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乳~転落~(再)

レス72 HIT数 36159 あ+ あ-

かなかな( ♀ iQ3Eh )
11/12/01 21:28(更新日時)

2年半前に
「乳~転落」というタイトルで書いていました。

実生活にとらわれ、途中で立ち消えてしまった初めての小説

少しずつ書ける精神状態に戻ってきました。

やっとの再筆。
過去スレが古過ぎて、加筆出来ない為、新規スレ立たせて頂きます。すみません。

また、ご感想スレも同時に立ち上げました

感想スレ「乳~転落~(再)」です
タグ
不倫・崩壊・出会い系

どうぞ気長に よろしくお願いします🙇

No.1701938 11/11/09 21:42(スレ作成日時)

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No.1 11/11/09 21:45
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C1


風呂場から 楽しそうな親子の声が聞こえる。


「パパの負けでしょ?」


「そうかぁ?」


大きな水シブキと笑い声


「きゃあ はっはっはっ」


「やったなあ」


きっと、娘がいつものどっちにはいってるかゲームに勝って、夫にお風呂のお湯を顔にでもかけたのだろう。

深夜帰宅の主人が唯一父親らしく感じる瞬間。

何ヶ月ぶりかの幸せな音。

いいえ、音だった。

No.2 11/11/09 21:50
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C2


今は、自分の泣き声が漏れ聞こえないようにすることに集中している。

口を押さえている左手が、オエツを辛うじて、幸せな笑い声を壊さない壁になっている。

その壁が、ブルブルと震えて崩れそうだ。


自宅マンションのトイレ。

小百合は衣服を下ろさず、トイレ蓋の上に座って、右手に握る夫の白い携帯電話に映し出された映像を凝視していた。


その映像とともに、周囲が次第に鈍く濁り、小百合は、自分がいる場所と時間を失っていった。

No.3 11/11/09 21:52
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C3


チュル ジュバ ヂュルッ


マナーモードでなければ、絶対にそんなヒワイな音が聞こえているに違いない。

先に緩かなパーマがかかったロングヘアの女が、時折髪をかきあげ、顔を見せながら、肌色のとがったモノを口に含み上下している。

上目遣いで画面を見上げたその瞳の奥に、何処か小悪魔的な物があるのを小百合の女の直感が伝えた。

No.4 11/11/09 21:56
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C4


初めて見た唾液で光る男性局部、それを口に含む女。

あまりの生々しさに、小百合は急に吐気をもよおし、急いで便座を上げた。

オエッと何度も繰り返した。

ただ、胃液は逆流しているのに、何も出て来なかった。

涙と鼻水が、便器の中に垂れて汚物を受け入れる便器と小百合とを繋いだ。


小百合は、自分が何か汚い部類に属してしまったように感じて、ペーパーで拭う事ができなかった。

No.5 11/11/09 22:02
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C5


自分でも、こんな姿になった事などない、女としても酷い姿だ。

開いた口からは、ヨダレと胃液が垂れ、丸めた背を擦る者はない。

止まらない涙だか鼻水だかわからない流動物も、便器に次から滴り落ち、数珠のように因縁めいて私と繋いで行く。


「ママー、上がりましたー」


突然、聞き慣れた可愛いらしい声が飛び込み、小百合は我にかえった。

No.6 11/11/09 22:04
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C6


「はーい、ちょっと待ってねー」


そう応えながら、夫の携帯の停止ボタンを押し、待受に戻ったのを確認し、そっと閉じた。


母性の反応なのか、顔も心もぐちゃぐちゃなのに、いつもと変わらない明るい元気な返事を冷静にした事に、小百合自身も驚いていた。

No.7 11/11/09 22:14
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C7


顔をペーパーで拭った。

赤くならないように。

でも、見てしまった汚れたものも一緒に拭き取れるように。

完全に涙と鼻水と胃液を拭った。

あの不潔な映像も汚物として流せるような気がした。

何度もトイレのレバーを引いていた。

急がなきゃ、あの子が風邪ひいちゃう。


思考が再び母に切り替わった。

トイレから出ると、汗や脂の跡がつく程強く握っていた、あの映像を抱えた夫の携帯電話を、そっと、玄関横のいつもの定位置に戻した。

急いで用意しておいたバスタオルを胸に、風呂場へ向かう。



いつもは心地良い太陽の匂いを放つバスタオルが、突然胸やけがするドブの匂いに変わったように感じた。

No.8 11/11/09 22:20
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C8


色白でぽっちゃりした3歳の娘の体を拭きながら、小百合は激しく後悔した。

家族を裏切り、あんな行為をしていた夫と、娘を一緒に、しかも二人きりでお風呂に入れてしまっていた。


今まで、娘は変な事をされなかっただろうか。


ビデオの録画日はちょうど1年程前。

何回お風呂で二人きりにしてしまっただろう。

No.9 11/11/09 22:20
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C9


したくない妄想と、先ほどの吐気がする映像と娘の柔らかな白肌が三重にオーバーラップする。


何とかその幻影を振り払おうと、視線を娘の髪に移した。


女なら憧れる、ちょうど良いかかり具合の緩い天然のウェーブ。

天使。

小百合は、娘の濡れて輝く肩までの薄い髪をタオルで挟みこみ、一気に揉むようにタオルドライした。


「痛いよ、ママー」

はっとして、娘の顔を見下ろすと、怒ってヘの字に曲がった得意の眉が、小百合の顔を見た途端、驚きと悲しみが混在する形に横へ滑り落ちた。

No.10 11/11/09 22:22
