【復讐】‥行き着く先‥
「最初は、ほんの遊びだった。
だけど 今は違うんだ。
本気で想ってる」
夫・チャールズからの言葉。
不穏な空気を感じ取り、泣き出す幼い娘。
「パパ!パパ!
何処へ行くの!?」
それでも、振り返る事なく家を出て行った。
「泣かなくて良いのよ。シャロン。
パパは、きっと此処へ帰って来るわ」
妻・ナンシーが娘を抱き締めて、そう話す。
不敵な
笑みを浮かべて。
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‥ナンシーは、人から羨ましがられる程 恵まれた環境にいた。
夫のチャールズの仕事は 大手‥と迄、行かないが なかなかの高収入で
家も立派なもの。
その上、偉ぶる事も無く 優しい人柄だった。
また子供も授かり、3歳になったシャロンは 父と母の良い所を受け継いだ可愛い顔の女の子。
「天は二物を与えず」
と言うが、この家庭には不似合いで 三物も四物も与えまくってる。
そう思われても仕方ない そんな生活だった。
>> 1
‥しかし、みんな口にするか・しないダケで有って 何処の家でも 少なからずとも何か問題は有る。
当然、ナンシーの家庭でも同じだ。
最近‥いや もっともっと以前から、チャールズの様子が変だった。
帰宅時間は通常通り。
休日は、家族サービス。
会話だって変わり映えなし。
しかし、ナンシーの目から見て 何かが妙だと感じていた。
チャールズは
“普通”
“いつも通り”
を演じている様に思えたのだ。
それでも、確たる証拠が何も無い。
だから 尻尾を出す迄、様子を伺う事に決める。
それだけじゃない。
然るべき時の為
計画も企てて。
‥いつか、必ず必要になるわ!‥
そう思い 彼女も、またチャールズと同様に
“普通”
“いつも通り”
を演じる。
>> 2
‥翌朝。
「行ってらっしゃい。
パパ、帰ったら一緒に
お風呂に入ろうねぇ」
娘のシャロンが、チャールズに言う。
「姫からの お誘いにはパパは断れないな」
と嬉しそうな顔をして、頭を撫で ナンシーにも挨拶を欠かさず、仕事へ出掛けて行く。
これも また日常的な事。
だが 妻が夫に対する気持ちは‐疑心暗鬼‐
‥何かが怪しい‥
と思う様になってから、今まで チャールズとの間に、夜の生活は有る。
シャロンの育児に疲れてる事も有り、新婚当時よりも回数は減ったが 問題は“愛情”を感じない事だ。
誘って来るのは、いつも夫。
それは結婚当初から変わらない。
変わったのは
単にヤリたいからする。
それが、肌を通じて伝わって来るのだ。
ナンシーは その事について何も言わずにいた
大袈裟にならぬ程度で、感じる振りをして 最後は、満足感を味わった微笑みをチャールズに向ける。
尻尾を出さない様に、用意周到の夫。
そんな彼を陥れる計画の一つでも有ったからだ。
>> 3
‥賢い女なら、言葉巧みに会話を引き出して上手な方法で証拠を掴むだろう。
だけど、ナンシーは話術に自信が無かったし それで失敗しては元も子もないので止(や)めておいた。
彼女のやり方は、時間が掛かるものだったけれど その分“計画”が着実に進めて行けたのだ。
そして、ようやく
チャールズが尻尾を出した。
彼の方から切り出して来たのである。
それも、自分の欲求を満たす為だけに 激しい事をした後で。
ナンシーは、驚いた様な悲しい様な表情を見せていたものの 内心は 沈んでなんか無い。
企てて来た計画が、芽吹く時期の訪れを喜んでいたのだ。
そんな事とは露知らず‥
欲求を解消して、スッキリしたチャールズは
こう言った。
「僕には、心を支えてくれる女性が居るんだ‥。
家庭を守る事よりも、その人を守ってやりたい
そう強く考えている」
>> 4
‥話しによれば、その人とはサイトで知り合ったそうだ。
悩みや質問などを投稿すると それに応じた回答を書き込まれる。
投稿者が、読んで心地良さを感じた回答や もっと話してみたいと思ったら、個人ルームと呼ばれてる所へ誘い 回答者の承諾を得られれば、そこで1対1の書き込みをし合える。
いわばチャットの様なものだ。
個人ルームでの、やり取りは他人に見られないシステムとなっている。
チャールズは、初め調べ物をする為に 携帯を使ったのだが 入力文字をミスしてしまい こう言ったサイトがズラリと出て来た。
そのまま 放っておき、調べ物に戻ろう‐としたのだが 何となく気になって、アクセスしたのが そのサイトなのだ。
色々な悩みや相談、質問が有る中で 1人の話に目が止まった
>> 5
‥今まで付き合って来た人は、います。
*好きだから・・・
*一緒に居て楽しいから・・・
*気になる相手だったから・・・
理由は、その人(付き合うヒト)によって違いますが、共通点は好感を持てる。だから交際します。
それなのに、私は本気で人を好きになる!‥そこ迄の気持ちが持てません。
体の関係を持ち掛けられても、本当に好きじゃない人とは出来なくて断ります。
今、付き合ってる人は居ません。
この先 もし誰かと交際しても同じ事の繰り返しになりそうです。
どうすれば良いのでしょうか?
