黒と白のグラデーション
俺が17歳
彼女は20歳
俺は高校生
彼女は大学生
たったそれだけの差が
遠かった
14/12/14 20:58 追記
「ため息はつかない!」に登場した黒田さんと白井さんの出会いからのお話です。
よろしかったら「ため息はつかない!」もご一読ください
http://mikle.jp/threadres/2143875/
14/12/23 15:17 追記
【感想スレ】
http://mikle.jp/threadres/2169945/
よろしくお願いします
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「白井 涼です。大学2年です。よろしくお願いします」
俺の隣に立っていた大学生が挨拶した。
見た目も声も涼し気な女の子だな、と思った。
あとで聞いたら、名前が「涼」一文字だと聞いて、名前の通りだと感心した。
真新しい内装に真新しいテーブルや椅子。
オープン1週間前のレストランのフロアーに、店長と副店長、社員3人、厨房のチーフ以下5人。
社員連中と向かい合うように男女アルバイトが15人、ランチ中心のパート主婦が5人。厨房で働くパート主婦が3人。
初めて全員揃っての顔合わせだった。
ここは都心から少し離れているが、JRと私鉄の乗り換え駅で、駅周辺はそこそこ賑やかで、駅から少し離れると住宅街が広がっているようなエリアだ。
CMで馴染みの食品メーカーが数年前から外食産業に参入し、新宿と渋谷に食事に力を入れたダイニングバーを出店した。
このレストランは初の郊外店で、新宿店と渋谷店とは少し趣向を変えて、家族連れでもカップルでも気軽に入れるカジュアルレストランというコンセプトだった。
営業時間は午前11時から深夜2時まで。
昼はランチ、午後は喫茶、夜から深夜は食事もアルコールも楽しめる、そんな少し洒落た店だった。
店は駅に近いファッションビルにあって、1階は普通の客席、2階は可動式の壁で区切って少人数から少し規模の大きいパーティーまで対応できる、個室宴会フロアになっていた。
彼女、涼と俺は、アルバイトの求人雑誌を見て応募して採用された、オープニングスタッフだった。
オープニングスタッフとして採用されたアルバイトやパートは、事前に新宿店や渋谷店で研修があった。
俺は渋谷店で、涼は新宿店だったから、涼に会ったのは新規店の顔合わせの日が初めてだった。
新規開店前の店舗で、本社の指導員や店長以下社員のもと、研修が始まった。
サービス業の基本として、接客用語のロールプレイングから始まって、トレーの持ち方、テーブルセッティングや料理の出し方、ドリンクやデザートの作り方、バッシング、つまり食器の下げ方、客の案内の仕方、ウェイティングが発生したときの対応など、マニュアルに沿って細かく教えられた。
伝票は手書き、レジも手打ちだった。
指導員と店長からは、1週間の研修最終日までに、メニュー全部と伝票に書く略語を暗記するように命じられた。
パスタだけでも10種類以上、肉料理、オーブン料理、サイドメニューなど全て略語が決められていた。
全員が新人なので、みんな渡された略語表を見ながら、休憩時間や帰宅後に暗記に励んでいた。
「ねぇ、全部覚えられた?」
まだオープン前だったので、休憩時間は客席で飲み物を自由に飲んでいいことになっていた。
ボックス席の隣にいた涼が俺に話しかけてきた。
「8割がた覚えた」
「私もそのくらい。だけどパスタでたまに混乱する」
「涼さん、アタマ固くなってんじゃないの?」
「ムカつく~、まだ高校生には負けないよ」
涼はそう言って俺の頭を叩いた。
涼はアルバイトの仲間から研修が始まってすぐに「涼さん」とか「涼ちゃん」と呼ばれるようになっていた。
アルバイトはほとんどが高校生と大学生で、下は16歳から一番上でも大学院生の24歳。
採用担当だった店長の好みなのか、男も女も明るくてよく喋るヤツが多かった。
みんな初めての職場ということもあって、打ち解けるのも早かった。
その中でも涼は目立つ存在だった。
研修の最終日に略語のテストがあった。
みんなほとんど覚えていたが、全問正解だったのは、俺と涼だけだった。
研修も一通り終わり、もう後はオープンしてから実践していくしかないという感じだった。
店長が研修の締めくくりで少し話をした。
「フロアーの要になるのは、デシャップとホールガイドなんだが、最初は担当を絞りたいと思う」
デシャップは店によって多少内容は違うが、要はフロアー全般の要のポジションだ。
この店では基本的にパントリーにいて、キッチンへ正確にオーダーを伝える。出てきた料理を素早く、かつ間違いのないように配膳し、料理とセットになるライスやパンを用意したり、作り置きのサラダが切れないように管理したり、飲み物やデザートを出すタイミングも管理する。
デシャップが使えない人間だと、料理は冷め、オーダーミスも増え、キッチンの苛立ちを招き、客からのクレームが増える。
この店のホールガイドは、基本的には客の案内係だ。
混雑してウェイティングがかかったときには、ホールガイドの対応によって、客の苛立ちを左右し、中間バッシングや空いたテーブルのセッティングまで気を配り、時にはオーダーを受けたり、クレームを最初に引き受けて店長や社員に引き継ぐこともある。
デシャップが全体の要なら、ホールガイドは店の顔のようなポジションだった。
ホールガイドが優秀なら、店が繁盛するといっても過言ではない。
「デシャップはしばらく黒田くん専任で頼む。黒田くんがいない日は社員が付いて他の人にも徐々に覚えてもらうから。あと同じような感じで、ホールガイドは白井さんで頼む。みんな慣れてきたら徐々にローテーション制でいこうと思う」
年長者を差し置いて俺がデシャップに選任されたのは、多分この間までファミリーレストランでアルバイトをしていたからだろう。
涼は女性アルバイトの中で、一番仕事の飲み込みが早かった。
レストランは初めてらしいが、ファーストフード店でアルバイトをしていたと言っていた。
そして、略語のテストの結果でも分かるように、傍目にも真剣に仕事に取り組んでいた。
他のアルバイトのみんなも、店長の決定に不服はないようだった。
俺はともかく、涼が同性からも妬まれないのは、その開けっぴろげで爽やかな資質が誰からも好かれるからなんだろう。
そうして俺のアルバイト生活が始まった。
俺がアルバイトをしていたのは、ただ単に金が欲しかったからだ。
俺の家は貧乏ではないが裕福でもない。
親父はそこそこの会社に勤めているが、まぁ中の中からいいとこ中の上という家庭なんだろうと思う。
俺の4歳上に兄貴がいるが、この兄貴が優秀で理系の私大に進学し、卒業後は修士課程に進むことが決まっていた。
俺はそんな兄貴を尊敬していたし、もともと仲のいい兄弟だったから、俺より遥かにデキのいい兄貴を妬むことはなかった。
だけど、兄貴の学費がかかっていることは分かっていたから、俺は両親からなにも言われなくても、高校は自転車で通える公立高校を選んだ。
兄貴も週に2回くらい家庭教師のアルバイトをしたりしていたが、大学が忙しくてそれ以上はなかなかできないようだった。
俺が中学生の頃には専業主婦だったお袋が、兄貴の大学進学に合わせてスーパーでレジ打ちのパートを始めたりしている姿を見ていれば、当然の選択だった。
俺は奨学金を借りるか、アルバイトでもしないと大学には行けないと思っていたが、両親は俺の学資保険だけはきちんと続けているから、行きたければどこの大学でも専門学校でも行けと言ってくれた。
だったら、車の教習所の費用だとか、俺の小遣いくらいは、親に甘えないで自分で稼ぎたい。
そう思っていた。
店の名前は「シルバースプーン」と言った。
オープンの日から3日間は、毎日先着20名に本物の銀のスプーンをプレゼントするという太っ腹なサービスをした。
夏休みだったこともあって、俺は開店から夜まで働いた。
客の入りと売り上げは会社の予想より多く、俺も他のスタッフもいきなりフル回転する忙しさだった。
最初の数日は任されたデシャップの仕事を覚えるのに必死だった。
店長や社員に助けられたこともあって、1週間もするとだいぶスムーズに仕事をこなせるようになってきた。
他のスタッフの仕事ぶりに目を向ける余裕も出てきた。
フロアーはA、B、Cの3エリアに分けてあり、それぞれ1人ずつ担当がつく。
フリーの人間は、手の足りないところを手伝う。
パーラー担当というのもいて、カウンター席の中のドリンクコーナーで飲み物やデザートを用意する。
レジはアルバイトの人間がやってもいいことになっていたが、オープンからしばらくは忙しかったので、主に店長や社員がやっていた。
出勤すると、アルバイトはその日のシフト表をチェックする。
時間帯とポジションとスタッフの名前が書いてあって、ポジションは略語で書いてある。
A、B、Cはフロアーの名前。Fはフリー。Pがパーラー。Rがレジ。
俺はいつもD、つまりデシャップだった。
同じように涼はいつもH、ホールガイドだった。
アルバイトの制服は、男は白いシャツに小さな蝶ネクタイ、黒いズボン。
蝶ネクタイが漫才師みたいでイヤだった。
昼のパートさんは年齢が30代中心だったから、ストライプのベストに黒いタイトスカートに腰はエプロン。
ディナーは若い女の子ばかりだったから、白い半袖ブラウスに紺のジャンパースカートに白いエプロン。
