ため息はつかない!
赤城 沙知 31歳
好きな人がいます
だけど、その人には彼女がいます
残念ながら、略奪する根性は、私にはありません
はぁ
14/10/07 17:34 追記
☆感想スレ☆
よろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ
http://mikle.jp/threadres/2145612/
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俺はのびのびと仕事してる彼女が好きだった。
出張とか、泊まり込みもけっこうあったけど、マスコミはそんなもんだろうと思ってた。
だけど34歳のとき、俺が研修で一週間、関西に行ってる間に、彼女はマンションを引き払ってた。
前にも言ったけど、「好きな人ができたので、出て行きます」って置き手紙があった。
なんでそうなるのか、さっぱり分からなかった。
携帯もメールも通じないし。
未練たらしい真似はしたくなかったけど、それにしたって訳が分からないから、共通の友達通して連絡取ってもらった。
そしたら、なんのことはない話だったよ。
彼女は、雑誌の編集なんてもう辞めたかったんだ。
30歳も過ぎて、そろそろ結婚して専業主婦になって、子どもも欲しかったんだ。
だけど、俺の給料だけじゃ、彼女の理想の結婚生活を送るには足りない。
都内の高級住宅街に住んで、子どもは2人か3人、子どもは全員幼稚園か小学校から私立、年に何回かは海外旅行。
自分は趣味で書き物でもできればいい。
知らなかったよ。
知ってても叶えてやれなかっただろうけど。
だから彼女もそんな理想は俺に言わなかったんだろうけど。
彼女は仕事で知り合った、遣り手の経営者と結婚したんだ。
そんなの酷い!
とは言えなかった。
だって私も似たようなこと考えてたって、いま言ったばかり。
イヤだなぁ。
幼稚園のころ、「大きくなったらなにになりたい?」って聞かれて、「およめさん」って言ってた私。
10代のころでも、まだ似たようなものだった。
友達に誘われて行った都内の大学の学園祭。
たまたま大学の裏門の近くにいたら、隣の瀟洒なホテルのチャペルで結婚式を見かけた。
ウェディングドレスを着た花嫁さんと、タキシードの花婿さん。
参列者のライスシャワー。
明るい陽射しの中で、幸せな空気が無関係な私にまで伝わってきた。
私もいつか、あんな風に、みんなに祝福されて結婚式をあげるんだ。
いつから結婚が、そんな純粋な憧れではなくなっちゃったんだろう。
31歳にもなると、もう何度となく友達や勤め先の同僚の結婚式に参列した。
もちろん、「○○ちゃん綺麗」「幸せそう」って言葉は飛び交うけど、その陰でこっそりと旦那さんの勤め先のことだとか、妻か夫の実家に同居する予定だとか、もうお腹に赤ちゃんがいるだとか、そんな現実的な話が囁かれることが、年齢を重ねるごとに増えていった。
誰かを好きになって、好きだから結婚する。
それだけじゃ、ダメなんだって、いつの間にか刷り込まれていたような気がする。
好き
その気持ちは変わらないはずなのに。
「青木さんは、彼女のこと恨んだりしなかったの?」
私がそう言うと、青木さんはいつものように笑った。
「恨まないわけないじゃん。あのねぇ、さっちゃん。男は女より潔くないの。ウジウジウジウジずっと一人で恨み言言ってたよ」
「なんか、いまの青木さんからだと想像つかない」
「分かってないなぁ。男はね、潔くないくせにカッコつけたいの。口ではフラれた女に『幸せになれよ』とか言っておいて、陰ではウジウジしてんの」
「でも、いまは平気なんでしょ?」
「さすがに時間が経ったからなぁ」
だから、白井さんを好きになったの?
白井さんには黒田さんがいるって分かってても、まだ好きなの?
そんなこと、聞けるわけもなく。
「………青木さんなら、いい旦那さんになりそうなのに」
私もこんなつまんないことしか言えないな。
「だろ?浮気もしないし、真面目に働くし、深酒もしないし、ギャンブルだって遊び程度。子どもがいたら可愛がると思うんだけどな」
「ですよね」
「だけど、俺もさっちゃんも、なんでそんな目にあってんのに、フリーじゃない相手に惚れたんだろうな」
「要領悪いんですかね」
「かもな」
嘘つきだな。私は。
青木さんに話を合わせながら、私はそう思った。
やっぱり、私は青木さんのこと、好きみたいだから。
青木さんはフリーだけど、好きな人がいる。
フリーでも、ダメじゃん。
ねぇ。青木さん。
幸せが遠い………。
なんだかなぁ。
真面目に一生懸命生きてるつもりなんだけど、オンナとしての幸せが、遥か遠くにある。
同棲してた彼。
それなりに長い時間を一緒に過ごしていたのに、一緒に歩いていく未来は作れなかった。
黒田さん。
仕事の上司として、同僚として、個人として、信頼できて、男性として魅力がある人。
でも、彼女持ち。
長い年月を経た信頼関係と深い愛。
私の入る余地がまったく見えなかった人。
そして、青木さん。
穏やかで、遊び心もあるけど誠実で、熱さも冷静さもバランス良く持った人。
だけど、親友である黒田さんの彼女に想いを寄せている人。
私に男性を見る目がないってことでもないと思うんだけど。
同棲してた彼には浮気されてフラれたけど、総合的に見たら欠点少なかったし。
もしかして私は、恋愛に不向きな体質なんだろうか。
白井さん。
美人さんで気さくで、仕事も熱心で、芯の強い人。
離婚したって、子どもがいたって、悪い噂をバラ撒かれたって、いつも自分を見失わない強い人。
オンナオンナした雰囲気がなくても、40歳過ぎていても、彼女を知る男性は、彼女に惹かれる。
………。
単に、私にはオンナとしての魅力がナイ、ってことなんだろうか。
それとも、不幸体質なんだろうか。
だって、誰かを想っても、想いは返ってこないんだもん。
31歳にもなって、ダメ過ぎる………。
青木さんとの新年会は、楽しい雰囲気で終われた。
でも本当は、途中からあれこれ考え込んでたから、たまに作り笑いになっちゃったけど、頑張って青木さんが気を遣わないくらいの態度ではいられたと思う。
10時におでん屋さんを出て、この間みたいに新宿から池袋まで一緒に電車に乗って、池袋で別れた。
「さっちゃん、また飲もうな」
別れ際、青木さんはそう言って手を差し出した。
「はい、ぜひ。今年もよろしくお願いします」
私はそう言って青木さんと握手した。
「うん、よろしくね」
青木さんは握手した手を軽く上下に振ると、そのまま「じゃあね」と笑顔で私と反対方向へ歩いて行った。
私は乗り換えた電車の中で、ちょっとため息をついた。
楽しかったのに落ち込んでる。
自分の気持ちに自己嫌悪してるのかな。
他の人を好きだという人ばかり好きになる私。
黒田さんがダメだから青木さん、みたいな感じも、なんかイヤ。
でもなぁ。
こんなこと、悩んでも仕方ないし。
あーあ。
予定では30歳まで子どもを産んでる筈だったのになぁ。
青木さんに同棲してた彼の話をしたからか、そんなことを考えた。
別にいま救いようがないほど自分を不幸だとは思わないけど、やっぱりあの失恋は、私の人生にとっては、苦すぎる出来事だったなぁ。
お正月休みが終わって、また日常に戻ったけど、幸いなことにあまり落ち込んでいる暇はなかった。
なにしろ建築土木業界は3月までは繁忙期。
もちろん、建材を扱うウチの会社も忙しい。
黒田さんが私が退社する前に帰社することが少なくなった。
それはX機材も同じ。
青木さんも白井さんも忙しいようだ。
2人とは仕事でやり取りすることは増えたけど、雑談している余裕もない。
だから、飲み会なんかのお誘いもかかりそうな雰囲気ではなかった。
それはそれで助かった。
あのメンバーで飲み会をしたら、私はまた余計なことを考えて1人で落ち込みそう。
みんな優しいから。
特に青木さんに優しくされるのは、ちょっと辛くなりそうだから。
仕事はだんだん面白くなってきた。
いろんな製品のこと、取引先のこと、図面や見積もりの見方、分かってくるとやる気も出てくる。
忙しい方が集中できるし、覚えたことがすぐに活かせるのも張り合いがある。
藍沢さんは少しだけ大人しくなった。
とはいっても、みんな忙しくて藍沢さんの相手をしている余裕がないから、藍沢さんも営業部に長居することが少なくなっただけなんだけど。
残業する日も増えて、週末は掃除や洗濯をするのが精一杯。
最低限の家事をしたら、あとはひたすらゴロゴロしているだけ。
何回か青木さんからメールは来たけど、私が忙しいだろうと気遣ってくれるお見舞いみたいなメールだった。
嬉しかったけど、複雑。
3月のある夜、残業してから帰って、お風呂から出ると、スマホにメールがきていた。
久し振りに青木さんかな?
