小説・王族な猫👑🐱
猫を主人公にした物語を書いてみたいと思います。よろしければ、感想など下さい。ではでは( ̄ー+ ̄)ニヤリ
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麗子の気迫に男たちは気おされていた。
倒れているのは、麗子を目つきが悪いとぬかしたヤツだ。
「お次は誰が遊んでくれるんだい? 武理威血の麗子をなめた礼はノシつけて返してやるよ!」
「かまやしねえ、女一人だ。チビ、飛びつけ!」
チビが麗子を背後から襲う!
麗子はすかさず、反対側の手を添え、チビのみぞおちに肘鉄を叩き込む。
「ぐはっ!」
チビが腹を抱え、崩れ落ちる。
「これで二匹――」
援交と横須賀なまりが動いた。
左右に散った二人が、麗子の腕を片方ずつ拘束し、女は身動きが取れなくなった。
「ちっ!」
麗子が舌打ちする。
この機を逃さず、金髪が右のパンチを麗子の顔面に叩き込もうとした――が、それより先に麗子の右キックが、金髪のアゴにヒットしていた。
「がはっ!」
血を吐いて金髪は後方へ倒れた。
「ロナウジーニョも真っ青、麗子ちゃんキックの味はどうだい?」麗子を掴んでいた二人の手の力が緩んだ瞬間を、彼女は見逃さない。
「いつまで、いたいけな乙女の腕を掴んでんだ、コラァ!」
麗子は援交に頭突きをかまし、反動で横須賀なまりにもヘッドバットをお見舞いする。
「アタイのお触り料は高いぜ」
麗子の頭から、うっすらと血が流れる。
ビビるな、と言った男がやけくそ気味に麗子にローキックを放つ。構わず麗子は回し蹴りをビビるな君にお見舞いする。
ビビるな君は勢いよく、コンクリの床を転がった。名札には、大木とある。
ギロリと麗子は最後の一人を睨んだ。
「お、俺は何も言ってねぇぞ」
「問答無用。連帯責任だ!」
麗子の中学時代を知る男は、こめかみに手刀をくらった。
おもむろに麗子は煙草に火をつけ、尻もちをついている援交の眼前に立った。
「オメーだったな、京子が援交してるって、ぬかしたヤツは!その嘘つきな口ふさいでやるよ――」
麗子は援交のアゴを掴み、口の中に火のついた煙草を放り込んだ!「ギャアアアア!」
「おっとゴメンよ。簡易灰皿かと思っちまった」
――再び、妖魔の森。
グフの喉元にフラナガッハを突きつけたまま、猫が訊いた。
《なぜ、妖精騎士団を襲った!?》
〈なぜって、オメーラが弱い者イジメするからよ!〉
レッドキャップは吐き捨てるように言った。《なんだと?》
その時であった。
〔キュイ〕
近くの茂みから、何かが鳴く声が聴こえたのである。
〈バッカ、出てくんじゃねぇ!殺されっぞ〉グフの制止も聞かず、飛び出して来たのは、まだ幼いドラゴンだった。
子供ながら一対の角と、コウモリを連想させる羽は、きちんと備わっている。
グフの姿を確認した幼竜は、彼の足元にすり寄った。
〔キュキュイ!〕
ちびドラゴンは懸命に鼻をすり寄せ、グフの右足に抱きついた。
〈オメーラがコイツをイジメるから、オラがやっつけてやったんだい〉
《レッドキャップのグフ――どうやら双方に誤解があったようだ》〈五回も六回もあるか!オメーラがコイツを捕まえて殺そうとしてたんだぞ!〉
《なるほど、捕まえようとしたのだな。だが、そのドラゴンの子を傷つけてはいまい》
ケット・シーはレッドキャップに笑いかけた。
〈んだども、アイツら大人数でコイツさ、取り押さえようとしてたぞ〉