スカートは長いフレアスカートになっていた。
スケベな男が喜ぶような色っぽい制服ではなかったが、お客からは可愛いとおおむね好評だった。
俺は普段パントリーに詰めていた。
パントリーは壁に囲まれているわけではなく、カウンターで仕切られた形で、客席からキッチンも見えるようになっていた。
俺は手の空いた時間にシルバー、つまりフォークやスプーン類を磨きながら、フロアーを眺めた。
店の入り口の正面にレジがあり、その前にホールガイドの涼が客待ちで立っている。
涼はメニューを胸に抱え、背筋を伸ばして立っている。
凛とした、そんな言葉がよく似合う。
肩より下まで伸びた髪は女子高生みたいに二つに結われ、エプロンのリボンもキッチリ結ばれている。
客が来るとスイッチが入ったように笑みを浮かべ、そのときの忙しさに合わせて適したフロアーへ客を案内する。
どんなに忙しくても、涼のお辞儀は優雅だった。
接客するときの言葉遣いも完璧だ。
すげぇなぁ。
俺は素直に感心した。
やっぱり仕事がデキるオンナはカッコいい。
涼が店の顔なら、俺は要だ。
負けてらんないな。
涼は俺の目の前にいるライバルだった。
「シルバースプーン」がオープンして1ヶ月過ぎた。
店のスタッフはみんな仕事に慣れ、伸び伸びとした明るい雰囲気の職場になっていた。
俺も涼も学生だから、夏休みが終わったら、そうそう毎日アルバイトに来られなくなる。
固定されていたデシャップとホールガイドも、徐々に他のスタッフがローテーションで回るようになり、俺や涼もフロア担当や、パーラー担当に回るようになった。
俺は店長から、学校が始まったら無理のない程度で構わないので、できるだけディナーと休日には出勤して欲しいと言われた。
ある日、バックヤードにある休憩室で俺が学校の課題をやっていると、休憩に入った涼が声をかけてきた。
「謙ちゃん、学校の宿題?」
最初は俺を「黒田くん」と呼んでいた涼は、気が付いたら俺を下の名前の「謙ちゃん」と呼ぶようになっていた。
「そうだよ。もうすぐ夏休み終わりだから。いいよな、大学生は夏休み長くて。涼さん、バイトばっかしてるけど、どっか遊びにいかないの?」
「店長が、9月に入ったら少しまとめて休んでもいいって言ってるから、大学の友達と旅行にいってくる」
「いいなぁ。どこいくの?」
「温泉だってさ。1人温泉マニアみたいな男の子がいてさ、旅行いくってなるとその子が仕切って温泉。まぁ楽しくていいんだけどさ」
涼は楽しそうに笑った。
俺は。
少し複雑だった。
「シルバースプーン」にいるとき、俺は涼の仕事仲間だ。
店長は俺と涼を買ってくれているようだし、自惚れではなく、俺と涼はスタッフの中では優秀なほうだと思う。
だけど、「シルバースプーン」から離れた普段の俺は、ただの高校生だ。
制服を着て、毎日チャリンコを漕いで学校へ行く、ただの高校生だ。
涼は同じくらいの年の同級生に囲まれ、自由な雰囲気のキャンパスを歩く大学生だ。
括りは同じ「学生」なのに、その差は天と地ほどと感じられるような気がした。
アルバイトを始めて1ヶ月。
俺はいつの間にか涼に対して特別な感情を抱いていた。
恋とか憧れとは、少し違う。
どちらかというと、家族や姉弟のような感覚に近かったように思う。
新規開店の店舗で、同じスタート地点に立ち、同じような立場で働いてきた。
涼も俺も、夏休みの間は毎日開店1時間前に出勤し、開店準備をし、ランチタイムで走り回り、休憩時間もよく重なり、少し余裕のある喫茶の時間帯になれば一緒にディナータイムの準備をし、夜の9時か10時に一緒に仕事を上がった。
この期間、俺は家族よりも友達よりも、涼と過ごす時間が多かった。
だから俺は、錯覚していたんだ。
俺は涼と同じ場所にたっているんだと。
だけど、現実を見てみれば俺は高校2年生で、涼は大学2年生。
いくら俺がバイトを頑張っても、店の制服を脱いだら、その辺を歩いている高校生の集団の1人となにも変わらない。
俺から見れば大学生は大人だった。
大学という教育の場で、就職するまでの束の間の自由を、勉強やアルバイト、友達付き合いで埋める。
涼もその大人の集団のひとりなんだと思うことが、なんだか悔しかった。
涼は友達と旅行にいくと言っていたが、男女が混ざったグループのようだった。
その中にいる涼は、俺の知らない大人の顔をした涼なんだろうか。
高校生の俺がどんなに足掻いても、いますぐ涼と同じ大学生になることはできない。
それは解っているのに、なぜか俺は納得することができない。
そこら辺がガキなんだということが、俺には分かっていなかった。
だけど、その自分でもハッキリと説明できない感情が、少しずつ姿を変えながら、この先20年近く俺に付いて回ることになるなんて、そのときの俺に予想できるはずもなかった。
8月が終わり、俺は涼より先に夏休みが終わった。
当然朝は夏休みにバイトをしていた時より早く起き、8時には自転車で家を出て8時半までに登校する。
部活をしていなかった俺は、たいてい夕方の5時か6時からアルバイトにいった。
学校の授業の関係で、平日の出勤は3〜4日、土日は用事のある日だけ休みという感じでアルバイトを続けた。
涼は結局9月の2週目の平日で4連休を取り、大学の友達と草津温泉にいってきたらしい。
旅行から帰ってきた涼は、お土産の温泉饅頭を休憩室に置いていた。
秋になると、俺はときどき宴会を担当するようになっていた。
店の2階にある個室宴会フロアーは、予約すれば誰でも利用できた。
近くにある会社の宴会や、家族連れの祝い事などで利用されることが多かった。
基本的にコースメニューを提供することが多く、客単価が高いこともあって、オープンからしばらくは店長や社員が担当していた。
だけど、秋から年末年始にかけて、宴会が増えることが予想され、アルバイトスタッフも宴会を担当することになり、まず俺が指名された。
俺が2回ほど店長と一緒に宴会を担当したら、今度は涼が同じように宴会を担当した。
しばらくの間、宴会は俺か涼が1人で切り回すようになった。
俺が少し規模の大きい宴会を担当した日は、ときどき涼が上がってきて手伝ってくれた。
「ねー、今日土曜だよ。バイト終わったら遊びにいこ」
宴会フロアーのパントリーで料理待ちをしているときに、涼が言った。
「いいけど、どこいく?」
「給料でたじゃん。パチンコいこう、パチンコ。謙ちゃんがときどきやってんの知ってんだから」
なんのこだわりもない口調。
きっと涼は大学でもこんな風に、男女関係なく友達を誘うんだろうと思った。
結局仕事を上がったのは10時過ぎで、パチンコ屋の閉店時間が近いので、カラオケにいくことになった。
「あ、謙ちゃん不良〜。タバコなんか吸って。補導されちゃうよ」
カラオケボックスの部屋に入り、俺がタバコを取り出すと、涼がそう言った。
「うるせぇな、そんなドジ踏まねぇよ」
「まぁね、謙ちゃん大人っぽいもんね」
「そ。だから酒も飲む」
実際俺は身長は高かったし、顔も童顔には遠かったのか、制服を着ていないときに高校生に見られることはほとんどなかった。
どちらかといえば涼の方が服装によっては高校生くらいに見えることもあった。
涼はバイト中のほうが大人っぽく見えた。
「ライター貸して」
「涼さん、タバコ吸うの?」
「うん、たまに」
「彼氏に嫌われるんじゃないの」
「そういうこと言うヤツに限って、自分は吸ってるんだよね」
涼は自分のバッグから取り出したメンソールに火を点けて笑った。
………。
これは、彼氏がいると言ってるのか、一般論なのか。
俺が突っ込んで聞ける話でもなく、俺はドリンクメニューを黙って見た。
「謙ちゃんは彼女いないの?」
俺が黙ったら涼に突っ込まれた。
「いまはいない」
「いつまでいたの?」
「………『シルバースプーン』にくる少し前」
「なるほど。前のバイト先に彼女がいたのか」
涼はふんふんと納得している。
俺は、また黙った。
涼の言う通りだったからだ。
前にバイトしていたファミレスで、違う高校の同い年の女の子と付き合っていた。
その子は後から入ってきた大学生が近付いてきたと思ったら、あっさりそっちへ乗り換えてしまった。
最初は向こうが積極的で、まぁ可愛い子だったから俺もその気になって付き合ったんだけど、名の通った大学に通う、ちょっと大人っぽい男のほうが、彼女には魅力的だったらしい。
俺はフラれた形になり、おまけにその大学生から妙に絡まれることも多く、色んなことがめんどくさくなってバイトを変えることにした。
タイミングよく募集があったのが、いまの『シルバースプーン』というわけだ。
「よかったらおねーさんに話してご覧?聞いてあげよう!」
涼は美味そうにタバコを吸いながらそう言った。
あまりカッコいい話じゃないけど、涼になら話してもいいような気がした。
涼は人の悪口を言わない。
もちろん、理不尽なクレームをつける客に遭えば愚痴も言うし、ちょっと神経質な社員がキレ気味にバイトに当たり散らしたときには文句も言うが、悪口や悪意ある噂話は聞いたことがなかった。
主婦のパートを除く女子アルバイトの中では最年長だったこともあり、涼はみんなの姉的存在だった。
俺がかい摘んで前のバイト先でのことを話すと、聞き終わった涼は「ふーん」と言った。
「ふーん、が感想かよ」
「いや、その子も幼いなぁ、って思ってさ」
