待つ人
彼がいなくなって一年が過ぎた
ようやく彼の癖も
笑い顔も薄れかけた
彼と歩いた道もようやく
一人で歩けるようになった
彼と過ごした横浜を離れ
ショップで働き始めた私の電話が振動を始めた
[お客さんかな?]
携帯に連絡をくれる顧客さまもいるから、
私は知らない番号が写った携帯の
通話ボタンを押した
[ゆうとって名前に聞き覚えある?]
忘れかけた…
忘れようとした彼の名前だ…
新しいレスの受付は終了しました
電話は男の人の声だった
全く聞き覚えのない声だ
一瞬訳がわからなくなった
[え……
名前は知ってますけど。]
自分でもびっくりするほどの
裏返った声だった
[俺、ゆうとの友達で
大和って言うんだけど…]
沈黙が気まずいのだろう…
どうゆうことか考える間もなく
相手が続けた
[ゆうと今、青森にいるんだよね!
まりやちゃんから
手紙が欲しいって
書いてあげてくれない?]
相手はこっちのことなんて
お構いなしでなじみのない住所を告げて
さっさと電話を切ってしまった
もう終わった恋
もう二度と関わることがないと思ってた人
こんなに急にその名前を聞くことになるなんて
それから数日
私は手紙を出すか
出さないか悩み続けた
第一なんて書けばいいのだろう?
用事があるのはあっちで
私じゃないのだ…
3日間悩んで
私はやっぱり手紙を書くことにした
―お久しぶりですね。
今頃、何の用ですか?
たった二行だけ…
どうしてもそれ以上の
言葉がでなかった…
1年も音信不通だったのにとゆう
腹立たしい思いと
嬉しく感じる自分自身が
情けない思いと…
そんな思いをこめた二行だ
彼と出会ったのは
今から3年前のこと
20歳の誕生日を迎えてすぐの頃だった
広島のキャバクラで働いていた私が
たまたまついたのが彼
ゆうとだった
一目ゆうとを見た時に
[私この人と結婚するな]
という予感がした…
何がそう思わせたのか分からない
初めての感覚だった…
不思議な感覚…
でも確かな感覚だった
そんな訳ない…
きっと酔ってるせいだ…
私はその感覚に目をつぶって
2人で来ていたゆうとたちの
彼の横に座った
[初めまして!
まりやです。
お兄さん、男前ですね
なんだか緊張しちゃいます!!]
私はいつものように自己紹介をした
ただいつもと違うのは本当にドキドキしていたことだった
[俺の名前はお兄さんじゃなくてゆうとね
まりやちゃんこそかわいいね!
俺の彼女にならない?]
えっ!?
そんな人なんだ…
期待した気持ちがどんどんとしぼんでゆくのが分かった
誰にでも調子のいいこと言う人を信用なんてできない
やっぱりお客さんと真剣な恋はできないんだ
さっき感じたことは勘違い…
初対面のゆうとになぜか失恋した気分だった
心がチクンと痛んだ
そこからゆうととどんなことを話したのか
ほとんど覚えていない…
ただゆうとが大袈裟なくらいに笑う声や
大きな瞳をしている横顔だけが
はっきりと印象に残った…
[まりやちゃん、ご指名なんで移動してください]
[は~い!ぢゃあ失礼します。
ゆうとさんありがとぅ
楽しんで帰ってくださいね]
そう言って立ち上がりかけた私にゆうとが
[メールのアドレス教えて]
と手を引いた
指名もしないのにアドレスだけ聞くなんて調子のいい人だな
そう思いながら彼にアドレスを書いた名刺を差し出して
その場をたった
それから2週間ゆうとからはなんの連絡もなかった…
ゆうとのことが薄らぎかけて
私はいつものように
昼の職場である
デパートの婦人服売り場にたっていた
すると、売り場の先輩が首をかしげながら話し掛けてきた
[まりやちゃん、さっきから通路のところに
男の2人組がずっといて、こっちを見てるんだけど
知ってる人?]
本当だ…
いかにもギャル男風の2人がこっちを見ていた
入ってくる勇気はないらしく
もじもじしているのが分かった
ただ、少し遠くて顔まではわからない…
[誰なんですかね?
私あんな格好する男友達はいないです…]
[そうよね!
まりやちゃんのタイプぢゃないものね]
そうこうしているうちにその2人はいなくなっていた
何だったんだろう…
そう思いながら仕事を上がり
携帯をチエックした
一件のゆうとからのメール
――さっきお店いったんだけど
わかった?
