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膝をかかえて

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りのあ( ♀ ij0Bh )
09/10/21 01:54(更新日時)

私は廃車寸前…クズで…ゴミで…そんな私は黙って殴られてればよくて…だけど私だって人間なんだよ…

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No.1158361 09/01/21 13:29(スレ作成日時)

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No.51 09/01/23 21:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私と板倉さん、看護師の先輩の美幸さんが一緒になった


美幸さんが最初に降り私と板倉さん2人になった…


『杉本さんって まや さんって名前なんだってね。 漢字はどう書くの?』
『あ… 真実の真 に耳っていう字にふにゃふにゃ~って書く…っていうか どう説明したらいいのかな…』
悩む私を見て板倉さんは笑ってた


真耶…
信也に初めて逢った日…
名前を聞かれて答えたら
『へぇ! 真耶っていうんだ! うちの母ちゃん“小さい夜”って書いて さや っていうんだぜ! 全然小さくねーけど(笑) なんか運命みたいだな。 さや に まや なんてさ(笑)』

あの時…
こんな風になるなんて想像もしなかったよ
いつも
『真耶は幸せになれ』って言ってくれてたのに…
なんで…?
なんで…?
どこから間違えたの?
なんで…?


涙がこぼれそうになるのをグッと我慢する


『杉本さん…? なんか辛そうだけど… 大丈夫?』
板倉さんが気をつかってくれる


いつものケンカならもしかしたらこの状況なら板倉さんに全部話してすがっていたかもしれない


…でも
…でも
…今はできないよ
…私は母親だから

No.52 09/01/23 21:50
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『え? そんな風に見えちゃいますか? 実は…胃がちょっと痛くて。 受験のストレスかもですね。 意外と繊細なんです、私(笑)』


これが精一杯だった


お願いだからもう優しくしたりしないで…

苦しいから…
涙こらえるのってこんなに辛かった…?


『…ならいいけど。胃が痛いの早くよくなるといいね。受験もきっと合格するよ!…うん大丈夫だと思うよ!』

タクシーが家に着いた

『ありがとうございました …いろいろ …なんか心配かけてしまって…すみませんでした。』
『杉本さん…もし… なんか辛いことあったらこの前渡した携帯に電話して?』



『…おやすみなさい』
精一杯明るく返事してタクシーを見送った



…疲れた
…もうなにもかも疲れた
…苦しいよ 信也


ストーブの前で膝をかかえて泣いた
声をあげてワンワン泣いた


明日からは強くなるから…
明日からは元気になるから…
ごめんね 赤ちゃん
弱いママでごめんね
あなたを一生守るから…
今日だけは泣かせてね…

No.53 09/01/23 22:04
りのあ ( ♀ ij0Bh )

週末…

信也からは連絡はこなかった

私は受験勉強するために県立図書館に向かい1人で勉強していた


午後3時
バイブにしていたポケベルが震えた

【デンワシテ シンヤ】


…見るなり溜め息がでた
…なんなんだよ


それでも電話しなければ自宅の前で待ち伏せされて、また浮気だのなんだのと騒がれるのは目に見えていた。


『もしもし… 私…』
『お前今どこ? 図書館? 1人? 真耶の家に電話したら“図書館に行った”って言われたからさ』
『1人だよ…。 資格試験の勉強してた。 …なに?』
『ちょっと話したいから図書館にこれから迎えに行くから出てこいよ』
一方的に電話を切られた


なによ… 話しって…
私には信也に話しなんてない


信也が迎えにきた


車の中では無言だった

信也の家についた
『明日さ病院行くんだろ? 俺も一緒に行くから。 4時に病院で待ち合わせな。』


なにを言ってるの?
どういうつもり?
絶対中絶します とでも宣言するの?


『…だって また明日から出張でしょ?』
『社長に頼んで明日は休ませてもらった。出張は明後日から』


『…一緒にいってどうするの?』

No.54 09/01/23 22:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『別にどうもしないよ。 ただ一緒に行くだけ。』


何を考えているのかまったく読めなかった


『ついてこなくていいよ! 今更父親面しないでよ!』
心で叫んではいても、信也には言えなかった…


もう心を穏やかに暮らしたかった
言い争いするのももうたくさんだった
こんな精神状態ではお腹の赤ちゃんも辛いに決まってる


せめて穏やかな父親の声を聞かせてあげたかった


来なくてもいい、と拒否する事はできる。
でもきっと
『俺についてこられると困る理由でもあるのか?』
と言うだろう。
3年近く付き合ってれば大体わかる。


『…じゃあ明日の4時ね』

身仕度を始めた私に

『送ってく。 外寒いし。 お腹の子にもよくないだろ。』
妊娠してから初めて見せた気遣いだった。


『…ありがとう』
家まで送ってもらいその日はそのまま別れた

No.55 09/01/23 22:33
りのあ ( ♀ ij0Bh )

次の日

信也の真意はわからないし不安はあるけれど、お腹の赤ちゃんに2週間ぶりに逢えるのは楽しみだった


病院につくと信也はすでに来ていた


2人で無言のまま待合室で呼ばれるのを待った


『杉本さん ①番診察室にどうぞ』

『行ってくるね…』
『…おぅ』

さすがに診察室の中までは入ってこない事に少し安心して診察室に入った

『じゃあちょっと内診室でお腹の赤ちゃん見てみようか』

内診室でまたエコーが入りモニターに映し出された


しばらくの沈黙が続く

『…胎嚢がね大きくなってないですね。』

『心臓もまだ確認できないし… いえ、まだね確認できなくても大丈夫な週数ではあるのよ。 でもね… 胎嚢が先回から大きくなってないの』

No.56 09/01/24 00:27
りのあ ( ♀ ij0Bh )

何を言いたいの?
胎嚢が大きくなってない、って頸留流産の可能性がある…ってことよね?


『診察室であらためてお話ししますね』


呆然としながら診察室に戻った


『先ほどもお話ししたけれど胎嚢が前回の診察からほとんど大きくなってないんです。 …もしかしたら流産の可能性もあります。 とりあえず来週の月曜日にまた来てもらえますか?』
『…はい 』


流産?
赤ちゃん育ってない?
どういう事?


