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ももんが( PZ9M )
11/11/28 03:32(更新日時)

ねえ母さん
もう泣かないで…




僕は確かにいたんだ…




優しい母さんの声…


暖かい手のひらの温もり…





僕は母さんから命の旅の切符をもらったんだ。





母さん。



僕はちゃんと幸せだったよ。



短い間だったけど僕は確かに存在したんだ…





幸せな、柔らかい時間を…頑張って生き抜いたよ





だからもう泣いちゃだめだよ。



あ…
神様からの集合時間だ…



もういかなくちゃ。




母さん。




僕を…






僕を選んでくれてありがとう。










これは…
僕の幸せな幸せな物語。






短いけどたった一度…

願いは確かに叶ったんだよ。

No.1158756 08/11/07 22:04(スレ作成日時)

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No.101 08/11/14 19:29
ももんが ( PZ9M )

気がつくと僕は子供に戻りゆっくりと町中を走り抜けていた





お母さんのアパートの二階をすり抜けると一番左端の部屋に入った






お母さんは朝の支度をしている最中だった




近くで見るお母さんは可愛らしく優しい顔立ちだった






『お母さん』






待ちに待った瞬間




僕は後ろから両手を広げて抱きついた





何とも言えない


柔らかい感触だった




僕はそのまま
お母さんに吸い込まれるように


消えていった…





僕がお母さんの子供になった瞬間だった…







頭が雷にあったみたいにびりびりする




その瞬間



猛烈な眠気に教われて




僕はしばらく目を閉じた…

No.102 08/11/15 00:40
ももんが ( PZ9M )

どれ位たったのだろう




身体の中熱い…




何かが僕の近くで大きなうねりのように響いている…





何だろう…




おそらく今僕が聞いている音も感触も…



おっさんに届いているのだろうか…





あの不思議な力を借りて…







『ドッドッドッドッ…』




これは…





お母さんの命の音なんだろうか…



そう思いながらじっと耳をすませているとどこからかピアノの音が聞こえてきた




『大型バス~に乗ってます~』



誰かがテンポのよいピアノにあわせて信じられない位の音程で歌っていた




『なんだか道~が悪いので~』



そこまで歌うと誰かがそれを遮った



『春名せんせ!熱心ですね』




『…あ、こうちゃん先生。まだバカにしてますね。あたしの歌唱力』


『いや~春名センセはがんばり屋さんだもんなぁ。偉い偉い。ご褒美にキスしたくなっちゃうなぁ』

なんだ?



なんだ。この軽い男は。



お母さん。


まさかこの人がお父さんなの?




あり得ないな…


僕の父への第一印象は『かなり軽そうな人』だった

No.103 08/11/15 10:47
ももんが ( PZ9M )

『こうちゃん先生、職場だよ。園長先生もいるし慎んでお断りするね』



『あははは

ハルは本当に天然だなぁ。こんな所でキスなんかしませんよ。するならハルと二人きりじゃないとね』





お母さんの心臓がドキドキしている




やっぱりお父さんに間違いないみたいだ



お母さんは困ったように今日はちょっと体調悪いからごめんねとお父さんからの誘いを断った




『なんだ?お腹でもこわしたのか?


ハルはストレスに弱いからなぁ。しっかり腹巻きして寝るんだぞ』




『26歳になって腹巻きなんかしませんよ。ちょっと熱っぽいだけです、風邪気味みたい』




『そうか。大事にしろよ。今日が金曜日で良かったな、明日と明後日はゆっくりしとくんだぞ』





お父さんの声がお腹の中まで優しく響いた…

No.104 08/11/15 11:02
ももんが ( PZ9M )

お母さんはそれからお父さんと別れて信じられない位音痴な声でピアノの練習をした後




別の女の先生と何かをしきりに切っているようだ



リズムよく

シャキシャキ…

パチンパチン…




という音が聞こえる




僕は小さく丸まりながらお母さんの作るリズムに体を任せていた。





それからしばらく眠ったようで


気がつくと水の音がしていた





『ジャー…




ジャージャー…』



お風呂でも沸かしているんだろうか…




もう部屋に帰ったのかな…




音しか聞けないのもなかなか不便なもんだ



目が見えるのはやはりありがたいなぁ…




僕がそんな事を考えていると
体がブルブルと揺れた




『イタタタタ…


何だ何だ?
何が始まってんだ?』




『風呂だよ。お前の母ちゃん風呂に入って体洗ってんの』






おっさんの声が聞こえた





『おっさん…人のお母さんのお風呂覗かないでよ』




『違うわ!バカもん。お前の母ちゃんのベランダにいるんだよ。




まぁ…生着替えはみちゃったけどね~
なかなかナイスバディでしたなぁ

でも俺鳩だし~ごめんね~』




このエロ鳩

生まれたら覚えとけよ…

No.105 08/11/15 11:10
ももんが ( PZ9M )

体がだんだん暖まってお母さんのドキドキが早くなっていく




僕がお腹にいるなんて想像もしてないだろうなぁ




でも神様がお母さんに命の種を植えてもう1ヶ月と少しが経つ…





もうそろそろきがつく頃だろう…





その時
お母さんはびっくりするだろうな…






そして




困るだろうか…



それとも





喜んでくれるだろうか…





僕は後者の確率がない事を知りながらも



今はこの瞬間を




お母さんといる幸せを…




噛み締めていた…





『お母さん…
僕はここだよ…』





暖かいお母さんの体に揺られながら今までに感じたことのない幸せに





僕は感謝せずにはいられなかった

No.106 08/11/15 11:23
ももんが ( PZ9M )