終わったらメールしてよ!!
えっ?
さっきのゆうとだったんだ…
でも昼の仕事のこと言ってないのに、なんでだろう?
私は不思議に思い、メールに書いてあった番号に電話をかけた
[まりやです
今日お店にきてたのゆうとくんだったんだね
わかんなかったよ
でもなんで私があそこで働いてるの知ってるの?]
[そうだよ
気付いて貰えなかったけどね
まりやちゃんと初めて会った夜に
まりやちゃんと友達だって言う子に
昼間あそこで働いてるって聞いたから
本当にいるかなって思ったらいたんだよね
それより今どこなの?]
[お店出たとこだけど…?]
[ぢゃあそこにいて!!]
そう言ってゆうとは電話を切った
昼の仕事のことは知られたくなかったのに…
だいたいなんで私が待たなくちゃいけないの?
なんだか腹が立ってきた
約束した訳ぢゃないし
帰ろうとしていると、ゆうとが1人で現れた
[ちょっと!
ゆうとくん、私まち…]
[まりやちゃん今日夜は仕事でるよね!?
確か9時からだったでしょ?
それまでお茶でもしようと思って!!]
そうゆうと私の話も聞かず
私の手をとってぐいぐいと引っ張って行く
私の話は聞こえないらしい…
結局ついて来てしまった
着いた先はいかにも乙女なカフェだった
甘いものが苦手な私はコーヒーを
ゆうとはパフェを注文した
[俺ここのパフェ大好きなんだよね
まりやにも一口あげる
はい!!]
人なつっこい笑顔を見てると
なんだか怒る気も失せていた
>> 10
おいしそうに食べるな~
ゆうとって、
なんだかわがままな子供みたい…
遊び人かと思ったら
急に純粋そうにも見えてくる
なにしてる人なんだろう?
初めて会った時はスーツだったけど
今日は頭もつんつんで
派手なカラーパンツでカジュアルな格好だ
今日は平日なのに…
それによく見ると身につけているもの 全てがブランド物なのだ…
[ゆうとくんってもしかしてホストなの? だったらまりや行かないよ]
[違うよ! 仕事は仲良くなったら教えるよ]
人のことは勝手に調べるのに
自分のことは殆ど教えてくれない…
その時の私はゆうとに振り回されてばかりで
ゆうとがその時言わなかったことが
その後大きな意味を持つことに気付かなかった…
それから食べ終わったゆうとは私を夜の職場であるキャバクラに送ってくれた
キャバクラの仕事を終えて帰ろうとしていると
またゆうとから電話だ…
[まりや、おつかれっ!!
今からタクシーに乗って 中央通りまで来てょ ]
[え~ まりや、今日もう眠たいよ…]
[いいから!!来て!!]
私は仕方なく待ち合わせ場所まで行った…
ゆうとに連れて行かれたのは 小さな居酒屋だった…
客のほとんどはゆうとの連れらしい…
なんなわけ? もう眠たいし帰りたいんだけどな…
そう思っている私に、ゆうとがみんなを紹介した
[あっちが俺の友達たちね! こっちが俺の妹!]
ん?!妹?! そんなこと聞いてないよ
なんだか気まずい…
ゆうとは続いて
[それで、この子は俺の彼女のまりやね!宜しくしてあげて]
と、私をみんなに紹介した
え~!!!!
いつ、私ゆうとの彼女になりましたっけ??
好きと言った覚えも 言われた覚えもないんだけど…
だいたい会ったの今日で2回目だし…
と言ってしまいそうになったのを私は我慢した
ゆうとの言った事を ゆうとの友達や妹に囲まれて
否定なんてできなかったから…
[まりやちゃんこっちどうぞ]
とゆうとの妹さんが手招きした
ゆうとは私を置いて友達と飲み始めている
私は本当はこうゆう賑やかな場苦手なのに…
しかも知らない人ばっかり…
[私ゆうとの妹で、昌美だよ!
今日は急でごめんね
ところで、ゆうとのどこがいいの?]
そんなこといきなり聞かれても、私が知りたいよ…
[えっと…
どこなんでしょう?
気付いたらこうなってました]
嘘ではない…
それから私は妹さんやゆうとの友達の話にひたすら合わせていた
時々ゆうとが声をかけにきてはすぐに戻ってゆく
2時間が過ぎて私の我慢にも限界がきた
ゆうとはすでに酔っ払っている
私は妹さんに
[私明日も仕事なのでお先に失礼してもいいですか?]
