ため息はつかない!
赤城 沙知 31歳
好きな人がいます
だけど、その人には彼女がいます
残念ながら、略奪する根性は、私にはありません
はぁ
14/10/07 17:34 追記
☆感想スレ☆
よろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ
http://mikle.jp/threadres/2145612/
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「赤城さんも青木さんにいい感じならいいのになー、なんて勝手に思ってたんだけどね」
白井さんはそう言って「へへへ」と笑った。
あぁ。
白井さんは、青木さんが白井さんのこと好きだなんて、想像もしてないんだろうな。
青木さんのことだから、悟られるような行動はしないんだろう。
白井さんへの思いやりと、黒田さんとの友情と。
「………青木さんには、好きな人がいるんです」
「えー、そうなの?」
軽く驚いて、「残念」って色の浮かんだ目。
ホントに白井さんは気付いてないんだな。
「内緒ですよ?でもね、その相手には恋人がいるみたいで、諦めたみたいなんです」
「ふーん。青木さんは略奪するようなタイプじゃないかもね」
「そうなんです」
白井さんはしばらく頬杖をついて考え込んでいた。
「………赤城さんは、青木さんから好きな人がいることを聞いたんだよね?」
独り言にも聞こえる感じで白井さんはそう言った。
「そう」
私が気付いたっていうか、片思い同士の勘から聞き出したのが正解だけど。
「青木さんのことだから、その人がダメだったから赤城さん、みたいな展開に気が引けてるんじゃないのかな」
「………え」
それは私の方。
「自分に好きな人がいたって赤城さんが知ってたら、なかなか赤城さんには好意を伝えられないでしょ。器用な人ならその状況も上手いこと利用するんだろうけど、青木さんはそういうタイプじゃないし」
「そういうことも、あるのかなぁ」
あるのかもしれないけど。
それは私もまったく同じ。
「もー、そんなこと言ったら、私なんかどうしたらいいのかしら、って話よね」
白井さんはグラスに残っていたビールを飲み干すと、そういって笑った。
「私なんて、離婚してすぐに謙ちゃんと付き合ってるのよ。そりゃ陰口の一つや二つ、あって当たり前だよね」
そうか。
白井さんも同じ、というより、結婚してたんだから、周囲の目はもっとシビアだったんだ。
「そんなの気にしてたら、生きていけないよね。私は悪いことはしてない。別れたダンナと結婚したときは、ダンナのこと本当に好きだった。離婚はしたけど、幸せなこと数えきれないくらいあったし、離婚しないように努力もした。でも結果として限界がきて愛情もなくなって、離婚するしかなかった」
そこで白井さんは追加オーダーを取りにきた店員さんに自分の分と、私の分のビールを頼んだ。
「謙ちゃんとの付き合いに後ろめたいことはなにもない。謙ちゃんは私を好きだって言ってくれたし、私も謙ちゃんが好きだって思った。だから付き合った。だから、他人にどう思われても、受け止めることはできるんだ」
この言葉の陰で、白井さんはどれだけ悩んだんだろう。
「白井さんは強いなぁ」
「強くなんかないわよ。離婚して弱ってたから、支えてくれる謙ちゃんの気持ちが嬉しかったのは本当だもん」
「白井さんと黒田さんは昔からの友達だったんだし、白井さんはダンナさんを好きじゃなくなったから離婚したんだし、なんにも悪いことはないでしょ」
白井さんはくすっと笑った。
「私の友達もそう言ってくれた。でも他人からは良く思われないのも現実なのよね。それを思えば、青木さんなんてまっさらな独身なんだから、気にすることなんてなにもないのにね」
………それって、私も同じ、かな。
そういう自分では、青木さんを好きになっちゃいけないような気がしてた。
でももし、白井さんを好きだった青木さんが、私を好きになってくれたら、どう思うかな。
なんか、白井さんと自分を勝手に比べて、1人で落ち込みそうな気がする。
「誰かを好きになるなんて、理屈じゃないから。あんまりごちゃごちゃ考えても仕方ないのよね」