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C10


「どうしたの?泣いてるの?」

「えっ、、、アクビがね、たくさん出た。宙音(そらね)ちゃん、眠くない?もう9時よ」


「ぜ~んぜんっ」


こんな嘘がまかり通るのも3歳児だからか。

比較的、歩き始めるのも、言葉も早かった宙音(そらね)は、時々、真理をつくような台詞を吐き、周囲を驚かせる事がある。

彼女にだけは悟られないように注意しなきゃ。

No.11 11/11/09 22:25
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C11


いつものようにはしゃぐ娘を追い掛けながらパジャマを着せる。


歯磨き、トイレ、寝る前の仕事を一通りこなしていたが、輝く娘の笑顔の手前に、透けて揺れるスクリーンが現れる。


あの女の目と、吐気のする光景が繰り返し映し出されたまま消えてくれない。

No.12 11/11/09 22:28
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C12


1時間かけて、寝かしつけた娘の頭の下に伸ばした左腕をそぅっと抜く。

体を半回転して、ベッドから音を立てずに滑り降りた。


もう9月が終わる。


フローリングの床が、今日初めて冷たく感じた。

頭では何も考えられないのに、妙に感覚だけが澄まされている。


廊下に出ると、リビングから、テレビの音が聞こえて来た。

No.13 11/11/09 22:45
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C13


まただ。

夫は、私に隠れて必ず日本酒の700mlパックを一つ呑んでから寝る。


夜中にテレビの音に気付いてリビングへ行く度、電気、エアコンはかかったまま、何も掛けずに、ソファで大イビキをかいている。

今夜もまたソファで大イビキ。今日はまだ、お風呂に入っているだけまし。

No.14 11/11/09 22:55
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C14


夫と寝室を別にして何年だろう。

風呂に入らず布団に潜り込む癖のある夫は、他人よりも鼻が効く小百合には、辛かった。


つわり中に、炊飯器をベランダに出したエピソードは笑い話にしていたが、夫の臭いとイビキは、つわりが酷かった小百合に、寝室を別にする以外の選択肢を思い浮かばせなかった。


この臭いが原因で寝室を別にした事が、まさかあんな事に繋がるなんて。

昼メロの中の出来事でしかなかった事が自分に起きるなんて想像さえしなかった。

No.15 11/11/09 23:00
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C15


いつもなら、ソファで寝る夫を見つけると

「起きて!」

「全部つけっぱなしでもったいないわ」

「またお風呂入らないで寝ちゃうの」

「どうして、お風呂入る前にお酒飲んじゃうのよ!」

とヒステリックに叫んでいる。

結婚当初は、優しく声を掛け、身体の大きい夫の汗を蒸しタオルで拭き、パジャマに着替えさせたりもしていたが、さすがに毎日、赤ちゃんが産まれてから、そんな気持ちの余裕も、朝までの電気代を大目に見る金銭的余裕もなくなっていった。

結果、「はい、はい、わかった」と生返事で、そのままソファでもあれば、布団に潜り込む時もあったが……

しかし、今夜だけは、小百合は何も言わず、点いている電気もそのままで、出来る限り音を立てずに注意した。

No.16 11/11/09 23:02
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C16


娘の寝息だけが存在する真っ暗な寝室へ戻り、手探りで、クローゼットの中から、ジーンズとジャケットを引っ張り出した。

暗闇の中で、ベルトを閉めるカチャカチャとした音にさえビクつき気を遣った。


もう一度、リビングを覗き、夫が寝ているのを確かめると、バッグに夫の携帯を忍ばせ、音を立てないよう、いつもより10倍は時間をかけて、玄関のドアを開閉し、外へ出た。

No.17 11/11/09 23:11
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C17


生温かい夜風が全身を包んだ。
夏から秋へ変わろうとする意思さえ感じられる星達。


携帯を開き時間を確認した。

23時20分


都内でも有数の高級住宅街。

日曜日だからなのか、ひっそりと、一つの人影もない。

子供を産んで、こんな時間に外出するなんて初めてじゃないだろうか?

空音は、夜中によく目を覚ました。

3歳になって、やっと1回には減ったが、それまでは平均5回は夜泣きをした。

だっこやおっぱいで騙し騙し寝かしつけては、気付けば朝という毎日だった。


しかし、一人の時間を満喫する余裕は、今の小百合にはない。

子乗せシートが前についたママチャリをそっと押して、〈起きないでいてね、空音ちゃん〉と心で呟き、真夜中の街に漕ぎ出した。


No.18 11/11/09 23:13
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C18


小百合は、じめっとした夜を自転車で、ひたすら走り続けた。

行き先なんて決めていない。


ただ、見られたくないという心理からか、駅とは反対方向へ、ひたすらペダルを踏んでいた。

重い。


漕げば漕ぐほど、動けば沈む底無し沼のように、ペダルは一足毎に重くなって行く。

知っている道はここだけだ。

娘の幼稚園プレスクールのあるバス通り。

人には見られたくない。

でも、全く人通りのない道は怖い。

小百合は東京へ出てきて18年になっていたが、まだ一人でカフェにも入った事がなかった。


何だか気恥ずかしいのだ。

好奇心旺盛だが、基本、他人の目をかなり気にする臆病で、自信のない田舎者。

小百合は誰にも言わないが、自分をそう分析していた。

No.19 11/11/09 23:34
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C19


どこへ行こう?

この先には大きな公園。


でも、一人にはなれるけれど、夜中に女一人がいるには危険過ぎる場所。


昼間の顔しか知らない。


子供といつも行動を供にしていると、思い付く場所にも限りがあった。


この時間に私が安心していられる場所、、、


あぁっ、この先のビデオレンタル!


あそこなら!