「向こうはA大経済学部だし。親に買ってもらったクルマ乗って、サークルの合間にバイトにきてるようなヤツだったけど、やっぱ年上で金持ってる男のほうがいいんだろ」
「それだけ聞くとロクデナシだよねぇ」
「涼さんだって、そういうヤツのほうがいいんじゃないの?」
涼はさっき店員が持ってきたモスコミュールに口をつけて首を少し傾げた。
「どうかなぁ?あんまりそういうことで男の人、好きになったことないから」
「ふーん。じゃあ涼さんの彼氏ってどんな人なんだよ」
「んー?そうだなぁ、普通だよ、普通。実家は静岡で、汚いアパートに下宿してて、バイトして学校にきてる人」
「それじゃどんな人なのか全然わかんねー」
「だから普通だって。顔も普通だし、背の高さも普通だし、優しいときも意地悪なときもあるし」
「どこが好きで付き合ってんの?」
「わかんない」
「わかんないのに好きなの?」
「だって気がついたらお互い好きになってたんだもん。どこが好きかなんてわかんないよ」
涼はそう言って笑った。
そういうもんなんだろうか。
俺にはよく分からない。
小学校や中学校で気になる女の子がいなかったとは言わない。
だけど、俺は告白なんかしたことはないし、俺に告白してきた何人かの女の子もいたが、あまり本気には見えなかった。
本気で誰かを好きになるのが、大人なんだろうか。
俺より大人に見える涼は、どんな気持ちで彼氏と付き合っているんだろう。
「まぁ、私のことはいいじゃない。謙ちゃんは『シルバースプーン』で気になる女の子はいないの?」
涼はカラオケの曲を選びながら言った。
「いない」
「お年頃の女の子がいっぱいなのに」
「ババアかよ」
「だって、みんな私に恋愛相談してくるんだもん。謙ちゃん、けっこう人気者だよ」
涼に言われて、俺はバイトの女の子たちの顔を思い浮かべてみた。
バイトの仲間はみんな仲がいいし、俺も誰とでもよく喋る。
多分、涼以外の女の子に誘われても、こうやって遊びにくることはあるだろうけど、だからといって特別誰かが気になっていることもない。
逆にバイトの女の子たちが仕事中に無駄口を叩いていたり、仕事を手抜きするところなどを見てしまうと、なんとなくガッカリする。
しょせん学生アルバイトなんだからその程度なんだと思うんだけど、やっぱり俺は仕事のできる人間が好きだった。
厳しいけど行き届いた気遣いのできる店長だとか、普段は怖いけど素晴らしく腕のいいキッチンのチーフだとか、ランチタイムでリーダー的な存在の主婦パートさんの接客態度の丁寧さだとか、俺はそんなところばかり見てしまう。
その最たる存在が涼だった。
他のバイトの女の子たちも、みんなそれなりに可愛いし良い子だとは思うが、やっぱり俺が勝手にライバルだと認めている涼が、1番気になる存在ではあった。
「謙ちゃんに彼女がいるかどうか知りたがってる女の子が何人かいるよ。教えちゃってもいい?」
「いいけど、俺、『シルバースプーン』では彼女なんか作らないよ」
「なんで?勿体無い」
「前の彼女で懲りたし、そこまで興味もてる女の子、悪いけどいないんだよ」
「ふーん。案外真面目なんだね」
言い方によっては馬鹿にされたと思ってしまいそうな言葉が、涼の口から出ると、褒め言葉に聞こえた。
涼の彼氏という男は、涼のこういうところが好きなんだろうか。
その頃の俺は、涼が俺とは違う世界に属することに嫉妬のような気持ちを持っても、彼氏という存在に対して嫉妬することは、なぜかなかった。
その後もあまり変化のない毎日だった。
涼は俺に気がある女の子がいるようなことを言っていたが、俺の言ったことが伝わったのか、特にそんな気配は感じられなかった。
俺の毎日は忙しかった。
生活の基本は学校とバイトで、もちろん学校では中間やら期末やらもある。
俺は指定校推薦が欲しかったから、学校の成績も落とすことはできなかった。
予備校に通わずに大学へ進学するなら、それが一番簡単だからだ。
自分で言うのもなんだけど、俺は勉強は苦手ではない。
高校受験のとき、自転車で通える高校が第一条件で、自分のレベルより少しランクを落としていたのもあって、そこそこ上位にいるのはそれほど難しいことではなかった。
だけど、毎日ガチガチに机に向かうような勉強好きでもない。
成績を落とさないポイントだけは押さえて、バイトもしながら、友達とも遊んだ。
俺がいたクラスは割と男女仲が良くて、バイトがない日には俺もカラオケとかボーリングに誘われた。
その中に1人、気になる女の子がいた。
千葉 皐月という女の子だった。
どうして気になったのか、そのころの俺にははっきり理由が分からなかった。
理由が分かったのは、ずいぶん後になってからだった。
皐月の笑い声とか
不貞腐れた顔とか
俺をふざけて「謙ちゃん」と呼ぶところが
なんとなく。
涼に似ていたんだ。
皐月との距離が縮まったのは、ありきたりなことに、12月の修学旅行だった。
行き先は九州だった。
俺と皐月は同じグループだった。
あとから聞いた話だが、周りがお膳立てしたらしい。
俺が皐月のことが気になっていたからなのか、皐月も俺に好意があったようだ。
皐月は普通の女の子だった。
派手なわけでもなく、地味なわけでもなく、そこそこ真面目で、そこそこ羽目を外す、俺の高校では平均的なタイプだった。
みんなで遊んでいるときの皐月は、よく俺の隣にいた。
それも周りがそういう雰囲気にしていたんだろう。
その流れの先にあった修学旅行だった。
ハウステンボスでの自由行動では、やっぱりいつも俺の隣は皐月だった。
ただでさえなんとなく気になっていたところに、修学旅行のころには、俺から見ても皐月は明らかに俺に好意があると分かるようになっていた。
俺が悪い気がするわけもない。
嫌いなタイプなら鬱陶しいだろうが、そうじゃないから俺も皐月のことが気になっていた。
まわりは俺と皐月をくっつけようとしている。
そんな流れを嫌がるほど、俺は女の子が嫌いだったわけでもない。
修学旅行が終わる頃には、俺もすっかりその気になっていた。
修学旅行の最後の夜の自由時間、俺は部屋でみんなとトランプをしていた。飲み物を買いに行くと言ったら、皐月が付いてきた。
俺はロビーからホテルの庭へ皐月と出た。
12月の長崎の夜は寒かった。
当たり障りない話をしていて、会話が途切れた。
「俺と付き合ってくれる?」
俺が皐月の方も見ずにそういうと、小さな声で「うん」と聞こえた。
そのまま皐月は黙ってしまったので、少しして見ると、皐月は声も出さずに泣いていた。
「なんで泣くんだよ」
俺は慌ててそう言った。
涙を拭いてやろうにも、ハンカチもタオルも持っていない。
仕方ないから、着ていたパーカーの袖で皐月の顔を拭った。
「痛い」
皐月は涙の残る顔で笑った。
「泣くことないだろ」
「だって、1年のときから、私、黒田くんのことが、好きだったの」
1年のとき、俺は皐月の顔も知らなかった。
「だから、2年で同じクラスになって、すごく嬉しかった………」
俺は単純に嬉しかった。
いいな、と思っていた女の子が、俺が知らないうちから想ってくれていたと聞いて、嬉しくない男もいないだろう。
俺は少し辺りを見回して、一瞬だけ皐月の手を握った。
「俺も皐月のことが好きだ」
「信じられない」
「本当だよ」
「嬉しい………」
皐月はそう言ってまた泣いた。
思わず皐月を抱きしめたくなったが、仮にも修学旅行中だ。
さすがにそんなことはできない。
ぐっと堪えて、もう一度袖で皐月の顔を拭った。
修学旅行が終わり、高校は冬休みに入った。
年末は店の書き入れ時だった。
ここは都心からは遠いが、ターミナル駅ということもあって、都市銀行の支店や、そこそこ大きな会社も多かった。
「シルバースプーン」を経営している会社が、割安な年末年始宴会プランを売り出したこともあって、毎週金曜と土曜は宴会の予約でいっぱいだった。
企業の宴会は壁を全部ぶち抜いた30〜40人規模の宴会だと、ビュッフェスタイルが多かった。
ビュッフェスタイルだと最初に料理とドリンクの提供が済むと、あとは追加が出るだけだったので、逆に宴会の間は楽だった。
カクテルのオーダーが立て込んだときに、涼がヘルプにきてくれた。
ひと段落してパントリーに戻ると、涼はまた下のフロアーに戻りかけたのに、立ち止まって俺を振り返った。
「謙ちゃん、彼女できたんだって?」
涼の言葉に俺はなぜかギクッと反応した。
別に、皐月のことは隠したりしていない。
学校が早く終わった日には皐月とバイトの直前まで一緒にいて、店の最寄駅で別れたりしていたから、出勤前のスタッフに会ったこともある。
同じ学校の制服だし、そんな場面を数回誰かに見られれば、噂にもなるだろう。
だけど、なぜか涼に知られたことは、俺を動揺させた。
頭の上がらない姉に、内緒事を見つかった弟みたいな気分に少し似ていた。
「彼女、店にこないの?」
涼はおもしろそうにそう言った。
「こさせねぇよ」
俺はムスッとして言い返した。
皐月は俺が働いているところを見たいと言った。
冗談じゃない。
皐月にバイトの制服姿を見られるのはイヤだったし、畏まって料理をサーブしているところを見られるのもイヤだった。
だから「絶対にくるな」と皐月にはキツく言っておいた。
「なんだぁ。謙ちゃんの彼女、近くで見てみたかったのに」
「ホント、涼さんババァみたいなこと言うよな」
「ババァでもいいもーん。だって私、謙ちゃんより3つも年上だもーん」