****
そんな感じの内容。
チャールズが、そのサイトを見るのは初めだったが 他の投稿では
“妊娠しました”
“子供が出来たら、どうしょう”
と言ったものが、ザッと目を通したダケでも大半を占めてる中で
この投稿は、珍しく見えたのである。
本当の事か嘘かは、分からないが ちょっとした軽い気持ちで回答を書き込んでみた。
>> 7
‥チャールズの会社形態は少し変わっていて、一般企業で有るのに午後は3時間~4時間程度の休憩が入る。
勿論、交代制だ。
余談では有るが、休憩時間も きっちり お給料に含まれている。
‐‐サイトで知り合った子と会うとなれば、この時間しか無かった。
休日を潰し、娘・シャロンの相手を放棄する程
彼には その子に対しての気持ちを持てない心境だったからだ。
相手の子は、聞いても無いのに自分の話しをして来ていた。
バイトで自生活していて 休みは不定期の週2日。
仕事が忙しければ、休日が1日しか取れず 就業時間もフルになる。
お洒落が大好きで趣味でも有る その子は20歳になったばかりだと言う。
‥20歳‥
自分よりも10歳も年下の女の子。
送られて来た写メは、当然ながら若々しくって
可愛くて‥大きく開いた胸元の服から 顔を出しているのは柔らかそうなミルクの山。
今までは口約束の様なもので有ったのに、チャールズは 本当に その子と会ってみたいと思う様になった。
リンレイと名乗る女の子に。
>> 8
‥リンレイが住んでいる所は、チャールズの家や会社とは反対方向の場所に有る様だ。
‐いつも休日には、家族サービスをしているんだ。
仕事が終われば真っ直ぐ帰宅しているし、たまには・・‐
こんな考えが浮かんで来た。
‐そうだ。たまには、休日の1日ぐらい 俺の好きな様に使ってみたい ‐
勝手とも、そうでないとも取れる言い訳を自分で 自分に正当化でもするかの様にして言い聞かせて、彼女へメールを送信した。
【リンレイさえ良ければだけど、一度お茶でもしたいと思ってるんだ。
もちろん、深い意味は無いから安心して下さい】
‐これで会えたら嬉しい。
無理なら、仕方ない‐
ダメ元で お茶へ誘いかけたので有る。
>> 9
‥それから、暫くの間
連絡が途絶えた。
彼女はマメに、返信をする子で遅くても翌日には送られて来る。
なのに幾日たってもメールが来なかった為、チャールズは 出した事に後悔を、し始めていた。
‐ 会えなくても、誘いさえしなければ 今まで通り、やって来れたかも知れないな‐
リンレイに何て言えば良いのか分からず、あれ以来 彼も又 連絡を入れて無かった。
仕事から帰れば、幼い娘の寝顔で癒やされるし、ナンシーも 家事をこなして美味しい食事を出してくれる。
会話だって有るし、何も悪くない。
しかし 家庭とは別にして、常に心の何処かで
リンレイの存在は確かに有った。
夜、妻とベットを共にする時 何故か考えてしまう。
‐ あの子の肌触りは、どんなだろう?
その時の声は‥? ‐
勝手にシチュエーションを浮かべて、想像していた。
今 自分が抱いているのはナンシーなのに、頭の中はリンレイの姿が映る。
>> 10
‥そんな事を考えながら、大人の時間を過ごしてるなんて言える筈も無い。
ナンシーに悟られる訳に行かない。
だから
“普通に”
“いつも通り”
の態度で居ようと思ったのだ。
‐ 何も察知されてません様に! ‐
と願いつつ。
*******
リンレイから、再びメールが来たのは一週間ぶりだった。
【お返事遅れて御免なさい。
バイトが、凄く忙しくて 誰からのメールでも まともに読めない程 疲れていました。
やっと休みが取れて、携帯を開き ゆっくり読んでいたら、チャールズからの お誘いを見て・・
。
お茶の相手が、私でも良いの?
