小説・王族な猫👑🐱
猫を主人公にした物語を書いてみたいと思います。よろしければ、感想など下さい。ではでは( ̄ー+ ̄)ニヤリ
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>> 450
しばしの沈黙の後、ファリサールがおもむろに口を開いた。 『……私がグフの守護精霊になりましょう』
エンリュミオンが驚愕となった。
《バカな! ファリサール――いや、リサよ! そなた自身が消滅してしまうのだぞ!》
エンリュミオンが娘を愛称で呼んだ。
『構いません。出来の悪い弟の世話をするのは、良く出来た姉のつとめですわ』
リサは薄く微笑んだ。同化に対する恐怖がないわけではない。ただ、ファリサールは純粋にグフを守りたいのだ。
《――わかった。グフを頼むぞ、リサ》
『承りました――』
こうしてファリサールは、グフの武器に宿る守護精霊となった。
>> 447
イルマは死を覚悟し、目をつぶった。
ガルフォンは彼女が谷底に激突する寸前で、巨躯を滑り込ませクッションの代わりとなった!
イルマがバウンドし…
〈――あなたがガルフォン殿でしたか〉
イルマは片膝をつき、頭を垂れた。
《して、妖精の娘よ。用向きは何じゃ?》
ガルフォンが問うた。
〈私は妖精では、ありません。厳密に言うと、半神半人(デミゴッド)に当たります〉
イルマは老グリフォンに己れの素性を明かした。
彼女は半分は神で、半分は人なのだった。
《これは失礼した、デミゴッドの娘。わしに逢いにきた理由を教えてもらえるだろうか?》
- << 470 イルマは背中に負った一振りの斧を、ガルフォンに差し出した。 〈我が師・ゴブニュから、この斧をガルフォン殿にと言付かって来ました〉 ガルフォンは長い首をひねり、 《フム、異なことを――このような武器は、我ら魔獣にとっては無用の長物……何せ、我らの存在自体が武器なのだからな……》 〈……いえ、我が師ゴブニュは――いずれ、この業物を必要とする時が来る、とおっしゃってました〉 老グリフォンは考え込んだ。 (必要とする時が来る……か) 〈言い忘れましたが、この斧は精霊王エンリュミオン様のたっての願いで鍛えられたもの――中には風の精霊シルフの魂が封じ込められているとか……〉 《何ッ! エンリュミオン殿の計らいか!?》 その時、第三者が口を出した。 〔初めまして、ガルフォン様――インテリジェンス・アックスのリサと申します。以後、お見知りおきを!〕 斧リサは元気良くガルフォンに挨拶した。 彼女は、かつてファリサールと呼ばれた風の上級精霊の成れの果てであった。
>> 433
駆けつけたクー・フーリンと猫妖精ルネも不審げに異世界からの来訪者を見つめている。
その状況に気づいたエディンは、
《紹介しよう、麗子。こちら…
麗子は戸惑っていた。黒髪の男はともかく、しゃべる猫に対して、どう挨拶したらよいか、根がマジメな麗子は困っている。
すると、メイド服の黒猫がペコリと頭を下げた。
『初めましてニャ!
エディンさミャの身のまわりの世話をしているルネ、ニャ。よろしく、ニャ!』
>> 453
(なんて……礼儀正しい猫なんだ……。おまけにカワイイ)
麗子は顔に似合わず、カワイイものが好きだった。ヤンキーとファンシーが同居したような性格なのである。
「よ……よろ…しく、あたし、麗子――一つ聞いてもいいかな? なんでメイド服なんだ!?」
麗子は疑問を口にした。猫なのだし、裸でも支障はないはずである。
エディンが横から口を挟み、
《ああ、私の趣味だ! 萌えるだろ!》
銀髪の美女は満面の笑みで、そう答えた。
- << 484 「……萌えって――アキバじゃあるまいし……」 麗子は軽い脱力感を覚えていた。 (メイド服の次は、ゴスロリかな……) ふと、いらぬ妄想が麗子の頭をかすめた時、 《初めまして。紹介が遅れましたね。私がこのティル・ナ・ノーグの王、クー・フーリンです。よろしく》 眼前に長身の男が立っていた。 クー・フーリンは麗子に微笑みかけた。 麗子は知らずの内に、顔が赤くなっている。 クー・フーリンと名乗る男は、優しく穏やかなグリーンの瞳をしていた。 宝石に例えるなら、エメラルドのような輝きだ。 だが、クー・フーリンの魅力はそれだけではなく、生まれ持った気品と狼のような眼光の鋭さとを有しており、麗子の心は一瞬で妖精王に奪われた。 (綺麗だ……こんなに綺麗な男の人を見るのは生まれて初めてだ……) 「よ、よろ……しくお願いします。あたし、夜神麗子です。麗子って、呼んでください――」
>> 438
〈これしきの痛み、ビフロンズの無念に比べれば――〉
サブナックの強固な意志が、ついにアラストールの意識を凌駕(りょうが)した。
〔……止めろ…
魔剣アラストールを手に入れたサブナックは、出向く所があった。
バールゼフォンの所である。
ティル・ナ・ノーグから戻ってから報告しなければならぬことが山ほどあった。
数時間後――
サブナックはバールゼフォンを前にしていた。
玉座に足を組んだままのバールゼフォンは、不機嫌そうに口を開いた。
「サブナック侯、ティル・ナ・ノーグで、たかが妖精のガキに負けたと言う噂があるが、真か?」
片膝をついたサブナックはバールゼフォンを見、
〈面目次第もない――事実でござる。それがしの腕前では、手傷を負わすことも難しかった。弁解はせぬ。いかようにも処分を受ける覚悟で参った〉
>> 455
サブナックを取り囲むように周囲には百名ほどの悪魔が居た。バールゼフォンの部下や賛同者たちであった。
〔バールゼフォン様はサブナックの腕前を買いかぶりすぎたのでは? こんな弱っちい野郎を派遣せずとも、このアブラクサスめに一存いただければ、ルー・フーリンの首など朝飯前!〕
その中の一人の悪魔が手を上げた。
ニワトリの頭部に、両足は蛇、それぞれの腕にはムチと楯を持った悪魔アブラクサスであった。
アブラクサスに賛同する声が周囲で上がる。