『あ~さっぱりした、やっぱり1日頑張った後はお風呂に限りますな』





お母さんは満足したようで鼻歌混じりに体が揺れていた




おっさん


まさか今見てないよね



だめだからね





僕がそう話した瞬間だった





『うっ…何…



気持ち悪い…』




お母さんが走り出した




水をたくさん出している





僕は体を丸めながらお母さんの事が心配でならなかった




『びっくりした…



急に込み上げてきたから…



あたしやっぱり体調悪いんかな…




園長ストレスかな
今日は早く寝よう…』







お母さんは身の回りを片付けると体を横に向けて休んだ





おそらく

僕が居ることにより体に変化が出てきたのだろう…




お母さん
びっくりさせてごめんね





今日はゆっくり休んでね




僕も体がフワフワして眠くなってきた…

この体はすぐ疲れるのか非常に眠い…




『ちょっと待って』




お母さんがガバリと布団から起きたようだ




『あたし…今月生理きてない…?』



事態は急に動くようになった

No.107 08/11/15 21:18
ももんが ( PZ9M )

『うそ…
まさかね、だって避妊はちゃんと…



……』




お母さんがしばらく黙った





『どうしよう…




あたし…』





お母さんが



その『予感』に初めて触れて




お母さんは少し動揺しているようだった




僕は胸がチクリとした






お母さん
ごめんね




やっぱり僕は


ここに来なかった方が良かったんだろうか…




お母さんには迷惑なだけだったのかな…




ほんの少しへこんだ僕に




『へこんどる暇なんかないで、これからが正念場やぞ。しっかりせえよ』




おっさんの声が聞こえた





いつもはこにくたらしいおっさんも



今日は優しく感じてしまった




ありがとね
おっさん…

No.108 08/11/15 21:38
ももんが ( PZ9M )

次の日の朝



お母さんはいつもより早く起きていた






僕の方が少し寝坊気味だったみたいだ




お母さんは




今日ため息ばかりついていた





『ホントかな…』



『いるのかな…』





そればかりを繰り返していた







時折僕を撫でる手は優しくて





僕は泣きそうになった





僕の存在は




お母さんを悲しませるだけみたいだ…





わかっていた…






わかっていたけど…





実際に大好きな人が困っているのは




やっぱり悲しい事なんだな…





きっとはたから見たら情けない親子に見えるのだろうな…






『愛する人に愛される幸せ』




ホントだね




神様のいう通りだ





それって
一番贅沢な幸せなのかもしれない…






神様



僕はお母さんを幸せに出来るでしょうか…

No.109 08/11/16 03:09
ももんが ( PZ9M )

そうこうしているうちに周りが慌ただしくなった




どうやらお母さんはこれからどこかに出かけるらしい




どこへ行くのだろう…





『グチグチしててもしょうがない!…よし、行こう』

お母さんが気合いを入れている



何だろうか…


『カンカンカン…』




『カチャッ…』




自転車の鍵の音だろうか…




『…いいや、今日はバスで行こう』



お母さんはそういうと砂利道をゆっくり歩き出した





『…ねぇ、赤ちゃんがもしお腹にいるならさ





一番に喜んであげられなくてごめんね…




今からはっきりするからね…』




そう言って僕を撫でてくれた





お母さんが今からどこに向かうのか




どんな事になっていくのか


このときの僕には




まだ何もわかっていなかった…

No.110 08/11/16 03:21
ももんが ( PZ9M )

それから少しの距離を歩いて




振動のある大きな乗り物に乗って



20分位が経つと




お母さんはその乗り物から降りてまた少し歩き始めた





(ウィーン…)





(ピンポ―ン)





なにやらチャイムのような音がして色んな声が聞こえてきた


どうやらどこかに入ったらしい






お母さんが誰かに何かを聞いている




『あ…
あの…初診なんですけど…』



『はい、今日は検査ですか?治療ですか?』





『あ…
あの、赤ちゃんが…

できたかも知れなくて…』




『それでは妊娠検査ですね、検査には保険は効きませんがよろしいですか?



あと、初診の方にはこちらにご記入をお願いします。




終わったらこれにオシッコを入れてトイレの前の受け付けにお出し下さい』






『あ、はい
わかりました』





お母さんが赤ちゃんができているかどうか病院で検査を受けるらしいという事は話の流れから容易に想像がついた





僕の体は緊張でどうにかなってしまいそうだった…

No.111 08/11/16 03:32
ももんが ( PZ9M )

お母さんは何かを書き終わるとそのままどこかに行きバタンとドアを閉めた




慌ただしく色んな部屋をくぐり抜けしばらくすると





お母さんはフカフカの椅子に腰かけた





回りからは



何やら甲高い鳴き声が聞こえてきた




『う~う~

あっ…あっ…



ぐすっ、ぐすっ…』




何の声だ?






『あらもうだめよ~こらこらお姉ちゃん困っちゃうでしょ?




ごめんなさいね。
この子髪の毛つかむの好きで…



大丈夫だったかしら?』



『あ…大丈夫ですよ。



可愛い赤ちゃんですね。どっちかなぁ…





あ、笑ってくれた。
愛想がいいね』





お母さんと誰かの楽しそうな会話が聞こえてきた





赤ちゃんがいるのかな




お母さん

赤ちゃんが好きなんだ



良かった…





僕はホッと胸をなでおろしたくなった





お母さん




僕の事も

『かわいいね』


って


呼んでくれるかな…

No.112 08/11/16 03:48
ももんが ( PZ9M )

しばらくして



『伊藤さん


伊藤春名さん
診察室にお入り下さい』




近くのドアが空いた




僕とお母さんのドキドキはピークに達していた



心臓が壊れそうだった





『失礼します…』



お母さんが中に入るようだ…



『伊藤さんね。こちらにおかけ下さい。




私は渡辺と申します

初めまして


今後の診察や相談など…うちは私も院長も女性なので、何でも気軽に聞いて下さいね



えっと…

伊藤さんは市販の検査薬は試したのかしら?』





『いえ…
あの…まだです




直接病院で検査していただいた方が正確かと思いまして…』



『そうね、それじゃあさっそく検査結果を言うわね





検査の結果は陽性です




いま妊娠2ヶ月目に入ってますね』





『 赤ちゃんが…




信じられない…』





『おめでとうございます…でいいのかしら?


