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マッチングアプリで知り合っていきなりお泊まりを誘われました
昭和時代の方々に質問!
以下の点に留意していれば、女性にモテやすくなれるでしょうか?

犬に頬寄せて

レス263 HIT数 79322 あ+ あ-

ボニータ( ♀ 16kZh )
09/06/07 12:07(更新日時)

私の夢は…

白~い毛の可愛い顔した
マルチーズを飼うんだぁ、、
頭にリボンを付けて
毎日散歩するよ

運命って有るよね?

運命の子と出逢ったら
一緒に暮らすんだぁ…


私と愛犬の
不思議な
実話の物語です。



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No.1159516 09/04/14 02:40(スレ作成日時)

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No.1 09/04/14 02:56
ボニータ ( ♀ 16kZh )

今日は天気が良い。
桜の蕾を気にする季節
春を意識した服に着替えた。

半年スペインに留学してた私は
久し振りに
日本に帰って来てからの
お出掛け…

そして何か良い事が
起きそうな予感がザワザワ
してた。

絵を書く画材でも買いに
ハンズに行こう…

これから始まる
運命の日だとは
予想も出来なかった。

No.2 09/04/14 03:14
ボニータ ( ♀ 16kZh )

久し振りに
昔住んでた街のハンズ迄行く事にした

この街は思い出の街
私はキャバクラで水商売をしてた
2年間No.1~No.3を維持し
自分成りに頑張ってた
雑誌にもテレビにも出た

でも今の私には関係無い
半年前に水商売を上がった。
半年前迄は
夜の街しか知らない風景

空を見上げた…
デパートに
【屋上にわんちゃん猫ちゃん大集合】
垂れ幕が掛かってた

『犬触れるかな…』
犬が大好きな私は笑みが溢れた

気が付くと私は小走りで
デパートに向かってた

No.3 09/04/14 03:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )

【催し物会場】
屋上に行くとワンワン犬の鳴き声が聞こえた
ワンワン聞こえるだけでウキウキする

どうやら今日迄
移動のペットショップが来て
仔犬や仔猫を販売してる様だった

私は白いマルチーズを探した
その時、飼う気持ちは無かったけど
見て癒されたかった
『居た!』


勿論可愛いけど
可愛い留まりで
特別な感情が出なかった

でも折角来たので
一周回った

!!
…たぬき?たぬき?
あ。サルか…
『猿?!』

何故か一匹猿が居る…

『すみませ~ん
何で猿が居るんですか?』
近くに居た店員さんに
思わず言ってしまった

No.4 09/04/14 03:39
ボニータ ( ♀ 16kZh )

女性の店員さんが何故か
眉毛を下げてこっちへ来た

『この仔犬、ポメラニアンですよ』

私は目を擦った

顔はハート型に毛が一本も
生えて無くツルツルで
よく見ると体の毛もバラバラ
仔犬なのに円形脱毛症
みたいなハゲも有った

顔に毛が生えて無い処が
猿にソックリだった

『ポメちゃん病気か
何か有ったんですか?』
私はその仔犬に釘付けに成った

No.5 09/04/14 03:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そしてよく見ると
値段の紙が
24万円が×に成り
18万円が×に成り
12万円に成っていた

すると店員さんは
重そうな口を開いた
『…
この仔犬は…
一度飼われたんですけど
飼い主に虐待されて…
返品されたんですよ』

店員さんのお姉さんは
そう言うと
その仔犬を抱っこして
抱きしめていた

『ストレスで毛が生えないし
食べても吐いちゃうんです
急に悲鳴みたいな鳴き声も出すしストレスでしょう…
この仔犬はお勧め出来ません…』

そう言うとポメちゃんを
小屋に戻した

『抱っこさせて下さい!』
私は両手を伸ばしていた

No.6 09/04/14 04:04
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『でも、この仔犬は
人間を信用して無いので
知らない人には噛むかも
しれません』
店員さんは私の目を見て言った

『噛まれてもいいです!』
私は手を引っ込め無かった

店員さんは
『判りました』
私にポメちゃんを
抱っこさせてくれた

『お~よちよち、、』
私が抱っこした瞬間
私の顔をポメちゃんは
ベロベロ舐めた

抱っこしたポメちゃんは
ガリガリで骨と皮だけ。
お尻の下に当てた
私の手には
ポメちゃんのお尻の骨が
尖る程痩せていた



No.7 09/04/14 04:14
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私にしがみ付く
ポメちゃんを見て
店員さんは驚いた
『うちの店長は
噛まれるんですよ』

私はポメちゃんの顔を
見つめた
【私が幸せにしてあげたい…】


『私が飼い主に成ります。
このポメちゃんを下さい』
私は決して生き物を
衝動買いする性格ではない
でも
この仔犬が運命の犬だと
強く強く感じた

店長さんは驚いた
そして悲しい言葉を言った
『でも…

No.8 09/04/14 04:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『でも…
この仔犬は
長く生きれるか判りません。
仔犬がご飯を食べないのは
命取りです。
生きてる間、
顔の毛は生え無いでしょう…
疎らな毛は一生
このままかもしれません

ペットショップの掛かり付けの
お医者さんに言われたらしい。

『では、何故この仔犬は
売られているんですか?』
私が聞くと

『店長が…』
店員さんは小声で
言いにくそうに店長の方を
チラッと見た

…とても正直な店員さん

No.9 09/04/14 04:45
ボニータ ( ♀ 16kZh )

>> 8 『大丈夫です!
私は最後迄責任持ちます』
私はぎゅっと
ポメちゃんを放さなかった

『…判りました!
有難うございます』
初めて店員さんは笑ってくれた

そして契約書
血統書の手続き
3ヶ月以内に死亡したら
お金の返金保証が有る…
と言う紙を渡された
私は
『絶対3ヶ月以内に
死なないので
この紙要りません』
若かった私は強気に
死亡保証書を拒否した

手続きが終わり
お金を支払う時に
店長さんが来た

『わざわざ死にそうな犬を
買うなんて優しいね~』

私はムッとした
『この仔は死なないし
優しいから
買うんじゃ有りません!
この仔犬がいいんです!』

No.10 09/04/14 05:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

店長さんは
『あ、、そ、
そうだよね、そうだよね
ごめんね。ごめんね。』

とサービスにポメちゃんを
入れて帰れる
立派な持ち運びゲージをくれた

『有難うございます』
私はゲージには入れず
服に隠す様に抱っこして
タクシーで帰る事にした。
ゲージと餌とペットシートと
仔犬を抱えて
大荷物に成った
帰り道ポメちゃんを
ゲージに入れるのが
可哀想な気持ちがした。

帰り道タクシーの運転手さんに
『猿?』
と驚かれた
『いいえ、ポメラニアンです』
ポメちゃんは
本当に仔猿みたいだった

No.11 09/04/14 05:26
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『お母さん~ただいま~』

玄関迄母が出迎えに来た

『お帰りなさい~
…貴女、画材を買わないで
猿買って来たの?!』
母は目を丸ん丸くして
私が抱っこしてる
ポメちゃんを見た

『ちーチャン、
白いマルチーズが欲しいって
ずーっと
言ってたじゃない
ポメちゃんにしたの?』
母は本当に犬か
まだ凝視していた

『突然連れて来て
ごめんなさい…
でも、この仔犬が
私の運命の仔だったの!』
と母に言うと
『…判りました』

すんなり
受け入れてくれた

No.12 09/04/14 06:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ダイニングにポメちゃんと
荷物を降ろして
私はソファーに座った

ポメちゃんは
良い仔にお座りして
凄く笑っていた
『なんて可愛いんだろう…』
私はこの時既に
親バカだ
可愛くて可愛くて仕方ない

このポメちゃんは生後4ヵ月
男の子
名前はスペイン帰りに肖り
【ボニータ】と名付けた

でも呼ぶ時は
ボーと呼んだ

部屋に入り少しすると
ボーはダイニングで
一周駆け回り
私の膝に戻り笑い
笑いながら又
ダイニングを走り回った

始めて逢った犬なのに
昔から居る様な空気だった

No.13 09/04/14 06:20
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そしてボーは
私に金魚のフンの様に
付いて来る

ガリガリで体重が軽いからかピョンピョンジャンプしながら
ボーは走る


私はトイレに行こうと
はしゃいで疲れて
床に横に成った
ボーの顔前を通過しようと
した時…

『ヴー!ガウガウ!!』
私は足を噛み付かれた
私も母も驚いた
始めて私はボーに
噛み付かれた

母は
『ガリガリだし
毛もパサパサでハゲてるし
噛み付くんじゃ
返して来たら?』
と言った

私の足からは
少し血が出ていた

No.14 09/04/14 06:36
ボニータ ( ♀ 16kZh )

でも私は
不思議と噛み付かれた
理由が判った気がした

【もしかしたら
虐待されてた飼い主に
足で蹴られてたから
足が怖いのかもしれない…】

本当の理由は判らないけど
理由が無くて
噛み付く筈が無い

ボーを見たら
私に噛み付いた事で
怯えていた

私はすぐ抱き締めた
『大丈夫だからね…』

私はボーを絶対叩かない
信頼関係が出来る迄
絶対に怒らないと決めた

ボーに足りないのは愛情…
抱き締められた
ボーは涙を流していた
『犬も涙流すんだ…』

私は母に言った
『ボーは愛情が
足りないだけだから
お母さん、
2度と返してくれば…
って言わないで』
そして
ペットショップで聞いた
ボーの説明を母にした。

母は2度と
返してくれば…って
言わなかった

No.15 09/04/15 00:19
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんな母は
元々犬は好きでは無い。

どう扱ったら良いか
判らないと言った感じだ

私は子供の頃から
犬が欲しいとずっと
念仏の様に言っていたが

『大人に成ってから
飼いなさい』
母はそう私に
言い続けていた

そして念願の犬が
やって来た…

私の思い描いていた
白いマルチーズでは
無かったけど

何故だか私には
この仔犬が運命の犬だとしか
思えなかった

No.16 09/04/15 00:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

さて、
ボーにご飯をあげないと…

カリカリをお湯でふやかして
あげて下さい
でもきっと
吐いてしまうので
気長にあげて下さい

と言われていた

私は膝の上にボーを乗せて
ふやけたカリカリを
手であげてみた

ボーはお腹が空いてたらしい
凄い勢いで完食した

『ゲフー』
ボーは可愛いゲップをした

ガリガリの体に
お腹だけポンポンに成り
私はお腹をずっとさすって
吐かない様に念じていた

するとボーは眠ってしまった

No.17 09/04/15 00:42
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はお風呂に入り
ボーとの未来を考えていた
私はボーが来てくれて
嬉しくて堪らない


すると突然母が
血相を変えて飛んで来た
『ちーちゃん、大変!
早く来て!早く!』


私は身体も拭かずに
急いでボーの処に行った


ボーは寝ている

でも…
『ヒュン!ヒュン!
キューイ、キューイ…ガルガル…』

南国のオウムみたいな
声を出しては唸り
前の足はピーンと伸び
カクカクと痙攣している


『ボー!大丈夫?!』

私はボーを抱き上げ様とした


ガブ!
又噛まれてしまった

No.18 09/04/15 00:52
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーは悪い夢を
見ていた様だった

噛んだ瞬間私と判り
夢から覚めた様子で
何だか申し訳成さそうだ

ボーは目をシバシバし
優しい顔に戻った


私はボーに頬をよせてキスをした

どれだけ人間に
虐められたんだろう…

可哀想で私は涙が出た

ボーは私の涙をペロペロ
必死で舐めてくれた

No.19 09/04/15 01:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

翌日


『おはよ~』
私がダイニングに行くと
母は猫じゃらしで
ボーと遊んでいた


2本足でボーはピョンピョン飛び
その姿はやはり
仔猿ソックリだった


ボーは私に気付くと
凄い勢いで
飛んで来たと思ったら
ウンチをした

下痢もせず良いウンチで
私は安心した


どうやら
吐いてもいないらしい

頭が良い様で
トイレもオシッコシートに完璧だった
私はボーを
褒めて褒めて褒めまくった

そんなボーは家の中で
ずーっと笑っていた

No.20 09/04/15 01:15
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーを抱っこして
ボーの顔をマジマジ見た


どうしたら
こうなるんだろう…

と言う位
顔はハート型に
毛が一本も生えていない


犬にしてはお鼻も低い
目も小さい
ハゲも有る


でも私には全てが可愛くて
愛しくて
生きてくれてるだけで
充分だった


何故ここまで
特別な感情が有るのか
不思議な程だった

No.21 09/04/15 01:34
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーが来てくれて
1週間後…


ボーは1度も
食べた物を吐かず
病気もしないで
【ガリガリ】から【ガリ】位に
体重も増えた


そして奇跡が起きた!

私の掛かり付けの
獣医さんにも
『根毛が無いので顔の毛は
一生生えないかも
しれませんね』
と言われていた

しかし!

顔にポツポツ毛が生えて来た
ハゲにも同様
ポツポツ毛が生えて来た


チョット毛が生えると
【仔猿】から【アザラシ】
にソックリだった

でも毛が生える事は嬉しい

ボーに頬寄せて
『良かったねぇ』
『良かったねぇ』
小躍りをすると
ボーはカハカハ笑っていた

No.22 09/04/15 01:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はこの時
婚約をしていた

キャバクラで働いていた時の
お客様だ

このお客、婚約者は
【春彦】と言う名前だ

春彦は私に
とにかくベタ惚れだった

そして凄いお金持ち。
スペインに行くお金や
当時住んでた
家賃55万円も払ってくれていた

逢う度にお金や宝石
プレゼント品は100万単位。
食事は帝国ホテル。

何より私にベタ惚れで
楽だった

私は母に楽をさせたい
理由だけで
結婚を呑んだ

仕事は
外務省と言われていた

でも
この生活は
長く続かない

激動波乱の人生の
幕開けだった

そして
ボーが居なかったら
私は今
生きていないかもしれない

No.23 09/04/16 01:38
ボニータ ( ♀ 16kZh )

この春彦と言う男
実に胡散臭い。

婚約しといて
他人事みたいな事を
言わせて貰うが
今考えれば全てが変だった

出会いはこうだ


私は池袋の有名キャバクラで
働いてた

当時【ナイタイ】と言う
風俗誌が有り
キャバクラの枠で毎回の様に
自分は載っていたので
雑誌指名も多かった

ある土曜日
雑誌指名で春彦は来店した

『ご指名です』

No.24 09/04/16 01:51
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は当時売れっ子なので
土曜日となると
1時間に5分~10分しか
ご指名でも席に着けない

『ご指名有難うございます』

春彦は私の顔を見て
一瞬ビックリしていた
春彦は口下手で
あまり話さない

するといきなり札束を出した
『ラスト迄延長するから
これで居させて欲しい』

この日から春彦は
毎日店に来る様になった


毎日店に通うある日
春彦は私を誘って来た

『ホストクラブでも一緒に
行きませんか?』


『ホスト?』

No.25 09/04/16 02:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

当時の私は
ホストクラブに行った事が無く
本気で、店の近くに有る
ファミレスのロイヤルホストかと
思ってしまった


『いいですよ、私
ステーキ食べたい気分です』

『?』
春彦の頭の上には大きな
ハテナが有る感じだったが
私とのアフターに喜んでいた


店が終わり
丸井の前で待ち合わせをした


『お待たせ致しました』
私が行くと
タクシーでは無くハイヤーの中で
春彦は待っていた

『お疲れ様でした』
春彦はサッと降り
ドアを開け私をエスコートした

『いつも接客してので
接客されて気晴らしして
下さい』
春彦はそう言うと

『新宿まで…

No.26 09/04/16 02:22
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『新宿…?』
私は首を傾げて
春彦に言った


『ああ、これですよ
1度行ってみたいと
思ってたけど男1人じゃ
行きにくいですからね』
春彦は
ナイタイの新聞を広げ指を指した
【愛本店】


『ホストクラブ?!』
私はやっと分かった
ロイヤルホストと勘違いしてた事は
言わない事にした


新宿歌舞伎町のホストクラブ
愛本店に到着した


私は始めて春彦と
ホストクラブの階段を降りた


『いらっしゃいませ~

No.27 09/04/16 02:34
ボニータ ( ♀ 16kZh )

金ピカでピカピカな店内
生バンドを背に
お客さんとホストが踊っている

多分私は口を開けて
ぼーっと見てたに違いない

『ご来店有難うございます
ご指名は?』


有る訳が無い。
始めて来たお店だ

『フリーでお願い致します』
私は貰ったオシボリで
手を拭きながら答えた

すると店員は
『お飲み物は
何に致しますか?』

春彦はすぐ答えた
『ドンペリ3本』


『!!しょっ…少々
お待ち下さい』
店員が厨房に走った

…と思ったら今度は
テレビで見た事が有る
社長が出て来た

『ようこそ…

No.28 09/04/16 02:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ニコニコした社長さんは
私にお辞儀をして
春彦の隣にピタッと座った

すると社長は小さな声で
『当店は…1…なの…
に…成りますが…』


勘の良い私は
料金の説明をされてると
すぐに分かった


『はい、大丈夫ですが
3本は無理ですか?』
春彦は私の手前だからか
大きな声で言っていた


『大変失礼致しました
冷たいのを
ご用意しますので
1本ずつお出しします』
社長は軽く手揉みをし
従業員に指示を出した


すると最初に着いていた
ホスト達は乾杯の前に
『失礼します』
と席を立ち

違うメンバーに
入れ替わっていた



『乾杯~

No.29 09/04/16 03:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

入れ替わったホスト達は
一瞬で立場の偉いホストと
判った


ホストクラブに来て
こんな事を言うのも変だが
私はホストとバンドマンだけは
恋愛対象に成らない

私の頭の中はそんな
仕組みに成っている


でも、接客されるのは
勉強に成るし
良い気晴らしだった


春彦はホスト達の前で
私に言った
『好きなホストを指名して
下さい』

…結構失礼な話だ

席に着いてるホスト方は
偉い立場の人間と判る


私は2度と来ないと思い
『今着いてる3人
このまま指名をお願い
致します』

ホスト達は顔を見合わせて
喜んでいた

No.30 09/04/16 03:50
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私の思った通り
指名した3人は幹部や
派閥のトップだった


指名を入れた事は
成功だった
ホスト達は指名からか
終始楽しい話は
途切れ無い。


春彦は大満足の様で
『また一緒に来て頂け
ますか?』
と上機嫌だ

結局ラスト迄飲んでしまった



私は
『御馳走様でした
おやすみなさい~』
春彦に営業スマイルをして
タクシーに乗った


ホストクラブなんて
正直私は1度で充分。

仕事が終わったら
帰って早く
眠りたいからだ

私は
指名の為にアフターや同伴は
馬鹿馬鹿しいと
冷めた考えの持ち主だ

同伴やアフターしないと
お店に来ないなら
どうぞ来なで下さいと
頭を下げたくなる

そう、私はいつも
何処か冷めている

子供の頃から考え方が
冷めていた

だけど唯一
心の底から好きなのは
【犬】だった


犬の事だけは熱く成れた

No.31 09/04/16 04:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

翌日


お店の店長に出勤早々
呼ばれた

『昨日、店終わった後
愛本店に行っただろう?
困るよぉ』

!!??
何故かバレていた

『はい、アフターで
ロイヤルホストとホストクラブを
間違いました』

店長は一瞬吹き出して
続けて言った
『貴女は有名なんだから
そんな処に行ったら
噂はすぐ広まるし
イメージが悪くなるから
今後気を付けなさい』


『はい判りました』
と言う私は
小さくガッツポーズをしていた

次誘われても
断る理由が出来た


お店のバックで
化粧をしていると
すぐ指名が入った


『いらっしゃいま…

No.32 09/04/16 04:36
ボニータ ( ♀ 16kZh )

指名のお客様は
昨日の
愛本店指名ホスト3人だった


うちの店は
ホスト、ヤクザ、サンダルは
入店禁止だ

でも3人は髪は黒く
ホストには見えないと
言えば見えない

入口の厳しい入店チェックを
クリアして入って居た


『あれ?でも…どうして?
お店が判ったんですか?』
私は昨日、
自分のお店処か名前さえ
言わないでいた

3人は顔を見合せて
『入って来た瞬間から
何方様か判りましたけど』
そう言っていた

ナイタイはホストの
愛読書の様だった


3人は昨日のお礼を
言いに来ただけと言う

凄い営業熱心だ
ホストはホステスの何倍も
頑張っている事が判った


『わざわざ御親切に
お時間を割いて頂き恐縮です』
私は頭を下げた

すると
春彦が来店して来た

春彦の知り合いだと
言う事にして
同じ席に座らせた


春彦は上機嫌で
お酒を飲んでいた

No.33 09/04/16 04:54
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ホスト達は3時間で帰った

残った春彦は
『良かったら今日も
仕事が終わったら新宿に
行きませんか?』
と言って来た


春彦は外務省って
言ってるけど
そんな行動…何か変だな

でもキャバクラに来る常連様は
何か変わってる…

少し変わって無いと
大物に成れないのかな?
…と解釈してしまった


春彦には
店長にホストに行った事を
注意された事を話した

『そうですか
すみませんでした…』
春彦は私に何度も
謝って来た


沢山お金を遣って頂いてる
のに一生懸命謝ってる春彦を
良い人なんだと
思い始めてしまった


全部嘘だと知らずに

No.34 09/04/16 13:31
ボニータ ( ♀ 16kZh )

その日を境に
春彦とのアフターは増えた


来てくれてる情と
控え目な態度の春彦に
好感を持っていた


でも最近体調がおかしい
腰が鉛の様に痛い…


ある日
アフターの最中、新宿の
かに道楽で倒れてしまった




どれくらい眠ったのだろう

目を開けると
真っ白な天井
広い部屋…

新宿ヒルトンのデラックスルームだった


部屋を見渡すと
春彦はスーツを着たまま
ソファーで寝ていた


私も着衣の乱れは無い


私はアフターの最中
倒れた事を思い出した

『春彦さん、春彦さん』
私は声を掛けると
春彦はカバッと起きた


『大丈夫ですか?
無理をさせて
すみませんでした!』
春彦は謝って来た

No.35 09/04/16 13:52
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は起き上がろうとした時…

『痛い!!!』
あまりの激痛に泣いてしまった


腰の痛さが
ただ事では無い。


『病院に行きましょう!』
春彦はホテルの従業員を呼び
隣の東京女子医大に
連れて行く助けを呼んだ

車椅子に私を乗せて
物々しく裏口から
病院に運ばれた


病院に着くとすぐに
尿検査、血液検査、熱を調べた
熱は42度

すぐに病名が判った


【腎盂炎】


余り馴染みが無い病名…

私も始めて聞いた


最近で言うと
飯島愛さんも苦しんでいた
病気だ


白血球と赤血球の数が
異常な数値に成り
腰の痛さは腎臓で
悲鳴を上げる程痛い


お医者さんは言った

『このまま入院です』
子供、産めなく成りますよ

すぐに抗生物質の点滴をされ
私はまた眠ってしまった


話をする事も
しんどい…

No.36 09/04/16 14:13
ボニータ ( ♀ 16kZh )


私は昔から不思議な癖が有る

辛い時、しんどい時
犬の事を考えると落ち着く

いつか出逢える犬を想像すると
安定剤の様に心が落ち着くのだ


点滴の最中夢を見た

私の前を走る
仔犬を追う夢だ

今考えると不思議と
その仔犬はボー、
そのものだった気がする


春彦は私の容体を心配し
会社に行っては
病院に来た


倒れて24時間経った頃

やっと私は物事を考えられる
状態になれた

幸いにも
働いているお店は
自分は公休日だった


でも入院は出来ない
どうしよう…

考えて居ると
小走りで春彦が
私の病室をノックして入った


『少し元気に成りましたか?』
春彦は
甲斐甲斐しく私を看病した

『お店、暫く休んで
入院して下さい』
春彦は言った。

No.37 09/04/16 14:31
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『でも…』
私は視線を下に落とした


すると春彦は
『失礼かも知れませんが
お世話をさせて下さい
お店のお給料分は僕が全部用意します!
入院費も全て…
だから心配しないで下さい』

病人に成ると
人の優しさが倍にも
身に染みる


現実的にも私は
外出禁止な程様態も悪く
歩く事も不可能だった


春彦は
隣のヒルトンホテルにそのまま
私が入院中住む事に成った

お店へ入院の事を伝えると
想像とは違い
体を心配され
快く入院の承諾を貰った


私は社会人に成ってから
始めてゆっくり
休む事が出来た


私は18歳で
水商売を選んだ理由が有る

No.38 09/04/16 14:56
ボニータ ( ♀ 16kZh )


私は母子家庭だった
父の酒乱が原因で家庭崩壊

幸せな家庭を
私は微塵も知らない


母1人子1人
ボロボロの家に住み
給食費は払えず
お昼は家に帰り
自分で芋を蒸かして
食べていた

母は働いてはいたが
精神が弱く
いつも真っ暗な部屋で
寝ていた


私は男子に
『貧乏、貧乏』
と虐められた

でも私は負けなかった
虐めて来る男子に股がり
『貧乏だけど
お前に迷惑掛けて無い!』
対等に戦っていた


そんな私は
子供の頃から
母に楽をさせたかった


母の笑った顔が
見たかった


私は高校迄
行かせて貰ったが
親戚から援助をされて
生きて来た


私は美術の教師に
成りたかった夢も有った

でも大学に行ってる
場合では無い


早く働いて
親戚にも借金を返し

母に楽をさせたかった


高校を卒業すると
フロムエーを見て寮付きの
ホステス募集に電話した


私は借金を返しながら
母に仕送りをした

夢中で働いていた

恋愛もしなかった

走り続けて3年…

21歳の時に
入院では有ったが
やっとゆっくり
休む事が出来た…


No.39 09/04/16 15:39
ボニータ ( ♀ 16kZh )

入院をしている間
春彦は毎日私の世話をした

私は春彦を
信用してしまった


病気も徐々に良くなり
お店の復帰を考えていると…

春彦は
店に戻って欲しく無い…
と言い始めた
すると
『結婚して下さい』

大きなダイヤの指輪を
差し出され
春彦は土下座をしていた


私は言った
『私は母と同居
してくれる方で無いと
結婚出来ません』


春彦は土下座したまま
『同居させて頂きます!
一生幸せにします』


因みにこの春彦
当時42歳
私と21歳年が離れていた

今考えると、この状態
チョッとしたSMクラブの様だ

私を女王様扱いだった


私は正直言うと
春彦に恋愛感情は無い

でも…結婚すれば
母を楽にさせる事が出来る

それだけ

それだけが理由で
結婚にOKを出した

『判りました
結婚をお受けします』


春彦は泣いて喜んだ

私は全く
何の感情も湧かず
ただ春彦を見ていた


私はこんな場面でも
他人事の様に冷めていた



これが
春彦と出逢い
結婚に至った理由だ

No.40 09/04/16 15:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )

結婚が決まり

店は
病気を理由に退店した


私は結婚前に
『スペインに行って
ガウディの建築物を見て
絵の勉強がしたいです』

学生の頃に到底出来ない
我儘を春彦に言った


婚約した春彦は
益々私の言い成りだった


母と超高級マンションに
住ませて貰い

スペイン留学

帰国して

桜のツボミが膨らんだ季節に
ボーに出逢った

運命の愛犬

私は幸せだった

ボーは
私と暮らしてから
みるみる元気に成った


私は贅沢な冷めた暮らしより
ボーと出逢えた事が
最大の幸せだった

ボーの事に成ると
私は
心の底から心配し、感動し

人間らしい感情と
私に笑顔を与えてくれた

どんな高価なプレゼントも
ボーより大切な物は
私には何も無かった

No.41 09/04/16 16:11
ボニータ ( ♀ 16kZh )


ボーが来てくれて
1週間…


私の恋人はボーかと思う程
ボーが大切だった


ボーも
始めてデパートで逢った時の
淋しそうな顔はもうしない

いつでも何処へ行くにも
ボーを連れて歩いた

頬寄せて…

毎日毎日
ボーに頬寄せて…

私は
毎晩寝る前
神様にお願いをした

『私は何も要りません
ボーを長生きさせて下さい…』


そして2週間後

又奇跡が起きた

嬉しい奇跡だ

No.42 09/04/17 09:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )


『うわぁ
可愛いポメラニアンですね~』

犬好きに声を掛けられる


そう

散歩をしていると
ポメラニアンと判る位に
ボーの毛は生え揃って来た


家に来て1ヵ月弱
ボーは立派な
ポメラニアンに変身した

お医者さんに
毛が生えないと言われた
顔にもクリーム色の毛が
生えている


誰が見ても
デパートで逢った仔猿は
想像出来ないだろう


でも
ボーは心の傷を忘れない


前の飼い主に虐待されてた
であろう
恐怖の顔を時々私に見せる

『大丈夫、大丈夫』

私はそんな時は決まって
ボーに頬を寄せてから
抱き締める


私も子供の頃に
沢山心に傷を負っている

もしかしたら
私はボーの背景に
自分自身を見ていたのでは
なかろうか


私もボーも
お互いが居なかったら



運命の出逢いに感謝しない日は
無かった

No.43 09/04/17 10:14
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ポストに1通の手紙が届いた

【血統書】

後日送られて来ると
言われていたボーの血統書だ


私はボーが
雑種でも何でも
ボーで居てくれれば良い


余り興味が無いが
ボーの出生が判る
人間の戸籍標本みたいな物
開封してみた

『?』
でも全て英語でイマイチ判らない
ボーの目薬を貰うついでに
動物病院に血統書を持参した


私は先生に血統書を見せた
『今日届いたんですよ』


先生はまず
毛が生え揃い
可愛く成ったボーに驚いた

先生は
『やはり愛情に勝る薬は
有りませんねぇ
良かった、良かった』

そして
血統書に目を通した

『ボニータ君のお祖父さん
チャンピオンですね』


何だか判らないけど
ボーは血筋の良いポメラニアンらしい


血筋がいくら良くても
仔犬の時に虐待されていたら
意味が無い


血統書と言うのは
所詮紙切れで


育った環境
生きて行く過程が大切な事を
感じた



すると
自分に疑問が生まれて来た

好きでも無い男性と
今後生涯共にする私は
どうなんだろう


春彦の存在が鬱陶しく
思い始めていた頃だった

No.44 09/04/17 10:52
ボニータ ( ♀ 16kZh )

春彦とは
その年の8月に椿山荘で
結婚式を挙げる予定だった

今は4月
結婚式迄あと約4ヵ月…


変な話に成るが
春彦とは一度もSEXはおろか
キスもしていない


キャバクラのホステス時代
一度も他のお客様とも
エッチをする関係に
成った事が無い


自分で言うのも変だが
私は切り抜けるのが上手い

しかし
婚約してる春彦と
まだエッチをして無いのは
どうなんだろう…


その頃…
春彦は新居のパンフレットを
集めてるから好きな家を
選んで欲しい
と言う時期だった


2億位ならすぐ買えると
私に電話で熱く語る


でも特に嬉しくない
『あそぅ…判りました』

私がそっけなく
電話を切ると
すぐ掛け直してくる
『2億じゃ不満かな?
3億位なら大丈夫?』


そんな態度の春彦に益々
嫌悪感が募る


私は好きな人と結婚したい…

春彦とSEXすれば
春彦を愛する事が
出来るかもしれない…


私は春彦に
抱かれる決心をした


そして私はSEXを目的に
春彦を誘う事にした

『春彦さん
お泊まりがしたいので
帝国ホテルに予約お願いします』

春彦は3回
『はい!』と言った



私は春彦に抱かれる日
真っ赤なドレスで
帝国ホテルに向かった

No.45 09/04/19 21:56
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『帝国ホテル迄
お願いします…』

タクシーに乗り込み窓外を見た

この日流れ行く景色は
ぼんやり見える


真っ赤なドレスとうらはらに
私の心は暗い…


好きでも無い男性と
結婚を背負う私は

抱かれると言う事に
覚悟をせねば成らない…


一筋涙が落ちる


何故悲しいのかさえ
判らない
これ以上涙が落ちない様
上を見よう…



タクシーは見馴れた
帝国ホテルに到着した

私は気を引き締める


遅いのだろうが

この日が私にとって
春彦に向き合った
最初の日なのかもしれない

No.46 09/04/20 11:20
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はドレスの裾を
片手で少し持ち上げながら
1Fのカフェを見渡す



春彦はスーツ姿で眼鏡を掛け
英字新聞を読んでいる

これがいつもの
待ち合わせスタイルだ

春彦は
何時に待ち合わせても
必ず先に来ている


『春彦さん
お待たせしましたか?』

私は春彦の斜め後ろから
声を掛ける


『いえ…』

読んでいた新聞を2つに折り
私を見る



『綺麗ですね
そのドレスもとても似合ってる』

春彦はお世辞を言う

そしてフレンチでフルコースディナーを頂き
さよならする


いつものデートは泊まらず帰るが
今日は違う

今夜
私はこの男性に抱かれる

春彦は私の決意を
知らないまま
いつものフレンチレストランへ
私をエスコートした

No.47 09/04/20 11:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )

いつも座る席に通され
シェフが挨拶に来る

春彦は
お勧めの料理をシェフに任せると
何か耳打ちをした

次は飲み物だ
『今日は何飲まれますか?』

私は夜の事を考え
お酒は控えたかった
今日はエビアンが良いと
言おうとした時

春彦はすぐ
『彼女のドレスに合うワインを』

満足そうに言ってのけ
私に前のめりに話をする

思わず愛想笑いをする私


すると春彦が言った
『今日は何だか
雰囲気が違いますね』

『何故そう思います?』
私は問い返した

すると
『何か考えてますか?』

春彦は何か勘付いてる

それなら話は早い
『今夜を楽しみにして下さい』
私は謎掛けた

するとワインが運ばれて来た

グラスに注がれたワインは
私のドレスの様に赤い

春彦は注がれたワインのグラスを
少し上に挙げ
『乾杯』
上機嫌に笑った

No.48 09/04/20 12:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )


食事を終え
次はデザートだ

デザートと紅茶を終えれば
私達は部屋に行く

私は春彦の指を見た

意外とゴツゴツした男らしい
手をしている

この手で触られるのか…
私は春彦を少し男性と意識した


私はこの頃
ダークチェリーをリキュールで火で炙り
白いアイスに掛けるデザートが
大好きだった

そのデザートはテーブル席で作る
用意に少し時間が掛かるのだ


そのタイミングで
黒スーツのホテルの方が
深紅の薔薇の花束を抱えて来た

私の前で止まる

『お連れの方からです』

100本有る薔薇の花束は
春彦がさっき
耳打ちして頼んで居た様だ

春彦はこんなプレゼントを私に
よくしてくれた


でも…
私は嬉しく無い

贅沢なプレゼントは
私の心に負担を掛ける

喜ばない私の態度に
春彦は熱く成る

悪循環だったのかもしれない


綺麗過ぎる花束を横に
デザートを終え

話に夢中に成る春彦に

『お部屋に行きましょう』
私は話を折り
立ち上がった

『そうですね』
春彦は花束を抱え
私達はレストランを後にした

No.49 09/04/20 13:29
ボニータ ( ♀ 16kZh )