魔剣士サブナックの技量に不信を持つ輩たちである。
〈……それがしの剣技に不服があるのなら、試されるがよかろう。この場でお相手いたす〉
サブナックは腰の剣の柄を握りしめた。
- << 458 〔面白い。サブナック侯の剣技を常々拝見したいと思っていた所だ〕 「ティル・ナ・ノーグ侵攻の失敗は公開処刑と言いたい所だが、剣帝アスモデウスに膝をつかせたと言う侯の技量が本物であることが証明できるのであれば、責は問わぬ!」 アブラクサスの言葉を引き取ったバールゼフォンは、剣の腕前を示すことで責任を追求しないことを明言した。 もとより魔界は実力主義の世界である。魔神を束ねる八人の魔王の一人と御前試合で引き分けたサブナックの剣技が真実であれば、殺すには惜しい逸材と言うことになる。ゆえにバールゼフォンは獅子頭の剣士に生き残るチャンスを与えたのだった。
>> 409
カイイリエルは愛用の剣・スルトをおもむろに抜いた。
〈この剣にかけても、リンドブルムはオレが倒す〉
誰かがやらなくてはいけないことであるなら…
討伐を承ったものの、カイイリエルは途方にくれていた。
得意な得物はランスと剣だが、戦い方を教えてくれたのはメタトロン――その人である。
今さらになってカイイリエルは後悔し始めていた。
〈チキショウ! やっぱり止めときゃよかった!〉
下界へと向かいながらカイイリエルは吐き捨てるように言った。
二頭の天馬に牽かせた戦車・メルカバでの出陣である。カイイリエルは知らずに手綱を強く握りしめていて、天馬は軽くいななきスピードを緩めた。
(このメルカバがティル・ナ・ノーグまでたどり着かなきゃいいのに)
カイイリエルは複雑な気持ちで、戦車を走らせていた。
- << 467 ティル・ナ・ノーグに近づくにつれ、カイイリエルは心臓が早鐘を打つ自分を自覚せざるを得なかった。 〈オレの最強の技、トリスアギオンが本当にメタトロン様……いや、リンドブルムに果たして通用するだろうか!?〉 ヒヒーン! カイイリエルの物思いを天馬のいななきがかき消した。 戦車メルカバが、ティル・ナ・ノーグへと到着したのだ! 紅獅子の鎧をまとった裁天使は、もう戦士の顔となっていた。 (やるしかない。リンドブルムはオレが止める! あの人が生き恥をさらすくらいなら――部下のオレが引導を渡してやる!) ガオオーン! 天地を震わす吠吼が、カイイリエルの耳をつんざく。 炎の鞭と二つ名で呼ばれる裁天使は、本能的に魔獣リンドブルムの威嚇を感じ取った。
>> 456
サブナックを取り囲むように周囲には百名ほどの悪魔が居た。バールゼフォンの部下や賛同者たちであった。
〔バールゼフォン様はサブナックの腕前を買…
〔面白い。サブナック侯の剣技を常々拝見したいと思っていた所だ〕
「ティル・ナ・ノーグ侵攻の失敗は公開処刑と言いたい所だが、剣帝アスモデウスに膝をつかせたと言う侯の技量が本物であることが証明できるのであれば、責は問わぬ!」
アブラクサスの言葉を引き取ったバールゼフォンは、剣の腕前を示すことで責任を追求しないことを明言した。
もとより魔界は実力主義の世界である。魔神を束ねる八人の魔王の一人と御前試合で引き分けたサブナックの剣技が真実であれば、殺すには惜しい逸材と言うことになる。ゆえにバールゼフォンは獅子頭の剣士に生き残るチャンスを与えたのだった。
>> 458
アブラクサスがムチを一振りすると、五体の悪魔がのそりと進み出た。
〈それがしの剣技、とくとご覧じろ!〉
サブナックが吼える。
それを合図に、五体の悪魔は四方から襲いかかった!
〈奥義――竜・絶・乱!〉
>> 459
魔剣アラストールが鞘から解き放たれた!
サブナックの振るう超高速の剣撃が、襲いかかる悪魔どもの手首を切り落とし、耳を削ぎ、目玉をくり抜き、喉笛をかききり、心臓を貫いた!
獅子頭の剣士の表情が恍惚となり、サブナックは殺戮の快楽に酔いしれる。
みるみるうちに五体の悪魔は、哀れな肉塊へと姿を変えた。さらにアブラクサスに斬りかかろうとするサブナックの眼前に一本の矢が射られ、魔剣士は我へと返った。
「そこまでにしておくのだな、貴公の腕前のほどはわかった。これ以上の殺戮は無意味だ。数少ない手駒をいたずらに減らす必要もあるまい」
射手の主は、羽根飾りをつけた帽子をかぶった狩人のいでたちをした男だった。
〈……貴公は射手の侯爵、バルバトスか!〉
>> 460
サブナックの問いかけに、バルバトスは笑みで答えた。
「いかにも。私は射手の侯爵バルバトスだ。お初にお目にかかる、サブナック殿。貴公の剣技は見事であった――よもやアブラクサス殿も、サブナック殿の技量に異論はあるまい」
鶏頭の悪魔は、苦虫を噛んだかのような顔をして、サブナックを見つめている。
確かに獅子頭の剣士の技量は認めざるを得ない。アブラクサスの子飼いの悪魔が五人も、なすすべもなく殺られたのだ。
しかも、サブナックには返り血すらついていない。
アブラクサスは渋々と、獅子頭の侯爵の腕前を認めた。
>> 461
「さて、そうなると……」
玉座に座ったままのバールゼフォンが自慢のヒゲをしきりに撫でる。
「サブナック侯ほどの達人を投入しても、ティル・ナ・ノーグ侵略は難しく、戦士の層が厚いと言うことだな」
バールゼフォンの言葉に、集められたレギオン(軍団)らも思い至った。
(我が息子、ベルゼビュートと同じく一筋縄では行かぬか)
バールゼフォンには杞憂があった。それは実の息子ベルゼビュートと、静観を決め込んでいる八大魔王のメンバーのことであった。手負いのアスタロトは、ともかく残りの魔王衆の動向が気にかかるのであった。
>> 462
しばしの黙考の後に、バールゼフォンが口を開いた。
「よかろう。サブナックとバルバトスの両名は、再度ティル・ナ・ノーグへと侵入し、ルー・フーリンの首を上げて来い! アブラクサスは他の有力な魔神を、我が軍団に引き抜いてくるのだ。よいな!