《お前のはやとちりだ。妖精騎士団の連中は、そいつを保護しようとしたのだ。親元に返すためにな》
〈嘘だ!アイツらコイツをイジメてただけだ〉
《俺の妖精騎士団にそんな不心得者はおらぬ。なんなら、この首を賭けてもいい。俺は仲間を信じている!》
口では何とでも言える。しかし、この猫は仲間を強く信じており、態度といい、物腰といい、信用に値する人物――猫では、あるが――のようだ。
〔ルー様!いや、団長!〕
大きな声で、ルー・フーリンを呼ぶ者があった。ダズリング伯爵領の方から、馬に乗ったダーク・エルフが手を振っている。
副団長のレイナルだ。とがった耳に昆虫とみまごう羽根――そして、ダーク・エルフ特有の黒い肌の青年は、ルー・フーリンとグフの居る場所まで来ると、ひらりと馬上から飛び降り、頭を垂れ片膝をついた。
〔お捜ししました、団長。で、こやつが件のレッドキャップでございますな〕
ジロリとレイナルは、敵対心丸出しでグフを睨みつける。
仲間をケガさせられているので、当然グフには良い感情を持っていない。
《レイナル――お前、ドラゴンの子をどうするつもりだった?》
〔どう、とは!? 親からはぐれたらしいので、早めに保護を優先させようとしましたが、何か?〕
意外な質問にレイナルは戸惑っている。
《だ、そうだ。レッドキャップ!》
〈え!? じゃあオラの早合点なんか!?〉ルー・フーリンは樹に刺さったままだった、斧リサを引き抜き、グフに手渡した。
《大切な武器なのだろう。返しておく》
〈あ、アンガト…〉
一度取り上げた武器を、即座に返すほど、ルーはグフを信じているようだった。
敵の手に武器が戻った途端、反撃に転じる者もいるのだ。眼前のレッドキャップが、そうではないと誰が言い切れるだろう。
だが、グフはそうしなかった。
〈負けた。負けた。オメー強えなぁ! しかも、オラ、オメーらのこと誤解してたみてぇだ。すまねー、煮るなり焼くなり、スキにしてくろ!〉
ルー・フーリンがチェシャ猫よろしく、ニヤニヤと笑う。
《では、煮るかな!》
ちょっと一服🚬😸
王猫こぼれ話。
バロール
すべての生物を、その邪眼で射殺すというフォモール族の王。ルー・フーリンの最大にして最強の敵。かつて、クー・フーリンとの戦いで妖力を封じられ、眠りについている片眼の巨人です。
モリガン
死と暗黒を司どる女神。ワタリガラスの姿を取る。バロールの妻。
デュラハーンのデュランダル
イギリスの伝承の首なし騎士をデュラハーンと呼びます。同じく首なしの馬、コシュタ・バワーを駆る死神の一種。デュランダルはフランスの叙情詩ローランの歌に出てくる聖剣の名前から取りました。
ダーク・エルフのレイナル
黒い肌にとがった耳の、魔神を信仰する一族をダークエルフと呼びます。背中には昆虫のような羽根。レイナルはブランデーの銘柄名から取りました。
( ̄ー+ ̄)ニヤリ
魔神バールの息子にして、万魔殿の支配者であるバールゼフォンと魔界の大公アスタロトと、蠅の王ベールゼブブの息子ベルゼビュートの二人は、魔界の後継者の座をめぐって、抗争を繰り返していた。
魔界において絶大な権力を誇っていた、神の敵対者サタンが次代の帝王を選出するにあたって、名乗りをあげたのが、この両名であった。
帝王サタンは、配下の八大魔王を含む七二柱の魔神と主だった実力者を一同に集め、言い放った。
《余は本日をもって魔界の帝王の座を引退することを宣言する。余の後継者たらんとする者よ、己が力で魔界の玉座を奪いとってみせよ!》