不安と心配で涙があふれてくる

信也の待つ待合室に戻ると信也もさすがに私の様子がおかしいのに気がついて

『…どうだった? 真耶? 赤ちゃんどうだった? なんかあったのか?』

お願い…
今は聞かないで…
私の口から言わせないで…


何も言わない私に信也はしつこくしつこく聞いてくる。


『車に戻ったら話すから…』

信也はそれでなんとなく状況を察知したようだった。

No.57 09/01/24 00:39
りのあ ( ♀ ij0Bh )

車に乗った私は内診で言われたことを全て信也に話した。


赤ちゃんが大きくなっていないこと
流産の可能性が高いこと


ひとつひとつ話す度に涙があふれてくる


『そっか… わかったよ。』
信也はそれ以外の言葉を発することはなかった。


ただ心配だったのか
『明日から出張に行くけど毎日電話するから。 もし何かあれば俺の母ちゃんに電話しろよ』
とだけ言って また次の日から出張に出た


そしてその週の水曜日

生理よりも少し軽い感じの出血が始まった

実習はもう12月で終わっていたので、いつものように私は勤務先で仕事をしていた


…どうしよう
…出血してる

足がガタガタ震えた

病院に行かなきゃ…

でも誰も私が妊娠していることはしらない

妊娠している事を知ったらいろいろ聞かれたり詮索されるだろう


でも迷ってる時間はなかった

患者さんが少しひけてきた頃を見計らい立花婦長に妊娠の事を話した。

流産の可能性が高くて、そして今出血が始まったことも。

No.58 09/01/24 00:51
りのあ ( ♀ ij0Bh )

事情を知った立花婦長は

『仕事の事はいいからすぐ病院に行きなさい! 他のスタッフには私からうまく話しておくから。 院長には後であなたの口から伝えなさい。 とりあえず院長には具合が悪くて早退したことにしておくから。』
『ありがとうございます… すみませんでした。 今まで黙ってて…。』

身仕度を素早く済ませて病院へ向かう


出血している事を伝え診察室に入る

内診室に通されてまた内診

『確かに胎嚢は大きくなっていませんね。ただまだ胎嚢は子宮の中にきちんとあるので、今のところその出血が流産のものであるかどうかは確定できません。』

まだ流産確定ではないと言われて少しだけ安心した


『ただ… もしも出血や痛みがひどくなるようであればすぐにこちらに来てください』


がんばって…
赤ちゃん…
お願いだから頑張って…
神様…
お願いだから赤ちゃんを助けてあげてください…
他には何も望みません
だから赤ちゃんを助けてあげてください



もうこの状況では祈るしかなかった

No.59 09/01/24 07:50
りのあ ( ♀ ij0Bh )

病院での診察の後、夜の学校には行かずそのまま自宅へ帰った


どうしよう…
どうしよう…
どうしよう…


不安でいっぱいだった

部屋で横になっていると買い物から帰ってきた母が私が帰っている事に気づき 声をかけてきた

『真耶? どうしたの? 学校は? 具合悪いの?』


両親にはまだ妊娠の事は伝えてなかった
1人で産むという事をなかなか伝えられずいたからだ


でも…
この状況だと言わないわけにはいかないだろう。
今の状況で何かあった時に頼れるのはやっぱり母親しかいない



『…話しがあるんだけど』
『真耶? なに? どうしたの?』
『実は妊娠したの… で… 妊娠したんだけど、流産したかもしれなくて… 今も出血してて…もうどうしたらいいかわからなくて…』

涙がとまらない
今までのいろんな辛いことが全部全部涙になって出てくるようだった


『…真耶 わかったよ。 うん。わかった。』
母はずっと背中をさすってくれてた

あたたかかった

父親が誰か
受験の大切な時期に妊娠して!

とかそういう事も一切言わずにただ背中をさすってくれてた

No.60 09/01/24 08:17
りのあ ( ♀ ij0Bh )

その日の夜中

寝ていてもまるで生理痛のような落ち着かない鈍痛がずっとあり、常にウトウトしているような状態だった。

しばらくするとなんだかパジャマのズボンが冷たいような感じがしたので起きてみた


『… …?』
ズボンを触る
濡れている…

部屋の電気をつける


まっ赤だった…
ズボンを触った手
ズボン
シーツ

ズボンは血液でビッショリ濡れている


『お母さん! あのさ… 出血がひどいの… どうしよう…』
母を起こす

母は私の状況を見て慌てた

『とりあえず着替えて、すぐに病院に電話してみなさい! すごい出血じゃない!』


私はすぐ電話した

看護師に状態を伝えると診察にくるように言われたので母に車に乗せてもらい診察に行った


内診が始まる

『あー そうですね… でもまだ赤ちゃん子宮内にいますね… とりあえず様子を見るしかないでしょう… えっと…今日が水曜日だから… じゃあ土曜日に診察にきてください』
『土曜日… ですか?』
『そう 土曜日。 土曜日までにもし出血や痛みがひどければ早めに受診されてもいいですから』

No.61 09/01/24 10:05
りのあ ( ♀ ij0Bh )

こんな状態で自宅に帰ってもいいのか不安だったが
『帰っても大丈夫』
といわれれば帰るしかない


不安なまま帰宅し、そのままウトウトしながら朝を迎えた


朝になりトイレにいくと4~5㌢の血液の塊が何個もボトボト落ちてきた

絶対こんなの普通じゃない…

朝を迎えるまでに実際何度も下着とズボンを替えたほどだった

そしてトイレに行く度の大量の出血と大量の塊…

仕事はもちろん休んだ


ずっと横になっていたがあまりの出血のせいか身体に力が入らなくなりフラフラしてきた

あまりにもひどい状態に母は慌てて私を病院に連れていった


その日は木曜日だったため昨日の医師とは違ういつもの女医さんだった


診察台にあがる

『杉本さん… 流産ですね… もう赤ちゃんの袋が見えなくなりました。 とりあえず出血がひどいからすぐ入院してください。』

流産…
私にもこの状態は流産以外のなにものでもないのはわかった

『すぐ入院してください。 1㍑くらい出血してるからすぐに。』

母は入院支度をするために自宅に戻った


病室で横になっていると、女医の鈴木先生が様子を見にきてくれた

No.62 09/01/24 10:23
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『先生… 私…昨日の夜ここに診察にきたんです。 でも帰っていいって言われて… もし昨日帰っていなかったら赤ちゃんは大丈夫だったのかな、って…』
『確かに昨日その状況の杉本さんを自宅に帰したのは昨日の医師の不注意だと思います。 …でもそれで赤ちゃんが助かっていたかどうか、と聞かれたら多分助かっていなかったと思います。 不謹慎な言い方だけど赤ちゃんってお母さんが飛んでも跳ねても産まれてくる子は産まれてくるのね。 どんなに大切に大切にしても産まれてこれない子もいるから…』
先生はゆっくり優しく話してくれた