サブナック侯よ、次にしくじることがあれば……わかっていような――」
>> 463
バールゼフォンの眼がギラリと光り、サブナックを威圧した。
魔界の覇者たらんとするバールゼフォンの野心の炎をサブナックは感じ取った。
(……失敗すればバルバトス卿に始末させる、と言うことか――に、しても、この強烈な威圧感はどうしたことだ!? グフとは、また違うプレッシャーを感じさせる……)
ティル・ナ・ノーグにバルバトスを随行させ、バールゼフォンは獅子頭の剣士を監視するつもりである。魔界とティル・ナ・ノーグを両方手中に収めるには、こうした別働隊も必要となってくるだろう。バールゼフォンの策がどういう模様を描いていくか、サブナックは知る由もなかったが、再度ティル・ナ・ノーグへ行けることは、グフとの再戦を願うサブナックにとっては渡りに船であった。
〈御意に――〉
獅子頭の剣士は片膝をつき、頭を垂れた。
- << 478 万魔殿を出たアブラクサスは地面に、ペッとツバを吐いた。 〔ケッ! とんだ誤算だぜ。サブナックに一泡ふかせて、バールゼフォンの印象を良くしようと思ったのによ〕 鶏頭の悪魔は腹立ちまぎれにムチを振るう。 『ずいぶん、荒れてるじゃないかアブラクサス?』 ふいに頭上から声がした。 〔――アガリアレプト……貴様か〕 上空に浮かんだまま、寝そべった姿勢でいる全身赤一色の悪魔はニヤリと笑った。 その悪魔はこめかみから一対の角を生やし、背中にはコウモリの翼があり、アゴが尖っていた。 〔何の用だ。俺は忙しいんだ〕 そっけなく、アブラクサス。 『有力な魔神を引き抜いてくるんだろ。俺もつき合うぜ』 アガリアレプトは、しきりにアゴを撫でながら言った。 アブラクサスは一瞬、気色ばんだが気を取り直した。 (地獄の旅団長、アガリアレプト……何を企んでいるかはわからぬが、利用価値はありそうだ) 〔来たいなら、ついて来い。魔神アモン殿の館だ!〕
- << 481 バールゼフォンとの謁見を済ませた後、サブナックは身支度を整えると、バルバトスとの約束の場所に出向いた。 魔界・万魔殿の四隅にはジグラットと呼ばれる聖塔が天を突くかのようにそびえ立っている。その中の一つ、血族の聖塔の下での待ち合わせであった。
彼は探し続けていた。この広大な妖精界ティル・ナ・ノーグに散らばるカケラを。
――ゼフィルの森の中ほどの灌木の下で、飛び跳ねている一匹のヒキガエルがいた。
『オレっチしがないヒキガエルぅ~。今日も泣く泣く探し物~♪』
そのカエルは歌っており、普通のカエルとは何かが違った。
そう、そのカエルは脚が11本もあり体色は青に黄色の筋が走ったツートンカラーであった。
『や~れやれ、魔界最強の悪魔であるはずの、この麗しいミシャンドラ様がな~ぜ~に、こんな目に――』
はぁ~っと、変なカエルは深々とため息を吐き出す。
>> 465
ヒキガエルは天をにらみつけ、
『これと言うのも、あのバールのヤローの所為(せい)だ!
な~にが、東の王だ! アイツに王様やらすくらいなら、猫の方がまだマシだっての!』
しゃべる両生類は悪態をついた。
ペッと地面にツバを吐き、
『ぜってー、あのヤローに一泡ふかせてやる! まぁ、赤本はこっちにあるし、後はオレっチのナイスバディだけかぁ~』
再度ため息をついたミシャンドラは、またピョコンと飛び跳ね探し物を見つける旅に出かけた。
『オレっチしがないミシャンドラ~。今日も負けじと探し物~♪』
二番もあるようだった。
>> 457
討伐を承ったものの、カイイリエルは途方にくれていた。
得意な得物はランスと剣だが、戦い方を教えてくれたのはメタトロン――その人である。
今さ…
ティル・ナ・ノーグに近づくにつれ、カイイリエルは心臓が早鐘を打つ自分を自覚せざるを得なかった。
〈オレの最強の技、トリスアギオンが本当にメタトロン様……いや、リンドブルムに果たして通用するだろうか!?〉
ヒヒーン!
カイイリエルの物思いを天馬のいななきがかき消した。
戦車メルカバが、ティル・ナ・ノーグへと到着したのだ!
紅獅子の鎧をまとった裁天使は、もう戦士の顔となっていた。
(やるしかない。リンドブルムはオレが止める! あの人が生き恥をさらすくらいなら――部下のオレが引導を渡してやる!)
ガオオーン!
天地を震わす吠吼が、カイイリエルの耳をつんざく。
炎の鞭と二つ名で呼ばれる裁天使は、本能的に魔獣リンドブルムの威嚇を感じ取った。
- << 479 それは、かつて天界において最強の称号を冠する者であった。 それは、かつて黒き軍神と呼ばれた至高の天使の成れの果てであった。 そして、それは神に次ぐ能力を有する存在であった。 その者は名を、メタトロンと言った―― 堕天せし、魔獣はリンドブルムと呼ぶ、最強にして災厄の象徴となった。 漆黒のドラゴンは、カイイリエルの気配を感知し、再び威嚇して吼えた。 ガオオーン! 大気を震わせるリンドブルムの吠え声に、炎の鞭は言いようのない威圧感と恐怖とを感じていた。
>> 363
その頃、地下牢ではアスタロトが牢を破ろうとしていた。
厳密に言えば逃亡は、いつでも出来るが、知恵者アスタロトはかねてから機会をうかがっていた…
数日後――
牢から抜け出たアスタロトは、カラスの姿のままで魔界の東方にある魔獣の森の中に身を隠していた。
魔界全体に根を張る、巨大樹ルシドラシルの無数にある枝の一つに彼女は居た。
カラスはなにげに横を向くと、そこには紳士然とした黒いスーツに身を包んだ男が立っていた。彼は眼鏡をかけた、冷徹そうな瞳でアスタロトを射た。
《……ベールゼブブ!?》
「久しぶりですね、アスタロト――元気でしたか?」
魔界四大実力者の一人、ベールゼブブは冷ややかな笑いを浮かべた。
>> 468