記入欄には『出産希望』にも『望まない』にも印はないけど?』




先生が切り出した




お腹の中で二人の話を見守っていた僕も 緊張で消えて無くなりそうだ

No.113 08/11/16 03:59
ももんが ( PZ9M )

お母さんは少しの間黙ったままだった



先生も何かを察知したのだろう





『伊藤さんの気持ちが固まるまで



どちらにしても来週まで待ちましょうか




もしも…
って時は早めに話さなくてはならない事がたくさんありますので来週中には一度来て頂けますか?




できたら彼も一緒にね』





先生がそう言うとお母さんは頷き来週中にまた来ますと先生に約束をして診察室を後にした





それから


お母さんは病院を出た後も色んな場所をいったり来たりしながら




なかなか家に帰ろうとしなかった…




お母さん…





お母さんは今何を思っているの?





僕は…





どうしてあげたらいいんだろう

No.114 08/11/16 04:10
ももんが ( PZ9M )

お母さんがようやく家に到着したのは




おそらくお昼近かったと思う




お母さんのお腹が


クルクル鳴っている




お腹が空いてるんだ
きっと…





お母さんはじっと横になったまま動かない



大丈夫だろうか…





ため息だけはもう何百回とついている





『赤ちゃんか…』




お母さんがようやく口を開いた




『どうしよう…




あたし一人じゃ何も決められないよ…





あたし…


どうしたらいいの

こうちゃん…




こわいよ…』




お母さん


泣いているの…?





ねぇ、泣かないで




泣くと目が痛くなっちゃうよ




目が腫れちゃうよ




だから泣かないで




僕はお母さんを悲しませに来たんじゃないのに



実際、僕はここじゃ何もできないじゃないか





大好きな人が泣いていても



『大丈夫だよ』って抱き締める事もできない




くやしいなぁ…




お母さん




ごめんね



ごめんね…

No.115 08/11/16 04:19
ももんが ( PZ9M )

しばらくお母さんは泣いているようだったが




お母さんは誰かに電話をかけているようだ




短く

『プルル…』となった瞬間に電話を切ってしまった






おそらくお父さんだろう





休みの日には絶対に連絡はとらないと決めていたにも関わらず




お母さんはこの緊急事態を一人で抱える事ができなかったのだろう





でも





お母さんの電話はその日も




次の日も

鳴ることはなかった…





お父さん


何でかけてきてあげないの?




お母さんは部屋の中や



お風呂の中でも





泣いていたんだよ





僕じゃ


何もしてあげられないのに…




くやしいよ





お父さんの大バカ野郎…

No.116 08/11/16 04:34
ももんが ( PZ9M )

月曜日




お母さんは幼稚園をお休みした





熱が出て体調が悪いからと


何回も電話口で誰かに謝っていた





『幼稚園ずる休みしちゃった…


先生のくせにだめだよね…




赤ちゃんに笑われちゃうよね…』



そう言って僕を何回か撫でてくれた





お母さんは今どうしたいんだろう…




僕を消してしまいたいのかなぁ…





僕には会いたくないんだろうか…



覚悟は勿論していたが、いざその時がくると足がすくむ…





『よし、今なら登園前だからきっと教室の掃除だよね』




お母さんは意を決したようにまた電話を かけた




『プルルルル…



プルルルル…




ガチャ。





もしもし…?
春名だけど今いい?』




『お―なんだ、やっぱり体調悪かったのか?今聞いたよ、風邪だって?ちゃんと薬飲んだのか?


春だからって薄着すると治らないぞ』




『うん…



あのさ、こうちゃん今日時間ある?



ちょっと話したい事があるんだけど…』





お母さんの声から緊張の色が伺える




『うん?電話じゃまずいんだな。



わかった、帰りに寄るよ、それまで待っててな』

No.117 08/11/16 04:46
ももんが ( PZ9M )

『うん…ありがとね。夜ね、待ってるね、じゃあ』




お母さんは



『はぁ―っ』

と長いため息を一つつくと



また横になりながら僕を撫でた




『ねぇ赤ちゃん


何であたしみたいな女の所にやってきちゃったの?





間違えちゃったのかな…




君のお母さんはね…



君が大好きなんだけど…




ひょっとしたら




産んであげられないかも…



知れないよ…』




またお母さんが泣き出した




お母さんは泣き虫だなぁ…





26才の大人なのに。




お母さん


今はゆっくり休んで



お父さんが来たらまた沢山話をしよう





それまではどうか泣かないで






僕なら
大丈夫だよ



ちゃんとわかってるから

No.118 08/11/16 05:01
ももんが ( PZ9M )

僕は歌を歌った




空の上で何度も歌った歌だ





お母さんより何倍も上手だよ




声はでないけど





お母さんの為に





悲しい気持ちも
辛い気持ちも
悩みも…




半分背負う約束だもんね



じゃあ
弱気な涙も半分こだ



僕は大丈夫
男の子だから




まるちゃんもよく言っていたな…




『本当に必要な魂はベターハ―フって言うんだってさ』




『ベターハ―フ?』



『そう


元々一つの魂がね人間界に行くときに2つに別れて旅に出るの





別々に違う場所で勉強をして



たくさん学んで




そして最高の自分に帰るんだって




それが元で結婚したり


親子になったり…



命と同じ位強く結びつくんだって』





お母さんのベターハ―フが



お父さんじゃなくて




もしも僕なら…




そうなら幸せなのにな

No.119 08/11/16 07:31
キラママ ( 20代 ♀ Y5AFh )

