とある家族のお話
私はまり。
5年前に離婚し、現在シングルマザーで小学3年生の息子が1人。
父親は肺がんを患い、闘病の末4年前に他界。
母親は精神疾患を患い、現在精神病院に通院中。
遠方に住む兄の亮介と義姉の千佳さん。
中学3年生の姪と、中学1年生の甥がいる。
2つ下に同じ市内に住む弟の圭介。
私と同じくバツイチで、現在は1人暮らし。
息子のよき遊び相手になってくれる。
弟の子供は元妻が引き取っているが、しばらく会っていないそうだ。
私の母親は、多分だがかなり前から精神疾患があったと思われる。
父親が他界してからひどくなった。
病名は「妄想性障害」
特に被害妄想が酷く、妄想で警察を呼んだり近所の方々にご迷惑をおかけしてしまう様になったため、社会福祉の公的窓口に相談し、現在通っている精神病院の先生にお願いし、強制入院に至った。
母親本人はおかしいと思っていないため、入院する時はとても大変だった。
現在は退院している。
入院する時は近所に住む弟と相談し決めたが、母親には未だに恨まれている。
兄夫婦には電話やLINEで伝えていた。
母親は、兄と弟の嫁をいびりにいびった。
弟の離婚は、母親が大いに関係している。
義姉は遠方に住む事で離婚はしないで済んだ。
私達兄弟が母親を何度止めてもいびりは止めない。
母親は悪い事はしていない、私は正しいと、止めれば止める程興奮し罵詈雑言を言い放つ。
妄想が激しいため、妄想で話をするが母親本人は事実だと思っているため、違うんだよ!と言っても聞き入れてくれる事はない。
否定すれば嘘つき呼ばわりするな!お母さんは正しい!と怒鳴る。
仕方なく合わせれば、やっぱりそうだ!と益々妄想が本当の事だと思い込む。
とても難しい。
でも、私の実母である。
父親がいない今、私達兄弟が母親をみなければならない。
こんな家族のお話です。
そんな私も医療の力と治癒力でどんどん回復をしていき、歩ける様になった。
売店に行ってみたり、病院の玄関先にちょっとだけ出て外の風を浴びたり。
気分が少し変わる。
この日も父親の病院の日。
雅樹が来てくれた。
雅樹の姿を見ると安心する。
不思議な力をもらえる。
雅樹が「退院したら退院祝いをしよう。何か食べたいのある?」
「うーん、何だろ?お寿司かなぁ?病院に入ってから、食べてない気がする」
「よし、決まり!お寿司食べに行こう!とは行っても高級なところは無理だけど(笑)だから早く治せよ!待ってるから」
「うん、ありがとう」
「昨日は立花さんのお見舞いに行って来たんだ。退院も近いらしい」
「本当に!?良かったー!」
「立花さんがに加藤さんも歩ける様になったよと伝えたら立花さんも同じ様に喜んでくれていたよ。そしてまりに「お互い退院したら、また前みたいに楽しく話したいね!って加藤さんに伝えて!」って言ってたよ」
そうだね、また前みたいに立花さんと一緒に話したり、ご飯食べたりしたい。
田中さんと3人でまたわいわいしたい。
顔の傷は、ちょっとだけ縫ったおでこには残ってしまったけど、後はきれいになってくれた。
部屋のドアがノックされて誰かが入って来た。
田中さんだった。
「あれー?長谷川さんお疲れ様です。来てたんですか?」
「田中さんお疲れ様。昨日は立花さんのところに行って、今日は加藤さんのところにと思ってね」
「そうだったんですね!立花さんもだいぶ元気になって来てたので良かったですよねー!」
「本当に。じゃあ俺は帰るよ」
長谷川さんが席を立とうとしたら田中さんが「えー?帰るんですか?用がないならもう少し3人で一緒にいません?久し振りに長谷川さんとも話したいし」
「用は特にないけど…」
「じゃあ座りましょ!加藤さん、今日はお母さんいないの?」
「今日は父親の病院の日で一緒にそっち行ってるから来ないんです」
「そうなのー?加藤さんのお母さんと前に話した時にカステラ好きだって言ってたから買って来たの!一緒に食べようと思ったのに残念」
「ありがとうございます」
いつもの田中さん。
うちらの関係には気付いてない様子。
しばらく3人で色々話していた。
楽しかった。
私の退院も決まった。
リハビリも頑張った。
母親と「もう少し退院だね」と話していた時に部屋のドアがノックされた。
母親が対応する。
「あら、田中さん。この間はカステラごちそうさま。せっかく来てくれたのにいなくてごめんなさいね。どうぞ入って!」
「いえいえ、今日はもう1人いますが一緒にいいですか?」
「もちろんです。初めまして。まりの母です。どうぞ入って!」
「ありがとうございます」
誰だろ?
声がよく聞こえない。
「加藤さん!久し振り!」
そこには笑顔の立花さんの姿が。
「立花さん!退院したんですね!」
笑顔の立花さんと抱き合った。
涙が出てきた。
心配だった立花さんが退院して、わざわざ来てくれた。
「一昨日退院したの。そして田中さんにお願いして連れてきてもらったの。加藤さんに会いたかったよー!」
「私もです!」
田中さんが「久し振りに3人揃ったね!」と泣き笑い。
笑顔だった立花さんも泣いていた。
母親が病室から出ていく。
3人でずっと話していた。
母親が「お茶どうぞ」と言って、売店で買って来たお茶を田中さんと立花さんに渡す。
「ありがとうございます!頂きます!」
そう言って、2人でお茶を飲む。
母親が「まりは会社で迷惑をかけてない?迷惑をかけているなら、叱りつけて下さいね」
と2人に話しかける。
「迷惑だなんてとんでもない!加藤さん、しっかりしているし、仕事も正解かつ早いし、先輩であるはずの私達の方が加藤さんに迷惑かけて申し訳ないくらいですよー」
母親が私と雅樹の事を知らない田中さんに、雅樹の事を話すんじゃないかと、ずっとヒヤヒヤしていた。
心配は本当になった。
「うちの娘、長谷川さんって人とお付き合いしているみたいなんだけど、どんな方なのかしら」
「お母さん、ちょっと!」と母親を止めたが、田中さんはちょっとの沈黙の後「…えっ?そうなんですか?」と言って私を見た。
「田中さんも知らないお付き合いを娘はしていたのかしら。はしたない娘でごめんなさいねね」
「えっ、加藤さん、長谷川さんと付き合ってるの?えっ、いつから?」
驚いた様子を見て本当に知らなかったみたい。
母親、頼むから余計な事を言わないでよ。
既に知っている立花さんは苦笑い。
田中さんは「立花さん、知ってた?」とふる。
「…知ってた」
「うそー!本当に!?長谷川さんと付き合ってたんだー!お母さん、長谷川さん、すっごく紳士的でいい人ですよ!会社でも中堅層で社長からの信頼もあるし、私たち部下にも優しいですし、長谷川さんなら絶対大丈夫ですよ!」
田中さんは一気に話す。
「びっくりしすぎて頭が追い付かないよー、長谷川さんかー。あっ、だから事故の時に真っ先に加藤さんのところに飛んでったのか。お母さん、長谷川さん、加藤さんが事故で血だらけで倒れていた時に長谷川さん、ずーっと加藤さんに声をかけていて、あの状況であれだけ動ける人はなかなかいないですよ!加藤さんとお似合いです!」
「そうなんですね」
母親は黙って聞いていた。
バレちゃったな。
田中さんはこんな感じだからちょっと不安だけど…
「立花さんも退院したばかりだし、負担かけられないから私達行くね!」
田中さんが言う。
「長谷川さんの事はみんなには…」
「大丈夫!大丈夫!信じて!」
立花さんと田中さんを下の出入口まで見送る。
田中さんは「私にも言ってほしかったなー。全然知らなかったー。大丈夫。私達3人の秘密にしよう!誰にも言わないから!」と言っていた。
2人を見送り部屋に戻る。
母親に「そうやって余計な事を言わないでよ」と言うと「田中さんも知らない付き合いって、何かやましい事でもあるんだな」
「やましい事は何もないよ」
「じゃあどうして堂々と付き合わない」
「色々あるんだよ」
「色々って何だ!」
怒り出した。
面倒くさくなったため、母親が言う言葉に適当にうん、うんと聞いていた。
退院する日が来た。
母親と兄が来てくれた。
兄が荷物を持ち、母親が退院のための手続きをしてくれる。
久し振りの我が家。
父親が「まり、おかえり」と笑顔。
「ただいま」
弟は仕事のためいない。
仕事が終わったら来てくれるみたい。
弟には感謝しないとね。
ささやかな退院祝い。
弟が預かってくれていたバンドバッグを返してくれた。
事故現場にあったままだったから、中身は無事だがボロボロになっていた。
カバン、買い換えるか。
気に入ってたんだけどな。
会社の新事務所が完成。
前の事務所よりかなり広く、やはり新築、何よりきれい。
旧事務所跡は事務所従業員用の駐車場に変わった。
全事務所従業員のうち、あの事故のせいで5人辞めてしまったが、田中さん、立花さん、私の3人は戻った。
真野さんも雅樹もいる。
久し振りにみんなに会う。
同僚達から「加藤さん、立花さん、大変だったけど元気になって良かった」
「心配したよー」
「なー、マジで加藤さん死んじゃったかと思ったよ。でも無事でよかったわー」
「おかえり」
色々声をかけてくれてた。
私も立花さんも、各々お見舞いのお礼を伝える。
机もパソコンも椅子も制服も新しくなった。
社長が「今日から新社屋でのスタートです。立花くんも加藤くんも、大怪我をして大変ツラい思いをさせてしまったにもかかわらず、わが社に戻って来てくれました」と言って拍手をして他の従業員も拍手。
隣同士並んでいた私と立花さんは2人で周りにぺこぺこと頭を下げる。
兄が退院祝いで買ってくれた新しいハンドバッグ、同じく弟が買ってくれた長財布も持って新しい席へ。
まだ変に動くと、神経痛みたいな痛痺れた感覚になる。
立花さんも長時間座るのがちょっとツラいとの事。
適度に休憩を交えながら仕事をする。
トラックの運転手さんが点呼に来る。
その時に顔見知りの運転手さんからたまたま近くにいた私に「大丈夫?」と声をかけてくれた。
「大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、聞いた時はびっくりしたよ。無理するんじゃないよ、大事にね」
「ありがとうございます。いってらっしゃい!お気をつけて」
笑顔で軽く手を上げて事務所を出て行った。
その後も私や立花さんは、色んな運転手さんに心配して声をかけてくれる。
皆さんの優しさが本当に嬉しい。
この気持ちを一生懸命、仕事で返していこう。
田中さんが「今日、加藤さんも立花さんも時間ある?」と声をかけてきた。
「あるよ?」と立花さん。
「私も大丈夫です」と私。
「長谷川さんも誘っていい?」と田中さんが私に聞く。
「はい」
「じゃあ長谷川さんにも聞いてみる!」
そう言って雅樹のところに行くも、すぐ帰って来て「大丈夫だって!」と笑顔で小声で言って来た。
田中さんは雅樹に見せた小さなメモを見せて来た。
今日の夜、お時間ありますか?
お時間あるなら、お食事に行きませんか?
立花さんと加藤さんも来ます。
場所はまた後で知らせます。
すると下に雅樹の字で「OKです」と書いてある。
既に私も立花さんも行く前提で作ってあったメモを見て笑う。
雅樹には田中さんには母親のせいでバレてしまった事は伝えてある。
田中さんが退院祝いをしてくれる事になった。
定時少し前に場所が決まり、田中さんが給湯室まで移動し予約の電話を入れた。
「突然ごめんね。何か2人の顔を見たらどうしても今日、一緒にご飯食べたくなっちゃった!給料日後だしね!」
「ありがとうございます」
私は田中さんの気持ちが嬉しかった。
場所が決まり、また田中さんが雅樹にメモを持って行く。
そして見せてくれた。
場所は南町のお店です。
18時45分に予約を入れましたので残業はしないで下さい。
お店で待ってます。
下には長谷川の印鑑が押されていた。
書類に印鑑を押している最中だったらしい。
何かメモを見ていたら面白くなり3人で笑う。
私達は定時である18時ぴったりに退社し、更衣室で着替えて各々の車で南町の店に行き雅樹を待つ。
会社から車で5分くらい。
18時40分。
雅樹の車が駐車場に入って来た。
スーツ姿の雅樹。
「ごめんお待たせ」
「お疲れ様でーす!長谷川さん、突然すみませんでした!」
田中さんが雅樹に言う。
雅樹は「大丈夫、誘ってくれてありがとう。入ろうか?」と店の入り口のドアを開けてくれた。
そこは洋風居酒屋の様なところ。
お酒もあるが、ソフトドリンクの種類も豊富にある。
私の隣に雅樹、向かえ合わせで立花さんと田中さんが座る。
広めの個室だから、ゆったり座れる。
飲み会が先に来た。
私と雅樹はウーロン茶、立花さんはオレンジジュース、田中さんはカルピス。
「退院祝いだからお酒抜きでいきたいと思いまーす!ジュースだけどかんぱーい!」
田中さんが乾杯の音頭を取る。
頼んだメニューが次々来た。
みんなで取り分けながら楽しく食事。
お酒は飲んでないのに飲んだ時みたいな明るい食事会。
「ところでさー、加藤さんと長谷川さんっていつから付き合ってるの?」
田中さんが突然、私に話を振ってきた。
「結構前からです…」
「加藤さんのお見舞いに行った時に、加藤さんのお母さんから聞いて、本当にびっくりしたんだから!全然知らなかったー!結婚するの?」
その話には雅樹が答える。
「いずれ結婚も考えているけど、今はまだ加藤さんも退院して間もないし、落ち着いた時にとは思っているよ」
すると田中さん「すごーい!加藤さんの事、本当に考えてくれているんですね!加藤さんって私より全然後輩なんだけど、すごくしっかりしていて、気が利いて優しくて、先輩であるはずの私がいつも甘えてしまっていて。可愛い妹みたいな感じなんです。
あの事故の時も、1番年上である私が立花さんと加藤さんを助けてあげないといけないのに、震えて泣くしか出来なくて。あんな修羅場の中でも、真っ先に加藤さんのところに飛んでった長谷川さんはかっこよかったです。本当に加藤さんの事を大事にしているんだなって」
最初明るく話していた田中さんは、話しているうちに泣きそうになり、そう言って黙ってしまった。
雅樹が「田中さん、ありがとう。俺はあの時、本当に必死で加藤さんの事しか考えられなくて。でも、田中さんはあの後、がれき状態の中、泣きながら加藤さんや立花さんのカバンや荷物を探してくれたり、2人のご両親に電話をしてくれたり、夜遅くまで色々対応してくれた。立派だと思うよ。十分先輩としてやってくれたと思う」
田中さんは泣き出してしまった。
「不安で仕方がなかったんです。いつも一緒に働いていた2人があんな形で事故に巻き込まれて、立花さんと加藤さんがどうなってしまうのか、私が出来る事ってそれ位しかないから…」
隣にいた立花さんが涙目で田中さんの背中をさする。
「だから2人が戻って来てくれて、また3人一緒に働けるのが本当に嬉しくて。だから突然だったんですがこの場を設けたくて」
私も泣いていた。
きっとずっと田中さんは苦しかったのかもしれない。
自分だけ助かってしまった。
そう思って過ごしていたのかもしれない。
いつも明るい田中さん。
私の事を、立花さんの事を、真剣に思ってくれる素敵な先輩ですよ!