確かにそうだと思う
わかってる…
でも…
でも…
ごめんね 赤ちゃん
守ってあげられなかった
私はあなたに何もしてあげられなかった
あなたの元気な姿を見たかった

ごめんね…
ごめんね…



先生は部屋を出ていく時に
『トイレに行っても絶対に水を流さずに、トイレに行く時は必ず看護師を呼んでください』
といっていた


トイレに行くとまだ塊がたくさん出てくる


言われた通りにナースコールで看護師を呼んだ

No.63 09/01/24 10:38
りのあ ( ♀ ij0Bh )

何度かトイレに行くうちにさすがに塊は少しずつ減っていった。


でもまだ出血はとまらない


いつの間にか夕方になり母は父を連れて病院へやってきた


『真耶… 身体はどうだ?』
その一言だけだった

聞きたい事はたくさんあったはずだ。
でもあえて一言だけでいてくれた事に感謝した


鈴木先生が部屋に入ってきた

『杉本さん、さっき最後のトイレの時に出たコアグラ(塊)の中に赤ちゃんいましたよ。』
先生は小さな容器を私に渡してくれた


小さな容器の中に小さな小さな私の赤ちゃんが浮かんでいた

白くてフワフワしている私の赤ちゃんはまだまだ人間の形にはほど遠いものだったが愛しかった


トイレのたくさんの塊を看護師さんが必死に拾い、その中から見つけてくれた…

感謝でいっぱいだった


『まだ出血は治まらないかしら?』
『はい… コアグラはもうでなくなりましたけど… 出血だけはまだあります』
『じゃあ最後のコアグラに赤ちゃんいたんだね。 お母さんに逢いたかったんだね。 …出血が治まらないとなるとやっぱり処置が必要だから、これから処置しましょう。』

No.64 09/01/24 10:49
りのあ ( ♀ ij0Bh )

手術同意書にサインをし、母はいろんな書類にサインをしたり判を押したりしていた


手術室に入る

『これから注射しますね。 注射をしたら数を1からゆっくり数えてください』

腕の静脈に薬液が入る

1
2
3
4
5
…6
……………な………


7を数え終わらないうちに私は深い深い眠りに落ちた


いろんな夢を見ていた
不思議な不思議な夢を見ていた

夢の中で不思議な乗り物に乗っていた

乗り物が傾き私は高い場所から落ちた

落ちて着地した場所は手術台の上だった


その瞬間目が覚めた


病室に戻された私は1日入院して退院した


【頸留流産 妊娠6週 】
という診断名のついた
【1週間は自宅安静による療養が必要】
という診断書をもらった

No.65 09/01/24 11:01
りのあ ( ♀ ij0Bh )

退院した足で職場に向かい院長に診断書を提出した

『大変でしたね。 仕事の事は気にせずにゆっくり休んでください。』
『すみませんでした。 ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。』
謝る私に
『資格試験だけはとにかく頑張ってください』
と優しく言ってくれた。


他のスタッフにもきちんと説明した

冬はインフルエンザの患者さんが多いのでとにかく忙しい時期だった。
学生で医療行為はできないとはいえ 私1人が抜けたことで他のスタッフへの皺寄せは容易に想像できる


『本当にすみませんでした。』

謝る私に意外にも皆が優しかった。

『こっちは大丈夫だから』
『今は杉本さんの身体の方が大事だよ』
『気にしないでゆっくり休んでね』


いつもは厳しい先輩看護師のこの言葉は本当にありがたかった




その日から一週間仕事は休み、手術後の経過も順調だと婦人科での診察で言われたので私はまた仕事と学校に戻った

No.66 09/01/24 11:15
りのあ ( ♀ ij0Bh )

退院したその日

自宅で昼食をとる私に母が思いきったように聞いてきた
『父親は… 信也君よね…?』
『… … うん』
『産むつもりだったの?』
『… … それは… まだ決めてなかった』


1人で産むつもりだった、と言えばそれはそれでまたいろいろと聞かれると思った

今まであった事、信也に言われた数々の暴言を母に話すことは辛すぎた。
母は悲しむだろう
私もまた今は全てを話せるほど強くなかった

『真耶… 私も真耶を産んだ後に流産してるから切ない気持ちはわかるよ。 でもね… 流産した赤ちゃんにはかわいそうだけど、冷たいようだけどやっぱり真耶にはこれからの未来を見て歩いて欲しい。』


未来…
私の未来…
信也の家の前で見あげた暗い大きな終わりのない夜空が浮かんだ


そしてその週末

家で勉強しているとチャイムが鳴った



信也と信也のお母さんだった

母と父は2人を家にいれた


『真耶も来なさい』

母に呼ばれて部屋に入る

No.67 09/01/24 11:28
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『真耶… 大丈夫か?』

私の顔を見て信也が聞いてきた


…なに?
今さらなに?
なんでここに来れるの?
何をしにきたの?


怒りを押さえながら信也の顔を見る


『この度は本当に申し訳ありませんでした。 大切なお嬢様を妊娠させてしまい、その上に流産で大変な時に何も知らずになんのお力にもなれずに… 本当にどう謝罪していいのか…』
信也のお母さんが頭を下げて謝っている


お母さんが悪いわけじゃないよ…
お母さんはなんにも悪くないよ…
お願い お母さん
謝らないで…?
悪いのは私と信也なんだから…


『僕の責任です。僕が悪いんです。本当に申し訳ありませんでした。』
信也も頭を下げる


『誰が悪いとか… そうじゃなくて… どうか顔をあげてください』
母は私が母にうちあけた日から退院した日のことまでを詳しく話した

『…本当にどうお詫びしたらいいか』
信也のお母さんは多分泣いていた

信也もうつむいていた

母が話し終わると長い沈黙が続いた



『俺は… 真耶を一生守っていきたいと思っています』




信也の信じられない言葉に耳を疑った

No.68 09/01/24 11:41
りのあ ( ♀ ij0Bh )

…なに言ってるの?
…この人 頭おかしいんじゃない?
…いまさら何言ってるの?


怒りを通りこして呆れた


『今後の事はともかく… これから真耶は資格試験もありますし… 2人には亡くなった子供のためにも正しく生きていって欲しい、私達はそれだけです』
今まで無言だった父が口を開いた



信也のお母さんは手術代や今までかかったお金を全額負担したいと申し出たが
『こちらの責任でもありますから』
と母はその申し出を断った



信也と私は私の部屋で話すことになった


私には今さら何も話すことはなかった。

でも信也には話したいことがたくさんあったようだった



『真耶 本当にごめんな。 俺…最低だよな。』

いまさら何を謝ってるの?