「そうなんだけど。私もごちゃごちゃ考えちゃうタイプかもしれない」
「青木さんと似てるのかもしれないね。赤城さんは、青木さんのことどう思ってるの?」
「えっ。どうって、あの」
「あ。ごめん。ストレート過ぎたね。青木さんと赤城さんが付き合ったらお似合いなのになー、って思ったから」
「あはは」
ここは笑うしかない。
「まぁけしかけるつもりはないけど、青木さんと仲良くしてあげて。ホント、赤城さんのこと話すとき、青木さん楽しそうだから」
「うん」
本当は白井さんに「実は私、青木さんのことが好きなの」と言ってしまいたかった。
白井さんはお姉さんみたいで、優しくて、いろんなことを乗り越えてきた強さを持ってて。
その白井さんに洗いざらい相談して、背中を押して欲しかった。
「きっと青木さんは赤城さんのことを好きなんだよ」と言って欲しかった。
だからこそ、私は舌先まで出掛かっていた言葉を無理矢理飲み込んだ。
青木さんのことを好きなのは、私。
青木さんの気持ちを確かめたいのは、私。
白井さんが言う言葉を頼って、青木さんがなにか言ってくれるのを待ってたり、遠回しに私の気持ちを伝えたりするようなやり方は、したくない。
そういう意味じゃ、藍沢さんってスゴイな。
自分に都合の悪いことはすぐに忘れちゃって、思うままに突き進んでて。
周囲はとっても迷惑だけど。
でも、自分の気持ちには素直なんだろうな。
「そういえば、白井さんには強敵がいたね」
「だれ?」
「ダルマインコのゆり子ちゃん。黒田さんとラブラブなんでしょ?」
私がそう言うと、白井さんはムッツリした。
「そう、ゆり子。あいつ、憎たらしいの。私が遊びに行くと、カゴに入って私に背中向けて動かないの。オヤツにフルーツとかあげると、私の方は見ないで足で取るの。あれ、絶対私のことライバルだと思って敵視してるのよ」
白井さんがムキになって言うので、私は笑ってしまった。
「手強いね」
「賢いからね。でもいつか絶対手懐けてやるんだから」
白井さんはそう言って鶏の唐揚げを口に放り込んだ。
>>7時集合ね
青木さんから来たメールにそう書いてあった。
青木さんとメールで打ち合わせて、私が誘ったデートは、5月の4連休の2日目になった。
私がサービスエリア巡りドライブをしたい、と言ったので、比較的高速道路が空いていそうな日に決めた。
青木さんはコースを考えてくれているらしい。
どこまで行くのか分からないけど、とりあえず朝の7時に出発するっていうことは、けっこう遠くまで行くのかな。
私の働くA商事も、青木さんのX機材も、カレンダーと同じお休みだ。
連休前は結構忙しかった。
なので、4月の終わりの祝日はゆっくり過ごした。
実家からは兄貴たちと一緒にバーベキューをするからおいで、と声がかかったんだけど、用事があるからと嘘をついて断った。
別にそれほど嫌なわけではないんだけど、どうせまた変な気の遣われ方をするんだと思うと、気が重くなったから。
連休の合間の平日はまた仕事。
藍沢さんが何事もなかったかのような顔をしてランチに誘ってきたけど断った。
「ゴメン、銀行に行くから」
なんて言い訳しちゃったけど。
藍沢さんは懲りずに青木さんにメールしてるのかな。
多分、私をランチに誘うのも、青木さん絡みの話をしたいんだろうけど、そんなのは聞きたくないし。
連休後半の初日は1人で池袋に行って買い物をした。
とりあえず、歳相応に可愛いカットソーを見つけて、明日の青木さんとのドライブに着て行くことにした。
そんな自分をなかなか可愛いと思う。
青木さんとの待ち合わせは、私の最寄駅だった。
当日の朝7時5分前に着くように歩いていくと、青木さんが言っていたシルバーメタリックのプリウスが駅前に停まっているのがすぐ分かった。
私が近寄っていくと、運転席のドアが開き、降りてきた青木さんが手を振った。
「おはよう」
「おはようございます」
青木さんは「どうぞ」と言って助手席のドアを開けてくれた。
「お邪魔しまーす」
青木さんは車を出すと、一番近いインターから首都高速に入った。
「さて、どこに行くでしょう」
「………東北道?」