チーン…

エレベーターに乗り
『御馳走様でした
それと花束有難うございます』
私はお辞儀する

春彦は私に言う
『…余り
心配させないで下さい…』

私は意味判らず首を傾げる

『綺麗に成られると
自分と釣り合わないと不安に成ります…』

春彦は少し怖い顔で
『心配と不安で
狂いそうに成ります』
言葉を付け加えた

私は春彦のそんな気持ちを
知らなかった

私は言葉を探せない

無言のままエレベーターを降りた

『この部屋です』
春彦は私に部屋の鍵を渡した

『え?』
部屋は隣合わせに
2部屋用意されていた

『明日朝食食べたい頃コールして下さい…』

春彦は私に花束を差し出す

『春彦さん…
お部屋で薔薇に水をあげてから
春彦さんのお部屋に行っていいですか?』
私が言うと

『勿論です』と笑った

私は自分に割当てられた部屋の
バスハブに水を溜め
花束の底を切り水に入れた

私は化粧を直し
髪をアップに束ね
春彦の部屋のドアを叩いた

No.50 09/04/20 13:52
ボニータ ( ♀ 16kZh )

春彦は
スーツを着たまま私を出迎えた

『先程、大人気無い事を言って
すみません…
少し酔ったみたいです』

バツの悪い
言い訳みたいに言う


私は無言で電気を消した

『春彦さん
私の背中のリボン
ほどいて下さい』

このドレスは
背中が編み上げのリボンに成り
自分で脱げない

春彦は固まっていた

『私の体は興味無いですか?』

私はベッドに斜めに座り
春彦を呼ぶ

春彦は電池切れのロボットの様に
ゆっくり来た

こんなに近く
春彦の側に寄った事も
始めてだ

背中のリボンをほどく
春彦からは
エタニティの匂いがした

No.51 09/04/20 14:22
ボニータ ( ♀ 16kZh )

春彦は焦る

私の背中のリボンをほどく手は
少し震えている

少しほどけたドレスを
私は自分で下にずらし
上半身下着姿になった


私の体は約3年の夜型生活で
日焼けも無く真っ白だ

細身の体型では有るが
胸はGカップ有る
子供の頃から胸が大きく
邪魔だった

でもホステス時代
この大きな胸はドレスを着ると
ゴージャスに演出してくれた

ピンク色の上に尖った乳房も
自分では気に入っていた


春彦は私を押し倒し
獣の様に求めて来る…
と思っていたが

…違った


私を抱け無いと言った

No.52 09/04/21 00:43
ボニータ ( ♀ 16kZh )

それどころか私の体を
見る事さえもしない

春彦は
書斎デスクの椅子に座り
『今日のワイン
美味しかったですね』と
話をはぐらかす


私は後戻り出来ない

『春彦さんは何故、
育ちの良く無いホステスだった
私なんかと結婚したいのですか?』

『愛しているからです』と
春彦はやっと私を見るが
上半身下着姿の私に
又、目を反らす

『私の事何も知らないのに?』
私は迫る


私は平凡で良いから
結婚は
大好きな男性と愛犬に囲まれて
幸せに暮らすのが夢だった

なのに私も春彦の事は
何も知らない…

『春彦さんに抱かれて
好きな気持ちを持ちたい私は
間違ってますか?』


無言を続けた春彦は口を開いた

『怖いんです…』

No.53 09/04/21 23:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

春彦は言う
『貴女はきっと僕が
どれ程愛してるか知らない』


知る筈も無い
言葉の足りない私達の関係は
結婚には早すぎる


春彦は言葉を続ける

『もし、今抱いて
嫌われたら怖いんです
でも籍さえ入れれば…
僕は安心して
貴女を抱けるでしょう…』


『籍を入れたら
逃げられないからですか?』
私は突っかかる

『私はデパートで買ってきた人形では有りません
私には心が有るんです』


好きな気持ちには形が無い
模索する私は
春彦を挑発する

『愛してるなら抱いて下さい』



『すぅ…』

息を呑み込んだ春彦は
スーツのジャケットを脱ぎ
ネクタイを外し


私の居るベッドへ腰を降ろした

No.54 09/04/22 00:20
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は春彦の肩に手を回し
2人はベッドへ崩れた


春彦の肩は広くガッチリしていた

『本当に良いんですか?』
春彦は私に問う

頷く私を確認すると
私の髪を撫でながらキスをした

私のドレスを脱がし
レースの下着の中に手を入れ
次の瞬間
春彦は夢中で私の
体中を吸い付いた

私は気持ち良いのか
気持ち悪いのか鳥肌が立つ
息遣いの荒く成った
春彦はもう止まらない

私の中に固いペニスが入った…



入った瞬間春彦はイッていた

『すみません…自分を
コントロール出来ませんでした』
春彦は焦って言った

『いいえ』
私は一瞬の出来事に
心の整理が出来ない

私はお辞儀してシャワーへ行った

No.55 09/04/22 00:39
ボニータ ( ♀ 16kZh )


シャー…

シャワーを浴びている間にも
自分の心に気付いてしまった

私は春彦を愛していない


女性ならこの感覚が判るだろう

抱かれて尚
気付いてしまう
自分の気持ち…

でも私は婚約をしている

贅沢な生活とはうらはらに
私の心は満たされない


私は例え無一文に
成ったとしても
春彦との婚約を解消して
私とボー、母親と
慎ましく生活した方が
幸せでは無いのか…

そんな事ばかり考える様に成る


でも春彦は違った

この日を境に
私への屈折した愛情は
加速を掛けてしまう事に成った

No.56 09/04/22 01:07
ボニータ ( ♀ 16kZh )

【翌日】

土曜日で春彦は仕事は休み
春彦は
このまま銀座に行って
私にドレスを買いたいと言う


でも私は早く家に帰り
ボーに逢いたくて仕方なかった

『ボーちゃんに逢いたくて
堪らないです』
私は春彦に早く
家に帰りたいと言った

『ボニータに負けちゃいましたね』
春彦は判ったと
家に帰してくれる事に成った

でも
昨日私を抱いた自信からか
春彦は私の腰に
手を回す様に成った

その度私は鳥肌が立つ


私は春彦を好きに
成りたかったのに…


人の心は
好きに成る事をコントロール
出来ないのだと
私はやっと知る

心の整理が出来たら
春彦に今の気持ちを
ちゃんと伝えよう…


その日
私は朝食も食べず
ボーに逢いたい一心で
足早に帰宅した

No.57 09/04/22 01:42
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私の住んでたマンションは
12階と11階が全て
自分達の部屋だった

12階が玄関の階で
チーンと音がすると帰宅が判る

ボーに逢える嬉しさで
私は玄関のドアを
開ける前から笑顔が溢れた
『ただいまぁ』

ドアが開くと
ボーは私を既に待っていた
私を見ると
『アゥア~、キャンキャンキャン…!』

大興奮でオシッコチビリながら
大歓迎する

早送りの動きでボーは私に
抱っこをせがみ
ペロペロペロペロ顔を舐めてくる
大興奮は10分は止まらない
玄関でキャッキャッ
ボーと遊んで居ると
軽くやつれた母が来た

『ち~ちゃん、ボーを
病院に連れて行ってぇ』
母は一睡もして居ないと
目を擦る

『何で?何で?』
元気満点のボーを見て
私は理解が出来ない

『昨日の晩も今朝も
ボーは何にも
食べてくれないのよ』

母は心配で眠れなかったと言う

私は焦り
ボーを小脇に抱えカリカリを
手であげてみる


『ガブガブ』
ボーは又早送りの様に
カリカリを食べ、もっとくれと
私の手をパチパチ触り
催促していた

それを横で見ていた母は
『ち~ちゃ~ん
貴女が居なかったから
何も食べなかったのよ~』

母は床にヘタり
食べてくれて良かったぁ
と何度も言った

No.58 09/04/22 13:48
ボニータ ( ♀ 16kZh )

犬に一切興味の無かった母だが
その時は既に
『他のワンチャンは可愛いと
思わないけど
ボーだけは可愛いわぁ』

とボーを可愛がっていた

でも犬に不慣れな母は
猫用の猫じゃらしで
ボーと戦ったり

人間の赤子の様に
ボーをおんぶして散歩へ行き
近所の方を驚かせたり

ボーと遊び疲れて
ダイニングのソファ-で母が
昼間すると
ボーは母のお腹の上で
タレパンダの様に一緒に寝ていた


中々味の有るコンビだった


だけど私が居ないと
ボーは御飯を食べてくれない…

いじらしく成った…

『ボーちゃん、
私居なくてもカリカリ食べないと
メ~』
ボーに頬寄せて言うと

『カッハ~』
ボーはシッポをブンブン振って
笑った

No.59 09/04/22 14:19
ボニータ ( ♀ 16kZh )


『ち~ちゃん
この素敵なお花頂いたの?』

玄関に置いた100本の薔薇を
母は見付け
花瓶を探し始めた


私は学生時代
華道(池坊)を習っていた
剣山や花瓶は沢山有る

薔薇を広げて
花を生けようとした時


【プルルルル】

春彦からの着信が
携帯電話に鳴る

『はぁい、春彦さん』

私はボーと会えた余韻で
機嫌が良い


『あ…昨日は素敵な夜を
有難うございました
…愛してます』

春彦は幸せそうに言った


そんな私は…
春彦を…愛していない…

『あの、春彦さん
私、大切なお話をしたく
お時間取って頂けますか?』

そんな春彦は喜び
月曜日の夜に
逢いたいと返答された


電話を切り
私は少し不思議に思った

日曜日は春彦は休みなのに
何故月曜日…?

何時もなら日曜日に
必ず逢いたがる


この時、
私はすぐ話をするべきだった

何故なら
春彦は翌日の日曜日に
犯罪に手を染めてしまう


それは現実には
もう少し後で知る事に成る…



No.60 09/04/23 00:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )


【月曜日】

私はこの日
紫色のドレスを纏い
帝国ホテルへ向かった


いつものフレンチで
食事をするデート


でも私は…

出来る事なら
…婚約解消を願いたい…

今の気持ちを
正直に言う事が目的…

愛の無い結婚は
孤独と後悔しか浮かばない

私は後悔したくない


安易に結婚を
了承した私は大馬鹿だ


春彦さんは優しい…

だから私の気持ちを
理解してくれるに違い無い…


タクシーの中で色々想像しては
溜め息をつく…


春彦はその頃
刑事にマークされてた事を
私は知る筈も無かった…

No.61 09/04/23 01:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『お待たせしましたか?』

いつもの様に私は
春彦の斜め後ろから声を掛けた

『いえ…』
英字新聞を2つに折り
春彦は私を見つめる…


『あれ?春彦さん
眼鏡を変えました?』

細い純金の眼鏡に
変えたのが判る

春彦は最近お洒落だ


出逢った時は固い
官僚のイメージが有ったが
私と逢うにつれ
服装のセンスが変わっていく
会う度に新しいスーツを着ている


春彦は
良い物を着て
良い物しか食べない
私に湯水の様にプレゼントを送る
…贅沢だ

そんな春彦を
又少しずつ嫌いに成る…

何故贅沢でこんなにも
嫌悪感が沸くのだろう


多分、、私は子供の頃
凄い貧乏だったから
かもしれない


貧乏は苦しかったけど
物の大切さを教えてくれた

その感情はお金では買えない


複雑な気持ちで
フレンチレストランへの階段を登った

No.62 09/04/23 01:32
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『今日のドレスも良く似合う
僕の自慢のフィアンセですよ』

春彦はお世辞も交えて
機嫌が良い

電話の声でも判るが
春彦は私を抱いた日から
大変ご機嫌だ


いつも私達の座る席は
テーブルが少し大きい
正面に座ると少し遠く
密な話は出来ない

レストラン方も皆さん
顔見知りに成ってしまい

只でさえ
私達の席は注意深く
チェックされている

婚約解消の話をしたら
春彦の顔を潰してしまう


この後バーに誘い
私の気持ちは
バーで話す事に決めた


すると春彦は
『プレゼントです』

見るからに豪華な箱を
紙袋から出した


豪華なプレゼントは箱で判る

私は怯えた

私は何も言わず
豪華な宝石箱のフタを開けた

…ダイヤのネックレスだ…

私は背筋が寒くなった

いくら私が
小娘だからと言っても
ホステスをしてた私には
凄い高価な品と悟れる

『春彦さん
失礼ですがこのネックレス
おいくらですか?』

私はフタを閉めて聞いた




『3000万円です』

No.63 09/04/23 14:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『貴女と素敵な夜を
過ごした記念です』

春彦は自信に
満ち溢れんばかりに言う


私の心の糸が
切れた瞬間だった


『私は嬉しく有りません』
私は思わず
言葉にしてしまった


春彦の顔色は曇る
春彦の描いたストーリとは違う様だ





私は何故か思い出す

それは私が
小学校1年生の想い出…


私の家は凄く貧乏だった

暗い部屋で寝込む母を横に
私はいつも独り静かに
拾ったダンボールに
絵を書いて遊んでいた

私の書く絵は
誰からも誉められた

そんな私も小学校に入学し
最初の授業はぬり絵だった

でも私には
色を塗る色鉛筆が無い
色鉛筆を買う余裕が無かった

クラスの皆は
先の尖った新しい12色の
色鉛筆を持っている

絵が好きな私は
とてもみじめな気分に成ったが
みじめな思いは慣れっこだった


すると
隣の席の男の子が
色鉛筆の無い私に気付く

『貸してあげるよ!
使って!』

No.64 09/04/23 16:21
ボニータ ( ♀ 16kZh )


新しい色鉛筆を
貸してくれると言う
隣の席の男の子【オサム君】


でも私は
1度も使った事の無い
新品の色鉛筆を貸りる事は
子供心にも悪いと思った


『有難う。貸りるね』

私は1度オサム君の使った
先の丸く成る色鉛筆を待って
塗っていた

それにオサム君はすぐ気付く

『何で?
好きな色を使っていいんだよ』
オサム君は笑顔で
新品の色鉛筆を貸してくれた

私は嬉しくて嬉しくて
泣きそうだった

私は泣くのを必死で堪えた
そして私が
オサム君から色鉛筆を貸りて
塗ったぬり絵は
黒板の前に貼り出され
花丸を貰った

オサム君は自分の事の様に
凄く喜んでくれた

本当に優しい人は
そんなふとした時に出る
オサム君は私の初恋の人

私は
本当の優しさに敏感だった

…そして
私はどうしても色鉛筆欲しさに
当時道に落ちてる
‘ファンタ’のビンを拾い集めた

商店に空ビンを持って行くと
1本10円お金が貰える

私は学校が終わるとビンを拾う

そしてやっと700円貯まり

私は文房具屋さんで
新品の色鉛筆を買った




私には
3000万円のネックレスなんて
決して似合わない


No.65 09/04/23 21:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )


私は現実に返る


『春彦さん
私、このネックレス頂けません
お返しします』

私は箱のまま
春彦にネックレスを返した

春彦の止まらない金銭感覚は
私を精神的に追い詰める


外務省はそんなに
お金を稼げる仕事なのか??…


そんな春彦は
苛々と殺気立つ私に
困惑した様子だった


行き場の無い空気を
上手く埋めるかの様に
次々テーブルにはフルコースが運ばれる


…私は考え続ける…
春彦は…何か…おかしい…

美味しい料理を頂きながら
私は遅いのだろうが
少しずつ春彦に疑問を抱く


春彦は外務省勤務と言うのは
嘘なのではないか?


いくら何でも
ただのプレゼントに
3000万円は尋常じゃない

皇族が持ちそうな
ダイヤの存在感は
3000万円と言う金額が
嘘とも思えない


私は春彦を
試す方法を思い付いた

その私の案には
まず
ボーに会わす事が必要だった


お食事が終わり
この後バーに行く事を辞め

私の家で話をする事にした


『春彦さん
今夜私の家に行きましょう』

食事を終え
私と春彦はタクシーで
私の住むマンションへ向かった

No.66 09/04/23 23:12
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母には電話で
今から春彦と家に行くと伝えた

実は私の母は
春彦がとても苦手だった

始めて母と春彦が会ったのは
私の入院した病院だったが

母は何故だかいつも
春彦を避けていた

電話で春彦が一緒だと言うと
『先に寝てていい?』
と母は言ったが

私はせめてお茶位出して
挨拶して欲しいと頼んだ


タクシーの中で
私はボニータの話をした

ボーの話は
春彦と会う度していたが
春彦の反応をもう1度
見たかったからだ

春彦は犬が大好きだと
私に会った時から言っていた

タクシーの中で春彦は
私の機嫌を伺うかの様に
『犬は大好きで可愛い』
と言っていた



そんな間にも
タクシーはマンションに到着した

春彦はこのマンションの
敷金礼金家賃を払っていた

でも
私と母が引っ越してから
春彦が家に上がるのは
始めての事だった

No.67 09/04/23 23:37
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『ただいまぁ~』
私は家のドアを開けた

すると母は
化粧をして出迎えてくれた

『これはこれは
○○(春彦の苗字)さん
いつも娘が
お世話に成っております』
母が春彦に頭を下げていると


『ヴ~ヴ~!アガガガ!』

ボーは母の横で必死に
春彦を威嚇していた

ボーは当時
犬嫌いの人間には
特に威嚇した

私はすぐ春彦を見た


春彦は焦り、
思いっ切り引きつっている
ボーを抱っこしようとも
ボーに話掛けようともしない

犬好きの人間が見せる行動を
春彦は一切しない


それを見ていた母は
『あら、ごめんなさい。
○○さんは
ワンチャンお嫌いですか?』

春彦に言うと
春彦は大量の汗を掻いていた

母はアガガガ止まらない
ボーを小脇に抱えて
『どうぞ…どうぞ』

春彦をダイニングに通した

No.68 09/04/24 00:11
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母は春彦に珈琲を出した


その間も
ボーはジタバタと母の小脇で
春彦に『アガガガ』
止まらない

母は暴れるボーをあやしながら
離れて話をしていた

他愛ない話の中
母は悪気無く春彦に言った

『○○さん
バッジってお勤め先から出たら
外さなくちゃ
いけないんですか?』


春彦は首を傾げる
『何のバッジですか?』


母は(え?)と言う表情で
『外務省のバッジですよ』
と言った


私は見逃さない
春彦は目が泳いでいる…


すると全く空気を読まない
母が言った
『外務省のバッジ見せて下さい』

母は
‘み・せ・て’と言う感じで
可愛く片手を出して居た


春彦は言葉に詰まる

私は春彦を直視していた


『無くすといけないので
職場に置いて有ります』

春彦は耳を赤くして答えた

その間もボーは
『アンギャー!アガガガ!』
止まらなかった

No.69 09/04/24 00:35
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーは今にも
空中を泳ぎそうな勢いで
春彦に向かってジタバタ
『アガガガ』している

しかもそれは
小さく可愛いポメラニアンだ

もし本当に犬好きなら
可愛くて可笑しくて
堪らない処なのに
春彦は終始
ボーの事に触れなかった



『お母さん珈琲有難う
私達、お部屋で少し
お話するね』

私が口火を切ると
春彦はホッとした表情をした

春彦は母に頭を下げ
ダイニングを後にした



私の部屋に移動し
私は春彦に言った


『春彦さん
何で嘘を付くの?』


春彦は暑くも無いのに
ハンカチでずっと汗を拭く
そして
春彦は無言を続ける…

私は言った
『春彦さん
犬が好きなんて嘘でしょう?』

春彦は
‘嗚呼その事か…’
と言った感じで

『すいません…
子供の頃は好きだったんです』
取り繕った言い訳をする


私は続けた
『ねぇ…
まだ嘘付いてますよね?』

No.70 09/04/24 01:25
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はさっきの会話で
春彦は外務省勤務では無い…と
もう確信していた

でも私は春彦の口から
どうしても嘘の訳が
聞きたかった


なのに春彦は
『何の事ですか?』
と認めない

それなら私にも考えが有る

『春彦さん、結婚式
延期にしましょう』
私はハッキリ言った


春彦は赤い顔が白く成る
『何故ですか?
僕の事嫌いですか?』


…私は正直に答えた
『私も春彦さんを愛そうと
抱かれました
でも結婚迄は愛してない
自分の気持ちに気付て
しまいました。。
それに春彦さんは私に
取り返しの着かない嘘を
付いてますよね?
信用出来る迄
結婚は出来ません』

私はどさくさに紛れて
意味深な事も言った


春彦は必死に成る

『じゃあ、今別れるとか
ずっと僕と結婚しない訳では
無いですよね?』


私の心はこの時複雑で
これ以上春彦を
嫌いに成る事も嫌だった

『今日は帰って下さい
そして結婚式は
延期にしましょう』

私が言うと
私が限界と判ったのか

『判りました…』
春彦は素直に帰って行った

No.71 09/04/24 01:57
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母と一緒に
玄関で春彦を見送った後

私はダイニングのソファー横に
春彦の忘れ物を見付けた

それはあのダイヤのネックレス
の入った紙袋だった

でも私は
絶対受け取らないと
心に決めていた

…次会った時に返そう…

部屋のクローゼットに紙袋ごと置き
ダイニングに戻った

すると母の小脇から
解放されたボーは
キュンキュンと私に抱っこをせがみ
2本足でジャンプしていた

私はボーに頬寄せて
抱き締めた後
高い高いをして遊んだ


私は結婚式を延期出来た
解放からか
心に余裕が出来た

でも…
それと同時に春彦の正体が
気になる




この結婚式の延期が
私の人生の
分かれ目でも有った


春彦の逮捕は
本来私達の結婚式予定
8月を1ヶ月越えた
9月に逮捕される事に成る



No.72 09/04/24 02:42
ボニータ ( ♀ 16kZh )

【翌日】

私は朝10時、椿山荘に
結婚式のキャンセルの電話をした

電話に出た担当の女性は
えらく焦っていた


私が電話を切った
10分後位に
春彦のお母様から電話が来た

『困っちゃうわぁ
結婚式キャンセルって本当なの?』

私は
『すいません』と謝った

『理由はなあに?
喧嘩でもしちゃったの?』
春彦のお母様は
優しく聞いて来た


私は‘そうだ’と思い
『春彦さん、
私に本当の仕事を
教えてくれないんです』
と言った

すると春彦のお母様は

『春彦?仕事?
あの子は宝石商ですよ。
何の仕事って言われてるの?』

…あっさり
仕事が判ってしまった


『あ…私には春彦さん
外務省って言われてます』
私が答えると

『いやぁねぇ…本当?
酔っ払ってたんじゃ無いの?』
春彦のお母様はそう言った…


『すいません
今後の話し合いが固まったら
又御挨拶します』

混乱する私は
早々に電話を切ってしまった



その日を境に
毎日有った
春彦からの連絡が
急に無くなってしまった

No.73 09/04/24 04:04
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私から春彦に
連絡する気分にも成れず

私は色々考える


そして私は母に言った

『ねぇ、お母さん…私、
春彦さんと結婚解消して
貰ったプレゼント全部返して
この生活
出来なく成っても良い?』

すると母の
1番最初の言葉は
『ボーは?
お母さん、ボーだけは
絶対返したく無いわよ』

咄嗟に出た言葉だった

私は嬉しかった

『お母さん、
ボーは私が働いたお金で
買ったから大丈夫だよ』

そう言うと
安心した母は
しみじみ言った

『人はね、やっぱり
身分相応って有って
私達にこの生活は贅沢過ぎる
お母さんはち~ちゃんと
ボーが居ればそれで
充分なんだから』


それを聞いた私は
母に悪いと思いながらも
ドッと肩の荷が
降りた思いだった


…自分の貯金は
春彦に出会う前
幸いな事に定期預金していた
残高は引っ越しても
少し余裕は有る…

私は春彦との別れを
いつ切り出すか考え出す…




この後

現実に有った
サスペンス劇場を私は
体験してしまう

時間が経った今でも

この先は

思い出すのがとても辛い


No.74 09/04/24 15:34
ボニータ ( ♀ 16kZh )


連絡無い日々は約3週間…

春彦との関係は
自然消滅なのかも知れない…

あれ程までに
私を愛してると
唱えた歌は聴こえない

きっと連絡無い日々が
答えなんだと

私は自分に納得させる


…でも人の想いとは
不思議だ

突然居なく成ると
淋しく思う事も有る

春彦とこのまま別れても
私への想いだけは
本当だったと

ただ
信じたい自分も現れる…


正にそんな頃だった…


静かな部屋に電話が鳴った
‘プルルルル’

それは春彦からだった

『はい』
私は両手で電話を耳に当てる


『ずっと声が聞きたかった』
春彦は思い詰めた声だった


でも私は複雑な
自分の気持ちを殺す…

『サヨナラの前にネックレスを
お返ししたい』

これはケジメだから
言わなくてはいけない


そんな春彦は
『ただ、ただ
愛してるだけなんです一生…』

沈黙が流れる中…
電話は切れてしまう


久し振りの電話は
お互いに一方通行だった

No.75 09/04/24 21:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

切れた電話から
暫く次の着信を待つが
電話は鳴らない

私は春彦からの
連絡が無い事も有り
引っ越しを考えていた

でも

今切れた電話には
まだ春彦から愛情を感じる

私は出来る事なら
今の真実を知り
嘘の理由も知りたい

私から切り出した
さよならのキッカケだけど

お別れの時は
最後に会ってお別れしたい

それが情なのか愛情なのか
自分でも判らない


春彦の携帯は圏外

春彦のお母様も
春彦の居場所判らず
逆に教えて欲しいと
取り乱していた


そんな3日後

春彦から
国際電話が入る

『誰にも行先は言わず
明日成田発の飛行機で
スペインに来て欲しい』

チケットはカウンターで
受け取れると言われた

春彦に会える方法は
今それだけ

私は
『判りました』と答え

春彦の指示をメモした

No.76 09/04/24 22:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

その頃
私の母は何となく
行方の判らない春彦の連絡を
私は待っていると知っていた

でも私に気遣ってか
多くを私に聞かない

そんな生活の中で私達の
唯一の癒しはボーだった

ボーはとても可愛い
ゴムまりの様に
部屋中を飛び跳ね
フローリングをチャカチャカ走る

突然の夜鳴きと
足に噛み付く癖は
まだ抜け無いが

母からもカリカリを
食べる様に成った

でもカリカリを母があげる時
『おいちぃね』
と言いながら1粒ずつ
手であげないと食べない
変な癖が付いたが
母はカリカリタイムを楽しんでいた


私はダイニングに行き
母に言った
『明日から少し
旅行に行ってくるね』

母は深く聞かず
『は~い、ボーにお土産
忘れないでね』
と返事をしていた

私は部屋に戻り
スーツケースに洋服を詰め込む

スペインは最近迄
留学した場所
ペセタも少し残ってる…
…パスポートも入れて

飛行時間は約12時間…

…私は何故
この時必死で
春彦に逢う為に
用意をしていたのだろう

愛情が無いからと
結婚を辞めたのは私なのに…

私はこの時
心の何処かで春彦の犯罪に
気付いていたのだろうか…
犯罪を予感する気持ちで
愛情を認める事が
怖かったのだろうか


No.77 09/04/24 22:50
ボニータ ( ♀ 16kZh )

【翌日】

私はタクシーで成田空港へ向かう

用意されたチケットは
今回もファーストクラスだった

1人で機内へ入り
広い座席に座る

スペインは遠い
乗り継ぎも時差も有る

春彦とはマドリッド空港で
待ち合わせだった


でも何故スペイン…

私が好きな街だから?


時間の有り余る私は
悪い想像で
押し潰されそうに成る


春彦は日本には
もう居れないのか…?

指名手配されているのか?

3000万円のネックレスは
何か関係有るのか?

私の考え事は
途切れる事無かった




とてもとても
長く感じたフライトを終え


私はやっと春彦と
待ち合わせする
空港に到着した

No.78 09/04/24 23:29
ボニータ ( ♀ 16kZh )

スペインの空港は
日本人が少ない
すぐ春彦を見付けた

春彦は
スーツ姿で私を待って居る

私は春彦に
聞きたい事が沢山有る

春彦は私に駆け寄ると
私を強く抱きしめた

『不安にさせてすみません』

暫く春彦は私を離さない


何故だろう…私は
涙が出てしまった

『あの、春彦さん
私、話たい事が沢山…』

春彦は頷くと
‘リッツ’と言うホテルに
宿泊してるから
話は部屋で…と言った

この逢った
一瞬でも判る…
春彦は私を
変わらず深く愛している

そして私達は
タクシーに乗りホテルに向かった

その間春彦は
私の腰と手を触り
何かを重く考えている


私はもう春彦と
日本でこんな風に
会えないのでは無いか…と
予感してしまう

No.79 09/04/24 23:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )


リッツと言うホテルに到着した

古いホテルだが
格式の有る高級なホテルと
すぐ判った

部屋は豪華と言うより
良い家具が上品に揃っていた

観光に来た気分では
決して無かったが
私は部屋1つ1つを
見て回った


お風呂場がとても広い
白い足の付いたバスタブは
お姫様が入る様な
お風呂だった


『婚前旅行と言ったら
怒りますか?』

春彦は私の肩に手を置いて
言った


私は春彦の正体が判らない…

私は春彦の手を引き
椅子に座らせた


『春彦さん
私に本当の事を話して下さい』
私の長い質問が始まった

No.80 09/04/25 00:14
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『貴女は怒った顔も綺麗だ』

春彦は映画みたいなセリフを
私によく言っていた

しかしキザなセリフに
私は慣れてしまって居た



『春彦さん、外務省と何故
嘘を付いたのですか?』


春彦は言う
『外務省と言えば
まず僕に
興味を持って貰えると
思ったんです…』


私は質問を続ける
『何故今、
スペインに居るのですか?』

春彦は考えた嘘を付く
『スペイン金の彫り物を
買い付けに来ました』


私も偶然スペインの彫金に
興味が有り知っていた

宝石商なら仕入れも
あり得る話…


『春彦さんは何故突然
1ヶ月も私と
距離を置いたのですか?』

春彦は言う
『結婚延期のショックと
仕事の嘘が貴女に判り
会わす顔が無かったんです』



最もらしい言い訳を
春彦は答えた

No.81 09/04/25 00:47
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そして私は
一番聞きたい質問をした
『3000万するネックレスを私に
何故プレゼントしたのですか?』


春彦は
言葉を溜めて言った

『貴女の喜ぶ顔が
見たかっただけなんです』

この言葉は本心だと感じた


私はハッとする

私は子供の頃
寝込んでばかりの
母の笑顔が見たくて
親孝行ばかり考えていた


春彦との結婚は
母を楽に出来ると思ったから…
母の笑顔が見たいから
だった…


私も春彦も
大切な人の笑顔が見たくて
無理して頑張ってしまう…

でも結局
私も春彦も
お互いを傷つけていた…


ネックレスの件は
春彦ばかりを責められない
私も同じだ


私は言った
『あのネックレス
1度も触ってもいません
新品です
返品して下さい』


『判りました
負担を掛けて
すみませんでした』
春彦は言った


でも私も
春彦に謝らなくてはいけない…

No.82 09/04/25 01:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『ごめんなさい
春彦さんとの結婚…
私も母の笑顔が見たかったのが
理由なんです』

私は立ち上がって頭を下げた


すると春彦は
優しい顔で言った

『いいんですよ
僕に心が無い事位判って
ましたからね
結婚をOKしてくれた時
本当に嬉しかった』



私は春彦を
好きに成りそうに成る

もしかしたら
この時
好きだったのかもしれない…

でも
私は流されたらいけない


『春彦さん…』
この先の言葉が中々出ない…

私の目から
涙が落ちてしまう

『自主して下さい…』


No.83 09/04/25 16:07
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は春彦に自首を勧めた


私は飛内や
乗り継ぎの待合時間
そして今迄もずっと
春彦の行動を思い返していた


行方を家族にも報せぬ事…

誰にも行先告げず
此所に来て欲しいと
私に告げた事…

突然切れた電話…

圏外の春彦の携帯電話…


もし
春彦が私に愛が無いのなら
それも判る話だった



でも春彦は私を愛している

今言われた言い訳も
私には嘘と判ってしまう



なのに春彦は
表情1つ変えて居なかった

春彦は私に嘘を認めない

No.84 09/04/26 11:25
ボニータ ( ♀ 16kZh )

春彦は言う
『僕は捕まったりしない
だから…
泣かないで下さい』


春彦は私の涙を見て
どんな気持ちだったのだろう


時過ぎても私は思う事が有る
この時にもし
自首をしていれば…

罪から逃げた幸せ等
有る訳が無い…

歯車が狂ったまま
春彦は私に
真実を話してはくれなかった



この時スペインは夜だ

春彦は朝から
毎日数時間
仕事で外出し
明日はお昼前後には
ホテルに戻れると言う


そんな嘘も
私は春彦の言葉が全部
本当なら良いのに…
と微かに思ってしまう
自分も居た


真実が判らない
私の疑問は闇の中…


『今夜、貴女は疲れている
今日は休みましょう』

春彦はそう言うと
バスタブに湯を張り

順番に入浴し
今夜は寝る事にした

No.85 09/04/26 12:02
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は荷物の整理が有る…

先に入浴して貰った


私はシャワーの音を確認すると
耳を立てなら
春彦の荷物をチェックした

ドキドキした…

人の荷物を見るのは
悪いと思いつつ
目当ての春彦の手帳を探す

何か証拠が隠されてるかも
しれない


春彦のスーツケースに手を伸ばす
…鍵が掛かっていた

仕方ない
私は裸足に成り部屋中走る

次は春彦のジャケットの内ポケットに
手を入れてみた


財布と名刺入れが有った

私は名刺入れを手を取り
そっと開けてみた

その名刺入れには
私がホステス時代
春彦に渡した名刺が
一番上に有った

暫く眺めてしまった


……キュッ…

シャワーを止めた音が聞こえた
焦る私は名刺をパーッと見て
同じ名刺を1枚抜き取り
胸に隠した

名刺入れに付いた私の指紋を
服で拭き取り
元の場所に名刺入れを返した

財布を確認するには
時間が足りない

私は急いで
自分の荷物の場所に戻り
胸に入れた名刺を
私のスーツケースの底に隠した


…カチャ

『お待たせしました』

シャワーから出た春彦は
次どうぞ…と言うジェスチャーで
バスローブを着て出て来た

私はスーツケースに鍵を掛け
『有難う』
何事も無い様にお辞儀をして
お風呂場へ行った

No.86 09/04/27 00:32
ボニータ ( ♀ 16kZh )

浴室は10畳程有り
隣の部屋と段差が無く
ワンルームの様に広い

‘ポチャン’
私は湯船に浸かる

静かな夜だ


部屋でテレビを付けた音が
浴室にも聞こえて来た

私はその小さな音を聞いて
ボーッとしていた

すると

『…早…しか…
だか……ま…』

春彦の話声が聞こえる
電話の感じだ

…でも
聞き耳立てても
全く内容が判らない


そんな私は
旅と心労で疲れていた…

春彦の電話の声も曖昧に
熱いシャワーで疲れを取るが
次は春彦の鍵の掛かった
スーツケースが気に成る…


私もそうだが
疚しい事が無いとスーツケースに
鍵は掛けないだろう…

春彦を疑う私は
全てが疑問に感じてしまう

そんな事を考えながら
私は長い髪を洗い
ガウンを着て浴室を出た

No.87 09/04/27 01:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

浴室から出ると
春彦も同じガウンに着替えて居た


微笑む春彦に言った
『先程、話声が聞こえた
気がするんですけど』

でも春彦に
『それはテレビの声ですよ』
と返されてしまった


春彦の言動は
こんな小さな事だけど
‘怪しい…’
と思う事が多い


一方春彦は
そんな私の想いを知ってか
気丈に明るく努め
私に不安を与えない様
一生懸命に振る舞うのが判る

そして何よりも
私に優しい…


あんなに
春彦を愛そうと努力して
愛せないと
思っていたのに


私への優しさと愛情で
今頃
傾きそうな自分も居る…



誰か教えて下さい

好きな気持ちとは
いつ、どこから
やって来るのでしょうか?

