二人のブルー・ボード
微妙に距離がある、陶子と石川和也。
つながりたいけどつながらない、この関係性の、行きつく先は、どこ…?
陶子はといえば、毎日、石川の姿を見るために出社しているようなものだった。
なんとなく勤めはじめて、はや10年近く。同期の女の子たちが、どんどん新しい職場や、結婚生活へと新天地を求めて退社していく中、はっ、と気がついたら、自分は新入社員と同じ仕事をしていたりする…… 年は上なのに。
まるでぬるま湯のような会社での居心地のよさが、体質的にも合っているのか、なかなか、抜け出ることができない。
( なにか…なにかが、足りないのよね、今の私の現状。変化とか、刺激とか? あー、でも、もう恋愛でゴタゴタするのも、いいかげんめんどくさいしなあ… )
そう思い続けていた矢先、石川和也の登場である。
( これはきっと、この人と出会うために、今まで辞める決定的なきっかけがなかったにちがいない。何か、運命の大きな力が、はたらいているんだわ )と、思う。
出社する時も、丁寧に、メイクに気合いを入れ、肩まで伸びた髪を内巻きにブロウして、「今シーズンのトレンド!」のアクセサリーや服に身を包み、なるだけ若い子と違和感がないようにナチュラルにふるまう。
( そういえば、学生の頃は、憧れの人のクラスの前を通る日なんか、こんな感じでおしゃれして登校したなぁ…‥ )
しかし、今現在、陶子と石川の年齢の差は、どうみても3、4才、いや、4、5才は、ひらいている。
相手は、社内のひそかなアイドルなのだ。
「あーあ、あと、5年遅く生まれてくればよかったなぁ…‥ 」
パソコンを打つ手を止め、ため息まじりにつぶやくと、
「えっ? 何? 株でもやってるの?」と、同僚の男性が尋ねてくる。
「は? ……あ、何でもない。ちょっと疲れて、ひとり言がでちゃっただけ」
「そう? 売れ筋情報とかさ、わかったら教えてね」
とりあえず、仕事の続きをこなし、ふと、パソコンの画面から目をはなして、それぞれのデスクで、それぞれの仕事をこなしている女子社員を、ぼんやり見つめる。
ブランド風のスーツを着た男子社員たちにまぎれて、つやつやした髪をきれいに結いあげた子、ゆるくウェーブのかかった髪を、小さなエルメス風のハンカチで束ねている子‥…
いちおう、制服はないのだが、みんな、ファッション雑誌から切り抜いたような、控えめなスーツを着ている。
しかし、どんな服を着ても、「若さ」というのは、それだけで、ちょっとがんばれば、かわいくきれいにまとまってしまう。
ざわめく社員食堂で、陶子たちは、4人掛けのテーブルで、コロッケ定食やらサバ味噌定食やらをそれぞれ食べている。
「そんなことできるわけないわよぉ」
「ね、彼って、独身でしょ?」
「当たり前じゃない。まだ大学出て2、3年じゃないの?」
「そうね… でも、恋愛は、年なんて関係ないわよね」
何気なくそう言ってお吸い物を口にした陶子に、あとの3人が、いっせいに箸を止め、表情をこわばらせた。
「ちょっと、陶子、彼に、ひとめぼれなんてしてない‥… わよね?」
「この間飲みに行った時、当分仕事に生きるって言ってたじゃない」
「あの手のタイプは、年上なんて相手にしないわよ」
「いや、あの、別に、あくまでも、一般論よ、一般論」
それぞれしばらくお茶を飲んだりソースを取ったりして黙り込んでいたが、やがて、陶子のとなりの女子社員が、向き直ってしみじみと言う。
「陶子、たしかに恋愛は自由よ。私たちも反対しない。でもね、人には、身の丈を知るっていうのが必要な時もあるのよ」
「……は?」
「アイドル君と、お局(つぼね)様候補は、しょせん、会社を出れば、他人よ、他人」
その言葉にショックを受ける陶子。あとの2人も、神妙な顔つきでうなずいている。