いい食事会、ありがとうございます!
日曜日。
仕事は休み。
父親は会社の部下の結婚式のため不在。
母親は、退院してすっかり元気になって遊びに来ていた美枝子おばさんと出掛けた。
美枝子おばさんから「お母さんから聞いたわよ?事故、大変だったわね。お見舞いに行けなくてごめんなさいね。これ、退院祝いだから」と言って、私が好きなブランドのお洒落なハンドバッグを頂いた。
「ありがとうございます!結構高かったですよね?」
「おばさんのところ、息子しかいないでしょ?おばさんにとってまりちゃんは可愛い女の子だもの。お見舞いに行けなかったお詫びも込めてね。よかったら使ってよ」
「ありがとうございます!大事にします!」
思わぬプレゼント。
兄からもらったハンドバッグは通勤で使っている。
これはお出かけ用にしよう。
母親とおばさんを見送ってから、私は雅樹のアパートに向かう。
雅樹は笑顔で迎えてくれた。
退院してからは仕事帰りにちょっとだけ寄る事もあったが、ゆっくり過ごすのは本当に久し振り。
「夕方までなら大丈夫だから」
「うん。それまでまりと一緒にいれるなら十分!俺、ずっとまりを待ってたんだ。今すぐにでもまりを抱きたい!」
早速キスをされた。
ベッドに連れて行かれて、そのまま押し倒された。
事故で出来た傷が増えた。
「ちょっと傷があるから…」と見えない様にしたが雅樹は「まりを助けてくれた傷だ。眩しく感じるよ」そう言ってくれて少し気が紛れた。
久し振りに雅樹に抱かれた。
まだ午前中で部屋が明るくて、傷があって、久し振りの裸はちょっと恥ずかしかったが、雅樹が優しくしてくれると、そんな事も気にならなくなった。
「まり…ずっとこうして会いたかった。しばらく会えなかった時は苦しかった。でもこうしてまたまりと愛し合える。最高に幸せだよ…」
「雅樹…私もずっと会いたかったよ」
今までの分もいっぱい愛し合った。
「まりとの子供が欲しい…」
そう言って、今回も中に出す。
でも雅樹とは初めての時だけは避妊具をつけたが、後はずっと中に出しているが子供が出来ない。
タイミングとかもあるのかもしれないが、子供が出来てもおかしくない位、SEXはしていた。
私も雅樹との赤ちゃんが欲しかったから。
終わってからシャワーで髪以外をきれいに洗い、化粧と髪を直して着替えた。
雅樹も私が帰る準備をしている間にシャワーに入る。
シャワーから上がり、パンツ一枚で出てきた雅樹。
「着替えて来るからちょっと待ってて!」
そう言って寝室に入って行く。
帰るまではまだ少し時間はあるため、ソファーに座っていた。
そして着替えた雅樹が小さな紙袋を持って来た。
「まり、これ」
恥ずかしそうに紙袋を私に渡して来た。
中には小さな箱と細長い箱と1個ずつ入っていた。
「開けてみて」
小さな箱の中には指輪が2本。
細長い箱にはネックレスが2本。
「えっ…?」
「1つは俺の。1つはまりの。指輪は事故の前にしばらく俺んちで一緒にいた時に、眠っているまりの指のサイズを勝手にはかったんだ」
「これ、つけてみて」
そう言って小さな方の指輪を取り出し、私の左手薬指にはめてくれた。
「結婚しよう。俺、まりを幸せにする。今回の事故で改めて思ったんだ。まりに会えなかった間は、本当につらかった。こんな時だからこそ、まりの側にいてあげたいのにいてあげられない。結婚したら、ずっと側にいてあげられる。逆に俺が何かあった時は、まりがずっと側にいて欲しい。長谷川まりになって下さい!」
プロポーズをされた。
最高に嬉しかった瞬間だった。
「こんな私ですが、よろしくお願いします」
そして今度は私が雅樹の左手薬指に指輪をはめた。
2人で左手をあげる。
少し細めのシンプルな指輪。
雅樹の長い指には最高に似合っていた。
指輪を外し、指輪の中を見てみる。
私の指輪には私の生年月日が西暦から刻まれていて、ローマ字でMASAKI&MARIと印されていた。
雅樹の指輪にも同じく雅樹の生年月日とMASAKI&MARIと印されていた。
「本当なら、結婚した日とか何だろうけど、いつになるかわからなかったし、悩んだ末に生年月日にした。会社にはまだつけていけないから、デートの時に指輪つけようか」
「ありがとう、雅樹。本当に嬉しい」
嬉し泣き。
「せっかく化粧直したのに、また直さなきゃいけなくなるぞ(笑)」
そう言って笑う雅樹。
夢の中にいるみたい。
こんなに幸せでいいのかな。
ネックレスを開けてみる。
シルバーのネックレス。
「これもペアなんだよ?」
そう言って取り出した。
小さな小判型のチャームにお互いのイニシャルであるMの字が刻まれて、訳せないけどMの下に英語がかかれている。
裏にはMASAKI&MARIの文字。
「ネックレスなら会社にお互いつけていってもバレないだろ?まりは、今も可愛いのつけてるし。これもまりが入院している間に、何か会えない寂しさをまぎらわせてくれるものがないかって探していて見つけたんだ。ネックレスなら1番心に近いし、いつも一緒にいるみたいな気がするかなって」
「つけてみるね」
「俺がつけるよ」
「今つけているやつは外して?」
「りょーかい!」
雅樹がネックレスをつけてくれた。
「おっ、いいじゃん!似合ってるよ!」
私は化粧ポーチから手鏡を出して見てみる。
可愛い。
つけていたネックレスを外して私に手渡す。
そして今度は私が雅樹にネックレスをつける。
「どう?」
雅樹が聞いてきた。
「更にかっこよくなったよ」
「もう俺、何があっても外さないもんね!」
2人で笑う。
「こんなに素敵なものだから、高かったでしょ?」
「ちょっとだけ奮発した(笑)でも、大好きなまりにプレゼントするんだもん。俺、頑張った!また明日から仕事頑張るわー」
そう言って笑う雅樹。
指輪はしばらく雅樹の部屋で保管。
「そろそろ帰るね」
「うん。また明日会社でね」
玄関先でキスをして帰宅。
ネックレスはつけていても、私がいつもつけているのもあり、親にもわからないだろう。
案の定、全く気付かれなかった。
翌日。
会社で会った雅樹は、ネックレスをつけているのが見えた。
思わず小さな小判をギュッと握る。
今日は立花さんは、病院に行ってから出社。
まだまだ通院は続く。
私もだけど。
田中さんが「立花さんから連絡があって、病院混んでて出社するの、お昼近くになりそうだって!」と伝えて来た。
「わかりました」
「今日は何か忙しくない!?お客さんが多いからそう感じるのかなー。さっき来たお客さん、ちょっとかっこよくなかった?目の保養!癒されたわー」
いつもの田中さん。
思わず笑ってしまう。
兄が結婚式を挙げる事になった。
入籍は先にしていて、既に上の子供も生まれていたが、今更なんだけど…と少し照れながら兄が結婚式の報告。
義姉の千佳さん。
余り会った事もないし、余り話した事もない。
兄が余りうちに連れて来ない。
連絡先は聞いているが、連絡をした事がない。
私もだけど、千佳さんもどちらかというとおとなしいタイプ。
会話しても続かない。
そんなおとなしいタイプの千佳さんは、母親からのいびりには言い返さずにぐっと耐えるタイプ。
された事を兄に伝えて、兄が母親を叱る。
すると母親が千佳さんに会った時に「お前は旦那の母親を陥れるために、平気で旦那に嘘をつき悪く言う鬼嫁」と言っていびり抜く。
それじゃあ、うちには来たくないよね。
上の子が生まれた時、帝王切開だった。
陣痛が来ても子宮口が開かず、陣痛促進剤も使い約2日耐えたが、それでもダメで医師の判断で緊急帝王切開になった。
千佳さんは目一杯頑張った。
赤ちゃんも頑張った。
それなのに母親は、帝王切開をした千佳さんを叱った。
「まともに出産も出来ないなんて恥ずかしい!うちの長男の嫁が帝王切開だなんて。もっとまともな嫁がよかったよ。たいした嫁でもないくせに、亮介に偉そうに入れ知恵ばかりしやがって」
まだ動けない千佳さんに怒鳴る。
一緒にいた兄が母親に怒鳴り、病院から追い返し、千佳さんに近寄らない様にさせた。
私は兄と一度だけ千佳さんと赤ちゃんに会いに行った。
赤ちゃんを抱っこさせてもらった。
タオル地の赤ちゃん用のバスローブみたいな服を着てぐっすり眠っていた。
全体的に兄に似ている気がする。
鼻は兄と全く同じ形をしている。
遺伝子ってすごい。
可愛い。
「はじめまして、まりおばさんだよ」
私は抱っこしている姪に色々話しかける。
笑顔になる。
兄も千佳さんも赤ちゃんを抱っこして色々話しかけている私を見てニコニコ笑っている。
赤ちゃんって不思議な魅力がある。
皆を笑顔にしてくれる。
兄と千佳さんにお別れし帰宅。
私も雅樹との赤ちゃんが欲しいな。
強く思った日。
兄と千佳さんの結婚式。
土曜日のため、会社に休みを申請。
兄の結婚式前日。
私は仕事帰りに雅樹のアパートに寄った。
その日は会社都合で、14時過ぎに強制退社。
母親には定時だと伝えて、雅樹のアパートに。
「明日、お兄さんの結婚式なんでしょ?準備とかしなくても大丈夫?」
「私が主役という訳じゃないから、明日1日あれば大丈夫」
「確かにね(笑)でも、いつかはまりが主役の結婚式したいね」
「うん」
この日は生理だったためお預け。
雅樹がノートパソコンを開く。
「なあ、まり。今度一緒に旅行でも行かないか?ここ行ってみたくて」
そう言って、パソコンのモニターを見せて来た。
きれいな海にきれいな景色の写真がいっぱい。
「そうだね、行ってみたい」
「まりと一度も旅行に行った事ないもんな。行ってみたいよなー」
「うん」
付き合って2年が過ぎていた。
2人でくっついて、パソコンのモニターを見て、ここもいい!これ美味そう!とか言いながら旅行の計画をたてる。
本当に行けるかどうかわからないけど、行けたらいいねって言いながら。
気になるファイルを見つけた。
「これ何?」
「えっ?あっ、何でもないよ。あれー?何でここにあるの?消したつもりだったのにおかしいなー。消すよ消す!」
ん?