サタンの提案はシンプルだった。要するに、魔界の支配者の座をめぐって殺し合え、ということである。
万魔殿サバトの間は騒然となった。
元々、悪魔同士は不仲であり、今までは帝王サタンという強大で絶対的なカリスマの存在が、そのいさかいに歯止めをかけていた。
が、そのカリスマ自身が悪魔同士の決闘を全面的に認めたのだ。
宮殿内では、血で血を洗う戦いが繰り広げられた。
千人いた悪魔の半数が死んだ時、
「やめい!」
と、サタンが抗争を止めた。
その時、血の海に立っていたのは、バールゼフォンとベルゼビュートの二人だった。
後継者争いに不参加の悪魔は、会場の脇に退き、悪魔たちの決闘を肴に血で出来たワインをたしなんでいた。
サバトの間は、さながら地獄絵図の様相を呈していた。
散乱する死体は、いずれも奇怪で醜悪であった。
植物・動物・鳥類・両生類・爬虫類や昆虫などの姿をした悪魔の死体が、無数に転がっており、サバトの間のカーペットは大量の血で染めあげられた。
鼻をつく異臭も悪魔たちには、極上の香水の匂いでしかない。
帝王サタンはベルゼビュートとバールゼフォンを呼び寄せた。
《どうやら、この二名が、最有力候補のようだな。魔界の玉座は、この両名に競わせるものとする。よいな、皆!》
魔界の帝王の鶴の一声である。誰も異論を唱える者はなかった。
うやうやしく帝王の御前に、片膝をついた二人の悪魔は互いに目配せをしあう。
「実は帝王サタン様に我ら両名よりプレゼントがございます」
玉座に腰かけた魔神の王は、興味に目を輝かせた。
サタンには額に縦に裂かれた第三の眼があった。背にはコウモリが如き翼があり、こめかみには天を威嚇するかのような一対の巻き角がそびえていた。
《ほう、わしに贈り物とは気が利くではないか。して、それは何じゃ!?》
サタンが問うた。
〈それは――〉
獅子の爪とグリフォンの翼を持つ悪魔・ベルゼビュートが言った。彼はニヤリと笑い、
〈それは、死でございます!〉
《何ッ!》
バールゼフォンが跳躍し、愛用のサーベルで魔神王サタンの首をないだ!
タイミングを同じくして、ベルゼビュートの獅子の爪が魔界の帝王の心臓を刺し貫いた!〈爺さん――アンタの時代は終わったんだ。これからは俺が魔界を牛耳るのさ〉
と、ベルゼビュート。「気が早いぞ、ベルゼビュート。サタンを殺した後は、俺とお前とで決着をつける約束であろう」
と、バールゼフォン。ゴトリと地に落ちたサタンの首が小さく呟く。
《見事…ぞ、次代の…後…継者ど…も、よ…》
まさしく魔界は下剋上であった。
この一幕に、すべての悪魔が驚愕していた。よもや魔神の中の王たるサタンが、二人の悪魔になす術もなく、殺害されたのである。
「とりあえず万魔殿は俺の管轄に入る」
〈では、外は俺様だな。ついて来たいヤツは来な。これからバールゼフォンと戦争だ!〉「ベルゼビュート如き成り上がり者と、由緒正しき魔王バールの血を受け継ぐ俺と、どちらが魔界を治めるにふさわしいか賢明な貴君らにはわかっているだろう!」
こうして魔界は二派に分かれた。
ベルゼビュートを支援する者は万魔殿の外にある、かつての魔界の大公・アスタロトの居城、スカル・キャッスルを拠点とした。
一方、バールゼフォン側についた悪魔らは万魔殿へと残留し、対ベルゼビュートの軍を組織していた。
バールゼフォンとベルゼビュートの決闘という線もないではないが、実力が拮抗しているので、勝負はつかずじまいだった。
