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運命

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サクラ( mR7jnb )
11/01/19 23:38(更新日時)

もしも…
もしも神様が本当に居るなら、聞いてみたい。 2人が出逢った事に 意味はあるのですか。 いつかは、この苦しさから解放されますか。 この苦しみしみから 抜け出せるなら 今までの29年間の記憶なんて全部無くしてもイイです。


※初めての小説です。 ド素人なので誤字脱字、文章もメチャクチャかも知れないですが、 宜しくお願いします。

No.1263709 10/03/04 21:10(スレ作成日時)

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No.101 10/03/18 00:26
サクラ ( mR7jnb )

「サクラも。一年間お疲れ様でした。」

トシ君は、そう言って
私の目を見て微笑んだ



胸に熱い物が込み上げる

私は、この人と一緒に居たいよ。
私は、あなたが、どうしても欲しいです。

いつか本物になれますか
三人で胸を張って、並んで歩いて行ける時は
くるのでしょうか…



「トシ君、ありがとう」

「今はこんな事しか出来なくてゴメンな。」


今は、って事は
今後はって事もあるのかな。言葉には出来なかったけど、
私はそんな淡い希望を
胸に抱いた。

No.102 10/03/18 16:52
サクラ ( mR7jnb )

その日、優樹は大はしゃぎで遊び、帰りの車内では寝てしまった。


「お前、新しい男出来たのか?」


突然の質問。


「出来てないし、作る気もないけど。」

相変わらずのセックスレスだけど、誰でもいいから抱いて欲しいって訳ではない。


優樹が産まれてから
毅とは完全に家庭内別居状態で、今では体の触れ合う距離にすら居ない。


「そっか、そうなんだ。」


「そっちは?クミとも離婚したんだし、再婚も視野に入れてるって聞いたけど。」



「再婚?ないね~。向こうは、結婚したいみたいだけどな。考たくもないかな…」


「そぅなんだ。」


その言葉を聞いて
なぜかホッとした私がいた。



結婚は考えられない程度の気持ちしかないんだ。
勝手にそぅ解釈した。


あの日見た、彼女の姿を思い出す。
トシ君の彼女として
堂々と隣に並ぶ姿。
悔しくて、悲しくて
その場から逃げる様に帰った私。


【でも、所詮は、その程度しか想われてない人だったのね。】

No.103 10/03/18 17:07
サクラ ( mR7jnb )

彼を好きになって

私はどんどん嫌な人間になっていく。


もう、人間でもないのかもしれない。


彼を好きな気持ちと

自分が嫌いな気持ちと

比例するように

どんどん大きくなって

私の体を占拠する。



側に居て

彼の笑顔が見れるなら

その温かい手のひらに

包まれて居れるなら

例え

その影で誰かが涙を流していても

私の目には映らない。

もう、何も感じない。





「私は…今でもトシ君が好きだよ。」


彼の顔を真っ直ぐに見て私は想いを口にした。


「でも、お前、旦那いるじゃん。」


離婚の約束まで後一年。

「今すぐに離婚は出来ないけど、離婚するのは話し合って決まってるよ。」


「そっか、俺もサクラが好きだよ。でも、お前に旦那が居て、俺は1人でってのは、やっぱり嫌だから…俺は彼女とも別れない。」

No.104 10/03/18 17:12
サクラ ( mR7jnb )

「じゃあ、私が別れたら、彼女とも別れてくれるの?」


トシ君はこっちを見て

「うん。」と頷いた。



「分かった。」

そう言って、私達は昔の様に手を握った。



幸せな気持ちだった。

自分にはまだ、夫が居ると言う罪悪感すら沸かない。


あるなは、早く離婚して
三人で仲良く暮らしたいと言ういう幻想だけ。

No.105 10/03/18 18:13
サクラ ( mR7jnb )

次の日、私は優樹を保育所に入所させる手続きに出掛けた。


当然、そんなにすぐ入れる訳でもなく

優先順位が高い人は
現在仕事をしていて
子供の預け先に困っていること。


私のように
これから仕事を探す人間は、いつになったら入所出来るのかも分からなかった。


本末転倒じゃないか…


本当に預け先がない親は
仕事だって探せない。
それとも、家に子供を残して働けと言うの?!


一通りの書類を貰って帰宅した。


就業証明書…
私は、その紙を持って
トシ君の働くBARに足を運んだ。

No.106 10/03/18 18:27
サクラ ( mR7jnb )

お店はまだ開店前。
仕込みや、開店準備でお店にみんなは出勤してる時間


私は駅のホームで
お店に電話を掛けた。


オーナーに状況を説明して、証明書に記入して貰えないか頼んだのだ。


「詳しい話はお店で聞くよ。もう向かってるんだろう?」


駅のアナウンスが聞こえたのか、オーナーは、そう言って、「気をつけて来るんだよ。」と言って電話を切った。



…こんなの間違ってる。

…分かってる。


でも、私にはお金が必要なんだもん。


他に、何かいい案はないじゃない…


それに…
今更、そんなイイコになって何になる?