「お局様って… いつの時代の言葉よ?」
「私たちはね、しょせん会社の日影に咲く、あだ花。幸せになろうなんて思っちゃ、ダメよ」
「ちょっと、あんた、時代劇の見すぎじゃない?」
食堂のあちこちから、食器の重なりあう音が聞こえ、洗い場のカウンターに、トレイをかかえた人々が集まり始める。
「ま、とにかく、石川君の情報がわかったら、教えてね♡」
「そうだ、陶子に探ってもらえばいいじゃない、好きな女の子のタイプとか。そーいうの、得意でしょ?」
それぞれが、勝手なことを言って、席を立ちはじめる。
テーブルに残された陶子は、このあいだのコピー機の前での石川の怪訝な表情と視線を思い出し、
( ……そんな簡単には、いかないと思うけどな… )
と、箸を置く。
それからしばらくは、会議で決定した新しい企画の準備で、あわただしい日々が続いた。
石川も、すっかり男子社員の中にまぎれ、そつなく仕事の業務をこなしている。
「お昼休みも、時間がズレ込んだみたいね… 私なんか、こういう時間帯に食べるの、慣れてるけど。仕事の段取りが悪いのかなあ…
あ、でも、石川君は、もう、バリバリだもんね、なんか、部長からも、頼りにされてるしさ」
話しながら、陶子は、かなりあせっていた。そういう時は、いつも口が勝手に動き、何をしゃべってるか、わけがわからなくなってくる。
石川は、無表情で、ご飯を食べ、陶子の顔を見つめ、
「僕は、新人ですから」と、言った。
ななめに向かいあって、あらためて目を見ると、石川の顔は、年若いのに均整のとれた迫力のようなものがあり、思わず陶子は、圧倒されてしまった。
何を言っていいのかわからなくなり、でも先輩として、何かいろいろと話したいことがありそうな気持ちもあり、頭の中でぐるぐると思いをめぐらしているうちに、ななめ前の石川は、茶碗と、二本の箸を、トレイの上に置いた。
「お先に、失礼します」
そっけなく、席を立つ石川。
奥座敷のもうもうとした熱気の中で、できるだけカロリー控えめのウーロンハイや野菜サラダを中心に飲み食いしたものの、やはり、年とともに、酔いのまわるのは、はやいものだ。
「ねぇ… 陶子ぉ… そろそろ、ひきあげ時じゃない?」
同僚の女子社員が、盛り上がっている上司たちを横目に、そっと耳打ちする。
「そうね、タクシーも、つかまらなくなっちゃうよね、じゃ、今のうちに、抜け出そうか… 」
二人で抜き足、差し足、ストッキングに包んだ足で、無造作に放り投げられたスーツの上着の波をくぐり抜けていると、上司の一人が、
「おい! そこの二人! 君たち! 帰っちゃうのー!?」
と、大きな声をかけてきた。
「はい… 明日に、差し支えますので… 」
同僚が、愛想笑いでうまくごまかそうとすると、赤ら顔でやや巨体の上司が、缶チューハイを両手に一本ずつ持って、にこにこと近寄ってくる。
「はい、おみやげ。持って帰っちゃって!!」
「えっ… でも… 」陶子たちが、顔を見合わせているのにもかかわらず、上司は上機嫌で言う。
「いいから、いいから! 遠慮して、あんまり飲んでないでしょ? もー、無礼講だって言ってんのに、ヘンなところでひかえめなんだから。彼氏の部屋で飲んでもいいし、一人寝のナイトキャップでも… 」
「おーい、あんまりそんなこと言ってると、セクハラ裁判で訴えられるぞおっ」
「いやいや、これはね、おじさんの好意! やましい心は、一切、ないからね! 缶チューハイも、きれいでかわいいおねえさん方に飲んでもらったほうが、うれしいに決まってるって、なあ!?」
上司たちのあいだで、なんだかよくわからないが、笑い声と拍手がおきる。
「‥‥わかりました、じゃ、いただいて、帰ります!」
開きなおった陶子たちが、無理に笑顔を作り、やや巨体の上司から缶チューハイを受けとる。