それでサタン殺害の案が生まれ、両者は先に魔界に君臨するカリスマを共闘する作戦に出たのだった。
作戦は功を奏し、サタンは永久の眠りについた。
ベルゼビュートとバールゼフォンは、いつ戦争を仕掛けるか、決めあぐねていた。
やるからには確実に勝利を収めなければならない。でなければ、相手の軍門に下ることになるだろう。
そんな情勢では、あったがバールゼフォンは妖精界へ進出することも忘れてはいなかった。
すでに配下のグラーシャ・ラボラスもルー・フーリンに敗北し、使い魔という名の捕虜となっているのだ。
バールゼフォンの腹わたは煮えくりかえっていた。
バールゼフォンの眼前には選りすぐりの悪魔が、集められていた。「魔界の勇士諸君よ!先日、妖精界ティル・ナ・ノーグへと派遣したグラーシャ・ラボラスがクー・フーリンの息子に敗れ、きゃつの使い魔として捕えられた。我こそは、ルー・フーリンの首をと、思う者は名乗り出てくれ。成功した暁には、将軍の位を約束しよう」悪魔たちがどよめく。戦士クー・フーリンの武勇伝は、魔界全土に鳴り響いているのだ。ざわめく悪魔らの中から、一人の獅子の顔をした馬にまたがった悪魔が、おもむろに右手を上げた。
〈バールゼフォン殿、それがしが出向こう〉「おお!稲妻侯、サブナック――貴公が出向いてくれるか!」
〈将軍の座など、どうでも良いが、英雄王の息子と刃を交えてみたいという好奇心からだがな〉
獅子頭の騎士は、腰にさした湾曲した刀を抜き、居合いの技を見せた。
「さすがは魔界きっての武人、サブナック殿だ。期待しておるぞ」〈お任せあれ、バールゼフォン。必ずや、ルー・フーリンめの首を持ち帰ってご覧に入れよう〉
――そして、妖魔の森。
《誤解も解けたことだ。どうだ、レッドキャップのグフ、改めて言うが妖精騎士団に入らないか》
黒猫が訊いた。
〈――だども、オラ――オメーの仲間を傷つけただぞ…〉
《傷つけようと思ったわけではあるまい。すべて、そのドラゴンの子供を守ろうとした行動の結果であろう。俺は、どうにもそういうヤツが好きなタチでな。供に戦うなら、お前のようなヤツがいい》《それにお前の居た位置からなら、奇襲も出来たはずなのに、それをしなかった――グフよ、お前の振る舞いは騎士そのものだ。その上、優れた戦士であるのにスカウトしない理由は、どこにもないだろう》
ほめ殺しである。
グフは気分が良くなって行く、自分を感じていた。
しかし、
〈だども…だども、オラ、レッドキャップでハーフ・エルフだぞ!〉
ルー・フーリンはニヤリと笑った。
《構わない。妖精騎士団の連中は、ほとんどがハーフ・エルフで、俺に至っては猫と妖精王の息子という境遇だぞ。ハンパ者同士が集まって、自分の居場所を探すのも一興であろう》
グフは中身のない頭で考えた。
〈わかっただ。オラも男だ。妖精騎士団とやらに入ってやるだ。ただし、母ちゃんに別れをすましてからでいいか?〉
《いつでも。俺はお前を待っている。ようこそ妖精騎士団へ、レッドキャップのグフ!》ルーが右の肉球のある手を差し出す。
反射的にグフは手を握り返した。
〈オメー、ほんまにいいヤツだな。オラ、オメーで猫鍋しようって、ずっと考えていただなんて、スッゲー恥ずかしいだ〉
ルーのシッポがビクリと動いた。
(はは、人選を誤ったかな……)
黒猫は少しばかり後悔していた。
(…猫鍋は勘弁だな。アイツがぽん酢を携帯していたら、仲間に加えるのは考えを変えた方がいいかも知れんな)