初めまして✨

凄くイイ話しですね✨

続きが楽しみです☺


更新楽しみにしています💕

No.120 08/11/16 08:40
ももんが ( PZ9M )

キラママさん🌱

ありがとうございます🙇何せ初投稿ですので💧お見苦しい所はカットしてやって下さいませ




よろしければ最後までお付き合い下さいませ🌱

応援ありがとうございます😸

No.121 08/11/16 13:06
ママ ( 20代 ♀ 7hU5h )

更新楽しみにしてます😊 がんばってください🎵

No.122 08/11/16 13:19
ももんが ( PZ9M )

>> 121 ママさん🌱


読んで下さってありがとうございます🙇


つたない文章ですが良かったら最後までお付き合い下さいね🙆

No.123 08/11/16 14:05
ももんが ( PZ9M )

『……な』





『春名!
おい、大丈夫かぁ




お~き~ろ~』




誰かがお母さんの体を揺らしている






『ん…


こうちゃん?』




『おう。呼ばれて飛び出てきました!



もう夕方だぞ。どうしたんだ?



土日連絡できんかったからすねてんのか?




でもなぁ…


土日はどんなに連絡もらっても



…な

わかるだろ?
ごめんな』




『…違うよ


それも少しはあるけど



そんなんじゃないの』





『どうしたんだ?
何かあったのか』




お父さんがお母さんの隣に腰かけた





『あのね…

こうちゃん
あたし…



あたし…

赤ちゃんができた…』


お母さんの心臓の音が早くなってきた





周りの音がはっきり聞こえない



二人の間の沈黙は永く…永く続いていた




小刻みにお母さんの体が震えていたのは


僕しかわからなかっただろう

No.124 08/11/16 14:33
ももんが ( PZ9M )

先に言葉を発したのはお父さんの方だった




『ハル。

本当なのか…?



間違いない…のか』




『うん…


病院行ってきた


何だか具合も悪いし


おかしいかなと思って…



2ヶ月だって





こうちゃん
どうしよう



あたし


どうしたらいい…?』




お父さんはしばらく黙ったあとに



『ハルは?



ハルは…どうしたいんだ?』




『あたし…


あたしは…
わかんないよ




だって産んだって


一人じゃどうしたらいいのかわからないし…




でも…どうするか決めないと



赤ちゃんだって大きくなるし…



病院にだって…』




お母さんは感極まったようでその場で泣き出してしまった






お父さんは何も言わずお母さんを抱き締めているようだった



神様

僕は弱虫です



覚悟はしていても
大好きな家族に会えなくなるのは


やっぱり寂しいです



悲しいです





僕が生まれたらお母さんを困らせるかもしれない


誰かを傷つけてしまうかも知れない





それでも



僕はどうしてもお母さんに会いたいんだ…



そう願うのは


僕のワガママでしょうか

No.125 08/11/16 18:45
ももんが ( PZ9M )

僕はお母さんと今一番近い所にいるのに



なんだかお母さんから一番遠くにいるような気がするよ





ああやって




遠くの場所から
ただ眺めているだけなら…







こんなに胸が痛んだり苦しくなったりしなかったのだろう






だけど





僕は負けたくない



もしも…


うまく行かなくて
また天国に帰ることになったとしても




『会わなければよかったのに』


なんてけして思いたくはない




会いたくて
会いたくて




沢山の偶然や巡り合わせの中から


たった一人
見つけたんじゃないか




何を負けてるんだ



『自分に負けたらだめだ』



そうだよね
まるちゃん



マエスケ…



君達も押し潰されそうな期待や不安の中を共に生きているはずだ





僕は一人じゃない





もう迷わない



例え希望が叶わなくても…心が揺らぐ瞬間があっても



僕はお母さんの息子だ




たった一度だけ



お母さんの息子として生きに来たんだ


それなら
最期も
『最高にカッコいい息子』でいてやる



それが
僕のお母さんへの



精一杯の愛仕方なんだ

  • << 128 『よし、とりあえず病院へ行こう。俺も直接話が聞きたいし… 一度一緒に来いって 言われたんだろ?』 『…うん。 もしもの時の… 話もあるから…って』 『わかった。 車を回すから下で待ってて。 ハル… ごめんな… この間の電話 これだったんだな』 お母さんは泣きながら頷いていた おそらくお父さんに会えてはりつめていた気持ちが一気に切れてしまったんだろう お父さんはもう泣くなとお母さんを抱き締めてから先に下へと降りていったが お母さんはまだ泣き止む気配はなかった 僕はそのお母さんの涙の意味を 本当は知っていたけど 今はまだ 考えないようにしていた

No.126 08/11/17 00:25
通行人 ( 30代 ♀ vGoJh )

>> 125 毎日楽しみにしています。読むたびに涙が出てしまって…読み終わった後は子供達に優しくなれたりしてます😃主さん、どうもありがとう🙇

No.127 08/11/17 02:38
ももんが ( PZ9M )

通行人さん🌱


励ましのお言葉ありがとうございます🙇

少しでも通行人さんの気持ちに響くような話になるように…進行はゆっくりですがよかったら最後までお付き合い下さいね🙆毎日の子育て大変だと思いますがどうか頑張って下さいね

No.128 08/11/17 02:47
ももんが ( PZ9M )

>> 125 僕はお母さんと今一番近い所にいるのに なんだかお母さんから一番遠くにいるような気がするよ ああやって 遠くの場所から… 『よし、とりあえず病院へ行こう。俺も直接話が聞きたいし…