冗談じゃなくて本当に?】
彼は これを読み、ますます会いたくなった。
誘われたからって、簡単にホイホイ着いて来るので無く こうやって躊躇う事に、惹かれたのである。
>> 11
‥【バイトお疲れ様。
今日は、久々の休日の様だけど体は休まってる?
お茶の誘い、冗談じゃないよ。
一度で良いから会って話してみたいと思ってます
週末で休み取れる日が有ったら、教えて欲しい。
それに合わせるよ】
そう書いたメールを送信した。
その翌日に、リンレイから返事が届く。
【おはよう。
直ぐに、お返事が出来なくて御免なさいね。
私も貴方に会いたいです。
お話したいです。
だけど色々と考えてたの。
チャールズには、家庭が有るでしょ?
奥様も子供さんもいる。それなのに、週末に私と会ったりなんかしたら、怪しまれない?】
‐確かに、その可能性も出て来るけど‥ ‐
読みながら そう思ったが、その反面
‐ 後 ひと押しだ! ‐
と言う気持ちにも駆られた。
暫く、似た様な感じのメール交換をしていたのだが リンレイから、こう告げ来た。
【ねぇ!
チャールズの会社って、午後に3~4時間程度の休憩入るんだよね。
だったら、その時間帯に会うのは どう?
いけない?】
>> 12
‥これで、話は決まった。
リンレイの気が変わらぬ内に さっさと待ち合わせ場所・時間を設定したのだ。
日程近くになって、断られる可能性も有るが そんな事を言っていたらキリが無い。
だからチャールズは、来るべき日が来るまで待った。
******
当日。
休憩時間と共に、会社を離れて車を走らせた。
約40分弱の所にある、待ち合わせ場所へ。
大きな噴水広場。
側の駐車場に停め、歩みを進めて行くと まばらな人並みの中 噴水のヘリに座っている女の子が目に入った。
今朝、貰ったメールには チャールズが分かりやすい様に 着ていく服や髪型まで書かれて有ったので、一応 確認してみる。
‐ ‥‥‥‥ ‐
携帯画面と女の子を、何度も見比べた後 どんどん足早に近付く。
「失礼ですが、リンレイ・ファームさんですか?」
そう声を掛けた。
「はい。そうです。
チャールズ・スミスさんですよね?」
彼女も聞き返し、彼が頷くと リンレイは笑顔を向けた。
>> 13
‥「こんにちわ!
会えて凄く嬉しいです」
以前 見た携帯での写真よりも、ずっとずっと可愛い子。
身長は、想像していたより小柄だったが チャールズの好みでも有った。
髪も長くて、綺麗なブロンドヘアーに毛先を巻いていて‥リンレイの魅力を引き出している様に思えたのだ。
外見だけでも、より一層 惹かれ その後に約束通り カフェでのティータイムで会話をした時も、彼女は メールで受けていた印象と全く変わらなくて、とても楽しい時間を過ごせた。
会社へ戻る時間が近付く頃、チャールズはリンレイに また誘いの言葉を掛ける。
答えは “イエス”
彼女と一緒に居る時は
ナンシーの事も
シャロンの事も
頭に無かった。
>> 15
‥その日は、どちらとも無く そう言う方向へ話の流れになった。
そんな風になる様、チャールズが考え・考え持って行ったとも言えるが。
会社には、早退届を出した。
長年 勤めて来た職場で 欠勤も遅刻も早退も、一回も無く 仕事の能率も良い彼だった為、すんなりと受理されたのだ。
ナンシーは、家計を握っているが貰って来た給料の明細は見ない方だった。
見ているとしても、収入欄のみである。
と言うのも会社の明細の表示の仕方が、ややこしい書き方をしているからだ。
よっぽど 細かい人間じゃないと見ないであろう‥。
早退等の表示を、妻は目を通さない。
だから チャールズが、それを利用したのだ。
*******
ホテルでは、リンレイが凄く緊張しているのが、よく分かった。
初めてサイトで知り合った時も、メールをした時も 彼女は
【経験ありません】
と言っていた。
だが、彼は半信半疑でも有ったのだ。
好みは人それぞれと言えども
>> 18
‥そこから先は、とても慎重に彼女の反応を伺いながら、ユックリと指で広げて行き いよいよ本番となった。
痛みを訴えながらも、自分を求めてくる若い・若いリンレイの姿。
ナンシーとは全く違う快感。
これ程までに無い濃厚な味わいを、奥深く堪能した。
******
情事を終えた後も、チャールズは リンレイと又 会いたいと思う様になる。
身体が良かった事も有るけれど、それだけじゃなくて 相手の人柄とか‥そう言った部分も、今まで以上に知りたいと感じたのだ。
ホテルからの帰り道、彼女が希望した場所まで車で送り届けた時に、チャールズの方から
「また会える?」
と訊ね、リンレイが答えた。
「奥様や子供さんにバレたりしない?