猫はクソ真面目に、そう考えていた。
〈じゃあ、オラはひとまず母ちゃんのとこに帰るだ〉グフが言った。《そうだな、では俺たちは一旦、妖精宮に顔を出すとするか。グフ、別れをすましたらオーベロン城へ来い。待っている》〈わかっただ〉〈と、ゆーわけだ、母ちゃん。オラ、妖精騎士団に入るだ……〉グフは上を見上げながら、母親に自分の決意を告げた。〔グフ……その方がお前にとって幸せならば、アタシは反対しないよ……〕さびしそうにグリフォンは言った。レッドキャップ・グフの母親は、鷲の頭部と獅子の体を持つ聖獣だった。いまグフはダズリング領にほど近いグリフォンの谷に来ていた。谷には無数に洞窟があり、その中のひとつにグフと母親は居た。体長三メートルはあるグリフォンと、身長がその半分もないグフ。狭い洞窟内なので、かなり窮屈そうに見える。〈じゃあな、母ちゃん。しばらく、お別れだ…〉グフはうつむいた。〔許しておくれ、グフ。アタシに甲斐性がないばかりに、グリフォン族には、つまはじきにされ……レッドキャップにさせちまった……〕グリフォンが大粒の涙を流し、グフの赤い帽子に落ちる。
〈何言ってんだい、母ちゃん。オラこそ、レッドキャップなんかになっちまって本当にすまねぇだ!〉
〈オラ、自分が陰口言われるのは構わねぇけど、母ちゃんまで言われるのはガマン出来ねぇから谷を飛び出したんだ。んでも、妖精騎士団に入ったとなりゃ、母ちゃんに対する風当たりもちったあマシになるかと思ってさ〉グリフォンが優しく、その両翼でグフを包み込む。
〔……バカだね、アンタは、本当に。本当にバカで優しい、自慢の息子だよ!〕
〈……母ちゃん…〉
グフは母親のぬくもりを忘れまいと、強くグリフォンを抱きしめた。その顔は涙で歪んでクシャクシャだった。
一方、グフと別れたルーたちは、クー・フーリンのいる妖精宮まで来ていた。
ダズリング伯爵領からは2キロほどの道のりである。
ルー・フーリンはレッドキャップ討伐での出来事を口実に、父へ報告がてら面会するつもりだった。
細く長い、戦士の間へと続く回廊を歩きながら、レイナルが猫に話かけた。
〔ルー様。いや、団長――本当にあのレッドキャップを入隊させるつもりですか!?〕
ルーは歩みを止め、レイナルに向き直る。
《レイナル――アイツのみかけに騙されるな。ヤツは確かに下品ではあるが、純粋で心根の優しい戦士だ。その上、腕も立つ》
猫団長は確信をもって、そう答えた。
京子は黙って会話に耳をそばだてている。
《それに――》
クスっと、ルーは笑った。
《入隊して間もない頃、毎日乱闘騒ぎを起こしていた、お前がそれを言うのか――》
ダーク・エルフは言葉につまった。
〔あ、あれはその、あの、若気の行ったり来たりというヤツで…〕レイナルはバツが悪そうに頭を掻いた。
《とにかく俺はヤツを気に入った。レッドキャップのグフは正式に妖精騎士団の団員として迎える。これは決定事項だ。いいな、レイナル!》
ルー・フーリンが念を押す。
〔――わかりました。団長がそこまでいうのなら、ヤツを信用してみましょう〕
レイナルは渋々了承した。試用期間という言葉がある。グフの働きが悪ければ、返品したらいいだけの話だ。
レイナルは、そう結論づけた。
話込んでいる内に猫とレイナルと京子は、戦士の間の扉の前に辿り着いた。
ケスリーは伝令要員なので、表で待機している。
ルー・フーリンは期待と緊張で、胸を膨らませていた。