ますます気になる。
「まず見てみようか?」
「いやいや、見なくていいよ。たいしたものじゃないから。消すから!大丈夫!久し振り過ぎて忘れていただけなんだよ!大丈夫大丈夫!」
焦っている雅樹。
私はマウスを奪い取り見てみる。
元彼女との写真だった。
楽しそうに写る、元彼女と雅樹。
「きれいな人だね」
「いやいや、大丈夫だから」
「…未練があるの?」
「ないない!本当にただの消し忘れ!」
ちょっとヤキモチ。
写真の中には若い雅樹ときれいな元彼女。
「まりに告白する1年も前に別れたし、今はどこで何をしているのかもしらないし、本当にただの消し忘れだから!闇に葬るから!」
そう言って、ファイルごと消去。
「…そうすると、私が新卒で入社した時に付き合っていた彼女って事だね」
「意地悪しないでー!ごめんって」
雅樹、かっこいいし、過去に彼女いたっておかしくない。
今が関係ないなら別にいいよね。
でも、ちょっと気になって元彼女の事を聞いてみたくなった。
私の知らない、雅樹の過去。
「ねえ、元彼女さんっていくつだったの?」
「どうして?」
「聞いてみたくなったから」
「もう昔の話だし…」
「昔の話だから聞いてみたいの。有名な「桃太郎」みたいな昔ばなしの感覚で」
「えー、でもまり、嫌じゃない?」
「現在進行形なら嫌だけど、昔の話なんでしょ?なら全然問題ないよ?話したくなかったら別にいいけど、私に元彼氏という存在がいないから、元彼女ってどんな感覚なんだろうなと思って」
「なるほど。うーん…友達の紹介っていうので知り合って。でも余り長く付き合ってないよ。1年くらい?色々あって別れたんだ。それから会ってないし、本当に何しているのかも知らないんだ」
「そうなんだね。もし街とかでばったり会ったらどうする?」
「うーん、話したくないから逃げる(笑)」
「逃げちゃうの?嫌いなの?」
「うん、余り会いたくないかな。だから今、残っててびっくりしたんだよ。本当に消し忘れてたから」
「へぇー。どうして好きだった人を嫌いになっちゃうんだろ」
「ぐいぐい来るね。やっぱり気になる?」
「なるよね。雅樹の過去はね」
「まぁ、結論から言えば、彼女の浮気と束縛とヒステリーかな。で、俺が嫌になった。まぁ、いいじゃん。今の俺にはまりがいるし、それでいいんだよ」
余り聞かない方が良さそう。
「ところでさ、まりは子供欲しいなーって思う?」
「思うよ。雅樹との子なら」
「俺、もう30代に入って、今子供出来たとしても子供が成人した時には定年近い年になるんだなーって思ってさ。小学生の子供がいる友達もいるし、俺の子供って可愛いだろうなーって。まりとなら世界一可愛い子供が出来るだろうなーって」
「うん、私も雅樹との子供欲しいよ」
「いつかは来てくれるよね、俺達のところに。来てくれるためには…もっとまりを愛さないとダメだな(笑)」
そう言って笑っている。
姪は可愛い。
子供は好き。
赤ちゃんだった姪が泣いても笑っても可愛かった。
自分の子供なら、きっと可愛いだろうな。
私も思う。
雅樹との子なら、世界一可愛いと。
兄の結婚式。
午前中に予約していた美容室で髪をセットしてもらい、化粧もお願いした。
父親は朝からスピーチの練習をしながら、礼服を着る。
母親は着物の着付けと髪のセットのため、私とは違う昔から付き合いがある近所の美容室に行った。
弟は直接結婚式会場に向かうとの事で、式場で会う形になる。
私は以前に親戚の結婚式の時に買ったワンピースを着る。
母親が着付けから戻って来た。
タクシーに乗り、両親と共に兄の結婚式場へ。
新郎側の控え室。
既に弟がいた。
美枝子おばさんを始め、親戚のおじさん、おばさん、いとこ何人かもいた。
美枝子おばさん以外は久し振り。
「あらー、まりちゃん?すっかり大人になってー」
親戚のおばさんが声をかけて来た。
「お久し振りです」
「まりちゃんは結婚しないのー?」
「まぁ、そのうちに」
そんな話をしていたらいとこが「お前の会社にダンプ突っ込んで、お前ともう一人怪我したんだって?ニュース見た時はびっくりしたよ。また会えて良かった」と話しかけて来た。
母親側のいとこの中では1番年上。
小さい頃に祖父母の家に行った時によく一緒に遊んでもらった。
大人になってからは会えてなかったが、久し振りに会えて元気そうで何より。
披露宴前に新郎新婦両家の身内と家族写真。
私は後ろが良かったが、皆に「おい!妹!お前は1番前だ!」といとこが叫び、親戚皆爆笑。
いい笑顔の記念写真になる。
兄の披露宴が始まる。
身内以外、知っている人はいないが、新郎新婦のそれぞれの会社の方々、友人、皆があたたかく新郎新婦を祝ってくれる。
姪は、新婦の妹さんの横の子供用の椅子に座って、振ると音がなるおもちゃで遊んでいた。
後半、ママが恋しくて泣いてしまった姪は、ママと同じ様ながウエディングドレス姿でママに抱っこされていた。
新婦からの感謝の手紙、父親が朝から一生懸命練習していた親族代表のお礼の言葉。
いい披露宴だった。
親族として来て下さった皆様にお酌をしに伺ったり、お酌をされたり。
少しほろ酔い。
両親や年配の親戚は帰った。
二次会に誘われる。
余り乗り気ではなかったが、主役の2人からの強いすすめで弟と共に参加。
いとこ達も来ていた。
新婦である千佳さんの友人が営んでいる、お洒落なバーだった。
レンガ調のシックな内装。
店内の奥にはダーツもある。
大人のイメージのお店。
滅多に飲み歩く事はないため、こういうお店は何となく緊張する。
「亮介さん!千佳さん!ご結婚おめでとうございまーす!今日はお二人を祝して、お店は貸し切りにしてまーす!私からのプレゼントで、今日は飲み放題、ダーツ遊び放題、カラオケ歌い放題でご提供しますので、皆さんで楽しんで下さい!」
オーナーである千佳さんの友人がご挨拶。
各々頼んだ飲み物が若い店員さんから手渡される。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!」
二次会が始まるが、どこに行けばいいかわからず弟の近くにいたが、すぐに弟が知り合いを見つけていなくなってしまった。
「どうしようかな」
人に話しかけるのが苦手な癖が出る。
いとこのところに行こうかな。
でも余り話がないしな。
帰りたーい。
早めに切り上げて、雅樹に会いに行こうかなー。
なんて考えてカクテルを飲んでいたら「加藤さん?」と話しかけられた。
振り返ると男性が1人。
「…はい?」
誰だろ?
「あー、やっぱり加藤さんだ。俺、高校の同級生の林琢磨!覚えてる?」
高校時代を思い出す。
あー、いたなー。
3年間同じクラスだったな。
余り話す事はなかったけど、記憶にはある。
「隣いい?」
カウンター席で1人でいた私。
「どうぞ」
「何か雰囲気変わらないねー!懐かしいなー」
「はあ」
「加藤さんの妹だったのか!今、お兄さんと同じ職場の同じ部署で働いているんだ。加藤さんは何してるの?」
「そうなんだ。私は運送会社の事務してる」
「何か相変わらず真面目な感じが事務って感じ(笑)飲んでる?」
「お酒は余り飲めなくて」
「せっかくのお兄さんのめでたい席だもん。飲みなよ」
「うん、飲んでるよ」
林くんは余り話さない私相手に色々話しかけて来る。
高校の同級生の話で少しだけ盛り上がる。
誰々は今何してるとか、先生の話とか。
懐かしいな。
勉強と部活の思い出しかなかったけど、他にも色んな事を思い出す。
修学旅行とか学祭とか。
若かったなー。
「加藤さんって、結婚してるの?」
「してないけど彼氏はいるよ。林くんは?」
「俺も彼女はいるけど結婚はまだなんだ。でも今の彼女とは別れようと思っていて」
「どうして?」
「何かさ、すごいわがまま放題で俺の事を奴隷か何かだと思われているのか…」
「うん」
「例えば、デートの約束をしていたのに急な仕事が入って遅くなる事があったんだ。だから「今日は遅くなる」って連絡したらすごい剣幕で「ふざけんな!今すぐに私を迎えに来い!待たせるな!」って怒鳴って来てさー。こっちだって行きたいけど、仕事だもん仕方ないじゃん」
「あるね、そういう時」
「でしょ!?で、それでも頑張って早く仕事を切り上げて急いで彼女のところに向かったんだ。約束の時間からは1時間ちょっと過ぎちゃったんだけど、迎えに行ったら「もうデートする気がなくなっちゃったー、彼女がせーっかく楽しみにしてたのに、仕事を優先させるなんて信じられない!」って言って追い返された」
「すごいね、彼女」
「で、俺が何かちょっと言ったらDVだなんだって騒いで、彼女を優先させて優しくして、彼女の言うことを聞くのが彼氏でしょ!?って言って来る」
「大変だね」
「じゃあ彼女っていうのは何なんだって聞いたら、彼女は彼氏に言うことを聞いてもらって甘やかされて可愛くいる事!とかよくわからない持論を言われて…」
「…別れたら?」
「この間、別れ話をしたんだ。そしたら「私の何がいけなかったの?私、悪いところを直すから!反省するから!チャンスをちょうだい!」って泣きながら言うから、そこまで言うならと思って、一回別れ話を撤回したんだ」
「うん」
「最初は少し良かったんだけど、やっぱり元に戻った。喉元過ぎれば何とかだよね。参ったよ。そもそも私のどこがいけなかったの!?と聞いてきた時点でわかってなかったって事だよな」
何か色々大変だね。
雅樹が色々あるんだよって言ってた意味が何かわかった気がする。
何だろ。
お互いの思いやり?
自分!自分!じゃダメだって事だよね、きっと。
「ちょっと加藤さんに愚痴ったらすっきりしたわ。ありがとう。明日また別れ話をしてくる」
「話を聞くくらいしか出来なかったけど、頑張って」
そして林くんは一緒に来ていたメンバーの元に戻って行った。
二次会もお開き。
弟は知り合いと一緒に飲みまくって酔っぱらっていた。
「ねーちゃんは帰るの?俺はまたこいつらと飲みに行ってくる!」
「あんた飲み過ぎなんじゃないの?人様に迷惑かけたらダメだよ」
「りょーかいでーす!」
そう言って敬礼ポーズ。
「お姉さん、圭介借りて行きますねー」
「どうぞどうぞ。楽しんで来てね」
「あざーす!」
酔っ払い軍団はワイワイ騒ぎながら、夜の街に消えていく。
兄と千佳さんが出口でお礼の言葉を来てくれた皆さんに声をかけていた。
「まりは帰るのか?」
兄が言って来た。
「うん。圭介は酔っ払ってたけどまだ友達と飲むんだって言ってたけど、私は帰るよ」
「さっき、酔っ払い圭介を見送ったよ(笑)今日はありがとな。気を付けて帰れよ。もう母さん達は寝てる時間だろうが、会ったら明日の昼間に顔を出すと伝えてくれ」
「わかった」
千佳さんは、千佳さんの友人と話していた。
軽く会釈をすると千佳さんは私の方を見て「まりさん、今日はありがとうございました。気をつけて帰って下さいね」と笑顔で声をかけてくれた。
「ありがとうございます」
また軽く会釈をして店を出た。
そよ風が気持ちいい。
もう深夜0時過ぎ。
この時間なら、いくら明日が休みだとはいっても雅樹は寝ているだろうな。
ふと携帯を見ると10分前にメールが来ていた
「まり、余り飲み過ぎるなよ(笑)」
一言入っていた。
まだ起きてるのかな。
メールをしてみる。
「今、二次会終わったよ!これから帰る」
するとすぐに電話が来た。
「まり!」
「あれ?まだ起きてたの?」
「うん、明日休みだと思って録りだめしていたDVDをみていたら、こんな時間になってた(笑)これからちょっと来る?迎えに行こうか?」
「えっ、遅いし悪いよ」
「大丈夫!大事なまりが夜道襲われたら大変!今どこ?街?蕎麦屋あるよね?そこの前で待ってて!」
切られた。
二次会会場から蕎麦屋まで歩く。
蕎麦屋に着いたら、ちょうど雅樹も来た。
「ありがとう」
「ぜーんぜん大丈夫!まりのためなら喜んで!」
笑顔の雅樹。
「今日のまり、俺が知っているまりじゃない!女性ってすごいね!」
「いやいや、今日は髪も化粧もプロ仕様だから。服だっていつもと違うしね」
「すっぴんのまりも可愛いけどね(笑)」
「やだ…」
「あははー(笑)」
雅樹が運転しながら笑う。
雅樹のアパートに着いた。
「どうぞー」
「お邪魔しまーす」
「お茶飲む?麦茶ならあるけど」
「うん、ありがとう」
「座ってて!今持って来るから」
「うん」
雅樹のアパートでの私の定位置であるソファーの右側に座る。
テーブルの上にはDVDのリモコンと飲みかけのお茶が入っているコップ、柿の種の袋が置いてある。
「あー、ごめん。今片付ける」
「大丈夫。すぐ帰るし」
「お兄さんの結婚式、どうだった?」
「うん、良かったよ。久し振りに親戚の人達にも会えたし、二次会では同級生に会ったし」
「同級生?」
「うん、高校の時に3年間同じクラスだった林くんって男子」
「男子!?ヤキモチ妬くなー、いいなー、まりと飲めて」
「えっ?」
「だって俺、まりと会社以外で飲んだ事ないもん」
「そういえば。ご飯はあるけどね」
「まさか、そいつと何かあった訳じゃないよね?」
「ある訳ないじゃん(笑)」
「そうだよねー(笑)」
「でも、ちょっと2人で話してた。兄ちゃんと同じ部署で働いているみたいで、向こうから声をかけてくれて。声をかけてくれるまで林くんだって知らなくて。ちょっと高校の思い出話をしてから、彼の彼女の話を聞いてびっくりしちゃって…」
私は、林くんから聞いた彼女の話をした。
「あははー、俺の元カノみたいなやつだな(笑)ちょっとタイプは違うけど。その林くんっていう同級生の気持ちはわかる」
「そうなの?」
「別れた方がいいよ。もたないよ」
「私も別れたら?って言った」
「正解!別れろ!そして俺みたいにいい女性を見つけろ!ってアドバイスしてあげたい」
「残念!連絡先交換してないや」
2人で笑う。
「そろそろ帰るね。また明日連絡する」
「わかったよ、おやすみなさい」
玄関先でキスをして別れた。
お酒も入っていたせいか、お風呂に入ってさっぱりしたら急に眠たくなり爆睡。
起きたら10時を過ぎていた。
居間から、テレビの音が聞こえる。
親は起きているみたい。
「おはよう」
水を飲みに居間を通り台所へ。
母親が「二次会は楽しかった?」と聞いてきた。
「うん。楽しかったよ。あっ、そうだ。兄ちゃんが今日の昼間顔を出すから伝えておいてって言ってた」
「あらそう。わかった」
私は顔を洗い、歯磨きをして台所で水を飲み、冷蔵庫に入っていたミニトマトを2個つまんで入れておいたペットボトルのお茶を持って部屋に戻る。
ぐっすり眠ったおかげで、とてもスッキリしている。
部屋のオーディオの電源オン。
部屋着のまま、好きな音楽を聞いてのんびりするのが好きな時間。
携帯を開くと雅樹からメール。
機械オンチの私は、携帯の使い方を覚えるのには苦労した。
やっと携帯がある生活が日常になって来た。
「まりはまだ寝てるかな。俺は今日、床屋に行ってくる。まりはゆっくり休んで!」
そういえば「髪が伸びてうっとうしい!」って言ってたな。
明日、どうなったか楽しみに出勤しよう。
普通のカップルなら、不倫とかの訳ありじゃない限り、休みだと手を繋いでデートしたりするんだろうけど、うちらは会社の人にバレない様にするためと私の母親に遠慮して余りデートはしない。
たまに仕事帰りに食事をするが、デートは雅樹のアパートにいる事がほとんど。
でも、付き合ってからずっとそうだから、そういうものだと思っていた。
会社では平日毎日会えるし。
彼氏は雅樹が初めてのため、他と比べようがない。
たまには一緒にどっか行きたいなーとは思うけど。
部屋で部屋着でベッドの上でゴロゴロしてる1日。
あー、そういえば、明日までに作らなきゃならない書類があったな。
今やっておけば明日楽だなって思っていた時に、居間から母親と兄の怒鳴り声が聞こえる。
様子を見に行くと、千佳さんが泣いている。
また母親が何か言ったんだろうな。
「どうしたの?」
「ちょっとまり!この女、私に反抗したのよ!」
結婚式翌日にこれか。
話を聞いても千佳さんは悪くない。
ちょっと否定したらこれだよ。
翌日の朝。
当番だった私は、早目に出勤。
すると来客用の出入口に、若い女性と母親と見られる女性が立っていた。
私は解錠し「まだ始業時間ではないのですが…どなたかとお約束されてましたか?」と答えた。
奥から同じく当番だった立花さんが走って来た。
すると母親と思われる女性が強めの口調で「こちらの会社に西野っていう人がいるでしょ?出してちょうだい!」と言って来た。
私は立花さんと顔を合わせる。
「あの失礼ですが…」
立花さんが言いかけたところで、母親が「いいから早く連れて来なさいよ!」と更に強めの口調に変わる。
困った。
西野さんは今、出張中。
うちの営業の人。
妻子がいるはずだが…?