大丈夫なら、私も貴方と同じ気持ちよ」
‐ナンシー‥シャロン。家庭を捨てたくない。
だが、リンレイも手離したくない ‐
勝手だと分かっていたが 気持ちは変えられず、
彼女を繋ぎ止める為
「ああ。平気だ。
妻には愛情が無いから」
そう伝えた。
>> 19
‥「えっ?どうして?
仕事が終われば、真っ直ぐ家に帰って 休日には家族サービスを怠らない程、大切にしてたんじゃないの?」
リンレイが驚いて問いかける。
「それはシャロン‥子供が居るからだよ。
妻に愛情が有れば、君と関係を持とうなんて考えない。
リンレイを愛したいと思ったから、誘ったんだ
メールを始めた頃から、今日までの間 妻には貰った事の無い愛情や気持ちを、君は俺にくれた。
とても感謝しているんだよ。
子供でしか繋がっていない家庭に戻っても、心は冷たいだけだ」
嘘・半分 真実・半分って所だが、そんな言葉を彼女に向けた。
「そうだったの‥。
何も知らなくて。
私で力になれる事あったら言ってね。
頼りないけど、出来る限りの事をしたいの」
「有り難う。
いつもの様に会ってくれるだけで、充分 心が満たされるよ。
俺にはリンレイが必要なんだ」
最後の言葉が決め手となり、彼女は これまで以上にチャールズへ親密な想いを寄せる様になった
>> 21
‥毎日、毎日が平穏で平凡な家庭。
ナンシーにも特別な不満が有る訳じゃない。
娘は可愛い。
だけど
刺激が無かったのだ。
それを与えてくれたのが リンレイ。
刺激に飽きたら、子供を引き合いにして別れるつもりだった。
だけど いつまで経っても飽きない。
知らず知らずの内に、
ナンシーとは違う魅力を持つ彼女へ 心が傾いていた様だ。
自分の気持ちを、何度も再確認してからは
1人暮らしをしているリンレイが気掛かりになった。
ナンシーなら、自分が居なくてもシャロンが居る。
でも彼女には何も無い。両親や兄弟もバラバラで、連絡先すら分からない身の上‥。
どうするべきか、彼は悩み それを一気に晴らすかの様に 妻で激しく処理をした。
でもナンシーは
“普通に”
“いつも通り”
の表情を向ける。
‐リンレイだったら、こんな時は‥‐
そんな気持ちと、スッキリした体感とが合わさり 彼は、妻に話したのだ。
>> 23
‥「何だよ。
その意味深な言葉は。
シャロンの事か?
俺が、いざとなれば子供を手離したくない!‐そう思ってると考えての事か?」
ナンシーからの発言に、チャールズが切り返す。
「さぁ‥?
どういう意味かは、これから貴方自身が身を持って体験する事。
私が 今の時点で言える事は、さっきと同じ。
“貴方は此処へ戻って来る”」
そう言うと妻は、再びベットに潜り込んだが夫には背を向けた。
そんな態度や淡々とした言い方をされても、当然だし 文句は言えない。
チャールズも頭では理解している。
しかし身勝手ながらも、気持ちとしては暖かさを求めた。
リンレイの存在が、また大きくなる。
「・・早速だけど、明日からは暫く帰らない」
とチャールズが言い、彼も またナンシーに背を向けてベットへ潜った。
自分が
‘既に’
妻からの罠に
“嵌っている事”
“陥ってる事”
にも気付かず。
>> 24
‥その日の夜は、なかなか寝付けない。
チャールズは
‐ナンシーもか?‐
と思ったが、背中を向けていたし確かめ様ともしなかった。
結婚当初 些細な事で喧嘩して、こんな風に互いが背中合わせのままだった時もある。
だけど、その時は いつだってチャールズが妻の顔を覗き込んだり、キスしたりして仲直りとなっていた。
‐いつから、それを しなくなったんだろう‥‐
もぅ思い出せなかった。
シャロンが産まれて、間もない時は 子育てに奔走してて喧嘩どころじゃなかったし、少し大きくなれば 仲良くしてないと泣き出す様になったのだ。
娘が居るから平穏な生活を保てているのに、娘が居る事で夫婦間の関係は冷め始めていた。
本当の所、努力や歩み寄りの問題なのだが チャールは気付いておらず、
ただ ただ
刺激の中にも安らぎを求める事しか、頭になかったのである。
>> 25
‥ベットから抜け出し、大きめの鞄を取って
取り敢えず、必要最低限の荷物を詰め込む。
暫くビジネスホルにでも泊まるつもりだ。