一度一緒に来いって 言われたんだろ?』


『…うん。
もしもの時の…
話もあるから…って』




『わかった。
車を回すから下で待ってて。






ハル…


ごめんな…




この間の電話
これだったんだな』




お母さんは泣きながら頷いていた




おそらくお父さんに会えてはりつめていた気持ちが一気に切れてしまったんだろう




お父さんはもう泣くなとお母さんを抱き締めてから先に下へと降りていったが




お母さんはまだ泣き止む気配はなかった




僕はそのお母さんの涙の意味を



本当は知っていたけど



今はまだ




考えないようにしていた

No.129 08/11/17 03:01
ももんが ( PZ9M )

病院は夕方からの診療で少し混雑していたが




となり町の産婦人科というのもあり


誰かに会ったりとかはしていないようだ



今日も色んな赤ちゃんがいるみたいだ




甲高い、甘えるような鳴き声があちこちからしていた




『伊藤さん、どうぞ』




お母さん達が呼ばれた




二人は無言で先生のいる部屋に入っていった









『こんにちわ、今日は彼も一緒なのね。



どう?体調は順調かしら』




『あ、はい…
たまに気持ち悪くはなりますが我慢できないほどじゃありません』



『 そう、それはよかったわね。赤ちゃんがお母さんに負担がかからないように協力してくれているのかもね。優しい赤ちゃんね』





そう先生に言われるとお母さんは何度も僕をなでてくれた




『今の所は変わった数値も出てないし…



今日は内診してみましょうか』




『内診…ですか』



『大丈夫よ。こわくないから、検査をする為に椅子に座ってもらって子宮の様子を見るの。ひょっとしたら赤ちゃんの袋がきちんと見えるかもしれないわよ』




『赤ちゃんが…』



『さぁ、こっちよ』

No.130 08/11/17 03:28
ももんが ( PZ9M )

お母さんは先生や看護婦さんの指示に従い医療用の椅子の上に座った




先生は楽にしてね

と何かを僕の近くへ突き刺した



なんだ?何かが近づいてくる




何かが僕をぎゅうぎゅう押してくる



ちょっと苦しいよ



しばらくして
先生が



『ほら見て伊藤さん赤ちゃんの袋よ、この小さい丸いのわかる?



この小さくくっついてるのがあなたの赤ちゃんよ』




『スゴい…赤ちゃんが映ってる




こんなにまだ小さいんだ…』




『そうよ、今からよ…赤ちゃんどんどんどんどん大きくなるわ




今日はこのエコー写真持って変えれますけど




まだ話をしなくちゃね




とりあえずもどりましょうか』






お母さんは
『すごいなぁ…』




何度も呟いては
嬉しそうに



僕に話かけてきた

No.131 08/11/17 03:43
ももんが ( PZ9M )

先生とお母さんは診察室に戻るとお父さんに僕の『エコー写真』を渡した





お父さんは黙ってそれを見ているようだった




その写真に映る僕はどんなんなのかな




生まれることができたら絶対に見てみたい


変な感じかなぁ…





『それでね』
先生がいよいよ話し出した






『伊藤さんは赤ちゃん…どうしますか?
二人ではもう話し合えたのかしら?



あなた達がどうしていくかキチンと決めないと



赤ちゃんが困るのよ』





先生が優しく聞いた




二人の表情は読み取れないが



少し困っているんだろうな…




診察室の中にある時計の音がやけに大きく感じた…



『あの…


もしもですが
赤ちゃんを諦めなくちゃいけない場合…

タイムリミットはいつまでなんでしょうか』




お父さんがついに口に出した




『それは中絶…って事ね?


そうね、赤ちゃんの為にもお母さんの為にもするなら1日でも早い方がいいですよ





ただ大切な事ですから二人できちんと話して決め手下さい…



今から申し込めば明日のお昼には手術できますよ』





お母さんは黙って二人の話を聞いていた

No.132 08/11/17 08:08
ももんが ( PZ9M )

『じゃあ…すいませんが二、三日だけ時間もらってもいいですか?実は今日話を聞いたばかりで…』



『ええ、勿論。それではまた金曜日に来てもらえる?

その時にどうするか決めましょう…


伊藤さんもそれでいいかしら?』


『…はい
わかりました』


『それじゃあ
この写真は今はまだ渡さない方が良いわね…』



先生がその場から立ち上がったみたいだ



『あっ。
写真は…




写真は私に下さい』



『え?ええ…

いいけれど』




先生は僕の『エコー写真』をお母さんに渡すように看護婦さんに指示していた



二回目の病院は


色んな意味で



ほんのちょっとだけ僕には痛かった


でも

それも覚悟した上だ


僕は病院を出る二人の歩く早さが違うのに




そっちの方に心が痛んだ

No.133 08/11/17 08:21
ももんが ( PZ9M )

『ただいま…』



お父さんとお母さんが少し離れて家の中に入った






お父さんはすぐその場に座り込み



お母さんは着替え直しているようだ



少しの間無言だったが
今度はお母さんから切り出した




『こうちゃん大丈夫だよ
ちゃんとあたし
下ろすから



こうちゃんだって困るもんね


避妊に失敗して愛人に子供産まれちゃ…



奥さん乗り込んできちゃうもんね



それにさ
私も親いないから生んでも一人じゃ育てられないしね…』




お母さんがそう言い切る前にお父さんがお母さんを力いっぱい抱き締めた



『バカ春名

思ってもない事言うな




産みたくないなんて言うな



お前がどんだけ子供が好きなのかわかんないとでも思ってんのか』




お父さんが最後の方で涙声になっていた


『だからって…
だからといってじゃあ産んでもいいの?

産んだらこうちゃん、あたしと結婚して育ててくれるの?簡単に言わないでよ!』

No.134 08/11/17 08:32
ももんが ( PZ9M )

『簡単に言わないでよ!じゃあ子供産んでいいよってあたしに言えるの?



奥さんと息子さんにこの事言えるの?



『お父さんは三年も幼稚園の先生と不倫してて間違えて赤ちゃん出来ちゃったんだ』って



本当に言えるの?