と、尋ねた
[じゃあゆうと、もう酔っ払いだし、連れて帰って]
だから彼女じゃないんだってば!!
その会話を聞いていたらしい
ゆうとが横から声をかけた
[うん!まりや帰ろう]
やっと帰れる!
私は挨拶をして足早にお店を出た
[タクシーで帰ろう!送るよ
まりやの家どこなの?]
[中町ですけどコンビニ寄りたいので、近くまででいいですよ]
コンビニなんて嘘だけど
住所なんて知られたくないもん
そしてタクシーで家の近所のコンビニまで来ると
なぜかゆうとも一緒に降りてくる…
どうしよ…
そんな思いとうらはらに
ゆうとは道の真ん中に転げて今にも寝そうだ
仕方なく私は
自分の家までゆうとを連れて帰った
家に着くと
[わ~女の子の部屋だぁ!久々!]
[えっ!?ゆうとくん酔ってたんじゃないの?]
[俺があれぐらいで酔う訳ないでしょ!!]
どうしよ…部屋まであげちゃったょ…
不安に襲われてゆうとを見ると
彼は床に背筋を伸ばして
ちょこんと正座をしている
不覚にもちょっとかわいく見えてしまった
私は向かいに座った
[あの…
ゆうとくん、どういうつもりなの?
酔ったふりするなんて最低だよ
心配したのに]
[ごめんね…
でも心配になるってことは俺のこと嫌いじゃないでしょ?
もう付き合っちゃわない?]
確かに顔はすごくタイプだけど…
私は最初の夜に感じた予感を思い出した
私はその予感にかけてみることにした
こくんと頷くと
ゆうとに抱きしめられた
[嬉しい!!
3年ぶりに彼女ができたよ]
ゆうとの顔が本当に嬉しそうで
なんだか私も嬉しくなった
思えばこの時から私は彼には敵わなかったのかも知れない…
私の運命がそれまでの退屈なものから
違った報告へと動き出した瞬間だった…
それから彼はおやすみと、告げて
私の頭を軽くなでると
部屋を出て行った…
意外だった
すぐHと思っていたからだ
正直私の男性経験は多いと思う…
一夜限りの人も大勢いたし、ゆうとの前に付き合った人には暴力を振るわれることもしょっちゅうだった…
そのどの元彼を思っても一緒の部屋に居てキスさえしない人がいたかと思うと、一人もいなかった気がする…
そして次の日もその次の日も
キャバクラの仕事が終わる頃になるとゆうとがお店まで迎えに来てくれた
そのうちにゆうとが泊まって行くこともあった
その時も彼はキスやHをする訳でもなく、ただぎゅっと抱きしめて一緒に眠ってくれた
朝は私がデパートの仕事に行く時間に合わせて彼もどこかに出て行く…
昼間どこにいて何をしているのかは聞かなかった…
いつも夜になるとゆうとはいつもの笑顔で現れたから…
そんなユウトとの付き合いは新鮮だった
―それから3ヶ月 ― 2人で街を手を繋いで歩いたり、ご飯を一緒に作ったり…
ユウトはまだキスもしようとはせず、最初の強引さからは想像もできない程の穏やかな日々だった…
そんなある日、ユウトに前から不思議に思っていたことを尋ねたことがある…
[なんで私と付き合おうと思ったの?]
言いたくないと言う彼に、私が何度もしつこく聞くと彼はやっと口を開いた…
[まりやと最初に会った時に、俺がちょっとでもまりやの肩とかに触れようとしたり、手を動かす度に微かにびくってなるんだよね… 自分で気付いてないかもしれないけど、それって前に誰かに暴力振るわれた人がなる癖だよ…
だけど、口では強がりばっかりなところがかわいいなって思ったから]
確かに前の彼氏のことその時もまだ引きずっていたんだと思う、 だけど私は誰かに同情されるなんて嫌だったからそのことを誰かに話したことはなかった
そうか… 私、強がってたんだ… そう気付くとふっと気持ちが軽くなった…
私の痛みを知ってやさしく見守ってくれたことがなんだか嬉しかった
その夜、初めて体を重ねた
[電気消していい?]
ユウトはキスをした後にこう尋ねてきた
[電気全部消しちゃうと、真っ暗で何も見えなくなるよ?]