《――それは皮肉か……万魔殿を留守にしていて良いのかベールゼブブ――いや、バールゼフォン!》
「やはり、あなたは侮れない女だ。アスタロト……私の正体を知っていたとは!?」
芝居がかったようにベールゼブブは言った。
《貴様の下らぬ小芝居なぞ、どうでも良い! 一体、何が狙いだ?》
カラスが訊いた。
ベールゼブブはニヤリと笑い、
「おお、アスタロトよ。そんなに血相を変えずとも……一度は深く愛し合った仲ではないか? 狙い――そんなもの、魔界の支配に決まっているだろう。野心家ナポレオンの魂を宿している君にしては、察しが悪いな」
アスタロトは、かつてフランスを一夜にして己れの帝国に変えてしまった野心家の魂を有していた。
稀代の策士、ナポレオン・ボナパルトの魂を――
- << 471 《……なぜ、私の所へ来た?》 アスタロトが尋ねた。 「つれないのは相変わらずだね、アスタロト。まぁ、良い。本題に入ろう――おかしいと思わないか? サタンが死んでも、主だった魔王衆に動きがない。特にアスモデウスやマルコキアスやルキフェルの動向が気にかかるのだが……」 カラスの姿から一転して、アスタロトは人間へと変身した。 美貌の悪魔は再生した手で、長い闇色の髪をかきあげ、 《フン! それぞれに思惑があるのだろうさ。ベールゼブブ――貴様とて、そうではないのか!》
>> 452
〈――あなたがガルフォン殿でしたか〉
イルマは片膝をつき、頭を垂れた。
《して、妖精の娘よ。用向きは何じゃ?》
ガルフォンが問うた。
〈私は…
イルマは背中に負った一振りの斧を、ガルフォンに差し出した。
〈我が師・ゴブニュから、この斧をガルフォン殿にと言付かって来ました〉
ガルフォンは長い首をひねり、
《フム、異なことを――このような武器は、我ら魔獣にとっては無用の長物……何せ、我らの存在自体が武器なのだからな……》
〈……いえ、我が師ゴブニュは――いずれ、この業物を必要とする時が来る、とおっしゃってました〉
老グリフォンは考え込んだ。
(必要とする時が来る……か)
〈言い忘れましたが、この斧は精霊王エンリュミオン様のたっての願いで鍛えられたもの――中には風の精霊シルフの魂が封じ込められているとか……〉
《何ッ! エンリュミオン殿の計らいか!?》
その時、第三者が口を出した。
〔初めまして、ガルフォン様――インテリジェンス・アックスのリサと申します。以後、お見知りおきを!〕
斧リサは元気良くガルフォンに挨拶した。
彼女は、かつてファリサールと呼ばれた風の上級精霊の成れの果てであった。
- << 477 こうしてガルフォンはイルマと別れ、斧リサを住処とする洞窟へと持ち帰った。 老グリフォンは器用にクチバシで、斧リサを壁に飾った。 グフはガルフォンが持ってきた武器をしげしげと見つめている。 今のグフはグリフォンの姿をしている。が、体毛は全身が青であった。 〈ジイちゃん、遅せぇだ! オラ、待ちくたびれただ――しかも土産がこんな腹のタシにもならねー斧だなんて……〉 グフは多少、すねていた。そこへ、 〔あらあら、ずいぶんね。この斧リサ、そんじょそこらの武器ではございませんことよ〕 グフは文字通り、飛び上がった。狭い洞窟内なので、飛んだ拍子にグフは頭を天井にぶつけた。 〈ぶ、ぶ、ぶ、武器がしゃべったぁ!〉 これが斧リサとグフの初めての出逢いであった。
>> 469
《――それは皮肉か……万魔殿を留守にしていて良いのかベールゼブブ――いや、バールゼフォン!》
「やはり、あなたは侮れない女だ。アスタロト………
《……なぜ、私の所へ来た?》
アスタロトが尋ねた。
「つれないのは相変わらずだね、アスタロト。まぁ、良い。本題に入ろう――おかしいと思わないか? サタンが死んでも、主だった魔王衆に動きがない。特にアスモデウスやマルコキアスやルキフェルの動向が気にかかるのだが……」
カラスの姿から一転して、アスタロトは人間へと変身した。
美貌の悪魔は再生した手で、長い闇色の髪をかきあげ、
《フン! それぞれに思惑があるのだろうさ。ベールゼブブ――貴様とて、そうではないのか!》
>> 471
ベールゼブブはニヤリと笑い、
「それもそうだな」
《魔王衆の奴らとて、バールゼフォンとベルゼビュートが共倒れするのを待っているだけではないのか》
「有り得るな。そこで相談だが、アスタロト――君には、私が魔界を統一するまで、動いてほしくないのだが……どう、だろう?」
《それは脅しか?》
「とんでもない。蠅の王が直々にお願いしているだけさ」
ベールゼブブの瞳が妖しく、ゆらめく。
魔力を最大限に高めた邪眼状態――俗に魔界では、イーブル・アイと呼ばれるものだった。
《それが脅迫と言うのだ、蠅の王。すでに戦闘体勢に入ってるくせに、白々しい真似は止めろ! もとより、このアスタロト――魔界の王座争奪戦に加わる気はない。勝手に殺し合うが良いさ。私は高みの見物としゃれ込ませてもらおう》
妖艶に笑うアスタロトの瞳の奥は、笑ってはいなかった。
>> 472
「まぁ、良いだろう。それが本心かは、ともかく――今は静観しているのが、君にとっては得策だろうからね」
ベールゼブブは微笑を浮かべた。
《魔界の玉座にふさわしいのは、父か子か……》
嘲笑うかのように、アスタロトはベールゼブブを見つめる。
「さぁ、果たしてどちらだろうね。まったく、君は厄介なモンスターを産んでくれたものだ――」
>> 473
訊くなり、アスタロトがさも可笑しそうに笑い出した。
《何を言っている。子種を仕込んだのは貴様だろう――》
ベールゼブブはため息をつき、
「……まさか、クリムゾンを使い魔にするほどの魔力の持ち主に成長するなぞ、思ってはいなかったさ」
アスタロトの耳に飾られていた炎竜のピアスは、息子ベルゼビュートのものとなった。