「ピンポン。正解」
車は首都高をしばらく走ってから東北道に入った。
首都高と東北道は渋滞はしていなかったけど、そこそこ混んでいた。
出発から1時間と少しかかって羽生パーキングエリアに着いた。
「さっちゃんがサービスエリア巡りって言ってたからね。めぼしい所には寄らないとね」
「楽しい〜」
羽生パーキングエリアで一時間くらいウロウロして、次は佐野サービスエリア。
お昼には早かったけど、2人で佐野ラーメンを食べた。
そのあともサービスエリアに寄りながら、お菓子を買ったり、軽く食べたりしながら走り続け、どこまで行くのかなぁ、と思ったところで、青木さんは黒磯板室インターで降りた。
「どこに行くの?」
「さて、どこでしょう?」
青木さんは楽しそうに車を走らせた。
「………ショッピングモール?」
建物が見えてきたので私がそう言うと、青木さんは頷いた。
「そう。アウトレット。ちょっとお楽しみがあって」
車を駐車場で停めると、青木さんは案内マップをもらってなにかを確かめると「さっちゃん、こっち」と行って歩き出した。
青木さんが案内マップを見ながらモールの中を歩いていくのに付いていくと、屋外に出た。
「アルパカがいる!」
なぜかアウトレットモールにアルパカやウサギがいた。
「近くの動物園から出張してきてるんだよ」
「うわー、可愛い」
動物園なんて子どもの頃にいったきりだったので、アルパカを見るのは初めてだった。
「俺さ、もふもふした動物好きなんだよな」
「ホント、もふもふー」
連休中ということもあって、子ども達がたくさんいるので、大人の私や青木さんは遠慮がちにはなったけど、アルパカに触らせてもらったり、ウサギを抱いたりした。
「なんか和む~」
私がウサギを抱きながらそう言うと、青木さんは笑った。
「本当はこの辺りまでくれば、近くに那須どうぶつ王国もアルパカ牧場もあるから行ってもよかったんだけど、今日はドライブとサービスエリア巡りがメインだからね。慌しいのもどうかと思って調べたら、ここで出張動物園やってるっていうから」
「調べてくれたんだ。こういうところだと手軽でいいよね」
私は足をバタつかせたウサギを係の人にそっと渡した。
「さっちゃんも最近忙しかったみたいだから、気分転換になるかと思ったけど、動物嫌いじゃなくてよかった」
「うん、楽しい」
そのあと、青木さんと一緒にアウトレットモールの中の店を何件か回り、私は青木さんに頼まれて、ウインドブレーカーを一枚選んだ。
ゆっくりとお茶を飲んでから、また車に乗って、高速道路で東京方面へ向かった。
「上りのサービスエリアも制覇しような」
青木さんが楽しそうにそう言った。
東北道を東京方面へ。
青木さんはまたサービスエリアがあると寄ってくれた。
上りと下りではまた違う限定商品があったりして楽しかった。
寄り道しながらなので、埼玉県に入ったころには辺りは暗くなってきていた。
「夕飯は入らないな」
「いろいろ食べちゃったから」
「飲みにでも行く?明日も休みだし」
「でも車は?」
「さっちゃん乗せた駅の辺りのコインパーキングに置いて、近くで飲もうか。あそこからなら俺んちそう遠くないし」
ドライブはとても楽しかったけど、名残惜しい気分だったから、青木さんの提案は嬉しかった。
「あのさ、さっちゃん」
「?」
青木さんの声の調子が変わったような気がした。
「俺さ、来月大阪に行くんだ」
「大阪?旅行かツーリング?」
「違うよ。ウチの大阪支店」
大阪支店。
X機材の、大阪支店。
………。
転勤。
全国に支店や営業所のあるX機材なら、そういうこともあって当然なのに。
予想もしてなかった。
もしかして、青木さんは転勤になるから、私とデートしようって気になったのかも。
どうする、沙知。
またいままでみたいに、諦めるの?
それでいいの?
ここで終わりにしたくなかったら、自分でなにかしなくちゃいけないんじゃないの?
「………がいい?」
青木さんがなにか話しかけているのも耳に入っていなかった。
「あっ、ごめんなさい。ちょっとビックリしちゃって」
「え、そんなに驚いた?研修と営業所新設の応援なんだけど」
研修と、応援?