[それぐらいでないと俺は嫌なの]
女の子みたいなこと言うんだな
そう思っていると、ユウトの指が優しく私を撫でた
そこからは何も考えられなかった…
私はユウトの腕の中で、ただただ幸せだった
好きな人とのHてこんなに気持ちいいってことが初めて分かった
終ってからも優しく髪をなでてくれるユウトの全てが愛しい
そのまま裸で抱き合ったまま、ユウトも私も眠りに落ちた
次の日は2人とも休みだったから、私はユウトより少し早く
昼すぎになって目を覚ました
ユウトの腕をそっとほどいてベッドを出た
その時彼がごろんと寝返りをうってユウトの背中がこっちを向いた
昨日電気を消してっと言った意味が分かった
彼の背中には一面に天女の入れ墨が入っていたから…
私が眺めているとユウトが目を覚ました
[見た?]
[ばっちり天女さんと目が合ってるね…
キレイだね]
[ありがと…若気の至りで昔いれたんだよね]
それから一日中ごろごろして過ごした
一回見られると後は気にならないらしい…
その日からユウトは平気で裸のまま私の部屋でくつろいだ
そんな日が続いて私の部屋にはユウトの物が溢れた
コップや歯ブラシが2つずつ並ぶたび私の喜びも増えていく
2人でいろんな所に行く度に思い出が増えて行った
ユウトは口ではワガママばかり言うけれど、私の仕事が終わるまで文句も言わず待っていてくれる
家に来るとせっせっと掃除をしたり、ご飯を作ったり
そんなアンバランスさを持った人だった
ある日、ふと私が
[京都に旅行がしたい]
と、言ったことがある
なんとなくテレビを見て言った言葉だったのだけれど、2、3日するとユウトが
[来月の中旬1週間開けといて]
と言ってきた
彼は私の一言を聞いたその日に、ホテルや新幹線の手配までしてくれたらしい
京都旅行は本当に楽しかった
2人して子供のようにはしゃいだ
こんな日がずっと続くといいなと思い始めたころ、ふとユウトから思いもかけないことを聞かされた
[俺、そろそろ横浜に帰る…]
どうゆうことなのかよくわからなかった
[帰る?でも家も出身も広島でしょう?]
[俺元々は広島だけど、ずっと横浜で仕事してたんだよね…
会社から帰って来いって言われてるから、そろそろ帰るよ]
そう言うとユウトはすぐ横浜に旅立って行った…
待ってろとも、ついて来いとも…
サヨナラさえも言わなかった
私も詳しく聞かなかった…
止めて聞くんなら端から行かない人だもの
距離が離れる分、心も離れてゆく…
そんな簡単なこと子供だって知ってる
それでもなにかに望みをかけたくて私は毎日のように電話を掛けた
最初の頃は、些細な話でもいつものように聞いてくれた
それもすぐに無くなった
電話をしても、かけ直すの一言で切られてしまう…
[かけ直すって言ったぢゃん?
私達って本当に付き合ってるの?]
[付き合ってるよ]
そんなやり取りばかり増えて行った
むなしい…
こんなの付き合ってるなんて言えないよ…やっぱりね
私は彼の言う通り強がりだ…
寂しいも会いたいも甘えたい言葉は一言も口から出ることはなかった
私もサヨナラは言わなかった
携帯のメモリーからユウトを消去した
彼からの連絡はなかった
ぽっかり胸に穴が空いた
それから、何人かと付き合ったりもしたけれど、その誰にも私はユウトの面影を探していた
だからやっぱりユウトと違うと気付くと上手くいかなくなる
そのまま半年が過ぎて、私は思いがけない人に偶然声をかけられた[まりやちゃんじゃない?]
ユウトと会った最初の夜、彼と一緒にキャバクラに来ていた連れの人だった
運命ってこういう事なのかも知れない…
私はその人にユウトの番号を聞いてすぐ電話をかけた
[もしもし…]
[……もしかして、まりや? 久しぶりだね。どうしたの?]
やっぱり素直になれない私は嘘をついた
[ユウトの家って渋谷まで近いの? 買い物に行きたいから泊まってもいい?]
彼女がもういたらどうしよう?そんな不安もあったけど、返事はすぐに返ってきた
[いいよ!迎えに行くね]
私は早速、新幹線に飛び乗った
自分の思いをどうしても会って確かめたかった
新横浜に降り立つと、ユウトが待っていた
半年なんて無かったように、私の記憶そのままのユウトだった
[久しぶりっ!そんなに俺に会いたかったの?!]
[違うもん!たまたま横浜に来たくなったの!!
いっぱい観光して帰るんだ]
[よし!ぢゃあ中華街から連れてってやるよ]
私たちは付き合っていた頃のように自然に手を繋いで、色んな店を見て回った
ただユウトにはいつも引っ切りなしに電話がかかってくる
[仕事の電話だから]
[気にしてないよ
でも昼間から会社にいなくていいの?]