そう思ってメール画面を開くと
「紺野 陸」
と読めた。
浮気して、他の女の子とデキ婚しやがった、忌まわしい元彼の名前だった。
陸。
別れたのは3年前。
同棲していたアパートを引越しした日に無言で顔を合わせて以来、メールも電話したことはない。
陸の同僚や友達で仲良くしていた人もいたけど、別れた事情が事情だけに、そちらも連絡を取り合っている人はいない。
陸の近況を知ってしまいそうな人や場所には敢えて近寄らないようにしていた。
私と陸の勤め先があった新宿のビル。
2人で時々いった飲み屋やレストラン。
陸の会社の社宅がある駅や沿線。
陸の実家がある駅や沿線。
だから、陸がいまどうしているかなんて、知ろうともしてなかったし、実際まったく知らなかった。
なんで今頃になって、メールなんかくるの?
別れたあと、本当はメアドも電話番号も変えようと思っていたんだけど、もしかしたら事務的なことがあったら困るから、しばらく変えないで欲しい、と陸に言われ、結局は連絡を取る必要もなく、私はそのまま携帯電話を使い続けていた。
スマホの画面を見て、読まずにメールを消しちゃおうかと思った。
だって3年も経って連絡が必要になることなんてそうそうないだろうし、ドラマみたいな展開で想像するなら、結婚生活も倦怠期になった陸が、元カノの私にちょっかい出そうとかいう、ロクでもない展開しか思いつかない。
それでも、削除をためらって、とりあえず私は夕飯に買ったホカ弁を食べることにした。
食べながら考えて、とりあえず読んでみて、ロクなメールじゃなかったら消せばいい、という結論を出した。
『沙知 元気ですか?』
メールはそんな文章で始まっていた。
『実は俺、離婚した』
「はぁ?!」
私はついメールを読みながら声を出してしまった。
『色々ありすぎて、メールでは報告し切れない』
………別に私に報告してくれなくてもいいのに。
『会って話せないかな』
だから、なんでいまさら。
『沙知に謝りたいんだ』
離婚したことを謝ってもらっても仕方ないんだけど。
最悪の場合、離婚したからヨリを戻したい、そう言われても困るし。
だけど。
よく言えば優しい。
悪く言えば優柔不断。
そんな陸が、どうして離婚を決断できたのか、そこには興味があった。
話し合うために一度だけ会った、陸の相手の彼女。
小柄で童顔で、服の趣味もヘアスタイルも女の子らしい感じだった。
どうしたって彼女に好感なんて持てる立場じゃなかった私だけど、その立場をなくしても、彼女は強かなタイプだと確信できたと思う。
か弱く、守ってあげたいと思わせる雰囲気が武器の女の子。
だからあのとき、なぜか私が悪者になった。
でも、あの彼女は、陸のことを本当に好きなように見えた。
私という結婚目前の彼女から奪ってでも陸を手に入れたかったんじゃないの?
陸はお給料もいい。
会社でもちゃんと評価されて、順調に出世もしている。
陸と結婚したら、専業主婦でもそこそこ裕福に暮らせる。
それなのに、彼女はなんで陸と別れたの?
強かな女なら、陸みたいな夫を捨てるなんて、馬鹿なことはしない。
………。
話くらいなら、聞いてもいいかな。
さて。
陸と会うにしても、一緒にお酒を飲みたい感じじゃないな。
楽しく食事、ってはずもない。
話を聞くだけなら………、ファミレスでたくさん。
というわけで、私は
「日曜日の午後2時、○○駅前ロイヤルホスト」
とだけ返信した。
会って話したいと言ってきたのは陸の方だし、それで都合が悪いなら別に無理してまで会う必要もないし。
そうしたら「了解」と返信がきた。
ふーん。
とりあえず、会ってみよう。
そして日曜日。
電車に乗っていると、約束の2時から10分前に陸から「着いたよ」とメールがきた。
そういえば陸は、時間には正確な人だった。
仕事でもプライベートでも、約束の10分前到着が基本。
遅れるときは早めに連絡。
そんな人だった。
電車を降りて駅から出てすぐのビルにあるロイヤルホストに入ると、一番奥の席に陸がいた。
「沙知」
「………どうも。久し振り」
笑っていいのか悪いのか、取りあえずあまり表情を変えずに陸の向かいに座った。
陸は付き合っていたころと、あまり変わらないように見えた。
体型も服の趣味もヘアスタイルも変わってない。
相変わらず、ちょっとカッコイイ、とは思う。
結婚しても、パパになっても
バツイチになっても。
見た目だけならね。
店員さんがきたので、とりあえず、チョコレートのパフェとドリンクバーを頼んだ。
「相変わらずチョコレート好きだね」
「まぁね」
そういえば、うまくいっていたころ、陸はときどき私にチョコレートを買ってきてくれた。
デパートの高級チョコレートだったり、コンビニで売ってる期間限定ものだったり。
陸は自分でコーヒーを取ってきていたので、私もドリンクバーへ行き、コーヒーをいれた。
席に戻って座ったけど、なにを話していいか分からない。
陸も話し辛そうにしているし。
しばらくすると頼んだパフェがきたので、私はスプーンを取って食べ始めた。
陸はまだ黙っているので、仕方なく
「で?今日はなに?」
と私から水を向けてやった。
「………うん。沙知に謝りたいんだ」
「別れたときに謝ってたじゃない。いまさら、もういいんだけど」
「それはそうなんだけど。沙知にあんな辛い思いさせて迷惑かけて、優美と結婚したのに、離婚したから」
出た、陸と結婚した彼女の名前。
何年も忘れてたのになぁ。
「そんなの、私には関係ない」
「………そうかもしれないね」
「気が済んだ?だったら私、これ食べたら帰るけど」
「離婚の理由を、聞いて欲しいんだ」
「私には関係ないのに?」
「関係ないわけでも、ないんだ」
………相変わらず、優柔不断だな。
だったらさっさと話せばいいのに。
「話したいなら、元彼女のよしみで聞いてあげるけど」
私がアイスを掬いながらそう言うと、陸は少しホッとしたように話し始めた。
「俺の子じゃなかったんだ」
「………はぁ?」
伏し目がちに話し始めた陸の言葉を聞いて、私は思わず大きな声でそう言ってしまった。
昼時を過ぎて、それほど混んでいない店内に私の声がビンと響いてしまって、私は肩を竦めた。
衝撃の告白の始まりだった。
………いまさら説明するまでもないけど、優美は俺のアシスタントだった。
可愛いと思ったのは確かだった。
俺、別に沙知と結婚したくないとか思ってたわけじゃないんだ。
ただ、優美が明らかに俺を好きだって判る態度だったから、ちょっと気持ちが揺らいだ。
結局、沙知がいたのに、なし崩しに優美とも付き合うようになって、優美が妊娠したから沙知とは別れるしかなかった。
あぁ。
ごめん。
こんな話、聞きたくないよな。
沙知も当事者だったんだもんな。
沙知と別れて、優美と結婚して、子どもが生まれた。
男でさ。
俺、名前付けたんだ。
子どもは可愛かった。
俺、部署変わって忙しくなったけど、家にいるときはできるだけ風呂入れたり、オムツ変えたりしたんだよ。
休みの日に優美がいないときには子守もしてた。
1年前のあの日も、優美が友達の結婚式で出かけてたんた。
子どもはもうすぐ2歳だったかな。
公園行って、飯食って、子どもが昼寝したから、ポストに入ってた郵便物を見ようと思ってハサミを探してて、引き出しの中に母子手帳があるのを見つけたんだ。
俺、ちゃんと母子手帳なんて見たことなかったから、検診とか予防接種のページ見てなんとなく感心したりしてたんだけど、カバーに子どもの血液型を検査した結果の紙が挟まってるの見つけたんだ。
実はさ、俺、ずっとA型って言われてたんだよな。
両親がAだから、俺もAって思ってた。
優美がお産で里帰りしてるとき、暇だったから近くに来てた献血イベントで献血して、初めてO型って分かった。
手術が必要な怪我も病気もしたことなかったから、へー、俺O型だったんだ、って思っただけだったんだけど。
で、優美は正真正銘O型なんだよ。
だけど、子どもの血液型がA型だったんだよ。
知ってるだろ?
O型はOO型、A型はAO型かAA型。
OO型とOO型の両親からはO型の子どもしか生れないんだ。
優美は俺をA型だと思ってた。
どういうことか、分かるだろう?