No.88 09/04/27 12:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )


私の揺れる気持ちは切ない

好きに成っては駄目だ…と
理性がブレーキを掛ける度
私の胸は針が刺さる様に痛い



『もうこんな時間ですね』

春彦に促され
寝室に移動し
3m有る白いキングベッドに
横に成った


春彦は何か話をしたそうな
雰囲気だったが
私は背中を向けて
‘おやすみなさい’
と小声で言うと

春彦は
『明日の夜はカルメンでも
見に行きましょう…』

と私の頬にキスをして

‘おやすみなさい’
と電気を消した


私は疲れていたらしい…

すぐ眠ってしまった




No.89 09/04/27 13:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )


私は泥の様に眠ってしまい
夢も見ない程熟睡していた…

【翌日】

春彦の姿は無く
春彦の言う‘仕事’に
出掛けた様だ

時計を見ると
もうam10時を過ぎていた

私はボーッとしながら
浴室へ行きシャワーを浴びると
やっと私は目が覚めた

服を着るのに
スーツケースを開ける…

昨日スーツケースに隠した
春彦の名刺を思い出し
スーツケースの奥から名刺を
引っ張り出した

【○○宝石 ○○春彦】

立派な名刺には
春彦の勤め先が印刷して有る

会社の住所を見た

私に用意したマンションから近い
車で15分位の距離だろう


何故、本当の事を
教えてくれなかったのか…

1つ嘘を付くと
嘘を取り巻く現実も嘘に成る…

私は哀しさで一杯だった


春彦の名刺は
私のスーツケースのポケットに隠した

私は身支度を初め
ドレッサーで化粧をしていた

‘コンコン’

軽いテンポでドアを叩くと
鍵が開き
春彦が入って来た

『早く貴女と居たくて
仕事切り上げました』

息を切らし
笑顔で帰って来た


『お仕事お疲れ様でした』
私は
名刺の事は聞けなかった…

No.90 09/04/27 13:54
ボニータ ( ♀ 16kZh )

化粧をしてた私に
春彦は背中から抱き付いて来た

鏡に写る春彦は
さっきの笑顔とは違い
切ない顔をしている

『春彦さん…』

私が振り返るとキスをされ
窓から降り注ぐ日射しを
受けながら
2つの影は1つに成った


すると春彦は
理性が無くなったかの様に
私の胸に手を入れた


私は抵抗しなかった


春彦は私の胸を長い時間
揉み上げ吸い付くと

私をお姫様抱っこして
ベッドへ運ぶ…

あんなに嫌だと感じた
春彦とのSexを
すんなり受け入れてしまう
自分が居た


春彦はネクタイを外し服を脱ぎ
私の恥ずかしい部分を広げ
‘アァ…’
春彦はセクシーな声をだして
舐め尽くした

私は発情した…と言うより
愛情が有ったから
Sexを受け入れられた


『中に入りたい…』
春彦が私に確認すると
固い春彦のペニスがゆっくり
入って来た

『愛してる』
そう言う春彦は泣いていた

切ないSexは心を痛くする

私は又、胸が痛い…

だって…
この人はきっと
捕まってしまうだろう…


私のそんな想いは知らずに
春彦は私の体へ嵌まっていった


No.91 09/04/28 10:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『貴女を最初に抱いた男人を
殺めたい…』

春彦は私を抱いた後
私の過去にも嫉妬した

春彦の愛情は深く
そして…時に怖くも有った


2人乱れたベッドは
時間を忘れさせていた

昼間青く照り射した日射しも
穏やかな夕暮れに色付いている

私は1日の早さをを感じる…


『春彦さん、私、
帰国日を決めないと…』
そう言うと

『もう少し待って下さい』
春彦は慌て

『仕事の目処が立ち次第
帰国日は決めましょう…』

一泊何十万するであろう
この部屋に泊まり
何泊でも滞在しようと
言うのだ

そんな時
私の気持ちは
又…不安へと
愛情は振り出しに戻っていく


No.92 09/04/28 11:33
ボニータ ( ♀ 16kZh )


スペインの酒場は
店主人の気分で店が開く

真面目な日本人が
始めてスペインに行くと
時間のルーズな感覚に
戸惑うだろう

マドリッドの高級住宅街は
夜に電気が半分程しか
灯らぬ理由は住人が不在だ

彼らは半年働き
半年は海外旅行等で遊ぶのが
普通である


私と春彦は体を交わした夜
そんな住宅街の石畳を歩き
カルメンを見る為
酒場へ繰り出した


レティロ公園の出前で
私に手を振るおじさんが居る

私はすぐ判った

留学した時、毎日1本
私はこの花売りのおじさんから
花を買っていた


スペインは英語が殆んど通じない
早口でスペイン語を話す花売りが
話す意味は判らないけど
いつも私に言う言葉が有った

『ボニータ!ボニータ!』

スペイン語で‘可愛い娘’
の意味だ

物売りのお世辞だろうが

私はこの発音と言葉の響きが
とても大好きだ

なので運命の愛犬に
♂♀関係無く名付けたのだ

ボーの名付けの切っ掛けである
花売りのおじさんだ

久し振りの再会に私が駆け寄る

『オー!ボニータ!』

おじさんはエプロンのポケットから
手を出し
私と再会の握手をした

No.93 09/04/28 12:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

それを見てた春彦は
『どの花が欲しいですか?』

私は真っ赤の薔薇1本
お願いした

花売りおじさんに手を振った後
薔薇を見つめた



カルメンには赤い薔薇が似合う

私は酒場のカルメンが
見たい理由が有った

よく有る日本人向けの
‘闘牛見てカルメン’の
観光のダンサーは
私の目当てでは無い

留学時
1人でその酒場に来たかったが
若い女性1人は危ないと
止められていたのだ



噂で聞く酒場に到着した

店内は映画の様に
異国人が集い
煙草と酒の匂いで
酔いそうに成る

女性客は少ない上
日本人の私はジロジロ見られた

でも春彦が居るので
私はお構い無しで
ダンサーの登場を待っていた

前ぶれも無く
店内が暗く成った

カルメンの踊りが始まる…

ギターの音色に合わせ
黒髪のカルメンが出て来た

カルメンは踊りながら
金持ちそうな夜の相手を探す

その高飛車な態度と
娼婦に似た妖艶な色気は
観光ダンサーと全く違う


愛想も笑顔も無い
生活の為に
夜の相手を探す

私が見たいカルメンが
美しく踊る

私が薔薇の花を1本差し出すと
胸に差し踊った

私は目に焼き付けた

私は油絵に
娼婦の様なカルメンをずっと
描きたかったのだ

No.94 09/04/28 12:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )


『春彦さん
付き合ってくれて
有難うございました』

私は店を出てお礼を言った

春彦は小汚い店内が
余り好きでは無さそうだったが
『貴女が楽しければ
僕も楽しいですよ』
と言ってくれた


でも私はここでも
春彦が怪しい…と
思う事が有った

それは
店内で何度か春彦は席を立った

そのタイミングで
私もトイレに後から行くと

少し離れた公衆電話で
春彦は話をしていた

煩い店内なので
春彦の声は大きい

そして春彦の表情は怖く
大きなジェスチャーで手を振り
凄く怒っていた

私は隠れて春彦の
そんな行動を見ていた…

『春彦さん
さっき電話してました?』
私が聞くと

『してませんが…なぜですか?
』と春彦は返す

小さな嘘が増える度
又私は淋しくなる


そして春彦の行動は
日々怪しく成って行った

No.95 09/04/28 13:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )


ホテルに戻り
シャワーを浴びベッドに入ると

私の足に
春彦は足を絡ませてきた

『今日したばかりですよ』
…私は
怪しい春彦に不信感も有り
Sexの気分では無かった

しかし春彦の欲情は止まらない

私の手を引っ張り抱き寄せた後
私の胸を夢中で
揉みながら吸い上げる…

『春彦さん、許して…』

私は解放を願うが
春彦は欲情に激しさを増し
止まらない

『貴女は僕のものだ…』

私の体中を散々吸い付いた後
春彦は私の中に激しく挿入する

中に入ると安心するのか
急に優しく成る…

春彦はきっとこの時
捕まる不安で情緒不安定
だったのだろう


穏やかで優しかった春彦は
この時は何時も難しい顔で
考え事をする時が多かった

何か不安に襲われると
私の体に逃げた気がする

『一緒に日本へ帰りましょう』

私のこの言葉には
いつも返事は返って来なかった

No.96 09/04/28 15:48
ボニータ ( ♀ 16kZh )

人によると思うが
恋心を抱いた人とSexすると
‘愛が深く成る人’と
‘冷静が戻る人’
に分かれると思う

春彦は前者で
私は後者だった

抱く事によって
愛情の距離が開くとは
春彦には皮肉な話だろう…

私は春彦の居ない時間、彼の
怪しい行動と時間をメモに残し
スーツケースのポケットに隠していた

私はどうしても
真実が知りたかった


そんなスペイン
4日目の夜の事だった

春彦の言う‘仕事’に出た彼は
夕方顔色も悪く
疲れてホテルに帰って来た

椅子に座る余裕も無いのか
春彦は部屋でウロウロし
窓から外を眺めて私に言った

『一緒に
ドイツに行きませんか?』


私は首を横に振り
『ごめんなさい』

そう言うと
春彦は暫く春彦は外を眺め

『判りました…』



私の帰国は早々にも
翌日に成った

No.97 09/04/28 17:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )

明日私は日本に帰国出来るが
春彦は暫く海外で
仕事が有ると告げられた


『春彦さんはいつ
日本に帰国出来るんですか?』

私が春彦に問うと
10日後かもしれないし
数ヵ月掛かるかもしれない…
と言う

何とも言え無い
長い長い沈黙が流れた



『来年、
貴女の好きな季節に
盛大な結婚式を挙げよう…
そうだ
僕の留守の間は
エステに行けばい…』

春彦は言葉に詰まる

私に背中を向けた春彦は
泣いていた


『春彦さん…』

私はこんな切ない婚約は嫌だ…

そして私はこの人を
これ以上
好きに成ってはいけない

『春彦さん…お願いです』


『一緒に日本へ帰って
自首して下さい』

No.98 09/04/28 18:02
ボニータ ( ♀ 16kZh )

立ち尽くす私に
春彦は抱きついた

『だから…
僕は捕まったりしない…
必ず帰って来る』

春彦は最後の最後迄
私に真実を教えてくれなかった


私達はその夜
朝迄寝ないで話をした

今迄出来なかった
話をしたり

お互いの好みや趣味
好きな音楽、昔話…

そんな普通の恋人同士の会話を
私達はした事が無い


いつも春彦は先を急ぎ
私に夢中で一生懸命で
私は春彦の何も知らなかった

やっとスタート地点に立てた

なのに
傾き始めた私の恋は
もう終わりに近付いていた

この日が
私と春彦…2人で過ごした
最後の日だった

No.99 09/04/29 00:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )


用意された帰りのチケットも
ファーストクラス

私は1人席に座り
春彦との出会いから
今迄を振り返っていた

…切なかった

春彦の愛情を思い出すと
胸が痛い




長いフライトを終え
やっと成田空港に着いた


私は母に電話を入れた
『あ、私。』
そう言うと

『どこ行ってたの?
毎日毎日ち~ちゃんに
電話が有ったわよ』

母は私の居場所を
探していた様だ


良くない予感がした

『お母さん
電話の相手は誰?』
咄嗟に私が言うと

『○○宝石の佐藤さん』


春彦の会社の人だ

私が春彦から1枚抜き取った
名刺と同じ会社名だ…


『何か伝言有るの?』
私が聞くと

『居ないなら明日掛けますって
毎日電話が来たのよ』
と母が言う

『判った、お母さん有難う』

私は急いで家に帰る事にした

No.100 09/04/29 00:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『お母さん、ごめんなさい
只今帰りました』

家のドアを開けると

ボーが私を待ち構えていた
『キューンキューンキューン』

ボーは私の膝を駆け上がり
抱っこの体勢に成ると
ペロペロしながらキュンキュンした

『ち~ちゃんの事
ボーは毎日玄関で待ってたのよ
お母さん、可哀想で
涙出ちゃったね~。ボー』

母は私からボーをはぎ取り
ボーにチュッチュッしていた


何とか家は平和の様だった

ボーが居るお陰で母は
性格が明るく成った気がする

私だってスペインで
ボーを忘れた事なんて
1日も無い


ボーは家に来てから
恩返しをしてくれてる様な
気がしてならない時が
多々有った



私はその夜
久し振りにボーと頬寄せて
深い眠りに着いた

No.101 09/04/29 00:54
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…翌朝

『ち~ちゃん、電話よ~』
私は母の一声で起きた

『はぁい、どちら様?』

『○○宝石の佐藤さん』

私は一気に目が覚め
電話の子機に飛び付いた

『はい、私ですが…』
私は心の準備も無く電話に出た

『始めまして、私○○君の
上司の佐藤と申します
婚約者様ですか?』

私は迷ったが正直に答えた
『予定だったのですが
結婚延期と言うか…』

私が言葉を濁すと
佐藤は驚いていた

『差し支え無ければ何故?』

この佐藤と言う男性は
根掘り葉掘り聞いて来た

私は疚しい事は何も無いので
答えるのは別に良いのだが
プライベートの事迄聞いて来る…
私は一通り答えたが
何か違和感を感じていた


『もしかして
警察の方ですか?』

私は思い切って聞いてみた


『…そうです…』

佐藤と名乗る男性は
刑事だった

No.102 09/04/29 11:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )


『刑事です…』

私はその言葉に
全身の血液がサーッと下がった

『いや、すいません
お母様が電話に出たもので
○○さんの会社名を名乗らせて
頂きました』

刑事はとても丁寧な口調だ

『あの、春彦さんは
犯罪者なのですか?
何を悪い事したのですか?』

私は取り乱した

『失礼ですが、今
妊娠とか発作的な持病は
抱えてませんか?』

刑事に問われたが、私は
避妊をしてたのでその心配も
発作もない

『はい、大丈夫です』




刑事は事の経緯
今の状況を教えてくれた

『一度お会いして
お話したいのですが…』

刑事に言われた私は
私の家を指定した
話を誰にも聞かれたく無かった
のが理由だ

私は午後に来て貰う様に
お願いした

『では後程…』

…電話が切れた後も
私は暫く受話器を放せず
放心状態だった

No.103 09/04/29 11:43
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『春彦さんが横領…』


心の何処かでは‘ヤッパリ’

心の何処かでは‘嘘だ’


春彦は会社の金を
10年に渡り横領していたという
その金額は億単位だった


そして春彦の両親は
知名人だった為、その頃
一部で大変な騒ぎに成っていた


『春彦さん…何で?』


あんなに優しく私を愛した人が
犯罪者だった

私の不安な予感は
的中してしまった

だけどなかなか
現実を受け止められない


刑事は私に
『逮捕の協力を願いたい』

言った言葉を思い出した



そう、これから私は
春彦を逮捕する為に
彼を騙さなくてはいけない


私はダイニングに行き
『お母さん、‘友達’が
来るからお茶出して欲しいの
それと、お茶出したら
部屋に入らないでね』


母には落ち着いてから
まとめて話そう…

心配させたく無いだけだった


そして午後
刑事は私のマンションにやって来た

No.104 09/04/30 00:04
ボニータ ( ♀ 16kZh )

午後、電話が鳴り
刑事がマンションの下に着いたと
連絡が来て
私は迎えに下った


『どうも、お世話に成ります』

迎えた刑事の印象は
穏やかな人柄では有るが
目付きが鋭かった


『あの、上に母が居るのですが
今日は私の友達が来ると
伝えています
後々事実は話ますが
心配掛けたく無いので…』

私が言いづらそうにすると
『判りました、大丈夫ですよ』

その刑事は‘1’話すと
‘10’判る人だと感じる


挨拶もそこそこで
私は部屋に刑事を招いた




『ふぅ』
刑事は座布団に座ると

『良い天気で
気持ちいいですね』

緊張する私を察してか
他愛ない話をする


『春彦さんの事なんですが…』
私は早く本題に入りたい

すると刑事は
私に警察手帳を見せた後

私と春彦の出会いからを
聞きたいとメモを取りながらの
訊問が進んでいった

No.105 09/04/30 00:47
ボニータ ( ♀ 16kZh )

刑事は表情変えず
ひたすら私の言葉を
メモしていた

一通りの訊問が終わり

『春彦さんの横領は
本当に事実なのでしょうか?』

私が聞くと
刑事は言った

横領は長期に渡る
紛れも無い事実で
横領金額は桁外れ…だと

しかし
春彦単独の行動では無く
春彦を操る‘ボス’も存在し
それぞれが海外に逃亡中…
と教えてくれた


私はスペインでの春彦の
怪しい行動を思い出し
スーツケースのポケットから
春彦の怪しい行動を
記したメモ紙を刑事に渡した

『ああ、この電話の相手が
○○(ボス)だな…
この紙、貰っていいかな?』

私が頷くと刑事は
手帳にメモを挟んでいた

『…で
貴女にお願いが有ります』

『…はい』
私が答えると

『○○(春彦)を
日本に帰国させる様
説得して欲しい
…勿論
警察が動いてる事は内緒だ』

その時既に
私服警官が成田空港で毎日
春彦らを張ってる事を
私に告げた

No.106 09/04/30 01:45
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『判りました
協力させて頂きます…』

私は現実を受け入れるしかない

『で…早速で悪いのですが
○○(春彦)が宿泊してるホテルに
今、電話して貰っても
いいですかね?』


刑事に電話内容の指示を受け
リッツに国際電話をした

‘ポー…ポー…’






電話の内容はこうだ

春彦は偽名で宿泊をしていた

私はいつも春彦と行動し
ルームサービスも春彦のサイン
鍵もフロントへ預けなかった為
一緒に宿泊してた私さえ
偽名と気付かなかった

そして春彦は
私が帰国した日に
チェックアウトをしていた


受話器はスピーカーにした為
電話の内容は刑事も聞いていた

私は愕然とした
偽名を使ってたなんて…

それと同時に
春彦の行方も判らなくなった


『大丈夫ですか?
辛いと思いますが
今度も
捜査の協力お願いします』

そう言い残し
刑事が帰ったのは夕方だった

No.107 09/04/30 02:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は刑事を見送った後
自分の部屋で泣いていた


刑事の前では
気丈に振る舞ったが
私の心は壊れていた

カレンダーは8月に成る…

予定では
7月7日に籍を入れて
8月に結婚式だった

私が出した結婚延期の決断が
人生の矢印を変えていた

刑事が来た日から
1人部屋で考え事が多くなった


そんな時
私の支えはボニータだった

私が部屋で塞ぎ込むとボーは
ドアを前足で
‘開けろ’とコリコリする

ドアを開けるとボーは
心配そうな顔で私の膝に乗り
何時間でも動かなかった

そして私がご飯を食べないと
ボーもカリカリを食べない

そんなボーを心配して
私がご飯を食べると
ボーは私を見ながら
カリカリを食べていた

私は何度ボーに頬寄せて
泣いただろう

過去に傷を負った犬と
心の壊れた人間1人
通じる物が有ったのだろうか…


そんな様子を
母は何も聞かず見守ってくれた

心が痛い…

春彦からの連絡は
待つしかない

電話が鳴る度
心臓が止まる程ドキッとする
そんな生活は暫く続いた…

No.108 09/04/30 04:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

刑事からの連絡は
最初の頃1日1回

『何か変わり無いですか?』

と来ていたが、その連絡も
間隔が開く様に成っていた


春彦はどの国で何をしているの
だろう…

マンションの引っ越しも
考えてはいたが
刑事に‘逮捕迄待って下さい’
と言われていた


窓を開けると盆踊りの音が
風に乗って聞こえた夜

春彦から電話が掛かって来た

『もしもし、僕です…
仕事が忙しくて連絡出来ず
すみません』

春彦は緊張しているのが判る
警察の動きを
気にしてたのかもしれない

『春彦さん
お仕事お疲れ様です
今、何処に居るんですか?』

私は心臓の音が
聞こえそうな程ドキドキしていた

『貴女の声を聞くと駄目だ…
貴女に逢いたい…
毎晩貴女を抱く夢を見ます…』

春彦は変わらず私を愛していた

『ねぇ、春彦さん
私、来年の結婚式を
毎日考えているんですよ』

刑事に言われた通り
何も知らない振りをした

私の頬には涙が流れる

でも春彦に
気付かれてはいけない

春彦はフランスに居ると言うが
証拠は何も無い

『お願いです
春彦さんに逢いたい…
早く帰って来て下さい』

私は刑事の指示通り
帰国をお願いした

No.109 09/04/30 12:49
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『そんな事を貴女に
言って貰える僕は幸せ…』
電話は切れてしまった

春彦からの電話は
これが最後だった

私の心は壊れたまま
残暑の生ぬるい風が吹く

窓とカーテンを閉め
刑事に電話をした

『春彦さんから連絡が
有りました…』

刑事は忙しそうだった

話の内容を確認すると

『もうそろそろです
覚悟はしていて下さい』

それだけ言うと
電話は早々に切られてしまった


私は覚悟を決め
ダイニングでボーと遊ぶ母に
春彦の真実を話した

『お母さんごめんなさい…』

私は母に要らぬ気苦労は
させたく無かったが
避けては通れぬ現実を報告した

『…いいのよ
ち~ちゃん、辛かったわね…』

多くを言わないが
娘に襲った事態を
きっと母は不敏に思っただろう


そんな私にボーは
抱っこをせがみ顔をペロペロした

ボーは人間の話が判るかの様に
いつも私を慰めてくれた

‘私の処に来てくれて有難う’

もしボーが居なかったら
私はどれ程辛かっただろう

私の壊れた心を
ボーは治療してくれていた

No.110 09/04/30 13:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

時は9月に入った

私の身辺は慌ただしい

春彦が勤める宝石商の
本当の上司と連絡をしたり

私は不動産をまわり
引っ越しの準備を始めていた

忙しい方が精神的に楽だ
少しだが気持ちが紛れた



春彦逮捕の日は突然やって来た



午前10時頃電話が鳴った

私が電話に出た

『○○春彦、成田空港○○にて
○時○分、身柄確保』

警察からの電話だった

私は外出を控える様
指示される

『判りました…』

心の準備を
してたつもりだったが

…辛い…

私は時計の針を見ながら
今後の展開を待つしか無い

緊迫した空気が私を襲う

そんな時は全てが突然だ

‘ピンポーン’チャイムが鳴る

訪問の相手は

私服警官2人
春彦の会社の上司
不動産屋

…そして手錠を掛けられた
春彦だった




No.111 09/04/30 23:56
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はこの現実に
従うしかない…

ドアをゆっくり開けると
私服警官に
警察手帳を見せられた

『お話宜しいでしょうか?』

私が頷くと

『オラ!○○さっさと歩け!』

後ろに居た春彦は
私服警官に
呼び捨てにされていた

同行した不動産屋は
靴を脱ぎ忘れる程焦っている


『…春彦さん…?』


逮捕された春彦はやつれ、
いつもキッチリ決めた髪の毛は
見た事無い程ボサボサだった


警官に歩かされる春彦は
何かに繋がれ
手にはジャケットが巻かれていた

私は手元を見た

…手錠だ…


『いやぁぁーーー』

私は
春彦に掛けられた手錠を見て
パニックを起こしてしまった

『大丈夫ですか?』

警官は震える私の
背中を擦ってくれた

『彼女の前だけ
手錠は外してくれませんか?』

春彦が警官に言うと

『家の中だけだぞ』

無言で手錠を外してくれた

私は春彦を直視出来ない

辛すぎる現実だった

No.112 09/05/01 00:49
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は少し落ち着いた後
自分の部屋へ案内した

春彦は立ったまま離れた場所で
私服警官に押さえられている

私の前には警官1人と
春彦の上司、
少し離れた所に不動産屋が座る

あの刑事から
話が繋がっているのか
警官は私の事にも詳しい

『貴女は被害者です
何も心配しないで手続きだけ
お願いします』

そう言うと警官は
本を朗読する様に
事件の経緯を読んだ

私の知ってる部分だけ
間違いないと確認すると
次に春彦の上司が
宝石のカタログを広げた

『このネックレス
お持ちではないですか?』

指差した先は
春彦からプレゼントと称された
3000万のネックレスだった

私は部屋のクローゼットを開け
紙袋に入ったままの
宝石箱を渡した

春彦の上司は
手袋をしてから宝石箱を開け
ネックレスを丁寧に確認していた

一度も触って無い
ネックレスの状況が判ると
安堵の表情を浮かべた

『このネックレスはカタログの通り
我が社の宝石です。
○○(春彦)が持ち出した
盗難品に成ります
こちらは返却頂きますが
宜しいですか?』

『勿論です
お持ち帰り下さい』

私はやっと
ネックレスを返す事が出来た

No.113 09/05/01 01:37
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『こちらもお持ち帰り下さい』

私は
春彦にプロポーズされた時貰った
200万の婚約指輪を
指から外した

『それは持ってて下さい!』

春彦は離れた場所から叫んだ

『黙れ!』

警官に怒鳴られていた

私は春彦を見ない様
必死だった
声を聞く事も辛い

私は立ち上がり
自分の宝石箱から
春彦に貰った宝石を抜き取り
机の上に約20点並べた

『全て春彦さんに
頂いた宝石です
こちらもお持ち帰り下さい』

春彦の上司は
宝石を見ただけで会社の宝石か
判るらしい

『この中に当社の宝石は
1つも有りません』

プレゼントされた証拠が無いので
引き取れ無いと言う



宝石は怖い

私は何の信仰も
宗教も入ってはいない

でも‘石’には‘力’が有ると
子供の頃から信じてる

春彦から貰った宝石が有る限り
春彦を忘れられない

良くない想いが入ってしまう…


頭を上げない私を見て
暫くの沈黙が有った

春彦の上司は
警官に持ち帰って良いか
確認すると

『判りました』

机に並べた宝石は全部
持ち帰ってくれる事に成った

No.114 09/05/01 02:45
ボニータ ( ♀ 16kZh )

次は不動産屋の話だった

始めて会う不動産の方は若く
来た時からピリピリしていた

不動産屋は私に強い口調で言う

『このマンションの敷金辞退を
お願いに来ました』

不動産屋がわざわざ
その為に来た理由は判らない

私はキョトンとした…

敷金を貰おうなんて
想像もした事が無い

『はい、勿論辞退します』

そう言うと

‘え?いいの?’

と言う感じで拍子抜けしている

この高級マンションの敷金は3ヶ月分
165万円だった


この手の事件は
被害者同士の話し合いに成る為
金品の返却や辞退は
両者揉め泥沼化し
裁判に成る事も有る…
と教えてくれた




お金は怖い

春彦の逮捕は数億の横領…
逮捕後はお金の話…


お金や宝石は
人格や運命さえも
変えてしまうのか




私が書類の手続きを終えると
皆、帰る用意を始めた

私の視界の隅には
春彦が居る…

もうこれで最後…
彼に逢えなくなる

No.115 09/05/01 03:34
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『以上…
こちらから連絡する事は
もう有りませんが
何か有りましたら連絡下さい』

警官に管轄の電話番号を貰った

玄関では私に見えない位置で
春彦に手錠を掛けた音が
聞こえた

私は春彦の顔を見ない様に
顔をそむけた

でも春彦はずっと
私を見ているのが分かる



‘何で?…
私を一生幸せにするって
嘘だったんですか?’


本当は叫びたかった

泣きたかった

後を追って

‘横領って…
本当は全部嘘ですよね?’

確かめたかった

私の薬指に
あの婚約指輪はもう光らない

全ては罪の中に有る
おとぎ話だ



『ほら!行くぞ!歩け!』

警官は春彦に怒鳴るが
春彦は動かず私に叫んだ

『僕は騙されたんです!
お願いです!
待ってて下さい!
愛してるんです!
待ってて下さい!』

警官に押さえられた春彦は
必死で私に向かおうとする

『いい加減にしろ!!』

警官は怒鳴りながら
春彦を引きずり
ドアの外へ消え

春彦の声は小さく成って行った

No.116 09/05/01 05:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…春彦逮捕…
当時私は22才


竜巻みたいな恋と経験は
私の心を荒れ地にした


そしてこの時
未来に起きてしまう
大きな竜巻が
ゆっくり動き始めた事を
私は全く気付かない

私の未来に起きる本当の不幸は
ここがスタート地点だった





逮捕された日が
春彦と最後に会った日に成った

私はこれから
母とボーを一生幸せにする為に
頑張らなくてはいけない


でも、、逮捕の日から
寝つくのにうなされる…

逆に悲鳴を上げて
突然飛び起きる事も有った

その理由は‘手錠’だ

春彦に掛けられた
銀色の手錠を思い出すと
パニックを起こす

吐き気と猛烈な拒絶感で
狂いそうになる

自分でも判らない
手錠が怖い…

そんな精神状態でも
次の引っ越し先を決めないと
いけない

ボーが居る為、絶対的条件は
ペット可のマンションだった

当時はペット可物件は少なく
入居審査が厳しい

保証人の居ない私は
毎日不動産回りをしていたが
中々厳しかった

引っ越しは今月中だ

誰にも頼れず睡眠さえも
充分には取れなかった

No.117 09/05/01 06:27
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーと一緒に不動産を
何軒もまわった
ボーを内緒にして住むのは
嫌だった

でも現実は厳しい
貸してくれる不動産はいない

そして悪い事は続く


春彦逮捕から
3~4日後の事だった

私がマンションから出ると
写真を撮られた

『キャバクラ嬢○○さんですよね?
億単位で貢がせたって
本当ですか?』

妙なインタビューをされる
一体何処からの情報なのか
なぜ家まで分かるのか怖い

事件に背びれ尾ひれが付き
話が大きく成っていた

私は逃げるしか無かった

何より春彦の事は
名前を聞く事さえ辛い

忘れようと必死なのに…

私は外に出る事も怖く成る

昼間でもカーテンを閉めて
生活した

でも引っ越し期限は…1週間後


そんな追い込まれた状態を
慰めてくれるのはボーだった

『ボーは優しいね、ありがとう
ずっと一緒だからね』

私の話相手は常にボー

ボーに頬寄せて寝ないと
私は夜、眠れない

そんなボーは
絶対に裏切らない…

‘ボーが居てくれるから
頑張るね’

前向きな気持ちに成れたのは
ボーのおかげだった

No.118 09/05/01 12:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

~1ヶ月後~

家賃25万円の東京都内マンションに
私、母、ボーは引っ越していた

ボーは新居に越すと
家の隅々をクンクンとチェックをし
その姿は可愛く私を和ませた


…しかし春彦の事件で
私は全てに疲れてしまい
家で静かに油絵を制作していた

皮肉にも春彦と行った
娼婦の様に妖艶にも美しい
スペインで見た‘カルメン’だ

完成した油絵をダイニングに飾る


この絵はもしかしたら
春彦の思いを引き寄せて
しまったのでしょうか?