涼はけらけらと笑いながらパントリーから出ていった。
俺はひっくり返した瓶ビールのケースに腰を下ろすと、ため息をついた。
どうして涼に皐月のことを知られて、妙な気分になるんだろう。
俺が皐月と付き合うようになったのは、皐月が俺に好意を持ってくれて、俺もそんな皐月を好きになったからだ。
修学旅行が終わってから、皐月とは1回遊びにいった。
渋谷で映画を観て、買い物をした。
学校がある日は一緒に帰り、バイトまで一緒に過ごしたり、マック辺りでなにかを食べたりした。
俺は電話が苦手だったから、あまり電話はしなかった。
そもそもバイトが終わった時間では、もう女の子の家に気軽に電話はできなかった。
まだ高校生が普通に携帯やスマホを持っている時代ではなかった。
皐月はちょっとしたワガママは言うけど、俺を困らせるようなことは言わなかった。
どうして俺がアルバイトをしているのかも分かっていたし、指定校推薦を狙っていることも分かってくれていた。
皐月は少しの時間でも俺と一緒にいれば楽しそうだったし、俺も同じだった。
彼女ができたばかりで、浮かれて楽しい気分だったのに、なぜか涼のことが心のどこかに引っかかっていた。
でも俺は、単に照れくさいだけなんだと、自分を納得させた。
年が変わり、3月になった。
7月のオープンから一緒に働いてきた学生スタッフの中の2人が辞めることになった。
高校を卒業して看護学校の寮に入る女の子と、高校を卒業して就職する俺の1つ年上の人だ。
店長は店の宴会場で送別会をすると言った。
3月の中旬からは、近隣の企業の送別会や学校の卒業パーティーの予約が入るが、3月のアタマならまだ宴会場は空いていた。
3月最初の土曜日のディナータイムが落ち着く夜9時からとなった。
ディナータイムメインのスタッフ、昼のパートタイムのスタッフはほとんど参加し、ディナーから深夜帯メインのスタッフはまだ店が開いているので、シフトに入っているスタッフが宴会場にちょこちょこ顔を出してくれた。
送別会といっても、特にかしこまったことはしない。
ただ飲んで食べている感じだ。
店長は案外話が分かるところもあって、俺や他の未成年のアルバイトが酒やタバコをやっても何も言わない。
ただ、泥酔して警察に補導されるほどは飲むな、とだけクギを刺された。
キッチンのチーフが辞める2人が好きだったメニューを中心に、いろいろと料理を用意してくれた。
店長はテーブルの上に酒と一緒にメジャーカップなんかのカクテル用の道具を並べ、飲みたいヤツは勝手に作って飲め、と言った。
送別会が始まって一時間もすると、みんな椅子やら床やらに座り込んで、適当に歓談しているような雰囲気になった。
俺が廊下に出てトイレへいこうと思ったら、パントリーから「謙ちゃーん」と呼ばれた。
「涼さん、なにやってんの?」
パントリーに入ると、グラスを持った涼が床に座り込んでいた。
「滋賀ちゃん相手に語ってたんだけど、逃げられちゃったぁ」
滋賀さんは大学生の男の人だ。
スタッフの中では大人しいほうだけど、優しい人だ。
「滋賀さんが逃げたくなるなんて、涼さんどんな絡み方したんだよ」
「まぁいいから、謙ちゃん、こっち!ここきて、まぁ座んなさいって!」
涼は自分の横の床をぺちぺちと叩いた。
仕方ないので、トイレに行ってからパントリーに戻り、涼の隣に腰を下ろした。
「どうしたんだよ」
俺はパントリーの冷蔵庫から瓶ビールの小瓶を出して、涼の隣に腰を下ろした。
涼はけっこう飲んでいるようだった。
「謙ちゃん、私にもそれ取って」
「飲みすぎなんじゃねぇの?」
俺はそう言いながらも同じものを涼に渡した。
涼は瓶ビールの蓋を開けて口をつけると、「あーあ」と言った。
「どうしたんだよ」
俺がさっきと同じ言葉を言うと、涼の眉が下がった。
「別れちゃったよ」
「別れちゃった、って、彼氏?」
「そう。ここんとこ喧嘩ばっかりしてて、ちょっともう無理かなって思ってたんだけど、やっぱダメだった」
「そういや、昨日涼さん休んでたけど」
「別れ話してた」
「ふーん。涼さんが振ったの?」
「うん。彼はさ、私に彼が理想とする女でいて欲しかったんだよね。無理な話だよね。控え目で、口答えなんかしなくて、いつもニコニコ彼のいうことを聞いてる女になんか、なれないよ」
「そりゃ、涼さんじゃ無理だろうね」
「でしょでしょ?タバコ吸うなだとか、飲み会で他の男と喋るなだとか、バイトの日数減らせだとか、無茶ばっかり言うんだもん」
「どんくらい、付き合ってたの?」
「大学に入学した夏からだったから………1年9ヶ月くらい?まぁ、もったほうかな」
「でも、好きだったんだろ?嫌いになったの?」
「嫌いになったっていうより、疲れた」
『疲れた』
涼の口からそんな言葉が出たのが、俺には少し意外だった。
涼はいつも弾けるように元気だ。
仕事中は流れるように動き、休憩室や店の外ではよく喋りよく笑う。
仕事が忙しくても苛立ちは見せないし、大学のレポートや試験があるときに「間に合わない~」と騒ぐことがあっても、疲れた顔などはしないのが涼だった。
「でもさ、それでも付き合ってたんだろ。やっぱ嫌いになったってことなんじゃないの?」
「まぁそうなのかもね。好き好き言ってたときは我慢できたことが、だんだん我慢できなくなってきたんだから、好きな気持ちが嫌な気持ちに負けた、ってことなのかな」
「すんなり別れられたの?」
「大変だった。別れ話するつもりで昨日の2時に彼のアパートにいったんだけど、彼は別れたくないって言うし、話進まなくて、夜までいた」
「けっこう彼氏、しつこいね」
「そうだね。私のことどのくらい好きだったのかは分からないけど、多分、フラれることがイヤだったんじゃないかな。考え直してくれ、ってさんざん言われた。挙句の果てに泣くし」
「泣くんだ。やっぱ涼さんのこと好きだったんだね」
「私も一瞬そう思った。だけど、そのあと襲われそうになった。『1回してから考えてみて』って言われて、サーって冷めた。『ヤリたいだけかよ!』ってね。『死んでもヤラない』って言って突き飛ばしたらまた泣いたの。どう思う?」
「それは最低だ」
「でしょ?もうそこで悲しくなっちゃって」
「?なんでそこで涼さんが悲しくなんの?」
「だって、真面目に別れ話してる彼女にそういうこと、言う?そんなヤツと別れようかどうしようか悩んでた自分も可哀想だし、私が好きだったのはこんなヤツだったのかと思ったら悲しいし」
「そんでどうしたの?襲われちゃった?」
「そんなわけないでしょ。最後の最後で愛想が尽きちゃって、それまで割りと穏やかに話してたんだけど、そこから正座して事務的に別れ話再開。彼のアパートの合鍵と、借りてた本とかCD全部並べて、『もう気持ちが変わることはない』って宣言したら、やっと納得してくれた」
「ふーん。大変だったね」
「そう。ホント疲れた。でもスッキリした」
「スッキリした、って割には、凹んでるじゃん」
俺がそう言うと、涼は不貞腐れた顔で俺を見た。
「だって好きだったから付き合ってたんだもん。一時はあんなに好きだったのに別れることになるのは、やっぱり悲しいよ。私って冷たい女なのかなー、とか考えちゃうよ」
涼はそう言ってビールの小瓶を空にすると、「謙ちゃん、モスコミュール作ってきて」と言った。
俺は「ヘイヘイ」と言いながら宴会場に戻り、モスコミュールを作って涼のいるパントリーに戻った。
「ウォッカ減らしといたからな」
俺がそう言ってグラスを渡すと、涼は「なんでー」とむくれた。
「飲み過ぎだって。ぶっ倒れるよ」
「大丈夫だよー。潰れたら謙ちゃんがおんぶして送ってくれるもんねー」
「やだよ」
「またまたー。謙ちゃんは優しいから、私を見捨てたりしないよねー」
涼はそう言ってウォッカ薄めのモスコミュールを半分空けてしまった。
涼はその後もパントリーから動かなかった。
ときどき誰かがパントリーを覗いて「お前らなにやってんの?」と笑ったが、涼は「謙ちゃんと愛と人生について語ってんのー」と涼しい顔で言い返した。
俺はトイレと、酒を調達するとき以外はパントリーから出してもらえなかった。
別に、本当は涼を放っておいても、多分今度は違う誰かが捕まって、涼の相手をさせられるだけなんだとは思った。
俺はそのとき、涼の隣にいたかったんだ。
酔っ払った涼が俺にワガママ言ったり、愚痴を言ったり、バカ話をしたりするのに、俺が付き合いたかった。
慰めてやりたかったわけじゃない。
この日の涼は、いつもの涼より、可愛かったんだ。
11時を過ぎると、主婦パートさんや高校生の女の子たちが帰り始めた。
パントリーの中に気付いたパートさんに「仲がいいわね。お先に」とか言われながら、やっぱり俺と涼はパントリーに座り込んでいた。
人数の減った宴会場はさっきより少し静かになったようだった。
ときどき宴会場から数人の笑い声が聞こえた。
「ちょっと、涼さん。こんなとこで寝るなよな」
気が付くと、いい加減飲みすぎだった涼が半目になりかけてぼんやりしていた。
「だから謙ちゃんがおんぶして送ってくれるんでしょー」
そう言った涼がいきなり俺の首に横から抱きついた。
「ちょっ、涼さん!この、酔っ払い!」
「へへへ」
涼はそのまま俺の胡坐の膝まで滑り落ちた。
「おい、涼さんてば!なんでそこで寝ようとするんだよ!」
「へへへ」
涼は笑いながら寝てしまった。
俺が男だって、忘れてんのかよ!