「あの、今西野は出張中でして…」
立花さんがそう答えると「嘘おっしゃい!土日挟む出張なんて聞いた事がありません!」
とまくし立てる。
「そう言われましても…相手先からその指定で来ていましたので…」
そう説明をしても「この会社は娘を弄んだ男をかばうのか!」「娘が可哀想だとは思わないのか」とか言ってわかってくれない。
娘の方は泣いている。
その騒ぎに出勤して来た牧野さんと雅樹がこっちに来た。
「どうかされましたか?」
牧野さんが聞くと母親は「いいから早く西野を出せ!」と牧野さんを怒鳴り付けた。
雅樹が私と立花さんに「後は俺達が対応するから、仕事戻って大丈夫だよ」と声をかける。
私達と入れ違いに、雅樹や牧野さんと同じ部署の千葉さんも来た。
朝からこんな騒ぎになり、次々出勤してきた従業員が「何事!?」と雅樹達3人と親子を遠巻きで見ている。
千葉さんが事務所に戻って来て、西野さんに電話を掛ける。
ちょっと話した後、また親子のところに戻り、千葉さんが手振りを交えて何かを親子に伝えている。
「ちょっと、どうしたの?」
後ろから出勤してきた田中さんが私達に声をかけて来た。
事情を説明。
話を聞いた田中さん。
「あれって、西野さんにストーカーしていた女じゃない?」
「はっ?どういう事?」
立花さんが反応。
「西野さんと一回だけ一緒に営業に行った時に言ってた。すごく変な女に付きまとわれて困ってるって」
まさか、そのストーカー?
西野さんは年齢よりも若く見えた。
営業の人らしく、清潔感があって笑顔も爽やかな人。
私達に仕事を頼む時も、決して偉そうにしない。
いつも奥様手作りの愛妻弁当を持参。
以前に「俺の妻が作ったクッキーなんだけどみんなで食べて」と事務員3人分持って来てくれた。
休憩の時に頂いたが、甘さ控えめの美味しいクッキーだった。
雅樹よりも先輩になる。
誰にでも優しく、偉ぶらない西野さんはきっとモテるんだろうな。
田中さんは以前、営業にいた。
うちは引っ越しを請け負う仕事もあるため、お見積とかで伺う際、お客様が女性の場合、知らない男性に抵抗を感じる事もある。
そのため、女性の一人暮らしのお客様には基本的に女性が伺う。
田中さんは入社時は営業にいたが、どうも私は向いていないと思って、私が入社前にいた事務員が辞めたため、社長に直談判し、営業から事務員に変わった。
だから、営業部の女性社員が足りない繁忙期にたまに営業に行かされる時がある。
私も立花さんもずっと事務。
その田中さんが一度、西野さんと一緒に営業に行った時に、お昼を食べようとマックに入った。
マックを食べながら西野さんさんが「困った事があってね…」と言って、そのストーカーの話を言っていたらしい。
原因は良くわからないという。
でも多分、どっかで接点があったんだろうが記憶にはないと。
営業部の人達は皆知っているみたいで、次々に仲間内で何かを話している。
30分はいただろうか。
親子は帰って行った。
雅樹を始め、牧野さんも千葉さんも朝から疲れ顔。
ドラマや小説だけの中だと思っていた。
ストーカーって本当にいるんだ。
後から聞いたが、お腹の中には西野さんとの子供がいる。私が何度も携帯に連絡をしたが繋がらなくなったから会社に来たと言っていたそうで。
もちろん妊娠なんて事実はないし、連絡が繋がらなくなったのは鬼の着信で怖くなった西野さんが携帯丸ごと変えたから。
西野さんは私の事を愛しているはずなのに、愛し合っているのに、どうして邪魔をする!
そう言って、泣きながら暴れだしたため、千葉さんが押さえたが、暴力するのかお前は!と母親が千葉さんに怒鳴る。
西野さん、どうするんだろ。
大変だな。
ある日の朝。
田中さんと立花さんが当番のため、私は通常出勤。
「おはようございまーす」
すると田中さんと立花さんが「加藤さん!ちょっと来て!こっちこっち!」と2人がいる給湯室前で手招き。
何だろう。
私は足早に2人の元へ向かう。
「どうしたんですか?」
すると田中さんが小声で「さっき、佐々木部長と真野さんがキスしてるの見ちゃったのよ」と言って来た。
「…見間違いとかじゃなくてですか?」
「いやいや、あれが見間違いなら、私眼科行って調べてもらうわ。立花さんも見たよね?」
すると立花さんが「見た見た!ヤバイでしょ、会社でキスって」と小声で言う。
「でも佐々木部長って、奥さんいましたよね?」と私が言うと、田中さんが「別居してるって言ってなかった?」と答える。
「真野さん、営業の名前何でしたっけ…山田さん?と付き合ってるって聞きましたけど…」
すると田中さんが「あれ?総務の鈴木さんと付き合ってるんじゃなかった?」と驚く。
「そういえば、総務の福田さんと一緒に掃除道具部屋の前にいるのを見た事があります。焦ってる風に見えたので、見なかった事にして素通りしましたが…」
私がこの間見た事を伝える。
立花さんが「真野さん、ヤバイんじゃない?あちこち会社の人に手をつけてるの」と言う。
田中さんが「長谷川さんは賢いわ。巻き込まれなくて良かったよ」と私を見る。
田中さんにも雅樹が真野さんに告白された事は伝えてある。
田中さんが「あんな美人に言い寄られたら、男なら嬉しいよね。下心があれば尚更」と何とも言えない表情。
もしそれが本当なら、とんでもない事。
時間になったため、私達は何も悪い事はしていないが、見ちゃいけないもの、聞いちゃいけないものを共有した3人一緒にこそこそと事務員に戻る。
雅樹がチラッと私達を見る。
私は席に座り、真野さん、佐々木部長、山田さん、鈴木さんと席順に見る。
佐々木部長は何となく機嫌が良さそうに書類に目を通している。
あんな美人と朝からキスしていたら、そりゃ機嫌も良くなるよね。
でも、会社ではやめて欲しいなー。
お客様が来たので、お茶を入れに給湯室に向かう。
新しくなってから給湯室はちょっと広くなり、奥に2畳位の物置部屋が出来た。
そこに、お客様の湯呑みやコーヒーカップがある。
湯呑みを取りに行こうとすると、声が聞こえる。
ここは私達事務員くらいしか入らない。
立花さんも田中さんも席にいる。
「…誰?」
こっそり扉をあける。
電気はついていないため真っ暗。
「はあ…はあ…ん…」
えっ、何?
誰かこの部屋で何かしてるの?
電気を点けた。
そこには真野さんと福田さんが下半身丸出し、真野さんはスカートをまくりあげている立ちバック状態で繋がっていた。
私はびっくりしすぎて声が出ない。
ただ黙って立ちバック状態で繋がっている2人を見るしか出来なかった。
「あ、えっ?加藤さん!?」
福田さんと真野さんが慌てて離れて服を着出す。
「えっとー。すみません。ごめんなさい。お邪魔しましたー!」
我に返った私は、慌てて2人に謝り給湯室を飛び出し事務所に戻り席に座る。
ドキドキしている。
心拍数があがっている。
手が震えている。
見ちゃいけないものを見ちゃった。
どうしよう。
でもお客様にお茶を出さない訳にいかない。
隣の立花さんが私の様子がおかしい事に気付き「どうしたの?」と聞いてきた。
「あの、すみません。代わりにお客様にお茶お願い出来ますか?」
「ん?うん、いいけど…」
立花さんは代わりに給湯室に向かう。
まだドキドキが止まらない。
ふと雅樹を見る。
雅樹がパソコン越しに私を見ているのがわかる。
思わず下を向く。
真野さんが戻って来た。
真野さんが私に近付く。
ドキン!
心拍数が更に上がる。
「加藤さん、ちょっといいですか?」
真顔の真野さん。
「はい」
私は立ち上がり、思わず福田さんの席を見ると、真顔で軽く会釈された。
えっ、何?
怖いよ。
普段、打ち合わせとかで使う小さな会議室に連れて来られた。
「加藤さん」
「はい…」
真野さんの顔が見れない。
「さっき見た事は誰にも言わないで下さい」
「…言うつもりはないです」
「約束してもらえますか?」
「あの…聞いてもいいですか?」
私は下を向きながら真野さんに質問。
「はい。何でしょうか?」
「福田さんとお付き合いをしているんですか?」
「付き合ってませんよ」
「えっ、じゃあ佐々木部長は?今朝キスしてたんですよね?」
「佐々木部長とも付き合ってませんよ」
「えっ、じゃあどうしてそんな事を…」
「セフレです。体だけの関係です」
淡々と答える真野さん。
「でも会社でそんな事しなくても…」
「会社ってスリルないですか?」
「そんな理由で…」
「みんな私から声をかけたら、面白いくらい近付いて来るんです。好きな人にフラれた腹いせみたいなものです」
「えっ?」
私はここでやっと真野さんの顔を見る。
「加藤さんには言いますが、私、長谷川さんの事が好きなんです。未だに。でも長谷川さんは振り向いてくれない。いつかは振り向いてもらおうと努力したつもりでしたが無理でした。それでも諦めきれなくて、でも長谷川さんにわざとくっついてみたりするんですが、全く私に興味を持ってくれなくて。
そこで長谷川さんと仕事上で良く話す佐々木部長を取り入れれば、長谷川さんに近づけるかもしれないと思って部長と寝ました。
鈴木さんと福田さんと山田さんからは告白されましたが、私は長谷川さんの事が好きなので断りました。でも体だけの関係も楽しいし、長谷川さんに抱いてもらえないうっぷんを彼らに晴らしてもらっています」
「…そうなんですか」
言葉を失う。
怖い。
「だから、とりあえず今日の事は見なかった事にして下さい。お願いします」
「…はい」
「戻りましょ?加藤さん」
そう言って、さっきの真顔と売って変わって満面の笑みの真野さん。
怖い怖い。
どうしたらいいのだろうか。
私は真野さんと時間差で事務所に戻った。
席に戻るも、仕事が手につかない。
真野さんを見る。
何事もなかったかの様に仕事をしている。
雅樹と同じ部署だから、席が近いのは仕方がないにしても…気分はよくない。
雅樹を見る。
パソコン越しに私を見ている。
目が合う。
真顔だった雅樹がふと笑う。
少しホッとする。
まさか真野さん、私と雅樹の関係を知っている?
だからあんな風に私に言った…?
