‥闇の声・血の涙‥
とても優しくしてくれて
嬉しかった。
だから、良い子にしていたの。
なのに‥
何故
私の尻尾を‐‐
切ったの‥‥?
ねぇ
どうして‥‥?
*******
・ペットがテーマの作品です。
・中傷や批判、それに類じた御言葉は お控え頂きたいのでお願い致します。
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‥ある炎天下の日。
私は箱に入れられて道端に置かれた。
「飼えないって言われたんだ。御免な」
名前も知らない男の子が涙を拭きながら、そう話し小さな缶に水と餌を入れて‥立ち去った。
私の体では、そこから這い上がれず どうする術も無い。
照りつける太陽が全身を覆い 暑くて・暑くて死にそうだ。
飲み水もとっくに尽きて食欲は湧かない。
そんな時に、頭上から声が聞こえて来た。
「わぁ!可愛い。猫って大好きなの」
アッと言う間に、女の子の手で私は救い上げられる。
‐助かるかも知れない‐
本能的に
そう思ってしまった。
でもね
それは とてつも無く
大きな間違いだったの。
>> 2
‥私は、凄く緊張して怖かった。
“こんな猫なんて捨てて来なさい!”
と言われてしまわないか‥不安だったから。
「飼いたいのなら、飼いなさい。ちゃんと面倒を見るのよ」
その一言にリズが大喜びをして、私も嬉しかった。
「じゃあ これから出掛けますからね」
ママはコロンの香りを漂わせて明るい色のドレスを着て部屋を出て行く。
「猫さん、おなか空いたよね?
美味しい物あげるわ」
リズはママが出てった事に、何とも思っていない様だ。
再び 階段を降りて今度はキッチンと呼ばれる部屋に入る。
「あなた子猫さんだから、冷たいミルクだとオナカ壊してしまうかも知れないね」
そう言いながら、それを温めて お皿に注ぎ込んだ後 隣へ柔らかいチーズを置いてくれた。
空腹と喉の渇きに耐えきれなくなった私は、無我夢中で食事へありついたのだ。
「あなたの名前を決めないとね。
何にしょうかな」
頭と背中を撫でてくれるリズ。
とても優しい。
ただ それだけの事でもつい先程まで“死の淵”へ向かいかけてた私には、幸せに感じていた。
>> 3
‥満腹になり、私はリズを見上げた。
「マリン‥。マリンが良いわ!だって、海の色の様に綺麗な目をしてるもの」
こうして私は“マリン”と名付けられ、彼女と過ごす時間が増えて行った。
リズの話しによると、自分がマダ赤ちゃんの頃
パパは別の人の所へ行ってしまい、そのまま帰って来なくなり ママと2人で暮らしているそうだ。
「私の為に毎日、一生懸命働いてるんだよ。
朝から夕方まではレストランで仕事してるの。
それが終わったら一度、お家に帰って来るけどね夜も働きに行くから お着替えした後、直ぐに出てくの。
夜の仕事は何してるのか、幾ら聞いても教えてくれないから分かんない」
そう母親の事を教えてくれた。
リズの瞳には“寂しさ”が何処にも現れてなかった。
たった4歳なのに。
普通なら親を恋しがって悲しむだろう‥‥
そう“ 普通 ”なら。
だけど
リズは違った。
私は彼女から受けた
優しさに‥‥
安心していて
心の奥底まで
見抜けなかったんだ‥。
>> 4
‥リズは、毎日 私に美味しい食事や飲み物をくれる。
そして丁寧に体の毛を、とかしてくれる。
玩具で楽しませてくれるし、外へ自由に出してくれる日も有った。
だから私は、御礼としてリズに懐いてあげたのだ。
「可愛いマリン。
あなたに会えて良かった」
そう話し、喉を撫でて貰うと嬉しくなりゴロゴロゴロ‥と そこを鳴らしてしまう。