許せなかった

『信也はいいよね。謝れば気がすむんだから。 あんなに迷惑がっていたお腹の赤ちゃんが亡くなって、私に謝って自分の気持ちがすっきりして… いい事づくめじゃん。』

『真耶… そんな事言わないでくれよ。 俺… 真耶の事考えるとさ… 膝をかかえて1人で泣く真耶しか浮かんでこなくて… ごめんな。 ごめんな。』

No.69 09/01/24 11:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『とにかくもうすぐ出張も終わる。 真耶は俺と別れたいだろうけど、最後のチャンスを俺にくれよ。 俺、絶対に変わるから。』


聞きたくなかった
いまさら必死な言葉なんて聞きたくなかった

『やめてよ…』
私が拒否すればするほど信也は謝り
『俺 絶対に変わるから』
と懇願してくる。


まるで小さな子供だった
自分の条件が通るまでは絶対に引かない


『…わかったわよ』


もう聞きたくなかった

そう…
そうやって信也は結局いつも変わらないんだよ…

私には幸せな未来なんてない…
私の心はもう死んだ
もうどうでもいい…




『わかったから。もう謝らないで?』


その言葉を待ってたかのように
『やっぱり真耶は最高の女だよ』
と信也は笑った

No.70 09/01/24 12:03
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『でも私も資格試験が終わるまでは勉強したいから、信也の出張が終わっても毎日は逢えないよ? 火曜日の夜と週末もどちらか1日しか逢えない。 それでもいい?』
『週に2日か… 寂しいけど… でも… それでもいいよ。 でも電話くらいは毎日してもいいだろ?』

正直毎日の電話もうっとうしかったが
『じゃあ私が仕事から帰ったら電話するよ。』
と条件をつけた。




次の日からまた信也は出張へ行った。


その週の金曜日から私は仕事に復帰した。


土曜日は信也とは逢わずに日曜日に逢うことにした。


2人で部屋にいると苦しいかった
だから今までは嫌いだったパチンコだったが『私もパチンコをしてみたい』と信也を誘った


パチンコ大好きな信也は喜んで連れていってくれた


そんな日々が続いた

No.71 09/01/24 12:51
りのあ ( ♀ ij0Bh )

初めの頃はパチンコ初心者だったため信也の隣りの台に座り、どこをめがけて打てばいいか、とか教えてもらっていた。

少しずつ慣れていくにつれて私は信也から離れた台に座ってパチンコを打つようになった。

【信也と逢っている、という名目になり なおかつ信也と関わらなくてもいいパチンコ】
の存在はありがたかった。
何も考えずにすむ時間でもあった
勝てば嬉しかった



そしてその頃私と信也の立場は逆転していた。


私の顔色をうかがう信也がいた

私の口調もまた
『~したいんだけど… いいかな?』
から
『~するから』
になっていた。


愛情なんてカケラもなかった。


情があるとすれば信也にではなく 私を相変わらずかわいがってくれるお母さんに対してだ。





季節が変わり
私は無事資格試験にも合格し、准看護師として働いていた


試験が終わってからもなんだかんだと理由をつけ週に2回だけしか逢わなかった

No.72 09/01/24 13:09
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『あのさ… 用事っていうか仲間と逢うから今週は日曜日じゃなくて土曜日に逢いたいんだけど』
と信也が言ってきた。


別に私としてはどちらでも良かった



週が変わり火曜日
信也の家へ向かう
まだ信也は帰ってきていない


相変わらず汚い部屋だった
私が掃除することはもうなくなっていた

でも足の踏み場もない部屋にうんざりしてザッと片付けることにした。


ベッドの横の電話の下から何かが見えた


『…?』
引っ張りだしてみるとあきらかに女の子がもっていそうなスケジュール帳だった


中を見る…


『今日はしーくんから電話がきた💓』
『今日はしーくんとデートした💓』

日記の日付は1月初旬だった


美姫だ…
間違いない…
美姫だ…


そして日付は進む


『今日しーくんの赤ちゃんが元カノのお腹からいなくなった、と聞いた(涙) しーくんの赤ちゃんかわいそう… なんだか複雑な気持ちだよ…』
私が流産手術をうけた日だ…


その後に続いた日記には
『しーくんはさすがにショックだったみたいだった。 私は一緒にいてあげることしかできなかった(涙) 役たたずな彼女でごめんねっ(涙)』


…言葉もなかった
心底軽蔑した

No.73 09/01/24 13:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

おそらく日曜日に美姫が信也に逢いに来たんだろう。

だから信也は私に土曜日にしてくれ、と頼んだんだろう。


そして手帳からは信也と美姫が肩を組んで撮った写真もでてきた


信也の言っていた通りかわいい顔をした女の子だった

写真にはカラーペンで『しーくん💓みき』
と書いてあり
『ずっとずっといっしょ💓』
とも書いてあった



…ずっとずっと一緒にいたらいい
…もう勝手にしたらいい


嫉妬とかそんなのは全くなかった
…ただ私の流産に関して書かれた文章だけは許せなかった



…人の不幸を自分のポイントあげるために同情してんじゃねーよ

手帳を忘れていったのはわざとだろう
忘れていけば信也が読むとでも思ったんだろう…
くだらない女。


腹立たしさがこみあげてきた


ふとテレビの上を見ると私が看護学校の修学旅行で買ってきた陶器でできたDisneyキャラクターの置物もなくなっている

私の写真の入った写真立てもない


間違いない
日曜日に来たんだ

No.74 09/01/24 13:31
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也が帰ってきた


『…これ なに?』
信也に手帳を突き付ける


『えっ…? え… えーっと…』
信也の目が泳ぐ


『あのさ、美姫っていったよね? 出張先の女だよね? 日曜日仲間と逢うって言ってたの、あれ本当は美姫だよね? 何考えてるの? ホント最低だよね』

信也は深い溜め息をついた
『本当にごめん。 どうしても美姫が遊びに来たいって言ってて。 断れなかった。 でももう俺はもう美姫には愛情なんてなくて… 真耶だけだから昨日ちゃんと言ったんだよ。“やっぱり真耶だけだ”って』


『あっそ。 どうでもいいけど』
吐き捨てるように言った。

『真耶… 真耶… 信じてくれよ。』
また得意の泣き落としが始まった


もうたくさんだった
うんざりだった



『別に… 私には関係ないから。 謝らなくていいよ』


謝らなくてもいいよ
という言葉を信也は勝手に『許す』と解釈したようだった


『ありがと… 真耶… ホントにありがと』


もうどうでもよかった

No.75 09/01/24 13:49
りのあ ( ♀ ij0Bh )

