明日が来るなら
明日が来るなら
それだけでいい
私達元夫婦の壮絶な日々…
あなたがいて、ただただ明日が来て、また会話が出来るなら。
泣いて泣いて、涙が出なくなる位に…。
ノンフィクションです
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黙々と黙々と呆然と立ち尽くす…。
桜の散った野山に新しい若葉が萌え出ずる頃なんて穏やかな小春日和…。
なんて美しい季節…。
私は黒い服に身を包み、大きな大きな煙突の前で貴方がお空に昇って逝くのを見ていた…。
2004年6月
「どうしてだよ!
何でだよ!
またお母さんって…。
ああ、分かったよ」
タケルはふてくされて携帯を切った
当時の恋人で婚約者のタケル。
私は末期癌の母親の闘病で大学病院へ毎日のように通い、看病に付きっきりの毎日を送っていた。
だから、8月の彼との結婚式も延期にしたかった。
デートも何時も断る日々…。
タケルの苛立ちがひしひしと伝わってきていたのに、母親の余命宣告以来、一緒にいる時間がないと知って、私は出来うる限りを母親に捧げていた。
タケルには悪いと思っていながらも…。
タケルとは2年お付き合いして、結婚を決めていた。
プロポーズされて、幸せの中にいた私は、本当に毎日が楽しくて仕方無かった。
そんなある日、久々に母と二人でランチに出かけた。
「今日は母さん食べないね…。どうしたの?」
お皿に沢山残っているライスに目をやりながら言った
「うん、何か疲れ気味でなぁ…。風邪引いたみたい。ごめんよ…。」
力のない笑顔…。曇った表情から、感の鋭い私は嫌な予感をこの時既に察していた
数日後、母親は風邪を引いたからと、地元のクリニックへ行った。
私は勤務中だった。
仕事を終えて帰宅すると、母親が精密検査を至急受ける旨、父親から連絡あり、大きな大学病院に受け入れ体制が取られていると告げられた。
やはり…。
私は気丈だった。
最愛の母親だからこそ、気丈だった。
いや、気丈でいた
母親を守る使命感のようなものが、私を強くさせていた。
母は元々、心臓疾患があったから、私は何時も気を張って母の手となり、足となって成長してきたから。
来るべき時には、備えていた。
それに…
タケルがいてくれたから。
タケルは私を精神的に支えてくれていると信じていたから、だから私は強くいられた
今日は久々にタケルとのデートだった。
だけど、母親が倒れて大学病院へ向かっている時に、私はそれどころではなく、タケルに状況を話した。
タケルは驚き、直ぐに私の下に駆けつけてくれた。
「お母さんどうなの!ユリ、大丈夫?」
私は彼に優しい言葉をかけられても、気が張っていたから、素直に不安や涙を出す事が出来なかった。
キツイ女だと思われただろう
母は緊急入院になった…。
風邪引いた…なんて…。
母のベッドの横の椅子に座り、母をまじまじと見つめる私…。
………………。
………………………………。
タケルは帰らせた…。
今日も夜勤だから、睡眠とってほしいし。
彼まで巻き込んではいけないし…。
母さん…。大丈夫かな…。
少し疲れた表情…。
何で…。
何時もと変わらない生活を送っていたのに…。
笑って暮らしていたのに…。
どうしちゃったの?
それから毎日のように検査が立て続けにあり、私は泊まりがけで母に付き添った。
大学病院から仕事に通い、大学病院で一夜を明かす。そんな生活になっていた。
検査の結果を気を揉みながら待つ。
病名は何?