さすってくれる事も気持ち良いけれど、その言葉を掛けて貰えるのが一番嬉しかった。
この家にはベビーシッターが、ほぼ毎日来る。
だけどリズと一緒に遊ぶ訳でも無ければ、話したりもしない。
ただ 彼女の食事を作って、絵本や縫いぐるみを適当に手渡しておき、夜になれば入浴の手伝い。
リズが寝ようが寝まいが時間になったら、さっさと帰る‥‥そんな人だ。
そして、ママ。
非常にリズを大切に思っている。
だからこそ子供を放置せず、ベビーシッターを雇っているのだ。
また 夜のお仕事で、ちょっとでも時間があれば抜け出し、娘を見に戻っていた。
私は外で遊ぶ時、近所の人がママの悪口を叩いてる姿を何度となく見聞きしてたけれど‥‥
家の“内側”なんて、中に入って見なきゃ分からない。
>> 5
‥何も知らない癖に、よく此処マデ話題が膨らむ事が不思議だった。
*******
・・この日の天候は大荒れ。
でもママは仕事へ向かいベビーシッターがやって来た。
空腹を訴えたリズに、何か作る為 キッチンへ入り 出来上がる迄 私は彼女に抱き上げられ部屋に連れられる。
リズの部屋だ。
台風の様な雨風が、窓を打ち付けて 少し怖かった。
でも きっと直ぐに抱っこをして安心させてくれる‐‐
そう信じてた。
突然 鈍い音と鋭い痛みが体内を走り出して、私は叫び声を上げたのだ。
本当に何が起きたのか、さっぱり分からない。
尻尾の先が
痛くて‥
痛くて‥
必死に舐めた。
血の味がしたけれど、こうしないと治らない。
「凄‐い!マリンって、あんなに高く飛び上がって、悲鳴みたいな声出せるんだ」
リズが楽しそうに笑い、今度は私の手を掴む。
ハサミをガチャつかせながら‥。
>> 6
‥本能的に爪を立てた事で、リズの手が離れ 私はベッドの下へと潜り込む。
未だに痛む尻尾の先を、舐めて 舐めて‥
頭が混乱する。
「出ておいでよ。マリン!」
いつもと変わらない元気な声。
でも私は、そこから動きたくなかった。
「尻尾が痛くて出られないの?
それじゃあ‥‥」
リズがシーツを捲り上げ ベッドの下に腕を突き出して私の首を掴む。
敢え無く捕獲された私。
「血が一杯出てるね。
そこの痛みを忘れさせて上げるわ」
ザクッ‐!!
尻尾の時とは、又 違う激痛が電気の様に流れる
‐ 痛い! 痛い! ‐
これ以上に無い程の声で叫ぶ。
リズは
私の耳を切った。
「どう?尻尾の痛みなんて分からなくなったでしょう?」
そう言われても、こちらの返事は
‐ 痛い! ‐
それしか出ない。
でも、この叫び
怪獣が鳴いてる様にしか聞こえてないだろう。
彼女は 人間で
私は 猫だから。
そう‥何にも出来ない‥
ただの猫。
- << 10 ‥耳の傷は、手を舐めてから さするしか方法が無い。 丁度 顔を洗う(ヒゲの手入れ)の様なやり方だ。 ジンジンと疼く痛みが、私を取り巻いた。 「リズ?さっきから、凄い声がするんだけど‥どうかした?」 ベビーシッターのメラニーが、部屋をノックして入って来る。 彼女は一瞬、目を疑ったが直ぐに金切り混じりの声を張り上げたのだ。 「何て事をしたの!! そのハサミを貸しなさい!」 と言い、それを奪い去りリズの手が届かぬ場所へ置くと 私の元に飛んで来た。 「マリンの尻尾‥‥。 ブラブラになってるじゃないの! ‥‥耳‥‥」 とても言葉が続かなかった様子。 当然だ‥。 上の先っぽの部分を 切り取られて 私の足元へ 真っ赤な血と共に 転がっていたのだから。 ‥‥‥。
こんにちわ🐱
お久しぶりです!✨
…て言っても覚えて
なかったらすみませ
ん(:_;)💦💦
久しぶりにミクル
きたら雫さんの新作
―😍❤❤❤!
