06/29 11:42
匿名 



あの人への想いを断ち切るには新しい恋!

そんな図式が私の中にはあり、紫穂さんの♡が飛び交うニヤけぶりにそうひとりごちたのも無理はなかった

「だけどさ、そこまで好きなんだからよっぽど前世の縁が強かったんだね!」

紫穂さんがようやくこっちに戻ってきて、笑った

「そういう前世でした約束もロマンチックじゃない?」

「…来世でも会おう的な?」

紫穂さんは乙女チックな甘い恋の話に同調して目をキラキラと輝かせ、うっとりとした
まるでウブな初恋しか知らない女の子の顔で幻想に酔いしれてる

「あー、ハイハイ。確かに会えましたねー」

私はふてくされた

そりゃあ、バカみたいにずっと恋してますよ⁉︎
好きですよ、ずっと

だけどさぁ、前世からの縁ならちゃんと一緒になるんじゃない⁉︎
あなたと離れたら死んじゃう…(T ^ T)みたいな男女の仲だったら、もうちょっとこう、ドラマみたいに盛り上がってもいいんじゃない?

頼んだ漬け物をパリパリと食べ、生ビールをゴキュゴキュと飲み干した

「イヤン、そんな色気なしじゃ新しい恋も出来なくてよ☆」

そう言いながらWink☆をしてくる紫穂さんに軽く怒りが沸くのは私だけじゃないと思う

No.179 16/06/29 12:10
匿名 



紫穂さんと熱い交流の後、しばらくは新しい仕事に精を出した

以前に比べたら仕事内容も単純
ネジにボルトを付けるような作業を繰り返し繰り返し、時間が来れば終わる

ボルトの太さが違うから1本1本合うようにボルトを選ぶ正確さは必要ではあるがどんどんそこから仕事が片付づいていくのは楽だった

以前は毎日何かしらが起こる中で、自分の頭をフル回転させてその場その場で解決し、またそこからの成長を見出していくような仕事で、忙しい時間が生きがいとかステイタスとか思って、蓄積されたストレスや疲れを見ないで頑張ってきたんだよね

まぁ、あんなことがなければ今みたいなゆっくりした時間は得られないけど…ようは自分のキャパを超え、私は倒れたのだ

朝に家族のお弁当を作り見送り、掃除や家事をし仕事に行き、14時には戻り、洗濯物を取り込みたたみ、お風呂の用意や晩ご飯を作り、家族の帰りを待つ

今はこんな感じ
だけど、コレもなかなか気に入ってる

だってあんなに好きで好きで頭から離れなかったあの人を想うことがなくなってきたんだもの

家族を大切にする
自分と向き合う時間
あの人への想い(執着心)をなくす

今はホントにコレができているから
私は今の自分が好き

No.180 16/06/29 13:04
匿名 



ツバメが低く飛び交う季節

ある日、仕事から帰宅した旦那が晩ご飯を食べながら

「なぁ、旅行にでも行かないか?」

と言い出した

「…どうしたの?急に」

晩ご飯後の旦那の晩酌の用意をしながら、私は聞き返した

「いや、今までオレもお前も仕事が忙しくて家族で旅行に出ることなかったじゃないか。それにお前が入院してさ、オレ、思ったんだ。今まで家族らしいことなかったなって」

旦那がハシを止める

「お前が今すぐどうこうなる病気じゃなかったけど、今、お前がいなくなったら、何か、思い出というか、家族の時間ってあったのかな?って思ったんだ」

「ちょっと何でコロスの?(笑)」

「コロシてないよ!…ただ結子やみのりと家族で出かけただっていう記憶を残してもいいんじゃないかと」

何か私がいなくなる前提ぽい話なんですけど…(。-_-。)

