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空を見上げて

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りのあ( ♀ ij0Bh )
09/04/05 21:03(更新日時)

…パパ



これから
美月のもとへ
行きます


逢えるかは
わからないけれど…



お義母さんにも
美月にも
逢えるかな…?



優月をよろしくお願いします



…ごめんなさい

No.1159197 09/02/22 14:28(スレ作成日時)

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No.1 09/02/22 14:35
りのあ ( ♀ ij0Bh )

夜 8時



後30分で夫の修一が帰宅する




いつもより早めに夕食を食べさせて

いつもより長めにお風呂にもいれて

私の腕の中で
安心して眠っている
1歳になったばかりの優月を
寝室に連れて行く



しばらく添い寝をしていると
もう優月はグッスリと深い眠りに落ちてしまった




…あとは



修一に宛てた
遺書のメールを送信して



6階にある私の部屋のベランダから



この舞い落ちる粉雪とともに





…飛び下りるだけ

No.2 09/02/22 14:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ベッドで
天使のような顔で
スヤスヤと眠っている
優月の髪
優月の頬
を撫でながら



『…ごめんね …許してね …ごめんね …愛してるよ』



何度も
何度も
謝った



涙があふれて
胸が苦しい



それでも
もう行かないと…



修一が帰ってくる前に…




ベランダに出て
空を見上げると
終わりの見えない
真っ暗な空からは

思わず見入ってしまうほどの

美しい粉雪が舞っていた




…ごめんね

優月

お母さん



どうか
私がいなくなっても
悲しまないで…



強く
明るく
いつもと変わらない毎日を
過ごしてね…




何日も前に記した
未送信のまま保存された
修一へのメールを開く



…修一




この指が


【送信】


のボタンさえ押してしまえば


後は


飛び下りるだけなのに…



……押せない



…… 押せない



…… 怖い



…… 早く押さなきゃ



…… 押せない

No.3 09/02/22 14:57
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『ウワァァン 』



『!』



優月の火のついたような泣き声が
寝室から聞こえてきて
私は我に帰った




何をしているんだろう…
優月を置いて自殺なんて…

私…
おかしいよ…



我に帰った私は
自分のしようとしていた事の恐ろしさで
ヘナヘナとベランダにしゃがみこんでしまった



優月は私を探して泣いている



『ゆ…づき ママいるよ… 大丈夫よ 』



涙をぬぐって
寝室へ急ぐ



まだ小さな優月を置いて自殺なんて考える自分が怖い

こんなことで自殺を考えるなんて情けない

私は母親失格…




寝室で火のついたように泣いている優月をだきしめながら
私もまた声をあげて泣いた

No.4 09/02/22 15:07
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ピンポン




…修一が帰ってきた




胸が苦しい


息ができなくなりそう

何かに押し潰されそうになる感覚…




『ただいま』

『…おかえりなさい』


修一はポストに入っていた郵便物をドサッと食卓テーブルの上に投げた



スーツを脱いで
カバンを片付けて
パジャマに着替えて
手洗いにうがい



そして…


チーン
チーン



『…お母さん ただいま 』




小さな仏壇
小さな位牌
小さな骨壺



そこで毎日30分ほど
修一は


…亡くなったお義母さんに手を合わせて

時には涙ぐみながら

毎日…

何かを語っているのだ

No.5 09/02/22 15:18
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一との出会い



それは


出会い系サイト


だった



出会い系の中のサークルで
古典文学のサークルで出会ったのが修一だった



たまたま車で30分くらいの距離の場所に修一が住んでいたり
年齢も近かったりしたりで
意気投合したのがきっかけだった



友達付き合いも苦手だった私は
当然異性に関しても
なかなか積極的にもなれず
彼氏いない歴=年齢

だった



親戚
知人
あげくの果てには弟までが

結婚ラッシュで

赤い糸で結ばれているであろうその相手と

幸せそうに
微笑みあっていた



そんな姿が
私には

輝いて見えて
羨ましくて

少し妬ましくて…


でも出会いなんてどこにもなかったから


私は
【安全】【優良】

をうたっている出会い系に登録をした

No.6 09/02/22 15:25
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一とのメールのやり取りは私にとっては新鮮で

『好き』
『愛してる』

なんて言葉のやり取りは一切なかったけれど、私の中では修一は
すでに【彼氏】になっていた



冷静で

理知的で

誠実そうな


その修一のメールの文面は
私をすぐに夢中にさせた




だから半年ほど経った時に
修一から


【もしも千春さんが嫌でなければ僕と逢ってはいただけないでしょうか】


というメールが来た時には
私は飛び上がるほど嬉しかった

No.7 09/02/22 15:41
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一からそのメールに
私はすぐに


『もちろん喜んで』

と返信をした



私達はお互いが住む街の中間地点の街で逢うことになった




駅の中に入っている喫茶店



私が店につくと
メールに書いてあった通りの


黒いタートルのニット
銀縁の眼鏡

真面目そうな男の人…



修一がもう来ていた




『…あの …修一さんですか? 』



私がおそるおそる尋ねると


『…千春さん? 』



と笑顔を見せてくれた



穏やかな口調
理論的な物事の話し方
時折見せる照れたような、はにかんだような笑顔…

そして誠実そうな雰囲気…



私が長年理想としていた男性が
ついに目の前に現われた瞬間だと
私の心の中は大興奮状態だった




地方にある国立大学を卒業して
一流企業に勤めていて
実家は県外
家族仲は良好
ご両親の仲は非常に円満

貯金もかなりの額があり経済観念もしっかりしている…




“私にはこの人しかいない!”