‐ナンシーから離れ、落ち着けば 今後の事もユックリ考えられる‐
と思って。
*******
・翌朝・
“いつも通り”
“普通”
の妻。
そして変わらない食卓。
全て、シャロンに不安を与えたくないと感じたナンシーの配慮。
「でね!でね!昨日、キャロライン(友達の名前)の弟がね カニさんとジャンケンして負けたんだよ。後ねぇ‥」
娘は、ペラペラペラと
よく喋っていて 何も知らず朝から賑やかだった。
「あっ!パパ。
おはよう。
見て見て!ママがね、パンに ジャムで猫さんの
お顔を書いてくれたのよ。
ブタさんみたいだけど、猫さんよ。
食べ過ぎたのかなぁ」
と食パンを見せて来た。
「パパ‥?」
いつもなら、返事を返してくれるのに 今日は無い。
>> 26
‥今になって、心苦しくなり シャロンの目を見る事も出来なくて 出されたコーヒーでサラダを流し込み、さっさと支度を済ませて玄関へと向かった。
いつもとは違う父親の気配。
そして、不穏な空気。
シャロンは チャールズを追いかけた。
「パパ!パパ!待って。
何処に行くの!?」
会社だと分かっているのに、どうしてか不安になる。
“行ってきます”
の言葉も無い。
「ねっねっ!
今日はね、お絵かきして遊ぶのっ。
パパのお顔も書くから、見てね」
そう言っても答えない。
振り返りもせず、家を出て行った。
訳が分からず 大声で泣く小さな娘・シャロン。
ナンシーが側に来て、娘を暖かく抱き締めて
「泣かなくて良いのよ。シャロン。
パパは、必ず帰って来るわ」
と微笑を称えながら、宥めた。
>> 29
‥待ち合わせ場所に着くと、リンレイが駆け寄り 車に乗った。
「どうかした?」
様子を伺う感じで、彼女が訊ねる。
「‥家を出たんだ。
まだ離婚までには至ってないけど、それも時間の問題だな」
そう言った事も嘘じゃない。
しかし、もう一つの気持ち・シャロンの事は話さなかった。
愛情の有無は別として、離婚してない限り
リンレイは不倫相手。
関係を持っている男の家族‥妻や子供‥の話なんて聞きたくないだろう。
もし、それが良くない事(愚痴や不満・悪口)なら耳を傾けると思うが。
妻とは別れても良いけど、子供とは離れたくないし リンレイとも続けて行きたい。
流石に 此処までの事は
言えやしない。
>> 30
‥「それで、これから
どうするつもりなの?」
少し間を置いて、リンレイが口を開いた。
「今日は、取り敢えず仕事が終わったらビジネスホテルに泊まって 今後の事を考えるよ」
チャールズが答える。
「・・それなら、私の所に来ない?
そんな立派なマンションでも無いけど、ホテルの様にチェック・アウトを気にしなくても良いんだから」
その言葉を皮切りに、リンレイとチャールズの会話・雰囲気・そして、双方の合意の元 同棲が決まったのだ。
それから2人は、予定していた通り この時間を利用してラブホテルへと向かった。
‐今夜から、一緒に過ごせる‐
チャールズもリンレイも同じ気持ち。
しかし その反面
‐口約束かも知れない‐
これも2人同様に思っていた。
もしかしたら、今日が最後になる可能性が有る為 忘れられない様な、甘美な時間を過ごす事にしたのだ。
>> 31
‥事を終えて、2人は
夜に会う時間を決めた。
チャールズは、リンレイの家を大体でしか知らなかった為 道案内をして貰う事にしたのである。
*******
その後、仕事に戻り 再び勤務に集中する。
何かに没頭して無いと、直ぐ 娘の姿を思い出してしまうのだ。
そして、リンレイは自宅に帰り チャールズが泊まれる様に掃除をして、消耗品や必要な物を買い足しに行ったが、ついつい携帯へ気が向いてしまう。
一緒に暮らす事のキャンセルをされるのでは無いかと。
‐仕事中だから、メールや電話なんて出来ない。私もバイト中は同じ‐
そう思う事で、準備に取り掛かるものの
どうしても感じてしまう。
‐ 一言で良いから、言葉が欲しい。
安心出来る言葉を。‐
彼女は、もうチャールズに“ 愛されてる ”と思っていた。
間違いでは無いけれど、彼にとっての「一番」は 子供‥シャロン‥で有るなんて考えて無かったのだ。
『家を出た』のは、妻と子供に未練が無いから!