優美は、俺以外の男とも付き合ってたんだ。
その男がA型だったらしいんだけど。
優美は妊娠したとき、お腹の子の父親がどっちなのか分からなかったらしい。
その男は優美と同い年のフリーターで、結婚できるような状況じゃなかった。
だから、優美は俺の子として子どもを産んだ。
元々、結婚相手なら俺、って思ってたみたいだけど、優美が本当に好きだったのはフリーターの男だったみたいだな。
気付かないフリはできなかった。
だから、離婚することになった。
「ふーん。大変だったんだ。でもそういう場合ってどうなるの?裁判とかするの?」
「………弁護士に頼んだ。DNA鑑定とか、家庭裁判所で調停とか、戸籍訂正したり………。結局子どもは俺の子じゃないってことになって、優美とも離婚が成立した」
「そもそもがデキ婚だもんね。その子どもが他の人の子どもなら、まぁそうなるのが普通か」
「子どもは可愛かったけど、知ってしまったら、知らないことにはできなかった」
「そうなんだ。なんか陸なら知らん振りしてそうな気もしたけどね」
「知らん振り?俺の子じゃない子どもと、他の男の子どもを産んだ優美と家族として暮らし続けるってこと?さすがにそれは無理だよ」
「そう?だって婚約してたも同然だった私がいても彼女を好きになったんでしょ?それだけ好きだったんじゃないの?」
「それは彼女が俺を好きでいてくれると思ったからだよ」
「ふーん。実はそうじゃなかった、裏切られてた、だから離婚した、ってわけね」
「まさか他に男がいたなんて、知らなかったから」
「フリーターと結婚するより、陸と結婚した方がお得だもんね」
「そんな言い方するなよ」
「なんで?実際そうだったんでしょ?」
「それは、そうだけど」
「それに、私にとっては他人事だもん」
「優美が他の男とも付き合ってるって俺が気付いていれば、沙知と別れなくて済んだかもしれない」
イラっとした。
「あのさぁ、いまさらそんなこと言ってどうすんの?あのとき、陸は私じゃなくて彼女を選んだの。子どもが誰の子だって、そんなの関係ない。陸は私への気持ちが揺らいだから彼女と付き合ったんでしょ。彼女と子どもができるようなことしたんでしょ。彼女が妊娠して、私は邪魔者みたいだった。私は陸と別れるしか選択肢がなかったの」
「沙知………」
「まさか、子どもは自分の子じゃなかったし、めでたく離婚もできたから、もう一度私とやり直したいとか言わないよね?」
「………」
「言っておくけど、そんなの絶対にお断り。お陰様で結婚の予定もないし、彼氏もいないけど、いまさら陸のところに戻るような真似だけは死んでもしないから」
「………」
「今日ここに来たのだって、あの強かな彼女がどうして陸と離婚しようと思ったのか、優柔不断な陸がどうして離婚なんてできたのか、それに興味があっただけ」
「………ひどいな」
「ひどくて結構。あのとき引越し代だけもらって身を引いて、他には一切求めなかったし、仕返しだってしなかったことに、少し後悔してたの。だから、今日は面白い話を聞けて、ちょっとだけ気が済んだ」
「………ごめん」
「でもやっぱり、くるんじゃなかった。陸も彼女も、本当にロクでもない。そんな人たちに関わった私が可哀想だって思う」
陸。
私は、陸のこと大好きだった。
もちろん、打算もあった。
見た目もそこそこカッコよくて、大きな会社に勤めてて、収入も良い、そんな人と結婚できたら、やっぱり安心だと思ってた。
だけど、やっぱり陸のこと、好きだった。
優柔不断で私がイライラすることはあったけど、優しくて、一緒にいて楽しくて、安心できる人だった。
陸と親しくなり始めたころ、そう、損保会社に勤めている陸に、自動車保険の相談をしたんだった。
陸は次に会ったとき、分かりやすい資料をまとめてきてくれて、私にいろいろと説明をしてくれた。
資料と一緒に、会社の販促グッズをくれたっけ。
ありふれた恋だったと思う。
初めてのデートは、陸に誘われて映画を観にいった。
3回目のデートで陸から付き合って欲しいと言われて、初めて陸とキスをした。
付き合って1ヶ月くらい経ったころに、初めて陸に抱かれた。
本当に、普通の恋人同士だった。
だから、陸との付き合いにあんな結末が待っているなんて、思ってもみなかった。
もちろん辛かったし悲しかったけど、私はあのとき、陸への気持を整理するしかなかった。
惨めさも、屈辱も、怒りも、自分の中で消化した。
好きだった。
好きだったからこそ、憎んだ。
好きだったからこそ、頑張って立ち直ったのに。
こんなことになって、ザマーミロ。
そう言えればよかったのに。
「………やっぱりムシのいい話だったか」
陸はそう言って冷めたコーヒーを口に含んだ。
「なに?もしかして本当にヨリを戻そうとか思ってたわけ?」
「そこまで考えてたわけじゃないけど………。沙知に会いたくなったんだよな」
「ゴタゴタがひと段落して寂しくなっちゃったんでしょ」
「それもあるのかもしれない。……うん、そうなんだろうな。沙知はいまどうしてるんだろう、って思ったら、気になって」
「お陰様でどうにか生きてるよ。ずっと派遣やってたんだけど、最近派遣先で誘われて正社員になったし」
「そうか、よかったな」
「面白いよ。建材商社なんだけど、マンホールだとか、側溝の蓋だとか扱ってるの」
「沙知、変わったな。強くなったのかな」
「………。私は、自分でちゃんと立ち直ったから。だから陸も私に甘えないで」
「………ごめん」
「彼女と子どもは、どうしてるの?」
「実家に帰った」
「彼女は強かだから、どうとでも生きていくわよ。だから陸も、早く立ち直ったら?」
私は財布から1000円札を出してテーブルに置いた。
「沙知、また連絡していいか?」
私が上着を持って立ち上がるのを見て、陸がそう言った。
「もう二度と会わない。さよなら」
私はそのまま陸に背を向けて、店を出た。
店を出て、そのまま駅に入ると、私は家と反対方向の電車に乗って、池袋にいった。
駅から出て、ビックカメラでスマホのブースへいき、いま使っているドコモではなく、auで最新のアイフォンを新規契約した。
意外と空いていて、思ったより早くアイフォンを手に入れると、次にドコモショップへいった。
ドコモショップではけっこう待たされて、いままで使っていたスマホを解約した。
用が済んだので家に帰り、パソコンで調べながら、新しいアイフォンの設定をした。
とりあえず、家族と、頻繁に連絡を取り合う友達に新しい連絡先を送り終わると、やっと一息つけた。
多分、こんなことをしなくても、陸はもう私には連絡してはこない。
だけど、陸と付き合っていたころの気配を全部消すために、昔のままだった携帯の番号もアドレスも変えたかった。
私はベッドの上に置いたスマホを手に取った。
青木さんに新しい連絡先を伝えることを、私はなぜかひどく迷った。
黒田さんと白井さんにはさっき送った。
だけど、青木さんには送れなかった。
青木さんに送ったら、普通に返事がくると思う。
だけど、私は青木さんから連絡がくることが怖かった。
これ以上、青木さんを好きになりたくないと思った。
今日、陸に会って、強いフリをしていた私は、自分の心の中が淀んでいたことに気付いた。
バカだ。
意地悪な好奇心で陸に会いにいって。
こんな気持ちで、誰かを好きだなんて
言いたくなかった。
後悔先に立たず。
自分のした行動で落ち込んでいるんだから、救いようがない。
月曜日にはまた会社。
落ち込んでサボれるような性格でもないので、いつも通りに出社した。
黒田さんが「スマホ変えたの?」と聞いてきたので「最近迷惑メールが多くて」
と答えると、「そうかー」とだけ言った。
電話が鳴って、対応した水野さんが
「黒田さん、X機材の青木さんからお電話です」
と言った。
「はい」と電話に出た黒田さんの横で、私はちょっとドキドキした。
少し後ろめたいような。
………バカみたい
青木さんは、私のことなんて、気にしていないだろうに。
もし青木さんが私にメールを送ったら、送信エラーになって、どうしたんだろうとは思うだろうけど、そうしたらきっと白井さんか黒田さんに聞いてくるだろうし。
そうなったら、忘れていたことにして、私から連絡すればいい。
いまは、自分から連絡しようと思えなかった。
会社にいると、青木さんからの仕事の電話もかかってくるけど、X機材からの電話は会社名が出るし、青木さんの携帯番号は知ってるから、私は忙しいフリをして出ないこともできる。
そこまで避ける必要もないんだろうけど、いつもみたいに明るく対応するのは、ちょっと辛い。
胸を張って、青木さんを好きだと言えない私が嫌だから。
しばらくはこんな辛さから、逃げていたかった。
陸と会ってから1ヶ月が過ぎた。
4月には新入社員も入って来た。
営業部にも営業と事務に新人が何人か配属され、私は短大卒の事務の女の子の指導と、黒田さんが指導する大卒の男の子の担当になった。
いままでの業務と合わせて、少しバタバタと忙しくなったけど、ゴールデンウィーク前には少し落ち着いてきた。
その間、青木さんからの個人的な連絡はなかった。
仕事絡みでX機材から連絡がくるのもほとんどが白井さんからで、たまに青木さんから電話があっても、電話を受けたのは他の人間だった。
本当は、黒田さんか白井さん辺りから、青木さんが私と連絡が取れなくなって心配している、というようなことを言われるのを、期待していた。
だけど、黒田さんからも白井さんからも、そんな話はなかった。
そんなことを期待するくらいなら、自分から青木さんに連絡をすればいいんだけど。
落ち込みが軽くなってきた最近になって、青木さんになんて言えばいいのか分からなくなってしまった。
どんな風に連絡をしても、なんか、自分がもの欲しそうになりそうで。
前みたいに、池袋とかでバッタリ、とか会えればいいのになぁ、なんて思っても、そうはうまくいかない。
なんか、1人で空回りしてる。
こういうときになにかしても、たいていうまくいかないもんだし。
なんとなくスッキリしない気分のある日、就業後会社を出て駅へ向かって歩いていると、「赤城さぁん」という声が追いかけてきた。
出た。
藍沢さんだ。
最近は多少以前より大人しくなった感じで、あまり接触する機会もなかったんだけど、テンションは相変わらずみたいだ。
「赤城さん、お茶飲んで帰ろうよ」
「えっ、私」
「いいでしょ~」
これも相変わらずの強引さで、私は駅の近くにあるカフェに引っ張っていかれた。
「ねーねー、赤城さんてX機材の青木さんとはどんなカンケイ?」
席に着くなり、私の向かいに座った藍沢さんが、身を乗り出してそう言った。
「………なんで、青木さん?」
「年末にさ、黒田さんと、黒田さんの彼女のオバサン、えーと何て言ったっけ?」
「白井さん。あのねぇ、オバサンって失礼でしょ」
こないだまで散々悪口言ってたくせに、もう名前忘れてるし。
「そうそう、そのオバサンと、青木さんがいるところで赤城さんに会ったじゃない?」
「会ったけど」
会った、って言うより、藍沢さんが黒田さんの後を付けたんでしょ、とツッコミたかったけど、どうせそれも忘れてるんだろうからやめた。
「あのとき、青木さんのこと、ちょっと気になったんだよね」
「はぁ?」
あんだけ黒田さんを追っかけ回して、白井さんの悪口まで言い触らしてたのに、今度は青木さん?