本当に上手いです
よね😭🍀✨
続きすっごい気に
なります😣✨
頑張ってください😊
>> 7
‥本能的に爪を立てた事で、リズの手が離れ 私はベッドの下へと潜り込む。
未だに痛む尻尾の先を、舐めて 舐めて‥
頭が混乱する。
…
‥耳の傷は、手を舐めてから さするしか方法が無い。
丁度 顔を洗う(ヒゲの手入れ)の様なやり方だ。
ジンジンと疼く痛みが、私を取り巻いた。
「リズ?さっきから、凄い声がするんだけど‥どうかした?」
ベビーシッターのメラニーが、部屋をノックして入って来る。
彼女は一瞬、目を疑ったが直ぐに金切り混じりの声を張り上げたのだ。
「何て事をしたの!!
そのハサミを貸しなさい!」
と言い、それを奪い去りリズの手が届かぬ場所へ置くと 私の元に飛んで来た。
「マリンの尻尾‥‥。
ブラブラになってるじゃないの!
‥‥耳‥‥」
とても言葉が続かなかった様子。
当然だ‥。
上の先っぽの部分を
切り取られて
私の足元へ
真っ赤な血と共に
転がっていたのだから。
‥‥‥。
- << 13 ‥子供部屋に備え付けの洗面台へメラニーが走り、水で冷やしたタオルを何枚か持って来て 私の傷口へと当てる。 それが染みて又、声を上げてしまったけれど恐怖心は無く メラニーに助けを求めた。 「病院へ行く支度をしなきゃ!」 彼女は手早く行動に移し、リズにも声を掛ける。 「貴女も一緒に車へ乗るのよ」 「うん。いいよ。でも私オナカ空いたわ」 その返答に、驚きの眼差しを向けたが 彼女は先程作った料理の中で、手軽に食べる事も出来るポテトを取りに向かう。 もし断ればリズが泣くだろうし、今は宥めてる暇は無い‥と判断した様だ
>> 10
‥耳の傷は、手を舐めてから さするしか方法が無い。
丁度 顔を洗う(ヒゲの手入れ)の様なやり方だ。
ジンジンと疼く痛みが、私を取り巻…
‥子供部屋に備え付けの洗面台へメラニーが走り、水で冷やしたタオルを何枚か持って来て 私の傷口へと当てる。
それが染みて又、声を上げてしまったけれど恐怖心は無く メラニーに助けを求めた。
「病院へ行く支度をしなきゃ!」
彼女は手早く行動に移し、リズにも声を掛ける。
「貴女も一緒に車へ乗るのよ」
「うん。いいよ。でも私オナカ空いたわ」
その返答に、驚きの眼差しを向けたが 彼女は先程作った料理の中で、手軽に食べる事も出来るポテトを取りに向かう。
もし断ればリズが泣くだろうし、今は宥めてる暇は無い‥と判断した様だ
>> 16
‥“面白いから”
たったそれだけの理由で、私の耳が切り取られ
尻尾はえぐれた。
目も開け様とすればする程、瞼が剥ける感覚に陥る。
激痛が過ぎて、神経も麻痺した様な気分だった。
******
・ 病院 ・
間もなくして、動物病院へ着く。
此処は予防接種とやらで、何度か来た事がある。
また注射でもされて、痛い思いをするのかと思うと逃げ出したくなったが今の私の体では無理だ。
ざわざわ‥‥と言う空気が取り囲んで来る。
「まぁ!どうしたの?」
知らない人の声。
ケージの蓋が透明になっているから、私の姿が見えたのだろう。
騒ぎを聞きつけ、助手の先生が来た様子。
病院へ行くと必ず居る人なので、匂いと声で分かる。
「直ぐに処置しますから此方へ」
どうしたって開かない瞳。
真っ暗闇の中、私は何処へ連れて行かれるのか不安だった。
ただ ただ
運を天に任せるしかない
どんな未来でも‥‥
‐‐‐‐‐
>> 19
‥鉄の棒とトイレ。
ご飯皿と水皿‐‐そしてタオルが敷かれて、私はその上に寝転んでいたのだ。
‐目が見える!‐
嬉しかったが、此処は知らない場所。
まだ少し、ふらつく足で立ち上がり彼方・此方の匂いを嗅いだり様子を見渡す。
どうやら自分は小さな檻に入れられている様だ。
リズへの恐怖心とは、違う恐ろしさが心臓を鷲掴みにする。
考えたくない‐。
