【復讐】‥行き着く先‥
「最初は、ほんの遊びだった。
だけど 今は違うんだ。
本気で想ってる」
夫・チャールズからの言葉。
不穏な空気を感じ取り、泣き出す幼い娘。
「パパ!パパ!
何処へ行くの!?」
それでも、振り返る事なく家を出て行った。
「泣かなくて良いのよ。シャロン。
パパは、きっと此処へ帰って来るわ」
妻・ナンシーが娘を抱き締めて、そう話す。
不敵な
笑みを浮かべて。
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‥ナンシーは、人から羨ましがられる程 恵まれた環境にいた。
夫のチャールズの仕事は 大手‥と迄、行かないが なかなかの高収入で
家も立派なもの。
その上、偉ぶる事も無く 優しい人柄だった。
また子供も授かり、3歳になったシャロンは 父と母の良い所を受け継いだ可愛い顔の女の子。
「天は二物を与えず」
と言うが、この家庭には不似合いで 三物も四物も与えまくってる。
そう思われても仕方ない そんな生活だった。
>> 1
‥しかし、みんな口にするか・しないダケで有って 何処の家でも 少なからずとも何か問題は有る。
当然、ナンシーの家庭でも同じだ。
最近‥いや もっともっと以前から、チャールズの様子が変だった。
帰宅時間は通常通り。
休日は、家族サービス。
会話だって変わり映えなし。
しかし、ナンシーの目から見て 何かが妙だと感じていた。
チャールズは
“普通”
“いつも通り”
を演じている様に思えたのだ。
それでも、確たる証拠が何も無い。
だから 尻尾を出す迄、様子を伺う事に決める。
それだけじゃない。
然るべき時の為
計画も企てて。
‥いつか、必ず必要になるわ!‥
そう思い 彼女も、またチャールズと同様に
“普通”
“いつも通り”
を演じる。
>> 2
‥翌朝。
「行ってらっしゃい。
パパ、帰ったら一緒に
お風呂に入ろうねぇ」
娘のシャロンが、チャールズに言う。
「姫からの お誘いにはパパは断れないな」
と嬉しそうな顔をして、頭を撫で ナンシーにも挨拶を欠かさず、仕事へ出掛けて行く。
これも また日常的な事。
だが 妻が夫に対する気持ちは‐疑心暗鬼‐
‥何かが怪しい‥
と思う様になってから、今まで チャールズとの間に、夜の生活は有る。
シャロンの育児に疲れてる事も有り、新婚当時よりも回数は減ったが 問題は“愛情”を感じない事だ。
誘って来るのは、いつも夫。
それは結婚当初から変わらない。
変わったのは
単にヤリたいからする。
それが、肌を通じて伝わって来るのだ。
ナンシーは その事について何も言わずにいた
大袈裟にならぬ程度で、感じる振りをして 最後は、満足感を味わった微笑みをチャールズに向ける。
尻尾を出さない様に、用意周到の夫。
そんな彼を陥れる計画の一つでも有ったからだ。
>> 3
‥賢い女なら、言葉巧みに会話を引き出して上手な方法で証拠を掴むだろう。
だけど、ナンシーは話術に自信が無かったし それで失敗しては元も子もないので止(や)めておいた。
彼女のやり方は、時間が掛かるものだったけれど その分“計画”が着実に進めて行けたのだ。
そして、ようやく
チャールズが尻尾を出した。
彼の方から切り出して来たのである。
それも、自分の欲求を満たす為だけに 激しい事をした後で。
ナンシーは、驚いた様な悲しい様な表情を見せていたものの 内心は 沈んでなんか無い。
企てて来た計画が、芽吹く時期の訪れを喜んでいたのだ。
そんな事とは露知らず‥
欲求を解消して、スッキリしたチャールズは
こう言った。
「僕には、心を支えてくれる女性が居るんだ‥。
家庭を守る事よりも、その人を守ってやりたい
そう強く考えている」
>> 4
‥話しによれば、その人とはサイトで知り合ったそうだ。
悩みや質問などを投稿すると それに応じた回答を書き込まれる。
投稿者が、読んで心地良さを感じた回答や もっと話してみたいと思ったら、個人ルームと呼ばれてる所へ誘い 回答者の承諾を得られれば、そこで1対1の書き込みをし合える。
いわばチャットの様なものだ。
個人ルームでの、やり取りは他人に見られないシステムとなっている。
チャールズは、初め調べ物をする為に 携帯を使ったのだが 入力文字をミスしてしまい こう言ったサイトがズラリと出て来た。
そのまま 放っておき、調べ物に戻ろう‐としたのだが 何となく気になって、アクセスしたのが そのサイトなのだ。
色々な悩みや相談、質問が有る中で 1人の話に目が止まった
>> 5
‥今まで付き合って来た人は、います。
*好きだから・・・
*一緒に居て楽しいから・・・
*気になる相手だったから・・・
理由は、その人(付き合うヒト)によって違いますが、共通点は好感を持てる。だから交際します。
それなのに、私は本気で人を好きになる!‥そこ迄の気持ちが持てません。
体の関係を持ち掛けられても、本当に好きじゃない人とは出来なくて断ります。
今、付き合ってる人は居ません。
この先 もし誰かと交際しても同じ事の繰り返しになりそうです。
どうすれば良いのでしょうか?
****
そんな感じの内容。
チャールズが、そのサイトを見るのは初めだったが 他の投稿では
“妊娠しました”
“子供が出来たら、どうしょう”
と言ったものが、ザッと目を通したダケでも大半を占めてる中で
この投稿は、珍しく見えたのである。
本当の事か嘘かは、分からないが ちょっとした軽い気持ちで回答を書き込んでみた。
>> 7
‥チャールズの会社形態は少し変わっていて、一般企業で有るのに午後は3時間~4時間程度の休憩が入る。
勿論、交代制だ。
余談では有るが、休憩時間も きっちり お給料に含まれている。
‐‐サイトで知り合った子と会うとなれば、この時間しか無かった。
休日を潰し、娘・シャロンの相手を放棄する程
彼には その子に対しての気持ちを持てない心境だったからだ。
相手の子は、聞いても無いのに自分の話しをして来ていた。
バイトで自生活していて 休みは不定期の週2日。
仕事が忙しければ、休日が1日しか取れず 就業時間もフルになる。
お洒落が大好きで趣味でも有る その子は20歳になったばかりだと言う。
‥20歳‥
自分よりも10歳も年下の女の子。
送られて来た写メは、当然ながら若々しくって
可愛くて‥大きく開いた胸元の服から 顔を出しているのは柔らかそうなミルクの山。
今までは口約束の様なもので有ったのに、チャールズは 本当に その子と会ってみたいと思う様になった。
リンレイと名乗る女の子に。
>> 8
‥リンレイが住んでいる所は、チャールズの家や会社とは反対方向の場所に有る様だ。
‐いつも休日には、家族サービスをしているんだ。
仕事が終われば真っ直ぐ帰宅しているし、たまには・・‐
こんな考えが浮かんで来た。
‐そうだ。たまには、休日の1日ぐらい 俺の好きな様に使ってみたい ‐
勝手とも、そうでないとも取れる言い訳を自分で 自分に正当化でもするかの様にして言い聞かせて、彼女へメールを送信した。
【リンレイさえ良ければだけど、一度お茶でもしたいと思ってるんだ。
もちろん、深い意味は無いから安心して下さい】
‐これで会えたら嬉しい。
無理なら、仕方ない‐
ダメ元で お茶へ誘いかけたので有る。
>> 9
‥それから、暫くの間
連絡が途絶えた。
彼女はマメに、返信をする子で遅くても翌日には送られて来る。
なのに幾日たってもメールが来なかった為、チャールズは 出した事に後悔を、し始めていた。
‐ 会えなくても、誘いさえしなければ 今まで通り、やって来れたかも知れないな‐
リンレイに何て言えば良いのか分からず、あれ以来 彼も又 連絡を入れて無かった。
仕事から帰れば、幼い娘の寝顔で癒やされるし、ナンシーも 家事をこなして美味しい食事を出してくれる。
会話だって有るし、何も悪くない。
しかし 家庭とは別にして、常に心の何処かで
リンレイの存在は確かに有った。
夜、妻とベットを共にする時 何故か考えてしまう。
‐ あの子の肌触りは、どんなだろう?