あっちもこっちも守りたいなんて

こうちゃん間違ってるよ

そんなのできるわけないよ

そんな事したって誰か傷つくだけだよ』

お母さんも興奮して泣きながら言った



お父さんは黙って泣いていた



『それに



それに赤ちゃんだって

こんなせまい町で『不倫の子』って指を差されて生きていく事になるんだよ



同情されて生きていかなくちゃならないんだよ



そんなのあたしさせられないよ…』





お母さんが声をあげて泣いた




二人の声が痛くて



僕はお母さんに何もできなくて



ただどうする事もできなかった…

No.135 08/11/17 08:45
ももんが ( PZ9M )

『ハルは
本当にそれでいいのか?



後悔しないのか?



何もできないのに
ハルが傷ついてるのに




何もできなくてごめんな



ハルにそんな痛い事言わせてごめんな…』






お母さんはしゃくりあげるように泣きあげると




『病院…電話して


手術しますって

土曜日に行きますって…




赤ちゃん

諦めますって…』




最後に力なくお母さんが言った

そして布団の中に潜り込むとそれきりでて行かなかった




お父さんは
『また連絡するから』と布団超しにお母さんに話していたが




お母さんは立ち上がろうとしなかった





布団の中でお母さんは同じ言葉を繰り返している




『赤ちゃんごめんね


赤ちゃん…
ごめんなさい…』



お母さんの痛い気持ちが僕にも伝わってきた



お母さん



もう自分を傷つけるような愛しかたをしたらだめだよ




痛い気持ちより




幸せな気持ちで赤ちゃんは産まなくちゃ



大好きな人と
お母さんも幸せにならなくちゃ…



例え僕が居なくなっても幸せになる努力をちゃんと続けなくちゃだめなんだよ…

No.136 08/11/17 09:00
ももんが ( PZ9M )

赤ちゃんって

身ぐるみ脱いで
身体ひとつだけでくるでしょう?



持ってくるのは3つだけ


1つ目は生きるぞって力




2つ目は痛みも喜びも感じられる心






3つ目は






『お母さんだいすき』って気持ち






それだけ








あとは何もいらないんだ





あとは
足していけばいいんだ



足りない所はゆっくりゆっくり



二人で見つけていけばいいんだよ…




お母さん知ってる?


僕の目はお母さんを見るために




僕の鼻はお母さんを見つけるために




僕の耳はお母さんの声を聞くために







僕の口はお母さんにだいすきっていうために





僕の手はお母さんの涙をふくために







僕の足はお母さんのもとに走っていけるように






ぜんぶ

お母さんがだいすきなんだよって


そう言うためにあるんだよ




だから僕らは余計なものなんか身に付けたりしないんだ…




お母さん




たとえ一緒にいれなくなっても




僕はあなたの息子です





たくさん
たくさん




大好きなんだ




だからもう泣かないで…

No.137 08/11/17 09:15
ももんが ( PZ9M )

お母さんは泣きつかれたようで少したって眠ってしまった






辛い決断をしたんだろう


大好きな人に側にもいてもらえず




心細いよね




もう大丈夫だよ
お母さん



たくさん泣いたから
今日はも一緒に眠ろう




あと5日間…





僕はお母さんの息子だもんね





つわりも起こさせないように神様にもっとお祈りしてみるよ




お母さんの悲しみや痛みを



半分僕に分けて下さい…





お母さんが早く



元気に笑ってくれますように…





神様




『愛される人に愛される事』もとても幸せですが




僕はもうひとつ贅沢な幸せを見つけました





それは





『愛する人が生きている』




という事です





笑って

生きていてさえくれば



いつでも抱き締められる




どんなに苦しくて悲しい時も




大好きよって伝えられる




どうですか?

なかなか凄い発見ですよね




今度天国に行ったらたくさん話を聞いて下さいね




おっさんも



いつまでさぼってるかわかんないけど





あと5日



お互い楽しんで生きていこう

No.138 08/11/17 09:49
ももんが ( PZ9M )

翌朝お母さんはまた幼稚園に電話をした
『おはようございます、園長先生ですか…伊藤ですが』

『あ!春名先生聞いたわよ~インフルエンザなんだってね。さっきこうちゃん先生から『お見舞いに行こうとしたらインフルエンザだから近寄らない方がいいって言われたけどあれはそうとう酷いですね』って聞いて!一週間位はかかるでしょ?大丈夫よクラスは副担任の井上先生にお願いするし、しっかり寝て治して来なさい』

『あ…はい(ゴホッゴホッ)ご迷惑かけてすみませんが月曜日までには頑張って治しますので…はい…それじゃあ失礼します』

ピッ…




『は~


ずる休み一週間~みんな…ごめんなさい』


そう言ってお母さんは後ろ向きに倒れ込んだ


『こうちゃんのバカそういう所には気がつくんだから…』



はぁ―っ


と、長いため息をついた後にお母さんが何かを机の上で書き出した



何だろう見えないからわかんないし、まぁいっか…



これから5日間は毎日他の子じゃなくて僕だけのお母さんだ


『よし、天気もいいし久しぶりに兄ちゃんとこでも行くかな!今月は確か工場夜勤だから多分今頃寝てるよね!突撃だ!』


そう言ってお母さんは机を片付け始めた

No.139 08/11/17 12:15
ももんが ( PZ9M )

お母さんへ

1日目


今日から5日間お母さんに手紙を書くことにします



実際には僕の心の中だけどね



お母さんのお腹にきてまだそんなにたたないけど



お母さんの色んな事がわかってきました



まず泣き虫な所


これは酷い



泣きかたは派手だし

いつまでもいつまでも泣いている




これはだめだよ



泣いてばかりいたら僕は心配で天国に帰れないじゃないか…




お母さんがいつものように笑って

元気にしてくれてこそ僕は安心して空に帰れるんだよ




お母さんがいつまでも泣いていたら



うちの中が寂しくなっちゃうでしょう?