そんな事 有って欲しくない。
だけど もう気持ちは爆発しそうだ。
ここは‥‥
‐ 保健所? ‐
眠っている間に連れて来られたのか‥。
私は、猜疑心が振り払えず震えてしまった。
‥ 殺さないで! ‥
かすかに聞こえて来る、他の動物達の声を耳にしながら
そう願った。
- << 23 ‥ ‐ その頃 ‐ リズとメリッサは共に、帰宅しており リビングのソファーへ腰を下ろしてテレビを見ていた。 “parallelworld” と言う番組で、子供から大人まで幅広く楽しめる作品だ。 リズは、この話の登場人物“ラリス”が気に入っていて出て来る度、喜ぶ。 また彼女が怒るシーンでは、一緒に腹を立て・悲しむシーンでは同じ様に泣き、好きな人といるドキドキ感でも同様 胸を高鳴らせていたのだ。 メリッサは、これまでリズが“感情移入しやすい子”だと思っていたが、よく聞く話でも有る為 大して気にも止めてなかったのだ。 しかしマリンの事が有って、非常に少女へ向ける目が深まった。 そして 思い返せば、返す程‥ 色々な視点から考えてみても、行き着く結果は変わらない。 リズの“感情移入”は 度を越している。 とてつもなく。 ‐‐‐‐‐‐。
>> 20
‥鉄の棒とトイレ。
ご飯皿と水皿‐‐そしてタオルが敷かれて、私はその上に寝転んでいたのだ。
‐目が見える!‐
嬉しかったが、此処は知…
‥ ‐ その頃 ‐
リズとメリッサは共に、帰宅しており リビングのソファーへ腰を下ろしてテレビを見ていた。
“parallelworld”
と言う番組で、子供から大人まで幅広く楽しめる作品だ。
リズは、この話の登場人物“ラリス”が気に入っていて出て来る度、喜ぶ。
また彼女が怒るシーンでは、一緒に腹を立て・悲しむシーンでは同じ様に泣き、好きな人といるドキドキ感でも同様 胸を高鳴らせていたのだ。
メリッサは、これまでリズが“感情移入しやすい子”だと思っていたが、よく聞く話でも有る為
大して気にも止めてなかったのだ。
しかしマリンの事が有って、非常に少女へ向ける目が深まった。
そして 思い返せば、返す程‥
色々な視点から考えてみても、行き着く結果は変わらない。
リズの“感情移入”は
度を越している。
とてつもなく。
‐‐‐‐‐‐。
>> 24
‥子供部屋に戻ったリズは、バルコニーへ通ずるガラス扉を開き 綺麗に管理され生い茂っている木の所へ駆けて行く。
柵をよじ登り、一番太い枝に手を伸ばして そこへ飛び移り 下へ降りた。
この行動に特別な意味はなく、単なる好奇心から来るものだ。
リズが考えているのは、マリンの事。
目的地に向かい走り出す。
‥‥。
しかし 途中で人とぶつかってしまったのが切っ掛けで、リズは家へと送り届けられた。
相手は、この近所に住む“ロメロ”と言う青年だ。
小さな女の子が1人で夜道を突っ走る。
しかもパジャマ姿‥。
どう考えても危険で放置なぞ出来ない為、そうしたのだ。
彼女は反発などせず大人しく手を引かれ 帰宅する事にした。
もし 腕を振りほどいてでも、逃げ様としたら
隠し持っているハンカチが落ちてしまう‐‐と判断したからだ。
そう‥‥。
血まみれのハンカチが。
‐‐‐‐‐。
>> 25
‥帰宅すると、母が家に居てリズは非常に驚いた。
「お仕事じゃないの?」
と問いかける。
「メラニーから連絡を貰ってね、今日は休む事にしたの」
そう答え、娘を送り届けてくれたロメロへ御礼を述べて 彼が出て行った後 リビングへと入り・リズを見据えた。
「一体どこへ行こうとしていたの!?
心配して今から探しに向かう所だったのよ!」
そう怒鳴り、続いてマリンの事も口にする。
「リズが何をしたのか、メラニーから全部聞いたし 病院にも連絡を入れて猫の様子を訪ねたわ。
マリンはね、貴女が大好きで信用してたの。
それなのに切り刻まれたら‥どんな思いをしたと思う?