最低な人間なんだから



とことん最低な人間になればいい。

No.107 10/03/18 18:37
サクラ ( mR7jnb )

お店に着くと
オーナーに奥の部屋に行くように促された。


カウンターの前で
歩く足を止める…



彼女が座っていた。


「サクラさん、こんにちは。」


振り向いて私に挨拶をする


「優樹くぅん、久しぶりだねぇ。」


そう言って、抱いてる優樹の手を握る。



【止めて、触らないで】

私は優樹を抱き直して
その手から優樹を離した。

「こんにちは。」


そう言って歩き始めると
また呼び止められた。


「オーナーと話す間、優樹君、見てましょうか?」

ニッコリ笑って訪ねられた


私はカウンターの中で仕込みをしていたトシ君と
一瞬、目があった。

No.108 10/03/18 19:40
サクラ ( mR7jnb )

「ありがとう。でも、大丈夫だから…」


私は目も合わせず
呟くように答えて、奥の部屋へと又、歩き出した


【何で、あの女がここに居るの?!】


昨日までの幸せな気分が隠されるように
暗闇に包まれる。




オーナーの向かい側に座った私は、電話で話した内容を再度、説明する。

「お願いします。こんな事頼めるの、オーナーだけなんです…」


オーナーは、少し困った様子で

「しょうがない…」

と言ってくれた。


万が一の為に
BARの店員としてではなく、会社の事務員として働いてる事にして、記入してくれた。


「ありがとうございます」


頭を下げる私の横で
何も分からない優樹も
真似してペコリと頭を下げた。


「優樹の為なら仕方ないよなぁ~、保育所で友達を沢山作らないとなぁ~。」

子供の居ないオーナーが、孫を見るような優しい微笑みで優樹の手を取った。

No.109 10/03/18 19:59
サクラ ( mR7jnb )

部屋を出て、店内に入ると開店準備を終えて
みんなで休憩していた。

みんなが談笑する、その中に彼女はいる。


彼女の隣には
当然のようにトシ君が座っている…


「千春さん、今日、仕事何時からっすか?」

拓の声もする。


「サクラもコーヒー飲んで行けよ」

後ろからオーナーが
声を掛けてくれた。

それと同時に
トシ君は私の分のコーヒーと、優樹にオレンジジュースを出してくれた。


「ありがとう。オーナー、頂きます。」


そう言って私は
みんなの居るテーブル席の端っこに座った。


「サクラ、今日電車で来たの?」
トシ君が聞いてきた。
「あぁ、うん。」


「サクラさんの家って、トシの家と凄い近いんですよね?」


彼女…千春が聞いてきた

「うん、まぁ。」


「じゃぁ、今度、あの辺、案内して下さいよ。安いスーパーとかあったら教えて下さい。」


なんで?

なんで彼の家の近所のスーパーなんて知る必要があるの…?




千春の屈託のない笑顔が私を、また暗闇へと導く

暗闇は
さっきよりも濃く、深くなって私を襲う。

No.110 10/03/18 20:52
サクラ ( mR7jnb )

「お前、今日の態度は何なんだよ!凄く感じ悪かったぞ。」


仕事が終わったトシ君から、電話が来た。
今日の、彼女に対する私の態度を怒っている。



「感じ悪い?当たり前じゃん!トシ君の彼女に愛想良くなんて出来ない。」


「彼女?俺が本気で想ってるのはお前だけ。お前が、旦那と別れたら、俺はいつだって、あいつと別れるよ。」


「彼女なんて形だけなんだよ。それなのに、お前は、そんな小さい事で嫉妬するような女じゃないだろ?」


そんな風に言われたら
嫉妬してる自分は
すごく小さい人間みたいじゃない…
彼には、そんな風に見られたくない


「うん。そうだね、次から気をつけるよ」



私は、そう言うしか出来なかった。
彼に捨てられたくなくて、彼の望むような女になりたくて。

No.111 10/03/18 21:26
サクラ ( mR7jnb )

数日後、

初めての試練の日がやって来た。
「 BARの開店記念日のイベントがあるから 店に顔出さないか?」 と誘われたのだ。


…勿論、彼女も来る。
それでも、私は断れる訳が無かった。



その日、お店はいつになく大盛況で、
顔馴染みの常連さんから、私の知らないお客さんまで、
本当に沢山の人が集まってきていた。
さすがに優樹は連れて来れない。と、毅に頼んで、優樹を寝かせてから家を出た。



店内に彼女の姿を探す。

なるべく、近づきたくはないから。

ポン。


誰かに肩を叩かれる。
「サクラさん、こんばんは。」


「あっ…」


…振り返ると千春が立っていた。

No.112 10/03/18 21:30
サクラ ( mR7jnb )