そう思った時、50m程先にぽっかりと空いた暗闇を見つけた。

ここ……

ここがいい……。

No.20 11/11/09 23:36
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C20


ここがいい……。


そう瞬間的に思って、バス通り沿いの店舗駐輪場に自転車を停めた。


高級住宅街の真ん中に、最近出現した100円ショップ。


元々は、主に高級住宅街にしか店舗を置かない高級スーパーだった。


何度も名前は変わっていたが、入れ替わりでブランドスーパーが入っては消えて行った。


しかし、今年になって、対極の安さが売りの100円ショップに生まれ変わったのだ。


閉店した店舗に灯りはなく、ぽっかりとそこにだけ、大きな暗闇を作っていた。


今の自分は、明るい蛍光灯の下なんて不似合い、この暗闇位がしっくりくる、そう感じていた。

No.21 11/11/09 23:39
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C21


とにかく、もう一度、早く携帯の中身を確認しなくちゃ。


目の前のバス通りを走る車からは、顔を確認出来ないだろうという暗さの所まで建物に近付いた。


一層の暗闇に身を置く。


ちょうど駐輪場と歩道を分けるの植え込みのレンガが膝の高さに立ち上がっていた。


時折、広角にした車のヘッドライトが花を囲むレンガをドス黒く浮かび上がらせた物体は、この世に貫ける物などないかのごとく、硬く冷たそうに見えた。

導かれるように、そこへ腰を下ろす。


メール、メール!

メールを確認しなくちゃ。



No.22 11/11/09 23:59
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C22


[受信トレイ]


見つけた!


上から順に開く。


これは……会社の人


これは、レンタルビデオのメルマガ・・・


ん?


アルファベットの羅列メアド


==========
おはようございます。
昨日は寝てしまってました・・・
私が思ってたのが正常位じゃなかったんですか?
正常位はまた違うの?
ちょうどポイントにハマると、とても感度が増す・・・というのはGスポットの事?
これも良く意味がわかりませんが・・・
完全無料XXXで遊ぼ
==========


何これ?


出会い系って事?


何の話?


No.23 11/11/10 00:07
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C23


次……は……


暫く会社絡みの堅いメールが続いた。


やっぱり出会い系から、かなり来てる。


こんなに色んな女と?メールするわけ?


ポイントって何?



次の
nyantomoって?

==========
今着きました✨
母の🏠の猫に餌あげに寄っていました😉
昨日話せて逢う事が出来て良かったです・・・
やっぱり眠いね💦祐一郎も早く寝てまた一週間頑張ってね(*^_^*)
==========


この女!


泊ってる!


絵文字の多いメール、


祐一郎って呼び捨てにして!


小百合の女の直感が、頭に響く鈍い鐘を鳴らせた。


知らずに、いつもの上品な口調も口汚くなっていた。


いつよ?


8月21日って、、、あの日!


事前に主人も顔馴染みにしておいた、私の友人家族が一緒に夏休みをって旅行した日じゃない!


あちらのご主人は、男同志で飲むのを楽しみにしてるから、って伝えてあった。


夫も楽しみにしていた。


何よりお酒が好きなあの人が、急に仕事だからって、東京へ戻って行った。

夫も楽しみにしていた。


子連れの海水浴も、私一人に任せて。


あの日、あの人はこの女と……


そう……そういう理由だったの……



No.24 11/11/10 00:11
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C24


小百合の中で疑惑が確信に変わった。


湯気で曇った鏡を、タオルで拭った時のように、はっきりと視界が・・・焦点が合い始めた。


しかし、見え始めた鏡に映っていたのは、清楚で色白、いつも微笑みをたたえた上品な小百合ではなく、同じ髪型、同じ化粧だが、眉は吊り上がり、鬼のような形相で、鼻に皺を寄せ、涙をいっぱいに溜めた赤黒い顔をした見たことのない女だった。

また


nyantomoからだ

============
はい 待ってるね
==========


待ち合わせ?


どんな女なの?


動画で、夫のモノをクワえていたあの女?


No.26 11/11/10 13:37
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C25


鬼!?

小百合が座る駐輪場前の道路を走る車からは、きっとそう見えたに違いない。


携帯を睨みつけ、凝固している赤黒い鬼。


携帯画面から発する鈍い明かりが、自分の顔にスポットライトを当てているなど思いもよらなかった。


不倫という血生ぐさい証拠を探す鬼の形相。

やっと探した暗闇が、逆に、ハッキリと顔を浮かばせていた。

そんな事まで、今の小百合には気が回らなかった。

必死で、夫の携帯の受信フォルダから、裏切りの証拠を探す。

違う、

違う、

これは?

これは?