夏がきた

恒例の勤務先での納涼会の日

新年会とまったく同じメンバーでの納涼会だった


新年会の時は妊娠してたので一切アルコールは口にしなかったが今日は飲んだ


たくさん飲んだ

今はもう
1次会で帰ってくる
という勝手な決まり事も無効になっていた



私はもちろん周りもいつも以上に盛り上がっていた
『杉本さん。』
板倉さんが声をかけてきた


『あ~ 板倉さん~ 私すっかり元気になりました~♪ 元気すぎてやばいです♪ ねっ。立花サン♪』
『そうそう♪ 真耶ちゃん元気よね~♪ 真耶ちゃん元気だと優子嬉しいっ♪』
立花婦長も酔っていた。

『まぁまぁ板倉クン すわりなさいよ♪ さぁ板倉! 飲めっ!』
立花婦長になかば強制的に座らせられた板倉さんもまた楽しそうに酔っていた


『…ちょっとトイレ 失礼~』
立花婦長がトイレに立った


『あのさ… 真耶ちゃん… いや、杉本さんさ… ホント元気そうでよかったよ。』
『真耶 でいいですよ♪』

No.76 09/01/24 14:05
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『あー じゃあ うん…真耶ちゃんさ… 長年つきってきた彼氏とはまだ続いてるんだっけ?』
『え~ まぁ一応。 でも一応です。 あくまでも一応! 一応ですから!』
『なに? なに? なんでそんなに一応を強調するの(笑)』
板倉さんは笑ってた


『…じゃあさ もしもだよ? もしも俺と一回デートしよ、って言ったらデートしてくれる?』
『いいですよ~ いいですよ~ デートしちゃいましょうよ♪』

自分でも不思議だった

板倉さんといると気持ちが穏やかになった

そして少しだけドキドキもした


酔っているからこんなに軽いノリで返事できたのだろう…

でも… 嬉しかった


『ポケベルある?』
『ありますよ~♪ 番号教えますね(笑)』

立花婦長がトイレから戻ってきたのでその場で番号を教えることはできなかったが、帰りのタクシーの中で教えることができた

No.77 09/01/24 14:21
りのあ ( ♀ ij0Bh )

次の週

私のポケベルが鳴った【030ー8××ー1×××】
直後にまた鳴る
【デンワクダサイ イタクラ】


私はすぐ電話をかけた
『もしもし… 板倉さん?』
『真耶ちゃん?』
『はい…』
『うわぁ 嬉しいな! 電話かけてきてくれたって事はホントにホントにデートしてくれるって事だよね?』
『いや? デンワクダサイ ってベル入ったから電話しただけですけど(笑) いえいえ… デートしましょうよ』

『あ、携帯にかけると通話料高くなるからすぐ俺からかけなおすよ』


心遣いが嬉しかった

信也にはない優しさが新鮮だった



板倉さんからすぐ電話がきた

『あのさ! 急なんだけどとりあえずこれから逢えないかな? デートはまたあらためてちゃんとデートする… って事でさ』
『今からですか? まぁいいですけど… 私…でもお風呂入った後だからスッピンですよ?』
『いいじゃん いいじゃん スッピン! じゃあ迎えに行くよ! 家の場所は大体わかるから近くになったらまた電話するよ。』



ドキドキしてきた…
軽く返事してしまったけど…
でも…
逢いたい…
逢って話しをしたい…

No.78 09/01/24 14:36
りのあ ( ♀ ij0Bh )

15分後
『近くのコンビニで待ってるよ』
と板倉さんから電話が入った


コンビニの駐車場につくと板倉さんがコンビニからでてきた


『こんばんは…』
なんだか挨拶するのも恥ずかしかった


『まず車にどうぞ。』
助手席に乗る

『どこに行こうか… うーんと… 海に行く?』
『あっ はい。 どこでも』


自宅から30分ほどのところにある海に着いた

勤務先の看護師の話し、院長の裏話、信也にしてもわからない話しが板倉さんとはすごく盛り上がった


何時間もそんな話題で盛り上がった

私もたくさんたくさん笑った



他愛もない話しをたくさんした後 板倉さんが切り出してきた


『真耶ちゃんさ… このまえ彼氏とは一応付き合ってる、ってやたら“一応”を強調してたけど何かあったの? 彼氏の事好きじゃないの?』


なんて答えたらいいのか言葉に詰まった


『…いろいろ 本当にいろんな事があって。 別れたい気持ちに嘘はないんです。 別れたいけど別れられない…っていうか別れてくれないっていうか』


自分でも何を言ってるのか分からなかった

No.79 09/01/24 14:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『いろいろワケアリって事か…。 一筋縄ではいかない彼氏って事だね。 俺と逢った事がバレたら真耶ちゃんやばいんじゃない?』
『…いえ 大丈夫ですよ。 きっと… うん 多分… 大丈夫…と思います』



本当は絶対に大丈夫なんかじゃない…
間違いなくキレるだろう
さんざん暴言を吐かれるだろう
いや、また暴力が始まるだろう…
どうでもいい、なんて本当は嘘だ…
私は怖いんだ…
殴られたり蹴られたりして受ける身体の痛みから逃げてるだけなんだ…



『うーん…(笑) そんな自信のない答えじゃ危なっかしいな(笑) 真耶ちゃんを危険にさらすわけにはいかないからさ。 堂々とデートするのはしばらく無理かな? でも、こうやって逢うならまた逢ってくれるかな?』
『あ… はい! もちろんです。』


『あんまり無理しなくてもいいからね』
最後に優しく頭をなでてくれた


…気持ちが板倉さんに傾いてるのがよくわかる。
胸がギューッって苦しくなる




私と板倉さんはその日から頻繁に逢っては車の中で話すようになった

No.80 09/01/24 15:12
りのあ ( ♀ ij0Bh )

板倉さんと逢う時間が楽しくて幸せになればなるほど信也との時間は苦痛だった。


パチンコに行かない日は特に苦痛だった


秋になる頃には信也もすっかり当たり前のように体を求めてくるようになった


でもとにかく私は拒否していた

そういう雰囲気にならないように
求めてきたらあれこれ理由をつけては部屋から出るようにしたり


信也も初めのうちは無理強いすることはなかったが、私が拒否を続けていくにつれてあきらかに不機嫌になっていった


そういう男なのだ

反省してもまたもとに戻るような男だった



何回かはなかばレイプに近い状態だった

No.81 09/01/24 15:27
りのあ ( ♀ ij0Bh )