「今日は1人なんですね?優樹君はお留守番ですか?」
どこからか
トシ君の視線を感じる。
…気がする。


「うん。今日は留守番なの。夜遅いのに連れ回すとね…」
そう答えて、
微笑んでみた。
多分、上手く笑えたはず



「千春ちゃんは?今日は仕事休みなの?」


彼女は一駅先の24時間のファミレスで働いていると聞いた事がある。


「それがぁ…休みたかったんですけど、無理だったんですよ。あと少ししたら、出勤なんです。」

残念そうに俯く彼女を見て、私の心は浮き足立った。


「そっかぁ、残念だなぁ。今度は、ゆっくり飲もうね。」


私は残念そうな顔をした。


…つもり。


そのまま千春にバイバイをして店内の奥へと足を進める。

No.113 10/03/18 22:06
サクラ ( mR7jnb )

オーナーを見つけて
この間のお礼と
開店記念日のお祝いを話した。


「今日は優樹、お留守番かぁ。寂しいなぁ。サクラも、久しぶりに1人なんだから、ノンビリして行きなよ」


そぅ言うと
空いてるカウンターに通してくれた。


カウンターの中では
忙しそうに働くトシ君がいる。
慣れた手つきで
リキュールのボトルを次々に手に取り
シェーカーを振る姿。


何度見ても
やっぱり色気があって
格好良い…。


「サクラは何飲む?」


「私は…お任せで。」


何となく…
今日はトシ君に
選んで貰いたかった。


私の為のお酒を

私を想って選んで欲しかったんだ。

No.114 10/03/19 17:38
サクラ ( mR7jnb )

「これなんて、どうでしょうかぁ?」


私の前にビールジョッキを置く。

「今日はビールじゃ無くて他のが良かったんだよぉ」


ふてくされながら
ジョッキを掴む。


「大丈夫!そのビールに魔法掛けておいたから!」

「魔法ぉ~??」
思わず笑ってしまった

でもトシ君は
自信満々に私を見る。




一口飲むと、いつものビールとは違う事に気付いた。


「…?何か、飲みやすい。」



「だろぉ?!」
「魔法成功だな♪」

満足そうに笑って
彼は仕事に戻った。

No.115 10/03/19 17:53
サクラ ( mR7jnb )

私は同じカウンターに座っていた、仲良かった常連さんと久し振りに話をしていた。


すると、後ろから千春が近づいてきた。



「トシ!私、もぅ仕事行くからね。」


「おぉ。」
と言って作業中の手を止めてカウンターの中から手を振る。


「サクラさん、麻里さん、お先ですぅ。」


「仕事頑張ってね。」

私達は、軽く手を振る。千春の背中が見えなくなると、ようやく私の
息苦しさは消えた。


【今日は楽しもう…】


私はジョッキを空にして、お代わりを頼んだ。

No.116 10/03/19 18:01
サクラ ( mR7jnb )

「ねぇ、その魔法のビールは、何て名前なの?」


私のお代わりを作るトシ君に訪ねた。


ビールを半分入れて、
後は何を入れてるんだ?


「コレはねぇ【シャンディガフ】って言うんだよ。ビールとジンジャエール混ぜてんだよ」


ジンジャエール…
ビール…



私が働いていた頃に
お疲れ一杯で飲んでた


彼はジンジャエール
私はビール…

いつもカウンターに並んで乾杯してたなぁ。


2つ合わさると、
こんなに美味しいんだ。

なぜか、
とても幸せな気持ちになった。

No.117 10/03/19 21:20
サクラ ( mR7jnb )

お店は閉店の時間が迫って来ていた。
店内も、ようやく落ち着き始めた。


「サクラ、今日一緒に帰るだろ?」

「うん。いいかな?」

今日は、トシ君と
一緒に居たい。


「良かった。じゃあ、先車行って休んでなよ。」

そぅ言うと、優しく私に触れて車の鍵を渡された

私は、グラスに残ったお酒を一気に飲み干して
お会計を済ませ、車へと向かった。



優樹の事を考えた
優樹は寝てるかな…
泣いてないかな…


母親としての私が忠告する。

【今なら終電に間に合うじゃない。】



でも…久し振りにトシ君と2人になれるのに…

【大丈夫、毅が居るでしょ?今日位、羽伸ばしてもいいじゃない?】

女である私が、そう提案する。

No.118 10/03/19 21:32
サクラ ( mR7jnb )

「あ~…疲れた。」


「お疲れ様ぁ。」


温かい手の平にそっとふれる。


「じゃ、行きますか。」



私は、トシ君との時間を選んでしまった。
どこまで最低な女なんだろうか…

こんな自分は本当に嫌いだよ…優樹…ごめんね。

私の弱さもズルさも
汚さも、トシ君だけは全部知っている…
一番そばで見て来た人


私も彼も共犯者…
同じ罪を抱えている


こんな私を好きだと言ってくれる人…



今のこの私の過ちも
彼と共有する。

No.119 10/03/19 21:40
サクラ ( mR7jnb )

「久し振りに2人だな」

トシ君は私の手を握りながら言った。



車は家とは逆方向に走っている。
そうなる予感はあった。

…本当は、そうなる事を望んでさえいた。


「サクラ、今日時間まだ平気?」


この時が神から与えられた最後のチャンスだったのかも知れない。


大きな分かれ道だったのかも知れない…


愚かな私は差し伸べられた最後の糸に
気付く事すら無く


「大丈夫だよ。」


そう答えた。

No.120 10/03/19 21:58
サクラ ( mR7jnb )