2時間前

夫が娘とお風呂に入っている間、畳んだ洗濯物を抱え、軽いハナ唄を歌いながら通った玄関。
今まで気にした事もなかった夫の携帯にふと、目がとまった。
誠実で優しそう

周囲から、口を揃えて言われる夫の印象は、お正月に集まる夫の親戚の中でも、皆がそう思っているのだと肌で感じていた。

夫の親族は、代々、皆、中学教師という家系。


どこか世間とズレているというか、小百合は、初めて夫家族と顔合わせにレストランへ出向いた時に、その違和感に触れた。


No.27 11/11/10 13:39
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C26


「はじめまして。」

その瞬間に、合わないっと感じた。

これから、義理の家族となる人達の放つ空気が、今まで自分が付き合ってきた人間とは異質のものだった。


学校を出て、社会には出ない。
すぐに学校へ戻る。

今度は権力を手にした教師として。

学生が、すぐに先生と呼ばれる事で生じる歪みなんだろうか。
どうしても小百合にはしっくり来なかった。

教職は取ったが、一般社会を知らずに生徒に何を伝えられるんだろうと、元来の反骨精神から、小百合は会社員の道へ進んだ人間だった。



夫は、何故か教師にはならず、教職さえとらなかったらしい。

しかし、そこは世間並の感覚が身につくわと、逆に小百合には好印象になっていた。


No.28 11/11/10 13:42
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C26-2


周囲が揃って、従兄弟までが教員の中、教師にならなかったにも関わらず、夫は、親族トップの厳しい祖母に、特別可愛がられていた。


[優しくてまじめな良い子]だと。


子供が産まれてみて、よくわかった。


とても外ヅラが良いのだ。


特に親族や家族に対して。


しかし、根は悪い事は絶対に出来ない。


妻や家族を裏切る不誠実さとは対極にいる人だと信じきっていた。


そう、ほんの数時間前までは。

だから、携帯も今まで見た事はないし、興味もなかった。

不安なんて想像した事もなかった。


娘から、公園でパパがビデオを撮ったと聞き、その動画が観たくて、夫の携帯を覗いただけだったのだ。


それが、目に飛込んで来たのは、私が観た事も、した事もないような、夫と見知らぬ女が、裸で乱舞する、激しい肉の臭いがしてきそうな、行為中の動く画だった。


No.29 11/11/10 13:50
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C27


==========
お久しぶりですm(__)m連絡ありがとうございます。なんとか、元気にしていますよ☆覚えていてくれたのですかぁ↓連絡なんて思ってもなかったので、メール入ってきたのでびっくりしました。
==========


サイトから?


文末に出会い系と思えるサイト名があった。



次は、また、あのnyantomoからだ。


==========
毎日遅くまで仕事大変だね😣お疲れ様でしたm(__)m
今日は、仕事から帰ってから体調が悪くて寝てたよ💤💦ここずっと風邪気味だから…
21:00からDVDを返しに行きがてら友達と少しだけ茶していまさっき帰宅したばかりよ🏠
メールの事は了解です😉
私もメール出来ない時は出来ないんだから気にしなくていいよ😃
毎日、蒸し暑いけどバテないようにね⚠
==========



この女は、夫に好意を持っている。

女の直感。


同姓だから解る相手を思いやる言い回し。


絵文字やデコメを使った事がない小百合は、この女の自分を可愛く見せようとする文面が大っ嫌いだ。


さっきから負の感情に支配されていた。


しかし、さらに大きな暗闇が小百合を呑み込もうと口を開けて待っている事には、気付くはずもなかった。


No.30 11/11/10 13:53
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C28


また別の女?

別の出会い系?

メアドが見た事ないドメイン

===========
13:10には間に合わないかもしれないので、13:30にしてもらえますか?
ワガママでゴメンなさい
m(__)m
あと、少し風邪気味なので咳が出てます。御了承下さいネm(__)m
良かったら直メしませんか?
==========


待ち合わせ?

この女とも会ったの?

次も・・・この女だ

==========
良かった(^^ゞ
八王子駅の南口でいいですか?
出来ればサマーランドでお願いしますm(__)m明日は平日なのでそんなに遅くはなれないので(^^ゞ
==========


もう麻痺して来た。

サマーランドなんて行った事ないよ。

家族でだって出掛けた事ないのに。

結婚してから、遊園地なんて行った事ない・・・・

まともなデートさえ・・・

そんな思考の中、右手の親指だけが、受信トレイの中を探して、せわしなくスクロールして動いていた。

これ以上見るより、夫が、この女達にどんな返事をしたのか。

どんな顔を見せているのか知りたい。

そう思った。


No.31 11/11/11 23:59
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C29



〔送信トレイ〕

どんなメールを


どんな言葉を


あなたは送ってたの?


夫の知らない一面。


向き合う勇気じゃなかった。


さっきからの出来事は真実なんかじゃないの。


そう優しい声で女神が否定してくれるような


ぼやけていても、確かな何かが、そこにあって欲しい。


だから開くのよ。


頭の中のもう1人の自分が言いきかせた。


私や会社とだけのやり取りだけ。

ねぇ、そうでしょ?祐一郎さん?


小さな小さな期待という名の無垢なクリスタル球……

出来たばかりの水晶玉は、小百合の色白で柔らかい手の中で、パリンと軽い音と共に薄く弾けた。


出会い系?

==========
返信が遅くなってごめんなさい!
帰ってきたよ。
今日は夕方に突然、割り込みの仕事が入ってきて、その対応をしていたから全然メール出来なくてごめんね。
夜も暑い。
今日はキンキンにエアコンさんに頑張ってもらうのだ(笑)
肩に脚を掛けるのは屈曲位という体位です。これについてはまたのちほど。
質問の膝を立てて開いた状態では、ということだけど挿入はできますよ。
微妙なニュアンスがわからないけど、この体制だとあまり男性は奥まで挿入しにくいかもね。
正常位みたくすれば、普通にできるとゆかさんはこの体制だと気持ちいいのかな?



No.32 11/11/12 00:02
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C30



さっきの屈曲位だけど、最初はビックリするかもね。そもそも体位というのは、二人が気持ちよく、かつ刺激的になれる形のこと。
だけど相手のことを思いやってしないと、返って苦痛になったり、ぎこちなくなって、せっかく盛り上がっていても、覚めてしまったりするから、普通の体位から始めたほうがいいかもね。屈曲位は正常位と比べても、おち○ち○が、女性のアソコに奥深く入りやすい体制だから、女性も気持ちよくなりやすいはずなんだけど、男性が上手くリードできないと、女性にかかる体重が増すからデリケートにしないといけないんだ。
ちょうどお互いのポイントにはまると、とても感度が増すと思います。ゆかさんには少しきつい体制だったのかもね。
==========



何これ・・・・・気持ち悪い。

私でさえイカせた事のない下手くそな男が、エッチの指導?


上から目線で、わかった口きいて、勘違いな事を偉そうに。


しかも、相手はさっき受信にあったエッチ初心者っぽいGスポットがどうとかって言ってたあの子だ。


ゆかっていうの?