その日から
私は修一との結婚を夢見るようになった

No.8 09/02/22 15:59
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私の父親は
6人の姉、1人の妹の女ばかりに囲まれた唯一の男の子として
代々続く家具屋の長男として産まれた



【跡継ぎ】


ただそれだけで
周りからはチヤホヤされて育ち
自分が望むもの全てを手に入れてきたような人だった



…ただ唯一


父親が独身時代に長年付き合っていた彼女は
幼い男の子が1人いる未亡人だった…

小さな街では
そんな事は噂の恰好の的となる…


しかもその未亡人の夫の亡くなった理由が車ごと海に飛び込んだ自殺…
となればなおさらだった



噂の餌食の未亡人
しかも男の子がいる…
父とそんな未亡人が結婚してしまったら

跡継ぎ問題はもちろん
商売にも影響が出る!

と私の祖父母、叔母達は父と彼女の付き合いに猛反対だった。



そこで
隣り町に住む
呉服店の娘であった母と半ば無理矢理見合いをさせられて

その挙げ句に祖父母に勝手に結婚式の日取りを決められて
結婚させられたらしい


そんな状況での結婚だったから
夫婦仲も良くなく
商売をしていたせいもあったと思うが
家族でどこかに旅行に行ったことも一度もなかった

No.9 09/02/22 16:12
りのあ ( ♀ ij0Bh )

家具屋も
婚礼家具を持参してお嫁に行くのが当然だった頃は
商売も順調だった


嫁入り道具を選ぶ時は
どれだけ質のいいものを持って嫁ぐか

それによって嫁ぎ先での扱いが変わる


と言われていた頃の時代は
うちの家具屋にも7~8人の従業員がいた




しかし時代が流れるにつれて
婚礼家具を持って嫁ぐ人も少なくなり
質よりも値段、見た目が素敵なもの
それを求めて量販店での購入が多くなっていくにつれて
実家の家具屋の経営は傾いていく一方だった…



経営が傾いていくにつれて
父親の酒の量も増えていった



店にはまったく顔をださなくなり
近所の飲み屋でツケで飲み歩く日々…



母親とのケンカも絶えなかった



金策に走りまわる母親

お金もないのにツケで飲み歩く父親



まだ幼かった私は
そんな2人の夫婦喧嘩が怖くて不安でたまらなかった



ケンカが始まると
いつもいつも
兄と私と弟で
ひとつの布団に3人でくるまりながら
夜をこしていた…

No.10 09/02/22 16:23
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『…あの男さえいなければ』
『あの男がいるから全てがうまくいかないのよ』


私は毎日毎日
母親から父親の文句を聞かされていた



洗脳にも近かった



『こんな粗末なご飯しか食べさせてあげられないのはお父さんが飲み歩いているから』

『部屋がこんなに散らかって掃除できないのはお父さんが頑張らないぶんお母さんが仕事を頑張らないといけないから』


夕食が
ふりかけとご飯だけなのも

家中が
物であふれ散乱していて足の踏み場がないのも


それらの全ては父親のせいだと

私は幼い時からそう思っていた



だから


私は

真面目で
一流企業に勤めていて
深酒なんてしなくて
経済観念もしっかりしている
誠実な
優しい
男の人と絶対に結婚するんだ


お父さんみたいな人とは絶対に結婚しない



ずっとそう誓って生きてきた




だから
修一に出会えた時は
本当に
本当に
嬉しくて
幸せで




夢は願えば必ず叶うんだ



…そう心底思えた瞬間だった

No.11 09/02/22 16:58
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一と初めて逢った日から
私と修一の仲はものすごいスピードで近くなっていった



男性経験はもちろん
男性と付き合ったことがない

と少し恥ずかしそうに話す私に

修一は私が驚くほど喜んでくれて



『実は僕もなんだ(笑)』


と笑いながら教えてくれた



修一と初めて身体を重ねたのは
3回目に逢った時だった


修一は会社の寮で女の人を連れこむことは厳禁だったし

私も自宅に住んでいたので両親や祖父母もいる…



だから
ラブホに行った



高校生でもないのに
もう20代も半ばをすぎたいい大人なのに
なんだか悪いところに行くような気がして
すごくドギマギした…



修一も
なんだか初めてくる慣れない場所に落ち着かない様子だった




性にたいして
どちらかといえば嫌悪感が強かった私は


こんな時女性はどうすればいいのか…


女性はどのように対処すればいいのか…


そんなことばかり考えていた



まったく知識も経験もない私には
不安しかなかった

No.12 09/02/22 18:30
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ホテルの部屋に入った私は
とりあえずソファに腰をかけた



こんな時どうしたらいいのかわからずに
太股の上にギュッと結んだ手を置く



修一は部屋の中を興味深そうに見てまわっている




『…シャワー浴びてきたら?』


修一は緊張してうつむく私に声をかけてきた


『…え? あ… うん…』

とりあえず
この場から逃げだしたかった


緊張と
恥ずかしさ

どうしたらいいのかわからない不安…



でも
そんな姿を修一に見せたくない気持ち…




私は洗面所で服を脱いでシャワーを浴びた



髪って… 洗うもの?

顔って… 洗うの?



それよりも…
シャワーを浴びた後ってどんな格好で部屋に戻ればいいの…?




