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この気持ちに嘘はつけない。#1

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小説好きさん（ 10代 ♀ ）
21/10/12 23:32(更新日時)

昔から、人の気持ちを探るのは得意だった。なんとなくこの人は私が好きなんだな、とかわかってしまう。その逆もそうだった。
嫌われていたり嫉妬されてるって思ったら、必要最低限の会話しかしないようにした。なんとなく嫌だなと思った人とも一定の距離を保ち、嫌いになる前に上手く対処した。自分も、他人も傷つかないようにするために。
自分で言うのも難だけど、私はそういう意味ではコミュニケーション能力が高いのかもしれなかった。
でも、一ノ瀬香弥…彼は隠すのが上手かった。だから、私が彼に好かれていると知ったきっかけは別にある。
それは、ー
「葵さん、これって何って読むんですか。」
そこで私の思考はシャットアウトされた。香弥に話しかけられると、最近変に緊張してしまう。他のことを考える余裕なんてない。その原因については、もう分かりきっていた。そして、その都合の良さに自分自身で呆れた。
「えっと…」
「すみません、自分で調べろって感じですよね。」
「や…別に…これくらい…」
本心だった。これくらい大したことない。迷惑でもなんでもない…し、少しでも多く香弥と話したかった。
視線を紙に落とすと、そこには彼のものであろう、独特な自体で『或る』と書かれていた。
「えっと…ある、かな」
「あー…成程…ありがとうございます！」
「…全然」
わざわざ話しかけてくれる彼に対して、いつも素っ気ない態度しか取れなくて、申し訳なかった。…でも、話しかけられる度喜んでいる自分がいて、もう少し素直になれたらどんなに楽だろうかと思った。

恋愛。それは、ほとんどの人が一度は憧れるであろう言葉。見方によっては素晴らしいものだと思う。恋愛を通して学ぶこともあるし、恋することによって見える世界や価値観が変わるなんて良くあることだ。実際、私が青春と聞いて思い浮かぶのは大抵部活関係か、恋愛絡みのことだ。
でも、素晴らしくもある反面、恋愛感情によって起こる厄介なことがある。不倫やセクハラなんてまさにその代表的な例だろう。恋愛によって、友情崩壊することもしばしば、恋愛感情さえなければ、と思うことが世の中では結構ある。
…ここまで酷いことにはならないと思うが、ある程度慎重にいかなければならない。
そのために、この気持ちは容易に人に伝えては行けないと思った。

…とはいえ、自分の想いは、一人で抱えきれない程大きくなっていた。恋愛って、やっぱり少し怖い。自分で気づかないうちに気持ちは大きくなっていって、どんどん深みにハマっていく。たまに、うっかり口に出してしまいそうになる。隠す、という動作を忘れてしまいそうになる。危ない、と思った。こうなったら、何かしでかす前に誰かの前で吐き出してしまったほうが良いだろう。
ある程度口が堅いか、周りの条件がどうか、自分が話しても良いと思える相手かどうか。それらの条件を踏まえ総合的に見て、誰に話すか決めよう。
奥手で何もできない自分から、一歩踏み出そうと思った。