あー!やっぱり仕事が手につかない。
ダメだ。
ちょっとお茶でも買って来よう。
小銭を持って従業員出入口にある自販機でお茶とコーヒーを1本ずつ買う。
ちょっと混乱した頭をすっきりさせたくてコーヒーを飲む。
新しい事務所になっても相変わらず立花さんの席は隣のため、以前の様に椅子ごとスーっと私のところに来る。
「何があったのかな?」
小声で聞いてきた。
私も小声で「話すと長くなります」と返す。
「昼休み終わりそうなくらい長くなる?」
「終わらない様に話をまとめておきます」
「りょーかい!」
そう言って、また椅子ごと席に戻った。
昼休み。
いつもの様に事務員3人でお昼を食べる。
今日は、話があるといつも向かう会社近くのファミレスに来た。
田中さんも私の様子がおかしかったのは気付いていたみたいで、2人で「何があったか話してみよう!」と笑顔。
2人には話そう。
そう思って、福田さんと真野さんが給湯室の物置でエッチな行為をしていた事、真野さんに会議室に呼ばれて話していた事を一気に話した。
さすがの2人も絶句。
田中さんは口が開いていた。
そして「真野さん…すげーな」と田中さんがボソッと言う。
「今朝、佐々木部長とキスして、何時間か後には福田さんとやっちゃってるって事だよね?」
「というか真野さん、長谷川さんの事諦めてなかったの!?」
「多分、長谷川さんと加藤さんの関係は私達しか知らないと思うし、加藤さんに宣戦布告って事はないと思うんだよねー。2人は会社でいちゃつく事も全くないし。余りデートもしないんでしょ?バレようがないよね」
立花さんと田中さんがそれぞれ話をする。
私は黙って聞いている。
お昼も終わり事務所に戻ると、福田さんが気まずそうに私を見る。
真野さんはいなかった。
昼からの就業前、携帯を開いてみる。
携帯禁止ではないが、私が余り見る習慣がない。
雅樹からメールが来ていた。
「何かあったか?今日は俺、定時で帰れそうだから、仕事終わったらうちに来るか?」
「そうします。私も定時で終わらせるから、終わったら雅樹のアパートに行きます」
メールを送るとすぐに「了解」の一言が返ってきた。
隣でその様子を見ていた立花さん。
「目の前にいるのにメールだもんねー。会う約束でもしたの?」
「はい」
「じゃあ早く仕事切り上げなきゃね」
「そうですね。頑張ります」
定時になった。
雅樹は帰る準備をしている。
すると牧野さんが「長谷川!今日飲みに行かないか?」と声をかけていた。
「悪い!俺、今日どうしても外せない用があって!」
「なんだ残念。またの機会だなー。千葉でも誘うかな?」
「おー、千葉のやつ、彼女と別れたばかりだから慰めてやれよ」
「そうするわ。おい千葉!今日付き合え!」
「喜んでー!」
千葉さんが席から叫ぶ。
私も帰る準備。
田中さんが「私も帰ろー」と帰る準備を始める。
立花さんも準備。
着替え終わり、3人一緒に会社を出る。
「お先に失礼しまーす!」
「お疲れ様!また明日ねー!」
真野さんはまだデスクにいた。
従業員出入口近くで3人でちょっと話す。
田中さんが「これから長谷川さんに会うの?」と聞いてきた。
「そうです」
「そっか。ゆっくり話した方がいいかもね。色々と」
「そうします」
「じゃあまた明日ねー!お疲れ様ー」
「お疲れ様でした!」
田中さんと立花さんと手を振ってお別れ。
車に乗り込む。
私の車は、このまま自宅に帰って停めると母親にバレるため、雅樹のアパートのちょうど影になる来客用のスペースに停める。
ここだとまず覗き混まない限りバレない。
雅樹の車は既に定位置に停まっていた。
私は雅樹の部屋のインターホンを押す。
笑顔でスーツ姿の雅樹が迎えてくれる。
まだ仕事姿の長谷川さん。
「お疲れ様、入って」
「お疲れ様です。お邪魔しまーす」
まだ加藤さん。
雅樹に抱き締められキスをされる。
雅樹とまりに戻る瞬間。
雅樹が「俺、ちょっと着替えて来るから座ってて!」
「うん」
そう言って私の定位置に座る。
ちょっとしてから部屋着に着替えた雅樹が来た。
「何か飲む?」
「今日、昼間会社で買って残っているお茶があるから大丈夫」
「オッケー」
そう言って雅樹は冷蔵庫から雅樹の愛用のコップに麦茶を入れて持って来た。
そして私の隣に座る。
「今日、何があった?」
早速聞いてきた。
私が余りにもすごい顔をしていたから心配していたらしい。
「あのね…」
今日あった出来事、真野さんに言われた事全てを話した。
「真野さんが急にいなくなって戻って来ないと思ったら…まさか、福田さんとねー。それはびっくりしたな」
「腰抜けるかと思った。だってまさか会社でそんな事してるなんて誰も思わないし。しかも直前に田中さんと立花さんから、佐々木部長とキスしてたって聞かされて。頭が混乱しまくってて」
「…確かに真野さん、俺に胸とか当てて来ていた。最初は気のせいだと思ったよ。でも余りにも近いから「ちょっと近いよ」と言った事はある。胸が大きくあいた服を着てきた事があってね。目のやり場に困るから注意した事もある。でもそんな服を着てきて、俺を狙ってたって事なのかなー」
「…人様に見せつけられる豊満な胸でうらやましい限り」
私がボソッと呟く。
「俺はまりくらいがちょうどいいなー(笑)」
そう言って、視線を私の胸に落とす。
「なくてごめんなさいねー」
「俺が好きなんだから、それでいいんだよ」
そう言って笑う雅樹。
「でも俺、真野さんは確かに美人だとは思うけど、そうやって色んな男に声をかけまくってやりまくっている女、本当に嫌い!本当無理!俺にはまりがいる。それで十分」
そう言ってキスをされる。
「だってさ、興味ない女に胸見せられても、どうでも良くない?まりも興味がない男にモノ見せられたらどう思う?」
「…気持ち悪い」
「だろ?男の本能的にはつい見てしまう事はなくはないけど…でもどうでも良くない?」
「うん」
「ただ迷惑なだけ。俺、きちんと真野さんと話してみるよ。大丈夫。俺を信じて。このままの状態でいられるとみんなにも迷惑がかかる。会社でやっちゃってるのは、ちょっとなー」
雅樹は引いた笑いになっていた。
翌日、雅樹は真野さんを、前に私と真野さんが話した会議室に呼び出した。
私は雅樹と真野さんが帰って来るまで落ち着かなかった。
仕事はする。
でも上の空。
当番で一緒だった立花さんには伝えてある。
「気になるよね」
いつの間にかすぐ隣にいた立花さんに小声で話しかけられた。
「そうですね…」
「長谷川さんなら大丈夫だって!信じて待とう!」
「…ですね」
「ほらほら、ボーっとしてたら仕事終わらないよ?今日、田中さんの分も頑張らないといけないんだから」
田中さんは営業に駆り出されている。
朝会った時に文句を言っていた。
「私、営業嫌だって言ってるのにー。スーツじゃなくて制服来て会社にいたいよー!嫌だよー!」
ギリギリまで文句を言って、時間になり仕方なく営業に向かって行った。
2人で見送った。
「そうですね。営業頑張っている田中さんの分も頑張らないと!」
「そうそう!」
立花さんはそう言って席に戻る。
しばらくしてから、雅樹が戻って来た。
そしてまた消えた。
私の携帯がカバンの中でブルブル震えた。
普段は滅多に手に取らないが、今回ばかりは気になって仕方ないためすぐに携帯を開く。
雅樹からのメールが来ていた。
「真野さんとはしっかり話をしたから、もう大丈夫。安心して!」
詳しい内容はわからないが、話し合いはいい方向に向かったんだろうな。
立花さんにメールを見せる。
「良かったね!とりあえず安心だね!」
「ありがとうございます」
立花さんと話をしていると、真野さんが戻って来て私を見る。
でもすぐに視線を反らした。
話の内容は気になるが、とりあえず良かった。
雅樹も戻って来た。
いつも通りの風景。
翌日。
真野さんは会社に来なかった。
理由は「高熱」
その翌日も休んだ。
雅樹に聞いた。
「真野さんと何を話したの?」
「ストレートに言ったよ?俺は真野さんに興味は全くないし、付き合う気もない。胸を押し付けられたり、セクシーな服を来て俺を誘っているのかも知れないけど無駄だよ?俺は他の男と違って、下半身しっかりしているから彼女にしか反応しない。迷惑だからやめてほしいって」
熱の原因はこれかな。
真野さんと福田さんは、よく会社で隠れて行為をしていたが、結構頻繁に行為が行われていたのか、他の人たちにもバレた。
あっという間に噂が広がり、社長の耳にも入る。
社長は激怒し、福田さんと真野さんは解雇された。
佐々木部長はバレていなかったため免れた。
会社ではいちゃついてはいなかったため、皆にバレる事はなかったが、関係のあった山田さんや鈴木さんもは気まずそうにしている。
あえて言う必要はないので黙っていた。
美人過ぎるのも、ある意味損なのかな。
真野さんがいなくなって、新しく入って来たのは男性社員。
真面目そうな人だった。
いつもの平和が日が戻る。
しばらく営業にかり出されていた田中さんも事務に戻る。
「あー!やっぱり落ち着く!制服最高!」
ずっとスーツだったため、久し振りの制服に喜ぶ田中さん。
「もうしばらく営業ないって!いなかった分頑張るからね!」
またいつもの3人での仕事。
そんな中、立花さんからカミングアウト。
「彼氏と結婚する事になりましたー!」
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「ありがとう!この間、彼氏からプロポーズされて…そして今、お腹の中に赤ちゃんがいるの」
「えー!!!」
田中さんと一緒にハモる。
「すごーい!立花さん、本当におめでとう!」
「ありがとう。結婚しても会社は辞めるつもりはないけど、出産ってなったら産休もらう事になっちゃうけど…」
「何の心配いらないよ!私と加藤さんがいるもん。大丈夫大丈夫!ねっ、加藤さん!」
田中さんが私を見る。
「はい!大丈夫です。体冷やさないで下さいね。つわりとかツラそうなら、無理しないで私達に遠慮なく仕事振って下さい!そして休んで下さいね!」
「本当に!ツラかったらいつでも言ってー!」
「ありがとう」
立花さんが結婚。
そしてお母さんになる。
立花さんの嬉しそうな顔。
私も嬉しくなる。
もう少しで妊娠4ヶ月になるらしい。
大事な時期。
会社にも報告済み。
入籍だけして、結婚式はまだ未定との事。
立花さん、本当におめでとうございます!
「次は加藤さんかー。いいなー。私は相手すらいなーい」
田中さんが言う。
「長谷川さんと結婚しないの?もう長いよね。ていうかさー、長谷川さんも加藤さんもすごいわ。私なら絶対にバレる自信あるもん。アイコンタクトとかして、給湯室とかでいちゃついてそうだもん(笑)そういうの一切ないし、近くにいた私がずっと知らなかったくらいだもん」
立花さんが「でもヒヤッとする事はたまにあったけどねー」と言って笑う。
「私も、2人に負けないくらいかっこいい彼氏を見つけるんだから!見てろ!まず、その前に痩せなきゃなー。最近、お腹出てきたし、腰回りヤバイし」
シュンとする田中さん。
「大丈夫ですよ!田中さんなら、絶対素敵な彼氏出来ますよ」
私が言うと「頑張る!かっこいい彼氏見つけて、2人の前でいちゃついてやるんだから!(笑)」そう言って叫ぶ。
雅樹にプロポーズされたけど、まだ具体的な話しはしていない。
いつかは結婚をする予定だけど、焦らなくてもいいのかな?
土曜日。
母親には「田中さんとご飯食べて帰る」と伝えている。
入院以来、母親は田中さんの事がお気に入り。
田中さんには申し訳ないが、母親を納得させるのに名前を使わせてもらっている。
ちょっとトラブルがあり、珍しく雅樹より後に仕事が終わる。
雅樹から携帯にメールが来ていた。
「うちで待っているから頑張って!」
私は退社し、車に乗り込み雅樹に電話。
すぐに出た。
「今終わった。これから向かって大丈夫?」
「オッケー!今日、まりに会わせたい人がいるんだ。一緒に待っているから」
誰だろ?
とりあえず、真っ直ぐ雅樹のアパートへ向かう。
部屋のインターホンを鳴らす。
既に部屋着に着替えていた雅樹が出て来た。
「お疲れ様!大変だったね。入ってー!」
玄関を見ると、私のではない女性用のスニーカーがある。
ちょっと緊張しながら部屋の中へ。
髪をアップにし、ジーンズにパーカーというラフな格好をした小柄な女性がいた。
女性は「こんばんはー!初めまして。雅樹の姉の由里子って言います。雅樹からお話しは伺ってます。よろしくね!」と笑顔でご挨拶。
雅樹のお姉さん。
姉がいる、とは聞いていたが突然過ぎて心の準備が出来てないよ!
「初めまして。雅樹さんとお付き合いさせて頂いています加藤まりと申します」
緊張しながらもご挨拶。
お姉さんが来てるなら、何か手土産用意して来たのに!