大丈夫だよっと言いながら、ユウトが雑貨屋でお揃いのストラップを買って私の携帯につけた
なんだかそれが恋人同士みたいで嬉しかった
それから中華料理の店に入った
ユウトはなぜか海老の入ったものばかり頼む
[ユウトってそんなに海老好きだっけ?]
[マリヤが好きなんでしょ!
最後の晩餐は海老って言ってたぢゃん]
やっぱりユウトには勝てないな…
些細なことでも、好きって気持ちが抑えられなくなる
私はまた掛かってきた電話をとるユウトの横顔を見ながら、自分の気持ちがあの日から何も変わっていないことを確信した
途中に失礼して、感想スレを作りましたので、よかったら感想をおよせください
体験を脚色をふまえ書いていますので、今後は私にもわかりません
更新は不規則ですが最後までお付き合い頂ければ嬉しいです😅
ユウトの部屋に着くと、玄関先で鍵を渡してくれた後、彼はスーツに着替えると急いで出掛けてしまった
[今から仕事してくるから適当にくつろいでて]
―もう夜の11時なのに今から仕事なのかな?
もしかして私を案内するために、無理矢理仕事を抜けてくれた?
それにしても豪華な部屋…
ユウトの部屋はドラマに出てきそうな程、広くて天井も高い…
私は一人でぶつぶつとつぶやきながら、寝室やキッチンを覗いて回った
なんだか知らない部屋で一人なのが落ち着かなかったのだ
ふと、ソファーの上に部屋に不釣り合いなヌイグルミが置いてあるのが目にとまった
―そういえば、このキャラクター好きって言ってたな
部屋にユウトらしさを見つけて、私は初めてユウトに久々に会えた嬉しさが込み上げてきた
―そうだよね
私、本当に横浜まで来ちゃったんだ
我ながら自分の行動力には感心してしまう
ずっと広島で育った私には横浜に知り合いもいないし、来たこともなかったから正直言えば、すごく不安だったのだ
それでも4時間もかけてここまで来たのはユウトに会いたい一心からだった
その当の本人は出て行ったまま、日付が変わっても全く帰ってくる気配がない…
やっと会えたユウトと、今日はずっと一緒にと過ごせると思っていた私は彼が帰ってこないことにイライラし始めていた
―でも、私彼女じゃないしワガママは言えないか
急に押しかけたのは私だし…
少し不安になりながらも、昼間、ずっと新幹線で揺られていた疲れで、私はうとうとし始めた
ソファーに横になってそのまま寝ていると、明け方になってユウトが帰ってきた
[ただいま!
マリヤ寝てんの?]
返事をしないでいると、ユウトが傍に近寄って私の上に覆いかぶさってきた
[…う~ん…おかえり…]
寝ぼけたままでいる私にかまわずユウトが自分の服をさっさと脱いで私の服も脱がせ始めた
まだ、半分寝ている私はユウトのされるがままだ…
久しぶりのHなのにムードなんておかまいなし…
もうっ!勝手すぎる!と思いながらも、求められてることが嬉しかった…
私は眠い目をこすりながらユウトにこたえた…
それからだんだん目が冴えてきた私はユウトと一緒にお風呂に入った
後ろから抱かれる形で湯舟に浸かっていると、ユウトが苦しいくらいに抱きしめながら囁いた
[俺達戻らない?]
初めて付き合いはじめた時のように、私は小さく頷いた…
ユウトが抱きしめる腕にまた一層力が入った
お風呂で洗いあいこをした後、私は以前のようにユウトの力強い腕に抱きしめられて、また眠りについた
翌日はユウトの運転で遊園地に出掛けた…
私が絶叫系が苦手なのを知っていてユウトは無理矢理ジェットコースターに乗せたり、お化け屋敷に引っ張って行ったり…
それでもまた恋人として歩くのはとてもうきうきするものだった
最後に観覧車に乗ると
[てっぺんに着いたらキスしなくちゃね!?]
と、意地悪な顔してユウトが言う
[そんな恥ずかしいこと嫌だよ]
と、それでも期待していた私を邪魔したのは、やっぱりユウトに掛かってきた電話だった
―ねぇ、なんの仕事なの?