わからないことだらけに
さっきより不安は増していく…




シャワーを浴びた後
私は結局
そのまま洋服を着て部屋に戻った



修一は
その姿を見ても
特に何も言わずに


『…じゃあ 俺も…』


とシャワーを浴びにいった



そして
私と同じく
修一もそのまま服を来て部屋に戻ってきた

No.13 09/02/22 18:45
りのあ ( ♀ ij0Bh )

お互いシャワーをあびたのに服をきたままなのがおかしくて
私達は少し笑った



修一はソファに座る私の横に座り
そっとキスをしてきた


キスをすることさえ
初めてだった私は
愛する人に
キスをされたことに
幸せを感じて
うっとりしていた



ベッドに場所をうつす


何もかも初めてで
ただ黙って横になっていることしかできなかったが
今まで味わったことのないような
表現しがたい感覚に襲われていた



無我夢中で
何をどうされたのか
とかはよく覚えていない


でもいい知れぬ快楽と
その後の激痛




私は
修一と初めてひとつになり


初めて男の人に身体を許したのだと



その激痛の後には
感動だけで
心が満たされていた



修一もまた
初めて感じる女性の身体に感動していた




その日
私達は何度も何度も
身体を重ねて
その行為にふけっていた

No.14 09/02/22 18:56
りのあ ( ♀ ij0Bh )

お互いに
初めて異性の身体を知ってから


修一は私に

『早く結婚したい』

と言うようになっていた


私は嬉しかった



だから

私は母親に修一を紹介した


真面目そうで
実直そうな青年


『千春さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいてます』



そういう修一に
母は

『とりあえずあまり焦らずに長い時間をかけて…ね』


と修一のその挨拶を軽く流していた



私は
そんな母親に腹がたってしかたなかった



…こんないい人
他のどこを捜したっていないわよ

私は修一と結婚するんだから



母に軽く流されたことが悔しくて
新婚の弟に電話をして修一との結婚のことを相談してみた



相談というよりは
ある意味ノロケのようなものだったのだが…



姉の幸せを喜んでくれるだろうと思っていたのに弟は


『出会い系? やめとけよ。 そんなんロクな男いないって。 っていうか出会ってすぐに“結婚”ってさ… おかしくねーか? よく考えろよ? 』



修一の全てを否定された気がした


修一だけじゃない

修一を否定するという事は
その人を選んだ私の全てを否定された気がした…

No.15 09/02/22 20:07
りのあ ( ♀ ij0Bh )

母親だけでなく
弟にまで修一との結婚を否定されたことが
たまらなく悔しくて


『…っていうか あんた達みたいなデキ婚よりマシでしょ? ちゃんと段階踏んで順序守って結婚しようとしてるのに、早いだのなんだのデキ婚のあんたに言われたくないわよ。』


私は弟に八つ当たりともとれるような怒りをぶつけていた


『 あんたの奥さん… 真耶さんだっけ? なんか遊んでそうな雰囲気よね(笑) 私の彼氏は真面目で誠実なの。 だから安心して。 新婚だからってあまり安心しない方がいいわよ(笑) 』



デキ婚でしかもスピード婚の弟に皮肉たっぷりにそう言い放った




『…… まぁ いいんじゃない? 決めるのは姉ちゃんだから… 』

弟は私の皮肉に気づいたのか
声のトーンを落としてそう言ってきた




…別にそんな事を言うつもりじゃなかった


ケンカばかりしている両親を見限って家出同然で家を出て
もう何年も連絡がとれない3歳上の兄…雅和


私が唯一連絡できるのは弟…雅樹だけなのに…


確かに雅樹の奥さんに関しては
【デキ婚で弟をハメた嫁】
としか思ってなかった


でも…
雅樹にそんな事を言うつもりはなかったのに…

No.16 09/02/22 20:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

母親はもちろん弟にまで修一との結婚を
『もっとじっくり考えた方がいい』
そう言われても
私はどうしても早く結婚したかった


結婚したがっている修一に早くOKの返事をしたかった



私は自宅の近くに1人で住む
父の姉である千恵子おばさんの元へ修一と向かった



千恵子おばさんはずっと独身だったため
私達兄弟をすごくかわいがってくれた人だ



家族旅行にも連れていってもらえなかった私達を旅行に連れて行ってくれたり

店が忙しい時には私達を預かってくれたり

金銭的にも
傾いた店を潰さないように必死だった母に
経済的援助もしていてくれた人だった





…千恵子おばさんが賛成さえしてくれれば
母は何も言えないはず



実際母は千恵子おばさんには頭があがらなかった



修一と一緒に来た私を見て
千恵子おばさんはすごく喜んでくれた



修一と話してみて
なおさら修一の事が気にいったようだった




…これで大丈夫

…お母さんはもう何も言えない



私は心の中で勝利のガッツポーズをしていた

No.17 09/02/22 20:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

千恵子おばさんに逢った次の日
私は千恵子おばさんに電話をいれた



『千恵子おばさん 昨日はありがとう。 …あのさ私の彼氏どうだった? 』


答えはわかっていたが次の言葉を出すために私はわざと千恵子おばさんにそう聞いた


『すごくいい人じゃない。千春を大切にしてくれそうな人でおばさんすっかり気にいっちゃったわ』


私の想像通りの答えに

『そうでしょ? おばさんもそう思うでしょ? なのにお母さんがね… 結婚にあんまりいい顔してないんだよね… 』


とても困って
悩んでいるように
千恵子おばさんにそう言った



『…じゃあ おばさんからお母さんに話しておいてあげるわよ。“芳子さんが反対しても私は千春と修一さんを結婚させるから”ってね』



私は
こみあげてくる嬉しさを
なんとか一生懸命抑えながら


『ありがとう… おばさん… 本当にありがとう… 』


と神妙な声をだしてお礼を言った

No.18 09/02/22 21:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

千恵子おばさんはさっそく母に言ってくれたらしく
母は

『2人で頑張りなさい』

と私と修一の前でそう言ってくれた



父は毎晩飲み歩いていた為にその頃はもう肝臓を壊していて
部屋でほとんど寝ていた

身体の調子がいい時はまたツケで飲み歩いていた


そんな父が
すごく嫌いで
許せなくて
気持ち悪い
とまで思っていたため
私は修一との事は一切話さなかったし
話すつもりもなかった


修一は
私と結婚できる事をとても喜んで
母が結婚を認めてくれた翌週
修一の実家に私を連れて行ってくれた



車で6時間ほどかかる修一の実家へ行く



明るめのスーツに
ベージュのパンプス


美容室には昨日行ったばかり


母の持たせてくれたお土産と
私が好きなケーキ屋さんで買ったケーキを持った




『…大丈夫かな? すごく緊張するんだけど… 修一のご両親に私…気にいっていただけるかしら… 』


不安そうな私に


『大丈夫だよ。 両親も姉も妹も千春に逢えるのを楽しみにしているんだから。』



修一は優しく優しく
私の緊張や不安を
ほぐしてくれるように
そう言ってくれた

No.19 09/02/22 22:01
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一の実家についた