あの子、多分きっと、まだ10代……最低……


No.33 11/11/12 00:34
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C31



また出会い系?

===========
まなみさん、こんばんは
はじめまして、ユウです。
渋谷区に住んでいる35歳171cm66kgです。
IT関係の仕事をしています。
最初なのでサブアドでごめんなさい。でも
冷やかしではないですよ。
まなみさんの書いている通り、仕事と家の往復は時にむなしくなりますよね。
まなみさんとお話してみたいですね。私は日本橋で仕事をしていて、今終わったところです。
楽しくメールしましょう。
お返事楽しみにしています。
==========


馬鹿だ 私って


こんな人を信じてた。


こうやって、毎日女を探してたの?

私が毎晩、ぐずる宙音を朝まで、抱っこして歩き回ったり、あやしたり、おっぱいしたりして必死でいた三年間に……



渋谷区って、私が住んでいた南条家のマンションじゃない。


よく遊びに来てたけど、あなたが住んでいた実家は区じゃなくて西の方のK市でしょ?

一体 何なの?

嘘までついて、自分を良く見せたいの?


そういえば、祐一郎は、住むなら、世田谷区や杉並区、渋谷区だと言って、新居を決める時にこの条件を譲らなかった。


小百合は 東京なら、どこでも一緒じゃない。


実家に近い沿線か、海のそばをリクエストしたが、即却下された。


どこだって 良いのに。

変なの。


東京生まれの人って こだわるのかしら。


その時は、その位にしか思わなかった。


さっきまで希望を抱かせた 冷静な別の小百合が、今考えなくても良い過去へ思考を飛ばし始めた。


No.34 11/11/12 00:41
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C32



違う。


頭を振って、小百合は、握っている夫の白い携帯画面に集中した。

今は薄汚い情事の把握。



次は……プレイ?


また・・別の・・・

出会い系へ

送ってる

==========
私のプレイとは… 例えば…

その1
亀甲縛りにして、その上に白のブラウス、ミニスカで外出。男に視姦してもらいます。男性店員のいる書店でS&Mスナイパーを購入させます。スタバのソファーで股を開きながらS&Mスナイパーを読ませます。部屋に戻って来たら股の具合をチェックします。ロープがイヤラシク濡れていたら、更にお仕置きします。

その2
ホテルの部屋で、目隠ししたままてソファーに放置。TVのアダルトチャンネルで音声だけ聴かせます。その後、女性を目隠ししたまま立たせて、私の手で服を一枚ずつ脱がせます。目隠しを取り、ソファーに座らせ女性の足首と太腿を縛り、M字にさせ、私の見ている前で、強制オナ○ー。イクことは禁じる。

その3
裸の女性の下半身をTバック状に縛り、目隠ししたままベッドに四つん這いにさせ、敏感な部分にローターを挿入し、放置。その後、無理矢理、口に私のモノを咥えさせ…
スパンキングとかローソクは全然興味無いので、例えばこんな感じです。
貴女には物足りないかもしれないけど。
===========



No.35 11/11/14 01:34
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C33



もう・・言葉が・・・吸い取られたように・・・


めくっても めくっても


白紙・・・白紙の・・辞書


知らない言葉


亀甲羅縛り?


S&Mスナイパー?


スパンキング?


でも、文脈から、だいたいは推測出来る。



SM



知らなかった夫の性癖・・・


こんな事がしたかったの?


こういう事に興奮するの?