心の中では何度も聞いた言葉だったけど、口には出さなかった
電話からもれてくる話から普通の仕事じゃないと分かったけれど、自分自身にもわざと気付かないふりをした
知らなかったら良心に悩まされることないっていう自分のエゴの為に…
夜になるとユウトはまた出て行って、昼間は2人で買い物や観光をしたり…
ユウトの友達だと言う人達と飲みに行くこともあった
やっぱりその人達も普通の会社員じゃないことは、認めたくないけど分かっていたんだと思う…
ううん…分かっていた…
そんな日々が何日か続いた…
[そういえばマリヤいつまでこっちにいられるの?]
[特に決めてないけど…
仕事やめちゃったから…]
[そう!ならずっといれば?]
本当ならそうしたかったけれど、なぜか躊躇いがあった…
あまりに生活が違い過ぎるのも、理由の一つだったんだろう
ユウトの豪華な日常は私にとっては非日常すぎる
そう思いながらも帰りたくない気持ちもあってズルズルと2人での生活は続いた
そんな日々の中でユウトが広島にいたころとは少し変わっているのに気付いたのはいつごろだったのろうか…
出会ったころのユウトは強引だったけれど、確かな優しさがあった
私に声を荒げて怒ったりする姿なんて想像もつかなかったし、見知らぬ人にも人懐っこく、親切だった
でも…
横浜での彼は些細なことで道行く人と喧嘩になる…
遅く帰って来ては私の都合も聞かずに体を合わせようとする…
そのうち、ユウトが喋っている電話の向こうに女の人の声が聞こえた
[ずっと家帰って来てないけど、いつ帰ってくるの?]
確かにそう聞こえたのだ
私は驚いてユウトの顔を見た
彼は悪びれもせず
[聞こえちゃった?]
と笑った
自然に涙が溢れた…
後から後から溢れて止まらなかった
そんな私に苛立った彼は冷たかった
[泣くんなら帰れよ]
―この人誰?
そう思った
もう私の知ってるユウトじゃない
私の前にいるユウトはまるで別人だった…
なにより許せなかったのは泣く私を彼が蹴った事だった…
本気じゃなかったんだと思う
でも、私が彼の元を去るには十分な理由だった
昔の彼氏の暴力がトラウマだった私に優しく
[強がらなくていいよ]
と言ってくれたユウトだからこそ、とても許せなかった…
私は化粧もしないで、泣きながら駅まで向かった
不思議そうに私を見る人なんてどうでもよかった
広島まで気付くと帰って来ていた
部屋にたどり着くと、携帯にユウトからの着信があった
私は電話に出なかった
話したくなかった…
よく考えると不思議なところがあった…
ユウトは私を友達に紹介する時、広島の彼女です、と、絶対に“広島の”と付けていた…
家だって私じゃない彼女と住む別の家を借りていたんだろう…
私が横浜にいた間ずっと、二股してたに違いない
なんて私は馬鹿だったんだろう…
はるばる横浜まで行って…
本当に馬鹿みたい…
それからも何度かユウトからの電話はあったけれど、私は一度も出なかった
それからすぐのことだった
ユウトが逮捕されたことを知ったのは…
ユウトの横浜での仲間が電話をかけてくれたのだ
その人もそれからすぐに捕まって私はユウトがどこにいて、どう連絡をとったらいいのかも分からなくなった…
調べようとすれば分かったのだけれど、私はそうはしなかった
ユウトの帰りをきっと横浜にいるユウトと一緒に住んでいた彼女が待っんだろうなと考えると、なんだか馬鹿らしかったから…
風の噂で懲役が3年ほどになるだろうということと、犯した罪がクスリにかかわることだということを聞いた
自分でも驚くことに、涙は一滴も出なかった
終ったんだ…
なにもかも…
頭に浮かんだのはそれだけだ
ユウトからの連絡は一度もなかった
ユウトは私の中ではもう死んだも同然だった…
なにもかも吹っ切れたような、どうでもいいような、そんな毎日がどんどんと流れていった
以前勤めていたデパートに戻ったままいつの間にか1年が過ぎようとした頃
[ユウトって知ってる?]