私は幸せな恋愛が出来ない…

22歳の体験は
私の精神年齢を上げてしまった

同年代の男性が子供に思い
話すら合わない

スーツの似合う落ち着いた男性を
私は目で追ってしまう

しかし40代の落ち着いた男性は
既婚者ばかりだ

私には絶対的なルールが有る
既婚者は決して好きにならない


私は女性なので
やはり女性の味方だ

陰で泣く愛妻が居るならば
絶対に壊すべきではない

人に恨まれる不幸は
必ず自分に返ってくる

愛情が怖いと言う事は
春彦で学習していた

そして春彦の執着した
愛情を表現してくれないと
本当の愛では無いと
私は勘違いしていた…

No.119 09/05/01 12:39
ボニータ ( ♀ 16kZh )

でも私には守る者が有る
母とボニータだ

ずっと落ち込む時間は無く
私は働かないといけない
家賃だけで
月に25万円消えていく…

あの時、
引っ越し出来る物件が限られた
高い家賃は仕方無かった

落ち着いたら
安い家賃に引っ越そう…
そんな状況だった

私は水商売に戻る決心をする

以前の水商売経験から
自分で面接に行くよりも
スカウトマン経由で入店した方が
時給が良い事を知っていた

池袋は過去の私を知っている…
新宿のキャバクラへ行こう…

当時新宿アルタ横から
コマ劇場への直進は
‘スカウト通り’と言われ
ホステスやAV、ランジェリーパブ…
あらゆるスカウト通りだった

私は決心すると
長い髪をグルグルに巻き
派手な化粧を久しぶりにする

ミニスカートのスーツに網タイツ
靴はピンヒールを履いて
CHANELのバックを肩から掛けた

『お母さん行って来ます』
私の姿を見て
母は水商売に復帰すると
一目で判る

『無理しちゃ駄目よ』

ボーを抱っこして
見送りをしてくれた


『新宿アルタ迄お願いします』

夕方タクシーに乗り込み
私は歌舞伎町に向かった

No.120 09/05/01 23:21
ボニータ ( ♀ 16kZh )

新宿アルタ前でタクシーを降りた
ネオンと雑音が交差する場所…
久し振りの繁華街に緊張した

アルタのスクリーンを見上げていると
白いスーツの男性が
私に手を振っている

『○○ちゃ~ん』

池袋の源氏名を呼び走って来た

彼の名前は知らないが
スカウト通りを歩くと会う
顔見知りのスカウトマンだった

『お水辞めたって噂だけど
その格好は
今どこで働いてるの?』

早速声を掛けられた
春彦の事件を知らない様子に
私はホッとする

『働くお店探してるの』

そんな話をしていると
他のスカウトマンも集まって来た

『え!うちの店に来てよ』

名刺を合計3枚貰い
顔見知りのスカウトマンの店から
面接に行く事にした

『凄いついてるなぁ』

スカウトマンは嬉しそうだった

でもきっと
それ以上に嬉しかったのは私だ
タクシーを降りてすぐ
面接に行けると思わなかった

風林会館から割と近い
キャバクラに向かう
私は店の名前だけ以前から
知っていた

店に入ると時間帯がまだ早く
待機席で座ってるホステス達が
‘面接?面接?’
と言う感じで私の方を見ていた

…そっか
私は新人に成るから
このホステス達が先輩に成るのか…

私もチラチラ見て様子を伺っていた

No.121 09/05/02 00:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

その日運良く‘専務’が居た
偉い方に直接
面接をして貰える事に成った

私の事はキャバクラ雑誌等で
知っていた様だ

『お客様は
どの位呼べますか?』

そう聞かれたが
以前の顧客情報は消去していた

『すみません、
一度お水を上がり
お客様は呼べません』

そう言うと専務は頷いた

『まぁ、いいでしょう
池袋と新宿は客層が違います
新規開拓して下さい』

専務は紙に時給を書き

『これで如何ですか?』

基本時給倍額を提示してくれた

それでも池袋の時より
時給は低いが
0からスタートなので好条件だった

『体験入店でも良いので今日
働いて行きませんか?』

常務に顔を覗き込まれた

私はそのお店に入って
15分も経って無いが
お店の雰囲気が気に入っていた

『はい、お願いします』


新宿に着いて1時間程で
働くお店が決まった

新宿での私の源氏名は
‘忍’

待機席に移動すると
常務からホステスに紹介した

『今日から入店の忍さんだ』

そう言うとホステスは拍手をする

私はお辞儀をして待機席に
座った

No.122 09/05/02 02:32
ボニータ ( ♀ 16kZh )



流れる様に
決まったお店は
ホステス同士はとても仲が良く
友達も親友も出来
居心地の良い場所だった

…だけど

私はきっと
水商売に戻るべきでは無かった


‘水商売’とは
酒を注ぎ、夢を売り、嘘を付く

派手に着飾る
高給取りと思うだろう

でも
そのお金と引き換えに

お金で買えない
大切な何かを失っている

春彦の逮捕の意味は
神様が私に教えてくれた
注意信号だった

判らない私は馬鹿だ

その結果
春彦の時よりも
辛い辛い思いをする事に成る

意味のない大金は
幸せにはしてくれない事を

私はこの時なぜ
気付かないのだろう


No.123 09/05/02 03:26
ボニータ ( ♀ 16kZh )

新宿のお店で私はすぐ
ナンバー1に成った

太い客を数人持ち
営業にも苦労しなかった

私が頑張れる理由は
母とボーの存在だ

恋人は出来ない
…と言うか
男性に全く興味が無い

ちょとした出会いが有っても
春彦の様に
異常な求愛が無いと
なんか物足りない

‘お客様はお金’

プロ根性で
理想のホステスを演じていた

そして私の住む25万の家賃は
太客が自ら払いたいと払い
欲しくもない
新車をプレゼントされる
勿論Sexなんてしない


ホステスとしては
きっと成功者だろう

なのに
私の心はいつも満たされ
なかった

贅沢な暮らしをすると
子供の頃を思い出した

春彦の時と
同じ感情が出るのに

この生活から
抜け出せなかった

No.124 09/05/02 11:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母は口癖の様に

『ち~ちゃん
お母さん幸せよ。有難う』

といつも言っていた

母は勿論、家賃、光熱費、
生活費の心配など要らない

お小遣いは月20万円渡し
働かずボーと家で過ごさせた

私は母親の笑顔を見る為に
働いていた

将来いつか私は母の介護をする
結婚する時が有れば同居
無理なら一生独身でも仕方無い
…そんな考えは常時胸に有った

私の子供はボーだ…
私は母とボーが全て
母とボーが幸せならそれでいい

この暮らしは
水商売位しか出来ない

綺麗に着飾り
微笑む私の心中は
誰も知らない


そんなボーは
私が夕方出勤する事を嫌ってた

私が出勤の支度をすると
『キュ~ウン』
とフローリングに伏せ
化粧する私の横で
淋しそうな顔をする

ボーは本当に頭が良い犬で
話す言葉も理解してる様に思う

お昼、散歩の時間に成ると

自分でリードをくわえ
私のベッドの横に置き
その後ペロペロ攻撃で私を起こす

でも雨の日は散歩に行かない

『ボー、雨降ってるよ
見て来てごらん』

そう言うとベランダの窓へ走り
雨を確認するとボーは納得する

そんなボーに命を助けられた
不思議な事が有る

No.125 09/05/02 12:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )

新宿のキャバクラで働き出した
頃だった

私の公休日は月曜日
昔からの大親友が
日比谷にお洒落なカフェを
オープンする事に成った

『おめでとう~
本当に本当に良かったね』

念願掛けた夢を知る私は
店にスタンド花を贈り
開店の手伝いを約束していた

確か飛び入り連休の
平日月曜日…

大切な日の待ち合わせには
車より電車が時間に正確だ

私は普段電車に乗らない

少し早めに千代田線に
乗らないと間に合わない

待ち合わせは
改札口を出た処で8時15分

私は前日仕事だった為
寝坊し、起きたのが7時だった

『きゃ~大変!』

6時に起きて気合いいれて
身仕度する予定が狂った

『ボーおはよう!』

私はボーを抱っこして撫でた

…その日
ボーは様子がおかしい

いつも絶対するペロペロを
ボーはしない

それどころか私に威嚇する

『ヴッ―ヴッ―』

『ボー??』

ボーを床に降ろすと
ボーは玄関にチャカチャカ行った

私はその様子に
驚いたが時間が無い

化粧は時間が有れば
駅のトイレでしよう…
それ位急いでいた

『お母さんボー
行って来ま~す』

玄関に行くと
ボーが唸っている

『ヴ―ヴー』

No.126 09/05/02 12:55
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんなボーを私は見た事が無い

『お母さ~ん!ボーって
狂犬病とか無いよねぇ?』
思わず言うと

『有るわけ無いでしょう』
母は首を横に振り続けた

ボーが可愛い私は
予防接種はちゃんとしている


『ボーごめんね。急いでるの』

私は下駄箱から靴を出した

するとボーは靴の上で
伏せてしまった

『んもー!
ボーちゃんはいけない子』

私はボーを抱っこしようと
手を出すと

『アンギャー!!』

怒り爆発という感じで
発狂している
興奮したボーはグルグル回った

次の瞬間

『キャンキャンキャンキャン!』

ボーは急に動かない

突然の光景に私も母も驚いた

『大丈夫?ボー!』

私は荷物を放り出し
ボーを両手で抱きあげた

ボーは涙を溜めて
『キューンキューン』
言い出した

ボーの右足だけ
プラーンと伸びている
骨が外れてしまった様だ

『ボー大丈夫!?』

私は焦りまくった

待ち合わせを忘れ
動物病院に電話をし
ボーを抱きかかえ私は走った

自宅が動物病院の先生は
すぐボーの右足のレントゲンを取り
写真を見せてくれた

『脱臼ですね…
そんなに心配しなくても
大丈夫ですよ』

取り乱した私を
先生は宥めてくれた

No.127 09/05/02 13:38
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーは痛み止めの注射と
小さな添え木を足にしてもらい
錠剤の痛み止めと粉薬
そして大きな粒のカルシウム系の
お薬を貰った

その時ボーはいつもの優しい
タレ目の愛らしい表情に戻り
心配する私をペロペロした

慌ててた私はボーだけ連れて
財布一式家に置いたままだった

『お金は診察時間に
持って来ます』

先生に何度も頭を下げて
病院を出た


まずい、、
開店のおめでたい日に…

ボーの足に少し安心すると
友達の約束時間に焦り出した

8時20分…
待ち合わせ時間を過ぎている

私はボーを抱え家に走った


『ボー大丈夫?』

家で待つ母は心配で動物病院に
行こうとしてた処だった

『うん、、ちょ、
ちょっと待ってて』

私のバックの中の携帯が
ずーっと鳴っている

慌てて電話に出た

『ごめんね、ごめんね、
ボーが…』

私が言うのが早いか
友達が早いかのタイミングで

『無事なの?平気なの?』

興奮する友達は早口だった

『公衆電話、凄い並んでるの
長く話せ無いけど今どこ?』

私は簡単に事情を話すと

‘電車で来ないで、
店に戻ったらすぐ電話する…’
と言われ
ガチャンと切られた



地下鉄サリン事件の日だった

No.128 09/05/02 15:40
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は幽霊、UFO、宗教、
占いや血液型占いさえ信じない

現実しか信じないのは
子供からの性格だ

…でも…

ボーは何か
不思議な力が有る様に思う

ボーは眠くて
機嫌悪かっただけかもしれない

足の調子が元々悪く
苛々してのかもしれない

真実は判らないが

ボーが私の危機を
回避してくれたのは
現実だった

もし…
あの時家を出ていたら

私は許せ無い歴史的事件の
被害者の1人に成っていた

私は毎年
3月20日花を買う

他人事に思え無い事件は
時が過ぎても
哀しみと怒りが込み上げる

そう…私達は
いつも危険と隣合わせに
生活をしている





ボーの右足は日々良く成ったが

‘ポメラニアンは足が細いので
気を付けて下さい’

先生にそう言われ
関節を強くするカルシウムの薬は
よくボーに与えた

『ずっとずっと一緒だからね
長生きしようね』

そう言いながら
膝にボーを乗せて
カルシウムをカミカミさせるのが
私の幸せでもあった

No.129 09/05/03 01:01
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は23歳に成った


春彦の事は
まだ後を引いていた

長袖シャツの袖口から
シルバーのブレスレットが見えると
手錠に見えパニックを起こした

忘れたいのに
まだ私の心を乱していた

私は男性を好きに成れない…
彼氏も好きな人も居なかった



そんなある日の
新宿歌舞伎町金曜日だった

店が終わり帰宅するにも
タクシーが掴まらない

私は職安通りを歩き
新宿2丁目まで探していた


『はぁい、
そこの綺麗なお姉さん』

横目で見ると
今時の若い男が声を掛けて来た

…非常に危ない
こんなのは無視に限る

私はツカツカ早歩きした

『ね~ぇ、
僕をかってくれませんか?』

…変な事を言う男だ

『あのね、うちには可愛い
ワンワン居るの!間に合ってます』

歩きながら答えた

『マジうける~お姉さん天然?
違うよ、僕をお金で
買ってくれませんか?』

私は足を止めた
ケラケラ笑う男はジャニーズ系の
可愛い顔した少年だった

『お姉さん綺麗だから
泊まりで1万でいいよ』


…売春?、、。

No.130 09/05/03 01:55
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『1万円?』

私は何言ってるか判らず
聞き返した

『え~僕、
本当はロング3万なんだよ』

私は2丁目の世界を知らない

つい話をしてしまった彼は
‘ウリセン’で
働くボーイの男の子だった
‘ウリセン’とは
男性相手の売春らしい…

私は知らない世界に驚いた

『お姉さん、お願い!
お金が必要なんだ』

手を合わせてお願いされた

タクシーは暫く
掴まらなさそうだし
仕事で話のネタに成ると思って
しまった

『ホテルは無理だけど
タクシー掴まる迄…お茶なら』
私が言うと

『まじ?やった!
それなら5千円でどう?』
男の子は嬉しそうだった

私は化粧ポーチから
お客に貰ったチップ5千円
渡した

『有難う、お姉さん
僕どこでもオッケーだよ』

私の腕に絡み付いてきた

『やめて!
お客様に見つかったら
困っちゃうの』

私は男の子を振り払い
5メートル離れて着いて来る様
お願いした

『はぁ~い』

男の子は私に
敬礼のポーズでニコニコする

…若い男はヤッパリ苦手だ

そんな事を思いながら
靖国通り沿いのバーに向かった

No.131 09/05/03 10:33
ボニータ ( ♀ 16kZh )

バーに到着し
カウンター席に座った

‘お茶’とは言え5千円で
男の子を買ってしまった

夜の世界は何が起こるか
判らない

ウリセンで働いてると言う彼
名前は‘タクト’年齢は22歳
若いと思ったら
私と1つしか違わなかった


知らない2人が
深夜ビールを乾杯する
ウリセンのボーイとキャバクラ嬢
変な組み合わせだ

『知らない人に
‘僕買って’って普通駄目よ』

私は説教染みた事を言うが
買った本人なので強く言えない

タクトはウリセンで働く理由
お店に買いに来る芸能人の話
過去の恋愛を話してくれた

知らない人にだと
友人に出来ない話が出来る

『私ね辛い恋をして今でも
思い出しちゃうの
早く忘れたいのにな』

つい言葉に出てしまった

するとタクトは
『無理すると
余計忘れられないよ
早く好きな人出来るといいね』

そんな簡単な言葉だけど
嬉しかった


『タクシー掴まると思うから
もうそろそろ…』

1時間経った頃言うと

『友達に成りたいんだけど
又会ってくれる?
お金は要らないから』

タクトは携帯番号を差し出した


こんな変な出会いの彼と
‘友達’に成った

No.132 09/05/03 11:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘無理すると
余計忘れられないよ…’

この言葉は
私を救ってくれた

春彦を思い出し戸惑う時でも
‘これが私だから…’
そう受け入れて
前に進めた様な気がする

言葉…って大切だ

私もお客が求める‘言葉’を
言わなくちゃ…

そんな事も思わせてくれた



その頃母は
‘パートに出たい’と言った

何不自由無く
生活させてるつもりだったが
母は外に出て気分転換したい
と言った

でもボーを家で
1人にさせるのは可哀想

母は朝から夕方
私は夕方から深夜
家を出て働く事にした


でも本当の理由は違う

母の異変に
私は全く気付かなかった

No.133 09/05/03 12:49
ボニータ ( ♀ 16kZh )


初夏の事だった

私のお客でコテコテの関西人がいる
彼は金融屋で遊びが上手く
良いお客様、名前は『要サン』

『なぁ~忍チャン
いつアフターしてくれるん?
お兄チャン一緒に行きたい処
あるんやけどなぁ』

普段アフターはしないけど
要サンは一緒に居て苦痛では無い

『行きたい処って何処ですか』

ニッコリ答えると

『の・み・や・さ・ん』

耳元でふざけて言った

『良いですよ今日如何ですか』

私は勢いでアフターをOKした

仕事が終わり風林会館の
喫茶店で待ち合わせして
アフターへ繰り出す

『要サンのエスコート
期待しちゃいますよ』

そんな言葉に要サンは笑う

『期待したらあかん
ホストクラブやで』

遊び人の要サンは顔が広い
新しい店がオープンし
社長が知り合いだと言う

『ベッピンさん連れな
格好悪いやろ?』

昔、愛本店行ったなぁ…と
春彦を思い出しながら歩いた

バッティングセンターに近い場所に
新しいビルが建っていた

歌舞伎町は狭いけど
一本違う道は
知らなかったりする

新築の匂いするエレベーターに乗り

ドアを開ける

…チリン

『いらっしゃいませ~』

No.134 09/05/03 13:47
ボニータ ( ♀ 16kZh )

綺麗な店内には
胡蝶蘭の鉢が並び
時間帯が早く
ホスト達がたんまり居た

愛本店をイメージして居たが
年齢層が若い
ホストの系統はバラバラ

聞くと色んな店から引き抜いた
ホストが集結しているらしい

暫くすると社長さんが出て来て
要サンに挨拶した

『狭い店にわざわざ
ご来店有難うございます
隣のお嬢さんは?』

要サンは

『ぼくたち、結婚します』

標準語を使って笑わせたり
ホストより楽しい

『なぁ忍チャン
好みのホスト居たら教えてな…
シバキ倒すから』

そんな冗談を言いながら
楽しく飲んでいたが
要サンの携帯が鳴り
店の外へ行ってしまった

その時1人のホストが席に着いた
名前は‘沢田’

ポスターで見る昔のジェームスディーン
みたいな顔をしている
外人かハーフかと思った

『いらっしゃいませ』

私に名刺を渡す
…ん?

『貴方も関西の方?』

イントネーションに気付いた

『判ります?』

沢田も関西人だった
要サンとは180度違う
落ち着いた人だ

私の携帯が鳴った気がして
バックに手を入れてると
沢田は煙草かと思い
ライターで火の用意をしていた

『私煙草吸わないの。有難う』

No.135 09/05/03 22:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

沢田はゆっくり顔を上げると
まっすぐ目が合った

フワッとした栗色のオールバックに
肌は白く、瞳は茶色い

『煙草いつから吸わないん
ですか?』

沢田は私に聞く

『吸った事がないの』

答えた時要サンが帰って来た

『いや~明日のおうまさん
忘れてたわ~』

明日競馬に行くらしい
着席すると馬の話に花を咲かせ
私と要サンは
1時間位でお店を出た

『忍チャン、今日はありがとな
今後は寿司いこな』

そう言うと要サンはタクシーに乗り
窓を開けて手を振った

昔はホストを知らず嫌っていたが
話をしてみると
同業者として通じる部分が有る

ホストは彼氏には難しいけど
話相手なら調度いいな…
と思った

そして要サンの
関西弁もいいな…

そんな事を
帰りのタクシーの中で考えていた

No.136 09/05/03 23:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )

7月のお店は忙しい

ボーナス時期は
‘パーティ券’のノルマと
浴衣祭りのイベントが有る

私は毎日忙しく過ごしていた

そんなある夜



『忍サンご指名です』

指名が入ると一度フロントに
呼ばれ指名客の
時間振りを相談する

『ホストじゃ無いのか?』

店長に言われ
客席モニターで確認した

…沢田クン…?

私は店長に頭を下げ
沢田の席に座った

『ご指名有難うございます』
私は手を出した

この店はテーブルに着く時に
握手をする決まりだった

『…いきなり握手は
恥ずかしいよ』

断られてしまった

指名目的の営業に来たのか…
私は当然そう思う

『キャバクラって凄いね
ボーイさんがホストみたいだし』

沢田はキョロキョロしていた

『わざわざ来てくれて
有難うございます』

今回は沢田がお客なので
私が敬語を使う
水商売に有りがちなパターンだ

『忍チャン凄いね
No.1なんだって?』

そう言われた私は
益々ホストの客引きだと思う

『何の目的で
来てくれたんですか?』

私は営業の最中だ
可愛く首を斜めにして聞いた

『デートのお誘い』

真剣な顔で沢田は頬杖をついた

No.137 09/05/04 00:37
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ホストは本当に凄い
ここ迄してお客を増やすなんて

私は感心してしまった

『大丈夫ですよ
又要サンと
お店遊びに行きますね』

話をすり変えてみた

すると沢田は

『実は2回ここに来たんだけど
要さん居るの見て帰ったんだ』

入口を気にしている

沢田は標準語を関西弁の
イントネーションで話す
落ち着いた感じだ

でも年齢を聞くと沢田は22歳
私より1つ年下
タクトと同じ年だった

すると急に沢田は
敬語に成ったが
ややこしいので
お互い敬語は辞める事にした

『連絡先教えて』

沢田はしつこい

『ごめんなさい…
ホストさんの営業が苦手なの』

正直に言った

『プライベートだよ
悪いけど客には困って無いよ』

ホストの暇潰し程度に
遊びに来たのかもしれない

メールアドレスを
名刺に書いて渡した


当時の携帯はauではなく
‘IDO’と言う会社名だった

メールの文字数は全角500文字程度

絵文字は少なく
画面は白黒時代だ


『悪いけど要さんと
うちの社長には来た事内緒ね』

要さんと私は
社長の知り合いだから
気まずいと言った


沢田は若くて格好良いが
全然惹かれない

私はまだ心の何処かで
春彦の想いが
生きていたのかもしれない

No.138 09/05/04 01:27
ボニータ ( ♀ 16kZh )


仕事が終わり家に着くと
外から母が起きてるか
電気で判る

『お母さん、ただいま~』
ドアを開けると
まずボニータが大興奮する

私のハイヒールの音が聞こえると
玄関にへばりついてるらしい

『ボー、お土産だよ~』

私はよく歌舞伎町の
‘エニィ’で
ボーにササミを買って帰った

ボーはフサフサに毛が生え
夏はサマーカットをしている

短いカット姿は豆柴犬みたいで
凄く可愛い

私は帰宅するといつも
手と顔を洗いボーと遊ぶ
口紅や化粧品を
ペロペロさせたくなかった

私が顔を洗っていると
元気の無い母が

『ち~ちゃん
話が有るんだけど…』

テレビを消し、正座をしている

『お母さん、何か有ったの?』

スッピンに成った私も座る

『10万円…貸して下さい』

母は思い詰めた様に言う

でも私は
毎月20万円小遣いを渡している

何故お金が無いのか聞きたいが

子供の頃知ってる
情緒不安定な雰囲気を
母は醸し出す

私は怯えてしまう




No.139 09/05/04 01:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )




私は寝込んでばかりの
精神の弱い母を見る事が
子供の頃、凄く嫌だった

お金が無くて
食べ物も無く
電気も灯らない

私に遠足が有っても
学校に払う遠足代と
持たせるオヤツとお弁当が無い

私は遠足に行けなかった

私が泣いていると
母は

‘産むんじゃなかった’

何度も言う

もっと泣く私は水を掛けられる

だから私は外で泣いていた

すると母が私を探す
私を見付けると抱きしめて

『ごめんねごめんね』

泣いて母は謝る

そして父親の悪口を言い続けた

ある時、
担任の先生が給食費を立て替え
私に給食を食べさせてくれた

私はパンや持ち帰れる物を
母に食べさせたくて
給食袋に自分の分を入れる
それを見ていた男子に

『お前んち
貧乏だからかぁちゃんに
持って帰るんだろう』

苛められた

悔しかった

絶対大人に成ったら
お金持ちに成り見返してやる…

と思ってた

どんな事をされても
母が大好きで
いつも

『お母さん、
私が大人に成ったら
毛皮のコート買ってあげるね』

口癖だった


私が働く様に成ってから
今迄知らない
優しい母に成る

私はその為だけに働いている

だから…

母の情緒不安定が
…一番怖い


No.140 09/05/04 02:15
ボニータ ( ♀ 16kZh )


『10万円貸して下さい』

母は昔の表情をする

『お母さん大丈夫だよ。
だから元気出して』

私は引っ越ししてから
金庫を買い
そこにお金を入れていた

10万円は自分の部屋から
すぐ出せた

金庫の理由は当時
‘銀行が潰れる’
と噂が凄かった為だ

10万円を母に渡すと

『良かったぁ~』

母は泣いていた

理由は聞かなかった

私は母の為に働いている
だからそれで良かった

…しかし

パートを始めたと言うけど
仕事の話をしない

でも朝8には出掛けている


謎は多々有ったけど
母が幸せならそれでいい



私はまだ本当の母を知らない

No.141 09/05/04 03:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんな母への不安以外は
全て順調だった

可愛い過ぎる愛犬と
お店の友達、仕事も順調だった



‘メール’

沢田にメールアドレスを教えてから
メールが毎日来る

でも最初に返すタイミングを逃し
何となく返信しなかった

そんなある日

【電話下さい
‘030-****-****’】

沢田からのメール…

私はしつこいのが大変苦手だ

放置しよう



翌日、店の近くで
偶然に会ってしまった

『俺の事嫌い?』

何か怒っている

『ごめんなさい
母の事で心配事が有って…』

言い訳がこれしか無かった

すると
急に心配されてしまった

そんな罪悪感から
映画‘ミッションインポッシブル’
を見に行く約束をした

偶然にも公休日が月曜日

次の月曜日に約束をした

…男の子とデートかぁ

全く気乗りしない

嘘付いて断る事も考えたが
仕事場が近いので
それも気まずい

恋愛感情はマイナスの状態だ



断れず
あっと言う間に
月曜日が来てしまった

No.142 09/05/04 04:10
ボニータ ( ♀ 16kZh )

夕方渋谷で待ち合わせをした

18時にモアイ像

黒革スーツミニスカート
網タイツにピンヒール、髪を縦ロールし、GUCCIのサングラスを掛け
待ち合わせ場所へ向かった

沢田はもう到着していた

『何を撃ちに行くんですか?』

第一声がこれだ
私を見た沢田は笑っていた

そう言う沢田は
ジーパンに今時の服だった

『不二子ちゃんみたいやな』

…関西弁だ

『関西弁使うの?』

『関西人やからな』

今度は私が笑い出した

外人みたいな容姿で
関西弁ペラペラって…ツボだった

私は関西弁に興味を持った

『今日、関西弁でお話して』

『ええよ』

苦痛なデートが
意外と楽しく成って来た

『足不安定やろ?腕組む?』

私のピンヒールを心配してか
言ってくれた

『有難う、大丈夫』

でも渋谷の街は人混みが凄い

『ほら…』

沢田はそう言うと
手を繋いで来た

私は男性と手を繋いだ事が
殆んどない

春彦とは一度も無かった

普通男性として意識するの
だろうが

私は
‘父親の手って
こんな感じかなぁ‘
そんな事を思っていた

No.143 09/05/04 12:13
ボニータ ( ♀ 16kZh )


沢田とはその日のデートから
少しずつ距離が縮まった

でも…恋愛感情は無い

男女に友情が有るならば
それに似た感情だった

相手はホスト
未来に何のメリットも無い
恋愛するのは時間の無駄

私は一目惚れや簡単な感情等
持ち合わせて無い

そんな彼からは
毎日メールが来た



8月に入り新宿の
‘花園神社’から
お祭りの音が聞こえて来た

明治通り沿いに有る
小さな神社には場所柄か
水商売、ヤクザ、ホモ…
そんな人種が楽しく集う

神社は店から徒歩5分程
店の女の子と出勤前に
遊びに行った

沿道には屋台が所狭し並ぶ
出勤前の私みたいなホステスも
すれ違う

…あれ?沢田だ…

女性に腕を組まれ歩いていた

狭い沿道に
沢田も私に気が付いた
…何だか気まずそうだ

私は軽く会釈をして
平然としていた

その夜

仕事が終わり
沢田からメールが届いている

‘電話下さい’

『はぁい、お仕事終わったよ
どうしたの?』

帰りのタクシーから電話した

『今日の神社の女、客やねん』

…それがどうしたと思う

『そっか、
お祭りで何か買った?』

そう言うと
沢田はキレた

『なぁ、俺が女と腕組んで
気にならへんの?』

No.144 09/05/04 13:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『何で気に成るの?』

逆に聞くと
電話は切れてしまった



半月程連絡が無かったが

仕事が終わると沢田から
携帯が鳴った

『今から花園神社来て』

うん…
と返事をすると電話が切れた



祭りの無い
深夜の花園は静かだ

『どうしたの?』

私は沢田を見付け駆け寄った

『お店、忙しかった?』

そう言うと
神社の隅の策にもたれた



『忍チャンの事好きなんや』

突然告白されてしまった

『本気で
付き合って欲しいんや』

沢田は真剣に言う

…でも無理だ
ホストと付き合っても
将来母を幸せに出来ない

『ごめんなさい
ホストしてる人と付き合えない』

『何で?』

『ホストは信用出来ないから』

私の答えはNOしかない


『ホストが本気で好きに成ったら
あかんのか?』

沢田はそう言うと

『ホスト辞めたら
付き合ってくれるんか?』

でも沢田はきっと
ホストを辞めれる筈が無い

彼はホストをする為に東京に来た


『うん、辞めたら考えてみる』

私は答えた

『考えてみるじゃあかん
答えを聞いてんねん』

迫る沢田は真剣なのが判る

『ホスト辞めたら
お付き合いしましょう』

私が出した答えに
沢田は判ったと
店に戻って行った

No.145 09/05/04 13:37
ボニータ ( ♀ 16kZh )

9月末で沢田はホストを辞めた


ラストの日も
店に来ないで欲しいと言われ

標準語を店で使う沢田を
見る事無く
本当に水商売を上がった

9月の私達は
本名で呼び合う様に成っていた

‘ちーチャン’
‘かっ君’

でも私達は純愛だった
キスもしていない

‘本気だからケジメつける
信じて欲しい’

かっ君の口癖だった

その頃私は
真剣な態度に心が動いていた

‘好き’

ただ漠然とそんな感情が
芽生え始めた


かっ君は
新宿6丁目に住んで居る
私の店から歩いて10分
家賃はワンルーム8万円

10月一杯ゆっくりして
11月から仕事を始めると言った

10月中私は
仕事が終わると
かっ君の家に行く

始めての泊まりの夜が来た

『ちーチャン、シャワー浴びる?』

煙草が苦手な私は
自分に付いた煙草の匂いが臭い

『有難う』

始めて
かっ君の部屋のシャワーを使った

緊張する

緊張する…


狭いユニットバスのカーテンに
シャワーの音が響く

かっ君との
初めての夜だ…

No.146 09/05/05 03:11
ボニータ ( ♀ 16kZh )

このドアを開けたら
私は抱かれる



腰迄有る長い髪をアップに束ね
バスタオルを体に巻いた


ドアをそっと開けると
月明かりが
部屋を灯している


薄暗い部屋で
彼はベッドに腰掛け
私に手を差し伸べた


『ちーチャン… 来て』


呼ばれるまま頷いた

『かっ君…』


彼の隣に腰掛けると

長い長いキスの後
優しく私を抱き締めた

『こんな
苦しいの初めてや…
…俺の事好きか?』


彼の瞳に私が映る


『…好きよ』


確認すると
彼は私のバスタオルをほどき

私の体を見つめた…


狭いベッドに崩れ
体を絡ませる

彼の手が私の胸を這い
全身を愛撫した


女は抱かれる時
愛の重さを知る


1つに成った時

私は無意識に
彼と春彦を比べていた…

全く感じる事無いSexと
春彦を想う罪悪感が襲う

涙が一粒…枕に染み込んだ

彼は私の涙に気付かなかった


No.147 09/05/05 12:47
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私は不感症なのかと思う位
かっ君とのSexが感じなかった


彼の事は好きだけど
漠然とした‘好き’で
かっ君の思いが重く
負担にさえ感じてしまった

でも…
彼は私の為にホストを上がり
人生を掛けて愛してくれてる
後戻りは出来ない

抱かれる度
春彦を思い出すなんて…
そんな自分も嫌だった

でも何故だか判らない

そんな私の気持ちを知る事無く
仕事が終わり家に行くと
毎日私を求めた



公休日

『仕事決まったよ』

彼の家に行くと
抱きつかれ嬉しそうに言った

『凄いねぇ、
もう決まったの?』

私はバーテンか
飲食店かと思っていた

『‘左官’って知っとぅ?』

かっ君は壁を塗る
ジェスチャーをした

『さかんって
どんなお仕事なの?』

私は知らなかった

左官とは壁にコンクリートを塗る
職人さんのお仕事だった

『ちーチャンと
ちーチャンのおかんも
将来養わないとな』

私は母の事を話していた
でも彼は長男

『かっ君は長男だし
両親面倒見なくちゃ駄目よ』

私が言うと

『将来みんなで仲良く
一緒に住んだらええやん』

彼は将来を考えていた

『ありがとう…』

私は嬉しくて泣いてしまった

No.148 09/05/05 13:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )


翌日

かっ君はホストで着てたスーツを
ベッドの上に並べ
ゴミ袋に入れ始めた

『洋服まだ着れるのに
勿体ないよ』

私はゴミ袋からスーツを出した

『ええねん、邪魔やし
客のプレゼントが部屋に有るの
ちーチャン嫌やろ?』

彼はまたゴミ袋にスーツを入れた

『私は大丈夫よ』

そんな言葉を無視し
ゴミ袋5つを
マンションのゴミ置き場に捨てた

午後は彼の携帯を解約しに
西新宿迄付き合った

当時携帯は通話料が高く
水商売で7~10万円の
維持費だった

『これでホストの過去はサヨナラや』

私達は西新宿を手を繋いで歩き
中央公園のベンチに座った

『そこまでしてくれて
…ごめんなさい』

一生懸命な彼に
申し訳ない気持ちに成った

『何で謝るん?
俺、幸せやで?』

1つ年下の彼は頼もしくも
生き生きしていた

『俺なぁ
ちーチャン、一目惚れやねん』

『要さんと行った時?』

かっ君は恥ずかしそうに言う

『ちーチャンが
‘煙草吸った事ない’って
言った時には
惚れてたんやろなぁ…』

…煙草?
私は思い返していた

すると彼は
意外な過去を話してくれた

No.149 09/05/05 14:33
ボニータ ( ♀ 16kZh )



彼は兵庫県で産まれた

生粋の関西人で両親は日本人

子供の頃
喘息で体が弱く、その上
色素の薄い髪の毛や目の色
肌の白さで‘外人外人’
言われるのが辛かったそうだ

その体の弱さは
母親の妊娠中の喫煙が原因だと
親戚から母親は相当責められ
自分の体の弱さや外見を悲観し
母親を恨んだ事も有ったと言う

だが
成長するうち喘息は良く成り
外人の様な容姿は
‘格好良い’と見られ
今は母親を恨んで無いが

将来決めた女性は
絶対に煙草を吸わない人がいい
…と
子供の頃から
自然に思ってたそうだ


彼は学校を卒業すると
トヨタで就職

でも
‘ホストでNo.1に成りたい’
と言う野心が止まらず

地元に戻り‘左官’のバイトで
お金を貯め
新宿目指し上京した

最初‘ニュー愛’で働き
大バコの中No.3迄登り詰めたが

派閥や人間関係のストレスから
小バコに移りNo.1に成った処を
私達が遊びに行った店に
引き抜かれたと言う事だった




『煙草吸わないだけで
私に決めちゃったの?』

そう言うと

『んな訳無いやん
これ以上言わすなや』

『いつか
俺の実家に遊びに行こな…』

お日様の下で軽くキスをされた

No.150 09/05/06 00:42
ボニータ ( ♀ 16kZh )



しかし全てが順調では無かった


かっ君と交際を始めてから
正直私の体はヘトヘトだった


店の出勤時間は17時
1時~2時迄働き彼の家へ行く

ご飯を食べないで待つ彼と食事

シャワーを浴び
ベッドに入ると体を求められる

若いからか一晩5回程…
私は眠れない

でも
昼は必ず家に帰宅した
理由はボーに会いたい事と

ボーがちゃんと
ご飯を食べているか
心配で仕方無かった



ある日

私はお昼に帰宅すると
母が深刻な顔で出迎えた

‘…もしかして…’

私が予感する時は大抵当たる

母がお金を貸して欲しい…
と言う時だ

『お母さん
お金渡してるのもう無いの?』

私のこんな質問には
元気無く頷くだけ

私はこの
空気が本当に嫌いだ

『お母さん
お金大切に使ってね』

お金の要求を言われる度
渡す様に成った

でも、、
私は気付き始めていた事が有る

でも認める事が怖くて聞けない


そんな私は物欲が無い
高い物には興味が無い

だから尚更
母の金銭感覚が怖い

‘お金貸して’

この言葉を母が言う度
人格も変わった様に思っていた



No.151 09/05/06 01:17
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんな時私はいつも
ボーに頬寄せる


ボーは私に
お金なんて要求しない

私の帰宅を待ち
無償の愛を与えてくれる

私の心が折れると
それが判るかの様に膝に乗り
何時間でも
私を心配した表現をする

『ボー有難うね
私の事を一番判ってるのは
ボーだよね』

私はボーに頬寄せると安心する

かっ君に抱かれる時よりも…

心の安らぎはボーだけ

だから
ボーに頬寄せると安心する

涙が出てしまう

ボー本当に
私の処に来てくれて有難う




でも私は悲しんでる暇は無い…

お金を稼がなくてはいけない

若い間しっかり働いて
将来ずっと母を
養わねばならない

貯金しないと…

…心を切り替える…

シャワーを浴び
髪をセットして派手な化粧をし
派手な服に着替え
夜の街に出勤する


‘ボー行って来ます’



No.152 09/05/06 02:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…11月

かっ君は‘左官’の仕事が
始まった

正直私は助かった

仕事が終わってから彼の家に
行かなくても良い

彼は仕事に真面目だ

最初が肝心だからと言い
会う日は
私の仕事帰り土曜日と
彼の公休日曜日、祭日
だけに成った

私も公休を
日曜、祭日に変えた

電話は毎日していたけど
私は少し会えない方が
会う日が楽しみで調度良かった

でも…

彼との
愛情の開きに戸惑っていた



そんな11月最初の土曜日
彼の家に行った

仕事が終わり約束通り
彼の家へ向かいチャイムを鳴らした

‘ピンポーン’

…出ない…

合鍵を使い部屋に入ると
昼夜逆に成った彼が
テレビを付けて寝ていた

ふと部屋を見たら
洗濯物に作業服が干されていた

沢山の色の付いた汚いズボン…

玄関には汚れた
作業靴が置かれてた

私は胸がチクッとした

ホストの時はブランドのスーツに革靴
綺麗に着飾っていたのに…


私の為にその世界を辞めて
職人をしている

口には出さないけど
大変なんだろう…
と胸が締め付けられた

寝ている彼の手を見た

モデルみたいに綺麗だった手も
ガサガサに荒れている

『かっ君…ごめんね』

私の声で彼は起きた

No.153 09/05/06 03:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

>> 152 『ちーチャン…会いたかった』

起きた彼は
私を抱き締めた

『ちーチャン、何か言った?』

私は首を横に振り聞いた

『お仕事、大変?』

『男の仕事を女が心配すんなや
大丈夫やって…』

私の首筋にキスをすると
そのまま下に降りて来た

『駄目よ、シャワー入ってない…』

『我慢できひん…』


私は嫌じゃ無かった


そのまま彼に身を任せ
体をくねらせた

私は心が熱い…
彼に抱かれたく成っていた

『お願い、まだイカないで…』


私の言葉でイッてしまった



『ちーチャン…
始めて感じてくれたね』

腕枕する彼に問われた

『恥ずかしいから
…言わないで』

私が感じていた事を
彼は気付いていた

『やっと
好きに成ってくれたんかな?』

私の心も読んでいた…



作業服を見て
初恋みたいに胸が苦しく成った

荒れた手を見て愛しく成った

…なんて言えない

人を好きに成る瞬間は
自分では決められない

説明なんて上手く出来ない

でもやっと
‘好き’な気持ちが

‘愛してる’に近付いてる

そんな気持ち

貴方は気付いて
くれてたのでしょうか



No.154 09/05/07 00:38
ボニータ ( ♀ 16kZh )

彼に抱かれる度

好きな思いが増えていく

そう成ると
罪悪感に感じる事が有った


お客に家賃を
払って貰っている事

お客に携帯4~5台と
今で言うmailに代用した
ポケットベル5~6個
持たされている事

お客に車を買って貰った事


彼は知らない


お客と体の関係は無いけど

今迄してる営業を
後ろめたく感じてしまった

私は水商売…





『ちーチャン…』

腕枕する彼が
私の髪を撫でながら言う

『ちーチャン…来年の夏
俺の実家遊びに行かへん?』

私は思わず

『私、水商売だけど…』

彼の両親に‘私、水商売’
とは言いにくい

『大丈夫やって
ホスト辞めた事言うたら
彼女連れておいで言われてん』

全て話したらしい

『大丈夫なら…判りました』

私が応えると

‘約束’

子供みたいに指切りをした

春彦とは全く違う
歳相応の恋…

好きに成るスピードは
ゆっくりだけど

それを待つ様に
彼は優しくしてくれた



No.155 09/05/07 01:47
ボニータ ( ♀ 16kZh )





水商売は12月が一番忙しい
ボーナス時期とクリスマスイベント

バブルはとっくに弾けてたが
今より全然景気が良かった

ホステスは恋愛をすると駄目に成る
…と言うけど
私は仕事と恋愛を分け
仕事に全く支障が無い

かっ君とも順調

私の仕事は何も言わず
元水商売の彼は
理解してくれていた

12月24日は平日

絶対お店を休めない事も
彼は判ってる

24日に近い
土曜日深夜~日曜日が
私達のクリスマス

彼は

‘ホテル予約したら
ちーチャン来てくれるん?’