だけど、なるほど。
それで最近前より黒田さんへの態度が落ち着いたのか。
………って、冷静に考えてる場合じゃない。
またこのバカ娘と好きな人が被るの?
………勘弁してよ。
「ほら、私、A商事に来る前はX運送にいたでしょ?X機材の関連会社だから、X機材から出向してる人で、青木さんの先輩がいるの。その人に頼んで、こないだ青木さんを紹介してもらったのー」
………。
マジでか。
「紹介してもらった、って、恋人前提で?」
「っていうかぁ、その先輩に連絡してみたら、青木さんと飲みに行く、って話があるみたいだから、呼んでもらったの。呼んでくれた、ってことはそういうコトだと思うんだよね」
………さすが藍沢さん。
自分に都合よく変換してあるけど、要は青木さんに興味があるから、強引に混ざった、ってトコなんだろうな。
その先輩はともかく、青木さんは藍沢さんが白井さんの噂をバラ撒いた張本人だと知ってて紹介してもらおうと思うわけないし。
「で、楽しくお話してきたんだけど、青木さんが赤城さんの話をしてたから、ちょっと気になっちゃったんだよね」
まさか、黒田さんでも白井さんでもなく、藍沢さん経由で青木さんの話がくるとは。
「青木さん、なんて?」
「んー、別にすごーく赤城さんを気にしてるって感じでもなかったけどぉ、最近赤城さんどうしてる?元気?みたいな?」
「あぁ、最近あんまり話す機会なかったから」
「だから聞いてるじゃん。赤城さんと青木さんてどんな関係なの、って」
………イヤだなぁ。
こんなバカ娘に青木さんについて話すの。
回答の選択肢はいくつかあるけど。
①表面上のことを話す
黒田さんから白井さんと青木さんを紹介されて、友達付き合いしてる。
青木さんとは個人的に会ったこともあるけど、特別な関係ではない、と話す。
②曖昧に話す
うん、まぁね、黒田さん繋がりで、ちょっとね、くらいにぼかす。
③腹を割って話す
選択肢①に加えて、いま青木さんを好きだと打ち明ける。
①だと、藍沢さんは
『えー、じゃあ赤城さんは青木さんとはなんでもないのね。協力して』とか言いそう。
②だと、腹芸の通じない藍沢さんに事細かに突っ込まれて、私がドツボにハマるような気がする。
③
ありえない。
結局①しか選べなかった。
「前にも言ったでしょ。黒田さんから白井さんと青木さんを紹介されて、何度かご一緒させてもらったの」
「それだけ?」
「それだけ」
事実はそれだけ。
私が青木さんを好きとかいうことは、話す必要もない。
「だったら、私が青木さんと付き合っても、赤城さんには関係ないよね」
「そうだね」
「じゃあデートに誘ってもらおうっと」
………誘ってもらう、のか。
青木さんがこんなバカ娘とデートするなんて、しかも青木さんから誘うなんて、あり得ない!
………と、思いたい。
私には藍沢さんを嗜める権利も、青木さんにデートなんてしないでと頼む権利も、ない。
「黒田さんは年増の彼女がいるから誘いにくいけど、青木さんは彼女いないって言ってたもんね。年上だから優しくて包容力ありそうだし、青木さんでもいいかなぁ」
いい気なもんだ。
だけど、羨ましいな。
なんで藍沢さんはこうも前向きなんだろう(すんごい周りは迷惑だけど)。
若いから、なのかな。
私はもう、こんな風に思い込んだらマッシグラ、みたいにはできない。
我ながらウンザリするくらい、ウジウジしてるな。
いいんだ。
家に帰って、神様に祈るから。
神様、どうか青木さんが藍沢さんとデートなんてしませんように、って。
その日以来、私は毎日藍沢さんから青木さんの話を聞かされるようになってしまった。
藍沢さんはバカ娘だけど、変なところで鼻が利く。
多分、藍沢さんは私の青木さんへの気持をなんとなく察しているんだと思う。
だから、牽制されちゃったんだな。
藍沢さんはこの間青木さんを紹介してもらったときに、ちゃんと青木さんの連絡先も教えてもらっていた。
青木さんもX運送の先輩とやらの顔を立てて仕方なく、と私は思いたい。
「青木さんね、忙しいみたいなんだけど、たまにメールの返信くれるのよ」
この日もランチに誘われてしまった私は、いつものファミレスで藍沢さんから青木さんの話を聞かされている。
「そんなにしょっちゅうメール送ってるの?」
「えー、1日に2、3通だけど」
ってことは毎日かよ。
「たまにって、どのくらい返事くるの?」
「んー、2、3日に1回くらい?」
青木さんと頻繁にメールのやり取りはしたことないからなぁ。
ただ、白井さんの噂のことがあったときとか、新年会の予定があったときには、すぐ返事をくれたけど。
それは用件がはっきりしてたからかもしれないけど。
………藍沢さんと張り合って、どうする沙知。
青木さんが藍沢さんに靡くとは思いたくないなぁ。
でも、藍沢さんはまだ若いし。バカだけど顔はまぁまぁ可愛いし。
38歳の青木さんから見たら、なんでも許せる若い女の子かもしれない。
白井さんの悪口を言いふらしたことも、笑って許せちゃったら。
なんか、ますます青木さんに連絡取りにくくなったなぁ。
「ねー、赤城さん、青木さんと他に誰か男の人とで飲み会しない?」
「え。私は遠慮する」
「えーなんでー。青木さんも最初は一対一じゃないほうが気楽かもしれないじゃない」
「とりあえず誘ってみればいいじゃない」
「赤城さんも誰か男の人紹介してもらえばいいじゃん。もーイイトシなんだからさー。ただ焦ってたってカレシなんかできないよー」
「………余計なお世話」
さすがに黙って聞いてられない。
「やだー赤城さんコワーイ。そんな怒らなくてもいいじゃん」
「藍沢さんが怒らせるようなこと言ってるんでしょ」
「えー、そんな怒ることー?赤城さん、黒田さんにフラれちゃったから、可哀想だと思ってあげてるのに」
………ダメだ、こりゃ。
「とにかく、藍沢さんは自分の好きなようにすればいいじゃない。私を巻き込まないで」
「………だってぇ。青木さんに『飲みに連れてってくださいよ』って言ったら、『赤城さんが一緒ならいいよ』って言われたんだもん」
………青木さん
なに考えてんの。
だから藍沢さんは私と青木さんの関係なんか聞いてきたんだ。
藍沢さん除けに私を使うなんて。
だったら、連絡してきてくれたっていいのに。
あ。
新しい携帯番号もメアドも知らせてないのは、私だ。
でも、白井さんとか黒田さんに聞いてくれたっていいのに!
こんなの、自分勝手なのは分かってるけど。
1人で片思いして
1人で自己嫌悪して
1人で怒って
やだ。
私、ホントに青木さんのこと、好きなんだ。
どうしたらいいの?
「………私が藍沢さんに協力する義理はないから」
「えー、赤城さんヒドーイ。なによ、いつも悟ったような顔しちゃって。そんなだからイイトシしてカレシもいないのよ」
はぁ。
言いたい放題言ってくれるな。
「あんまり、私のこと怒らせないほうがいいと思うけど?」
「な、なによ」
「緑さんから引き継いだのは仕事だけじゃないのよ」
お局様の名前を聞いて、藍沢さんが少し怯んだ。
「なに?なにが言いたいのよ」
「………自分で考えたら?じゃあね」
口を尖らせて黙り込んだ藍沢さんを残して、私は先に店を出た。
藍沢さんにとって、お局様は鬼門だ。
藍沢さんがいくらバカ娘でも、お局様からクギを刺されたことは覚えてるだろう。
スネに傷だらけなんだから。
私は駅に入り電車に乗った。
バッグからスマホを取り出して、アドレス帳を開く。
青木さんの連絡先から、メールを開いた。
>>件名:赤城です
>>メアド変更しました。藍沢さんに迷惑してます。
これだけ入力して、何回かためらったけど送信した。
すると、電車で池袋に着いた辺りで、青木さんから返信がきた。
>>いまどこ?
………これだけ?