僕はお母さんの泣き顔より



笑ってる顔の方がかわいくて大好きです




だからどうか
あんまり泣かないで



泣きすぎると目が腫れてブサイクになっちゃうよ~






笑って
笑って


僕が一番好きな顔で生きていって下さいね



あなたの息子

のっぽより

No.140 08/11/17 12:26
ももんが ( PZ9M )

お母さんに手紙を書いている間


お母さんは少しご機嫌になったみたいだ



時折鼻唄を歌って



道を歩いている





お母さんのお兄さん

つまり僕のおじさん…

一体どんな人なんだろうな



楽しみだ



お母さんに似て少し天然なのか



まさか泣き虫って事はないよなぁ…



親戚の家を高校まで出て独り暮らしをはじめたおじさん




僕の調べによると



その年からコツコツと少しずつ親戚のおじさんに


『春名の学費の足しにして下さい』と



毎月3万円送ってきたという…





たかだか18歳の社会人が…





いや


年じゃないな


30過ぎてバカばっかりやってる奴だっているんだもん



18だって
仕事して責任とれば同格だよね





兄ちゃん


きっと家族想いの優しい人だろうな…



『お。着いた!


しかし相変わらず汚いなぁこのうち…』


お母さんが笑っている

No.141 08/11/17 12:48
ももんが ( PZ9M )

ピンポン
ピンポン
ピンポン



『伊藤さ~んお届け物ですよ~




起きて下さ~い』



お母さんがドアをたたくと中から声が聞こえた



(ガチャン)





『…すいません



朝から仕事で疲れた兄を叩き起こすような優しさのかけらもない妹は連れて帰って下さい』




どうやらおじさんのようだ




『にいに!おっはよ!!


可愛い妹が朝ごはんの差し入れにきてやったぞ』




『どこが可愛いんだ
どこが…
お前少し太ったんじゃねぇか?

腹もメタボリックじゃねぇだろうな』



『ち…違うよ!
もううるさいなぁ。
入るからねにいに。』


はしゃいでいるお母さんは何だか可愛い



お母さんは勝手知ったるといった様子で部屋の中へと上がっていった



『ねぇにいに
玄関のゴミ…早く片付けなよ。あれじゃあ放火されても文句はいえないよ』




『うっさいなぁ。何なんだお前は、帰ってくんのが朝の8時だから資源は回収後なんだよ!




ってかお前仕事は?




何さぼってるんだよ』



『違うもん、さぼりじゃないもん



にいに、にね

会いたくなったんだよ!突然にね 』



そういうとお母さんはおじさんに抱きついた

No.142 08/11/17 13:30
ももんが ( PZ9M )

『会いたくなってもさぼりはだめだ



仕事が終わったらいやってほど聞いてやるから仕事行け』





『違うよ!さぼりじゃないよ。体調悪いからって連絡してあるもん、大丈夫だよ』



『お前が大丈夫でも俺が眠たいんだってば…



おい。何故お前は俺の差し入れを食っているんだ…』




お母さんは美味しそうにおせんべいをバリバリ食べていた




やっぱり



優しそうなおじさんだ



お母さんの気持ちもとてもリラックスしている



ずっとこんなに穏やかに過ごせたらいいのにね




お母さんとおじさんはじゃれあってとても楽しそうだった





『所でお前
何かを相談しにきたのか?』






『…ううん!仕事も休みだしにいにと遊びたくてね



ただそれだけだよ』




お母さんは嬉しそうに言ったが


おじさんは相変わらずむくれているようだったが


お母さんがかわいくて仕方がないという様子が伝わってきて



『家族っていいな…』


そんな風に思った

No.143 08/11/17 13:50
ももんが ( PZ9M )

しばらく穏やかにはなしていたが




折りを見てか
おじさんが切り出した


『さあ吐け。
何をしでかした


伊藤さんよ。


君が電話もなしに突然会いに来るときは


何かあった時だけだ


付き合い26年の兄ちゃんをなめるなよ~



こらっ吐け
吐かんと頭グリグリ攻撃だぞ』



おじさんがお母さんをはがいじめにしている





『あ~




にいに
辞めて~

くっ…苦しいよ~』


『よし!吐いてまえ!』


二人ともくすぐりあっこをしているみたいだ


楽しそうだ




『あは…は!
たんま!ギブギブ!



もうニイニは手加減なしなんだから…



髪の毛も服もボサボサだよ…』





『…春名?

どうした。
何で泣いてるんだ?


やっぱり何かあったんか?』




『ううん。ちがうよ、ちょっと彼氏と喧嘩しただけ。



本当に何でもないって~






にいには心配性だから怖くて彼氏も紹介できんよ』



『当たり前よ!



たった一人の妹やろが!

粗末にしたら死んだ父ちゃんと母ちゃんに起こられるわ』

No.144 08/11/17 14:18
ももんが ( PZ9M )

『いいか春名。




お前は死んだ母ちゃんが身をていして守ったんだ




お前にはそれだけの強い愛情がかかっとる





お前の命はお前のもんだけじゃない、わかるな?




いいか?命はいつもあるもんじゃない




ある日突然いなくなる事だってある



だから大切に使えよ


な?