原因は…。
いろいろ考えて眠れない日々…。
そんな中、母の検査の結果を聞く日が来た。
冷たく、静かな病院のカンファレンス室。
心臓の鼓動が聞こえそうな程、高まる鼓動。
張り詰めた空気。
父親と私は通された…。
母もカンファレンスに入る私達をロビーのトイレから出て来て、廊下で偶然目にして、後を追いかけて、点滴棒を持ってまで入って来た。
その様子はただ事ではない様子だと言わんばかりだった。
母親も焦りや不安でいっぱいなのだろう…。
担当看護師、医師が入室し、インフォームドコンセプトを兼ねて、一番恐れていた病名が告げられた。
「先生ーーー!助けてください!助けてください!助けてください!ワァーーーーン!」 母が取り乱し、点滴棒と母を直ぐ様、看護師が支え、医師が抱き締める。
父が目を真っ赤にして涙だほほをつたった…。
「母さん!ユリがついてるから。しっかり!」
病名 ステージ3~4の
末期の胆、肝臓癌
余命 4ヶ月
タケルはよく病院に来てくれて、私達を勇気付けてくれていた
看病で疲れた私をお茶に誘ってくれたり、束の間のドライブに連れ出してくれたりして、労い、気遣ってくれた。
だが、そんな日々は長く続かず、次第に二人で会うのもままならなくなってしまい。
そして、段々とお互いにすれ違い、不平不満を募らせ、口論になるようになり…。
だけど…ふたりで乗り越えるつもりだった。
ウェディングドレス姿も母に見せたかった。
あんなに私達の婚約を喜んでくれた母…。
安心させてあげたかった。
だけど、タケルはそんな私は嫌だと言った
母の為に、結婚するような事はしたくないと…。
母の為に。ではなく、自分だけが私から愛されて結婚してほしいと
そんな会話が記憶にある…。
その頃からタケルは母を疎ましげにしていた。
そして、
「別れよう…。」
私から切り出した。
彼まで巻き込むのはいけないし、彼の人生を思った…。
それに…もう、2人に隙間風も吹いていたのは事実だった。
大好きな彼。
支えを無くした私。
こんなに、こんなに辛い失恋なんて…
今までの若い頃の刹那的な恋愛じゃないだけに、ダメージが相当なものだった…。
タケルを失って、母の衰弱を目の中りにし、私も憔悴していた。
寂しさと不安でいっぱい。
初めて泣いた。声を挙げて嗚咽した。
愛する人を失うという傷みは耐え難い
涙が出なくなった…。…………………………………………………………………………。
さよならタケル。
もう、私は愛する人なんて要らない!
こんな、こんな辛い思いをするなら、私は母の為に犠牲になってでも誰かにもらってもらおう!
そして、私は余命幾ばくもない最愛の母にウェディングドレス姿を捧げます。
さよならタケル。
ありがとう…。
私は全国大手結婚紹介所に登録した
タケルは初めての恋人だったから、他の男性がどんな感じかもとんと検討がつかない私に、カウンセラーの方が沢山のアドバイスをしてくれる。
沢山のパンフレットや、男性会員のデータをプリントアウトして渡してくれた。
タケル……………………。
彼の面影が脳裏を過る。
皆タケルに見えてしまう位に…。
私は混沌とした日々を送っていた。
何時しか私に笑顔が無くなってしまった
友人から、「ユリちゃん…大丈夫?」とよく言われてる。
私、疲労が顔に出てるんだ…。母さんには笑ってあげなきゃ。
病院のトイレで鏡に映す自分の姿…。
不細工な不細工な女がひきつった顔で作り笑いをしてる。
くたびれた服を着て…。
なんてこった…。
こんなんじゃ、誰も花嫁なんかにしてくれるはずないじゃない。
母親が闘病しているのに、花嫁になりたい?こんな女、誰も要らないよ…ハハ…ハハハハ…可笑しくて、惨めで、情けなくて…。
バカみたい。
鏡の中の無様な自分が笑い泣きしてる。
八方塞がりの中、焦りや迷いで足掻いている自分。
何一つ、誰一人 何にも報われない日々…。
もう私は母に何もしてあげれないのか…。
タケルの事さえ考えれない位に毎日がなし崩しに過ぎ去ってゆく…。
病院の病室でただただ母と向かいあい座っているだけ。
「ユリ…。」母が目覚め声を掛けて来た。
「何…?。トイレ?洗面器?」私は条件反射的に片手に点滴棒、もう片手でベッド下の洗面器を取ろうとする。
「違う、ユリ…。あのな…。」
顔を母に向けてハッとする。
母が自分のバックから生命保険の証書と、貯金通帳を重ねて手にしていた。