《フン、クリムゾンなら、いつでも取り返せるさ――今は、かわいい我が子に豪華なオモチャを貸しているだけだ》
「そうだったな。忘れていたよ、君のピアスは一つではないことを!」
美貌の悪魔は指をパチリと鳴らすと、何もない空間から突如、青いピアスを出現させた。
「海竜のピアス――レヴィヤタンか……」
>> 474
アスタロトは優雅な仕草で、ピアスを左耳につけた。
《どうも、ピアスをしていないと落ち着かないようだ》
「君には赤い血の色のピアスが似合うよ。赤、と言えば『アッピンの赤い本』を知ってるかい?」
ベールゼブブの問いに、アスタロトは目線で応えた。
《愚問だな。この魔界で『赤の書』の存在を知らぬ者など、いないはず――もっとも、下級の悪魔や格下の魔神は知らないヤツもいるだろうがな》
《で、その『赤の書』が、どうしたのだ?》
「……『アッピンの書』は魔界に存在していない――」
《ほう、では、どこにあると言うのだ蠅の王殿!?》
「妖精界ティル・ナ・ノーグにある……バールの部下、ミシャンドラに盗まれてな!」
>> 475
《ミシャンドラ……噂には聞いている。確か、魔界最強の悪魔と公言してはばからないお調子者だとか――》
「悔しいが魔界最強と言うのは当たっている。一介の悪魔でありながら、魔神に匹敵する潜在魔力を持っているヤツだ。ただし、かなりの変わり者で称号や序列には興味がないと言う話だ」
《ククク、ますます面白そうなヤツだな。しかも、あの『アッピンの赤の書』をバールのヤツから盗み出してくる、とんでもない悪魔がいたとはな!》
呵々とアスタロトは笑った。
「まったくだ。あの本には魔界の悪魔のほとんどの真の名が記されているからな。『アッピンの本』さえ、あれば魔界を牛耳ることも可能になる……もし、ミシャンドラがそのつもりならば、の話だが」
- << 487 《本など、当てにせずとも――貴様なら魔界を掌握することも可能であろうに?》 ベールゼブブは鼻で笑った。 《何が可笑しい?》 「この魔界にどれだけの魔神が居ると思う……たとえ、72柱の魔神の能力を手に入れたとしても、魔界の最下層の暗黒界クリフォトに住む古代の魔神どもを制圧しなければ、真の支配とは言えぬ!」
>> 470
イルマは背中に負った一振りの斧を、ガルフォンに差し出した。
〈我が師・ゴブニュから、この斧をガルフォン殿にと言付かって来ました〉
ガルフォン…
こうしてガルフォンはイルマと別れ、斧リサを住処とする洞窟へと持ち帰った。
老グリフォンは器用にクチバシで、斧リサを壁に飾った。
グフはガルフォンが持ってきた武器をしげしげと見つめている。
今のグフはグリフォンの姿をしている。が、体毛は全身が青であった。
〈ジイちゃん、遅せぇだ! オラ、待ちくたびれただ――しかも土産がこんな腹のタシにもならねー斧だなんて……〉
グフは多少、すねていた。そこへ、
〔あらあら、ずいぶんね。この斧リサ、そんじょそこらの武器ではございませんことよ〕
グフは文字通り、飛び上がった。狭い洞窟内なので、飛んだ拍子にグフは頭を天井にぶつけた。
〈ぶ、ぶ、ぶ、武器がしゃべったぁ!〉
これが斧リサとグフの初めての出逢いであった。
>> 464
バールゼフォンの眼がギラリと光り、サブナックを威圧した。
魔界の覇者たらんとするバールゼフォンの野心の炎をサブナックは感じ取った。
(……失…
万魔殿を出たアブラクサスは地面に、ペッとツバを吐いた。
〔ケッ! とんだ誤算だぜ。サブナックに一泡ふかせて、バールゼフォンの印象を良くしようと思ったのによ〕
鶏頭の悪魔は腹立ちまぎれにムチを振るう。
『ずいぶん、荒れてるじゃないかアブラクサス?』
ふいに頭上から声がした。
〔――アガリアレプト……貴様か〕
上空に浮かんだまま、寝そべった姿勢でいる全身赤一色の悪魔はニヤリと笑った。
その悪魔はこめかみから一対の角を生やし、背中にはコウモリの翼があり、アゴが尖っていた。
〔何の用だ。俺は忙しいんだ〕
そっけなく、アブラクサス。
『有力な魔神を引き抜いてくるんだろ。俺もつき合うぜ』
アガリアレプトは、しきりにアゴを撫でながら言った。
アブラクサスは一瞬、気色ばんだが気を取り直した。
(地獄の旅団長、アガリアレプト……何を企んでいるかはわからぬが、利用価値はありそうだ)
〔来たいなら、ついて来い。魔神アモン殿の館だ!〕
- << 499 アブラクサスとアガリアレプトが、アモンの館へとたどり着いた時に抱いた印象は同じものだった。 館はすべてが華美な装飾が施され、随所に宝石などをあしらった柱や、奇妙なオブジェなどが乱立しており、人間界風に言う所の成金趣味の様相を呈していた。 しばらく待たされた悪魔二人は、これまた悪趣味なアモンの私室へと通された。 《で、このワシに何の用だアブラクサスとやら?》 アモンはお気に入りの黄金で出来た安楽椅子に足を組んで腰かけていた。 その姿は、小柄な老人であった。一時期は、八大魔王に籍を置いていたこともある影の実力者だ。 〔魔神アモン閣下、是非とも我が主・バールゼフォン様の麾下(きか)へと、お入りいただきたく参上いたしました次第でございます〕
>> 467
ティル・ナ・ノーグに近づくにつれ、カイイリエルは心臓が早鐘を打つ自分を自覚せざるを得なかった。
〈オレの最強の技、トリスアギオンが本当にメタ…
それは、かつて天界において最強の称号を冠する者であった。
それは、かつて黒き軍神と呼ばれた至高の天使の成れの果てであった。
そして、それは神に次ぐ能力を有する存在であった。
その者は名を、メタトロンと言った――
堕天せし、魔獣はリンドブルムと呼ぶ、最強にして災厄の象徴となった。
漆黒のドラゴンは、カイイリエルの気配を感知し、再び威嚇して吼えた。
ガオオーン!