>>池袋です
立ち止まって返信すると、すぐに
>>○○○で待ってて
と返信がきた。
時間の指定がないってことは、たぶん遠くても30分以内くらいに池袋に来られる場所にいる、ってことなのかな。
青木さんが指定した店は、池袋駅の中にあるコーヒーショップだし。
それにしても、青木さんらしくない。
私の都合も聞かずに、ただ「待ってて」なんて。
「予定があるから帰ります」とでも返信しちゃおうかと一瞬思ったけど、私の足は自分の乗る路線の改札とは違うほうへ向かっていた。
「さっちゃん」
青木さんが言った店のカウンター席でコーヒーを飲んでいると、店に入って10分くらいで青木さんが現れた。
「………どうも。お久し振りです」
青木さんは自分で買ってきたコーヒーを置き、私の隣に座った。
「さっちゃん、携帯変えたの?」
「はい。先月」
「何回かメールも電話もしたんだけど、繋がらないから心配してたんだよ」
「すみません、ちょっとバタバタしてて、忘れてました」
「冷たいなぁ。まぁいいけど」
青木さんは特別気を悪くした風でもなく、笑った。
「で?藍沢さんがどうしたの?」
「藍沢さんが、青木さんと飲みに行きたいから、一緒に行こうってウルサイんです」
「え?なんでそんな話になってんの?」
「違うんですか?」
「藍沢さんから『飲みに行きましょうよ』ってメールがきたときに、『俺の飲み友達は赤城さんだから』って返信したけど、藍沢さんと一緒に飲むとは言ってないつもりなんだけどな」
………でた。
バカ娘の脳内変換マジック。
藍沢さんの脳内では、「赤城さんが一緒ならいいよ」ってなってるわけだ。
「青木さん、藍沢さんが白井さんの噂の主ってことは知ってるでしょ?しかも直接会ってるなら、彼女がどんな子か分かるでしょ?そんな会話の流れに私を出さないで」
「なんで?そりゃ俺は藍沢さんと個人的に仲良くなる気なんかないけど、さっちゃんとは友達だし、実際何度も飲みに行ってるだろ?だからそのまま言っただけだよ」
「青木さんて鈍い?あのね、藍沢さんは青木さんに気があるの。それなのに私をダシにすると、彼女は私に矛先を向けてくるの」
「ちょっと待てよ。藍沢さんて、黒ちゃんのことが好きだから、リョウちゃんの悪口言ってたんだよな?それがなんで俺に気があるって話になるわけ?」
「だから!藍沢さんは脈のない黒田さんのことは諦めて、フリーの青木さんにスイッチしたの!」
なんで青木さんはこんな簡単な図式も分かってないの。
やだやだ。
青木さんに話してると、私が藍沢さんにヤキモチ妬いてるみたい。
「俺と仲良くなって、黒ちゃんに近付きたいのかと思ってたよ」
「それももしかしたらあるかもしれないけど」
「へー。黒ちゃんは若い子にも人気があるから分かるけど、俺はないんじゃない?ただのオッサンだし」
「そんなことは私には分かりません」
「………さっちゃん、なにそんな怒ってんの」
青木さんが私に顔を向けてそう言った。
「怒ってません」
怒ってない。
どんな顔したらいいか分からないだけ。
「携帯変えても連絡ないし」
「………ごめんなさい」
「俺、なんかした?」
「………そういうんじゃないから、大丈夫です」
私がそう言うと、青木さんは安心したようにまた笑った。
「それならよかった。明日も会社だけどまだ早いし、夕飯がてら軽く飲んで帰ろう」
青木さんはそう言うと、私の返事も待たずに立ち上がった。
青木さんは、いつもと変わらない。
友達、なんだね。
こうやって会って、優しい顔を見ると、私1人だけ少し苦しくなる。
「焼き鳥がいいな」
私がそう言うと、青木さんは「汚いけど美味い店があるよ」と言った。
「連れてってください」
私がやっといつもの調子で言うと、青木さんは安心したように見えた。
飲み友達。
藍沢さんよりは、青木さんの近くにいるんだもん。
それで満足しなくちゃダメだよね。
青木さんが連れていってくれた焼き鳥屋さんは美味しかった。
最後に会ったのはお正月で、もう4ヶ月近く会っていなかったから、軽く飲みながら近況を報告し合う感じだった。
青木さんも3月までは忙しかったようで、やっぱりここ最近でやっと落ち着いたそうだった。
藍沢さんからは毎日メールがきているらしい。
「モテてますね」
私が皮肉半分でそう言うと、
「黒ちゃんがダメだから手軽に俺って感じなんだろ。すぐ飽きるんじゃないか?」
と青木さんはあんまり興味なさそうな感じで言った。
内心私は耳が痛い。
青木さんが言ったことは、私にも当てはまっちゃうから。
「藍沢さんはまだ若いですからね」
「24歳か25歳だっけ?俺はもう付いていけないよ」
「私も付いていけないですよ」
「俺より7つも下なのに、そんなこと言うなよ。さっちゃんはもう結婚する気ないの?黒ちゃんはおいといてさ」
そうだった。
青木さんはまだ私が黒田さんのことを好きだと思ってるんだった。
「黒田さんは白井さんがいるから、最初からどうにかしようなんて考えてないですよ。相手がいる人を好きでいても仕方ないし、そうじゃなければ……」
そこでこの間会った陸のことが頭に浮かんで、話そうかどうか迷った。
「例の元同棲相手はバツついた、って泣きついてくるし」
なんかどうでもいいや、って気分で私はそう言った。
「えっ。さっちゃん、例の元彼と会ったの?」
青木さんはジョッキを口に運ぶ手を止めた。
「会いました。なんか、離婚したから話を聞いて欲しいとか言って。彼と奥さんの性格からして、こんなに早く離婚するなんて思わなかったから、話を聞いてみようかと思ったんです」
「なんだったの?」
青木さんから聞かれて、私は陸の離婚話の顛末を話した。
「その元彼も、ある意味災難だったな」
「災難ですか?結果だけ見ればそうかもしれないけど、その運命を選んだのは彼だから、私はあんまり同情できないな。彼女の強かさを見抜けなかったのも彼なんだし」
「さすが手厳しいね。で、彼は?さっちゃんとやり直したいとか言わなかったの?」
「言わせませんでした」
「そうか。言わせなかったんだ」
「惨めだから」
「………」
青木さんは少し困ったような顔をした。
そのあとは少し仕事の話をして、あまり遅くならないようにと9時前に店をでた。
店を出て少し歩いて、雑居ビルの入り口から駅への地下道に降りた。
「さっちゃん」
階段を下りかけたときに青木さんが私を振り返ったので、私は立ち止まった。
「はい?」
「今日さっちゃんが連絡くれて、良かったよ」
「………すみません」
「さっちゃんに嫌われたのかと思って、黒ちゃんにもリョウちゃんにも、さっちゃんがどうしてるか聞き辛かったんだよ」
「嫌うとか、理由がないです」
好きです。
そう言えたらいいのに。
後ろで地下への入り口のドアが開いて、若い男の子が小走りに入ってきた。
その男の子が担いでいた大きなバッグが、階段の降り口で立っていた私の腕に当たった。
軽くよろけただけなのに、青木さんが手を伸ばして私を庇ってくれた。
「スンマセン」
男の子は軽く頭を下げて、元気良く階段を下りていった。
「大丈夫?」
なんだか青木さんに抱えられちゃったみたいになって、私はいい歳してドキドキしてしまった。
「ごっ、ごめんなさい」
慌てて青木さんから体を離そうとしたら、靴が片方脱げてまたよろけてしまった。
「なにやってんの」
青木さんは笑いながら私の腕を取って支えると、屈んで靴を寄せてくれた。
「ごめんなさい」
「今日は謝ってばかりだな」
「………だって」
また「ごめんなさい」と言いそうになって、私は口をつぐんで靴を履き直した。
「さっちゃん」
青木さんは私の腕を握ったまま、私を呼んだ。
「?」
「心配してたんだ」
「なにを?」
「リョウちゃんに聞いて、さっちゃんが携帯変えたのは知ってたんだ。それで俺に連絡がこないから、嫌われたのかと思ってた」
「………そういうんじゃ、なかったんです」
青木さんを好きだって思った自分が、なんだか安易に思えて、勝手に自己嫌悪してたから。
それなのに、青木さんを想う気持ちだけが走って行くことが怖かったから。
「さっちゃん?」
まずい。
泣きそうだ。
「もー、青木さんが変なこと言うから」
頑張れ沙知。
笑え沙知。
「帰りましょ」
私はちゃんと笑顔を作って、そっと青木さんの手を腕から外した。
「え?私が?」
ある日、課長に呼ばれたので、なんの話かと思ったら、建材の展示会に行ってみないかと言われた。
「いまなら業務も落ち着いてるし、勉強しておいで。最近赤城さん、随分がんばってるけど、もう少し専門的なこともできるようになりたいでしょ?メーカーさんの新製品とかも出てるから、見てくるといいよ」
「はい」
「お供に黒田くんつけるから」
「はぁ」
そんなわけで、次の日私は黒田さんといっしょに東京ビッグサイトへ行くことになった。
朝出社してから、黒田さんと一緒に営業部をでた。
そのとき、廊下で藍沢さんとすれ違ったら、
「あれー?赤城さん、どこいくの?」
と、やっぱり突っ込まれた。
「展示会」
「テンジカイ?って?」
………相変わらず、バカだ。
「赤城さん、いくよ」
黒田さんが苦笑いしながら助け船を出してくれたので、私は「はーい。じゃね」と、藍沢さんから離れた。
駐車場で黒田さんの営業車に乗せてもらい、出発した。
「彼女も相変わらずだね」
「藍沢さんですか?」
「うん。青木からなにか聞いてる?」
「藍沢さん本人からも聞いてます」
「青木が首傾げてたよ。『なんで毎日メールがくるんだろう』って」
「藍沢さん、積極的だから」