車は、ホテルの駐車場で停まった。




エレベーターの中で
待ちきれない様に
抱きしめ合った。

見つめ合うと
何だか胸が苦しくて
苦しみの理由は考えたくないから、私はトシ君を力いっぱい抱きしめた。



部屋に入ると
シャワーも浴びずに
ベッドに倒れ込む。


「…トシくん…」
抱き締め合ってキスしてるだけなのに
息が荒くなる。


「…トシ君…好き…」

好き…好き…大好き…


言葉に出せば出すほど
気持ちが溢れてくる。

No.121 10/03/21 00:31
サクラ ( mR7jnb )

彼の指先が優しく触れてくる度に
私は少しずつ溶け始める。



私の体と彼の体が
ぴったりくっついて
このまま溶け合って一つになれたらイイ。


そしたら、
もう離れないで済むよ


ずっと
ずっと、ずっと一緒。




彼に抱かれるその間だけは、現実の煩わしさも
忘れる事が出来る。

他の事、何も考えられないの。



彼の温もりだけは
私の弱さも醜さも



私と言う存在を、
認めてくれる。

No.122 10/03/21 16:47
サクラ ( mR7jnb )

>> 121 「一緒に、お風呂入ろうか?」


私はいつの間にか
眠ってしまったらしい。

目を開けると
トシ君は私の髪を優しく撫でていた。

「お湯ためておいたから一緒に入ろう。」

私の手を握り
ベットから起すと、
二人でバスルームに向かった。

ふと、壁に掛かっている時計を見ると
もう夜中の3時になっていた。


「ごめんね。私、1人でねちゃった・・」

暖かいお湯に二人で向かい合って入った。
彼の手は私の体を優しく撫でてくれる。

No.123 10/03/21 17:06
サクラ ( mR7jnb )

「別に。お前が寝てる間、寝顔ずっと見ていられたし。」


そう言って
私の腕を引っぱると腰に手を回し
体の向きを変えた。
トシ君に背中を向けて
体を彼に預ける格好になった。


後ろから、抱きしめられると
彼の息づかいを感じる。
耳元で、彼の唇を感じる


「くすっぐたいよ。」

体をよじって逃げ出そうとするが
抱きしめる彼の腕からは
逃げ出す事はできない。

「もう、逃げらんないよ。」


彼の腕の中で
私は何度も壊されていく。
何度も、
何度も、
終わりのない闇が
私の体を支配する。


これからも。
きっと、ずっと続く
暗い闇の中。


彼が腕を離しても
私は、その闇から抜け出せずにいる。



彼が去った今も。


【もう、逃げられないよ・・】

No.124 10/03/22 21:09
サクラ ( mR7jnb )

家に帰ると
もう朝の7時を回っていた。

優樹はまだ眠っていたが
毅はすでに、仕事に行く準備を始めていた。

「ただいま。」


さすがに怒られるかと思った私は毅の顔を見る事が出来ない。
そのまま私は自分の部屋に入って行った。



暫くすると
部屋のドアをノックされ
「行ってくるから。」
とだけ声がして
玄関の閉まる音がした。

No.125 10/03/22 23:37
サクラ ( mR7jnb )

【このままじゃダメだ】


その日、私は改めて
離婚について真剣に考えた

私は携帯を手に取り
実家に電話を掛けた。


「はい。高橋です」


久しぶりに聞く母の声。
昔とちっとも変わってない

「もしもし。お母さん?私、サクラです…」


「あぁ…なに?」


電話の相手が私であると分かると、声色が代わる。


電話口で伝わる面倒臭そうな、怒っている様な母の声を聞くと、私は次の言葉を言い出せない。


【こわい…】
【もっと嫌われるかも】



「今、忙しいんだけど。何なのよ?」
ため息混じりに母は言う。

私も覚悟を決めて母に
離婚する事を伝えた。

No.126 10/03/23 17:27
サクラ ( mR7jnb )

「あっそぅなの。離婚するのは構わないけど。うちの家族に迷惑だけは掛けないで」

母は、【うちの家族…】の辺りで声のボリュームを上げた。


「分かってる。迷惑は掛けないから。」


「なら、いいけど。彩香も受験なんだし、あんまり家の中を引っ掻き回さないで」

そう言うと母は
電話を切った。


電話が切れた後も
しばらく私は
携帯を握ったまま、
ただ、込み上げる涙を
必死に堪えた。

No.127 10/03/23 20:14
サクラ ( mR7jnb )

こんな事で私は泣かない
泣きたくない


泣くことしか出来なかった、あの頃とは違う。

私は私の足で
いくらでも歩いて行ける。

親の支えなんて無くても
私は今までだって生きてきたんだ。



15歳、高校1年の夏に家を出てから、7年経った今も、私は1度も実家に入る事を許されていない。



優樹が産まれて、久し振りに両親に会った時も
実家の近くのデパートのフードコートで2時間位の会話をしただけ。


今更、頼ろうなんて思ってない。

【じゃあ、何で、何の為に電話したの?】


【本当は何て言って欲しかったのよ?】


【優しく、相談に乗って欲しかったんでしょ?】



私の中で
愚かな私を嘲笑う。

No.128 10/03/23 21:12
サクラ ( mR7jnb )