《父上、入ります―》おもむろに黒猫はドアのノブを回し、室内へと肉球を踏み入れた。そこは異様な光景が展開していた。
戦士の間は、まるで台風が通り過ぎたかのように様々な物が散乱していた。
《父上! 賊ですか!?》
ルーは割れた花瓶の破片や、切り裂かれたカーテンの布きれや、こなごなになったシャンデリアを避けて、ゲイ・ボルグを抱きかかえたままの、クー・フーリンに訊いた。
息子と京子とレイナルの姿を認めた妖精王は、笑って言った。
《なに、ちょっと戦士の間を模様替えしていたところだよ》
《は!? そ、そうでしたか。私は、てっきり誰かが侵入したものと…》
明らかに何者かによって、荒らされた形跡であったが、妖精王クー・フーリンが白と言えば白なのである。例え、ルー・フーリンが黒と思ったとしても、妖精王の言葉は絶対であり、反論できない立場であった。何よりルー・フーリンは父を敬愛し、尊敬していた。クー・フーリンの言葉は神に等しいのだった。《レイナル、すまないが息子と、その人間の娘に大事な話があるんだ。悪いが席を外してくれないだろうか》
〔かしこまりました、王陛下――では、私は別室に控えておりますので、何かあれば、お呼び下さい〕
《ありがとう、レイナル。これからも息子をよろしく頼むよ》
〔は! もったいなき、お言葉……それでは下がらせていただきます〕
レイナルはドアを閉め、近くにある見張り番のための一室に入って行った。
豹牙鬼さんコンニチハ😸
ストーリーもどんどん展開してきましたが、気づけばもう200をとっくに過ぎてるんですね‼
小説スレでここまで続いてるのはすごいことですよね😲👏
しかもまだまだストーリーの序章の感じもするし😸
これからも陰ながら応援させていただきます🙆
特にグフを😹💕
《さて…》
クー・フーリンが近くの壁に、ゲイ・ボルグを立てかけ、京子に近づく。
《妖精宮へ、ようこそ。人間のお嬢さん――名前を教えてもらえるかな?》
美貌の妖精王は、京子に優しく語りかけた。「あ、わ、私、きょ、京子です! 藤原京子です!」
京子は緊張していた。人間界にも滅多にいない、美貌の持ち主である。線は細く見えるが、戦士の皮鎧に隠された、しなやかな筋肉と時折り見せる鷲の如き眼光で彼が歴戦の勇士であると知れた。
《ひかえろ、キョウコ!父上の御前だぞ!》ぼうっとして、ただつったったままの京子をルーがとがめた。
黒猫は、すでに片膝をつき、臣下の礼をとっている。
《良いのだよ、ルー。私は堅苦しいのは、あまり好きじゃないんだ。それより、ルー、こっちにおいで!》
ルー・フーリンは父親の前に立った。
すると、いきなりガバッと黒猫は抱きしめられてしまった。
《おかえり、ルー。会いたかったよ》
ルー・フーリンは感激で、あまり上手く喋れない。
《ち、父上……わ、私も……ルーも、おあ、おあ、お会いしとうございました!》
黒猫ルーの眼に、かすかに涙がにじんだ。
クー・フーリンはルーを一通りなだめると、今度は京子を抱きしめた。
《会いたかった……君は覚えてないかも知れないけど……君は私の友達の生まれ変わりなのだよ!》
京子はいきなりハンサムに抱きしめられて、パニックに陥っていた。
(キャー! こんなハンサムな人に、アタシってば抱きしめられてる!)
舞い上がる京子。
だが、京子は不思議な感覚も感じていた。
(アレ? アタシ、この人に抱きしめられたことある――多分、いいえ、絶対!)