冬がすぎ春がやってきた


相変わらず私は板倉さんと逢っていた


春が終わる頃
初めて板倉さんが部屋に誘った


私はうなずき初めて板倉さんの部屋に入った

それまでなんの関係がなかったのが不思議なくらいお互い想いあっていたので体を重ねるのは自然なことだった



秋にさしかかる頃


板倉さんに突然の転勤の辞令が出た


車で5時間はかかる県外への転勤の辞令だった


私は泣いた


そんな私をみて
『真耶… 一緒についてきてくれないか? 仕事も彼氏も捨てて俺と一緒にきてくれないか?』
プロポーズだった…



結婚…
板倉さんと一緒なら幸せにしてくれるだろう
きっと守ってくれる

でも…

信也に打ち明けたことを考えると暴力をうけ続けた日々がフラッシュバックしてくる


…怖い
…怖い
…痛いのはヤダ


何回も何十回も何百回も考えたがやはり最後にはあの恐怖に負ける自分がいた



『ごめんなさい… やっぱり一緒にはついていけない』
泣きながら謝る私を板倉さんは
『真耶… 真耶は最高の女だ。 俺はいつまでも真耶の事を想ってるから。 気がかわったらいつでも連絡してこいよ』
と抱き締めてくれた

No.82 09/01/24 15:40
りのあ ( ♀ ij0Bh )

板倉さんがいなくなってからは心にポッカリ穴があいたようだった。


それでもなんとかいつもの生活を続けてきた

ただその頃から生理がおかしかった。


不順ではあるけれど、一応きちんと生理はきていた。

経血量が少ないのだ


3~4目の量が続く感じだった。


口のまわりにニキビもできるようになってきた。


ストレスとかホルモンバランスが崩れているんだろう…


それくらいにしか思わなかった



ある日 パチンコにいかなかった私達は信也の部屋にいた


信也はまた身体を求めてきた


私はいつものように拒否した


バンッ!
タンスに灰皿があたりタバコや灰が散らばった


『いい加減にしろよな! お前調子こいてんじゃねーぞ? 何いつまでも悲劇のヒロインぶってるんだよ!』

信也がキレた

『いつまでもいつまでも… バカじゃねーの? だいたいさ今だから言うけど俺お前に“子供が欲しい”って言った時期あったの覚えてるか? あれ、なんでだと思う? お前処女じゃなかったじゃん! お前の初めてって中絶くらいだろ? お前の初めてが俺は欲しかったんだよ!』

No.83 09/01/24 16:41
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也は続ける
『いつまでも流産した事を引きずってヤりたい時にヤらせてもくれないなんて 女じゃねーよ!』

私の中で何かが音をたてて割れた


なに…?
最初から中絶させるつもりで妊娠させたの?
自己満足のために…?
なに?
なにを言ってるの?
この人なに言ってるの?




悲しい
悔しい
辛い
苛立ち


なんにも感じなかった

周りの空間全てが停止したようだった



言い返されると思っていた信也もまたそんな私に驚いていた


瞬きもせずに無表情でただ座ってる私が怖かった
と後日言っていた


『… 真耶? …真耶?』
心配そうに信也が肩を揺する


私は何も感じなかった

『…ごめん。 俺… まただ… ごめん ごめん…』
信也もまた自己嫌悪に陥っていた



『…帰る』


『送ってくから。頼むから送らせてくれよ。 今日だけは真耶を1人で帰らせられない。 お前…死んじゃいそうな顔してるよ…』

No.84 09/01/24 16:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

車の中でも無言だった
私は何も考えられなかった
ずっと空間が停止していた感覚だった



『真耶… ついたよ』
無言で降りようとする私の手を引っ張り抱き締めてきた

『真耶! 真耶! 愛してる! 俺さお前がいなきゃダメなんだよ…』
泣いてる信也がいた


そんな信也を見ても私はなにも感じない
苛立ちも憐れみもなにも感じない


私は何も言わず車を降りた


『日曜日、迎えに行くから。』
信也はそう言って私が家の中に入るまで私を見ていた



私の思考回路はとまったままだった


何も感じない自分が怖くもあった



心の中は何かが完全に壊れた気がした
なんなのかはわからない




次の日
仕事から帰ると自宅の電話が鳴った


板倉さんからだった


『真耶? 元気か? 真耶ベル解約した?』

久しぶりに聞く声は相変わらず優しかった

No.85 09/01/24 17:04
りのあ ( ♀ ij0Bh )

『…あ! そうなの。携帯を持ったんだ。だから解約しちゃったんだ。 えー 本当に久しぶりだね。 元気だった? 連絡くれないからもうあっちで彼女できたかな、って思ってたよー』

嬉しくて嬉しくて話しがとまらない


『真耶…? なにかあったんじゃないか?』
いつものテンションじゃないと気付いたらしく心配そうに聞いてくる


『…なにもないよ。 うん、なんにもない。大丈夫。 なんにもないから』

『そういう言い方をする時の真耶は絶対何かあるんだよ。』
完全に見透かされていた…



だからといって流産の事を話して慰めてもらうのは嫌だった。
慰めてもらうのも嫌だったし、自己満足のために妊娠させられた女、と思われるのはもっと嫌だった。

『ホントになんでもないんだって。深読みしすぎだよ』
私は笑う



『…そうか? ならいいけど…。 あんまり無理するなよ。 まぁ…でも声聞けてよかったよ。』


またそのうち連絡する、と板倉さんは言い電話を切った

No.86 09/01/24 17:13
りのあ ( ♀ ij0Bh )

次の日

仕事帰りのバスの中で携帯が鳴った

板倉さんだ

『真耶? 今日ってこれから予定ある?』
『今日? ううん 家に帰ってご飯食べてお風呂入って寝るだけ(笑) なんで?』
『俺、今 そっちに向かってるんだ。 やっぱり昨日の真耶の事が気になって。 後3時間ちょいはかかるけど、少しだけでも逢えるかな?』

驚いた
私のために5時間もかけて?
聞けば明日また仕事だからそのまままた5時間かけて戻るという


こんな私のために…


『待ってる。何時でも待ってるから。…気をつけてきてね…』



全て話してしまいたかった
今まであった事、全部全部話してしまいたかった
話せたらどんなにラクだろう…

そしてなにもかも捨てて…
そのまま一緒についていきたい…

No.87 09/01/25 23:27
りのあ ( ♀ ij0Bh )

そんな事できるわけない…
できない…


できない事を考えてしまう自分がたまらなく嫌だった


もう心は限界だった


つかれた…
つかれた…
つかれた…
つかれた…


心は悲鳴をあげてるのにどうにもできない、行動すらできない自分。


死にたい…
死にたい…



声をあげて泣くことももうできなかった




…夜10時半をすぎた頃
『真耶 もう着くよ』
板倉さんから電話がきた


私はいつものコンビニに向かった


車に乗り込む


『逢いたかった』
私達は強く強く抱き合った

No.88 09/01/25 23:53
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ただただ逢いたかった…