その時の声は‥? ‐
勝手にシチュエーションを浮かべて、想像していた。
今 自分が抱いているのはナンシーなのに、頭の中はリンレイの姿が映る。
>> 10
‥そんな事を考えながら、大人の時間を過ごしてるなんて言える筈も無い。
ナンシーに悟られる訳に行かない。
だから
“普通に”
“いつも通り”
の態度で居ようと思ったのだ。
‐ 何も察知されてません様に! ‐
と願いつつ。
*******
リンレイから、再びメールが来たのは一週間ぶりだった。
【お返事遅れて御免なさい。
バイトが、凄く忙しくて 誰からのメールでも まともに読めない程 疲れていました。
やっと休みが取れて、携帯を開き ゆっくり読んでいたら、チャールズからの お誘いを見て・・
。
お茶の相手が、私でも良いの?
冗談じゃなくて本当に?】
彼は これを読み、ますます会いたくなった。
誘われたからって、簡単にホイホイ着いて来るので無く こうやって躊躇う事に、惹かれたのである。
>> 11
‥【バイトお疲れ様。
今日は、久々の休日の様だけど体は休まってる?
お茶の誘い、冗談じゃないよ。
一度で良いから会って話してみたいと思ってます
週末で休み取れる日が有ったら、教えて欲しい。
それに合わせるよ】
そう書いたメールを送信した。
その翌日に、リンレイから返事が届く。
【おはよう。
直ぐに、お返事が出来なくて御免なさいね。
私も貴方に会いたいです。
お話したいです。
だけど色々と考えてたの。
チャールズには、家庭が有るでしょ?
奥様も子供さんもいる。それなのに、週末に私と会ったりなんかしたら、怪しまれない?】
‐確かに、その可能性も出て来るけど‥ ‐
読みながら そう思ったが、その反面
‐ 後 ひと押しだ! ‐
と言う気持ちにも駆られた。
暫く、似た様な感じのメール交換をしていたのだが リンレイから、こう告げ来た。
【ねぇ!
チャールズの会社って、午後に3~4時間程度の休憩入るんだよね。
だったら、その時間帯に会うのは どう?
いけない?】
>> 12
‥これで、話は決まった。
リンレイの気が変わらぬ内に さっさと待ち合わせ場所・時間を設定したのだ。
日程近くになって、断られる可能性も有るが そんな事を言っていたらキリが無い。
だからチャールズは、来るべき日が来るまで待った。
******
当日。
休憩時間と共に、会社を離れて車を走らせた。
約40分弱の所にある、待ち合わせ場所へ。
大きな噴水広場。
側の駐車場に停め、歩みを進めて行くと まばらな人並みの中 噴水のヘリに座っている女の子が目に入った。
今朝、貰ったメールには チャールズが分かりやすい様に 着ていく服や髪型まで書かれて有ったので、一応 確認してみる。
‐ ‥‥‥‥ ‐
携帯画面と女の子を、何度も見比べた後 どんどん足早に近付く。
「失礼ですが、リンレイ・ファームさんですか?」
そう声を掛けた。
「はい。そうです。
チャールズ・スミスさんですよね?」
彼女も聞き返し、彼が頷くと リンレイは笑顔を向けた。
>> 13
‥「こんにちわ!
会えて凄く嬉しいです」
以前 見た携帯での写真よりも、ずっとずっと可愛い子。
身長は、想像していたより小柄だったが チャールズの好みでも有った。
髪も長くて、綺麗なブロンドヘアーに毛先を巻いていて‥リンレイの魅力を引き出している様に思えたのだ。
外見だけでも、より一層 惹かれ その後に約束通り カフェでのティータイムで会話をした時も、彼女は メールで受けていた印象と全く変わらなくて、とても楽しい時間を過ごせた。
会社へ戻る時間が近付く頃、チャールズはリンレイに また誘いの言葉を掛ける。
答えは “イエス”
彼女と一緒に居る時は
ナンシーの事も
シャロンの事も
頭に無かった。
>> 15
‥その日は、どちらとも無く そう言う方向へ話の流れになった。
そんな風になる様、チャールズが考え・考え持って行ったとも言えるが。
会社には、早退届を出した。
長年 勤めて来た職場で 欠勤も遅刻も早退も、一回も無く 仕事の能率も良い彼だった為、すんなりと受理されたのだ。
ナンシーは、家計を握っているが貰って来た給料の明細は見ない方だった。
見ているとしても、収入欄のみである。
と言うのも会社の明細の表示の仕方が、ややこしい書き方をしているからだ。
よっぽど 細かい人間じゃないと見ないであろう‥。
早退等の表示を、妻は目を通さない。
だから チャールズが、それを利用したのだ。
*******
ホテルでは、リンレイが凄く緊張しているのが、よく分かった。
初めてサイトで知り合った時も、メールをした時も 彼女は
【経験ありません】
と言っていた。
だが、彼は半信半疑でも有ったのだ。
好みは人それぞれと言えども
>> 18
‥そこから先は、とても慎重に彼女の反応を伺いながら、ユックリと指で広げて行き いよいよ本番となった。
痛みを訴えながらも、自分を求めてくる若い・若いリンレイの姿。
ナンシーとは全く違う快感。
これ程までに無い濃厚な味わいを、奥深く堪能した。
******
情事を終えた後も、チャールズは リンレイと又 会いたいと思う様になる。
身体が良かった事も有るけれど、それだけじゃなくて 相手の人柄とか‥そう言った部分も、今まで以上に知りたいと感じたのだ。
ホテルからの帰り道、彼女が希望した場所まで車で送り届けた時に、チャールズの方から
「また会える?」
と訊ね、リンレイが答えた。
「奥様や子供さんにバレたりしない?
大丈夫なら、私も貴方と同じ気持ちよ」
‐ナンシー‥シャロン。家庭を捨てたくない。
だが、リンレイも手離したくない ‐
勝手だと分かっていたが 気持ちは変えられず、
彼女を繋ぎ止める為
「ああ。平気だ。
妻には愛情が無いから」
そう伝えた。
>> 19
‥「えっ?どうして?
仕事が終われば、真っ直ぐ家に帰って 休日には家族サービスを怠らない程、大切にしてたんじゃないの?」
リンレイが驚いて問いかける。
「それはシャロン‥子供が居るからだよ。
妻に愛情が有れば、君と関係を持とうなんて考えない。
リンレイを愛したいと思ったから、誘ったんだ
メールを始めた頃から、今日までの間 妻には貰った事の無い愛情や気持ちを、君は俺にくれた。
とても感謝しているんだよ。
子供でしか繋がっていない家庭に戻っても、心は冷たいだけだ」
嘘・半分 真実・半分って所だが、そんな言葉を彼女に向けた。
「そうだったの‥。
何も知らなくて。
私で力になれる事あったら言ってね。
頼りないけど、出来る限りの事をしたいの」
「有り難う。
いつもの様に会ってくれるだけで、充分 心が満たされるよ。
俺にはリンレイが必要なんだ」
最後の言葉が決め手となり、彼女は これまで以上にチャールズへ親密な想いを寄せる様になった
>> 21
‥毎日、毎日が平穏で平凡な家庭。
ナンシーにも特別な不満が有る訳じゃない。
娘は可愛い。
だけど
刺激が無かったのだ。
それを与えてくれたのが リンレイ。
刺激に飽きたら、子供を引き合いにして別れるつもりだった。
だけど いつまで経っても飽きない。
知らず知らずの内に、
ナンシーとは違う魅力を持つ彼女へ 心が傾いていた様だ。
自分の気持ちを、何度も再確認してからは
1人暮らしをしているリンレイが気掛かりになった。
ナンシーなら、自分が居なくてもシャロンが居る。
でも彼女には何も無い。両親や兄弟もバラバラで、連絡先すら分からない身の上‥。
どうするべきか、彼は悩み それを一気に晴らすかの様に 妻で激しく処理をした。
でもナンシーは
“普通に”
“いつも通り”
の表情を向ける。
‐リンレイだったら、こんな時は‥‐
そんな気持ちと、スッキリした体感とが合わさり 彼は、妻に話したのだ。
>> 23
‥「何だよ。
その意味深な言葉は。
シャロンの事か?
俺が、いざとなれば子供を手離したくない!‐そう思ってると考えての事か?」
ナンシーからの発言に、チャールズが切り返す。
「さぁ‥?