と言ったけど
かっ君の家にしてもらった
余計なお金は遣わせたくない

忙しい12月
日にちの感覚さえ分からない

やっと
2人の‘クリスマス’の日が来た




深夜2時
私は仕事が終わり

‘今から行くね’

店でドレスを着たまま
マンションに迎かった

‘ピンポーン’

…ガチャ

出迎えた彼はスーツを着ている

『姉ぃやんの結婚式で着たスーツ
なんやけど変かな?』

久し振りのスーツ姿は
格好良かった

『行こか』

私の手を取り
彼のエスコートで青山へ向かった

深夜なのでタクシーで10分

降りた処は
お洒落なバーの前だった

No.156 09/05/07 03:12
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘チリン…’

大人の雰囲気漂うバーに入った

私達はカウンターに座り
飲み物を聞くバーテンに
かっ君は小声で注文した


‘どうぞ’


出て来たお酒は
前、私が一番好きだと言った

丸い氷の入ったジンライムだった

…覚えてたんだ…

手彫りの丸い氷を出すバーは
限られている

『有難う…この為に
連れて来てくれたの?』

私は嬉しくて堪らない

そんな彼は照れながら

『そやねんけど…これ…』

赤いリボンの掛かった
小さな箱をポケットから出した

私はリボンをといて箱を開けた


プラチナと金のコンビに
小さなダイヤが
お花の形をしてる指輪だ…

『ごめんなさい…
かっ君の欲しい物が判らなくて
まだ用意してないの』

そんな私の指に
彼は黙って指輪をはめた


『いつも薬指にして欲しい…』

彼は私を見つめる


『何でそんなに
色々してくれるの?』

迫って聞いた


『好きな人やから

…いつか結婚しよな』





かっ君23歳
私24歳

この人が運命の人…
なのかな

判らない未来を想像する



丸い氷は帰る迄溶けなかった

No.157 09/05/07 05:23
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『指輪大切にするね』


彼の部屋に戻り
はめた指輪を眺めていた

ワイシャツ姿の彼が隣に座る

『ちーチャンって…
俺の過去とか
気にならへんの?』

聞きたい事を溜めて話した
口ぶりだった

私の過去は振り返りたく無い

だから相手にも聞かない


『成らないから大丈夫よ』

答えを待つ彼に返す


『なぁ
一番好きに成った奴と
俺…どっちが好きなんかな?』

私は動きが止まる

‘…春…彦…サン…’
一瞬想い返してしまった

答えの遅い私をベッドに倒した

『今迄何人とSexしたんか…
誰が一番感じたんや』

嫉妬が顔に出る

『かっ君…怖いよ…』

そう言うと彼はハッとした

『ごめん…』

早まる気持ちを隠す様に
何度も‘ごめん’と謝って来た

私の気持ちは
ちゃんと前に進んでるのに

急ぐ気持ちに中々追い付けない


…でも
真剣な気持ちは心に残る

こんな荒い
愛情確認だったけど

忘れられない
‘クリスマス’に成った

No.158 09/05/07 06:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

慌ただしい年末…

お正月…


季節は
同じスピードで過ぎて行くのに
物凄く早く感じた


ボニータはマルマル健康体で
毛が伸びるのも早く

寒い冬場
2ヶ月カットに行かないと
‘チャウチャウですか?’
と聞かれる程モコモコに成った

かっ君にボーを会わせたが
初対面のボーは無反応

犬が大好きな彼は
本気で落ち込んでいたが

旅行に行く時は
‘ボーも一緒に行こう’と
ワンワンOKのホテルを選んでくれた

彼は付き合いが長く成る程
優しい人だった

あの日以来
私は指輪を着けている

その指を見ると
彼は安心する

結局彼にクリスマスプレゼントは
しなかった

その代わり、マンション行く度
私が材料を買い
手料理を作った

私の趣味は、ボー、絵画、料理

大抵の料理は
美味しく作れる自信が有る

かっ君に料理を作ると
‘早くお嫁さんに成って’
と甘い時間を過ごしていた

ボーも恋愛も仕事も
友達付き合いも順調



でも唯一
母の様子が怪しい


勘付いて居たけど
今の順調な
生活を壊したく無くて

私は気付かない振りをしていた

これが後々

私の人生を
最大に狂わせる事に成る

No.159 09/05/07 12:32
ボニータ ( ♀ 16kZh )

かっ君と知り合って
約1年が経過した

8月、彼の実家に約束通り
遊びに行く事に成った

新幹線に乗り
改札口で彼の両親は待っている

私達は駅に到着し
ホームで‘飴’を買った
関係無いけど関西の方は
何で‘飴’に‘チャン’を
付けるのだろう…

‘ありがとう’

キヨスクの店員さんが
関西弁な事に感動した

『かっ君、凄いね
キヨスクの人、関西弁だったよ』

関西に始めて来た私は
ホームで興奮する

『皆、関西弁やで…』

私の手を握り
改札口への階段を下った

『ここよ~』

手を振るかっ君の両親が
すぐ判った

背の高いお父さんと
背の低いお母さん

優しそうなオーラを放っている

『ちーチャン、遠い処
疲れたやろぉ』

ニコニコする彼の母の言葉に
彼の父は頷きながら
荷物を持ってくれた

『お世話に成っております
○○さんとお付き合いさせて
頂いております』

私は緊張しながらお辞儀をした

『標準語の
女の子は可愛ええなぁ』

彼の両親は笑いながら
車へ案内してくれた

私は一目で
彼の両親を気に入ってしまった

『ちーチャン、写真より
ベッピンさんなぁ』

写真を送っていたらしい

彼の本気な気持ちを感じた

No.160 09/05/08 02:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘バタン’

後部座席に彼と座り
車内の会話は全て関西弁

道行く景色も東京と違う

‘関西に来た~’とワクワクさせる

『なぁなぁ、
ちーチャン何処行きたい?』

テンション高い彼の母に
‘何食べたい?’
‘暑い?寒い?’
‘何時に寝る?’

質問責めを受ける

その反面
かっ君は何も話さない
家では無口な人だと判った

話は途絶える事無く
彼の実家に到着した

そこには
彼の姉、子供2人
私達の到着を待っていた

お姉さんは嫁いだが
わざわざ遊びに来てくれた様だ

『ちーチャン、始めまして』

お姉さんは下の子供を
抱っこして玄関で迎えてくれた

下の子1歳5ヶ月男の子シン君
上の子3歳女の子アカネチャン

アカネチャンはお母さんを
弟に独占されて淋しいらしく
すぐ私に懐いてくれた

お姉さんは優しいながらも
真面目な印象だ


私は通された居間に座った

‘かっ君の育った家なんだ…’

暖かい家庭に
彼が羨ましく成った

お父さん、お母さん…



『ねぇ、ちーチャンはかっ君の
どこが良かったんかなぁ?』

ウキウキして聞く彼の母に

『アホか!黙っとけ』

彼がたまに話す言葉は
こんなツッコミばかり


そんな楽しい夜だった


No.161 09/05/08 03:36
ボニータ ( ♀ 16kZh )



私は先にお風呂を頂き
次にかっ君が浴室に行った

すると

『ちーチャン…ちょっと』

微笑みながら手招きする
彼の母の部屋に呼ばれた

『お風呂頂戴しました』

私は濡れた髪をタオルで巻き
スッピンで座布団に正座した

すると

『ちーチャン、かっ君と
付き合ってくれてありがとう

かっ君なぁ、頑固やろ?
ホストなるって東京行くんかって
皆反対したんよ』

私が知らない話をしてくれた

『東京行っても連絡も無いし
心配してたんけど
今度は急に‘ホスト辞めた’
言うでしょう…
何で?って聞いたら
‘好きな人出来てん’って…』

昔の左官の作業服を送ってと

電話した時に
言った事だと知った

『ちーチャンと付き合ってから
あれでも優しい子に成ってな
左官始めてから
仕送り送ってくれてるんよ』

涙を浮かべながら
話してくれた

『だから一体どんな娘さんが
うちの子変えてくれたんかって
お父さんと毎日話してな
かっ君に彼女連れて来てって
ずっとお願いしてたんよ…

ちーチャン…

お嫁さんに来てな』

私の手を握って泣いていた

私も涙が止まらなかった



No.162 09/05/08 10:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

翌日

朝から太鼓や笛の音色が
風に乗って聞こえて来た

夜は男神輿が盛大に出ると言う

知らない土地に来た私だったが
関西が大好きに成っていた

将来…関西に住んでもいいな
ボー連れて…

…でも…

母が関西に来る想像が出来ない



昼に川沿いを歩き広場に行くと
絵に描いた様な
お祭り風景が広がっていた

『うわぁ…』

笑顔に成る私に
かっ君は言った

『花園神社の
祭りとは違うやろ?』

彼に花園神社で告白されたのは
ちょうど1年前だ…

内容の濃い恋愛をして来た
と実感した

『子供何人欲しい?』

彼は耳元で囁いてきた

…子供
結婚したら子供が欲しい

でも

母の事で胸騒ぎがする…

『かっ君は何人欲しいの?』

聞いてみた

『姉ぃやん見てたら
2人欲しいなぁ』

歌舞伎町で働くホステスと
元ホストがこんな話をするなんて
思いもしかった

『でも…子供が大きく成ったら
どこで出逢ったと言うの?』

気に成って聞いてみた

『勿論ホンマの事言うよ
恥ずかしい事してへんしな』

彼は私の手を握った



歌舞伎町の恋…

実は
私の父と母も
歌舞伎町で出会っている

私の人生には偶然が多い

No.163 09/05/08 11:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )

一週間後


かっ君との里帰りから
彼との関係はより深く成った

私は彼にも彼の家族からも
愛されていた

幸せだ


でも水商売を続けるにも
私は彼に後ろめたさを
感じていた

‘ちーチャンの出勤着見ると
ホンマは辛いんや…’

そんな彼の言葉が胸を痛くする

私は9月末で
歌舞伎町のキャバクラを辞めた

プレゼントされた車は処分し

お客に持たされている
携帯、ポケットベルも返した

家賃を払うお客は金銭的に
切れないが疚しい事は無い

そして店を六本木に変えた

新宿だと昔のホスト経由で彼に
私の噂がすぐ耳に入る

胸を痛めてる彼に対する
せめてもの想いだった

六本木スクエアビルから
わりと近いキャバクラ

引き抜きに声を掛けられてた為
苦労せず移店出来た

源氏名は‘不二子’
お客によく‘ふ~じこチャ~ン’
と言われてたので
いっその事、不二子にした

店のホステスは良い人ばかり
年上の先輩ホステスからは
特別可愛がって貰い
枝のお客もすぐ常連客に成った

公休日はかっ君と一緒

かっ君の家へ
店から行く時は
私服に着替えて行く様にした

母に
かっ君と結婚考えてる事
言わなくちゃ…


私は彼を‘愛して’いた


No.164 09/05/09 07:35
ボニータ ( ♀ 16kZh )

10月

かっ君と結婚を考えてる思いを
母に伝えるタイミングを見ていた

母の性格は私と違う
顔も全く似てない
考え方も基本的に違い
気分にもムラが有る

なので母の機嫌がいい時に
伝えようと思っていた

平日お昼

ボーがいつもの様にペロペロして
私を起こしてくれる

寝たふりをすると
口をペロペロしてたのが
マブタをペロペロしてくる
本当に可愛い

その日、家に居た母は
鼻歌で洗濯物を干していた

…今日言おう


『お母さん、
大切な話が有るんだけど』

母はドキッとしたのが判った

『お母さん、
お付き合いしてる彼がいるって
話したでしょう』

母は近くに座って頷いた

『それで…
すぐとかでは無いけど
近い将来結婚を考えているの』

それを聞く母は無言だった

『お母さん、将来関西に
住む事も考えて欲しいの』

そう言うと

『お母さん、関西なんて嫌よ』

私と目を合わさない

『それにまだ
結婚なんて早いでしょ』

…早くない
私はもうすぐ25歳だ

『…勝手にしなさい』

母はベランダに消えた

本当は関西が嫌なのでは無くて
私の結婚を嫌がっていると
態度で判る


その理由は
私は密かに勘づいている

No.165 09/05/09 08:04
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私はベランダに戻る母を
追い掛けた

『ねぇ、お母さん…』

母は目を合わさない

『お母さん、パチンコ辞めて』

証拠は無いが
母がパチンコにハマっている事を
気付いていた

多分、余り玉で持ち帰った
ビスコのお菓子

朝8時や9時に出掛けるのは
並びだろう

そして気分のムラは
パチンコで勝ったか負けたの態度

私はパチンコをした事が無い

でもお客からパチンコの話は聞く
想像だけで一致する

『パチンコなんてしてないわよ』

そう言う母の様子は黒だ

ダテに水商売長くない
それ位の嘘は見破れる

私が母に小遣い20万円
渡しているのは意味が有る

年金、保険、歯医者を
自分で払い
‘やりくりの楽しさ’と
昔、お金で苦労した母に
貯金の楽しさを
感じて欲しかった

でも…私は
母の本当の性格を知らなかった
一緒に生活する中で
分かって来た事

母はやりくり等
出来る性格では無かった

母が隠す年金未納
健康保険からも
歯医者に行って無い事も判る

たまにせびるお金は
パチンコ代だろう

私が水商売を辞めると
パチンコが出来なく成る

母に問い詰めても
シラをきり通す


私は母を尾行する事にした

No.166 09/05/10 00:44
ボニータ ( ♀ 16kZh )

尾行すると決めた私は
準備を完璧にした

母は車の運転はしない
行動は自転車

家から自転車圏内でパチンコ屋は
10店舗程有る事を調べた

母は多分自転車で行動する

私の自転車は真っ黄色…
かなり目立つ

母は視力が良いので
気付かれる事を避けたい

近所の友達から
シルバーの自転車を貸り
かっ君のジャージの上下を着て
帽子を被る変装も決めた

母は木曜日必ず
決まった時間に外出する


木曜日

普段私は8時だと睡眠中だが
自分の部屋でこっそり起き
母の外出を待った

私のマンションは出口が二ヵ所有る

母の外出を確認し
急ぎ足で階段を下り
母の死角で様子を伺う

…自転車に乗った

20メートル程の距離を保ち尾行する
15分位走ると広い駐輪所に
母は自転車を止めた

~パチンコ.スロット~
木曜日は‘レディースデー’

外に居る店員さんに
母は紙を貰い
常連客らしき人達と
楽しそうに会話をしている

私は‘ショック’と言うより
‘ヤッパリ’だった



『お母さん、帰るよ』

母の後ろから声を掛けると
凄い驚いてはいたが
観念したのか
無言で一緒に帰宅した



『随分卑怯な事するのね』

No.167 09/05/10 01:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『随分卑怯な事するのね』

帰宅した母に言われた
第一声だった

『何で卑怯なの?
嘘付いたのはお母さんでしょう
パチンコでお金遣うなんて
信じられない』

私はパチンコの為に
水商売をしてる訳では無い

でも母の本性が出た

『自分のお金をどう遣おうが
勝手でしょう』

発言が子供過ぎる…
他人に見えてしまう一瞬だった

『もうお金は渡さ無いから』


その日を境に
母との信頼関係が崩れた

毎月の小遣いは3万円にして
母の年金等は私が管理した

そんな母の態度は冷たい

冷たくして私の気を引き
お金を引き出すつもりだろうが
そうはいかない

一時、優しかった母が
嘘の様に変わってしまった

…淋しい

私は母の前では泣かなかった
弱い処を見せたくない

ボー…

部屋で泣く私をボーは
いつも慰めてくれる

涙が出た分だけボーは
ペロペロしてくれる

‘ボーお願い
ずっとずっと一緒にいてね’

部屋で泣き疲れた私の横には
いつもボーがピッタリ離れない

‘ボー。今日も有難う’



No.168 09/05/10 11:26
ボニータ ( ♀ 16kZh )

パチンコ位で大袈裟だと
思うかもしれない
そう思う方は
小遣いの範囲内で遊べる人

私の母は依存性だと感じていた

そんな予感は当たる

母のパチンコ発覚から
割とすぐの平日の昼間

私の携帯電話に
母の妹‘すみ子サン’から
電話が有った

『もしもし、
ちーちゃん元気?』

私達が連絡を取れるを
母は知らない
母とすみ子サンは仲が悪い

『元気ですよ~
まやチャンは元気ですか?』

まやは私の従妹だ

『皆元気よ…あのね、
お母さんの事なんだけど…』

すぐ本題に入った



母はここ数年
親戚や昔母が住んでた
茨木の近所の人にまで
借金をしていた

借りても返さない母は
平然としてるらしい

それで娘に連絡が取れる
すみ子サンからの電話だった

『ねぇ、ちーちゃんが
金使いが荒いって嘘よね?』

母はいろんな嘘を付いて
同情を誘い
借金を広げてる事が判った

『母が迷惑を掛けて
すみません…
お借りしてる金額は
どの位ですか?』

『〇〇サンと〇〇サン…』

金額は判らないと
お金を借りてる数人の
連絡先を教えて貰った

『分かりました
母に確認してから
責任を取らせて頂きます』


『お母さん、話が有る』

No.169 09/05/10 22:57
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母の借金について
話し合いをした

意外にも母は簡単に借金を認め
土下座をした

借金の理由は
私の結婚破棄だと言う

娘を思う不敏さから
現実逃避に走った…
みたいな事を言っていた

春彦の頃から
パチンコをしてた事実を知る

土下座する母を目の前に
‘まだ…やり直せる’
と信じていた

『これからはパートに出て
家にお金をいれて』

借金は合計120万…
私が銀行振込で返済をした

そんな母は
‘心を入れ替えて働く’
と私に泣いてすがる

親子が逆に成った上下関係が
自然に出来てしまった

母は‘宅配便荷物仕分け’
のパートについた

毎日、真っ黒な軍手を持ち帰り
汗だくで帰宅する様に成った

太股を使って
荷物を仕分けするので
ほんのり青アザが出来ていたが

‘働く事が楽しい’

と月8万円稼ぎ3万円を
家に入れてくれる様に成った




私25歳
かっ君24歳

誕生日が5日違いの私達は
同じ季節に1つ歳を重ねる

母のパチンコの事は
かっ君に言えないでいた

その理由は
その事を彼に相談しようと
思っていた時の事だった…

No.170 09/05/10 23:57
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『おかんが仕送り使わんと
ちーチャンとこれで
新婚旅行にハワイでも
行って来い言うてるよ』



かっ君のそんな一言だった

私の母は借金までして
パチンコをしてたのに
彼の母は仕送りに手を着けず
息子の為に貯金をしている…

私は
沸き上がるみじめな思いから
何も悪く無い彼に
なぜか嫉妬してしまった

私もそんな
お母さんが良かった…


母のパチンコの事は
結局言えず胸に閉まった

大丈夫…
母は反省している
いつか笑い話に成る…

自分に言い聞かせ
彼との付き合いを続けた


ある日のデートだった

『ちーチャン、見て』

小さく畳まれた紙を
横に広げると給料明細だ

…63万円…

『凄いね!かっ君
お仕事頑張ってるんだね』

続けて見せられた預金通帳には
400万程の貯金が有った


『ちーチャン…
結婚せえへんか?』


左官の仕事は収入が安定し
プロポーズに似た事を
言ってくれた

『嬉しい…』

私は彼の胸に寄り添った

…でも

もう少し母の更正を見たい…

『母の事で…
もう少し待って欲しいの…』

そんな私の返事に
‘それなら同棲したい’と
彼は言った

私も彼の事を愛してる
毎日会いたい

No.171 09/05/11 01:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

彼は‘シャ乱Q’の

~♪

MyBabe…君が先に眠るまで
勿体ないから起きてる

そう
明日の仕事とか
多分辛いんだけど…



よく歌ってくれた

限られた時にしか
寝る時まで一緒に居れない…

切ないフレーズを
自分達と重ねたりしていた

話し合い考えた結果

休みを含む週5日
彼のマンションから仕事も通い
週2日私は自分のマンションに戻る

そんな生活を選択した

ボーは勿論、運命共同体
私と一緒にマンションを移動する

彼もボーが大好きだった

私達は出勤時間が違う為
部屋を空ける時間が無い

ボーは独りで
淋しい思いをする事は無いし
そんな私達も
ボーのお陰で淋しく無い

私の母と彼は
その提案に賛成してくれた

こうして
半同棲の生活が始まった
平日2人の時間は
少ししか会えないけど

時間の障害が
好きな気持ちを確認出来た

子供の居ない私達は
ボーを自分達の
子供みたいに思った

彼はチョットした一言でも
ボーに対する扱いが優しい

…きっと子供が産まれたら
こんな風に
溺愛するんだろうな…
そんな想像をした

日曜日はボールを片手に
笑ったボーを連れて公園に行く

そんな平凡な幸せが
本当の幸せなんだと知った

No.172 09/05/11 18:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

今迄…
私は公園に行く事が
あまり好きでは無かった

公園で遊ぶ家族を見ると
羨ましいから

何気ない父親の肩車を
横目に見る私は
卑屈な人間だった

でも
かっ君とボーとの
家族に似た幸せで
私の枯れた心に水が注がれた

他人の幸せそうな家族を
見る事は辛く無くなった

人の幸せな風景を見るだけで
癒される程
私の心は満たされた

ボーが笑って走る先には
彼が腕を広げてる

ボーが走り疲れた帰り道
彼の腕の中でスヤスヤ眠る

ボーを起こさない様に
小声で話する彼を愛しく思った


春・夏・秋・冬


巡る季節は
何事も無く過ぎた

私もやっと幸せに成れる…

そんな気持ちを胸に抱き
彼との未来を描いてた

夢にまで見た
ウエディングドレス…

ブーケはボーの首に掛けよう…






別れが来る事なんて

私達が想像する未来には
決して無い事だったのに…


幸せへの矢印が
又私を遠ざける事に成る

……

No.173 09/05/11 23:56
ボニータ ( ♀ 16kZh )

……



『なぁ、いつ結婚するんや?
赤ちゃん要らんのか?』

私は26歳
かっ君は25歳に成っていた

最近彼はイライラしている

原因は
私が水商売を辞めない事と
結婚を決断しない事

私はいつでも水商売は辞めれる
結婚もしたい…

…でも

母がまた
パチンコを隠れてしていた

私に感付かれ無い様
渋谷まで行きパチンコをしてたが

世間は本当に狭い
何と景品交換でバイトを始めた
私の友達から
母は常連客だと発覚した

今回ばかりはかっ君に
母のパチンコ依存を相談をした
…しかし
ギャンブルを一切やらない彼は

『淋しいんちゃうの?』

楽天的な感じで
私の真剣な悩みを理解してない

母のパチンコ依存は重症だった

嘘や狂言が酷く成り
1万円の価値が
解らなく成っている事が判る

‘ギャンブル依存の
病院って有るのかな…’

そう思う位
母の人格の豹変が凄い

パチンコについて母に問うと
のらりくらり嘘を付く上に

『お母さん、
かっ君との結婚なんて反対よ
ちーちゃんにはもっと
相応しい人が居るわ』と

彼の名前を出すだけで
否定する様に成っていた

No.174 09/05/12 00:27
ボニータ ( ♀ 16kZh )

こんな状態で結婚したら
彼と関西の両親にまで
絶対に迷惑が掛かる

彼に母のパチンコの相談をすると
結婚を断る口実かと勘違いされ

‘どうすんねん’
と責められる

私は板挟み状態だった

結婚とパチンコの話で
喧嘩が絶えず
辛い日々が続いた

ある日

彼のマンションに帰宅すると
酔っ払った彼が起きて
私の帰宅を待っていた

『明日お仕事でしょう
寝ないと辛いよ…』

彼は家で酒を飲まない人

でも
ハッキリしない私の態度に
酒を飲み限界の状態だった

『なぁ…ホンマはちーチャン…
他に好きな人出来たんやろ?』

温厚な彼が喧嘩越しだった

『そんな事
有る訳が無いでしょう?
…お母さんのパチンコを…』

話す途中で彼がキレた

『お母さん…お母さん…
ってもう大人やろ?
ちーチャン水商売してんのに
パチンコばかりすんやったら
ちーチャンの事
金ズルとしか思ってへんで!』

…金ズル…

『ねぇ、だから
どうしたらいいか教えてよ』

涙が出た

『しらへん!
そんなん母親ちゃうやろ
縁切ったらどうや!』

かっ君と初めての喧嘩だった

No.175 09/05/12 00:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )

初めて彼が本気で怒った
最近の軽い
口喧嘩のレベルでは無い

私も本気で言い返した

『縁切れ無いからこんなに
悩んでるんでしょう!』


私だって
早く一緒に成りたいのに…

母と縁を切れるなら
とっくに切っている…

なのに私は駄目な母でも
心の底は‘母’が大好きで
お母さんと一緒に
幸せに成りたい
…でも成れない

かっ君は立派な両親が居る
私には駄目な母しかいない

私の気持ちも限界だった

『かっ君なんて大嫌い!』

部屋を飛び出した私は
ボーを抱え
泣きながらタクシーに乗った


私は幸せに成れないんだ

これ以上
付き合ったら
彼を不幸にしてしまう

…別れるしかない…

自宅に帰宅すると
母が起きて来た

『ちーちゃん!どうしたの?』

泣きながら
ボーを抱える私を見て驚いた

『お母さんが
パチンコばかりしてるから
私、一生結婚なんて
出来ないから!』

私はハイヒールを母に投げ
部屋に隠った

『ちーちゃん!ちーちゃん!』

母は私の部屋のドアを叩く

『1人にして!
お母さんの顔なんて見たくない!
一生パチンコしてれば!
私、お母さんのせいで
結婚出来ないんだから
満足でしょう!』

No.176 09/05/12 02:22
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私が母の行動を
管理するにも限界が有る

あの時
‘心を入れ替えて働く’
母の言葉は嘘だった

一生懸命働いたのは最初だけ

喉元過ぎれば熱さ忘…れる

パチンコは一生しないと
約束したのに

母はパチンコ依存症


…かっ君ごめんね…


彼には苦労を掛けたくない

こんなに愛してるのに…
何で別れないといけないの?


無理だ
こんな生活を続けられない

自問自答する私は枕に顔を埋め
声を殺して泣いた

顔を上げると
ボーが私に頬を寄せる

私の涙はボーの毛を濡らした

私の我儘だけど
本当はかっ君に
抱き締めて欲しかった

‘頑張ってる’

って認めて欲しかった

でも…きっと
彼も同じ気持ちだっただろう…

お互い限界の気持ちは交差した

……

翌日

友達に車を出してもらい
かっ君の仕事時間に
マンションに有る私の荷物を積んだ

別れの手紙と合鍵
ベッドの上に置いた

…指輪…

薬指の指輪だけは
置けなかった


‘かっ君…
今までごめんなさい
私は本当に幸せでした…’


…夜…私は仕事が終わった

携帯に沢山
彼からの着信が残っていた

番号を見るだけで
私は彼を愛してるのが判る

…辛いよ

No.177 09/05/12 04:27
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私の心は別れを決めていた

本当に好きだから
彼には絶対に
幸せになって貰いたい

でも私と居たら
幸せに成れないのが判る…

彼からの電話に出ないと
私の家に来たが
居留守をした


『ちーちゃん
かっ君来たのに…
出なくて良かったの?…』

母は申し訳無さそうに言うが
私は気に入らない

『私の幸せ返してよ!
悪いと思うなら今すぐ自立して
私を自由にさせてよ!』

母の更正を願ってるはずなのに
顔を見ると許せない

そんな母は

『辞めるから…今度こそ
本当にパチンコ辞めるから…』

泣いて謝ったが
信用出来る訳が無い
私は冷ややかだ

借金も作ってるだろうが
母は借金は無いと言い張った

でも私には判る
母は大きな嘘を付いている

私はまだまだ
母の事で苦しむかもしれない


そんな予感は大抵当たる


……


かっ君は
私の性格をよく知っている
しつこい人は嫌いな事

彼からの電話は来なくなった


今振り返り
綴りながら思う

この時…
かっ君と結婚しなくて
本当に良かった
何故なら彼を不幸にしただろう

数年先の出来事を
予知していたのだろうか…

No.178 09/05/12 13:04
ボニータ ( ♀ 16kZh )

愛しているからこそ
諦める愛も有る

相手を思う気持ちは十人十色

私は自分の気持ちを殺しても
彼の未来に
幸せを願う選択をした

かっ君の事は本当に愛してる
家族に似た愛情を教えてくれた

…有難う…
私なんて早く忘れて
幸せに成って



…淋しい

自分が選んだ事なのに
1人で居る事が淋しい…

私は荒れた

店が終わると週末
六本木のヴェルファーレと言う
大型クラブに遊びに行った

今は閉店したが
当時は東京で一番大きなクラブ
昔で言うDISCO

私のいつもの席は
入口すぐの黒い階段を登り
左に曲がった最初の角席

ガラス張りの2階VIPルームから
下のフロアを見下ろすと
私みたいに
淋しい人が集っている

…落ち着く

友達と遊びに行っては
有名人に声を掛けられ席で遊ぶ
その場だけを楽しんだ


華やかな一時から
家に帰ると虚しかった

でも私にはボーが居る

淋しい夜はボーに頬寄せて
ボーの鼻息を聞いて寝る

私はボーに助けられている


日曜日

元気の無い私を気遣い
親友が食事に誘ってくれた

横浜の高級ホテルのフレンチで
知り合いが働いている
そこにしよう…

ドレスを着て横浜に向かった

No.179 09/05/12 23:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

季節は冬12月始め

今みたいに
温暖化が進んで無かった
シルバーFOXの毛皮を纏う

横浜の風はビルの隙間を抜け
凍える程寒い

同じくドレス姿の親友と
待ち合わせ
優雅にディナーを頂いた

ワインを2本開け
かっ君への淋しさを紛らせた

食事が終わり
この後もう少し遊んで行くか
ロビーで話していた


『…すいません
参列者の方ですか?』

振り向くとスーツ姿の男性が2人で
声を掛けて来た

結婚式が有ったらしい

『違いますよ』

素っ気なく返すと

『宜しければ
一緒に飲みに行きませんか?』

結婚式二次会が終わった
2人組みも微酔いだった

私は水商売なので
ナンパしてくる男性と話す事が
仕事にしか思えない…

『行く?』

親友は笑った

かっ君と別れた私への
気を紛らわす心遣いだろう…

『少しなら…』

お酒の勢いをかりて
誘いをOKした

私達は‘シリウス’と言う
スカイラウンジのバーに移動した

『もしかしてモデルさん?』

身長170有る上に10㎝ヒールの私を
大きな女だと思ったんだろう
でも私より背の高い男性だった

『…OLですよ』

適当な返事をした

No.180 09/05/13 00:39
ボニータ ( ♀ 16kZh )

静かな大人のラウンジは
ピアノ演奏が聞こえていた

窓際の席に通され

『お嬢様、何飲みますか?』

私の隣に座る男がメニューを開く
名前は吉田サン(仮名)

『ドンペリ』

勿論冗談で言ってみた

『あ。いいねドンペリにしよう』

あっさりボトルで注文した

…何者?