いくら年下だって、男の膝でそんな安心した顔で寝てんじゃねぇ!
こんなときに限って、誰も来やしねぇ。
誰かの気配がすれば、俺だって「やべぇ」って涼をどかすことができるのに、宴会場のドアが開く音も、階下から誰かが上がってくる足音もしない。
でも、さすがにこの状況は、マズいだろう。
そのときやっと、頭の隅で皐月のことを思い出した。
そうだ、俺には彼女がいるんだ。
こんなハタから見たら女とイチャイチャしてるような態勢でいたらいけないんだ。
普段の俺と涼の関係を知っている店の人間が見ても、酔っ払った涼と困っている俺、という構図は分かってくれるかもしれないけど。
それでもなんにも知らない誰かがこの状況を見たら、やっぱりイチャイチャしてるようにしか見えないはずだ。
それなのに俺は、動けなかった。
動いたら涼が起きる。
触ったら………?
どこにも
触れない。
触れないんだ。
涼の体を揺すって起こすことも、ほっぺたを叩いて起こすことも。
俺にはできないんだ。
この酔っ払って、俺を男とも思わずに安心しきって眠ってる、普段は俺より大人びて見える涼が、子どもみたいに見えるから、守ってやりたいような気分になるんだ。
それと同時に、この柔らかそうな頬とか唇とかに、少しでも触れたら、もう歯止めが効かなくなる程度に、俺も下心がある男なんだ。
本当はそんなもの、簡単に解決できる。
トイレに行くんだと言って、立ってしまえばいい。
足が痺れたと言って、足を動かせばいい。
どうしてそんな簡単なことが、いつまでたってもできないんだ。
「プシュッ」
そんなチワワみたいなクシャミをして、涼が目を開けた。
「わっ」
俺の頭の中を見られたような気分で、俺はつい声を上げた。
「へへへ」
涼は鼻を軽く擦ると、また目を閉じてしまった。
「もう、だから寝るなって!帰ろうぜ」
俺はそこでやっと涼の頭の下から足を抜き、涼の頭を床に下ろした。
「ん~~、なんか固くて冷たいよぅ」
「起きろよ」
「おんぶ」
「うるせーな」
それでも涼が動かないので、俺は結局涼をおぶって送る羽目になった。
「酔っ払い連れて帰ります」
涼をおぶったまま宴会場のドアを開けて、中にいた人間に声をかけた。
「黒田、なんか背後霊ついてるぞ」
そう言って俺をからかったのは、キッチンのサブチーフだ。
「そうなんスよ。岡山さん、お祓いしてくださいよ」
「黒田に任せるよ。ホントお前ら、姉弟みたいだな」
「イヤですよ、こんなねーちゃん」
「ウチの看板娘だからな。ちゃんと家まで送ってやれ」
「へーい」
俺は涼をおぶって、従業員用の出口から外に出た。
涼の家は知っていた。
店のある駅前から歩いて10分もかからないマンションだ。
隣にあるコンビニまで一緒に行ったことがある。
涼は軽かった。
店で働いているとき、背筋を伸ばした涼はけっこう背が高く見えるのに、実際は俺よりもずいぶん背が低いし、体重も子どもみたいに軽く感じた。
だから、涼の家までの道のりも、それほど苦にはならなかった。
涼の手が俺の胸元でときどき動いた。
俺は涼の自宅マンションの隣のコンビニの看板が見えた辺りで立ち止まった。
「涼さん、起きてんだろ」
俺がそう言うと、今日何度目かの「へへへ」が聞こえた。
「バレたか」
涼は俺の背中からするりと下りると、両手を上げて大きく伸びをした。
「まったくよー、高校生に甘えてんなよなぁ」
俺は急に軽くなった体をほぐすように、肩を回した。
「ゴメンゴメン。謙ちゃん優しいからね、つい甘えた」
「まぁいいけど」
「さんざん飲んで愚痴って、謙ちゃんの人肌までもらって、うん、元気出た」
「人肌とか、やらしーこと言うなよな」
「やらしかった?ゴメン」
「もう大丈夫なんだろ?」
「うん、大丈夫。男振ったくらいで、凹んでたらダメだよね」
「涼さんでも凹むんだな」
「凹むよー。けっこう寂しんぼうだもん」
「へぇ」
「ホントだって。だから謙ちゃんがずっと一緒にいてくれて、助かっちゃった」
「そか」
「彼女に怒られる?」
「酔っ払いおんぶして送ったなんて言わないから大丈夫だよ」
「へへ、ゴメンね。ありがとう」
そう言った涼は、やっぱりいつもより頼りなくて可愛かった。
「じゃあな」
「バイバイ」
涼はそう言ってマンションのエントランスに入っていった。
「あー、チャリンコ、店の前か」
俺はいまきた道を戻りながら、ブツブツ呟いた。
さっきまで俺の背中に涼がいた。
さっきまで俺の膝の上で涼が眠っていた。
「………だから、なんなんだよ」
俺は誰に対してでもなく、文句を言いながら、街灯に照らされた歩道をシルバースプーンがある駅前へ走った。
俺は高校3年生になった。
進級して皐月とはクラスが分かれたが、付き合いは変わらなかった。
皐月とは常に一緒にいるというわけではなかったが、去年から仲のいい連中と一緒に遊んだり、時間が合えば一緒に帰ったり、たまに休みには近場へ遊びにいったりした。
お互いの家にも遊びにいったから、両方の親も公認だった。
特に俺の母親は、俺と兄貴という男の子どもばかりだったから、皐月のことを気に入って可愛がっていた。
5月の連休のことだった。
俺の両親は親戚の法事があり、2泊の予定で出かけていた。
兄貴は大学のほうの用事でどこかへいっていて、連休中ずっと留守だった。
俺は連休中1日だけバイトの休みをもらい、皐月と遊びにいった。
池袋にいって映画を観て、やることがなくなった。
「そういやウチ誰もいないんだ。ウチくる?」
何の気なしに言った言葉だった。
皐月も初めて呼ばれたわけじゃないし、特になにも考えていないように「うん」と言った。
コンビニでお菓子とジュースを買って、俺の家に行った。
いつものように俺の部屋に皐月を通したとき、なんとなくいつもと違う空気を感じた。
俺と皐月以外、誰もいないんだ。
コップを取りにいった台所の静けさが、初めてその意味を俺に気付かせた。
皐月と付き合って半年。
まだキスもしたことがなかった。
出かけたときにせいぜい手を軽く繋いだくらいだ。
俺の周りにいるヤツで、経験豊富なヤツもいないわけじゃない。
だけど、その頃の俺の周囲では、そんなに気軽に女の子と深い関係になるような雰囲気はなかった。
皐月だってごく普通の女の子だったから、似たようなもんだった。
もちろん俺だって普通の男だ。
好きな女の子としたいことなんて、決まっている。
知識としてならなんでも知っている。
皐月に対して、なにも欲望がなかったわけじゃない。
内心は欲望だらけだったのに、普通の高校生だった俺には、経験も機会もないから、行動しなかっただけだ。
とりあえず気を取り直して、買ってきたものを食べたり、ゲームをしたりしたが、もう無理だった。
そんな俺の空気が皐月にも伝わったのか、会話が途切れたとき、皐月は黙って下を向いた。
皐月を抱き寄せて、初めてキスをした。
そのまま床に倒れ込んだとき、思わず目を閉じた皐月を見て、俺の中の何もかもがぶっ飛んだ。
この日の皐月は、いままで見たことがないほど、可愛かった。
お互い経験がなかったから最初はぎこちなくて、俺は無我夢中という言葉そのものだったが、皐月を大事に思いながら抱いた。
皐月のことが好きだった。
俺に全てを任せてくれた皐月が愛しかった。
だけど、俺はひとつ、自分に嘘をついた。
絶対に皐月には言えない嘘だ。
目を閉じた皐月の顔を見たとき、一瞬だけど。
俺は涼を思い出したんだ。
シルバースプーンの送別会の夜。
酔っ払った涼が俺の膝で眠った顔と、このときの皐月の顔が、ダブったんだ。
俺が触れることができなかった涼。
俺はすぐに頭の中から涼の残像を振り払った。
俺が好きなのは涼じゃない、皐月だ。
だけど、気付いてしまったんだ。
どうして俺は皐月のことが気になったのか。