大気を震わせるリンドブルムの吠え声に、炎の鞭は言いようのない威圧感と恐怖とを感じていた。
>> 479
ゼフィルの森に隣接するラギア平原に、恐怖の化身リンドブルムの姿があった。
側には小さな川が流れており、魔獣はそこへ差しかかると歩みを止めた。
それは異形であった――
一対の、野牛を連想させる角。矢のように尖った尾。全長十数メートルはあろうかと言う漆黒の巨体。そして、爛々と黄金色に光る双眸――すべてが異形であった。
ティル・ナ・ノーグに吹く風が、リンドブルムの出現に呼応するかのように激しさを増して行く。
漆黒の魔獣が、ふと後ろを振り向いた時――そこには紅獅子の鎧をまとう、ロンギヌスの槍を構えたカイイリエルが立っていた。
〈行くぞ、リンドブルム! 神の槍の前にひれ伏せ!〉
- << 482 カイイリエルが黒竜の背後から襲いかかり、背中に聖槍ロンギヌスを突き立てる! かすかな肉をえぐる感触に、裁天使は手応えを感じた――のも束の間、リンドブルムの強烈な尾の一振りがカイイリエルを空中高く弾き飛ばした! 〈がはっ!〉 胸を強打しながらも、彼は何とか空中で態勢を立て直す。 (……この鎧を着ていなかったら、とっくにあの世行きだな――) 圧倒的なリンドブルムの攻撃力をカイイリエルは肌で感じていた。 (やはり、少しずつ深追いせぬ攻撃で体力を削るしかないのか!?) 裁天使は途方にくれた。だが、やるしかないのだ。さまざまな葛藤がカイイリエルの胸中で湧き起こる。 〈魔獣になっても軍神の力は健在ってわけか。さすがだぜ、メタトロンの旦那……だが、オレも炎の鞭と呼ばれた男――おいそれと負けはしねえ!〉 カイイリエルが聖槍ロンギヌスを投げ放った!
>> 464
バールゼフォンの眼がギラリと光り、サブナックを威圧した。
魔界の覇者たらんとするバールゼフォンの野心の炎をサブナックは感じ取った。
(……失…
バールゼフォンとの謁見を済ませた後、サブナックは身支度を整えると、バルバトスとの約束の場所に出向いた。
魔界・万魔殿の四隅にはジグラットと呼ばれる聖塔が天を突くかのようにそびえ立っている。その中の一つ、血族の聖塔の下での待ち合わせであった。
- << 489 バレフォールにまたがったサブナックは、全身を黒で固めていた。動きやすさを重視し、肩と籠手と腰部と脚部に簡素だが、硬いギアス鉱でしつらえた鎧を装着していた。胸部には袈裟状にかけられた鎖に、心臓を守るかのようにプレートがあてがわれており、剣士と言うよりは忍者に近いいでたちであった。 一方、バルバトスは全身を緑で飾っていた。トレードマークである羽根飾りに、グリフォンの皮をなめした狩人の姿で、背には白銀の弓と矢筒とを負っていた。 〈待たせたな、バルバトス卿〉 「では、サブナック殿――ティル・ナ・ノーグまでの道案内を頼もうか」
>> 480
ゼフィルの森に隣接するラギア平原に、恐怖の化身リンドブルムの姿があった。
側には小さな川が流れており、魔獣はそこへ差しかかると歩みを止めた。…
カイイリエルが黒竜の背後から襲いかかり、背中に聖槍ロンギヌスを突き立てる!
かすかな肉をえぐる感触に、裁天使は手応えを感じた――のも束の間、リンドブルムの強烈な尾の一振りがカイイリエルを空中高く弾き飛ばした!
〈がはっ!〉
胸を強打しながらも、彼は何とか空中で態勢を立て直す。
(……この鎧を着ていなかったら、とっくにあの世行きだな――)
圧倒的なリンドブルムの攻撃力をカイイリエルは肌で感じていた。
(やはり、少しずつ深追いせぬ攻撃で体力を削るしかないのか!?)
裁天使は途方にくれた。だが、やるしかないのだ。さまざまな葛藤がカイイリエルの胸中で湧き起こる。
〈魔獣になっても軍神の力は健在ってわけか。さすがだぜ、メタトロンの旦那……だが、オレも炎の鞭と呼ばれた男――おいそれと負けはしねえ!〉
カイイリエルが聖槍ロンギヌスを投げ放った!
>> 482
ロンギヌスの槍は螺旋を描いて、リンドブルムの胸部を刺し貫いた!
間髪を入れず、炎の剣を抜き放ったカイイリエルは黒竜の右眼へと斬りかかる!
――が、裁天使の奇襲はことごとく失敗に終わった。
リンドブルムの胸へと放った槍は表皮をかすっただけに留まり、剣撃は角に弾かれたのだった。
〈くっ! リンドブルムの外皮がこんなに硬いなんてっ!〉
黒竜の周囲を飛び回るカイイリエルめがけ、反撃の魔獣は火炎を吐いた!
- << 486 リンドブルムの真っ正面にいたカイイリエルは、とっさに防御シールドを張った。 〈ガルガリン!〉 それはピグマリオン・マジックと呼ばれる天使の特殊能力の一つであった。 大天使クラスの天使はすべて、自身の魔力で想像した武器を実体化することが可能である。 カイイリエルは白銀の盾を実体化させ、火炎の直撃を防いだ。 〈まさかアンタと戦う日が来るとは、思ってもみなかったぜ。メタトロン……いや、リンドブルム……なぜ、堕天したんだ! オレの憧れていたアンタは――どこにいっちまいやがったァ!!〉 カイイリエルの悲痛な叫びがティル・ナ・ノーグに轟いた。
>> 454
(なんて……礼儀正しい猫なんだ……。おまけにカワイイ)
麗子は顔に似合わず、カワイイものが好きだった。ヤンキーとファンシーが同居したような性…
「……萌えって――アキバじゃあるまいし……」
麗子は軽い脱力感を覚えていた。
(メイド服の次は、ゴスロリかな……)
ふと、いらぬ妄想が麗子の頭をかすめた時、
《初めまして。紹介が遅れましたね。私がこのティル・ナ・ノーグの王、クー・フーリンです。よろしく》
眼前に長身の男が立っていた。
クー・フーリンは麗子に微笑みかけた。
麗子は知らずの内に、顔が赤くなっている。
クー・フーリンと名乗る男は、優しく穏やかなグリーンの瞳をしていた。
宝石に例えるなら、エメラルドのような輝きだ。
だが、クー・フーリンの魅力はそれだけではなく、生まれ持った気品と狼のような眼光の鋭さとを有しており、麗子の心は一瞬で妖精王に奪われた。
(綺麗だ……こんなに綺麗な男の人を見るのは生まれて初めてだ……)
「よ、よろ……しくお願いします。あたし、夜神麗子です。麗子って、呼んでください――」
>> 484
(らしくない……このあたしが緊張するなんて――)
麗子は戸惑っていた。クー・フーリンを前にすると、まるで麗子は小さな女の子に戻ったような気分になってしまう。
《どうだ、私のダーリンは男前だろ、麗子!》
エディンがさりげなく、クー・フーリンを自慢する。
(美男美女って、こいつらのためにある言葉だな……)
この時、麗子はまだ自分の心に芽生えた想いが恋だと知らなかった。
『立ち話も何ニャ。美味しい紅茶を入れるから一端帰るミャ』
と、メイド服の猫がうながした。
>> 483
ロンギヌスの槍は螺旋を描いて、リンドブルムの胸部を刺し貫いた!