と判断していたから。
>> 34
‥ * 夕食 *
リンレイのマンションは、彼女が口にしていたより 遥かに広くて大きい所だった。
「お料理を温め直してる間、ホットドリンクでも飲んで楽にしててね」
手際良く飲み物の用意をして、チャールズに差し出す。
「これって自分で作ったオリジナル・ドリンク?
初めて嗅ぐ良い香りだ」
と彼が言う。
「そうよ。ミルクと合わせて‥美味しくないかも知れないけど」
その言葉を聞きながら、チャールズは ドリンクを飲んだ。
「凄く美味しいよ。ありがとう」
と御礼を述べると、リンレイはホッとして キッチンへ向かった。
しかし その数秒後
チャールズは、何となく胃に不快感を感じる
だが 我慢出来ない程じゃないし、直ぐ治りそうだったから黙っていた。
「お待たせ‐」
リンレイお手製の食事が並べられる。
どれも これも良い香りが立ちこめ、胃の不快感なぞ忘れてしまう位だ。
「頂きます」
彼は、お肉を口にする。
好みの味付けで、最高なのに
胃が受け付け様とせず、苦しい感覚が身体を巡る。
>> 35
‥「口に合わない?」
なかなか食が進まないのを見て、リンレイは訊ねた。
「いや。そんな事ないよ。ナンシー‥妻が作る料理は、いつも辛くも無ければ甘くもない平凡な味つけばかりだから、家庭で しっかり味の染み込んだ手料理を食べたのは初めてなんだ。
それでビックリしただけだから」
そう言って、一気に出された食事を口にしては、何度か 飲み物で流し込んだ。
「ありがとう。リンレイ。とても美味しかった。また食べたくなる位だよ」
と食後に御礼を述べる。
「さっきは、要るのか要らないのか分からない程、ちまちま食べてたのに 今度は 誰かに盗られるかの様に、急いで食べる貴方の姿の方が驚きよ。
でも気に入って貰えたのなら良かった」
ナンシーの様に、冷笑などせず リンレイは温かな笑みを浮かべて話した。
「全部 俺の好きな味付けばかりだったし、嬉しかった。
え‥と。トイレを借りたいんだけど 何処にある?」
とチャールズ。
胸やけがして仕方ない。
「此処を出て、直ぐ右の扉にあるわ」
その声と、ほぼ同時に立ち上がり 御手洗いへと足早に向かった。
>> 38
‥リンレイが使っているベッドは、セミダブルだった。
「ナンシーさんと貴方が夫婦で使ってるベッドより、小さいと思うけど‥御免なさいね」
と彼女が、布団に入ったチャールズに言葉を掛けた。
「いや‥。
大きさなんて関係ないよ。
ダブル(ベット)で有ろうが無かろうが、必要なのは互いの愛情だ。
ナンシーとは、その大事な事が薄れ行き もぅ何も無い。冷めたものだよ」
彼は、リンレイに そう答える。
まるで、ナンシーとは
夜の生活が全く無かったかの様な口調。
ニュアンスで‥。
本当は、愛情の有無は別として 妻との間で、その行為は有ったのに。
此処まで来て、リンレイとの関係を壊したく無かった為 つい、そんな言葉を口にしたのである。
>> 41
‥それは、どんどん酷くなりチャールズはベッドから飛び降りる様にして 窓に駆け寄った。
部屋の扉よりも、一番近い場所に有った為 よろけながらも そこに着くと鍵を開けて、空気を吸ったのだ。
最初は、息苦しさに伴って息切れをしていたが夜風に包まれてる内に 落ち着きを取り戻す。
普段なら寒く感じる空気も、今は とても気持ちが良かったし夜景も綺麗で暫くの間 窓の外を眺めていた。
そして、少しだけ自分の事を振り返ってみる。
‐ ナンシーは、俺が家に戻って来る‥とか言ってたな。でも、その家を出て行く事に反対はしなかった。
リンレイと関係を持ち、同棲する事となったのも 別段、強引に迫った訳じゃなく 押しかけた訳じゃない。
合意の上だ ‐
人の道を外している事は分かっていたが、罪の意識から逃れる為 そう考え 気持ちを誤魔化した挙げ句・遂には
‐ナンシーさえ、刺激を与えてくれれば良かったんだ ‐
責任転嫁マデし出した。
‐悪いのは自分じゃない‐
時と共に、そんな心境に変貌して行く
>> 42
‥ = その頃 =
チャールズの娘・シャロンは父親の帰りを待っていた。
いつもなら、もぅベットに入り ナンシーに寝かし付けられている時間なのだが、今日は部屋へ行こうともしない。
「パパが帰って来るまで、起きてゆ(る)!!」
と言いリビングのソファーから頑として動かなかった。
朝、チャールズが無意識に放っていた不穏な空気を忘れられずに居るのだ。
「シャロン‥。パパはね 今夜、とても楽しい場所で お泊まりしてるのよ」
ナンシーが、娘を抱き上げる。
日本では 子供が幼い間、親と同じ部屋で寝る事が殆どだけど 海外では
赤ちゃんの頃から別室が主流。
彼女の家庭でも同様だ。
「今日は、一人でネンネじゃなくてママと寝ようか?