2~3年前に改築しなおしたという自宅は
私の実家とはほど遠いキレイで立派な家だった


『千春…行くよ』


修一は車から私の荷物を出して
家の外観に見とれている私にそう声をかけた



『ただいまー』


ひさしぶりの実家
嬉しそうに
そう言う修一の声よりも
さらに嬉しそうな

『修ちゃん おかえりなさい』

修一のお母さんが迎えに出てきた



『…あの はじめまして 村上千春です 』


頭を下げる私に


『遠い所をわざわざ来てくださってありがとう。 さっ 千春さんも修ちゃんも中に入って。 みんな待ってたのよ』


修一のお母さんは私の荷物を修一から受け取り、リビングへと入っていった




修ちゃん…
って呼ばれてるんだ…



私は一度として
両親や祖父母や叔母達に
ちゃん付けで呼ばれたことなんてなかった


ちぃちゃん


そう呼んでほしくてたまらなかった
幼かった時の記憶が甦る…


『ちぃちゃんね…』


そういう私に


『千春って言いなさい!』


みんなに怒られたっけ…



私は
20代半ばでも

修ちゃん

と呼ばれている
修一が羨ましかった

No.20 09/02/22 22:12
りのあ ( ♀ ij0Bh )

家の中も
とても綺麗だった


私の実家のような
物にあふれて
とてもじゃないけど人を招いたりできないような家とは
正反対だった


リビングには家族で撮った写真がいくつも飾ってある


20畳ほどはあると思われる広いリビングには修一のお父さんと妹さんがソファに座って私を待っていた



『優里子は後で啓一さんと来るって』



結婚して近所に住むお姉さん夫婦は後で顔を出すと
お母さんが教えてくれた



『千春さん どうぞ。 修ちゃんも』


お母さんはウエッジウッドの素敵なティカップにいい香りのする紅茶をいれてくれた



『お父さん この人が僕が結婚したいと思っている村上千春さんです』


修一が切り出した



厳格そうな雰囲気を持つお父さんは
私の方を見て



『千春さんの事を少しいろいろと聞かせてください』


と言ってきた


私は紅茶のカップを持つ手をあわてて膝に戻して
背筋を伸ばして


『はいっ』


と返事をした

No.21 09/02/22 22:22
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一のお父さんは
私に

家族構成
両親の職業
私の最終学歴
趣味
などを聞いてきた


私は
聞かれたことだけを答えた


家業の経営が傾いているとか
父親がアルコールによって肝臓を患っているとか
兄と両親が絶縁状態だとか
そういう事は黙っていた



修一のお父さんは高校の教師をしていただけあって
その口調はなんだか先生に怒られている生徒のような感覚だった



それでも

『千春さん 修ちゃんをよろしくお願いしますね』


お母さんは
私に頭を深々と下げてきてくれた



『修ちゃんは小さい時からとっても優しい子でね… 千春さんも知っていると思うけど穏やかな子なのよ。 千春さんも穏やかそうだし、きっといい夫婦になれると思うわ。』


お母さんは嬉しそうだった。


『優里子のところは赤ちゃんがなかなか授からないから… 修ちゃんの方が先かしらね。』


お母さんは
早く孫が欲しくてたまらないのよ
と笑っていた



夕食の頃
近くに住むお姉さん夫婦がやってきて

みんなでお母さんの作ってくれた御馳走をいただくことにした

No.22 09/02/22 22:39
りのあ ( ♀ ij0Bh )

全て手作りの料理は見事だった


手まり寿司 お刺身 茶碗蒸し 卯の花 ステーキ 寄せ鍋…




『これ全部修ちゃんが好きなものなのよ。 たまにしか帰ってこないから奮発したわ(笑)』


お母さんは
喜んで食べている修一を見て
すごく嬉しそうだった


何度も
何度も

『修ちゃん 美味しい? 』

と尋ねていた



修一も


『うん。 すごく美味しいよ。 』


と嬉しそうだった


何度も聞くお母さんに

『お母さんがしつこいとお兄ちゃんが食べられないよー(笑)』


と妹の真優さんが笑って
お母さんを叱っていた



…仲のいい家族って
こうなんだ

家族団欒ってこういうことなんだ…



朝早くから夜遅くまで店にいた母親とは
幼い時から一緒に夕食を食べた記憶がない

父親は夜は飲みに出かけていたから当然夕食は家では食べない


幼い時から兄弟だけでの食事だったから
家族団欒がどんなものか
私にはわからなかった


だから
今あるこの光景は
私が幼い時から憧れていた
家族団欒なんだろう…



そう思っていた

No.23 09/02/22 22:50
りのあ ( ♀ ij0Bh )

近くのビジネスホテルに宿泊の予定を入れていた私は
夕食をいただいて
1時間半くらいしてから


『夜も遅くなってしまったので私…ホテルに帰ります。 今日は本当にごちそう様でした。 これからもよろしくお願いいたします』

と手をついて修一の両親に頭を下げた



『こちらこそこれからもよろしくお願いしますね。』

修一のお父さんもお母さんもそう言ってくれた



『送っていくよ。』


修一が席をたつ


『修ちゃん 夜遅いし危ないから私も行くわ。』


…お母さんがいそいそと上着を着てカバンを持った



本当は車の中で
修一と2人きりになりたかった

緊張しすぎて疲れてしまったから
車の中では
修一に甘えたかった




『車で片道10分くらいの距離なんだから
子供じゃないんだから大丈夫だよ』



そう言ってくれるとばかり思っていたのに



『じゃあ お願いしようかな』


修一は
その言葉を待ってましたとばかりに
嬉しそうに
そう答えた




私は…


『すみません。 お願いいたします』


とお母さんに頭を下げた…

No.24 09/02/22 23:02
りのあ ( ♀ ij0Bh )