で始まった電話が予想もしなかったユウトとの、再びのつながりとなった
しかし、電話から1週間もしないうちに手紙を出したにも関わらずユウトから返事がくるには、更に1ヶ月もの時間を要する…
返事がこないために、からかわれたんだと思った私は以前から告白されていた人と付き合うことにした
新たに付き合い出した彼との出会いは友達との飲み会の席だった…
一言で言えば普通の人…
特に第一印象にぴんときたものはなかった…
それでも今までユウトに振り回されてきた分、普通の人との穏やかな付き合いが一番かも知れないと思っていたから、悩んだ末に彼の申し出を受け入れた…
彼との付き合いは想像した通りのものだった
私の予定に合わせて週末には動物園やショッピングに出掛ける
優し過ぎるくらいの思いやりを注いでくれる…
激しい恋心はないかわりに、落ち着いた毎日
そんな日が続くのもいいかもしれない
別れてないなんてよく言えたと思う
他に彼女がいて、悪いことして…
でもさらに驚く言葉が続いていた…
==今は俺、中にいるから好きにしてていいけど、出た後も浮気してたら許さないから!
ってことで籍は入れとこう!婚姻届にサインして送って!
思わず自分の目を疑った
どこまで勝手なんだろう…
どうしても言い返してやりたくて返事を書いた…
今付き合ってる彼氏がいるからユウトとは連絡取れないってことを…
返事は1週間後に返ってきた
刑務所の中では出す日も枚数も決まっているらしい…
彼氏がいるって書いてたからある程度内容を予想しながら封を切った…
==彼氏?俺よりいい男なんていないでしょ?
マリヤは最後は俺の所に戻ってくるよ
俺も横浜の女とは手を切ったから、暇な俺に手紙を書いてくれ
まぁ彼氏のことはいつまで続くか楽しみにしてるから
予想は全く外れていた…
彼氏がいることなんて気にもしてないらしい…
ユウトらしいと言えばそれまでだけど流石に少し落ち込んでいるかと思っていたのに
私もユウトが捕まるまでは私も彼も最後は戻ってくるものだと思っていた
広島にいるときから何度喧嘩をしてもユウトは戻ってきたし、私もそんなユウトをいつも許していたから…
でも…
もう戻ることなんてない
返事は出さなかった
返事を出さないと決めてからも私の心は揺れていた…
横浜の女と手を切ったと言ってたけど、逆なんだろうなと分かった
いくら好きだって言っても会えないとなると誰だって心は離れていくだろう…
連絡が手紙しかないなら尚更だ…
ユウトが捕まって1年が経ちみんな彼から離れて行ったのだろう…
そう思い至るとユウトが可愛そうになってくる…
手紙くらい書いてあげようかな…
それからしばらく悩んで私は手紙を出すことに決めた…
ただ、今の穏やかな日々を失いたくはなかった…
結婚も頭をちらつき始めていたし、今更誰かに振り回されるなんて嫌だった
それでも、手紙を出すことに決めたのはどうしてもユウトが落ち込んだり、一人ぼっちなところを想像するとやるせなかったから…
手紙くらいなら…
そんな軽い気持ちだと思う
彼氏に後ろめたい気持ちはあったけど、どうしてもユウトが落ち込んでるのはいやだった…
ユウトにはいつもワガママで強気なままでいてほしかったから…
そんな心配をよそに彼からの返事は明るかった
==まぁ、手紙くれるんならいいや!!
暇な俺にマリヤはネタを提供し続けないといけないんだぞ!
彼氏や仕事の話なんでもいいし、毎日書いてね!
で、お金は送ったから読みたい本、書いとくから送って
楽しみにしとく!!
心配して損だったかな…
ユウトがこれくらいで懲りるわけなかったか…
ひとまず本当にお金は送られてきたから、彼に本を買いに外に出た
彼が欲しいと言った本のリストはほとんどが、古典だった
そういえば、昔からお寺巡りによく付き合わされたな~
見た目はいかにも遊んでそうなのに、本だけは難しいものばっかりよんでた
もうずっと前のことなのに昨日のことのように記憶は鮮やかなままで
私は本屋で一人、くすくすと笑ってしまった
昔二人で行った旅行を思い出したせいもあった
付き合いはじめたばかりのころ、まだユウトがどんな人なのかわからなくていつも新鮮な驚きばかりだった
その中でも私の軽い一言から始まった京都旅行はたくさんの発見があった
新幹線で京都に向かう間、彼氏と旅行なんて初めてのことだった私は、興奮を抑えきれずにガイドブックをひたすら眺めていた
そんな私をよそに彼は携帯でゲームをしたかと思えば、それにも飽きてすぐに寝息をたてはじめた
京都だなんてユウトには興味がなかったのかも…
遊園地とかもっとアクティブな所を選べばよかったかな…
そう思い始めたころ、新幹線の窓から京都の町並みが見えてきた
到着がそろそろだと言うアナウンスに私は、すっかり寝ているユウトを起こし京都駅に降り立った
広島を出る時には小さかった雪は京都ではすっかり大きな雪となっていた…
それでもユウトを楽しませたくて、どこに最初に行くか私が悩んでいると、ユウトが私の手を引いて歩き出した
[まずは五重塔から行きたい!