どういう意味かは、これから貴方自身が身を持って体験する事。
私が 今の時点で言える事は、さっきと同じ。
“貴方は此処へ戻って来る”」
そう言うと妻は、再びベットに潜り込んだが夫には背を向けた。
そんな態度や淡々とした言い方をされても、当然だし 文句は言えない。
チャールズも頭では理解している。
しかし身勝手ながらも、気持ちとしては暖かさを求めた。
リンレイの存在が、また大きくなる。
「・・早速だけど、明日からは暫く帰らない」
とチャールズが言い、彼も またナンシーに背を向けてベットへ潜った。
自分が
‘既に’
妻からの罠に
“嵌っている事”
“陥ってる事”
にも気付かず。
>> 24
‥その日の夜は、なかなか寝付けない。
チャールズは
‐ナンシーもか?‐
と思ったが、背中を向けていたし確かめ様ともしなかった。
結婚当初 些細な事で喧嘩して、こんな風に互いが背中合わせのままだった時もある。
だけど、その時は いつだってチャールズが妻の顔を覗き込んだり、キスしたりして仲直りとなっていた。
‐いつから、それを しなくなったんだろう‥‐
もぅ思い出せなかった。
シャロンが産まれて、間もない時は 子育てに奔走してて喧嘩どころじゃなかったし、少し大きくなれば 仲良くしてないと泣き出す様になったのだ。
娘が居るから平穏な生活を保てているのに、娘が居る事で夫婦間の関係は冷め始めていた。
本当の所、努力や歩み寄りの問題なのだが チャールは気付いておらず、
ただ ただ
刺激の中にも安らぎを求める事しか、頭になかったのである。
>> 25
‥ベットから抜け出し、大きめの鞄を取って
取り敢えず、必要最低限の荷物を詰め込む。
暫くビジネスホルにでも泊まるつもりだ。
‐ナンシーから離れ、落ち着けば 今後の事もユックリ考えられる‐
と思って。
*******
・翌朝・
“いつも通り”
“普通”
の妻。
そして変わらない食卓。
全て、シャロンに不安を与えたくないと感じたナンシーの配慮。
「でね!でね!昨日、キャロライン(友達の名前)の弟がね カニさんとジャンケンして負けたんだよ。後ねぇ‥」
娘は、ペラペラペラと
よく喋っていて 何も知らず朝から賑やかだった。
「あっ!パパ。
おはよう。
見て見て!ママがね、パンに ジャムで猫さんの
お顔を書いてくれたのよ。
ブタさんみたいだけど、猫さんよ。
食べ過ぎたのかなぁ」
と食パンを見せて来た。
「パパ‥?」
いつもなら、返事を返してくれるのに 今日は無い。
>> 26
‥今になって、心苦しくなり シャロンの目を見る事も出来なくて 出されたコーヒーでサラダを流し込み、さっさと支度を済ませて玄関へと向かった。
いつもとは違う父親の気配。
そして、不穏な空気。
シャロンは チャールズを追いかけた。
「パパ!パパ!待って。
何処に行くの!?」
会社だと分かっているのに、どうしてか不安になる。
“行ってきます”
の言葉も無い。
「ねっねっ!
今日はね、お絵かきして遊ぶのっ。
パパのお顔も書くから、見てね」
そう言っても答えない。
振り返りもせず、家を出て行った。
訳が分からず 大声で泣く小さな娘・シャロン。
ナンシーが側に来て、娘を暖かく抱き締めて
「泣かなくて良いのよ。シャロン。
パパは、必ず帰って来るわ」
と微笑を称えながら、宥めた。
>> 29
‥待ち合わせ場所に着くと、リンレイが駆け寄り 車に乗った。
「どうかした?」
様子を伺う感じで、彼女が訊ねる。
「‥家を出たんだ。
まだ離婚までには至ってないけど、それも時間の問題だな」
そう言った事も嘘じゃない。
しかし、もう一つの気持ち・シャロンの事は話さなかった。
愛情の有無は別として、離婚してない限り
リンレイは不倫相手。
関係を持っている男の家族‥妻や子供‥の話なんて聞きたくないだろう。
もし、それが良くない事(愚痴や不満・悪口)なら耳を傾けると思うが。
妻とは別れても良いけど、子供とは離れたくないし リンレイとも続けて行きたい。
流石に 此処までの事は
言えやしない。
>> 30
‥「それで、これから
どうするつもりなの?」
少し間を置いて、リンレイが口を開いた。
「今日は、取り敢えず仕事が終わったらビジネスホテルに泊まって 今後の事を考えるよ」
チャールズが答える。
「・・それなら、私の所に来ない?
そんな立派なマンションでも無いけど、ホテルの様にチェック・アウトを気にしなくても良いんだから」
その言葉を皮切りに、リンレイとチャールズの会話・雰囲気・そして、双方の合意の元 同棲が決まったのだ。
それから2人は、予定していた通り この時間を利用してラブホテルへと向かった。
‐今夜から、一緒に過ごせる‐
チャールズもリンレイも同じ気持ち。
しかし その反面
‐口約束かも知れない‐
これも2人同様に思っていた。
もしかしたら、今日が最後になる可能性が有る為 忘れられない様な、甘美な時間を過ごす事にしたのだ。
>> 31
‥事を終えて、2人は
夜に会う時間を決めた。
チャールズは、リンレイの家を大体でしか知らなかった為 道案内をして貰う事にしたのである。
*******
その後、仕事に戻り 再び勤務に集中する。
何かに没頭して無いと、直ぐ 娘の姿を思い出してしまうのだ。
そして、リンレイは自宅に帰り チャールズが泊まれる様に掃除をして、消耗品や必要な物を買い足しに行ったが、ついつい携帯へ気が向いてしまう。
一緒に暮らす事のキャンセルをされるのでは無いかと。
‐仕事中だから、メールや電話なんて出来ない。私もバイト中は同じ‐
そう思う事で、準備に取り掛かるものの
どうしても感じてしまう。
‐ 一言で良いから、言葉が欲しい。
安心出来る言葉を。‐
彼女は、もうチャールズに“ 愛されてる ”と思っていた。
間違いでは無いけれど、彼にとっての「一番」は 子供‥シャロン‥で有るなんて考えて無かったのだ。
『家を出た』のは、妻と子供に未練が無いから!
と判断していたから。
>> 34
‥ * 夕食 *
リンレイのマンションは、彼女が口にしていたより 遥かに広くて大きい所だった。
「お料理を温め直してる間、ホットドリンクでも飲んで楽にしててね」
手際良く飲み物の用意をして、チャールズに差し出す。
「これって自分で作ったオリジナル・ドリンク?
初めて嗅ぐ良い香りだ」
と彼が言う。
「そうよ。ミルクと合わせて‥美味しくないかも知れないけど」
その言葉を聞きながら、チャールズは ドリンクを飲んだ。
「凄く美味しいよ。ありがとう」
と御礼を述べると、リンレイはホッとして キッチンへ向かった。
しかし その数秒後
チャールズは、何となく胃に不快感を感じる
だが 我慢出来ない程じゃないし、直ぐ治りそうだったから黙っていた。
「お待たせ‐」
リンレイお手製の食事が並べられる。
どれも これも良い香りが立ちこめ、胃の不快感なぞ忘れてしまう位だ。
「頂きます」
彼は、お肉を口にする。
好みの味付けで、最高なのに
胃が受け付け様とせず、苦しい感覚が身体を巡る。
>> 35
‥「口に合わない?」
なかなか食が進まないのを見て、リンレイは訊ねた。
「いや。そんな事ないよ。ナンシー‥妻が作る料理は、いつも辛くも無ければ甘くもない平凡な味つけばかりだから、家庭で しっかり味の染み込んだ手料理を食べたのは初めてなんだ。
それでビックリしただけだから」
そう言って、一気に出された食事を口にしては、何度か 飲み物で流し込んだ。
「ありがとう。リンレイ。とても美味しかった。また食べたくなる位だよ」
と食後に御礼を述べる。
「さっきは、要るのか要らないのか分からない程、ちまちま食べてたのに 今度は 誰かに盗られるかの様に、急いで食べる貴方の姿の方が驚きよ。
でも気に入って貰えたのなら良かった」
ナンシーの様に、冷笑などせず リンレイは温かな笑みを浮かべて話した。
「全部 俺の好きな味付けばかりだったし、嬉しかった。
え‥と。トイレを借りたいんだけど 何処にある?」
とチャールズ。
胸やけがして仕方ない。
「此処を出て、直ぐ右の扉にあるわ」
その声と、ほぼ同時に立ち上がり 御手洗いへと足早に向かった。
>> 38
‥リンレイが使っているベッドは、セミダブルだった。
「ナンシーさんと貴方が夫婦で使ってるベッドより、小さいと思うけど‥御免なさいね」
と彼女が、布団に入ったチャールズに言葉を掛けた。
「いや‥。
大きさなんて関係ないよ。
ダブル(ベット)で有ろうが無かろうが、必要なのは互いの愛情だ。
ナンシーとは、その大事な事が薄れ行き もぅ何も無い。冷めたものだよ」
彼は、リンレイに そう答える。
まるで、ナンシーとは
夜の生活が全く無かったかの様な口調。
ニュアンスで‥。
本当は、愛情の有無は別として 妻との間で、その行為は有ったのに。
此処まで来て、リンレイとの関係を壊したく無かった為 つい、そんな言葉を口にしたのである。
>> 41
‥それは、どんどん酷くなりチャールズはベッドから飛び降りる様にして 窓に駆け寄った。
部屋の扉よりも、一番近い場所に有った為 よろけながらも そこに着くと鍵を開けて、空気を吸ったのだ。
最初は、息苦しさに伴って息切れをしていたが夜風に包まれてる内に 落ち着きを取り戻す。
普段なら寒く感じる空気も、今は とても気持ちが良かったし夜景も綺麗で暫くの間 窓の外を眺めていた。
そして、少しだけ自分の事を振り返ってみる。
‐ ナンシーは、俺が家に戻って来る‥とか言ってたな。でも、その家を出て行く事に反対はしなかった。
リンレイと関係を持ち、同棲する事となったのも 別段、強引に迫った訳じゃなく 押しかけた訳じゃない。
合意の上だ ‐
人の道を外している事は分かっていたが、罪の意識から逃れる為 そう考え 気持ちを誤魔化した挙げ句・遂には
‐ナンシーさえ、刺激を与えてくれれば良かったんだ ‐
責任転嫁マデし出した。
‐悪いのは自分じゃない‐
時と共に、そんな心境に変貌して行く
>> 42
‥ = その頃 =
チャールズの娘・シャロンは父親の帰りを待っていた。
いつもなら、もぅベットに入り ナンシーに寝かし付けられている時間なのだが、今日は部屋へ行こうともしない。
「パパが帰って来るまで、起きてゆ(る)!!」
と言いリビングのソファーから頑として動かなかった。
朝、チャールズが無意識に放っていた不穏な空気を忘れられずに居るのだ。
「シャロン‥。パパはね 今夜、とても楽しい場所で お泊まりしてるのよ」
ナンシーが、娘を抱き上げる。
日本では 子供が幼い間、親と同じ部屋で寝る事が殆どだけど 海外では
赤ちゃんの頃から別室が主流。
彼女の家庭でも同様だ。
「今日は、一人でネンネじゃなくてママと寝ようか?