言葉を失う私。
母は涙を流し、自分の死を受け入れ、身辺整理の段階だと悟ったのだ…。
私は初めて母の面前で泣いてしまった。
大粒の涙を静かに流した。取り乱さないように、気丈にしたくて
泣き声を必死で抑えた。
「ユリ…。これを。後を頼むよ!あんたしかいないから。ごめんよ!本当にごめんね。」
母さんが不憫だった。
まだ53才になったばかりの母…。
チャーミングでちょっとばかし自慢だった。
私は死を受け入れた母を静かに思った…。
私も何時までも帰らない恋人に、思い出にすがるのは止めなきゃ。
成せば成る…か…。
時間が取れた私は、かの結婚相談所のエレベーターに乗っていた。
「こんにちは、お見合を申し込みたいのですが…。」私は決心した。
タケルを忘れて、前を向こう。
こんな時こそ、自分を奮い起こさなければ…。
「まあ!良かったです!お相手の方、喜ぶわよ~」
カウンセラーの女性の顔が綻ぶ。
「いえ、この間の方々の中からではなく、御社のネット検索で気になった方がいまして…。」
私は携帯からも登録していたので、アクセスしてきた男性の中に気になる人を見つけたのだ。
一瞬、カウンセラーの女性があからさまに嫌な顔をした。
「あの、携帯からでもいいのですが、正会員でない方が殆どだし、う~ん、ちょっとね…。出会い系サイトに近いものありますよ?正会員の方は肩書きもしっかりされた方や、身元も保証されているから安心ですよ。」
と…。
悩んだけど…。仕方無い…。一旦出直そうかな…。
何だかポワンとしたプロフィールが読んでいて和む。
心地よいMail
肩肘張ってきた私、トゲトゲしくなった私の心を癒してくれる
何だろう この感覚
ゆったりと構えた器の大きさが文面から伝わる
私は彼に特別な思いは無かったが、何故か就寝前に彼のプロフィールや、Mailを見る度に安らぎを覚え、深い眠りを久々に味わった。
他にもかなり熱心にアプローチしてくださった方も数名いたが、何故か力んでいて、此方まで身構えたり、畏まってしまう。
そんな男性とMailするだけでも疲れた気になり、甘い物が欲しくなる…。
思い起こせば、そんな時いつも彼のプロフィールやMailをずっと見て眠っていた。
まるで彼はわたしの心のビタミン剤…。
私にそっと力を授けてくれる不思議な人。
さりげなく、なのに
ジ~ンと心が温まる。
彼のMailは落ち込んで疲れたハートを包み込み、満たされてゆく…。
起爆剤のような存在ではなく、足りないなにかをチャージして、鎧を纏った自分を素に戻してくれる…。
これほどの妙薬があるなんて…。
タケルには無い、いや、未だにこんな心地よい人間には出逢ったことがない。
私は次第に「好き」という感情ではなく、彼自身の人間性に惹き付けられていった。
まるで、引力で引っ張られるかの様に…。
こんなに心地よい人は初めてだ。
恋愛感情よりも、彼がどんな男性なのか。それを確かめたくなった。
どんな声をしていて、どんな話し方をして、どんな生活をして、
どんな人々に囲まれているのだろう…。
魅力的な人。
不思議な人。
好きなんて感じじゃないのに、人を魅了するものを持っている感じ…。
オーラとも違う。
何なの…?。
母の看病で疲れ果てていたのに、彼とMailをするようになってから疲れが違う。
明らかに自分自身に柔らかみが出てきた。
毎日毎日の闘いは、患者も家族も生気を奪われて憔悴する
病院にはそんな患者さんや、ご家族が沢山いる
今日もロビーで涙をハンカチで拭う人を見た。
年老いた父親の名を叫びながら最期に立ち会うご家族を見た…。
大学病院では重篤な患者さんが救急車で日夜ひっきりなしに運ばれて来る。
医師、看護師さんだけでなく、患者さんや、そのご家族、お見舞いの方までも張り積めている感じ。
皆が臨戦体制をとってるような…。
その場に居る、それだけで力を奪われてしまいそうな位疲れる
そんな私のオアシスはもうタケルではなく、彼のMailになっていた。
タケルが一歩づつ遠退いてゆく…。
タケルへの思いは次第に薄らいでゆく…。
今は彼のMailが救いになっていた。
Mailを始めてから数ヶ月して、電話番号を教えてくれた彼。
胸の高鳴りを抑えられないまま、携帯を手にした…。
彼の声を聞ける。
数回目の呼び出し音がして、
「もしもし…。」
!!