運転席には修一
助手席にはお母さん
後部座席には私



『千春さん 疲れたでしょう? 広い席でゆっくりした方がいいわ』

優しさなのか
嫌がらせなのか
お母さんは私に後部座席を勧めてきた



『あ…はい 』


私は言われるがままに後部座席に乗る


車で10分の道中も

『従姉妹のミキちゃんが』
『近所の立川さんが』
私の知らない話しばかりを修一にしていた


修一もまた

『へぇ! そうなんだー。 すごいね!』

などと
本気でお母さんの話し相手をしていた



私は黙って
初めて見るこの土地の町並みを眺めていた…


『ついたよ』


ホテルについて
修一が車のトランクから荷物を出してくれた


…ガチャッ


お母さんも助手席から出てきた


『それじゃ千春さん ゆっくり休んでね。 修一のことよろしくお願いしますね。 千春さんのご両親にもよろしくお伝えくださいね』




『ありがとうございました』


深々と頭を下げる私に
修一は

『おやすみ』


と言って
私にホテルに入るようにうながした


部屋まで来てくれないんだ…



なんだか無性に悲しかった


それでも私は
2人の乗る車が角を曲がるまで見送った

No.25 09/02/22 23:40
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ホテルの部屋に戻った私は
あまりの緊張と気疲れで
グッタリしていた


それでもなんとかシャワーを浴びて

髪もロクに乾かさないまま
ベッドに横になった




…普通の家庭って
あんな風な母と息子の関係が普通なの?



わからなかった



私の母は
仕事にしか目がいってない人だったから
私達兄弟には全く関心がなかったようだ

家庭を守るとか
そんな事はさらさら考えてないと思う


家庭を守るっていうのは
修一のお母さんのような事を言うのかな…?


修一はよく

『結婚したら千春には家庭を守ってほしいんだ』

と言っていた


私は
修一のお母さんみたいになればいいの…?




…よくわからなかった


よく分からないことを考えているうちに
疲れはてていた私はいつの間にか眠ってしまっていた




次の朝


朝食を済ませたころに修一から電話が入った


『こっちに来たついでにいろいろな名所に案内するよ』



ちょっとしたデート気分に
私はすごく嬉しくて
いつもより念入りに
化粧をして
さっさと荷作りを済ませチェックアウトして

ワクワクしながら修一が来るのをロビーで待った

No.26 09/02/22 23:57
りのあ ( ♀ ij0Bh )

10分後
ロビーに現われたのは修一と
…お母さん



『スポンサー役としてついてきちゃったわ(笑)』


嬉しそうに笑うお母さんを見て
修一もまた


『俺の大蔵大臣だから(笑)』


と笑っていた



お母さんは
明るくて
いつもニコニコしていて
高森家の中では太陽みたいな存在の人なのは
昨日数時間高森家にいただけでわかった



私は
お母さんみたいにならなくちゃ…


そう思って


少しでも
お母さんに近付きたくて

真似できるところは
真似しなくちゃ


そう思ったから


『私もお母様とご一緒できるなんて嬉しいです』


と笑顔で応えた



本当は2人きりが良かったけれど


修一に愛され続けるには
お母さんみたいな
そんな女性にならなくちゃいけないから…



また明日からは
私だけの修一だから…


そう思って
気持ちを切り換えた

No.27 09/02/23 10:16
翔 ( kqyUh )

続き楽しみにしてます。

No.28 09/02/23 11:37
りのあ ( ♀ ij0Bh )

>> 27 翔さん✨

読んでくださりありがとうございます


最後まで頑張って更新していきますので、お付き合いいただけたら嬉しいです☺

No.29 09/02/23 11:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私は
昨日と同じく後部座席に座った



…そうするのが普通なんだろう


そう思ったから…


実際修一もお母さんも私が後部座席に座ったことに
なんの反応も示さなかった


それが当然かのように
お母さんは助手席に座る



私は運転席の後ろに座り
いつお母さんに何かを聞かれても答えられるようにしていた



でも…
結局は私に話しかけてくることはほとんどなく
話しかけてきても
答えるのは
私ではなくて
修一だった…



有名なお寺
有名な湖
そしてお城…



私達は観光名所を見てまわった



お昼ご飯をごちそうになり
最後にまた高森家へと向かった



『修ちゃん これ持っていきなさい』


お母さんは
今日仕事に戻ってしまう息子のために

お米やら日持ちのしそうなおかず、缶詰、日用品がどっさり入った大きなダンボールを用意していた



『いつもありがとう。助かるよ』


修一は本当に嬉しそうだった



息子が仕事にまた戻ってしまうという事で
両親はもちろん
妹も嫁いだ姉も見送りにきた



『千春さんもまた一緒に来てね』



『お世話になりました。 これからもよろしくお願いいたします』

頭を下げて修一の車に乗った

No.30 09/02/23 12:09
りのあ ( ♀ ij0Bh )

帰りの車の中
修一はずっと機嫌が良かった



『うちの家族どうだった?』


修一が運転しながら聞いてきた



『…素敵なご両親ね。 お姉さんも妹さんもとても優しくて… 特にお母さんは… 料理も上手で明るくて…主婦の鏡のような方ね…』


お母さんを褒めると修一の機嫌はますます良くなっていった



『料理は得意なんだよ。 うちの家族がみんな大きな病気ひとつしないで健康なのは…母親のおかげだよ』


修一は得意そうだった


うちの家族どうだった? なんて…

褒めるしかないじゃない…?