前世の記憶など、かけらもないが、京子は直感で自分が妖精の生まれ変わりであると、徐々に信じはじめていた。
《さて、ルー。感激の再会も済んだことだし、そろそろ本題に入るが、いいかな?》
クー・フーリンが訊いた。
《はい、父上》
幾分、落ち着いたルーは言った。
《私の目の前で、彼女を守ると誓約(ゲッシュ)してほしい!》
妖精の誓約をゲッシュと呼ぶ。それは聖なる誓いで、誓約を履行することによって神々から力を与えられるものだった。だが、ゲッシュが破られると、逆に神々の加護を失い、力も消失してしまうというリスクもあった。それゆえ、交されるゲッシュは厳かで神聖で、守り続ける価値のある出来事に限定されていた。
ルー・フーリンは少し驚いたが、コクリとうなづいた。
《父上の頼みなら、喜んで!》
ルーは満面の笑みで答えた。
ケット・シーは京子に向き直り、片膝をついた。
《キョウコよ、俺は君をあらゆる魔の手から、守ることを誓おう!これはゲッシュである》
京子はポカンと、していたが、
「あ、ありがとう…」と、とりあえず言っておいた。
《これで、もう心残りは何もない》
クー・フーリンの言葉を聞きとがめた、ルーは言った。
《どういう意味ですか、父上!?》
ここにきて初めて、クー・フーリンは苦悩の色を見せた。
《……良く、お聞き、ルー。私は……もうすぐ、死んでしまうんだよ》
一瞬、ルー・フーリンは言葉の意味が理解できなかった。
笑えないジョークだ。冗談と黒猫は判断した。どうみてもクー・フーリンはピンピンしているし、病気の兆候は見られない。
《またまた、そのような冗談を。父上、ルーをからかっても面白くないでしょう?》
ルーは多少、不安げに言った。
《残念ながら本当のことなのだよ、ルー》
妖精王は悲しく微笑んだ。
《嘘だと言ってください、父上!》
京子はおろおろしていた。
黒猫ルーの父親であり、妖精界ティル・ナ・ノーグの王は、まもなく死ぬという。
確かに、これほどのハンサムが死んでしまうのは、世界的な損失だろう。と、考えた京子は軽い自己嫌悪に陥った。
(アタシって不謹慎)クー・フーリンは言った。
《私の死は魔女の予言によって定められているのだよ》
《そんなインチキ魔女は、このルーが懲らしめてやります!》
息子の気持ちが嬉しいクー・フーリンは、またもや薄く微笑んだ。《お前も知っての通り、魔女の予言の的中率は百パーセントだ。これは変えられない運命なのだよ……》
妖精王クー・フーリンが死ぬ――ルー・フーリンは、いまだかつて、そんな恐ろしいことは考えたことがなかった。
《イヤです、父上! ルーを一人にしないでください!》
黒猫はクー・フーリンにしがみついた。
とめどなく涙がルーの頬を伝い落ちる。
《お前は一人じゃないよ、ルー。妖精騎士団の仲間がいるじゃないか》
《そんなもの、父上が居なければ意味がありません! ルーは、少しでも父上の手助けがしたくて、妖精騎士団を作ったのですから》京子はクールな黒猫の本性を知った。冷静に見える仮面の下に、彼は炎のような激情を隠し持っている。普段、クールでいるのは感情の波に流されまいと自制しているのだ。
《妖精騎士団の団長にして、次のティル・ナ・ノーグの王、ルー・フーリンよ。私は死して後も、お前を守る!これはゲッシュである》
クー・フーリンが誓約した。ゲッシュの発動は宣言した瞬間から、発動される。死んでまで、なお我が子を守ろうとするクー・フーリンの面には、ゆるぎない決意がみなぎっていた。
《……やめてください、父上! そんなゲッシュなど、要りません!ルーは父上に一分、一秒でも長生きしてもらいたいのです!》
泣きながらルーは、叫ぶように言った。
『ふ~ん、今度の王様は泣き虫ね』
呆れたような少女の声が、三人の頭上から降ってきた。
一斉に三人は上を見上げると、そこには紫の長い髪を持つ少女が、空中に浮かんでいた。ルーは戦士の顔になり、クー・フーリンから離れるとフラナガッハを抜いた。
《何者だ、貴様!どうやって妖精宮へ忍び込んだ!》
少女は肩をすくめた。クー・フーリンが間に割って入る。
《リア殿、いきなり現れては息子らも驚きましょう》
《父上、こやつが予言の魔女ですか!》
ルー・フーリンが訊いた。
クー・フーリンは困ったように頭を掻く。
《そのお方は違う。私に死の予言をしたのは、影の国の魔女・スカハサだ――》
少女は憤慨して、黒猫に人差し指をつきつけた。
『とんだ、言い掛かりね。ルー・フーリン!アンタの第一印象は、超サイアク。これが次の王様かと思うと、先が思いやられるわ!』空中に浮かんでいる少女は、思いっきりアッカンベーをかました。
《うるさい! お前こそ無礼だ。父上は、まだ死んではいないし、死なせない!》
少女は紫の髪をかきあげ、
『ルー・フーリンは、ファザコン🎵』