「すみません、何も用意していなくて…」
私が言うと「大丈夫!大丈夫!そんなの全然問題ないよ!今日、ちょっと用があってたまたまこっちに来ていたから、ついでに雅樹のところに寄っただけなの。そしたらこれから彼女来るって言うからさ、会ってみたくて待たせてもらっていたの」
お姉さんが話す。
よく見たら、やっぱり似ている。
目がそっくり。
「なかなか紹介してくれないんだもん。実家で会った時にも、彼女出来たんだって言ってただけでそれっきりだもんねー」
良く話すお姉さん。
「あなたが事故に会った時の雅樹、大変だったんだからー」
雅樹は「それ以上はいいから!ねーちゃん!」と焦って止めたが、お姉さんは構わず話す。
「大変だったんでしょ?ニュースで見たよ。雅樹の会社にダンプが突っ込んだってニュースで見たから心配になって仕事終わってからここに来てみたのよ。そしたら「まり!まり!」って言いながらワンワンって泣いててさー。話を聞いたら意識なかったって」
「恥ずかしいから頼むからやめてくれ!」
「どうしてよ。誰だって心配するじゃない。私一応、看護師のはしくれだよ?何かアドバイス出来るならしたいじゃん」
へぇー。
看護師さんなんだ。
入院している時に、たくさんお世話になったな。
そんな事を思いながら、長谷川姉弟の会話を聞いていた。
「ねぇ、まりさん?」
お姉さんが私に話をふる。
「はい」
「今日、お会い出来て良かった。雅樹の事よろしくね!」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「お邪魔したね。まりさん、また今度ゆっくり会いましょ!雅樹!まりさんと仲良くするんだよ!じゃーねー!」
そう言って帰って言った。
「うるさいねーちゃんでごめんね。ほっといたらずーっとしゃべってるんだよ」
「明るいお姉さんでいいじゃない。やっぱり似てるね。目とか口元とか」
「よく言われる。まりも弟さんと似てるよね」
「やっぱり兄弟だね」
そう言って笑い合う。
立花さんのお腹もだいぶ目立って来た。
入籍し、苗字が立花さんから岡村さんに変わった。
順調に赤ちゃんは成長しているみたいで良かった。
お腹に手を当てて「だいぶお腹の中で動いているのがわかるの!」と言う立花さんは既にママの顔。
「性別はわかったんですか?」
「うん、男の子の可能性が高いって!」
「そうなんですね!」
もう少ししたら立花さんは産休に入る。
田中さんと相談し、2人で何かお祝いをあげる事になった。
雅樹にも話したら、雅樹も一緒にという事だったので休みの日に3人でショッピングモールに買い物に出掛けた。
田中さんはしきりに「2人の邪魔してごめんねー」って謝っていたけど、私も雅樹もこういう機会がなければ一緒にこうして出歩かないので、逆に田中さんに感謝。
ベビー服コーナーで、田中さんと2人で「これ可愛くない!?」
「可愛いですね」
「これなんかどう?」
「こんなのもありますよ!?」
とか言いながら見て歩く。
そんな2人の保護者の様に、後ろからちょっと離れて雅樹がついて歩く。
悩みに悩んで子供服と、スタイや産着セットみたいなのを買い可愛く包んでもらう。
そして、3人でショッピングモールの中にある
レストランでちょっと遅めのお昼ご飯。
日曜日のため、家族連れが多い。
田中さんが周りの家族連れを見て「何かいいなー」と呟く。
「私さ、母子家庭で父親がいなかったから、休みの日も母親ずーっと仕事でいなくて、寂しかったから家族連れ見ていたらうらやましくて。でも母親には感謝してるよ?ちょっとひねくれたけど、ちゃんとに大人になりましたよ!ってね。今度母親と旅行でも行ってみようかな?と思って」
「いいじゃないですか!お母さんと旅行」
「たまには親孝行しようかなーって思って、今度の連休に温泉でも行こうかな?ってお金貯めてるの!」
「楽しめたらいいですね」
「早く嫁行けーってうるさいから、温泉入ってる時くらいは静かになってくれるでしょ?(笑)」
雅樹も楽しそうに田中さんと話している。
食事をしてから田中さんとお別れ。
「私は帰るから、後は2人でごゆっくり!また明日ね!」
そう言って田中さんが買ったプレゼントを持ってショッピングモールの駐車場で別れた。
私達も雅樹のアパートに帰る。
「今日は田中さんと色々と見れて楽しかった!」
私が雅樹の車の助手席に乗って、運転している雅樹に話しかける。
「2人の後ろで2人を見ていて、俺も楽しかった」
「田中さんには感謝だね」
雅樹も「そうだね」と答える。
雅樹のアパートに到着。
雅樹と愛し合う。
いつもよりも激しい気がする。
終わってから「まり、今度の連休、うちの実家に行かないか?まりを紹介したい」と言って来た。
「えっ?実家?」
「まりと結婚前提に付き合ってるって紹介するんだよ。ダメ?」
「ううん。私も雅樹のご両親にきちんとご挨拶したいし」
「じゃあ決まり!親には連絡しとく」
「うん」
時間ギリギリまで雅樹と愛し合う。
今月末で立花さんが産休に入る。
田中さんが、立花さんのお腹を撫で「元気に生まれておいでね。お姉さん達も早く会えるのを待っているからね!生まれたらお姉さん達と一緒に遊ぼう!」とお腹の赤ちゃんに話しかける。
私も立花さんのお腹を撫でる。
「楽しみに待ってるね」
立花さんは笑顔。
部長から小さな花束を受けとる。
「立花くん、元気な赤ちゃんを生んで、素敵なお母さんになった立花くんを待っています」
「ありがとうございます」
立花さんは目に涙を浮かべてご挨拶。
退社前に、更衣室で片付けをしていた立花さんに、私と田中さんから以前買っておいた赤ちゃんへのプレゼントを手渡す。
田中さんが「私と加藤さんと長谷川さんの3人から。気に入ってくれるといいけど。立花さんの席はずっと私達で守り続けるから!安心して元気な赤ちゃんを生んでね!赤ちゃんが生まれたら会いに行くから!」と話す。
私は横でうんうんと頷く。
「ありがとう!また絶対に戻って来るから!」
立花さんは泣いていた。
私も田中さんも涙目。
立花さんがいない間はちゃんと大変にはなるけれど、立花さんも元気な赤ちゃんを生むために頑張る。
私達も頑張らないとね。
立花さんがいなくなった会社。
寂しい。
いつも何か話しかける時に、椅子に座って椅子ごとスーっと隣にやって来るが、今日からはそれもない。
多少の荷物は残っているが、ほとんど物がなくなった立花さんのデスクを見る。
来週から立花さんの産休の間のアルバイトの人が来て立花さんの席に座る予定。
静かな時間。
昼休み、田中さんと一緒にいつものマックへ。
「立花さんがいないと寂しいねー」
「ですね」
「でもママになって戻って来るまでの辛抱!新しくアルバイトで23歳の子が来るって言ってたけど、どんな子だろうね。仲良くなれたらいいね」
「そうですね」
そんな話をしながら田中さんとのお昼。
そして、新しいアルバイトの子の初出勤の日。
私と田中さんは立花さんがいないため、毎日朝の掃除をするため、早目に出勤していた。
従業員出入口でキョロキョロしている小柄な女性を発見。
私に気付くと「あの、今日からお世話になる事になります渡辺といいます!」と近寄って来て挨拶をしてくれた。
「初めまして。加藤といいます。よろしくお願いいたします。早速ですけど、更衣室に案内しますね」
「はい!」
真面目そうな感じの子。
私と同じにおいがする。
奥にいた田中さんが気付いてこっちに走って来た。
「初めましてー!田中といいます。今日から私が色々と教えていくのでよろしくね!」
「今日からお世話になる渡辺といいます!よろしくお願いします!」
そしてペコリとお辞儀をする。
更衣室で制服のサイズを合わせる。
「えー、渡辺さん7号着れるの!?細っ!」
田中さんが驚く。
「私なんて13号だよー!ダメだー痩せないと!加藤さんは何号?」
「私は11号です」
「加藤さんも細いもんね」
「いえいえ。田中さんは胸があるからですよ。私ないですもん」
田中さんはFカップ。
うらやましい。
私はBカップ。
少し分けてほしい。
制服に着替えた渡辺さんと3人で会社案内。
次々に従業員が出社。
渡辺さんを見て、皆挨拶をする。
男性社員が「ちっちゃいねー!身長いくつ?」と渡辺さんに聞く。
「152センチです」
私と約10センチ違うのか。
小さい女性って可愛い。
渡辺さんは、すごく一生懸命頑張っていた。
田中さんや私がお願い事をしても、すごく丁寧にやってくれる。
2週間を過ぎた頃、渡辺さんはだいぶ慣れて来たのか、笑顔も見える様になった。
美人だった真野さん程ではないが、若くて小さくて細くて可愛らしい渡辺さんに男性社員が何人か集まる。
「今度、一緒に食事でもいかない?」
「ちっちゃくて可愛いねー!」
「普段は何してるの?」
渡辺さんは「いえ…」とか「はい…」とかしか返さない。
田中さんが「こらこらこら!口説くな!」と取り巻く男性社員を追い払う。
「おー怖い怖い」
そう言いながら男性社員が離れる。
「ごめんねー!ちょっと変なのいるけど、大半は皆いい人達だから!何かあったらすぐ私に言って!」
「ありがとうございます」
渡辺さんがペコリとお辞儀をする。
渡辺さんはいつもお弁当を持参。
小さなお弁当箱を持って来る。
田中さんがそのお弁当箱を見て「そんなんで足りるの?」と聞く。
「はい!」
「えー!私だったらそれに豚汁大盛くらいなかったら全然足りない!だから細いのかー」
「余り食べられなくて」
「女の子はそれ位が可愛いよー。私が食べ過ぎなんだわ」
そう言いながら笑っている。
私も渡辺さんのお弁当では全然足りない。
私も多分、豚汁つける。
渡辺さんがいつもお弁当のため、最近は私も田中さんもお弁当にする。
とはいっても、出勤途中のコンビニで買ったり、ほか弁屋さんで買ってきたりのもの。
たまーに作って持って行くが、朝は少しでも寝ていたい欲求に負けてしまう。
渡辺さんと3人でお昼ご飯。
色々話す。
渡辺さんの学生の頃はいつも一人でいたから、学生時代の友達が余りいないという話に「私もそんな子でしたよ」と答える。
似た様な境遇に親近感がわく。
きっと渡辺さんなら仲良くやっていけそう。
立花さんが復帰するまでの期間限定だけど、それまで楽しく仕事が出来たらいいなと思う。
棚の上の書類を取りたいけど取れない渡辺さん。
ぴょんぴょん跳ねるが取れない。
私が行こうとすると、近くにいた千葉さんが「これ?」と言ってファイルを取ってくれた。
「ありがとうございます!」
渡辺さんがペコリとお辞儀をする。
千葉さんが「頑張ってるね」と笑顔で渡辺さんに話しかける。
「ありがとうございます!頑張ります!」
そう言いながらまたペコリとお辞儀をする。
何か可愛い。
「すみません、取れなくて取って頂きました。今の方はどなたでしたっけ…まだ名前が覚えられなくて」
申し訳なさそうに私に聞いてきた。
「今の人は、千葉さんっていう配車を担当したり、事故とかのトラブルの時に対応する部署の人。あそこがその部署で…」
私はそう言って、雅樹や千葉さんがいる部署を指差す。
雅樹がこっちを見た。
渡辺さんが雅樹に頭を下げると、雅樹は笑顔で軽く頭を下げる。
「今の方も同じ部署の方ですか?」
「そう、同じ部署の長谷川さんっていう人ですよ」
「ありがとうございます!名前が覚えられなくて…すみません」
「いえいえ、最初は誰でもそうです」
私も名前を覚えられなくて大変だったから気持ちはわかる。
佐藤さんが3人いるし、同じ名前の人もいる。
田中さんが基本的に教えているが、ちょっとした事は私も教えていた。
失敗もした。
その度に、こちらが申し訳ない位に謝る。
田中さんが「失敗して覚えていくんだから、次は気を付けよ!私もそうだったし、加藤さんだって最初は結構ミスして怒られたよー」と励ます。
「そうです。私もよく怒られました。でも渡辺さんはパソコンのスキルあるし、全然大丈夫ですよ!」
私も渡辺さんに話しかける。
「ありがとうございます!以後気を付けます!」
「頑張ろう!」
「はい!」
素直でいい子だな。
ふと渡辺さんの手元を見る。
ブレスレットをしている。
「おしゃれなブレスレットですね」
私が渡辺さんに聞く。
「これ、亡くなった祖母の形見なんです。私、おばあちゃん子だったので、いつもつけていたこのブレスレットがどうしてもほしくて母からわけてもらいました」
「そうなんですね」
やっぱり可愛い。
私の誕生日。
20歳を過ぎてから、子供の頃の様に喜ぶ事もないが家族に祝われる事もない。
ただ、毎年ケーキとちらし寿司は必ず食卓に出て来た。
本当は雅樹と過ごしたいが、雅樹は千葉さんと出張中。
3日間の出張だが、会社にいないのは寂しい。
でもメールはくれていた。
「誕生日おめでとう!今日は一緒に祝う事は出来ないけど、日を改めて一緒に祝おう!」
そのメールだけで十分嬉しい。
実家で誕生日。
とはいっても普通の食卓。
母親のちらし寿司は見た目はシンプルだけど美味しいから好き。
食べ過ぎたなー。
太るなー。
きっと渡辺さんの1日の食べる量を夕飯一食で食べた気がする。
最初、私も少し太って来た気がする。
つい会社にあるおやつをつまんでしまう。
誰かの出張のお土産とか、取引先の方々から頂いたお菓子とか、いつも何かしらのおやつが置いてある。
今日はパウンドケーキが置いてあり、つい食べてしまった。
少し控えよう。
明日は雅樹が帰って来る!
夕方には駅に着くと言っていたな。
楽しみに会社に行こう。
翌日。
予定より少し早目に雅樹と千葉さんが帰って来た。
思わずにやける私。
雅樹の元気な姿が何より嬉しいプレゼント。
千葉さんが「お土産買って来たから、皆さんでどうぞー!」と美味しそうなスフレが入っている箱を開ける。
また太りそう。
でも食べちゃう。
渡辺さんにも1つ渡す。
「せっかくなんで頂きましょ!」
「ありがとうございます!」
雅樹が席に座っていると安心する。
早速、仕事に取りかかる雅樹。
パソコン越しに私を見て軽く微笑む雅樹。
お帰りなさい。
心の中で呟く。
その日の夜、仕事帰りに雅樹のアパートに寄る。
出張で疲れているだろうから、少しだけ滞在。
「洗濯しなきゃ!」
雅樹はスーツケースから洗濯物を引っ張り出す。
「面倒くさいなー。でもやらなきゃなー。出張は疲れるから行きたくないよ。まりとも会えなくなるし」
ぶつぶつ文句を言いながら洗濯を始める。
少しの滞在で帰宅。
ちょっとでも雅樹に会えて良かった。
雅樹のご両親に会うと約束していた連休。
朝から緊張して早くに目が覚めた。
母親には「田中さんのところに行く。連休だから泊まって来る」と伝えてあるが、一応田中さんには言ってある。
もし、何らかの形で母親から何か言われたら口裏を合わせて欲しいと。
「オッケー!その時は任せて!」と快く受けてくれた。
雅樹の実家は隣町。