何が普通の親子関係なのかわからないまま育った私に
そんな事を聞かないでよ…



『両親も千春の事を気にいっていたよ。 さすが修一の選んだ人だってさ。 』



修一の両親に気にいられたことは
ひとまず安心した…


でも…
なんか心の底から喜べない自分がいた



『後は結納の日取りとか結婚式の日取りとか決めなきゃだね。』




…それでも

この人は

真面目で
誠実


…お父さんとはまったく違う
その人と結婚できる




少し疑問に思うことはあっても

父とは違う

それだけで
私は幸せだった…

No.31 09/02/23 12:29
りのあ ( ♀ ij0Bh )

それから私達は休日になるたびに
結婚式場を見てまわった


私は結婚式場の雰囲気や設備、ドレスの種類などばかり重視していたが

修一は値段とサービスだけを重視していた




私は半年前に建ったばかりの
チャペルやガーデンウェディングもできる素敵な造りの人気のある結婚式場に決めたかった



でも
修一が選んだのは
昔からある
1泊3500円程度で泊まれるホテルの結婚式場だった



招待客も親戚をあわせても40人切る程度


結婚式はもちろん結納からドレスから写真まで全て込みでも100万程度で収まるという…



私が押している結婚式場はどんなに抑えても結婚式だけで200万はかかる…



パン屋でアルバイトをしている私に
まとまった貯金なんてあるわけもなく


実家の店は借金だらけでとてもじゃないけど結婚式の費用なんて出してもらえない…




私は
修一の選んできた
一番安い結婚式場で納得せざるを得なかった…

No.32 09/02/23 12:46
りのあ ( ♀ ij0Bh )

結納の日は2ヶ月後にきまり
その3ヶ月後には結婚式をする事が決まった


修一は会社の独身寮から結婚を機に社宅へ移れるように会社に申請をしていてくれていた


なかなか気にいるドレスがなかったり

ホテルの料理がなんとなく地味で気にいらなかったり

小さな不満みたいなのはそれなりにあったが
それでも
わりと順調に進んでいた


友達が少ないというよりは
結婚式に呼ぶほど親しい友達がいない私には
親戚とパン屋の社長夫妻だけ招待状を送れば良かった


修一もあまり友達がいなかったので
2人の友人と親戚、会社関係に招待状を送るだけでいい



嫁入り道具のタンスや鏡台は
実家の店から売れ残りのものを選んだ



腐っても
というより
倒産寸前でも
一応昔は老舗といわれる家具屋だったので
売れ残りの中には一流メーカーのタンスや鏡台が置いてあった



…あとは結納の日を待つだけだ



ふと私は
父親に何も話していない事に気づいた

No.33 09/02/23 20:52
のすけ ( 30代 ♀ QLqFh )

前作も読んでいました。今作も最後まで楽しみにしています✨

No.34 09/02/23 22:15
りのあ ( ♀ ij0Bh )

>> 33 のすけさん✨

膝をかかえて
に続いて今回の小説も読んでいただけて
とても嬉しいです✨


頑張って更新していきますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです☺

No.35 09/02/23 22:31
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私は多分寝ているであろう
父親の部屋の前に立った



父親の部屋に入るのは嫌いだ…


なんとも言えない嫌な臭いがするから



幼い頃から苦手だったその部屋を
私はしかたなくノックした



トン
トン



『…あー? 』


家族の誰にももう相手にされなくなった父親は
部屋のノックの音に
怪訝そうな声で返事をする




『…私 千春 』


私は部屋の扉をあけた


ムッとむせかえるような嫌な臭いと気持ち悪くなるような空気…


相変わらずゴミだらけの部屋…


タバコとゴミとお酒の臭いが混じっているような
ストーブの熱気がさらにその臭いを増している…



『私 結婚するから… 』


とてもじゃないけど部屋には入れなかった


部屋の入口でそうとだけ伝えると


『ふーん… 結納とか式とかはするのか…?』


と私に背を向けて横になったまま
父は聞いてきた



『…するよ。 再来月が結納… お父さん来る…よね? 』



本当はこんな父親を
修一のご両親に見せるのは
すごくすごく
嫌だったし
恥ずかしかった



…でも
逢わせないわけにはいかない

No.36 09/02/23 22:49
りのあ ( ♀ ij0Bh )

いっその事
結納までの間に
急激に肝臓でも悪くなって入院でもしてくれたら…


修一のご両親に逢わせないわけにはいかないが
修一のご両親にだけは逢わせたくない…


こんな父親のもとで育った私を軽蔑するんじゃないかと
結婚に反対してくるんじゃないかと
不安でたまらなかった


『…いつ? 』


気怠そうな口調で聞いてくる父に私は結納の日を伝えた



『母ちゃんは知ってんのかよ? …あいつなんにも俺には教えてこねーからな… 結納か…面倒くせーな… まぁ覚えておくよ… 』


結局父は私の顔を見ることもせず
母の文句をブツクサ言いながら
面倒くさそうに
結納に出席する
とだけ言ってきた



『…その日は絶対に飲まないでよ! 絶対だからね!』


私はそんな父の態度が許せなかった



娘の結納が面倒くさい

そんな父親がこの世の中のどこにいるのよ…



父が結納に出席することは
私にはすごく憂鬱で
嬉しいはずの結納なのに
父のことを考えると毎日頭が痛かった

No.37 09/02/23 23:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

そして結納の前夜


…父は飲みに行ってしまった


『ちょっと! どこに行くの? 明日結納だってわかってるよね!』

怒る私に


『うるせーなぁ… 明日飲まなきゃいいんだろ? そんなことくらいでガタガタ文句言うような親なんてこっちから願い下げだよ。』

…父はそのまま朝方まで帰ってこなかった



結納は11時から


結納が終わった後には食事会もする



9時半頃にムックリと起きてきた父は
お酒の匂いがプンプンしていた…


顔もまだアルコールが抜けきっていない顔だ…

むしろ
まだ酔っ払っているような顔だった



母は父の顔すら見ようとせずに支度を始めた

私の着物の着付けが終わった頃
父も着替えて部屋から出てきた




原色の黄緑色のスーツ…



唖然とした



…こんな格好で結納?