「またねー、お疲れさまー」という声を後に、二人は、パンプスをはき、居酒屋の、のれんをくぐった。
道路は、まだまだ車やタクシーの渋滞が続いている。
「陶子、これからどうする?」
「うーん、なんか、小腹が減ってるのよね…」
「私も。ちょっと、軽いもの食べて帰ろうか?」
ということで、目についたスイーツのお店で、それぞれフルーツパフェやプリンアラモードを食べることになった。
「ダイエット、いつからするの?」
「今度の企画が終了したら、とりあえず計画表作るけど」
「私もねー、パソコンに体重表打ち込んだはずなんだけど、もう取り出せないのよね」
ムダ話をしていると、テーブルの上の甘いものはすぐになくなってしまう。
「じゃあ、おつかれ! …‥ああ、そうだ、このチューハイ、あんたにあげるよ。私、飲まないから」
お店を出た後、同僚は、陶子に、金色の缶チューハイを押しつけた。
「なんで? もしかして、禁酒ダイエット?」
「それは難しいでしょ、つきあいがあるから。だから、とにかく、家では飲まないことにしたの。持ち込むのもダメ。みんなにも言っとかなきゃ、ついつい、冷蔵庫にたまっちゃうでしょ?」
「そうね。じゃ、いただいておくわ」
「それじゃね、明日、遅刻するなよぉ」と、笑いながら、同僚は、携帯電話をバックから取り出して、歩き出した。
ほろ酔いで歩いていると、パンプスのかかとが、まるで草原を歩いているように、ふわふわと舗道の上を踏みしめている。
「…‥え? あ、そっか、飲み会、出てなかったもんね、石川くん。デートの、待ち合わせ?」
「ちがいます」
「…‥そうよね、いろいろと忙しいよねぇ、仕事のあとも」
酔いがまわり、だんだんと、顔が赤くなっていくのがわかる。
陶子は、この場をどうやって切り抜けようか、ちょっとパニックになっていた。
ショルダーバックの肩ひもを外し、中を探ると、先ほどの缶チューハイが2本、指先にあたる。
「…‥これ、あげるよ、おえらいさんからもらったから、飲み会に出てない人がもらったほうがいいと思うし、石川くん、よく仕事してくれてるしさ、はい、どうぞ!!」
一緒、石川の表情がくずれ、あきらめたように、彼は、ドーナツの入ったトレイを、テーブルの片方に寄せた。
「米沢さんこそ、立ってないで、座って下さい」
陶子は、缶チューハイを両手に握りしめたまま、「じゃあ‥…」と、イスに座りこんだ。
石川は、シナモンのドーナツをナプキンに包み、なんでもない様子で、マグカップのコーヒーを手にとる。
店の中は、いろいろな人種の話し声や笑い声で、ジュークボックスのようにざわついている。
「コーヒーのおかわりは、いかがですか?」
いつのまにかそこにいる、ピンク色の制服を着た店員が、石川のカップを見つめる。
「いただきます」
石川がカップを持つと、茶髪のおさげ髪の店員は、サーバーからコーヒーを注ぎ込み、にっこりと、陶子に微笑みかけ、
「ご注文は? 何になさいますか?」
と、聞いてきた。
三者とも、テーブルの上の缶チューハイ2本を、できるだけ見ないようにしているのが、お互いに伝わってくる。
「じゃあ… ドーナツセットを‥…」
「AコースとBコースとありますが、どちらになさいます?」
茶髪のおさげ髪の店員は、あいかわらずにっこりと微笑んでいる。
「…Aコースで、お願いします」
店員は「Aコースですね」と復唱し、サーバーをかかえて、かろやかに立ち去っていった。
「あの…‥ 」
陶子は、上目ずかいに、石川の顔色をうかがいながら、聞く。
「私って、ここにいていいの?」
「……は?」
今度は石川が、よくわからない、という感じの、驚いた表情になった。
「だって、こんな時間にこういう所にいるって、誰か待ってるんでしょ? 私、ドーナツ食べたら、すぐ帰るから… 」