‥パパが帰って来るまでね」
その言葉に、気持ちが少し変わったのかシャロンは大喜び。
「うん!
ママと一緒にネンネする‐!!
パパの代わりに、なっちぇ(なって)あげるねぇ」
そう言い、母親に抱きついた
‥‥‥‥。
>> 43
‥「ねぇ。ねぇ。ママ!パパが、お泊まりしてる楽し‐い所って どんな所??」
ナンシーに甘えながら、シャロンが訊ねる。
「さぁね。それは、ママにも分からないわ。
でも、きっと家に帰って来るから。待ちましょうね」
小さな娘の頭を撫でながら話す。
その時、シャロンは母親が うっすら涙目になったのを見た。
まだ3歳で有るが、父・チャールズよりも母・ナンシーの方が強い!
と言う事は分かっていた。
強くて、怒ると怖い母親。
今まで そんな瞳を見た事なんて無かった為、シャロンは驚いたのだ。
「ママぁ。どちたの?
(どうしたの?)」
そう声を掛ける。
「何でも無いわ。
ママは大丈夫だからね。さぁ。シャロン。もう寝なさい。
ネンネの時間は、とっくに過ぎてるのよ」
と言い、娘を抱き寄せた時には いつものナンシーの表情に戻っていた。
シャロンは、こんな時どう言えば良いのか全く分からない。
凄く凄く困ったけれど、頭を振り絞って こう伝えた。
「ママ大好きよ」
>> 44
‥ = 不倫部屋 =
自宅が、そんな光景になっている事など考えもせず、チャールズは未だに窓の外を眺めていた。
「何してるの?」
リンレイが部屋のドアを開けて聞いて来る。
「ちょっと、外気に当たりたくてね。
勝手に窓を開けて悪かった」
チャールズは、彼女の部屋が息苦しいとは言えず そう伝えたので有る。
「謝らないで。
私の部屋は、今日から貴方の部屋でも有るの。
自由に使ってね」
文句も言わず、笑顔を向けるリンレイに彼は心が和んだ。
「ありがとう。
でも、もう閉めるよ。
夜景も綺麗だけど‥君を見てる方が良い」
窓を閉めた後、チャールズがリンレイを抱き締めた。
何処にでも有る様な室内が、心地良い空間になる。
「ずっと一緒に居たい」
自然に言葉が漏れ、それに応える様な彼からのキス。
‐チャールズは、きっと離婚して私の所へ来てくれる ‐
それがリンレイの気持ち。
不倫=不道徳。
最初は理解していたのに、彼と過ごす内
好きな人と一緒に過ごしたいのは自然な感情‥。
純愛に似ている‥。
そんな解釈をする様になった。
>> 45
‥「・・私、シャワーを浴びて来るね」
舌を絡めた濃厚なキスを何度か交わした後、リンレイが そう話してクローゼットからパジャマを取り出し、部屋を出て行く。
チャールズは側に有ったソファーに座り、こんな事を考えていた。
‐夫婦愛に恵まれていないと思っていたが、なかなか運は良い方だな。
リンレイは、俺が家庭持ちだと知りながらも愛情と刺激を与えてくれる。
若いし、全てにおいて魅力的だ。
ナンシーは俺と別れない気でいる。
まぁシャロンが居るからだろうけどな。
どちらにしろ、自分には帰る場所は確保されてるんだ。
“家庭”か“不倫相手の場所”か‐‐。
俺も、まだまだ捨てたモンじゃない‐
そう思えば、気が楽になる。
>> 46
‥一方、シャワーを浴び終えたリンレイは部屋へ行く前に、リビングへ向かい自分の鞄から携帯を取り出す。
友達からのメール。
通販の広告メール。
芸能ニュース。
それぞれをチェックした後、サイトへアクセスする。
サイトとは、チャールズと知り合うキッカケとなった、あの掲示板だ。
彼とデートをして肌を重ねる様になってからも、此処を訪れていたが投稿はしていない。
専ら見ているだけの事。
今も同じ様に読んで行くと、不倫に悩む女性からの投稿が有った。
《‥‥先が見えません。でも彼とは別れたく無い。不安と相手を好きな気持ちに、挟まれています。どうすれば良いのでしょう》
それに対しての回答の殆どが『別れ』を促していた。
〔奥さんが可哀想〕
〔彼に子供は居るの?
その子の事、考えた時ある?〕
〔本当に相手が貴女を、想ってるなら奥さんとの離婚を進めてる筈〕
〔あ‐あ!遊ばれてるのも知らず、何を言ってんだか〕
>> 47
‥
〔大体、不倫なんてする奴は
・自己中心的
・妙に自信を持っている
・わがまま
・常に自分が正しいと思っている。
・人と何処かズレているが、それに気付いていない
‥‥〕
その他にも類似た事が書かれて有り、投稿者を慰めて励ます回答は、指で数えられる程しか無い。
リンレイは、自分自身に直接 言われてる言葉じゃ無いと分かっていても 気分が悪かった。
‐不倫を経験した事の無い人に(投稿者も)これだけの言葉を吐かれたく無いでしょうね!!
経験した者にしか分からない感情。愛情の深さ。想い‥。
“恋愛”なら誰もが応援してくれる。
同じ心境でも、それが
“不倫”になれば、大部分の人が冷たくなる。
‥その考え方の方が理解出来ないわ!
人を好きになる気持ちは一緒なのに ‐
そう心の中で思った。
携帯を閉じて、再び鞄を探り 小袋を取り出す。
買い物のついでに購入したナイト・コロン。
ほのかに香る甘い誘惑。
時間の経過と共に、匂いが変化するコロン。
最後は激情の香りが漂う。
それを首筋に付けて、彼の元へ向かった。
>> 48
‥真っ白なワンピース型のパジャマに身を包んだリンレイが、チャールズの側にやって来た。
近寄ると滑らかな体の線が、うっすら透けて見える。
彼は その上からシャワーを浴びさせたい心境になりながら、彼女を引き寄せた。
キスをしながら胸元のボタンを外す。
そこから手を滑り込まして、豊かなミルクの山を触り 舌先で飲み口を転がし‥綺麗な足を撫で付け、デリケートに有る豆を刺激しつつ リンレイの反応を見て、チャールズは自分のモノを入れて行く。
ホテルの時も、今も 彼は彼女の着ている衣類全てを脱がさない。
ショーツは仕方ないが、それ以外の部分は 乱れた状態のまま残すのだ。
最中の間、リンレイは思う。
‐・・今まで一緒に居られる事が幸せだったから、深く考えて無かったけれど、チャールズはナンシーさんとも こんなプレイ的(?)な事をしてたのかしら‥? ‐
そんな思いと同時に、突かれ続け 思考が定かで無くなりかけた。
>> 49
‥それでも、頂点に達する前に感じた思いは 根強く残る事となる。
‐そんなの嫌だわ!