とはいっても町並みは町境を越えても続いているから離れたところではない。
例えで言うなら、東京都の渋谷区から新宿区に移動しました。
みたいな感じだろうか。
こんなに都会ではないが。
普通に隣町同士通勤するし。
雅樹のアパートから車で20分位。
閑静な住宅街にある一軒家。
雅樹はずっと車の中で「大丈夫!大丈夫!」と言ってくれていたが、緊張しまくりで脈が飛んでる感じ。
玄関前で深呼吸。
雅樹が「チャイム押すよ」と言う。
「はい、大丈夫です」
つい敬語。
チャイムを鳴らすと、犬が吠えた。
雅樹のうちで飼っている大事な家族。
ドアが開く。
お姉さんとお母様と吠えながらも犬が出迎えてくれた。
雅樹が「彼女連れてきた。加藤まりさん」
玄関先で紹介された。
「は…は…じ…まして…加藤です…」
緊張の余り挨拶を噛みまくる。
「どうぞ上がって下さい!」
お母様が笑顔で言って下さるが、足が震えてうまく靴が脱げない。
お姉さんが「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?気楽に気楽に!はい!深呼吸!」
そう言われて深呼吸。
何となく落ち着いた気がする。
居間に通された。
広めのリビング。
出窓が大きくて明るい。
お父様が迎えて下さる。
「初めまして。雅樹の父です」
「初め…まして…加藤と申します」
また噛む。
「あの…これ、よろしければ…」
来る途中に寄った和菓子屋で、好きだと言っていたどら焼きを渡す。
「そんな気を使わなくてもいいのに。かえってすみませんね。ありがとう」
お父様とお母様が受け取って下さり、居間の奥の和室にあるお仏壇に備えた。
うちの母親とは大違い。
兄の時には「鰻だ!霜降り肉だ!」と騒いだ母親。
母親とは何もかもが違っていて、快くどら焼きを受け取って頂けて、ちょっとだけ緊張がほぐれた。
お母様がコーヒーを出して下さる。
色々聞かれて答えたが、緊張で余り覚えていない。
失礼な言動はしてなかったはず…。
ずっとにこやかなご両親。
少しずつ緊張がほぐれていくのがわかった。
でも手汗、脇汗ががすごい。
雅樹が「俺、彼女と結婚しようと思って」とご両親に伝える。
「8歳も年下だけど、しっかりしているし、彼女と付き合っていて奥さんにするなら彼女しかいない!って思ったんだ」
ご両親は「真面目そうだし、可愛らしい子じゃない。いいと思うよ。まりさん。本当にうちの息子でいいの?30越えたおじさんだよ?」と聞いて来た。
「雅樹さんとお付き合いさせて頂いて、本当に私も雅樹さんとずっと一緒にいたいと思っています」
すると、ダイニングテーブルの方にいたお姉さんが「彼女、本当にいい子だよ?雅樹にはもったいないくらいだわ」と言って来た。
ご両親は「息子の事、よろしくお願いしますね。何かあったら、すぐに言ってね。生んだ責任者として叩き直してあげるから!」と言って笑っていた。
雅樹が「大丈夫!俺は優しいぞ?なっ?まり」と言って私を見る。
「はい、本当に優しくて大事にしてくれています」
お姉さんが「ねえ、何かこの部屋暑くない!?」と言って、ダイニングテーブルの横の窓を開けた。
皆で笑う。
何かいいな。
こんな家族。
愛犬が足元に来た。
名前はきなこちゃん。
可愛いシーズー犬。
前髪を赤いリボンで結んである。
お姉さんが「まりさんが来るから、この子もおしゃれして、今日は赤いリボンで決めてみた」ときなこちゃんを抱っこして、リボンで結んで上にピョンと伸びた毛を触る。
可愛い。
「雅樹、晩飯はどうする?」
お父様が雅樹に聞く。
「いや、今日はもう帰るよ」
「そうか。まりさん、またいつでも遊びに来て下さい」
「ありがとうございます」
玄関までご両親とお姉さんと、お姉さんに抱っこされたきなこちゃんが見送りに来てくれた。
「今日はありがとうございました」
私がお礼を伝える。
「またいらっしゃい」とお母様。
「またね!」とお姉さん。
丁寧にお辞儀をして玄関ドアを閉める。
雅樹の車に乗り込む。
「緊張したー!でも、すごく素敵なご家族」
「もう、まりも長谷川家の一員だよ!」
「ありがとう。私、変な事言ってなかった?緊張し過ぎて前半覚えてないの」
「変な事は言ってないけど、噛みまくって何言ってるかわからない時はあった(笑)」
「いやだ、ごめん」
「初めて会うんだもん。そうなるよ。俺もまりのご両親にお会いする時は、もっとヤバイぞ!」
そう言って笑う。
「遅くなったけど、まりの誕生日祝いと退院祝いで寿司食わない?まり、寿司食いたいって言ってたよね?近くにうまい寿司屋があるんだ」
そう言って、お寿司屋さんに向かう。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
和服を着た上品な中年の女性が席に案内してくれた。
他にも何組かお客様がいた。
席に着くと雅樹が「まりは何が好き?」と聞いてきた。
「シメサバ…っていうかそういう系統以外なら何でも」
「シメサバ嫌いなの?」
私は小声で「あたってから食べられないの。怖くて。焼けば大丈夫」と答える。
「なるほど。俺は魚卵系が苦手なんだよな」
「イクラも?」
「うん。魚卵系以外なら何でも!さて、どうしようか」
「私はこれにしようかな」
「えっ?これでいいの?」
「だって、この海鮮丼、いっぱい具材がのってて美味しそうだよ?」
「うーん、イクラがのってる…」
雅樹はしばらく悩んで決まったみたいで「すみません…」と右手をあげる。
すぐに、先程の女性が来た。
雅樹は私と同じ海鮮丼の写真を指差し「あの、これ、魚卵抜きって出来ますか?」と聞く。
「大丈夫です」
「じゃあ、これの魚卵抜きと抜かない普通のやつ1つずつと、このお寿司セットをお願いします」
「かしこまりました。お待ち下さいませ」
女性は深々と頭を下げて、裏に入る。
「まりとこうして食事するのも久し振りだな」
「そうだね」
「いつもうちだもんなー。そうだ!今日、これからプチ旅行行かない?って言ってもこの時間だから、そんな遠くは行けないけど」
「うん」
「じゃあ決まり!海見ない?前に行ってみたいねって行ってたじゃん」
「行きたい!」
「よし!決まり!」
雅樹と初めてのプチ旅行に行く事になった。
すごく美味しい海鮮丼。
一緒に、別で頼んで運んで来たお寿司セットのイクラの軍艦巻きを、私の前に無言で持って来た。
私はイクラは好きだから、喜んで頂く。
代わりに光り物の魚を雅樹の前に持って行く。
2人で笑う。
完食。
「今日はまりへのお祝いなんだから、財布はしまいなさい。業務命令!」
「わかりました。長谷川さん」
「素直でよろしい、加藤さん」
また笑う。
楽しい。
海に向かう途中にあったコンビニで飲み物を買い、ちょっとした峠道を越え、1時間程で海が見えて来た。
「わぁ!海なんて何年振りだろう!」
私が久し振りの海に興奮。
海沿いの道路に出た。
窓を開けると、波の音が聞こえる。
ちょっとした駐車スペースがあり、そこに車を停める。
雅樹が海を見ながら、軽く伸びをする。
私は雅樹の隣に行き、一緒に海を見る。
海と岩場しかない場所。
遠くに町並みが見える。
「まりとこうしたデートって初めてだね」
「そうだね。いいものだね」
「まりと結婚したら、いっぱいまりと色んなところに行きたいなー」
「私も」
今日は前に雅樹が買ってくれた指輪を、お互いの左手薬指につけている。
「いつかはこの指輪を堂々と会社につけていきたい」
そう言って左手をあげる。
夕方になってきた。
ちょっと走るとお土産屋さんがあり、せっかくなので見てみる。
可愛いキーホルダーを見つけた。
「初プチ旅行記念にペアで買ってみる?」
「買ってみる。私から日頃の感謝を込めてプレゼントする」
「マジで?」
「うん。どの色がいい?」
「俺はグリーンかなぁ?」
「じゃあ私はピンクで。すいません!これ下さい!」
私は店員さんに声をかけてお会計。
個別で小さな紙袋に入れてくれた。
「このテープが貼ってある方がピンクです」
店員さんが説明してくれた。
「ありがとうございます」
店を後にする。
「これからどうしようか?暗くなってきたし。初めて以来のホテル行く?」
「えっ?泊まり道具、雅樹のアパートにあるよ?」
「後ろの席にあるよ。俺のも」
「いつの間に!?…じゃあホテル行ってみようかな」
道路沿いにあったラブホテルに入った。
ここのホテルは、フロントさんがいた。
とはいっても、顔は見えない。
小さな小窓みたいなところから女性が「こちらのお部屋にどうぞ」とカードキーを渡して来た。
「右側のエレベーターで3階まで御上がり下さい。降りてすぐ右手にお部屋があります。ご宿泊でよろしいですか?」
フロントさんが聞いてきた。
雅樹が「はい」と答えると「前料金になります」と言ってお金を入れるトレイを小窓から出す。
雅樹がお金を渡すと、お釣りと共に割引チケットをもらう。
「ご宿泊は翌朝10時までです。ご不明な点はフロントまでご連絡下さい。ごゆっくりどうぞ」と言って、小窓が閉まる。
雅樹と一緒にエレベーターに乗り言われた3階に着いた。
すぐに右側に部屋があった。
部屋番号のところが点滅していた。
きれいな廊下。
でも少し薄暗い。
カードキーを差し込む。
「ひろーい!」
部屋が2つある。
アパートでいう、区切られていない1LDKみたいな部屋。
手前に大きなテレビにテーブルとソファー、が向き合っていて、奥の部屋にベッドがある。
シンプルだけど、白と黒を基調としたシックなおしゃれな部屋。
お風呂も広い。
「きれいな部屋だね」
雅樹が部屋を見回す。
私はまた色々開けて見ていた。
ここでも、大人のおもちゃが販売していた。
雅樹が「使ってみる?」と聞いてきた。
「使わない」と即答。
「世界が変わるかもよ」
「使いません!」
あははーと笑う雅樹。
「やっぱりまりは可愛いよ」と笑いながら私を見る。
テレビをつけた。
通常のテレビ番組が放送されている。
歌番組だった。
途中で買った飲み物と、ちょっとした食べ物を出して、テーブルに置く。
雅樹が「お風呂にお湯をためて来るよ。せっかくだし、ゆっくりお風呂に入ろう!」
そう言って、お風呂場に向かいお湯を出す。
「お湯がたまるまで時間かかりそー」と言いながら帰って来た。
「今度は温泉旅館に泊まって、ゆっくりしたいね」
「そうだね。でも雅樹と一緒なら、どこでもいいかな」
「いや、やっぱりまりは可愛い!」
そう言って抱き締めてくれた。
雅樹と8歳違うため、流行りの歌も聞いている時期が違う。
私が中学生の時に流行っていた歌は、雅樹は社会人になっている。
こういう時に、ちょっとした年の差は感じるが、それ以外は余り気にならない。
お風呂のお湯がたまった。
「一緒に入ろ!風呂場の電気消したら、お風呂が青く光るよ!見てみて!」
雅樹は脱衣場から叫ぶ。
浴槽の下の方から青い光が出て、お湯が青く照らされていた。
「きれいだね」
「きれいだから一緒に入ろうよ!」
そう言って、私の来ていたブラウスのボタンに手をかける。
脱がされた。
脱衣場も暗くし、湯船の青い光が私達を照らしている様に感じる。
軽く流してから、一緒に向かえ合わせで湯船に浸かる。
しばらく向かえ合わせで入っていたが、雅樹が「まり、俺に背中向けてこっち座って」と言って来た。
雅樹が足を開き、私はその足の間に入り、雅樹に背中を向けた状態に変えた。
後ろから雅樹が抱き締めて来て、何回も首筋にキスをした。
「あっ…」
雅樹の手は私の胸に。
「まり…」
そう言いながら優しく胸を触る。
そして片手は下に。
「まり…可愛いよ」
「あっ…雅樹…」
雅樹の長くきれいな指が私を優しく撫でて来る。
私は思わずのけ反る。
既に雅樹のものが大きくなっている。
「ダメだ!無理!」
そう言って湯船から洗い場に行き立ちバックで挿れて来た。
洗い場にある鏡が私達をうつしている。
それに気付いた雅樹は、私を四つん這いにさせて鏡の前に。
そして後ろから私の一番感じるところを撫でながら挿れて来た。
「まりの感じている顔が良く見えるよ」
そう言いながら、後ろからガンガン突いてくる。
「恥ずかしいよ…でも…雅樹…気持ちいい…」
「俺もだよ」
そして中に出す。
それから洗いっこして、裸のまま奥にあるベッドに行きまた愛し合う。
また猿並みにやりまくった。
感じまくった。
中に出しまくった。
可愛い雅樹の寝顔。
「長谷川さん」では絶対に見れない姿。
「加藤さん」では見せてくれないけど「まり」にだけ見せてくれる、可愛い雅樹。
あー。
連休も終わりかー。
翌朝。
「腰がいてー!昨日、やり過ぎたかなぁ」
雅樹が腰をおさえている。
「そうかもね」
「俺も年なのかなー、20代の時みたいにいかないや」
私は帰る準備をしながら、腰の痛みを訴える雅樹と話す。
「腰が痛いなら、もうしばらく出来ないね」
「そんな事はない!まだまだまりと愛し合いたい!」
おじいちゃんみたいに腰を曲げている雅樹。
「大丈夫?」
「大丈夫!」
真っ直ぐな気をつけ!の姿勢になる。
時刻は朝8時半過ぎ。
余り寝ていないが、不思議と眠くない。
雅樹の帰り支度は終わっている。
「明日からまた仕事かー。頑張るかー。でもまだ、まりとのプチ旅行を楽しむ時間はある!今日もいい天気だよー!」
部屋の窓を開けて、外の景色を見る。
昨日、間近で見ていた海が見える。
ちょっと小高い山の上にホテルがあるため、遠くまできれいに見えた。
ホテルを出て、気ままにドライブ。
結構賑やかな街に来た。
道の駅があった。
せっかくなので見てみる。
港町らしく、魚介類がたくさん売られている。
地元の人と思われる人もいた。
干物も売っていた。
瓶に入った珍味みたいなのを買った。
余り買うと母親にバレてしまう。
そこからぐるっと回って、一周する形で雅樹のアパートに帰って来た。
帰宅したのは夕方。
「ずっと運転、お疲れ様でした」
「おー、ありがとー!ちょっと疲れたけど楽しかったよ」
「私も。…指輪を返す時間だよ」
「あーあ。いつになったらずっとつけていれるのかなー」
雅樹と一緒に箱にしまう。
ちょっとだけ指輪の跡がついている。
「あーあ。明日から仕事だよ。加藤さんに戻っちゃうのか。まりのままでいてほしいのに」
「そうですね、長谷川さん」
「まりー、まだもう少し彼氏でいたいよー」
「私もいたいけど、そろそろ帰らないと」
「そうだよなー。また明日会社で」
「うん。腰大事にしてね」
「大丈夫!じゃあまた明日ね!」
玄関先で恒例のキス。
そして後ろから帰宅。
部屋に戻ったら、何か疲れが出てきた。
でも心地好い疲れ。
今日は早目に寝よう。
翌朝。
当番のため、いつもより早い出勤。
一仕事を終え、事務所に戻ると、ちょうど雅樹が出勤したところだった。
腰をさすっている。
まだ痛いのか。
すかさず千葉さんが「腰痛いのか?昨日、女とやり過ぎたんじゃねーのか?」と笑いながら突っ込む。
千葉さん、正解!