でも、したいと告げたのは、他の女にだ。


大勢の他の女に。


私だって、昔の彼に、側にあったタオルで目隠しされて、興奮した。


上に乗せられ、手を後ろ手に縛られて、いつもより声があがった。


後ろから突かれたまま、カーテンを開けられて、恥ずかしさに濡れた。


でも、今の夫から、そんな匂いも、感覚も、感じた事がなかった。


いつも、同じパターン。


全然気持ち良くない。


私の反応ばかり気にして。


イク演技ばかり上手くなった。

私が、イケなかった原因は、わかってたけれど・・・


それは言えない。


言ってはいけない。



No.36 11/11/14 01:42
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C34



もう疑いはない。


これ以上見なくても、浮気は確実。


後は、写真・・・


見つけた。


[写真フォルダ]には、愛らしい娘の笑顔の間に、裸の女の局部のアップがあった。


アソコに毛がない。


セミロングの目がパッチリした女の顔のアップ。


そんな写真の間に公園の木の枝に立っている娘。


そして、、、キス写真。


夫と女。



アップでキスしている自分達を撮ったのだろうか。



どこまで、私を。。。



小百合は夫のキスが嫌いだった。


ムードがないというか、唇を尖らせて向かって来る。



そんな夫のダサいキスなのに、うっとりした女の表情(かお)。


満足そうな夫の横顔。


さっきの写真とはまた違う女だ。



何枚もある夫の裸の写真。



アソコを反り立たせている。


くっきりと判別できる横顔なのに、ご丁寧にセピア加工やモノクロで、アートを気取っている。


でも、アレを立たせてる裸の写真。


あぁ、また、気持ちが悪くなって来た。


No.37 11/11/15 20:19
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C35



生臭い気持ち悪さ。


一旦、夫の白い携帯を閉じた。


人生には、一度に色んな事が起こる日がある。



でも、そんなのドラマの中だけで、自分には起こらない事だと信じていた。



出会い系。



エッチ指導。


SM趣味。



撮影


夫が他の女としている衝撃


言葉や伝聞ではなく


直接見てしまった秘密


現実よりもリアル過ぎた


そして、急過ぎた



その場に居合わせ、部屋に溢れる卑猥な臭いをかがされ


途切れ途切れの叫び声と肉のぶつかる音を聞かされ


近くまで連れて行かれ


局部へ無理顔を押し付けられたような目に飛び込んできた動く画



何人と


いつからか


何回に渡るかもしれない浮気。


胃の辺りがギュウっと締め付けられた。


助けて・・・ 助けて・・・



誰か・・・助けて・・・



た す け て



膝をついて、倒れこむように、大きな口をあけながら、声にならない声をあげた。


携帯を両手で抱えて。



同時に、涙が、涙が 大きく流れ落ちた。



助けて 誰か



助けて 神様




携帯の光がなくなり、再び訪れた暗闇に、小さくうずくまり、泣き叫ぶ小百合を、それ以上の暗闇が包み始めた。


No.38 11/11/15 20:23
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C36



このまま独りで抱えていたら、自分は壊れてしまう。



小百合は、心の危うさを震える両腕で感じていた。



23:07


もう寝てるよね・・・


この状態で、心を吐き出せる人


小百合には、母しか思い浮かばなかった。


お願い、ママだけ起きていて。


今日は何かパパ達が観るような映画は、やってたかしら?



NHKとニュース、野球、その位しかテレビを認めない。



時代錯誤な父。



最近やっと映画位は観るようになったと母から聞いていた。



仕事以外では、毎日22時には布団に入る父も、母と映画を観る時は遅くまで起きていた。



厳しい父の元、夜9時以降の電話は相手に失礼だと教えこまれて来た。



例え他人でも、非常識だろう!と電話口で怒鳴る人だった。



不幸にも、たまたま父しかいない時に、21時過ぎにかけて来た男友達は、いきなり怒鳴りつけられ、翌日から、私を避けるようになったほどだ。



きっと、灯りの消えた実家の広い玄関で、電話のベルが鳴っている。



5回。


6回。


きっと怒られる!


「はい、南条でございます。」

少し眠そうな声



「ママ、ゴメンね、寝てた?」


「小百合ちゃん?どうしたの?」


No.39 11/11/16 23:50
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C37



「ママ・・・」



それ以上、言葉が出てこなかった。


涙が声をブロックしてしまう。


「どうしたの?」



「ちょっと、どうしたの?」



鼻をハンカチですすり、やっと絞り出した。



「祐ちゃんがね……」


娘のただならぬ声から察したのか、電話越しに、唾を飲み込む音がした



「浮気してた」



「えっ?」



「携帯にね、泊まってるのがわかるメールがあった。」



「祐一郎さんには確認したの?」


「ううん」



「今、独りで自転車で出てきたから」



「それだけじゃ、」



「違うの、他にも、あるの、写真とか。。。写真てキスしてるのとか。。。裸のも」




「・・・動画がね。。。動画って、ビデオみたいな、携帯で出来る、ビデオ。。。祐ちゃんが他の人として。。た。。」



伝える為とはいえ、恥ずかしかった。



小百合は、母とは買い物もあまりした事もなかった。



かなりのお嬢さんで育って来た割に、さっぱりとした男っぽい性格の母。



女同士の話も、恋の話もしてこなかった。



ましてや、男と女の行為など論外。



言い難い。



恥ずかしい。



「そう。でも、小百合ちゃんにも悪いところがあったんじゃない?」



「え?」



「あなた・・・そんな体型じゃ 男の人もね」



愕然とした



No.40 11/11/16 23:52
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C38



『そう、辛かったわね』




その一言が欲しくてかけた命綱の電話



私のライフライン



すがりついたクモの糸が、
登り始めて、すぐに切れた。



背中から落ちて行く。



深い奈落に・・・



再び・・・


まさか、母に突き落とされるとは思わなかった



祐一郎と結婚して、最初の1年で15㎏太った。


自分でもわかっていた。



男心をくすぐる愛くるしい容姿が崩れきってしまった事。


それは事実。



原因は自分でも、わかっていた。



でも、、、今は 今だけは




心が受け止めきれない衝撃を和らげて欲しい。



それだけだった。



なのに。。。



声にならない泣き声



鼻をすする音だけが携帯の送話口から伝わった。



「もう いいよ!」



これ以上 傷つきたくない。



心が防衛本能で叫んだ。



さすがに まずいと思ったのか、母は急に優しい口調に変わった。



「ショックなのはわかるわよ。とにかく、明日、話しましょう。パパは仕事でいないから。」

こんな時でも、父のタイミング

「もう いいよ!」


「小百合ちゃん」



「もういいっ!」



通話終了ボタンを押していた。


すぐに携帯が鳴った。


No.41 11/11/17 22:02
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C39



この場、この気持ちに不似合いな着信音。



携帯に、はじめから備わっていた聞きなれた穏やかなクラッシック。



元来、流行の音楽やポップスが大好きな小百合は、着信音を既製のクラッシックなんかにしたくなかった。



でも、家計の事を考えて、とにかく余計な娯楽は節約して来た。



余計な楽しみは全て我慢して来た。



着メロのダウンロードなんて出来る訳がない、雑誌も一冊も買った事がない、CD1枚さえ。。。



華やかな独身時代とは、かけ離れた質素な生活だけれど



それが家庭を持ち、生活することだと思った。



もちろん、パケット代がかかるサイトの閲覧なんて論外で、携帯は、ほとんど受け通話専用になっていた。



なのに、あの人は、自由に携帯を使い、出会い系までして、女と遊んでいた!