ホントは「図々しいから」と言ってやりたいところだな。
「赤城さん、青木に携帯変えたの知らせてなかったんだって?」
げ。
バレてる。
いや、大した話じゃないけど、なんか私にボロがでそうな気がする。
よく考えたら、あれじゃ「好き避け」だよね。
しかも音信不通になって、気にしてもらいたい感が満載だったし。
「ウッカリ忘れてたんですよ」
そう言いながら、車が揺れたわけでもないのに、私は頭をドアガラスにぶつけた。
「あいつも不器用だよな。心配でしょうがないなら、俺とかリョウちゃんに聞くとかすればいいのに」
「私がウッカリしてたのが悪いんですよ」
「こないだ久しぶりに会ったんだって?青木から電話かかってきてさ。『さっちゃんから連絡きたんだよ』って、嬉しそうに」
黒田さんはクックックと思い出し笑いした。
「はぁ」
「青木、女の子の扱い、苦手だからな」
「そうなんですか?」
「あれでもあいつ、それなりにモテるんだよ。だけど、手酷い失恋してから、ちょっと慎重になってるみたいだな」
そうか。
黒田さんは青木さんが同棲してたことも知ってるんだ。
「青木さんは元カノのこと、そんなに好きだったんですか?」
「結婚するつもりでいたからな。傷ついたと思うよ。俺も信じられなかった。青木の元カノ、別れた3ヶ月後には違う男と婚約したらしいから。メタフレのメガネが似合う、クールな感じの、いかにも仕事ができそうな子でさ。青木がいうにはツンデレ気味だったみたいだけど、それが金持ちと結婚して、あっさり専業主婦になっちゃうんだもんな」
青木さんの気持ちはよく分かる。
私も陸と別れたとき、自信なくなったから。
男性不信にもなった。
だからいまでも、恋愛を上手にできないのかもしれない。
「黒田さんはいいなぁ。だって昔から好きだった白井さんと付き合ってるんですもんね」
「照れる言い方はやめてくれよ。まぁ、否定はしないけどさ。でも、いいことばっかりでもないよ」
「なんで?」
「リョウちゃんにとこの下の子に嫌われてる」
「どうして?」
「お母さん子でさ。お母さんを俺に取られるみたいに思ってるみたいなんだ」
「中学生でしたっけ?」
「うん、中2になったって。上の子は案外サッパリしてるみたいなんだけどね」
「お年頃ですもんね」
「リョウちゃんはああいう性格だから、『そのうちなんとかなるって』って言ってるけど、やっぱりいろいろ考えるよ」
黒田さんはそう言ってため息をついた。
そうかぁ。
長い年月の想いが実っても、順風満帆とはいかないんだな。
「でも白井さんと別れるつもりはないんでしょ?」
「当たり前だよ。ただ、好きな人の大事な人から嫌われるのは切ないね。いつか許してもらえるといいんだけど」
「彼女の父親に嫌われた彼氏みたい」
「気分的には極めてそれに近いね」
黒田さんはそう言って笑った。
「青木はさ」
黒田さんは首都高で前を走るタクシーの方を見ながらゆっくり言葉を繋いだ。
「前の彼女と別れてから、女の子の話なんてしたことなかったんだ。それが、赤城さんと仲良くなってからは、よく赤城さんの話をしてる」
………ホントかなぁ
「誤解しないでよ。別に青木が俺になんか言ってるわけじゃないんだ。ただ」
前のタクシーが渋滞を知らせるハザードを出し、黒田さんも緩やかに減速しながらハザード出して、バックミラーで後続車を見た。
「こないだ、赤城さんが元彼に会ったらしい、って心配してた」
「青木さんたら、そんなこと黒田さんに言って」
「赤城さんから連絡きて会った、ってテンション上がってたから、ちょっとクチ滑った感じだったんだ。許してやってよ」
「別に、怒りはしませんけど。青木さんにもちゃんと経緯話したのにな」
「うん。だから、あいつ不器用なんだ。感情隠すの下手だし。でも、ホントいい奴だから、あいつには幸せになってもらいたいんだよな」
………もしかしたら
黒田さんは、青木さんの白井さんへの気持ちに気付いてたのかな。
だから、最初は黒田さんにも付き合ってることを隠してたのかもしれない。
で、さらに黒田さんの言葉の行間を読み取るなら。
青木さんは、少しは私のことを、意識してるって、そう黒田さんは言いたいのかな。
自意識過剰かな。
東京ビッグサイトに着いた。
展示会は初めてなので、私はキョロキョロ辺りを見回しながら、黒田さんに付いて歩いた。
黒田さんはお客さんや取引先のブースに寄っては、名刺を交換したり、少し話したりする。
私は黒田さんの横で、「この人が××社の○○さんか」とか思っていた。
「黒ちゃん!」
人の多い通路を歩いていたら後ろから声がして、青木さんが現れた。
「えっ、さっちゃん?来てたの?」
離れた所からだと私は青木さんには見えていなかったようで、青木さんはそう言って驚いた。
「青木さん、こんにちは」
「よう。青木も来てたのか」
黒田さんは笑顔になって言った。
「今回、ウチも出展してるからな。本社の連中が来てるから、さっき顔出して来た」
「じゃあ青木に案内してもらおうかな」
「いいよ。赤城さんが来てるって聞いたら、リョウちゃんが羨ましがるな。二次コンさんのブース見たがってたから」
さすが白井さん、相変わらず仕事熱心だな。
青木さんの案内でX機材のブースと、X機材の仕入先のブースも見せてもらった。
私は書類やカタログでしか見たことがなかった製品を生で見られて、感心するばかりだった。
これは確かに白井さんは来たいだろうな。
時計が正午を回ったころ、黒田さんの会社支給携帯が鳴った。
「クレームだ。現場に行かないと詳細が分からない。ゴメン、赤城さん、電車で帰ってもらえる?」
電話を終えた黒田さんはそう言った。
「分かりました。私は大丈夫なんで、早く行ってください」
「ゴメン。青木、またな」
黒田さんはそう言うと足早に会場を後にした。
私は青木さんと2人で残された。
「青木さん、私も会社に戻ります。ありがとうございました」
私がそう言って帰ろうとしたら、
「送ってくよ」
と青木さんが言った。
「えっ。いいですよ、青木さんまだここで用事があるんでしょ?」
「俺は顔出しにきただけだから。お客さんには大体会えたしな。A商事はどうせ通り道だから、乗って行きなよ」
乗って行きなよ、っていうことは、青木さんも車なんだ。
ちょっと待った。
初めて黒田さんの営業車に乗ったときより緊張するんだけど!
「朝から出てきたなら、お宅の課長も昼飯食ってこいって言ってたんじゃないの?飯食って帰ろう」
えっ。
こういう展開?
心の準備が。
結局私は青木さんに言われるまま、駅近くのレストランで青木さんとお昼ご飯を食べた。
食事中は店が混んでいることもあって、展示会の話をサラッとしたくらいで、急いで食事を切り上げて、ビッグサイトの駐車場から青木さんの車で帰ることになった。
「汚くて悪いけど乗って」
青木さんは助手席から書類やカタログをどかしながら言った。
どこかで見た光景だなぁ、って思ったら、初めて黒田さんの営業車に乗せてもらった時も、黒田さんが同じような感じだったことを思い出した。
あのとき私は黒田さんに片思いしてたんだった。
そしていまは、青木さんに片思いしている。
進歩がないな、私も。
「すみません、よろしくお願いします」
私がそう言って助手席に座ると、青木さんが「お客さん、どちらまでー?」とふざけて言ったので、「沖縄まで」と私が返すと、青木さんは「飛行機の方が早いッスよぅ」と笑った。
車はすぐに首都高に乗り、青木さんは左車線であまり飛ばすことなく車を走らせた。
「さっちゃん」
「はい」
私を呼んでおいて、青木さんはそこで黙った。
「青木さん?」
「………あれからさ」
「あれから?」
「大丈夫?」
「………なんの話?」
「例の」
「例の?」
「………元彼」
「あぁ。ほら、私、スマホ変えたじゃないですか。前の携帯番号とメアド、彼と別れたときのままだったんですよ。忌々しいから、彼と会ったあと、速攻でスマホ買い替えたんです。新規で。だからあれっきり」
「あ、ああ。そうか。それでスマホ変えたんだ」
「そんなことしなくても、彼は連絡してこないと思うんですけどね」
「どうなんだろうな」
青木さんは前方を見たまま笑った。
「せっかく黒ちゃんときたのに、帰りは俺とで、残念だったな」
嫌味な感じでもなく、青木さんはそう言った。
青木さんは、まだ私が黒田さんに片想いしていると思ってるから。
当たり前だよね。
だって、私は自分の気持ちなんて、ちゃんと青木さんに話してないんだから。
黒田さんが言っていたことは、ホントなのかな。
ついこの間まで黒田さん黒田さんって言ってた私が、いまは青木さんを好きだって気付かれたら、やっぱり女はいい加減だって思われないかな。
青木さんの元カノにしても、藍沢さんにしても、ハタから見れば、自分に都合がいいように動いてると思うんだけど、私も同じなんじゃないかな。
………バカだな、私。
陸と別れたとき、ちゃんと自分の気持ちを言えなかった。
黒田さんには彼女がいるからって、最初から諦めてた。
青木さんを好きになったはいいけど、ひとりであぁでもないこうでもない、って空回りしてる。
自分ではなにも言わないで、なにも行動しないで、勝手に落ち込んだりしてる。
そのくせ、青木さんが音信不通になった私を心配してくれたらいいと思ってたり。
もう32歳になるから。
婚約寸前の陸に捨てられたから。
好きな人は違う人がいるから。
いつもいつも、なにか理由をつけて、逃げている。
傷付くのが怖いから。
だけど。
それでいいの?