一緒に飲んで疑問に思う事は
多々有ったけど
今夜限り…
特に気にしなかった

『彼氏いるの?』

その言葉に親友が

『彼女は別れたばかり
なんだから
変な話したらだめよ』



吉田は積極的に話をしてきた

『俺も彼女と別れんだ
半年経ったけどね』

自然と2対2に成って話をした

吉田は30代前半
ガッチリした体格で
普通の会社員では無い事が判る



『ご馳走様でした』

親友はタクシーで帰り
吉田の連れも別のタクシーで帰った

『東京だろう?送って行くよ』

吉田の作戦に
填まった気もしたけど
ワインとドンペリ…
ハイヒールでコケる位飲んでしまった

2人タクシーに乗り
ベイブリッジを渡る



『ホテルの部屋で
もう少し飲まないか?』

吉田が囁く…

誘惑のダイスが投げられた

No.181 09/05/13 10:24
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『部屋でもう少し飲まないか』


…かっ君…

お酒を飲んでも
彼を忘れられない

吉田の手が私の膝に置かれた
手のひらが厚くゴツゴツしてる…

…かっ君を忘れたい…

行きずりの男性なら
後腐れは無いだろう

Sexの行為より人肌が恋しい
淋しかった


『行こう』

返事を模索する私を
吉田は強引にリードする

都内のCITYホテルで降りた

‘少し離れて
付いて来て欲しい'

そんな言葉を頷き距離を取った
吉田はこのホテルの常連だと判る

‘ガチャ…’

部屋の椅子に腰掛け
吉田はネクタイを緩めた

『本当にOLなの?
明日仕事早いのかな?』

『大丈夫…』

吉田は私がOLでは無い事を
感付いてる様だった

『吉田サンのお仕事は?』

彼は休みだと言った

『明日ゆっくりしようよ』

そう言うと彼は浴室に消えた

胸が張り裂けそうに淋しい
かっ君の事ばかり考えていた

バスローブを羽織り
吉田は頭を拭きながら出て来た

『来た事
後悔してたんじゃない?
大丈夫?』

私は下を向いて浴室に行った
シャワーを浴びながら涙が出る

早くかっ君を忘れたい

浴室から出ると
彼は窓際で夜景を見ていた

No.182 09/05/13 11:20
ボニータ ( ♀ 16kZh )

吉田と向かいの椅子に座り
覚悟を決めていた

『本当にいいの?』

彼の言葉に頷くと
ベッドに誘われた

バスローブを脱いだ吉田の体は
彫刻みたいに綺麗な
筋肉質だった

場馴れした様な
彼の上手いキスに酔った

映画の様な愛撫をされ
吉田は私の上に乗ろうとした

『待って』

避妊を願うと腰にタオルを巻き
バッグから用意していた

…やっぱり彼は遊び人なんだ

不思議と気持ちは楽に成った


吉田のSexは激しかった
本能むき出した
夜の行為は終わらない

『もっと…』

幾度も体を求める彼に従った


かっ君を忘れたい…

行為が終わり
腕枕する吉田の胸で寝る
私は汚らわしい女だ

‘また会いたい’

吉田の言葉に空返事にも
かっ君との想い出が押し寄せた

…自業自得…

他の男性に抱かれた事によって
かっ君への大きな思いを
再確認してしまった

長い爪で黒板を
引っ掻く様な罪悪感

引き返せない現実


……

あの日から意外にも
吉田から毎日電話が有った

しかし電話の後ろで
しょっちゅう‘カキーン…カキーン’
聞こえる


吉田はプロ野球選手だった

No.183 09/05/14 01:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…野球選手…?

私は比較的
スポーツには詳しい方だけど
彼を知らなかった

書店の選手名鑑を見た
…載ってる…

電話越しに吉田は
職業を言いづらそうだったが
特に驚かなかった

私も仕事は'水商売'と告げると
吉田は'へぇ'と笑っていた

彼はシーズンオフで暇なのか
昔で言う六本木防衛庁付近に
私の仕事が終わる頃
ベンツで迎えに来る様に成った

でも愛は無い

吉田の目的はSexだろう
甘い言葉を囁いては
いつもホテルに行きたがる

今は12月…
店が毎日忙しい私は疲れていた

でも…
独りの淋しさから吉田と
曖昧な関係を続けてしまう

その頃
かっ君からは復縁を願う
手紙が1通来ていたが
返事は返さなかった
私は酷い女だと思う


……

『お台場に新しいホテルが
出来たじゃん
クリスマス泊まろうよ』

電話で吉田が誘って来た

店を休め無い事を告げると
12月20日私の公休日に
行く事に成った

女はズルイ
淋しいと結局男に逃げてしまう

戻れないと判っているのに
かっ君が忘れられない

私を抱く吉田にかっ君を
重ねてしまう事も有った

そんな私の態度に
吉田は気付いていた

No.184 09/05/14 02:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )

12月20日夕方

彼氏でも無い吉田と
お台場のホテルに向かった

かと言って
お台場を散策する訳でも無く
部屋に入ったら外には出ない

スポーツ選手だからか
人目が気に成る様だ

広い部屋…
2人では勿体ない広さだった

ディナーはルームサービスのフルコース

部屋の窓から外を眺めると
絵葉書の様な景色が広がる

当時お台場は
バブルの再来みたいに人が凄い
渋滞の車のライト迄が
綺麗な夜景だった

高いワインを飲んで
美味しい物を食べる

贅沢な空間に冷静な私を
吉田はツボだった気がする

『来年試合見に来てよ』

そんな言葉に

『行かない』

と言われる事も嬉しそうだった

食事が終わりベッドに誘われる

吉田のSexは激しい
胸にキスマークを付けられた事が
後で判る位だった

性欲の強い彼とベッドに入ると
中々出て来れない

そんな中
私のバッグの口から
プライベート用の携帯が
光っては消え
光っては消える

…かっ君?…

吉田を振り切り確認に行くと
かっ君からの着信だった

出れる筈も無く携帯を戻す

『前の男?』

吉田の問い掛けに頷いて
ベッドに戻った

No.185 09/05/14 02:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ベッドに戻った私を
吉田は‘お帰り’と抱き締めた

この時、何となく
吉田は私に好意が有るかも…
と感じる一瞬だった

私はすぐ
汗を流したい…と浴室に行った

嫌な予感がした

浴室を出ると立った状態の
吉田がボーッとしている

『次どうぞ』

私の声に焦る様に浴室に行った

…携帯…

着信が有ると
私の携帯画面は暫く明るい

薄暗い部屋で携帯を確認した


数分前のかっ君の着信が
‘通話’の表示に成っている

吉田が出た?

いいや、そんな事有る筈無い…

吉田に確かめる事も出来ず
携帯の着信を気にしたが
鳴り続いた着信も
その夜は鳴らなくなった



『少し早いけど』

シャワーから出た吉田は
私に長い紙袋を渡した
開けてみると
一粒ダイヤのネックレスだった

『たまたま
宝石屋が有ったから』

ぶっきらぼうに言うが
照れているのが判る

でも付き合っている訳では無い
プレイボーイの気紛れだろう…
としか考えて無かった


翌日

昼過ぎに家に帰り
ボーと遊んでいた

携帯が鳴る…
吉田かと思い表示を見ると
公衆電話だった

No.186 09/05/14 03:40
ボニータ ( ♀ 16kZh )

一瞬息を飲んで携帯に出た

『もしもし、俺やけど…』

『かっ君…』

私は久し振りの彼の声に
胸が苦しくなった

…しかし

『ちーチャン、
何であんな酷い事すんの?
あの男、誰やねん
好きな奴おったんやろ?
俺は一生ちーチャンだけで
いいて思ってたのに
…さよなら…』

‘ツー…ツー’

一方的に電話を
切られてしまった

私は受話器を握ったまま
泣いた

…かっ君が好き…愛してる…

でも戻れ無い

昨日の電話はやはり
吉田が出たんだろう

でも私は
彼を責める資格は無い…

かっ君は私の事を
軽蔑してるだろう
嫌いに成っただろう

でも嫌いに成って
忘れてくれるなら
それでも良いと思った
私はかっ君を幸せに出来ない


…さようなら…


出勤時間より早く家を出て
携帯を違う番号に変えた

吉田とも連絡が着かなく成る…
この時を境に
吉田とも縁を切った

好きでも無い人に
抱かれた罰だと思った

大切な人を傷付けた私は
幸せに成れないと思った

もう
恋なんてしたくない


この時私は27歳
大切な人を傷付け…失った…

No.187 09/05/15 01:01
ボニータ ( ♀ 16kZh )

かっ君より好きに成る人なんて
きっと現れない…
特定の男性は作らない…

それに私はもう27歳
水商売にも限界を感じていた
若くて可愛い娘なんて
いくらでも居る
後1年働いて資金を稼ぎ
何かしよう…

そして近い将来は
パチンコ屋等無い田舎に家を買い
喫茶店でも経営し
母とボーと穏やかに暮らそう…

そんな事を考えていた

しかし母は相変わらず
私に隠れパチンコに通っている
でも
私に感付かれると暫く行かない

この繰り返し

一緒に居ないと駄目に成る母を
一生面倒みないと…




しかし母は
落ち着く暇無く問題を起こす

パチンコをしない時は
買い物依存症に成った

小遣いを渡して無いのに
安いバッグを山の様に買ったり
着ない服を袖も通さず次々買う

パートに出た給料で買ったと
言うが信用出来ない
何を聞いても嘘に感じて
冷たく当たってしまう

母の精神的な闇は
一体なんなのだろう

しかし母の裏切りは
この時点ではまだまだ甘い

この先、殺す寸前迄…

私は母を憎む事に成る

No.188 09/05/15 03:32
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…年末

私の淋しさを紛らわす様に
店は連日大入りの忙しさだった

慌ただしい12月を過ぎると
水商売にもお正月がやって来る
30日から5日は正月休み

貴重な連休にも
私は一緒に過ごす男性が居ない

でも私にはボーが居る

30日にはボーと2人で
上野公園をノンビリ散歩したり
アメ横でおせちの材料を買いに
人混みの中コートの胸元から
ボーは顔だけ出した

ボーはカハカハ笑うと
目が無くなる位タレ目で可愛い

…大丈夫…
私はボーが居るから淋しく無い

血の繋がる母より
ボーと居る事が安心出来る

そうだよボーは私にとって
一番の存在なんだからね

ボー…私を独りにしないでね


……

翌年は私の水商売最後の年
初心に返り1年頑張った

太客から
黒いスポーツカーを買って貰い
誕生日には沿道迄花道が出来た

指名客に月200万で愛人を
持ち掛けられた事も有ったが
愛の無いSexはしたくない
不倫をするほど
私は腐ってない

プライドを持って頑張った

水商売は惜しまれるうちに
辞めた方がいい

それは始めた時に思っていた事

最後日は指名客だけで埋まる
ラストを飾った

私はもう水商売をしない
そう心に決めて
六本木の夜空を見上げた

No.189 09/05/16 02:43
ボニータ ( ♀ 16kZh )

28歳に成った私は
都内に美容系の
小さな店を持った

店にボーを連れ仕事は順調
ボーと居る時間も増え
穏やかな日々だった

水商売より月収は少ないけど
利益は出る
このまま頑張ればいつか
田舎に家が買える

目標を持って
仕事をする事が楽しかった


ある日

タクトから電話が有った
彼は昔
新宿二丁目で知り合った男の子

あの日からタクトとは縁が有る
偶然よく会う間に何でも話せる
長い友達に成っていた

早くウリセンを辞めたいと言いつつ
彼は仕事を続けていた

『…もしもし』
タクトの元気が無い
すすり泣く声が
受話器から聞こえる

『…もし僕が
死んだら泣いてくれる?』

突然の言葉に驚いた

『タクチャン死んだら悲しいよ
死ぬなんて言わないで』
私は焦った

『僕…』

長い沈黙が流れた

『僕…AIDSかもしれないんだ』

ウリセンの同じ店のボーイが
AIDSを発症したと言う

タクトは女の子が好きだが
お金の為に男性と寝ている
プレイ内容で3Pが有り
発症したボーイとよく組んで
仕事をしてたらしい

『タクチャンは検査したの?』

私の言葉に彼は
'絶対感染してる'と取り乱した

私はその夜
タクトと待ち合わせをした

No.190 09/05/16 04:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

車で待ち合わせ場所へ行くと
タクトは笑って手を振っていた

車に乗ったタクトは
電話の時とは違い
元気な振りをしている

『ごめんねー笑っちゃうだろ?
AIDSなんて死んだ方が
良いよね』

…は?
死んで良い命なんて無い

『タクチャン…死んで良い訳無いし
笑い事じゃ無いよ』

私の言葉に真顔に成った

タクトはこの時ウリセンを内緒で
付き合ってる彼女が居た
彼だけの問題では無い

『明日検査行くよ』

私はパソコンで
HIVの検査がすぐ出来る病院を
調べてから待ち合わせをした

今は即日検査が沢山有るが
当時、私が探した中だと
翌日結果が一番早かった

病院は吉原のソープ街から近い
金額は15000円
夕方5時迄の検査で
翌日9時に結果が判る

検査時の特殊な番号を言えば
電話で結果が聞けると確認した

それにAIDSとHIVは違う
彼はウリセンで働いているのに
その知識が無い

HIVに感染したら
すぐ死ぬと勘違いをしている

自暴自棄に成ったタクトは
彼女と自殺したいと言い始めた

『タクちゃん怒るよ!』

タクトを私の家に連れて行き
病院へ行く様に説得した

彼は後悔ばかりを繰り返す

死の恐怖で
ここ迄人間って変わるのかと
見ている私も胸が痛かった

No.191 09/05/17 03:17
ボニータ ( ♀ 16kZh )

タクトの話を整理すると

彼は検査をしていないが
感染らしき症状が出ている

AIDSを発症しても
医療費が払えない

親や彼女にAIDSと
言う位なら死にたい


しかし彼の言う‘発症’は
微熱や下痢…
AIDSノイローゼで
全てを病気に当て嵌めている

医療費については
1998年4月からHIV感染は
'免疫機能障害'として
身体障害者認定をされた為
1割以下で医療を
受けられる事に成った
今迄月平均20万~23万した
医療費は2万円~
生活状況によっては2000円で
受けられる

日本は恵まれている
アフリカ難民のHIV患者は
薬を買うお金が無く
一度も薬を飲む事無く
短い命でこの世を去る

感染不安が有るならば
検査を受け
病気と向き合う事が大切だ

タクトはコンドームを着けず
アナルSexを繰返していた
感染の可能性は高い

HIVを含む体液は
血液、精液(先走り汁含む)
膣分泌液、母乳が相手の粘膜
(口腔内、膣、尿道、直腸)や
傷口に接触する事で感染する

しかし正論を並べた処で
彼を追い詰めるだけ…
‘大丈夫’と話を
聞いてあげる事しか出来ない

泣きじゃくるタクトの手を
握って朝が来るのを待った

No.192 09/05/17 04:15
ボニータ ( ♀ 16kZh )

翌日

タクトと病院に行き
私もHIV検査を受けた

病院の電話番号と受付の数字が
印刷された紙を貰い
翌日の結果を待つだけと成った

情緒不安定だったタクトは
少し落ち着きを取り戻した

帰りの車の中でタクトは
『もしも感染して無かったら
ウリセン辞めて
彼女を幸せにしたいよ…』

と未来の夢を語っていた


……
翌日

朝9時少し過ぎた頃
タクトから携帯電話が鳴った

『…僕…陰性だったよ
本当にありがとう…』

タクトは何度も何度も
‘ありがとう'と言った

絶対にウリセンを辞める事と
今後は彼女に尽くす事を
約束してくれた

…良かった…

でもこの出来事は
Sexに対する重大性を私にも
教えてくれた

愛の無いSexを
軽はずみにしてはいけない

避妊の重要性

いつか出逢う大切な人の為に
気持ちも体も
傷ついて欲しく無い

なのに当時は援助交際ブーム
援交した女子中高生が
HIVに感染すると言う
記事をよく見る

時代の歪みを感じた

その後タクトは約束通り
ウリセンを辞め彼女と同棲し
昼間真面目に働き
充実した日々を送っている


私はバタバタ忙しく
数日遅れてからHIV陰性結果を
電話で確認した

No.193 09/05/17 13:50
ボニータ ( ♀ 16kZh )

その頃の私は
ボーを連れて仕事と家の往復
唯一のストレス解消は
週末のクラブ遊び

バブルが弾け
ドミノ倒しの様に潰れたDISCOも
この頃‘クラブ’と成って
店は増えていた

週末は女友達とVIPルームに
席を予約して朝迄遊んだ

芸能人、歌手、スポーツ選手
政治家の息子、大会社の社長
知り合う機会は豊富に有るけど
恋には発展しない

体目当ての男は一瞬で判る
気持ち悪い

恋愛するにも面倒臭い

電話して食事してデートして…
そんな時間が勿体ない

男性に対して冷めた感覚が
強かった

母は何かコソコソしてる
感じは有るけど
大きな問題が無いので
平穏に暮らしていた

多分私は
一生結婚しないんだろうな…
そんな事も思っていた


私は29歳に成りボーは7歳

ボーは仔犬の時みたいに
ゴムまりの様には跳ねない

成犬食からシニア食に変わり
マッタリ落ち着いて
私の横にピッタリくっついては
カハカハ笑っている

私はボーが居るから
仕事を頑張れた
ボーに毎日頬寄せて
心の支えはボーだった

そんな日々の中
新年が明け
想像もしない出逢いが
私を待っていた

No.194 09/05/18 06:45
ボニータ ( ♀ 16kZh )

新年
コートを買いに渋谷109に出掛けた

私はダラダラ買い物をするのが
好きでは無いので
服を買いに行く時は1人が多い

目当ての店に入り
数分で買い物を終わらせ
外に出るとアイスクリーム屋が有る

キャラメルリボンのシェイクが飲みたくて
狭い店内に入ろうとした瞬間…

‘ドスン’

昭和のコントみたいに
急いで出て来た男性と
ぶつかった

彼の持ってたアイスが
私のアゴに当たり
服に少し着いた

‘最悪…’

『すみません!すみません』
彼は財布とアイスを片手で握り
斜めにアイスを持っていた

不機嫌に成った私は
『大丈夫です…』
店内に入るのを辞め
スタスタ歩き出した

『本当にごめんなさい
クリーニング代受け取って下さい』
彼は必死で追って来た

『大丈夫です』
私は早歩きでスタスタ歩くが
宇田川交番まで追って来た

『でも何か
お詫びさせて下さい』

ハイヒールで歩き疲れた私は
立ち止まり彼の顔を見た
『?』
なんか見た事有る顔だけど
思い出せない

でも
‘何処かで会いました?’
って聞くのも嫌だった

『本当に大丈夫です』
私の言葉に

彼はメモを書き渡した
『今後お詫びしたいので
連絡下さい』

…ナンパ?

No.195 09/05/18 07:12
ボニータ ( ♀ 16kZh )

彼はメモを渡すと
何度もお辞儀をして消えた

メモを見ると
名前、携帯番号、住所が
書かれていた

‘住所??’

ナンパに住所を書く人は始めてだ
それか凄い真面目な人?

必死で謝って貰ったせいか
機嫌は治り
メモはバッグのポケットに入れて
そのまま忘れていた


……

数日後

友達数人と新年会をした
二次会はいつもカラオケ
歌が好きな私達は
よくカラオケに行く

『朝まで歌うぞぅ~♪』

女性だけのカラオケも楽しい
キャッキャッ言いながら
はしゃいでいた

歌が始まる
『!!!!』
私はカラオケの画面を見て
指を差した

『どうしたの?』
固まる私に友達は注目した

…アイスの彼
カラオケ俳優の人だったんだ…

昔のカラオケは歌にストーリーを付け
画面に役者さんが出ていた
しかもその彼は当時
どの歌にもよく出ていた

私は友達に経緯を説明した

『本当?縁が有るんじゃ無い?
電話してみたら♪』

お酒の入った友達から
‘電話コール’で拍手される

電話番号…
偶然あの時と同じバッグで
彼のメモが入っていた

『電話してみまーす』
ほろ酔いの私は
彼に電話する事にした

‘トゥルルル…トゥルルル…’

No.196 09/05/18 07:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『はいもしもし〇〇です』

電話の出方が真面目だった

『あの、夜分失礼致します
渋谷のアイスの者で
すけど判りますか?』
そう言えば私の名前は知らない

『判りますよ!
毎日電話待ってたんですよ』
彼は括舌が良い
ハキハキした好青年の様な
話し方をする

『今、友達とカラオケに来てて…
もしかして
カラオケ俳優してますか?』
私の問い掛けに

『してますよ!』
彼は元気に答えていた

今から合流したいと言われたが
女性だけで楽しんでるので
断った

『また電話します』

電話を切ると友達は
受話器から漏れる声を
聞いてた様だった
『へぇ~本人なんだね
男前だよね
デートすればいいのに』

友達は音を消したカラオケ画面を
見ながら騒いでいた

確かに格好良い
でも彼女は居るだろうし
恋愛で苦労したくない
苦労は母親だけで充分…
デートなんてする気は無い

『世間は狭いよねー』

そんな事を話ながら
私達は朝まで
彼が何度も出て来る
カラオケを楽しんだ


『またね~♪』

朝に成り各々タクシーで帰宅した

私もタクシーに乗り
携帯電話を見るとカラオケの彼から
何度も着信が残っていた

No.197 09/05/18 09:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )

何度も残る着信番号に
正直イラッとした
しつこい人が嫌いな私は
駄目なツボだった

少し好感度が上がったのに
次は無いな…と思っていた

しかし
毎日毎日10回以上の着信が残る

そのうち
同じ携帯会社だったので
ショートメールも来る様に成った

…しつこい…

そんなある日
携帯の着信を確認せず
出るとカラオケ俳優の彼だった

『電話に出てくれないから
嫌われたかなと思って』

そんな彼の粘り勝ちで
メールアドレスを交換し
デートの約束をしてしまった
しつこい人は嫌いだけど
押しに弱い
微妙なラインをすり抜けた

デート当日

疲れが溜まっていたのか
酷い私は約束を忘れて
家でウッカリ寝てしまった

夕方7時半待ち合わせから
30分過ぎた頃
彼からの着信で起きた

『ごめんなさい…寝てました』

そんな私に怒る事無く
家の近く迄
来てくれる事に成った

私は車で駅に向かうと
笑顔の彼が手を振っていた

『本当にごめんなさい』

私は急いで支度した為
髪は生乾き、スッピンだった

そんな彼は
‘風邪引くから髪の毛
乾かしてから運転しようね’
と優しい…

まさかこの彼が
私の運命の人だとは
思っていなかった

No.198 09/05/18 23:31
ボニータ ( ♀ 16kZh )

彼の名前は‘マサ君’

私より年上で
カラオケ、舞台俳優、飲料水のCM
再現ドラマ等の仕事をしていた

…だから見た事が有ると
思ったんだ

しかし
そんな人が渋谷でナンパ?

…話をするうちに
彼に彼女が居ない原因が判った

人付き合いが苦手

彼は煙草もお酒も嫌い
お酒はアレルギーで匂いも駄目
仕事が終わると
直帰する人だった

お酒を飲まない事も
煙草を吸わない事も
私には問題無い

プラスとマイナスが合う様に
仲良く成ったが
彼は30代半ばで
一流の俳優を目指していた

現実は仕事が不安定

料亭で皿洗いをしながら
夢に向かっている

結婚願望の無さそうな
自由人の彼と居る事が楽だった

でも
いつしか優しい人柄が
滲む彼の事が気に成っていた

そんなある日

『付き合って下さい』

彼に部屋の鍵を渡された
少しずつ惹かれていた私は
言われるまま鍵を受け取った
『ありがとう…』

マサ君と私の家の距離は
車で深夜15分位

彼は独りで3LDKのマンション
に住んでいた
裕福な訳では無く
生活レベルを上げたい
彼の拘りだった

軽い気持ちで
付き合い始めたのに

私達は
激しく恋に堕ちてしまった

No.199 09/05/20 00:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

今迄の
ゆっくり好きに成る恋愛と違い
会う度に
切なく成る気持ちが募っていた

さっき会ったばかりなのに
もう会いたい…

綺麗な景色を見たら
彼にも見せてあげたい

そんな気持ちを持っているけど
Sexはしていない
タクトとのHIVの件から
潔癖症に成ってしまった
夜、彼の家に行っても
泊まらない

でもマサ君も男性
体を許さない私に
問い掛けてきた
『次会う時は2人で
朝を迎えたいけどどうかな?』

避けてばかりもいられない
彼に打ち明けた
『マサ君、HIVの検査って
したこと有る?』
私の言葉にキョトンとした

『ないよ。なんで?』

付き合って行くなら
検査をお願いした

『…そうだよね
大人のマナーだよね』
彼は保健所に電話をし
次の検査日を確認してくれた

HIVの検査は
全国殆んどの保健所で
匿名、無料で検査をしてくれる

もし献血をする時が有るなら
HIVの検査をしてから望みたい

通販でもHIV検査が出来るが
体質によりHIV抗原と反応する
抗原を持っていると偽陽性が
出る場合が有る(100人に1人)
1人でパニックに成るより
病院、保健所が望ましい

最後の性交渉から3ヵ月後
が正確な結果が出る


彼は快く検査に行ってくれた

No.200 09/05/20 00:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

2週間後

『マイナス(陰性)だったよ!』

彼と待ち合わせをしたら
合格発表を言う様な口振りで
抱き付かれた

今は検査結果は
1週間後に出るが
当時は2週間程掛かった

『でも、検査して良かったよ
考える事が沢山有ったし
ちーチャンが検査して欲しいって
気持ち、今は凄く判るよ』

マサ君が例え陽性でも
私の気持ちは変わらない

でも検査は彼の為にも
今後の付き合いでも大切な事…

価値観の同じ人で良かった

こんな風に何でも
考え方が合う彼と居る事が
自然だった

忙しい時でも彼は
10分会う為に会いに来てくれた

いつしか自然に結ばれ
私は30歳に成った


『お誕生日おめでとう~』

私の30歳は友達とマサ君が
クラブのVIPルームで
盛大に祝ってくれた

友達はマサ君に質問責めをした
『ねぇねぇ結婚するの?』

…結婚は考えて無いだろう
彼は俳優を夢見て頑張っている

『結婚しまーす』
お酒の飲めない彼は
烏龍茶を上げて宣言した

結…婚…か、、
全く現実味の無い話に
人事に感じていた

何故なら私はその頃
母との関係が最悪だった

母は性格が変わった様に
私にお金をせびる日々だった

No.201 09/05/20 01:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母は私に嘘ばかり付く

‘歯医者で歯を入れたいから
お金頂戴’

‘お金落としたからお金頂戴’

‘友達に借りたからお金頂戴’

…3日に1度何か言われる

渡さないと犯罪を起こしそうな
雰囲気を出していた

話し合いは何度もした
その時母は泣いて謝るが
翌日はケロッとしている

母の友達に50万の借金をして
家迄取りに来られたり

家には怪しい電話が
来る様に成った

その頃私の店は
利益が出なく成り始めていた
‘ホ〇トペッパー’と言う
無料雑誌の掲載店から
価格競争、薄利多売の時代
に成りつつ有った

店のストレスと母のストレス…
今までの事が有るから
母に優しくする事が難しかった

優しくすると
又お金をせびられる…
そんな恐怖も有った

ボーは8歳
まだまだ元気と言いたいが
ポメラニアンの平均寿命を調べたら
15歳…もうすぐ9歳に成るボーに
不安を感じる
もしボーが死んだら
私は生きて行けない…

加えて家のマンション25万の家賃は
水商売を上がってから
勿論自分で払っている

貯金を切り崩しての生活

そんな不安から誕生日に
‘結婚しまーす’と言われても

マサ君に寄り添う事が
出来なかった

No.202 09/05/20 10:19
ボニータ ( ♀ 16kZh )

……

誕生会の帰り道
申し訳無さそうに
彼が言って来た

『さっき、結婚する
なんて言ってごめんね』

『何で謝るの?』

『迷惑そうな顔だったから…』

プレゼントに貰った
生花の香りに包まれながら
東京タワーの横に車を停めた

私は今の状態を彼に全て話した



『何で今迄
話してくれなかったの?
俺、そんなに頼りない?
お母さんと俺の家に
引っ越してくればいいよ』

彼の言葉は嬉しいけど
さすがに申し訳無い…

『でもマサ君の
夢の邪魔に成っちゃうよ』

『一緒に成れるなら
いい加減夢なんて諦めるよ
定職着いて幸せにするから』

運転席の彼は
私をゆっくり抱き寄せた

『マサ君、本当にいいの?』

今度こそ幸せに成りたい
彼と離れたくない
…と心の底から思った

こんなに優しく
誠実な人だから
きっと母も気に入ってくれる筈

彼は将来田舎に家を買い
母と同居する事も
快く賛成してくれた

だけど…
やはり母の事が引っ掛かる

胸騒ぎを感じながら

私は経営する店を畳み
マサ君は今契約の仕事で辞めると
事務所に伝え就職活動を始めた

私と彼は未来に向かって
動き出した

No.203 09/05/20 11:00
ボニータ ( ♀ 16kZh )

翌年春

彼は就職が決まり
私は店の整理が着いた

昼間家に居た母に
今住んでるマンションの引っ越しと
マサ君と
結婚を考えてる事を伝えた

『引っ越しするから
お母さんも準備してね』

私の言葉に母の表情が曇った

『お母さん、
同居なんてしないわよ』

ふて腐れた子供みたいに
あっさり拒否された

『お母さん、私もう30だよ
こんな生活するの疲れたよ
私が幸せに成るの反対なの?』

今回は母の思い通りにさせない

『マサ君って
売れない俳優でしょ?
ちーチャンにはお金持ちと
結婚して欲しいわ』

母は信じられない事ばかり
言い出した

『お母さんはね
貧乏人と結婚させる為に
貴女を産んだ訳じゃないのよ
産むの大変だったんだから』

本性を出し始めた

『どうしても引っ越すなら
1人暮らしするから
お母さんに部屋貸りてよ
月に30万仕送りしてくれたら
何とか成るなら』

平然と言った

…お母さん?…

娘のスネを
いつまでかじる気なのだろう

『悪いけど今回はお母さんの
思い通りに成らないから
嫌なら勝手にして
私は1円も出さないから』

私の言葉に母は
部屋に隠ってしまった

No.204 09/05/20 11:48
ボニータ ( ♀ 16kZh )

部屋に隠った母は
ストライキを始めた
心配させて構って貰う作戦だ
でも放っておいた

泣いたり土下座されたり
あらゆる手段を使って
‘同居は嫌だ’
‘結婚しないで欲しい’
と言われたが全て無視した
最後は

『一生のお願いです
お母さん、行く処探すから
引っ越しは1年待って』

泣いてすがられた

しかし途中家賃の更新が有る
5ヵ月なら待つと
最後の願いを受けた
母が自立してくれるなら
それが一番だ

その間『マサ君に会って』
と言っても拒否された

母は私の結婚に全く感心が無い
いつまでも私を母の所有物だと
思っている事を痛感した

でもいい
あと少しで母から解放される…



ボーはマサ君に凄くなついた
部屋に居ると
彼の膝に乗りたがり
マッタリ寝てしまう

会う時は
‘ボーを連れて来てね’
と可愛がってくれる

人生にはタイミングが有る

私はマサ君が運命の人だと思った

季節は巡り
引っ越しまで約1ヵ月
私の31歳の誕生日の事だった

朝、自宅で起き
ダイニングに行った

…母が居ない
昨日深夜は居たのに…

テレビを着けようと
テーブルのリモコンを探すと
手紙が置いてあった

【遺書】

母が書いた
私宛ての遺書だった

No.205 09/05/21 00:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

遺書 〇〇様

刑務所へ入るつもりで
何もかも承知の上での犯罪をしてしまいました。
何を言われようと全て覚悟の上での犯行です。
貴方には本当に辛く悲しい思いを掛けた事は許される事ではありません。
母は死に場所を探します。
貴方の誕生日に許して下さい。
部屋の鍵はドアポケットに入れます。
大丈夫です二度と顔を見なくて済みます。
安心して幸せに成って下さい。
天国から幸福を祈っています。
きっとこの手紙を見る頃は何処にもいないと思います。
今迄の貴方への不幸を許して下さい。
身元が分からない様全部処分して行きます。
部屋のものも処分して下さい。
借金の件は〇〇(私の父)への私成りの復讐です。
元点は全て〇〇から始まったのです。
ピッチ解約して下さい
ありがとうございました。
〇月〇日



私の誕生日に
母は遺書を残した

犯罪って何?…

何で…?何で…?

私はマサ君に電話をして
パニックを起こしてしまった

狂って泣き喚く私に
ボーはずっとキュンキュン鳴いている

どのくらい経ったか
覚えていないが
マサ君が急いで来てくれた

私は遺書を彼に見せた

『警察に行こう』


……

No.206 09/05/21 01:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

彼は泣き崩れる私を抱えながら
駅前の交番に行った

遺書を警察官に見せた処
交番では手続きが出来ない為
捜索願いを出すなら写真を持ち
住んでる区の警察署に
行って欲しいと
優しく教えてくれた

でも消えたのは今日…
本日帰宅が無ければ
捜索願いの手順だった

誕生日の私にマサ君は
ディナーを予約していたが
勿論キャンセルし
母探しが始まった

母の写真をマサ君に渡し
別行動で一日中探した

健康ランド、パチンコ屋、公園…
泣きながら
飲まず食わずで
深夜過ぎても探していた

杉並の和田掘り公園は広い
1つ1つ探しては

『おかあさ~ん』

泣きながら叫んだ

子供の頃
優しい母を探す様に
‘おかあさ~ん’
叫んだ事を思い出した

公園の砂場にへたり
掴めない砂を握り泣いた

…お母さん…

私の事がそんなに嫌いですか?