喧嘩でも何でもしたらいいけど


お前を泣かすような男は俺は好かん




理不尽な喧嘩なら兄ちゃんが買ってやるから納得いかないようなら連れてこい』



『にいに…



うん、わかったよ


元気出た!やっぱり落ち込んだ時にはにいにだね



にいにありがと


あたし帰るね』



『何だ?まだいいだろ休みなだし



昼飯くってけよ』



『ううん、にいに夜勤明けだからもう帰る



にいに朝からごめんね


またね』


『ん…そうか。
じゃあまた今度な


彼氏と早く仲直りしろよ』



お母さんは返事をしないまま


おじさんの家を離れた

No.145 08/11/17 16:26
ももんが ( PZ9M )

お母さんは無言でおじさんの家を後にした





その体は時々揺れているようだった…





お母さんが泣いてる…





きっとあれ以上おじさんの前で笑っていられなかったんだね



死んだおばあちゃんが命がけでお母さんを守ってくれたのに




きっと僕を守れない自分への不甲斐なさでやりきれないんだろう…






僕はお母さんの気持ちが痛いほどわかったよ




だって




僕もお母さんに今何もしてあげられないんだもの






大好きな人が苦しんでいるのは


自分のせいなのに




『ごめんね』も



『大丈夫だよ』も





どちらも言えない…




それは
苦しくて

やりきれない



行き場のない気持ち




神様



お母さんが早く




元気になりますように…

No.146 08/11/17 17:36
ももんが ( PZ9M )

お母さんへ

二日目


お母さん



お母さんはがんばり屋さんだね



毎日みんなにあんなに音痴だと笑われても絶対にピアノの練習をしながら歌を歌う




誰かにだめだとか
笑われたりとか



頑張っているのに


認められないと
悲しい気持ちになったりするよね




それでも毎日
コツコツ練習をするお母さんは




凄いと思うよ



苦手な事や
苦しい事から逃げ出さない勇気も



ちゃんとお母さんから教えてもらったよ




これからも


みんなが思わず笑っちゃうような


優しくて愉快な歌を


空まで響かせてね




僕も苦手なこと




悲しいこと





苦しい事から


逃げたりしないよ




お母さん
約束だよ




のっぽより

No.147 08/11/17 17:50
ももんが ( PZ9M )

お母さんは昨日から鳴っている携帯を一向に取ろうとはしなかった




おそらくお父さんが心配して電話をかけてきているんだろう



だけど





お父さんと話す言葉も



これから起こる現実も



お母さんは受け止める勇気が持てないのだろう





お母さんは
僕を諦めると言ってから


毎日僕に話しかける



『赤ちゃん…起きてる?



今日はね…お兄ちゃんのウチに行ったんだよ




あ…知ってるか


あはは、面白いお兄ちゃんだったでしょ


あたしの事
小さい時からめちゃくちゃ可愛がってくれててさ…




あたしにいにの事が大好きなんだ



世話のかかるあたしの為に




色んな事我慢しててさ



みんな
みんな



あたしの為に…





守られてばかり…




あたし
いつも誰かに守られてばかりで…




本当は



弱い人間なんだよ…



赤ちゃん


こんな情けないお母さんで

ごめんなさい…』




昨日も布団の中でずっと泣いてた…




お母さんは弱くなんかないよ





本当に弱い人間っていうのは


自分の一番弱い所を認められないと

僕は思うよ

No.148 08/11/17 18:07
ももんが ( PZ9M )

今日はあいにくの雨だ



こっちにきてから初めての雨だ



シトシト
シトシト



実によく降る



お母さんは朝からまた何かを書いているようだ




そして
何かを繰り返し歌っている





音程は別として


すごく素敵なメロディだ




なんていう曲なんだろう…




お母さんに直接聞けたら便利なのになぁ


僕が思っていると心の中でいつもの声がした




『きらきらぼしだよ』




『!?おっさん?
今までどこに行ってたんだよ
心配してたんだよ』



『フン。体長一センチ位のお前に心配されてもちっともうれしかないね。




しかしあれだな

人間界の鳩は食ってばかりでロマンがねぇな




鳥居でパン


池でパン



公園でパン


動物園でパン…





パンしかねぇのかっていう話だよな!』





『…おっさん


はとバスツアーならぬ鳩ツアーしてたの?』




『おお、まぁな。

でもちゃんと成り行きは聞いてたぜ


何か大変そうだな


まぁ、おまえもさ、これにめげずに


また新しい母ちゃん探して頑張れよ



こんなんでくじけんなよ?』

No.149 08/11/17 18:22
ももんが ( PZ9M )

おっさんなりに励ましてくれてるんだね



素直に言えばいいのに




『めっちゃ素直ですけど』




『ああ…ごめん。
それよりさっきの曲ってなんだっけ?




おっさんが教えてくれたの…』





『あ?
お前の母ちゃんが歌ってる下手な曲だろ?




『きらきらぼし』

『別名
ほしに願いを


だよ』




『きらきらぼし…』




『確か人間界で有名な童話の曲だ




木のおもちゃが願うんだよ



僕を人間の男にしてください


ってな



空に輝く一番星が


優しいそのおもちゃの為に願いを叶えるんだよ




そういう話だ』




『へぇ…

願いを叶える一番星かぁ



僕も見てみたいなぁ』




『あ~無理無理!


一番星なんざザラにあるが『願い星』になんざなかなかお目にかかる事はできねぇよ』




『そうなんだ



ちなみにおっさんは?


ある?願い星にあった事』




『ねぇなぁ。


話には聞いた事はあるがなかなか見るのは難しいらしい




人間は強欲だからよ

自分のいいような願いしか言わねぇから

神様がうんと高い所に隠しちまったって話だぜ』

No.150 08/11/17 18:29
ももんが ( PZ9M )

『そうなんだ…



願い星かぁ…』



僕はお母さんの歌う『きらきらぼし』を聞きながら




願い星が本当にいるなら




ひとつだけ







ひとつだけお願いをしてみたい






『きらきらぼし様




どうか僕のお母さんが幸せになりますように』







どんなに遠くに離れたって




ずっと願うよ




僕のだいすきな
お母さんの為に。





神様



人を想うって



痛くて
苦しい時もあるけど



とても幸せなんですね…






そして




愛する人の幸せを願う事は





もっと



もっと





幸せなんですね…

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