バカじゃない?

いい加減にしてよ…



『なんでそんな変な色のスーツなのよ! 着替えてよ! グレーとか落ち着いた色のスーツがあるでしょ! 』

私が怒鳴ると



『部屋見たらこれしかねーんだもん。 しかたねーだろ(笑)』


父は開きなおってヘラヘラと笑っていた

No.38 09/02/24 01:17
ゆう ( 20代 ♀ KSF6h )

読み入ってしまいました。
続きが待ちどおしいです😊
更新頑張ってください!

No.39 09/02/24 07:52
りのあ ( ♀ ij0Bh )

>> 38 ゆうさん✨
読んでくださりありがとうございます☺

最後まで頑張って更新していきますので、お付き合いいただけたら嬉しいです✨✨

No.40 09/02/24 09:45
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私は

『ちょっと! お母さん! お父さんのスーツ用意してなかったの? 結納にこんな格好でくる父親なんていないわよ! 』



私は母親に対して怒りをぶつけた



…父に何を言ったって通じない

言うだけ無駄

怒るだけ無駄



でもこの怒りはおさまらなかった


こんな服装を修一のご両親が見たら……


溜め息しかでなかった


『しかたないじゃない。 この人が“これで行く”って言ってるんだから。 お母さんだってこの人の用意なんてイチイチしてないわよ。』


母は父の部屋に入ってスーツを探すこともせずに
父の顔をチラリと横目で見ながら冷たく答えた



『もういい! 私が探す!』


普段は絶対に一歩も足を踏み入れたくないあの臭い部屋にズカズカ入って
衣裳ダンスを開いた



“あった…!”


取り出してみたグレーのスーツは今の季節にはとても合うものではなく
しかもクリーニングに出していないために
ところどころに白いシミができていた…



他は一体どんなセンスをしていたらこんなスーツを買えるのかと思うほどの

ピンク 紫 黄色

見ただけで溜め息のでそうなスーツしかなかった…



黄緑が一番マトモだった…

No.41 09/02/24 10:01
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『千春 時間だぞ。 遅れるとマズイんじゃねーのか? 』


父はやっぱりヘラヘラしながら
私に声をかけてきた



私は父をおもいっきり睨みつけて
無言で外に出た



『おっかねぇなぁ(笑)』

父はそんな私を見て
おどけていた



結納をするホテルに向かうまで
車の中では私達はずっと無言だった



こんなスーツを着てくる父に腹がたってしかたなかった

アルコールの匂いをプンプンさせている父にはもっと腹がたつ

夫婦仲は険悪な状態とはいえ
父が自分でスーツを用意する人でないことは母はわかっているハズなのに
何も用意しなかった母にも腹がたった



…修一のお母さんはきっとニコニコしながらお父さんのスーツを用意したんだろう


この結納の日のために早い時期から支度をしたに違いない…


夫婦で結納の話しに花が咲いたに違いない



そんな修一のご両親の姿が目に浮かぶ…



…なのに私は


…こんな両親を持つ自分が惨めだった



嬉しいはずの結納も
今の私には気が重いだけだった




……結局ずっと沈黙のまま車で30分ほどの
そのホテルに着いた

No.42 09/02/24 11:59
幸せになりたい ( 30代 ♀ ALBRh )

>> 41 こんにちは✨膝をかかえて…とても楽しく読ませて頂いきました😊楽しみにしてます⤴頑張って下さい✨

No.43 09/02/24 12:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

>> 42 幸せになりたいさん✨
おひさしぶりです☺

また読んでいただけて本当に嬉しいです⤴⤴

また【膝をかかえて】の感想スレにも遊びにいらしてください☺

No.44 09/02/24 12:38
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一のご両親、妹さん、修一はすでに結納をあげる部屋に到着している



『遅くなりまして申し訳ございません』


母が最初に入室した



私は父を見た時の
修一のご両親の表情が怖くて
とてもじゃないけど顔をあげられなかった


『いえい………え』


顔をあげることができなくても
修一のご両親のその言葉から
父を見て一瞬みんながとまったのはわかった


…情けなかった

…恥ずかしかった

…できることなら逃げ出したい


こんな父を見てご両親はどう思われただろうか…



それでも修一のご両親は私の両親に丁寧に挨拶をしてくれた



そして結納が始まった


母が全ての受け答えをしてくれたおかげで
父は一言も話す出番もなく
ただ頭を下げるだけですんだので
とりあえずは何事もなく無事に結納をとり行うことができた




そして
その後の食事会…




修一のお父さんが父にお酒を勧めてきた



私は今日まで父と顔をあわせる度にさんざん

『絶対に飲まないでよ!』

と言ってきた



父も面倒くさそうに

『わかってるよ。飲まねぇよ。何度も同じことを言わなくてもわかってるよ。』



そう言っていたハズなのに…

No.45 09/02/24 12:51
りのあ ( ♀ ij0Bh )

父は勧められるがままに
一度も断ったりすることもなく

…どんどん飲み始めた


『お父さん ちょっと飲みすぎよ…? 』


修一のご両親の手前あまりキツく怒れない私に

『“飲みすぎよ?”なんて今日は優しいんだなぁ? いつもは家族みんなで知らんぷりなのによぉ? 』


…父が絡んできた


ヤバいと思って

『わかった。 わかったから』

そうなだめる私の言葉も無視して


『いや~ うちは家族バラバラなんですわ。 長男は数年前に家を出ていったきり音信不通ですしね。 次男はまぁ結婚して子供も最近産まれたんですがね。 千春は俺と口もきいてくれないし。 母ちゃんは飯も作らないしね。 一家の主に対してさんざんな扱いですわ(笑) 』