普段はそれほど感じないのに、皐月のふとした仕草や、一瞬の表情が涼に似ていることがあると、俺は気付いてしまった。
でも、このときの俺は、目の前の皐月に夢中だった。
だから、そんなことには気付かなかったことにした。
皐月のことを好きなのは嘘じゃない。
皐月に何度も「好きだ」と言うことで、自分でも戸惑うようなことは、遠くに追い払ってしまいたかった。
囁くような声で俺に「私も好き」と答えてくれる皐月のことだけを考えようと思った。
皐月と一線を越えた俺は、皐月を前よりもっと大事に思うようになった。
初めて抱いた女の子。
初めて抱かれることを俺に許してくれた女の子。
大事に思わないわけがない。
ヤりたい盛りの男だって、誰でもいいわけじゃない。
ましてや相手が好きな女の子だったら、それが一番いいに決まっている。
皐月と身体が繋がって、心も深く繋がったように感じた。
だけど、俺も皐月も普通の高校生だから、そう頻繁にセックスなんてする機会はなかった。
金もなければ場所も時間もないのが現実だった。
お互いの家に絶対に親や家族がいない時間など、そうそうない。
学校もあるし、俺はバイトもある。
それに俺も皐月も高3で受験生だ。
でも、俺はそれでも満足だった。
皐月を抱いて、完全に俺のものになったように思えた。
皐月にあんなことをできるのは、俺だけなんだ。
そう思うことは俺を満足させたし、安心感をもたらした。
学校でも、俺と皐月は「別れなそうなカップル」と言われるようになっていた。
もって半年、早ければ1ヶ月くらいで別れるようなカップルもいる年代だ。
「修学旅行カップルはすぐ別れる」
そんなジンクスめいた話を打ち破るのは俺と皐月だとよく言われたし、俺もそうだと思っていた。
皐月とディズニーランドへ行ったのは、9月にあった学校の代休だった。
もちろんおれも皐月も子どもの頃から何度も行ったことはあるが、2人で行ったのはその時が初めてだった。
平日でもそこそこ混雑しているのがディズニーランドだ。
それでも皐月と2人でなら、長い待ち時間も苦にならなかった。
アリスのティーパーティーで皐月が調子に乗ってカップを激しく回すので、俺も負けじと回したら、2人で酔ってダウンした。
その頃はシンデレラ城ミステリーツアーがあって、俺は冗談のつもりで最後に勇者で手を上げたら指名してもらえた。
記念のメダルをもらい、それを皐月にプレゼントしたら、皐月は初めてもらったと言って喜んだ。
2人で並んでパレードを観た。
ホーンテッドマンションでは、他の客の目を盗んでキスをした。
「締めはイッツ・ア・スモールワールドって決めてるの」
散々遊んで、夜のパレードも観たあと、皐月は俺にそう言った。
皐月と一緒にイッツ・ア・スモールワールドのボートに乗った。
俺はイッツ・ア・スモールワールドに入るのは、小学校低学年以来だった。
皐月は楽しそうに歌い踊る人形を眺めていた。
「なんかね、ここに入ると、『あーディズニーランドだなぁ』って思うんだ」
「俺はスプラッシュマウンテンとか、そういうのばっか乗りたがるからなぁ」
「うん、ああいうのも大好きなんだけど、ここは本当に子どもに戻った気分になれるんだ」
「そうだな」
「結婚して、子どもがいたら、毎回外せないよね」
初めてだった。
俺と皐月の間で、今はまだ遥か遠くに感じられる、大人になった俺と皐月の、近い将来の話。
結婚したら。
子どもがいたら。
俺と皐月は18歳だった。
このまま皐月と付き合っていけば、俺も皐月もいつかは社会に出て、結婚できる歳になれば、本当に結婚するのかもしれない。
皐月となら、そうなってもいいと思った。
いや。
そのときは俺の未来にもずっと皐月がいると信じていた。
横にいる皐月を見たら、皐月の目が潤んでいた。
「どうしたんだよ」
「なんか、最後にイッツ・ア・スモールワールドにくると、いっつもウルウルするの。あーもう帰るんだなー、って」
「いつでもこられるだろ。またこようぜ」
「うん。また一緒にこよう」
「いいよ」
舞浜は近い。
金さえあれば、いつでもこられる。
関東に住む人間にとって、手軽だけど、何度でもきたい夢の国がディズニーランドだ。
この先もずっとディズニーランドに来るときは、皐月と一緒だ。
皐月が言ったように、そんなに遠くない未来に、俺と皐月と、子どもと。
本当にここへくる日が待っているのかもしれない。
だけど。
俺と皐月が2人でディズニーランドへ行ったのは、この日が最初で最後になった。
俺はずっと大学の指定校推薦を狙っていて、基準の成績はキープしていたし、進路指導でも一貫して希望校を先生に伝えていたから、高3の秋までにはほぼ推薦が決まっていた。
皐月も進学希望だった。
皐月は指定校推薦のある大学ではないところを受験するつもりだった。
だけど、模試の点数が思うように伸びないことに悩んでいた。
伸びないといっても、まるで合格安全圏に届かないわけではなく、あと一息という状態が続いていた。
皐月はだんだんナーバスになっていった。
俺と一緒にいても元気がない日が多くなり、ちょっとしたことで苛立ちを隠せないことも多くなった。
俺は図書館で皐月と一緒に勉強したり、黙って愚痴を聞いてやったりして、なるべく皐月の力になってやりたいと思っていた。
ある日、一緒に下校していたときのことだった。
「謙ちゃん、今日もバイト?」
「ああ、5時から。それまでどっかで勉強するか?」
「………3年の秋でもバイトしてるって………、推薦組は余裕でいいよね」
皐月の言葉には棘があった。
俺は皐月がこの日いつもより苛立っている理由を知っていた。
皐月と同じクラスの石川という成績上位の女子が、指定校推薦の中でもトップクラスの大学の推薦をもらっている。
皐月は石川とは仲が良い方だ。
だけど、石川は少し無神経なところがあって、「皐月は受験組だから大変だよね。指定校推薦取れば楽なのに」と皐月に言ったらしい。
石川の言葉は皐月のザラついていた神経を引っ掻き回した。
女同士の奇妙な遠慮で、石川には言いたいことを言い返せなかった不満が、同じ推薦組の俺に向けられた。
皐月だって、俺がどうして指定校推薦を目指しているのかは知っている。
バイトをしている理由も理解している。
バイトをしながら成績を落とさないために、俺が努力してきたことも、皐月が一番近くで見ていた。
それでも、このときの皐月は、自分のことでいっぱいいっぱいだった。
そして俺も、そんな皐月を宥めてやれるほど、大人らしい包容力など持っていなかった。
子どもだった。
俺も皐月も。
「俺に当たるなよ。皐月の成績が上がらねぇのは俺のせいじゃねぇよ!」
言ってはいけない言葉だったんだろう。
俺のこの一言も、皐月が言った一言も。
お互いに怒りを隠さないまま、俺は皐月をその場に置いてバイトへ向かい、皐月も俺を追わなかった。
呆気なかった。
この先もずっと隣にいると思っていたのに、こんなことであっさりと終わってしまった。
自然消滅、ってヤツだ。
お互い「ゴメン」の一言を伝えることができず、俺と皐月の間にできたでっかい溝が埋められることはなかった。
18歳だった俺と皐月には、目の前の進路が一番重要で、それ以外のことを冷静に考えることができなくなっていたんだろう。
幼いような、大人に近いような、中途半端だったけど真剣だった俺の恋は、呆気なく終わった。
「そういや、最近彼女とどう?」
土曜の夜、大きな宴会があって、俺と涼でその片付けをしているとき、テーブルクロスを剥がしながら涼が俺に言った。
「別れた、みたいな感じ」
俺は料理の保温器を片付けながら平坦な調子になるように気をつけながら答えた。
「上手くいってたんじゃないの?」
「向こうが受験でイラついててさ。そんで喧嘩してから話してない。もうダメなんじゃないかな」