「待ってるのは、人じゃなくて、バスです」
「バス?」
「はい、お待たせしました、Aコースのセット、お持ちしました」
いきなり、先ほどのおさげ髪の店員が、トレイにドーナツやらマグカップやらシュガーやらシロップなどをのせて、二人のテーブルにやってきた。
会話を中断された陶子と石川は、店員がピンク色のスカートをなびかせて立ち去ったあと、とりあえずお皿の上のドーナツを食べることにした。
「…‥バスって、石川くん、バスで通ってるの?」
「はい。この時間帯はすいてるし、料金も安いんです」
「ふうん。そうなの。残業の日は、たいていタクシーで帰るから、知らなかった」
「米沢さんは、ご自宅はどちら方面なんですか?」
陶子は、カップの中のコーヒーを飲みかけて、思わず口をつぐんだ。
初めて、石川のほうから質問してくれた。
「私は、東回りなんだけど… 中央線で行くと速いんだよね。今は、一応、都内に住んでて、最近できた新興住宅街の公団にいるんだけどね」
「よかったら」
石川は、ナプキンで手をぬぐい、アタッシュケースの中から小冊子を取り出した。
「これ、あげますよ。バスの路線図です。残業で遅くなった時は、バス使ったほうがいいと思いますよ」
陶子は、思わずカップを置いて、小冊子を受け取った。
「へぇ… ありがとう、じゃ、いただきます」
石川は、また、少しだけ表情をくずした。
「ところで」
二人のテーブルの上には、食べかけのドーナツや、シロップのカラや、ナプキンが散乱している。
「この缶チューハイ、どうするんですか?」
「……米沢さん、ほんとに、大丈夫ですか?」
深夜の舗道。陶子のパンプスの不規則なかかとの音と、時おり通り過ぎる車の排気音が、あたりにこだましている。
「大丈夫! もうちょっと歩こうよ、バスに乗り遅れたら大変だから、今日は、私が、石川くんをバス停まで送ってあげる!」
ドーナツショップで缶チューハイはあけなかったものの、お店のメニューにカクテル系があったのがいけなかった。
時間つぶしにかるくリキュールサワーを飲んだつもりが、陶子は、完全に、酔っぱらった状態になってしまった。
「ごめんねぇ、今日は、愚痴ばかり聞かせちゃって… もう、忘れて! 明日から、またしっかり仕事するからさぁ」
「いや、僕はいいんですけど、ちゃんと家に帰れるんですか?」
「あ、いいのよ、別に。私、帰巣本能があるから。ほっといても、ちゃんと不思議に帰りついてるのよねぇー、いつのまにか」
二人の歩くリズムに合わせて、携帯の着信音がテンポよく流れてくる。
歩きながら、石川が携帯を開いて、しばらく黙って、また閉じた。
「時間、間に合う?」
「はい。あと3、40分はあります。米沢さん、もうこのへんで戻っていいんですよ」
「いいよー、ついでだから。どうせコンビニのおにぎりでも買って帰るだけだし、バスの停留所まで行きたいし!……あー、そういえば、新入社員の頃、よく寝過ごして、バスの終点まで行っちゃってたなあ~」
「ーーこんなふうに、つながってるのかあ。今度、家に帰る時に、乗って見ようかな」
陶子が路線図をたどっていると、石川がやってきて、青いイスに座った。
「石川くん、会社にもう慣れた?」
話しかけながら、陶子も、黄色いイスに座る。
「はい」
「家とか、ちゃんと連絡してる? 家族の人とか、元気?」
「ええ。来年は、弟の受験があるから、たぶん家中、受験モードに入ってます」
「ああ、そうよねえ、うちもそうだった。うちの弟もさあ、一浪した時は大変だったけど、でもちゃんと次の年がんばっていい所に入ってね、妹もねえ、婚約者と結婚するのやらしないのやら、もう2、3年かかってて、いろいろと両親も悩みの種がつきないらしいのよねぇ」
「そうですか」