転勤じゃ、ないんだ。
うわ。
恥ずかしい。
1人で勝手に走馬灯状態になってた。
「さっちゃん、青くなったり赤くなったり、どうしちゃったの?」
「早とちりして、青木さんが大阪に転勤になるんだと思っちゃった」
「予定では1ヶ月だよ。多少長引くかもしれないけど。こっちの仕事もあるから、行ったり来たりになりそうなんだ。だから大阪土産、なにがいい?って聞いてたんだよ」
「………なにも、いらないです」
「蓬莱の豚まんとか、大阪限定スナックとか、さっちゃんが好きそうな食べ物がたくさんあるよ」
「お土産はいらないから、こっちに戻ってきたときには、またデートして」
「………誘うよ」
「青木さん」
「ん?」
「私、青木さんのこと好きです」
言っちゃった。
勢いで言っちゃった。
でも、ずっとそう言いたかったから、言えてよかった。
「………東北道最後のサービスエリアだ」
青木さんは穏やかな声でそう言うと、ウインカーを出してサービスエリアに入っていった。
建物からは離れた場所に車は停まった。
「………ちょっと話をしていい?」
エンジンを切って青木さんはそう言った。
「私も、青木さんと話したい」
何度か一緒にお酒を飲んだり、連絡を取り合ったりしてきたけど、ちゃんと自分の気持ちを伝えたのは、今日が初めてだから。
「さっちゃん、さっきの言葉、取り消して」
青木さんはそう言ってうなじをさすった。
「迷惑ですか?」
「違うよ。こういうことは、男が先に言うもんだから」
「そんなの、関係ないと思う」
「俺がそうしたいんだよ」
青木さんはうなじから手を離し、私の手を取った。
「俺、さっちゃんのこと好きだよ」
「………私が先に言ったのに」
「だから取り消してって言っただろ」
「取り消さない」
「意地っ張りだなぁ。諦めて『私も青木さんが好きです』って言い直して欲しいんだけどな」
「言わない」
「どうして」
「だって、私、ずっといろいろ悩んだんだもん。この間まで黒田さんのこと好きだって言ってたくせに、青木さんを好きだって言っても、軽いと思われるんじゃないかとか………藍沢さんみたいに思われるんじゃないかとか………」
「だから?」
「それでも、やっぱり青木さんのこと、好きになっちゃったから、悩むのはやめて、自分の気持ちに正直になろうって………」
「俺もさ」
青木さんは私の手を握っていた手に少し力を込めた。
「リョウちゃんのことは好きだった。いまでもいい人だと思う。俺だって、さっちゃんからあっちがダメならこっち、みたいに思われそうな気がしてた。でも、さっちゃんとリョウちゃんは違うんだよ」
「白井さんと張り合うつもりなんかないですよ。私から見ても、白井さんは素敵だもん」
「そういうとこが、さっちゃんのいいところだよな。肩肘張らないで、自然に頑張れるんだよ。俺は、そういうさっちゃんと、一緒にいたい」
「私、白井さんのことを好きな青木さんだから、青木さんを好きになったのかもしれない。誰かを好きになるって、いいことだもん」
「それはさっちゃんも同じだよ。黒ちゃんは本当にいい男だからな。さっちゃんは黒ちゃんが好きで、リョウちゃんに憧れて、仕事も頑張ってきたんだから。そういうさっちゃんを俺は好きになったんだ」
「………私、いつの間にか青木さんを好きになってた。なにかあると青木さんに会って話したくなってた」
「きっかけとか理由なんて、大抵後付けになるもんだよな。俺だっていつからさっちゃんのことを好きなのかって言われても、説明できない」
「それでいいと思う」
「そうだね」
「俺はそういうさっちゃんが好きだ」
「………私も、そういう青木さんが好き」
「俺さ、さっちゃんが元彼と会ったって聞いて、凄く焦ったんだ」
「私がいま好きなのは、青木さんだから」
「さっちゃんと、ずっと一緒にいたい」
「うん」
「なんか、不思議」
「不思議?」
「陸と……元彼と付き合わなかったら、最初の会社は辞めなかったから、派遣社員になることもなかった。派遣にならなかったら、A商事で働くこともなかったし、黒田さんとも、白井さんとも、青木さんとも会うことはなかったんだよね」
「そうだな」
「私は黒田さんに片思いしてたから、青木さんが白井さんに片思いしてることに気付いたの。他の人から見たら、なんでもないことばかりなのに、私にとっては、とても大事なことばかりだった」
「みんなそうやって生きてるんだよ」
「私、青木さんと会えて、よかった」
「沙知」
「………なんか、照れる」
「やめようか」
「ううん。嬉しい」
「沙知」
「青木さん」
「それ、なんとかならないの?」
「慎ちゃん………とは呼べないなぁ」
「慎一さん、じゃ長いし、他人行儀だしな。呼び捨てでいいよ」
「もっと無理」
「なんかいい呼び方、考えてみてよ」
「うーん、困ったなぁ」
「ゆっくりでいいよ。先は長いんだから」
「………そう、だね」
「ずっと一緒にいてくれるんだろ?」
「うん。一緒にいさせて」
「俺も沙知も、遠回り人生だったんだ。いまさら焦ることもないだろう?」
「うん。私………」
「ん?」
「幸せ」