‥パパが帰って来るまでね」
その言葉に、気持ちが少し変わったのかシャロンは大喜び。
「うん!
ママと一緒にネンネする‐!!
パパの代わりに、なっちぇ(なって)あげるねぇ」
そう言い、母親に抱きついた
‥‥‥‥。
>> 43
‥「ねぇ。ねぇ。ママ!パパが、お泊まりしてる楽し‐い所って どんな所??」
ナンシーに甘えながら、シャロンが訊ねる。
「さぁね。それは、ママにも分からないわ。
でも、きっと家に帰って来るから。待ちましょうね」
小さな娘の頭を撫でながら話す。
その時、シャロンは母親が うっすら涙目になったのを見た。
まだ3歳で有るが、父・チャールズよりも母・ナンシーの方が強い!
と言う事は分かっていた。
強くて、怒ると怖い母親。
今まで そんな瞳を見た事なんて無かった為、シャロンは驚いたのだ。
「ママぁ。どちたの?
(どうしたの?)」
そう声を掛ける。
「何でも無いわ。
ママは大丈夫だからね。さぁ。シャロン。もう寝なさい。
ネンネの時間は、とっくに過ぎてるのよ」
と言い、娘を抱き寄せた時には いつものナンシーの表情に戻っていた。
シャロンは、こんな時どう言えば良いのか全く分からない。
凄く凄く困ったけれど、頭を振り絞って こう伝えた。
「ママ大好きよ」
>> 44
‥ = 不倫部屋 =
自宅が、そんな光景になっている事など考えもせず、チャールズは未だに窓の外を眺めていた。
「何してるの?」
リンレイが部屋のドアを開けて聞いて来る。
「ちょっと、外気に当たりたくてね。
勝手に窓を開けて悪かった」
チャールズは、彼女の部屋が息苦しいとは言えず そう伝えたので有る。
「謝らないで。
私の部屋は、今日から貴方の部屋でも有るの。
自由に使ってね」
文句も言わず、笑顔を向けるリンレイに彼は心が和んだ。
「ありがとう。
でも、もう閉めるよ。
夜景も綺麗だけど‥君を見てる方が良い」
窓を閉めた後、チャールズがリンレイを抱き締めた。
何処にでも有る様な室内が、心地良い空間になる。
「ずっと一緒に居たい」
自然に言葉が漏れ、それに応える様な彼からのキス。
‐チャールズは、きっと離婚して私の所へ来てくれる ‐
それがリンレイの気持ち。
不倫=不道徳。
最初は理解していたのに、彼と過ごす内
好きな人と一緒に過ごしたいのは自然な感情‥。
純愛に似ている‥。
そんな解釈をする様になった。
>> 45
‥「・・私、シャワーを浴びて来るね」
舌を絡めた濃厚なキスを何度か交わした後、リンレイが そう話してクローゼットからパジャマを取り出し、部屋を出て行く。
チャールズは側に有ったソファーに座り、こんな事を考えていた。
‐夫婦愛に恵まれていないと思っていたが、なかなか運は良い方だな。
リンレイは、俺が家庭持ちだと知りながらも愛情と刺激を与えてくれる。
若いし、全てにおいて魅力的だ。
ナンシーは俺と別れない気でいる。
まぁシャロンが居るからだろうけどな。
どちらにしろ、自分には帰る場所は確保されてるんだ。
“家庭”か“不倫相手の場所”か‐‐。
俺も、まだまだ捨てたモンじゃない‐
そう思えば、気が楽になる。
>> 46
‥一方、シャワーを浴び終えたリンレイは部屋へ行く前に、リビングへ向かい自分の鞄から携帯を取り出す。
友達からのメール。
通販の広告メール。
芸能ニュース。
それぞれをチェックした後、サイトへアクセスする。
サイトとは、チャールズと知り合うキッカケとなった、あの掲示板だ。
彼とデートをして肌を重ねる様になってからも、此処を訪れていたが投稿はしていない。
専ら見ているだけの事。
今も同じ様に読んで行くと、不倫に悩む女性からの投稿が有った。
《‥‥先が見えません。でも彼とは別れたく無い。不安と相手を好きな気持ちに、挟まれています。どうすれば良いのでしょう》
それに対しての回答の殆どが『別れ』を促していた。
〔奥さんが可哀想〕
〔彼に子供は居るの?