「ママァ~」


優樹が座っている私の膝によじ登って顔を覗きこむ。

「優樹、お外に行こうか」

今日は朝からずっと家の中に居たから、優樹は【お外】の言葉に喜んで
ニコニコ笑いながら拍手している。



車で20分程の場所にある大きな公園に着いた。
優樹を砂場に連れて行くと、スコップとバケツを持って遊びだした。



その時、携帯の着信音がなり、慌ててポケットの中を探る。


「おぅ、おはよ!」


「トシ君、おはよう。珍しいね、こんな早くに起きてるなんて。」

時間は午後1時。
夕方から仕事の彼は、普段は3時頃にならないと起きない。


「うん。何か天気良かったから、眩しくて起きちゃった。」


アクビ混じりで、まだ眠そうな声を出す。


「そっか。今日、天気良いもんね。」


私は空を見上げる。



気付かなかった。
今日は雲1つない快晴だったんだね。

No.129 10/03/23 21:25
サクラ ( mR7jnb )

「何かあったのか?」


トシ君の心配そうな声が
さっきまでの隠したはずの感情を再び呼び寄せる。


「なぁぁんも無いよ!」

わざと明るい声で言った。

「ふぅぅん。サクラ今どこに居るの?」


「優樹と一緒に公園だよ」

「おっ。そっか。場所は?」


私は公園の場所を答えた。

「俺も、たまには日の光でも浴びるかなぁ。」


そう言うと
「30分待ってて」と言い電話は切れた。


携帯をポケットに閉まって優樹とお砂のケーキを作った。


昔、母がそうしてくれたように。私も砂の入ったバケツを引っくり返し
ゆっくりとバケツを持ち上げた。

No.130 10/03/23 21:48
サクラ ( mR7jnb )

トシ君が公園に着くと
私達の回りには
沢山の崩れかけのケーキが並んでいた。


優樹は、山盛りのお砂ケーキを作る側から
スコップで「いたなきます。」と言って、満面の笑みでケーキを崩して行った。


「何か凄い事になってますなぁ。」

トシ君は笑いながら砂場の縁に座った。


「で?何があったのさ?」

太陽の眩しさに目を細めながら私に聞く。


「えっ?何も無いって。」

私は砂を弄りながら答えた


「ばぁぁか。お前の声聞けば、何かあった事位、分かるんだよ!」


「何それ。私のストーカーなんですか?」


思わず笑いが出る。


「そだよ。俺に隠し事しようなんて甘いんだよ。」


笑いながら砂場に入り
優樹を抱き上げて
砂場の外に連れ出した。


芝生の上で
優樹の服に着いた砂を落とし、靴の中の砂を捨てている。


私は1人、スコップを持ったまま、動けずに居る。



「ちょっと、あっちの方まで散歩しようぜ。」

私の返事は待たずに
優樹をベビーカーに乗せて移動の準備を始める。

No.131 10/03/23 22:01
サクラ ( mR7jnb )

お散歩コースは
沢山の緑と池のある遊歩道だった。
最初は「とり!」「ちょちょ!」と指差して笑って居た優樹もいつの間にか、静かな寝息に変わってた。


「ちょっと休むか。」


近くの自販機で
コーヒーを買って
池の側にあるベンチに座った。


「どした?何があった?」

私の左手を軽く握りながら彼が聞く。



「うん…何かね。何なんだろ。」


何から言えばいい?

この気持ちは

どんな言葉で表現すればいいのかな。



なかなか言葉に出来ない私を焦らせるでも無く

ゆっくり、ゆっくり、
私の心の中にある言葉を
彼は拾い上げてくれた。

No.132 10/03/23 23:27
サクラ ( mR7jnb )

私が家族の一員で無くなったのは、いつからだったかな。



私の両親は若くして結婚し、お互いの不倫の末に離婚した。

当時の不倫相手が今の母。
父は三人の子供を連れて、今の母が26歳の時に結婚した。その時、すでに、母のお腹には妹である彩花を身籠っていた。



26歳にして、突然4人の母になった。二人だけの新婚生活もないままに。
兄達は小学生。
私は三歳位。


子供は純粋さ故に、時に残酷な生き物。

次第に母から、そして家族から笑顔が消えて行く。



私達三人は、いつも誰かが仲間外れにされていた。
始まりの合図が出ると
私達は仲間外れの人間とは口を聞く事も許されない。

母の意に背けば
次は自分が、そうされる。

私達は、血を別けた兄弟なのに助け合う事さえ出来なくなって行った。


仲間外れは、いつ終わるか分からない。
数週間で終わる時もあれば、数ヵ月に及ぶ時もある。

No.133 10/03/23 23:52
サクラ ( mR7jnb )