彼の声を初めて聞いた!
ん?今、声したよね?
……………………。
……………………。
……………………。
「ボソボソ…。ボソボソ…。……………………。」
ん?何て喋ってるの?
き、聞こえない…………。
声したよね?
ちょっと爺さんみたいな小声でボソボソ話す彼…。
年齢34才って…違うよね…………。
はっきり言って予想していた感じではなかった…。
年をとった爺さんだから、あんなにホンワカした文面が書けたのか!
きっと、年齢偽ってたのだろう
なんて猜疑心を持ちながらも、言葉を発した。
「初めまして、ユリと申します。いつもMailありがとうございます。」
彼はゆったりとした口調で穏やかに小声で話す。
次第に眠くなった…。……………………。
何だろう、最初は爺さんだと思っていた彼の声が、心地よい子守唄みたいだなぁ…。
私は彼に会う約束をした。
私は地方ではまずまず知名度のある小売店の店員として働いていた。
今日、お店に彼が来るという。
レジにお客様が並ぶ度に緊張してしまう。
「ん?あれ!アンタ、Sさんって言うの?」
…………!
来た!この人が彼?
カッコイイ…………。しかも、「爺さん」には到底見えない。
「あ、あの、いつもMailありがとうござ…い……。」
「へ??いやなぁ、俺の苗字と同じ人だから…びっくりしたんよ!」
間髪入れずに男性が明るい大きな声で話しかける
「市内かな?」
男性は笑いながら言った。
「は、はい…そうです…………。」
「じゃあ、また来るわ!」
恥かいたー!
違うじゃない!
早とちりして、恥ずかしいー!
男性はレジを早々と後にした。
確かに珍しい苗字だし、あまり同じ苗字の人居ないからね…。
声かける気持ちもわかるけど、このタイミングはないでしょ(泣)
まあ、仕事、仕事。
営業スマイルであともう少し頑張ろうか…。
コト…………。
レジ台に安い洗濯洗剤と缶コーヒーが…。
「いらっしゃいませ!カードお持ち…で…すか…?」
何なの…?。ニヤニヤ笑うこの背の高いボッとした人。
店員見て、ニヤニヤニヤニヤ。
ん?会釈してる…?。
えっ!って…まさか、この人?