冷奴と枝豆をトレイに載せ、テーブルに運ぶ
冷やした発泡酒も並べ、私も椅子に座った

「そうねぇ、お出かけや実家に帰るようなことはあったけど家族旅行っていうのはなかったよね。(私がいなくなる前提ぽいのは気になるけど)みんなで旅行に行きたいね」

私が旦那を見ると、旦那は安心したような顔をした

「…私が反対すると思ったの?」

「そうじゃないけど、何かしらの理由を言って断わるかなって」

まぁ、以前の私ならピキッと腹ただしさの琴線に触れていたかな?仕事優先だったしね

「私だって、点滴されながら病院の天井を見上げていれば、いろいろと考えます」

拗ねたように私はプイと横を向いた

手のかからなくなった結子とみのりもこれからは私たちから離れていくだろうし、こうして家族の思い出も作るのも大事かもしれない

子どもたちが大きくなるのは喜ばしいことだけど、これからは旦那とふたりの時間が確実に増えていく

家族として過ごす時間はもしかしたら限りがあるのかもしれない

「…家族旅行か」

私は目を伏せ小さく呟き、自分でも気付かない小さな小さなため息をついた

No.181 16/06/29 13:27
匿名 



〈今年の夏、友人の美術展に誘われ家族でnに行きました〉

そんなメールをあの人からもらったのは6年前くらいだろうか?
全くメールをくれないあの人から、来たと心躍らせればそんないち文だけ

nか、、、私の実家がある県のn
街の名前くらいは知ってるけど、どんなところかは知らない
家族旅行に行ったんだね




…私の小さな小さなため息…

No.182 16/06/29 14:00
匿名 



それから数日して旦那が会社の保養所を宿にしないかと言って来た

千葉、長野、神奈川、群馬の関東近郊に点在している保養所

「南房総か箱根がいいかな」

「大涌谷ってもう行けるの?」

「まだじゃないか?規制解除はされてるだろうけど黒タマゴは食べられないハズ」

テレビを見ていたみのりがこっちに振り向いて

「黒タマゴって何?」

と聞いて来た

大涌谷の硫黄泉でタマゴを茹でると殻が真っ黒になる
その黒タマゴを1個食べると寿命が7年延びると言われてる話をした

「みのりは行ったことなかったっけ?ああ、あのときはまだ私のお腹の中だわ」

もう14年も前になる
結子が3歳くらい

私は家族で揃って旅行に行ってないことをようやく思い出した

旦那の顔をつい見てしまう

みのりがソファからだらんと腕を垂らし

「ねぇねぇ、家族旅行なんでしょ?だったら私、温泉旅行がいい。みんなで浴衣着て、湯畑で写真を撮るの、良くない⁇」

「みのり、、、何の話だ?」

旦那が何のこっちゃ?とみのりに聞くとすぐにみのりはテレビを指差した

「これ、テルマエ・ロマエ!いいな、ここ行ってみたい♪」

あっけらかんとみのりは言い、私も旦那も呆気の取られた後、2人で笑い合う

テレビ画面には阿部寛が扮したローマ人シリウスと上戸彩のヒロイン真実の草津・湯畑をバックにしたシーンが映し出されていた

No.183 16/07/06 17:59
匿名 



家族旅行の行き先はみのりの提案により、草津になった

出発は1ヶ月後の8月6日から一泊二日

真夏に温泉?
お湯に入ってもかなり湯当たりが早く、温泉気分に浸れるか分からなかったが結子とみのりの部活動関係からそうなった

お盆が良かろうと思ったが帰省ラッシュに引っかかるのも癪で、子どもたちも国民大移動のときにわざわざ出かける必要はないと変な主張をした

お盆時期に閑散とした都内に友人と出かけたり、近い実家に立ち寄ることのほうがよほど有意義らしい

真夏の温泉って、ホント温泉たまごより早く茹で上がりそうだわ(´・_・`)

だけど、とても楽しみだ

No.184 16/07/27 10:34
匿名 



旦那がスマホを使ってサイトで湯畑付近の宿泊先を探し始めた

「あれ?会社の保養所じゃないの?」

晩ご飯を食べながらなので、いささか行儀が悪い、、、

「うん、そうなんだけど…そうすると湯畑から離れてて、みのりのいう浴衣で出かけられないんだよな。保養所から送迎バスはあるんだけど味気ないし」

ふーん…なんか良く分からない(´・_・`)
私も後で草津温泉を調べてみようかな

「保養所で食事のランクを選んでひとり1万円前後なら、湯畑近くで宿が取れるんだよね」

スマホとにらめっこをしている旦那
子どもたちは家族旅行がまだ先と思っているのか、同じリビングにいてものんきにテレビを見ている

「ちょっとー、テレビを見てるけどもう期末でしょう?テスト勉強は?」

「コレが終わったらするー(^_^)」
「期末、終わったー」

2人同時に言ってくる
みのりの方は先月末に終わったようだ
今年度から中間試験がなくなり、期末試験だけになっていた

結子もみのりと同じ中学校卒だが中間、期末とあり、春にその話を聞いたときにはズルい(T ^ T)と言っていたのだ

「えー、でも範囲は広いよ〜メンドウだよ」

2人してぶうぶう言い出し、やかましい!と思った

「結子、いつから?」

「明日と来週の月、火、水」

「お弁当は?」

「明日はいらない。あと月、火も。水曜日は部活があるから作って、、、下さい」

「お弁当いる、いらないは早めに言ってっていつも言ってるじゃない!」

私のイラっとしたオーラに結子は“下さい”と付け足す
お弁当作りが苦手な私は夜のうちに朝ごはんとお弁当用のおかずの下ごしらえを夜のうちにする

それは仕事が変わった今でも変わらない
時間に余裕のある朝に変わっても、やっぱりお弁当作りは苦手だった

私たちのやり取りに旦那があっ!と顔を上げる

「ゴメン、オレも弁当、いらない。明日、出張だった」

No.185 16/07/27 11:13
匿名 



仕事が終わって家の近くの食品ストアで買い物をする

仕事終わりはいつもお昼を過ぎているから、お腹が空いていて、ついよけいにお菓子やデザートを買ってしまうのがやっかいだ

野菜売り場でオクラを選んでいると、さっきまで仕事先で一緒だった志真(しま)くんが人なっこく声をかけてきた

志真くんはひと月前に入ったバイトの大学生
ときどき工程のグループになり、黙々と作業を進める

「お疲れさまです。買い物ですか?」

志真くんは並びのトマトの陳列棚で止まる

「…トマトってどれが美味しいですかね?」

大粒の色と形の良いトマトの箱売りや袋詰め、プチトマトのパック売り、1個売りのトマトまでさまざまある

トマト?

「志真くん、トマト好きなの?」

「はい」

たくさん並んでいるトマトを嬉しそうに見て、値段も手ごろな袋詰めを持ち上げた

「トマト、、、好きなんだ」

私が繰り返して言うと志真くんが不思議そうに私を見てきた

「好きですよ?普通に」

「あ、じゃあ、あそこの××ファームのトマトがいいんじゃない?」

すぐ近くに地元産の採れたて野菜を並べた一角があり、私はそれを指差した

志真くんはそれを見て、なんと目を輝かせた

「美味そう!」

ニコニコと嬉しそうに笑う

このコ、ひとり暮らしだっけ?
トマトひとつですご〜く喜んでる!
素直だ!いいコだなぁ
多分、結子と3つ違いくらい…じゃないのかな?

私は新鮮なトマトで喜ぶ志真くんにほんわかした気持ちを感じた

全く、結子なんてプチトマトをお弁当に入れても残してくるのに‼︎

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