「まだ早いよ。これから俺が沙知をもっと幸せにするから」
「私も、………青木さんを幸せにしたい」
「側にいてくれるだけで、いいよ」
「うん」
嫌なことがあると、ため息つきながら、やり過ごしてきた。
失恋も、仕事も、そうやってきた。
気がついたらとっくに30歳が過ぎてて、女の子って呼ばれる年齢じゃなくなってた。
それでも、私は青木さんを好きになった。
青木さんも、私を好きだと言ってくれた。
ずっと、幸せになりたかった。
傷ついても、諦めても、誰かを好きになることをやめられなかった。
運命。
そんな言葉を信じることができたのは、夢見がちだった、子どものころだけ。
それでも、いま私は、またそんなことを信じたいと思ってる。
青木さんと出会うために、いままで生きてきた。
いままでがあるから、いまの私がいる。
いままでがある、青木さんが好き。
青木さんが好き。
もう、ため息なんかつかないで、青木さんをもっともっと。
ずっと。
好きでいたい。
青木さんの側にいたい。
青木さんは1ヶ月の予定で大阪へいった。
忙しいみたいだけど、毎晩連絡をくれる。
いままでLINEはやらなかった青木さんが、私と連絡を取るためにIDを登録してくれた。
2週目の週末には、仕事で一旦帰ってきて、私も会うことができた。
「ねー赤城さん、青木さん大阪に転勤になったってホント?」
例によってランチに誘ってきた藍沢さんから、ファミレスでそう聞いてきた。
「転勤じゃないけど。来月には帰ってくるって」
取りあえず嘘をついても仕方ないから、そう答えた。
「あ、そうだったの?なぁんだ、転勤になっちゃったんなら、遊びにいこうかなー、って思ってたのに。まだUSJ、いったことないから、連れてってもらおうと思ったのに」
………おいおい。
「あ、そうだ。青木さんから藍沢さんに言付かったものがあるんだ」
「えっ、なになに?」
私は青木さんから預かった袋を藍沢さんに渡した。
「………なにこれ」
藍沢さんが嬉しそうに開けた袋からは、「ちっちゃいおっさん」のぬいぐるみストラップが出てきた。
「青木さんが、藍沢さんによく似てて可愛いから買ってきた、って言ってた」
「えっ、可愛いって?………でも、これ、おっさんなんだけど」
藍沢さんはちっちゃいおっさんの顔をしげしげと見つめながら、珍しく考え込んでしまった。
ホントは青木さんはそんなことは言ってない。
大阪で後輩と飲んだときに、ゲームセンターでUFOキャッチャーをやったら取れたと言ってた。「藍沢さんにでもあげて」と言っていたのはホントだけど。
藍沢さんにはいろいろやられっ放しだから、ちょっとだけ仕返し。
〜7年後〜
「白井さん……あ、もう黒田さんだった、幸せそうだったね」
「会社では旧姓のままでいくらしいよ」
「X機材の歩くカタログだもんね」
「定年まで働くんだって、前から宣言してるからな」
「黒田さん、本当に白井さんちの娘さんたちが成人するまで待ったんだね」
「一途だよな」
「娘さんたちが許してくれてよかったね」
「披露宴やれ、って言ったんだけど、2人とも嫌がってさ。そんで仲間内でパーティーだけでもって、ほとんど無理矢理引っ張り出した」
「それでも、白井さん、幸せそうだったからよかった」
「そうだな」
「慎さん」
「なに?」
「私も幸せだよ」
「………そうだな。俺も幸せだよ」
「今日は邪魔者がいないから、こうやって手も繋げるしね」
「そうだ、奈緒が寂しがってるだろうから早く帰ろう」
「今日はジジババのとこにお泊まりしたいから、迎えにこないでって奈緒が言ってたよ」
「え」
「慎さん、ショックですね」
「3歳にもなると、しっかりしてるんだなぁ」
「たまには2人でゆっくりしよ?」
「そうだな」
「久しぶりに飲みに行こう!」
「そうするか」
「たまにはラブラブで」
「いつもは違うみたいなこと言うなよなー」
「気分だって」
「はいはい、『さっちゃん』」
「あー、それ新鮮!じゃあ私も昔みたいに『青木さん』」
「家で言うなよ。奈緒、すぐ真似するから」
「はい、『青木さん』」
「じゃあ『さっちゃん』駅に着くまでに店決めてね」
「はい、『青木さん』」
☆☆☆了☆☆☆
「ため息はつかない!」完結です。
最後までお付き合いくださった方、ありがとうございました。
よろしかったらご感想をお願いします
( ´ ▽ ` )ノ
【感想スレ】
http://mikle.jp/threadres/2145612/
短編ですが、藍沢さん主人公でスピンオフ始めました。
ムカつくかもしれませんが(笑)、お暇つぶしによろしかったらお読みください。
「ある日の藍沢みき」
http://mikle.jp/threadres/2163451/
スピンオフ第二弾として、黒田さんが若い頃のお話を始めました。
よろしかったらお付き合いください(^-^)
「黒と白のグラデーション」
http://mikle.jp/threadres/2167443/
新しいレスの受付は終了しました
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