心の中はただそれだけだった


抱きしめられると嬉しいのに辛かった
辛いのに嬉しかった


身体が…心が…熱くて…でも苦しくて… 切なかった



『真耶… なんでそんなに痩せて…』


155㎝
44㎏くらいあった私はその時37㎏くらいまで体重が落ちていた



確かに食欲もなかったし、何を食べても味を感じなかった

美味しいとも不味いともなにも感じなかった

一口食べては何かを考えて、また食べては考える…
何も考えてはいないから、多分ボーッとしてるだけなのだけれど…

そんな感じだから当然食欲は落ちていたし、食事量も少なかった



板倉さんは私の痩せた姿を心配していた


でも理由はどうしても話したくなかった


理由を話せば過去に逆上って話しをしなければいけなくなる

思いだしたくなかった

そしてまた…
もし話してしまえば板倉さんは私に信也のことを責めてくるだろう


なんとなく…
信也を責めてくるということは、そんな男と“一応”とはいえ付き合っている私の事をも責められてる感じがした




…だから言えなかった

No.89 09/01/26 09:33
りのあ ( ♀ ij0Bh )

黙ってうつむく私に

『黙ってちゃわからないだろ? なにがあったか教えてよ』
板倉さんは少し苛立ったようにそう言った


『…だから なんでもないって。』
私も少し苛立っていた

『真耶はズルイよ。そうやっていつも肝心な事は言わない。 俺はそんな真耶に突っ込んで聞くことができないのを真耶はわかってるはずだ。 そして俺が1人で真耶にあった何かがわからなくて悩むことだって真耶はわかってるはずだ。 俺は一体なんなんだよ。』


私は板倉さんに甘えてた
まるで私をお姫様のように扱ってくれる板倉さんに甘えてた
信也にはない部分だけを板倉さんに求めてた


だから私は自分が悪いのに、私には不必要な【私を責める板倉さんのその部分】にすごい苛立った


『私が少し痩せただけでなにがあったかなんてしつこく聞かれても答えられないよ! なんにもないんだもん! なんにもないのに答えられるわけない!』
私は声を荒げた

『板倉さんは私と信也がうまくいってないという言葉を聞きたいだけでしょ? でもね、まだ“一応”付き合ってるわよ! “一応”ね!』



私はバカだ…
最低だ…
こんな心配してくれるのに…
私はクズだ…
信也の言う通り私はカスだ…

No.90 09/01/26 10:28
りのあ ( ♀ ij0Bh )

長い長い沈黙が続く

私は後悔していた
こんなに心配してくれる人にひどい事を言ってしまった…

それでも…謝れなかった


『…あの …明日も仕事なんでしょ? 時間…大丈夫なの?』
話しをすり替えることしかできなかった


『あ… うん… もうそろそろ帰らないと…』

また長い沈黙が続く
お互いやり場のない気持ちを抱えていた


板倉さんの表情から彼の気持ちもまたやり場のない思いを抱えていることは手にとるようによくわかった


『…じゃあ…帰るね 気をつけて。』
車を降りようとした私に

『真耶! 真耶は俺にとって最高の女だから…』


板倉さんの顔を見ることがどうしてもできなかった。


視線を少しおとしながら
『…ありがと。 …いろいろ。 気をつけてね。』

『…おやすみ』
『…おやすみ』


私は板倉さんの車が角を曲がるまで見送った

これからまた5時間かけて戻るんだな…
寝ないまま仕事するんだろうな…
なのに…
なのに私はあんな態度をとってしまった…
もう終わりだな…




それから板倉さんから2ヶ月連絡がくることはなかった

No.91 09/01/26 10:42
りのあ ( ♀ ij0Bh )

板倉さんから連絡がこないのは気にかかってはいたが、それもまた仕方ないことだと割り切っていた


これ以上本気になられても困る


こんな事がバレたら信也はキレるのは間違いない。
私は絶対殴られる
板倉さんも半殺しにされる

それだけは避けたかった


でも…
私の心は信也にないものを持っている人を求めてた


そして私は信也にない
楽しい人
優しい人
かっこいい人

…そしてなにより私が本気にならない人


をいろんな男に求めはじめた

No.92 09/01/26 11:08
りのあ ( ♀ ij0Bh )

案外簡単に私の思う人は見つかった


中学の後輩の寛人は優しかった

寛人の会社の仲間達は笑い泣きするほど楽しかった

中学の時に憧れていた真吾は私の理想の容姿で彼の姿を見ているだけで癒された

飲み屋で知り合った聡は羽振りがよくて普段食べられないような食事によく連れていってくれた




私はその人達と遊んだりすることでなんとか心のバランスを保っていた


彼等との関係を信也にバレないようにするために用意は周到だった

仕事を始めてから門限はなくなった
でも私はあえてずっと信也と逢う時は10時に帰っていた

だから信也にとって私は夜10時以降に出歩いてるとは夢にも思わないことだった


そして信也と逢わない日は仕事が終わるとすぐ信也に連絡した


違う男と遊ぶ日は
『ちょっと疲れたからとりあえず横になるね』
と疲れた声を出す
そうすれば万が一他の男達に逢ってる時に携帯にでなくても
『ごめん。寝てた。今着信に気がついた』
と夜中家に戻ってから連絡すれば良かった

No.93 09/01/26 11:29
りのあ ( ♀ ij0Bh )

母もまた
『遊びあるいてばっかりいて…』
『早く帰ってきなさいよ』
とは言っていたが、私が不在の時にかかってきた信也からの電話には
『お風呂に入ったばかりなのよ。 あの子お風呂長いから… 急用ならあがったら電話させるよ?』
などと言ってうまくかわしてくれていた



私はそれがありがたかった

No.94 09/01/26 11:48
りのあ ( ♀ ij0Bh )

母は母なりにいろんな事を感じていたようだった


あの流産の時の
『真耶を一生守っていきます』
とプロポーズともとれるような発言をした信也が、あれからかなりの時間が経っているのにも関わらずその後、話しが具体的にならない事が気になっていたようだった


私が悩んでいる姿も見ていたし、多分痩せたことも信也との関係が良好ではないことが原因だということも母に想像させていた



だから私が信也以外の誰かと遊びあるいていても
『女友達と遊びに行く』
という私の言葉をいちいち詮索したりせずに黙って了解してくれていた




私は毎日が楽しかった
火曜日と日曜日の信也の彼女を演じる日以外は毎日充実していた


心から楽しかった


でも信也と別れられない自分は許せなかった

No.95 09/01/26 12:01
りのあ ( ♀ ij0Bh )