1人で盛り上がって大笑いしている父に
修一のご両親は失笑していた…


妹さんは
冷ややかな視線で父を見ていた…



『申し訳ありません…』

ただただ頭を下げるしかなかった



『こんな外国の映画に出てくるような“真面目な日本人” あ、眼鏡かけてカメラぶらさげて… って感じの人と千春が結婚するとはね(笑) 』


父はもう止まらなかった

No.46 09/02/24 13:05
りのあ ( ♀ ij0Bh )

挙げ句の果てには
修一の妹さんにまで

『ちょっと姉ちゃん。 酒ついでくれよ。 かわいいなぁ。 オッパイもでけぇな 』


とちょっかいを出し始めた…



最初は失笑していたご両親も
最後の方は明らかに軽蔑のまなざしを父に向けていた



私と母は父を止めることだけに必死で
ほとんど料理に手をつけないままだった



2時間ほどを予定していた食事会は
修一のお父さんの

『それではそろそろ…』

という言葉で
45分も早く切り上げられた…



私と母はただひたすら頭を下げて謝った



『それでは結婚式の日に…』


修一と修一の家族はさっさとエレベーターに乗りこみ帰っていった…


修一達が乗ったエレベーターが閉まった瞬間
後ろのソファにだらしなく座る父を睨みつけた



『約束したじゃない! 飲まないって約束したじゃない! 』


涙がボタボタ落ちてきた


許せない
許せない
許せない
許せない…!



あまりの怒りに
言葉すら出てこなかった


ただ

フー

フー

と全身が震えていた



母は無言だった…


父は

『おっかねぇから俺は階段で下に降りようかな~ 』


と立ち上がり階段へ向かった

No.47 09/02/24 13:16
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私は

情けなくて

惨めで

恥ずかしくて

もしかしたら婚約を破棄されるかも…

そんな不安と辛さ悲しみでいっぱいだった


精神的な疲労のピークを感じ
父がさっきまで座っていたソファにもたれかかった


母も隣りに座ってきた

『千春… 』


母が何かを言いかけた瞬間
階段の方から大きな鈍い音が聞こえてきた


『…なに!? 』


私と母があわてて階段へと向かうと
酔っ払って階段から落ちたのであろう父が
頭から血を流して倒れていた…



『係りの人呼んでくる! 』


私はあわてて階段を降りてひとつ下のフロアにいる従業員を捜した



…やっと見つけた従業員を連れて父の元へ急ぐ


『…いてぇよ いてぇよ… 』



アルコールが入っていたせいか出血がひどい



従業員の人があわてて救急車を呼びに行った



私はとっさに修一に電話をかけていた

No.48 09/02/24 13:25
りのあ ( ♀ ij0Bh )

修一は電話に出ない…
私はたて続けに何度も電話を鳴らした



…4回目


『…はい 』


やっと修一が出た



『あのね! お父さんが階段から落ちたみたいで大変なの! いっぱい頭から血を流してて… ホテルの人が今救急車を呼んでくれて… 』


激しく動揺しながら一方的に話す私に


修一はすごく冷静で
冷静というよりは
まったく興味がなさそうに

『…うん』
『…うん』

と返事をしていた



そして

『…また後でかけなおすから』


と修一は一方的に電話を切った




…どうしよう



この気持ちが

頭から血を流す父へのものなのか

それとも怒っているであろう修一へのものなのか

それはわからなかったが
とにかく


…どうしよう


それだけだった

No.49 09/02/24 13:43
りのあ ( ♀ ij0Bh )

救急車が到着して
父は病院へ運ばれた



泥酔状態だったため
麻酔なしで頭の傷を縫う


『出血の多さよりは傷の大きさも深さもたいした事はなかったですよ』

と父を担当してくれた医師は言っていた



ただ頭を打っている可能性が高い事と
そしてそれよりも全身の黄疸と足の浮腫が気になるので
検査入院をした方がいいという医師の勧めで父はそのまま入院することになった


母と私は父の入院の支度のために自宅へ戻ることにした



車の中で


『千春… ごめんね 』
と母が謝ってきた



『…別にいいよ 』



結納での父の失態

軽蔑のまなざしで父を見る修一の家族

階段から落ちた父


なんだかもう
頭の中がグチャグチャで
何から考えたらいいのかわからなかった



謝る母が
一体何にたいして謝っているのかすら
今はもう考えたくなかった



今日一日にあったことの全てをなかった事にしたい



紫がかった空、そして美しい夕日を車の窓から眺めながら
ただただ私はそれだけを願っていた…




そして自宅にもう少しで着きそうな頃
修一からの電話が鳴った…

No.50 09/02/24 14:21
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『…もしもし 修一だけど。 』

修一の声はやけに落ち着いていた


『…うん さっきは動揺しちゃっていてごめんなさい… 結局傷はたいした事なかったんだけど、お父さんそのまま入院になったの。』


病院に運ばれるまでの事や
病院に運ばれてからの事を
詳しく話す私には
なんの返事もせずに


『…母は泣いていたよ 』


と修一が言ってきた


『“…あんな父親に育てられた千春さんで大丈夫なのか”って父も少し怒っていたよ』

『妹も… もう千春のお父さんには逢いたくないって言っていた』


修一は淡々と私に修一の家族の状況を知らせてきた



『…ごめんなさい』


そう謝ることしかできない私に


『俺に謝られてもね… 俺も困るんだけど… 言ってるのはうちの家族だからね…』


と私の謝罪をやんわりと拒否していた



『…じゃあ どうしたらいい…の? 婚約破棄…とかってこと…? 』


『“どうしたらいいの?”って千春はどうしたいのかじゃない? 客観的に見て今日の千春の父親のした事をどう思う? 』


修一は声を荒げるわけでもなく
いつものようにボソボソと
冷静な口調で私に質問してくる…

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