私以外の女と同じ事を、して欲しく無い。
チャールズは、ナンシーさんより子供よりも私を選んでくれた。
この人を癒やし励ませるのは、私よ!
家庭じゃない!!
戻らせたくない!!
誰にだって、幸せになる権利は有るのよ! ‐
と・・・。
対するチャールズは、家庭の事も不倫愛の事も‥何も考えて無かった。
ただ ただ、リンレイの身体に溺れていたダケ。
彼女から放たれたコロンの香りは、最初から最後まで彼を誘惑。
‥‥‥
事が済み、チャールズは爽快感を味わった時だった。
風邪でも引いたかの様に咳が出だしたのだ。
一旦 出ると、なかなか止まらない。
「大丈夫!?
待ってて。今お水でも持って来るから」
リンレイは急いで部屋を出て行く。
それから彼女が戻ってくる迄の僅かな間、少し治まった時も有るが また直ぐに咳込んだ。
一晩中、その状態は続いく。
置き薬の咳止めを貰っても同じ。
チャールズは苦しみ続けた。
ずっと‥
>> 51
‥車を走らせている内に、不思議と咳は落ち着きを見せた。
‐ 昨日の体調と言い、突発的な咳と言い‥何なんだ? 一過性のモノなのか? ‐
自問自答してみても、答えは出ない。
‐まぁ‥でも今日の仕事や会議に差し障り無く過ごせるなら、取り敢えずは良いか ‐
そんな風に頭を切り替えて、コンビニへと移動する。
仕事が始まる迄、まだ時間は有る。
今朝の酷い咳込みで食事が、取れなかったけれど それの治まりと共に少し空腹を感じたのだ。
‐パンとコーヒーでも買って、会社で食おう ‐
と思い、店内に入る。
此処は職場から 遠くも無く近くも無く‥といった場所に建っている。
会社の側に歩いてでも行ける程のコンビニも有り そちらの方が大きく、品揃えも豊富で人気なのだが、彼は そこは余り利用せず 大概 この店に足を運ぶ。
ここに売られているパンの味が気に入ってるのだ。
>> 53
‥‐ 何で、働いてるんだ!? ‐
思わず出掛かった言葉だったが、ナンシーからの代金請求に遮られた。
それを支払った後、色々と聞きたい事が有ったけれど、後ろには人が列を作って並んでいたのと、 仕事まで時間が有ると言っても 悠長に構えてられる程でも無かったので、仕方なく店を後にする。
職場に着き 休憩室で、買って来たパンとコーヒーを前にして、携帯からメールを送る。
リンレイの前で妻宛ての連絡は取りたく無いし、午後からの長い休憩時間‐‐今日は会議の最終打ち合わせの為、返上なのでメールは出来ない。
だから今しか無かったのである。
《ナンシー、どういうつもりなんだ!?
君が働きに出るのは自由だけど、俺は何も聞いて無い!
それに仕事の間、シャロンは誰が見てるんだ!?
放置してるんじゃ無いだろうな! 》
チャールズもナンシーも、互いに実家からは遠く離れていてシャロンを簡単に(両親へ)預けられる距離では無いし、保育園も 自宅近くの地域では、直ぐに直ぐ入園は出来ない。
‐ 本当に、何がどうなってるんだ‥ ‐
そんな気分のまま、妻へメールを送信する。
>> 54
‥チャールズが会社へ行ってる間、リンレイは洗濯物を干していた。
自分の分と彼の分。
今まで付き合って来た人は、何人かいるけれど
一緒に暮らした経験は無かった為 こうして男物の衣類を手にしている事が不思議だった。
それが終わると掃除。
部屋にはチャールズが持って来たボストンバックが置かれてある。
幾ら好きな人で有っても、持ち物を探る趣味は無い。
だから手を触れないつもりでいた。
しかし、ほんの悪戯心と言うのだろうか‥
魔が差したと言うのだろうか‥
ちょっと覗いてみたくなり、鞄を開けた。
本当に詰め込めるだけ、詰め込んで来た!と証明出来る程 豪快に中身が入っている。
ふと、視線を逸らした時 バックの外側に付いている薄くて小さなポケットのジッパーが、少し開いていて 何かが顔を出しているのを見付けた。
その中も覗く。
バックの中とは反対に、ポケットには整理された胃腸薬やら、風邪薬等が入っていて
>> 57
‥会議には、他社の偉いサンが来ていて
“ああ言えば、こう言う”
“こう言えば、ああ言う”
“今まで、こんな風に言い張ってたかと思えば、急に意見が変わる”
などなど、話しが進まず難航していたものの、最後には事前の打ち合わせ通りに終了する事が出来た。
会議室から退出した時には、ドッと疲れが出た気分になる。
仲間と休憩室に行き、それぞれ談話や飲み物を口にする中 チャールズは携帯を開き、電源を入れる。
新着メールにはリンレイからのものが有ったが、ナンシーのは無い。
そして左上のランプが、点滅していた。
電源を落としていても、(仕事柄)留守電だけは入る様にしてある。
カップドリンクを片手に、それを聞こうと通話ボタンを押した。
ガイダンスの後に聞こえきた声‥
「パパ?
今日は帰って来ゆ(る)よね?」
娘・シャロンから。
涙声で
そう話していた
‐‐‐‐。
>> 58
‥‐退社時間まで後少しだ。
終わったら、直ぐにでも掛け直そう!‐
と、彼は思ってたが 休憩後の仕事をしている時に、ふと ある考えが浮かぶ。
‐ ひょっとして、これはナンシーが仕掛けた罠かも知れない。
シャロンを使えば、俺が帰るとでも思ってる様だな。
まだ3歳にしかならない子供が、携帯のアドレスから俺の番号を見付けて掛けて来る訳ない。
大方、ナンシーがシャロンの悪戯か何かを叱って、泣きそうになった所で電話を渡したんだろ ‐
その他、色んな可能性を探したが この考えが一番シックリ来た。
‐そんな手に乗るか!‐
この時から、チャールズは
“夫婦間が冷め切ってるから家には帰らない”
と言う気持ちから
“意地で”帰らない。
と言う思いに変わる。
リンレイの所へ行くのは
“癒やしを求める”
気持ちから
“逃げ場所”
へと感情が移り変わった。
>> 59
‥家には帰らず、リンレイの元へ行く迄の間も
携帯が、ちょくちょく鳴り響いていた。
ディスプレイには
“ナンシー”
と出ている。
‐ またシャロンを利用してるのか!?
それとも本人か!?‐
そう思いながらも、電話には出ないつもりでいたが 余りにも回数が多い為、近くのパーキングエリアへ車を着け 次に携帯が鳴った時には 通話ボタンを押し こう言った。
「いい加減にしてくれないか!?
俺は帰らない!」
すると電話の向こう側では、何も言わずプツンと切れる。
それから着信音が鳴る事は無かった。
‐これで良い。
せいせいした ‐
そう思えそうなものなのに、何故か そんな風には思えずにいたのだ。
後味が悪い‥と言う訳じゃない。
どうしてなのか自分でも分からないまま、リンレイの所へ行った。
>> 60
‥「メールしたんだけど、届いて無かった?」
チャールズが帰るなり、リンレイは口にする。
シャロンからの電話の一件で、彼女に貰ったメールを読んで無かった‥いや言われる迄 思い出さ無かったのだ。
「御免。今日は会議が手こずったし、ずっと携帯の電源を切ってて つい
さっき入れた所だったんだ」
また嘘半分・事実半分の言葉。
「それなら仕方ないわね。今夜はスパゲティを作ろうと思って、帰る時間に合わせてパスタを茹でるつもりだったの。
ソースも温め直したいし、先にシャワーでも浴びたら?」
リンレイが話し、彼は
それに従う事にした。
世の中の事を知ってそうで、知らない20歳の彼女。
ムードに酔わせて悦ぶ台詞・態度を取る事などチャールズには簡単な話し‥‥。
リンレイの気持ちを高揚させた後、彼はバスルームに向かう。
幸せ気分で料理に掛かっていた時、テーブルへ置かれた携帯に目が止まった。
>> 61
‥‐人の携帯まで見るなんて良くないわ!‐
と自分に制したが、どうしても気になって気になって仕方ない。
‐一回だけ‥それで、やめておこう‐
そう思う事にして彼の携帯を開く。
ロックはされて無い。
‐ 何これ? ‐
着信欄には、職場の人らしき者の名前も有ったが 今日の夕方遅い時間帯から、ずーと“ナンシー”の名が連なっている。
‐チャールズを束縛する気!?