「まあ、私のことは、どうでもいいんだけどさ、石川くん、エリート社員だもんね。学生時代も、成績良かったんでしょう?」
「いいえ… そんな、優等生じゃなかったです」
「そう? 何か、部活とかしてたの?」
石川は、少し黙って、イスの上で背中を丸めて前かがみになった。
「いろいろ、やってました。アルバイトとかもしてたし。同級生と一緒に、文化部の手伝いもやってて、けっこう楽しかったです」
「あ、私もやってた。一年くらい、お料理クラブに入ってたな。なんか、続かなくて、途中でやめちゃったけどねぇ」
陶子は、バックの中から缶チューハイを取り出し、プルタブを引いた。
「僕は、なんでも屋みたいな事、いろいろ引き受けてました。茶道部でお茶会がある時は、倉庫から道具を引っ張り出してきたり、華道部で展示がある時は、それぞれの花にかける水の確保とか… おかげで、女の子たちとも、だいぶ仲良くなって、彼女もできたんですよ。
でも、いろいろ、トラブルもあって、こっちもそのころは要領悪かったし、うまく対処できなかったですね」
「トラブル?」
「はい」
「はい。段取りが悪くて、少し、入り口の丈が足りないのに、無理してギリギリの空間に押し込んで、それが、展示品に当たっちゃって…
最悪でした。みんなの作品が、めちゃくちゃになって。
不幸中の幸いというか、ほとんどはスケッチ画だったんで、同級生の分は間に合わせで描き直してもらったりしたんですけど、中に、数点、高価な素材の作品があって‥‥
いろんな人に、迷惑かけました。しまいには、自分の親のことまで、悪く言われちゃって。オヤジの車で搬入してもらったんです、パネル。
まあ、いろいろ世話になった仲間には、後であやまって、卒業文集とかにもボロクソに書かれて、それで済んだような感じですけど、ちょっとゴタゴタしていた時、別れた彼女とか、その友達たちからも文句言われたのが、さすがに、こたえましたね。僕も、まだその頃は、ガキだったし」
缶チューハイを持った陶子の手が、ふるえだした。
「…‥そんな、ひどいよ、そんなこと、別に、石川くん、悪くないじゃない、ただ一生けんめい、がんばってただけじゃない、何も、失敗しようと思って失敗したわけじゃないんだもん、人間誰でも、トラブルの一つや二つ、あるわよお、それを悪く言うこと、ないじゃないー……」
ポロポロと、陶子の目から、涙があふれだした。
石川は、黙って、横目で、泣き出す陶子を見ている。
「石川くん、悪いことなんてしてないよお、がんばって、搬入してたんでしょう? パネルが倒れて、あやまったんでしょう? それでも許してくれないんだったら、もう、しかたないじゃない── 」
ついに陶子は、イスからくずれおち、停留所のコンクリートにひざをついて座り込んだ。
「…‥米沢さん、こんなところで、泣き出さないで下さい」
「私、私だって、今まで一生けんめい、ここまで仕事してきたんだよ。それこそ、誰もやらないような残業だって引き受けて、朝だって、通勤ラッシュの時間帯にシフト組んで、具合が悪くなったってがんばってきたんだよ。そんな、一生けんめいやってきたことで、人からどうこう言われる筋合いは、ないわよぉー…‥ 」
石川は、イスの上で脚を組みかえ、手つかずの缶チューハイを右手で持ち上げた。
陶子は、座り込んだまま、泣き続けている。
「米沢さん」
石川が呼びかけても、かまわず、陶子は缶チューハイを頬にあてて、メイクが流れ落ちるのも気にせず、涙をボロボロ流している。
「米沢さん」
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
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