誰もいない深夜の公園で
嗚咽を上げて泣いた




翌朝8時頃
交番から電話が有った

『…まだ帰りません』

昨日の警察官が
心配して電話をくれた

マサ君も私も寝ていない
疲労が少し出て来た

テレビで変死体のニュースを見ると
母かと思い胃が痛く成る

電話で捜索願いを勧められ
警察署に行く事にした

No.207 09/05/21 02:21
ボニータ ( ♀ 16kZh )

目の腫れ上がった私が
警察署に入ると
婦警さんが飛んできた

事情を話すと交番の方が
連絡を入れてくれた様で
すぐ判ってくれた

私しか個室に入れ無いので
その間マサ君は
‘駅を探して来る’
と動いてくれた

取調室みたいな
小さな部屋に案内され
経緯を警察官に話をした

母の写真を提示すると
行方不明者の欄に
名前を書いて下さいと言われ
指示された枠を見ると…

1つの区だけで1日
大学ノート2枚程の
行方不明者が居る事が判る

『こんなに毎日沢山
行方不明者が居るんですか?』

現実を知った私は
自分で探さないと
見付からないと思った

特徴等を詳しく提示する理由は
きっと死体発見時、判る様に
配慮された事だろう…

肩を落とし警察署を出た私は
マサ君に電話をした

『…お母さんの自転車
〇〇駅前に有るよ!』

彼は母の自転車を覚えていた

私も駅に駆けつけ
自転車を確認した

自転車に
母が帰って来るかもしれない…

自転車にチェーンを掛け
マサ君と順番で
張り込みをする事にした

私は家に帰り
行方の手掛かりを探す為
母の部屋に入った

和室の部屋は物で溢れている
買い物依存の山だった

No.208 09/05/21 19:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母の部屋には固定電話が有る

部屋の片隅で音を消した電話は
着信で光っては消え
繰り返していた

留守番電話の赤いランプも
不気味に光っている

‘メッセージ86件です’

ボタンを押すと業務的な言葉が
何件も入っていた

その間に電話が鳴った

私が出ると
母から連絡が欲しいと言われた

『母はお金を
借りてるのでしょうか?』

私の言葉に
‘知らない’と言われる
…怪しい

どの電話も内容は同じ

母はきっと金融会社から
借り入れをしてるだろうと
すぐ悟る事が出来た

でも金融会社は徹底している
私に真実を教えてくれない

座る間無くタンスを調べると
昔の手帳が出て来た
その中に元彼かっ君の
住所や生年月日が書かれている

…保証人にした?

母の手帳を見れば見る程
不安に成る事ばかりだった

引っ越しまで後1ヶ月…

行方不明に成った母は
その後1週間音信不通だった

駅に置かれた母の自転車は
交番に事情を話し
撤去を避けてもらい
マサ君は仕事が終わると
毎日協力してくれる
有難い…

私はボーを抱き締めながら
不安な日々を送った

…8日後
終電間際
駅で張り込みしてると
死神を背負った様な母が
改札口から出て来た

No.209 09/05/21 22:58
ボニータ ( ♀ 16kZh )

人混みに紛れ、母は案の定
自転車に向かったが
チェーンを掛けたので動かない。
まごつく母の背後に周り

『お母さん!!』

声を掛け腕を掴むと
一瞬逃げようとしたが
すぐに観念した

初対面のマサ君と
挨拶もそこそこに
母とマサ君を家に連れて帰った


……

『お母さん!
一体どう言うつもりなの?』

私の問い掛けに
母は手の皮を剥いた仕草で
なにも話さない

『金融会社に
借金してるんでしょ?
いくら借りてるの!』

私は責め寄った

『……円』

『は?聞こえない…』

『9500000円…』



母は一千万近く借金をしていた

既に母の居ぬ間に家のポストには
入りきらない位の
督促状が届いている

消費者金融なんて結局サラ金…
手紙の内容は
‘支払い無き場合は依託業者
にて取り立てが始まる’
だった

でも母は
‘元金はとっくに払ってる’
と開き直る

『お母さん…
死ぬんじゃ無かったの?』

殴りたい気持ちを抑えて聞いた

『千葉の海に
飛び込もうとしたら
駅員が着いて来て
死ねなかった…』

そう言うと大泣きを始めた

ただ呆れるしかない

『自分で解決して』

私は母に
自己破産の手続きを勧めた

No.210 09/05/21 23:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母の馬鹿さ加減に
慣れてしまった私は
一千万位の借金では
もう驚け無かった

タンスの手帳に何故
かっ君の住所や生年月日等が
有るのか聞くと
やはり保証人にしようと
思ってたそうだが
私が当時、調度別れたので
辞めた事が判った

母は怪しい金融からも
借り入れをしていた

理由はパチンコ

勝つ時に山の様に
買い物してた事も判った

そして遺書の‘犯罪’とは
留守中、私の部屋から
CHANEL等のブランドバッグを盗み
質に入れて
現金にしてた事だった


話を一通り聞いた私は
警察署に電話をして
母の帰宅を報告した

母は
‘今度こそ…今度こそ
心を入れ替える’
と土下座をしていたが
勿論信じられない

一部始終見ていたマサ君は

『お母さん…
無事で良かったね』

と言ってくれたが
私はこんな母で惨めだった

マサ君はこんな母なのに
同居しても良いと言ってくれる
本当に優しい人…
私は彼を絶対裏切らないと
心中で誓った



翌日朝8時から
母の固定電話は
金融会社の催促で
鳴りっぱなしだった

取り立てが来るまで
もう時間の問題…

サラ金に強い
新宿の弁護士事務所に
母を行かせた

No.211 09/05/22 12:36
ボニータ ( ♀ 16kZh )

弁護士事務所に相談するだけで
1時間15000円
300円しか持って無い母に
費用と電車賃を渡した

何するにも私がお金を出す
母は悪びれる事無く
当然の様にお金を受け取った

母を無事発見した事を
喜ぶ感情も持てないまま
次々問題を起こす母に
‘消えて欲しい…’

私の心の何処かに
恐ろしい感情が湧いていた

しかし何もしないと
一千万円の取り立てが
やって来る…

引っ越しの用意をしながら
母の問題…

ボーは私の心労を悟る様に
ピッタリくっついて離れない
あんなに懐いてた母には
全く近寄らなくなった



弁護士に相談した母は
2時間程で帰宅した

借金は10年以上に及ぶもので
元金、利子を
過剰に返済してる事から
自己破産が可能だった

弁護士に支払う金額は
当時合計70万程

調べたら
相場はもっと安く出来るが
時間が無い…
有能な弁護士に
委ねるしか無かった

弁護士費用は分割払いが出来る
分割で払う様母に言い聞かせ
自己破産の手続きを始めると
翌日には
取り立ての電話は鳴らなかった

しかしこれから
裁判で認められないと
自己破産が出来ない


母の本当の裏切りは
これからだった

No.212 09/05/22 15:10
ボニータ ( ♀ 16kZh )

1ヶ月後

慌ただしく引っ越しを終え
年末を迎えようとしていた

マサ君は母に8畳の部屋を提供し
家賃も光熱費も
彼が払ってくれると言うのに
全く感謝をしない

そんな母はホテルの
ベッドメイキングの仕事に着いた
フルで働けば月18万円稼げる
月7万円の弁護士費用とマサ君に
5万円の生活費を入れる事を
約束していた

‘マサ君に5万円入れてるから
文句無いでしょ’
と言わん振りの態度で
彼とは会話をしない

それ処か
彼に弁護士の保証人を頼んだ時
必要書類の源泉徴収を見て

‘稼ぎが少なくて情けない’
と言い放った

私は母を心の底から軽蔑し
憎く成っていく

しかし遺伝子なのか
憎く、大嫌いな母を
救うのは私しかいない…と
優しかった母の記憶を繋ぎ
いつか皆で幸せに暮らしたい
と僅かな希望を持つ私も居る…

複雑な気持ちを抱え
マサ君との同棲スタートを迎えた

ボーはもうすぐ10歳
マッタリ穏やかな顔は
誰からも可愛いと言われ
散歩に行くと人が集まって来る

いつもいつも笑っていた

ボーはベランダ近くの
風通し良い場所が気に入り
可愛い笑顔を見せる

私はマサ君の愛と
ボーの笑顔に支えられていた

No.213 09/05/23 00:43
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母が10年以上も消費者金融から
借金をしてたと言う事は
私が水商売に入り
仕送りをしてた頃から…

私は一体何の為に
水商売をしてたのだろう

裁判に記入する
‘借金の理由’は
‘生活費の為’と書かれて有る

親孝行したくて働いてた私は
本当に淋しかった

そんな傷ついた
気持ちなんて母は知らない



クリスマスを祝う余裕も無く
あっと言う間に年が明ける
今年こそは良い年にしたい

部屋をピカピカに掃除し
おせち料理を作り
どうか平和な日々を願った

しかし元旦
破産手続き中の母に
金融会社から
‘お金貸します’と
年賀状が大量に届いた

一体どうやって調べるのか…
まだ前途多難だと予感した

金融からの年賀状を
立ったまま淋しく見る私に
マサ君はボーを抱っこして言った

『お母さんが落ち着いたら
籍入れようね』

抱っこされたボーは
‘カッハー’
これ以上無い笑顔で笑っている

私は泣いて頷く事しか
出来なかった



そして同居する母は
最初頑張ってた
ベッドメイキングの仕事を
2ヵ月で行かなく成っていた

‘人間関係で疲れた’と
自分のベッドで
寝込む様に成ってしまった

No.214 09/05/23 01:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

部屋を暗くして一日中
寝込んでいる母に
夕食を運び問い掛けてみた

『お母さん…働かないと
弁護士の費用払え無いよ』

ベッドの片隅に座り促すも

言われた言葉は


『3万円貸して…』





母は何にも変わらない

きっと一生変わらない

私は母に‘母’を求めていた

でもそれは一生無理なんだ

母が生きているだけで
沢山の人に迷惑を掛けてしまう

私は理性の糸が切れた

『死…んで…』

母は驚き起き上がった

『お願いだから死んで!』

私は拳で
母の顔面を殴り続けた

『マサさん!助けて~』

母が悲鳴を上げると
彼が飛んで来た

『お願い!殺させて!』

私は年老いた母に
馬乗りに殴り続けるも
マサ君は止めず
私の限界を見つめていた

母は口から血を出し
失禁をした

私は本気で殺したかった
今まで我慢した山が
土砂崩れの状態だった

…ハサミ

手芸用のハサミが目に止まった

私は凄い勢いでハサミに飛び付き
母に向かって振り上げた瞬間
マサ君が私の手首を掴んだ

『犯罪者に成るつもり?
俺はどうするの!』

私は聞く耳持たず暴れていた

『ボーにも
会えなく成っちゃんだよ!』

…ボー

No.215 09/05/23 14:12
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『ボーにも
会えなく成っちゃうんだよ!』


……

ボーと出逢った日を思い出した

ガリガリでハゲだらけの
犬種も分からない仔犬…
私は一生守って行くと誓った


マサ君…
貴方にも裏切らないと
誓ったよね



……


『…ごめんなさい…』


力が抜け
握ったハサミは
マサ君に取り上げられた

血だらけの母は
洗面器に血を吐き

『親を殴るなんてな!
アンタは
世界一の親不孝者だよ!』

私と目を合わさず
浴室に逃げる様に消えた

一瞬の出来事に
私は放心状態だった

母を殴った手がジンジン痛い

人を殴るなんて
一生無いと思っていたのに

人間はもろい
理由はどうあれ
暴力なんて最低だ…

母を殴った後悔の嵐が吹いた


地獄絵巻みたいな修羅場から
母は私を避ける様に成った

もう私から
愛情もお金も
引き出せ無いと思ったのだろう

マサ君は
‘暫く静養した方がいい’と
私を休ませてくれた

ボーに構えなかった
時間を埋める様に
多摩川や海、山に半日遠出した

沢山の景色を背後に
ボーに毎日頬を寄せた

私が辛い時は
いつもボーが居てくれた

No.216 09/05/23 23:22
ボニータ ( ♀ 16kZh )



母の自己破産は
手続き開始から約1年掛かる

母はあの件から
私と話さないながらも
弁護士代、生活費
を入れる事も無く
毎度いい加減な生活をしていた

きっと私が助けてくれると
思ったのだろう

あの件から間もなく

(依2)
‘受任事務停止通知

ご依頼の債務整理の件については、貴殿からの送金がないためこれ以上事務を遂行することができませんので、受任事務を停止いたします。よって今後は債務者から全額について直接の取立てが再開されますので、ご承知置き下さい。’


と言う手紙が弁護士から来ても
平然としていた

しかし私は
心が変化している
母と縁を切る考えも有った

『お母さん…
約束守れ無いなら家を出て』

久しぶりの会話だった

『そんな事言って
ここに取立て来たら困るの
貴女でしょう』

母は開き治っていた

『お母さんの住民票抜くから
私には関係無いよ』

そう言うと翌日
母は早朝から出掛けた

友達に嘘を付いて
金策に回ってるのだろう
自己破産出来ないと
困るのは自分自身だ

そんな予感は当たり

友達に借金しては
弁護士代を
返済している様だった

No.217 09/05/24 00:01
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母を信用出来ない私は
部屋に鍵を掛け
貴重品は
目の届かない処に置いた

親子なのに
一番信じたい人を信じられない

母に対して
愛情が消えつつ有る自分にも
将来の不安を感じた


……

母との関係は悪化したまま
裁判の日と成った

やっとここまで来た…
とても長く辛い日々だった

母の自己破産が解決したら
次の事業をしよう…

私の32歳の誕生日を終え
数日後
母の自己破産が決定した


『大変ご迷惑を掛けました』

母は私達に挨拶をし
何か思い詰めてる様だった

マサ君は私の事を気遣い
少し遅れた誕生日プレゼントに
ボーも泊まれる
軽井沢のペンションを
予約してくれた

『お母さん、みんなで
少し家開けるけど良いかな?』

母に話すと
‘楽しんでらっしゃい’と
快く返事をしてくれた

やっとスタートラインだ…
気持ちの整理をして頑張ろう…

2泊3日の荷物を車に積み
久し振りの笑顔に成った

旅行当日

『お母さん、行って来ます』

私はボーを抱え
母の部屋へ挨拶に行った

『行ってらっしゃい』



この笑顔が
母の最後の姿と成る


……

No.218 09/05/24 13:50
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『軽井沢は犬の楽園だねぇ』

移動時間は掛かったけど
自然溢れる大地に
施設や食堂はワンチャンOKが多い

『将来、
犬に囲まれて暮らしたいね』

山道を歩きながら言うと

『いいね!きっと楽しいよ』

犬が好きなマサ君はボーの存在で
もっと犬好きに成っていた

夜はワンチャン連れた宿泊客が
宿の暖炉に集まり
犬同士もハガハガ戯れていた

『こんなに素敵な処に
連れて来てくれて有難う』

私はワンチャンと自然にパワーを貰い
これからの人生に
希望を抱いていた

『マサ君…今まで迷惑ばかり
掛けてごめんなさい』

そう言う私に
‘迷惑なんて思ってないよ’
力強く答えてくれた

やっと幸せに成れるかな…
ありがとうマサ君

……

2泊3日の旅行は
どんな贅沢な旅より楽しかった

長い帰り道
ボーは膝でスコスコ寝ている

母に水晶のネックレスを土産に買い
やっと家に着いた

『あれ?電気ついてないね』

夜この時間、母は居る筈…
サーッと嫌な予感がした

『お母さ~ん。ただいま』

家に入ると真っ暗で
人の気配がしない

『鍵が壊されているよ』

私達の部屋の鍵は壊され
ドアは開いた状態だった

…お母さん?…

No.219 09/05/24 15:16
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私達の部屋に入ると
荒らされた様子は無い

クローゼットの宝石や時計
ブランド品も異常ない…

…まさか…

私は金庫にお金を入れて有る

銀行が合併を続けるうち
預けるタイミングを失っていた

閉じた金庫に手を伸ばした

…開いてる

四桁の暗証番号は
判らない筈なのに
時間を掛けたのだろうか

金庫に入れた
今まで貯めた私の現金は
全て無くなっていた

お金だけ無くなり
置き手紙も無い

母の部屋はそのままで
唯一、判子と通帳
身分必要な物だけ無かった

『警察に電話する?』

状況を察知したマサ君は
携帯電話片手に言った

『いい…』

私は悟ってしまった

これが母との
永遠の別れなんだ…と

何かの自縛から解放された様に
力が抜けてしまった

もう、一生
母は私の前に現れない

私には分かる

大金を失った事よりも
母から解放された
気持ちが大きかった

でも…お金が無くなった私は
次の事業が出来ない
暫く彼に迷惑を掛けてしまう

『マサ君…私…』

言葉を探していると

『お金の心配は大丈夫だよ
俺、ちーチャンの為なら
もっと頑張って働くから』

彼は
‘1から2人で頑張ろうと’
言ってくれた

No.220 09/05/25 00:49
ボニータ ( ♀ 16kZh )


‘ピンポーン’

そんな最中チャイムが鳴り
出ると隣の住人だった

『鍵がドアに
差さってましたよ』

母に渡した鍵だった

慌て過ぎて鍵を差したまま
逃亡したのだろう

『有難うございます
いつ見付けて
下さったんですか?』

『おとといの夕方ですよ』

私達が旅行した日に
消えた事が判った

でも…もういい

母を探す気は無い
裏切られた現実だけを
受け止めていた


……

季節は年末

私は車を売り
暫くの現金を手にした

しかし、心配な事が有った

ボーの老化が気になる

ボーはもうすぐ11歳

なんだか
寝てばかり居る様な気がする

モコモコだった毛も細く成った

漠然とした不安に襲われる

…まだ天国行かないよね?

嫌な胸騒ぎがした

『マサ君…
ボー長生きするよね?』

『大丈夫だよ!
あと10年生きるよ!』

無責任な励ましで
落ち着く自分もいた

…ボー
これから皆で
幸せに暮らすんだよ

私を置いて天国に行かないでね

急に老化したボーに
不安ばかり募る

母に裏切られ
大好きなボーが消えたら
私は独りぼっちだよ…

胸騒ぎは止まらなかった

No.221 09/05/25 02:43
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーの不安を抱えてはいたが
早く母の整理をしたかった

母と二度と会う事は無い

母宛ての手紙を止め
住民票を抜いた

残した荷物は大量に捨て
使える物はフリマで売った

荷物を見ると辛い
名前も見たくない

私の中で
母は死んだ事にした

そんな思い詰める私を
マサ君は心配している…

成るべく明るく振る舞ったが
笑っているのに涙が出たり
思っていないのに
母を殺す夢ばかりを見てしまう

自分には
時間が必要だと思った

彼は
‘いつまでも待つから大丈夫’
と私の隣で支えてくれた

でも
不幸ばかり背負う私は
彼に迷惑ばかり掛けている

『私と居たら
マサ君を不幸にしちゃうよ』

不安な気持ちを確認した

『俺の一番の幸せは
ちーチャンと出会えた事だよ』

彼は出逢った時から
愛情が変わらない

‘好き’とか‘愛してる’より
もっと深い物を感じた

彼と早く幸せに成りたい…



大晦日

母の荷物は全て無くなり
母宛ての郵便物は来なく成った

少しずつ傷も癒え
私達も前進していた

『来年、指輪を買いに行こう』

彼の言葉に頷いた

そんな時
私の幸せを見届ける様に
いつもボーは笑っていた

No.222 09/05/25 03:29
ボニータ ( ♀ 16kZh )

年が明け
ボーは11歳に成った

‘ポメラニアンの寿命は15歳’

本の平均寿命を見た時
短か過ぎると思ったけど

この時は
…まだ4年大丈夫…と
自分に言い聞かせた

何故ならボーは寝てばかりいる
老化が一気に来た感じで
動きも遅くなった

上手く言えないけど
お迎えが近い気がして成らない

私はただ焦るばかりで
不安は日々募った

抱っこしたボーを
写真に撮っては
泣いてる自分が居た

‘ボーはもうすぐ
天国に行ってしまう’

そんな予感が私を襲うからだ

私は年が明けても
仕事をしないで
1日中ボーと過ごす生活をした

マサ君は私が家事する事を
望んでるので甘えさせて貰った



3月

『熱海にペットOKの
温泉貸し切り旅館が有るよ』

マサ君は旅行雑誌を見ながら
予約をしてくれた

…これがボーと
最後の旅行かもしれない

ふと頭を過った

でも、ボーと
さよならなんて考えられない

だって私とボーは
ずっと一緒なんだよ?

私、やっと幸せに成れるのに
ボーが居ないと意味無いんだよ

ボーに話し掛けては泣いていた
そんな私の涙をボーは
ゆっくりペロペロする

…ボー…ずっと一緒だよ…

No.223 09/05/26 02:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

3月10日晴天

友達に車を貸り
熱海に向かった

1時間半程で旅館に着き
ワンチャンOKの部屋の入口には
‘ボニータ様’
名前が書いてあった

私達にとってはボーが主役

小綺麗な和室に入ると
ボーは座布団にチョコンと座り
ずーっと笑っていた

『嬉しいね。嬉しいね。』

老化が気に成ってた体は
嘘の様に元気だった

『ボー、調子良さそうだから
海に散歩に行こう』

マサ君はボーを抱っこして
お散歩セットを持った

海沿いの宿は信号を渡ると
すぐ海の歩道が有る

ヨチヨチ歩くボーは尻尾を振り
少し歩いては私を見て
少し歩いてはマサ君を見た

そんな可愛い姿を見て
私は涙が止まらない

『…大丈夫だよ。
ボーは長生きするから』

マサ君もボーに不安を
感じながらも
私を慰めてくれた

『…うん』

私が泣くとボーと彼が心配する
折角来た旅行を楽しもう…

私の気持ちを察してか
ボーはまるで
最後の思い出を作る様に
仔犬みたいにはしゃいでいた

最近、寝てばかり居たボーは
この時ずっと笑っていた

この笑顔が消えるなんて
考えられない

だってボーは
私の全てなんだよ…



神様

ボーをまだ天国に
連れて行かないで下さい

No.224 09/05/26 02:57
ボニータ ( ♀ 16kZh )

熱海ではボーの写真を沢山撮り
時間を忘れる位遊んだ

夜二組並んだ布団の真ん中で
ボーはイビキをかいて寝ている

私とマサ君は
ボーの下で手を繋ぎ

『一生ボーと居たいね』

そんな事を話ながら
眠りについた


……

翌日

昨日はしゃぎ過ぎたのか
ボーはずっと寝ていた

『今日はまっすぐ帰ろうね』

チェックアウトをすると
東京方面に車を走らせた

『見て、大きなショッピングセンターが
出来たよ』

海沿いを眺めていたら
新しい建物に気が付いた

私の声でボーが起きると
オシッコがしたそうだった

『ボーのオシッコに寄ろう』

ショッピングセンターに車を置き
歩道の電信柱にオシッコをさせた

『ペットショップも有るみたいだよ
ボーにオヤツ買おうか』

マサ君はショッピングセンターの
案内看板を見付けると
気候も良いので
ボーを車で寝かせ
店に入る事にした

新しい店内は広く
その奥に大きなペットショップが
入っていた

可愛い仔犬も沢山売られ
賑わっている

私はボーに
ピコピコ鳴るオモチャを見ていた

『ちーチャンの事呼んでるよ』

マサ君はガラス越しの
仔犬の前で私を呼んだ

No.225 09/05/26 03:20
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ふと見上げた先には
小さな仔犬が
2本足で立ち上がり
前足でペチペチとガラスを叩き
必死で私を呼んでる様だった

『や~よ。見ない…』

犬は大好きだけど
今はボーの事で頭が一杯…

他の犬を見る余裕が無かった

私はボーに
オモチャとオヤツとオシッコシートを買い
マサ君は暫くその仔犬を見ていた

『…マサ君~帰るよぉ』

私の声で来ると

『アイフルのクゥちゃんみたいに
ガラスをペロペロ舐めてたよ』

彼は珍しく
他の犬の話をしていた

『そうなの?可愛いね~
何犬だった?』

『…あれ?何犬だったかな?』

そんな会話をしながら
車に戻った

『ボーただいまぁ』

車のドアを開けるとボーは起き
眩しい位の笑顔で
私達を迎えてくれた



これが

私の大好きなボニータの

最後の笑顔だった

No.226 09/05/26 04:02
ボニータ ( ♀ 16kZh )

車に戻り
ボーにお水をあげると
またすぐに寝てしまった

『沢山遊んだから
疲れちゃったのかな?』

心細く言う私に

『沢山寝て元気に成るよ!』

彼はいつも
前向きな言葉で励ましてくれた




でも


ボーは旅行から帰ると
丸2日寝ていた

生きているか不安に成る程
寝てばかりいる

そのうちご飯も食べなく成った

病院の先生には
言葉を選ばれながら
‘お迎えが近い’と言われた

ボーの老化は急に進み
目の色がうっすら白い

無理やりスポイトで食べ物を入れ
水を飲ませた

旅行から1週間後にはとうとう
私を誰だか
判らなく成ってしまった

…ボーおいで…

この言葉にも反応しない

抱っこしたら必ずしてくれる
ペロペロもしてくれない

歩く事も出来ない程
横に成ったままだった

それなのに
オシッコだけは倒れながら
トイレでしようと歩いた

『ボー、いいんだよ
オシッコシートでしなくても
いいんだよ』

私はボーを抱え
頬を寄せて毎日泣いた

こんな姿でも

私の事が
分からなくてもいいから
生きてて欲しい

ボーの下に
大きなオシッコシートを引き
心臓の音を確認しては
涙の海に溺れた

No.227 09/05/26 12:22
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘涙が枯れるなんて嘘だ’

いくら泣いても涙は出てくる
ご飯を食べないボーは
痩せてしまった

『やだよ。ボーが死んだら
私なんて生きて行けないよ』

死の恐怖で狂いそうに成る

もう食べてくれないササミを茹で
もしかしたら急に元気に成って
食べてくれるかもしれない…

『ボーちゃん。ご飯ですよ』

声を掛けても動いてもくれない



『ボーを病院に連れて行こう』

マサ君は泣き尽くす私に言った

『点滴しないとボー…死ん…』

彼だって辛い
夜、私に隠れて泣いてる事を
知っている

私達は大切に大切に
ボーを抱え病院に行くと

『今日が峠です。
お辛いですが
心の準備をして下さい』

涙で目を腫らした私に
先生は辛そうに言った

…え…?

私は心の準備なんてしていない

だってボーと私は
ずっと一緒なんだよ?

言葉の出ない私を抱え
マサ君は先生に何度もお辞儀をし
ボーを委ねた

ボーの居ない部屋は淋し過ぎる

私はいつもボーが居るベットに
顔を埋めて泣いた

ボーの匂いがする…
落ち着く…

マサ君は何も言わず
私の背中をトントン擦ってくれた

全然寝てない私は
眠りに誘われる

ボー…
元気に成ったら何して遊ぶ?…

No.228 09/05/26 12:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )



……

どれ位寝たのだろうか

『ちーチャン…起きて…』

目を開けると
マサ君が泣いている

『ボー…
天国に行っちゃったって…
迎えに行こう…』

……

3月20日20時20分
ボーは天国に行ってしまった

昔ボーが地下鉄サリンから
私を救ってくれた日

私達は全速力で病院に向かった

亡骸になったボーは
まだ暖かい

『ボー!ねぇボー!
早く起きてよぉ!
天国に行くなんて嫌だよぉ!』

口から舌を長く出した
ボーを強く抱き締めた

『ちーチャン…』

マサ君も涙が止まらない

病院の先生も
私達の姿を見て泣いていた

‘プスー’

魂が抜ける様に
ボーの体から空気が抜けた

『ボーは幸せだったんだよ』

亡骸に成ったボーは
赤ちゃんが
寝て居るみたいに見えた



家に帰り
いつも居たベットにボーを置いた

その姿はまだ寝ているみたいだ

私はボーに
一番似合う服を着せた

ボー…
さよならなんて言わないよ
私とボーは
ずっと一緒なんだから


これから
辛いペットロスが待っていた

No.229 09/05/26 23:37
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘ボーおかえりなさい’

まだ柔らかい
亡骸に頬を添えて
ボーとの想い出を振り返った



仔犬のボーは
ガリガリだったけど

すぐ
運命の犬だって分かったよ

始めて会ったのに
一瞬で大好きに成ったんだよ

小さな目
低い鼻
真っ黒な肉球

ゼンマイみたいに
ピョンピョン跳ねて
私を追い掛けて来たよね

可愛くて
愛しくて
大切な存在

私が辛い時いつも
慰めてくれたのに
私は何にも
ボーにお返ししてないよ

私を守る為に来てくれたの?

マサ君と出会い
安心して
天国に行っちゃったのかな…

でもね

私はボーが居ないと
何にも出来ないんだよ

天国に行かないで
私の元に帰って来て…





柔らかいボーの体は
2日後には
硬く成ってしまった

『ちーチャン…
ボー可哀想だから
骨にして貰おうね』

マサ君はペットの火葬に電話をし
午後に亡骸を取りに来て貰った

病院の先生や友達から
ボーに贈られた花で
部屋はいっぱいに成った

私は何で花が有るのか
納得いかない

だって
ボーは死んで無いんだよ?

姿は見えないけど
私の横にピッタリ居るんだよ?

私はボーの‘死’を
受け入れられなかった

No.230 09/05/27 00:14
ボニータ ( ♀ 16kZh )

その日の夕方

火葬屋は焼けたボーの骨を
そのまま持って来た

私達は小さな骨壷に
ボーの骨を入れた

でも私は
現実を受け入れられない


犬の縫いぐるみに
ボーの服を着せ
カリカリを食べさせようとしたり

骨壷に入った
ボーの骨を食べようとした

『ボーは死んだんだよ…
そんな事してたら
ちーチャン頭おかしく成っちゃうよ…』

マサ君は
私を抱き締め揺さぶった

私はもう
自分の居場所が
無いと思ってしまった

ボーが居ない私なんて
何の価値も無い

私の20代…
今までの過去はボーが主役

私にとって
一番大切な者はボーだと
分かってしまった





ボーが死んで1週間

私は一切食べ物を
受け付けなく体重は7キロ痩せた

外にも行きたく無い…

散歩してるワンチャンが羨ましい

眠れ無い合間にも
疲労で睡魔が来る

でも何か物音がすると
ボーが帰って来たと思い
飛び起きては部屋中を探した

精神的にも肉体的にも
限界が来ていた

『俺はずっと
ちーチャンと一緒だから…
独りにしないから』

そんな彼の愛情にも
応える事が出来ない位

私の悲しみは
深い闇に包まれてしまった

No.231 09/05/27 13:53
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…神様

お願いです
私からボーを奪わないで下さい

お金も親も要りません

だけどボーだけは
私の支えなんです

お願いです

私にボーを返して下さい




……


ボーの骨壷を抱き
リビングで倒れる様に
疲労で寝てしまった


…気持ちいい…


私はハッキリとした夢を見た




透明な四角い箱の中で
小さな犬が私を呼んでいる

‘僕はここに居るよ
早く迎えにきて’

キュンキュン鳴く仔犬を
抱き上げたくても
その箱には出口が無い

『ボーだよね?ボーだよね?』

その仔犬は
透明な箱の中で
ペロペロして笑った

‘ずっと一緒だよ
ちーチャンを置いて
天国に行けないよ…’




……


目が覚めると
骨壷は暖かい

生きてたボーみたいに
存在感を感じる

時計を見た


AM3時…


…あ…

熱海帰りのワンチャン…

あの日の事を思い返した


…ボーだ


マサ君がずっと見てた仔犬…

私を必死で呼んでた仔犬は
命絶えるボーが
引き合わせた仔犬かもしれない


朝が来るまで
骨壷を抱いたまま
ずっと考えていた



『おはよう』

起きて来たマサ君に夢の話をした

No.232 09/05/28 05:52
ボニータ ( ♀ 16kZh )



『そうだよね!
ボーかもしれないね!』

記憶を辿ると彼は
笑顔で同意してくれた

しかしあの仔犬が何犬か
全く思い出せず
‘行けばきっと判る’と言った

私はボーの円形ベッドと
大好きだった
ピコピコ鳴るオモチャを抱え
胸にボーの写真を忍ばせた

会いたい気持ちは先走る

その日マサ君は公休日

近所でレンタカーを貸り
目的地の湯河原へ向かった


ボー…待っててね


ボーだったらペロペロして
‘ただいま’って言ってね

そんな期待を胸に秘めるも

‘あの仔犬が
売れてたら諦めよう…’

あんなに人懐っこい
可愛い仔犬なら
もう居ないかもしれない

渋滞する道中
冷静に考えていた

『…ボーに逢えるよ。信じて』

会話の無い車内で
想いに耽る私を励ましてくれた

『うん。ありがとう』

見上げた空は
私の涙顔に似合わない晴天

サービスエリアで買った
冷たいお茶を
泣き腫れた目に当てた

…ボーに逢えるかもしれない

春風に吹かれて
西湘バイパスを走ると
海が見えて来た

…もうすぐ

キラキラ光る波間に目を細め
ボーの最後の笑顔を
思い出していた

No.233 09/05/28 06:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

昼前

海沿いのショッピングセンターに着いた

あの時停めた
同じ場所に車を置き
ボーがオシッコした
電信柱を振り返りながら
店内に急いだ

ペットショップは
‘春のセール’で賑わっている

…あれ?

私達の目的する仔犬の
ガラスケースは空だった

『あの時の仔犬
この位置だったよね?』

私の言葉にマサ君は
店員さんを呼んだ

『この中に居た仔犬は
売れてしまいましたか?』


『はい。昨日売れました』


…売れちゃったんだ…


その言葉を聞き
車にひき返すと
マサは追い掛けて来た

『待って。仔犬の場所は
固定されて無いんだって』

半月以上前の仔犬が
まだ居るなら違うガラスケースに
移動してると言った

私は小走りで
ペットショップに戻るも
立ち眩みがして来た

何も食べてないからか
めまいがする

店員さんは私達に
椅子を用意してくれた

マサ君が説明したのか
そんな私に
仔犬を一匹ずつ
抱っこさせてくれる事になった



最初に連れて来たのは
ポメラニアンだった

モデル犬の様に愛らしい姿は
ボーの時とは
比べ物に成らない位
フワフワでキュートな仔犬だった


違う…ボーじゃない

No.234 09/05/28 08:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

店員さんは次々に
仔犬を連れて来てくれた

…でもヤッパリ…

ボーは居ない

私の都合いい解釈だったのか
次々仔犬を抱っこする度
ボーとは違う現実を
確認してしまう

もう20匹以上
抱っこしただろうか

ボーが引き合わせてくれた
仔犬には逢えないと諦めていた

『ちょっと…見て!』

マサ君は次に連れて来られる
仔犬を指差した

…あ

その小さな仔犬は
今までとは違い
私を見ると店員さんの手の上で
空中をジタバタ泳ぎ始めた

『キュン…ヒューン、ヒューン』

私の前に来ると
小さな腕を私に伸ばしている

…ボー?