「そっか」
涼は手際よくクロスを片付けると、「はい」と言ってビールの入ったグラスを差し出した。
店長や社員の目が届かない宴会場で作業をしているとき、バイト連中はよく悪さをした。
こんな風に伝票に計上したけど客が手を付けずに帰った酒や、ビュッフェの料理やデザートが残っているとき、バレない程度に失敬してしまうのだ。
俺も涼もその程度の悪さはする。
売り物に手を付ける訳じゃないから、ご愛嬌だ。
「ふん」
俺はコップに入ったビールを空けると、お冷で口の中を綺麗にし、ポケットに入っていたミントの飴を臭い消しで口に入れた。
「ご相伴」と言って一緒に飲んだ涼にも飴を投げてやった。
「終わったら飲みにいこうか」
「いいよ。だけど涼さん、明日オープンから入ってんじゃねぇの?」
「謙ちゃんだってそうでしょ。私が荒れたときには謙ちゃんに世話になったからね、今度は私が愚痴聞いてあげる番」
「愚痴なんかねーよ」
「ないならないでもいいよ〜。飲みにいこ」
「涼さん、自分が飲みたいだけなんじゃねーの?」
「そんなことないよー」
結局俺はバイトを上がったあと、涼と居酒屋へ行った。
「で、涼さんは最近どうなんだよ」
俺がつまみにとった揚げ物を食べながら言うと、涼は口を尖らせた。
「なんで私の話?今日は謙ちゃんの愚痴を聞く会なんだけど」
「なんの会だよ。俺の話はさっきしたので終わり」
「だからってなんで私が彼氏の話なんかしなくちゃいけないのよ」
「彼氏?ふーん、やっぱできたんだ」
俺がそう言うと、涼は「しまった」という顔で俺を見ないように青リンゴハイを飲んだ。
「ほらほら、白状しちゃえよ」
「謙ちゃん、生意気〜」
「涼さんがボロ出すからいけないんだろ」
「そうだけどさ」
「で?どこの人?」
「………大学の、ゼミのOBの人」
「何歳?」
「25歳」
「すげー。大人。きっかけは?」
「謙ちゃん、芸能レポーターみたい。………もうすぐ就職活動始まるから、面識あった先輩に連絡取ってて、それで」
「へー。カッコいい?」
「………私は、好き」
照れ隠しなのか、涼は怒ったようにそう言った。
25歳か。
社会人なんだな。
涼はどっちかっていうと年上にモテるのかもしれない。
店の常連客に、近所の会社の人がけっこういるが、涼は若いサラリーマンから人気があった。
「もー!私の話はいいじゃない!今日は謙ちゃんを慰める会なのに!」
「涼さん、さっきと違う会になってるけど」
「うるさーい。男のくせに細かいこと言うなー」
「そういや、涼さんの元彼も細かそうな男だったよな」
「また私に話を振る?やめてやめて、もう忘れたんだから」
涼がそう言いながら手を振ると、火の点いたタバコの灰が落ちそうになって、涼は灰皿にタバコを押し付けた。
「同じ大学だと会うこともあるだろ?」
「そりゃ、会うよ。いまは友達だし」
「普通に?」
「まあね。向こうも新しく彼女いるし」
「そんな話するんだ。平気なわけ?」
「私はね。彼女のこと相談されたりしたし」
「元彼も平気なの」
「ダメみたいよ。私が彼氏できた、って言ったら、新しい彼女の悪口言い出した」
「なんだ、それ」
「んー、なんかね、『涼ちゃんのほうが可愛い』とか、『いまの彼女はおとなしすぎてつまらない』とか。サイテーだよね。大体、私が生意気で言うこときかないからしょっちゅうケンカしてたのにさ。いまの彼女の悪口言って、私のこと褒めてるつもりなのかもしれないけど、そんなんで喜ぶほどバカじゃないっての」
一刀両断だ。
元彼も気の毒に。
「謙ちゃんは別れた彼女の悪口なんか言わないね。いいぞ、なかなか男らしい」
「別に、そんな嫌いで別れた訳じゃねぇし」
「じゃあ、彼女の受験が終わったら、もう一回やり直したら?」
「………それは、ないかな」
「なんで?彼女だって、謙ちゃんと似たような感じなんじゃない?」
雑談スレを立てました^ - ^
http://mikle.jp/threadres/2171928/
アホ雑談なので、どなたでもお気軽にどうぞ♪
主の人となりを知りたい方は是非おいでください(笑)
小説のご感想は今まで通り感想スレへお願いします( ´ ▽ ` )ノ
http://mikle.jp/threadres/2169945/
「なんつうかさ、彼女とダメになったのは、ダメになる理由があったんだと思うんだ」
「どんな?」
「そんなの、俺には分かんねえよ。だけどさ、俺、彼女のこと………本気だったし、別れる少し前には、大人になってもあいつと一緒にいるんだろうなー、なんて思ってたんだ」
「まぁ上手くいってるときは、そう思うよね」
「うん。それがさ、あんな簡単に別れることになるってことはさ、元々あいつと俺は、上手くいかなくなる予定だったんかな、って思ったんだ」
俺がそう言うと、涼は割り箸でグラスの中に残った青リンゴサワーをくるくるとかき混ぜながら考える顔になった。
「………そういう運命だった、って言いたいわけ?」
「そんな大袈裟なもんじゃないけどさ」
「うーん。もしそういうのがあるならさ、負けた、ってことだよね」
「負けた?」
「そう。運命に立ち向かって負けたの。勝つための努力が足りなかったり、大きな失敗をするから、負けちゃったの。私はそう思うな」
「………俺は、なんか失敗したのかな」
「かもね。逆に言えば、努力して、大きな失敗をしなければ勝てるんじゃない?」
なんて、涼は涼らしいことを言うんだろう。
運命なんてもんがあるなら、勝つ。
ダメだったときは、自分の失敗で負けたと認める。
涼はどんなときでも、そうやって運命という名の「自分」と戦っているんだろう。
それが涼の強さで。
涼の魅力なのかもしれない。
「でも頑張ってもダメなときはダメなんだろうけどね」
涼はそう言って頭をかいた。
「まあな。なんていうか、呆気なかったし」
「謙ちゃんはどんな女の子がいいんだろね?」
「そりゃ、好みのタイプで俺のこと好きになってくれる子がいいよ」
「だからどんな子が好みのタイプかって」
「好みのタイプねぇ?」
学校の友達やバイト仲間と、悪く言えば女の子の品定め、みたいなことはよくやる。
何組の誰が可愛いとか、スタイルがいいとか、カップルできた客に点数を付けてみたり。
俺にも好みがちゃんとある。
体型はぽっちゃりより細身
髪型はショートカットよりロング
顔は派手な感じより、すっきり整った感じ
おっとりした子より、チャキチャキした子
甘えん坊タイプより、姐御タイプ
………。
ちょっと待てよ?
それって、まるで。
涼のことじゃないか。
「どうしたの、謙ちゃん?」
急に黙り込んだ俺を、涼が怪訝な顔で見つめていた。
「なっ、なんでもない」
俺は誤魔化すようにタバコを出して火を点けた。
なんだよ、それ。
俺、年上好きだったのか?
違う、年上好きとかじゃない。
皐月は同い年だったじゃないか。
そのとき、初めて皐月を抱いた日のことを思い出した。
あのとき皐月の顔に重なって見えたのは、涼だった。
そもそも俺がなぜ皐月を気にしたのか。
皐月の中に涼に似たところを見たからだった。
本当は皐月は涼とは似ていない。
外見も性格もまるで違う。
それなのに俺は、皐月のちょっとした表情や仕草に、涼と似た部分を探した。
別れる原因になったケンカのとき。
どうして俺が皐月を引き止められなかったのか。
涼ならこんなことは言わない。
涼ならこんな態度は取らない。
涼なら、こんな風に言ってくれる。
俺は無意識にそんなことを考えていたんじゃないか。
上手くいかなくなって、当たり前だ。
皐月は皐月だったのに。
俺だって、可愛くて、俺に全てを許してくれた皐月のことを好きだったのに。
それなのに、俺は。
皐月にずっと、違う女を重ねていたんだ。
俺は、涼のことが好きなのか?