会社から支給された携帯だから。


代金は小百合の知る所ではなかったが、よくそんなモラルのない事が会社の携帯で出来たものだと、全てがそこに辿り着く思考に支配され始めていた。



不本意なメロディを止める為に、小百合は電話に出た。



無言で



No.42 11/11/17 22:08
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C40


「・・・」


「小百合ちゃん、気持ちはわかったから、そんなに怒らないで。ね?ママが悪かったわ。明日、ママがそっちに行く?」



いつもそう。



悪いのは誰でもない場合でも、その場を収める為に 母は謝る。



『私に免じて許してやってちょうだい』と 両方に頭を下げ、ケンカをしている本人達の矛をとりあえず引っ込めさせ収拾させる。



何の根本的解決をしない。



そのやり方を知っている者からは、最終的になめられ、キレられてまう。



「いいからっ もうっ!明日電話する。携帯のデータチェックするから、もうかけないで」



そう 母に言い放って 携帯を閉じた。



私が悪いの?



浮気って される方が悪いの?



そんな事ない 絶対にない!



自分が災いの源なら、存在そのものを否定されて私は消えてしまう。



違うっ 私じゃない!




悪いのは、悪い事をした人よ!



幼児だってわかる、人間性の基本!



それを証明しなくっちゃ。



泣いてなんかいられない。



小百合は、初めて、鞄からハンカチを取りだし、頬を拭った。


証拠を保存しなくちゃ。



悲しみの池に、怒りと冷静という2つ小石が投げ込まれた。


その轍(わだち)が徐々に広がり始め、2つの輪は、どちらを凌駕することなく小百合という水面で混じりあって行った。



No.43 11/11/18 19:43
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C41



「いらっしゃいませ~」


「何名様ですかぁ?」


明るい声


可愛いエプロン姿の女性が、店の扉が閉まるのを待たずに、もう声をかけて来た。


お決まりの台詞らしいが、小百合には新鮮だった。


高級住宅街にある唯一のファミリーレストラン。


ファミレス自体にあまり縁のない生活をして来た小百合は、ただでさえ、一人で入れない場所に、こんな時間に目を腫らしている自分が恥ずかしかった。


さっき鞄を探った時、帽子が入っているのに気付いた。


いつも、子供をプレスクールからお迎えすると、たまにママ友達から、公園でお弁当を食べながら遊ばない?と誘われるのだ。


いつそう言われても良いように、ツバの広い、折り畳み帽子を入れていた。


深夜には似合わない日除け帽を目深に被って、黙って左手で人差し指を立てた。


一人です。


そう心の中で呟いた。


誰かに見られたら、絶対に変に思われる。


宙音ちゃんの所、何かあったらしいわよ。


そんな噂は、この土地、小さな幼稚園社会では致命的だ。


No.44 11/11/18 19:56
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C42



足取りの軽いウエストレスの3歩後ろを彼女の白い靴下を見て、ビクビクしながら、付いて行った。


禁煙席へ。


案内された手が座席を差し示した。


いつもはレストランでも、買い物でも、この位のタイミングで、誰にでも目を合わせてニッコリと微笑む小百合なのに、今日は、店員からも客からも顔を見られないように、黙ってうつ向きながら席に滑り込んだ。