私が、中学生になった位から、私にも意思が芽生えて来たんだ。


こんな家族はおかしい。って。もっと笑ったり、話し合ったり、お互い言い合いして、喧嘩しても最後に仲直りするのが家族なんじゃないのかな。って。


そんな事、言っても、母の心には届かなかった。

「所詮あんたとは血が繋がってないから。本物の家族になんてなれないの。」


そう言って、また、いつものゲームが始まる。

3歳の頃から育てて貰ってさ、前の母親の記憶なんて、殆んどないんだ、私。

記憶にある母は
酒に寄って暴れる姿と
綺麗に着飾って父が留守の夜に家を出ていく姿だけ。

だから、今の母親が私にとっては「お母さん」なんだ。血の繋がりなんて関係あるのかな。そんなに大切な事なのかね。


高校に入学してから私は
もぅ、怖がるの止めたの。
嫌な事は嫌って言うし
シカトされても、いいや。って開き直っちゃって。


敵が私になってれば
家族は平和だったんだ。
皆が笑ってた。
その中に私が居なくても、もう別にいいや。って思ってたんだ。

No.134 10/03/24 00:32
サクラ ( mR7jnb )

でもさ、私は自分の居場所がずっと欲しくて。
ただ普通に毎日笑って居たかったの。


私が私で居られるのは
学校で。仲間の前で。


居心地いい場所があるとさ
、あの家に居るのが苦痛で仕方無かった。玄関の前で、足が前に進まないの。
扉を開く事が出来なくて
ずっと立ちつくしてた。


夏休みになって、家出をしたの。小学生の時から仲良かった子の家に。
その子の親も事情は全部知ってたから、「帰らなくていいから。」って言ってくれて。うちに電話もしてくれたんだ。


最後に電話替わったら
うちの親は「あ、そう。元気でね。」ってだけ。


それから、学校も辞めて
仕事して、職場の人に保証人になって貰って1人暮らし始めて。


親とは手紙だけのやり取りはしてたの。
育てて貰って感謝はしてるし。やっぱり、私にとっては家族だったから。


忘れて欲しく無かった。
頑張ってるよって知って欲しかった。


まあ、全部がカラ回りだったけどね。

No.135 10/03/24 00:52
サクラ ( mR7jnb )

話し始めると
今まで溜めて来た物が
流れ出す様に
言葉が次から次へと出てくる。

トシ君は私の言葉に時々、相槌を打ちながら
背中を擦ってくれたり
涙を拭いてくれていた。



「今日、親にね、離婚の事を言ったんだ。でも、理由も聞かないの。」


…私は…
聞いて欲しかったんだ。
お母さんに。
どうしたの?って。




昔、怖い夢を見て、泣きながら母の部屋に行った。
まだお腹の大きかった母は
私を抱き寄せて
「どうしたの?」と優しく髪を撫でてくれた。

その柔らかな掌の温もりを感じながら、私は、気付くと眠ってた。


もう、あの頃の私は居ない
子供じゃないのに。



「バカみたいだね。もぅ大人なのにさ。結局、甘えたかったのかもね。」


優しくて温かいぬくもりが
私はずっと、ずっと欲しくて仕方なかったんだ。

No.136 10/03/24 15:35
サクラ ( mR7jnb )

トシ君は私の事をきつく抱き締めてくれた。


「そっか。お前も頑張って生きてきたんだな。」

私は子供みたいに声を出して泣きじゃくった。


「でも、お前はさ、お母さんの弱い気持ちも分かるだろ?」

そう言って私の体を少し離して
顔を覗きこまれた。
私は言葉が出なくて
首を横に振るだけだった。

分からない。
分からない。
お母さんの気持なんて
そんなの分からないよ。


「お前、分かってるはずだよ?」

優しく諭す様に問いかける。

「向き合う事から逃げたのはお前もお母さんも、家族みんな一緒だろ?」



・・・そう。
家族から逃げ出したのは私。
向き合う事から逃げたの・・
私も母も。

一生懸命だったんだね。
頑張りすぎて疲れちゃったんだね。

「うん。分かる・・」

認めたくなかったのかもしれない。
分からない振りして
いつまでも【子供】のままで居たかったのかも知れない。

No.137 10/03/24 15:59
サクラ ( mR7jnb )

「お前は今までさ、しなくてもいい苦労してきた。
でも、それは、絶対に無駄にはならないから。」

今まで生きて来た事。
経験した事
沢山の涙を流した事。

何度も行き詰った。
立ち止まって
後ろを振り返った事もある。

汚いことも沢山やってきた。
色んな人を傷つけて来た。

それでも

沢山の失敗や後悔が今の私を作っている


どれか一つでも欠けていたら
今の私は居なかった

今、私の周りにいる人を
出会えていなかったんだ。

No.138 10/03/24 20:52
サクラ ( mR7jnb )

