～溺欲～粗品を食べる会

今日も父はいなかった。

『宴会があるって言ってたけど』と、宴会が行われているホテルの名と共に母が言った。

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父がいつも家にいないのはなぜか。
いったい何をしているのか‥毎日考えていた。


口数は少なく、感情をあまり表に出さないタイプだが、時々笑う父の笑顔が大好きだった。

高校を卒業した今でも、父と結婚したいと思えるほどだ。

真面目に仕事をして、いつだって家族の事を考えてくれていた。

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そんな父が最近変わった。

どのように変わったのかは、上手く説明出来ないが、なんだか雰囲気が違うというか、空気が違うというか‥
家族だからこそ分かる、そんな変化だ。

その変化と同時に、父の帰宅時間が遅くなりはじめ、徐々に帰宅しない日も増えた。

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浮気なのか。
いや、有り得ない。
父が、浮気なんて‥本当に想像がつかない。
それでも無理矢理に想像して、自分の想像力の限界を感じ、苦笑した。

では、何だろう。
父が言うように、飲み会や宴会なのか。

父は、お酒は好きなので、浮気より飲み会の方が有り得るが、いまだかつて、こんなに頻繁に飲み会に参加する事は無かった。

何かがおかしい。

ずっとそう思っていた。

そして今日も父はいない。

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ふと、２つ上の姉の方を見ると、姉も私を見ていた。

姉も私と同じ事を考えているようだった。

『確かめてみよう』

母に気付かれないよう目を合わせて頷いた。

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現在、夜の９時。
朝６時に仕事に行く母は、いつも１０時には眠ってしまう。

母が眠るまで、普段通りにテレビを見て過ごす。
３０分ほど経つと
『お母さん、もう寝るわ』といつもより早くに寝床に行った。

『早いね～。おやすみ。』と声をかけ、寝室のドアの閉まる音がするまで静かに待った。


バタンとドアが閉まる音がすると、
『よし‥、やるか。』と姉が言った。

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姉の表情は硬かった。
姉も私と同様に父の変化に気付いていたのだが、
考えていることは別なようだった。

私は、ただ父が何をしているのか知りたかった。
興味本位に近い。
しかし、姉は明らかに父の浮気を疑っていた。

今、思えば。の話しだが。

姉は父に似て、感情を表に出さないタイプで、同年代と比べると落ち着いており、この時も私は『冷静で頼れる姉』と思っていた。

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母が言っていたホテル。
『ホテル花藤』

私は聞いたことが無かった。

姉は『大丈夫』と言って、立ち上がり自分の部屋へ行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。


姉は一枚の名刺を持っていた。


名刺には『ホテル花藤』と書かれている。

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『これ、どうしたの』

『お父さんの部屋で見つけたの』と姉は表情を変えずに言った。

普段、父の部屋に私達が入る事はまずない。
なんとなく入りづらい雰囲気がある。

そんな父の部屋に、なぜ姉は入ったのだろうか。

なぜその時に、この名刺を持って来たのだろう。


その理由を私は、姉に聞く事ができなかった。

聞きたくなかった。

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姉は 名刺を見ながら電話を取った。


すごく静かで、呼吸する音さえ、姉の邪魔になるのではないかと思える。

こんなに緊張して息をするのは 初めてだ。

私は 姉の行動を静かにじっと見ていた。


姉が ホテルの電話番号を押し終え、受話器を耳に当てる。

部屋は静かな為、姉の向かえに座っている私にも受話器から呼び出し音が聞こえる。


そしてすぐに聞こえなくなる。
変わりに、よく聞こえないがモゴモゴと声が聞こえた。

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『すみませんが‥』と姉が話し始めた。

姉は、現在ホテルで行われている宴会を尋ねたり、父の会社名を伝えていた。


姉は耳から受話器を離して、私を見た。
『ちょっと待ってだって。調べてくれるって』


ほんの１～２分。

この沈黙の中待つ時間は、すごく長い。
この間、会話はなく、
姉は、手に持っている名刺をずっと見つめている。

私は、受話器から聞こえる保留音が何の曲か考えていた。

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