ある日板倉さんから電話がきた


気まずいまま別れてから初めての電話だった

『真耶? 俺。』
電話の後ろは飲み屋にいるような雰囲気の騒がしさだった

そして板倉さんも酔っているようだった。


あの日の事はなかったかのように世間話しを始める板倉さんに私は少し安心した。


板倉さんとの会話で盛り上がっていたが突然
『あのさ… 最後に聞かせて? 俺は真耶にとってなに?』


いきなり質問されて私はかなり動揺した


『またその話し? 板倉さんは板倉さんだよ。』
私ははぐらかした


『そうじゃなくて…』
板倉さんが呆れたように深い溜め息をついた

『…わかったよ。 よくわかった。』
『なにが…?』
『いや、いい。 とりあえずまた連絡するから』


電話を切った




正直… 今の楽しくて満たされている生活に板倉さんの存在はもうあまり大きくなかった



だから私も彼の呆れたような返事に言い訳も、すがるようなことも言わなかった

No.96 09/01/26 12:38
りのあ ( ♀ ij0Bh )

私はその後もいろんな男達と遊び続けた


寛人と真吾とは何度か体の関係もあった


…私は真吾に抱かれたかった


憧れていた中学時代…

相手にもされず ただ片思いだった

中学2年のバレンタインの時
初めてチョコを渡した
『ありがとう』
真吾はそう言ってくれたけど表情はわからなかった

緊張と恥ずかしさで顔をまともに見れずに終始うつむいたままのバレンタインだった


真吾が中学を卒業した次の日
私は勇気をだして真吾にプレゼントを渡しに真吾の自宅におしかけた


真吾は照れながらプレゼントを受け取り
『あがってく…?』
と聞いた


私はうなずき黙って部屋へあがった
まさか2人きりになって話せるなんて夢でも見てるんじゃないかと思うほど嬉しかった


真吾の部屋で2~3時間いろんな話しをした後、静かに真吾は私にキスをしてきた


そして私は体を真吾に許した


お互い初めてだった


でも…
それきりだった…
ようするに『やり捨て』だった。
それでも私には一生忘れられない美しい思い出になっていた



そんないきさつもあったので偶然地元の飲み屋で真吾に再会した時は本当に嬉しかった

No.97 09/01/26 15:57
りのあ ( ♀ ij0Bh )

真吾の家と私の家は歩いて5分もかからないくらい近かった


真吾が中学を卒業してからの9年間1度も逢わずにいた事の方が不思議なくらい近かった



再会してからは週に何度も真吾の部屋で逢った

最初は緊張してまったく話せなかった私も何度か逢ううちに少しずつ打ち解けていった


真吾も
『やっと少しずつ話してくれるようになったね』
と笑った



真吾は私の理想だった

真吾に逢っている時、私の心は真吾でいっぱいでドキドキしたり好きすぎて苦しくなったり…



私はまた真吾に恋をしていた



…だけど
付き合ったりすることは考えられなかった


それは信也の事とはまったく関係なかった。
もしたとえ真吾と付き合う事になれば私は間違いなく背伸びをする。
そして嫌われたくなくてなんでも言うことを聞いてしまうだろう。
そしてもし真吾から別れを告げられたら私は生きていけないほどの辛さを感じるのは容易に想像できた。



だから私は始まりも終わりもない関係を望んだ


そのかわり私は真吾との出来事を逢う度に日記に詳しく書くようになった


真吾と一緒にいた証拠が欲しかった


私の中の恋愛欲求は真吾との関係で満たされていた

No.98 09/01/26 16:10
りのあ ( ♀ ij0Bh )

寛人とはまた少し違った

寛人とは中学の時から仲がよかった

私の中学の後輩ということは真吾の後輩でもあったので、真吾の事をよく知っていた


そして昔も今も私が真吾に憧れているという事も知っていた。


だから真吾との話しを聞いてくれたり、真吾の口調をモノマネしたりして私を楽しませてくれた。


板倉さんとは少し違う優しさを持つ子だった。


寛人の前ではまったく気をつかわずに私らしくいられた。


笑う事も多かった
逢うたびに私を楽しませてくれた。


『こういう人と結婚したら幸せだろうな』
と思える子だった。



…でも寛人には長く付き合っている彼女がいた。
寛人は
『彼女とうまくいってない』
と私に言ってはいたが彼女からの電話には私に見せる優しさとは違う優しさを彼女に見せていた。


私も寛人が彼女と別れることは望んでいなかった。


寛人は私の
『楽しむ』
という欲求を満たしてくれていた

No.99 09/01/26 17:19
りのあ ( ♀ ij0Bh )

信也と逢う時は【いい彼女】を演じていた


私の今ある他の男達との生活を悟られないためにはそれが必要だったからだ



相変わらず信也の暴言はひどかった


気にいらないことがあれば

ゴミ
カス
ウジ虫
疫病神


そんな言葉は当たり前のように浴びせられた


私は

死ね
死ね
死んでしまえ
地獄におちろ
死ね
死ね
…………


ずっと心の中でそうつぶやきながら、それでも悟られないために少しショックをうけたふりをして


『ごめんなさい』

と謝っていた



それでも感じるストレス、憎しみは確実にあった。
そしてそれが増える度に私の生活に違う男が1人ずつ加わっていった

No.100 09/01/26 22:20
りのあ ( ♀ ij0Bh )

その頃信也の親戚をはじめ信也の友人、私の友人の結婚ラッシュだった


毎月必ずどちらかに結婚式があるくらいすごかった


『俺達ももうすぐ付き合って6年経つな…』

最近信也はやたらこの言葉を言うようになった


付き合う年数が長くなればなるほど私の信也の親戚との付き合いは密になってくる

今の私にはそれが重かった


本家だった信也の家にはもともと親戚がよく集まっていた


私はなぜか信也の親戚にも気にいられていた

『ほら信也! いつ真耶ちゃんと結婚するんだ!』
『早くしないと真耶ちゃんに逃げられるよ』
『あんた達の結婚式が楽しみだわ』



信也は
『いやー まだ真耶を幸せにする自信ないし。自信よりも貯金はもっとないし(笑)』
といつもごまかしていた。

私もまたニコニコしながらも
『まだまだ結婚なんて』
とごまかしていた。



結婚する気もないのに信也の親戚は勝手に私達の結婚話しで盛り上がり、さらには産まれてくる子供の話しにまで発展して盛り上がっていた。



みんな優しくて私を可愛がってくれたからなおさら…申し訳ない気持ちでいっぱいだった…

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