「Sさんやな?」
ボソボソ話す彼、聞き覚えのある声…。
「そこの裏の駐車場で待ってるね…ボソボソ……………………。」
パッとしない彼だった。
だけど、あんなに嬉しい待ち合わせは初めてだった。
2年も付き合っていたのに、タケルではこんな気持ちに一度もならなかった。
彼は初めてなのに、どうしてこんなに嬉しいんだろう
顔も極々普通、ちょっと三枚目、声は爺さん、服装は…ちょっぴりオジサン入ってるのに…
外見から入っていたタケル…。
大学病院に来た時も、女学生がチラチラ彼を見ていた。
医者の卵がウジャウジャいる院内カフェでも彼等と何等変わりない外見を備えていた。
だが、実際はタケルはドリフト族で車に何百万も注ぎ込み、挙げ句借金までしていた。
そんな彼は毎回のデートは決まって割り勘、下手すれば私が全額奢る事もあった。
ショッピングでもそれとなく服飾品をねだり、その都度買わされていたから、彼の上から下まで全てのコーディネートは私が買い与えた物になっていった。
チラチラと他の女性にばかり気を取られ、時には振り返ってまで凝視したり、友人の彼女の話ばかりを聞かされてデートが終わる事もあった。
母にはそんな事言えるはずも無かった…。
でも……………………。
「ユリ…。タケル君と別れたのね…………。」母が言った。
凍り付く私の背後から母が話しかける。
「母さんな、ユリがタケル君といて幸せなら何も言いたく無かったけどな、タケル君に集られていた事知ってた。だから、ユリが不憫でなぁ。でも…結婚すると言って喜んであげなきゃいけないと思ったよ。だけど、別れたのね。それで良かったって母さん思ったし、安心しとるから、もういつまでも過去を思わず、前を向こう!ユリ…。母さん頑張る。ガンに勝てるように…。」
私は母の言葉に胸がいっぱいになる…。
だけど、何だか胸のつかえが取れたような気分になった…。
自宅に帰り、ひとりでベッドの中、私は母の言葉を思い返す。
何だか、結婚相談所の彼に出会い、タケルと別れた今が自然体でいられる…。
母親の闘病であんなに疲労していたのに、最近はよく眠れるし、お洒落も少しは出来るようになった…。
そして今日、この彼に会った…。
外見なんて、正直騙しものだ…。
何でこんなに嬉しいのか…?。
駐車場で待っている彼の下に早く行きたい。
仕事を終えて、タイムカードを打ち、彼の車に向かう。
予め車種を聞いていたので、直ぐに見つけられた。
あっ!いた。
彼は窓を開けてペコリと会釈した。
私も会釈し、彼の車にお邪魔し、挨拶をした。
彼は相変わらずボソボソ話すが、とても落ち着いていて和む。
初対面だけど、緊張しないなぁ…………。
「さ、食って食って。どれがいい?どうせなら大トロ食って。」
高い寿司屋さんに連れて来てくれて、大盤振る舞いの彼。
タケルとしか食事したことのない私は、彼の懐の大きさにびっくりしていた。
あり得ない!世の中にこんな男性が居るのかー!位に思えた。
騙されてないよね?私…………。少し彼を疑う。
彼は静かに美味しいお寿司を次々に幸せそうに食す。
そして、「ここ出たらあの向こうのお店に行こうか…。記念に何か買ったげるよ。」
と言ってきた。
え!そんな…………。
正直、まだ会ったばかりなのに何か借りを作りたくないし、何にも彼の事も知らないのに。
私は躊躇ってしまう。
「えっと…。私、何にも要らないです!このお寿司だけでもとても嬉しいので…。」
と返したが、彼は行こうの一点張り…。
根負けした私は結局彼に合わせた。
お店でいろいろ見て回って、彼は高価なコートを手に取った。
着てみな…。と言う。でも…私は断った。
しかし、彼は引き下がらない。
結局、有名インポートブランドの香水をプレゼントされた。
帰宅して、ハァ~と溜め息をつく…………。
目の前に
「ETERNITY」
の香水。