今まで放っといた癖に‐
リンレイは、そう感じたのだが ふと思い【発信】履歴を検索。
〇月〇日・××時××分△秒 =ナンシー宛て=
‐ ・・・・・ ‐
何度も確認。
チャールズは、ナンシーからの電話を掛け直している。
そうなった理由を知らない彼女。
でも聞く訳には行かない。
言えば、彼の携帯を勝手に見た事を知られるから。
>> 62
‥その事はリンレイの胸に引っ掛かったまま、日々を過ごして行く様になってしまった。
そしてチャールズは、彼女お手製の食事を取る度・ベッドルームに入る度に身体が重苦しく感じ、嘔吐や目まいをする事が増える。
その内、朝食をせずに出勤し いつものコンビニ‥ナンシーが働いている店‥へ行き、パンと飲み物 たまにサラダを買って食べる事も増えつつ有ったのだ。
チャールズが入る時間帯は、出勤途中の人達が一番 多い為 妻に聞きたい話しも聞けない。
かと言って時間をずらしてみれば、まだナンシーは勤務の時間帯じゃない・午後には上がってる‥と言った感じで、全く話しが出来ない状態だ。
勿論メールの返事など、一切なかった。
********
そんな日が幾日も幾日も続く中、遂にリンレイが怒り出したのだ。
「どうして私の作った物を食べてくれ無いの!?
一生懸命作ってるのに!
ナンシーさんの料理が、恋しくなった!?」
“夕食を外で食べて来た”
と言った彼に苛立ちを放ったので有る。
この数週間、メールで知らせて来る時も有ったが
>> 63
‥何も連絡せずに食べて来る時も有ったのだ。
「作ってる方の身にもなって!」
そう烈火の如く言いまくり、感情も抑えられなくなって携帯を見た事まで告げてしまったのだ。
「‥本当は、こんな話をしたくなかったけど‐‐‐‐」
チャールズが、リンレイの食事を口にすると どうなるか‥
部屋に入った時の身体的症状‥
それらを全て伝え、携帯を勝手に見られた事には 触れなかったが、内心は 良い気などする筈ない。
「酷い!!
食べたく無いからって、そんな風に言わなくても良いじゃないの!」
怒り冷めやらぬ口調で、リンレイが言った為
仕方なく彼は、デザートだけでも口にする事にしたのだ。
‐これで、初めて此処へ来た時の症状‥いや 今は、それ以上の状態になれば分かってくれるだろう ‐
そう考えて、ヨーグルトプリンを スプーンで救い
口へ運ぶ。
>> 64
‥食べてる最中に、咳き込み それは酷くなって
吐き気がする。
堪らなくなり 御手洗いへ‥。
全てを出すと胃が少し落ち着き、彼はリンレイの元に戻った。
「‥もう1度聞くけど、私の食事を口にして そんなに気分を悪くしたのって一緒に暮らしてからよね?」
いつもなら心配の声を掛ける彼女。
だけど“別れ”を予感していた為 そんな言葉は出ない。
本当に‥本当に
相手が好きなら、あの姿を見れば 心配してしまうだろう。
だけど、それは『普通』の恋愛の場合。
『不倫』でも、確実に一緒になれる確証たるものが有る場合。
道徳の道を外れていても大恋愛だと『錯覚』してる場合。
‥‥
今のリンレイには、どれも当てはまらない。
“肝心”な事を直ぐに言わず先延ばし・先延ばしにして、ギリギリの段階になってから話すチャールズ。
そんな彼を上手い事、操縦して来れたのは
妻・ナンシーのみ。
自分には出来ない。
ナンシーに適わない‥。
ここ最近で、痛感していた。
‥ 敗北感 ‥
と言う味を。
>> 65
‥リンレイからの問い掛けに頷くチャールズ。
だけど、彼は料理の事は別にして まだ彼女をキープしたい思いも有り、色々な言葉を駆使しリンレイを口車に乗せ様とした。
しかし、彼女には それを信じる様な気持ちが消え失せていて、今までなら幸せに感じていた言葉も、全て薄っぺらいモノにしか捉えられない。
「私はね、チャールズを信じてたの!
いつかは家庭を完全に離れて、こっちに来てくれると。
貴方の言葉を信用してたんだから!!
それだけ好きだったの!
でも、いつまで経っても
“いつか離婚する”
“近々、離婚する”
の“いつか”も“近々”も待てど暮らせど一向に来ない!!
そして、チャールズは
ナンシーさんの事を良い様に言わない癖して、奥さんが用意した薬を後生大事に持ってる!
子供さんの写真だって、大切にしてる事 知ってるのよ!
本当は家庭に戻る気持ちも有るんでしょ!?」
弾丸もビックリする程の 勢いで彼女が、言葉を浴びせる。
>> 66
‥「(写真は、ともかくとして)薬‥?どういう事だ?」
チャールズが話し掛けた。
「ボストンバックのポケットよ!
一緒に暮らしてみて、貴方は整理整頓に対して大雑把だって分かった。
それは良いんだけど‥。
あんなに大雑把なのに、薬だけ 凄く丁寧に整理されて入ってるなんて、ナンシーさんが用意してくれてたんでしょ!」
チャールズは、全く その事に気付いて無かった。
思い返してみれば たった一泊の旅行でさえも、ナンシーは
“何か遭った時の為”
と言っては、個包装になっている鎮痛剤・胃薬・風邪薬などを幾つか、鞄の中へ入れ取り出し易い様に準備していた。
彼自身 とても健康なので、殆ど使う事は無かったのだが 今回、突如として起こった体調不良には その薬が役立ったと言う訳だ。
‐ ‥だけど、不倫相手の所へ行くと知ってて、そんな準備をするのか?
いや!違う!
ナンシーの罠だ!! ‐
チャールズは、妻に問い詰めたくなった。
そして“肝心な事”を直ぐに言わず、先延ばしにする所が災いしてしまう。
「家に帰って妻と会い、話しをして来る」
>> 67
‥チャールズにしてみれば、話しの結果がキチンと分かった上でリンレイに伝え様と考えての事。
まだ、何がどうなるか
分からないまま 早々と話すのも、どうかと思ったからだ。
******
玄関の扉を開けて、出て行く彼に リンレイは、こう言った。
「私は、貴方に手料理を振る舞う事も出来ない。
チャールズが言う“離婚”を待つ事も、家に帰ると言った貴方を待つのも‥辛いだけ。
これ以上、面倒な事を言いたくない。
さようなら。
2度と来ないで。
それと忘れ物よ!」
と告げ、言葉尻と共にボストンバックを ドアの外へ放り投げ、扉を閉めた。
部屋の中で、一人になるリンレイ。
「信じてたのに。
信じてたのに‥。
食事も一生懸命、頑張って作ってたのに‥」
テーブルには、美味しそうな料理が沢山 乗ってある。
お皿の配置も、出来るだけ お洒落に‥食べやすい様にと考えて。
やっと食べてくれたデザートすら、半分以上残っている。
好きな人も努力も幸せも全て‥水の泡‥
打ちのめされた気分に、陥った。
>> 68
‥この気持ちを誰かに、聞いて欲しい。
アドバイスは要らない。
ただ同調して欲しいだけ。
悲しい・悔しい思いの中携帯を開き“悩み相談”の掲示板に投稿する。
答えは瞬く間に返って来た。
しかし‥
・悲しい?悔しい?
何を言ってるの!?
全部、自分が悪い癖に!
・相手はアンタの事よりも家庭が大事だったんですよ。最初っからね。
・呆れた‐。
不倫しといて、よくそんな事が言えますね。
・彼が手作り料理で、気分悪くなるって(笑)
それ、貴女が考えた作り話でしょ。
そんなに自分が可哀想って思われたいんだ?
・結論!!