からかうように歌った。
《貴様、殺す!》
ルーは鬼の形相となった。
《よさないか、ルー!そして、リア殿!悪ふざけが過ぎますぞ!》クー・フーリンが二人を一喝した。
《ですが父上、こやつは私ならともかく、父上まで愚弄したのですぞ》
《良い。私が死ぬのは事実だ。それより、この方と仲良くしてほしい》
ルーはクー・フーリンの真摯な瞳に見つめられ、押し黙った。
『は~い、ごめんなさい。軽いジョークよ。でもね、ルー・フーリン――アンタはこれからいろんな試練にさらされるわ。こんな小娘の戯れ言なんか、気にしないような鉄の心臓を持ちなさい。英雄王クー・フーリンの意志を継ぐ者として!』
一方、こちらは喋る斧を持つレッドキャップ。
グフは母親と別れ、オーベロン城を目指していた。その右肩には、ちびドラゴンが留まっている。
グリフォンの谷の横側には、広大なアベル草原が広がっている。そこを抜けると、目当てのオーベロン城に辿り着く。
グフはわくわくしている。なぜなら、グフはいつも一人だったからだ。グリフォンと妖精の間に生まれたグフは、どちらの種族にもとけこめず、常に孤独であることが普通だった。唯一の理解者である母が一族で孤立しないよう、グフは自分から距離を置いていた。そんなどっちつかずのレッドキャップに価値を見いだし、能力を評価してくれたルー・フーリンが仲間に誘ってくれたのだ。
グフはただ純粋に、仲間が出来たことが嬉しかった。
- << 251 いよっ👏 まってました‼ グフ頑張れ~😹
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私の煌めきに魅せられて
ナンノハナシ? 「歌和井さん、モテるけどこういうの鈍いんだから」 …(瑠璃姫)
102レス 1310HIT 瑠璃姫
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🌊鯨の唄🌊②4レス 152HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 175HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 215HIT 小説家さん
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また貴方と逢えるのなら16レス 493HIT 読者さん
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今を生きる意味78レス 552HIT 旅人さん
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また貴方と逢えるのなら
『貴方はなぜ私の中に入ったの?』 『君が寂しそうだったから。』 『…(読者さん0)
16レス 493HIT 読者さん -
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 152HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 175HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 215HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1435HIT 檄❗王道劇場です
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泣ける曲教えてください。
泣きたいです。
28レス 587HIT 匿名さん -
彼氏との関係にモヤモヤ
SNS一切やらない彼氏のことで愚痴です 大学生カップルです 最初はSNSやらない人のが浮…
20レス 357HIT おしゃべり好きさん -
恋人いない歴=年齢。アラフォー女子。
彼氏いない歴=年齢な女子です。 現在42歳、生まれてこの方、男女交際というものを一度たりとも経験し…
10レス 311HIT 匿名さん (40代 女性 ) -
知らない人から殺害予告
これは昨日の話です。 電話がかかってきました、だけど見覚えも無い電話番号。 気になったので返事を…
12レス 406HIT 匿名さん -
美人で仕事ができるのに
職場の女性で、美人で仕事も出来るのになんとなく男女共に全員にあまり好かれてない人がいます。 私…
7レス 230HIT 匿名さん -
心配性すぎる母親
つい最近、婚約しました。 私は35才、彼が45才です。 お互いの年齢もあり結婚前提で交際しスピー…
7レス 215HIT 婚約中さん (30代 女性 ) - もっと見る