その子の事、考えた時ある?〕
〔本当に相手が貴女を、想ってるなら奥さんとの離婚を進めてる筈〕
〔あ‐あ!遊ばれてるのも知らず、何を言ってんだか〕
>> 47
‥
〔大体、不倫なんてする奴は
・自己中心的
・妙に自信を持っている
・わがまま
・常に自分が正しいと思っている。
・人と何処かズレているが、それに気付いていない
‥‥〕
その他にも類似た事が書かれて有り、投稿者を慰めて励ます回答は、指で数えられる程しか無い。
リンレイは、自分自身に直接 言われてる言葉じゃ無いと分かっていても 気分が悪かった。
‐不倫を経験した事の無い人に(投稿者も)これだけの言葉を吐かれたく無いでしょうね!!
経験した者にしか分からない感情。愛情の深さ。想い‥。
“恋愛”なら誰もが応援してくれる。
同じ心境でも、それが
“不倫”になれば、大部分の人が冷たくなる。
‥その考え方の方が理解出来ないわ!
人を好きになる気持ちは一緒なのに ‐
そう心の中で思った。
携帯を閉じて、再び鞄を探り 小袋を取り出す。
買い物のついでに購入したナイト・コロン。
ほのかに香る甘い誘惑。
時間の経過と共に、匂いが変化するコロン。
最後は激情の香りが漂う。
それを首筋に付けて、彼の元へ向かった。
>> 48
‥真っ白なワンピース型のパジャマに身を包んだリンレイが、チャールズの側にやって来た。
近寄ると滑らかな体の線が、うっすら透けて見える。
彼は その上からシャワーを浴びさせたい心境になりながら、彼女を引き寄せた。
キスをしながら胸元のボタンを外す。
そこから手を滑り込まして、豊かなミルクの山を触り 舌先で飲み口を転がし‥綺麗な足を撫で付け、デリケートに有る豆を刺激しつつ リンレイの反応を見て、チャールズは自分のモノを入れて行く。
ホテルの時も、今も 彼は彼女の着ている衣類全てを脱がさない。
ショーツは仕方ないが、それ以外の部分は 乱れた状態のまま残すのだ。
最中の間、リンレイは思う。
‐・・今まで一緒に居られる事が幸せだったから、深く考えて無かったけれど、チャールズはナンシーさんとも こんなプレイ的(?)な事をしてたのかしら‥? ‐
そんな思いと同時に、突かれ続け 思考が定かで無くなりかけた。
>> 49
‥それでも、頂点に達する前に感じた思いは 根強く残る事となる。
‐そんなの嫌だわ!
私以外の女と同じ事を、して欲しく無い。
チャールズは、ナンシーさんより子供よりも私を選んでくれた。
この人を癒やし励ませるのは、私よ!
家庭じゃない!!
戻らせたくない!!
誰にだって、幸せになる権利は有るのよ! ‐
と・・・。
対するチャールズは、家庭の事も不倫愛の事も‥何も考えて無かった。
ただ ただ、リンレイの身体に溺れていたダケ。
彼女から放たれたコロンの香りは、最初から最後まで彼を誘惑。
‥‥‥
事が済み、チャールズは爽快感を味わった時だった。
風邪でも引いたかの様に咳が出だしたのだ。
一旦 出ると、なかなか止まらない。
「大丈夫!?
待ってて。今お水でも持って来るから」
リンレイは急いで部屋を出て行く。
それから彼女が戻ってくる迄の僅かな間、少し治まった時も有るが また直ぐに咳込んだ。
一晩中、その状態は続いく。
置き薬の咳止めを貰っても同じ。
チャールズは苦しみ続けた。
ずっと‥
- << 51 ‥結局、その日の夜は自分の咳で寝付く事も出来ず 翌朝 リンレイが用意した食事にも手が付けられない程だった。 「今日ぐらい会社を休んだら? そんなに咳込んでたら、仕事にならないでしょう? 私も今日はバイト休みだし」 彼の身体を心配する気持ちも勿論あったけれど、チャールズが休めば一日中一緒に居られる‥そんな思惑も、少なからず有った。 「そうしたいけど、こんな日に限って大事な会議が入ってるんだ。 だから行って来るよ」 そう言って身支度を整え、彼は出勤する。
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