アナタが好きな男は、アナタよりも奥さんが好きで大切だった。
だから家庭に戻ったんだよ。
・可哀想なのはアナタでも無く、相手でも無くて
奥サマと子供さん。
‐‐そう言った回答の数々。
リアルの友達も、似た様な言葉を返す。
『これに懲りて、既婚者なんかと付き合うのは
やめなよ』
『あのねぇ‥どんな理由でも不倫する方が悪いの!! 泣いてないで目ぇ覚ましな!』
>> 69
‥誰もリンレイの気持ちを分かろうとしなかった。
胸の苦しみや涙の渦だけが、膨張し続ける。
そして翌日からのバイトも、気を付けてたつもりが失敗の連続。
職場では、男に対する態度と女に対する態度と、全く違う。
自信満々の癖して、男には“自分に自信ない”事を それと無くアピールして見せる。
同性から嫌われるのは、そう言う面から来てるのに“私は、周囲の女から妬まれてるの”と言いた気な態度。
‐‐日頃の行いがモノを言い、誰一人として彼女をフォローする人はおらず 男性が助け舟を出す事で、彼女は ますます追いやられた。
本当は、同じ女性に相談し話をしたいのに。
言われる言葉は‥
「今度は失敗を盾に媚び売り。よく、やるよね」
*******
‐ 天罰 ‐
‐ 自業自得 ‐
はたまた‐都合よく考えるのか‐
それは、捉え方次第。
だけど
リンレイは
どうにもならない苦境に 放り出されている。
仕事を辞めれば生活が出来ない。
辞めなければ、同性からの白い目を浴び続ける。
>> 70
‥ = 自宅 =
チャールズが“家に帰る”と言って、リンレイのマンションから出て行った(追い出された)日の夜‐‐
自宅では、こんな光景が繰り広げられていた。
今日のナンシーは、朝 仕事に行く前も帰宅してからも、カレンダーをチラチラ見ている。
そして、夕食の支度に取り掛かる時間・食事時、片付け 娘を、お風呂に入れた後や子供とのコミュニケーションの時間などなど、合間 合間には 時計を見ていた。
「ママ。今日はカレダァ‐(カレンダー)と、お時計サンばかり見てるね。どうして?」
いつもと、少し違う母親にシャロンは不思議そうな顔で話し掛ける。
「そろそろ‥パパが帰って来るんじゃ無いかなって思ってるのよ」
ナンシーが娘を包容しながら、笑顔で伝えた。
その『笑顔』は、嬉しい気持ちから来たもので無かった。
‥『意味深なる笑顔』‥
だが、まだ幼いシャロンに そこ迄 見抜ける洞察力など有る訳ない。
純粋に、チャールズが帰って来る事を喜んでると 思っていたので有る。
>> 71
‥「良かったね!
パパが帰って来るの、楽しみね‐」
そう言って抱き付き返すシャロン。
そんな姿にナンシーが、答える。
「そうね。
どんな顔をして‥
どんな話しをして来るのか‥
とても‥ とても
楽しみで仕方ないわ」
******
およそ30分後、
ガレージに車が停まる音が聞こえる。
眠いのを我慢しつつ、ベッドで待っていたシャロンが起き上がり ナンシーの元へ。
「ママ‐!パパが帰って来たみたいよ。
(玄関で)お迎えするね‐」
娘は小さな足でドアの前まで走り、扉が開くのを 待った。
鍵を開ける音。
ドアが開かれる音。
「パパ!お帰りなしゃい。(なさい)」
シャロンの声が響く。
リビングのソファーへ腰を下ろしていたナンシー。
音と声を耳にしながら、笑みを零す。
意味あり気な笑顔。
ますます“深み”を放って。
‥‥‥。
>> 72
‥「シャロン まだ起きてたのか?
ママは何処だ?」
久々に会った娘の姿を見て喜ばしい気持ちも有ったが、それよりナンシーへの疑惑を晴らしたい心境が先走り つい、そんな言葉が口を突いたのだ。
シャロンは、自分が思っていたよりも そっけない父の態度を見て、ご機嫌斜めになり
「あっちにいるよ!!」
と怒りながら指を差した。
*****
チャールズが廊下を渡り、リビングのドアを思いっ切り開ける。
「ナンシー!
一体 どう言う事なんだ
!
リンレイに何か吹き込んだのか!?
何が目的なんだ!!?」
声を荒立てながら、憤慨する夫に向かい 妻が答えた。
「リンレイ‥?
あぁ 貴方の相手をしてくれたお嬢さんね。
良かったじゃないの。
着いて来てくれる人が居て」
皮肉たっぷりに、やんわりと言葉を返し こう続ける。
「私の目的なんて聞かなくても分かる‥と思ってたんだけど、理解出来ないなら教えてあげる。
-- 復讐 --
だだ それだけ」
>> 74
‥
ー・ 沈黙 ・ー
静けさが静けさを呼ぶ程に‥
少しでも手を触れると、見えないガラスが割れてしまうかの様な雰囲気‥
再び言葉を切り出したのは、チャールズだった。
「‥リンレイの料理か?
それとも部屋に充満していた香りか?
いや!まてよ!
その前に、どうしてナンシーが あの店で朝から働いてたんだ!?
仕事の間 シャロンは、何処に行ってるんだ!
放っといてるんじゃ無いだろうな!?」
これを聞き、妻がクスクス笑い返答する。
「あらあら。
真っ当な道を歩んでた貴方に、子供の事を言われるなんて」
と嫌味混じりの言葉の後で、こう続けた。
「シャロンの将来の為に、少しでも働いて貯蓄をしょうと考えたのよ。
私自身 まさか、あんなに早く採用されるなんて思って無かったけどね。
あの店には託児室が有るの。
仕事中、そこに預けてるわ」
「そんな話(仕事をする事に関して)俺は一切、聞いてないぞ!
働くのは自由だけど、何故 黙ってたんだ!?」
>> 75
‥「話たら聞いてくれたの!?
寝ても覚めても、別の女の事を考えてた人に、何をどう相談したって どうせ返事は上の空でしょ!」
今度はナンシーが怒鳴りつけた。
他の男性なら分からないが、チャールズの場合だとナンシーが言う通り
あの時に話されても、ほぼ聞き流す程度だったに違いない。
「‥それから、さっき貴方が話してた“料理”と“香り”なんだけど。
私が作った物以外は、受け付け無い様に‥
ずっと味に慣らしていたのよ。
チャールズがリンレイと知り合った時‐‐貴方の様子が おかしくなった頃あたり‐‐から、そうして来たの。
香りも同じよ。
普通なら、そこまで思わないけど そうじゃない場合、過敏に反応する様にね」
そう伝えるナンシーに、チャールズが また疑問を投げかけた。
「俺は、リンレイの料理と部屋の香りしか言って無いのに、どうして 詳しく分かったんだ?
手を組んでたのか‥?」
「何を言い出すのかと思えば。
何で 私が不倫相手の女と仲良く手を組まなきゃならないの?」
>> 77
‥「そうよ。
でも、その お陰で助かったでしょう?
(リンレイと知り合う前から)ずっと、私がイザと言う時の為と思って、準備してた薬に対し 散々 文句を言ってらしたけど。
“俺には必要ないから、余計な事しないでくれよ!”
ってね。
その“必要ない薬”に救われてる‥なんて考えたら楽しくて。
あなたが不倫相手の所へ行く時、こっそりと用意したのよ。
世の中には、不倫をされても 主人の事が好きだから、帰宅を待つ奥様や
帰って来なくて良いから、慰謝料や養育費を貰う方法を取る人
ショックで悲しくて落ち込む方
離婚の形‥
他にも色々なタイプが居るけれど、私は どれも違うの。
裏切られた分以上の復讐をしたい。
こんな事を言えば
『だから、旦那さんに
不倫“される”』
と周りは思うでしょうね。
だけど、そんなの気にしてられないし 関係の無い世間の目なんて、どうでも良いわ!
それよりも、私が許せないのは リンレイよりも何よりも
チャールズ!貴方よ!!
>> 78
‥私自身だけの事なら、また考えも違ってたかも知れない。
だけどね、貴方はシャロンの心まで傷つけ 裏切ったのよ!
あの子が、どんな思いで‥どういう気持ちで‥
帰りを待ってたと思ってるの!?
それを見て、涙ぐんだ夜も有るわ。
シャロンが、考えに考え 迷って悩んで‥貴方の元に電話して話した時
(留守録だったけど)
どうして 掛け直そうとしなかったの!?
流石に、貴方が ここ迄の人だとは思わなかった。」
「電話はナンシーが仕組んだんだろ?
シャロンは、まだ3歳だしアドレス探して掛けれる訳ない」
そう答えたチャールズ。
その言葉に
ナンシーが抱えている
復讐の炎が‥
夫を囲む様に
燃えたぎる
‐‐‐。
>> 79
‥「子供の事を、何ひとつ知らないで よくもまぁ今まで
“家族サービスをしてやってる”
なんて態度をしてたものね!
シャロンは、貴方の名前が分かるのよ。
私の携帯には
‐ パパ ‐
と表示される様にしてあるから。
操作は、アドレスからじゃなく着信履歴か発信履歴で見て掛けたのよ。
悪戯で違う所に、電話してしまったら駄目だし 私も側で見てるけど。
最初は、貴方の所へ電話しょうとしたシャロンを止めたわ。
でも、あの子は どうしても掛けたい!と言って泣いたの。
何度も 何度も。
やっと出た貴方が言った言葉は
『いい加減にしろ!』
その声は、近くにいた私にも聞こえた位よ。
少しでも
ほんの少しでも
娘を思いやっていたら、そんな言葉なんて出なかった筈だわ。
シャロンはね
酷く 酷く 傷ついたの‥‥‥』
ナンシーが、そう話しながら
ゆっくりと
チャールズの方へ
歩む。
>> 80
‥「ねぇ‐‐。
チャールズ。
自分が子供から、どう思われてるのか知ってる?