どうしよう…。
香水は数千円だが、今の私には高価な物に変わりはない。
返そうか…。
いい人だったけど…。
まだまだ彼の事何にも知らない…………。
だけど、また会いたい気もするし…。
楽しかったけど、反面少し猜疑心も持ってしまう。
だけど、これが本来的ならば、タケルは私を大切で愛しいと思ってくれていたのかな
一度たりとも香水なんて貰った事ない。
お寿司なんて奢らないと付き合ってくれなかった。
母のいう通り、タケルは ヒモみたいな男だったのかもしれない…。
それから、私は彼と何と無くだが、Mailでやり取りしたり、食事に誘われたりするうちに、自然の流れで普通の恋人同士になっていった。
彼は茂雄。
シゲちゃん、ユリとお互いに呼び合う仲になり、沢山会話した。
シゲちゃんは、とてもおおらかで温和な性格、野球好きで阪神タイガースの大ファン。
中距離トラックの運転手。
人徳があり、それでいて気さくな明るい性格。
老若男女、万人から好かれ、信頼度も高い人物。
落ち着いていて、家庭的、こども好きな…。
そんなシゲちゃんに私は何時からか止めどない好意を寄せ、慕うようになった…。
母が闘病中でありながら、シゲちゃんに出逢ってからは穏やかで日溜まりにいるような気分になる…。
ある日、シゲちゃんは自分のトラックに私を「嫁」として乗せてくれた。
そして、シゲちゃんの家族に紹介された。
お父さんも、お母さんも、妹さんも温かく迎え入れてくれた。
リビングにはお寿司やオードブルが並び、緊張してあまり食べれない私をお母さんがフォローしてくれ、妹さんが話題を提供してくれる。
シゲちゃんはお父さんのコピーで、お父さんも寡黙で温厚な落ち着いたお父さんだ。
シゲちゃんは私の事を「花嫁を紹介する」と事前に話していたらしく、妹さんが結婚式場のパンフレットや見積もりまで取り寄せていて、ビックリ!
私は断る理由もなく、ただただこんな時だからこそ、他人の優しさや温かさ、人情が有り難く、突然の家族揃ってのプロポーズに泣きそうになりながらも、思い切り幸せな気分だった。
あの時は本当に本当に嬉しかった…。
だけど、シゲちゃんには親しくお付き合いをしていたバツイチの女性がいました…。
シゲちゃんは、婚約前に素直に彼女とはただのメルトモだって話していて、彼女とスッキリしてくれなければ、結婚出来ないと言う私に、彼女へ結婚の報告と共に別れを切り出したMailを送り、それをわざわざ見せてくれた。
しかし、彼女とはずっと先で対峙するようになる…。
そして…………。
シゲちゃんの愛する家族とも生き地獄を見る日が足音を立てて迫って来ていた…。
あの頃の幼い私は無知で無垢で弱かった。
シゲちゃんが唯一だった。
いつだって頼もしいシゲちゃん、大きなシゲちゃんにおんぶに抱っこの幼子だった。
だけど、今まで肩肘張ってきた分、シゲちゃんには甘えてしまう。
最初は恋愛感情よりも違う何かに惹かれたのに、今は毎日が違ってきた。
プロポーズされてからもずっと何か自分の中のシゲちゃんが特別な存在に思える。
私は、シゲちゃんに心を奪われた。
これが、好きな人ではなく、愛する人 なのだろうか…………。
ずっと一緒に苦楽を共にしたいと思える
何の根拠もないのに、彼となら幸せになれる、やっていけると感じる。
好きとか、愛してるとか軽々しく言えない。それは照れではない。
関係が重みがあるだけ、軽々しく言う言葉ではないのだ…。
そして、私は母にシゲちゃんの事、結婚したい事を伝えた。
母は驚いていたが、シゲちゃんとの事を話すと自分の事のように微笑んでくれた。
そして、「茂雄さんにならユリをまかせられそうななぁ。幸せになるんだよ。」とはなむけの言葉をくれた。
そんな中、朗報が入る!
母のガン切除手術が可能だと、外科の医師が担当医と打ち合わせをし、腫瘍摘出手術の日程が決まったのだ!