このままでいいの?
「青木さん」
無意識に言葉が出た。
「なに?」
「今度………今度」
「今度?」
「デートしませんか」
言ってしまった。
「デート?いいね」
思ったより青木さんが軽い感じで答えてくれたので、緊張して喉が詰まったようになっていたのが、フッと楽になった。
「どこ行きたい?」
青木さんに聞かれて、私は
「サービスエリア巡りしましょう」
と言った。
「ドライブ?楽しそうだな。目的地は?」
「ないです。サービスエリアグルメツアーをしたいんです」
「いいねぇ。俺詳しいよ」
「案内してもらえます?私の車出しますから」
「さっちゃん車あるんだ。でもいいよ、デートなのに、女の子に車出させたりしないよ」
「いいんですか?私のニッサン・ノートちゃんの出番だと思ったのに」
「俺のトヨタ・プリウスちゃんの出番だな」
「プリウス?乗ったことないんですよ」
「運転させてあげるよ。静かだよ」
「嬉しい!」
言葉が滑り出る。
なんだ。
こんなに簡単なことだったんだ。
好意を伝えたいと思う会話って、こんなに簡単にできるんだ。
青木さんが運転する車がA商事の近くまできた。
「ついでだからお宅の課長に挨拶していこうかな。課長いる?」
青木さんは時計を確認しながらそう言った。
「外出予定は聞いてないんで、今日はいると思いますよ」
青木さんは「そうか」と機嫌よく言って、A商事の駐車場に車を入れ、来客用スペースに駐車した。
なんか、緊張するなぁ。
自分の職場に、他社の人と、しかも自分の好きな人と入っていくんだ。
私は青木さんと一緒に玄関から入り、エレベーターで営業部フロアに上がった。
「あっ、青木さん!」
耳を貫く甲高い声。
お馴染み藍沢さんだ。
ホント鼻が利くのか、なんで見つかっちゃうんだろう。
「あれ、赤城さんも一緒?なんで青木さんと一緒なの」
「そこで一緒になったのよ」
めんどくさい。
このバカ娘に説明したくない。
「青木さん、今日はどうしたんですかぁ?」
「営業部の課長に挨拶にね」
「お茶お出ししますよぅ。コーヒーか緑茶なんですけど」
………なんで総務の藍沢さんがお茶だしするんだ。
この出しゃばり!
「藍沢さん、私がやるからいいよ」
「えー、いまちょうど手が空いてるのに」
毎日空けっぱなしでしょ。
自分の仕事しろって。
付いてこなくていいのに、藍沢さんは青木さんの横にぴったり付いて営業部まできてしまった。
私がロッカーにバッグと上着をしまって給湯室へ行くと、藍沢さんが鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れる準備をしていた。
「ありがとう。あとは私がやるから」
精一杯の作り笑いでそう言うと、藍沢さんが私をギロリと睨んだ。
「赤城さんたら、自分が青木さんにコーヒー持っていきたいだけなんでしょ」
相変わらず憎たらしい。
「………そうよ。青木さんは営業部にきたお客さんだし、そもそも私は青木さんとは個人的にも友達だから。藍沢さんが持っていく筋合いはないんじゃない?」
ニッコリ笑いながら、ハッキリとそう言ってやった。
「わ、私だって、青木さんとはお友達だもん!」
「そうなの?」
「メールだってしてるし!」
「それで?」
「今度!今度、飲みに行こうって」
「青木さんが言ったの?」
「………!」
藍沢さんは言葉に詰まった。
そりゃそうだ。
藍沢さんのしていることは、一方通行なんだから。
藍沢さんは吊り上った目で私をまた睨んだ。
「ホンット、赤城さんていい人ぶってるクセに性格悪い!だからいい歳して独身なのよ!アンタみたいなオバハン、青木さんに相手にされるわけないじゃない!不細工なくせに!いき遅れのブスは大人しく仕事でもしてなさいよ!」
………いい加減慣れたけど、ホント藍沢さんはアタマ弱いくせに、自分を有利にするための罵詈雑言はツラツラと出てくるな。
男性陣の前では、絶対にこんな低い声で喋らないのに。
でも、今日の私は退く気がしない。
こんなバカ娘と真面目に喧嘩する気はないけど、ため息ついて諦めることは、もうしない。
「うん、営業部のお客さんにお茶を淹れるのは私の仕事だから。そのくらいの仕事は他の部署の人に手伝ってもらう必要ないから」
私は藍沢さんを無視して、来客用のコーヒーをカップにいれた。
「余計なことしないでよ!」
藍沢さんの手が鋭く動いて、台の上に置かれたカップを二つ弾き飛ばした。
淹れ立てのコーヒーが飛び散って、私の腰から下にかかった。
「さっちゃん!」
膝から下に熱さを感じたのと、青木さんの声が後ろから聞こえたのはほぼ同時だった。
「アチっ」
コーヒーは保温サーバーから移したもので、煮えたぎってるわけじゃないし、カップから飛び散った一部がスカートと膝から下に少しかかっただけだったので、火傷するほどではなかった。
それなのに青木さんは駆け寄ってくると、
「さっちゃん、早く冷やして!」
と言った。
「青木さん、どうしてここに?」
「んなこたぁいいから早く冷やせ!」
青木さんはそう怒鳴ると給湯室のシンクの水道を開いた。
「大丈夫ですって」
「女の子なのに、火傷の痕が残ったらどうするんだよ」
「分かった、分かりました。冷やすから、青木さんは出てドア閉めてください。スカートだから足上げられないでしょ」
私がそう言うと青木さんは急に毒気を抜かれたような顔になった。
でもすぐに怖い顔に戻ると、横に立っていた藍沢さんを睨んだ。
「藍沢さん、赤城さんにコーヒーかけたね」
「し………、わ、わざとじゃないんですぅ」
「いいからこっちに来て」
青木さんは藍沢さんを引っ張って給湯室から出るとドアを閉めた。
藍沢さん、言いかけた「し」は「知りませぇん」だったんだろうな。
でも、さすがに誤魔化せないから、「わざとじゃないんですぅ」、か。
さすが藍沢さん。
私は水道の水でコーヒーがかかった場所を冷やしながらクスクス笑った。
思った通り、薬や医者が必要なほどの火傷はしていないみたいだった。
2、3分冷やしてみてから私は濡れた膝をハンカチで拭き、とりあえず青木さんを通した打合せブースへ行った。
4人がけのテーブルの片側に課長がいて、その向かいに青木さんが座っていた。
課長の隣には一見しおらしい様子の藍沢さんが座っている。
「赤城さん、大丈夫?」
課長と青木さんの声がハモった。
さすがに青木さんも課長の前だから「さっちゃん」とは言わない。
「すみません、大丈夫です」
私はテーブルの横に立ったままそう言った。
「………大げさなのよ」
低い小さな声で藍沢さんが呟いたのが聞こえた。
「藍沢さん、なんでそんなことしたの」
課長に聞かれて、藍沢さんは上目遣いを返した。
「私、赤城さんのお手伝いをしようと思っただけなんですぅ」
「………けっこう、ヒドいこと言ってるのが聞こえたけど?」
青木さんに言われて藍沢さんは「えー、言ってないですよぉ」と言った。
「誤魔化してもダメだよ。途中から全部聞こえてたんだから」
「赤城さんが言ったんじゃないですかぁ?」
「………藍沢さん、ウチの社員のことも、いろいろ知ってるんだよね?」
あ。
これは白井さんのことか。
ウチの課長も知ってる話だからなぁ。
「え?なんの話ですかぁ?」
藍沢さんはキョトンとした。
これはもしかして。
本当に白井さんの悪い噂をばら撒いたことを忘れているんだろうか。
というより、悪いことをしたとは思っていないのかもしれない。
「藍沢さん、社外の人にまで迷惑かけることが続くと困るよ」
課長は遠回しに言った。
………伝わらないだろうな。
「課長~、誤解ですよぅ」
「………藍沢さん、もういいよ」
課長が諦めた様子でそう言うと、藍沢さんは「はーい」と嬉しそうに立ち上がった。
「でも、戻る前にちゃんと藍沢さんと青木さんに謝って」
課長の言葉に一瞬藍沢さんの顔が強張った。
「だってぇ、わざとじゃないんですぅ」
「それでもやったことは事実なんだから、ちゃんと謝って。それができないなら、今度こそ人事と相談させてもらうよ。X機材さんにも迷惑かけてるんだからね」
穏やかだけど断固とした口調の課長に、藍沢さんは怯んだ。
「……………すいませんでした」
小さな声で、申し訳程度に頭を下げると、藍沢さんは「ぷいっ」という感じで出て行ってしまった。
「青木さん、悪かったね」
課長は青木さんにそう言った。
「いいんですよ。僕も彼女がX運送からこちらへお世話になった経緯はちょっと知ってるんです。そもそもウチの関連会社がご迷惑かけてるんですから」