間髪を入れず、炎の剣を抜き放ったカイイリエルは黒竜の右眼へと斬りかかる!
―…
リンドブルムの真っ正面にいたカイイリエルは、とっさに防御シールドを張った。
〈ガルガリン!〉
それはピグマリオン・マジックと呼ばれる天使の特殊能力の一つであった。
大天使クラスの天使はすべて、自身の魔力で想像した武器を実体化することが可能である。
カイイリエルは白銀の盾を実体化させ、火炎の直撃を防いだ。
〈まさかアンタと戦う日が来るとは、思ってもみなかったぜ。メタトロン……いや、リンドブルム……なぜ、堕天したんだ! オレの憧れていたアンタは――どこにいっちまいやがったァ!!〉
カイイリエルの悲痛な叫びがティル・ナ・ノーグに轟いた。
- << 491 〈メタトロン……オレがアンタを解放してやる! 天界最強の軍神の名を汚さないために、オレの炎の剣で引導を渡してやる……〉 カイイリエルは、さらに上空へと急上昇し、リンドブルムとの間に天と地ほどの間隔を置いた。 裁天使には必殺技を繰り出すために集中する時間が必要だったのだ。 スルトの剣を正面に構えたカイイリエルは、刀身にプラーナと呼ばれる高エネルギー体を注ぎ込む。 刀身から伸びた炎が柱となり、剣の形を取った。 〈――食らえっ、レーヴァテイン!!〉
>> 476
《ミシャンドラ……噂には聞いている。確か、魔界最強の悪魔と公言してはばからないお調子者だとか――》
「悔しいが魔界最強と言うのは当たっている…
《本など、当てにせずとも――貴様なら魔界を掌握することも可能であろうに?》
ベールゼブブは鼻で笑った。
《何が可笑しい?》
「この魔界にどれだけの魔神が居ると思う……たとえ、72柱の魔神の能力を手に入れたとしても、魔界の最下層の暗黒界クリフォトに住む古代の魔神どもを制圧しなければ、真の支配とは言えぬ!」
>> 487
「その上、強大な魔力を秘めた魔界の支配階級に属さぬ、イレギュラーな魔神らも居るではないか」
《そうだったな、モロクにバフォメットにアリオッチ――確かに彼らの存在は、支配者にとっては脅威であるな。もし、奴らが徒党を組めば、貴様とて御することは叶わぬかも知れぬな》
「だからこその『アッピンの本』なのだ!」
今度はアスタロトが鼻で笑い、
《意外と小心者なのだな、青蠅殿下》
アスタロトがベールゼブブを昔の異名で呼んだ。
「そうじゃないさ。獅子身中に虫を飼うのが嫌なだけさ」
「長居しすぎたな。万魔殿へ戻る――おっと、アスタロト……私の正体は、まだ黙っていてくれよ。何かとやりずらいからね」
ベールゼブブが指をパチリと鳴らすと、人型を保っていた無数の蠅の大群が飛び去った。
その蠅の群れは万魔殿の方角を目指して、アスタロトの前から消え去った。
《ベールゼブブよ。本などに頼らずとも、魔界を手に入れる方法はあるさ》
なまめかしく美貌の悪魔大公は笑った。
>> 481
バールゼフォンとの謁見を済ませた後、サブナックは身支度を整えると、バルバトスとの約束の場所に出向いた。
魔界・万魔殿の四隅にはジグラットと呼…
バレフォールにまたがったサブナックは、全身を黒で固めていた。動きやすさを重視し、肩と籠手と腰部と脚部に簡素だが、硬いギアス鉱でしつらえた鎧を装着していた。胸部には袈裟状にかけられた鎖に、心臓を守るかのようにプレートがあてがわれており、剣士と言うよりは忍者に近いいでたちであった。
一方、バルバトスは全身を緑で飾っていた。トレードマークである羽根飾りに、グリフォンの皮をなめした狩人の姿で、背には白銀の弓と矢筒とを負っていた。
〈待たせたな、バルバトス卿〉
「では、サブナック殿――ティル・ナ・ノーグまでの道案内を頼もうか」
>> 489
〈その前に――それがしのことは、サブナックと呼び捨てにされるがよろしかろう。貴公はバールゼフォン殿の側近……一介の悪魔に気をつかわずとも良い身分のはず……〉
フッ、とバルバトスは笑った。
「優れた戦士には礼を尽くすのが、私の流儀だ。そうだな、では、私のこともバルバトスと呼び捨てにしてくれて構わない。しばらくは、共に行動するのだ。互いに遠慮していては、何事かあった時に支障をきたすだろう。それで良いなサブナック」
〈了解した、バルバトス〉
>> 486
リンドブルムの真っ正面にいたカイイリエルは、とっさに防御シールドを張った。
〈ガルガリン!〉
それはピグマリオン・マジックと呼ばれる天使の特…
〈メタトロン……オレがアンタを解放してやる! 天界最強の軍神の名を汚さないために、オレの炎の剣で引導を渡してやる……〉
カイイリエルは、さらに上空へと急上昇し、リンドブルムとの間に天と地ほどの間隔を置いた。
裁天使には必殺技を繰り出すために集中する時間が必要だったのだ。
スルトの剣を正面に構えたカイイリエルは、刀身にプラーナと呼ばれる高エネルギー体を注ぎ込む。
刀身から伸びた炎が柱となり、剣の形を取った。
〈――食らえっ、レーヴァテイン!!〉
>> 491
上空からカイイリエルが急降下しながら、スルトを振り下ろす――炎の柱はリンドブルムへと直撃し、黒竜を焼き焦がした!