一昨日だけどね。
「そうかもなー」
雅樹が答える。
「お前、女いるの!?」
「どうかなぁー?(笑)」
「何だよー、いるなら紹介しろよー」
「お前の頭は女しかないのかよ(笑)」
「俺、あいつと別れて人肌が恋しいんだよ。誰か紹介してくれよー」
そんな会話をしていた。
渡辺さんも田中さんも揃った。
休憩の時に田中さんが「長谷川さんのご両親のご挨拶、どうだった?」と聞いてきた。
「素敵なご家族でした。きちんとご挨拶も出来たし良かったです」
「お母さんから連絡もないし、来る事もなかったよー」
「あっ…そうだ、田中さんにお土産があります」
そう言って、道の駅で買った瓶に入った珍味を渡す。
「えっ?どっか行って来たの?」
「長谷川さんのご両親にご挨拶した後に、長谷川さんとちょっと一泊して長いドライブに行って来ました」
「そうなんだ!お土産ありがとー!」
喜んでくれた。
雅樹とペアで買ったキーホルダーは、車の鍵につけた。
雅樹は会社ではまず出す事がない、自宅の鍵につけてくれた。
昼休み。
渡辺さんと田中さんと一緒にご飯。
田中さんが「渡辺さんは彼氏いるの?」と渡辺さんに聞く。
「今はいません…」
「一緒だねー!どうして別れたか聞いてもいい?」
「フラれました。他に好きな人が出来たって言われてしまいまして…あっ、今はもう吹っ切れてますので大丈夫です」
「私もフラれたのー!お互いいい人見つけようねー!フッた男を見返してやろーぜ!」
「はい!」
そして、2人は好きな男性のタイプとか、好きな芸能人の話をして盛り上がっている。
私は笑顔で2人の話を聞く。
ちょっと楽しい昼休み。
午後からも仕事頑張ろ。
立花さんが、無事に出産したとの連絡が来た。
元気な男の子。
予定日よりも1週間程早く生まれた。
私と田中さんは早速一緒に、立花さんが入院している産婦人科に行った。
旦那さまがいた。
立花さんが「同じ会社で同じ事務をしているし田中さんと加藤さん」と私達を旦那さまに説明。
旦那さまが「いつも嫁がお世話になってます」とご挨拶。
私達もご挨拶。
初めて立花さんの旦那さまにお会いしたが、優しそうで爽やかな印象。
久し振りに会った立花さん。
切迫早産でずっと入院していたらしい。
知らなかった。
赤ちゃんとご対面。
田中さんは、手のアルコール消毒液をびしゃびしゃになる位に噴射し、ごしごし手をすりあわせる。
私もしっかり消毒。
可愛い。
手も指もちっちゃくて可愛い。
たまに口がモゴモゴ動く。
田中さんが赤ちゃんを抱っこしメロメロになっている。
「可愛すぎてヤバい…一瞬で君に心を奪われてしまったよ」
恋愛ドラマとかで出てきそうだな。
私も立花さんも、その言葉に笑う。
旦那さまも笑っている。
私も抱っこさせてもらう。
「可愛い…」
笑顔になる。
そしてゆっくり赤ちゃんを立花さんに。
田中さんが「出産って痛いんでしょー。鼻からスイカが出てくるとかって言うじゃん。どうだった?」と立花さんに聞く。
「痛いっていうか、私の場合お腹より腰がずっと痛重くて…うーん、あの生理痛の痛みの100倍くらいの痛重さって感じ?」
「100倍!?私なら死んじゃう!立花さん、頑張ったねー!」
「陣痛がマックスだった時は、もう唸るのが精一杯だったけど、生まれて産声を聞いたらあの痛みを忘れてしまうんだよねー。でも、赤ちゃんが出てきてから、あそこを縫うんだけど、それが痛くて」
それを聞いた田中さんは、酸っぱいものでも食べたかの様なすごい顔になっていた。
出産って本当に命懸け。
だから母親は強くなれるんだ。
立花さんが赤ちゃんを抱っこしている姿はかっこいいママ。
まだ縫ったところが痛くて、まともに歩けないし座れないと円座のクッションを敷いて、ベッドに座っているが、そんな痛みがぶっ飛んでしまうんだよね。
立花さん、おめでとうございます!
私の両親が結婚30周年を迎えた。
真珠婚というらしい。
私達子供3人で話し合い、旅行ツアーをプレゼントした。
わがままな母親が、見ず知らずの人達と一緒に団体旅行が出来るか不安はあったが、以前から行ってみたいと行っていた有名観光地。
3泊4日の旅行。
両親はすごく喜んでくれた。
父親も有給休暇を申請。
旅行前日。
旅行バッグに嬉しそうに荷物をつめて用意する両親。
「あれもいるかもしれない、これもあれば便利」と荷物が膨大な量になっている母親に対し、父親はリュック程度の荷物。
対照的な2人。
出発の日は金曜日。
私達3人で車で30分程にある空港まで見送る。
私は午前中だけ有給を取り、兄と弟は1日有給を取る。
帰りは兄が迎えに行く予定。
地方空港のため、主要空港の様に広い訳ではない。
ロビーで旅行代理店の旗を持って待つ若い女性添乗員さんがすぐ目に入る。
父親が添乗員さんに近付き「参加する加藤ですが」と話し掛ける。
すると添乗員さんは名簿をチェックし笑顔で「加藤様2名様ですね!お待ちしておりました!」と言って、色々旅行について話している。
母親も近くで話を聞いている。
私と弟は、ちょっと離れた場所から両親を見守る。
兄は車を目の前の降車場から空港内の駐車場に移動しに行く。
添乗員さんの回りには、同じツアーに参加するのであろう、キャリーバッグや旅行バッグを持った人達が楽しそうにグループ毎に別れて話をしている。
兄が戻って来た。
添乗員さんが「ツアー参加のお客様!こちらにお集まり下さい!」と周りの方々に声をかけると、皆集まる。
結構参加者は多い。
年配の方々が多い印象。
私達3人の近くに、私達と同じ様に少し離れた場所で団体を見ている人達が何人かいる。
私達と同じ様に見送りに来たご家族だろう。
いよいよ飛行機の搭乗時刻。
両親が私達の方を向いて大きく手を振る。
私達も笑顔で大きく振り返す。
両親達が乗った飛行機を見送った。
兄の車に乗り帰宅。
私は真っ直ぐ会社に向かった。
お父さん、お母さん。
旅行、楽しんで来てね!
私は両親が旅行中は、雅樹のアパートで過ごす。
両親が旅行に行った初日。
雅樹は残業のため、帰宅が21時くらいになるとメールが来たため、それまで自宅にいた。
雅樹と晩御飯を食べようと、料理本を見ながら雅樹が好きな餃子を作っていた。
すると自宅の電話が鳴る。
母親からだった。
「まり?今ね、旅館で晩御飯食べ終わってロビーにいるんだけど、晩御飯に蟹がついていたの!美味しかったわー!これからね、お父さんとお風呂に行くんだけど、露天風呂があるみたいだから楽しみで!楽しい旅行ありがとうね」
少し興奮気味に楽しそうに話す母親。
無事に旅館に着いて、旅行も楽しんでいるみたいで何より。
「楽しんで来てね」
「ありがとう!あんた達に沢山お土産買って行くからね!じゃあお風呂に行ってくるわ」
「うん」
いい親孝行が出来たかな?
さて、餃子作り途中だ。
うまく包めないけど、見た目おかしいけど、愛情はいっぱい入っているはずだから許して雅樹!
料理本を見ながらやっているはずなのだがうまくいかない。
焼き具合だけはうまくいった。
私の携帯が鳴る。
「まり?今終わったー!今どこ?」
「今は自分ちにいるよ?帰って来るなら、雅樹のアパートに行こうかな?」
「まり?ちょっとだけ自宅にお邪魔していい?」
「親いないから別にいいけど、どうして?」
「俺、まりの部屋、一度も見た事がないから見てみたい。こういう時じゃないとお邪魔出来ないから」
「ちょっと散らかっているけど…」
「問題ない!モデルルームみたいにピシッとなってると落ち着かない(笑)いつものまりの部屋が見てみたい」
「うん。待ってる」
「じゃあ、着いたら連絡する」
そういえば、雅樹は私の部屋に来た一度もないな。
ちょっと散らかっているから、来るまでの間に片付けよう。
毎月購入している読みかけて開いたままの雑誌をしまい、乱雑に置いてある化粧道具やドライヤーを整える。
やだ!下着干したままだ!
慌ててタンスにしまう。
ベッドを整える。
余りものはないが、雑然としてる。
子供の頃からの部屋だし、仕方ないよね。
雅樹からの連絡。
「着いたよ!」
「今降りるね」
玄関の鍵を開けると笑顔の雅樹。
「お邪魔します」
「どうぞ」
「玄関から先は初めてだから、何か緊張するなー。あれ?いいにおいがする」
「雅樹と食べようと餃子を作ったの。形おかしいけど」
「まりが作ってくれたの?食べたい!でもまずまりの部屋が見たい」
「散らかってるけど、どうぞ。こっち」
部屋は2階。
私が先に階段にのぼり、後ろから雅樹がついてくる。
特別古くもなく、新しくもないごく普通の家。
上には部屋が3つ、下には居間と客間の4畳半の和室と両親の寝室がある。
私の部屋は、階段をのぼってすぐの6畳の部屋。
「どうぞ」
部屋のドアを開ける。
「へぇー!」
雅樹がキョロキョロと見回す。
「女の子の部屋って感じ」
「一応、女の子だからね」
興味津々の雅樹。
タンスを開けたら、いつも私が会社に着ていく服が並んでいる。
「あっ!この服、良く会社に着てきてるよね?」
「うん。気に入ってるんだ」
「あっ!これも良く見るー!何かいいなー!もっとまりを知れる!」
「CDも結構持っているんだね。あっ!これ俺も好きな曲が入ってる!」
「まりの全てが入っている部屋だもんなー。まりのベッド、可愛いじゃん!これ、抱き枕?俺も抱き締めていい?まりのにおいがするー!変態みたいだなー俺(笑)」
スーツ姿で私の抱き枕をギューとしている雅樹。
何か面白い。
「一気に疲れ飛んだわ。また、来る機会があればなー。この部屋に男を入れた事はある?」
「兄ちゃんと圭介と父親くらい。まだ小学校くらいの時にいとことかは来た。他人は入れた事はないよ」
「そっかー」と何故か笑顔。
「ご飯食べない?うちで食べてく?誰もいないし」
「そうしようかな?まりが作ってくれた餃子食べたい!」
「見た目悪いし、期待はしないでね」
「大丈夫だって!お腹すいた!」
居間に行く。
居間と台所の間に、いつも食事を取るダイニングテーブルがある。
「ちょっと狭いし、散らかっているけどどうぞ」
私は雅樹をダイニングテーブルに案内し、ご飯の準備をする。
その姿を見て「ますますまりとの結婚が楽しみになってきた!」と子供みたいにはしゃぐ雅樹。
餃子と一緒に作った油揚げの味噌汁とご飯を雅樹のところに持って行く。
「いただきます!」
雅樹は餃子を食べる。
「うまいよ!まり!」
そう言って、頑張って作った見た目の悪い餃子を食べてくれる。
嬉しい。
私も食べる。
まあ、悪くはない。
料理本、ありがとう。
味噌汁も、まあ悪くはないかなって感じ。
あっという間に完食。
「にんにくは入ってないから、明日会社でも気にしなくても大丈夫だよ」
「気を使ってくれてありがとう!マジでうまかったよ!ごちそうさま!」
「おそまつさまでした。私、ちょっと片付けるから、雅樹はその間ゆっくりしてて!」
「手伝おうか?」
「大丈夫だよ」
私は、食べ終わった食器を洗う。
雅樹は、旅行前に父親が読んでいた新聞を開いて見ている。
「今日、何か面白いテレビやってるかなー」
テレビ欄を見ている。
「明日は晴れ!しばらく雨降らないみたい!」
雅樹は見ているものをそのまま伝えて来る。
「へぇー。この間のコンビニ強盗、捕まったんだ。45歳の無職の男だって!45歳で無職って、彼に何があったんだろう?リストラとかかなぁ?」
「あそこの工事してる道路、来月開通だって!」
「おっ!うちのトラックが写ってる!高山さんじゃん!いい宣伝になるなー」
そんな感じで、ずっと話している。
片付けが終わった。
もう22時半を過ぎていた。
「遅くなっちゃったね。片付け終わったし、雅樹の家に行こうかな?」
「そうだね。泊まりのバッグどれ?持ってくよ」
「ありがとう」
火の元を確認し、電気を消して、玄関の鍵を閉める。
雅樹は車はアパートに停めてきたため、歩いて雅樹のアパートへ。
「今度は私がお邪魔します」
「どうぞー」
安心する雅樹の部屋。
「明日も仕事だから、先にシャワー入ってくるわー」
そう言って雅樹は、すぐにお風呂場に向かう。
私はその間に、いつもの部屋着に着替えて、軽くメイクを落とす。
雅樹がお風呂場からパンツ一枚で出てきた。
「まりもどうぞー」
「じゃあ、私も借りるね」
歯ブラシとタオルは置かせてもらっている。
シャワーを浴びてスッキリ。
そして雅樹と愛し合った後に一緒に眠る。
幸せな時間。
いつもの朝のルーティーン。
6時過ぎに起きて、ボーっとしながら台所で水を飲み、眠気が覚めたら軽くシャワーに入る。
そして朝の情報番組を見ながら化粧をし、髪をセットし、出勤用の服に着替える。
そして8時ちょっと前に家を出て、途中のコンビニに寄ってから出勤。
雅樹は7時前に起きてからコーヒーを飲み、シャワーをして、あがってから髪をセットし、スーツに着替える。
髭剃りはシャワーの時にする。
今日は当番ではないため、通常出勤。
雅樹と少しずらして出勤。
私が先に出る。
スーツ姿の雅樹に見送られる。
「会社で待ってます。長谷川さん」
「また後でね、加藤さん」
お互い仕事モードに切り替えるためキスはなし。
端から見たら不思議かもしれないが、私達はずっとこうだったため、当たり前になっていた。
「おはようございます!」
「加藤さん、おはよう」
いつもの朝の雅樹との挨拶。
田中さんがボソッと「いつも思うんだけどさー、見ていて面白いんだよねー、長谷川さんと加藤さんのやり取り。知ってるから。知らなかったら全然普通だけどね。感情的にはどんな感じなの?たまに会社で、彼女としての感情が出ちゃう事はないの?」と小声で言って来た。
「長谷川さんはスーツに、私は、出勤用の服を着た時点で仕事モードに切り替わるので、会社では先輩後輩になれます。ずっとそうなので…多分、会社で彼女になる事はないと思います」
「そこがお互いすごいよね。感心するよ。2人を見ている私は、色々楽しめて面白いけど(笑)仲良くやんなよ!」
「はい!ありがとうございます!」
「ねぇ。ちょっと下ネタな話をしていい?」
「何ですか?」
「長谷川さんとは、もうやる事はやっちゃってるよね。長谷川さんってS?M?」
「えっ!?どうしたんですか?」
「どうしても気になるのよ。どっちかなって」
「…どちらかと言えばSですかね」
照れながら答えてしまう私。
「あー、やっぱり。そんな気がしてた!ありがとう!今日も楽しく仕事出来そう!頑張ろうねー(笑)」
笑顔の田中さん。
なんだかんだ私には言いながらも、他の人には黙っていてくれている田中さんが楽しく仕事出来るなら…
ごめん、雅樹。
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