俺京都ずっと来て見たかったんだ]
それからレンタカーを借りてユウトの運転で五重塔を見に行くことになった
さっきまで寝ていたのが嘘みたいに運転中のユウトは興奮した口調で、行きたい所や、食べたいものをあげていく
京都駅のすぐ傍にある五重塔のを見ながら、これが教科書で何度となく見たものかぁと私は感慨にふけっていると、ユウトはそんな私をよそに
もくもくと写真を撮っている
ひとしきり撮り終わると、歴史なども書かれた案内図を真剣な面持ちで食い入るように読みはじめた
[ねぇ、そろそろお昼にしようよ]
雪の中の寒さもあって私はとにかくどこか温まる場所に入りたかったから、横からユウトに声をかけた
いくら待っても返事がないので、二、三度同じ質問をすると
[ちょっと待ってて!!
俺はゆっくり見たいの!!]
と、言う返事が返ってきた
仕方なく私は屋根がある場所に一人移動してユウトの気が済むのを待つことにした
結局ユウトが戻ってきたのは2時間後だった…
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君は私のマイキー、君は俺のアイドル9レス 158HIT ライターさん
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タイムマシン鏡の世界5レス 132HIT なかお (60代 ♂)
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運命0レス 81HIT 旅人さん
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九つの哀しみの星の歌1レス 91HIT 小説好きさん
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夢遊病者の歌1レス 94HIT 小説好きさん
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神社仏閣珍道中・改
【足利伊勢神社】 栃木県足利市に鎮座される【足利伊勢神社】さんへ…(旅人さん0)
289レス 10072HIT 旅人さん -
私の煌めきに魅せられて
六時半になった。残業だあ。 というのも明日プレゼン資料を完成させなき…(瑠璃姫)
68レス 799HIT 瑠璃姫 -
西内威張ってセクハラ 北進
高恥順次恥知らず飲酒運転していたことを勘違いなどと明らかに嘘を平気でつ…(自由なパンダさん1)
100レス 3324HIT 小説好きさん -
北進ゼミナール フィクション物語
勘違いじゃないだろ本当に飲酒運転してたんだから高恥まさに恥知らずの馬鹿(作家さん0)
21レス 303HIT 作家さん -
北進
詐欺や性犯罪の被害者が声をあげることを「愚痴」とは言わないだろ馬鹿か(作家志望さん0)
19レス 436HIT 作家志望さん
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🌊鯨の唄🌊②4レス 143HIT 小説好きさん
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人間合格👤🙆,,,?11レス 150HIT 永遠の3歳
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酉肉威張ってマスク禁止令1レス 154HIT 小説家さん
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今を生きる意味78レス 526HIT 旅人さん
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黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 981HIT 匿名さん
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🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 143HIT 小説好きさん -
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人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 150HIT 永遠の3歳 -
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酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 154HIT 小説家さん -
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おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1410HIT 檄❗王道劇場です -
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今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 526HIT 旅人さん
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注目の話題
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この人はやめるべき?
文章に誤りがあったため訂正します。 アプリで知り合った人に初めてドタキャンをされすごくショックです…
21レス 391HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) -
女子校に通ってた人は恋愛下手?
高校生の頃女子校に通っていて恋愛はしませんでした。 異性とあまり喋る経験がないまま社会人になりまし…
14レス 328HIT 恋愛初心者さん (30代 女性 ) -
エールをください
17歳年上の男性(独身)を好きになりました。年齢やお互いの環境を気をしにしながらも周囲に内緒で付き合…
8レス 286HIT 匿名さん (20代 女性 ) -
余裕を持った行動はしないのでしょうか。
例えば、13時頃待ち合わせの場合。 電車で行くとして、12:40着と13:05着の便があるとします…
7レス 223HIT 教えてほしいさん -
ファミサポで預かってもらっていたのですが・・・。
2歳の娘がいます。 月2回の2時間〜4時間ほど、ファミサポを利用しています。用事がたくさんある時や…
6レス 230HIT 子育てパンダさん (30代 女性 ) -
食後。お茶でブクブクうがい、その後ごっくん!何が悪い
食後。 お茶で、 お口ブクブク、 その後、ごっくん! 何が悪い? 何が汚い? それを指…
10レス 211HIT おしゃべり好きさん - もっと見る