ゆっくり手を伸ばし
仔犬を受け取ると
ヒュンヒュン言いながら
凄い勢いで私の顔を舐め始めた

この感触…

ボーと同じだ…

『その仔犬だよ!
まるでボーみたいだよ!』

マサ君は笑顔で仔犬の頭を撫でた

仔犬は私の顔を舐め尽くすと
膝の上でお腹を見せ
私の指をカプカプ甘噛みしては
カハカハ笑っている

頭の匂いを嗅いでみた

セキセイインコみたいな
夏のトウモロコシ畑みたいな
匂いがする…

ボーと同じ匂いだ…

ボーだ…

運命ってあるよね?

あなたがきっと
ボーが引き合わせてくれた
運命の仔犬だよね

No.235 09/05/28 08:48
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ボーに逢えた…

私は涙が止まらなかった


『この仔連れて帰ります
いくらですか?』

マサ君は立ち上がり
その仔犬が入っていた
ガラスケースを店員さんに聞いた

その場所は中央の上段だった

『…ちーチャン!来て!』

手招きで呼ばれると
仔犬を抱いたまま
ガラスケースを見上げた

…え…?

‘ロングコートチワワ♂(雄)
1月1日生まれ’

ボーと同じ誕生日だ…

しかもセール中で
25万が×に成り
18万が×に成り
15万に成っていた

…こんな事ってあるの?

ガラスケースの前で
立ち尽くす私達に店員さんは

『今、セール中です。
もう少しお値下げ出来ますよ』

この仔犬は健康で
何の問題も無い
でも他のチワワに比べると
値段が安い

なぜ安く出来るのか
聞いてみた

『その仔は
健康でお勧めなんですけど
‘柄’で皆さん
敬遠されるんですよ』

…柄?

全く気に成らなかったが
じっくり顔を見てみた

よく見ると
そのチワワは焦げ茶色の体で
背中に沿う毛並みの黒い毛が
‘1’の数字に見える上

口の周りは一周
カールオジサンみたいに黒い毛で

眉毛はチョンチョンと黒く
怒り顔みたいな柄だった

No.236 09/05/28 09:23
ボニータ ( ♀ 16kZh )

…うわぁ…かわいい

じっと見るつぶらな瞳は小さく
鼻は低い
ロングコートと書いてあるけど
スムースより短い気がする

なるほど…
この仔犬が何犬だか
マサ君が分からないのも判る

何故だか分からないけど
一瞬で好きに成った

『現金で買います!
12万円に成りませんか?』

ボーの時と
同じ金額を交渉すると
店員は少し考えて

『是非お二人の
家族にして貰いたいんで
…いいですよ!』

『やった!』

マサ君と私はチワワを抱いて笑った

そのペットショップは
これから午後に
掛かり付けの獣医さんで検診し
シャンプーセットしてから
引き渡してくれると言った

『分かりました!』

私達はすぐ近くの日帰り温泉で
時間を潰す事にした

私は安心したのか
お腹が空いて来た

『本当に良かった…』

マサ君は何度も呟いた

私は彼に沢山心配を掛けた…

今まで見えなかった事が
少しずつ見えて来た

…ボーありがとう
運命の仔犬に逢えたよ

でもボーの事は
1日だって忘れないからね…

今逢えた仔犬を
ボーと思いたい気持ちと

ボーを亡くした現実を
受け入れようとする自分が
半分ずつ居た

No.237 09/05/29 00:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

日帰り温泉オオキジマ
の食堂に入り定食を頼んだ

久し振りの食事…

味噌汁をひとくち含むと
味噌、鰹、昆布…
全ての味を感じる

生きてるって実感がした

『チワワの名前は何にする?』

マサ君に聞くと

『え?ボーじゃないの?』


2人で相談した結果
ひらがなで‘ぼー’に決めた

『だって
‘ぼー’って顔してたよね』

『うん。してたね、してたね』

胸に忍ばせた写真は
ボーが笑っている

『これからぼーと3人で
頑張らないとね』

マサ君の言葉に大きく頷いた

…ボー
私、強く成るからね

私のスタートラインは
この日だったのかもしれない



……

温泉に浸かり
ペットショップの店員に
‘閉店間際に来て大丈夫’
と言われたけど

早くぼーに会いたい

でもマサ君を休ませたい

仮眠室で横に成るマサ君をおいて
私は2階の広間で
そっと海を見ていた

熱海の歩道を歩く
ボーを思い出す

やっぱり涙が出ちゃうけど

ボーが大好きだから許してね

命の尊さを
教えてくれてありがとう

お味噌汁が
あんなに美味しいって…
私、生きてるんだね

ボー…心の底から

あなたが愛しいよ

No.238 09/05/29 01:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

少しするとマサ君は
私を探しながら広間に来た

『電話したら迎えに行って
大丈夫だって。行こうか!』

早くぼーに会いたい気持ちは
彼も一緒だった

『うん!』

元気に返事をして
ペットショップに戻る事にした

ぼーは‘売約済’と貼られた
ガラスケースの中でソワソワしていた

頭には小さい
青のリボンをしているのが見える

遠い距離から
ぼーも私達に気付くと
二本足で立ち上がり
前足でガラスを叩いている

…あの時の仔犬だ

その姿にあの日の仔犬が甦る

『やっぱり
あの仔犬で間違い無いね』

マサ君も同じ事を思っていた

そう、間違い無かった

さっき居なかった店員が
マサ君を見ると

『1ヶ月位前
この仔見てましたよね?』

話掛けて来た

『何で知ってるんですか?』

マサ君は目を丸くした

『マンチェスターユナイテッドの
ジャンパー着てましたよね?』

サッカー好きの店員は
その日見ていた事を
話してくれた

『それにこの仔
凄い連れて帰ってアピール
してましたよねー
覚えてますよ!』

指差した
ガラスケースの位置も同じだった

世の中には
不思議な事が有る

でも

神様からのプレゼントは
もう少し続く

No.239 09/05/29 13:16
ボニータ ( ♀ 16kZh )

『ぼー、お家に帰ろうね』

手続きが終わり
ペットショップの方にお辞儀をして
車に乗り込んだ

ボーが使っていたベッドを
膝の上に置き
その中にぼーを入れてみた

ぼーは大興奮で
私にペロペロしては
体をベッドに擦り付けた

大運動会をして疲れたのか
一瞬止まると
プリリ…とヘビ玉みたいな
可愛いウンチをした

『やだ~。ぼーは』

私とマサ君は
久し振りに心の底から笑った

命は繋ぐ

それを支えに私は生きている

…ぼー

私達の処に
来てくれてありがとう

頬を寄せるぼーは暖かい

そう

生きてるって
こんなに嬉しい事なんだね

命は時に
息絶えてしまう事が有る

残された者は
時間が止まってしまう

途方に暮れ、重い扉を開けた時

見える景色が違ったりする

人は傷付きながらも
成長するんだね

…ボー

私の全てだった
一匹の仔犬

今でも大好きで大好きで
思い出すと
温かい涙溢れちゃうよ

でもね

ボーと出逢えた事
本当に感謝しているよ

もし生まれ変わって

今までの人生
同じ苦しみを味わうとしても

ボーと出逢えるなら
何だって乗り越えるよ

…ボー…

頬寄せた日々

私は本当に幸せでした

No.240 09/05/29 13:26
ボニータ ( ♀ 16kZh )

家に着き
ぼーを部屋に放してみた

チャカチャカチャカ…

ボーに置いてある
お水を迷わず飲みに行くと

いつもボーが座っていた
場所に腰を降ろした

見守る私達にまるで

‘ただいま’

って言ってる様だ



‘おかえりなさい’




No.241 09/05/29 21:15
ボニータ ( ♀ 16kZh )



……


数年後





2009年4月13日


私はそんな
今までの過去を振り返っていた



『ぼ~。桜、綺麗だねぇ』


満開の桜並木に
私は、ぼーと頬を寄せている


これから
仕事が終わるマサ君と
待ち合わせだ


あれから犬の神様から
不思議なプレゼントがあった


焦げ茶色だったぼーの毛色は
ボニータみたいな
綺麗なクリーム色に成り

顔の黒い眉毛とヒゲは
跡形も無く消えてしまった

‘ボニータそっくりだね!’

ボーを知ってる友達からは
神様のイタズラだと驚かれる

‘ボー’と‘ぼー’
2枚の写真を並べると今では
全く区別が付かない

犬種の違う犬だけど

まるで生き写しの様に
ぼーは今日も微笑んでいる





私はあれから
沢山の事に気が付いた


貧乏だった過去

母の娘として産まれて来た事

全て私にとって
意味があったんだ

春彦と出逢い

もし、あの時
私がお金に溺れたなら

もし、3000万のネックレスに
欲が出たならば

私の人生は
もっと険しく辛い事が
有ったかもしれない


春彦さん…元気ですか?

罪を償った彼に

違う景色が
見えている事を願っている

No.242 09/05/29 22:54
ボニータ ( ♀ 16kZh )

お母さん

元気ですか?

あれから
何年も経ちましたね

あの過去…

私は無理をしていました

親孝行するつもりが
貴女を甘やかせてました

無理を続ける生活に
本当の幸せは続かない事を
私は悟れませんでした

そして貴女に
‘母親’を求め過ぎてました

母親である前に
1人の人間だと接したら

貴女に手を挙げなくても
良かったと
悔やんでいます

人に何かを諭す時は
その中に愛情が無ければ
意味がない

自分の正論ばかりを
押し付けても
心に届く事はない

私は大好きな母が
壊れて行くのが
怖かった弱虫でした

憎んだり

恨んだり

嫉妬したり

羨やんだり

沢山の感情が生まれました

でも

そんな思いには
何の意味も無い事を
知りました

お母さん

きっと二度と会う事は無いけど

貴女がお腹を痛めて
私を産んでくれた事

感謝出来る様に成りました

……

ボニータ

あなにだけは

‘さよなら’も
‘元気ですか’も言わないよ

だってボニータは
私の心の中で永遠に生きている

何年経っても

本当に大好きです

……

ぼー

あなたは不思議な天使だね

私とマサ君の大切な家族です

No.243 09/05/30 01:28
ボニータ ( ♀ 16kZh )

……


『ち~チャ~ン!』


仕事の終わったマサ君が
野川に沿って
歩きながら手を振っている

『キュンキュンキュンキュン』

甘えん坊のぼーは
いつも‘キュンキュン’と
鼻を鳴らしながらお迎えする

『桜、満開だねぇ。
…イヌフグリの花が
ぼーの鼻に付いてるよ』

『本当だぁ』

…パシャ…

笑い声に包まれて
写真を撮った

ぼーを抱っこするマサ君は
出逢った時から
優しいまま何も変わらない

マサ君は私の運命の男性

何年経っても
深い愛情で満たしてくれる

毎日まっすぐ帰る彼は

‘今夜のご飯はなあに?’

待ちきれず
電車の中からメールをしてくる

こんな平凡な幸せが
やっと私にもやって来た

でも私にとっては

この幸せが
一番の幸せなんだと感じている

あれから
お金を失った私は
初心に返り事業を考えた

這い上がる事は
どうやら得意みたいだ

色鉛筆欲しさに
ファンタのビンを拾った過去が
私を強い人間に
していたのかもしれない

二束三文の仕事から始め

現在は自営業で
いつも隣に居るぼーは
毎日カハカハ笑っている

そして今

私は夢に満ち溢れている

No.244 09/05/30 15:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )

夢の向こうには
沢山の犬が私を待っている


保健所等で
命消えそうな犬を
出来るだけ引き取り

運命の飼い主に
命を繋ぐ
夢の架け橋に成りたい

勿論
お金や寄付は受け取らない

何故なら‘お金’が怖い事は
身を持って体験している

偽善じゃ無い

慈悲じゃ無い

私達の幸せの為に頑張れるだけ


無理をしないで
進んで行きたい

ボニータ

そんな私達の夢に
尻尾を振り笑ってくれますか?



その夜

マサ君が寝た後

物置みたいに
積まれた荷物を整理すると

昔の通知表などが出て来た
…懐かしい

小学生の時に書いた作文だ


‘【私の夢】

私の夢は犬とくらす事です。
犬が大すきだけど
家には犬がいません。
白ーい毛のかわいい顔したマルチーズにリボンをつけて
まいにち散歩したいです。
きっと運命ってあると思います。
一緒にくらせる日を楽しみにしています。’



大丈夫

夢は叶うよ

でも‘運命の犬’は
犬種じゃ無かったんだよ

懐かしさに微笑みながら
作文を2つに畳むと

私にピッタリ寄り添う
ぼーを抱き上げ頬を寄せた

…ぼー

私は今、幸せだよ

1日でも長く一緒にいようね

No.245 09/05/30 16:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私の過去達に


‘ありがとう’

‘さようなら’


これからは
前を向いて歩いて行こう


スペインで見た
カルメンの絵を捨て


かっ君に貰った指輪は
もう開けないアルバムに閉まった


…もう過去は辛くない…


私のつまらない
人生の通過点だったけど


何かを感じてくれるかな…


09/04/14


02:40


……


私は過去達を綴りました







私の夢は…

心に傷負ったどんな犬でも
引き取りたいんだぁ、、

沢山お話して
元気に成るまでお世話するよ


運命って有るよね?

私は誰かの
運命の架け橋に成りたいん
だぁ…




きっと私と愛犬の
不思議な現実の物語は

これから永遠に続いて行く


今日も何処かで

私とぼーは頬を寄せている


‘犬に頬を寄せて’



これからもずっと

命繋ぐ
運命の犬と伴に歩いて行く


私は幸せです




09/05/30


ボニータ



《おわり》

No.246 09/06/01 10:12
ボニータ ( ♀ 16kZh )

《あとがき》



最後迄読んで下さり
本当に有難うございました



小説に書けなかった想いを
ここに綴りたいと思います




No.247 09/06/01 10:46
ボニータ ( ♀ 16kZh )

私の拙い文章に最後まで
お付き合い下さり
本当に有難うございました

落書きみたいな小説ですが
私の執筆目的は
‘ボニータの一生’の中で
体験した私の気持ちでした。

‘携帯小説’は初めてで
横書きの文章の作成に戸惑いながらも
最後まで書けるか不安でした。

そしてこの小説は
5月31日を目標に
書き綴りました

その理由は
最後に記したいと思います

小説を書く時
昔の手帳とボニータの写真を置き
マサ君の就寝後や出勤中に
執筆しました

なので睡眠時間を削り
約1ヵ月半の間
昔の私にタイムスリップしました。

精神を統一し雑音を消し
昔の私に戻るのに
10分程掛かった後
携帯電話を手にしました

その瞬間から
まるで催眠術に掛かった様に
小説の中に昔の私が居ました。

不思議と21歳の私は文章も幼く
現在の私に成る迄の
成長を感じます。

小説の21歳
ボニータとの出逢い
とても嬉しかったです

もう1度
ボニータに出逢えたからです

しかし良い事ばかりでは無く
春彦さんと出逢い
恋心を抱き

マサ君に悪いと思いながらも
春彦に恋をしてしまいました

現実の世界に戻っても
春彦を思い出してしまい
最初の挫折感が有りました

No.248 09/06/01 11:34
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんな私は
現実と小説の世界を
浮遊してしまいました

ボニータはいないのに
ボーにオヤツを買おうと思ったり
春彦を想ったり…

覚めない催眠術に苦しみました

それが辛く
現在の自分に戻りたくて
小説を書き急ぐ事が
出来た様に思います

しかし
思い出は想像以上に多く
昔の手帳を開いては
一語一句思い出してました

催眠術に掛かる私は
小説に入り

ドレスを惑い
昔の香水の匂いまで
嗅覚を刺激しました

だんだん春彦の逮捕に
近付くと辛く悲しく
体重が減りました

同じ思いを2度体験しながら
小説を書き進む事が出来るか
不安に成りましたが

そんな私の支えは
小説の中の‘ボニータ’と
今横に居る‘ぼー’でした

それが無くては
小説の中で飛行機に乗り
逮捕前の春彦に会いに行く事は
困難だったかもしれません

スペインに着くと
すっかり忘れていた
景色が広がりました

空港の広さ、大きなカート
空港独特の匂い

レティロ公園の前にいつも居た
花売りのおじさんの顔まで
ハッキリ思い出しました

全て実話なので
春彦の逮捕に至る迄
書けない事も有りました

No.249 09/06/01 12:16
ボニータ ( ♀ 16kZh )

しかし不思議なもので
春彦が逮捕され
小説の中で月日が経つと

春彦への思いは
自然に消化され
前に進む事が出来ました

しかし小説を振り返ると
春彦の頁が100頁以上も有り
過去の思いの大きさを感じます


次は引っ越しをして
また水商売に戻り

ボニータは歴史的事件から
私の命を救ってくれました

あの時ボニータの脱臼で
ボーの命が短く成ってしまった
のでは無いかと心痛めています

ボニータの命の短さは
私を守る為に
命を削ってしまった気がして
なりません…

そして次はタクトが出て来ます

タクトの事は
小説に書こうか悩みました

考えた末、書いた理由は

‘ボニータの一生の中で
体験した私の気持ち’

のテーマの1つ

‘命の大切さ’

から書くことにしました

数年後のHIV検査を書き
HIVは身近だと言うことを
記したかったからです

そんなタクトはあの彼女と結婚し
現在は二児の父親で
とても幸せに暮らしています。

タクトと出会う頃は
母の問題が次々出て来ます

過去の私はこの問題が辛く
殺したい位憎んだ事も有るので
どんな感情に成るか不安でした

No.250 09/06/02 13:06
ボニータ ( ♀ 16kZh )

お母さん…

母を思い、小説に入ると
お金の事ばかり考えていました

私の人生において‘お金’は
全く無くても沢山有っても
苦労する物でした

夜の世界は
贅沢な生活と引き換えに
厳しい現実と戦う日々だった
様に思います

新宿歌舞伎町

本当に
‘夜も眠らない街’です

次はホストの沢田と出会います

‘ホストとキャバクラ嬢’

よく有る話ですが私達にとって
青春みたいな恋愛でした

小説に入り込む私は
当時流れていた音楽を耳に感じ

かっ君の関西弁に
また恋をしました

そして思い出辿る私は
また別れを迎えます

今更ですが母の問題と
キャバクラ嬢を続ける私は

あの時、恋愛をしてる場合では
無かったと気付かされます

愛してからこそ
別れを決断する気持ちは
時が経っても辛い事でした

小説には書きませんでしたが
彼の両親との別れも
残酷な程悲しく

彼の母からは復縁を願う
連絡が暫く有りました

あの関西の風景
関西の方の情の深さ
さよならする心残りが
沢山有ったからでしょうか

後に綴りますが
未来に続く道に‘偶然’が
待っています

No.251 09/06/03 06:48
ボニータ ( ♀ 16kZh )

かっ君と別れを決めた後
‘吉田’と出会いました

恋を重ねる過程で誰もが
一度位ワンナイトラブ(死語ですね)
が有るかもしれません

女性の場合
‘さみしい’
‘彼氏と別れた’
等…何か理由が有る様な
気がします

雰囲気に流されて
一夜を供にする時

抱えてる倍の淋しさが
後々襲います

私は弱い人間で
後悔をしてしまいました

でも、そんな時でも
‘避妊’だけは必ずして
身を守って欲しいのです

HIVの感染理由8割がSexです

性病はHIVだけではありません

梅毒、淋病…将来子供を
産めなく成る事も有ります

これから未知の世界を歩む
若い女性に

不束ながら
メッセージを入れさせて頂きました


次は長年付き合いの有る
タクトにHIV感染の
相談を持ち掛けられます

HIVの感染増加は止まりません
平成16年から患者、感染者は
1000人を越える状態が
続いてます

新規HIV患者数は10年前の
3倍程に達しています

1日に4人以上が
HIVに感染してる現在

今一度、足を止めて
彼氏や友達とHIVや性について
話し合う事が
出来たらと思います

No.252 09/06/03 07:25
ボニータ ( ♀ 16kZh )

タクトのHIV検査の後タクトの友達は
AIDSを発症し合併症も有り
この世を去ってしまいました

後日
タクトとお線香に伺いました

残された家族の悲しみは
とても表現出来るものでは
有りませんでした





そして次に
マサ君と出会います

現在一緒に暮らしているので
小説に綴る事が
懐かしくも恥ずかしくも
有りました

昔、松田聖子さんが
運命の人に出会った時に
『ビビビと来ました』
と仰ってました

‘本当~?’
と思ってましたが

私も付き合う中で
‘ビビビ’と来ました


出逢った場所は
渋谷のアイスクリーム屋さんの出入口

そんな場所が
私達の出会いです

小説に綴った翌日

近所の同じチェーン店に
あの時飲めなかった
キャラメルリボンのシェイクを買いに
行きました

一口含むと
あの時マサ君に逢えた事
あの運命に感謝しました

そして私は現在
幸せだと言う事を
再確認しました

過去と現在を浮遊する私は
そんな感情の中
書き進めていました

でも、マサ君と出逢うと
次に母の遺書…自己破産

体力と精神力を使う内容が
私の前に立ちました

これが二度目の挫折感でした

No.253 09/06/03 08:03
ボニータ ( ♀ 16kZh )

小説に書いた母の遺書は
あの内容が現物で
今も持っています

今までに何度も捨てようと
思いましたが
なぜだか捨てられません

私の誕生日の日付の入った遺書

母の弱さを反面教師に
頑張って来た
私の教科書なのかもしれません

小説に入り
遺書を見付けると、一心不乱で
携帯に書き綴りました

過去を綴るだけですが
平常心で居る事は難しく

雑音を消して
あの空間にタイムスリップしては
脱力感が残りました


私の人生

警察にお世話に成る事が多く

記憶薄い子供の頃にも
父親の記憶には警察がいました

酒乱の父は人を殴り
血まみれの人が
庭で転がってました

真冬の朝方、殴った人を
父が庭のホースで洗ってると
警察が来ました

これが父の最初の記憶です

次の父の記憶は
これも酒乱が原因で
包丁で人を刺し
警察が来てました

私が4~5歳の時に
父は家から居なくなりました

そして小学校に入ると
‘虐待’‘育児放棄’と
近所の方から通報され

児童相談所の方と警察が
よく来ました

学生の頃は
通学中に居合わせた
サラリーマンにストーカーされ
怖い思いをしました

結論は無事解決しましたが
それも
警察にお世話に成りました

No.254 09/06/03 08:41
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そして春彦の逮捕で
警察にお世話に成りました



小説には綴りませんでしたが

水商売時に2年間
ストーカーに苦しみました

その2年間だけで
小説が綴れそうな程
恐い日々でした

内容的に私の
‘命の危険性’が有りました

その頃、時代は
‘ストーカー事件’が多発し
警察は巡回等を
長期に渡りしてくれました

早朝、家のゴミ袋をあさる
不審者を巡回中の警察が捕らえ
逮捕に成りました

犯人は私の常連客でした

その件が有り
‘しつこい人’が苦手の様です




話は戻ります

なので母の遺書で
警察にお世話に成る時
‘また?’
…と自分の人生を
恨んでしまいました

でも

いつの時も警察官は優しく

優しさの飢えた私に
諭してくれる事も有りました

お世話に成った警察の方は
皆さん良い方で感謝しています


小説の‘母の遺書’の次は

‘母の自己破産’です

引っ越し1ヶ月を切った中
トラック2台の引っ越しは
本当に大変でした

力持ちのマサ君は1人で
タンスや冷蔵庫を
運んでくれました

マサ君が居なかったら
今の私は有りません…

本当なら
マサ君と同棲して結婚…
だったと思うのですが

母はまだ問題を起こします

No.255 09/06/03 10:59
ボニータ ( ♀ 16kZh )

母が繰り返す‘裏切り’

堪えて堪えたつもりでした

でも私は
理性の糸が切れてしまいました

生まれて初めて母を殴り
殺したいと思いました

母は昔、夫の酒乱による暴力を
トラウマみたいに怯えてました

きっと殴った私に父を重ね
この出来事から
逃亡を考えていたと思います

母に手を挙げた事は
今でも後悔しています




母が消え年が明けると
ボニータの死が近付いて来ます

私はこの小説を綴った時
一番辛かったのは
‘ボニータの死’です

3度目の挫折感は涙が溢れ
止まらぬ涙に床を濡らすので
浴室に移動し湯船に浸かり
小説を書いてました

この小説に綴りたい
‘命’を伝えるのに
‘ボーの死’は
避けては通れない道です

ありのままを書きました

なので

‘ぼー’に会いたい
‘現在の自分に辿り着きたい’

と言う目の前の目標に向かい
書き進む事が出来ました

ボニータ…本当に可愛かったです

ボニータが亡くなり
お骨が帰って来てから
‘ペットロス’の本を沢山
読みました

大好きなボニータの‘死’を
受け入れる事が出来ない私は

その本達も
心に入る事は有りませんでした

No.256 09/06/04 13:45
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ここから少し
ペットロスの話に成ります


私も辛いペットロスを経験しました

精神病様症状
うつ病、情緒不安定、無気力
不眠、拒食症、過食症…

ペットロスのきっかけで
様々な症状が出てくる事を
‘ペットロス症候群’と言い

病気としてメンタルヘルス科や
診療内科、精神科で
診察してくれます

人生の中で一番最初に遭遇する
‘愛する者の死’
かもしれません

私は幻覚や幻聴も襲い

‘殺したのは私ではないか’と

後悔が押し寄せ
自分を責めました

友人の慰めに耳を塞ぎ

想い出に泣き

途方に暮れました



私はボニータに
依存していたのです

寿命の短い伴侶は
死別が不可避で有る事を
考えた事も無く

‘何年でも一緒’と

都合良く考え
生きて来ました

亡くした悲しみから
立ち直るには
時間が掛かるかもしれません

私の経験上でのお話ですが

ペットロスに成ったら
悲しい自分を認め沢山泣き
最初の涙を喪失感と流し
自分を責めすぎない事です

ペットロスは1人で解決するのは
とても難しい事だと思います

同じ悲しみ、苦しみが分かる
ペットロスを乗り越えた方に話し
支え合う事も良いかと思います

No.257 09/06/04 14:19
ボニータ ( ♀ 16kZh )

ある程度の期間
愛するペットの死と向き合ったら

私みたいに新しい命に
支えてもらうのも
1つの方法かも知れません

新しい命に愛情を注ぐ事で
‘愛情’に助けられます

見えなかった
自分が見えて来たら

ペットロス症候群の克服迄
あと少しだと思います

本当に辛い事だと分かります

簡単な言葉では整理出来ません

沢山の本を読んでも
自分の求める答えは
書いて無いかもしれません

私が救われた中には
獣医さんの存在も有りました

亡くなった‘ボー’を
診て貰った動物病院に

初めて‘ぼー’を
連れて行った時の事です

先生は笑顔で涙を浮かべ
ぼーを抱き締めてくれました

その先生は
本当に動物が大好きな方です

なのに、私達飼い主は
元気な姿を先生に見せるのは
予防接種の時位かもしれません

それ以外は比較的
動物の‘死’の直前に
命を託される様に思います

そんな身勝手な私に先生は
‘新しいパートナーが
来てくれて良かった’と
何度も笑顔で仰ってくれました

それと

可愛いペットが生きている間に
‘死’を受け入れる事

未熟な私成りに
やっと‘命’に
向き合えた気がします

No.258 09/06/04 17:05
ボニータ ( ♀ 16kZh )

次に小説では
私を支えてくれた新しい命

不思議な運命の仔犬
‘ぼー’の存在を夢に見ます

小説のラストスパートは
くどく成らない様
出来事をシンプルに綴りました

ぼーの出逢いは夢みたいですが
全て実話です

熱海の旅行帰り湯河原で
運命の糸口が有りました

土地に詳しい方は景色を
想像出来るかもしれません

‘ぼー’を迎えに行く東名高速

現実と言うより
夢の架け橋を渡る様な
不思議な気分でした

ボニータを亡くした事を
受け入れられなかった私は
少しずつ現実に返ります

サービスエリアの冷えたお茶
目に当てると
‘冷たい’と感じました

ボニータに出逢った日も
ぼーに出逢った日も
天気が良い昼下がり

マサ君の
‘きっと逢えるよ。信じて’

眠りから醒めた様に
言葉を受け入れてました

海を背にしたショッピングセンター
ボニータがオシッコした電信柱

車から降りた私は
車内で脱いだ靴を忘れ
裸足で歩いてました

ボニータの時みたいに
‘キャンキャン’
仔犬の声で賑わう店内

何匹も仔犬を抱っこ
させてくれたお店の方の優しさ
マサ君の愛情

沢山の優しさと愛情の中で
ぼーに出逢う事が出来ました

No.259 09/06/06 01:26
ボニータ ( ♀ 16kZh )

出逢った時の‘ぼー’は
とてもチワワに見えません

お鼻は低く、目は小さく
パグとディズニーのスティッチを
足して2で割り
怒った様なお顔でした

本当に面白い(失礼)
お顔でしたが

友達には、とっとこハム太郎の
‘タイショー君’
にも似てると言われて
ネットで調べたら凄く似てました

毛色は黒焦茶のチワワでしたが
家に来て1年位で
黒い眉毛とヒゲが全く消え

だんだん色が薄く成り
今では黄金に輝くクリーム色です

お顔も仕草もボニータそっくりで
本当に不思議ですが
生き写しの様です

私は絵が得意なので
いつかこの不思議な
愛犬の話を絵本にして
ボニータとぼーの写真も載せ

売上金は全て
盲導犬等やワンチャンの為に
寄付出来たらいいなぁ…
なんて思ったりしています

そして今、
現実に向かう私とマサ君は
保健所の犬の命を繋ぎたい
と思ってます

その為、
近所に迷惑掛からない
一戸建てにワンチャン達を
迎える事が出来る様

今月6月から
不動産活動を始めてます

なので5月末迄には
小説を終える目標が有りました

…夢は叶いそうです…

No.260 09/06/06 02:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

話は少し脱線します

マサ君にも
不思議な縁が有りました

彼は標準語しか話しませんが
兵庫県出身です

お正月に彼の実家から届いた
年賀状を見て驚きました

住所を見たら
マサ君の実家とかっ君の実家は
徒歩10分程の場所でした

大好きな関西に
深い縁が有るみたいです




そして小説の中でぼーと出逢い
現在に至る間に

私は戸籍抄本等から調べ
父に会いに行きました

離れた場所に住む父は
空港迄迎えに来てくれました

絶対に父を分からないと
思っていたのですが

エスカレーターを下る時に
すぐ見付ける事が出来ました

遺伝子は凄いと思いました

父と私は驚く程
顔が似ていたからです

母は父を
心の底から憎んでました

父に似すぎてる私を
愛したくても愛せなかった
気がしました


でも

どんな事が有っても
私は母と父の娘で
良かったと思ってます




脱線してすみませんでした

あとがきは
もう少しで終わります

最後に
保健所や動物愛護センターの
犬猫の殺処分についてお話して

此所を
さよならしたいと思います

No.261 09/06/06 15:30
ボニータ ( ♀ 16kZh )

保健所等、行政施設による
犬、猫の殺処分の現状

‘動物愛護管理法’には
犬猫を殺処分せねばならない
規定は一切有りませんが

第18条に都道府県等には
犬猫の引き取り義務が有ります

今現在、収容施設の構造や管理システムは‘殺す’事を前提として設計されてます

犬は単独で道路を歩くだけで違法に成り収容され
猫はダンボールに入れて捨ててあれば収容され殺されます

恐怖に耐える犬猫達は
収容後3~5日間
‘死’のガス室に
スライドされていきます

ボタン1つで追い込むガス室は
扉が閉まると炭素ガスで
窒息死させます

死ぬ迄に20分程
もがき、苦しみぬきます
決して安楽死では有りません

年間約50万頭の犬猫が
行政施設に持ち込まれています

犬、20万頭
猫、30万頭

全てでは有りませんが
ブリーダー.ペットショップ.個人繁殖家
人為的繁殖の裏には

4ヵ月過ぎて売れない犬猫は
利益の為に命尽きる迄
繁殖に利用したり
動物実験施設に送られ
拷問を受け殺されます

一匹の犬猫が産み落とされ
人間に愛され
生涯を終える事が出来るのは
ごく一部なのかもしれません

No.262 09/06/06 16:08
ボニータ ( ♀ 16kZh )

そんな悲しい現実の中に

一度犬を家族として迎えた
飼い主が引っ越しや
自分の子供を出産、
犬と性格が合わない…等
様々な理由から

飼い主自ら、保健所や
動物愛護センターに
持ち込む例が後を絶ちません

持ち込んだ犬は
ほぼ100%殺される上
決して安楽死では有りません

流行り物を買う感覚で購入し
簡単に命を捨てる現実が
離れた場所で今も起きています

もし、これから
犬や猫、あらゆる動物を
家族として迎える考えが
有りましたら

生涯動物を養える

病気に成る

お金が掛かる

等の問題を考え
様々な理由に不安を感じるなら
迎える事は辞めましょう

愛する動物の最後は
飼い主の腕の中で
看取られる事が
一番の幸せだと思います

私の心残りはボニータの最後を
病院で送らせてしまった事です

これから先迎えた家族に成る
ワンチャンの最後は死に水を
自分の体で感じたいと思います

そして‘あとがき’を
読んで下さってる方で
将来新しい‘家族’を
考える事が有りましたら

行くだけでも
見るたけでもいいです

一度ご家族で各地域の保健所や
里親を探すボランティア団体を
覗いてみて下さい

No.263 09/06/07 12:07
ボニータ ( ♀ 16kZh )

‘あとがき’
も最後まで読んで下さり
有難うございました


私の過去を綴った落書きは

誤字、脱字、変換間違い…

読み返すと酷い小説です


やり直しが出来ない
この携帯小説は
自分の人生みたいで
笑ってしまいますが

読んで頂いた方には
とても読みづらく
本当に申し訳ないと思ってます


この小説の題名
‘犬に頬寄せて’にした理由は

ワンチャンは大好きな飼い主さんと
同じ目の高さに成る事を
凄く喜び

飼い主さんも
ワンチャンに愛情を感じて与える
大切な瞬間だからです


楽しい時も

辛い時も

過去も未来も一生


犬に頬寄せて
歩いて行きたいと思います



今日東京の空は
‘ボニータ’と‘ぼー’に
逢えた日と同じ晴天です


この小説をこのページで
全てを終わりにし


前を向いて
歩いて行こうと思います






私とマサ君は
来年2010年01月01日
入籍します



最後まで読んで下さり
有難うございました


ボニータ



09/06/07




【完】

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