それにより、余命が4ヶ月から3年位に大幅に延命出来るというものだった。
私達家族は手を取り合い泣いて喜びをわかち合った。
これで母にも花嫁姿も、もしかすると孫の顔も見せてあげれるかもしれない。
浮かれて舞い上がっていた私…………。
だけど、後々私はもっと高い幸せの絶頂から、深い深い谷底に突き落とされていくのだ
それからは毎日に少しづつ希望を持てる様になり、私は母の手術の成功を祈った。
母の手術迄には沢山の検査や治療は継続してあり、気は張っていたが、シゲちゃんがいてくれるおかげで私は頑張る事が出来た。
そして近付く手術の日。
母は成功率5割の大手術に全てを賭けて挑んだ。
その母の姿は毅然として、涙が出る程立派だった。
あの頃母は身を以て私達遺族に、
「ガンとは何か、生きる強さや、生命の大切さ、闘病の苦しみ、悲しみ、絶望や希望」
を教えてくれました。
ありがとう
母さん…。
この頃の私は母親の余命との闘いが自分の大部分を占めていて、日常的に細かな事や、本来ならば気になる事も目が向かなかった。
だから、私はシゲちゃんの事も支えてあげられず、支えてもらうばかりの関係だった。
シゲちゃんの疲れた表情や、声のトーンなどコンディションに全く気がつかなかった…。
アルコールの量がかなりの量でも、人よりちょっとばかしお酒に強い人だと思い、
浅黒い肌も単に仕事と大好きな草野球で焼けただけ。男らしくていいじゃない!なんて勘違いしていた。
もっともっと、どうして気をつけてあげられなかったんだろう…。
どうして 見付けてあげられなかったんだろう…。
大好きな人を奪い去るものを…。
この時なら間に合ったのかもしれない。
ごめんね シゲちゃん。
遠い記憶…………。
シゲちゃんと過ごす休日…………。
田舎者の私はシゲちゃんのマンションから見る夜景が新鮮で、よくベランダに出た。
バイパスを走る車の音…。
深夜でも煌々と灯るビルの灯りをぼんやりと眺めながら私は幸せな時間を過ごしていた。
独身男性特有の男臭い部屋はだんだんと片付けられ、シゲちゃんが帰宅した時には手料理で出迎え、お布団も日中干したフカフカのお布団、お風呂も沸かし、家庭的な生活になっていった。
母の手術は無事終わり、母は少しずつ食べれる様になり、調子が良くなってきた。
点滴棒もすっかり外れて、投薬治療と切除手術した所の縫合の傷を手当してもらうだけにまでなり、仮退院が決まった。
父はほっと安堵の表情を浮かべ、私と姉は母の回復を心の底から喜んだ。
以前のようにはいかないが、調子が良い日は簡単な家事をしたり、絵を書いたり、父と買い物に出掛けたりする母を皆が一団となり温かく見守り、そっと支えた。
そして、私もシゲちゃんと正式に婚約し、シゲちゃんのご両親が挨拶に訪れた。
母も元気になって、結婚も決まり、喜びは増していた。
結婚式場も決まり、式の日取りも決め、私達は入籍を済ませ、正式に「夫婦」となった。
あの頃は誰がどう言おうと、「私」は本当に本当に幸せだった。
結婚を決めた頃は誰しもこんな思いをされた事でしょう。
懐かしい感情に涙が出て来ます。
入籍したふたりは新居探し。
不動産屋さんで将来二人の間に産まれ来る子供の為に、以前より少し大きなお部屋を紹介して貰い、引越しした。
新年早々から慌ただしい日々…。
だけど、いつもシゲちゃんといられる安心感と嬉しさに勝るものは何一つ無かった。
母も回復を辿る中、私達も新しい生活を初めていた。
まだ拙い足取りで手を取り合い、歩み始めたばかりの夫婦ともいえない夫婦。
下手な料理に安っぽい家具家電…。
100均で買い漁ったその場しのぎのキッチン、バス用品の数々…。
ままごとみたいな新婚生活。
それがどれほど楽しかったか…。
貧しかったし、築20年の古びたアパートだったけど、あの場所、あの記憶、全てが私の愛しい宝物になっている。
二度と戻れないのに、私は度々訪れてしまう…………。
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9レス 230HIT 一途な恋心さん (10代 女性 ) -
スカートの丈が床につきます
レーススカートが欲しいのですが試着したら裾が床についてしまいました(泣) 可愛いデザインだっただけ…
11レス 242HIT 解決させたいさん (30代 女性 ) - もっと見る