さっき シャロンが貴方を迎えに、玄関まで迎えに行ったけれど それは
父親が帰って来たのが嬉しいから。
そんな風に思ってると考えてた?」
これに彼は返答しないで いた。
あれだけナンシーから、帰宅しなかった期間の事や、電話の件を散々言われていたのにも関わらず
‐シャロンは、まだ小さい。
事態を理解してる訳ないだろう ‐
と高を括っていたからだ。
そんなチャールズの心境を見抜いたのか、妻が話し出す。
「あの子は 貴方に愛情なんて一つも持ってやしないわ。
チャールズが居ても、
“居ないのと同じ”
様に見ていくでしょうね」
と言い、娘の様子を見る為 チャールズだけ残しリビングを出て行った。
‐ ナンシーは大袈裟な奴だ ‐
と彼は思っていたのだが、どうしてか 拭い切れない気持ちも芽生えて来る。
それは
とてつもない
【 危機感 】
それが、どんな“危機”なのか‐‐?
心と背中に
冷たい風が吹く。
>> 81
‥その日から、ナンシーとチャールズの寝室は別々になった。
広く大きな家で有るから ゲストルームが3部屋も設けられており、当然 各部屋には 1人で休むにしても、充分大きなベットもバスルームも付いてある。
質の良いリゾート・ホテルを思わせる部屋。
そこにナンシーが移動したのだ。
チャールズの事だから、ほとぼりが冷め 落ち着き出したら、上手く言いもって この部屋に来るのは承知していた。
だから
香り高い芳香剤を置いておく。
甘い甘い香り。
持続性は抜群。
誰もが、それに心地良さを感じる程。
ただ1人だけ、
その香りに吐き気を催す。
ナンシーの巧みな技で、少々の香りにも過敏に反応するチャールズだ。
彼女は、夫が使っている部屋とキッチン以外の全ての部屋に、香りは違えど その芳香剤を設置していた。
そうなれば、当然
チャールズが家に帰って来ても、気分良く入れるのは
自分の部屋(バスルームと御手洗いも設置されている)キッチンのみ。
娘の部屋にも入れない。
>> 83
‥ -翌朝-
「ご馳走さま」
朝食を食べ終えたシャロンが、そう言って椅子から降り ナンシーに甘えた後、リビングのソファーに座って 朝早くから放送している子供向けのアニメを見ていた。
その番組に、主人公の父親が出て来た時 シャロンはチャールズの事を思い浮かべる。
初めて自分達を置いて、家を出て行った時の姿
帰って来ない事が寂しくて、気になって‥母親から止められても 泣きながらでも勇気を出して電話した気持ち、それに対してチャールズからの冷たい反応。
ようやく戻って来ても、素っ気ない言動。
‥誰に言われる訳でも無く、シャロン自身はチャールズを『冷淡』としか 捉える事が出来ずにいた。
>> 84
‥それでも、自分が今いる場所にチャールズが入って来た時
「おはよう。パパ!」
と笑顔で挨拶をしたのは、ナンシーから言って聞かされ躾られたからだ。
『嫌だと思ってる人にでも、ニコニコして挨拶をするのよ。
シャロンが、そうしてるのに相手は知らない顔したり、意地悪言った時は その人が悪いのよ。
挨拶をしないんだからね』
と。
だから、シャロンの笑顔と挨拶に対して チャールズが大して答える事もせず
「そんなにテレビの近くで、見ていると目が悪くなるぞ。
離れなさい」
と注意のみをした姿に、幼い娘の心は
“ 挨拶をしない父親が悪い”
と言う思いで、より一層 嫌悪感が広がる。
(ニコニコして御挨拶したのに。
パパは“おはよう”なんて全然!!言わなかった!)
そう思ったのだ。
チャールズからすれば、娘の笑顔と挨拶に、癒やされはしたものの シャロンとテレビの距離が、余りにも近かったので
思わず最初に出た言葉が、注意だっただけ。
しかし これ迄の態度が災いし、子供から恨まれる結果へと歩んで行く事となった。
>> 85
‥それは、まだ3歳とは言え 自分達を置いて出て行った時の父親の後ろ姿は 忘れられない光景で有ったし、今は 何処に行っていたのか分からないけれど これから先、成長して行き、年頃に達する時には--
あの頃・あの日、あの時
チャールズが何処に向かい、誰と会い どんな事をしていたのか--
自然と分かる時期が来るであろう。
そんな父親に対し
“小さい頃、色々と注意された時あるけどパパは 私を思ってくれてたのね”
などと考えるだろうか?
いや 年頃の娘ならば
“そんな事をしていた人に、注意なんてされたくない!”
と感じるであろう。
要するに--
『平凡な生活に“刺激が欲しい”』
と『理想』を実行に移したチャールズ。
『平凡な生活だけど、家庭と子供も守り抜きたい』
と願い『現実』に目を向け、実行に移したナンシー。
後者の方が、出来るだけ先を見て計画を立てて行く。
「シャロンは貴方に愛情なんて持って無いわ」
そんな風に、ナンシーがチャールズへ向けた言葉も、今の時期だけで無く 将来を見越しての事で有る。
>> 87
‥一口食べて、様子を見る。
何も起こらない・・。
二口目を食べて、様子を見る。
何も起こらない・・。
三口 四口‥
食べてく毎に様子を見る--を繰り返すが、何も変化は無く 美味しく頂けた。
- 家も有って、飯も食えるなら 別に他の所に女が居なくても良いな -
この期に及んで、そんな都合いい考えが浮かぶチャールズ。
リンレイに見せていた時の様に“良い顔”をして“いい言葉”を、ナンシーに掛けるつもりで口を開きかけた。
しかし そんな心の声が聞こえていたのか‥‥
まるで読心術者みたいに ナンシーの方が先に言葉を切り出す。
「この先も、ずっと私が作る食事が食べられるなんて、本気で思っているのかしら?
家も同じよ。チャールズ---。」
>> 88
‥「それは昨日、話していた料理の味つけと部屋の匂いの事か?
(※NO,76・77参照)
確かにリンレイの手料理や室内では気分が悪くなった!
お前は、俺が何処に行っても同じ様な目に遭うとでも言いたい気な口調だったが 本当は
“リンレイの所だけで”発作が起きる様、仕向けたダケだろ?」
鼻で笑いながら話したのは、彼の心には 昨夜に感じた -危機感- を、ナンシーに悟られたく無かったからだ。
大声を出すと返って、気持ちを読み取られてしまいそうな思いがした。
-見透かされたら最後!
どんな目に遭わされるのか分かったもんじゃない-
と思った為だ。
しかし そんなチャールズの小芝居も空しく‥
ナンシーの言葉が彼の身を包む。
----。
>> 89
‥「そう思うのなら、今すぐにでも 外食なり宿泊なり、大好きな刺激を求めてけば?」
振り向きもせずに、言葉を放つナンシー。
「じゃあ そうするよ!」
席を立つチャールズ。
しかし 心境は、こうだった。
- ナンシーの言った事が本当だったら、俺は何処に行って何を食べても
“死と隣り合わせ”と同様の苦しみを味わう。
泊まる場所も同じだ。
この家と妻が無ければ、俺は 間違い無く、いつか飢え死に・・。
だからナンシーを追い出す事は出来ない。
あの取り留め無い-危機感-は、この事なのか-
考え込む夫に、またもや 声が降り注ぐ。
「何処へ行っても構わないのよ。
貴方は
必ず 此処へ戻ってくるわ」
何とも言えぬ口調。
静まり返ったキッチンでは、
男性の指の様なウィンナーを切る
包丁の音が鳴り響いていた。
----。
>> 91
‥** 後書き **‥
主の澪です。
最後まで小説を読んで下さった皆様、どうも有り難う御座います!
この作品以前に、何作か此方のサイトで投稿しておりました。
ホラーもの・サスペンスもの・動物虐待
(‥のつもり)を書いていて、完成した作品も有れば 挫折した作品も有ります。
どの小説も、殆どの舞台が中世・貴族が中心だったので、たまには視点
(?)を変えてみょうと考えて書いた作品が、
【復讐】‥でした。
私は、不倫や浮気の経験が無い為 登場人物の感情や行動は、想像で書いていた為 お読みになられている方々の中には、不快と感じる点が有るかと思いますが、大変 申し訳ございません。
また機会が有れば、何か書いてみたいと思っていますので、宜しければ
また お付き合いの程よろしく、お願いしますね
-(^∀^)ノ
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