「ありがとう。トシ君に話したら、スッキリしたよ」

「うん。あんまり1人で抱え込もうとすんなよ!」


私達は手を取り合って車に向かって歩き出した。


今まで、こんな話しをしても、同情されるか
家族を悪く言われるか…だった。


でも、トシ君は違った。

一番欲しかった答えに彼は気付かせてくれた。


「本当にありがとう。大好きだよ。」

腕に抱き付いて笑いながら歩いた。


私はトシ君が好き。

凄く好きなの。


だから、絶対に、この手を離さない。



絶対に。

No.139 10/03/24 21:09
サクラ ( mR7jnb )

それから暫くして
優樹の保育所の入所が決まり、私はパチンコ屋で働き始めた。


離婚に向けて、一歩ずつ前に進み始めた。
トシ君とは、三人で会ったり、時には二人で会う事もあった。


ただ、私は、トシ君の家に呼ばれた事がなかった。
二人で時間のある時は
ホテルに行き、体を重ね
時間のない時は車の中が多かった。


嫌な予感は勿論あった。


でも、トシ君に確かめる勇気がなかった。


家に行きたい。と言った時、「凄く汚れてるから。」と断られて以来、私は、その言葉を信じるしかなかった。信じていたかった。

No.140 10/03/24 21:23
サクラ ( mR7jnb )

ある日、優樹を連れて出掛けた帰りに、私は何気なくトシ君の家の前を通った。

時間はもう8時を回っていた。当然、トシ君は仕事中。


なのに、家の電気が付いてる…

消し忘れたのかな。


そう思いながらも
嫌な予感はどんどん大きくなる。


反対側の窓まで見に行くと窓が空いている。


中から千春の姿が見えた。


私は急いで家に帰った。
まるで、そこから逃げ出す様に。



遊びに来ていただけ?

それとも…?


確かめたい。
でも、怖い。聞けない。


この時には、もう、私の中でトシ君の存在は
大きくなりすぎていた。


家族の悩みを打ち明けて以来、私は、急速に彼に依存して居た。

No.141 10/03/24 21:43
サクラ ( mR7jnb )

私は、次の日優樹を連れてトシ君のBARに遊びに行った。


案の定、千春はカウンターに座っていた。


私は千春の隣に座る。


トシ君は驚きながら私達を見た。


「サクラさん、久しぶりですね!優樹君、歩ける様になったんですね。」


「うん。保育所入る頃にようやくね。歩き始めたの」


「あぁ、トシから聞きましたよ~、サクラさんも働き始めたって。」


やっぱりダメ。
イライラする。

気安くトシとか言わないで!私と千春がトシ君を共有している事実が
こんな時、凄く思い知らされる。


「あ~私も早く赤ちゃん欲しいんですよ。でも、なかなか出来ないんですよ。」


そう言って、「ねっ?!」と言いながら千春はトシ君の顔を見た。

No.142 10/03/24 21:58
サクラ ( mR7jnb )

やっぱり。
やっぱり嫌だよ。
私、トシ君には誰にも触れて欲しくない。


私以外を見ないでよ。


付き合ってたら、当然の行為だろうけど。

赤ちゃんって?


別れるつもりで居るんじゃなかったの?


やっぱり割り切れない。
こんなの嫌だよ。



千春は悪びれる事なく
話を続ける。


「一緒に住んでから結構、経つんですけどね。未だに近所に友達も出来なくて。あの辺、子供も多いし、早く私も仲間入りしたいんですよね。」


一番聞きたかった言葉
でも知りたくなかった現実

その後、私は何て千春に声を掛けたのか
どうやって家まで帰ったのか思い出せない。


気付くと真夜中のベットの中に居た。
そして耳元で携帯電話が激しく鳴っている。

No.143 10/03/26 15:35
サクラ ( mR7jnb )

この時間に電話を掛けてくる相手は
トシ君しかいない。
分かってて電話に出た。

言い訳?弁解?
何でもいいから、
私を繋ぎ止める言葉を聞かせて欲しい。

離したくない・大切なんだって。
そしたら、
私は馬鹿だから
きっと又、その言葉を信じてついて行くから。


「もしもし?」

「あっ。俺。寝てた?ごめんな。」

「うん。大丈夫。」


沈黙が続く。
私は、何て言っていいのか分からない。

「トシ君、彼女と一緒に住んでたんだね。知らなかった。」

言葉を考えてる内に
いきなり核心をついてしまった。

「あぁ、うん。あいつも色々ある子でさ。住む所なくてな。」

彼は大して気にする様でもなく
悪びれることなく
あっさりと認める。

No.144 10/03/26 20:08
サクラ ( mR7jnb )

>> 143 「私、嫌だよ。そんなの嫌だよ。」


暫く沈黙した後、
彼は静かに言った。


「ねぇ、俺だって嫌なんだよ。お前が毅君と暮らしてる事。でも、俺は、何も言わずに我慢してきたよな?」


…それを言われたら、
私はもう何も言えない。
自分でも分かってる。
自分の事、棚に上げてるって。


分かってるけど。
でも嫌なんだもん…


「でも…私は毅とはエッチしてないから。」

「そんなのさ、口では何とでも言える!でも本当はどうなのか、本人達にしか分からないだろ!」

喋りながら彼は
声を荒げ始めた。

「俺だって、早くお前だけを愛したい。でも、そうさせないのはお前だろ?」


離婚をしない私が
全て悪い。


これ以上は
何を言っても無駄。


離婚しない内は
私は不満を言う事も出来ないんだね。

No.145 10/03/26 20:39
サクラ ( mR7jnb )