青木さんは快活にそう言った。
普段は「俺」なのに、課長みたいな社外の人と話すときは「僕」なんだな、って気付いて、ちょっと新鮮だった。
「青木さん知ってたんだ。X運送から彼女を頼まれたの、僕なんだよね。X運送の部長が僕の大学の先輩で、ワケアリの子なんだけどよろしくって言われてさ。ウチにきた経緯はまぁいいんだけど、彼女自身がねぇ………」
ワケアリっていうのは、緑さんが言ってた話だな。
藍沢さんが妻帯者にくっついて、って話。
まぁ、それだけならまだしも、彼女の能力と性格に問題があるのは予定外、ってことなのかな。
「なんか藍沢さん、青木さんに馴れ馴れしかったけど、なにか迷惑かけてる?」
「僕は大丈夫ですよ」
「赤城さんにも迷惑かけて悪かったね。赤城さん、青木さんと親しいの?」
「黒田さんのお友達って繋がりです」
「あぁ、黒田くんと青木さんは友達だったね」
課長は藍沢さんの言動から、黒田さんのアシスタントで、青木さんとも親しい私が藍沢さんから攻撃されてる構図が分かったみたいだ。
「あ、お茶淹れ直してきますね」
私がそう言うと、青木さんは「ありがとう」と言った。
私はお茶を出してから仕事に戻った。
30分ほど経った頃に、青木さんが営業部に顔を出した。
「さっちゃん、これ、ウチの新製品のパンフレット。どっかに置いておいて」
「はい」
私はパンフレットをデスクに置いて、青木さんに付いて部屋を出た。
「さっきはありがとうございました」
私がそう言うと、青木さんはうなじをさすった。照れてるみたいだ。
「ホントに火傷、大丈夫なの?」
「はい。制服でよかったです。黒だから染みも目立たないし」
「あの子もなかなかタチが悪いな。さっちゃん、気を付けなよ」
「平気ですよ」
「じゃあまたね」
「はい。失礼します」
青木さんは手を振り、降りてきたエレベーターに乗って帰っていった。
『女の子なのに、火傷の痕が残ったらどうするんだよ』
青木さんが給湯室で言った言葉が耳に蘇った。
もうすぐ32歳になるのに、『女の子』。
照れ臭いような、嬉しいような。
いやいや。
それどころじゃない。
私ったら、青木さんをデートに誘ったんだ。
青木さんは、受けてくれた。
バカにしたり、笑ったりしなかった。
………いいのかな。
私は、青木さんの前で、女の子に戻ってもいいのかな。
10代のころのように、もう一度純粋な気持ちで、好きだと思っていいのかな。
>>相談があるんだけど、飲みに行かない?
そんなメールが白井さんからきた。
白井さんともずいぶん会っていない。
お誘いは単純に嬉しかったけど、白井さんが私なんかに相談したいことってなんだろう、と不思議に思った。
金曜日の夜に、東京駅の八重洲地下街にあるダイニングバーで白井さんと待ち合わせた。
私が先に着いて、軽く飲みながら白井さんを待っていると
「赤城さーん!お待たせ!」
と、白井さんが現れた。
相変わらず元気で綺麗で可愛らしい。
白井さんと何品か料理を選び、飲み物がきたところで乾杯した。
「白井さん、相談って?」
気になっていたので、私は白井さんがビールグラスから口を離したタイミングでそう聞いた。
「うん、実はね、私の妹がアパートの契約更新で、家賃上げるって管理会社から言われちゃったらしくて。2年前も上げたのにまた?って思うんだけど。赤城さん、前に不動産会社にいたんだよね?だからどうしたらいいか聞きたかったの」
そういえば前に会ったとき、昔不動産会社にいたことは白井さんに話したことがあるような気がする。
実は私は宅建を持っている。
働いていた不動産会社では、事務職でも資格手当てがもらえたから、勉強して取ったのだ。
でも営業をしていたわけではないので、実務を全部知っているわけではない。
それでも普通の人よりは不動産業界については詳しいつもりだ。
私は白井さんに、「上手なゴネ方」を教えた。
ついでに、退去するときの敷金の返還や修繕費用についても話した。
「すごーい。赤城さん頼りになる!」
白井さんはメモを取りながら私の話を聞き、ひどく感心してくれた。
「こんなことでお役に立つなら、いつでも呼んで」
「こんなこと、なんて。素人から見れば尊敬しちゃうのよ」
「白井さんが相談があるなんて言うから、どんな大変な話なのかと思ってドキドキしちゃった」
「私にはあんまり悩みなんてないのよ」
うん。
実際白井さんには悩みなんてなさそうに見える。
いつも元気で可愛くて。
離婚した事実なんて白井さんの影にもなってなくて。
きっと家に帰れば良いおかあさんで。
黒田さんみたいな、誠実で素敵な恋人がいて。
でも、それだけじゃないんだ。
白井さんだって、悩みがないわけじゃないんだと思う。
人に見せないだけ。
黒田さんがちょっとこぼしたことだって、白井さんが平気なわけはない。
それでも「そのうちなんとかなる」って笑い飛ばして、ホントにそうなるように努力するんだろうな。
自分を好きでいてくれる黒田さんに、自分も気持をちゃんと伝えて。
藍沢さんに悪い噂をばら撒かれたときだって、動じない。
ホントは辛かったんだろうけど、そんなことには負けないんだって、きっと白井さんは頑張ってたんだ。
私も、白井さんみたいに強くなりたい。
傷付いても、挫折しても、何度でもちゃんと立ち上がって、前を向いて生きていきたい。
白井さんみたいに、どんなことがあっても、誰かを好きだと言える強さが欲しい。
「赤城さん、最近仕事はどうだった?忙しそうだったけど」
ぎく。
青木さんを避けてたとき、X機材の電話、ほとんど取らなかったから、白井さんとも話す機会があんまりなかったんだ。
「あー、まぁ、そこそこ忙しかったかな」
「例の彼女、大変?」
「………なにか聞いてます?」
藍沢さんのことを言ってるんだろうけど、青木さんがどこまで白井さんに話してるか分からないから、迂闊になにか言うとボロが出そう。
「青木さんが、『若い子はなに考えてるのかわかんねーな』って」
白井さんはクスクス笑った。
「藍沢さん、いまは青木さんにご執心だから」
「青木さん、私に『毎日メールがくるんだけど、返事のしようがない』ってボヤいてた」
「らしいですね」
「展示会の日も、彼女暴れたんでしょう?」
「聞いちゃいました?ヤキモチ妬かれて、コーヒーかけられました」
「聞いた聞いた。火傷しなくて良かったけど、あの子は怖い、って青木さん言ってた」
「確かになにやらかすか分からなくて怖いかな。仕事でもそれ以外でも」
「彼女は青木さんの好みじゃないことは確かなんだけどね。若くて可愛いのにもったいない」
「白井さんたら、あんだけ黒田さん絡みで彼女の被害にあったのに、本気で可愛いとか言うー?」
「言うわよ。だって彼女、24か25歳でしょ?ウチの長女、もう高2なのよ。娘と歳が近い女の子だと思うと、可愛いとしか思えない」
「藍沢さんは中身が最悪だから大嫌い」
私は不貞腐れてそう言った。
「まぁまぁ。若くて可愛い子は、たいていワガママなもんだから」
「だからって人に迷惑かけてばかりもどうかと思う」
「恋は盲目って言うし」
「こないだまで『黒田さん黒田さん』ってお騒ぎしてたくせに」
「青木さんは優しいからモテるのよ。それなのになんで独身なんだろ?」
白井さんは青木さんの元カノの話は知らないのかな。
黒田さんは元カノのこと知ってたけど、青木さんの失恋話は白井さんにはしてないんだ。
「優しすぎるからじゃないかな」
そう、青木さんは優しい。
優しいから、白井さんのことを好きだということは、白井さんにも黒田さんにも悟られないようにしてた。
きっといままでも、いいなと思う女の子がいても、相手の気持ちとか考えて、簡単には気持ちを伝えたりしなかったのかもな。
「そうかもね。青木さんはいつも他人のことを気遣ってるようなところがあるから」
白井さんは納得したように頷いた。
「でも、青木さん、赤城さんと仲良くなってから楽しそうよ」
「そうですか?」
「………そうですか、って。えー。赤城さん、青木さんが赤城さんに好意があるって感じないの?」
「えっ。だって」
青木さんは白井さんのことが好きなんです。
とは言えない。
「そりゃ、けっこう仲良くしてもらってるけど、そういう感じじゃない、ような、気がする、んだけど」
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