………。
違うような気がする。
初めて涼とオープニングスタッフとして出会ったとき。
確かに俺は、涼に憧れたんだ。
だけど、年上の涼は、恋愛対象にならなかった。
高校生の俺が相手にされると思わなかったからだ。
その代わり、俺はバイト仲間としての繋がりを手に入れた。
仕事のできる涼から認められる男でいたかった。
涼と付き合いたいなんて、一度も思ったことはない。
俺は、涼の身代わりみたいに皐月を手に入れることで
姉弟みたいだと周りに言われるほど、涼と親しくなることで
自分を満足させていたんじゃないだろうか。
「謙ちゃん、なに怒ってんの?」
涼がのほほんと言った。
「怒ってねぇし」
俺はなるべくいつもと変わらない調子で返した。
どうかしてる。
涼はバイトの仲間じゃねぇか。
俺が「シルバースプーン」の学生スタッフの中で一番スゴいと思う人間で、大事な仲間じゃねぇか。
それは涼が男だったとしても、関係ない。
俺は、涼という人間そのものが、好きなんだ。
恋愛なんかじゃない。
そうだ、涼と恋愛なんて真っ平だ。
俺が妙な感情を持てば、いまの関係は変わってしまう。
開けっぴろげで、いつも明るくて、いつも一本芯が通った涼みたいな人間とは、この先もずっと仲間でいたいんだ。
涼だって俺のことを男だなんてこれっぽっちも思ってないじゃないか。
俺も、涼は特別なんだ。
なんだろう。
初めて涼と会ったときに、俺は涼になにかを感じたんだ。
上手く言えないけど、なんか、涼は他の人間とは違うんだ。
どんな形でもいい。
俺は涼の近くにいたいんだ。
恋愛感情なんか持ち込んで、いまの関係が壊れるなんて、真っ平だ。
「涼さん、今度の彼氏はヤキモチ妬かないの?俺だって一応男だよ」
俺がそう言うと、涼はまじまじと俺を見てから、声を上げて笑った。
「そうだね、謙ちゃんも男だね。ヤキモチ妬かせてみようかな」
「ほらな」
俺が苦笑いすると、涼は「なにが?」と不思議そうな顔をした。
いいんだ、これで。
俺は涼に気付かれないように、小さく「ばーか」と言った。
3月になった。
卒業式の日、式の後に校庭に出た俺は、友達と写真を撮り合ったりしていた。
少し離れたところに、皐月の姿があった。
皐月は第一志望は不合格だったが、ちゃんと第二志望の大学に合格したと噂で聞いていた。
別れて以来、校内ですれ違うことはあっても、話をすることはなかった。
声をかけようか迷ったが、やっぱり気不味くて、そのまま帰るつもりで荷物を取りに校内に入った。
「黒田くん」
皐月が俺の後ろから走ってきていた。
「さ………千葉」
「皐月」と言いそうになって言い淀み、久し振りに皐月の苗字を呼んだ。
「M大に決まったんだってな。良かったじゃん」
「ありがと」
「………元気で、な」
「うん。黒田くんも、元気で」
皐月は俺と付き合っていた頃には肩の下まであった髪が、肩の上辺りまで短くなっていた。
皐月はやっぱり可愛かった。
だけど、付き合っていた頃に感じたような気持ちはすでになく、ただ懐かしいような気分だった。
立ち去りにくいような雰囲気で、少しの間、黙ったまま皐月と向かい合っていた。
「………じゃあな」
なにかを振り切るように俺がそう言うと、皐月は小さく「うん」と言った。
上履きを履いて階段へ向かった。
「謙ちゃん!」
階段の途中で振り返ると、靴下のままの皐月が下から俺を見上げていた。
「皐月」
皐月につられて俺もそう呼んだ。
「謙ちゃん、ゴメンね!」
あのとき言えなかった「ゴメンね」
皐月はずっとそう言いたかったんだろう。
俺は階段を下りて、皐月の前まで行った。
「俺も、ゴメンな」
「ううん。私が………」
「もういいよ」
俺だって、皐月に言えないことを抱えたまま、皐月と付き合っていたんだ。
おあいこだ。
「謙ちゃん、また、会える?」
「………無理だろ」
「そう、だよね」
「皐月」
「………」
「ありがとう。俺、皐月のこと、好きだった」
「………うん。私も、いまでも」
「元気でな」
「うん」
自然と、お互い手を差し出して、軽く握り合った。
「じゃあな」
俺は皐月の手を離すと、今度は一気に階段を上った。
皐月が動いていないのは分かっていたけど、もう振り返らなかった。
手を握ったときの皐月の目が潤んでいたから
修学旅行のときのようには、もう涙を拭ってやることはできないから。
だけど、涙をこらえていた皐月の顔は。
やっぱり少し、涼に似ていた。
俺は春休みから自動車教習所に通い始めた。
そのための資金は、バイト代の貯金で十分足りた。
合宿で一気にとってしまう手もあったが、春休みはバイトも稼ぎどきなので、最初のうち午前中に学科を集中してこなし、バイトをしながら、なるべく早く免許を取ってしまう計画だった。
その日も俺は朝イチから学科を受けるために教習所に行った。
俺の最寄り駅からは2駅なので、自転車を使っていた。
教習所の敷地内に入るとき、バイクと接触しそうになった。
俺が余所見をしていたのが悪い。
バイクは徐行していたので、俺もバイクも転倒することもなく停まった。
「すみませんでした」
俺は自転車を停めて、バイクの主に頭を下げた。
「ううん、こっちこそゴメンね」
女の声だった。
フルフェイスのメットを被っていて、体型も棒のように細いから、パッと見は男だと思った。
「CBR」
思わずバイクに目がいった。
俺もバイクは好きだ。
だけど、学校で免許の取得すら禁止されていたし、指定校推薦を目指していた俺には、隠れて免許を取るのはリスクが高くて諦めていた。
「バイクの免許、取りに来てるの?」
メットの下から聞こえる声は、タメ口なのに馴れ馴れしく感じない雰囲気だった。
「いや、クルマ」
「私もクルマ。先にバイク取ったからね」
「じゃあ学科ないんだ。いいなぁ」
「時間じゃない?」
学科が始まる時間だった。
「あ。ホント、すいませんでした」
「こちらこそゴメンね。頑張ってね」
俺は彼女と別れて教室へ急いだ。
そのときはメット越しの目しか知らなかった彼女と再会したのは、卒業検定のときだった。
「あ、久し振り」
卒検の待合室で声をかけてきた女の子に、俺はまったく見覚えがなかった。
「ゴメン、誰だっけ?」
「あー、そうか。あのとき私、メット被ってたんだ」
その言葉で思い出した。
ニアミスしたバイクの彼女だ。
メットを被っていない彼女は、ビックリするくらい幼い顔をしていた。
中学生みたいだ。
顔が小さくて、普通にしていても目がまん丸だった。
Tシャツに細身のジーンズ。
うっかりすると、中学生の男の子に見えるくらいだった。
「あのときの人か。もうとっくに卒業したのかと思ってたよ」
「あはは。あのあと怪我しちゃって、少し間が空いちゃった」
「バイクで?」
「ううん。学校で階段踏み外して捻挫」
「そりゃ大変だったね」
そのとき「香川 忍さん」と教官に呼ばれて、彼女が「はーい」と返事した。続いて俺も呼ばれて返事すると、彼女は「黒田くんていうんだ」と、人懐こく笑った。
>> 48
卒検は上手くいった。
検定の教官から合格を告げられた。
「合格?」
ニコニコと笑いながら、忍が声をかけてきた。
「うん。香川さんもだろ」
「うん」
そのままなんとなく一緒に教習所を出た。
「黒田くん、いつ免許センターに行くの?」
「明日」
一発で合格する自信があったので、最初から明日もバイトは休みを取っていた。
「一緒に行こうかな」
「香川さんは交付だけだろ?」
二輪の免許があれば、免許センターで学科試験を受ける必要はない。
免許のない俺はセンターで学科試験を受けて合格しないと、晴れて免許はもらえない。
「どうせ暇だし。私、地元で中免取ったから、こっちのセンターに行ったことないのよ。一緒に行く人がいると安心なんだけど」
「地元ってどこ?」
「長野」
「へー。じゃあスキーとか上手いの?」
「ううん。私が生まれた辺りは雪はそんなに多くないから、スケートやってた」
「へー。クルクル回ったりすんの?」
「違うよ。スピードスケートの方」
「なんだ」
今日忍はバイクではなく歩きだった。
俺は自転車を押して忍と並んで駅に向かった。
歩きながら、明日一緒に免許センターへいく話になった。
まともに話したのは今日が初めてなのに、前からずっと友達だったように感じられる気安さが忍にはあった。
次の日の早朝、免許センターへのルートにある乗換駅で忍と待ち合わせた。
「香川さん、おはよう」
俺が待ち合わせ場所の改札口に行くと、忍は先に来ていた。
「おはよう、黒田くん」
忍は今日もTシャツとジーンズという格好で、スポーツブランドの派手なリュックを背負っていた。
やっぱり男の子みたいに見える。
忍と一緒に電車に乗った。
「香川さんならバイクで行けば楽だったんじゃないか?」
都心へ向かうのとは違う方向の路線なので、それほど車内は混んでおらず、俺と忍は並んで吊り革を持って立っていた。
忍は小柄に見えるけど、意外と身長はあり、あとで聞いたら163cmだった。
そこそこ身長があって痩せているから、最初は棒みたいだと思ったし、男の子みたいに見えるようだ。
髪もショートカットにしていて中性的な雰囲気だから、俺も話し易いのかもしれない。
「あのバイク、お兄ちゃんのなんだ」
「へー、お兄さんいるんだ」
「そう。もう社会人で忙しいみたいだから、バイク乗る時間もないみたいで。だから借りてたんだけど、怪我したときに取り上げられちゃった」
「なんで?だって怪我は階段でやったんだろ?」
「うん。あのさ、実は私、どんくさいんだよね。運動神経ないし、よく転んだりするし。だからお兄ちゃんも親も、私がバイクに乗るの、反対してんの。それでこないだまた階段でコケたでしょ?もーこいつはダメだ、って言われちゃって」
「なんか身軽そうに見えるのにな」
「見掛け倒しなんだって。駆けっこなんかいつもビリなんだよね。友達からは『足が速そう』とか思われて、50m走のタイム言うと爆笑される」
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