逆の立場で、リズが同じ目に遭って“面白い”と笑われたら どうする?」
そんな母の言葉への返答。
「分かんない‥。
だから、マリンにした事をママが私に やってみてよ」
素早く 側にあったペーパーナイフを取り 母に手渡す。
「私がマリンを切ったのは、ハサミだったけど‥そのナイフでも良いよ。
さぁ!切り刻んでみて。
ママ」
‥‥‥。
>> 26
‥一方、メラニーは無事にリズが戻ったのを確認した後で 断りを入れ・自宅へと車を走らせる。
‐ リズが家を抜け出した事‥私は“知らない振り”をした。
今日だけじゃない。
あの子は今までから、何度となく同じ様に出て行っていた。
だけど それも“知らない”事にしている。
その方が私にとって
“好都合”だったから‐
そう思いつつも、彼女は深い溜め息をつく。
‐このまま隠し通そうか‥。
それとも白状する? ‐
自問自答。
しかし どちらの決心もつかぬまま、自宅へ着いてしまう。
悶々とした気持ちの中、ふとリズの言動で・ある事を思った。
‐マリンへの虐待の仕方。
何処で覚えて来たのかしら‥? ‐
- << 29 ‥ ‐ 動物病院 ‐ 私は、闇の中 迫り来る足音を聞きながら “殺される!” “死にたくない!” と言う気持ちで一杯だった。 此処は 保健所だとばかり思っていたから。 ギィー。 柵の扉が開かれて、手が伸びて来た瞬間 とっさに隅へと逃げたが捕まってしまう。 「怖がらなくていいのよ。 様子を見に来ただけ」 そんな言葉を掛けながら、抱っこされた時に漂う香りで 病院のスタッフだと分かったのだ。 ‐ 良かった。殺されなくて済む ‐ 途端に安心した。 スタッフが怪我の部分や目の回りを診て、また注射を打つ。 再び 睡魔に襲われた私。 夢か現実か分からない狭間で 聞こえてくる声。 「マリン‥ 貴女は 死んだ方が幸せね」 ‐‐‐‐。
>> 27
‥一方、メラニーは無事にリズが戻ったのを確認した後で 断りを入れ・自宅へと車を走らせる。
‐ リズが家を抜け出した事‥私は“知らない振…
‥ ‐ 動物病院 ‐
私は、闇の中 迫り来る足音を聞きながら
“殺される!”
“死にたくない!”
と言う気持ちで一杯だった。
此処は 保健所だとばかり思っていたから。
ギィー。
柵の扉が開かれて、手が伸びて来た瞬間 とっさに隅へと逃げたが捕まってしまう。
「怖がらなくていいのよ。
様子を見に来ただけ」
そんな言葉を掛けながら、抱っこされた時に漂う香りで 病院のスタッフだと分かったのだ。
‐ 良かった。殺されなくて済む ‐
途端に安心した。
スタッフが怪我の部分や目の回りを診て、また注射を打つ。
再び 睡魔に襲われた私。
夢か現実か分からない狭間で
聞こえてくる声。
「マリン‥
貴女は
死んだ方が幸せね」
‐‐‐‐。
>> 29
‥
‐ どうして、そんな事を言うの‥?
ねぇ?何で? ‐
声にならぬ声。
届かない思い。
スタッフの言葉と共に、リズが私の身体を切り裂いて
“面白い!”
と言った一言が渦巻き、私を飲み込む。
そして また深い眠りへ向かった。
*******
‐今夜は眠れそうにないな‥‐
メラニーが、自宅の鍵を開けながら そう思っていた。
ひょっとしたら、リズへの監視不足でクビになるかも知れない。
1人暮らしの分際では、痛い話しだ。
それよりも、マリンの事が心配で‥‥
色々と頭を悩ませてる中バックに入っていた携帯が、音を奏でて鳴り響く。
ディスプレイの表示には
‐ アンダーソン ‐
と出ていてリズの家からだと分かる。
「もしもし?」
電話口から泣きじゃくる声が聞こえて来た。
「メラニー?私 リズよ。
あの‥あのね‥」
いつもの様子とは全く違う声色に、メラニーが驚き聞き返す。
「どうかしたの!?」
それに対しての返事は
「助けて‥。
ママに殺される」
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