「今、お前の家の下に居るから。ちょっと降りて来いよ。」


仕方なく、パジャマのまま下に降りると
車に乗るように言われた。

車はそのまま走り出す。

トシ君は無言で運転する

私は窓の外を見て

ただ流れる景色を見ていた

暫く走ると、

いつもの場所にたどり着いた。

トシ君の秘密基地。


車を停めるとハンドルから手を離し、体ごと、私の方を向く。

窓に映るトシ君と目が合った、彼の悲しみを含む眼差しに気付き、胸が苦しくなり、私は俯き、彼の視線から逃げた。


その時、ふいに後ろから抱き締められる。

「さくら、ごめんな。」

何て答えていいのか分からなくて、抱き締められたその腕をきつく握った。

No.146 10/03/26 20:59
サクラ ( mR7jnb )

「俺、さくらの事が本当に好きなんだよ。好きになりすぎちゃったんだ。」


そう言って私を抱き締める腕に力を込めた。
私は、その力に負けない位、ギュッと腕を握る。

その言葉を私は素直に嬉しいと思った。


「だから、怖いんだ。」


怖い…?


「好きになった分だけ、お前を失う時が怖い。」


「私だって同じ気持ちだよ?トシ君を、もう失いたくないよ。」


「でも、お前は今、俺を失っても戻る家庭があるよな?だから、お前はいつだって、俺なんか捨てられる。」


「そんな事ないよ!私は…」


私の言葉はトシ君の声に遮られた。


「言葉では、何とでも言えるんだよ…」

No.147 10/03/27 18:21
サクラ ( mR7jnb )

言葉だけでは、
もう気持ちを伝える事さえ出来ないんだね。


「俺は、もう1人にはなりたくないんだ。」

お前が去った後に
1人で耐えて行くなんて絶対に出来ない。
俺が弱くてズルイ男になってしまう位、
お前が好きなんだよ。


彼は抱き締めたまま
私に、そう言った。


彼の顔は見えない。



もしもタイムマシーンがあったら、どんな顔で話してたのか見てみたいな。


きっと、
自分の名演技に酔いしれていたはずだね。



「ごめんね。トシ君。」
あなたを、こんなに苦しめて。
「もぅ、分かったから。」
今ここで頷けば
千春との関係を認める事になると、分かっていた。


それでも
トシ君の側に居たいと
願っていたの。



ほら、バカな女。
簡単に騙されたでしょ。

No.148 10/03/27 21:08
サクラ ( mR7jnb )

>> 147 あの時はただ
彼の言葉に騙されていたかったの。
何かが、おかしいって思う気持ちに蓋をして
彼を信じて、笑って居られたら、それで良かったのかも知れない。


苦しみも悲しさも
乗り越えたら
その先に何かが待っていると思ってた。


こんな男を許し
愛していけるのは
自分しか居ない。
彼を変えられるのは
私しか居ないんだと…



そんな幻想さえ抱いていた



それからの私は
ただ耐えるしかなかった。
会えない日も
声さえ聞けない日も
千春を自分の彼女と紹介するのを見ても
私には不満を口にする事さえ許されない。


心は限界だったのかも知れない。
疲れていたのかも知れない

No.149 10/03/27 21:18
サクラ ( mR7jnb )

以前、トシ君と一緒に行った誠さんのBARで
イベントが開かれた。


その日は
トシ君のBARも休みだったので、お店のみんなと一緒に参加する事になった。


勿論、トシ君の隣には千春の姿がある。
私は仲の良い女友達を誘って参加した。


お店に着くと
前と変わらず、大人のムード漂う店内と
正英そっくりな誠さんが出迎えてくれた。


ただ、その日、違った事は店内に流れる有線のジャズが
今日は生バンドの演奏で行われていた事だった。

No.150 10/03/27 21:45
サクラ ( mR7jnb )

先に来ていたオーナーや常連さん達の姿を見つけ
一先ず挨拶回りをした。


その席にトシ君と千春の姿を見つけた。


「さくら達も、こっち座れよ。」トシ君は自分の隣をポンポン叩きながら
私達を誘ってくれた。


トシ君の顔が赤い。
目の前には飲みかけのブランデー。


【すでに、酔っ払いか。】

私はトシ君の方を見て
ニッコリ微笑みながら
断わった。


「行こう、真美。」

真美の手を取って、二人でカウンターの隅っこに座った。


「ごめんね、真美。着いて来て貰って。」


真美とは中学時代からの友人で、今までの事もトシ君との事も、いつもリアルタイムで相談していた。



「別にイイけど。あんた、平気なの?あんなの見せつけられて。」
そう言って、トシ君の方に顎をしゃくる。

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