出来るだけ長くいたい。



しかし、持ち合わせもあまりなかった。



いつものお迎え用バッグで飛び出したからだわ。



小百合は、悲しい事があると、甘いものが食べたくなる。


それは、結婚して、特に顕著になった。


こんな時まで・・・


そう思いながら、デザートのページを眺め、小さなイチゴパフェを注文した。


夫の携帯を開くと、端から自分のPCアドレスへ転送した。


パフェが来た。


赤いシロップが白い肌を流れる血液みたいに、まだアイスの上をゆっくりとねっとりと垂れていった。


生理でもないのに、見た途端、子宮の辺りがぎゅっとした。


イチゴなんだか、チョコなんだか、味なんてわからなかった。

うつ向きながら、ただ、スプーンを口に運んだ。


冷たい物体が、舌から喉を滑り落ちて行く。


200件以上ひとつひとつ転送しては、送信履歴を消していった。


途中から、あまりにヒワイで、怒りがこみあげる内容のメールは、ccで自分の携帯にも送るようにした。


写真も添付した。


キス、下半身や胸のアップ、夫の裸体、



No.45 11/11/19 19:59
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C43



帰宅して、データをそのままPCにバックアップしたかったが、コードもないし。。


そもそも家に一台だけあるパソコンは、会社が主人に貸し出しているもの。


今まで何も隠し事なく生きて来た小百合は、PCを共有しても、何ら不自由さがなかった。


こんな事態は想定していなかった。


もし、コードを見つけて、バックアップしたとしても、何かの拍子に、夫が私が作った隠しフォルダを簡単に見つけてしまう。



社会から離れて4年、小百合も現役時代はシステムに精通していた。


メモリーカードやUSBにデータを落とせば、どうという事はない。


しかし、昼夜を問わない育児というものは、発想自体が浮かばない程、世の中から小百合を遠ざけていた。


そうこうしている内に、夫の携帯のバッテリーが切れてしまった。


もちろん充電器なんて持って来ていない。


コンビニで買おうかとも思った。


自分の携帯で時間を確認する。

1時12分


宙音が泣いているかもしれない。


その時、私がいない事に気付かれたら・・・


今までしなかった、深夜の一人外出、泣き腫らした目


いくら勘の鈍い夫でも、やましい事をしている男にとって、何かまずい事態が判明したと想像するだろう。


そして、即座に証拠隠滅に走るだろう。



それはダメ



まだ全ての証拠を見てもいない。


今日は帰ろう。


そう思って、初めて、周りを見渡した。



No.46 11/11/19 20:05
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C44



深夜の客は、一人が多い事に驚いた。



考え事をしながらペンを走らせる男性。



黙々と料理を口に運ぶ作業着の男性。



遠く離れた喫煙席に、女子高生くらいの子が二人、向かい合って、暇を持て余し気味に携帯をいじりながら、時折談笑していた。



女一人は小百合だけだった。



やっぱり今日は帰ろう。



明日また、宙音が寝た所で出て来れば良い・・・残りは、その時に転送しよう



証拠が残らないように。


今夜、私がここにいた事実を残さない為に。


現金で支払いをした。


クレジット派の小百合には、久しぶりにお札が銀のトレイに乗るのを見た。



お札の偉人が何だか私を睨みつけている瞳に見えた。


自分の方が卑しい事をしているような嫌な気分になった。



No.47 11/11/19 20:08
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C45



そっとマンションのドアを開けると、リビングからの灯りが、仕切りのドアのガラス部分から洩れていた。



まだ夫のイビキも響いている。


良かった。


気付いていない。


宙音は・・・


そっと寝室を覗くと、無意識に私を探したのか、ベッドの端まで来ていたが、起きた形跡はなかった。


ほっと胸をなでおろし、急いでパジャマに着替え直すと、宙音をベッド中央にそっと戻した。


一瞬ムニャムニャと体を動かしたが、直ぐに眠りに戻っていってくれた。


そらねちゃん・・・


こんな可愛い子を裏切って。


宙音の寝顔を見ながら、小百合は母として戦う意思を強くした。


廊下に出て、夫の携帯の充電器を探した。


いつもの廊下に置いた電話台の引き出しにはなかった。


会社の鞄の中かしら?



No.48 11/11/19 20:45
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C46



去年、誕生日にプレゼントした黒のビジネスバッグ。



荷物が多い夫の肩が凝らないよう軽い物を選んだ。



鞄のジッパー音が夫に聞こえないように、そっと洗面所まで鞄を運んで、開いた。



目指す携帯充電用の白いコードはパッと見、見当たらない。



端がくしゃくしゃに丸まった書類と、煙草の空き箱、そのビニールパッケージ、どこで呑んで来るのか、少し残った日本酒の紙パック。


何が必要で何がゴミなのか、わからないグチャグチャさ。



鞄の中は、その人の部屋、性格までわかると誰かが言っていた。



夫が独身時代に住んでいたゴミ部屋そっくりだった。


あの時、あの部屋を見た時に思い留まれば良かった。


生活するうちに直るかと期待した自分が愚かだったのか。



書類の上にクシャクシャの茶色い紙袋が乗っていた。


これもきっとゴミね?



ガサゴソと中を覗いて 息が止まった。



煙草の箱二つ分の大きさの透明なパッケージが出てきた。



そこに入っていた物体。



ブルーのゴム製の物がかぶさっている、人指し指位の長さのずんぐりとした楕円形の物体。



白いコードの先に、ダイヤル式の青いコントローラー。



コントローラーの後ろは電池が2本透けて見えた。


明かりの方へ箱をかざして透かしてみた。


なに。。。コレ。。。??



見た事のないシルエットが小百合の額に影を作った。



No.49 11/11/19 21:07
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C47



バイブ……だ……


きゃっと短い悲鳴を上げて、放り投げた。


カタンと乾いた音がお風呂場の扉に当たって聞こえ、水色の物体は扉に沿って滑り落ちた。


初めて見た。


実物


暫く、ヘビに睨まれたカエルのように、ブルーの物体と小百合は凝固していた


呪文で凝固させられた形をふり払うように、目の前の茶色い紙袋を握る左手を僅かに動かしてみた。


視線を中に落とす。


もう一つの透明な箱……


これは、もう、あからさまに、男のあの型になっていた。


力が抜けた。


袋ごと同じ風呂場の扉に向かって投げつけていた。


小百合は、正座から横に腰がズレ、へたりこんでいた。


放り出された茶色い紙袋からは、最後にビニールに入って束ねてある、真っ白いロープが二袋、顔を出した。


へたり込んだ身体をズルズルとお尻を引きずりながら這い、扉の近くへ近づいた。



もう苦手な虫にでも触るかのように、そっとその袋から引き出すと、裸の女がいやらしく顔を歪め、顎を上げて背中を反らせ、赤いロープが胸に食い込んでいる写真のパッケージが目に飛込んで来た。



【拘束縄】と太字で印刷されていた。



No.50 11/11/20 19:44
かなかな ( ♀ iQ3Eh )

C48



急いで全てを元の紙袋に戻した。


親指大の青い楕円形とコードセットのバイブ、男のモノの形に反り立っている太いバイブ、一束の縄。



ケースや袋に入っていても、透明であるが故、掴む部分に苦慮した。


元あった鞄の上部にしまい込み、鞄のジッパーをジジっ、ジジっと少しずつ閉めた。


そっと音を立てないように廊下を歩いて、目指す玄関に鞄を戻した。


夫のイビキが扉の向こうから聞こえる。


良かった、気付いていない。



そして、再び洗面所へ向かった。


勢い良く吹き出す水に手をかざす。


はぁ。


心地よい冷たさにため息が出た。



手を洗った。


何度も


何度も


何度も


汚い



汚い



キタナイ!



泣きながら、爪で掌を擦りながら 泡を擦りつけた。



無意識に力が強くなっていった。



痛っ



自分の爪で手の甲を削った。



すぅっと流れた血が、石鹸の泡をピンク色に染めた。



綺麗・・・



自然と微笑みが浮かんだ。



あまりに美しく、キタナイ世界に舞い降りた、無垢な妖精がそこにいるような気がした。



今日の出来事は




小百合が耐えられる心の限界を



軽く越えてしまった

ふわりと。。軽く。。。



ふふっ はははっ



流水で、ピンク色の泡を流しながら、笑う自分の姿が洗面鏡の向こうにいた。



しかし、小百合は、まるで他人がそこにいるかのように鏡に微笑み、見つめ合い、時に笑いあっていた。



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