〈さらばだ、メタトロン――〉
カイイリエルはスルトを鞘に納めた。
炎上するリンドブルムに、ふと異変が起きた。黒竜であるはずの魔獣に、所々赤い部分が見え隠れするのである。
リンドブルムを包む炎が消え去った時、カイイリエルを驚愕と恐怖が襲った。
>> 492
彼は思い違いをしていた。リンドブルムとは本来、赤竜である。カイイリエルは、その事実を改めて再認識させられる羽目となった。
すでに黒竜の姿は無く、裁天使の眼前には赤竜となったリンドブルムが居た。
カイイリエルの攻撃は単に、リンドブルムの表皮を取り払ったに過ぎない。歴戦の兵士であるカイイリエルが、その事実に気づくのに時間はかからなかった。
〈……何、だと――レーヴァテインの一撃でさえ、リンドブルムには傷一つ負わすことは出来ないのか!?〉
ガオオーン、と魔獣が吼える。その響きには、かすかに嘲笑めいたものが混じっていた。
- << 496 ふいにリンドブルムが、何かに突き動かされるように暴れ出した。 〈……どうしたんだ!? リンドブルムが苦しんでいるのか!?〉 カイイリエルは見た。赤竜の背中に、煙が立ちのぼるのを。 次の瞬間、狩人の姿をした悪魔が、そこに佇んでいた。 さらにリンドブルムの正面に、黒装束の獅子頭の騎馬にまたがった剣士が突如として、現れ出でた! 〈なぜ、魔界の悪魔がこんな所に!!〉
>> 428
舞台は再びオーベロン城へ――
《ルーよ、リア殿はお前のためだけに、このエクセリオンを造ったのだ。――頼む、リンドブルムを倒すと約束しておくれ…
恐怖の化身、リンドブルム――ルー・フーリンは実際には戦ったことがなかった。父であるクー・フーリンから、その話を伝え聞いたのみである。だが、クー・フーリンほどの戦士が数人の天使たちと共に、やっとの思いで封印したと言うだけで、いかにリンドブルムの攻撃力が高いかが窺い(うかがい)知れるのだった。
ふと、ルー・フーリンはある考えに思い至った。
《父上! いえ、陛下もリンドブルム討伐にご参入下さい!》
>> 494
クー・フーリンは、ゆっくりとかぶりを振った。
《それは出来ないのだよ、ルー。もうすぐオーベロン城に、お客様が来ることになっているんだ》
黒猫に驚愕が走った。クー・フーリンは敵の襲撃に備えて、待機しているのだ。
《……敵が来るのがわかっているのですね――》
ルーが訊いた。
《そうだね。それに礼儀を知らぬ客人には、王直々にマナーを教えてあげる必要があるだろう》
クー・フーリンの眼が獰猛に光った。
リア・ファルは哀しげな眼で、親子を見つめている。
話の展開について行けない京子は、ただ固唾を飲むのみであった。まるで、彼女はオブジェのように立ち尽くししているしかなかったのである。
>> 493
彼は思い違いをしていた。リンドブルムとは本来、赤竜である。カイイリエルは、その事実を改めて再認識させられる羽目となった。
すでに黒竜の姿は無…
ふいにリンドブルムが、何かに突き動かされるように暴れ出した。
〈……どうしたんだ!? リンドブルムが苦しんでいるのか!?〉
カイイリエルは見た。赤竜の背中に、煙が立ちのぼるのを。
次の瞬間、狩人の姿をした悪魔が、そこに佇んでいた。
さらにリンドブルムの正面に、黒装束の獅子頭の騎馬にまたがった剣士が突如として、現れ出でた!
〈なぜ、魔界の悪魔がこんな所に!!〉
>> 496
リンドブルムの背なに出現したバルバトスは、自身が赤竜に乗っていると言う事実に気づくのに数秒を要した。
害虫を排除せんと、赤竜は尖った尾を狩人めがけ、繰り出す。
とっさにバルバトスは銀の弓を盾にし、尾の一撃を防いだ――が、強烈な尻尾での攻撃は、狩人の悪魔を軽々と弾き飛ばした。
地面へと投げ出されるバルバトスは、転がりながらも体勢を立て直す。
真っ正面のサブナックには、一対の剛角が牙を剥く!
アラストールを抜刀したサブナックは、刀身で襲い来る角を防いだ。
いつの間にか魔剣アラストールは、大剣に姿を変えていた。
〈アラストールが大剣に変化だと!?〉
それはサブナック自身も知らぬことであった。アラストールは使用者の意志に応じて、その形態をメタモルフォーゼすることが可能なのである。
>> 497
〈フハハ、こいつは良い! アラストールよ――貴公は悪魔としては二流だが、武器としては超一流だ!〉
ふいにサブナックが頭上を見上げ、カイイリエルと眼が合った。
〈魔界の悪魔よ! そこで何をしている!? ヤツはオレの獲物だ! すぐさま、手を引け!〉
獅子頭の剣士は紅獅子の鎧の裁天使に見覚えがあった。
〈……お主は、まさか――炎の鞭、カイイリエルかっ!!〉
サブナックは思わぬ旧知の出現に、声を荒げた。
>> 478
万魔殿を出たアブラクサスは地面に、ペッとツバを吐いた。
〔ケッ! とんだ誤算だぜ。サブナックに一泡ふかせて、バールゼフォンの印象を良くしよう…
アブラクサスとアガリアレプトが、アモンの館へとたどり着いた時に抱いた印象は同じものだった。
館はすべてが華美な装飾が施され、随所に宝石などをあしらった柱や、奇妙なオブジェなどが乱立しており、人間界風に言う所の成金趣味の様相を呈していた。
しばらく待たされた悪魔二人は、これまた悪趣味なアモンの私室へと通された。
《で、このワシに何の用だアブラクサスとやら?》
アモンはお気に入りの黄金で出来た安楽椅子に足を組んで腰かけていた。
その姿は、小柄な老人であった。一時期は、八大魔王に籍を置いていたこともある影の実力者だ。
〔魔神アモン閣下、是非とも我が主・バールゼフォン様の麾下(きか)へと、お入りいただきたく参上いたしました次第でございます〕
>> 499
アモンはヒゲをさすりながら、
《このワシにバールの小倅(こせがれ)の軍門に下れと申すか!?》
ギラリとアモンの眼が獰猛に光った。
アブラクサスは震え上がった。アモンがバールゼフォンに対して、含むところがあるとすれば、会話の成り行きによっては、鶏頭の悪魔は生きて、この屋敷を出ることはないだろう。
〔け、決してそのようなつもりは……〕
《じゃが、確かにあの小倅の実力は侮れん。そうじゃのう、ワシの側近であり弟のアンドラスに相談し、バールゼフォンの味方につくか決めさせてもらおう。もっとも、ワシの弟は気分屋で残虐な性分じゃがの》
アモンはニヤリと笑った。
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